説明

電子放出素子及びその製造方法、並びに、電子放出装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置

【課題】電子放出可能電圧を低電圧化し、消費電力の低減と長時間動作の安定化と可能にする電子放出素子を提供する。
【解決手段】本発明の電子放出素子1では、電極基板2と薄膜電極3との間に設けられた電子加速層4が、導電微粒子8と、導電微粒子8の平均径よりも大きい平均径の絶縁体微粒子7と、結晶性電子輸送剤9とを含み、結晶性電子輸送剤9は、結晶化している。よって、電子放出素子1における電流路の形成が容易になり、従来の電子放出素子に比べて低電圧での電子放出が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより電子を放出する電子放出素子、及びその製造方法、並びに電子放出素子を用いた、電子放出装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出素子として、スピント(Spindt)型電極、カーボンナノチューブ(CNT)型電極などが知られている。このような電子放出素子は、例えば、FED(Field Emision Display)の分野に応用検討されている。このような電子放出素子は、尖鋭形状部に電圧を印加して約1GV/mの強電界を形成し、トンネル効果により電子放出させる。
【0003】
しかしながら、これら2つのタイプの電子放出素子は、電子放出部の表面近傍が強電界であるため、放出された電子は電界により大きなエネルギーを得て気体分子を電離しやすくなる。気体分子の電離により生じた陽イオンは、強電界により電子放出素子の表面方向に加速衝突し、スパッタリングによる電子放出素子の破壊が生じるという問題がある。
【0004】
また、大気中にある酸素は、電離エネルギーよりも解離エネルギーの方が低いため、イオンの発生よりも先にオゾンを発生する。オゾンは人体に有害である上に、強い酸化力にて様々なものを酸化することから、電子放出素子の周囲の部材にダメージを与えるという問題が存在する。このような問題に対処するために、周囲の部材には、耐オゾン性の高い材料を用いなければならないという制限が生じている。
【0005】
他方、上記とは別のタイプの電子放出素子として、MIM(Metal Insulator Metal)型やMIS(Metal Insulator Semiconductor)型の電子放出素子が知られている。これらは電子放出素子内部の量子サイズ効果及び強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面から電子を放出させる面放出型の電子放出素子である。これらは素子内部の電子加速層で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。従って、MIM型及びMIS型の電子放出素子においては、上記スピント型やCNT型、BN型の電子放出素子のように、気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題やオゾンが発生するという問題を克服できる。
【0006】
また、本願発明者らによる特許文献1には、薄膜電極と電極基板とから成る2枚の電極の間に導電微粒子と絶縁体物質から成る微粒子とを含む電子加速層を設け、両電極間に電位差を与えることで、薄膜電極から電子を放出する電子放出素子が開示されている。
【0007】
この特許文献1の電子放出素子のように、電子加速層として金属などの導電微粒子を分散させた絶縁体膜を用いる構成では、電子放出素子の電圧電流特性は、絶縁体膜内における導電微粒子の量あるいは分散状態で制御可能と成る。本願発明者らは、特許文献1に開示された様に、導電微粒子の添加量あるいは分散状態の度合いを適宜調整することで、電子放出量を増加させることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−146891公報(平成21年7月2日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示された電子放出素子は、駆動電圧が高いため、低電圧化のための改善の余地を有している。
【0010】
駆動電圧の低電圧化により、第一に、電子放出素子の消費電力を低下させることが可能と成る。第二に、電子放出素子を駆動する電源の負担が減ることから、素子の高周波パスル波形駆動が容易となる。これらの結果、電子放出素子の駆動寿命の延命や消費電力の低減、そして高周波パルス駆動回路の製造コスト低減等、多大なメリットをもたらす。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、従来に比べて低印加電圧で同等かそれ以上の量の電子放出を可能とし、長寿命であり、且つ安価に製造可能な電子放出素子等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、結晶性電子輸送剤を導電微粒子および絶縁体微粒子を分散させた分散溶液に添加したものを用いて電子加速層を形成し、この結晶性電子輸送剤を電子加速層で結晶化させることで、より低印加電圧にて電子放出が可能となることを見出し、本願発明を行うに至った。
【0013】
すわなち、本発明の電子放出素子は、対向する電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子であって、前記電子加速層は、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、前記導電微粒子の平均径よりも大きい平均径の絶縁体微粒子と、結晶性電子輸送剤とを含み、前記結晶性電子輸送剤は、結晶化していることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によれば、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、電子加速層における結晶化した結晶性電子輸送剤と、各微粒子との界面に電流路が形成され、その一部の電荷が印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって、薄膜電極より放出される。
【0015】
結晶粒界の電気特性は粒界・界面の整合性に依存すると言われており、その整合性が高くなるほど、静電ポテンシャル障壁高さは低減すると考えられる。そのため、上記構成において電荷の伝導は、結晶性電子輸送剤の結晶化により形成された、より低い電位障壁部分を介して可能と成り、従来素子に比べて低い印加電圧でも電流路の形成ができると考えられる。
【0016】
よって、電子加速層に含まれる結晶性電子輸送剤が結晶化しているという上記構成を有することで、従来に比べて低印加電圧で同等かそれ以上の量の電子放出を可能とすることができる。低電圧化により、電子放出素子の駆動寿命の延命や消費電力の低減を図ることができる。また、電子加速層に高価な材料を用いることなく、高効率で電子放出可能な電子放出素子を安価に提供することができる。
【0017】
ここで、電子加速層内部での弾道電子の発生機構については、多くの不明な点を残すが、電子放出素子表面から次のように放出されると考えられる。電子加速層内部に形成された電流路を伝導する電荷の一部が、局所的に形成された高電界部で加速され、ホットエレクトロン(弾道電子)となり、このホットエレクトロンは、電子加速層内に形成された電界に沿って弾性衝突を繰り返しながら進み、その一部が表面の薄膜電極を透過あるいは電極の隙間からすり抜けて、電子放出素子表面から放出されるものと考えられる。
【0018】
また、電子加速層を形成する際の結晶性電子輸送剤の添加量には最適値があり、添加量が多すぎる場合にはあまりにも電流が流れ易くなり、電子放出可能なだけの電圧を印加できなくなる。また添加量が少なすぎると十分な電流量が得られず、電子放出が得られなくなる。結晶性電子輸送剤の最適な添加量は、素子の抵抗値に関連するパラメータ(例えば、導電性微粒子の添加量、電子加速層の層厚、後述する抵抗層の膜厚等)と関連して設計されるものであり、この添加量を適切に制御することで、電子放出素子から十分な電子放出が得られる。
【0019】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、前記結晶性電子輸送剤は、前記電子加速層を層の厚み方向に貫いて結晶化して存在していてもよい。
