説明

電子制御装置

【課題】データチェックによりエラーとなったメモリ領域に対して、不揮発性メモリの故障によるエラーなのか、電源の瞬断等により偶然生じたエラーなのか判別することが可能な電子制御装置を提供する。
【解決手段】中央演算処理装置10は、第2の不揮発性メモリ13の領域から制御データを読み出す場合、この制御データを読み出す領域の1つ前の領域のステータスデータを参照して、正常に記憶がされていないと判定したとき、1つ前の領域の故障履歴を参照して、故障の可能性があると判定したとき第2の不揮発性メモリ13が故障したと判定し、故障の可能性がないと判定したとき1つ前の領域の故障履歴に故障の可能性があることを書き込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロコンピュータ等に使用される揮発性メモリのバックアップに用いる電子制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子制御装置で使用されるマイクロコンピュータ等に使用される揮発性メモリの情報を不揮発性メモリにバックアップする手法として以下のようなものが知られている。
【0003】
マイクロコンピュータが主電源の復帰を検知すると、不揮発性メモリや揮発性メモリから前回のエンジン始動時の車両状態、走行状態や車両の装置ごとのばらつきを解消するための補正値を読み込み、その情報を元に今回の制御を行う。また、マイクロコンピュータは、一時的に揮発性メモリに記憶された今回のエンジン始動時の車両状態や走行状態を次回のエンジン始動時のために不揮発性メモリに書き込んでおく。この不揮発性メモリへの書き込みは、揮発性メモリへの書き込みに比べて時間を要するため、電源の瞬断等の影響を受けやすい。これにより不揮発性メモリへの書き込みには、書き込み中のデータを最後までかけなかったり、データ化けを起こしやすいという特徴がある。そのため、不揮発性メモリへの書き込みの際には、データのSUM値を使う手法やデータの反転値を使う手法により書き込みデータのエラーを抑え、電子制御装置の制御の信頼性を向上させるのが一般的である(例えば特許文献1、2を参照)。これらの手法では、マイクロコンピュータが書き込みデータの誤りを検出した場合に、誤ったデータではなく前回正常に書き込まれたデータを読み込み、車両制御情報として使うことによって、電子制御装置の制御の信頼性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−232000号公報
【特許文献2】特開平5−158802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の揮発性メモリのバックアップに用いる電子制御装置は、不揮発性メモリの信頼性をSUM値や反転データ等のデータチェックによって判断している。このため、データチェックによりエラーとなったメモリ領域に対して、不揮発性メモリの故障によるエラーなのか、電源の瞬断等により偶然生じたエラーなのか判別できないという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、データチェックによりエラーとなったメモリ領域に対して、不揮発性メモリの故障によるエラーなのか、電源の瞬断等により偶然生じたエラーなのか判別することが可能な電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、不揮発性メモリの領域から制御データを読み出す場合、この制御データを読み出す領域の1つ前の領域のステータスデータを参照して、正常に記憶がされていないと判定したとき、1つ前の領域の故障履歴を参照して、故障の可能性があると判定したとき不揮発性メモリが故障したと判定し、故障の可能性がないと判定したとき1つ前の領域の故障履歴に故障の可能性があることを書き込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、データの誤り検出時に、不揮発性メモリ自体の故障か、電源の瞬断等による偶然のデータ誤りかを判別して不揮発性メモリの状態判定の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態における電子制御装置のブロック図
