説明

電子機器用アルミニウム板及びこれを用いた電子機器用成形品

【課題】 導電性、放熱性、及び成形性に優れると共に、耐指紋性及び耐傷付き性に優れた電子機器用アルミニウム板及びこれを用いた成形品を提供する。
【解決手段】 中心線平均粗さRaが0.2〜0.6μmのアルミニウム素板2の少なくとも片面に、素板2側から耐食性皮膜3及び樹脂皮膜4が順次形成されたアルミニウム板1で、耐食性皮膜3はCrまたはZrを含有しかつ付着量がCrまたはZr換算で10〜50mg/m2であり、樹脂皮膜4は平均膜厚が0.05〜0.3μmで、全樹脂皮膜量に対して1〜25質量%の潤滑剤を含有し、アルミニウム素板2またはこの上に耐食性皮膜3が形成された表面はその微細な凸部が樹脂皮膜4の表面に露出し、樹脂皮膜4が形成された側の面に半径10mmの球状端子を0.4Nの荷重で押し付けた際の前記球状端子とアルミニウム素板2の間の表面抵抗値を1Ω以下とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器用アルミニウム板、及びこれを用いた電子機器用成形品に係り、特に、導電性、放熱性、成形性、耐指紋性及び耐傷付き性に優れ、各種外部記録装置のケース及びシャーシ、液晶パネルの背面カバー、固定用フレーム等電子機器の筐体、または構造部材用の素材に好適な電子機器用アルミニウム板、及びこれを用いた電子機器用成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、パーソナルコンピュータ(以下、「パソコン」という)等の電子計算機には、データを保存するための外部記録装置(以下、「ドライブ装置」という)が備えられている。このドライブ装置の代表的なものとして、例えば、高速かつ大容量化が可能なハードディスクドライブ(Hard Disk Drive、以下、「HDD」という)、データを保存するための記録媒体の大容量化、取り外しまたは持ち運びの可能な光ディスクドライブ(例えば、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW等と呼ばれているもの)、あるいは前記のHDD及び光ディスクドライブの特徴を併せ持った光磁気ディスクドライブ(いわゆる、MO、MDと呼ばれているもの)、更に、比較的手軽に使用でき、最近では、より記録媒体が大容量化されたフレキシブルディスクドライブ(Flexible Disk Drive、またはZip)等が挙げられる。
【0003】また、机上等に置いて使用される、いわゆるデスクトップタイプのパソコンでは、ディスプレーとして例えば、CRT(Cathode Ray Tube:陰極線管)が用いられ、前記ドライブ装置は、通常、このCRTと一体化されて、あるいは、前記CRTの近傍に設置されて使用される。このため、前記CRTや前記CRTの周辺に設置された各種の電子機器から発生する電磁波ノイズにより、前記ドライブ装置でデータの書き込みや再生が実行される際に不具合が生じ易くなり、場合によって重大な誤動作が発生する場合があった。なお、最近では、前記ドライブ装置は、軽量で持ち運びが容易な、いわゆるノートブックタイプのパーソナルコンピュータ(以下、「ノートパソコン」という)にも搭載されるようになり、前記ドライブ装置周辺の電子回路等から発生した電磁波ノイズにより、前記と同様の不具合が生じ易くなっている。
【0004】そこで、このような誤動作を極力抑えて前記ドライブ装置の信頼性を高めるために、例えば前記ドライブ装置にアースを取り、前記ドライブ装置の内部への電磁波ノイズの侵入及び微小電流の流入を防止するといった対策が採られている。前記ドライブ装置におけるアースの取り方としては、このドライブ装置のケースまたはシャーシに直接、アース線を接続する方法、このドライブ装置のケースまたはシャーシの表面に導電性に優れた部材(例えば、銅や真ちゅう、またはステンレス鋼(SUS)等の金属製の板バネ、あるいはスポンジに金属メッシュが巻き付けられたガスケット)を接触させる方法、または導電性を有するテープを貼り付ける方法等が実用化されている。このため、前記ドライブ装置のケース及びシャーシにはアースを取る(接地する)ために必要な導電性が求められている。
【0005】また、近時では、消費電力が低く、かつ軽量で持ち運びが容易な液晶ディスプレーが、各種の業務用及び民生用の電子機器分野で注目されている。このような液晶ディスプレーとしては、例えば、前記ノートパソコンに搭載される液晶ディスプレーが挙げられる。この液晶ディスプレーは、一般に、画像表示素子としての液晶パネル、この液晶パネルを保護するための背面カバー及び液晶パネルを背面カバーに固定するための液晶パネル固定用治具(以下、「固定用フレーム」という)から構成されているが、前記ドライブ装置の場合と同様に、背面カバー及び固定用フレームには、画像ノイズの原因となる静電気を除去するための導電性が求められている。