【0020】
結晶性電子輸送剤が、電子加速層を層の厚み方向に貫いて結晶化していることで、電子加速層を貫いた結晶性電子輸送剤の結晶と、各微粒子との界面に電流路が形成される。よって、より多くの量の電子放出が期待できる。
【0021】
ここで、前記結晶性電子輸送剤は、針状に結晶化してもよい。針状結晶であると、電子加速層を層の厚み方向に突き抜けて成長しやすく、電流路が容易に形成される。
【0022】
また、前記結晶性電子輸送剤は、前記絶縁体微粒子および導電微粒子を分散させた分散溶液に可溶であり、かつ、当該分散溶液を用いて前記電子加速層を形成した後に再結晶化するものであるものを用いることで、容易に上記構成の電子放出素子を形成することができる。
【0023】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記導電微粒子を成す導電体が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を効果的に図ることができる。
【0024】
また、本発明の電子放出素子では、上記構成に加えて、上記絶縁体微粒子の平均粒径が10〜1000nmであるのが好ましく、10〜200nmであるのがより好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであってもよく、例えば平均径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。絶縁体微粒子の粒子径が小さすぎると、粒子間に働く力が強いために粒子が凝集しやすく、分散が困難になる。また、絶縁体微粒子の粒子径が大きすぎると分散性は良いけれども、抵抗調整のために電子加速層の層厚や、表面電導物質の配合比を調整することが困難になる。
【0025】
ここで、本発明の電子放出素子において、前記結晶性電子輸送剤は、例えば、ジフェノキノンを用いることができる。しかし、これに限定されない。
【0026】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加えて、上記電子加速層の層厚は、12〜6000nmであるのが好ましく、300〜1000nmであるのがより好ましい。また、電子加速層の層厚を、上記範囲とすることにより、電子加速層の層厚を均一化すること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となる。その結果、電子放出素子表面の全面から一様に電子を放出させることが可能となり、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
【0027】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加えて、上記絶縁体微粒子は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいてもよい。又は有機ポリマーを含んでいてもよい。上記絶縁体微粒子が、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いことにより、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。特に、絶縁体微粒子として酸化物(SiO、Al、及びTiOの)を用い、電導微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化をより一層発生し難くなるため、大気圧中でも安定して動作させる効果をより顕著に発現させることができる。
【0028】
ここで、上記構成の電子放出素子では、低電圧での電子放出を可能にする半面、素子内抵抗が著しく低下する。そのため、電圧の繰り返し印加に対する電子放出素子の耐圧維持が困難と成る。このため、電子放出素子の素子内を流れる電流を制限し、異常な電流上昇を抑制する目的で、電子加速層上に抵抗層を付加するのが好ましい。抵抗層を付加することで、低電圧で且つ安定に電子放出可能な電子放出素子が得られる。
【0029】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加えて、前記薄膜電極は、前記電子加速層に接する側から順に、抵抗層と金属層とが積層されてなり、前記抵抗層は、アモルファスカーボン膜または窒化膜からなり、前記金属層は、金、銀、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0030】
薄膜電極が抵抗層を有することで、素子内を流れる電流を制限し、異常な電流上昇を抑制することができる。なお上記抵抗層は、電子加速層と表面の金属層との間に存在することになる。
【0031】
抵抗層として用いられるアモルファスカーボン膜は、所謂SP2混成軌道を有するグラファイト構造のクラスター(数百個程度の原子の塊)が無秩序に堆積したものである。グラファイト自体は電気伝導に優れた材質であるが、クラスター間の電気伝導は良好とは言えない堆積状態にあるため、結果的に抵抗層として機能する。また、窒化膜も抵抗層として機能する。
【0032】
また、電子放出素子の表面となる金属層に、金、銀、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
【0033】
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
【0034】
ここで、電源部から供給される電圧は直流電圧でも良いが、パルス波形の電圧を用いることで連続駆動時の電子放出特性がさらに安定する。その理由を以下に述べる。
【0035】
上記の構造を有する本発明の電子放出素子は、再結晶した電子輸送剤により電流が極めて流れ易くなっている。薄膜電極が、上記のようにアモルファスカーボン膜または窒化膜と金属膜とが積層されて形成されていても、つまり、電子加速層と金属膜との間に抵抗層として機能するアモルファスカーボン膜あるいは窒化膜を有していても、長時間連続駆動による素子内電流の増加は避けられない。直流電圧を印加した時の素子内電流の増加は、電流路中で抵抗成分として機能する部分がゆっくりと破壊することによると考えられ、最終的に素子の短絡、そして電子放出の途絶を引き起こす。この様な素子内電流の増加を抑制するために、印加電圧をパルス波形の電圧とすることで、電流路中の抵抗成分として機能する部分の破壊を抑制可能と成る。
【0036】
上記の通り、電子放出素子の構造の改良と印加電圧の波形の変更により、低電圧で安定な電子放出が可能な電子放出装置を提供することができる。
【0037】
そして、さらに、このような本発明の電子放出装置を用いて構成された、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置も、本発明の範疇としている。
【0038】
本発明の電子放出素子の製造方法は、対向する電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子の製造方法であって、絶縁体微粒子、導電微粒子、及び結晶性電子輸送剤を溶媒に分散させてなる微粒子分散溶液を、前記電極基板上に塗布して、前記電子加速層を形成する電子加速層形成工程と、前記電子加速層の上に前記薄膜電極を形成する薄膜電極形成工程と、前記結晶性電子輸送剤を結晶化させる結晶化工程と、を含むことを特徴としている。
【0039】
さらに、上記製造方法と、長寿命且つ低印加電圧で十分な量の電子放出を可能な電子放出素子を、しかも安価に製造することができる。
【0040】
また、前記結晶化工程では、前記結晶性電子輸送剤を、前記電子加速層内外に針状に結晶化させてもよい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の電子放出素子では、以上のように、前記電子加速層は、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、前記導電微粒子の平均径よりも大きい平均径の絶縁体微粒子と、結晶性電子輸送剤とを含み、前記結晶性電子輸送剤は、結晶化している。
【0042】
上記の構成によれば、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、電子加速層における結晶化した結晶性電子輸送剤と、各微粒子との界面に電流路が形成され、その一部の電荷が印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって、薄膜電極より放出される。