【図2】同図1の要部である第2の不揮発性メモリの内部構成を説明する図
【図3】同図1の要部であるマイクロコンピュータによる読み込み制御処理のフローチャート図
【図4】同図1の要部であるマイクロコンピュータによる書き込み制御処理のフローチャート図
【図5】同図1の要部である第2の不揮発性メモリの読み込みが正常であった場合の状態遷移を説明する図
【図6】同図1の要部である第2の不揮発性メモリの読み込みが正常でなかった場合の状態遷移を説明する図
【図7】同図1の要部である第2の不揮発性メモリの読み込みが正常でなかった場合の別な状態遷移を説明する図
【図8】同図1の要部である第2の不揮発性メモリの別な内部構成を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態の電子制御装置について、自動車エンジンの電子制御装置を例にとり図面を用いて説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施形態における自動車エンジンの電子制御装置のブロック図である。図1において、自動車エンジンの電子制御装置1はマイクロコンピュータ2と電源回路3と入力回路4と出力回路5を有する。電子制御装置1は、電子制御装置1の外部に設けられたイグニッションSW6、バッテリー7、車両状態検出装置8、外部装置9とそれぞれ接続する。
【0012】
電子制御装置1内の電源回路3はスイッチングレギュレータ等で構成され、イグニッションSW6の信号に応じて、バッテリー7の電圧をレギュレーションしたものをマイクロコンピュータ2へ供給する。すなわち、電源回路3は、マイクロコンピュータ2の命令に従い、イグニッションSW6がOFFになったことを検知した場合にバッテリー7からマイクロコンピュータ2へ電圧供給を行う。そして、電源回路3は、イグニッションSW6がOFFになったことを検知した場合に、マイクロコンピュータ2に対して低消費電力モードに移行するための信号を送る。また、電源回路3は、イグニッションSW6がONになったことを検知した場合には、主電源からマイクロコンピュータ2へ電圧供給を行う。
【0013】
また、入力回路4は波形整形回路や増幅回路などで構成される。入力回路4には、エンジン回転などのパルスやスイッチ、温度や圧力などの車両状態を検出する車両状態検出装置8から検出信号が入力される。入力回路4は、この検出信号を波形整形し、温度や圧力などのアナログ信号を増幅してマイクロコンピュータ2へ入力する。
【0014】
また、出力回路5は波形整形回路やHブリッジ回路などで構成される。出力回路5には、入力回路4の信号に基づいてマイクロコンピュータ2が演算処理した制御信号が入力される。出力回路5は、この制御信号をモータや点火プラグ、インジェクタなどで構成される外部装置9に出力する。外部装置9は、この制御信号により動作を制御される。
【0015】
マイクロコンピュータ2は中央演算処理装置10と揮発性メモリ11と第1の不揮発性
メモリ12と、第2の不揮発性メモリ13とを有する。
【0016】
中央演算処理装置10(CPU)は、第1の不揮発性メモリ12に記憶された制御プログラムと入力回路4から入力された情報を元に演算を行い、演算結果を元に決定された制御信号を出力回路5に出力する。このとき、演算の途中結果や入力回路4から入力された情報は揮発性メモリ11に記憶される。また、中央演算処理装置10は、揮発性メモリ11に記憶した情報を第2の不揮発性メモリ13にバックアップ記憶する。中央演算処理装置10は、揮発性メモリ11や第2の不揮発性メモリ13からデータを読み出し、各種制御を行う。中央演算処理装置10は、電源回路3からイグニッションSW6のON/OFFの検知信号を受信したとき、主電源が復帰・遮断されたと判定し、揮発性メモリ11や第2の不揮発性メモリ13からデータを読み出して後述の制御を行う。なお、ここでいう主電源の復帰は、主電源と接続して遮断された状態が解除されたことをいう。また、中央演算処理装置10は、電源回路3からイグニッションSW6のOFFに伴う低消費電力モードの命令信号を入力された場合に、低消費電力モードに移行する。
【0017】
