説明

電子吸引基を置換基として持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体色素を有する光電変換素子、及び光化学電池

【課題】高効率の光電変換素子、及び光化学電池、又そのための金属錯体色素の提供。
【解決手段】式1


(Rは電子吸引基を示し、RはH、C2〜18のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。なお、同じピリジン環に存在するR同士は互いに結合して環を形成していても良い。)で示される電子吸引基を置換基として持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体色素(但し、1又は複数のカルボキシル基(−COOH)のプロトン(H)は解離していても良い)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子吸引基を置換基として持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体色素を有する光電変換素子、及びそれを用いた光化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池はクリーンな再生型エネルギー源として大きく期待されており、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系の太陽電池やテルル化カドミウム、セレン化インジウム銅などの化合物からなる太陽電池の実用化をめざした研究がなされている。しかし、家庭用電源として普及させるためには、いずれの電池も製造コストが高いことや原材料の確保が困難なことやリサイクルの問題、また大面積化が困難であるなど克服しなければならない多くの問題を抱えている。そこで、大面積化や低価格化を目指し有機材料を用いた太陽電池が提案されてきたが、いずれも変換効率が1%程度と実用化にはほど遠いものであった。
【0003】
こうした状況の中、1991年にグレッツェルらにより、色素によって増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子および太陽電池、ならびにこの太陽電池の作製に必要な材料及び製造技術が開示された(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。この電池はルテニウム色素によって増感された多孔質チタニア薄膜を作用電極とする湿式太陽電池である。この太陽電池の利点は、安価な材料を高純度に精製する必要がなく用いられるため、安価な光電変換素子として提供できること、さらに用いられる色素の吸収がブロードであり、広い可視光の波長域にわたって太陽光を電気に変換できることである。しかしながら実用化のためにはさらなる変換効率の向上が必要であり、より高い吸光係数を有し、より長波長域まで光を吸収する色素の開発が望まれている。
【0004】
又、光電変換素子として有用な金属錯体色素であるジピリジル配位子含有金属単核錯体(例えば、特許文献2参照)や多核β−ジケトナート錯体色素が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
一方、光などの活性光線のエネルギーを受けて電子を取り出す光電変換機能の優れた新規な複核錯体として、複数の金属と複数の配位子を有し、その複数の金属に配位する橋かけ配位子(BL)が複素共役環を有する配位構造と複素共役環を有しない配位構造を有する複核錯体が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
更に、高い光電変換効率を有する光電変換素子が得られる金属錯体色素として、複素共役環を有する配位構造を有する二核金属錯体が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【特許文献2】特開2003−261536号公報
【特許文献3】特開2004−359677号公報
【特許文献4】国際公開第2006/038587号パンフレット
【特許文献5】特開2004−265767号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature、第353巻、737頁、1991年
【非特許文献2】色素増感太陽電池の最新技術(株式会社シーエムシー、2001年5月25日発行、117頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、太陽光によって色素が励起され、電子が電極に移動することによって、カチオン状態となった色素のLUMOが分布する連結分子に、正電荷の原子を多く分布させることにより、カチオン状態から速やかに基底状態に戻る能力を有し、より効率良く太陽光を電気に変換することが可能となり得る高効率の光電変換素子、及び光化学電池、又そのための金属錯体色素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは電子吸引基を示し、Rは水素原子、直鎖又は分枝状の炭素原子数2〜18のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。)