【0043】
結晶粒界の電気特性は粒界・界面の整合性に依存すると言われており、その整合性が高くなるほど、静電ポテンシャル障壁高さは低減すると考えられる。そのため、上記構成において電荷の伝導は、結晶性電子輸送剤の結晶化により形成された、より低い電位障壁部分を介して可能と成り、従来素子に比べて低い印加電圧でも電流路の形成ができると考えられる。
【0044】
よって、電子加速層に含まれる結晶性電子輸送剤が結晶化しているという上記構成を有することで、従来に比べて低印加電圧で同等かそれ以上の量の電子放出を可能とすることができる。低電圧化により、電子放出素子の駆動寿命の延命や消費電力の低減を図ることができる。また、電子加速層に高価な材料を用いることなく、高効率で電子放出可能な電子放出素子を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態の電子放出素子を用いた電子放出装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1の電子放出装置に備えられた電子放出素子の電子加速層付近の模式図である。
【図3】図1の電子放出素子の表面状態を拡大した写真である。
【図4】電子放出素子に対して実施する電子放出実験の測定系を示す説明図である。
【図5】図1の電子放出素子の表面状態を示すSEM写真である。
【図6】電子加速層の作成に用いる微粒子分散溶液に含まれる、結晶性電子輸送剤の添加量を0g、0.0082g、0.04gと変化させて作成した電子放出素子の素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図7】電子加速層の作成に用いる微粒子分散溶液に含まれる、結晶性電子輸送剤の添加量を0g、0.0082g、0.04gと変化させて作成した電子放出素子の電子放出電流を測定した結果を示す図である。
【図8】電子加速層の作成に用いる微粒子分散溶液に含まれる、結晶性電子輸送剤の添加量を0.0082gとし、電子加速層内で再結晶化前の電子放出素子と再結晶化後の電子放出素子とについて、素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図9】電子加速層の作成に用いる体微粒子分散溶液における、結晶性電子輸送剤の添加量を0.0082gとし、電子加速層内で再結晶化前の電子放出素子と再結晶化後の電子放出素子について、電子放出電流を測定した結果を示す図である。
【図10】電子加速層内で結晶性電子輸送剤が再結晶化した電子放出素子について、真空中にてパルス電圧駆動したときの電子放出電流の経時変化を示す図である。
【図11】電子加速層内で結晶性電子輸送剤が再結晶化した電子放出素子について、大気中にてパルス電圧駆動したときの電子放出電流の経時変化を示す図である。
【図12】薄膜電極を金及びパラジウムからなる金属膜のみとした電子放出素子と、薄膜電極をアモルファスカーボン膜と金及びパラジウムからなる金属膜とした電子放出素子とについて、素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図13】薄膜電極を金及びパラジウムからなる金属膜のみとした電子放出素子と、薄膜電極をアモルファスカーボン膜と金及びパラジウムからなる金属膜とした電子放出素子とについて、電子放出電流を測定した結果を示す図である。
【図14】図1の電子放出装置を用いた帯電装置の一例を示す図である。
【図15】図1の電子放出装置を用いた電子線硬化装置の一例を示す図である。
【図16】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの一例を示す図である。
【図17】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの他の一例を示す図である。
【図18】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスの更に別の一例を示す図である。
【図19】図1の電子放出装置を用いた自発光デバイスを具備する画像表示装置の一例を示す図である。
【図20】図1の電子放出装置を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の一例を示す図である。
【図21】図1の電子放出装置を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る電子放出素子、電子放出装置の実施形態及び実施例について、図1〜21を参照して説明する。なお、以下に記述する実施の形態及び実施例は、本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって何ら限定されるものではない。
【0047】
〔実施の形態1〕
(電子放出素子及び電子放出装置の構成)
図1は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置11の構成を示す模式図である。図1に示すように、電子放出装置11は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1と電源10とを有する。電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に挟まれて存在する電子加速層4とからなる。また、電極基板2と薄膜電極3とは電源(電源部)10に繋がっており、対向して配置された電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加できるようになっている。電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加することで、電極基板2と薄膜電極3との間、つまり、電子加速層4に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極3を通過(透過)して、或いは絶縁体微粒子間の隙間の影響から生じる薄膜電極3の孔(隙間)もしくは、絶縁体微粒子の段差等からすり抜けて外部へと放出される。
【0048】
下部電極となる電極基板2は、電極としての機能に付加して、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有する基板であれば、特に制限なく、用いることができる。具体的には、例えばSUSやAl、Ti、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板を挙げることができる。また、ガラス基板やプラスティック基板等の絶縁体基板の表面(電子加速層4との界面)に、金属などの導電性物質を電極として付着させたものであってもよい。絶縁体基板の表面に付着させる上記導電性物質としては、導電性に優れ、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、特に問わないが、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよい。但し、これら材料及び数値に限定されることはない。
【0049】
薄膜電極3は、電子加速層4の電流量を制限する目的から、抵抗層5と金属層6との積層構造を有する。
【0050】
抵抗層5は、アモルファスカーボン膜または窒化膜を用いることができる。アモルファスカーボンを用いる場合、抵抗層5は、所謂SP2混成軌道を有するグラファイト構造のクラスター(数百個程度の原子の塊)が無秩序に堆積したものである。グラファイト自体は電気伝導に優れた材質であるが、クラスター間の電気伝導は良好とは言えない堆積状態にあるため、結果的に抵抗層として機能する。
【0051】
抵抗層5として窒化膜を用いる場合、例えば、スパッタ法で形成可能なSiN、TaN等を用いればよい。なお、処理の容易さ、処理時間の長さと基板温度上昇の影響等から、抵抗層5としては、窒化膜よりもアモルファスカーボン膜の使用が適していると考えられる。
【0052】
