説明

電子放出素子,電子銃、それを用いた電子顕微鏡装置及び電子線描画装置

【課題】エミッション電流の長期的な安定化が可能で、高歩留まりな電子放出素子,電子銃、それを用いた電子顕微鏡装置及び電子線描画装置を提供する。
【解決手段】電子放出素子は、炭素と化合物を形成する金属元素を少なくとも1つ含有する金属基材の表面の少なくとも一部に、グラフェン構造の炭素被膜207を有している。また、電子放出素子は、炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層を有する金属基材の表面の少なくとも一部に、グラフェン構造の炭素被膜を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子,電子銃、それを用いた電子顕微鏡装置及び電子線描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子顕微鏡等の電子放出素子としてタングステンが広く用いられている。タングステンを用いた電子放出素子を、加熱せずに印加電界にのみにより電子を放出させる電界放出型の電子放出素子として用いることにより、エネルギー幅の狭い電子線を得ることができ、分解能を向上させることができる。
【0003】
しかし、電界放出型の電子放出素子として用いると、電子放出素子の表面に残留ガスが吸着しやすくなり、この残留ガスが金属表面での吸着サイトを移動するため、エミッション電流のノイズが発生するとともに、エミッション電流が経時的に低下する傾向にあった。
【0004】
そこで、電子放出素子の表面に炭素を被覆する方法が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。炭素被覆を行うことで、残留ガスである水素イオンの衝突や衝撃に対して強固になるため、表面清浄化のためのフラッシング後のエミッション電流の急激な低下を防ぐことができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、その後のエミッション電流の安定化、特に長期的な安定化の効果が十分ではなかった。また、特許文献2では、単結晶炭化物基材の作製が困難にあるという問題もあった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−100244号公報
【特許文献2】特公平6−28130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、エミッション電流の長期的な安定化が可能で、高歩留まりな電子放出素子,その製造方法,電子銃、それを用いた電子顕微鏡装置及び電子線描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明者らは、グラフェン構造を有する炭素薄膜で、電子放出素子の電子放出サイトの近傍を覆うことで、長期的な電流安定性が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の電子放出素子は、炭素と化合物を形成する金属元素を少なくとも1つ含有する金属基材の表面の少なくとも一部に、グラフェン構造の炭素被膜を有することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の電子放出素子は、炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層を有する金属基材の表面の少なくとも一部に、グラフェン構造の炭素被膜を有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の電子放出素子の製造方法は、金属基材表面に炭素膜を被覆し、加熱により炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層を形成した後、前記炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層上にグラフェン構造の炭素被膜を形成することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の電子放出素子の製造方法は、金属基材に加熱下で電界を印加して金属基材先端の特定結晶面を隆起させた後、金属基材表面に炭素膜を被覆し、加熱により炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層を形成した後、前記炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層上にグラフェン構造の炭素被膜を形成することを特徴としている。
【0013】
また、本発明の電子銃は、電子放出素子と前記電子放出素子を支持する導電性の支持基材とを有する陰極と、前記陰極から電子を放出させる引出し電極と、前記陰極から放出された電子を加速する加速電極と、を具備することを特徴としている。
【0014】
また、本発明の電子顕微鏡装置は、電子銃から放出される電子線を試料に照射し、前記試料の観察を行うことを特徴としている。