で示される置換ビピリジル基を有する二核ルテニウム錯体色素(但し、1又は複数のカルボキシル基(−COOH)のプロトン(H)は解離していても良い)。
によって解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、太陽光によって色素が励起され、電子が電極に移動することによって、カチオン状態となった色素のLUMOが分布する連結分子に、正電荷の原子を多く分布させることにより、カチオン状態から速やかに基底状態に戻る能力を有し、より効率良く太陽光を電気に変換することが可能となり得る高効率の光電変換素子、及び光化学電池、又そのための金属錯体色素を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、色素のカチオン状態を計算した時の連結分子を示したものである。なお、正の値は正電荷を、負の値は負電荷を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電子吸引基を持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体色素は前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Rは、電子吸引基を示し、例えばニトロ基、パラトルエンスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、ハロゲン原子等が挙げられるが、好ましくは塩素原子である。Rは、水素原子又は、直鎖又は分枝状の炭素原子数1〜18のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基であり、好ましくは、t−ブチル基である。更に好ましくは水素原子である。
【0016】
又、Xは、対イオンを示すが、例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、チオシアン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ハロゲン化物イオン等が挙げられるが、好ましくはヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、硝酸イオン、ハロゲン化物イオン、更に好ましくはヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、ヨウ化物イオンである。
【0017】
本発明の電子吸引基を持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体色素は、例えば、以下の式に示すように、異なる単核ルテニウム錯体同士を反応させることによって得られる。
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、R、R及びXは前記と同義であり、Yはハロゲン原子、Zは中性の配位子を示す。)
【0020】
なお、片方の単核ルテニウム錯体は、一旦、単核ルテニウム錯体前駆体を経由して合成されるが、その合成中間体である、一般式(2)
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、R、R及びXは前記と同義である。)
で示される単核ルテニウム錯体前駆体、一般式(3)
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、R及びRは前記と同義である。)
及び一般式(4)
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、R、R及びXは前記と同義である。)
で示される単核ルテニウム錯体は新規化合物である。
【0027】
なお、本発明の電子吸引基を持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体は、1又は複数のカルボキシル基(−COOH)のプロトン(H)は解離していても良い。その解離方法は、主として溶液中のpHを調整することによってなされる。
【0028】
本発明の光電変換素子は、前記二核ルテニウム錯体色素と半導体微粒子とを含むものである。前記二核ルテニウム錯体色素は半導体微粒子表面に吸着されており、半導体微粒子はルテニウム錯体色素により増感されている。
【0029】
より具体的には、本発明の光電変換素子は、上記のルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子を導電性支持体(電極)上に固定したものである。