金属層6は、金属材料から形成される。金属材料としては、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく、用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロスなく透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどを挙げることができる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物及び硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。
【0053】
また、薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、15〜100nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極3の金属層6を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。また、アモルファスカーボン膜から成る抵抗層5を抵抗体として機能さるには、5nm以上は必要と成る。
【0054】
一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための薄膜電極の最大膜厚は100nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の放出が極端に減少してしまう。弾道電子の放出量減少は、薄膜電極3で弾道電子の吸収或いは反射による電子加速層4への再捕獲が生じるためと考えられる。
【0055】
電子加速層4は、図2に示すように、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子8と、導電微粒子8の平均粒径よりも大きい絶縁体微粒子7と、結晶性電子輸送剤9とを含んでいる。図2は、図1の電子放出素子1の電子加速層4付近を拡大した模式図である。
【0056】
絶縁体微粒子7の材料としては、絶縁性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、SiO、Al、TiOといったものが実用的となる。また、絶縁体微粒子5として、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよい。有機ポリマーから成る微粒子としては、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)や、日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。
【0057】
また、絶縁体微粒子7は、材質の異なる2種類以上の粒子を用いてもよい。また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、さらには、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。絶縁体微粒子7の平均粒径は、10〜1000nmであることが好ましく、10〜200nmがより好ましい。
【0058】
導電微粒子8の材料としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような導電体でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、抗酸化力が高い導電体である必要があり、貴金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような導電微粒子8は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。弾道電子の生成の原理については後段で記載する。
【0059】
ここで、導電微粒子8の平均粒径は、導電性を制御する必要から、絶縁体微粒子7の平均粒径よりも小さくなければならず、3〜10nmであるのがより好ましい。このように、導電微粒子8の平均粒径を、絶縁体微粒子7の平均粒径よりも小さく、好ましくは3〜10nmとすることにより、微粒子層5内で、導電微粒子8による導電パスが形成されず、微粒子層5内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子8を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
【0060】
なお、導電微粒子8の周囲には、導電微粒子8の大きさよりも小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子8の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子8の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、導電微粒子8の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子8の大きさよりも小さい絶縁体物質が導電微粒子8を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子8の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
【0061】
結晶性電子輸送剤9は、絶縁体微粒子7および導電微粒子8を分散させた分散溶液に可溶な物質であり、電子加速層4を製造直後では、図1及び図2に示されるような針状結晶としては存在しない。しかし、室温下で数十時間静置することで、結晶化が進行し図1及び図2に図示されるような結晶化した構造となる。結晶性電子輸送剤9の結晶化は、場所、結晶の成長方向はランダムであり、電子加速層4内を平面方向に成長したり、電子加速層4を面と垂直方向に突き抜けて成長したりする。図3は、再結晶化後の電子放出素子1の表面の写真を示す図である。図3の中央の四角い部分は薄膜電極3であり、その中に再結晶化した電子輸送剤9が線状に点在するのが分かる。図3において、結晶化した電子輸送剤9に矢印を設けている。
【0062】
本発明において、結晶性電子輸送剤9は電子加速層4内で再結晶化することで、その能力を発揮する。結晶粒界の電気特性は粒界または界面の整合性に依存すると言われており、その整合性が高くなるほど、静電ポテンシャル障壁高さは低減すると考えられる。本実施の形態の電子放出素子1の構成において、電荷の伝導は、結晶性電子輸送剤9の結晶、特に針状結晶の成長により偶然に形成された、より低い電位障壁部分を介して可能と成る。そのため、結晶性電子輸送剤9が結晶化する前と比べて、結晶化後は、低い印加電圧でも電流路の形成ができるものと考えられる。このような、結晶性電子輸送剤9として、例えば、ジフェノキノンを用いることができるが、これには限定されない。
【0063】
電子加速層4への結晶性電子輸送剤9の添加は、後述のように、電子加速層4を構成する絶縁体微粒子7と導電性微粒子8とを分散溶媒に分散した分散溶液に添加することで行う。ここで、結晶性電子輸送剤9は分散溶液に溶解してさえいればよいのだが、絶縁体微粒子7及び導電性微粒子8の分散より先に結晶性電子輸送剤9を分散溶媒に溶解してしまうと、溶媒の粘度が上昇し、絶縁体微粒子7及び導電性微粒子8の分散に要する時間が長くなる傾向にある。よって、絶縁体微粒子7と導電性微粒子8とを分散溶媒に分散した後に、結晶性電子輸送剤9を添加するのが好ましい。
【0064】
結晶性電子輸送剤9の電子輸送能は、該分子間をエレクトロンホッピングサイトとして機能する必要があり、添加濃度と電子輸送能とは比例関係にある。また、結晶性電子輸送剤9の添加量は、ベースとなる電子加速層4の構造に依存する。前述の特許文献1に開示される通り、電子加速層4を絶縁体微粒子7と導電性微粒子8とで構成することで、素子内を電流が流れる。電子加速層における微粒子全体(絶縁体微粒子7及び導電性微粒子8)の質量に対する各微粒子の質量割合を、絶縁体微粒子7:導電性微粒子8=8:2とした場合、結晶性電子輸送剤9を極々少量添加すると、電子輸送剤の電子輸送能が機能する以上に、高分子が添加されることによる抵抗の増加が引き起こされる。その結果、電子加速層4を流れる素子内電流は、減少する傾向を示す。また、結晶性電子輸送剤9の添加量を増加させると、電子加速層4を流れる素子内電流は単純に増加傾向を示す。
【0065】
また、結晶性電子輸送剤9は、電子加速層4内で再結晶させることで、素子内電流量の増加を達成する。
【0066】
