説明

電子回路用銅箔及びその表面処理方法

【課題】エッチングによる回路形成を行うに際し、エッチング前の銅箔の表面状態を均一に保ち、パターン欠陥を防止できる電子回路用銅箔を提供する。
【解決手段】樹脂基材に接着された銅箔からなり、エッチングによる回路形成を行う電子回路用銅箔において、銅箔の、樹脂基材との非接着面側に、Co比率が50%以上90%以下のNi−Co合金層を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングによる回路形成を行う電子回路用銅箔及びその表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の配線回路の形成には銅箔が広く利用されているが、一般的には銅箔は樹脂基材に接着された(あるいは貼り付けられた)銅張り積層板(CCL;Copper Clad Laminate)として利用されている。この銅張り積層板は、樹脂あるいはフィルム等の基材に接着剤を介して接着したり(3層CCL)、または銅箔に樹脂を高温、高圧下でコーティングする(2層CCL)ことにより製造される。その後、配線を形成するために、例えば銅張り積層板にレジストをコーティングしフォトリソ工程を経て、エッチングを行い回路が形成される。さらにチップとの接合性などを付与するため、形成した配線上にめっき等の種々の皮膜を施すことにより電子回路が形成される。
【0003】
銅張り積層板に用いる銅箔は、一般的に電解箔と圧延箔に大別されるが、様々な品質要求により使い分けられている。銅箔には樹脂基材と接着する接着面と、その裏面の非接着面があり、各々の面に表面処理が施されている。
【0004】
また、各々の銅箔自体の製造方法は異なるが、樹脂基材との密着性向上や銅箔表面の防錆対策として、粗化処理や防錆処理が施される場合がある。
【0005】
このような銅箔を使用して3層CCLや2層CCLを作製した後に、目的とする回路形成のために、レジストのコーティング、フォトリソ、エッチングを施す、いわゆるパターニング工程で回路形成を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4592936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の銅箔ではパターニング工程の際に以下に挙げる問題点が発生した。
【0008】
従来技術では、粗化処理を行った後の防錆処理において、基材との非接着面の銅箔面に、銅よりもエッチングレートの遅いNi−Co合金層を設け(例えば、特許文献1)、パターニング工程に先立って非接着面の全面にソフトエッチングを行う。
【0009】
このソフトエッチングの際、非接着面に設けた合金層の溶解速度は、Ni,Coの比率によって変動し、銅箔表面の溶解状態が異なってくる。
【0010】
そのため、合金層のNi,Coの比率によっては、回路形成前の銅箔表面の全面を酸でソフトエッチングする際にエッチングむらが発生し、ソフトエッチング後の電子回路形成に影響を及ぼして、パターン不良となったり、あるいは外観検査において不良扱いとなるなどの懸念があった。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、エッチングによる回路形成を行うに際し、エッチング前の銅箔の表面状態を均一に保ち、パターン欠陥を防止できる電子回路用銅箔及びその表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために創案された本発明は、樹脂基材に接着された銅箔からなり、エッチングによる回路形成を行う電子回路用銅箔において、前記銅箔の、前記樹脂基材との非接着面側に、Co比率が50%以上90%以下のNi−Co合金層を形成した電子回路用銅箔である。
【0013】
前記樹脂基材に接着された銅箔は、銅張り積層板であると良い。
【0014】
前記樹脂基材との非接着面が、光沢面であると良い。
【0015】
前記Ni−Co合金層は、めっきにより形成されると良い。
【0016】