【0030】
導電性電極は、透明基板上に形成された透明電極であることが好ましい。導電剤としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム等の金属、スズをドープした酸化インジウム(ITO)に代表される酸化インジウム系化合物、フッ素をドープした酸化錫(FTO)に代表される酸化スズ系化合物、酸化亜鉛系化合物等が挙げられる。
【0031】
半導体微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等が挙げられる。又、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化バナジウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムなどの複合酸化物半導体、カドミウム又はビスマスの硫化物、カドミウムのセレン化物又はテルル化物、ガリウムのリン化物又はヒ素化物等も挙げられる。半導体微粒子としては、酸化物が好ましく、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、又はこれらのいずれか1種以上を含む混合物が特に好ましい。
【0032】
半導体微粒子の一次粒子径は特に限定されないが、通常、1〜5000nm、好ましくは2〜500nm、特に好ましくは5〜400nmである。
【0033】
半導体微粒子に二核ルテニウム錯体色素を吸着させる方法としては、導電性支持体上に半導体微粒子を含む半導体層(半導体微粒子膜)を形成した後、これを二核ルテニウム錯体色素を含む溶液に浸漬する方法が挙げられる。半導体層は、導電性支持体上に半導体微粒子のペーストを塗布し、加熱焼成して形成することができる。そして、色素溶液に浸漬後、この半導体層が形成された導電性支持体を洗浄、乾燥する。
【0034】
色素溶液の溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が挙げられるが、好ましくは水、アルコール類、二トリル類、更に好ましくは水、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、アセトニトリルが用いられる。なお、これらの溶媒は単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
溶液中の色素の濃度は、好ましくは0.001〜本発明の各々の錯体色素の飽和濃度、更に好ましくは0.001〜100mmol/l、特に好ましくは0.01〜10mmol/l、より好ましくは0.05〜1.0mmol/lである。
【0036】
又、色素溶液には、例えば、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸等のステロイド骨格を有する化合物を添加しても良い。
【0037】
色素を吸着させる際の温度は、通常、0〜80℃とすれば良く、好ましくは20〜40℃である。色素を吸着させる時間(色素溶液に浸漬する時間)は、二核ルテニウム錯体色素の種類、濃度等の条件に応じて適宜決定する。
【0038】
本発明の光化学電池は、上記のような本発明の光電変換素子を用いたものである。より具体的には、電極として上記の本発明の光電変換素子と対極とを有し、その間に電解質層を有するものである。本発明の光電変換素子を用いた電極と対極の少なくとも片方は透明電極である。
【0039】
対極は光電変換素子と組み合わせて光化学電池としたときに正極として作用するものである。対極としては、上記導電性電極と同様に導電層を有する基板を用いることもできるが、金属板そのものを使用すれば、基板は必ずしも必要ではない。対極に用いる導電剤としては、白金や炭素等の金属、フッ素をドープした酸化スズ等の導電性金属酸化物が挙げられる。
【0040】
電解質(酸化還元対)としては特に限定されず、公知のものをいずれも用いることができる。例えば、ヨウ素とヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム等の金属ヨウ化物、またはヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化ピリジニウム、ヨウ化イミダゾリウム等の4級アンモニウム化合物のヨウ化物)の組み合わせ、臭素と臭化物の組み合わせ、塩素と塩化物の組み合わせ、アルキルビオローゲンとその還元体の組み合わせ、キノン/ハイドロキノン、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、銅(I)イオン/銅(II)イオン、マンガン(II)イオン/マンガン(III)イオン、コバルトイオン(II)/コバルトイオン(III)等の遷移金属イオン対、フェロシアン/フェリシアン、四塩化コバルト(II)/四塩化コバルト(III)、四臭化コバルト(II)/四臭化コバルト(III)、六塩化イリジウム(II)/六塩