説明

電子制御システム及び電子制御装置

【課題】自装置に十分な記録容量がない場合、又は記録装置が故障している場合であっても、自他装置の記録しておくべきデータを損失することなく記録することができる電子制御システム及び電子制御装置(ECU)を提供する。
【解決手段】データを記録する記録手段及び通信手段を有し、制御対象物の動作を制御する複数の電子制御装置を、通信線を介してデータ通信することが可能に接続してある。一の電子制御装置は、記録手段に所定のデータを記録することが可能であるか否かを判断し、可能であると判断した場合、記録手段にデータを記録する。可能ではないと判断した場合、他の電子制御装置へデータを送信する。他の電子制御装置は、受信したデータを記録手段に記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の制御装置間で、通信線を介して、ログデータを送受信することが可能な電子制御システム及び電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子制御装置(Electronic Control Unit:以下ECUという)を車両用のエンジンの動作を制御するのに用いる場合、車両の運転状態を検出するセンサからの検出信号に基づき算出した検出データ、該検出データに従い燃料噴射量、点火時期等の制御量を演算した演算データ等に異常が生じたと判断した場合に発生するログデータ、又は定期的にECU本体に異常が発生しているか否かを診断した診断結果データを含むログデータ等を、内蔵するRAM等の記録媒体に記録している。
【0003】
例えば特許文献1では、複数のECUを備えるシステムにおいて一のECUが故障の発生を検出した場合、検出前後の制御信号を記録し、異常信号を他のECUへ送信している。一方、異常信号を受信した他のECUは、前後時間の制御信号を記録する。このようにすることで、異常発生時の制御信号を複数のECUにて記録することができる。
【0004】
また、特許文献2では、異常が発生した場合、他の関連するECUの制御信号をネットワークを介して収集し、自ECUの異常情報とともに内蔵する記録手段に記録する。このようにすることで、関連する異常情報を集約して記録することができ、原因の解析の一助となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−160602号公報
【特許文献2】特開2002−193070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、複数のECUに制御信号を記録するので、記録審査上の負担が大きい。また、異常発生時、診断結果データの収集時等、後の解析のために記録しておくべきデータを記録する必要がある場合、自ECUに備えている記録手段の記録容量が不足する場合も生じうる。また、自ECUの記録手段に障害が発生している場合には、必要なデータを記録することができない。したがって、このような場合には記録しておくべきデータを記録することができないという問題点があった。
【0007】
また、特許文献2では、単一のECUにのみ記録されるので、個々のECUに十二分な記録容量を有する記録手段を備える必要があり、他のデータが大量に記録されることにより記録容量が不足している場合、または記録手段に障害が発生している場合には、記録するべきデータを記録することができないという問題点があった。
【0008】
本発明は、斯かる事情を鑑みてなされたものであり、自装置に十分な記録容量がない場合、又は記録装置が故障している場合であっても、自他装置の記録しておくべきデータを損失することなく記録することができる電子制御システム及び電子制御装置(ECU)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電子制御システムは、データを記録する記録手段及び通信手段を有し、制御対象物の動作を制御する3つ以上の電子制御装置を、通信線を介してデータ通信することが可能に接続してある電子制御システムにおいて、前記電子制御装置の夫々についてデータの記録可否に係る情報が登録されたテーブルを備え、一の電子制御装置は、異常を検出し、異常が検出された場合に所定のデータを出力する異常検出手段と、前記記録手段に前記所定のデータを記録することが可能であるか否かを判断する判断手段と、該判断手段で可能であると判断した場合、前記記録手段に前記データを記録する手段と、前記判断手段で否と判断した場合、前記テーブルに登録された情報を参照し、代替記録可の他の電子制御装置のいずれか1つへ、前記データを送信する手段とを備え、前記他の電子制御装置は、前記データを受信する手段と、受信したデータを前記記録手段に記録する手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