説明

電子機器用の外装部材、該外装部材からなる外部接続端子用キャップを備えた電子機器

【課題】生分解性成形品の耐熱性および強度を高め電子機器の外装部材として好適に用いられるものとする。
【解決手段】生分解性ポリエステルに多官能性モノマーを配合して混練し、該混練物を所要形状に成形し、得られた成形品に電離性放射線を50kGy以上200kGy以下の照射量で照射し、前記生分解性ポリエステルのゲル分率を50%以上90%以下となるように架橋させており、曲げ弾性率が100〜400MPa、ヤング率が60〜240MPaとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用の外装部材に関し、特に、携帯電話の外部接続端子用キャップ等として好適に用いられ、使用後の廃棄時における廃棄量の減量を図るものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、携帯式のCDプレーヤ、ビデオカメラ等の携帯機器のハウジングには外部接続端子用の開口が設けられ、該開口にはゴムや樹脂で一体成形したキャップ(あるいはカバー)が取り付けられている。例えば、特開2002−111240号(特許文献1)では、前記キャップとしてABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PC/ABS(ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)等の樹脂により形成することが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−111240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のようにキャップを樹脂製とした場合、使用後に燃焼廃棄処理する場合に問題が発生する。即ち、燃焼時に発生する熱及び排出ガスによる地球温暖化、更に燃焼ガス及び燃焼後残留物中の毒性物質による食物や健康への影響等の問題、廃棄処理廃棄埋設処理地の確保など、社会的な問題となっている。
【0005】
これらの問題に対して、デンプンやポリ乳酸を代表とするなどの生分解性高分子は、石油合成高分子の廃棄処理の問題点を解決する材料として従来から注目されてきた材料である。生分解性高分子は、石油合成高分子に比べて、燃焼に伴う熱量が少なく自然環境での分解再合成のサイクルが保たれる等、生態系を含む地球環境に悪影響を与えない。中でも、強度や加工性の点で、石油合成高分子に匹敵する特性をもつ脂肪族ポリエステル系の樹脂は、近年注目を浴びてきた素材である。
【0006】
特に、ポリ乳酸は、植物から供給されるデンプンから作られ、近年の大量生産によるコストダウンで他の生分解性高分子に比べて非常に安価になりつつある点から、現在その応用について多くの検討がなされている。
ポリ乳酸は、その特性の面から見ても汎用の石油合成高分子に匹敵する加工性、強度を持つことから、その代替材料に最も近い生分解性樹脂である。またアクリル樹脂に匹敵する透明性からその代替や、ヤング率が高く形状保持性がある点からは電子機器の筐体等のABS樹脂の代替等、様々な用途への応用が期待される。
【0007】
しかしながら、ポリ乳酸は60℃近辺と比較的低い温度にガラス転移点をもち、その温度前後で所謂ガラス板が突然ビニル製のテーブルクロスになってしまうというほどに、ヤング率が激減し、形状を維持することが困難になるという欠点を持つ。
このように、ポリ乳酸を代表とする生分解性樹脂製の成形品は廃棄処理に関しては有効な素材であるが、耐熱性の点で問題を有し、例えば、携帯機器を自動車内に放置しておくと、夏場の高温時には車室内温度は60℃以上に上昇し、変形が生じる恐れがある。
一方、柔軟性の観点からは、ポリ乳酸は、前記のように、ガラス転移温度が60℃近辺で、常温ではガラス転移温度より低くなるため、柔軟性を欠き、柔軟性が必要な成形品では使用形態によっては破損が生じやすい問題点がある。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、生分解性材から形成される成形材の耐熱性および強度を高めて、高温環境下でも形状を維持することができ、かつ、常温時には破損が発生しにくい柔軟性も有する生分解性材からなる携帯電話の外部接続端子用キャップ等の電子機器の外装部材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、この問題について鋭意研究を重ねた結果、生分解性ポリエステルに多官能性モノマーを混合し、放射線照射等により一定条件以上の分子同士の架橋を行い、所要の曲げ弾性率及びヤング率を有する材料とすることでこの問題を解決できることを見出した。
【0010】
前記知見に基づいて、第1の発明として、生分解性ポリエステルに多官能性モノマーが混合され、前記生分解性ポリエステルのゲル分率(ゲル分乾燥重量/初期乾燥重量)が50%以上90%以下となる架橋構造とされており、曲げ弾性率が100〜400MPa、ヤング率が60〜240MPaであることを特徴とする電子機器用の外装部材を提供している。
