説明

電子回路モジュール部品及び電子回路モジュール部品の製造方法

【課題】電子回路モジュール部品が有する電子部品の端子電極と回路基板の端子電極とを接合する接合金属の耐熱性を向上させること。
【解決手段】電子部品2と、電子部品2が搭載される回路基板3と、電子部品2の端子電極2Tと回路基板3の端子電極3Tとの間には、Pbフリーはんだが溶融した後硬化して得られた接合金属10が介在して両者を接合する。接合金属10は、Ni−Sn合金を主成分とする主相に、Ni−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相とSnを主成分とするSn相とが分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pbを含まないPbフリーはんだ、このPbフリーはんだを用いて製造される電子回路モジュール部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路モジュール部品は、複数の電子部品をはんだによって基板に実装して、ひとまとまりの機能を持った電子部品としたものである。このような電子部品を電子機器の基板に実装する場合、電子回路モジュール部品の端子電極と電子機器の基板の端子電極とをはんだで接合する。従来は、電子部品及び電子回路モジュール部品の接合にSnPb系材料のはんだが使用されてきたが、環境問題を背景としてPbフリー化が進み、自動車関連や特殊な場合を除いてPbフリーはんだが使用されている。
【0003】
はんだを用いて電子回路モジュール部品を基板に実装する際に、はんだを溶融させるためにリフローが必要になる。このリフローの際に、電子回路モジュール部品内の電子部品と基板とを接合しているはんだが溶融して飛散したり、はんだが移動したりすることがある。これを回避するため、電子回路モジュール部品を基板に実装する際のリフロー温度で溶融しないはんだを用いて電子回路モジュール部品内の電子部品と基板とを接合する必要がある。例えば、特許文献1には、Agを10〜25質量%、Cuを5〜10質量%、残部はSn及び不可避的不純物からなるはんだ材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−268569号公報(0013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のはんだは、強度及び耐熱性に優れるため、当該はんだを用いることにより端子電極同士の接合強度が向上するとともに、接合の耐熱性も向上する。しかし、近年の電子回路モジュール部品は、電子部品の端子電極と基板の端子電極との接合に、さらなる耐熱性が求められている。本発明は、電子回路モジュール部品が有する電子部品の端子電極と回路基板の端子電極とを接合する接合金属の耐熱性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明者らはPbフリーはんだについて鋭意研究を重ねた結果、Snを主成分とする第1金属材料と、Ni−Fe合金を主成分とする第2金属材料とを組み合わせてPbフリーはんだとすることにより、端子電極同士の接合強度及び耐熱性が向上することを見出した。そして、前記Pbフリーはんだが最初に溶融した後、硬化して得られた金属を、所定の温度で所定の時間保持することで、前記金属中におけるNi−Sn相が増加するとともにSn相が減少して、耐熱性及び接合強度が向上することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、電子部品と、当該電子部品が搭載される回路基板と、前記電子部品の端子電極と前記回路基板の端子電極との間に介在し、かつNi−Sn合金を主成分とする主相に、Ni−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相とSnを主成分とするSn相とが分散している接合金属と、を含むことを特徴とする電子回路モジュール部品である。
【0008】
電子回路モジュール部品は、電子部品の端子電極と回路基板の端子電極とを、Ni−Sn合金を主成分とする主相に、Ni−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相とSnを主成分とするSn相とが分散した組織を有する接合金属で接合する。このようなNi−Sn合金を主成分とする主相を有する組織により、接合金属の耐熱性が向上する。その結果、再度のリフローによって接合金属が加熱されても、電子回路モジュール部品内の接合金属の溶融が抑制される。
【0009】
本発明の望ましい態様として、前記接合金属の全体積に対して、前記主相は、50体積%以上90体積%以下であることが好ましい。主相の割合がこのような範囲であれば、接合金属の耐熱性が十分に向上する。
【0010】
前記主相の代表寸法は1μm以上3μm以下であることが好ましい。主相の代表寸法がこの範囲であれば、主相が緻密になるので、接合金属の耐熱性はより向上する。
【0011】
前記接合金属の全体積に対して、前記Sn相は、40体積%以下であることが好ましい。Sn相の割合がこのような範囲であれば、接合金属の耐熱性は十分に向上する。
【0012】
前記Sn相の代表寸法は1μm以上5μm以下であることが好ましい。Sn相の代表寸法このような範囲であれば、接合金属の耐熱性を十分に確保できる。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、Snを含む第1金属粒子及びNi−Fe合金を主成分とする第2金属粒子を含むPbフリーはんだを、電子部品の端子電極と前記電子部品が搭載される回路基板の端子電極との間に設ける手順と、前記Pbフリーはんだを溶融させる手順と、前記Pbフリーはんだが硬化した状態で、少なくとも当該Pbフリーはんだを所定の温度で所定の時間保持する手順と、を含むことを特徴とする電子回路モジュール部品の製造方法である。
【0014】
