説明

電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマー

【課題】電子基板上へのコーティングが容易であり、またコーティング加工後に破損、欠落が生じた場合にも再加工が容易な電子基板用の透明性防水シート素材を提供する。
【解決手段】数平均分子量Mn 800〜1500のエステル系ポリオールおよび芳香族イソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーと、ジオールおよびトリオール鎖延長剤混合物を反応させて得られた電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマー。この電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマーは、特定の数平均分子量Mnのポリオールを用い、さらにジオールとトリオールとの混合物を用いて鎖伸長剤を構成することにより、有色ではあるものの透明であり、施工後においても基板を確認することができ、またクラックの発生を抑えるといったすぐれた効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマーに関する。さらに詳しくは、電子基板との一体化が容易な電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子基板の防水シート素材としては、エポキシ樹脂などの液状熱硬化性樹脂やウレタン系液状硬化性エラストマーなどが使用されてきたが、これらは液状であるためマスキングあるいは堰などの事前準備が必要であり、また硬化時間も数時間程度と長くなってしまうものであった。さらに、熱硬化性のものは硬化後に粘着性や接着性がないため、剥がれが生じた場合には隙間が空いたままとなり、その部分が露出するおそれがあり、一方使用に当ってはクラックが発生するなどといった問題があった。そして従来の基板では、その防水素材の多くが不透明であるため、施工後は基板が見えないという問題もあった。
【特許文献1】特開平11−12535号公報
【特許文献2】特開平6−128477号公報
【0003】
この他、真空チャンバー内で基板上にポリウレタンを被覆するといった方法も提案されているが、この方法は生産性に問題があった。
【特許文献3】特表2002−539941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、電子基板上へのコーティングが容易であり、またコーティング加工後に破損、欠落が生じた場合にも再加工が容易な電子基板用の透明性防水シート素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる本発明の目的は、数平均分子量Mn 800〜1500のエステル系ポリオールおよび芳香族イソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーと、ジオールおよびトリオール鎖延長剤混合物を反応させて得られた電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマーによって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマーは、特定の数平均分子量Mnのポリオールを用い、さらにジオールとトリオールとの混合物を用いて鎖伸長剤を構成することにより、有色ではあるものの透明であり、施工後においても基板を確認することができ、またクラックの発生を抑えるといったすぐれた効果を奏する。
【0007】
一方で、防水コーティング電子基板の製造に際しても、マスキングや堰などは基本的に必要ではなく、また必要大きさ分のみをシート状で用いることができるので経済的である。さらに、シート軟化温度という比較的低温でかつ短時間でのコーティングが可能であり、作業の効率化を図ることができ、一部破損、欠落した場合にも再度該当箇所に素材をのせて加熱することにより、周りと一体化できるといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
エステル系ポリオールとしては、ジカルボン酸と多価アルコールとを縮重合した汎用ポリエステルポリオール、ε-カプロラクトンと多価アルコールより得られるポリカプロラクトンポリオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の多価アルコールとジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の縮合反応より得られる直鎖状脂肪族または脂環状のポリカーボネートポリオール、ポリエチレンテレフタレート等の多価アルコールによるエステル交換反応やフタル酸等の芳香族カルボン酸と多価アルコールの重縮合によって製造される芳香族ポリエステルポリオールなども用いられる。かかるエステル系ポリオールとしては、数平均分子量Mnが800〜1500、好ましくは1000〜1200のものが用いられる。数平均分子量Mnがこれより小さいものを用いると、耐熱性に劣るようになり、一方これより大きい数平均分子量Mnのものを用いると、耐熱性が劣るとともに、透明度も低くなってしまうので好ましくない。
