説明

電子式変流器の誤差評価装置

【課題】IEC60044−8及びIEC61850−9−2を満足する電子式変流器の誤差評価装置を提供する。
【解決手段】パルス信号及びサンプルトリガー信号を発生させる信号発生手段と、試験電流を発生させる電流発生手段と、参照変流器と、参照電圧に変換する電流電圧変換手段と、前記サンプリングトリガー信号に基づきA/D変換して参照サンプリング情報を生成するサンプラーと、前記参照サンプリング情報をフーリエ変換する周波数変換手段と、前記試験電流を電圧信号に変換する電子式変流器と、サンプリング番号を含むパケット情報を生成するマージングユニットと、前記被検査サンプリング情報を抽出するサンプリング情報抽出手段と、前記被検査サンプリング情報をフーリエ変換する周波数変換手段と、前記電子式変流器における電流値及び位相値の誤差を算出する誤差算出手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IEC60044−8及びIEC61850−9−2に基づく電子式変流器の誤差評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子式変流器(Electronic current transformer:ECT)には、光ファイバ電流センサおよびロゴスキーコイル電流センサを代表として、その測定原理および構造から広ダイナミックレンジ・軽量化に優れ、従来の変流器に置き換わる電流センサとして期待されている。また、スマートグリッドに関する開発研究が大きく注目されており、電力設備の保護・制御・計測システムのデジタル化へのニーズが高まり始めている。このような背景から、デジタル出力型電子式変流器は、スマートグリッド研究における中核的な研究分野として、その開発が国内外で進められている。
【0003】
このデジタル出力型電子式変流器を実現するための課題として、国際規格に準拠するデジタル出力装置の開発とともに、その性能を評価するための試験方法の確立がある。現在、デジタル出力の性能評価に関する既存の国際規格としては、電子式変流器についての要求仕様を規定しているIEC60044−8があり、その中に、電子式変流器における評価試験方法についての記載がある。また、デジタル出力の信号伝達規約に関する規格として、変電所内の通信ネットワークシステムを規定しているIEC61850がある。
【0004】
デジタル出力型電子式変流器の開発課題には、これらの規格の概念を十分満足した性能評価試験手法を確立し、この手法に基づいて評価される性能が前記規格の要求する仕様を満足させることが含まれる。
しかしながら、前記規格には、前記評価試験手法のガイドラインが示されているものの、実際に前記評価試験手法を実施するために必要な技術は開示されておらず、その実施手法の一部に関連する提案がされるに留まっている(特許文献1参照)。
特に、前記規格のうちIEC60044−8及びIEC61850−9−2については、具体的な実施手法が提案されておらず、今後の開発に委ねられているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0153036号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、IEC60044−8及びIEC61850−9−2の規格を満足する電子式変流器の誤差評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 入力された基準クロックに基づき、1PPSのパルス信号及び該パルス信号に同期したサンプルトリガー信号を発生させる信号発生手段と、交流電流として試験電流を発生させる電流発生手段と、前記試験電流を変流して2次試験電流を発生させる参照変流器と、前記2次試験電流を電圧情報として参照電圧に変換する電流電圧変換手段と、1つの前記パルス信号の立ち上がりから次の前記パルス信号が到来するまでの区間において、前記参照電圧の電圧波形信号を前記サンプルトリガー信号に基づいてA/D変換して参照サンプリング情報を生成するサンプラーと、前記参照サンプリング情報をフーリエ変換して、前記パルス信号の周期で決定される周波数分解能ごとの参照周波数スペクトラム情報を得る参照側周波数変換手段と、前記試験電流を電圧信号に変換する電子式変流器と、前記パルス信号及び前記電圧信号を前記パルス信号に同期したサンプリング周波数に基づきA/D変換して生成される被検査サンプリング情報に基づき、1つの前記パルス信号の立ち上がり時を0として前記被検査サンプリング情報のサンプリングごとに順番をカウントし、次の前記パルス信号の立ち上がり時に0に戻すようにサンプリング番号を決定し、前記各サンプリング番号に対応する前記被検査サンプリング情報を含むパケット