説明

電子放出素子

【課題】ダイヤモンド膜が設けられた雰囲気から酸素を取り除き、水素が離脱したダイヤモンド表面に酸素が吸着しないようにすることができる電子放出素子を提供する。
【解決手段】容器4内に容器4内の酸素を取り除くための酸素吸着剤8を設ける。このように容器4内に酸素吸着剤8を設けることにより、容器4内に存在する酸素を酸素吸着剤8に吸着させることができ、容器4内から酸素を除去することができる。このため、エミッタ電極1およびコレクタ電極2を構成するダイヤモンド膜の各表面1a、2aから水素が離脱したとしても、水素が抜けたダングリングボンドに酸素が吸着することを防止することができる。したがって、電子放出の確率の低下、発光効率、電界放出電子の放出確率、熱電子発電の発電効率の低下を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧下の容器内に備えられたダイヤモンド膜から電子放出を行う電子放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高温の電極表面から熱電子が放出される現象を利用して、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電子発電素子が例えば特許文献1で提案されている。この熱電子発電素子を構成するエミッタ電極およびコレクタ電極としてダイヤモンド半導体を用いると、負性電子親和力(Negative Electron Affinity;NEA)の効果により電極表面からの極めて高効率な熱電子放出が可能となるため、金属に比べて低温で高効率な発電が可能となることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。ダイヤモンドの負性電子親和力はダイヤモンドの表面が水素で終端されているときに発生する。一方、ダイヤモンドの表面が酸素で終端された場合は正の電子親和力を示し、仕事関数が大きくなる。
【0003】
そして、ダイヤモンドの負性電子親和力を用いた電子放出素子として冷陰極管が報告されている。この素子の信頼性を維持するために放電ガス種を水素にする方法、素子内に水素吸蔵合金を配置して水素の分圧を一定に維持させる方法が報告されている(特許文献2、特許文献3)。また、ダイヤモンドを用いた電界放出素子においても水素雰囲気で用いることが報告されている(特許文献4)。これはダイヤモンドの表面から水素が離脱するのを防止し、さらに水素離脱後に水素を再吸着させるためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−349398号公報
【特許文献2】特開2009−152096号公報
【特許文献3】特開2005−108564号公報
【特許文献4】特許第3745844号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】F.A.M.Koeck, Y.j.Tang, R,j. Nemanich、Organizing Committee NDNC2007、NDNC 2007 New Diamond and Nano Carbons 2007、2007年5月28日、p97, "Direct thermionic energy conversion from nitrogen doped diamond films"、North Carolina State University, Raleigh, NC, USA, Arizona State University, Tempe, AZ, USA
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、ダイヤモンドの表面から水素が離脱した後、水素雰囲気であれば水素が再吸着されるという保証はない。また、雰囲気中に酸素等の親和力を正にするガスが存在すれば、水素が抜けたダングリングボンドに酸素が吸着する場合がある。この場合、先に述べたように仕事関数が大きくなり電子放出の確率が低くなり、発光効率、電界放出電子の放出確率、熱電子発電の発電効率が下がるという問題がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、ダイヤモンド膜が設けられた雰囲気から酸素を取り除き、水素が離脱したダイヤモンド表面に酸素が吸着しないようにすることができる電子放出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、減圧下の容器(4)内に備えられたダイヤモンド膜(1)から電子放出を行う電子放出素子において、容器(4)内には、当該容器(4)内に存在する酸素を吸着させる酸素吸着剤(8)が設けられていることを特徴とする。
【0009】
これによると、容器(4)内の酸素が酸素吸着剤(8)に吸収されて閉じ込められるので、容器(4)内の雰囲気から酸素が除去される。このため、水素が離脱したダイヤモンド膜(1)の表面に酸素が吸着しないようにすることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、酸素吸着剤(8)は、ダイヤモンド膜(1)の温度と等しいかまたは低いことを特徴とする。このように、酸素吸着剤(8)の温度が高くならないようにすることにより酸素吸着剤(8)の酸素吸着能力の低下を防止することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、電子放出を行うダイヤモンド膜(1)をエミッタ電極とし、このエミッタ電極に対して対向配置されると共にダイヤモンド膜(2)で構成されたコレクタ電極と前記エミッタ電極との一対の電極間を移動する熱電子を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電子発電素子として構成されていることを特徴とする。
