説明

電子楽器の鍵盤装置

【課題】音高順にハンマーの長さを徐々に短くし、かつ前記音高順のハンマーの長さの変化率を徐々に小さくした電子楽器の鍵盤装置のコストを削減する。
【解決手段】複数の白鍵及び複数の黒鍵の揺動に連動して揺動する複数の白鍵用のハンマー及び複数の黒鍵用のハンマー16b1〜16b3を設ける。低音部のハンマーから高音部のハンマーに向かうに従って、それぞれの揺動中心部から後端部までの長さを徐々に短くし、かつ前記揺動中心部から後端部までの長さの変化率を徐々に小さくする。複数のハンマー16w1〜16w3及び複数のハンマー16b1〜16b3に当接してそれらの揺動を規制する下限ストッパ22及び上限ストッパ23を設ける。直線状に形成された緩衝材及び緩衝材を、ハンマー16w1〜16w3及びハンマー16b1〜16b3の後端部に当接するように変形させた状態で、ストッパレール及びストッパレールにそれぞれ組み付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子オルガン、電子ピアノなどの電子楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に示されているように、鍵に係合する係合部を有していて、鍵の揺動に連動して揺動するハンマーを備えた電子楽器の鍵盤装置は知られている。この鍵盤装置においては、低音部のハンマーから高音部のハンマーに向かうに従って、各ハンマーの揺動中心回りの慣性モーメントを徐々に小さくしている。この鍵盤装置においては、各ハンマーの揺動中心から錘までの長さを同一にし、各ハンマーの錘の重量を異ならせている。これにより、アコースティックピアノの鍵タッチ(押離鍵操作に対する反力)を模擬している。また、ハンマーの揺動範囲を規制するストッパ部材を長尺状に形成し、複数のハンマーに当接するように左右方向に直線状に延設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−17907号公報
【発明の概要】
【0004】
しかし、上記従来の鍵盤装置のように、錘の重量を異ならせると、鍵盤装置全体の重量が増加する傾向にあり、電子楽器を軽量化できない。
【0005】
そこで、低音部側のハンマーから高音部側のハンマーへ向かうに従って、各ハンマーの揺動中心回りの慣性モーメントを徐々に小さくするために、各ハンマーの錘の重さを同一としておき、各ハンマーの揺動中心から錘までの長さを徐々に短くするとよい。しかし、アコースティックピアノの低音部の鍵から高音部の鍵へ向かう鍵タッチの変化率は一定ではなく、徐々に小さくなっているので、低音部のハンマーから高音部のハンマーへ向かう各ハンマーの揺動中心から錘までの長さの変化率も徐々に小さくする必要がある。また、鍵タッチの変化率を一定にする場合であっても、各ハンマーの揺動中心から錘までの長さの変化率を徐々に小さくする必要がある。すると、ハンマーを鍵フレームに組み付けた状態において、ハンマーの後端が直線上に並んでいないので、複数のハンマーの後端部に当接してハンマーの揺動範囲を規制するストッパ部材を、上記従来の鍵盤装置のように直線状に延設することができない。すなわち、ストッパ部材をハンマーごとに個別に設ける必要があるので、部品点数が増え、コストがかかる。
【0006】
また、アコースティックピアノの鍵タッチを模擬することよりも、鍵盤装置の後方にできるだけスペースを確保することを優先することもある。例えば、低音部側の後方にスペースを確保することもある。すなわち、高音部側の鍵から低音部側の鍵へ向かうに従って、鍵の長さを徐々に短くすることがある。この場合、高音部側のハンマーから低音部側のハンマーへ向かうに従って、各ハンマーの揺動中心から錘までの長さを徐々に短くしてもよい。そして、高音部側のハンマーから低音部側のハンマーへ向かうに従って、ハンマーの揺動中心から錘までの長さの変化率を徐々に小さくしてもよい。しかし、この場合も、ストッパ部材をハンマーごとに個別に設ける必要があるので、部品点数が増え、コストがかかる。