【0009】
エステル系ポリオールと反応させる芳香族イソシアネートとしては、トリジンジイソシアネート、3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート〔XDI〕、水添XDI、ジフェニルメタンジイソシアネート〔MDI〕、ポリメリックMDI、1,2-ジフェニルエタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネートなどが、好ましくはトリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられ、これらはポリオールのOH当量当りイソシアネート基が1.1当量以上となるような割合で用いられる。イソシアネート成分が、これよりも少なく用いられると末端イソシアネート基含有プレポリマーが形成されず、また増粘して次の反応が出来なくなるなどの不具合が生じるため好ましくない。
【0010】
エステル系ポリオールおよび芳香族ジイソシアネートは、約100〜130℃で約30分間乃至約3時間程度反応させてプレポリマーを生成させる。
【0011】
鎖延長剤としては、ウレタンプレポリマー100重量部当り、ジオール0.1〜40重量部およびトリオール0.1〜10重量部が用いられ、ポリオール、ジオールおよびトリオールの全OH当量に対するイソシアネート基当量の割合(NCO/OHインデックス)は、0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1となるように設定される。イソシアネート成分がこれより少ない割合で用いられると熱安定性が乏しくなり、一方これより多い割合で用いられると融点が上昇し、難燃規格:UL94 V=0を満足できなくなり好ましくない。ここで、ジオールが用いられないと、後述する難燃剤を用いた場合であっても難燃性に劣るようになり、反対にトリオールが用いられないと、ウレタンエラストマーの状態で粘りが生じ、加工性に劣るようになる。
【0012】
ジオールとしては、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、エチレングリコール、ポリカプロラクトンジオールなどが、トリオールとしては、ポリカプロラクトントリオール、トリメチロールプロパン(TMP)などが用いられる。
【0013】
また鎖延長剤とともに、ウレタンエラストマーに難燃性を付与する成分としてハロゲン化合物、リン化合物、水酸化アルミニウムなどの難燃化剤、好ましくはリン化合物が、一般にポリウレタンエラストマーと難燃剤との全配合量中1〜20重量%、好ましくは10〜15重量%の割合で用いられる。難燃化剤としては、具体的には例えばノンハロゲン系縮合リン酸エステル、クレジルフェニルホスフェート(CDP)、リン酸トリキシレニル(TXP)、非ハロゲンリン酸エステル(PX-110)などが用いられる。
【0014】
また、ポリウレタン化反応に際しては、アミン化合物等を触媒として反応に関与させることができる。上記各成分以外にも、さらに充填剤、2価金属の酸化物または水酸化物、滑剤等を必要に応じて適宜配合して用いることができる。
【0015】
これらの難燃剤、鎖延長剤および必要な触媒は、生成ウレタンプレポリマーに混合され、100〜130℃のオーブン中で15〜20時間熟成させた後、PET製、PEN製等の離型性フィルム2枚に挟んで170〜190℃でプレスすることにより、0.3〜1.0mm厚の黄色または褐色の透明なシート状(フィルム状)に成形される。
【0016】
得られたポリウレタンエラストマーシートは、適当な大きさにカットし、離型性フィルムを剥がして電子基板のコーティング部分にのせて、遠赤外線ヒータ、オーブンなどを用いて加熱することにより、基板への貼付けが行われる。ここで、例えば120℃の遠赤外線ヒータを用いた場合の加熱時間は20秒程度であるのに対して、120℃のオーブンを用いた場合の加熱時間は5分間程度であり、遠赤外線ヒータを用いた場合の方が、生産性が高く効率的である。これは、温風オーブンでは、槽内温度が均一となり、対象物の表面から空気を介して徐々に加熱していくのに対して、遠赤外線ヒータによる加熱では雰囲気温度が120℃の設定であったとしても、電磁波である遠赤外線による分子振動発熱に因り、直接短時間で熱が伝わるためである。
【0017】