情報を生成するマージングユニットと、イーサネットを介して送信される前記パケット情報から、前記サンプリング番号に基づき、1つの前記パルス信号の立ち上がりから次の前記パルス信号が到来するまでの区間における前記被検査サンプリング情報を抽出する被検査サンプリング情報抽出手段と、前記抽出された被検査サンプリング情報をフーリエ変換して、前記パルス信号の周期で決定される周波数分解能ごとの被検査周波数スペクトラム情報を得る被検査側周波数変換手段と、前記参照周波数スペクトラム情報から前記試験電流の電流値及び位相値を算出するとともに、前記被検査周波数スペクトラム情報から前記試験電流の電流値及び位相値を算出して、前記電子式変流器における電流値及び位相値の誤差を算出する誤差算出手段と、を有することを特徴とする電子式変流器の誤差評価装置。
<2> サンプラーが、被検査サンプリング情報と同じサンプリングレートでサンプリングを行う前記<1>に記載の電子式変流器の誤差評価装置。
<3> 電流発生手段が信号発生手段から送信されるパルス信号に基づき、前記パルス信号及びサンプルトリガー信号に同期した試験電流を発生させる前記<1>に記載の電子式変流器の誤差評価装置。
<4> 参照側周波数変換手段及び被検査側周波数変換手段の少なくともいずれかが、高速フーリエ変換によるフーリエ変換を行う前記<1>から<3>のいずれかに記載の電子式変流器の誤差評価装置。
<5> 参照変流器、電流電圧変更手段及びサンプラーが有する固有の誤差情報を予め測定しておき、誤差を含む状態の参照周波数スペクトラム情報に対し、前記誤差情報に基づき、前記誤差の補正を行う誤差補正手段を更に有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の電子式変流器の誤差評価装置。
<6> 参照側周波数変換手段、誤差補正手段、被検査サンプリング情報抽出手段、被検査側周波数変換手段及び誤差算出手段における制御がパーソナルコンピュータの演算処理部で実施される前記<5>に記載の電子式変流器の誤差評価装置。
<7> パーソナルコンピュータがサンプリング番号に対応する被検査サンプリング情報を含むサンプルバリューパケットの送信状況に応じて、イーサネットとのネットワークをオープン及びクローズするネットワークカードを有し、被検査サンプリング情報抽出手段は、前記ネットワークカードに対して、マージングユニットで生成されるパケット情報のうち、前記サンプルバリューパケットの送信に基づき、前記イーサネットとのネットワークをオープンし、前記被検査サンプリング情報を抽出後、前記ネットワークをクローズする制御を行う前記<6>に記載の電子式変流器の誤差評価装置。
<8> パーソナルコンピュータがパケットフィルタ部を有し、該パケットフィルタ部が、前記パーソナルコンピュータが受信する全てのIPパケットのうち、サンプルバリューパケット以外のIPパケットを取り込まないようにするフィルタリングを行う前記<6>から<7>のいずれかに記載の電子式変流器の誤差評価装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、IEC60044−8及びIEC61850−9−2の規格を満足する電子式変流器の誤差評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価装置(非同期試験電流)の概要を示す図である。
【図2】サンプリングデータのサンプル状況を示す図である。
【図3】電子式変流器の誤差評価装置における誤差評価手法を示すフローチャート図である。
【図4a】第1の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価装置を用いて行った評価試験の結果のうち、電流値の誤差評価結果を示す図である。
【図4b】第1の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価装置を用いて行った評価試験の結果のうち、位相値の誤差評価結果を示す図である。
【図5】第2の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価装置(同期試験電流)の概要を示す図である。
【図6a】第2の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価装置を用いて行った評価試験の結果のうち、電流値の誤差評価結果を示す図である。
【図6b】第2の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価装置を用いて行った評価試験の結果のうち、位相値の誤差評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価装置の概略を図1を用いて説明する。