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、音高の順にハンマーの長さを徐々に短くし、かつ前記音高順のハンマーの長さの変化率を徐々に小さくした電子楽器の鍵盤装置のコストを削減することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の特徴は、演奏者によって押離鍵操作されて揺動する複数の鍵(11w,11b)と、前端部にて複数の鍵にそれぞれ係合し、複数の鍵の揺動に連動してそれぞれ揺動する複数の質量体であって、それぞれ係合する鍵に割り当てられた音高の順に、それぞれの揺動中心部から後端部までの長さを徐々に短くし、かつ前記音高の順に前記揺動中心部から後端部までの長さの変化率を徐々に小さくした複数の質量体(16w,16b)と、複数の質量体の後端部に当接して複数の質量体の揺動を規制する規制部材(22,23)であって、前記複数の質量体の後端部に当接するように長尺の緩衝部材が曲線状に組み付けられた規制部材とを備えたことにある。この場合、規制部材は、複数の質量体の並び方向に延設された基台(22a,23a)を備え、緩衝部材は、基台に組み付けられているとよい。
【0009】
上記のように構成した鍵盤装置によれば、緩衝部材を質量体ごとに個別に設ける場合に比べて、部品点数を削減できるので、コストダウンできる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、基台は、規制部材を支持する支持部材(12,FR)の表面から突出していて、基台の各質量体との当接部における前記支持部材の表面からの突出高さは、それぞれの質量体の揺動中心からそれぞれの質量体の後端部までの距離が大きいほど低く設定されていることにある。これによれば、それぞれの質量体が規制部材に当接したときのそれぞれの質量体の揺動角度の差を小さくすることができる。したがって、押鍵時(押鍵深さが最大であるとき)及び離鍵時(押鍵深さが「0」であるとき)における鍵の押鍵深さの差を小さくできる。特に、前記突出高さを、質量体の揺動中心からそれぞれの質量体の後端部までの距離に応じた所定の高さに設定することにより、前記揺動角度の差を「0」にすることができる。この場合、全ての鍵について、押鍵時及び離鍵時における鍵の押鍵深さを同一に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る鍵盤装置の全体概略図である。
【図2】図1の鍵盤装置の白鍵に関する構成を示す右側面図である。
【図3】図1の鍵盤装置の黒鍵に関する構成を示す右側面図である。
【図4】白鍵用ハンマー及び黒鍵用ハンマーの各部の位置関係を示す側面図である。
【図5】白鍵用ハンマー及び黒鍵用ハンマー、並びに上限ストッパ及び下限ストッパの拡大平面図である。
【図6】音高とハンマーの揺動中心回りの慣性モーメントとの関係を示す特性曲線図である。
【図7】上限ストッパの正面図である。
【図8】音高と鍵タッチとの関係を示す特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。以下の説明では、演奏者に近い側を「前側」とし、演奏者から遠い側を「後側」とする。また、高音部側を「右側」とし、低音部側を「左側」とする。
【0013】
この鍵盤装置は、図1乃至図3に示すように、複数の白鍵11w及び複数の黒鍵11bを有している。白鍵11w及び黒鍵11bは、それぞれ合成樹脂によって長尺状に一体成型されている。白鍵11wは、黒鍵11bに比べて前後方向に長い。また、白鍵11wは、黒鍵11bに比べて、上下方向の幅が小さく、左右方向の幅が大きい。白鍵11w及び黒鍵11bは、前後方向に延設された薄肉の上壁及び上壁の左右端からそれぞれ下方へ延設された薄肉の側壁を有し、下方に開放した中空状に形成されている。また、白鍵11w及び黒鍵11bの側壁の後部には、それぞれ対向する貫通孔Kw及び貫通孔Kbが設けられている。そして、白鍵11w及び黒鍵11bは、鍵フレーム12の鍵支持部13により支持されている。
【0014】
鍵フレーム12は、前後方向及び左右方向に延設された上板部12aを有する。また、鍵フレーム12は、上板部12aの前端から下方へ垂直に延設された前板部12b、前板部12bの下端から前方へ水平に延設された底板部12c、底板部12cの前端から上方へ垂直に延設された前板部12dを有する。また、鍵フレーム12は、上板部12aの後端から下方へ垂直に延設された後板部12e及び後板部12eの下端から後方へ水平に延設された底板部12fを有する。底板部12cの下面と底板部12fの下面の高さは同じであり、底板部12cの下面と底板部12fの下面を電子楽器のフレームFRに当接させて固定することにより、この鍵盤装置が、電子楽器のフレームFRに支持される。上記の鍵支持部13は、上板部12aの上面から上方へ突出するように形成されている。鍵支持部13は、それぞれ対向する2枚の板状に形成されていて、内側に対向する突出部13aを備えている。前記突出部13aは、貫通孔Kw及び貫通孔Kbに嵌合している。これにより、白鍵11w及び黒鍵11bは、突出部13a回りに回転可能に支持され、前端部が上下方向に揺動可能となっている。