【0012】
これによると、各ダイヤモンド膜(1、2)の表面から水素が離脱したとしても、酸素吸着剤(8)によって酸素が除去されるので、電子放出の確率が低下しない熱電変換素子を実現することができる。このため、各電極に印加するバイアス電圧を大きくすれば電子放出量が増えるが、このような操作を行わずに発光効率、電界放出電子の放出確率、熱電子発電の発電効率を維持することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、エミッタ電極およびコレクタ電極は、半導体不純物が添加された半導体材料によりそれぞれ構成されており、エミッタ電極を構成する半導体材料に添加された半導体不純物のドーパント濃度が、コレクタ電極を構成する半導体材料に添加された半導体不純物のドーパント濃度よりも濃いことを特徴とする。
【0014】
これにより、コレクタ電極から放出される熱電子の数をエミッタ電極から放出される熱電子の数よりも少なくすることができる。このため、エミッタ電極の温度に対してコレクタ電極の温度を下げることと同等の効果を得ることができる。したがって、コレクタ電極の温度をエミッタ電極の温度よりも低くしなくても、コレクタ電極のバックエミッションを抑制することができ、ひいては熱電子発電素子の発電効率を向上させることができる。
【0015】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子放出素子の模式図である。
【図2】ダイヤモンド半導体薄膜の表面を水素終端した場合と酸素終端した場合それぞれのエネルギーバンド図である。
【図3】排熱発電素子の概略図である。
【図4】太陽集光発電素子の概略図である。
【図5】冷陰極管の概略図である。
【図6】電界放出ディスプレーの概略図である。
【図7】電界放出電子銃の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。電子放出素子は、ダイヤモンドで構成された電極から電子放出を行う素子である。以下では、電子放出素子として熱電子発電素子を例に説明する。熱電子発電素子は、互いに対向配置された一対の電極間を移動する熱電子を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。
【0019】
図1は、本実施形態に係る熱電子発電素子の模式図である。この図に示されるように、熱電子発電素子は、互いに対向配置されたエミッタ電極1およびコレクタ電極2からなる一対の電極によって構成され、エミッタ電極1とコレクタ電極2との間を移動する熱電子を利用して、これらの間に接続された負荷3に対して電力を供給する。
【0020】
エミッタ電極1およびコレクタ電極2は、ダイヤモンド半導体によって構成された電極である。ここで、「ダイヤモンド半導体によって構成された電極」とは、ダイヤモンド半導体そのものでも良いし、ダイヤモンド基板、Si(シリコン)基板やMo(モリブデン)基板等の導電性・耐熱性を持った基板の上にダイヤモンド膜が形成されたものでも良い。
【0021】
例えば、基板へのダイヤモンド膜の形成は、例えばCVD法やスパッタ法にて行われ、マイクロ波プラズマCVD、RFプラズマCVD、DCプラズマCVD、RFプラズマスパッタ、DCプラズマスパッタ等により行われる。ダイヤモンド膜を構成するダイヤモンドは、単結晶と多結晶のいずれであっても構わない。例えば、高圧合成によって生成したダイヤモンド基板を用いる場合、その上にダイヤモンド膜を例えばCVD法にて形成すると単結晶となる。ダイヤモンド膜の厚さに関しては、熱電変換に対する膜厚依存性が確認されなかったことから特に制限はないが、基板の表面全面に偏り無く同じ厚みで形成されていると好ましい。
【0022】
さらに、エミッタ電極1およびコレクタ電極2の各表面1a、2aは水素終端されている。この水素終端の効果について、エミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜の表面1aを水素終端した場合と酸素終端した場合とを比較して説明する。
【0023】
図2(a)はエミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜の表面1aを水素終端した場合、図2(b)はエミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜の表面1aを酸素終端した場合のエネルギーバンド図である。
【0024】
まず、エミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜の表面1aを水素終端した場合、図2(a)に示されるように、負性電子親和力(NEA)により、真空準位が伝導帯よりも低くなる(ΔE<0)。このため、伝導帯にある電子は、エネルギー=0で真空に放出させられる。さらにこのために真空準位とフェルミ準位との差として表される仕事関数が小さくなる。これに対して、図2(b)に示されるように、エミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜の表面1aを酸素終端した場合、正の電子親和力により真空準位が伝導帯よりも高くなる(ΔE>0)。このため、伝導帯にある電子を真空に放出するにはエネルギーが必要となる。このため仕事関数も大きくなる。