る電子制御システムは、前記テーブルには、前記データの送信が禁止される他の電子制御装置が登録してあることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る電子制御システムは、前記テーブルには、前記データを送信すべき他の電子制御装置夫々について、前記データの送信先としての優先度が登録してあることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る電子制御システムは、各電子制御装置は前記テーブルを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る電子制御システムは、特定の電子制御装置が前記テーブルを備え、前記一の電子制御装置は、前記判断手段で否と判断した場合、前記テーブルにアクセスするようにしてあることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る電子制御システムは、前記他の電子制御装置は前記データの記録の成否を前記一の電子制御装置へ送信する手段を備え、前記一の電子制御装置は記録否を受信した場合、残りの他の電子制御装置に前記データを送信するようにしてあることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る電子制御システムは、前記他の電子制御装置は前記データの記録の成否を判断する手段と、該手段による判断結果が否である場合に残りの他の電子制御装置へ前記一の電子制御装置から送信された代替記録の可否判断に係る情報を転送する手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る電子制御システムは、前記データを記録した他の電子制御装置を識別する情報を記憶する手段を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る電子制御システムは、前記異常検出手段は、前記制御対象物の動作の異常を検出する手段を備え、前記所定のデータは、前記制御対象物の動作の異常を検出した旨を示す情報であることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る電子制御システムは、前記異常検出手段は、自身が正常に機能しているか否かを診断する手段を備え、前記所定のデータは、該手段による診断結果に関する情報であることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る電子制御装置は、制御対象物の動作を制御する電子制御装置において、異常を検出し、異常が検出された場合に所定のデータを出力する異常検出手段と、データを記録する記録手段に前記所定のデータを記録することが可能であるか否かを判断する判断手段と、該判断手段で可能であると判断した場合、前記記録手段に前記データを記録する手段と、前記判断手段で否と判断した場合、複数の外部装置の夫々についてデータの記録可否に係る情報が登録されたテーブルを参照して、前記外部装置の内の代替記録可の装置のいずれか1つへ前記データを出力する手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る電子制御装置は、前記異常検出手段は、前記制御対象物の動作の異常を検出する手段を備え、前記所定のデータは、前記制御対象物の動作の異常を検出した旨を示す情報であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る電子制御装置は、前記異常検出手段は、自身が正常に機能しているか否かを診断する手段を備え、前記所定のデータは、該手段による診断結果に関する情報であることを特徴とする。
【0022】
本発明では、データを記録する記録手段及び通信手段を有し、制御対象物の動作を制御する複数の電子制御装置を、通信線を介してデータ通信することが可能に接続してある。一の電子制御装置は、記録手段に所定のデータを記録することが可能であるか否かを判断する。可能であると判断した場合、記録手段にデータを記録する。可能ではないと判断した場合、各電子制御装置についてデータの記録可否の情報を登録したテーブルを参照して、代替記録可の他の電子制御装置のいずれか1つにデータを送信する。他の電子制御装置は、受信したデータを記録手段に記録する。これにより、自装置に備えている記録手段の残記録容量が不足している場合、自装置に備えている記録手段に障害が発生している場合等、自装置に備えている記録手段へデータを記録することができない場合であっても、通信手段を介して接続されている他の装置に備えている記録手段に確実に記録することができ、データを損失することなく確実に記録しておくことが可能となる。