揮発性メモリ11(RAM)は、主電源遮断時においても低電力消費モードにて情報を記憶することが可能である。すなわち、イグニッションSW6がOFFされても、電源回路3によりバッテリー7の電圧がマイクロコンピュータ2に供給されるため、揮発性メモリ11は、記憶しているデータを消去されずに保持することができる。
【0018】
第1の不揮発性メモリ12(ROM)には、制御プログラムが記憶されている。中央演算処理装置10は、この制御プログラムを読み出して各種制御を行う。
【0019】
第2の不揮発性メモリ13(EEPROM)は、揮発性メモリ11に記憶された情報をバックアップするための記憶手段である。中央演算処理装置10は、後述の制御に従い、第2の不揮発性メモリ13にデータを書き込む。
【0020】
次に、第2の不揮発性メモリ13の内部構成について説明する。図2は、第2の不揮発性メモリ13の内部構成を説明する図である。
【0021】
図2に示すように、第2の不揮発性メモリ13は、複数の領域に分割されている。この分割された各領域を「バンク」と記す。各バンクは、中央演算処理装置10によって処理された制御データを記憶する領域、ライトステータスデータを記憶する領域、故障履歴を記憶する領域を備える。制御データを記憶する領域は、シリアル番号を記憶する領域、処理データを記憶する領域、SUM値を記憶する領域を有する。ある番号のバンクに情報が書き込まれた場合、必ずしも次の番号のバンクに情報が書き込まれるとは限らない。例えば、バンク番号「1」のバンクに情報が書き込まれた場合、次に書き込まれるのがバンク番号「3」のバンクであることもある。シリアル番号は、バンクに新しい情報が書き込まれるごとに「1」減算されて次のバンクに書き込まれる。このため、情報が新しくなるごとにシリアル番号の値は小さくなる。ライトステータスデータは、一つ前のシリアル番号を有するバンクの制御データが正常であるか否かを示すデータである。故障履歴は、バンク自体が故障している可能性があるか否かを示すデータである。
【0022】
次に、電源回路3が主電源の復帰(イグニッションSW6のON操作)を検知した場合に、マイクロコンピュータ2が第2の不揮発性メモリ13からデータを読み出す読み出し処理について説明する。図3はマイクロコンピュータ2による読み込み制御処理のフローチャート図である。なお、図3に示される処理は、第1の不揮発性メモリ12に記憶された制御プログラムを中央演算処理装置10が実行することによってなされる。なお、中央演算処理装置10は、第2の不揮発性メモリ13のあるバンクからデータを読み出す場合、読み出す前にこのバンクの領域に値があるか不定値であるかチェックを行う。
【0023】
中央演算処理装置10は、第2の不揮発性メモリ13から制御データを読み出す際、まず、ステップS31に示すように、各バンクについて、シリアル番号を記憶する領域からシリアル番号を読み出す。次に、ステップS32に示すように、中央演算処理装置10は、読み出したシリアル番号が降順となるよう対応する各バンクの並べ替えを行い、上から順にバンク番号を振りなおす。このとき、中央演算処理装置10は、最小のシリアル番号「N」の情報を揮発性メモリ11に一時記憶する。換言すると、中央演算処理装置10は、第2の不揮発性メモリ13に記憶した最新のデータがどのバンクのデータであるかを揮発性メモリ11に一時記憶する。
【0024】
次に、ステップS33に示すように、中央演算処理装置10は、シリアル番号「N+1」のバンクのライトステータス領域に正常な書き込み完了のキーワードが書き込まれているか判定する。換言すると、中央演算処理装置10は、最新のデータを記憶している第2の不揮発性メモリ13のバンクの1つ前のバンクのライトステータス領域に正常な書き込み完了のキーワードが書き込まれているか判定する。
【0025】
ステップS33でYESの場合、すなわち、中央演算処理装置10は、最新のデータを記憶している第2の不揮発性メモリ13のバンクの1つ前のバンクのライトステータス領域に正常な書き込み完了のキーワードが書き込まれていると判定した場合、ステップS34に示すように、シリアル番号「N」のバンクのSUM値が正しい値か否か判定する。
【0026】