このように、Snを含む第1金属粒子及びNi−Fe合金を主成分とする第2金属粒子を含むPbフリーはんだで電子部品の端子電極と回路基板の端子電極と接合する。そして、前記Pbフリーはんだが溶融した後硬化して得られた接合金属を所定温度で所定時間保持する熱処理を施すことで、Ni−Sn相を増加させ、かつSn相を減少させる。このようにして、電子部品の端子電極と回路基板の端子電極との間に介在する接合金属の組織を、Ni−Sn合金を主成分とする主相に、Ni−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相とSnを主成分とするSn相とが分散した組織とする。その結果、接合金属の耐熱性が向上するので、再度のリフローによって接合金属が加熱されても、電子回路モジュール部品内の接合金属の溶融が抑制される。
【0015】
本発明の望ましい態様として、前記Pbフリーはんだを所定の温度で所定の時間保持する手順においては、前記Pbフリーはんだの融点以上、かつ当該融点に20℃を加算した温度以下で、10分以上30分以下保持することが好ましい。このようにすることで、接合金属中のSn相を低減させるとともにNi−Sn相を増加させて、接合金属の耐熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、電子回路モジュール部品が有する電子部品の端子電極と回路基板の端子電極とを接合する接合金属の耐熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1−1】図1−1は、電子回路モジュール部品の断面図である。
【図1−2】図1−2は、電子部品と基板との接続部を示す拡大図である。
【図2】図2は、電子回路モジュール部品を電子機器等の基板に取り付けた状態を示す側面図である。
【図3】図3は、本実施形態に係るPbフリーはんだが最初に溶融した後、硬化した状態の組織を示す模式図である。
【図4】図4は、本実施形態に係るPbフリーはんだの概念図である。
【図5】図5は、本実施形態の変形例に係るPbフリーはんだの概念図である。
【図6】図6は、本実施形態の変形例に係るPbフリーはんだが有する第2金属粒子の拡大図である。
【図7】図7は、本実施形態に係る電子回路モジュール部品の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、リフロー時における温度の時間変化の一例を示す図である。
【図9−1】図9−1は、本実施形態に係る電子回路モジュール部品の製造方法における熱処理を説明するための図である。
【図9−2】図9−2は、熱処理の他の例を説明するための図である。
【図10】図10は、接合金属の吸熱量と保持時間との関係を示す図である。
【図11】図11は、接合金属の吸熱量と保持時間との関係を示す図である。
【図12】図12は、Pbフリーはんだが溶融して硬化して得られた接合金属の接合強度を評価する際の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。また、下記の実施形態で開示された構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
図1−1は、電子回路モジュール部品の断面図である。図1−2は、電子部品と基板との接続部を示す拡大図である。図2は、電子回路モジュール部品を電子機器等の基板に取り付けた状態を示す側面図である。図1−1に示すように、電子回路モジュール部品1は、複数の電子部品2を回路基板3に実装して、ひとまとまりの機能を持つ電子部品としたものである。電子部品2は、回路基板3の表面に実装されていてもよいし、回路基板3の内部に実装されていてもよい。本実施形態において、電子回路モジュール部品1が有する電子部品2としては、例えば、コイルやコンデンサ、あるいは抵抗等の受動素子があるが、ダイオードやトランジスタ等の能動素子やIC(Integral Circuit)等も電子部品2として回路基板3の表面や回路基板3の内部に実装されてもよい。また、電子部品2は、これらに限定されるものではない。
【0020】
図1−1に示すように、電子回路モジュール部品1は、電子部品2が実装される回路基板3と、電子部品2を覆う絶縁樹脂4と、絶縁樹脂4の表面を被覆するシールド層5と、を含む。なお、電子回路モジュール部品1は、シールド層5を有していなくてもよい。図1−2に示すように、電子部品2の端子電極2Tと回路基板3の端子電極3Tとは、接合金属10によって接合される。接合金属10は、本実施形態に係るPbフリーはんだが溶融した後、硬化した金属である。このような構造により、電子部品2が回路基板3に実装される。このように、接合金属10は、電子部品2の端子電極2Tと回路基板3の端子電極3Tという二部材を接合するものである。
【0021】
図1−1に示すように、電子回路モジュール部品1は、回路基板3の表面に実装された電子部品2が絶縁樹脂4で覆われる。電子回路モジュール部品1は、電子部品2が実装される側の回路基板3の表面(部品実装面という)も同時に絶縁樹脂4で覆われる。このように、電子回路モジュール部品1は、絶縁樹脂4で複数の電子部品2及び部品実装面を覆うことで、回路基板3及び複数の電子部品2を一体化するとともに、強度が確保される。
【0022】
電子回路モジュール部品1は、複数の電子部品2を覆った絶縁樹脂4の表面に、シールド層5を有する。本実施形態において、シールド層5は導電材料(導電性を有する材料であり、本実施形態では金属)で構成されている。本実施形態では、シールド層5は単数の導電材料であってもよいし、複数の導電材料の層であってもよい。シールド層5は、絶縁樹脂4の表面を被覆することにより、絶縁樹脂4の内部に封入された電子部品2を電子回路モジュール部品1の外部からの高周波ノイズや電磁波等から遮蔽したり、電子部品2から放射される高周波ノイズ等を遮蔽したりする。このように、シールド層5は、電磁気シールドとして機能する。本実施形態において、シールド層5は、絶縁樹脂4の表面全体を被覆している。しかし、シールド層5は、電磁気シールドとして必要な機能を発揮できるように絶縁樹脂4を被覆すればよく、必ずしも絶縁樹脂4の表面全体を被覆する必要はない。したがって、シールド層5は、絶縁樹脂4の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0023】
