説明

電子回路あるいは光学部材の製造方法

【課題】高精細かつ膜厚均一のパターンを有する電子回路あるいは光学部材の製造方法の提供。
【解決手段】感光性樹脂組成物層をシート状あるいは円筒状支持体上に形成する工程、形成された感光性樹脂組成物層に光を照射し硬化させる工程、レーザー光によりパターン形成する工程、および得られた印刷版を用いて、絶縁体、半導体、導体から選ばれる少なくとも1種類を含有するインキを被印刷基材上に転写する印刷工程を含むことを特徴とする、高精細かつ膜厚均一のパターンを有する電子回路あるいは光学部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子回路あるいは光学部材の製造方法に関するものであり、更には電子回路あるいは光学部材の導体、半導体、絶縁体、パターン形成、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線カットフィルター等の機能性材料のパターン形成、更には液晶ディスプレイあるいは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止材層の塗膜・パターン形成等に適したレーザー彫刻印刷版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の絶縁膜や液晶表示パネルなどで、パターンを高精度に形成する技術としてはスピンコート法による材料の塗布とフォトリソグラフィーを組み合わせる方法が一般的であるが、パターン形成を大面積で行おうとすると、フォトリソグラフィーではコストが高くなるという問題がある。一方、パターン形成技術としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法などの印刷技術を転用してパターンを高精度に大面積で形成する方法が考えられている。印刷法は多数のパターンを基板上に形成するのに適し、材料の使用量削減やコスト的にもフォトリソグラフィーより有利である。
また、近年、インクジェット印刷法が、この分野へ適用され開発が進んできている。
【0003】
しかしながら、現状の課題として、インクジェットノズルの目詰まり、微細パターン化、印刷スピードなどを挙げることができる。
印刷スピードの観点からは、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の印刷方法が適用され、検討されている。その中でも、特にフレキソ印刷は、樹脂凸版を用いる方法であり、インキは凸部表面に転写され、被印刷体表面には凸部が接触するため、被印刷部位には汚れが発生しないという大きな特長を有する方法である。
【0004】
フレキソ印刷法は段ボール、紙器、紙袋、軟包装用フィルムなどの包装材、壁紙、化粧板などの建装材、ラベル印刷などに用いられている。フレキソ印刷で使用される印刷版の作製には,通常、感光性樹脂が用いられることが多く、液状の樹脂、又はシート状に成形された固体樹脂版を用い、ネガフイルムを感光性樹脂上に置き、ネガフイルムを通して光を照射し架橋反応を起こさせた後、非架橋部分を現像液で洗い落とすというフォトリソグラフィーを用いる方法が用いられてきた。近年、感光性樹脂表面にブラックレーヤーという薄い光吸収層を設け、これにレーザー光を照射し感光性樹脂板上に直接マスク画像を形成後、そのマスクを通して光を照射し架橋反応を起こさせた後、光の非照射部分の非架橋部分を現像液で洗い落とす、いわゆるフレキソCTPという技術が開発され、より高精細なパターンの形成が可能となった。
【0005】
しかしながら、この技術も露光、現像工程を経てパターンが形成されるフォトリソグラフィーを用いる方法である。フォトリソグラフィーを用いてパターンを形成する感光性樹脂版では、露光工程での硬化収縮や現像工程での未硬化成分の現像液中への抽出により、光硬化したパターンの中央部の厚さが薄くなるカッピングによる版の厚みむらが発生することや、版外周部が反る版反りの問題があった。厚み精度の低い印刷版を用いた場合には、印刷で得られるパターンの膜厚が不均一になり、得られる電子部品あるいは光学部材の性能においても不均一となってしまう。
従って、感光性樹脂版を用いる系では、得られる印刷版の厚み精度を確保することが大きな課題であった。
【0006】
感光性樹脂版の光学部材の印刷への適用の具体的な例として、感光性樹脂凸版を使用して、ガラス基板の表面にポリイミド樹脂よりなる配向膜の印刷が行われている。感光性樹脂凸版は、2枚のガラス板の間にネガフイルム、カバーフイルム、液状感光性樹脂、ベースフイルムを挟み、ネガフイルムを通して光で照射架橋反応を起こさせた後、非架橋部分を現像液で洗い落とすという方法が用いられてきた。このような方法で作製された感光性樹脂凸版は、凸部の厚み均一さが充分ではなく、凸部の周辺部の厚みが中央部よりも厚いフォトリソグラフィーでの光硬化収縮によるカッピング現象を有している。
【0007】
日本国特許3496086号公報には、感光性樹脂凸版本体とベースフィルム層よりなる積層物の裏面(ベースフイルム層の裏面)に、全体に亙ってほぼ均一な厚みを有する感圧型接着剤層によって、表面が平坦な金属板又は合成樹脂板を、接着積層し貼合することにより、感光性樹脂凸版本体のカッピング現象を低減させる方法が記載されているが、プロセスが複雑であり、貼り合わせ時に気泡を巻き込み印刷版の厚み精度が低下する問題点がある。また、この特許文献では、レーザー彫刻印刷版に関する記載も一切されていない。
【0008】
また、電子回路や光学部材の導体、半導体、絶縁体を形成するために用いられるインキ中の溶剤成分は、印刷版を膨潤させたり、印刷版中の構成成分が抽出され物性が大きく変化するなどの問題があり、耐溶剤性の確保は大きな課題であった。フォトリソグラフィーを用いた感光性樹脂版では、微細パターンの形成機能が特に重要である。そのため、現像工程において用いる現像液への未硬化樹脂の溶解あるいは分散特性が良好であることが重要要件であり、感光性樹脂組成の設計において選択できる材料にも制限がある。そのため、インキ中の多種多様な溶剤成分に対する耐溶剤特性に関しては決して充分とは言えない。
【0009】
感光性樹脂版で問題となるカッピングという現象を解消する方法として、樹脂版にレーザー光を照射し、照射された部分の樹脂が溶融あるいは分解し除去されるレーザー彫刻法を用いた印刷版の形成方法が提案されている。レーザー彫刻印刷版を形成する材料として天然ゴム、合成ゴム、プラスチック等の適用が図られている。
例えば米国特許3549733号ではポリオキシメチレンまたはポリクロラールを用いることが開示されている。また特表平10−512823号公報(ドイツ国特許A19625749号)にはシリコーンポリマーもしくはシリコーンフッ素ポリマーを用いることが記載されている。シリコーンゴムの場合には、溶剤に膨潤し易い性質があり、使用できる溶剤が限られている。
【0010】
他方、日本国特許2846954号、2846955号(米国特許第5798202号、第5804353号)にはSBS、SIS、SEBS等の熱可塑性エラストマーを機械的、光化学的、熱化学的に強化された材料を用いることが開示されている。熱可塑性エラストマーを用いる場合、赤外線領域の発振波長を有するレーザーを用いて彫刻を実施すると、熱によりレーザービーム径の寸法を大きく逸脱した部分の樹脂までが溶融するため、高解像度の彫刻パターンを形成することが難しい。また、レリーフに融解によるエッジ部の盛り上がりが生じたり、エッジ部に微小な粉末状カスが融着したり、エッジ部が不鮮明になったり、また、網点の形状が崩れるなどの難点を生じる。
【0011】
いずれのレーザー彫刻印刷版の特許文献においても、電子回路あるいは光学部材製造に適用した事例の記載はなく、またこれらの用途において極めて重要な印刷版の版厚精度を高める方法、耐溶剤特性を向上させる方法について、一切記載されていない。
【特許文献1】日本国特許3496086号公報
【特許文献2】米国特許3549733号公報
【特許文献3】特表平10−512823号公報
【特許文献4】日本国特許2846954号公報
【特許文献5】日本国特許2846955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高精細かつ膜厚均一のパターンを有する電子回路あるいは光学部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討し、露光時の硬化収縮によるカッピング現象がなく、版厚精度、耐溶剤性が高いレーザー彫刻印刷版を用いることにより、高精細かつ膜厚均一のパターンを有する電子回路あるいは光学部材の製造が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は下記の通りである。
1. (a)シート状あるいは円筒状に成形された感光性樹脂組成物層に光を照射し感光性樹脂硬化物層を形成し印刷原版とする工程、(b)形成された印刷原版にレーザー光を照射し表面に凸パターンが形成されたフレキソ印刷版あるいは凹パターンが形成されたグラビア印刷版を作製する工程、あるいは感光性樹脂硬化物層を貫通した孔状パターンが形成されたスクリーン印刷版を作製する工程、(c)得られたフレキソ印刷版、グラビア印刷版、スクリーン印刷版の中から選択される少なくとも1種類の印刷版を用いて、絶縁体、半導体、導体から選ばれる少なくとも1種類を含有するインキを被印刷基材上に転写する印刷工程、(d)形成されたインキ中の液状媒体を乾燥除去するかあるいはインキに光を照射し硬化させ固定化し、厚さ1nm以上10μm以下の薄膜を形成する工程を含み、前記印刷原版の版厚精度が30μm以下であり、かつ印刷工程で使用するインキ中の液状媒体に対する耐性を浸漬膨潤テストで評価した場合に、前記液状の媒体への浸漬前後の重量変化率(以下膨潤率とする)が10wt%以下であることを特徴とする電子回路あるいは光学部材の製造方法。
【0015】
2. インキ中の液状媒体が、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤、含窒素炭化水素系溶剤の中から選ばれる少なくとも1種類の溶剤成分を、溶剤全体量の20wt%以上含有していることを特徴とする1.に記載の電子回路あるいは光学部材の製造方法。
3. 絶縁体、半導体、導体から選ばれる少なくとも1種類を含有する薄膜を、フレキソ印刷法を用いて形成するための印刷版として、1.に記載の凸パターンが、最表面寸法200μm角、高さ500μmの場合に、該凸パターンの中央部とエッジ部における高低差が30μm以下であることを特徴とする電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版。
4. 円筒状支持体あるいはシート状支持体と、印刷版との間に、ショアA硬度が10度から70度のクッション層を有することを特徴とする3.に記載の電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版。
【0016】