【0006】更に、電子機器で発生する熱は、この電子機器の内部の配線を断線させたり、この電子機器に備わる各種の電子部品の性能劣化を引き起こしたりする場合がある。このため、前記電子機器用素材においては、電子機器で発生した熱を外部へ効率的に逃がすための放熱性が求められている。
【0007】その他、前記電子機器用素材には、所望の形状に比較的容易に成形することができる成形性、あるいは電子機器を搬送したり設置したりする際にも外観を良好に保持して取扱いを容易にすることができる耐指紋性及び耐傷付き性等を有することが要求されている。そこで、前記電子機器用素材に要求されているこれらの諸特性を満足させるために、従来から、ステンレス鋼(SUS)、鋼材、またはアルミニウム材等の各種の金属素材が、前記電子機器用素材に適用されている。なお、最近では、ノートパソコンをはじめとして、金属素材の中でも比較的軽量なアルミニウム材の使用が増加する傾向にある。
【0008】しかし、アルミニウム材を前記電子機器用素材に使用する場合、単独では前記の各種特性を満足させることは難しいため、前記特性の向上を図るべく、種々の表面処理方法が提案されている。例えば、特開平4−330683号公報には、アルミニウム板に、潤滑剤を含む樹脂をコーティングすることにより、表面に付着した指紋や表面に生じた微細な傷を目立たなくさせる、耐指紋性及び耐傷付き性に優れた表面処理アルミニウム板が提案されている。
【0009】この方法によれば、アルミニウム板の耐指紋性及び耐傷付き性がある程度向上されるものの、絶縁物たる樹脂がコーティングされたアルミニウム板の表面は絶縁性を呈するようになるため、前記電子機器の筐体または構造部材からアースを取る場合には、アースを確実に取るために前記樹脂皮膜の一部を削り取ってアルミニウムの金属を露出させた導通部を設ける等の後工程が必要となる。
【0010】そこで、このようなアルミニウム板の表面における導電性確保の問題を解決するための手段として、特開平7−313930号公報及び特開平7−314601号公報等に、導電性物質を含有する樹脂をコーティングする技術が提案されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このように導電性物質を含有する樹脂をアルミニウム板の表面にコーティングする方法では、導電性物質の粒子を前記樹脂の中に均一に分散させることが必要であり、アルミニウム板の表面に形成された樹脂皮膜中で導電性物質の粒子同士の接触が充分に確保されない場合には、所望の導電性が得られないという問題が生じる。したがって、所望とする導電性を得るには、前記導電性物質の添加量を増加させる必要があった。
【0012】ところが、前記導電性物質を前記樹脂の中に多量に添加すると前記樹脂皮膜が硬くなって脆くなるため、前記樹脂皮膜が形成されたアルミニウム板にプレス加工を施す際に、前記樹脂皮膜の割れ(剥離)が発生し易くなるという問題があった。
【0013】本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、ドライブ装置のケース及びシャーシ、液晶パネルの固定用フレーム及び背面カバー等の電子機器の筐体、並びにこれらの構造部材で要求される導電性及び放熱性を向上させると共に、プレス成形を施しても樹脂皮膜の割れ(剥離)が抑えられる成形性に優れ、更に、指紋の付着や傷の発生による外観不良を大幅に低減できる耐指紋性及び耐傷付き性に優れた電子機器用アルミニウム板及びこれを用いた成形品を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記目的を達成するために以下のように構成した。すなわち、本発明は、中心線平均粗さRaが0.2〜0.6μmであるアルミニウム素板の少なくとも片面に、この素板側から耐食性皮膜及び樹脂皮膜が順次形成されたアルミニウム板であって、前記耐食性皮膜は、CrまたはZrを含有し、かつ付着量がCrまたはZr換算値で10〜50mg/m2であり、前記樹脂皮膜は、平均膜厚が0.05〜0.3μmであって、全樹脂皮膜量に対して1〜25質量%の潤滑剤を含有し、前記アルミニウム素板、またはこの上に前記耐食性皮膜が形成された表面は、その微細な凸部が前記樹脂皮膜の表面に露出し、前記樹脂皮膜が形成された側の面に、先端部が半径10mmの球状端子を、0.4Nの荷重で押し付けたときの前記球状端子と前記アルミニウム素板との間の表面抵抗値が1Ω以下である電子機器用アルミニウム板として構成した(請求項1)。
【0015】このように構成すれば、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRaと、耐食性皮膜及び樹脂皮膜の各平均膜厚とをそれぞれ所定の範囲内に規制したので、前記アルミニウム素板の素地または前記耐食性皮膜の微細な凸部が前記樹脂皮膜の表面に露出するようになり、所望とする導電性及び放熱性が確保されると同時に、成形性、耐指紋性及び耐傷付き性が高められた電子機器用アルミニウム板が具現される。