【0015】
また、白鍵11wの中間部から下方へ向かって駆動部11w1が延設されている。駆動部11w1は、上下に延設された薄肉の前壁及び前壁の左右端からそれぞれ後方へ延設された薄肉の側壁を有し、後方に開放した中空状に形成されている。駆動部11w1の下端は下端壁により閉じている。一方、黒鍵11bも白鍵11wと同様の駆動部11b1を有する。黒鍵11bは、離鍵状態において白鍵11wの上面よりも上方に突出した部分(以下、黒鍵11bの見え掛り部という。)の前端から下方へ延設された後、僅かに前方へ湾曲させられた連結部を有し、この連結部の先端に、駆動部11b1の上端が接続されている。駆動部11w1と駆動部11b1の前後方向の位置は同一であり、駆動部11w1と駆動部11b1の下端壁の上下方向の位置も同一である。すなわち、駆動部11w1及び駆動部11b1は、黒鍵11bの見え掛り部の前端よりも前方に位置する。なお、この駆動部11w1及び駆動部11b1の前後方向の位置の詳細については、後述する。また、前板部12cと前板部12dとの間にて、駆動部11w1及び駆動部11b1の下端部が、ハンマー16w及びハンマー16bの前端部にそれぞれ係合している。
【0016】
ハンマー16wは、合成樹脂製の基部16w1と、金属製の連結棒16w2及び質量体16w3とからなる。ハンマー16bは、ハンマー16wと同様に、基部16b1、連結棒16w2及び質量体16b3からなる。基部16w1及び基部16b1の構成は共通である。すなわち、基部16w1及び基部16b1は、板状の部材であって、右側面から左側面に貫通する貫通孔Hw及び貫通孔Hbを有する。上板部12aの下面には、下方に突出するようにして、ハンマー支持部18w及びハンマー支持部18bが形成されている。ハンマー支持部18w及びハンマー支持部18bは、それぞれ対向する2枚の板状に形成されていて、それぞれ内側に対向する突出部18w1及び突出部18b1を備えている。前記突出部18w1及び突出部18b1は、貫通孔Hw及び貫通孔Hbにそれぞれ嵌合している。これにより、基部16w1及び基部16b1は、突出部18w1及び突出部18b1回りに回転可能に支持されている。すなわち、ハンマー16w及びハンマー16bは、前端部及び後端部が上下方向に揺動可能に支持されている。ハンマー支持部18wとハンマー支持部18bの前後方向の位置は同一である。ハンマー16w及びハンマー16bの揺動中心の前後方向の位置は、全てのハンマー16w及びハンマー16bについて同一である。
【0017】
また、基部16w1は、前端部に上下一対の脚部Fw1及び脚部Fw2を備え、上側に位置する脚部Fw1は下側に位置する脚部Fw2より短く形成されている。基部16b1も、基部16w1と同様に、前端部に上下一対の脚部Fb1及び脚部Fb2を備えている。前板12bには、各ハンマー16w及びハンマー16bごとに、上下方向に長いスリット状の開口部12b1が設けられている。各ハンマー16w及びハンマー16bの前端部は、開口部12b1を通って、前板部12bよりも前方に突出している。脚部Fw1と脚部Fw2の間には、駆動部11w1の下端壁が侵入しており、脚部Fb1と脚部Fb2の間には、駆動部11b1の下端壁が侵入している。脚部Fw1及び脚部Fb1は、それぞれ、駆動部11w1及び駆動部11b1の下端壁と、駆動部11w1及び駆動部11b1内であって、それぞれの下端壁との間に隙間を形成する中間壁との間に侵入している。駆動部11w1及び駆動部11b1の下端壁には、ゴム、ウレタン、フエルトなどの衝撃吸収材が嵌め込まれて固着されている。この衝撃吸収材は、駆動部11w1と脚部Fw2の上面との衝突、駆動部11b1の下端と脚部Fb2の上面との衝突、駆動部11w1の下端と脚部Fw1の下面との衝突、及び駆動部11b1の下端と脚部Fb1の下面との衝突による衝撃をそれぞれ緩和している。
【0018】