5. 感光性樹脂硬化物層が無機微粒子、無機有機複合微粒子から選択される少なくとも1種類の微粒子を含有することを特徴とする3.、4.のいずれかに記載の電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版。
6. 20℃において液状の感光性樹脂組成物を円筒状支持体上に塗布する工程、塗布された液状感光性樹脂組成物を光硬化させ感光性樹脂硬化物層を形成する工程、得られた感光性樹脂硬化物層表面を、回転させながら平滑化する表面調整工程、さらに前記感光性樹脂硬化物層にレーザー光を照射し、レーザー光が照射された部分の樹脂が除去されることによりパターンが形成される工程を含むことを特徴とする電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版の製造方法。
7. 液状の感光性樹脂組成物を塗布する工程の前に、円筒状支持体上にシート状の支持体を巻きつけ固定する工程を含み、該シート状支持体上に液状感光性樹脂組成物を塗布し、表面調整工程の後に、印刷原版を切断し、円筒状支持体から取り外す工程を含むことを特徴とする6.に記載の電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高精細かつ膜厚均一のパターンを有する電子回路あるいは光学部材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、さらに詳細に本発明の好ましい実施態様を説明する。
電子回路あるいは光学部材を製造する方法において、絶縁体、半導体、導体から選ばれる少なくとも1種類を含有する薄膜を被印刷基材上に転写する方法として、レーザー彫刻法を用いて形成されたパターンを有する印刷版を使用して実施されるフレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法が好ましい。特に被印刷基材への印圧が低いこと、被表面にインキを有する凸部のみが被印刷基材と接触するという特長から、フレキソ印刷法が特に好ましい。該印刷版は、シート状あるいは円筒状に成形された感光性樹脂組成物層に光を照射することで感光性樹脂硬化物層を形成し、得られた感光性樹脂硬化物層表面を回転させながら平滑化し印刷原版を形成した後、レーザー光を照射することで照射された部分の樹脂が溶融あるいは分解することにより除去され、パターンが形成されたものが好ましい。
【0019】
電子回路とは、絶縁体、半導体、導体から選ばれる少なくとも1種類を含有する薄膜をパターン化して形成されたものを指す。特に限定するものではないが、具体的にはコイル、アンテナ、電極、配線等を形成する導体パターン、コンデンサ等の誘電体、層間絶縁膜、液晶ディスプレイ用の配向膜等形成するための絶縁体パターン、トランジスタ、ダイオード、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層、電荷移動層、電荷注入層等を形成するための有機半導体パターンなどをあげることができる。また、光学部材とは、反射防止膜、フィルター膜、偏光膜、導光板等の薄膜光学部品を挙げることができる。
印刷原版は、感光性樹脂組成物を光硬化させて得られる感光性樹脂硬化物層からなる。
【0020】
レーザー彫刻により印刷原版表面に形成されるパターンの深さは、印刷方法の違いにより異なるが、1μm以上1000μm以下が好ましい。より好ましくは5μm以上700μm以下、更に好ましくは20μm以上500μm以下である。1μm以上あればインキを保持することができ、また、1000μm以下であればパターンが印刷工程中に変形したり、破壊されたりすることがない。
印刷原版の版厚精度は、30μm以下である。好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。30μm以下であれば、高精度かつ低印圧での印刷が可能である。版厚精度において、30μmとは、厚み測定の平均値に対し±15μmということである。厚み測定は、3cm間隔でXY方向に実施するものとする。
【0021】
印刷法において被印刷基材上に印刷できる印刷パターンの厚さは、インキ中の溶剤成分を乾燥除去した後は、1nm以上10μm以下である。好ましくは5nm以上5μm以下、より好ましくは10nm以上1μm以下である。膜厚が1nm以上であれば、絶縁体、半導体、導体の機能を発現させることができ、また、10μm以下であればインキ中の溶剤成分の除去を容易に行うことができる。感光性樹脂組成物は、数平均分子量が1000以上50万以下のプレポリマー(A)、数平均分子量1000未満の重合性反応基を有する反応性モノマー(B)、光重合開始剤(C)、および充填剤(D)より構成されていることが好ましい。
【0022】
感光性樹脂組成物は20℃において液状であっても固体状であっても構わないが、成形性の容易さから20℃において液状であることが好ましい。
プレポリマー(A)は、20℃において液状であっても固体状であっても構わないが、成型加工性の観点から20℃で液状樹脂であることが好ましい。ここで言う液状樹脂とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間で元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対比する言葉である。プレポリマー(A)が20℃において液状樹脂である場合には、感光性樹脂組成物も20℃において液状となり、これから得られる印刷原版をシート状、もしくは円筒状に成形する際に、良好な版厚精度や寸法精度を得ることができる。液状感光性樹脂を用いる場合、感光性樹脂組成物の粘度は、好ましくは、20℃において10Pa・s以上10kPa・s以下である。さらに好ましくは、50Pa・s以上5kPa・s以下である。粘度が10Pa・s以上であれば、作製される印刷原版の機械的強度が十分であり、円筒状印刷原版に成形する際であっても形状を保持し易く、加工し易い。粘度が10kPa・s以下であれば、高温にしなくとも変形し易く、加工が容易である。シート状あるいは円筒状の印刷原版に成形し易く、プロセスも簡便である。特に版厚精度の高い円筒状印刷原版を得るためには、円筒状支持体上に液状感光性樹脂層を形成することが好ましく、該感光性樹脂組成物が重力により液ダレ等の現象を起こさないための粘度として好ましくは100Pa・s以上、より好ましくは200Pa・s以上、更に好ましくは500Pa・s以上である。
【0023】
プレポリマー(A)の数平均分子量は、好ましくは1000以上50万以下、より好ましくは5000以20万以下、更に好ましくは1万以上10万以下である。プレポリマー(A)の数平均分子量は1000以上であれば、後に架橋して作製する印刷原版が強度を保ち、この印刷原版から形成されるレリーフ画像は強く、印刷版などとして用いる場合、繰り返しの使用にも耐えられる。また、50万以下であれば、感光性樹脂組成物の粘度が過度に上昇することもなく、シート状、あるいは円筒状の印刷原版を作製する際に加熱押し出し等の複雑な加工方法は必要ない。ここで言う数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0024】
印刷原版にレーザー光を照射した場合に、該印刷原版が、液状化し易いあるいは分解し易いことが好ましい。したがって、感光性樹脂硬化物の原料であるプレポリマー(A)あるいは反応性モノマー(B)は、分解し易い成分を有することが望ましい。分解し易い成分としては、分子鎖中に分解し易いモノマー単位としてスチレン、α−メチルスチレン、α−メトキシスチレン、アクリルエステル類、メタクリルエステル類、エステル化合物類、エーテル化合物類、ニトロ化合物類、カーボネート化合物類、カルバモイル化合物類、ヘミアセタールエステル化合物類、オキシエチレン化合物類、脂肪族環状化合物類等が含まれていることが好ましい。特にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラエチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート類、脂肪族カルバメート類、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ニトロセルロース、ポリオキシエチレン、ポリノルボルネン、ポリシクロヘキサジエン水添物、あるいは分岐構造の多いデンドリマー等の分子構造を有するポリマーは、分解し易いものの代表例である。
【0025】
また、分子鎖中に酸素原子を多数含有するポリマーが分解性の観点から好ましい。これらの中でも、カーボネート基、カルバメート基、メタクリル基をポリマー主鎖中に有する化合物は、熱分解性が高く好ましい。例えば、(ポリ)カーボネートジオールや(ポリ)カーボネートジカルボン酸を原料として合成したポリエステルやポリウレタン、(ポリ)カーボネートジアミンを原料として合成したポリアミドなどを熱分解性の良好なポリマーの例として挙げることができる。これらのポリマー主鎖、側鎖に重合性不飽和基を含有しているものであっても構わない。特に、末端に水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の反応性官能基を有する場合には、主鎖末端に重合性不飽和基を導入することも容易である。
【0026】
プレポリマー(A)は、分子内に重合性不飽和基を有していても構わない。好ましいものとして1分子あたり平均で0.7以上、より好ましいものとして1以上の重合性不飽和基を有するポリマーを挙げることができる。1分子あたり平均で0.7以上であれば、感光性樹脂組成物より得られる印刷原版の機械強度に優れ、レーザー彫刻時にレリーフ画像が崩れ難くなる。さらにその耐久性も良好で、繰り返しの使用にも耐えられるものとなり好ましい。1分子あたりの重合性不飽和基数の上限は特に限定するものではないが、好ましくは20以下である。より好ましくは10以下である。プレポリマー(A)の重合性不飽和基の存在比率については、高分解能核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)を用いて定量化することができる。ここで言う分子内とは高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端や高分子主鎖中や側鎖中に直接、重合性不飽和基が付いている場合なども含まれる。本発明の重合性不飽和基とは、ラジカルまたは付加重合反応に関与する重合性不飽和基と定義する。
【0027】
ラジカル重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、ビニル基、アセチレン基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。付加重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、シンナモイル基、チオール基、アジド基、開環付加反応するエポキシ基、オキセタン基、環状エステル基、ジオキシラン基、スピロオルトカーボネート基、スピロオルトエステル基、ビシクロオルトエステル基、環状イミノエーテル基等が挙げられる。
【0028】