また、本発明では、テーブルにアクセスすることで代替記録させる電子制御装置を直ちに特定し、迅速に代替記録を行わせる。
【0023】
本発明では、上述のようにして代替記録させる電子制御装置を決定して、該装置へデータを送信したとしても何らかの事情で記録に失敗した場合の対処が可能である。すなわち本発明では一の電子制御装置が、残りの電子制御装置を代替記録させるべきものとして必要な処理を行う。
【0024】
本発明では、失敗した電子制御装置が代替記録に係る情報を残りの電子制御装置へ送信して必要な処理を行わせる。
これらによって、より確実な代替記録が可能となる。
【0025】
本発明では、代替記録がされた他の電子制御装置を識別する情報が記憶される。これにより、いずれの電子制御装置で代替記録されたかを特定することが可能となる。
【0026】
本発明では、一の電子制御装置の異常検出手段は、制御対象物の動作の異常を検出し、制御対象物の動作の異常を検出した旨を示す情報を記録する。これにより、異常発生データを損失することなく確実に記録しておくことができ、異常発生の原因解明時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0027】
本発明では、一の電子制御装置の異常検出手段は、正常に機能しているか否かを診断する手段を備えており、診断結果に関する情報を記録する。これにより、定期診断の診断結果等のデータを損失することなく確実に記録しておくことができ、異常発生の兆候、前兆現象等の解析を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、自装置に備えている記録手段の残記録容量が不足している場合、自装置に備えている記録手段に障害が発生している場合等、自装置に備えている記録手段へデータを記録することができない場合であっても、通信手段を介して接続されている他の装置に備えている記録手段に確実に記録することができ、データを損失することなく確実に記録しておくことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係るECUを適用した車両情報システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】ECUにおける処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】他のECUへの書き込みに係る処理手順を示すフローチャートである。
【図4】代替記録可能な容量を有するECUへデータを送信して記録させる場合の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】ECUが有するテーブルの内容例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態では、本発明の実施の形態に係る電子制御装置(以下、ECU)を、車両情報システムに適用した場合を例に挙げて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るECUを適用した車両情報システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【0031】
図1に示すように、本実施の形態に係る車両情報システムは、エンジンを搭載した自動車に設けられ、自動車各部を統合制御するための複数の制御装置で構成されている。車両情報システムは、インジェクタ、イグナイタ、アイドル回転数制御ステップモータ等を駆動制御するEFI(燃料噴射制御)用ECU10と、その他油圧制御用のソレノイドバルブ等を駆動制御するECU10、変速用のソレノイドバルブ等を駆動制御するECU10等、多数のECU10、10、・・・が、ネットワーク12を介して接続されている。
【0032】
各ECU10の構成は略同一であることから、ここではEFI用ECU10を例にECUの構成について説明する。EFI用ECU10は、各種センサ1からの信号の入力処理を行う入力回路2と、入力回路2からの信号を取り込んで各種演算制御を行うためのCPU、ROM,及びRAM(いずれも図示せず)を含んで構成されるマイクロコンピュータ3(以下、マイコンという)と、マイコン3で演算された制御信号に基づいてアクチュエータ5を駆動させるため信号の出力処理を行う出力回路4と、ネットワーク12を介して接続された他のECU10、10、・・・とデータの通信を行うための処理を行う通信回路11と、センサ1、アクチュエータ5、及びワイヤハーネス(図示せず)等の異常の有無を常時監視して、異常時には、故障コードを記録させる診断回路6と、故障情報、通信データ等を記録する記録手段7と、記録手段7に記録された情報を外部に読み出すための外部出力端子8とで構成されている。記録手段7は、電源を切っても記録されているデータが消滅せず、再度電源を入れた場合に使用可能になる(不揮発性)ROM、EEPROM等が好ましい。特に、電力の供給が無い場合であってもデータが消失しないEEPROMがより好ましい。