単に結晶性電子輸送剤9の添加量を増加させるだけでは、前述の通り電子輸送剤の分子間を、選択的に集中して電流が流れることになり、電流路途中に形成されていると考えられる強電界部(つまりミクロに見て電子の加速箇所として働く抵抗部)での電子の加速が働かず、弾道電子を生じない。他方、結晶性電子輸送剤9を再結晶化させることで素子内電流は増加し、且つ結晶粒界を介して絶縁体微粒子7および導電性微粒子8の界面を流れる電流は、弾道電子を極めて効率よく弾道電子を生成可能と成る。
【0067】
結晶性電子輸送剤9の結晶化は、空孔を多数有する絶縁体微粒子7に浸透した結晶性電子輸送剤9の溶解液が、大気圧中の室温環境下でゆっくりとその溶媒を蒸発させる過程で可能と成る。
【0068】
結晶化後の結晶の量と電子加速層4の電流特性とは、単純に比例関係にある。もちろん結晶が多いほど電子加速層4内の素子内電流は多くなるが、繰り返し通電に対する耐圧も脆くなる傾向にあり、素子内の短絡が発生し易くなる。
【0069】
このように、結晶性電子輸送剤9の添加量には最適値があり、電子放出素子1内に流れる電流量を鑑みて、最適に設定するのが好ましいが、一方で、素子に関わる材料パラメータに強く依存するため、一概には言い難い。しかしながら、後述のように、絶縁体微粒子7および導電性微粒子8が分散された分散溶液を滴下して、スピンコート法で電子加速層4を成膜する条件において、結晶性電子輸送剤9の添加量は、次の量が好ましい。電子加速層4を構成する絶縁体微粒子7の質量に対する結晶性電子輸送剤9の質量は、5%程度であることが好ましい。また対溶媒比で0.82%とするのが好ましい。
【0070】
電子加速層4の層厚は、層厚を均一化できることや、層厚方向における加速層の抵抗調整を可能にする必要もある。これらのことを鑑みて、電子加速層4の層厚としては、12〜6000nmが好ましく、300〜1000nmがより好ましい。
【0071】
なお、電源10から供給される電圧は直流電圧でも良いが、パルス波形の電圧を用いることで連続駆動時の電子放出特性がさらに安定する。その理由を以下に述べる。
【0072】
電子放出素子1は、再結晶した結晶性電子輸送剤9により電流が極めて流れ易くなっている。薄膜電極3が、上記のように抵抗膜5と金属膜6とが積層されて形成されていても、つまり、電子加速層4と金属膜6との間に抵抗層5を有していても、長時間連続駆動による素子内電流の増加は避けられない。直流電圧を印加した時の素子内電流の増加は、電流路中で抵抗成分として機能する部分がゆっくりと破壊することによると考えられ、最終的に素子の短絡、そして電子放出の途絶を引き起こす。この様な素子内電流の増加を抑制するために、電源10からの印加電圧をパルス波形の電圧とすることで、電流路中の抵抗成分として機能する部分の破壊を抑制可能と成る。
【0073】
よって、電子放出素子1の構造及び印加電圧をパルス波形とすることにより、低電圧で安定な電子放出が可能な電子放出装置11を提供することができる。
【0074】
(電子放出素子の製造方法)
次に、電子放出素子1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0075】
まず、分散溶媒に、絶縁体微粒子7と導電性微粒子8とを順に投入し、超音波分散器にかけて分散させた後、結晶性電子輸送剤9を投入して、再び超音波分散器にかけて分散させて微粒子分散溶液Aを得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。
【0076】
ここで、分散溶媒としては、結晶性電子輸送剤9を溶解でき、かつ、塗布後に蒸発するものであれば、特に制限なく用いることができる。分散溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン等を用いることができる。
【0077】
そして、上記のように作成した微粒子分散溶液Aを、電極基板2上に塗布して、電子加速層4を形成する(電子加速層形成工程)。塗布方法として、例えば、スピンコート法を用いることができる。この場合、微粒子分散溶液Aを電極基板2上に滴下し、スピンコート法を用いて、電子加速層4となる薄膜を形成する。微粒子分散溶液Aの滴下、スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで、電子加速層4を所定の膜厚にすることができる。
【0078】
なお、電子加速層4の成膜には、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法も用いることができる。
【0079】
電子加速層4の形成後、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する(薄膜電極形成工程)。前述の通り薄膜電極3は、抵抗層5と金属層6との積層構造を有する。抵抗層5としてアモルファスカーボン膜を用いる場合、例えば、蒸着法にて成膜することができる。また、抵抗層5として窒化膜を用いる場合には、例えば、スパッタ法にて成膜することができる。
【0080】
金属層6の成膜には、マグネトロンスパッタ法を用いることができる。また、金属層6の成膜には、マグネトロンスパッタ法以外に、例えば、蒸着法、インクジェット法や、スピンコート法等を用いることもできる。
【0081】
電子加速層4に含まれる結晶性電子輸送剤9は、電子加速層4を製造直後では、結晶としては存在しない。しかし、自然放置することで結晶化(再結晶)する(結晶化工程)。このとき、結晶性輸送剤9が針状に結晶化する物質である場合、図1及び2に示すように、電子加速層4を層の厚み方向に貫いて針状に結晶化することもあり、この場合、結晶化した結晶性電子輸送剤9は、電子加速層4内外に存在することになる。
【0082】
(実施例)
以下の実施例では、初めに、結晶性電子輸送剤9の添加量と、結晶性電子輸送剤9が電子加速層4内で非晶状態にある(結晶化前)電子放出素子の素子内電流量、さらに電子放出量との関係を調べた実験結果について説明する。その後、結晶性電子輸送剤9が非晶状態にある電子放出素子及び結晶性電子輸送剤9が結晶化した電子放出素子の素子内電流量及び電子放出量の測定結果について説明する。また、薄膜電極の役割についても実験を行った。
【0083】
まず、電子放出素子1の詳細な作成条件について説明する。10mLの試薬瓶にn−ヘキサン溶媒を1.0g入れ、絶縁体微粒子7として0.16gのシリカ粒子を投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけて分散させた。ここでシリカ微粒子は、平均粒子径50nmのフュームドシリカC413(キャボット社)であり、表面はヘキサメチルシジラザン処理されたものを用いた。約10分間超音波分散器にかけることで、シリカ微粒子はn−ヘキサン溶媒に乳白色に分散した。次に、上記試薬瓶に、導電性微粒子8として0.04gの銀ナノ粒子を投入し、5分間超音波分散処理を行い、微粒子分散溶液を作製した。銀ナノ粒子はアルコラートの絶縁被覆を有した平均粒子径10nmのもの(応用ナノ研究所)を用いた。
【0084】
上記の微粒子分散液を試薬瓶3本にそれぞれ作製し、それぞれの試薬瓶に、結晶性電子輸送剤9としてジフェノキノン粉末(東京化成工業株式会社製、T1503(3,3’,5,5’-Tetra-tert-butyl-4,4’-diphenoquinone)を、無添加、0.0082g、0.04g投入し、再び5分間超音波分散器にかけて溶解させた。
【0085】
電極基板2として、24mm角のガラス基板にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜したものを用意した。この電極付きガラス基板表面に、上記作製した微粒子分散液(ジフェノキノン粉末を添加したあるいは無添加のもの)を、それぞれ、滴下し、スピンコート法を用いて電子加速層4と成る微粒子層を形成した。スピンコート法による成膜条件は、500RPMにて5秒間回転している間に、上記微粒子分散液を基板表面へ滴下し、続いて3000RPMにて10秒間の回転を行うこととした。この成膜条件は1度とし、ガラス基板上に微粒子層を1層堆積させた後、室温雰囲気中で1時間自然乾燥させた。電子加速層4をなす微粒子層の膜厚は約700nmであった。
【0086】
ここで得られた電子加速層4では、結晶性電子輸送剤9を0.0082g、0.04g溶解させた溶液を用いて形成したもの、どちらも、結晶性電子輸送剤9は再結晶化していない。