【0025】
このように、エミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜の表面1aの終端構造によって、電子親和力の極性を変えることができる。そして、エミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜の表面1aを水素終端すると、極めて安定な負性電子親和力を得ることができ、高効率な熱電子放出を長時間において実現することが可能となる。これは、コレクタ電極2を構成するダイヤモンド膜の表面2aを水素終端した場合についても同様である。
【0026】
そして、上記のように構成されたエミッタ電極1およびコレクタ電極2は、図1に示されるように、互いのダイヤモンド膜同士が向かい合うように一定間隔離間して対向配置されている。ダイヤモンド膜同士の間の間隔は、熱電変換に適した間隔とされており、例えば20〜30μmとされている。この間隔は、エミッタ電極1とコレクタ電極2とを空間を空けて離間配置することによって保たれるようにしても良いが、スペーサーとして例えばこの間隔と対応する膜厚の図示しない絶縁膜をダイヤモンド膜で挟み込み、ダイヤモンド膜と絶縁膜を接触させた状態で固定することで、より確実に間隔が保たれるようにすることができる。絶縁膜として、例えば雲母が用いられる。
【0027】
このように対向配置されたエミッタ電極1およびコレクタ電極2は、図1に示されるように、減圧下すなわち真空とされた容器4の中に配置されている。これにより、エミッタ電極1のダイヤモンド膜とコレクタ電極2のダイヤモンド膜との間が真空に保たれる。
【0028】
さらに、本実施形態では、ダイヤモンド膜それぞれに、半導体不純物が添加されている。ダイヤモンド膜に添加される半導体不純物に応じて、エミッタ電極1のダイヤモンド膜とコレクタ電極2のダイヤモンド膜とがN型とN型、N型とP型(P型とN型)、P型とP型の導電型の各組み合わせが可能となる。なお、N型とP型(P型とN型)やP型とP型の各組み合わせの場合、エミッタ電極1およびコレクタ電極2を高温で加熱する必要があるので、N型とN型の組み合わせが好ましい。
【0029】
そして、エミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜に添加された半導体不純物のドーパント濃度が、コレクタ電極2を構成するダイヤモンド膜に添加された半導体不純物のドーパント濃度よりも濃くなっている。
【0030】
具体的に、エミッタ電極1のドーパント濃度は例えば1×1020(atoms/cm)であり、コレクタ電極2のドーパント濃度は例えば1×1019(atoms/cm)である。このように、エミッタ電極1のドーパント濃度がコレクタ電極2のドーパント濃度の10倍になっている。
【0031】
上記のようにドーパント濃度を規定する場合、エミッタ電極1のドーパント濃度は1×1019(atoms/cm)以上が望ましい。エミッタ電極1のドーパント濃度が1×1019(atoms/cm)以下では、励起される熱電子が少なく発電効率が低いためである。
【0032】
さらに、コレクタ電極2におけるドーパント濃度はエミッタ電極1におけるドーパント濃度の10分の1以下が望ましい。このように、コレクタ電極2におけるドーパント濃度を、エミッタ電極1におけるドーパント濃度よりも薄くすることで、コレクタ電極2で励起される熱電子の数をエミッタ電極1で励起される熱電子の数よりも少なくすることが可能となる。このため、エミッタ電極の温度に対してコレクタ電極の温度を下げることと同等の効果が得られる。したがって、コレクタ電極2の温度をエミッタ電極1の温度よりも低くしなくても、コレクタ電極2のバックエミッションが抑制されるので、熱電子発電素子の発電効率が向上する。
【0033】
ダイヤモンド膜に添加する半導体不純物としては、例えば、N(窒素)、P(燐)、As(ヒ素)、Sb(アンチモン)、S(硫黄)等が用いられる。それぞれのドナー準位は、N(窒素)が1.7eV、P(燐)が0.57eV、As(ヒ素)が0.4eV、Sb(アンチモン)が0.2eV、S(硫黄)が0.4eVである。
【0034】
次に、上記構成の熱電子発電素子の作動原理について説明する。上述のように、熱電子発電素子は、電極表面から熱電子が放出される現象を利用して、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。具体的には、外部の熱源から熱がエミッタ電極1に加わると、熱電子がエミッタ電極1であるダイヤモンド半導体のフェルミ準位から伝導帯に励起される。ダイヤモンド半導体の伝導帯は負性親和力であるため真空準位より高く、伝導帯に励起された熱電子は障壁なく真空中へ飛び出す。
【0035】
また、エミッタ電極1とコレクタ電極2との間は真空であり、距離が短く形成されているので、熱電子はエミッタ電極1の表面(つまりダイヤモンド膜の表面1a)からコレクタ電極2の表面(つまりダイヤモンド膜の表面2a)まで移動することができる。コレクタ電極2に移動した熱電子は、負荷3を介してエミッタ電極1に戻ることができる。これにより、熱電子発電素子は負荷3に対して電力を供給することができる。
