説明

電子楽器

【課題】 アコースティックピアノに代表されるアコースティック楽器の操作感を極めて忠実に再現することを目的とする。
【解決手段】 鍵盤部2への操作によって演奏が行われると、音源(図示省略)にて生成された楽音信号がアンプ(図示省略)にて増幅されてスピーカ8に供給される。スピーカ8は、演奏者側、つまり図1(a)における右方向に楽音を放音すると同時に、背面からも楽音を放音する。このスピーカ8背面から放音される楽音は低周波成分を多く含んでおり、この低周波成分の空気振動がダクト9を通ってペダル5の後端部(図1(a)における左端)に伝達される。そして、ペダル5後端部に伝わった振動は、ペダル5前端部(図1(a)における右端)に伝わり、さらに演奏者の足裏に伝わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アコースティック楽器の操作感を再現する電子楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、アコースティック楽器、例えばアコースティックピアノの鍵操作時の感触
を模した電子鍵盤楽器が様々考えられている。
代表的なものとしては、鍵の回動動作に連動する擬似ハンマーアームを各鍵の下方や後
方に設けることによって、押鍵時に荷重を与えるというものである。
【0003】
また、特許文献1に記載のように鍵の構造を部分的に変更したり、特許文献2に記載の
ように鍵と擬似ハンマーアームとの連動機構を複雑にしたり、特許文献3に記載のように
専用の部材を設けることによって、押鍵ストロークの途中で急激に荷重が軽くなって抜け
る感じ(レットオフ)やクリック感を与えるというものもある。
これらは、いずれもアコースティックピアノの打弦機構(ハンマーやジャックなどから
構成される)の構造に起因する操作感を模したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−289850号公報
【特許文献2】特開平07−168569号公報
【特許文献3】特開平06−230770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アコースティックピアノにおいては、打弦機構によって叩かれる弦が存在し、
この弦の振動も鍵やペダルといった演奏操作子に伝わる。
この弦の振動は、押鍵操作の強さが強いほど大きく、また低音(弦が太い)ほどよく伝
わるものである。
アコースティックピアノに習熟した者は、音を耳で聴くことに加えて、鍵やペダルに伝
わる弦の振動を指先や足先で感じ取りながら、離鍵のタイミングを測ったりペダルの操作
量を変化させたりすることがある。
【0006】
ところが、従来の電子鍵盤楽器では、この点が全く顧みられておらず、アコースティッ
クピアノの操作感を完全に再現できていなかった。
したがって、アコースティックピアノだけを演奏してきた者が初めて電子鍵盤楽器を演
奏したときには違和感を覚え、ピアノを弾いているという実感が湧かない、といった問題
があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アコースティックピアノに代
表されるアコースティック楽器の操作感を極めて忠実に再現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明では、演奏を行うための演奏操作子と
、この演奏操作子への操作に応じた楽音信号を生成する楽音信号生成手段と、この楽音信
号生成手段で生成された楽音信号を放音する放音手段とを有する電子楽器において、前記
放音手段の放音に応じて発生する振動を前記演奏操作子へ導くダクトを設けたことを特徴
とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明では、音高を指定するとともに該音高の楽音の発生を指示
する演奏操作子と、この演奏操作子の操作に応答して、当該演奏操作子にて指定された音
高を有するとともに、少なくともアタック部分とそれに続くサスティン部分とを有する楽
音信号を生成する楽音信号生成手段と、前記演奏操作子を振動させるための振動素子と、
前記演奏操作子で指定された音高が所定音高よりも高かった場合は、楽音信号のアタック
部分のみに基づいて前記振動素子を振動させ、一方、所定音高よりも低かった場合は、楽
音信号のアタック部分とサスティン部分の両方に基づいて前記振動素子を振動させるよう
制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
アコースティック楽器の操作感を極めて忠実に再現できるようになり、アコースティッ
ク楽器だけを演奏してきた者に違和感を与えることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用した電子鍵盤楽器の第1実施形態を示す外観図である。
【図2】本発明を適用した電子鍵盤楽器の第2実施形態を示す外観図である。
【図3】本発明を適用した電子鍵盤楽器の第3実施形態を示す外観断面図である。
【図4】第3実施形態の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】第3実施形態の発音と振動との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
A.第1実施形態
図1は、本発明を適用した電子鍵盤楽器の第1実施形態の外観図であり、図1(b)は