電子回路モジュール部品1は、例えば、次のような手順で製造される。
(1)回路基板3の端子電極に本実施形態に係るPbフリーはんだを含むはんだペーストを印刷する。
(2)実装装置(マウンタ)を用いて電子部品2を回路基板3に載置する。
(3)電子部品2が搭載された回路基板3をリフロー炉に入れて前記はんだペーストを加熱することにより、前記はんだペーストに含まれる本実施形態に係るPbフリーはんだが溶融し、硬化する。そして、硬化後のPbフリーはんだ、すなわち接合金属10が、電子部品2の端子電極と回路基板3の端子電極とを接合する。
(4)電子部品2及び回路基板3の表面に付着したフラックスを洗浄する。
(5)絶縁樹脂4で電子部品2及び回路基板3を覆う。
【0024】
電子回路モジュール部品1の回路基板3は、部品実装面の反対側に、端子電極(モジュール端子電極)7を有する。モジュール端子電極7は、電子回路モジュール部品1が備える電子部品2の端子電極2Tと電気的に接続されるとともに、図2に示す、電子回路モジュール部品1が取り付けられる基板(例えば、電子機器の基板であり、以下、装置基板という)8の端子電極(装置基板端子電極)9とはんだ20によって接合される。このような構造により、電子回路モジュール部品1は、電子部品2と装置基板8との間で電気信号や電力をやり取りする。
【0025】
図2に示す装置基板8は、電子回路モジュール部品1が実装される基板であり、例えば、電子機器(車載電子機器、携帯電子機器等)に搭載される。装置基板8に電子回路モジュール部品1を実装する場合、例えば、装置基板端子電極9にはんだ20を含むはんだペーストを印刷し、実装装置を用いて電子回路モジュール部品1を装置基板8に搭載する。そして、電子回路モジュール部品1が搭載された装置基板8をリフロー炉に入れて前記はんだペーストを加熱することにより、前記はんだペーストのはんだ20が溶融し、その後硬化することによりモジュール端子電極7と装置基板端子電極9とが接合される。その後、電子回路モジュール部品1や装置基板8の表面に付着したフラックスを洗浄する。
【0026】
現在多く使用されているPbフリーはんだの溶融温度は約220℃であるが、リフローにおける最高温度は240℃〜260℃程度である。電子回路モジュール部品1が有する電子部品2を回路基板3に実装する際に用いられるはんだは、上述したように、電子回路モジュール部品1が装置基板8へ実装される際にリフローされる。このため、前記リフローにおける温度で溶融しないはんだ(高温はんだ)が使用される。
【0027】
Pbを使用するはんだには、溶融温度が300℃程度のはんだが存在する。しかし、現在のところ、Pbフリーはんだでは溶融温度が260℃以上かつ適切な特性を有するものは存在しない。このため、Pbフリーはんだを用いる場合、電子回路モジュール部品1が有する電子部品2の接合に用いるはんだと、電子回路モジュール部品1を装置基板8へ実装する際に用いるはんだとには、両者の溶融温度差が少ないものを使用せざるを得ない。
【0028】
電子回路モジュール部品1が有する電子部品2の接合に用いるはんだがリフロー時に再溶融すると、当該はんだの移動や、はんだフラッシュ(はんだの飛散)といった不具合が発生する。その結果、短絡や電子部品2の端子電極2Tと回路基板3の端子電極3Tとの接触不良を招くおそれがある。このため、電子回路モジュール部品1の電子部品2を接合するはんだには、電子回路モジュール部品1を実装する際のリフロー時において再溶融しないもの、又は再溶融がはんだの移動やはんだフラッシュを招かない程度であるものを使用することが望まれている。溶融温度の高いはんだの代替として導電性接着材(Agペースト等)もあるが、機械的な強度が低く、電気抵抗も高く、コストも高い等の課題があり、Pbを用いたはんだの代替とはなっていない。本実施形態に係る電子回路モジュール部品1が有する接合金属10は、Snを主成分とする第1金属粒子及びNi−Fe合金を主成分とする第2金属粒子を含むPbフリーはんだから得られるものであり、再度のリフロー時における再溶融が抑制されたものである。
【0029】
図3は、本実施形態に係るPbフリーはんだが最初に溶融した後、硬化した状態の組織を示す模式図である。図1に示す接合金属10は、Snを主成分とする第1金属粒子及びNi−Fe合金を主成分とする第2金属粒子を含むPbフリーはんだが最初に溶融した後、硬化することにより得られる。主成分とは、物質を構成している成分のうち、最も多く含まれている成分である(以下同様)。このPbフリーはんだについては後述する。
【0030】
接合金属10の断面をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により分析すると、図3に示すような組織が観察された。すなわち、接合金属10は、図1に示す電子部品2の端子電極2Tと回路基板3の端子電極3Tとの間に介在し、かつNi−Sn合金(例えば、NiSn)を主成分とする主相11に、Ni−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相12とSnを主成分とするSn相13とが分散した組織を有している。本実施形態において、接合金属10は、さらに主相11にFe相14が現れている。接合金属10は、このような組織を有することにより、高い接合強度及び耐熱性を有する。このため、接合金属10によって電子部品2が基板3に実装された電子回路モジュール部品1は、再度のリフローによって接合金属10が加熱されても、電子回路モジュール部品1内の接合金属10の溶融が抑制される。
【0031】