【0033】
また、各ECU10、10、・・・は、予めマイコン3のROMに格納された制御プログラムにより、センサ1からの入力信号に基づいてアクチュエータ5等の各種制御処理を行い、ネットワーク12を介して他のECU10、10、・・・との間で必要なデータ通信を行うことによって、車両状態を制御することができる。
【0034】
次に、各ECU10に接続されているセンサ1、及びセンサ1からの入力信号に基づいて制御されるアクチュエータ5等の制御装置について具体的に説明する。例えばEFI用ECU10におけるセンサ1として、スロットルの開度を検出するスロットルポジションセンサ、エンジンの回転速度を検出するためのクランク角センサ、エンジンの冷却状態を判断する水温センサ、及びスタータモータの駆動を検出するスタータスイッチ等の各種車載用センサが、入力回路2を介してマイコン3と接続されている。また、EFI用ECU10におけるアクチュエータ5として、エンジンの燃料噴射量を調整するためのインジェクタ、スパークプラグへの電力供給を行うイグナイタ、及びアイドル回転数制御ステップモータ等が出力回路4を介してマイコン3と接続されている。その他のECU10、10、・・・についても制御対象に応じた一又は複数のセンサ1が入力回路2を介してマイコン3と接続され、制御対象が出力回路4を介してマイコン3と接続されている。
【0035】
次に、実施の形態に係るECU10、10、・・・を含んだ車両情報システムにおける異常発生時のECU10のマイコン3で実行される記録処理について説明する。図2は、ECU10における処理の手順を示すフローチャートである。
【0036】
ECU10のマイコン3は、何らかの異常が検出されたか否かを判断する(ステップS201)。マイコン3が、異常が検出されていないと判断した場合(ステップS201:NO)、マイコン3は、ECU10が正常に機能していると判断し、診断回路6にて出力された診断結果データが有るか否かを判断する(ステップS202)。マイコン3が、診断結果データが出力されていないと判断した場合(ステップS202:NO)、マイコン3は、記録手段7へ記録するべきデータが存在しないと判断して処理を終了する。
【0037】
マイコン3が、異常が検出されたと判断した場合(ステップS201:YES)、及び診断結果データが出力されていると判断した場合(ステップS202:YES)、マイコン3は、発生した異常に関するデータ又は診断結果データについて、自ECU10に備えている記録手段7への書き込み(代替記録)を要求する(ステップS203)。マイコン3は、書き込み要求が正常に終了するか否かを判断する(ステップS204)。
【0038】
マイコン3が、書き込み要求が異常終了すると判断した場合(ステップS204:NO)、すなわち記録手段7に空き容量が不足している場合、記録手段7に障害が発生している場合等には、マイコン3は、他のECU10へデータの書き込み要求及びデータを送信する(ステップS205)。
【0039】
マイコン3が、書き込み要求が正常に終了すると判断した場合(ステップS204:YES)、すなわち記録手段7に十分な空き容量があり、記録手段7に障害が発生していない場合等には、マイコン3は、書き込み要求に従って自ECU10内の記録手段7へデータを書き込む(ステップS206)。マイコン3は、未だ書き込んでいないデータが存在するか否かを判断し(ステップS207)、マイコン3が、存在すると判断した場合(ステップS207:YES)、マイコン3は、処理をステップS204へ戻し、上述した処理を繰り返す。
【0040】
マイコン3が、存在しないと判断した場合(ステップS207:NO)、マイコン3は、他のECU10からデータの書き込み要求を受信したか否かを判断する(ステップS208)。マイコン3が、受信していないと判断した場合(ステップS208:NO)、マイコン3は処理を終了する。マイコン3が受信したと判断した場合(ステップS208:YES)、マイコン3は、他のECU10から書き込み対象となるデータを受信し(ステップS209)、自ECU10内の記録手段7に記録する(ステップS210)。
【0041】
なお、上述の書き込み処理では、他のECU10からデータの書き込み要求を受信した場合に割り込み処理として、他のECU10から受信したデータを自ECU10内に書き込んでいるが、定期的に書き込み要求の有無をチェックする方法であってもよい。
【0042】
図3は、他のECU10への書き込みに係る処理手順を示すフローチャートである。
【0043】
異常を検出したECU10のマイコン3は書き込むべきデータ量を他のECU10へ送信する(ステップS11)。