ステップS34でYESの場合、すなわち、中央演算処理装置10は、シリアル番号「N」のバンクのSUM値が正しいと判定した場合、ステップS35に示すように、シリアル番号「N」が記憶されているバンクを正常な値が記憶されたバンクと判定する。そして、中央演算処理装置10は、このバンクを有効バンク「M」と定め、有効バンク「M」の情報を揮発性メモリ11に一時記憶する。
【0027】
次に、ステップS36に示すように、中央演算処理装置10は、揮発性メモリ11から有効バンク「M」の制御データ領域に記憶された制御データを読み出す。そして、中央演算処理装置10はこの読み出した制御データを用いて出力回路5を介して外部装置9を制御する。
【0028】
一方、ステップS33でNOの場合、または、ステップS34でNOの場合、ステップS37に示すように、中央演算処理装置10は、シリアル番号「N+1」のバンクの故障履歴領域に故障キーワードが書き込まれているか判定する。換言すると、中央演算処理装置10は、最新のデータを記憶している第2の不揮発性メモリ13のバンクの1つ前のバンクのライトステータス領域に正常な書き込み完了のキーワードが書き込まれていないと判定した場合、または、シリアル番号「N」のバンクのSUM値が正しい値でないと判定した場合、最新のデータを記憶している第2の不揮発性メモリ13のバンクの1つ前のバンクの故障履歴領域に故障キーワードが書き込まれているか判定する。
【0029】
ステップS37でYESの場合、すなわち、中央演算処理装置10は、最新のデータを記憶している第2の不揮発性メモリ13のバンクの1つ前のバンクの故障履歴領域に故障キーワードが書き込まれていると判定した場合、ステップS38に示すように、この1つ前のバンク自体が故障していると判定する。換言すると、中央演算処理装置10は、第2の不揮発性メモリ13が故障していると判定する。これにより、故障の可能性がある第2の不揮発性メモリ13のバンクについて、再度故障の可能性があると判定されたときにのみ故障と判定されるので、第2の不揮発性メモリ13自体の故障か、電源の瞬断等による偶然のデータ誤りかの判定の信頼性を向上させることができる。なお、中央演算処理装置10は、ステップS38の判定後に、第2の不揮発性メモリ13の故障を図示しない報知
手段によって音や表示による警告を行ってもよい。これにより、ユーザは第2の不揮発性メモリ13の取替えが必要であることを認識することができる。
【0030】
一方、ステップS37でNOの場合、すなわち、中央演算処理装置10は、最新のデータを記憶している第2の不揮発性メモリ13のバンクの1つ前のバンクの故障履歴領域に故障キーワードが書き込まれていないと判定した場合、ステップS39に示すように、シリアル番号「N」のデータが不正であると判定して、揮発性メモリ11にシリアル番号「N」のバンクについて故障の可能性がある旨の情報を記憶する。そして、ステップS40に示すように、中央演算処理装置10は、シリアル番号「N」に「1」加算して、ステップS33以降の処理を繰り返す。換言すると、中央演算処理装置10は、1つ前のバンクについてステップS33以降の処理を繰り返す。
【0031】
次に、上述の読み込み処理後、電源回路3が主電源の遮断(イグニッションSW6のOFF操作)を検知した場合に、マイクロコンピュータ2が第2の不揮発性メモリ13にデータを書き込む書き込み処理について説明する。図4はマイクロコンピュータ2による読み込み制御処理のフローチャート図である。なお、本実施の形態では主電源の遮断時に書き込み処理を行うが、他のタイミングで書き込み処理を行ってもよい。例えば、所定の周期ごとに書き込みを行ってもよい。なお、図4に示される処理は、第1の不揮発性メモリ12に記憶された制御プログラムを中央演算処理装置10が実行することによってなされる。
【0032】
中央演算処理装置10は、ステップS41に示すように、最小シリアル番号「N」のバンクの次のバンクを書き込み先バンク(以下、バンク「L」と記す)に設定する。
【0033】
次に、ステップS42に示すように、中央演算処理装置10は、読み込んだシリアル番号から「1」減算した値をバンク「L」のシリアル番号に設定する。
【0034】