また本発明は、樹脂基材に接着された銅箔からなり、エッチングによる回路形成を行う電子回路用銅箔の表面処理方法において、前記銅箔の、前記樹脂基材との非接着面側に、Co比率が50%以上90%以下のNi−Co合金層を形成し、その銅箔を前記樹脂基材に接着し、前記非接着面の全面をソフトエッチングした後、その非接着面上にフォトレジストを塗布し、露光、エッチングを行って回路形成を行う電子回路用銅箔の表面処理方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、銅箔の非接着面に形成するNi−Co合金層のCo比率を制御することにより、エッチングによる回路形成を行うに際し、エッチング前の銅箔の表面状態を均一に保ち、パターン欠陥を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態について説明する。
【0019】
本発明者らはソフトエッチング後の銅箔の表面状態と、パターニング工程後の電子回路のパターン不良と、Ni−Co合金層のCo比率と、の関係について鋭意検討を行った。その結果、Ni−Co合金層のCo比率を50%以上90%以下とし、銅箔の厚み方向のエッチング速度を制御することで、パターニング工程前の銅箔全面のソフトエッチングの際に表面の凹凸を抑制し、電子回路のパターン欠陥を抑えることができるとの知見を得た。
【0020】
この知見により達成された本実施の形態に係る電子回路用銅箔は、樹脂基材に接着された銅箔の、樹脂基材との非接着面に、Co比率が50%以上90%以下のNi−Co合金層を形成したものである。
【0021】
銅箔は、電解箔および圧延箔のいずれの銅箔も使用可能である。銅箔の厚さは特に限定されず、一例では10μm程度である。
【0022】
銅箔を接着する基板としての樹脂基材には、例えばポリイミドが好適であり、この他にもポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどが使用可能である。この樹脂基材の厚さは特に限定されない。
【0023】
本実施の形態では、銅箔の粗化面(M面)を樹脂基材との接着面、光沢面(S面)を非接着面とし、光沢面(S面)にNi−Co合金層を形成する。なお、本発明に係るNi−Co合金層は、非接着面が粗化面(M面)および光沢面(S面)のいずれの場合であっても適用可能であり、粗化面(M面)を非接着面とする銅箔であっても良い。
【0024】
Ni−Co合金層のCo比率は、50%以上90%以下とするのが良い。Co比率が50%より少ない場合、銅箔の非接着面の全面をソフトエッチングする際に合金層の溶解速度が遅くなり、ライン速度低下を招くことから生産性上も好ましくない。また、合金層の残りむらが原因となり後のパターンエッチングの際のエッチングむらとなるため、品質低下を招く。Co比率が90%より大きい場合は、ソフトエッチングの際に合金層の溶解が早く進みすぎ、その下の粗化処理および銅箔自体へのアタックが増大するため、オーバエッチング気味となり好ましくない。
【0025】
このNi−Co合金層を銅箔の非接着面に形成した後、銅箔の接着面を樹脂基材に接着させることで、電子回路用銅箔が製造される。Ni−Co合金層の形成方法は特に限定されないが、めっき法で形成するのが簡便である。下記に、好適なめっき条件の一例を示す。
Ni−Coめっき条件
Ni:1〜20g/L
Co:1〜40g/L
液温:20℃〜60℃
電流密度Dk:1〜20A/dm2
時間:1〜20秒
【0026】
本実施の形態では、樹脂基材に接着された銅箔は銅張り積層板であり、この銅張り積層板の銅箔の、樹脂基材との非接着面に、Co比率が50%以上90%以下のNi−Co合金層を形成する。なお、銅箔の樹脂基材への接着方法は特に限定されず、接着剤を介して銅箔と樹脂基材とを接着した3層CCLとしても良く、銅箔に樹脂材料を高温高圧下でコーティングした2層CCLとしても良い。
【0027】
この電子回路用銅箔に表面処理を施して回路形成を行う際には、次のような手順で行われる。
【0028】
まず、電子回路用銅箔の非接着面(ここでは光沢面)の全面をソフトエッチングし、銅箔の非接着面側に形成されている物理的な欠陥(圧延傷、酸化被膜等)を除去して平滑化し、レジストとの密着性を向上させるための微小な粗化面を形成する。ソフトエッチング剤には、例えば過酸化水素水を主成分とするソフトエッチング剤が使用される。
【0029】