プレポリマー(A)分子内に重合性不飽和基を導入する方法としては、例えば直接、重合性の不飽和基をその分子末端に導入したものを用いても良いが、別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、エステル基などの反応性基を複数有する化合物と、それらの反応性基に結合しうる反応性基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後、反応により得られた化合物と、前記末端結合性基と反応しうる反応性基および重合性不飽和基を有する有機化合物とを反応させて、末端に重合性不飽和基を導入する方法などが好適にあげられる。
【0029】
特にフレキソ印刷版用途のように柔軟なレリーフ画像が必要な場合には、プレポリマー(A)として、一部、ガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂、さらに好ましくはガラス転移温度0℃以下の液状樹脂を用いることが好ましい。このような液状樹脂として、例えばポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポイソプレン等の炭化水素類、アジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン類、(メタ)アクリル酸及び/またはその誘導体の重合体及びこれらの混合物やコポリマー類等があげられる。その含有量は、プレポリマー(A)全体に対して30wt%以上100wt%以下含有することが好ましい。特に耐候性の観点からポリカーボネート構造を有する不飽和ポリウレタン類が好ましい。
【0030】
反応性モノマー(B)は、プレポリマー(A)との希釈のし易さを考慮すると数平均分子量1000以下が好ましく、分子内に重合性不飽和基を有する化合物であることが好ましい。重合性不飽和基とは、ラジカル重合反応、付加重合反応に寄与する官能基である。ラジカル重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、ビニル基、アセチレン基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。付加重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、シンナモイル基、チオール基、アジド基、開環付加反応するエポキシ基、オキセタン基、環状エステル基、ジオキシラン基、スピロオルトカーボネート基、スピロオルトエステル基、ビシクロオルトエステル基、環状イミノエーテル基等が挙げられる。反応性モノマー(B)は例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリルアルコール、アリルイソシアネート等のアリル化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、シアネートエステル類等があげられるが、その種類の豊富さ、価格等の観点から(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい例である。
【0031】
該誘導体は、シクロアルキル−、ビシクロアルキル−、シクロアルケン−、ビシクロアルケン−などの脂環族、ベンジル−、フェニル−、フェノキシ−などの芳香族、アルキル−、ハロゲン化アルキル−、アルコキシアルキル−、ヒドロキシアルキル−、アミノアルキル−、テトラヒドロフルフリル−、アリル−、グリシジル−、アルキレングリコール−、ポリオキシアルキレングリコール−、(アルキル/アリルオキシ)ポリアルキレングリコール−やトリメチロールプロパン等の多価アルコールのエステルなどがあげられる。
本発明において、これら重合性の不飽和結合を有する反応性モノマー(B)はその目的に応じて1種若しくは2種以上のものを選択できる。例えば印刷版として用いる場合、溶剤系インキの溶剤であるエステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤、含窒素炭化水素系溶剤等の有機溶剤に対する膨潤を押さえるために用いる有機化合物として長鎖脂肪族、脂環族または芳香族等の誘導体を少なくとも1種類以上を有することが好ましい。
【0032】
反応性モノマー(B)の数平均分子量(Mn)の測定方法について説明する。反応性モノマー(B)が溶解する溶剤に溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)で分析し、分子量既知の標準ポリスチレンに対して換算してMnを算出する。分子量分布の広い化合物については、この方法で求める。分子量分布に関する尺度として、Mnと、Mnと同時に算出される重量平均分子量(Mw)の比、すなわち多分散度(Mw/Mn)を用いる。多分散度が1.1以上である場合、分子量分布が広いとして、GPC法で求められる数平均分子量を採用する。また、多分散度が1.1未満のものは分子量分布が極めて狭いため、分子構造解析が可能であり、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)あるいは質量分析法を用いて算出した分子量を数平均分子量とする。
【0033】
印刷原版の機械強度を高めるためには、反応性モノマー(B)としては脂環族または芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましく、この場合、反応性モノマー(B)の全体量の20wt%以上100wt%以下であることが好ましく、更に好ましくは50wt%以上100wt%以下である。
印刷原版の反撥弾性を高めるため例えば特開平7−239548号に記載されているようなメタクリルモノマーを使用するとか、公知の印刷用感光性樹脂の技術知見等を利用して選択することができる。
【0034】
感光性樹脂組成物層を光、すなわち紫外線あるいは可視光線、もしくは電子線等の照射により架橋して印刷原版としての物性を発現させるが、その際に紫外線あるいは可視光線を用いて光硬化させる場合には、光重合開始剤を添加する事が出来る。光重合開始剤は一般に使用されているものから選択でき、例えば高分子学会編「高分子データ・ハンドブックー基礎編」1986年培風館発行、に例示されているラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等の光重合開始剤などが使用できる。ラジカル重合反応を誘起させる光重合開始剤としては、水素引き抜き型光重合開始剤と崩壊形光重合開始剤が、特に効果的な光重合開始剤として用いられる。
【0035】
水素引き抜き型光重合開始剤として、特に限定するものではないが、芳香族ケトンを用いることが好ましい。芳香族ケトンは光励起により効率よく励起三重項状態になり、この励起三重項状態は周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化学反応機構が提案されており、生成したラジカルが光架橋反応に関与するものと考えられる。本発明で用いる水素引き抜き型光重合開始剤として励起三重項状態を経て周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化合物であれば良い。芳香族ケトンとして、ベンゾフェノン類、ミヘラーケトン類、キサンテン類、チオキサントン類、アントラキノン類等を挙げることが出来、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾフェノン類とは、ベンゾフェノン或いはその誘導体を指し、具体的には3,3’,4,4’―ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’―テトラメトキシベンゾフェノン等である。ミヘラーケトン類とは、ミヘラーケトンおよびその誘導体をいう。キサンテン類とは,キサンテンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体等をいう。チオキサントン類とは、チオキサントンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基等で置換された誘導体をさし、エチルチオキサントン、メチルチオキサントン、クロロチオキサントン等を挙げることが出来る。アントラキノン類とは、アントラキノンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基等で置換された誘導体をいう。水素引き抜き型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の0.3wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.5wt%以上5wt%以下である。添加量がこの範囲であれば、液状感光性樹脂組成物を大気中で硬化させた場合、硬化物表面の硬化性は十分確保でき、また、耐候性を確保することが出来る。
【0036】
崩壊型光重合開始剤とは、光吸収後に分子内で開裂反応が発生し活性なラジカルが生成する化合物を指し、特に限定するものではない。具体的には、ベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジアルコキシー2−フェニルアセトフェノン類、アセトフェノン類、アシルオキシムエステル類、アシルホスフィンオキシド類、アゾ化合物類、有機イオウ化合物類、ジケトン類等を挙げることが出来、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインイソプロピルエーテル、べンゾインイソブチルエーテル等を挙げることが出来る。2,2−ジアルコキシー2−フェニルアセトフェノン類としては、2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシー2−フェニルアセトフェノン等を挙げることが出来る。アセトフェノン類としては、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン等を挙げることが出来る。アシルオキシムエステル類としては、1−フェニルー1,2−プロパンジオンー2−(o―ベンゾイル)オキシム等を挙げることが出来る。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾニウム化合物、テトラゼン化合物等を挙げることが出来る。有機イオウ化合物としては、芳香族チオール、モノおよびジスルフィド、チウラムスルフィド、ジチオカルバメート、S−アシルジチオカルバメート、チオスルホネート、スルホキシド、スルフェネート、ジチオカルボネート等を挙げることが出来る。ジケトン類としては、ベンジル、メチルベンゾイルホルメート等を挙げることが出来る。崩壊型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の0.1wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.3wt%以上3wt%以下である。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合、硬化物内部の硬化性は十分に確保出来る。