また、電子回路モジュール部品1の絶縁樹脂4の表面をシールド層5が被覆している場合、電子部品2を基板3に実装するためのはんだが溶融すると、ガス等が発生して絶縁樹脂4内に放出される。また、溶融したはんだが絶縁樹脂4内に飛散する、はんだフラッシュという現象も発生することがある。シールド層5が絶縁樹脂4の表面を被覆している場合、シールド層5によって前記ガス等が絶縁樹脂4からさらに抜けにくくなる。その結果、シールド層5を有する電子回路モジュール部品1が膨張したり、絶縁樹脂4の割れがさらに発生したりしやすくなる。接合金属10は、再度のリフローによって加熱されても溶融が抑制されるので、ガス等の発生も抑制される。このため、電子回路モジュール部品1内の接合金属10の溶融が抑制されるので、電子回路モジュール部品1がシールド層5を有していても、前記膨張及び前記割れ並びに前記はんだフラッシュが抑制される。
【0032】
主相11は、接合金属10の全体積に対して、50体積%以上90体積%以下が好ましく、70体積%以上90体積%以下がより好ましい。このような範囲であれば、接合金属10の耐熱性は十分に向上する。主相11の代表寸法、すなわち、主相11の結晶粒子の直径(平均粒子径(D50))は、1μm以上3μm以下が好ましい。この範囲であれば、主相11が緻密になるので、接合金属の接合強度及び耐熱性が向上する。主相11にNi−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相12が現れることによって、接合金属10の接合強度が向上する。Ni−Fe合金相12の代表寸法は3μm以上25μm以下が好ましい。前記代表寸法がこの範囲であれば、接合金属10の接合強度を向上させることができる。Ni−Fe合金相12は断面形状が略円形であるため、代表寸法Raは、Ni−Fe合金相12の直径(等価直径)を用いる。等価直径は、Ni−Fe合金相12の面積をA、周囲長をCとしたとき、4×A/Cである。
【0033】
Sn相13は、Snを90質量%以上含む。Sn相13は、接合金属10の全体積に対して40体積%以下が好ましい。このような範囲であれば、接合金属10の耐熱性は十分に向上するとともに、接合強度も十分に確保できる。また、Sn相13は、接合金属10の全体積に対して20体積%以下がより好ましい。このような範囲であれば、接合金属10は十分な耐熱性を確保できるとともに、接合強度がさらに向上する。さらに、Sn相13は、接合金属10の全体積に対して0.1体積%以上であることがより好ましい。このような範囲内であれば、接合金属10の接合強度を確保できる。Sn相13の結晶粒子の代表寸法、すなわちSn相13の結晶粒子の直径(平均粒子径(D50))は、1μm以上5μm以下が好ましい。このような範囲であれば、接合金属10の耐熱性を十分に確保できる。さらに、Sn相13の結晶粒子の直径(平均粒子径(D50))は、1μm以上3μm以下がより好ましい。このような範囲であれば、接合金属10の耐熱性はさらに向上する。
【0034】
主相11及びSn相13の代表寸法は、接合金属10の断面の画像から求める。すなわち、接合金属10の断面の、例えば任意の3箇所を走査型電子顕微鏡(SEM)で写真撮影して得られた画像から求めた。
【0035】
Fe相14は、接合金属10中の全体積に対して、0.2体積%以上2体積%以下である。なお、接合金属10の全体積に対してNi−Fe合金相12が占める最大の体積の割合は、接合金属10の全体積から主相11の体積とSn相13の体積とFe相14の体積とを減算した値になる。接合金属10中における主相11、Ni−Fe合金相12、Sn相13及びFe相14の体積割合(体積%)は、接合金属10の断面の画像から求める。すなわち、接合金属10の断面の所定面積中に占める、主相11、Ni−Fe合金相12、Sn相13及びFe相14の面積の割合を求め、これをそれぞれの体積割合とする。次に、図3に示すような組織を有する接合金属10を得るためのPbフリーはんだについて説明する。
【0036】
図4は、本実施形態に係るPbフリーはんだの概念図である。本実施形態に係るPbフリーはんだ6は、使用前(最初に溶融する前)において、Snを主成分とする第1金属粒子6Aと、Ni−Fe合金を主成分とする第2金属粒子6Bと、を含む。本実施形態において、Pbフリーはんだ6は、第1金属粒子6Aと第2金属粒子6Bとの他にフラックスPEを含み、第1金属粒子6Aと第2金属粒子6BとがフラックスPEに混合され、分散された状態のはんだペーストである。Pbフリーはんだ6は、少なくとも第1金属粒子6Aと第2金属粒子6Bとを含んでいればよく、フラックスPEは必ずしも必要ではない。
【0037】
Pbフリーはんだ6はPbを含まないため、Snを主成分とする第1金属粒子6AもPbを含まない。本実施形態において、第2金属粒子6Bは、Ni−Fe合金を主成分としているが、他の成分を含んでいてもよい。このため、第2金属粒子6Bは、Ni−Fe合金を必須とし、この他にCo(コバルト)、Mo(モリブデン)、Cu(銅)、Cr(クロム)のうち少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0038】
図5は、本実施形態の変形例に係るPbフリーはんだの概念図である。図6は、本実施形態の変形例に係るPbフリーはんだが有する第2金属粒子の拡大図である。本実施形態に係るPbフリーはんだ6aは、使用前(最初に溶融する前)において、Snを主成分とする第1金属粒子6Aaと、Ni−Fe合金を主成分とする第2金属粒子6Baと、を含む。本実施形態において、Pbフリーはんだ6aは、第1金属粒子6Aaと第2金属粒子6Baの他にフラックスPEを含む。フラックスPEについては、上述したPbフリーはんだ6と同様である。図6に示すように、第2金属粒子6Baは、Ni−Fe合金を主成分とする粒子(コア粒子)6BCの表面が、Snと合金を作る金属を主成分とする少なくとも1つの被覆層6BSで覆われている。コア粒子6BCは、Ni−Fe合金を必須とし、この他にCo(コバルト)、Mo(モリブデン)、Cu(銅)、Cr(クロム)のうち少なくとも一つを含んでいてもよい。被覆層6BSに含まれる、Snと合金を作る金属は、例えば、Cu、Ni、Au、Ag、Pd、Bi等がある。本実施形態では、Cuを用いている。このように、第2金属粒子6Baは、コア粒子6BCと被覆層6BSとを有していてもよい。