【0087】
電子放出素子1において、電子加速層4上には、薄膜電極3として抵抗層5および金属層6を形成するが、ここでは再結晶化前の結晶性電子輸送剤9の添加と電子加速層4の電流特性との関係を調べるため、金属層6のみを成膜した。金属層6は、マグネトロンスパッタ装置を用いて、金、パラジウムターゲット(Au―Pd)を使用し、膜厚が50nm、同面積が0.01cmと成るように成膜した。
【0088】
上記のように作製した3種類(ジフェノキノン粉末が、無添加、0.0082g、0.04g添加)の電子放出素子について、図4に示す測定系を用いて電子放出実験を行った。
【0089】
図4に、電子放出実験に用いた測定系を示す。図4の測定系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ13(径:1mm)を挟んで対向電極12を配置させる。そして、電子放出素子1の電極基板2と薄膜電極3との間には、電源10AによりV1の電圧が印加され、対向電極12には電源10BによりV2の電圧がかかるようになっている。薄膜電極3と電源10Aとの間を流れる電流I1を素子内電流、対向電極12と電源10Bとの間に流れる電流I2を電子放出電流として測定する。このような測定系を1×10−8ATMの真空中に配置して電子放出実験を行った。
【0090】
図5に、各電子放出素子1の素子内電流I1を測定した結果を示す。ここで、印加電圧V1は、0〜18Vまで段階的に上げ、印加電圧V2は100Vとした。また、図6に、各電子放出素子1から放出された電子放出電流I2を測定した結果を示す。
【0091】
図5から分かるように、素子内電流I1〔単位:A/cm〕は、結晶性電子輸送剤9の添加量によって変化している。前述の通り電子放出素子は、結晶性電子輸送剤9がなくとも素子内電流を流し電子を放出する構造である。この結晶性電子輸送剤9が無添加(添加なし)の電子放出素子を基準に見ると、結晶性電子輸送剤9の添加量が僅かである、0.0082gの電子放出素子は、素子内電流I1を低下させている。これは結晶性電子輸送剤9の電子輸送能が十分機能しない添加濃度である上に、抵抗体として機能した結果と考えられる。
【0092】
一方、結晶性電子輸送剤9の添加量が、0.04gの電子放出素子では、素子内電流I1が増加し、測定系の電流供給量をオーバーし、短絡状態となった。結晶性電子輸送剤9の電子輸送能が十分機能した結果である。
【0093】
同様に、図6から分かるように、電子放出電流I2〔単位:A/cm〕も、結晶性電子輸送剤9の添加量によって変化している。結晶性電子輸送剤9が無添加(添加なし)の電子放出素子を基準に見ると、結晶性電子輸送剤9の添加量が0.0082gの素子では、印加電圧V1が12V以上で若干の電子放出電流I2の低下を示している。添加量が0.04gの電子放出素子では、素子内電流I1が短絡状態となった結果、電子放出電流が測定できなかった。
【0094】
続いて、結晶性電子輸送剤9の添加量を0.0082gとした微粒子分散溶液を、前述の通りに作製し、同様に電子加速層4を形成した。電子加速層4形成後、室温雰囲気中で3日間自然乾燥を行い、結晶性電子輸送剤9を再結晶化させた。再結晶化していることは、目視およびSEM観察にて、針状結晶を確認することで行った。図7に、そのSEM写真を示す。図7から、結晶性電子輸送剤9であるジフェノキノンの結晶が、電子加速層(微粒子層)表面を貫いて成長している様子が分かる。
【0095】
この結晶性電子輸送剤9が再結晶した電子加速層4に対し、薄膜電極3である抵抗層5及び金属層6を形成した。抵抗層5としてアモルファスカーボン膜を、蒸着法を用い、膜厚15nm、同面積が0.01cmと成るように成膜した。続いて金属層6を、マグネトロンスパッタ装置を用いて、金、パラジウムターゲット(Au―Pd)を使用し、膜厚が50nm、同面積が0.01cmと成るよう成膜した。これより、電子加速層4上に、抵抗層5、金属層6が、この順に積層された。
【0096】
図8に、結晶性電子輸送剤9の添加量が0.0082gの微粒子分散溶液を用いて作製した電子放出素子の、結晶性電子輸送剤9が再結晶化前のものと、再結晶化後のものとについて、素子内電流I1〔単位:A/cm〕を測定した結果を示す。ここで、再結晶化前の電子放出素子では、電子加速層4上に金及びパラジウムの金属層6のみを成膜している(図5掲載の電子放出素子)。一方、再結晶化後の電子放出素子では、電子加速層4上にアモルファスカーボン膜の抵抗層5と金及びパラジウムの金属層6とを積層成膜している。図8から、印加電圧V1が3V以降において、再結晶化後の電子放出素子(再結晶素子)が、再結晶化前の電子放出素子(再結晶無し)に比べて素子内電流I1を1桁程度増加させていることが分かる。
【0097】
図9に、図8と同様の、結晶性電子輸送剤9の添加量が0.0082gの微粒子分散溶液を用いて作製した電子放出素子の、結晶性電子輸送剤9が再結晶化前のものと、再結晶化後のものとについて、電子放出電流I2〔単位:A/cm〕を測定した結果を示す。再結晶化後の電子放出素子は、印加電圧3Vから電子放出を開始し、その量も1桁〜2桁程度高い値と成っている。また、図8及び9から分かる通り、再結晶化後の電子放出素子では、印加電圧V1が10V付近で素子内電流I1が電源の供給能力限界に達して短絡状態とり、電子放出電流I2も減少に転じている。このような傾向は、低印加電圧にも関わらず、直流電圧の連続印加時にも生じやすく、印加電圧波形の工夫が必要となる。
【0098】
図10は、結晶性電子輸送剤9の添加量が0.0082gの微粒子分散溶液を用いて作製した電子放出素子の、再結晶化後のものについての、真空中における電子放出電流I2の経時特性である。印加電圧は直流電圧ではなく、正極のパルス電圧波形とした。パスル周波数は10kHz、波高値は14V0−pであり、印加電圧の電圧ON時間の比率(デューティー)は10%となる波形である。18時間弱の連続駆動中、やや電流の減少傾向はみられるが、非常に安定している。
【0099】
図11は、図10を用いて説明した電子放出素子と同様の電子放出素子を用いて、図10を用いて説明した条件と同様の印加電圧波形の条件で、大気中で駆動したときの電子放出電流I2の経時特性を示すものである。この実験では対向電極12への印加電圧V2は、200Vとした。真空中に比べると電子放出電流I2は2桁程度減少するが、安定な電子放出特性が得られることがわかる。
【0100】
次に、結晶性電子輸送剤9の添加量が0.0082gの微粒子分散溶液を用いて作製した電子放出素子の、再結晶化後のものについて、アモルファスカーボン膜の抵抗層5及び金属膜6を設けた素子と、金属膜6のみ設けた素子とで、素子内電流及び電子放出電流を比較した。その結果を、図12及び図13に示す。図12から、抵抗層5が無い電子放出素子では、低印加電圧での素子内電流の上昇が確認できる。また、図13から、電子放出は抵抗層5の有無に関わらず、V1が3Vから開始していることがわかるが、金属膜6のみの素子では、すぐに素子内電流の装置限界となるため十分な放出が得られないことがわかる。これらのことから、抵抗層5を設けることにより、電子放出素子内を流れる電流を制限し、異常な電流上昇を抑制することができることがわかる。
【0101】
〔実施の形態2〕
図14に、実施の形態1で説明した本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置11にて構成される、本発明に係る帯電装置90の一例を示す。帯電装置90は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源10とからなる電子放出装置11より構成されており、感光体ドラム14の表面を帯電させるものである。本発明に係る画像形成装置は、この帯電装置90を具備している。
【0102】
本発明に係る画像形成装置において、帯電装置90における電子放出素子1は、被帯電体である感光体ドラム14に対向して設置され、電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体ドラム14の表面を帯電させる。なお、本発明に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子1は、感光体ドラム14の表面から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子1への印加電圧は、正極のパルス電圧波形とするのが好ましい。パスル周波数は10kHz、波高値は14V0−pであり、印加電圧の電圧ON時間の比率(デューティー)は10%となる波形が好ましい。また、電子放出素子1の電子加速層4の構成は、例えば、上記条件の電圧を印加して、単位時間当たり1〜0.3μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。