化イリジウム(III)、六シアノ化ルテニウム(II)/六シアノ化ルテニウム(III)、六塩化ロジウム(II)/六塩化ロジウム(III)、六塩化レニウム(III)/六塩化レニウム(IV)、六塩化レニウム(IV)/六塩化レニウム(V)、六塩化オスミウム(III)/六塩化オスミウム(IV)、六塩化オスミウム(IV)/六塩化オスミウム(V)等の錯イオンの組み合わせ、コバルト、鉄、ルテニウム、マンガン、ニッケル、レニウムといった遷移金属とビピリジンやその誘導体、ターピリジンやその誘導体、フェナントロリンやその誘導体といった複素共役環及びその誘導体で形成されているような錯体類、フェロセン/フェロセニウムイオン、コバルトセン/コバルトセニウムイオン、ルテノセン/ルテノセウムイオンといったシクロペンタジエン及びその誘導体と金属の錯体類、ポルフィリン系化合物類等が使用できる。好ましい電解質は、ヨウ素とヨウ化リチウムや4級アンモニウム化合物のヨウ化物とを組み合わせた電解質である。電解質の状態は、有機溶媒に溶解した液体であっても、溶融塩、ポリマーマトリックスに含浸漬したいわゆるゲル電解質や、固体電解質であっても良い。
【0041】
電解液の溶媒としては、例えば、水、アルコール類、ニトリル類、鎖状エーテル類、環状エーテル類、鎖状エステル類、環状エステル類、鎖状アミド類、環状アミド類、鎖状スルホン類、環状スルホン類、鎖状尿素類、環状尿素類、アミン類等が使用される。なお、前記溶媒は、これらに限定されるものではなく、単独又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0042】
本発明の光化学電池は、従来から適用されている方法によって製造することができる。
【0043】
例えば、前述のように、透明電極上に酸化物等の半導体微粒子のペーストを塗布し、加熱焼成し半導体微粒子の薄膜を作製する。半導体微粒子の薄膜がチタニアの場合、温度450〜500℃、加熱時間30分で焼成する。この薄膜の付いた透明電極を色素溶液(本発明の二核ルテニウム錯体色素を含む溶液)に浸漬し、色素を担持して光電変換素子を作製する。更に、この光電変換素子と対極として白金又は炭素を蒸着した透明電極を合わせ、その間に電解質溶液を入れることにより本発明の光化学電池を製造することができる。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲はそれらに限定されるものではない。なお、実施例中の略語は以下の通りである。
【0045】
Etcbpy;2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸ジエチルエステル
dcbpy; 2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸
OTf:トリフルオロメタンスルホン酸イオン
bpy;2,2’−ビピリジン
Cl−BiBzIm;5,5',6,6’−テトラクロロ−2,2’−ビベンズイミダゾール
【0046】
実施例1A−1(単核ルテニウム錯体(M−1);[Ru(Etcbpy)(HO)](OTf)の合成)
窒素雰囲気下、500mLの三口フラスコに、市販のHdcbpy(5.44g,22.3mmol)、濃硫酸(10mL)、及びエタノールを130mL加え、一晩還流した。放冷後、中和し、析出物を濾過し、熱水で洗浄した。析出物をエタノール/水(95:5)で再結晶を行い、析出物を濾過し、Etcbpyを4.92g得た。
【0047】
次に、アルゴン雰囲気下、1000mLの三口フラスコに市販の塩化ルテニウム(1.18g,4.51mmol)、Etcbpy(2.64g,8.79mmol)及びエタノール500mLを加え、7時間還流した。放冷後、析出物を濾過し、[Ru(Etcbpy)Cl]1.64gを得た。また、濾液を減圧濃縮し、2mol/l塩酸300mLを加え、5分室温で攪拌後、不溶物を濾過し、水で洗浄した。不溶物をエタノール/ジクロロメタン(10:3)で再結晶を行い、1.34g、計2.98gを得た。
【0048】
続いて、200mLの三口フラスコに[Ru(Etcbpy)Cl](1.37g,1.77mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(1.09g,4.25mmol)ジクロロメタン140mLを加え、室温で1時間攪拌した。一晩静置した後、析出物を濾別し濾液を濃縮後、ジエチルエーテル中にて5分間室温で攪拌した後、不溶物を濾過し、[Ru(Etcbpy)(HO)](OTf)を1.62g得た。
【0049】
実施例1A−2(単核ルテニウム錯体(M−2);[(Cl−BiBzIm)Ru(bpy)]の合成)
50mLのシュレンクフラスコに市販の塩化ルテニウム(2.80g,10.71mmol)、2,2’−ビピリジン(3.34g,21.4mmol)、塩化リチウム(3.08g,72.6mmol)、およびN,N−ジメチルホルムアミド17mLを加え、脱気した後、8時間還流した。放冷後、70mLアセトン中に反応液を加え、0℃で一晩静置した。その後、濾取し、アセトン、水、ジエチルエーテルで洗浄し、[Ru(bpy)Cl]2.90gを得た。