基部16w1及び基部16b1の後端部には、連結棒16w2及び連結棒16b2の前端部がそれぞれ組み付けられている。連結棒16w2及び連結棒16b2は、それぞれ後方へ延設されている。
【0019】
質量体16w3及び質量体16b3の重心が、連結棒16w2及び連結棒16b2の後端に一致するようにして組み付けられている。質量体16w3の質量Mwは、全てのハンマー16wについて同一であり、質量体16b3の質量Mbは、全てのハンマー16bについて同一である。ただし、質量体16b3の質量Mbは、質量体16w3の質量Mwよりも小さい。
【0020】
本実施形態においては、ハンマー16wの揺動中心から連結棒16w2の後端までの距離及びハンマー16bの揺動中心から連結棒16b2の後端までの距離、並びにハンマー16wの揺動中心から脚部Fw2における駆動部11w1との当接部Pw1までの距離及びハンマー16bの揺動中心から脚部Fb2における駆動部11b1との当接部Pb1までの距離が、次のように調整されている。すなわち、白鍵11wと黒鍵11bにおける押鍵位置、当接部、鍵の揺動中心及びハンマーの揺動中心の位置関係の違いに起因する、近接する白鍵11w及び黒鍵11bの鍵タッチの違いを解消して、低音部の鍵から高音部の鍵へ向かうに従って、音高順に鍵タッチが軽くなるように、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの揺動中心回りの慣性モーメントが調整されている。
【0021】
ここで、白鍵11wの押鍵位置から、白鍵11wの揺動中心までの距離を距離Lkw1とし、当接部Pw1から、白鍵11wの揺動中心までの距離を距離Lkw2とする。また、黒鍵11bの押鍵位置から、黒鍵11bの揺動中心までの距離を距離Lkb1とし、当接部Pb1から、黒鍵11bの揺動中心までの距離を距離Lkb2とする。また、図4に示すように、ハンマー16wの揺動中心から連結棒16w2の後端までの距離を距離Lhw1とし、ハンマー16wの揺動中心から当接部Pw1までの距離を距離Lhw2とする。また、ハンマー16bの揺動中心から連結棒16b2の後端までの距離を距離Lhb1とし、ハンマー16bの揺動中心から連結棒16b2の先端までの距離を距離Lhb2とする。なお、上記のように、距離Lhw2と距離Lhb2は、同一である。なお、図4においては、音高が隣り合う2つの白鍵11w及び黒鍵11bのハンマー16w及びハンマー16bを示している。このとき、各距離が、Lkw2/(Lkw1×Lhw2)×Mw=Lkb2/(Lkb1×Lhb2)×Mbの関係を満たすように、ハンマー16w及びハンマー16bの揺動中心の位置、並びに当接部Pw1及び当接部Pb1の位置が調整されている。そして、低音側のハンマーから高音側のハンマーへ向かうに従って、連結棒16w2及び連結棒16b2の長さが徐々に短くなるように設定されている。すなわち、隣り合う2つのハンマーの後端が前後方向にずれている。具体的には、高音側に位置するハンマーの後端は、低音側に位置するハンマーの後端よりもやや前方に位置している。そして、この隣り合う2つのハンマーが属する音域が高いほど、両者の後端の前後方向のずれは小さい。言い換えれば、低音側のハンマーから高音側のハンマーへ向かうに従って、ハンマーの揺動中心から後端部までの長さが徐々に短くなっている。そして、低音側のハンマーが高音側のハンマーへ向かう、前記ハンマーの揺動中心から後端部までの長さの変化率が徐々に小さくなっている。したがって、図5に示すように、この鍵盤装置の平面視において、各ハンマーの後端部は、所定の曲線S上に位置している。
【0022】
これにより、低音部のハンマー16wから高音部のハンマー16wに向かうに従って、各ハンマー16wの揺動中心回りの慣性モーメントが徐々に小さくなっている。また、低音部のハンマー16bから高音部のハンマー16bに向かうに従って、各ハンマー16bの揺動中心回りの慣性モーメントが徐々に小さくなっている。さらに、ハンマー16bの揺動中心回りの慣性モーメントは、隣接するそれぞれのハンマー16wの揺動中心回りの慣性モーメントよりも小さくなっている。すなわち、図6に示すように、音高順にハンマー16w及びハンマー16bの揺動中心まわりの慣性モーメントを表した特性曲線図において、ハンマー16wの特性曲線及びハンマー16bの特性曲線は、右下がりの平行な曲線であって、かつハンマー16bの特性曲線がハンマー16wの特性曲線の下側に位置する。
【0023】