【0011】
また、第2の発明として、第1の発明の外装部材の製造方法であって、生分解性ポリエステルに多官能性モノマーを配合して混練し、該混練物を所要形状に成形し、得られた成形品に電離性放射線を50kGy以上200kGy以下の照射量で照射し、前記生分解性ポリエステルのゲル分率を50%以上90%以下となるように架橋させていることを特徴とする携帯電話の外部接続端子用キャップ等の外装部材の製造方法を提供している。
【0012】
第1の発明において、曲げ弾性率を100〜400MPa、ヤング率を60〜240MPaの範囲に規定しているのは、該範囲の物性が外部接続端子用キャップやカバー材として用いる場合に特に適しているからである。詳細には、曲げ弾性率が100MPa未満であると柔軟過ぎて実用上十分な強度が維持できず、400MPaを超えると硬くなり、電子機器の開口にうまく嵌め合わされないおそれがある。曲げ弾性率は、好ましくは130〜300MPaである。
また、ヤング率を60〜240MPaとしているのも同様の理由による。ヤング率は、好ましくは80〜200MPaである。
曲げ弾性率は、JIS K7171、ISO 178及びASTM D790に準拠して測定しており、ヤング率はJIS K7127、ISO 527及びASTM D882に準拠して測定している。
【0013】
本発明の目的とする柔軟な外装部材においては、曲げや伸び等の負荷に対して弾性的に形状復帰できる限界値とほぼ等しい降伏点強度が必要であり、かつ、その降伏点強度が高いことが重要である。具体的には、本発明の外装部材は降伏点強度が8.5MPa以上であることが好ましい。より好ましくは9.0MPa以上である。
【0014】
本発明で用いる生分解性ポリエステルとしては、例えばε−ポリカプロラクトンもしくはδ−ポリブチロラクトンに代表されるポリラクトン類、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはイソフタル酸などに代表されるジカルボン酸と、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、などに代表される多価アルコールとのコポリマー、すなわち、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート等、さらにこれにポリ乳酸を加えたコポリマー、すなわち、ポリブチレンサクシネートラクチド、ポリブチレンサクシネートアジペートラクチド、またはポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸もしくはポリヒドロキシカプロン酸などに代表されるポリヒドロキシカルボン酸等、それ以外にも、L−乳酸からなるポリ乳酸、D−乳酸からポリ乳酸、L−乳酸とD−乳酸の混合物を重合することにより得られるポリ乳酸等が挙げられ、以上に述べた2種以上のホモポリマー、コポリマーの混合物であっても良い。
特にポリ乳酸単独を除く、ポリブチレンサクシネートなど前記した生分解性ポリエステルの多くはガラス転移温度が常温以下であり、常温時において柔軟性を保持することを目的とする本発明においては好適に用いることができる。これらを主成分とし、生分解性ポリエステル100質量部中に50質量部以上含有させれば、これらガラス転移温度が常温以下のポリマーが全体の強度を支配することが可能であるため、ガラス転移温度が常温以上の50〜60℃であるポリ乳酸単独を成分とするポリマー等も、一部添加して使用することが可能である。なお、本明細書において、常温とは加熱・冷却などをしない、平常の温度をいう。
なお、前記ポリブチレンサクシネートやポリブチレンサクシネートラクチド、あるいはポリブチレンサクシネートアジペートラクチドなどは石油由来でも、一部あるいは全部が天然由来のポリマーであっても、いずれでもよい。
【0015】
なかでも、曲げ弾性率が100〜400MPa、ヤング率が60〜240MPaとする柔軟な外装部材とするため、前記生分解性ポリエステル100質量部中に、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート及びポリブチレンサクシネートラクチドから選択される生分解性ポリエステルを単独で、あるいは2種以上混合したものを50質量部以上含んでいることが好ましい。より好ましくは、80質量部以上である。
【0016】
また、前記多官能性モノマーは、トリアリルイソシアヌレート等のように電離性放射線の照射により架橋できるモノマーであれば特に制約を受けないが、一分子内に二つ以上の二重結合を持つアクリル系およびメタクリル系の多官能性モノマーが好適に用いられる。
この種のモノマーとしては、例えば1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いる多官能性モノマーは、生分解性ポリエステル100質量部に対して、2質量部以上15質量部以下で配合することが好ましい。