【0050】
次に、窒素雰囲気下、100mLの三口フラスコに[Ru(bpy)Cl](0.501g,0.962mmol)、5,5',6,6’−テトラクロロ−2,2’−ビベンズイミダゾール(0.393g,1.06mmol)、およびエチレングリコール55mLを加え、2.45GHzのマイクロ波照射下にて攪拌しながら7分間還流させた。放冷後、水を55mL加え、室温で20分間攪拌した。その後、吸引濾過によって不溶物を除去し、エチレングリコール/水(1:1)で洗浄した後、3mLの水に溶解したヘキサフルオロリン酸アンモニウム(0.633g,3.89mmol)を加え、室温で20分間攪拌した。析出物を濾取し、エチレングリコール/水(1:1)で洗浄し、[(Cl−BiBzImH)Ru(bpy)](PF0.906g得た。
【0051】
窒素雰囲気下、100mLの3口フラスコに[Ru(bpy)(Cl−BiBzImH)](PF(0.885g,0.823mmol)、メタノール50mL、28%ナトリウムメトキシド メタノール溶液を0.853mL(4.420mmol)加え、脱気した後1.5時間還流させた。放冷後、吸引濾過によって残渣を回収し3.71%(反応溶液と同じ濃度)ナトリウムメトキシド メタノール溶液で洗浄し、[Ru(bpy)(Cl−BiBzIm)]0.312gを得た。
【0052】
実施例1A(二核ルテニウム錯体色素(1);[(Hdcbpy)Ru(Cl−BiBzIm)Ru(bpy)](PFの合成)
窒素雰囲気下、100mLの三口フラスコに単核ルテニウム錯体(M−2)[Ru(bpy)(Cl−BiBzIm)](0.200g,0.256mmol),単核ルテニウム錯体(M−1)[Ru(Etcbpy)(HO)](OTf)(0.176g,0.170mmol),N,N−ジメチルホルムアミド50mLを加え、脱気した後、5.5時間還流した。放冷後、減圧濃縮し、水を50mL加え、水酸化ナトリウム(0.270g,6.81mmol)を加え、100℃で15分加熱した。放冷後、吸引濾過により不溶物を除去、水で洗浄した後、濾液を0.5mol/Lヘキサフルオロリン酸水溶液と1.7mol/Lヘキサフルオロリン酸水溶液でpH2.2にし、一晩静置した。沈殿を吸引濾過によって回収し、pH2.2ヘキサフルオロリン酸水溶液、アセトン/ジエチルエーテル(1:4)、ジエチルエーテルで洗浄、[(Hdcbpy)Ru(Cl−BiBzIm)Ru(bpy)](PF0.124gを得た。
【0053】
実施例2−1(多孔質チタニア電極の作製)
触媒化成製のチタニアペーストPST−18NRを透明層に、PST−400Cを拡散層に用い、旭硝子株式会社製透明導電性ガラス電極上にスクリーン印刷機を用いて塗布した。得られた膜を25℃、60%の雰囲気下で5分間エージングし、このエージングした膜を450℃で30分間焼成した。冷却した膜に対し、同じ作業を所定の厚みになるまで繰り返し、16mmの多孔質チタニア電極を作製した。
【0054】
実施例2−2(色素を吸着した多孔質チタニア電極の作製)
二核ルテニウム錯体色素の0.2mmol/l色素溶液(溶媒:t−ブタノール/アセトニトリルの1:1混合溶媒)に多孔質チタニア電極を30℃で所定の時間浸漬し、乾燥して色素吸着多孔質チタニア電極を得た。
【0055】
実施例2−3(光化学電池の作製)
以上のようにして得られた色素吸着多孔質チタニア電極と白金板(対極)を重ね合わせた。次に、電解質溶液(3−メトキシプロピオニトリルにヨウ化リチウム、ヨウ素、4−t−ブチルピリジン及び1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドをそれぞれ0.1mol/l、0.05mol/l、0.5mol/l、0.6mol/lとなるように溶解したもの)を両電極の隙間に毛細管現象を利用して染み込ませることにより光化学電池を作製した。
【0056】
実施例3(色素の基底状態、励起状態の計算)
実施例1で得られた二核ルテニウム錯体色素(1)(L=Cl−BiBzIm)および公知の二核ルテニウム錯体色素(2)(L=BiBzIm;(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](PF)の計算結果を図1に示す。
【0057】
なお、計算は以下の手法により行った。
計算機器は通常のパソコンを使用した。計算方法は密度汎関数法を用いて量子化学計算を行った。カチオン状態の構造最適化計算は交換相関関数としてPBE(Perdew,J.P.;Burke,K.;Ernzerhof,M.)を用い、基底関数系はDNP(double−numeric quality basis set with polarization functions)を用いた。また、計算を簡略化するために有効内核ポテンシャル近似を用いた。構造最適化においてエネルギーに対する収束条件は10−5a.u.以下とした。構造最適化計算で行われるSCF(self−consistent field)に対し、その収束条件はエネルギーに対して10−6a.u.以下とした。
