説明

電子検出機構及びそれを備えた荷電粒子線装置

【課題】一次線の光軸近傍を軌道とする検出対象電子と、その外側を軌道とする検出対象電子とを簡易な構成で分離して検出する。
【解決手段】一次線2が通過するための開口4が形成されているとともに、両面がシンチレーション面を形成しているプレート5と、エネルギーフィルタ3と、試料10と対向する側のシンチレーション面に一次線2の照射に応じて試料10から発生する第1の検出対象電子21が到達して生じるシンチレーション光23を検出するための第1の光検出器7aと、一次線2の照射に応じて試料10から発生し該プレート5の開口4を通過してエネルギーフィルタ3により追い返された第2の検出対象電子22aが到達して生じるシンチレーション光24を検出するための第2の光検出器7bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡等の荷電粒子線装置に用いられる電子検出機構及びそれを備えた荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡は、観察・検査対象となる試料上に電子線を集束させて電子プローブ(集束電子線)を形成するとともに、試料上で該電子プローブをラスター走査する。
【0003】
このように電子プローブが走査された試料からは、検出対象となる2次電子や反射電子等の被検出電子が発生する。走査時における被検出電子の検出信号(輝度)と電子プローブの走査信号とを同期させることにより、走査画像が形成される。
【0004】
図1は、走査電子顕微鏡において用いられる電子検出機構の一例を示す概略構成図である。
【0005】
同図において、電子銃からなる電子線源101からは、加速された電子線102が試料110に向けて放出される。電子線102は、電子線源101から放出された後、図示しないコンデンサレンズにより一旦集束されて対物絞り(図示せず)を通過し、その後2次電子放出用金属板107の開口107aを通過する。ここで、図中の109は、電子線102の光軸である。
【0006】
この金属板107の開口107aを通過した電子線102は、対物レンズ108による集束作用によって、試料110上に集束される。これにより、試料110上で集束された電子プローブが形成される。この状態で、図示しない偏向器により、当該電子プローブを試料110上でラスター走査する。
【0007】
このように電子プローブが走査された試料110からは、相対的にエネルギーの低い2次電子(SE)103と、相対的にエネルギーの高い反射電子(BS)104とを含む被検出電子が発生する。
【0008】
試料110から発生した2次電子103は、電子検出器106の電子受光部106aに直接到達する。ここで、電子検出器106の電子受光部106aからは、一次線である電子線102の軌道に影響を与えない程度の電場が発生している。
【0009】
この電場によって、試料110からの2次電子103が電子受光部106aに引き寄せられる。これにより、2次電子103が電子受光部106aに直接到達し、電子検出器106によって検出される。
【0010】
一方、試料110から発生した反射電子104は、電子線102の当該加速電圧に基づくエネルギーと同等のエネルギーを有しており、上記電場による軌道への影響は殆ど受けない。その結果、反射電子104は、そのまま直進し、金属板107に衝突する。
【0011】
この反射電子104の衝突により、金属板107からは電子が放出され、そのうちの2次電子105は上記電場により電子検出器106の電子受光部106aに引き寄せられる。これにより、金属板107から放出された2次電子105が電子検出器106により検出される。
【0012】
この結果、試料110から発生した2次電子103と、試料110から発生した反射電子104に対応する2次電子105の双方が電子検出器106により同時に検出される。この場合、当該2次電子103,105が重合して電子検出器106に検出されることとなる。
【0013】
また、他の電子検出機構の例としては、2つの電子検出器を光軸に沿って並べて配置し、試料から放出される2次電子を一方の電子検出器(下段側に位置する電子検出器)により検出し、電子線側にある反射板に衝突する反射電子に基づいて発生した2次電子を他方の電子検出器(上段側に位置する電子検出器)によって検出する構成もある(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
上述したこれらの検出機構では、上記金属板ないし反射板に電圧を印加することにより、対応する電子検出器に導入される電子のエネルギー帯を選別することができる。
【0015】