次に、ステップS43に示すように、中央演算処理装置10は、バンク「L」の故障履歴の領域に故障のキーワードがあるか否か判定する。ステップS43でNOの場合、すなわち、中央演算処理装置10は、バンク「L」の故障履歴の領域に故障情報がないと判定した場合、ステップS44に示すように、バンク「L」に記憶されているデータを全て削除する。一方、ステップS43でYESの場合、すなわち、中央演算処理装置10は、バンク「L」の故障履歴の領域に故障情報があると判定した場合、ステップS45に示すように、バンク「L」の故障履歴を読み込んで揮発性メモリ11に保存して、ステップS44の処理を行う。
【0035】
ステップS44の処理後、中央演算処理装置10は、ステップS46に示すように、演算したSUM値やステップS42で設定したシリアル番号を含む制御データをバンク「L」に書き込む。
【0036】
次に、中央演算処理装置10は、ステップS47に示すように、揮発性メモリ11にバンクの故障情報が記憶されているか否かを判定する。換言すると、中央演算処理装置10は、読み込み処理のステップS39で揮発性メモリ11に故障の可能性のあるバンク番号が記憶されたか否か判定する。
【0037】
ステップS47でYESの場合、中央演算処理装置10は、ステップS48に示すように、ステップS39で揮発性メモリ11に記憶されたシリアル番号に対応するバンクの1つ前のバンクの故障履歴の領域に故障キーワードを書き込む。ステップS48の処理後、またはステップS47でNOの場合、中央演算処理装置10は、ステップS49に示すように、バンク「L」の故障履歴の情報が揮発性メモリ11に記憶されているか判定する。
換言すると、中央演算処理装置10は、S45でバンク「L」の故障履歴を揮発性メモリ11に保存していたか否かを判定する。
【0038】
ステップS49でYESの場合、中央演算処理装置10は、ステップS50に示すように、ステップS39で揮発性メモリ11に記憶されたバンク「L」の故障履歴の情報をバンク「L」の故障履歴の領域に書き込む。これにより、ステップS44でバンク「L」の情報が全消去されても、バンク「L」の故障履歴の情報を残すことができる。一方、ステップS49でNOの場合、中央演算処理装置10は、ステップS51に示すように、バンク「L」の1つ前のバンクのライトステータスの領域に正常書き込みが完了したキーワードを書き込む。
【0039】
以上の処理により、第2の不揮発性メモリ13のバンク自体に故障の可能性があるのか、電源の瞬断等により偶然データが不正な値になったのかを第2の不揮発性メモリ13に記憶することができるので、次回、中央演算処理装置10が第2の不揮発性メモリ13から制御データを読み出す際に、第2の不揮発性メモリ13自体が故障しているか、偶然データが不正な値になったのかの判定の信頼性を向上させることができる。
【0040】
次に、図3と図4で示されたマイクロコンピュータ2の読み込み制御処理と書き込み制御処理によって第2の不揮発性メモリ13の状態がどのように遷移するか説明する。
【0041】
図5は、第2の不揮発性メモリの読み込みが正常であった場合の状態遷移を説明する図である。
【0042】
図5に示すように、最小シリアル番号「FFFD」より1つ前のシリアル番号「FFFE」のバンク「0」のライトステータス領域には正常書き込み完了キーワード「AA55」が書き込まれている。また、バンク「0」のSUM値は「0001」で正しい値である。したがって、中央演算処理装置10は、シリアル番号「FFFD」のバンク「1」が有効バンクであると判定してバンク「1」のデータを読み込む。
【0043】
また、中央演算処理装置10は、読み込んだバンク「1」の次のバンク「2」を書き込み先バンクに設定して、バンク「2」のデータを全削除する。全削除により、バンク「2」のデータは全て不定値になる。なお、バンク「2」の故障履歴に書き込まれたデータはないため、この全削除の前にバンク「2」の故障履歴のデータは揮発性メモリ11に記憶されない。
【0044】
次に、中央演算処理装置10は、バンク「2」の制御データの領域にシリアル番号「FFFC」、処理データ「0001」、SUM値「0003」を書き込む。
【0045】
最後に、中央演算処理装置10は、バンク「1」のライトステータス領域に、バンク「2」への書き込みが正常に完了したことを示す正常書き込み完了キーワード「AA55」を書き込む。
【0046】