このようにして、シート状電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマーを電子基板上に載せ、軟化温度(融解の必要はない)である約70〜90℃以上に加熱して防水コーティングすることにより、ポリウレタンエラストマーで防水コーティングされた電子基板を得ることができる。
【実施例】
【0018】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0019】
実施例1
数平均分子量Mn 1,000のポリカプロラクトンジオール60重量部を120℃で溶融させた後、o-トリジンジイソシアネート26.7重量部を加え、撹拌しながら130℃まで加熱し、これを予め120℃に加熱した反応器に仕込み、撹拌しながら35分間反応させてウレタンプレポリマーを得た。次いで、得られたウレタンプレポリマーに、ノンハロゲン系縮合リン酸エステル(大八化学工業製品DAIGUARD610)16.6重量部(生成ポリウレタンエラストマーとの合計量中13重量%に相当する)を加え、3分間撹拌した。
【0020】
また、数平均分子量Mn 1,000のポリカプロラクトンジオール19.5重量部に、1,4-ブタンジオール0.96重量部および水酸基価305.7のポリカプロラクトントリオール3.61重量部を加えて、鎖伸長剤混合物を調製した。
【0021】
続いて、難燃剤配合ウレタンプレポリマーを150℃に加熱した後、予め125℃に加熱した鎖延長剤混合物を加え、3分間撹拌して熱盤へと流し込んだ後、120℃のオーブンで18〜20時間加熱熟成させて熱可塑性ウレタンエラストマー得た。ここで得られた熱可塑性ウレタンエラストマーのNCO/OHインデックスは、0.95であり(以下の各実施例および比較例においても同数値)、室温下における状態を確認したところ、流動性はなく、熱盤に流す際に用いられた離型性フィルムから問題なく剥がれ、かつ素手でさわった後に直ぐに剥がすことが可能な程度の弾性および粘性を有していた。
【0022】
この熱可塑性ウレタンエラストマーを、表面コーティングされたPET製離型性フィルムに挟んだ後、190℃、1分間のプレス成形を行って、厚さ1mmの熱可塑性ウレタンシートを作製し、電子基板の該当箇所よりも若干大きめにカットして、PET製離型性フィルムを剥がしてから電子基板上へ載せた後、温風オーブンを用いて120℃、5分間の加熱処理を行い、熱可塑性ウレタンシートの電子基板への貼付けを行った。なお、シートが軟化(溶融の必要なし)して電子基板へ密着し、垂直状態や逆さまの状態にしても剥れず、シートの縁のめくれや基板との間に隙間がない状態をもって、貼付け完了としている。
【0023】
実施例2
実施例1において、難燃剤が用いられなかった。途中、実施例1と同様に熱可塑性ウレタンエラストマーの室温下における状態を確認したところ、流動性はなく、熱盤に流す際に用いられた離型性フィルムから問題なく剥がれ、かつ素手でさわった後に直ぐに剥がすことが可能な程度の弾性および粘性を有していた。
【0024】
比較例1
実施例1において、ポリカプロラクトンジオールとして数平均分子量Mnが500のものが用いられた。途中、実施例1と同様に熱可塑性ウレタンエラストマーの室温下における状態を確認したところ、流動性はなく、熱盤に流す際に用いられた離型性フィルムからは剥がれたものの、粘りがあるため素手でさわった後に直ぐには剥がし難いものであった。
【0025】
比較例2
実施例1において、ポリカプロラクトンジオールとして数平均分子量Mnが2000のものが用いられた。途中、実施例1と同様に熱可塑性ウレタンエラストマーの室温下における状態を確認したところ、流動性はなく、熱盤に流す際に用いられた離型性フィルムから問題なく剥がれ、かつ素手でさわった後に直ぐに剥がすことが可能な程度の弾性および粘性を有していた。
【0026】
比較例3
実施例1において、ポリカプロラクトンジオールとして数平均分子量Mnが3000のものが用いられた。途中、実施例1と同様に熱可塑性ウレタンエラストマーの室温下における状態を確認したところ、流動性はなく、熱盤に流す際に用いられた離型性フィルムからは剥がれたものの、ロウ状に完全硬化し、弾性もみられないものであった。
【0027】
比較例4
実施例1において、鎖伸長剤が用いられず、また難燃剤量が18.9重量部に変更されて用いられた。途中、実施例1と同様に熱可塑性ウレタンエラストマーの室温下における状態を確認したところ、流動性はないものの、粘りが強く、熱盤に流す際に用いられた離型性フィルムから剥がすことができず、また素手でさわった後に剥がそうとすると糸を引く状態であった。
【0028】
比較例5