【0015】
また、本発明の電子線描画装置は、電子銃から放出される電子線を試料に照射し、前記試料に電子線による描画を行うことを特徴としている。
【0016】
なお、本発明において、グラフェン構造とは、炭素原子が六角形の網目状をなす構造を意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エミッション電流の長期的な安定化が可能で、高歩留まりな電子放出素子,その製造方法,電子銃、それを用いた電子顕微鏡装置及び電子線描画装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の電子放出素子は、金属基材の表面が、グラフェン構造を有する炭素被膜で覆われている。これにより、グラフェン構造の表面は共役パイ電子雲でシールドされるため、残留ガスが吸着しにくくなり、エミッション電流の安定化が可能になる。例えば、電子放出素子の電子放出サイトの近傍をグラフェンシートの炭素薄膜で覆う。
【0020】
また、このグラフェン構造を有する炭素薄膜が損傷した場合には、電子放出素子に予め設けておいた炭素源から炭素材料を供給することにより、電子放出サイト近傍に炭素薄膜を補修,再生でき、長期的な電流安定性が可能である。
【0021】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【実施例1】
【0022】
本発明の第1の実施例について、図1を用いて説明する。
【0023】
プラス電極101とマイナス電極102にスポット溶接により、タングステンワイヤ103を接続する。タングステンワイヤ103の直径は、50〜500μmであり、本実施例では、このタングステンワイヤ103を折り曲げて、電子放出素子とする。電子は、折り曲げた境域の近傍から放出される。このような電子放出素子は、通電加熱により1000℃以上に加熱しながら、熱電子放出素子として使用する。
【0024】
熱電子放出素子であるため、電界放出型の電子放出素子に比べて、エミッション電流は安定であるが、タングステン材料が加熱により蒸発するため、寿命が短くなりやすい。このため、エミッション領域の近傍を、グラフェン構造を有する炭素被膜で被覆した、炭素薄膜被覆領域104を設けることにより、タングステン材料の蒸発を防ぎ、電子放出素子の寿命を1000時間以上にすることができた。
【0025】
炭素薄膜は、以下の方法により作製した。
【0026】
まず、直径が1μm以下のグラフェン微粒子を水に分散させた分散溶液を作製し、これにタングステンワイヤ103を浸漬し、乾燥させることにより、タングステンワイヤ103の表面をグラフェン微粒子で被覆した。
【0027】
また、次の方法により炭素薄膜を作製することも可能である。タングステンワイヤ103を真空中で通電加熱により、800℃以上に加熱する。次に、真空中に微量のエチレン,アセチレン等の不飽和炭化水素ガスを導入する。これにより、不飽和炭化水素が重合してタングステンワイヤ103の表面にグラフェン構造を有する炭素薄膜を形成する。
【0028】
本実施例のように、熱電子放出素子の場合には、炭素被覆の主目的は、タングステンの蒸発を抑えることにあるため、炭素被覆領域は、電子放出領域近傍に限定せず、タングステンワイヤ全体に広げた方がより十分な効果が得られる。
【0029】
本実施例では、電子放出素子としてタングステンワイヤを用いたが、これ以外に、例えばチタン,モリブデン,クロム,ジルコニウム,ハフニウム,タンタル,ニオブ等の炭素と化合物を形成する金属、及びこれらの合金から構成されるワイヤに適用できる。
【実施例2】
【0030】
本発明の第2の実施例について、図2,図3を用いて説明する。
【0031】
図2に示すように、プラス電極201とマイナス電極202にスポット溶接により、タングステンワイヤ203を接続する。次に、タングステン針204をタングステンワイヤ203にスポット溶接により固定し電子放出素子とする。タングステン針204には単結晶タングステンを用い、エッチングにより、先端の直径を1μm以下に先鋭化したものを用いる。このような電子放出素子は、電界放出型の電子放出素子として用いる。すなわち、加熱せずに、印加電界のみにより、電子放出を得る。そのため、電子放出素子の表面には残留ガスが吸着し、エミッション電流が低下するとともに、ノイズが発生しやすい。このため、本実施例では、タングステン針204の電子放出サイト近傍の先鋭部にグラフェン構造を有する炭素薄膜で被覆した、炭素薄膜被覆領域205を設けた。電子放出サイト近傍領域がグラフェンで覆われることにより、共役パイ電子雲で保護され、残留ガスが吸着しにくくなるため、エミッション電流のノイズが低減し、安定なエミッション電流を実現することができる。
【0032】
炭素薄膜は、以下の方法で作製した。
【0033】
タングステン針204を真空中で通電加熱により、800℃以上に加熱する。次に、真空中に微量のエチレン,アセチレン等の不飽和炭化水素ガスを導入する。これにより、不飽和炭化水素が重合し、タングステン針204の表面にグラフェン構造を有する炭素薄膜を形成することができる。タングステン針204に電界を印加して、エミッション電流を得ながら、加熱することなしに炭素薄膜を形成することも可能である。