【0037】
特に酸素濃度が5vol%以上である雰囲気において光硬化させたいラジカル重合系の感光性樹脂組成物の場合、光重合開始剤として、水素引き抜き型光重合開始剤と崩壊型光重合開始剤との組み合わせ、あるいは同一分子内に水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を両方有する光重合開始剤を使用することが好ましい。
【0038】
プレポリマー(A)あるいは反応性モノマー(B)が、分子鎖中に存在する酸素原子あるいは窒素原子に対しα位に存在する水素原子を有する化合物、チオールのような硫黄原子に直接結合している水素原子を有する化合物等を、感光性樹脂組成物全体量の少なくとも20wt%以上100wt%以下含有することが好ましい。より好ましくは40wt%以上100wt%以下である。前記酸素原子の由来原子団としては、アルコール、エーテル、エステル、カーボネート等を挙げることができ、また前記窒素原子の由来原子団としてはウレタン、ウレア、アミド等を挙げることができる。詳しい反応メカニズムは明確ではないが、プレポリマー(A)あるいは反応性モノマー(B)の分子中に存在する前記α位水素や硫黄原子に直接結合している水素を、水素引き抜き型光重合開始剤の励起三重項状態が効率良く引き抜く反応によりラジカル種が発生し、生成したラジカル種が架橋反応に寄与するためと考えられる。水素引き抜き型光重合開始剤は200nm〜300nmの波長領域に強い光吸収を示す化合物が多く、これらの光は感光性樹脂組成物層内部で急速に減衰するため、特に表面での効率が高いものと推定される。
【0039】
その他、感光性樹脂組成物には用途や目的に応じて重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。
感光性樹脂組成物には充填材として無機微粒子或いは無機有機複合微粒子を添加することができる。特に多孔質体であることが好ましい。多孔質体とは、粒子中に微小細孔を有する、あるいは微小な空隙を有する微粒子であり、レーザー彫刻において多量に発生する粘稠性の液状カスを吸収除去するための添加剤であり、版面のタック防止効果も有する。無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体は粘稠な液状カスの除去を最大の目的として添加するものであり、数平均粒子径、比表面積、平均細孔径、細孔容積、灼熱減量等がその性能に大きく影響する。
【0040】
無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体は数平均粒径が0.1〜100μmであることが好ましい。数平均粒径が0.1μm以上の場合、印刷原版をレーザーで彫刻する際に粉塵が舞うのを防止できるほか、液状感光性樹脂の混合を行う際に粘度の上昇を抑えることができる。他方、数平均粒径が100μm以下の場合、レーザー彫刻した際に良好なレリーフ画像が得られ、印刷物の精細さを保持できる。より好ましい平均粒子径の範囲は、0.5〜20μmであり、更に好ましい範囲は3〜10μmである。本発明の多孔質無機吸収剤の平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した値である。
無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体の比表面積の範囲は、10m/g以上1500m/g以下であることが好ましい。より好ましい範囲は、100m/g以上800m/g以下である。比表面積が10m/g以上である場合、レーザー彫刻時の液状カスの除去が充分となり、また、1500m/g以下であれば、感光性樹脂組成物の粘度上昇を抑え、また、チキソトロピー性を抑えることができる。本発明の比表面積は、−196℃における窒素の吸着等温線からBET法に基づいて求められる。
【0041】
本発明の無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体の平均細孔径は、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収量に極めて大きく影響を及ぼす。平均細孔径の好ましい範囲は、1nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上200nm以下、更に好ましくは2nm以上50nm以下である。平均細孔径が1nm以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収性が確保でき、1000nm以下である場合、粒子の比表面積が大きく液状カスの吸収量を十分に確保できる。平均細孔径が1nm未満の場合、液状カスの吸収量が少ない理由については明確になっていないが、液状カスが粘稠性であるため、ミクロ孔に入り難く吸収量が少ないためではないかと推定している。
本発明にいう平均細孔径は、窒素吸着法を用いて測定した値である。平均細孔径が2〜50nmのものは特にメソ孔と呼ばれ、メソ孔を有する多孔質粒子が液状カスを吸収する能力が極めて高い。本発明の細孔径分布は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
【0042】
無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体の細孔容積は、好ましくは0.1ml/g以上10ml/g以下、より好ましくは0.2ml/g以上5ml/g以下である。細孔容積が0.1m/g以上の場合、粘稠性液状カスの吸収量は十分であり、また10ml/g以下の場合、粒子の機械的強度を確保することができる。本発明において細孔容積の測定には、窒素吸着法を用いる。本発明の細孔容積は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
液状カス吸着量を評価する指標として、吸油量がある。これは、無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体100gが吸収する油の量で定義する。本発明で用いる無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体の吸油量の好ましい範囲は、10ml/100g以上2000ml/100g以下、より好ましくは50ml/100g以上1000ml/100g以下である。吸油量が10ml/100g以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの除去が十分であり、また2000ml/100g以下であれば、無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体の機械的強度を十分に確保できる。吸油量の測定は、JIS−K5101にて行った。
【0043】
本発明の無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体は、特に赤外線波長領域のレーザー光照射により変形あるいは溶融せずに多孔質性を保持することが好ましい。950℃において2時間処理した場合の灼熱減量が、好ましくは15wt%以下、より好ましくは10wt%以下である。
無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体の粒子形状は特に限定するものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、あるいは表面に突起のある粒子などを使用することができる。特に耐磨耗性の観点からは、球状粒子が好ましい。また、内部が空洞になっている粒子、シリカスポンジ等の均一な細孔径を有する球状顆粒体など使用することも可能である。特に限定するものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等を挙げることができる。更に、無機多孔質体表面に有機薄膜をコーティングした微粒子、有機系微粒子の表面に無機多孔質体微粒子を付着させた微粒子等の無機有機複合多孔質体微粒子を用いることもできる。また、層状粘土化合物などのように、層間に数nm〜100nmの空隙が存在するものについては、細孔径を定義できないため、本発明においては層間に存在する空隙の間隔を細孔径と定義する。
【0044】
更にこれらの細孔あるいは空隙にレーザー光の波長の光を吸収する顔料、染料等の有機色素を取り込ませることもできる。
球状粒子を規定する指標として、真球度を定義する。本発明で用いる真球度とは、粒子を投影した場合に投影図形内に完全に入る最大円の径Dの、投影図形が完全に入る最小円の径Dの比(D/D)で定義する。真球の場合、真球度は1.0となる。本発明で用いる好ましい球状粒子の真球度は、0.5以上1.0以下、より好ましくは0.7以上1.0以下である。0.5以上であれば、印刷版としての耐磨耗性が良好である。真球度1.0は、真球度の上限値である。球状粒子として、70%以上、より好ましくは90%以上の粒子が、真球度0.5以上であることが望ましい。真球度を測定する方法としては、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真を基に測定する方法を用いることができる。その際、少なくとも100個以上の粒子がモニター画面に入る倍率において写真撮影を行う。また、写真を基に前記DおよびDを測定するが、写真をスキャナー装置を用いて処理し、その後画像解析ソフトウエアーを用いてデータ処理する。
【0045】
本発明において、これらの無機多孔質体或いは無機有機複合多孔質体は1種類もしくは2種類以上のものを選択でき、選択したものを添加することによりレーザー彫刻時の液状カスの発生抑制、及び印刷版のタック防止等の改良が有効に行われる。
液状感光性樹脂をシート状、もしくは円筒状に成形する方法は、既存の樹脂の成形方法を用いることができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等の機械で樹脂をノズルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法等が例示できる。その際、樹脂の性能を落とさない範囲で加熱しながら成形を行なうことも可能である。また、必要に応じて圧延処理、研削処理などをほどこしても良い。通常はPETやニッケルなどの素材からなるバックフィルムといわれる下敷きの上に成形される場合が多いが、直接印刷機のシリンダー上に成形する場合などもありうる。バックフィルムの役割は、印刷原版の寸法安定性を確保することである。したがって、寸法安定性の高いものを選択することが好ましい。線熱膨張係数を用いて評価すると、好ましい材料の上限値は100ppm/℃以下、更に好ましくは70ppm/℃以下である。
【0046】
材料の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンチオエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂からなる液晶樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を積層して用いることもできる。例えば、厚み4.5μmの全芳香族ポリアミドフィルムの両面に厚み50μmのポリエチレンテレフタレートの層を積層したシート等でもよい。