この電子式変流器の誤差評価装置は、信号発生手段としての2ch信号発生器2と、商用電源3を含む電流発生装置と、参照変流器6(CT6)と、電流電圧変換手段としてのシャント7と、電子式変流器8(ECT8)と、サンプラーとしてのデジタル電圧計11(DVM11)と、参照側周波数変換手段としての離散フーリエ変換器13(DFT13)と、誤差補正部15と、マージングユニット20(MU20)と、被検査サンプリング情報抽出手段として、ネットワークカード22(NIC22)、パケットフィルタ23及びサンプリングデータ抽出部25と、被検査側周波数変換手段としての高速フーリエ変換器27(FFT27)と、誤差算出手段としての電流誤差・位相誤差計算部30とを有して構成される。
この電子式変流器の誤差評価装置は、基準となる参照変流器6を含む参照側系列で算出した電流値及び位相値と、検査の対象となる電子式変流器8を含む被検査側系列で算出した電流値及び位相値とを比較し、電子式変流器8の誤差を評価することを基本的な構成とする。
【0011】
2ch信号発生器2は、基準クロック1の入力に基づき、パルス信号10及びサンプルトリガー信号9を発生させる。パルス信号10は、IEC61850−9−2に従い、1PPSとする。サンプルトリガー信号9は、後述するデジタル電圧計11に対して、パルス信号10に同期して該パルス信号10の立ち上がり時にサンプル情報の生成をスタートさせるようにする。
【0012】
商用電源3は、電流を発生させ、スライダック及びトランス4を介して変圧・増幅された交流電流としての試験電流5を発生させる。
【0013】
試験電流5は、参照変流器6と、電子式変流器8とに入力される。
先ず、(1)参照変流器6を含む参照側系列について説明する。
参照変流器6は、試験電流5を1次電流として、所定の変流比で変流された2次電流としての2次試験電流を発生させる。この参照変流器6としては、アナログタイプの変流器が用いられる。
該2次試験電流は、シャント7により参照電圧に変換される。
【0014】
該参照電圧は、交流電圧信号としてデジタル電圧計11で測定され、サンプリングトリガー信号9に基づきA/D変換されるため、そのサンプリング情報は、パルス信号10と同期して生成される。即ち、デジタル電圧計11では、サンプルトリガー信号9の入力に基づき、1つのパルス信号10の立ち上がりから次のパルス信号が到来するまでの区間において、前記サンプリング情報を生成し、これを参照サンプリング情報(サンプリングデータ12)として取得する。なお、このサンプルタイミングの詳細については、別途図2を用いて後述する。
【0015】
離散フーリエ変換器13は、サンプリングデータ12を離散フーリエ変換し、サンプリング周波数成分ごとのデジタル電圧信号として参照周波数スペクトラム情報(スペクトラムデータ14)を生成する。
【0016】
誤差補正部15は、予め参照変流器6、シャント7及びデジタル電圧計11が有する誤差情報が記録されており、スペクトラムデータ14に含まれる誤差を補正する。
【0017】
電流誤差・位相誤差計算部30は、補正された参照周波数スペクトラム情報(補正データ16)に基づき、前記試験電流の電流値及び位相値を算出する。この電流値及び位相値の情報は、後述する電子式変流器8が有すべき変流特性を評価するための基準情報となる。
なお、離散フーリエ変換器13、誤差補正部15及び電流誤差・位相誤差計算部30における各制御は、パーソナルコンピュータの演算処理部により実施されることが好ましい。
【0018】
次に、(2)電子式変流器8を含む被検査側系列について説明する。
電子式変流器8は、参照変流器6と異なり、試験電流5をファラデー効果などの様々な電流検出原理に基づき電圧信号に変換することができる。
この電子式変流器8は、誤差評価の試験対象とされ、本発明では、光ファイバ電流センサ方式の電子式変流器やロゴスキーコイル電流センサ方式の電子式変流器など、前記機能を有する電子式変流器を対象とすることができる。
【0019】
マージングユニット20は、パルス信号10及び前記電圧信号をパルス信号10に同期したサンプリング周波数に基づきA/D変換して生成される被検査サンプリング情報に基づいて、パルス信号10の1つのパルス信号の立ち上がり時を0として前記被検査サンプリング情報のサンプリングごとに順番をカウントし、次のパルス信号の立ち上がり時に0に戻すようにサンプリング番号を決定し、各サンプリング番号に対応する前記被検査サンプリング情報を含むパケットデータ21を生成する。
なお、前記被検査サンプリング情報は、電子式変流器8及びマージングユニット20の少なくともいずれかに付属するA/D変換部により生成される。このときのサンプリングレートは、IEC61850−9−2に基づき、4kHz又は12.8kHzである。