特に、後者の特許文献1に記載された構成によれば、反射板に電圧を印加し、さらに該電圧を変化させて反射板から発生する2次電子の検出を行っても、試料からの2次電子と反射板からの2次電子をそれぞれ別の電子検出器により検出するので、試料側(下段側)に位置する電子検出器による2次電子検出に対しては影響を与えないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO1999/046798
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図1に示す前者の例においては、試料からの2次電子に基づく情報と、反射電子に基づく情報とが重合されて電子検出器により検出されることとなる。よって、同図に示す構成では、2次電子に基づく情報と反射電子に基づく情報とを分離して検出することは困難であった。
【0018】
また、上述した後者の構成においては、試料からの2次電子と反射電子とを別々の電子検出器により検出するので、これら各検出対象電子に基づく情報を個別に検出できる。
【0019】
しかしながら、試料からの反射電子について、一次線の光軸近傍に軌道を取る反射電子に基づく情報と、その外側に軌道を取る反射電子に基づく情報とを分離して検出することが困難であった。
【0020】
なお、当該後者の構成に対して、さらに上段側に電子検出器を別途追加配置する構成が考えられるが、この追加された電子検出器をさらに光軸に沿って縦に並べる構造となるので、電子検出器を配置する段数が増加し、電子検出機構が備えられる荷電粒子光学系の占有スペースが大きくなってしまうことが考えられる。
【0021】
このように、電子検出器を増やすことにより荷電粒子光学系の占有スペースが大きくなると、装置全体の大型化を招くとともに、荷電粒子光学系が外乱に対して影響を受けやすくなるという要改善点が生じる。
【0022】
本発明は、このような点に鑑みて成されたものであり、装置の省スペース化を図ることができるとともに、一次線の光軸近傍を軌道とする検出対象電子(第2の検出対象電子)と、その外側を軌道とする検出対象電子(第1の検出対象電子)とを簡易な構成で分離して検出ができる電子検出機構及びそれを備えた荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【0023】
また、本発明は、上記電子検出機構及びそれを備えた荷電粒子線装置に関し、当該第1の検出対象電子の検出に際して、そのエネルギー帯の選別を行うことができるようにすることも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に基づく電子検出機構は、荷電粒子線源から加速されて放出された一次線の光軸上に配置され、一次線が通過するための開口が形成されているとともに、両面がシンチレーション面を形成しているプレートと、該プレートに対して荷電粒子線源側に配置され、一次線が通過するための開口が形成されたエネルギーフィルタと、該プレートにおいて試料と対向する側のシンチレーション面に一次線の照射に応じて試料から発生する第1の検出対象電子が到達して生じるシンチレーション光を検出するための第1の光検出器と、該プレートにおいてエネルギーフィルタと対向する側のシンチレーション面に一次線の照射に応じて試料から発生し該プレートの開口を通過してエネルギーフィルタにより追い返された第2の検出対象電子が到達して生じるシンチレーション光を検出するための第2の光検出器とを備えることを特徴とする。
【0025】
本発明に基づく荷電粒子線装置は、荷電粒子線源と、荷電粒子線源から加速されて放出された一次線を試料上で集束するための対物レンズと、該集束された一次線を試料上で走査するための偏向器とを具備する荷電粒子線装置において、上記電子検出機構を有し、これにより検出された少なくとも何れか一方の前記検出対象電子に対応する光検出器の出力信号に基づき走査画像を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電子検出機構においては、一次線が通過する開口が形成され、両面がシンチレーション面となっているプレートと、該プレートに対して荷電粒子線源側に配置され、一次線が通過する開口が形成されたエネルギーフィルタと、該プレートにおける試料と対向側のシンチレーション面に試料からの第1の検出対象電子(試料から該プレートに直接到達する電子)が到達して生じるシンチレーション光を検出する第1の光検出器と、該プレートにおけるエネルギーフィルタと対向側のシンチレーション面に試料からの第2の検出対象電子(試料から発生し該プレートの開口を通過してエネルギーフィルタにより追い返された電子)が到達して生じるシンチレーション光を検出する第2の光検出器とを備えている。