【0039】
本実施形態において、第1金属粒子6Aとしては、Snを主成分としたPbフリーはんだを用いる。より具体的には、第1金属粒子6Aとして、Sn−Ag(銀)系やSn−Cu(銅)系(Snが90質量%以上)のはんだ(Pbフリーはんだ)を用いる。例えば、第1金属粒子6Aとしては、Sn−3.5%Ag(錫−銀共晶はんだ、融点221℃)又はSn−3%Ag−0.5%Cu(錫−銀−銅はんだ、融点217℃〜219℃)又はSn−0.75%Cu(錫−銅共晶はんだ、融点227℃)を用いることができる。本実施形態において第1金属粒子6Aに用いるSnを主成分としたPbフリーはんだは、Snが90質量%以上である。なお、本実施形態において第1金属粒子6Aに用いることができるPbフリーはんだは、Snを主成分としたものに限られない。例えば、Sn−58Bi(錫−ビスマス共晶はんだ、融点139℃)を用いることもできる。
【0040】
Pbフリーはんだ6、6aが有する第1金属粒子6A、6Aaに用いるSnを基材としたPbフリーはんだは、リフロー後における組織はSn相が多くなるので、一度溶融して硬化した後に複数回リフローをするとSn相が再溶融する。本実施形態では、Snを主成分とする第1金属粒子6Aと、Ni−Fe合金を主成分とする第2金属粒子6B又はNi−Fe合金を主成分とするコア粒子6BCを被覆層6BSで被覆した第2金属粒子6Baとを組み合わせたPbフリーはんだ6、6aを用いる。そして、Pbフリーはんだ6、6aが最初に溶融した後、硬化して得られた接合金属10に熱処理を施す。これによって、接合金属10は、Ni−Sn合金を主成分とする主相11に、Ni−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相12とSnを主成分とするSn相13とが分散した組織となり、耐熱性及び接合強度が向上する。
【0041】
NiはSn相への拡散速度が大きい。このため、図4に示す、第1金属粒子6Aと、Ni−Fe合金の金属粒子とを組み合わせたPbフリーはんだ6を用いると、Pbフリーはんだ6が最初に溶融したときにNiがSn相へ拡散して金属間化合物が生成される。その結果、Pbフリーはんだ6全体に占めるNiの割合が大きい場合には、溶融したPbフリーはんだ6の粘度が上昇して端子電極に対するぬれ性が低下することがある。その結果、リフロー時において、電子部品2のセルフアライメント機能の低下等の不具合が発生するおそれがある。
【0042】
図5に示すPbフリーはんだ6aは、図6に示すように、Ni−Fe合金を主成分とするコア粒子6BCを被覆層6BSで被覆した第2金属粒子6Baと、Snを主成分とした第1金属粒子6Aaとを組み合わせる。被覆層6BSは、Snと合金を作る金属なので、Pbフリーはんだ6aが最初に溶融したときには、被覆層6BSがSn相に拡散して金属間化合物を作る。このため、Pbフリーはんだ6aが溶融している間においては、NiのSn相への拡散及び両者の反応が抑制される。その結果、Pbフリーはんだ6aは、溶融中におけるぬれ性の低下が抑制されるので、リフロー時においては、電子部品2のセルフアライメント機能の低下等の不具合が抑制される。このため、電子回路モジュール部品1の歩留まりは向上するとともに、不良率は低下する。次に、Pbフリーはんだ6、6aを用いて図1に示す電子回路モジュール部品を製造する方法を説明する。
【0043】
図7は、本実施形態に係る電子回路モジュール部品の製造方法の手順を示すフローチャートである。図8は、リフロー時における温度の時間変化の一例を示す図である。図9−1は、本実施形態に係る電子回路モジュール部品の製造方法における熱処理を説明するための図である。図9−2は、熱処理の他の例を説明するための図である。以下においては、図4に示すPbフリーはんだ6を用いた例を説明するが、図5に示すPbフリーはんだ6aを用いてもよい。
【0044】
本実施形態に係る電子回路モジュール部品の製造方法により、図1−1に示す電子回路モジュール部品1を製造するにあたり、印刷等の手段を用いて、回路基板3の端子電極3Tの表面にPbフリーはんだ6のはんだペーストを塗布する(ステップS101)。次に、回路基板3に電子部品2を載置する(ステップS102)。その後、電子部品2が搭載された回路基板3をリフロー炉でリフローする(ステップS103)。リフロー炉内における温度変化は、例えば、図8に示すようなものである。温度θmでPbフリーはんだ6が溶融し始める。リフロー炉内の温度が最高温度θmaxに到達した後、前記温度は時間の経過とともに低下する。この過程で、溶融したPbフリーはんだ6が硬化して、図1−1に示す接合金属10となる。接合金属10によって、電子部品2は回路基板3に固定される。
【0045】
リフローが終了したら、電子部品2が搭載された回路基板3が洗浄される(ステップS104)。その後、電子部品2の端子電極2Tと回路基板3の端子電極3Tとの間に介在する接合金属10に対して熱処理が施される(ステップS105)。熱処理は、電子部品2が搭載された回路基板3を炉に入れて、硬化したPbフリーはんだ6、すなわち接合金属10を所定の温度で所定の時間保持する処理である。次に、この熱処理について説明する。
【0046】
熱処理は、例えば、図9−1に示すように、炉内の温度を初期温度θsから所定の温度(以下、保持温度という)θkまで上昇させた後、保持温度θkで所定の時間Δtだけ保持する。所定の時間Δtは、t1−t2である。このようにすることで、接合金属10を保持温度θkで所定の時間Δt保持する。所定の時間Δtが経過したら、炉内の温度を低下させる。また、熱処理は、接合金属10の温度を、保持温度θkまで段階的に上昇させてもよい。具体的には、図9−2に示すように、接合金属10の温度、すなわち炉内の温度をθ1に上昇させてt2−t1だけ保持した後、保持温度θkまで上昇させて所定の時間Δt=t4−t3だけ保持する。この熱処理により、接合金属10の組織を、Ni−Sn合金を主成分とする主相11に、Ni−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相12とSnを主成分とするSn相13とが分散したものにする。次に、保持温度θk及び所定の時間Δtについて説明する。