正面外観図であり、図1(a)は図1(b)におけるA−A矢視の断面図である。
楽器本体1は、複数の白鍵と黒鍵とからなる鍵盤部2を有し、この鍵盤部2に対する演
奏者の押鍵操作に応じて、押鍵位置に対応した音高の楽音信号を電気的に生成する音源を
内蔵している(図示省略)。
【0012】
この楽器本体1の長手方向、つまり図1(b)における左右方向の両側端にはそれぞれ
脚板3が取り付けられており、両脚板3の下端には少なくとも中央部分に中空部を有する
底板4が両脚板3に亘って取り付けられ、その中央部分には複数のペダル5が載置されて
おり、さらに、このペダル5の操作状態が楽器本体1に伝達可能なように楽器本体1と電
気的または機構的に接続されている(図示省略)。
【0013】
楽器本体1、左右の脚板3および底板4で囲われる部分には第1の背板6が取り付けら
れ、この第1の背板6の前側、つまり図1(a)における右方向には所定の空隙をおいて
第2の背板7が取り付けられている。
この第2の背板7の左右上部には円形の開口部が形成され、その開口部には音源にて生
成された楽音信号を放音するためのスピーカ8がそれぞれ取り付けられている。
そして、第1の背板6と第2の背板7の間には、スピーカ8背面とペダル5後端部とを
つなぐダクト9を形成する隔壁10が設けられている。
【0014】
このように構成された電子鍵盤楽器において演奏が行われると、音源にて生成された楽
音信号がアンプ(図示省略)にて増幅されてスピーカ8に供給される。スピーカ8は、演
奏者側、つまり図1(a)における右方向に楽音を放音すると同時に、背面からも楽音を
放音する。このスピーカ8背面から放音される楽音は低周波成分を多く含んでおり、この
低周波成分の空気振動がダクト9を通ってペダル5の後端部(図1(a)における左端)
に伝達される。そして、ペダル5後端部に伝わった振動は、ペダル5前端部(図1(a)
における右端)に伝わり、さらに演奏者の足裏に伝わる。
これにより、演奏者は、あたかもアコースティックピアノの弦振動がペダル5に伝わっ
ているような感触を得ることができる。
【0015】
B.第2実施形態
図2は、本発明を適用した電子鍵盤楽器の第2実施形態の外観図であり、図2(b)は
上面外観図であり、図2(a)は図2(b)におけるB−B矢視の断面図である。
楽器本体1の楽器ケース11の手前側(図2における右方向)には上方に向けた長方形
の開口部が形成されており、この開口部から露出するように複数の白鍵と黒鍵とからなる
鍵盤部2が載置されている。さらに、楽器本体1には、この鍵盤部2に対する演奏者の押
鍵操作に応じて、押鍵位置に対応した音高の楽音信号を電気的に生成する音源が内蔵され
ている(図示省略)。
【0016】
楽器ケース11の奥側(図2における左方向)に位置する上面板12の長手方向の両端
には、円形の開口部が形成され、その開口部には音源にて生成された楽音信号を放音する
ためのスピーカ8がそれぞれ取り付けられている。
そして、楽器ケース11の上面板12と下面板13との間には、スピーカ8背面と鍵盤
部2の後端部とをつなぐダクト9を形成する隔壁10が設けられている。
【0017】
このように構成された電子鍵盤楽器において演奏が行われると、音源にて生成された楽
音信号がアンプ(図示省略)にて増幅されてスピーカ8に供給される。スピーカ8は、上
方向に楽音を放音すると同時に、背面からも楽音を放音する。このスピーカ8背面から放
音される楽音は低周波成分を多く含んでおり、この低周波成分の空気振動がダクト9を通
って鍵盤部2の後端部(図2(a)における左端)に伝達される。そして、鍵盤部2の後
端部に伝わった振動は、鍵盤部2の前端部(図2(a)における右端)に伝わり、さらに
演奏者の指先に伝わる。
これにより、演奏者は、あたかもアコースティックピアノの弦振動が鍵盤部2に伝わっ
ているような感触を得ることができる。
【0018】
C.第3実施形態
図3は、本発明を適用した電子鍵盤楽器の第3実施形態の外観断面図である。
上述した第1実施形態と同様に、楽器本体1は鍵盤部2を有し、この鍵盤部2の下方に
はペダル5が載置されている。鍵盤部2およびペダル5の後端部(図3における左端)に
は、図示しない音源からの楽音信号に応答して振動する振動素子14が取り付けられてい
る。
なお、この振動素子14は、ソレノイドやモータのように電気信号に応じて駆動するも
のであればどのようなものでもよい。
【0019】
図4は、第3実施形態の電気的構成を示すブロック図である。
CPU15は電子鍵盤楽器全体の動作を制御するものであり、ROM16はCPU15
を動作させるためのプログラムや後述する音源にて処理される楽音波形やエンベロープ波
形の元データなどを記憶するものであり、RAM17はCPU15の動作時にデータを一
時的に記憶するものである。
演奏操作子は鍵盤部2とペダル5とからなり、音源18は演奏操作子の操作に応じてR
OM16から読み出された楽音波形およびエンベロープ波形の元データを用いてCPU1
5の指示に従って楽音信号を電気的に生成する。この音源18での楽音信号生成の動作は
周知の手法であるので詳細な説明は省略する。そしてこれら、CPU15、ROM16、
RAM17、演奏操作子、音源18は、バスライン19を介して接続されている。
【0020】
音源18からの楽音信号は、アンプ20にて増幅された後にスピーカ8から放音出力さ
れるとともに、振動素子14を駆動させるための駆動回路21に供給され、振動素子14
はこの駆動回路21からの駆動信号に応じて振動する。