【0058】
カチオン状態でのLUMOの計算方法は、密度汎関数法を用いて量子化学計算を行った。交換相関関数としてPBEを用い、基底関数系はDNPを用いた。計算を簡略化するために有効内核ポテンシャル近似を用いた。電荷の計算はMulliken電荷密度を用いた。SCF計算に対し、その収束条件はエネルギーに対して10−6a.u.以下とした。
【0059】
図1の結果から、本発明の化合物(一般式(1))で示される二核ルテニウム錯体色素(1))、即ち、連結分子(BiBzIm)の5,5',6,6’位に4個の電子吸引基である塩素原子を有する二核ルテニウム錯体色素(1)と、公知の連結分子上の水素原子が無置換の二核ルテニウム錯体色素(2)とを比べると、カチオン状態でLUMOの分布する連結分子に、正電荷の原子が多く存在していることが分かる。その結果として、カチオン状態の色素は電解液からの電子注入によって基底状態へ戻り、電子はカチオン状態でLUMOの分布する連結分子から色素に入ってくることになる。
【0060】
計算結果によって上記の電子状態にあれば、光電変換効率の向上が期待できることは既に開示されている(例えば、特許文献5参照)。即ち、本発明の化合物(一般式(1))で示される二核ルテニウム錯体色素(1))は、公知の無置換の二核ルテニウム錯体色素(2)よりも正電荷の部分の数が多いために、効率良く電子を受け取ることができることから、光電変換効率の向上が期待できる化合物であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、より効率の良い電子移動が可能となり、太陽光を電気に変換することが可能となり得る高効率の光電変換素子、及び光化学電池、又そのための金属錯体色素を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは電子吸引基を示し、Rは水素原子、直鎖又は分枝状の炭素原子数2〜18のアルキル基を示し、Xは対イオンを示す。なお、同じピリジン環に存在するR同士は互いに結合して環を形成していても良い。)
で示される電子吸引基を置換基として持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体色素(但し、1又は複数のカルボキシル基(−COOH)のプロトン(H)は解離していても良い)。
【請求項2】
請求項1記載の電子吸引基を置換基として持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体色素と半導体微粒子を含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項3】
半導体微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化スズからなる群より選ばれる少なくとも1種の半導体微粒子であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項4】
請求項2乃至3のいずれかに記載の光電変換素子を備えることを特徴とする光化学電池。
【請求項5】
電極として請求項2乃至3のいずれかに記載の光電変換素子と対極とを有し、その間に電解質層を有することを特徴とする光化学電池。
【請求項6】
上記一般式(1)で示される二核ルテニウム錯体色素を含む溶液に半導体微粒子を浸漬する工程を有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
導電性支持体上に、半導体微粒子を含む半導体層を形成する工程と、
この半導体層を電子吸引基を置換基として持つ連結分子を有する二核ルテニウム錯体色素を含む溶液に浸漬する工程と
を有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
一般式(2)
【化2】

(式中、R、R及びXは、前記と同義である。)
で示される単核ルテニウム錯体前駆体。
【請求項9】
一般式(3)
【化3】

(式中、R及びRは、前記と同義である。)
で示される単核ルテニウム錯体。
【請求項10】
一般式(4)
【化4】

(式中、R及びR及びXは、前記と同義である。)
で示される単核ルテニウム錯体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57858(P2011−57858A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209191(P2009−209191)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】