【0034】
本実施例の別の形態として、図3に示すように、タングステン針204に蒸着法,スパッタ法、前記不飽和炭化水素ガスのタングステン針204表面における熱分解法等により予め炭素膜を形成し、加熱下拡散により炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層206を形成させた後、前記同様の方法で炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層206の上にグラフェン構造の炭素被膜207を形成させた構造がある。これにより、タングステン針204表面に直接、グラフェン構造の炭素被膜207を形成させた場合に比べ、グラフェン構造の炭素被膜207と基材との密着力が向上するため、大電流を電界放出させることが可能となる。また、電界放出前に加熱により電子放出サイトの吸着ガス等を除去する清浄化処理が必要であり、グラフェン構造の炭素被膜207が金属基材への拡散により消失する。この炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層206の形成により、グラフェン構造の炭素被膜207と基材間の拡散が抑制され、グラフェン構造の炭素被膜207の消失を防止することができ、電子放出素子の長寿命化が可能となる。
【0035】
また、加熱しながら電界放出時と逆極性の電界を金属基材に印加することにより、仕事関数が最も低い結晶面が隆起(ビルドアップという)することが知られている。このビルドアップ面を形成させた後、前記同様、グラフェン構造の炭素被膜207を形成させることにより、ビルドアップ面に電界集中し、ビルドアップ面から優先的に電子放出が生じるので、電子放出サイト領域が狭くなり、高電流密度なエミッション電流が得られる。
【0036】
本実施例では、1%以下の電流変動を維持して、500時間以上の安定動作を実現することができた。
【0037】
本実施例では、電子放出素子としてタングステン針を用いたが、これ以外に、例えばチタン,モリブデン,クロム,ジルコニウム,ハフニウム,タンタル,ニオブ等の炭素と化合物を形成する金属、及びこれらの合金から構成される針に適用できる。
【実施例3】
【0038】
本発明の第3の実施例について、図4,図5を用いて説明する。
【0039】
図4に示すように、プラス電極301とマイナス電極302にスポット溶接により、タングステンワイヤ303を接続する。次に、タングステン針304をタングステンワイヤ303にスポット溶接により固定する。タングステン針304は、エッチングにより先端直径を1μm以下に先鋭化したものを用いる。次に、タングステン針304の先端に、タングステンナノロッド305を接合する。タングステンナノロッド305の直径は1μm以下で、長さは数μm程度である。タングステン針304とタングステンナノロッド305との接合は、電子顕微鏡内でのマニュピレーション技術を用いて行った。すなわち、タングステンナノロッド305を突出した状態でブレード上に配置させ、これにタングステン針304を近づけて、タングステンナノロッド305とタングステン針304をファンデルワールス力により、接触させる。次に、接触部分にタングステンカルボニル等のタングステン含有ガスを供給するためのノズルを近づけ、ガスを流しながら電子線を照射することにより、接触部分にタングステンを析出させて接合する。
【0040】
このような電子放出素子は、電界放出型の電子放出素子として用いる。すなわち、加熱せずに、印加電界のみにより電子放出を得る。そのため、電子放出素子の表面には残留ガスが吸着し、エミッション電流が低下するとともに、ノイズが発生しやすい。このため、本実施例では、タングステンナノロッド305の電子放出サイト近傍である先鋭部にグラフェン構造を有する炭素薄膜で被覆した、炭素薄膜被覆領域を設けた。電子放出サイト近傍領域がグラフェンで覆われることにより、共役パイ電子雲で保護され、残留ガスが吸着しにくくなるため、エミッション電流のノイズが低減し、安定なエミッション電流を実現することができる。
【0041】
炭素薄膜は、以下の方法で作製した。
【0042】
タングステンナノロッド305を真空中で通電加熱により、800℃以上に加熱する。次に真空中に微量のエチレン,アセチレン等の不飽和炭化水素ガスを導入する。これにより、不飽和炭化水素が重合し、タングステンナノロッド305の表面にグラフェン構造を有する炭素薄膜を形成することができる。タングステンナノロッド305に電界を印加して、エミッション電流を得ながら、加熱することなしに炭素薄膜を形成することも可能である。
【0043】