白鍵11w及び黒鍵11bの離鍵時には、ハンマー16w及びハンマー16bは、自重により、前端部が上方へ変位する。このとき、脚部Fw2及び脚部Fb2により駆動部11w1及び駆動部11b1がそれぞれ上方へ付勢され、白鍵11w及び黒鍵11bの前端部はそれぞれ上方へ変位する。一方、白鍵11w及び黒鍵11bの押鍵時には、駆動部11w1及び駆動部11b1の下端面が脚部Fw2及び脚部Fb2の上面をそれぞれ押圧し、ハンマー16w及びハンマー16bの前端部がそれぞれ下方へ変位する。
【0024】
また、前板部12dの上端面から上方に突出するようにして、白鍵11wの揺動をガイドするための鍵ガイド19wが形成されている。鍵ガイド19wは、白鍵11wに下方から侵入しており、押離鍵時に鍵ガイド19wの側面と白鍵11wの側壁の内側の面が摺接するようになっている。これにより、押離鍵時の白鍵11wの左右方向の微少な変位を抑制している。
【0025】
また、上板部12aの前端部の上面から上方に突出するようにして、黒鍵11bの揺動をガイドするための鍵ガイド21bが形成されている。鍵ガイド21bは、黒鍵11bに下方から侵入しており、押離鍵時に鍵ガイド21bの側面と黒鍵11bの側壁の内側の面が摺接するようになっている。これにより、押離鍵時の黒鍵11bの左右方向の微少な変位を抑制している。
【0026】
また、鍵フレーム12には、押鍵時に、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの後端部上面における、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの重心の上方にある位置に当接して、ハンマー16w及びハンマー16bの後端部の上方への変位を規制することにより、白鍵11w及び黒鍵11bの前端部の下方への変位を規制する下限ストッパ22が設けられている。下限ストッパ22は、前板部12aの中間部の下面から下方へ突出していて、左右方向に延設されたストッパレール22aを有する。ストッパレール22aは、ハンマー16w及びハンマー16bの質量体16w3及び質量体16b3の上方に位置している。上記のように、隣り合う2つのハンマーの後端は前後にずれており、かつ高音域ほどそのずれが小さくなっているので、ストッパレール22aは、平面視において前後方向に湾曲している。また、ストッパレール22aの各ハンマーとの当接部における前板部12aの下面からの突出量は、図7に示すように、連結棒16w2及び連結棒16b2の長さに応じて、低音側から高音側へ向かうに従って大きくなっている。そして、ストッパレール22aの尾根部に沿って、ゴム、フエルトなどの衝撃吸収材によって構成した長尺状の緩衝材22bが固着されている。緩衝材22bは、一端から他端に至るまで断面形状が同一であって、部品単体としては、直線状の部材であるが、可撓性を有しており、湾曲させることができる。なお、緩衝材22bの組成、寸法などにもよるが、曲率半径が100mm以上であれば、緩衝材22bに大きなしわが入ることを防止でき、衝撃吸収材としての基本性能を損なわず、良好な効果を期待できる。なお、衝撃吸収材を曲線状に裁断することにより、緩衝材22bを形成してもよい。
【0027】
また、フレームFRの後部には、離鍵時に、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの後端部下面における、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの重心の下方にある位置に当接して、ハンマー16w及びハンマー16bの後端部の下方への変位を規制することにより、白鍵11w及び黒鍵11bの前端部の上方への変位を規制する上限ストッパ23が設けられている。上限ストッパ23は、ストッパレール22aと同様のストッパレール23aを有している。すなわち、ストッパレール23aは、平面視において、前後方向に湾曲している。また、ストッパレール23aの各ハンマーとの当接部における前板部12aの下面からの突出量は、連結棒16w2及び連結棒16b2の長さに応じて、低音側から高音側へ向かうに従って大きくなっている。そして、ストッパレール23aの頂点に沿って、ゴム、フエルトなどの衝撃吸収材によって構成した長尺状の緩衝材23bが固着されている。緩衝材23bも、緩衝材22bと同様に、一端から他端に至るまで断面形状が同一であって、部品単体としては、直線状の部材であるが、可撓性を有しており、湾曲させることができる。