【0027】
本発明においては、このような構成により、一次線の光軸に沿って電子検出器を縦に並べて配置することなく、一次線の光軸近傍を軌道とする検出対象電子(第2の検出対象電子)に対応する情報を第2の光検出器により検出することができるとともに、その外側を軌道とする検出対象電子(第1の検出対象電子)に対応する情報を第1の光検出器によって検出することができる。
【0028】
これにより、当該第1及び第2の検出対象電子を個別に検出する際に、電子検出器を多段に配置する必要性がないので、電子検出機構が備えられる荷電粒子光学系の占有スペースを大きくする必要がなく、荷電粒子光学系の外乱に対する影響の増大を防止することができる。
【0029】
また、本発明の電子検出機構を具備する荷電粒子線装置においては、装置の省スペース化を図ることができる。
【0030】
さらに、本発明の電子検出機構においては、上記第2の検出対象電子の検出を行うに際して、上記エネルギーフィルタへの印加電圧を制御することにより、当該検出対象電子のエネルギー帯の選別を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来の電子検出機構の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明における電子検出機構及び荷電粒子線装置を示す概略構成図である。
【図3】本発明におけるエネルギーフィルタが配置された部分を拡大して示す概略構成図である。
【図4】本発明におけるプレートが配置された部分を拡大して示す概略構成図である。
【図5】本発明における電子検出機構及び荷電粒子線装置の変形例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図2は、本発明の実施例における電子検出機構及び荷電粒子線装置を示す概略構成図である。
【0033】
同図において、電子銃からなる電子線源(荷電粒子線源)1からは、加速された電子線(荷電粒子線)2が一次線として試料10に向けて放出される。電子線2は、電子線源1から放出された後、図示しないコンデンサレンズにより一旦集束されて対物絞り(図示せず)を通過し、その後金属メッシュ若しくは金属板からなるエネルギーフィルタ3を通過する。エネルギーフィルタ3には、電子線2が通過するための開口が形成されている。ここで、図中の9は、電子線2の光軸である。光軸9は、エネルギーフィルタ3の該開口内に位置している。
【0034】
エネルギーフィルタ3を通過した電子線2は、プレート5の開口4を通過し、対物レンズ8による集束作用によって、試料10上に集束される。これにより、試料10上で集束された電子プローブが形成される。この状態で、図示しない偏向器により、当該電子プローブを試料10上でラスター走査する。なお、電子線2の光軸9は、プレート5の開口4内に位置している。
【0035】
このように電子プローブ(電子線2)が走査された試料10からは、2次電子20と反射電子21,22とが発生する。
【0036】
試料10から発生した2次電子20は、電子検出器19の電子受光部19aに直接到達し、当該電子検出器19により検出される。ここで、電子検出器19の電子受光部19aからは、一次線である電子線2に軌道に影響を与えない程度の電場が発生しており、該電場によって試料10からの2次電子20が引き寄せられて電子受光部19aに到達する。
【0037】
一方、試料から10から発生した反射電子21,22は、電子線2の当該加速電圧に基づくエネルギーと同等のエネルギーを有しており、上記電場による軌道への影響は殆ど受けない。その結果、2次電子検出用の電子検出器19の電子受光部19aの前方を通過し、そのまま直進する。
【0038】
この反射電子21,22のうち、光軸9の近傍における所定領域よりも外側に軌道をとる反射電子(第1の検出対象電子)21は、プレート5の下面に到達する。
【0039】
ここで、該プレート5の表裏(上下)両面はシンチレーション面を構成しており、光軸9に対して40度〜50度の範囲で傾斜している。最も望ましい傾斜角度は、45度である。
【0040】
当該両シンチレーション面は、鏡面又は白色のプレート本体表面に、蛍光塗料の塗布若しくは蛍光材料の接着により形成されている。また、当該プレート本体は、導電性部材からなり、図示しない電圧印加手段により該プレート本体に対して電圧が印加可能となっている。
【0041】
プレート(プレート本体)5は円板状となっており、その一方側の側面は、支持板6aを介して第1光検出器7aに支持されている。ここで、支持板6aの下面は鏡面となっている。また、プレート5の他方側の側面は、支持板6bを介して第2光検出器7bに支持されている。ここで、支持板6bの上面は鏡面となっている。