本実施例の別の形態として、図5に示すように、タングステンナノロッド305に蒸着法,スパッタ法,不飽和炭化水素ガスのタングステンナノロッド305表面における熱分解法等により予め炭素膜を形成し、加熱下拡散により炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層307を形成させた後、同様の方法で炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層307の上にグラフェン構造の炭素被膜308を形成させた構造がある。これにより、タングステンナノロッド305表面に直接グラフェン構造の炭素被膜308を形成させた場合に比べて、グラフェン構造の炭素被膜308と基材との密着力が向上するため、大電流を電界放出させることが可能となる。また、電界放出前に加熱により電子放出サイトの吸着ガス等を除去する清浄化処理が必要であり、グラフェン構造の炭素被膜308が金属基材への拡散により消失する。この炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層307の形成により、グラフェン構造の炭素被膜308と基材間の拡散が抑制され、グラフェン構造の炭素被膜308の消失を防止することができ、電子放出素子の長寿命化が可能となる。
【0044】
また、上記と同様、ビルドアップ面を形成させた後、グラフェン構造の炭素被膜308を形成させることにより、ビルドアップ面に電界集中し、ビルドアップ面から優先的に電子放出が生じるので、電子放出サイト領域が狭くなり、高電流密度なエミッション電流が得られる。
【0045】
本実施例の方法により、1%以下の電流変動を維持して、500時間以上の安定動作を実現することができた。
【0046】
本実施例では、電子放出素子としてタングステンナノロッドを用いたが、これ以外に、例えばチタン,モリブデン,クロム,ジルコニウム,ハフニウム,タンタル,ニオブ等の炭素と化合物を形成する金属、及びこれらの合金から構成されるナノロッドに適用できる。
【実施例4】
【0047】
本発明の第4の実施例について、図6を用いて説明する。
【0048】
第4の実施例は、炭素源405を設けた点が、第1の実施例と異なる。
【0049】
炭素源405は、直径が1μm以下のグラフェン微粒子の分散溶液を作製し、この溶液を塗布乾燥させることにより作製する。あるいは、真空中で炭素原料ガスを流しながら、電子線やイオンビームを照射することにより、炭素源を作製することも可能である。その他、種々の炭素膜作製法を用いて作製することが可能である。炭素源405は小片のグラフェンシートを多層に積層した構造であることが望ましいが、アモルファス炭素であっても良い。炭素薄膜被覆領域404のグラフェン構造を有する炭素薄膜が損傷(破損もしくは消失)した場合、熱電子放出素子であるタングステンワイヤ403の蒸発を抑制する効果が失われる。熱電子放出素子の場合には、通常の動作温度が高いため、その温度効果により、炭素源405から炭素成分が拡散してタングステンワイヤ403の表面を覆うため、再び、炭素被膜を形成できる。通常の動作温度では、表面拡散が不十分な場合には、さらに温度を上げて、表面拡散を加速させることで、炭素被覆効果によりタングステンの蒸発を防ぐことができる。
【実施例5】
【0050】
本発明の第5の実施例について、図7を用いて説明する。
【0051】
第5の実施例では、炭素源506を設けたことが、第2の実施例と異なる。炭素源506は、直径が1μm以下のグラフェン微粒子の分散溶液を作製し、この溶液を塗布して乾燥させることにより作製される。あるいは、真空中で炭素原料ガスを流しながら、電子線やイオンビームを照射することにより、炭素源506を作製することも可能である。その他、種々の炭素膜の作製法を用いることが可能である。
【0052】
炭素源506は、グラフェンシート小片が多層に積層した構造であることが望ましいが、アモルファス炭素であっても良い。炭素薄膜被覆領域505のグラフェン構造を有する炭素薄膜が損傷(破損あるいは消失)した場合、電界放出型の電子放出素子であるタングステン針504の電子放出サイト近傍に残留ガスが吸着し易くなり、エミッション電流の安定性が損なわれる。そこで、通電加熱により、炭素源506を1000℃以上に加熱することにより、炭素源506から炭素成分が表面拡散により移動し、再び、炭素薄膜被覆領域505の炭素薄膜を補修することができる。これにより、電流安定性を復元することが可能である。
【実施例6】
【0053】
本発明の第6の実施例について、図8を用いて説明する。
【0054】
第6の実施例では、炭素源607を設けたことが、第3の実施例と異なる。炭素源607は、真空中で炭素原料ガスを流しながら、電子線やイオンビームを照射することにより、炭素源607を作製することも可能である。その他、種々の炭素膜作製法を用いて作製することが可能である。炭素源607はグラフェンシート小片が多層に積層した構造であることが望ましいが、アモルファス炭素であっても良い。炭素薄膜被覆領域606のグラフェン構造を有する炭素薄膜が損傷(破損あるいは消失)した場合、電界放出型の電子放出素子であるタングステンナノロッド605の電子放出サイト近傍に残留ガスが吸着し易くなり、エミッション電流の安定性が損なわれる。そこで、通電加熱により、炭素源607を1000℃以上に加熱することにより、炭素源607から炭素が表面拡散により移動し、再び、炭素薄膜被覆領域606の炭素薄膜を補修することができる。これにより、電流安定性を復元することが可能である。