【0020】
本実施形態においては、2ch信号発生器2と商用電源3とは独立して構成されており、試験電流5は、パルス信号10と同期していない。このタイプの誤差評価装置を非同期試験電流型の誤差評価装置と呼ぶこととする。
【0021】
この非同期試験電流型の誤差評価装置においては、大電流での試験が可能である一方、非同期であることと各電力系統による影響により、試験電流5の位相角が変動しかつ周波数も変動する。試験電流の位相角が変動しても後述する位相誤差評価に大きな影響を与えないが、周波数変動については、注意を要する。即ち、マージングユニット20とデジタル電圧計11のサンプリング周波数が試験電流5の周波数に同期しない状況では、前記周波数変動が起こると、非同期のサンプリングとなり、スペクトル リーケージと呼ばれる、測定対象信号に存在しないはずの周波数成分がDFT後に現れること、またはその程度によってサンプリング計測の精度が著しく低下する。
そのため、デジタル電圧計11では、前記被検査サンプリング情報と同じくIEC61850−9−2で規定されたサンプリングレートでサンプリングデータが生成される必要がある。即ち、デジタル電圧計11と電子式変流器8との間で同じサンプリングレートを維持させておけば、両者の非同期サンプリングで発生するサンプリング誤差も同じとなり、最終的な誤差の比較計算上では、両者のサンプリング誤差を相殺させることができる。
【0022】
前記被検査サンプリング情報を含むパケットデータ21は、イーサネット(登録商標)を介してパーソナルコンピュータ側の被検査サンプリング情報抽出手段に送信される。
本例では、前記被検査サンプリング情報抽出手段が、パーソナルコンピュータに実装されたネットワークカード22とパケットフィルタ23とサンプリングデータ抽出部25で構成される。
【0023】
パケットデータ21は、イーサネットを介してパーソナルコンピュータ側に送信されるため、サンプリング番号でナンバリングされた前記被検査サンプリング情報が格納されたパケット情報(ここでは、このパケット情報をサンプルバリューパケット24(SVパケット24)と呼ぶ)以外に、不要なIPパケットを含む。
そのため、ネットワークカード22では、マージングユニット20で生成されるパケットデータ21のうち、SVパケット24の送信に基づき、前記イーサネットとのネットワークをオープンし、前記被検査サンプリング情報を抽出後、前記ネットワークをクローズするように制御される。
【0024】
パケットフィルタ23は、SVパケット24に格納された固有の情報(ヘッダ情報等)に基づき、パケットデータ21からSVパケット24のみを取り込むようにフィルタリングを行う。
【0025】
サンプリングデータ抽出部25では、SVパケット24に格納されたサンプリング番号に基づき、パルス信号10の1つのパルス信号の立ち上がり時から次のパルス信号が到来するまでの区間における前記被検査サンプリング情報として、サンプリングデータ26を抽出する。即ち、サンプリング番号が0とされるサンプリングデータからサンプリングデータを抽出し、所定の数のサンプリングデータを取得後、サンプリングデータの抽出を終了して、サンプリングデータ26を取得する。
【0026】
サンプリングデータ26の抽出が終了すると、ネットワークをクローズするようにネットワークカード22が制御される。なお、前記被検査サンプリング情報抽出手段の制御を含む具体的な制御手順については、別途図3を用いて後述する。
【0027】
高速フーリエ変換器27は、サンプリングデータ26をフーリエ変換して、前記1PPSのパルス信号10の周期で決定される周波数分解能ごとの被検査周波数スペクトラム情報(スペクトラムデータ28)を生成する。
【0028】
電流誤差・位相誤差計算部30は、スペクトラムデータ28に基づき、電流値及び位相値を算出する。この被検査側系列で算出した電流値及び位相値に対し、参照側系列で算出した基準情報となる電流値及び位相値との差分を算出する。
これにより、参照変流器6と比較した電子式変流器8の誤差を評価する。
【0029】
電子式変流器8の電流誤差(振幅誤差)及び位相誤差は、各電子式変流器の電流検出原理及びサンプリングに利用されるA/D変換の性能に依存する。
電子式変流器8の電流誤差(振幅誤差)及び位相誤差を適切に評価するためには、参照変流器6による試験電流5の電流測定も同じ測定期間中に行わなければならない。
そのため、前記実施形態においては、1PPSのパルス信号10と、該パルス信号10のパルスタイミングと同期したサンプルトリガー信号9を用いて同時測定を行うように制御をしている。
しかしながら、この同時測定を実施するためには、更に、参照側系列で取得されるサンプリングデータ12と、被検査側系列で取得されるサンプリングデータ26とを比較可能なサンプリングタイミングで取得して測定を行う必要がある。