また、緩衝材23bも、その組成、寸法などにもよるが、曲率半径が100mm以上であれば、緩衝材23bに大きなしわが入ることを防止でき、衝撃吸収材としての基本性能を損なわず、良好な効果を期待できる。なお、衝撃吸収材を曲線状に裁断することにより、緩衝材23bを形成してもよい。また、ストッパレール22a及びストッパレール23aは、横方向に連続的に延設されていてもよいし、断続的に延設されていてもよい。また、ストッパレール22a及びストッパレール23aは、それぞれ上板部12a及びフレームFRと一体的に設けられていてもよいし、別部品として構成されていて、それぞれ上板部12a及びフレームFRに組み付けられるようにしてもよい。
【0028】
また、白鍵11w及び黒鍵11bの中間部の下面には、スイッチ駆動部24が設けられている。スイッチ駆動部24は、基板25上に配置されたスイッチSWの上面に当接している。スイッチSWは、各鍵に設けられ、各鍵の揺動に伴って押圧されて、各鍵の押離鍵状態を検出する。また、基板25には、上面から下面に貫通した貫通孔が設けられている。この貫通孔の位置は、前板12aの上面に一体的に形成されたボス26の位置に対応している。この貫通孔にねじを通してボス26にねじ込むことにより、基板25が、鍵フレーム12に固定される。
【0029】
上記のように、隣接する白鍵11wと黒鍵11bを、それぞれ同じ力で押鍵しても、てこの原理により、当接部Pw1に加えられる荷重は、当接部Pb1に加えられる荷重よりも大きい。そこで、本実施形態においては、質量体16b3の質量Mbを質量体16w3の質量Mwよりも小さくした。そして、連結棒16w2及び連結棒16b2の長さを調整して、ハンマー16wの揺動中心回りの慣性モーメントの特性曲線が、ハンマー16wの揺動中心回りの慣性モーメントの特性曲線と平行な右下がりの曲線であって、ハンマー16wの特性曲線よりも下側に位置するようにした。具体的には、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの揺動中心の位置、当接部Pw1及び当接部Pb1の位置を調整して、各部間の距離が上記の所定の関係を満たすようにしておき、連結棒の長さを低音側のハンマーから高音側のハンマーへ向かうに従って短くした。これにより、白鍵11wと黒鍵11bにおける押鍵位置、当接部、鍵の揺動中心及びハンマーの揺動中心の位置関係の違いに起因する鍵タッチの違いを解消できる。言い換えれば、白鍵11wの鍵タッチの特性曲線と黒鍵11bの鍵タッチの特性曲線を一致させることができる。すなわち、図8に示すように、低音部の鍵から高音部の鍵に向かうに従って、音高順に鍵タッチを軽くすることができる。
【0030】
また、上記のように、隣り合う2つのハンマーの後端が前後方向にずれていて、そのずれが高音側ほど小さくなっている。そこで、押鍵時及び離鍵時における各ハンマーの後端部(すなわち、質量体16w3及び質量体16b3)に沿うように、緩衝材22b及び緩衝材23bを前後に湾曲させてストッパレール22a及びストッパレール23aに組み付けた。これによれば、緩衝材22b及び緩衝材23bをハンマーごとに設ける場合に比べて、部品点数を削減できるので、コストダウンできる。また、緩衝材22b及び緩衝材23bを部品単体としては直線状に形成しておき、これらを湾曲させて各ストッパレールに組み付けるようにすれば、緩衝材22b及び緩衝材23bを、ハンマーの長さの変化の態様を異ならせた他の種類の鍵盤装置との共通の部品とすることができるので、複数種類の鍵盤装置全体として、コストダウンできる。
【0031】
また、ストッパレール22aの上板部12aの下面からの突出量が、連結棒16w2及び連結棒16b2の長さに応じて、低音側から高音側へ向かうに従って小さくなるようにして、押鍵時において、ハンマーの後端部が下限ストッパ22bに当接したときのハンマーの揺動角度が、全てのハンマーについて同一の角度になるようにした。すなわち、押鍵時における各鍵の傾斜角度は、すべての鍵について同一である。これにより、押鍵時における鍵の押鍵深さを統一できる。また、ストッパレール23aのフレームFRの上面からの突出量が、連結棒16w2及び連結棒16b2の長さに応じて、低音側から高音側へ向かうに従って大きくなるようにして、離鍵時における、ハンマーの後端部が下限ストッパ23bに当接したときのハンマーの揺動角度が、全てのハンマーについて同一の角度になるようにした。すなわち、離鍵時における各鍵の傾斜角度は、すべての鍵について同一である。これにより、離鍵時における複数の白鍵11wの上面がそれぞれ同一平面上に位置し、複数の黒鍵11bの上面がそれぞれ同一平面上に位置するように設定できる。