2質量部以上としているのは、2質量部未満では多官能性モノマーによる生分解性ポリエステルの架橋効果が十分に発揮されず、高温時における強度が低下し、最悪の場合、形状が維持できなくなることによる。一方、15質量部を越えると、生分解性ポリエステルに多官能性モノマー全量を均一に混合するのが困難となり、実質的に架橋効果に顕著な差が出なくなることによる。
高温時における形状維持効果を確実にするためには3質量部以上であることが好ましく、生分解性ポリエステルの含有量を多くして生分解性を高めるためには10質量部以下であることが好ましい。
【0018】
さらに、生分解性ポリエステルの成形物を構成する組成物には、前記生分解性ポリエステル、多官能性モノマー以外に、本発明の目的に反しない限り、他の成分を配合してもよい。
例えば、生分解性ポリエステル以外の生分解性材を配合してもよい。該生分解性ポリエステル以外の生分解性材としては、ポリビニルアルコール等の合成生分解性樹脂、またはポリヒドロキシブチレート・バリレート等の天然直鎖状ポリエステル等の天然生分解性樹脂を挙げることができる。
また、生分解性を有する合成高分子および/または天然高分子を、溶融特性を損なわない範囲で混合してもよい。生分解性を有する合成高分子としては、酢酸セルロース、セルロースブチレート、セルロースプロピオネート、硝酸セルロース、硫酸セルロース、セルロースアセテートブチレートもしくは硝酸酢酸セルロース等のセルロースエステル、またはポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸もしくはポリロイシン等のポリペプチドが挙げられる。天然高分子としては、例えば澱粉として、トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉もしくはコメ澱粉などの生澱粉、または酢酸エステル化澱粉、メチルエーテル化澱粉もしくはアミロース等の加工澱粉が挙げられる。
【0019】
さらに、前記生分解性ポリエステル組成物には、生分解性樹脂以外に、硬化性オリゴマー、各種安定剤、難燃剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、防カビ剤、ポリ乳酸結晶化促進用核剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカもしくはシリカ等の無機・有機充填材、フィラー及びシランやステアリン酸などで表面処理されたフィラー、染料もしくは顔料等の着色剤等を加えることもできる。
このなかでも、特に、補強用として無機フィラーを配合することが好ましい。かつ、所要の着色を施した電子機器の外装部材とするため、染料もしくは顔料を配合することが好ましい。なお、組成物中に染料もしくは顔料を配合せずに、架橋した成形品の外面に塗料を塗布してもよい。
【0020】
上述した生分解性ポリエステル、多官能性モノマーおよび所望により他の成分を含む組成物を所望の形状に成形している。
成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いて良い。例えば、押出成形機、圧縮成形機、真空成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等の公知の成形機が用いられる。
【0021】
前記生分解性ポリエステル組成物を所要形状に成形した後、該生分解性ポリエステル成形物を架橋しており、該架橋方法は特に限定されず公知の方法が用いられるが、特に、電離性放射線を照射し架橋することが最も好ましい。
電離性放射線としてはγ線、エックス線、β線またはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や、電子線加速器による電子線照射が好ましい。
電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離性放射線の照射によって生成した活性種が空気中の酸素と結合して失活すると架橋効率が低下するためである。
【0022】
電離性放射線の照射量は50kGy以上200kGy以下であることが好ましい。
多官能性モノマーの量によっては電離性放射線の照射量が1kGy以上10kGy以下であっても生分解性ポリエステルの架橋は認められるが、ほぼ100%の生分解性ポリエステルの分子を架橋するには電離性放射線の照射量が50kGy以上であることが好ましい。さらに、架橋一体化を完全に行うためには、電離性放射線の照射量が80kGy以上であることがより好ましい。
一方、電離性放射線の照射量が200kGy以下であるのは、生分解性ポリエステルが樹脂単独では放射線で崩壊する性質を有するため、電離性放射線の照射量が200kGyを超えると架橋とは逆に分解を進行させることになるからである。電離性放射線の照射量の上限値は150kGyであることが好ましく、100kGyであることがより好ましい。