【0036】
以上のように、高温になったエミッタ電極1の表面から熱電子が放出され、各電極1、2間の負性空間電位を超えてコレクタ電極2に到達する。そして、エミッタ電極1とコレクタ電極2との仕事関数の差分で起電力が生じる。
【0037】
続いて、具体的な熱電子発電素子の構成について、図3を参照して説明する。図3は熱電子発電素子の一例である排熱発電素子の構成図である。
【0038】
図3に示されるように、排熱発電素子は、上述のエミッタ電極1、コレクタ電極2、および容器4と、伝熱材5と、ヒートシンク6と、水素貯蔵合金7と、酸素吸着剤8と、を備えて構成されている。
【0039】
伝熱材5は配管9を通る高温ガスの熱をエミッタ電極1(hot)に伝達するための部材である。伝熱材5は、一端が容器4内のエミッタ電極1に接続され、他端が容器4の外に位置している。これにより、高温ガスの熱が伝熱材5を介してエミッタ電極1に伝達され、エミッタ電極1が加熱される。なお、高温ガスは工場の排気ガス等である。
【0040】
ヒートシンク6はコレクタ電極2(cold)の熱を外部に逃がすための部材である。ヒートシンク6の一端が容器4内のコレクタ電極2に接続され、他端が容器4の外に位置している。これにより、ヒートシンク6を介してコレクタ電極2の熱を外部に放出できる。
【0041】
水素貯蔵合金7は、水素の供給源であり、容器4内を水素雰囲気にするための金属である。水素が離脱したダイヤモンド膜の表面1a、2aに水素を再吸着させるために水素貯蔵合金7は容器4内を水素で満たす役割を果たす。水素貯蔵合金7として、CeMg等のMg合金、Ti−Fe系、V系、Ca系合金、LaNi、ReNi等が用いられる。本実施形態では、水素貯蔵合金7は容器4内においてエミッタ電極1側に位置している。このように、容器4内に水素貯蔵合金7を設けることでダイヤモンド膜を水素雰囲気内に保持することができる。
【0042】
酸素吸着剤8は、容器4内の酸素を取り除くための吸着材料である。容器4内は上述のように真空であるが、酸素が多少は取り残されている。ダイヤモンド膜の表面1a、2aのうち水素が離脱した場所に容器4内の酸素が付着してしまう可能性があるので、ダイヤモンド膜が設けられた雰囲気内に酸素吸着剤8を設置してこの酸素吸着剤8に雰囲気内の酸素を吸着させる。これにより、容器4内の酸素を除去する。
【0043】
酸素吸着剤8の材料として、Li、K、Ca、Na、Zr、Ba、Zn、Cr、Mg、Al、Mnやこれらの化合物がある。
【0044】
酸素吸着剤8の温度が高くならないようにすることにより酸素吸着剤8の酸素吸着能力の低下を防止するため、酸素吸着剤8はエミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜の温度と等しいかまたは低くなるように容器4内に設置されている。本実施形態では、酸素吸着剤8は加熱されないように、また、酸素吸着能力が維持されるように、コレクタ電極2を構成するダイヤモンド膜近傍に設置されている。このように、酸素吸着剤8は加熱部分と分離されて配置されていることが望ましい。
【0045】
以上説明したように、本実施形態では、容器4内に酸素吸着剤8を設けているので、容器4内に存在する酸素を酸素吸着剤8に吸着させることにより容器4内から酸素を除去することができる。このため、各電極1、2を構成するダイヤモンド膜の各表面1a、2aから水素が離脱したとしても、水素が抜けたダングリングボンドに酸素が吸着することを防止することができる。これにより、仕事関数が大きくなって電子放出の確率が低くなることがなく、発光効率、電界放出電子の放出確率、熱電子発電の発電効率が低下しないようにすることができる。
【0046】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、エミッタ電極1を構成するダイヤモンド膜が特許請求の範囲の「ダイヤモンド膜」に対応する。
【0047】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について説明する。上記第1実施形態では、熱電子発電素子の一例として排熱発電素子を説明したが、本実施形態では熱電子発電素子の一例として太陽集光発電素子について説明する。
【0048】
図4は、熱電子発電素子の一例である太陽集光発電素子の構成図である。図4に示される太陽集光発電素子は、図3に示される排熱発電素子の構成に対して伝熱材5とヒートシンク6とが備えられていない構成、すなわちエミッタ電極1、コレクタ電極2、容器4、水素貯蔵合金7、および酸素吸着剤8を備えている。そして、太陽集光発電素子はレンズ10を備えている。レンズ10は太陽光を集光してエミッタ電極1を加熱する役割を果たすものである。
【0049】
以上のように、熱電子発電素子を太陽集光発電素子として構成することができる。この場合にも、容器4内に酸素吸着剤8を設けることで容器4内の酸素を除去することができる。
【0050】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1、第2実施形態と異なる部分について説明する。上述のようにダイヤモンドを用いた電子放出素子において水素に終端された表面1a、2aから水素が離脱し、酸素が終端した場合に仕事関数が大きくなり電子の放出確率が小さくなる。
【0051】