【0103】
さらに帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、面電子源として構成されるので、感光体ドラム14の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体ドラム14のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、十数V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
【0104】
〔実施の形態3〕
図15に、実施の形態1で説明した本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置11にて構成される、本発明に係る電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源10とからなる電子放出装置10に加えて、電子を加速させる加速電極21を備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子1を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト(被硬化物)22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極21は必要ない。しかしながら、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
【0105】
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
【0106】
電子放出装置11を用いた構成では、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
【0107】
〔実施の形態4〕
図16〜18に、実施の形態1で説明した本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置11にて構成される、本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
【0108】
図16に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源10とからなる電子放出装置11に加えて、発光部36を備えている。発光部36は、基材となるガラス基板34に、ITO膜33、蛍光体32が積層された構造を有する。発光部36は、電子放出素子1に対向した位置に、距離を隔てて配されている。
【0109】
蛍光体32としては、赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適している。例えば、赤色ではY:Eu、(Y,Gd)BO:Eu、緑色ではZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、青色ではBaMgAl1017:Eu2+等が使用可能である。蛍光体32は、ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に成膜されており、厚さ1μm程度が好ましい。ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
【0110】
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
【0111】
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体32へ向けて加速する必要がある。このような加速を実現するには、図16に示すように、電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33との間に、電源35を設け、電子を加速する電界を形成させるための電圧印加を可能にする構成が好ましい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源10からの印加電圧は正極のパルス電圧波形とするのが好ましい。パスル周波数は10kHz、波高値は14V0−p、印加電圧の電圧ON時間の比率(デューティー)は10%となる波形が好ましい。また、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
【0112】
図17に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源10とからなる電子放出装置11に加えて、蛍光体(発光体)32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
【0113】
図18に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源10とからなる電子放出装置11に加えて、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体(発光体)32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子7に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子7として球状シリカ粒子(平均径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
【0114】
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32’に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出量が向上しているため、自発光デバイス31,31’,31”は、効果的に発光を行える。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、真空封止することで電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
【0115】
さらに、図19に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図19に示す画像表示装置140は、図18で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、正極のパルス電圧波形とするのが好ましい。パスル周波数は10kHz、波高値は14V0−p、印加電圧の電圧ON時間の比率(デューティー)は10%となる波形が好ましい。この電圧にて、例えば、単位時間当たり1〜0.3μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
【0116】
〔実施の形態5〕
図20及び図21に実施の形態1で説明した本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置11にて構成した、本発明に係る送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、本願発明に係る送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
【0117】
図20に示す送風装置150は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源10とからなる電子放出装置11より構成されている。送風装置150において、電子放出素子1は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子1に印加する電圧は、正極のパルス電圧波形が好ましい。パスル周波数は10kHz、波高値は14V0−p、印加電圧の電圧ON時間の比率(デューティー)が10%となる波形が好ましい。また、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1〜0.3μA/cmの電子を放出することが好ましい。