この様子を図2、図3を用いて説明する。
【0030】
図2に示すように、先ず、マージングユニット20を先に測定スタートさせて、SVパケット24をイーサネット経由でパーソナルコンピュータに取り込む。ここで、マージングユニット20から出力される各サンプリング情報は、パルス信号10の1つのパルス信号の立ち上がり時から次のパルス信号の立ち上がり時までのサンプリング情報(図2中の4,000個のサンプリング情報)に限らず、測定スタート後、順次サンプリングされるサンプリング情報を含んでいる。
デジタル電圧計11では、マージングユニット20の測定スタート後、パルス信号10の最初のパルス信号の立ち上がり時まで、サンプリング動作を待機している。この最初のパルス信号の立ち上がり時に、パルス信号10と同期したサンプルトリガー信号に基づき、サンプリング動作を開始するとともに、次のパルス信号の立ち上がり時にサンプリング動作を終了し、サンプリング情報(図2中の4,000個のサンプリング情報)を取得する。取得後は、次のサンプリング動作まで待機する。
ここでは、マージングユニット20とデジタル電圧計11のそれぞれで同じサンプリングレートが維持され、両者の各サンプリング情報を比較可能とされるが、更にマージングユニット20のサンプリング情報からデジタル電圧計11のサンプリング情報と比較すべきサンプリング情報を抽出するように制御する必要がある。
【0031】
この制御手順を図3のフローチャートを用いて説明する。
先ず、マージングユニット20からSVパケット24を含むパケットデータ21の送信が開始されると、ネットワークカード22がオープン状態に制御され、パケットフィルタ23のフィルタリングにより、不要なIPパケットが除去され、SVパケット24のみが取得される。この時、サンプリングデータ抽出部25では、SVパケット24を受信してサンプリング番号をチェックする。サンプリング番号は、マージングユニット20に送信されるパケット信号10に基づき、パルス立ち上がり時のサンプリング番号が「0」となるようナンバリングされている。
【0032】
デジタル電圧計11(標準DVM)では、前述の通り、マージングユニット20の測定スタート後、パルス信号10と同期したサンプルトリガー信号に基づき、パルス信号10の最初のパルス信号の立ち上がり時からサンプリング動作を開始する。同時に、サンプリングデータ抽出部25(PC)では、サンプリング番号0のサンプリング情報から保存を開始する。
これにより、サンプリングデータ抽出部25で最初のサンプリング情報が保存されるタイミングと同時のタイミングで、デジタル電圧計11で最初のサンプリング情報が取得され、以降のサンプリング情報も同タイミングで取得、保存される。
【0033】
パルス信号の次の立ち上がり時に、デジタル電圧計11では、サンプルトリガー信号9に基づきサンプリング動作がストップされるとともに、サンプリングデータ抽出部25では、必要な数のサンプリングデータを確認し保存を終了する。また、この保存終了時にネットワークカード22をクローズするように制御する。
これにより、パルス信号10の1つのパルス信号の立ち上がり時から次の立ち上がり時までのタイミングで、同期されたサンプリング情報が、デジタル電圧計11とサンプリングデータ抽出部25のそれぞれで取得、保存される。
【0034】
次いで、デジタル電圧計11で取得されたサンプリング情報に対して、例えば離散フーリエ変換器13(DFT13)によるフーリエ変換処理が行われるとともに、サンプリングデータ抽出部25で保存されたサンプリング情報に対して、例えば高速フーリエ変換器27(FFT27)によるフーリエ変換処理が行われ、それぞれのスペクトラムデータ14,28に基づき、電流誤差・位相誤差計算部30では、試験電流5の電流値及び位相値を系列ごとにそれぞれ算出する。なお、参照側のスペクトラムデータ14は、参照情報として正確性が求められるため、誤差補正部15による誤差補正が行われる。
【0035】
そして、電流誤差・位相誤差計算部30では、系列ごとに算出された試験電流5の2つの電流値及び位相値の間で差分をとり、この差を電子式変流器8(ECT8)の誤差として算出する。
【0036】
ここで、測定を終了してもよいし、次の測定を開始させてもよく、その選択にしたがった情報を入力する。
測定の終了が選択されると、マージングユニット20のSVパケット24の送信がストップされる。
【0037】
以上の制御により、本実施形態に係る非同期試験電流型の誤差評価装置を用いて、実際に評価を行った結果を図4a及び図4bに示す。なお、図4aは、電流値の誤差を示すグラフであり、図4bは、位相値の誤差を示すグラフである。両図では、試験電流の大きさごとの評価結果がプロットされている。また、両図で上下対称に示される折れ線は、IEC60044−8で定められている確度階級0.2Sの電流値誤差及び位相値誤差に関する限度値である。