これを受信した他のECU10のマイコン3は、データ量を受信し(ステップS18)、受信したデータ量を記録手段7の余剰の容量と比較するなどして代替記録の可否判断をし(ステップS19)、可又は不可を返信する(ステップS20,S21)。
【0044】
異常発生側のECU10では返信を待ち(ステップS13)、可の返信があった場合は(ステップS14)、最初に可を返信してきたECU10へデータを送信する(ステップS15)。2番目以降に可の返信があった場合(ステップS16)は返信してきたECU10に対して代替記録不要を通知する(ステップS17)。
ECU10が代替記録すべきデータを受信した場合(ステップS22)は記録手段7に記録し(ステップS24)、不要通知を受信した場合(ステップS23)は終了する。
【0045】
以上の手順ではデータ量を複数の他のECU10へ送信し、最初に代替記録可の応答があったECU10に記録させることとしたが、適宜の順序でデータ量送信を行い、可の返信があるまで反復することとしてもよい。
【0046】
図4は、異常があったECU10から他のECU10に対して一斉に代替記録の要求を送信し、受信側ECU10から代替記録に充当する事ができる記録手段7の記録容量を返信させ、代替記録可能な容量を有するECU10へデータを送信して記録させる場合の処理手順を示すフローチャートである。
【0047】
まず異常があったECU10から他のECU10に対して一斉に代替記録の要求を送信する(ステップS31)。
これを受信した(ステップS39)ECU10では、代替記録に充当できる記録容量を検知して返信する(ステップS40)。
記録容量を受信した(ステップS33)側では代替記録すべきデータ量と比較し、必要量を充足するか否かを判定する(ステップS34)。必要量を充足する他のECU10を特定する情報を記憶し(ステップS35)、不足する場合は該当ECU10へ代替記録不要を通知する(ステップS38)。記憶したECU10の中から最大容量を有するものを特定し(ステップS36)、該ECU10へデータを送信する(ステップS37)。他のECU10へは代替記録不要を通知する(ステップS38)。
ECU10が代替記録すべきデータを受信した場合(ステップS41)は記録手段7に記録し(ステップS43)、不要通知を受信した場合(ステップS42)は終了する。
【0048】
上述の実施例では状況に応じて代替記録するECU10が定まることとしたが、予め代替記録するECU10を一又は複数記録したテーブルを用意しておき、これを参照して該当するECU10へデータを送信し、記録させることとしてもよい。この場合、各ECU10がテーブルを有することとしても、また特定のECU10がテーブルを有することとしてもよい。後者の場合、異常が発生したECU10は前記特定のECU10のテーブルにアクセスし、代替記録をさせるべきECU10の情報を得る。
【0049】
図5は、ECU10が有するテーブルの内容例を示す説明図である。図5の説明図に示す内容例では、テーブルには各ECU10を識別する「ECU ID」と、各ECUにおける記録容量の内の空き容量(バイト単位)と、データを送信する優先順位と、データの記録先のECU10を識別する記録先と、各ECU10において代替記録が可能であるか否かを示す書込可否とを含む。
【0050】
各ECU10の空き容量をテーブルに含むことにより、図4のフローチャートに示したように異常発生側のECU10が代替記録を要求する都度、充当可能な記録容量の問い合わせを行なうことなしに、ステップS36に示した空き容量が最大容量を有するECU10を特定する処理を行なうことが可能となる。
【0051】
なお、各ECU10の空き容量については、例えば図4のフローチャートに示した処理手順の内のステップS31及びステップS33のように、ECU10は各ECU10へ予め容量の問い合わせを行い、返信された記録容量を受信することによって取得することができる。またデータの記録が行なわれる都度、各ECU10における余剰の記録容量を算出し、各時点における空き容量をECU10が認識することが可能となる。
【0052】
優先順位は、設計時に予め与えられた優先順位が記憶されており、図5の説明図に示される内容例では、値が大きいほど優先順位が高い。なお、値が小さいほど優先順位を高く設定される構成としてもよい。また、値がゼロである場合にはデータの送信が禁止されていることを示すとしてもよい。ECU10は、異常が発生して代替記録を要求する場合、優先順位が高いECU10へ優先的にデータを送信する。
【0053】