【0118】
図21に示す送風装置160は、図20に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図21に示す送風装置160は、電子放出素子1が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって風を送ることで電子放出素子1から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cmとするのが好ましい。
【0119】
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置或いは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかしながら、風(空気流)として送られる空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、本発明に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。
【0120】
本発明は上述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明に係る電子放出素子は、電気的導通を確保して十分な素子内電流を流し、薄膜電極から弾道電子を放出させることが可能である。よって、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の帯電装置や、電子線硬化装置、或いは発光体と組み合わせることにより画像表示装置、又は放出された電子が発生させるイオン風を利用することにより冷却装置等に、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 電子放出素子
2 電極基板
3 薄膜電極
4 電子加速層
5 抵抗層
6 金属層
7 絶縁体微粒子
8 導電微粒子
9 結晶性電子輸送剤
10 電源(電源部)
10A 電源(電源部)
10B 電源
11 電子放出装置
12 対向電極
13 絶縁体スペーサ
14 感光体ドラム
21 加速電極
22 レジスト(被硬化物)
31,31’,31” 自発光デバイス
32,32’ 蛍光体(発光体)
33 ITO膜
34 ガラス基板
35 電源
36 発光部
41 被冷却体
42 送風ファン
90 帯電装置
100 電子線硬化装置
140 画像表示装置
150 送風装置
160 送風装置
330 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されると、前記電子加速層にて電子を加速させて、前記薄膜電極から前記電子を放出させる電子放出素子であって、
前記電子加速層は、
導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、前記導電微粒子の平均径よりも大きい平均径の絶縁体微粒子と、結晶性電子輸送剤とを含み、
前記結晶性電子輸送剤は、結晶化していることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記結晶性電子輸送剤は、前記電子加速層を層の厚み方向に貫いて結晶化していることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記結晶性電子輸送剤は、針状に結晶化することを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記結晶性電子輸送剤は、前記絶縁体微粒子および導電微粒子を分散させた分散溶液に可溶であり、かつ、当該分散溶液を用いて前記電子加速層を形成した後に再結晶化するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでおり、その平均径は、3〜10nmであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記絶縁体微粒子の平均粒径は、10〜200nmであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記結晶性電子輸送剤は、ジフェノキノンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項8】
前記電子加速層の層厚は、300〜1000nmであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項9】
前記絶縁体微粒子は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、又は有機ポリマーを含んでいることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項10】
前記薄膜電極は、前記電子加速層に接する側から順に、抵抗層と金属層とが積層されてなり、
前記抵抗層は、アモルファスカーボン膜または窒化膜からなり、
前記金属層は、金、銀、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の電子放出素子と、当該電子放出素子における前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴とする電子放出装置。
【請求項12】
前記電源部により印加される電圧は、パルス波形の電圧であることを特徴とする請求項11に記載の電子放出装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の電子放出装置と発光体とを備え、当該電子放出装置から電子を放出して当該発光体を発光させることを特徴とする自発光デバイス。
【請求項14】
請求項13に記載の自発光デバイスを備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項15】
請求項11または12に記載の電子放出装置を備え、当該電子放出装置から電子を放出して風を送ることを特徴とする送風装置。
【請求項16】
請求項11または12に記載の電子放出装置を備え、当該電子放出装置から電子を放出して被冷却体を冷却することを特徴とする冷却装置。
【請求項17】
請求項11または12に記載の電子放出装置を備え、当該電子放出装置から電子を放出して感光体を帯電させることを特徴とする帯電装置。
【請求項18】
請求項17に記載の帯電装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項19】
請求項11または12に記載の電子放出装置を備え、当該電子放出装置から電子を放出して被硬化物を硬化させることを特徴とする電子線硬化装置。
【請求項20】
対向する電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、前記電極基板と前記薄膜電極との間に電圧が印加されることで、前記電子加速層にて電子を加速させて前記薄膜電極から前記電子を放出する電子放出素子の製造方法であって、
絶縁体微粒子、導電微粒子、及び結晶性電子輸送剤を溶媒に分散させてなる微粒子分散溶液を、前記電極基板上に塗布して、前記電子加速層を形成する電子加速層形成工程と、
前記電子加速層の上に前記薄膜電極を形成する薄膜電極形成工程と、
前記結晶性電子輸送剤を結晶化させる結晶化工程と、を含むことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項21】
前記結晶化工程では、前記結晶性電子輸送剤を、前記電子加速層内外に針状に結晶化させることを特徴とする請求項20に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図3】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−119071(P2011−119071A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273724(P2009−273724)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】