一方、図6、図7は、第2の不揮発性メモリの読み込みが正常でなかった場合の状態遷移を説明する図である。
【0047】
図6に示すように、中央演算処理装置10は、バンク「1」が有効バンクと判定してデータを読み出した後、バンク「2」に書き込み処理を行う。ここで、SUM値の書き込み途中で電源瞬断やハード故障等によって、正常に書き込み完了がされなかった場合、中央演算処理装置10は、バンク「1」のライトステータス領域に正常書き込み完了キーワードを書き込まない。この結果、バンク「1」のライトステータス領域は「不定値」となる

【0048】
その後、電源OFF(エンジンOFF)の状態から電源ON(エンジンON)の状態に変化した場合や、エンジンON中に再度データ読み込みの必要が生じた場合、中央演算処理装置10は、データの読み込み処理を行う。このとき、シリアル番号「FFF7」より1つ値が大きいシリアル番号「FFF8」のバンク「1」のライトステータス領域の値は、正常書き込みが完了しなかったことを示す「不定値」である。また、バンク「1」の故障履歴領域の値は、故障していないことを示す「不定値」である。したがって、中央演算処理装置10は、最小シリアル番号「FFF7」のバンク「2」のデータを読み出さず、揮発性メモリ11に、バンク「2」が故障の可能性があることを記憶する。
【0049】
一方、シリアル番号「FFF8」より1つ値が大きいシリアル番号「FFF9」のバンク「0」のライトステータス領域に正常書き込みが完了したことを示す「AA55」のデータが書き込まれており、バンク「0」のSUM値は「0005」で正しい値であるので、中央演算処理装置10は、最小シリアル番号「FFF7」より1つ大きいシリアル番号「FFF8」のバンク「1」のデータを読み出す。
【0050】
そして、中央演算処理装置10は、最小シリアル番号「FFF7」のバンク「2」の次のバンク「3」を書き込み先バンクに設定して、バンク「3」のデータを全削除する。全削除により、バンク「3」のデータは全て不定値になる。なお、バンク「3」の故障履歴に書き込まれたデータはないため、全削除の前にバンク「3」の故障履歴のデータは揮発性メモリ11に記憶されない。
【0051】
次に、中央演算処理装置10は、バンク「3」の制御データの領域にシリアル番号「FFF6」、処理データ「0001」、SUM値「0008」を書き込む。
【0052】
そして、中央演算処理装置10は、揮発性メモリ11に記憶したバンク「2」の故障情報としてバンク「1」の故障履歴に故障キーワード「FFFF」を書き込む。そして、中央演算処理装置10は、バンク「2」のライトステータス領域に、バンク「3」への書き込みが正常に完了したことを示す正常書き込み完了キーワード「AA55」を書き込む。
【0053】
また、図7に示すように、中央演算処理装置10は、バンク「1」が有効バンクと判定してデータを読み出した後、バンク「2」に書き込み処理を行う。ここで、SUM値の書き込み途中で電源瞬断やハード故障等によって、正常に書き込み完了がされなかった場合、中央演算処理装置10は、バンク「1」のライトステータス領域に正常書き込み完了キーワードを書き込まない。この結果、バンク「1」のライトステータス領域の値は「不定値」となる。
【0054】
その後、電源OFF(エンジンOFF)の状態から電源ON(エンジンON)の状態に変化した場合や、エンジンON中に再度データ読み込みの必要が生じた場合、中央演算処理装置10は、データの読み込み処理を行う。このとき、シリアル番号「FFF7」より1つ値が大きいシリアル番号「FFF8」のバンク「1」のライトステータス領域の値は、正常書き込みが完了しなかったことを示す「不定値」である。また、バンク「1」の故障履歴領域の値は、故障していることを示す「FFFF」のデータが書き込まれている。したがって、中央演算処理装置10は、バンク「2」が故障していると判定する。換言すると、中央演算処理装置10は、第2の不揮発性メモリ13が故障していると判定する。
【0055】
以上の中央演算処理装置10の制御により、読み込みエラーとなったバンクに対して、第2の不揮発性メモリ13の故障によるエラーなのか、電源の瞬断等により偶然生じたエラーなのか判別することができる。したがって、実際には故障していないのに第2の不揮