より好ましくは60kGy〜150kGyであり、特に、80kGy〜120kGyが好ましい。
【0023】
なお、電離性放射線を照射して架橋する代わりに、生分解性ポリエステルに多官能性モノマーと化学開始剤を混合したのち所望の形状に成形し、化学開始剤が熱分解する温度まで上げることによっても、生分解性架橋体を作製することができる。
多官能性モノマーとしては、前記態様と同じ物質を用いることができる。
化学開始剤としては、熱分解により過酸化ラジカルを生成する過酸化ジクミル、過酸化プロピオニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジアシル、過酸化ペラルゴニル、過酸化ミリストイル、過安息香酸−t−ブチルもしくは2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの過酸化物触媒をはじめとするモノマーの重合を開始する触媒であればいずれでもよい。
架橋させるための温度条件は化学開始剤の種類により適宜選択することができる。架橋は、放射線照射の場合と同様、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。
【0024】
前記した方法で製造される生分解性脂性ポリエステル成形材においては、架橋によりゲル分率(ゲル分乾燥重量/初期乾燥重量)は50%以上90%以下としている。
本発明では、架橋の程度をゲル分率により規定している。
ゲル分率は照射橋かけ又は化学橋かけを行ったフィルムの所定量を200メッシュの金網に包み、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)液の中で48時間煮沸する。次いで、溶解したゾル分を除き金銅中に残ったゲル分を50℃で24時間乾燥しその重量を求める。ゲル分率は次式により算出している。
ゲル分率(%)=(ゲル分乾燥重量)/(初期乾燥重量)×100
【0025】
前記架橋型としてゲル分率を50%以上とすると、ポリマー内に無数の三次元網目構造が生成し、高温環境下においても変形しない耐熱性を付与することができる。
一方、ゲル分率が90%を越えると硬くなり過ぎ、柔軟性を欠き、曲げ強度が低下する問題がある。ゲル分率は好ましくは60〜90%である。
【0026】
前記架橋によりゲル分率を50%以上80%以下とした生分解性ポリエステル組成物の成形品は、その融点が150℃〜200℃で、曲げ弾性率が100〜400MPa、ヤング率が60〜240MPa、さらに高温時におけるヤング率保持率も70%以上である物性を付与することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の電子機器の外装部材となる生分解性ポリエステル組成物からなる架橋体は、架橋の効果によって生分解性ポリエステルの熱変形温度を向上させることができる。即ち、架橋により形成される生分解性ポリエステルの架橋ネットワークにより高温時でも確実に形状を維持させることができる。
また、本発明は生分解性樹脂で成形しているため、自然界において生態系に及ぼす影響が極めて少なく、従来のプラスチックが有していた廃棄処理に拘わる諸問題を解決することができる。
特に、本発明からなる電子機器の外装部材が着脱自在なキャップやカバー材、例えば、携帯電話の外部端子接続用開口用のキャップ等の場合、着脱時に破損が発生しにくい柔軟性が要求される。この場合には、生分解性ポリエステルとしてガラス転移温度が常温以下のポリマーを用いると、常温時に柔軟性を保持するため、破損が生じにくくすることができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の実施形態を説明する。
本発明の電子機器の外装部材は図1に示す携帯電話1の外部端子との接続部分に設けられた開口2をカバーするキャップ3として用いるものである。
前記キャップ3は耐熱性の生分解性ポリエステル組成物から成形しており、下記の手順で製造している。
【0029】
生分解性ポリエステルとして、ポリブチレンアジペートテレフタレートを60〜100質量部、ポリブチレンサクシネートアジペートあるいはポリブチレンサクシネートラクチドを0〜40質量部、ポリ乳酸を6〜13質量部の割合で用い、まず、前記生分解性ポリエステルのペレットを加熱により軟化させるか、あるいは生分解性ポリエステルが溶解しうる溶媒中に生分解性ポリエステルを分解させる。
【0030】
ついで、前記生分解性ポリエステルを加熱により軟化させて、多官能性モノマーを添加する。多官能性モノマーとしてトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)を添加している。添加量は、生分解性ポリエステル100質量部に対して5質量部以上10質量部以下で添加している。添加後、多官能性モノマーが均一になるように撹拌混合する。
ついで、さらに溶媒を乾燥除去しても良い。