【0047】
図10、図11は、接合金属の吸熱量と保持時間との関係を示す図である。図10は、第1金属粒子6AにSn−3Ag−0.5Cu(融点は約220℃)を用いたPbフリーはんだ6を溶融させ、硬化させて得られた接合金属10に対して、所定の温度に所定の時間保持する熱処理を施した場合における吸熱量の時間変化を示している。図10の実線Aは保持温度θkが240℃、点線Bは保持温度θkが180℃、一点鎖線Cは保持温度θkが120℃である。図11は、第1金属粒子6AにSn−58Bi(融点は約140℃)を用いたPbフリーはんだ6を溶融させ、硬化させて得られた接合金属10に対して、所定の温度に所定の時間保持する熱処理を施した場合における吸熱量の時間変化を示している。図11の実線Aは保持温度θkが150℃、点線Bは保持温度θkが120℃である。
【0048】
吸熱量は、熱流束示差走査熱量計((株)島津製作所 DSC−50)を用いて測定した(以下の例でも同様)。吸熱量が負の値を取る場合、接合金属10は加熱による熱エネルギーを吸収し、その熱エネルギーを自身が溶融するために用いていることになる。そして、吸熱量が負の値を取り、かつその絶対値が大きくなると、接合金属10はより多くの熱エネルギーを吸収してより溶融しやすくなる。吸熱量の絶対値が小さくなれば、接合金属10は溶融しにくくなる。
【0049】
吸熱量があると、接合金属10は溶融しやすくなるが、吸熱量の絶対値が35J/g以下の範囲であれば、接合金属10が溶融したとしても、再度のリフロー時において、電子回路モジュール部品1の絶縁樹脂4にクラックが発生したり、はんだフラッシュその他の欠陥が発生したりすることはない。このため、吸熱量の絶対値が35J/g以下である場合には、接合金属10の耐熱性は許容できる。
【0050】
第1金属粒子6AにSn−3Ag−0.5Cuを用いた場合、保持温度θkが240℃のとき(後述する表1のサンプル1)には、所定の時間Δtが約10分で吸熱量の絶対値は約13J/g以下になり、所定の時間Δtが30分で吸熱量の絶対値は0になる(Sn相が少なくなる)。また、保持温度θkが200℃(融点−20℃)のときには、所定の時間Δtが約10分で吸熱量の絶対値は35J/g以下になる。しかし、保持温度θkが120℃のとき(後述する表1のサンプル16)には、吸熱量の絶対値は時間の経過とともに大きくなるので、所定の時間Δtが30分を経過しても、吸熱量の絶対値は35J/g以下にはならない。
【0051】
第1金属粒子6AにSn−58Biを用いた場合、保持温度θkが150℃のときには、所定の時間Δtが約5分で吸熱量の絶対値は35J/g以下になる。しかし、保持温度θkが120℃のときには、所定の時間Δtが30分を経過しても、吸熱量の絶対値は35J/g以下にはならない。
【0052】
熱処理における保持温度θkが低過ぎると、吸熱温度の絶対値が35J/g以下にならず、主相11にNi−Fe合金相12とSn相13とが分散した接合金属10の組織が得られない。その結果、接合金属10は加熱により再溶融するおそれが高い。また、熱処理における保持温度θkが高過ぎると、電子回路モジュール部品1が熱によるダメージを受けるおそれや熱処理に要するエネルギーが増加する。上記結果及びこれらの事情を考慮すると、保持温度θkは、第1金属粒子6Aと第2金属粒子6Bとを含むPbフリーはんだ6の融点から、当該融点+20℃の範囲が好ましい。
【0053】
熱処理において、保持温度θkに保持する所定の時間Δtが短すぎると、吸熱温度の絶対値が35J/g以下にならず、主相11にNi−Fe合金相12とSn相13とが分散した接合金属10の組織が得られない。その結果、接合金属10は加熱により再溶融するおそれが高い。また、熱処理における所定の時間Δtが長過ぎると、電子回路モジュール部品1が熱によるダメージを受けるおそれや熱処理に要するエネルギーが増加する。また、熱処理に要する時間が長くなると、電子回路モジュール部品1の生産性が低下する。上記結果及びこれらの事情を考慮すると、所定の時間Δtは、10分以上30分以下が好ましい。耐熱性を高めるためには、Sn相を低減させ、主相11の割合が大きい方が好ましい。かかる観点から、所定の時間Δtは、15分以上30分以下がより好ましい。
【0054】
熱処理における保持温度θk及び所定の時間Δtが上記範囲であれば、吸熱温度の絶対値が確実に35J/g以下になるので、主相11にNi−Fe合金相12とSn相13とが分散した接合金属10の組織が得られる。その結果、接合金属10の耐熱性が向上するので、再度のリフローにおける加熱により、許容できない再溶融が発生するおそれはほとんどない。また、接合金属10は、主相11にNi−Fe合金相12とSn相13とが分散した組織を有することで、接合強度も向上する。さらに、熱処理における保持温度θk及び所定の時間Δtが上記範囲であれば、電子回路モジュール部品1の熱ダメージを最小限に抑えることができるので、電子回路モジュール部品1の歩留まりは向上するとともに、不良率は低下する。また、電子回路モジュール部品1の生産性の低下も抑制できる。
【0055】
(評価例)
本実施形態に係る電子回路モジュール部品の電子部品と基板とを接合する接合金属の組成及び電子回路モジュール部品の製造方法における熱処理の条件を変更して、電子回路モジュール部品1のはんだフラッシュ、熱ダメージ、接合金属の接合強度及び吸熱を評価した。接合金属の組成は、Pbフリーはんだ6に含まれる第1金属粒子及び第2金属粒子の種類と比率とを変更することにより調整した。
【0056】
評価に供するサンプル(電子回路モジュール部品)は、次のような手順で20個作成し評価した。