記録先は、代替記録の要求に応じてデータを記録したECU10を識別するIDである。ECU10は、異常が発生して代替記録をさせる場合、データの送信先のECU10の「ECU ID」をテーブルに書き込む。各ECU10から代替記録の成否が返信される場合には、成功が返信されたときにデータの送信先のECU10の「ECU ID」を記憶するようにすればよい。図5の説明図に示す内容例では、「ECU ID」が「0001」及び「0002」のECU10における診断結果データはECU10自身に記録されている。一方、「ECU ID」が「0003」のECU10における診断結果データは、自身の記録手段の空き容量が僅少であるので、「ECU ID」が「0001」のECU10に記録されていることが示されている。また、「ECU ID」が「0004」のECU10における診断結果データは、自身の記録手段の空き容量がゼロであるので、「ECU ID」が「0001」のECU10に記録されていることが示されている。
【0054】
記録先がテーブルに含まれることにより、事後的に任意のECU10の診断結果データを読み出すに際し、いずれのECU10から読み出すべきかをテーブルに基づいて判断することが可能となる。例えば、外部から一のECU10の診断結果データの問い合わせがあった場合でも、テーブルから読み出すことにより迅速に応答することが可能となる。記録先に、いずれのECU10に記録されているかのみならず、代替記録先のECU10におけるアドレスをテーブルに含むことにより、更に迅速に応答することが可能となる。
【0055】
書込可否は、記録手段7の残記録容量が不足しているか、又は障害が発生していることによって当該ECU10における書き込みが禁止されているか否かを示す(1:書き込み可/0:書き込み不可)。図5の説明図では、「ECU ID」が「0004」であるECU10で空き容量がゼロであるので、書き込みが不可(「0」)と設定されている。これにより、異常が発生したECU10は、「ECU ID」が「0004」であるECU10へはデータの送信が禁止されているので、データを送信すべきでないことを認識することが可能である。これにより、無駄なデータの送信、データ量の送信、問い合わせ等が回避される。
【0056】
各ECU10は、テーブルに例えば記録先、空き容量を書き込む際には、テーブルを有する各ECU10又は特定のECU10へそれらの情報を送信する。
【0057】
図5の説明図に示すようなテーブルが用意されていることにより、異常が発生したECU10は、他のECU10へ代替記録を要求するに際し、データを送信すべきECU10を迅速に特定することが可能となる。例えば、図2のフローチャートに示した処理手順のうち、異常発生側のECU10はステップS205で他のECU10へデータの書き込み要求及びデータを送信するが、この際、優先順位の最も高いECU10へ送信するとしてもよい。また、図3のフローチャートに示した処理手順の内のステップS11でECU10は、複数の他のECU10へデータ量を送信し、最初に代替記録可の応答があったECU10にデータを記録させることとした。しかしながら、異常発生側のECU10は、各ECU10に与えられている優先順位をテーブルから読み出し、優先順位に従ってデータ量を送信するようにしてもよい。さらに、各ECU10における空き容量をテーブルから読み出し、空き容量が多い順に書き込み要求及びデータ、又はデータ量を送信するとしてもよい。
【0058】
本発明では、以上のような種々の方法で単一のECU10に代替記録させることができるので、無駄な記録を行うことが無く、記録手段の節減に有効である。
【0059】
なお、何らかの理由で代替記録させるECU10での記録に失敗することがあるが、その場合は代替記録の成否を要求元のECU10へ送信し、要求元のECU10は別のECU10へ代替記録の要求をするように構成すればよい。
別の方法として、代替記録に失敗したECU10から他のECU10へ代替記録の要求又は記録すべきデータを転送する構成としてもよい。
【0060】
以上のように本実施の形態によれば、自ECU10に備えている記録手段7の残記録容量が不足している場合、自ECU10に備えている記録手段7に障害が発生している場合等、自ECU10に備えている記録手段7へデータを記録することができない場合であっても、ネットワーク12を介して接続されている他のECU10、10、・・・に備えている記録手段7に確実に記録することができ、データを損失することなく確実に記録しておくことが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1 センサ
2 入力回路
3 マイコン
4 出力回路
5 アクチュエータ
6 診断回路
7 記録手段
10 ECU
12 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを記録する記録手段及び通信手段を有し、制御対象物の動作を制御する3つ以上の電子制御装置を、通信線を介してデータ通信することが可能に接続してある電子制御システムにおいて、