【0032】
下限ストッパ22を、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの後端部上面における、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの重心の上方にある位置に当接させるようにした。また、上限ストッパ23を、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの後端部下面における、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの重心の下方にある位置に当接させるようにした。これにより、ハンマー16w及びハンマー16bの動作規制の瞬間に生ずるモーメントを抑えられ、当接によって生ずる振動が周辺の部材との接合部に伝達して雑音が生じることを防止できる。
【0033】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0034】
上記実施形態においては、全ての鍵域において、低音部から高音部へ向かう連結棒16w2及び連結棒16b2の長さの変化率を徐々に小さくしているが、一部の鍵域に属するハンマーについてのみ、低音部側から高音部側へ向かう、連結棒16w2及び連結棒16b2の長さの変化率を徐々に小さくし、その他の鍵域に属するハンマーについては、前記長さの変化率を一定にしてもよい。この場合、下限ストッパ22及び上限ストッパ23のうち、前記一部の鍵域に属する部分のみを前後に湾曲させ、他の鍵域に属する部分を直線状に延設すればよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0035】
上記実施形態及びその変形例においては、質量体16w3の質量Mwは、全てのハンマー16wについて同一とし、質量体16b3の質量Mbは、全てのハンマー16bについて同一とした。そして、質量Mbは、質量Mwよりも小さくした。しかし、黒鍵11bの鍵タッチが隣接する白鍵11wの鍵タッチより重くなってもよい場合は、質量体Mbと質量体Mwの質量を同一にしてもよい。
【0036】
また、低音部に属するハンマーにおいて、連結棒の長さの変化率が大きく、緩衝材22b及び緩衝材23bを複数のハンマーの後端部に当接するように変形させることができない場合は、低音部側のハンマー16wから高音部側のハンマー16bに向かうに従って、質量体16w3の質量Mwを徐々に小さくし、かつ低音部側のハンマー16bから高音部側のハンマー16bに向かうに従って、質量体16b3の質量Mbを徐々に小さくしてもよい。そして、上記のように、ハンマー16w及びハンマー16bのそれぞれの揺動中心の位置、当接部Pw1及び当接部Pb1の位置を調整して、各部間の距離が上記の所定の関係を満たすようにすれば、低音部に属するハンマーにおいて、上記実施形態よりも連結棒の長さの変化率を小さくすることができる。これにより、緩衝材22b及び緩衝材23bをハンマーの後端部に沿うように変形させることができる。
【0037】
また、上記実施形態及びその変形例において、質量体16w3及び質量体16b3を連結棒16w2及び連結棒16b2の後端に組み付けるのではなく、連結棒16w2及び連結棒16b2の先端を前側に折り返すことにより、ハンマー16w及びハンマー16bの後端に質量を集中させるようにしてもよい。
【0038】
また、上記実施形態及びその変形例においては、白鍵11w及び黒鍵11bの揺動中心の前後方向の位置は同一である。そして、全ての白鍵11wの長さは同一であり、全ての黒鍵11bの長さも同一である。しかし、アコースティックピアノの鍵タッチを模擬することよりも、鍵盤装置の後方にスペースを確保することを優先する場合には、例えば、低音部側の鍵から高音部側の鍵に向かうに従って、揺動中心を徐々に演奏者側に近づけて、白鍵11w及び黒鍵11bの長さを徐々に短くしてもよい。この場合、低音部側の鍵から高音部側の鍵へ向かう白鍵11w及び黒鍵11bのそれぞれの長さの変化率を一定としてもよいし、変化率を徐々に小さくしてもよい。