そこで、バイアス電圧を外部から加えて電子を放出させる電界放出素子や冷陰極間では各電極1、2間に印加するバイアス電圧を高くすることにより水素離脱前と同等の特性を得ることができる。バイアス電圧を外部から印加するものとして、図5に示される冷陰極管、図6に示される電界放出ディスプレー、図7に示される電界放出電子銃等がある。
【0052】
ここで、図5の冷陰極管は、容器4内にエミッタ電極1として機能する冷陰極11と、水素貯蔵合金7と、酸素吸着剤8と、蛍光体12と、を備えている。蛍光体12は電子が衝突することで光を発する材料である。このような構成によると、冷陰極11に印加されたバイアス電圧に応じて冷陰極11から電子が放出され、電子が照射された蛍光体12が発光する。
【0053】
また、図6の電界放出ディスプレーは、容器4内にエミッタ電極1と、水素貯蔵合金7と、酸素吸着剤8と、蛍光体12と、ゲート電極13と、を備えている。ゲート電極13はエミッタ電極1との電位差に応じて電子を引き出すための電極である。このような構成によると、ゲート電極13に印加されたバイアス電圧に応じてエミッタ電極1から電子が放出され、ゲート電極13を介して照射された電子が蛍光体12に衝突することで発光する。
【0054】
さらに、図7の電界放出電子銃は、容器4内にエミッタ電極1と、水素貯蔵合金7と、酸素吸着剤8と、引き出し電極14と、加速電極15と、を備えている。この電界放出電子銃は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)等である。この電界放出電子銃は、引き出し電極14によってエミッタ電極1から電子を引き出し、加速電極15によって電子を対象物に衝突させる構成となっている。
【0055】
これら冷陰極管、電界放出ディスプレー、および電界放出電子銃は、エミッタ電極1に印加するバイアス電圧を調整することで出力特性を調整することが可能である。
【0056】
もちろん、第1、第2実施形態で示された排熱発電素子や太陽集光発電素子等の熱電子発電素子の場合は加熱電圧を高くすれば同等の出力特性を得ることが原理的にはできる。しかしながら水素終端を行ったダイヤモンド膜は700℃以上の温度に高くすると水素が離脱することが知られており、エミッタ電極1の温度を高くすると水素がより離脱し発電特性が得られなくなる。このため、水素が離脱したダングリングボンドに酸素を終端させないようにすることは熱電子発電素子において有効である。
【0057】
したがって、酸素吸着剤8によって容器4内の酸素を除去することにより、エミッタ電極1に印加するバイアス電圧を増加させなくとも、所望の出力特性を得ることができる。また、バイアス電圧を調整できない電子放出素子においては、酸素の存在が出力特性を低下させる原因であったが、酸素吸着剤8によって容器4内の酸素が除去されるので、一定の出力特性を維持することができる。
【0058】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示された構成は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明を実現できる他の構成とすることもできる。例えば、上記各実施形態では、容器4内を水素雰囲気とするため、容器4内に水素貯蔵合金7を配置していたが、水素貯蔵合金7を用いずにダイヤモンド膜が設けられた雰囲気に水素を微量封入しても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 エミッタ電極
2 コレクタ電極
3 負荷
4 容器
7 水素貯蔵合金
8 酸素吸着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下の容器(4)内に備えられたダイヤモンド膜(1)から電子放出を行う電子放出素子において、
前記容器(4)内には、当該容器(4)内に存在する酸素を吸着させる酸素吸着剤(8)が設けられていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記酸素吸着剤(8)は、前記ダイヤモンド膜(1)の温度と等しいかまたは低いことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記電子放出を行うダイヤモンド膜(1)をエミッタ電極とし、このエミッタ電極に対して対向配置されると共にダイヤモンド膜(2)で構成されたコレクタ電極と前記エミッタ電極との一対の電極間を移動する熱電子を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電子発電素子として構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記エミッタ電極および前記コレクタ電極は、半導体不純物が添加された半導体材料によりそれぞれ構成されており、
前記エミッタ電極を構成する半導体材料に添加された半導体不純物のドーパント濃度が、前記コレクタ電極を構成する半導体材料に添加された半導体不純物のドーパント濃度よりも濃いことを特徴とする請求項3に記載の熱電子発電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−248369(P2012−248369A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118109(P2011−118109)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】