【実施例7】
【0055】
本発明の第7の実施例について、図9を用いて説明する。
【0056】
電子銃は、電子放出素子701,電極702及び電極支持台703から構成されるカソード電極(陰極)と、カソード電極から電子を放出させる引出し電極704と、カソード電極から放出された電子を加速する加速電極705を備えている。引出し電極704は、引出し電極電源706により、カソード電極に対してプラス電圧を印加する。また、加速電極705は、加速電極電源707により、カソード電極に対してプラス電圧を印加する。
【0057】
これにより、電子銃は、長期の電流安定性が可能である。また、通常のフラッシング等の表面清浄化方法により、電流安定性が復元しない場合には、電子放出素子の再生,補修効果を用いて、電流安定性を復元することが可能である。
【実施例8】
【0058】
本発明の第8の実施例について、図10を用いて説明する。
【0059】
第8の実施例では、引出し電極の代わりに、球面収差の少ない磁界レンズ804を用いた点が、第7の実施例と異なる。このような磁界界浸型電子銃構成により、安定なエミッション特性を有する電子銃を実現することができる。
【実施例9】
【0060】
本発明の第9の実施例について、図11を用いて説明する。図11は、本発明の電子銃を用いた走査型電子顕微鏡の構成を模式的に示す図である。
【0061】
走査型電子顕微鏡は、電子銃901から放出される電子線をアノード電極902,第一収束レンズ903,第二収束レンズ904,対物レンズ905で加工し、最後に走査コイル906でビーム走査し、サンプル907(試料)から放出される二次電子を二次電子検出器908で検出することにより、サンプル907の拡大像を得る装置である。
【0062】
図11には、電子軌道909も同時に示した。装置内は、高真空に保持され、サンプル907は装置外部から機械的に移動及び回転させることができる。電子銃901を搭載することで、従来の装置と比べて、長期的に安定に動作する走査型電子顕微鏡を実現することができた。また、半導体プロセスにおける微細加工パターンの観察や寸法測定を行う測長用の走査型電子顕微鏡も図11と同様の構成であるため、電子銃901を搭載することにより、同様の効果を得ることができる。
【0063】
ここでは、本発明の電子銃を搭載した電子顕微鏡装置として、図11の走査型電子顕微鏡を用いて説明したが、これに限定されず、本発明の電子銃の特性が十分引き出せる構成であれば、いかなる構成の装置にも適用できる。
【実施例10】
【0064】
本発明の第10の実施例について、図12を用いて説明する。図12は、本発明の電子銃を搭載した電子線描画装置を模式的に示す図である。
【0065】
電子線描画装置は、第一収束レンズ1003と第二収束レンズ1004との間に、電子線をオン/オフするためのブランカー1010を設ける点以外は、図11の走査型電子顕微鏡と同様の構成である。電子線描画装置は、電子線に感応する電子線レジストを塗布したサンプル1007に細く絞った電子線を照射することにより、微細パターンを形成するものである。電子銃901を搭載することにより、従来に比べ、安定な動作を長時間にわたって実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施例の説明図。
【図2】本発明の第2の実施例の説明図。
【図3】本発明の第2の実施例の別形態の説明図。
【図4】本発明の第3の実施例の説明図。
【図5】本発明の第3の実施例の別形態の説明図。
【図6】本発明の第4の実施例の説明図。
【図7】本発明の第5の実施例の説明図。
【図8】本発明の第6の実施例の説明図。
【図9】本発明の第7の実施例の説明図。
【図10】本発明の第8の実施例の説明図。
【図11】本発明の電子銃を搭載した走査型電子顕微鏡を模式的に示す図。
【図12】本発明の電子銃を搭載した電子線描画装置を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0067】
101,201,301,401,501,601 プラス電極
102,202,302,402,502,602 マイナス電極
103,203,303,403,503,603 タングステンワイヤ
104,205,306,404,505,606 炭素薄膜被覆領域
204,304,504,604 タングステン針
206,307 炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層
207,308 グラフェン構造の炭素被膜
305,605 タングステンナノロッド
405,506,607 炭素源
701,801 電子放出素子
702,802 電極
703,803 電極支持台
704 引出し電極
705,805 加速電極
706,806 引出し電極電源
707,807 加速電極電源
804 磁界レンズ
901,1001 電子銃
902,1002 アノード電極