【0042】
第1光検出器7a及び第2光検出器7bは、それぞれ第1画像形成部11及び第2画像形成部12に接続されている。これら第1及び第2画像形成部11,12は、バスライン18を介してCPU14に接続されている。
【0043】
また、2次電子検出用の電子検出器19は、第3画像形成部13に接続されている。この第3画像形成部13も、バスライン18を介してCPU14に接続されている。
【0044】
ここで、電子線源1は、駆動部1aに接続されており、該駆動部1aは、バスライン18を介してCPU14に接続されている。これにより、電子線源1は、駆動部1aを介してCPU14により駆動制御される。
【0045】
また、エネルギーフィルタ3は、電圧印加部3aに接続されており、該電圧印加部3aは、バスライン18を介してCPU14に接続されている。これにより、エネルギーフィルタ3は、電圧印加部3aを介してCPU14により電圧印加制御される。
【0046】
さらに、対物レンズ8は、駆動部8aに接続されており、該駆動部8aは、バスライン18を介してCPU14に接続されている。これにより、対物レンズ8は、駆動部8aを介してCPU14に駆動制御される。
【0047】
なお、図示していない集束レンズ及び偏向器も、それぞれ対応する駆動部を介してCPU14により駆動制御される。
【0048】
そして、CPU14に繋がるバスライン18には、表示部15、入力部16及び記憶部17が接続されている。ここで、表示部18は、LCDやCRT等からなる表示デバイスを備えている。入力部16は、キーボード等のキー入力デバイス及びマウス等のポインティングデバイスを備えている。記憶部17は、試料10上での電子線2の走査に基づく走査画像データ等を記憶するものである。なお、図中の25は、電子光学系(荷電粒子光学系)を示す。
【0049】
さて、上述のようにして、集束された電子線2の走査により試料10から発生した反射電子21,23のうち、光軸9の近傍における所定領域よりも外側に軌道をとる反射電子(第1の検出対象電子)21がプレート5の下面に到達すると、該下面から第1のシンチレーション光23が発生する。この第1のシンチレーション光23は、支持板6aの下方において、図中の左側へ進み、第1光検出器7aに到達して検出される。
【0050】
このとき、支持板6aの下面は鏡面となっているので、図中の左斜め上方に進行するシンチレーション光23は、該鏡面により反射されて確実に第1光検出器7aに到達することとなる。なお、図示していないが、支持板6aの下面(該鏡面)と対向するように別途鏡面部材を配置するようにしておくと、支持板6aの下面により反射されたシンチレーション光23がこの鏡面部材でさらに反射されてより確実に第1光検出器7aに導入されることとなる。
【0051】
この第1光検出器7aによる検出信号(輝度信号)は、第1画像形成部11に送られる。第1画像形成部11には、電子線2の走査信号(上記偏向器に接続された駆動部(図示せず)にCPU14から供給される走査信号)が送られており、当該走査信号と当該検出信号とを同期させることにより、第1の画像データを形成する。
【0052】
当該第1の画像データは、CPU14の制御により、第1画像形成部11からバスライン18を介して記憶部17に格納される。
【0053】
一方、上記反射電子21,23のうち、光軸9の近傍における所定領域内を軌道とする反射電子(第2の検出対象電子)22は、プレート5の開口4を通過する。すなわち、プレート5が配置された光軸9上の位置での該開口4の内部領域が当該所定領域に対応する。
【0054】
ここで、プレート5の上方に位置するエネルギーフィルタ3には、電圧印加部3aにより、接地電位又は所定の負電位(例えば、0V〜−2000V程度)が印加されている。これにより、プレート5の開口4を通過した反射電子22のうち、当該印加電圧より小さい加速電圧に相当する反射電子22aは、該電圧により形成される電場によって試料10側に追い返されることとなる。ここで、試料10は、接地電位となっている。
【0055】
この追い返された電子22aは、プレート5の上面に到達する。これにより、該上面からは第2のシンチレーション光24が発生する。この第2のシンチレーション光24は、支持板6bの上方において、図中の右側へ進み、第2光検出器7bに到達して検出される。
【0056】
このとき、支持板6bの上面は鏡面となっているので、図中の右斜め下方に進行するシンチレーション光24は、該鏡面により反射されて確実に第2光検出器7bに到達することとなる。なお、図示していないが、支持板6bの上面(該鏡面)と対向するように別途鏡面部材を配置するようしておくと、支持板6bの上面により反射されたシンチレーション光24がこの鏡面部材でさらに反射されてより確実に第2光検出器7bに導入されることとなる。