(1)回路基板の端子電極に、後述する表3に示す各サンプルの組成のPbフリーはんだを含むはんだペーストを印刷した。
(2)実装装置を用いて電子部品としてチップ型抵抗素子を回路基板に載置した。
(3)電子部品が搭載された回路基板をリフロー炉に入れて前記はんだペーストを加熱することにより、前記はんだペーストに含まれるPbフリーはんだが溶融し、硬化する。そして、硬化後のPbフリーはんだ、すなわち接合金属によって、電子部品の端子電極と回路基板の端子電極とを接合させた。
(4)電子部品及び回路基板の表面に付着したフラックスを洗浄した。
(5)接合金属の組織をサンプリングして観察し、目的とする組織を構成するように表1に示すような熱処理を施した。
(6)絶縁樹脂で電子部品及び回路基板を覆った。電子部品及びモジュール基板を被覆する絶縁樹脂は、エポキシ樹脂(熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂であるが、これに限定されない)にフィラー(例えば、本評価ではシリカフィラー)を添加したものを用いた。そして、絶縁樹脂で電子部品及び回路基板を覆うように塗布し、真空槽内で熱プレス硬化した。その結果、電子部品は、絶縁樹脂によって封止された。その表面に無電解めっきで銅のシールド層を形成し、電子回路モジュール部品を20個作成した。
【0057】
はんだフラッシュは次のようにして評価した。評価に供するサンプル(電子回路モジュール部品)を260℃のリフロー炉に投入し、電子回路モジュール部品内の電子部品と回路基板3との接合部におけるはんだの移動を観察した。接合部の接合金属(はんだ材料)が接合部以外に離散するような状況が観察された場合には×、離散していないが接合部の基板側との接合面が変化してしまったものは△、接合部の電子部品端子側の形状の変化が認められるものは○、接合部の接合面や形状が変化していないものは◎とした。
【0058】
熱ダメージは、次のようにして評価した。上記手順で作成したサンプル(電子回路モジュール部品)の電気特性を測定し、リフロー炉へ投入した。リフロー炉への投入の前後で電気特性に変化があったサンプルは×とし、変化がなかったサンプルは「なし」とした。次に、接合金属の接合強度の評価方法を説明する。
【0059】
図12は、Pbフリーはんだが溶融して硬化して得られた接合金属の接合強度を評価する際の説明図である。接合金属の強度は、シェア(せん断)試験により評価した。シェア(せん断)試験では、溶融後硬化したPbフリーはんだに対してせん断応力を負荷した。シェア試験は、図12に示すように、基板70の電極71にPbフリーはんだを乗せて溶融させ、電極71の表面で硬化した試験片72を対象とする。試験片72を有する基板70は、試験装置のテーブル73に取り付けられる。この状態で、テーブル73がシェアツール74に向かって移動する。そして、試験片72がシェアツール74で破壊されるときの吸収エネルギー(J)を求め、これによって接合強度を評価した。シェア試験には、ハイスピードボンドテスター(Dage社、Dage−4000HS)を用いた。試験速度Vは0.1mm/secとした。接合強度は、強度試験の破壊箇所で評価した。図12において、硬化した試験片72内で破壊(せん断破壊)せずに、基板70で破壊した場合には試験片72の強度が十分高いとして◎、電極71と基板70との界面で破壊した場合には試験片72の強度が十分高いとして○、基板70とはんだ試験片72との界面近傍で破壊した場合には△、試験片72自体が破壊(せん断破壊)した場合には強度が十分高くないとして×とした。
【0060】
吸熱(吸熱量)は、接合金属の加熱による溶融を評価する尺度である。吸熱は、最初に溶融したPbフリーはんだが硬化することによって得られた接合金属10を加熱することにより評価した。吸熱量の絶対値が35J/g以下である場合は接合金属が溶融しない(○)、35J/gよりも大きく40J/g以下である場合は接合金属の溶融が少ない(△)、40J/gよりも大きい場合は接合金属が溶融した(×)と判定した。
【0061】
評価の結果を表1に示す。表1は、各サンプルが有する接合金属の組成、溶融温度及び熱処理条件も示す。接合金属の組成は、当該接合金属の元となったPbフリーはんだの組成に等しい。なお、溶融温度は、接合金属の組成として調整したはんだペーストの熱重量を測定し、溶融熱のピークが確認された温度である。表1中の添加量は、接合金属の元となったPbフリーはんだ中における第2金属粒子の割合(質量%)である。すなわち、前記添加量は、(第2金属粒子の質量)/(第1金属粒子の質量+第2金属粒子の質量)である。表2、表3は、評価に供した各サンプルが有する接合金属の元となったPbフリーはんだの第1金属粒子及び第2金属粒子の組成及び平均粒子径(D50)を示す。第1金属粒子ははんだ材料であり、第2金属粒子はNi−Fe合金又はNi又はFeである。表3に示すNi−Fe合金の組成を表す記号に含まれる数字は、Ni−Fe合金全質量に対するFeの質量%である。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
接合金属(すなわちPbフリーはんだ)に第2金属粒子が含まれない場合(サンプル10、11)及び第2金属粒子としてNi又はFeを単独で含む場合(サンプル12、13)には、はんだフラッシュ、吸熱及び接合強度の評価が低下する。また、第2金属粒子にNi−Fe合金を主成分とする第2金属粒子を含むPbフリーはんだを用いるが熱処理をしない場合(サンプル7)、上記のサンプル10、11、12、13と比較して、はんだフラッシュ、接合強度及び吸熱は、いずれも優れていることが分かる。このように、第2金属粒子にNi−Fe合金を主成分とする第2金属粒子を含むPbフリーはんだを用いれば、熱処理をしなくても、接合金属のはんだフラッシュ、接合強度及び吸熱を向上させることができる。
【0066】