ソフトエッチング後、その非接着面上にフォトレジストを塗布し、所望の回路パターンを有するマスクを用いて露光を行う。
【0030】
露光後、塩化第二銅水溶液、あるいは塩化第二鉄水溶液等を用いて非接着面をエッチングし、電子回路を形成する。
【0031】
エッチングの際、Ni−Co合金層はレジストと銅箔の間の層に位置するが、銅箔表面の溶解速度は、このNi−Co合金層により抑制される。よって、上記のめっき条件でNi−Co合金層を形成した電子回路用銅箔に対してエッチングすることにより、銅箔表面に凹凸の少ない平滑な表面形状が得られ、その結果として、電子回路形成後のパターン欠陥を抑制でき、外観不良等も抑えることができる。
【0032】
なお、本実施の形態はあくまでも一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち本発明は、本発明の技術思想の範囲内から類推可能なものや変形を全て包括するものである。
【0033】
例えば、上記実施の形態では、銅箔と樹脂基材との接着前にNi−Co合金層を形成するようにしたが、Ni−Co合金層の形成は、銅箔と樹脂基材の接着後であっても良い。この場合、スパッタリング法などを用いることにより、樹脂基材と接着した銅箔の非接着面にNi−Co合金層を形成することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例および比較例を説明する。
【0035】
[実施例1]
12μm圧延銅箔の光沢面(S面)にNi−Co合金めっきを施した。めっき条件は以下の通りである。
Ni−Coめっき条件
Ni:15g/L
Co:20g/L
液温:40℃
電流密度Dk:5A/dm2
時間:20秒
搬送速度:2.0m/分
【0036】
このときのNi/Co比率は50%/50%であった。
【0037】
このNi−Co合金めっき層を設けた光沢面(S面)をエッチング側として銅箔をポリイミド基板に貼り付け、実施例1の銅張り積層板とした。その後、銅箔の全面にソフトエッチングを行った。なおソフトエッチング条件は以下の通りである。
過水硫酸系水溶液:CPE−700(三菱ガス化学社製)
温度:常温
浸漬:10秒
(銅箔単体では約1μmエッチングされる条件)
【0038】
ソフトエッチング後にフォトレジストを塗布して露光、エッチングを行い、回路を形成した。回路のリードは50mm角の銅箔の中に0.2mm幅のラインを1ピース当たり50本描いたものを1条件につき300ピース準備した。
【0039】
回路形成後のサンプルに対して、50倍の実体顕微鏡によりリード形状及びPI面(ポリイミド表面)の観察を行った。その際に、リード形状幅の1/3以上の突起や欠けがある場合は不良と判断した(以後の実施例及び比較例も同様の判断基準とした)。
【0040】
観察の結果、実施例1の銅張り積層板では、エッチング後のパターン不良及び外観不良率は0.6%であった。
【0041】
[実施例2]
12μm圧延銅箔の光沢面(S面)にNi−Co合金めっきを施した。めっき条件は以下の通りである。
Ni−Coめっき条件
Ni:10g/L
Co:35g/L
液温:40℃
電流密度Dk:5A/dm2
時間:10秒
搬送速度:2.0m/分
【0042】
このときのNi/Co比率は25%/75%であった。
【0043】
このNi−Co合金めっき層を設けた光沢面(S面)をエッチング側として銅箔をポリイミド基板に貼り付け、実施例2の銅張り積層板とした。その後、銅箔の全面にソフトエッチングを行った後にフォトレジストを塗布して露光、エッチングを行い、回路を形成した。
【0044】
回路形成後のサンプルに対して観察を行った結果、実施例2の銅張り積層板では、エッチング後のパターン不良及び外観不良率は0.3%であった。
【0045】
[実施例3]
12μm圧延銅箔の光沢面(S面)にNi−Co合金めっきを施した。めっき条件は以下の通りである。
Ni−Coめっき条件
Ni:10g/L
Co:40g/L
液温:40℃
電流密度Dk:5A/dm2
時間:10秒
搬送速度:2.0m/分
【0046】
このときのNi/Co比率は10%/90%であった。
【0047】
このNi−Co合金めっき層を設けた光沢面(S面)をエッチング側として銅箔をポリイミド基板に貼り付け、実施例3の銅張り積層板とした。その後、銅箔の全面にソフトエッチングを行った後にフォトレジストを塗布して露光、エッチングを行い、回路を形成した。