【0057】
この第1光検出器7bによる検出信号(輝度信号)は、第2画像形成部12に送られる。第2画像形成部12にも、電子線2の走査信号が送られており、当該走査信号と当該検出信号とを同期させることにより、第2の画像データを形成する。
【0058】
当該第2の画像データは、CPU14の制御により、第2画像形成部12からバスライン18を介して記憶部17に格納される。
【0059】
なお、電子検出器19による2次電子20の検出に基づく第3画像データ(2次電子像)は、上記と同様にして、第3画像形成部により形成され、当該画像データは、バスライン18を介して記憶部17に格納される。
【0060】
ここで、反射電子21に基づいて得られる第1の画像データは、試料10表面の凹凸情報及び組成情報を含む画像データである。また、光軸9及びその近傍の領域を軌道とする反射電子22に基づいて得られる第2の画像データは、試料10表面における凹凸情報が極力取り除かれた組成情報のみからなる画像データとなっている。そして、2次電子20に基づいて得られる第3の画像データは、試料10表面の凹凸情報が主に反映された画像データとなっている。
【0061】
本装置を操作するオペレータは、入力部16を操作することにより、記憶部17に格納されている何れかの画像データを選択することができる。これにより、装置の表示部15に、当該選択された画像データに基づく画像を表示されることができる。なお、このようにして表示させる画像は、一つに限定されることなく、複数の画像を同時に表示部15により表示させることも可能である。
【0062】
なお、エネルギーフィルタ3には、上述したように、電圧印加部3aにより所定の負電位が印加されており、所定の加速電圧により加速された電子線2に対して影響を与える可能性がある。
【0063】
このような影響を低減させるための構成を、図3に示す。同図において、エネルギーフィルタ3における電子線2が通過する開口31内には、金属パイプ32が挿通されるように配置されている。この金属パイプ32は、接地電位となっている。そして、金属パイプ32の両端の外周部32a,32bには、エネルギーフィルタ3の上下面を覆うように金属メッシュ33,34が設けられている。該金属メッシュ33,34は、金属パイプ32と電気的に導通されている。
【0064】
この接地電位とされた金属パイプ32及び金属メッシュ33,34からなるシールド部材により、エネルギーフィルタ3が形成する電場による電子線2への影響を低減させることができる。
【0065】
また、上記の例においては、電子検出器19により試料10からの2次電子を検出し、プレート5を接地電位として、該プレート5を介して試料10からの反射電子21,22の検出を行う例としていた。
【0066】
これに対して、プレート5に正電位(例えば8kV〜10kV程度)を印加し、該プレートを介して2次電子等の低エネルギー電子の検出を行うことも可能である。この場合にも、当該正電位の印加による電子線2への影響を低減させる必要がある。
【0067】
このための構成を図4に示す。同図において、プレート5における電子線2が通過する開口4内には、金属パイプ42が挿通されるように配置されている。この金属パイプ42は、接地電位となっている。そして、金属パイプ42の両端の外周部42a,42bには、プレート5の上下面を覆うように金属メッシュ43,44が設けられている。該金属メッシュ43,44は、金属パイプ42と電気的に導通されている。
【0068】
この接地電位とされた金属パイプ42及び金属メッシュ43,44からなるシールド部材により、プレート5が形成する電場による電子線2への影響をさせることができる。
【0069】
次に、本発明の実施の形態における変形例を、図5を参照して説明する。ここで、図5は、本発明における電子検出機構及び荷電粒子線装置の変形例を示す概略構成図である。同図において、図2に示す構成と同じ構成部材には、同じ参照番号を付している。
【0070】
図5に示す電子光学系(荷電粒子光学系)26おいては、図2に示す電子光学系25に対して、加速管50及び減速電極51が追加配置されている。
【0071】
この加速管50は、電子線源1から加速されて放出された電子線2をさらに加速するためのものであり、電子線源1の下段直部から対物レンズ8の内部まで伸張された管状部材となっており、その内部において電子線2が通過する。加速管50には、接地電位に対して所定の正電位(例えば、8kV〜10kV程度)が印加され、電子線源1から加速されて放出された電子線2は、この印加された正電位に基づきさらに加速される。
【0072】