【0038】
これら図4a及び図4bに示されるように、評価結果は、確度階級0.2Sの誤差限度以内に収まっていることが確認できる。なお、この測定においては、電子式変流器8として光ファイバ電流センサタイプの電子式変流器の誤差を評価している。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価装置の概略を図5を用いて説明する。
第2の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価測定装置においては、前記第1の実施形態に係る非同期試験電流型の誤差測定装置と異なり、試験電流まで、信号発生手段から発生される1PPSのパルス信号と同期させるように構成されている。
即ち、信号発生手段を3ch信号発生器2’で構成して、パルス信号10と同期させた試験電流信号3’を発生させ、この試験電流信号3’を電流アンプ4’(V/Iアンプ4’)で増幅させて試験電流5とする。なお、これ以外の構成は、前記第1の実施形態に係る非同期試験電流型の誤差測定装置と同様であるため、説明を省略する。また、第2の実施形態に係る電子式変流器の誤差評価測定装置を同期試験電流型の誤差測定装置と呼ぶ。
【0040】
この第2の実施形態に係る同期試験電流型の誤差測定装置では、前記第1の実施形態に係る非同期試験電流型の誤差測定装置と比較して、試験電流5の大電流化に一定の制限がかかるものの、常に試験電流5の位相角を変化させることなく、また、試験電流5の周波数変動を非常に小さくすることができる。よって、測定時の位相変動は、3ch信号発生器2’と電流アンプ4’の影響だけであり、繰り返し試験を行っても試験結果で得られる位相角は非常に安定である。また、3ch信号発生器2’による周波数変動は、1PPSのパルス信号10及びサンプルトリガー信号9の周波数変動と同期しているため、常時の同期サンプリング計測が実現できる。
したがって、第1の実施形態に係る非同期試験電流型の誤差評価装置では、周波数変動の影響を相殺するために参照側と被検査側のサンプリング周波数を同一にする必要があったが、第2の実施形態に係る同期試験電流型の誤差測定装置ではその必要がなくなり、それぞれ異なるサンプリング周波数でのサンプリングが可能である。
【0041】
第2の実施形態に係る同期試験電流型の誤差評価装置を用いて、実際に評価を行った結果を図6a及び図6bに示す。なお、図6aは、電流値の誤差を示すグラフであり、図6bは、位相値の誤差を示すグラフである。両図では、試験電流の大きさごとの評価結果がプロットされている。また、両図で上下対称に示される折れ線は、IEC60044−8で定められている確度階級0.2Sの電流値誤差及び位相値誤差に関する限度値である。
【0042】
これら図6a及び図6bに示されるように、評価結果は、確度階級0.2Sの誤差限度以内に収まっていることが確認できる。なお、この測定においては、電子式変流器8として光ファイバ電流センサタイプの電子式変流器の誤差を評価している。
【0043】
以上の通り、本発明の電子式変流器の誤差評価測定装置は、IEC60044−8及びIEC61850−9−2に対応して、有効な誤差評価試験を実施することができる。
なお、本明細書では、第1の実施形態及び第2の実施形態に基づき、本発明の電子式変流器の誤差評価測定装置を説明したが、本発明の技術的思想に則る限り、このほかの手段を適宜採用して、本発明の電子式変流器の誤差評価測定装置を構成することができる。
【符号の説明】
【0044】
1:基準クロック、2:2ch信号発生器、2’:3ch信号発生器、3:商用電源、3’:試験電流信号3’、4:スライダック及びトランス、4’:電流アンプ(V/Iアンプ)、5:試験電流、6:参照変流器(CT)、7:シャント、8:電子式変流器(ECT)、9:サンプルトリガー信号、10:パルス信号(1PPS)、11:デジタル電圧計(DVM)、12:サンプリングデータ、13:離散フーリエ変換器(DFT)、14:スペクトラムデータ、15:誤差補正部、16:補正データ、20:マージングユニット(MU)、21:パケットデータ、22:ネットワークカード(NIC)、23:パケットフィルタ、24:サンプルバリューパケット(SVパケット)、25:サンプリングデータ抽出部、26:サンプリングデータ、27:高速フーリエ変換器(FFT)、28:スペクトラムデータ、30:電流誤差・位相誤差計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された基準クロックに基づき、1PPSのパルス信号及び該パルス信号に同期したサンプルトリガー信号を発生させる信号発生手段と、