発性メモリ13を取り替えてしまう誤りを防止することができる。また、実際には故障しているのに第2の不揮発性メモリ13を取り替えないでおく誤りを防止することができる。したがって、電子制御装置1の読み込み処理の信頼性の低下を防止することができるとともに各種制御の信頼性を向上させることができる。
【0056】
また、第2の不揮発性メモリ13は、各バンクに、自らのバンクの1つ後のシリアルナンバーのバンクが故障しているか否かを示す故障履歴の領域を設けている。したがって、第2の不揮発性メモリ13の仕様が、あるバンクへの書き込みの際にそのバンクの全領域のデータを削除しなければならないものであっても、故障履歴の情報を失わずに保持することができる。そして、あるバンクに書き込み処理が行われる場合であっても、あるバンクのシリアルナンバーより1つ前のシリアルナンバーのバンクには書き込み処理が行われない。その結果、この1つ前のシリアルナンバーのバンクにおける故障履歴のデータは電源の瞬断等による破損が起こらない。したがって、自らのバンクの故障履歴の情報を自らのバンクではなく、自らのバンクの1つ後のシリアルナンバーのバンクに記憶させることで、故障履歴のデータの信頼性を高めることができる。
【0057】
なお、本実施の形態では、第2の不揮発性メモリ13の内部構成を図2に示される構成として、SUM値を用いたが、別な構成であってもよい。例えば、図8に示すようなメモリ構成として、SUM値の代わりにビット反転データを用いてもよい。
【0058】
また、図7では、電源瞬断やハード故障等によって、バンク「2」への書き込み処理が正常に完了されなかった場合を示しているが、バンク「2」への書き込み処理が正常に完了した場合、中央演算処理装置10は、バンク「1」の故障履歴を削除する処理を行ってもよい。すなわち、中央演算処理装置10は、同じバンクについて連続して故障の可能性ありと判定したときのみ第2の不揮発性メモリ13をハードウェアの故障と判定する。したがって、たまたま電源瞬断等のエラーが同じバンクに重なった場合に、中央演算処理装置10が第2の不揮発性メモリ13をハードウェアの故障と誤って判定することを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る電子制御装置は、データ量やデータの種類が多くても高い処理速度が求められる車載用途、特に自動車エンジン用に有用である。
【符号の説明】
【0060】
2 マイクロコンピュータ
3 電源回路
10 中央演算処理装置(CPU)
11 揮発性メモリ(RAM)
13 第2の不揮発性メモリ(EEPROM)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源からの電圧供給時に車載装置の制御データを記憶する揮発性メモリと、
複数の領域に分割され、各領域に、前記揮発性メモリが記憶した制御データを順次記憶し、かつ、正常に記憶されたか否かを示すステータスデータ、および、故障の可能性があるか否かを示す故障履歴を記憶する不揮発性メモリと、
主電源復帰時に前記不揮発性メモリの領域にバックアップされた制御データを読み出して前記車載装置を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記不揮発性メモリの領域から制御データを読み出す場合、この制御データを読み出す領域の1つ前の領域のステータスデータを参照して、正常に記憶がされていないと判定したとき、前記1つ前の領域の故障履歴を参照して、故障の可能性があると判定したとき前記不揮発性メモリが故障したと判定し、故障の可能性がないと判定したとき前記1つ前の領域の故障履歴に故障の可能性があることを書き込むことを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記不揮発性メモリの領域から制御データを読み出す場合、この制御データを読み出す領域の1つ前の領域のステータスデータを参照して、正常に記憶がされていると判定したとき、前記1つ前の領域の故障履歴を消去することを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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