当該電子線2は、加速管50内おいてさらに加速されているので、電子光学系26内において発生する収差を低減させることができる。
【0073】
また、減速電極51は、加速管50の下方先端部と試料10との間に配置され、電子線2が通過する開口が設けられている。この減速電極51には、所定の減速電圧(例えば、−500V〜500V)が印加される(接地電位の場合もある)。
【0074】
加速管50を通過した電子線2は、減速電極51に印加された減速電圧に基づき減速されて試料51に到達することとなる。
【0075】
この変形例において、加速管50内に配置されるプレート5への印加電圧は、加速管50への印加電位(印加電圧)と同電位である。ここで、プレート5と加速管50とは同電位となっているので、プレート5の箇所において図4で示したシールド部材の配置は不要である。なお、加速管50内に配置されるエネルギーフィルタの箇所においては、図3で示した金属パイプ32及び金属メッシュ33,34からなるシールド部材が配置されている。この場合のシールド部材は、加速管50と同電位である。
【0076】
また、図2に示されている試料10からの2次電子検出用の電子検出器19の図示は省略している。
【0077】
この変形例に示す構成においても、図2に示す実施例と同様に、光軸9の近傍における所定領域よりも外側に軌道をとる第1の検出対象電子21と、光軸9の近傍における所定領域を軌道とする第2の検出対象電子22とをそれぞれ分離して検出することができる。
【0078】
このように本発明における電子検出機構は、荷電粒子線源1から加速されて放出された一次線2の光軸9上に配置され、一次線2が通過するための開口4が形成されているとともに、両面がシンチレーション面を形成しているプレート5と、該プレート5に対して荷電粒子線源1側に配置され、一次線2が通過するための開口が形成されたエネルギーフィルタ3と、該プレート5において試料10と対向する側のシンチレーション面に一次線2の照射に応じて試料10から発生する第1の検出対象電子21が到達して生じるシンチレーション光23を検出するための第1の光検出器7aと、該プレート5においてエネルギーフィルタ3と対向する側のシンチレーション面に一次線2の照射に応じて試料10から発生し該プレート5の開口4を通過してエネルギーフィルタ3により追い返された第2の検出対象電子22aが到達して生じるシンチレーション光24を検出するための第2の光検出器7bとを備える。
【0079】
ここで、プレート5の両シンチレーション面は、一次線2の光軸9に対して40度から50度の範囲で傾斜している。
【0080】
また、プレート5の両シンチレーション面は、鏡面又は白色のプレート本体表面に、蛍光塗料を塗布若しくは蛍光材料の接着により形成されている。プレート5のプレート本体は導電性部材からなり、該プレート本体に電圧が印加可能となっている
さらに、プレート5の開口4内に接地電位とされた金属パイプ42が配置されているとともに、該金属パイプ42の両端の外周部42a,42bには該プレート5を覆うように金属メッシュ43,44が設けられた構成とすることができる。
そして、エネルギーフィルタ3は、電圧印加が可能とされた金属グリッド又は金属板からなる。ここで、エネルギーフィルタ3の開口31内には接地電位とされた金属パイプ32が配置されているとともに、該金属パイプ32の両端の外周部32a,32bには該エネルギーフィルタ3を覆うように金属メッシュ33,34が設けられた構成とすることができる。
【0081】
また、本発明に基づく荷電粒子線装置は、荷電粒子線源1と、荷電粒子線源1から加速されて放出された一次線2を試料10上で集束するための対物レンズ8と、該集束された一次線2を試料10上で走査するための偏向器とを具備する荷電粒子線装置であって、上記構成の電子検出機構を有し、これにより検出された少なくとも何れか一方の前記検出対象電子に対応する光検出器の出力信号に基づき走査画像を形成する。
【0082】
さらに、本発明の変形例に基づく荷電粒子線装置は、荷電粒子線源1から放出された一次線2をさらに加速するための加速管50が設けられており、該加速管50の内部に上述した電子検出機構を構成するプレート5及びエネルギーフィルタ3が配置され、さらに該加速管50を通過した一次線2を試料10の直前で減速させるための減速電極51が設けられている。ここで、加速管50と5プレートとを同電位とすることができる。
【0083】
本発明は、このような構成により、光軸及びその近傍領域を軌道とする検出対象電子のみを検出するための電子検出器を、その外側を軌道とする検出対象電子を検出する電子検出器の上段側に配置する必要がなく、荷電粒子光学系の占有スペースを広げることを要しない。これにより、一次線である荷電粒子線の試料までの走行距離が不要に長くなることがなく、外乱による影響が増えることがない。