実施例1において、鎖伸長剤成分中の1,4-ブタンジオールが用いられず、ポリカプロラクトンジオール量が23.8重量部に、またポリカプロラクトントリオール量が5.95重量部に変更されて用いられた。途中、実施例1と同様に熱可塑性ウレタンエラストマーの室温下における状態を確認したところ、流動性はなく、熱盤に流す際に用いられた離型性フィルムから問題なく剥がれ、かつ素手でさわった後に直ぐに剥がすことが可能な程度の弾性および粘性を有していた。
【0029】
比較例6
実施例1において、鎖伸長剤成分中のポリカプロラクトントリオールが用いられず、またポリカプロラクトンジオール量が17.9重量部に、1,4-ブタンジオール量が1.99重量部にそれぞれ変更されて用いられた。途中、実施例1と同様に熱可塑性ウレタンエラストマーの室温下における状態を確認したところ、流動性はなく、熱盤に流す際に用いられた離型性フィルムから問題なく剥がれたものの、粘りがあるため素手に引っ付くと粘って剥がし難いものであった。
【0030】
各実施例および比較例で得られたウレタンシート貼付電子基板を用いて、透明度、難燃性、基板への貼付温度、耐熱性および軟化温度の検討を行った。
【0031】
透明度:基板に貼り付けた際に、基板および基板上の構成部品が明確に確認できる
ものを「○」、確認は可能なものの、半透明であるものを「△」、全く確
認できないものを「×」として評価
難燃性:UL-94 V-0レベルであれば「○」、それ以外は「×」として評価
貼付温度:120℃、5分間以内で熱可塑性ウレタンシートの電子基板への貼付が完了
するものを「○」、120℃、5〜10分間で貼付が完了するものを「△」、
120℃で貼付が完了するまでに10分以上を要するものを「×」と評価
耐熱性:熱可塑性ウレタンシート貼付電子基板を垂直に立て、温風ヒーターを用い
た80℃の雰囲気下で200時間経過後に、液ダレ、クラック、剥がれのいず
れもみられないものを「○」、いずれかの状態が発生したものを「×」
と評価
軟化温度:熱機械分析装置(TMA)により、次の測定条件下で一定加重を加えつつ昇
温していき、端子の沈み込み深さを測定し、得られたグラフの曲線を外
挿して得られた点の温度を解読
現目標値は80℃前後で軟化するものであるので、150℃以上はNGと判断
測定温度:-50〜200℃
昇温速度:20℃/分
雰囲気:窒素
端子先端径:φ3mm
最大荷重:0.01N
【0032】
得られた結果は、次の表に示される。なお、熱可塑性ウレタンフィルムの室温での流動性、剥離性、粘着性などの弾性および粘性は、前述の如くである。

実施例 比較例

透明度 ○ ○ ○ △ × ○ ○ ○
難燃性 ○ × ○ ○ ○ ○ × ○
貼付温度 ○ ○ ○ ○ × ○ ○ ○
耐熱性 ○ ○ × × × × ○ ○
(流れ) (流れ) (クラック) (流れ)
軟化温度(℃) 79 83 60 87 NG 59 90 73

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量Mn 800〜1500のエステル系ポリオールおよび芳香族イソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーと、ジオールおよびトリオールの鎖延長剤混合物を反応させて得られた電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマー。
【請求項2】
ポリオール、ジオールおよびトリオールの全OH当量に対するイソシアネート基当量比が0.8〜1.2で反応させて得られた請求項1記載の電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマー。
【請求項3】
請求項1記載のポリウレタンエラストマーに、これと難燃剤との合計量中1〜20重量%となる量の難燃剤を配合した電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマー。
【請求項4】
シート状に成形された請求項1または3記載の電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマー。
【請求項5】
請求項4記載のシート状電子基板防水コーティング用ポリウレタンエラストマーを電子基板上に載せ、シート軟化温度に加熱して防水コーティングすることを特徴とするポリウレタンエラストマー防水コーティング電子基板の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法により製造されたポリウレタンエラストマー防水コーティング電子基板。

【公開番号】特開2009−120752(P2009−120752A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297493(P2007−297493)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】