【0039】
そして、高音部側の鍵から低音部側の鍵に向かうに従って、揺動中心を徐々に演奏者側に近づけて、高音部側の鍵から低音部側の鍵に向かうに従って白鍵11w及び黒鍵11bの長さを徐々に短くするとともに、高音部側のハンマーから低音部側のハンマーに向かうに従って、連結棒16w2及び連結棒16b2の長さを徐々に短くしてもよい。この場合、高音部側の鍵から低音部側の鍵に向かう鍵の長さの変化率を徐々に小さくし、高音部側のハンマーから低音部側のハンマーに向かうハンマーの変化率を徐々に小さくするとよい。この場合、上記実施形態とは逆方向に湾曲した下限ストッパ22及び上限ストッパ23を設ければよい。これによっても、緩衝材22b及び緩衝材23bをハンマーごとに設ける場合に比べて、部品点数を削減できるので、コストダウンできる。
【0040】
また、下限ストッパ22及び上限ストッパ23と同様のストッパ部材であって、下限ストッパ22及び上限ストッパ23と協働して、鍵の揺動範囲を規制するストッパ部材をさらに設けてもよい。このストッパ部材は、例えば、通常の演奏状態においては鍵に当接せず、非常に大きな力が鍵に加えられたときにのみ鍵に当接して、鍵の異常な変形を防止する部材である。そして、このストッパ部材は、緩衝材22b及び緩衝材23bと同様の緩衝材を備えるとよい。また、上記の様に、割り当てられた音高の順に白鍵11w及び黒鍵11bのそれぞれの長さを短くし、前記音高の順の白鍵11w及び黒鍵11bの長さの変化率を徐々に小さくした場合には、この緩衝材を曲線状に形成して、支持部材に固定するとよい。すなわち、上記実施形態と同様に、このストッパ部材を部品単体としては直線状に形成しておき、湾曲させた状態で支持部材に固定してもよい。また、衝撃吸収部材を曲線状に裁断して、この緩衝材を形成してもよい。
【符号の説明】
【0041】
11w・・・白鍵、11b・・・黒鍵、11w1,11b1・・・駆動部、12・・・鍵フレーム、12a・・・上板部、13・・・鍵支持部、16w,16b・・・ハンマー、16w1,16b1・・・基部、16w2,16b2・・・連結棒、16w3,16b3・・・質量体、18w,18b・・・ハンマー支持部、22・・・下限ストッパ、22a・・・ストッパレール、22b・・・緩衝材、23・・・上限ストッパ、23a・・・ストッパレール、23b・・・緩衝材、Pw1,Pb1・・・当接部、FR・・・フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音高がそれぞれ割り当てられていて、演奏者によって押離鍵操作されて揺動する複数の鍵と、
前端部にて前記複数の鍵にそれぞれ係合し、前記複数の鍵の揺動に連動してそれぞれ揺動する複数の質量体であって、それぞれ係合する鍵に割り当てられた音高の順に、それぞれの揺動中心部から後端部までの長さを徐々に短くし、かつ前記音高の順に前記揺動中心部から後端部までの長さの変化率を徐々に小さくした複数の質量体と、
前記複数の質量体の後端部に当接して前記複数の質量体の揺動を規制する規制部材であって、前記複数の質量体の後端部に当接するように長尺の緩衝部材が曲線状に組み付けられた規制部材とを備えたことを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鍵盤装置において、
前記規制部材は、前記複数の質量体の並び方向に延設された基台を備え、
前記緩衝部材は、前記基台に組み付けられていることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項3】
請求項2に記載の鍵盤装置において、
前記基台は、前記規制部材を支持する支持部材の表面から突出していて、
前記基台の各質量体との当接部における前記支持部材の表面からの突出高さは、それぞれの質量体の揺動中心からそれぞれの質量体の後端部までの距離が大きいほど低く設定されていることを特徴とする鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−41081(P2013−41081A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177490(P2011−177490)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】