【0031】
前記組成物を再び加熱などにより軟化させて、前記キャップ3の形状に成形している。
該成形は組成物を調整したあと、例えば、溶媒に溶解した状態のまま続けて行っても良いし、一旦冷却または乾燥除去した後に行っても良い。
【0032】
ついで、得られた生分解性ポリエステル成形物に電離性放射線を照射し、生分解性ポリエステルを架橋させ、耐熱性生分解性ポリエステルを得ている。電離性放射線は、電子線加速器による電子線照射が好ましく、放射線照射量は50kGy以上150kGy以下の範囲から多官能性モノマーの配合量等に応じて適宜選択している。
特に、電離性放射線照射後に得られる耐熱性生分解性ポリエステルのゲル分率が50%以上になることを目安に選択している。
【実施例】
【0033】
本発明の実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
生分解性ポリエステルとして、ペレット状のBASF社製ポリブチレンアジペートテレフタレート「エコフレックス(商品名)」、さらに三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシア(LACEA)H−280(商品名)」を使用した。エコフレックス100質量部に対してレイシアH−280を13質量部の割合で使用した。
押出機(池具鉄工(株)製PCM30型)を用いてシリンダ温度150℃で予め溶融させて練った状態の前記生分解性ポリエステルに、多官能性モノマーの1種であるTMPTを最終的にエコフレックス100質量部に対して5重量部になるように少量ずつ添加して混合物を調整した。
この混合物を冷やしたのちにペレタイザーにてペレット化し、生分解性ポリエステルと多官能性モノマーのペレット状混練物を得た。この混練物を150℃でシート状に熱プレスしたのち水冷で急冷し、シートを製作した。
このシートに対し、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電子線を60kGy照射し、耐熱性生分解性ポリエステルを得た。
【0035】
前記電子線照射は、具体的には、図2に示すように、真空雰囲気中において、電子銃10から出た電子がコンデンサを組わせた高電圧加速器11内の高電圧によって加速され、偏光コイル12によって方向制御された後、チタン等の薄膜13をとって成形品20に照射している。
成形品20への照射は、同じ電圧で同じ電流量で安定して行われるため、コンベア15等で一定の速度で移動させている。
(実施例2)
生分解性ポリエステルとして、BASF社製ポリブチレンアジペートテレフタレート「エコフレックス(商品名)」、昭和高分子(株)製ポリブチレンサクシネートアジペート「ビオノーレ#3001(商品名)」、さらに三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシア(LACEA)H−280(商品名)」を使用し、エコフレックスを60質量部、ビオノーレ#3001を40質量部、レイシアH−280を6質量部、さらにTMPTを5質量部の割合で混練したしたこと以外は実施例1と同様とした。
【0036】
(実施例3)
ビオノーレ#3001の代わりに三菱化学(株)製ポリブチレンサクシネートラクチド「GsPLa AD82W(商品名)」を使用したこと以外は実施例2と同様にして実施例3とした。
【0037】
(比較例1)
電子線照射を行わなかったこと以外は、実施例1と同様として、比較例1とした。
(比較例2)
電子線照射を行わなかったこと以外は、実施例3と同様として、比較例2とした。
【0038】
(実施例および比較例の評価)
実施例および比較例において、メルトインデックス(MI)、ゲル分率、曲げ弾性率、ヤング率及び降伏点強度は下記方法で評価した。
【0039】
(MI(メルトインデックス))
JIS K7210、ISO 1130及びASTM D1238に準拠した方法で測定した。
【0040】
(ゲル分率)
各実施例および比較例サンプルの乾燥重量を正確に計ったのち、200メッシュのステンレス金網に包み、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)液の中で48時間煮沸したのちに、DMFに溶解したゾル分を除いて残ったゲル分を得た。50℃で24時間乾燥して、ゲル中のDMFを除去し、ゲル分の乾燥重量を測定した。得られた値をもとに下記式に基づきゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(ゲル分乾燥重量/サンプルの乾燥重量)×100
本方法は、JIS K7210及びISO 527に準拠している。
【0041】
(曲げ弾性率)
JIS K7171、ISO 178及びASTM D790に準拠して測定した。
(ヤング率、降伏点強度)
JIS K7127、ISO 527及びASTM D882に準拠して測定した。
【0042】