903,1003 第一収束レンズ
904,1004 第二収束レンズ
905,1005 対物レンズ
906,1006 走査コイル
907,1007 サンプル
908,1008 二次電子検出器
909,1009 電子軌道
1010 ブランカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素と化合物を形成する金属元素を少なくとも1つ含有する金属基材の表面の少なくとも一部に、グラフェン構造の炭素被膜を有することを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記金属基材は、該基材の先端直径が1μm以下に先鋭化されていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記金属基材が、直径1μm以下のナノロッドであることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記炭素と化合物を形成する金属元素が、タングステン,チタン,モリブデン,クロム,ジルコニウム,ハフニウム,タンタル及びニオブから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記炭素被膜が損傷した場合に、加熱された前記金属基材上の炭素被膜から炭素成分が拡散して損傷した部位が補修されることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記炭素被膜が、グラフェンシートを多層に積層した構造であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子放出素子と前記電子放出素子を支持する導電性の支持基材とを有する陰極と、前記陰極から電子を放出させる引出し電極と、前記陰極から放出された電子を加速する加速電極と、を具備することを特徴とする電子銃。
【請求項8】
請求項7に記載の電子銃から放出される電子線を試料に照射し、前記試料の観察を行うことを特徴とする電子顕微鏡装置。
【請求項9】
請求項7に記載の電子銃から放出される電子線を試料に照射し、前記試料に電子線による描画を行うことを特徴とする電子線描画装置。
【請求項10】
炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層を有する金属基材の表面の少なくとも一部に、グラフェン構造の炭素被膜を有することを特徴とする電子放出素子。
【請求項11】
前記金属基材は、該基材の先端直径が1μm以下に先鋭化されていることを特徴とする請求項10に記載の電子放出素子。
【請求項12】
前記金属基材が、直径1μm以下のナノロッドであることを特徴とする請求項10に記載の電子放出素子。
【請求項13】
前記金属基材の先端表面における特定結晶面が隆起していることを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項14】
前記金属基材が、タングステン,チタン,モリブデン,クロム,ジルコニウム,ハフニウム,タンタル及びニオブから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10乃至13に記載の電子放出素子。
【請求項15】
金属基材表面に炭素膜を被覆し、加熱により炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層を形成した後、前記炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層上にグラフェン構造の炭素被膜を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項16】
金属基材に加熱下で電界を印加して金属基材先端の特定結晶面を隆起させた後、金属基材表面に炭素膜を被覆し、加熱により炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層を形成した後、前記炭化物層あるいは炭素−金属固溶体層上にグラフェン構造の炭素被膜を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項17】
請求項10乃至16のいずれか1項に記載の電子放出素子と前記電子放出素子を支持する導電性の支持基材とを有する陰極と、前記陰極から電子を放出させる引出し電極と、前記陰極から放出された電子を加速する加速電極と、を具備することを特徴とする電子銃。
【請求項18】
請求項17に記載の電子銃から放出される電子線を試料に照射し、前記試料の観察を行うことを特徴とする電子顕微鏡装置。
【請求項19】
請求項17に記載の電子銃から放出される電子線を試料に照射し、前記試料に電子線による描画を行うことを特徴とする電子線描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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