【0047】
また、多孔質性のシート、例えば繊維を編んで形成したクロスや、不織布、フィルムに細孔を形成したもの等をバックフィルムとして用いることができる。バックフィルムとして多孔質性シートを用いる場合、感光性樹脂組成物を孔に含浸させた後に光硬化させることで、感光性樹脂硬化物層とバックフィルムとが一体化するために高い接着性を得ることができる。クロスあるいは不織布を形成する繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アルミナ・シリカ繊維、ホウ素繊維、高珪素繊維、チタン酸カリウム繊維、サファイア繊維などの無機系繊維、木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド等の合成繊維等を挙げることができる。また、バクテリアが生成するセルロースは、高結晶性ナノファイバーであり、薄くて寸法安定性の高い不織布を作製することのできる材料である。
【0048】
また、バックフィルムの線熱膨張係数を小さくする方法として、充填剤を添加する方法、全芳香族ポリアミド等のメッシュ状クロス、ガラスクロスなどに樹脂を含浸あるいは被覆する方法などを挙げることができる。充填剤としては、通常用いられる有機系微粒子、金属酸化物あるいは金属等の無機系微粒子、有機・無機複合微粒子など用いることができる。また、多孔質微粒子、内部に空洞を有する微粒子、マイクロカプセル粒子、低分子化合物が内部にインターカレーションする層状化合物粒子等を用いることもできる。特に、アルミナ、シリカ、酸化チタン、ゼオライト等の金属酸化物微粒子、ポリスチレン・ポリブタジエン共重合体等からなるラテックス微粒子、高結晶性セルロース等の天然物系の有機系微粒子等が有用である。
【0049】
バックフィルムの表面に物理的、化学的処理を行うことにより、感光性樹脂組成物層あるいは接着剤層との接着性を向上させることができる。物理的処理方法としては、サンドブラスト法、微粒子を含有した液体を噴射するウエットブラスト法、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、紫外線あるいは真空紫外線照射法などを挙げることができる。また、化学的処理方法としては、強酸・強アルカリ処理法、酸化剤処理法、カップリング剤処理法などが挙げられる。
【0050】
成形された感光性樹脂組成物層は光照射により架橋せしめ、感光性樹脂硬化層を形成する。また、成形しながら光照射により架橋させることもできる。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、殺菌灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。感光性樹脂組成物層に照射される光は、200nmから300nmの波長の光を有することが好ましい。特に水素引き抜き型光重合開始剤は、この波長領域に強い光吸収を有するものが多いため、200nmから300nmの波長の光を有する場合、感光性樹脂硬化物層表面の硬化性を充分に確保することができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
【0051】
特に版厚精度の高いシート状印刷原版あるいは円筒状印刷原版を作製できる方法について説明する。円筒状支持体上に20℃において液状の感光性樹脂組成物を塗布することにより感光性樹脂組成物層を形成し、その後、該感光性樹脂組成物層に光を照射することにより光硬化させ、感光性樹脂硬化物層を形成する。更に前記感光性樹脂硬化物層表面を研磨等の方法により平滑化し、版厚を調整する工程を経て、円筒状印刷原版を形成することができる。このようにして得られた円筒状印刷原版の少なくとも1箇所以上を切断し、円筒状支持体から引き剥がすことにより版厚精度の極めて高いシート状印刷原版を得ることができる。
【0052】
印刷原版の厚みは、印刷版として用いる場合には、好ましくは0.1〜7mmの範囲である。また、光硬化後の印刷原版の版厚精度が30μm以下になるように、必要により圧延処理、研削処理などをほどこしても良い。光硬化後の印刷原版の版厚精度が30μm以下であると、印刷を行った際、膜厚が均一となる。
印刷原版は、場合によっては、組成の異なる材料を複数積層していても構わない。例えば、最表面YAGレーザー、ファイバーレーザー或いは半導体レーザー等の近赤外線領域に発振波長を有するレーザーを用いて彫刻することが出来る層を形成し、その層の下に炭酸ガスレーザー等の赤外線レーザー或いは可視・紫外線レーザー等を用いてレーザー彫刻できる層を形成することも可能である。このような積層構造を形成することにより、極めて出力の高い炭酸ガスレーザーを用いて比較的粗いパターンを深く彫刻し、表面近傍の極めて精細なパターンをYAGレーザー、ファイバーレーザー等の近赤外線レーザーを用いて彫刻することが可能となる。極めて精細なパターンは比較的浅く彫刻できれば良いので、該近赤外線レーザーに感度のある層の厚さは、0.01mm以上0.5mm以下の範囲が好ましい。
【0053】
このように近赤外線レーザーに感度のある層と赤外線レーザーに感度のある層を積層することにより、近赤外線レーザーを用いて彫刻されたパターンの深さを正確に制御できる。これは、赤外線レーザーに感度のある層を、近赤外線レーザーでは彫刻することが困難である現象を利用しているからである。彫刻可能なパターンの精細さの違いは、レーザー装置固有の発振波長の違い、すなわち絞れるレーザービーム径の違いに起因する。このような方法でレーザー彫刻する場合、赤外線レーザーと近赤外線レーザーを搭載した別々のレーザー彫刻装置を用いて彫刻することも出来、また、赤外線レーザーと近赤外線レーザーの両方を搭載したレーザー彫刻装置を用いて行うことも可能である。
【0054】
本発明では、レーザー彫刻される層の下部にエラストマーからなるクッション層を形成することもできる。一般的にレーザー彫刻される層の厚さは、0.1〜数mmであるため、それ以外の下部層は組成の異なる材料であっても構わない。クッション層としては、ショアA硬度が10から70度のエラストマー層であることが好ましい。ショアA硬度が10度以上である場合、適度に変形するため、印刷品質を確保することができる。また、70度以下であれば、クッション層としての役割を果たすことができる。
前記クッション層は、特に限定せず、熱可塑性エラストマー、光硬化型エラストマー、熱硬化型エラストマー等ゴム弾性を有するものであれば何でも構わない。ナノメーターレベルの微細孔を有する多孔質エラストマー層であってもよい。特にシート状あるいは円筒状印刷原版への加工性の観点から、光で硬化する液状感光性樹脂組成物を用い、硬化後にエラストマー化する材料を用いることが簡便であり好ましい。
【0055】
クッション層に用いる熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン系熱可塑性エラストマーであるSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0056】
光硬化型エラストマーとしては、前記熱可塑性エラストマーに光重合性モノマー、可塑剤および光重合開始剤等を混合したもの、プラストマー樹脂に光重合性モノマー、光重合開始剤等を混合した液状組成物などを挙げることができる。本発明では、微細パターンの形成機能が重要な要素である感光性樹脂組成物の設計思想とは異なり、光を用いて微細なパターンの形成を行う必要がなく、全面露光により硬化させることにより、ある程度の機械的強度を確保できれば良いため、材料の選定において自由度が極めて高い。
【0057】
また、硫黄架橋型ゴム、有機過酸化物、フェノール樹脂初期縮合物、キノンジオキシム、金属酸化物、チオ尿素等の非硫黄架橋型ゴムを用いることもできる。
更に、テレケリック液状ゴムを反応する硬化剤を用いて3次元架橋させてエラストマー化したものを使用することもできる。
本発明において多層化する場合、前記バックフィルムの位置は、クッション層の下、すなわち印刷原版の最下部、あるいは、印刷原版の中央部のいずれの位置でも構わない。
【0058】
感光性樹脂硬化物層は無機微粒子、無機有機複合微粒子からなる1種類以上の微粒子を含有していることが好ましい。無機微粒子としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト等を挙げることができる。
無機有機複合微粒子は、無機微粒子の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の有機物等で被覆し表面改質を行い、より親水性或いは疎水性化した複合微粒子である。
【0059】
溶剤系インキ中の溶剤は、溶剤系インキ中のポリマー成分の溶解性や印刷工程中での乾燥性などにより決定されるが、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤、含窒素炭化水素系溶剤の中から選ばれる少なくとも1種類の溶剤成分を、溶剤全体量の20wt%以上100wt%以下含有していることが好ましい。前記溶剤成分の含有率が20wt%以上100wt%以下であれば、電子材料用途で用いられる芳香族化合物を十分に溶解あるいは分散することができる。
【0060】
レーザー彫刻印刷版において、使用するインキに含有される溶剤に耐性を有する感光性樹脂硬化物を設計することができる。本発明の電子回路あるいは光学部材を形成するためのインキにおいて、機能性化合物を溶解あるいは分散させる溶剤として、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル等のエステル系溶剤、テトラヒドロフラン、オキシラン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、メチルピロリドン、ピリジン等の含窒素炭化水素系溶剤等を挙げることができる。レーザー彫刻印刷版のインキに含有される溶剤に対する耐溶剤性は、溶剤浸漬膨潤テストにて評価し、前記溶剤への浸漬前後の膨潤率が10wt%以下である。好ましくは5wt%以下である。本発明における溶剤浸漬膨潤テストは、テストサンプルを室温において24時間、溶剤に浸漬して実施される。膨潤率が10wt%以下であれば、レーザー彫刻印刷版の寸法変化が小さく、微細なパターンの印刷や、薄膜の均一塗布も可能となるだけでなく、印刷版の寸法安定性を確保でき、印刷版の耐久性も良好となり繰返しの印刷工程に耐えることが出来る。
【0061】