熱処理において接合金属を保持する保持温度θkがPbフリーはんだの融点以上、当該融点に20℃を加算した温度以下の範囲において、吸熱及びはんだフラッシュの評価は良好である(サンプル1〜5及び14)。熱処理において保持温度θkがPbフリーはんだの融点を下回ると、吸熱及びはんだフラッシュの評価が低下している(サンプル8、15、16)。この結果から、保持温度θkは、Pbフリーはんだの融点以上、当該融点+20℃以下の範囲であることが好ましいことが分かる。なお、サンプル6は、保持温度θkがPbフリーはんだの融点+20℃であるが、第1金属粒子がSn−58Biの低融点はんだであるため、はんだフラッシュ及び吸熱が、サンプル1〜5及び14と比較してやや劣っていると考えられる。
【0067】
熱処理において、保持温度θkに保持する所定の時間Δtが40分になると、はんだフラッシュ及び吸熱の評価が低下する(サンプル9)。保持時間Δtが30分以下であれば、はんだフラッシュ及び吸熱の評価が良好である(サンプル1、2、3)。このことから、保持温度θkに保持する所定の時間Δtは、10分以上30分以下が好ましいことが分かる。
【0068】
サンプル11は、熱処理において保持する保持温度θkが高過ぎたこと及び接合金属(すなわちPbフリーはんだ)に第2金属粒子が含まれないことが原因で、リフロー炉への投入の前後において電気特性に変化が生じたと考えられる。
【0069】
主相が、接合金属の全体積に対して、50体積%以上90体積%以下である場合(サンプル1〜5及び14)、吸熱は◎、熱ダメージはなし、接合強度及びはんだフラッシュは◎であり、総合評価は◎である。このように、主相の比率が50体積%以上90体積%以下であれば、耐熱性及び接合強度に優れた接合金属が得られることが分かる。主相の平均粒子径が1μm以上3μm以下である場合、(サンプル1〜5及び14)、吸熱は◎、熱ダメージはなし、接合強度及びはんだフラッシュは◎であり、総合評価は◎である。このように、主相の平均粒子径が1μm以上3μm以下であれば、耐熱性及び接合強度に優れた接合金属が得られることが分かる。
【0070】
Sn相が、接合金属の全体積に対して40体積%以下である場合(サンプル1〜5及び14)、吸熱は◎、熱ダメージはなし、接合強度及びはんだフラッシュは◎であり、総合評価は◎である。このように、Sn相の比率が40体積%以下であれば、耐熱性及び接合強度に優れた接合金属が得られることが分かる。なお、サンプル16は、Sn相が前記範囲外であり、サンプル1〜5及び14に対してはんだフラッシュ及び接合強度がやや劣る。
【0071】
Sn相の平均粒子径が1μm以上5μm以下である場合、(サンプル1〜5及び14)、吸熱は◎、熱ダメージはなし、接合強度及びはんだフラッシュは◎であり、総合評価は◎である。このように、Sn相の平均粒子径が1μm以上5μm以下であれば、耐熱性及び接合強度に優れた接合金属が得られることが分かる。なお、サンプル15は、Sn相の平均粒子径が前記範囲外であり、サンプル1〜5及び14に対してはんだフラッシュがやや劣る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明に係る電子回路モジュール部品、電子回路モジュール部品の製造方法及びPbフリーはんだは、Pbフリーはんだが溶融してから硬化した後に得られる接合金属の耐熱性を向上させることに有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 電子回路モジュール部品
2 電子部品
2T、3T 端子電極
3 回路基板
4 絶縁樹脂
5 シールド層
6 Pbフリーはんだ
6A、6Aa 第1金属粒子
6B、6Ba 第2金属粒子
6BC コア粒子
6BS 被覆層
7 モジュール端子電極
8 装置基板
9 装置基板端子電極
10 接合金属
11 主相
12 Ni−Fe合金相
13 Sn相
14 Fe相
70 基板
71 電極
72 試験片
73 テーブル
74 シェアツール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品と、
当該電子部品が搭載される回路基板と、
前記電子部品の端子電極と前記回路基板の端子電極との間に介在し、かつNi−Sn合金を主成分とする主相に、Ni−Fe合金を主成分とするNi−Fe合金相とSnを主成分とするSn相とが分散している接合金属と、
を含むことを特徴とする電子回路モジュール部品。
【請求項2】
前記接合金属の全体積に対して、前記主相は、50体積%以上90体積%以下である請求項1に記載の電子回路モジュール部品。
【請求項3】
前記主相の代表寸法は1μm以上3μm以下である請求項1又は2に記載の電子回路モジュール部品。
【請求項4】
前記接合金属の全体積に対して、前記Sn相は、40体積%以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の電子回路モジュール部品。
【請求項5】
前記Sn相の代表寸法は1μm以上5μm以下である請求項1から4のいずれか1項に記載の電子回路モジュール部品。
【請求項6】
Snを含む第1金属粒子及びNi−Fe合金を主成分とする第2金属粒子を含むPbフリーはんだを、電子部品の端子電極と前記電子部品が搭載される回路基板の端子電極との間に設ける手順と、
前記Pbフリーはんだを溶融させる手順と、
前記Pbフリーはんだが硬化した状態で、少なくとも当該Pbフリーはんだを所定の温度で所定の時間保持する手順と、
を含むことを特徴とする電子回路モジュール部品の製造方法。
【請求項7】
前記Pbフリーはんだを所定の温度で所定の時間保持する手順においては、
前記Pbフリーはんだの融点以上、かつ当該融点に20℃を加算した温度以下で、10分以上30分以下保持する請求項6に記載の電子回路モジュール部品の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−76098(P2012−76098A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222280(P2010−222280)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】