前記電子制御装置の夫々についてデータの記録可否に係る情報が登録されたテーブルを備え、
一の電子制御装置は、
異常を検出し、異常が検出された場合に所定のデータを出力する異常検出手段と、
前記記録手段に前記所定のデータを記録することが可能であるか否かを判断する判断手段と、
該判断手段で可能であると判断した場合、前記記録手段に前記データを記録する手段と、
前記判断手段で否と判断した場合、前記テーブルに登録された情報を参照し、代替記録可の他の電子制御装置のいずれか1つへ、前記データを送信する手段と
を備え、
前記他の電子制御装置は、
前記データを受信する手段と、
受信したデータを前記記録手段に記録する手段と
を備える
ことを特徴とする電子制御システム。
【請求項2】
前記テーブルには、前記データの送信が禁止される他の電子制御装置が登録してあることを特徴とする請求項1に記載の電子制御システム。
【請求項3】
前記テーブルには、前記データを送信すべき他の電子制御装置夫々について、前記データの送信先としての優先度が登録してあることを特徴とする請求項1に記載の電子制御システム。
【請求項4】
各電子制御装置は前記テーブルを備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子制御システム。
【請求項5】
特定の電子制御装置が前記テーブルを備え、前記一の電子制御装置は、前記判断手段で否と判断した場合、前記テーブルにアクセスするようにしてあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子制御システム。
【請求項6】
前記他の電子制御装置は前記データの記録の成否を前記一の電子制御装置へ送信する手段を備え、
前記一の電子制御装置は記録否を受信した場合、残りの他の電子制御装置に前記データを送信するようにしてあることを特徴とする請求項1に記載の電子制御システム。
【請求項7】
前記他の電子制御装置は前記データの記録の成否を判断する手段と、
該手段による判断結果が否である場合に残りの他の電子制御装置へ前記一の電子制御装置から送信された代替記録の可否判断に係る情報を転送する手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の電子制御システム。
【請求項8】
前記データを記録した他の電子制御装置を識別する情報を記憶する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の電子制御システム。
【請求項9】
前記異常検出手段は、前記制御対象物の動作の異常を検出する手段を備え、
前記所定のデータは、前記制御対象物の動作の異常を検出した旨を示す情報である
ことを特徴とする請求項1に記載の電子制御システム。
【請求項10】
前記異常検出手段は、自身が正常に機能しているか否かを診断する手段を備え、
前記所定のデータは、該手段による診断結果に関する情報である
ことを特徴とする請求項1に記載の電子制御システム。
【請求項11】
制御対象物の動作を制御する電子制御装置において、
異常を検出し、異常が検出された場合に所定のデータを出力する異常検出手段と、
データを記録する記録手段に前記所定のデータを記録することが可能であるか否かを判断する判断手段と、
該判断手段で可能であると判断した場合、前記記録手段に前記データを記録する手段と、
前記判断手段で否と判断した場合、複数の外部装置の夫々についてデータの記録可否に係る情報が登録されたテーブルを参照して、前記外部装置の内の代替記録可の装置のいずれか1つへ前記データを出力する手段と
を備える
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項12】
前記異常検出手段は、前記制御対象物の動作の異常を検出する手段を備え、
前記所定のデータは、前記制御対象物の動作の異常を検出した旨を示す情報である
ことを特徴とする請求項11に記載の電子制御装置。
【請求項13】
前記異常検出手段は、自身が正常に機能しているか否かを診断する手段を備え、
前記所定のデータは、該手段による診断結果に関する情報である
ことを特徴とする請求項11に記載の電子制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−84284(P2013−84284A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−265565(P2012−265565)
【出願日】平成24年12月4日(2012.12.4)
【分割の表示】特願2008−535401(P2008−535401)の分割
【原出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】