【0084】
また、このような荷電粒子光学系において、光軸に対する偏向場が存在しないので、一次線が曲げられることによる軸ずれが生じない。
【0085】
さらに、検出する電子に対して、光軸に対する偏向方向の偏りがないので、各検出対象電子に対する検出信号量の増大をもたらし、検出効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0086】
1…電子線源(荷電粒子線源)、2…電子線(荷電粒子線)、3…エネルギーフィルタ、4…開口、5…プレート、6a,6b…支持板、7a,7b…第1,第2の光検出器、8…対物レンズ、9…光軸、10…試料、11…第1画像形成部、12…第2画像形成部、13…第3画像形成部、14…CPU、15…表示部、16…入力部、17…記憶部、18…バスライン、20…2次電子、21…反射電子(第1の検出対象電子)、22…反射電子(第2の検出対象電子)、23…第1のシンチレーション光、24…第2のシンチレーション光、25…電子光学系(荷電粒子光学系)、26…電子光学系(荷電粒子光学系)、50…加速管、51…減速電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線源から加速されて放出された一次線の光軸上に配置され、一次線が通過するための開口が形成されているとともに、両面がシンチレーション面を形成しているプレートと、該プレートに対して荷電粒子線源側に配置され、一次線が通過するための開口が形成されたエネルギーフィルタと、該プレートにおいて試料と対向する側のシンチレーション面に一次線の照射に応じて試料から発生する第1の検出対象電子が到達して生じるシンチレーション光を検出するための第1の光検出器と、該プレートにおいてエネルギーフィルタと対向する側のシンチレーション面に一次線の照射に応じて試料から発生し該プレートの開口を通過してエネルギーフィルタにより追い返された第2の検出対象電子が到達して生じるシンチレーション光を検出するための第2の光検出器とを備えることを特徴とする電子検出機構。
【請求項2】
前記プレートの両シンチレーション面は、一次線の光軸に対して40度から50度の範囲で傾斜していることを特徴とする請求項1記載の電子検出機構。
【請求項3】
前記プレートの両シンチレーション面は、鏡面又は白色のプレート本体表面に、蛍光塗料を塗布若しくは蛍光材料の接着により形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の電子検出機構。
【請求項4】
前記プレートのプレート本体は導電性部材からなり、該プレート本体に電圧が印加可能となっていることを特徴とする請求項1乃至3何れか記載の電子検出機構。
【請求項5】
前記プレートの前記開口内に接地電位とされた金属パイプが配置されているとともに、該金属パイプの両端の外周部には該プレートを覆うように金属メッシュが設けられていることを特徴とする請求項4記載の電子検出機構。
【請求項6】
前記エネルギーフィルタは、電圧印加が可能とされた金属グリッド又は金属板からなることを特徴とする請求項1乃至5何れか記載の電子検出機構。
【請求項7】
前記エネルギーフィルタの前記開口内に接地電位とされた金属パイプが配置されているとともに、該金属パイプの両端の外周部には該エネルギーフィルタを覆うように金属メッシュが設けられていることを特徴とする請求項6記載の電子検出機構。
【請求項8】
荷電粒子線源と、荷電粒子線源から加速されて放出された一次線を試料上で集束するための対物レンズと、該集束された一次線を試料上で走査するための偏向器とを具備する荷電粒子線装置において、請求項1乃至7何れか記載の電子検出機構を有し、これにより検出された少なくとも何れか一方の前記検出対象電子に対応する光検出器の出力信号に基づき走査画像を形成することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記荷電粒子線源から放出された一次線をさらに加速するための加速管が設けられており、該加速管の内部に前記電子検出機構を構成する前記プレート及び前記エネルギーフィルタが配置され、さらに該加速管を通過した一次線を試料直前で減速させるための減速電極が設けられていることを特徴とする請求項8記載の荷電粒子線装置。
【請求項10】
前記加速管と前記プレートとは同電位となっていることを特徴とする請求項9記載の荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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