耐溶剤性の高いレーザー彫刻印刷版用の材料を設計する指針として、用いるプレポリマー(A)を構成する主要部位と溶剤との溶解度パラメータの差が大きいものを選択することが好ましい。溶解度パラメータ(Solubility Parameter、以下SPと略す)とは、溶解度因子ともよばれ、物質の極性を示す指標であり、親和性の指標となる。溶解度パラメータについては、化学大辞典(東京化学同人社、1989年発行)にも記載がある。一般的に両者のSP値が近いほど互いに溶け合いやすく、また、一方が固体の時には濡れやすく、接着剤や溶剤の選択の一つの目安として使用されている。本発明においては、印刷版が使用するインキに含有される溶剤に耐性を有していることが必要であるので、用いるプレポリマー(A)を構成する主要部位と溶剤との溶解度パラメータの差が大きいものを選択することが好ましい。
【0062】
例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ケロシン、アマニ油、大豆油、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶剤に対しては、炭化水素系のポリブタジエン骨格、ポリイソプレン骨格等を有するプレポリマーを選択するよりも、不飽和ポリエステルやポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール等を用いた不飽和ポリウレタンなどが好ましい。また、メチルピロリドン、ピリジン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどの含窒素炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、γ−ブチロラクトンに対しては、ポリエステル、ポリウレタンを選択するよりも、ポリブタジエン等のポリアルキレン骨格を有するプレポリマーが好ましい。ブトキシエタノール、エトキシエタノールに対しては、不飽和ポリウレタン、ポリアルキレン骨格を有するポリマーが好ましい。クロルベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素に対しては、不飽和ポリエステルが好ましい。安息香酸エステル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤に対しては、不飽和ポリエステル、ポリカーボネートジオール等を骨格に持つ不飽和ポリウレタンが好ましい。
【0063】
印刷原版にレーザー彫刻法を用いて形成したパターンにおいて、最表面の寸法が200μm角であって高さ500μmの凸パターンを形成した場合に、該凸パターンの中央部とエッジ部における高低差が30μm以下であることが好ましい。
該凸パターンの中央部とエッジ部における高低差が30μm以下であれば、印刷を行った際、低い印圧で印刷することができ、印刷膜厚が均一となる。従来の感光性樹脂版で課題であったカッピング現象、すなわち光硬化収縮によりパターンの中央部の膜厚が薄くなる現象を、印刷原版をレーザー彫刻法によりパターン化することで解決できる。
また、レーザー彫刻印刷版の表面に改質層を形成させることにより、印刷版表面のタックの低減、インク濡れ性の向上を行うこともできる。改質層としては、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等の表面水酸基等と反応する化合物で処理した被膜、あるいは多孔質無機粒子を含有するポリマーフィルム等を挙げることができる。
【0064】
広く用いられているシランカップリング剤は、基材の表面水酸基との反応性の高い官能基を分子内に有する化合物であり、そのような官能基とは、例えばトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジモノクロロシリル基、モノエトキシシリル基、モノメトキシシリル基、モノクロロシリル基等を挙げることができる。また、これらの官能基は分子内に少なくとも1つ以上存在し、基材の表面水酸基と反応することにより基材表面に固定化されることが好ましい。更に本発明のシランカップリング剤を構成する化合物は、分子内に反応性官能基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、ビニル基、パーフルオロアルキル基、及びメルカプト基等から選ばれた少なくとも1個の官能基を有するもの、あるいは長鎖アルキル基等を有するものを用いることができる。
【0065】
また、チタンカップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジ−トリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(オクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルスルフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等の化合物を挙げることができる。
【0066】
表面に固定化したカップリング剤分子が特に重合性反応基を有する場合、表面への固定化後、光、熱、あるいは電子線を照射し架橋させることにより、より強固な被膜とすることもできる。
本発明では、上記のカップリング剤に、必要に応じ、水−アルコール、或いは酢酸水−アルコール混合液で希釈して、調製する。処理液中のカップリング剤の濃度は、0.05〜10.0wt%が好ましい。
【0067】
本発明におけるカップリング剤処理法について説明する。前記のカップリング剤を含む処理液を、印刷版表面に塗布して用いられる。カップリング剤処理液を塗布する方法に特に限定はなく、例えば浸漬法、スプレー法、ロールコート法、或いは刷毛塗り法等を適応することが出来る。また、被覆処理温度、被覆処理時間等についても特に限定はないが、5〜60℃であることが好ましく、処理時間は0.1〜60秒であることが好ましい。更に印刷版表面上の処理液層の乾燥を加熱下に行うこと等が好ましく、加熱温度としては50〜150℃が好ましい。
カップリング剤で印刷版表面を処理する前に、キセノンエキシマランプ等の波長が200nm以下の真空紫外線領域の光を照射する方法、あるいはプラズマ等の高エネルギー雰囲気に曝すことにより、印刷版表面に水酸基を発生させ高密度にカップリング剤を固定化することもできる。
また、無機多孔質体粒子あるいは有機無機複合多孔質体微粒子を含有する層が印刷版表面に露出している場合、プラズマ等の高エネルギー雰囲気下で処理し、表面の有機物層をエッチング除去することにより印刷版表面に微小な凹凸を形成させることができる。この処理により印刷版表面のタックを低減させること、および表面に露出した無機多孔質体粒子がインクを吸収しやすくすることによりインク濡れ性が向上する効果も期待できる。
【0068】
レーザー彫刻においては、形成したい画像をデジタル型のデータとしてコンピューターを利用してレーザー装置を操作し、印刷原版上にレリーフ画像を作成する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、印刷原版が吸収を有する波長を含むものであればどのようなものを用いてもよいが、彫刻を高速度で行なうためには出力の高いものが望ましく、炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線あるいは赤外線放出固体レーザーが好ましいものの一つである。また、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3あるいは第4高調波へ波長変換したYAGレーザー、銅蒸気レーザー等は、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に適する。また、レーザーは連続照射でも、パルス照射でも良い。一般には樹脂は炭酸ガスレーザーの10μm近傍に吸収を持つため、特にレーザー光の吸収を助けるような成分の添加は必須ではないが、YAGレーザーは1.06μm近傍の波長であり、この波長の吸収を有するものはあまり無い。その場合、これの吸収を助ける成分である、染料、顔料の添加が好ましい。
【0069】
このような染料の例としては、ポリ(置換)フタロシアニン化合物および金属含有フタロシアニン化合物、;シアニン化合物;スクアリリウム染料;カルコゲノピリロアリリデン染料;クロロニウム染料;金属チオレート染料;ビス(カルコゲノピリロ)ポリメチン染料;オキシインドリジン染料;ビス(アミノアリール)ポリメチン染料;メロシアニン染料;及びキノイド染料などが挙げられる。顔料の例としてはカーボンブラック、グラファイト、亜クロム酸銅、酸化クロム、コバルトクロームアルミネート、酸化鉄等の暗色の無機顔料や鉄、アルミニウム、銅、亜鉛のような金属粉およびこれら金属にSi、Mg、P、Co、Ni、Y等をドープしたもの等が挙げられる。これら染料、顔料は単独で使用しても良いし、複数を組み合わせて使用しても良いし、複層構造にするなどのあらゆる形態で組み合わせても良い。
【0070】
レーザーによる彫刻は酸素含有ガス下、一般には空気存在下もしくは気流下に実施するが、炭酸ガス、窒素ガス下でも実施できる。彫刻終了後、印刷版面にわずかに発生する粉末状もしくは液状の物質は適当な方法、例えば溶剤や界面活性剤の入った水等で洗いとる方法、高圧スプレー等により水系洗浄剤を照射する方法、高圧スチームを照射する方法などを用いて除去しても良い。
印刷原版にレーザー光を照射し凹パターンを形成する際に、該印刷原版表面を加熱しレーザー彫刻を補助することもできる。印刷原版の加熱方法としては、レーザー彫刻機のシート状あるいは円筒状定盤を、ヒーターを用いて加熱する方法、赤外線ヒーターを用いて該印刷原版表面を直接加熱する方法を挙げることができる。この加熱工程により、レーザー彫刻性を向上させることができる。加熱の程度は、好ましくは50℃以上200℃以下の範囲、より好ましくは80℃以上200℃以下の範囲、更に好ましくは100℃以上200℃以下の範囲である。
【0071】
レーザー彫刻法によりパターンを形成しレーザー彫刻印刷版を作製した後、得られたレーザー彫刻印刷版の表面に紫外線を照射して、表面のべたつきを除去する工程を経ても構わない。紫外線を照射する雰囲気は、大気中、不活性ガス雰囲気下、水中などを挙げることができる。
印刷版は、電子部品作成に用いられる絶縁体、抵抗体、導電体ペーストのパターニング用レリーフ画像、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線吸収フィルター等の機能性材料のパターン形成、液晶ディスプレイあるいは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止剤層の塗膜・パターン形成の他、印刷版用レリーフ画像、スタンプ・印章、エンボス加工用のデザインロール、窯業製品の型材用レリーフ画像、広告・表示板などのディスプレイ用レリーフ画像、各種成型品の原型・母型など各種の用途に応用し利用できる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
(1)数平均分子量の測定