【0021】
鍵盤部2にて押鍵が行われると、CPU15はその押鍵された鍵の位置(音高)を認識
し、この押鍵位置が所定の位置よりも高いか低いかを判定する。この所定の位置は、鍵盤
部2の高音域と中低音域とを分け隔てるものであり、固定値であってもよいし、演奏者が
任意に設定できるものであってもよい。
CPU15は、押鍵された鍵の位置が所定位置よりも低いときは、生成された楽音信号
の全てを駆動回路21に送出するよう音源18に指示する。これによって、駆動回路21
は発音開始から消音終了までの全区間において駆動信号を振動素子14に送出する。一方
、押鍵された鍵の位置が所定位置よりも高いときは、生成された楽音信号の一部のみを駆
動回路21に送出するよう音源18に指示する。これによって、駆動回路21は発音開始
から消音終了までの区間の一部分においてのみ駆動信号を振動素子14に送出する。
【0022】
具体的に図5を参照して説明する。図5は、一般的なピアノ音のエンベロープ波形を示
したものであり、縦軸に振幅、横軸に経過時間を取ったものである。
押鍵操作による発音開始時においては、打弦直後ということで振幅が急激に立ち上がり
(アタック部)、その直後に少し減衰し(ディケイ部)、その後に安定した状態となり(
サスティン部)、離鍵操作などによって減衰して消音される(リリース部)。
【0023】
押鍵された鍵の位置が所定位置よりも低いとき、つまり中低音域のときは、音源18に
て生成されたアタック部からリリース部に至る全区間の楽音信号が駆動回路21に供給さ
れ、押鍵された鍵の位置が所定位置よりも高いとき、つまり高音域のときは、音源18に
て生成された楽音信号のアタック部とディケイ部のみが駆動回路21に供給され、サステ
ィン部とリリース部の楽音信号は駆動回路21に供給されない。
このように構成した理由は、アコースティックピアノは、押鍵直後は楽音の高低に関係
なく鍵盤部2やペダル5が振動し、その後は中低音の楽音であれば弦の振動が継続して鍵
盤部2やペダル5に伝わり、高音の楽音であれば弦の振動は鍵盤部2やペダル5に殆ど伝
わらないからである。
【0024】
このように構成された電子鍵盤楽器において演奏が行われると、音源18にて生成され
た楽音信号がアンプ20にて増幅されてスピーカ8に供給されて放音される。それと同時
に中低音域での演奏では、放音期間中に鍵盤部2やペダル5が振動し、高音域での演奏で
は、放音開始直後のみ鍵盤部2やペダル5が振動して演奏者の指先や足裏に伝わる。
これにより、演奏者は、あたかもアコースティックピアノの弦振動が鍵盤部2やペダル
5に伝わっているような感触を得ることができる。
【0025】
なお、上記説明では、高音域においてはアタック部とディケイ部とを駆動回路21に供
給するようにしたが、アタック部のみとしても構わない。
また、押鍵時の押鍵強度に基づいてエンベロープ波形の振幅を制御するようにし、この
振幅の大きさに応じて駆動回路21の出力する駆動信号を変化させて、振動素子14の振
動の大きさを制御するようにすれば、リアルなアコースティックピアノの演奏感触が得ら
れるようになる。
さらに、鍵盤部2とペダル5とで振動の大きさを異ならせるようにすれば、よりリアル
なアコースティックピアノの演奏感触が得られるようになる。
【0026】
なお、ここまでは電子鍵盤楽器について説明してきたが、本発明は電子ギターなどにも
適用可能である。この場合、電子ギターのネック部やボディ部を振動させるようにすれば
、アコースティックギターのような感触を演奏者に与えることができる。
【符号の説明】
【0027】
2 鍵盤部
5 ペダル
6 第1の背板
7 第2の背板
8 スピーカ
9 ダクト
10 隔壁
14 振動素子
15 CPU
18 音源
21 駆動回路__


【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏を行うための演奏操作子と、
この演奏操作子への操作に応じた楽音信号を生成する楽音信号生成手段と、
この楽音信号生成手段で生成された楽音信号を放音する放音手段と
を有する電子楽器において、
前記放音手段の放音に応じて発生する振動を前記演奏操作子へ導くダクトを設けた
ことを特徴とする電子楽器。
【請求項2】
音高を指定するとともに該音高の楽音の発生を指示する演奏操作子と、
この演奏操作子の操作に応答して、当該演奏操作子にて指定された音高を有するととも
に、少なくともアタック部分とそれに続くサスティン部分とを有する楽音信号を生成する
楽音信号生成手段と、
前記演奏操作子を振動させるための振動素子と、
前記演奏操作子で指定された音高が所定音高よりも高かった場合は、楽音信号のアタッ
ク部分のみに基づいて前記振動素子を振動させ、一方、所定音高よりも低かった場合は、
楽音信号のアタック部分とサスティン部分の両方に基づいて前記振動素子を振動させるよ
う制御する制御手段と
を有することを特徴とする電子楽器。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−92799(P2013−92799A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−5229(P2013−5229)
【出願日】平成25年1月16日(2013.1.16)
【分割の表示】特願2008−76487(P2008−76487)の分割
【原出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】