交流電流として試験電流を発生させる電流発生手段と、
前記試験電流を変流して2次試験電流を発生させる参照変流器と、
前記2次試験電流を電圧情報として参照電圧に変換する電流電圧変換手段と、
1つの前記パルス信号の立ち上がりから次の前記パルス信号が到来するまでの区間において、前記参照電圧の電圧波形信号を前記サンプルトリガー信号に基づいてA/D変換して参照サンプリング情報を生成するサンプラーと、
前記参照サンプリング情報をフーリエ変換して、前記パルス信号の周期で決定される周波数分解能ごとの参照周波数スペクトラム情報を得る参照側周波数変換手段と、
前記試験電流を電圧信号に変換する電子式変流器と、
前記パルス信号及び前記電圧信号を前記パルス信号に同期したサンプリング周波数に基づきA/D変換して生成される被検査サンプリング情報に基づき、1つの前記パルス信号の立ち上がり時を0として前記被検査サンプリング情報のサンプリングごとに順番をカウントし、次の前記パルス信号の立ち上がり時に0に戻すようにサンプリング番号を決定し、前記各サンプリング番号に対応する前記被検査サンプリング情報を含むパケット情報を生成するマージングユニットと、
イーサネットを介して送信される前記パケット情報から、前記サンプリング番号に基づき、1つの前記パルス信号の立ち上がりから次の前記パルス信号が到来するまでの区間における前記被検査サンプリング情報を抽出する被検査サンプリング情報抽出手段と、
前記抽出された被検査サンプリング情報をフーリエ変換して、前記パルス信号の周期で決定される周波数分解能ごとの被検査周波数スペクトラム情報を得る被検査側周波数変換手段と、
前記参照周波数スペクトラム情報から前記試験電流の電流値及び位相値を算出するとともに、前記被検査周波数スペクトラム情報から前記試験電流の電流値及び位相値を算出して、前記電子式変流器における電流値及び位相値の誤差を算出する誤差算出手段と、
を有することを特徴とする電子式変流器の誤差評価装置。
【請求項2】
サンプラーが、被検査サンプリング情報と同じサンプリングレートでサンプリングを行う請求項1に記載の電子式変流器の誤差評価装置。
【請求項3】
電流発生手段が信号発生手段から送信されるパルス信号に基づき、前記パルス信号及びサンプルトリガー信号に同期した試験電流を発生させる請求項1に記載の電子式変流器の誤差評価装置。
【請求項4】
参照側周波数変換手段及び被検査側周波数変換手段の少なくともいずれかが、高速フーリエ変換によるフーリエ変換を行う請求項1から3のいずれかに記載の電子式変流器の誤差評価装置。
【請求項5】
参照変流器、電流電圧変更手段及びサンプラーが有する固有の誤差情報を予め測定しておき、誤差を含む状態の参照周波数スペクトラム情報に対し、前記誤差情報に基づき、前記誤差の補正を行う誤差補正手段を更に有する請求項1から4のいずれかに記載の電子式変流器の誤差評価装置。
【請求項6】
参照側周波数変換手段、誤差補正手段、被検査サンプリング情報抽出手段、被検査側周波数変換手段及び誤差算出手段における制御がパーソナルコンピュータの演算処理部で実施される請求項5に記載の電子式変流器の誤差評価装置。
【請求項7】
パーソナルコンピュータがサンプリング番号に対応する被検査サンプリング情報を含むサンプルバリューパケットの送信状況に応じて、イーサネットとのネットワークをオープン及びクローズするネットワークカードを有し、
被検査サンプリング情報抽出手段は、前記ネットワークカードに対して、マージングユニットで生成されるパケット情報のうち、前記サンプルバリューパケットの送信に基づき、前記イーサネットとのネットワークをオープンし、前記被検査サンプリング情報を抽出後、前記ネットワークをクローズする制御を行う請求項6に記載の電子式変流器の誤差評価装置。
【請求項8】
パーソナルコンピュータがパケットフィルタ部を有し、
該パケットフィルタ部が、前記パーソナルコンピュータが受信する全てのIPパケットのうち、サンプルバリューパケット以外のIPパケットを取り込まないようにするフィルタリングを行う請求項6から7のいずれかに記載の電子式変流器の誤差評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【公開番号】特開2013−53855(P2013−53855A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190107(P2011−190107)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000220907)東光電気株式会社 (73)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】