プレポリマー(A)の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)を用いて、分子量既知のポリスチレンで換算して求めた。高速GPC装置(日本国、東ソー社製の商品名HLC−8020)とポリスチレン充填カラム(商標、TSKgel GMHXL、日本国、東ソー社製)を用い,テトラヒドロフラン(THF)で展開して測定した。カラムの温度は40℃に設定した。GPC装置に注入する試料としては、樹脂濃度が1wt%のTHF溶液を調製し、注入量10μlとした。また、検出器としては、紫外吸収検出器を使用した。本発明の実施例或いは比較例で用いるプレポリマー(A)は、GPC法で求めた多分散度(Mw/Mn)が1.1より大きいものであったため、GPC法で求めた数平均分子量Mnを採用した。
【0073】
(2)レーザー彫刻
レーザー彫刻は炭酸ガスレーザー彫刻機(商標:ZED−mini−1000、英国、ZED社製、米国、コヒーレント社製、出力250W炭酸ガスレーザー搭載)を用いて行った。彫刻は、200μm角のパターン、100μm幅の凸線による線画、および100μm幅の白抜き線を含むパターンを作製して実施した。彫刻深さは0.50mmとした。
【0074】
[実施例1]
(プレポリマーの製造)
温度計、攪拌機を備えた1Lのセパラブルフラスコに、数平均分子量2500のポリオキシエチレン(EO)−ポリオキシプロピレン(PO)ブロック共重合体ジオール(EO/POモル比1/4)51重量部、数平均分子量3000のポリ(3−メチルー1,5−ペンタンジオールアジペート)33.9重量部、触媒としてジブチルチンスズジラウレート0.003重量部、2、6−ジーtert−ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部を入れ、攪拌混合した。系内の水分量を400ppmに調製した。次に、トリレンジイソシアネート6重量部を外温40℃で攪拌しながら滴下添加し、その後徐々に外温を上昇させ80℃において5時間反応させた。さらに、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート4重量部を添加し、2時間反応させることによって不飽和ポリウレタン(a)を得た。このもののGPCによるポリスチレン換算数平均分子量は22500であった。
【0075】
(感光性樹脂組成物の調製)
不飽和ポリウレタン(a)65重量部に対し、ジエチレングリコールー2−エチルヘキシルエーテルアクリレート13重量部、ジエチレングリコールモノブチルエーテルモノメタクリレート20重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート2重量部、光重合開始剤2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン0.6重量部、ベンゾフェノン1重量部、無機多孔質体C−1504(富士シシリア化学株式会社製、多孔質性微粉末シリカ、商標「サイロスフェアーC−1504」、数平均粒子径4.5μm、比表面積520m/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5wt%、吸油量290ml/100g)、重合禁止剤2,6−ジーt−ブチルー4−メチルフェノール0.05重量部を混合し、感光性樹脂組成物Aを得た。
【0076】
(印刷原版の作製)
作製した感光性樹脂組成物AをPETフイルム上に厚さ2.8mmのシート状に成形し、メタルハライドランプ(アイ・グラフィックス社製、商標「M056−L21」)をスライドさせながら、開口部(開口部寸法:40mm×310mm)から出てくる光を,大気中で感光性樹脂層が露出している面から照射した。照射したエネルギー量は、4000mJ/cm(UV−35−APRフィルターで測定した照度を時間積分した値)であった。照射面でのランプ照度は、UVメーター(オーク製作所社製、商標「UV−M02」)を用いて測定した。UV−35−APRフィルター(オーク製作所社製、商標)を使用して測定したランプ照度は、100mW/cm、UV−25−フィルター(オーク製作所社製、商標)を使用して測定したランプ照度は、14mW/cmであった。
得られた印刷原版アの厚みは均一であり、その版厚精度は2.8mm±10μmであった。尚、厚さ測定は、1μmまで測定可能な、商標「デジマチックインジケーター ID−C112」(ミツトヨ社製)を用いて3cm間隔で測定を行った。
【0077】
(レーザー彫刻)
得られた印刷原版アに前記のレーザー彫刻条件にてパターンを彫刻した。その結果、200μm角のパターンの中央部と端部における高低差は±5μmである印刷版1を得た。尚、測定は商標「システム電動生物顕微鏡 BX−61」(オリンパス光学工業社製)で行った。
【0078】
(印刷評価)
レーザー彫刻により作製された印刷版1を用いて、印刷評価を実施した。印刷には卓上型校正機(英国、KR社製、商標「Flexiploofer100」)を用い,版胴上に前記印刷版1を、両面テープを用いて貼り付け、表面が易接着性処理されたポリエチレンテレフタレートシート(厚み100μm)の易接着処理面に、銀の超微粒子(平均粒子径7nm)を分散させた導電性インキ、商標「銀ナノペースト」(ハリマ化成社製、溶剤 テトラデカン、溶剤含有率30wt%)を使用して、焼成後のインキの膜厚が1μmとなるように印刷、乾燥、焼成(温度150℃)を行った結果、200μm角のパターン、100μm幅の凸線、および100μm幅の白抜き線共に焼成後の膜厚は1μmで均一であった。
【0079】
(膨潤率の測定)
試験サンプルは、前記感光性樹脂組成物Aを10mm×50mm、厚さ1mmに塗布し、旭化成ケミカルズ社製、フレキソ製販機、商標「ALF製版機」を用いて1800mJ/cmのエネルギーを照射することにより硬化させ調製した。
作製した試験サンプルを、上記「銀ナノペースト」の希釈溶剤であるテトラデカン中に、20℃、24時間浸漬後、表面に付着した液滴を拭き取り、重量増加量を測定することにより膨潤率を求めた。その結果、膨潤率は3.0wt%であった。
【0080】
[実施例2]
(プレポリマーの製造)
温度計、攪拌機を備えた2Lのセパラブルフラスコにジエチレングリコール212重量部、プロピレングリコール152重量部、1,4―ブタンジオール90重量部及びアジピン酸511重量部、フマル酸87重量部、テトラヒドロ無水フタル酸127重量部、p−メトキシフェノール1.2重量部を窒素雰囲気中で常圧、230℃で4時間反応させ、次いで13332Pa減圧下でさらに4時間反応させ、酸価23の不飽和ポリエステルを得た。
この不飽和ポリエステル560重量部、ヘキサメチレンジイソシアネート33.6重量部及び2、6−ジーtert−ブチル−4−メチルフェノール0.6重量部を80℃で4時間混合・反応させ、次いでこの反応物にヒドロキシプロピルメタクリレート43.2重量部及びジブチルチンスズジラウレート0.2重量部を添加し、さらに80℃で2時間反応させることによって不飽和ポリエステルウレタン(b)を得た。このもののGPCによるポリスチレン換算数平均分子量は7000であった。
【0081】
(感光性樹脂組成物の調製)
不飽和ポリエステルウレタン(b)66.8重量部に対し、ジエチレングリコールジメタクリレート16.63重量部、ジアセトンアクリルアミド8.28重量部、ジエチレングリコールジメタクリレート8.28重量部、光重合開始剤2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン0.6重量部、ベンゾフェノン1重量部、無機多孔質体C−1504(富士シシリア化学株式会社製、多孔質性微粉末シリカ、商標「サイロスフェアーC−1504」、数平均粒子径4.5μm、比表面積520m/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5wt%、吸油量290ml/100g)5重量部、重合禁止剤2,6−ジーt−ブチルー4−メチルフェノール0.05重量部を混合し、感光性樹脂組成物Bを得た。
【0082】
(印刷原版の作製)
感光性樹脂組成物Bを用いる以外は、実施例1と同様にして印刷原版イを作製した。
得られた印刷原版イの厚みは均一であり、その版厚精度は2.8mm±10μmであった。尚、測定は実施例1に記載の方法で行った。
【0083】
(レーザー彫刻)
得られた印刷原版イに前記のレーザー彫刻条件にてパターンを彫刻した。その結果、200μm角のパターンの中央部と端部における高低差は±5μmである印刷版2を得た。尚、測定は商標「システム電動生物顕微鏡 BX−61」(オリンパス光学工業社製)で行った。
【0084】
(印刷評価)
レーザー彫刻により作製された印刷版2を用いて、有機高EL発光層の印刷評価を実施した。印刷には卓上型校正機(英国、KR社製、商標「Flexiploofer100」)を用い,版胴上に前記印刷版2を、両面テープを用いて貼り付けた。非印刷体としては、厚さ0.7mmのガラス基板(ソーダライムガラス)の表面に、真空蒸着法によって厚さ0.1μmのITO膜(陽極)を形成後、UV−オゾン洗浄を施し、有機物等の付着物を除去した後、当該機材のITO膜側の表面にスピンコート法により正孔輸送材料として、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有するコーティング液(ポリエチレンジオキシチオフェンーポリスチレンスルフォネート(PEDT/PSS)、バイエル社製、商品名「Baytron P」)を塗布し、70〜80℃で乾燥させることにより正孔輸送層を作製した。有機高分子発光体にはポリ(9,9−ジアルキルフルオレン(PDAF))を用い、固形分濃度が2wt%となるように溶剤(キシレン)で中に溶解させて、発光層形成用のインキとして使用し、印刷を行った。その結果、上記正孔輸送層上に印刷されたインキの厚み(乾燥前)は6μmであり、80℃で30分乾燥後の発光層の厚みは0.12μmで均一であった。
【0085】
(膨潤率の測定)
試験サンプルは、前記感光性樹脂組成物Bを10mm×50mm、厚さ1mmに塗布し、旭化成ケミカルズ社製、フレキソ製販機、商標「ALF製版機」を用いて1800mJ/cmのエネルギーを照射することにより硬化させ調製した。
作製した試験サンプルを、上記発光層形成用のインキの溶剤であるキシレン中に、20℃、24時間浸漬後、表面に付着した液滴を拭き取り、重量増加量を測定することにより膨潤率を求めた。その結果、膨潤率は1.1wt%であった。
【0086】
[実施例3]
(プレポリマーの製造)
温度計、攪拌機を備えた1Lのセパラブルフラスコに、旭化成ケミカルズ株式会社製ポリカーボネートジオールである、商標「PCDL L4672」(数平均分子量1990、OH価56.4)100重量部とトリレンジイソシアネート6.9重量部を加え80℃に加温下3時間反応させたのち、2―メタクリロイルオキシイソシアネート3.3重量部を添加し、更に3時間反応させて不飽和ポリウレタン(c)を得た。このもののGPCによるポリスチレン換算数平均分子量は約10000であった。
【0087】
(感光性樹脂組成物の調製)