【0048】
回路形成後のサンプルに対して観察を行った結果、実施例3の銅張り積層板では、エッチング後のパターン不良及び外観不良率は0.6%であった。
【0049】
[比較例1]
12μm圧延銅箔の光沢面(S面)にNi−Co合金めっきを施した。めっき条件は以下の通りである。
Ni−Coめっき条件
Ni:20g/L
Co:15g/L
液温:40℃
電流密度Dk:5A/dm2
時間:10秒
搬送速度:2.0m/分
【0050】
このときのNi/Co比率は55%/45%であった。
【0051】
このNi−Co合金めっき層を設けた光沢面(S面)をエッチング側として銅箔をポリイミド基板に貼り付け、比較例1の銅張り積層板とした。その後、銅箔の全面にソフトエッチングを行った後にフォトレジストを塗布して露光、エッチングを行い、回路を形成した。
【0052】
回路形成後のサンプルに対して観察を行った結果、比較例1の銅張り積層板では、エッチング後のパターン不良及び外観不良率は6.7%と、実施例1,2,3に比して増加していた。
【0053】
[比較例2]
12μm圧延銅箔の光沢面(S面)にNi−Co合金めっきを施した。めっき条件は以下の通りである。
Ni−Coめっき条件
Ni:10g/L
Co:40g/L
液温:40℃
電流密度Dk:5A/dm2
時間:10秒
搬送速度:2.0m/分
【0054】
このときのNi/Co比率は5%/95%であった。
【0055】
このNi−Co合金めっき層を設けた光沢面(S面)をエッチング側として銅箔をポリイミド基板に貼り付け、比較例2の銅張り積層板とした。その後、銅箔の全面にソフトエッチングを行った後にフォトレジストを塗布して露光、エッチングを行い、回路を形成した。
【0056】
回路形成後のサンプルに対して観察を行った結果、比較例2の銅張り積層板では、エッチング後のパターン不良率は3.3%と、実施例1,2,3に比して増加していた。
【0057】
以上の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなように、Ni−Co合金めっきのCo比率が50%〜90%の範囲にある実施例1〜3では、ソフトエッチングの際の表面形状の制御性に優れ、後の電子回路形成時のパターン不良低減につながることが分かった。
【0060】
これに対してCo比率が50%より小さい比較例1では、ソフトエッチング時のNi−Co合金めっき層の溶解性が悪くなって残渣むらが生じやすくなり、エッチング不良が増大した。またCo比率が90%より大きい比較例2では、ソフトエッチング時の溶解性が急激に増加し、エッチング速度の制御が困難になることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材に接着された銅箔からなり、エッチングによる回路形成を行う電子回路用銅箔において、
前記銅箔の、前記樹脂基材との非接着面側に、Co比率が50%以上90%以下のNi−Co合金層を形成したことを特徴とする電子回路用銅箔。
【請求項2】
前記樹脂基材に接着された銅箔は、銅張り積層板である請求項1記載の電子回路用銅箔。
【請求項3】
前記樹脂基材との非接着面が、光沢面である請求項1又は2記載の電子回路用銅箔。
【請求項4】
前記Ni−Co合金層は、めっきにより形成される請求項1〜3いずれか記載の電子回路用銅箔。
【請求項5】
樹脂基材に接着された銅箔からなり、エッチングによる回路形成を行う電子回路用銅箔の表面処理方法において、
前記銅箔の、前記樹脂基材との非接着面側に、Co比率が50%以上90%以下のNi−Co合金層を形成し、
その銅箔を前記樹脂基材に接着し、前記非接着面の全面をソフトエッチングした後、その非接着面上にフォトレジストを塗布し、露光、エッチングを行って回路形成を行うことを特徴とする電子回路用銅箔の表面処理方法。

【公開番号】特開2013−74141(P2013−74141A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212411(P2011−212411)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】