実施例、比較例のMI、ゲル分率(%)、曲げ弾性率(MPa)、ヤング率(MPa)、降伏点強度(MPa)の評価結果を下記の表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、実施例1〜3のゲル分率は79〜86%であり、架橋が確認できたのに対して、電子線照射を行わなかった比較例1、2はゲル分率は0%となり、架橋がなされていなかった。
実施例1〜3は、曲げ弾性率が133〜210MPa、ヤング率が89〜164MPaとなり、電子線照射を行っていない比較例1、2に比して、曲げ弾性率やヤング率が若干上昇して硬くなるものの、人間の手で触った感覚では差を感じられない範囲であり、十分な柔軟性を有していた。
また、実施例1〜3は降伏点強度は9.0MPa以上であり、比較例1,2に比べて、降伏点強度が3〜4割優れていた。このように、実施例1〜3の外装部材は柔軟でありながら、高い降伏点強度を有していた。
【0045】
このように、本発明の生分解性ポリエステルを主成分とし、電離性放射線を照射して架橋し、ゲル分率を50%以上としており、曲げ弾性率が100〜400MPa、ヤング率が60〜240MPaである成形品は、常温において柔軟であるとともに、耐熱性および強度も備えているため、電子機器の外部接続端子用キャップとして好適に用いることができ、かつ、生分解性であるため廃棄処理のゴミ量を低減できる利点を有するものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の生分解性樹脂からなる成形品は、耐熱性および強度を有するため、携帯電話の外部接続端子用キャップに限らず、ノート型パソコン、電子手帳、電子カメラ、携帯型オーディオ機器等の各種の携帯型電子機器に設ける外部接続用端子のキャップ等として好適に用いられる。さらに、廃棄時のゴミ量の低減の観点からは、携帯用に限らず、電子機器のケース、カバー等にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(A)(B)(C)は本発明の実施形態のキャップを備えた携帯電話を示す図面である。
【図2】電子線照射工程を示す図面である。
【符号の説明】
【0048】
1 携帯電話
2 開口
3 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステルに多官能性モノマーが混合され、前記生分解性ポリエステルのゲル分率(ゲル分乾燥重量/初期乾燥重量)が50%以上90%以下となる架橋構造とされており、曲げ弾性率が100〜400MPa、ヤング率が60〜240MPaであることを特徴とする電子機器用の外装部材。
【請求項2】
降伏点強度が8.5MPa以上である請求項1に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項3】
前記生分解性ポリエステルとして、ガラス転移温度が常温以下である天然由来あるいは石油由来のポリマーを用いている請求項1または請求項2に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項4】
前記生分解性ポリエステル100質量部中に、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート及びポリブチレンサクシネートラクチドからなる群から選択される1種以上を50質量部以上含んでいる請求項3に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項5】
前記多官能性モノマーはアクリル系もしくはメタクリル系のモノマーからなり、該多官能性モノマーが生分解性ポリエステル100質量部に対して2質量部以上15質量部以下で配合されている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電子機器用の外装部材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の外装部材からなる外部接続端子用キャップを備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電子機器用の外装部材を製造する方法であって、生分解性ポリエステルに多官能性モノマーを配合して混練し、該混練物を所要形状に成形し、得られた成形品に電離性放射線を50kGy以上200kGy以下の照射量で照射し、前記生分解性ポリエステルのゲル分率を50%以上90%以下となるように架橋させていることを特徴とする電子機器用の外装部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−195788(P2008−195788A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30935(P2007−30935)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】