不飽和ポリウレタン(c)100重量部に対し、ベンジルメタクリレート25重量部、シクロメタクリレート19重量部、ブトキシジエチレングリコールメタクリレート6重量部、光重合開始剤2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン0.6重量部、ベンゾフェノン1重量部、無機多孔質体C−1504(富士シシリア化学株式会社製、多孔質性微粉末シリカ、商標「サイロスフェアーC−1504」、数平均粒子径4.5μm、比表面積520m/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5wt%、吸油量290ml/100g)5重量部、重合禁止剤2,6−ジーt−ブチルー4−メチルフェノール0.05重量部を混合し、感光性樹脂組成物Cを得た。
【0088】
(印刷原版の作製)
感光性樹脂組成物Cを用いる以外は、実施例1と同様にして印刷原版ウを作製した。
得られた印刷原版ウの厚みは均一であり、その版厚精度は2.8mm±10μmであった。尚、測定は実施例1に記載の方法で行った。
【0089】
(レーザー彫刻)
得られた印刷原版ウに前記のレーザー彫刻条件にてパターンを彫刻した。その結果、200μm角のパターンの中央部と端部における高低差は±7μmである印刷版3を得た。尚、測定は商標「システム電動生物顕微鏡 BX−61」(オリンパス光学工業社製)で行った。
【0090】
(印刷評価)
印刷版3を用いる以外は、実施例1と同様にして印刷評価を行った。その結果、200μm角のパターン、100μm幅の凸線、および100μm幅の白抜き線共に焼成後の膜厚は1μmで均一であった。
【0091】
(膨潤率の測定)
試験サンプルは、前記感光性樹脂組成物Cを10mm×50mm、厚さ1mmに塗布し、旭化成ケミカルズ社製、フレキソ製販機、商標「ALF製版機」を用いて1800mJ/cmのエネルギーを照射することにより硬化させ調製した。
作製した試験サンプルを、上記「銀ナノペースト」の希釈溶剤であるテトラデカン中に、20℃、24時間浸漬後、表面に付着した液滴を拭き取り、重量増加量を測定することにより膨潤率を求めた。その結果、膨潤率は0.9wt%であった。
【0092】
[比較例1]
(印刷原版の作製)
実施例1と同じ感光性樹脂組成物Aを用い、旭化成ケミカルズ社製、フレキソ版用製版機、商標「AWF製版機」のガラス面に、厚さ180μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に厚さ数μmの接着剤が塗布されている感光性樹脂版用ベースフィルムを接着剤層の塗布されている面が上になるように置き、真空密着させた。このベースフィルム上に、前記感光性樹脂組成物Aを厚み2.62mmに旭化成社製キャリッジを用い、かつ厚さ100μmの透明フィルムを用いて成形展着した。前記キャリッジとは、ラミネートローラー、バケット(樹脂溜め)、フィルムおよびガイド等の付いた走行式の成形展着装置であり、ガラス面に沿ったスペーサー(版の厚みを規制するため上下動するレール)上を走りながら感光性樹脂組成物を流延し、フィルムを送り込みながら所定の厚さに感光性樹脂組成物層を展着(コート)する装置である。
次に、得られた積層体の上部から前記製版機に備え付けられた露光装置により紫外線を照射し、感光性樹脂組成物Aを硬化させた。露光終了後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、印刷原版エを作製した。印刷原版エの厚みを測定したところ、その版厚精度は2.8mm±40μmで不均一であった。尚、測定は実施例1に記載の方法で行った。
【0093】
(レーザー彫刻)
得られた印刷原版エに前記のレーザー彫刻条件にてパターンを彫刻した。その結果、200μm角のパターンの中央部と端部における高低差は±20μmである印刷版4を得た。尚、測定は商標「システム電動生物顕微鏡 BX−61」(オリンパス光学工業社製)で行った。
【0094】
(印刷評価)
印刷版4を用いる以外は、実施例1と同様にして印刷評価を行った。その結果、200μm角のパターン、100μm幅の凸線および100μm幅の白抜き線共に焼成後の膜厚は約1μmであるものの、不均一でムラが目立つものであった。
【0095】
[比較例2]
(印刷原版の作製)
実施例1と同じ感光性樹脂組成物Aを用い、旭化成ケミカルズ社製、フレキソ版用製版機、商標「AWF製版機」のガラス面に、厚さ180μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に厚さ数μmの接着剤が塗布されているベースフィルムを接着剤層の塗布されている面が上になるように置き、真空密着させた。このベースフィルム上に、前記感光性樹脂組成物Aを厚み2.62mmに旭化成社製キャリッジを用い、かつ凸パターン形成用のネガフィルムを用いて成形展着した。前記キャリッジとは、ラミネートローラー、バケット(樹脂溜め)、ネガフィルムおよびガイド等の付いた走行式の成形展着装置であり、ガラス面に沿ったスペーサー(版の厚みを規制するため上下動するレール)上を走りながら感光性樹脂組成物を流延し、ネガフィルムを送り込みながら所定の厚さに感光性樹脂組成物層を展着(コート)する装置である。前記ネガフィルムには、200μm角のパターン、100μm幅の凸線による線画、および100μm幅の白抜き線を含むパターンが作製されている。
【0096】
次に、得られた積層体の上部から前記製版機に備え付けられた露光装置により紫外線を照射し、感光性樹脂組成物Aを硬化させた。露光終了後、ネガフィルムを剥離し、紫外線の照射されていない未硬化部分をへらで掻き落とし回収し、次いで弱アルカリ洗剤(旭化成社製、商標名「W−10」)で該未硬化部を完全に除去した。更に、水中において紫外線を照射し、印刷原版を完全に硬化させ、その後、熱風式乾燥機を用いて水分を除去することにより、印刷版5を得た。すなわち、版厚2.8mm、凸パターンの高さ0.5mmを有する印刷版5を得た。この印刷版5の200μm角のパターンの中央部と端部における高低差は±25μmであった。尚、測定は商標「システム電動生物顕微鏡 BX−61」(オリンパス光学工業社製)で行った
【0097】
(印刷評価)
印刷版5を用いる以外は、実施例1と同様にして印刷評価を行った。その結果、200μm角のパターン、100μm幅の凸線および100μm幅の白抜き線共に焼成後の膜厚は約1μmであるものの、不均一でパターンの端部が厚く、中央部が薄いものであった。
【0098】
[比較例3]
(印刷評価)
印刷版1を用いる以外は、実施例2と同様にして印刷評価を行った。その結果、200μm角のパターン、100μm幅の凸線および100μm幅の白抜き線共に、印刷部数を重ねるたびにパターン端部のキレが悪くなり、耐久性が悪いものであった。
【0099】
(膨潤率の測定)
試験サンプルは、前記感光性樹脂組成物Aを10mm×50mm、厚さ1mmに塗布し、旭化成ケミカルズ社製、フレキソ製販機、商標「ALF製版機」を用いて1800mJ/cmのエネルギーを照射することにより硬化させ調製した。
作製した試験サンプルを、上記発光層形成用のインキの溶剤であるキシレン中に、20℃、24時間浸漬後、表面に付着した液滴を拭き取り、重量増加量を測定することにより膨潤率を求めた。その結果、膨潤率は209wt%であった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、高精細かつ膜厚均一のパターンを有する電子回路あるいは光学部材の製造に関する分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シート状あるいは円筒状に成形された感光性樹脂組成物層に光を照射し感光性樹脂硬化物層を形成し印刷原版とする工程、(b)該印刷原版にレーザー光を照射し表面に凸パターンが該フレキソ印刷版あるいは凹パターンが該グラビア印刷版を作製する工程、あるいは感光性樹脂硬化物層を貫通した孔状パターンが形成されたスクリーン印刷版を作製する工程、(c)得られたフレキソ印刷版、グラビア印刷版、スクリーン印刷版の中から選択される少なくとも1種類の印刷版を用いて、絶縁体、半導体、導体から選ばれる少なくとも1種類を含有するインキを被印刷基材上に転写する印刷工程、(d)形成されたインキ中の液状媒体を乾燥除去するかあるいはインキに光を照射し硬化させ固定化し、厚さ1nm以上10μm以下の薄膜を形成する工程を含み、前記印刷原版の版厚精度が30μm以下であり、かつ印刷工程で使用するインキ中の液状媒体に対する耐性を浸漬膨潤テストで評価した場合に、前記液状の媒体への浸漬前後の重量変化率が10wt%以下であることを特徴とする電子回路あるいは光学部材の製造方法。
【請求項2】
インキ中の液状媒体が、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ハロゲン系溶剤、含窒素炭化水素系溶剤の中から選ばれる少なくとも1種類の溶剤成分を、溶剤全体量の20wt%以上含有していることを特徴とする請求項1に記載の電子回路あるいは光学部材の製造方法。
【請求項3】
絶縁体、半導体、導体から選ばれる少なくとも1種類を含有する薄膜を、フレキソ印刷法を用いて形成するための印刷版であって、請求項1に記載の凸パターンが、最表面寸法200μm角、高さ500μmの場合に、該凸パターンの中央部とエッジ部における高低差が30μm以下であることを特徴とする電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版。
【請求項4】
円筒状支持体あるいはシート状支持体と、印刷版との間に、ショアA硬度が10度から70度のクッション層を有することを特徴とする請求項3に記載の電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版。
【請求項5】
感光性樹脂硬化物が無機微粒子、無機有機複合微粒子から選択される少なくとも1種類の微粒子を含有することを特徴とする請求項3、4のいずれかに記載の電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版。
【請求項6】
20℃において液状の感光性樹脂組成物を円筒状支持体上に塗布する工程、塗布された液状感光性樹脂組成物を光硬化させ感光性樹脂硬化物層を形成する工程、得られた感光性樹脂硬化物層表面を、回転させながら平滑化する表面調整工程、さらに前記感光性樹脂硬化物層にレーザー光を照射し、レーザー光が照射された部分の樹脂が除去されることによりパターンが形成される工程を含むことを特徴とする電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版の製造方法。
【請求項7】
液状感光性樹脂組成物を塗布する工程の前に、円筒状支持体上にシート状の支持体を巻きつけ固定する工程を含み、該シート状支持体上に液状感光性樹脂組成物を塗布し、表面調整工程の後に印刷原版を切断し、円筒状支持体から取り外す工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の電子回路あるいは光学部材印刷用レーザー彫刻印刷版の製造方法。

【公開番号】特開2006−69120(P2006−69120A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257441(P2004−257441)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】