【0016】また、前記樹脂皮膜は、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂の中から選択された少なくとも1種で構成されることが望ましい(請求項2)。このように構成すれば、前記電子機器用アルミニウム板に成形加工を施す際に、前記樹脂皮膜がアルミニウム素板の変形に追従し易くなるので、一段と成形性に優れた電子機器用アルミニウム板が具現される。
【0017】また、前記潤滑剤は、ポリエチレンワックス、ポリアルキレン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、フッ素系ワックス、ラノリンワックス、カルナウバワックス、パラフィンワックス、グラファイトの中から選択された少なくとも1種で構成されることが望ましい。このように構成すれば、前記電子機器用アルミニウム板の表面に適度な潤滑性を付与することができるので、成形性がより向上された電子機器用アルミニウム板が具現される。
【0018】更に、前記樹脂皮膜は、全樹脂皮膜の量に対して1〜30質量%のコロイダルシリカを含むことが望ましい(請求項4)。このように構成すれば、前記樹脂皮膜中に比較的高い硬度を有するコロイダルシリカを添加したので、前記樹脂皮膜がより硬質化されて耐傷付き性を向上させることができ、その結果、前記耐傷付き性が向上された電子機器用アルミニウム板が具現される。
【0019】そして、本発明は、前記電子機器用アルミニウム板を用いて成形された電子機器用成形品として構成した。このように構成すれば、導電性、放熱性、成形性、耐指紋性、並びに耐傷付き性に優れた電子機器用成形品が具現される。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明に係る電子機器用アルミニウム板の構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明に係る電子機器用アルミニウム板1は、表面粗さ(中心線平均粗さRa)が本発明で規制する範囲内に調整されたアルミニウム素板2の表面に、耐食性を充分に確保するための耐食性皮膜3が被覆され、この耐食性皮膜3の上に潤滑剤を含む樹脂皮膜4が形成されている。以下、本発明に係る電子機器用アルミニウム板1を構成する各要素で数値限定した理由について説明する。
【0021】[アルミニウム素板]本発明で用いられるアルミニウム素板2は特に限定されるものではなく、必要に応じて各種の成分、調質及び板厚を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成することができる。
【0022】(アルミニウム素板の中心線平均粗さRa:0.2〜0.6μm)本発明に含まれるアルミニウム素板の中心線平均粗さRaは、前記の耐食性皮膜及び樹脂皮膜の平均膜厚と共に、電子機器用アルミニウム板における導電性、成形性、耐指紋性、耐傷付き性及び放熱性等の各種特性の発現に寄与する重要なパラメータである。
【0023】すなわち、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRaが0.2μm未満であると、その電子機器用アルミニウム板の表面の光沢度が過剰に大きくなって、表面に付着した指紋及び表面に生じた微細な傷が目立ち易くなり、耐指紋性及び耐傷付き性に劣ったものとなる。また、この場合には、前記微細な凹凸を有するアルミニウム素板の素地、またはこの上に前記微細な凹凸に沿って形成された耐食性皮膜の凸部が、前記樹脂皮膜の表面に露出し難くなるため、所望の導電性及び放熱性を確保することが困難となる。
【0024】一方、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRaが0.6μmを超えると、このアルミニウム素板に曲げ加工を施した際に、このアルミニウム素板で割れが生じ易くなるため、前記曲げ加工が施された部分の樹脂皮膜でスジ模様が目立つようになったり前記樹脂皮膜が剥離し易くなったりする。したがって、本発明では、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRaを、0.2〜0.6μmの範囲に規制することによって、導電性、成形性、耐指紋性、耐傷付き性及び放熱性等が高められ電子機器用アルミニウム板が得られる。
【0025】なお、アルミニウム素板の中心線平均粗さRaを、前記の本発明で規制する範囲内に調整する方法として、例えば、アルミニウム素板の圧延工程で、表面粗さが適宜設定された圧延ロールを用いて仕上げ圧延を行う方法や、圧延後のアルミニウム素板の表面に適宜条件でエッチング処理を施す方法が挙げられる。
【0026】本発明では、このようにして中心線平均粗さRaが調整されて微細な凹凸が形成されたアルミニウム素板の上に耐食性皮膜及び樹脂皮膜が順次形成されるが、これらの耐食性皮膜及び樹脂皮膜の膜厚を本発明で規制する所定の膜厚に設定することにより、前記アルミニウム素板の素地または耐食性皮膜の微細な凸部が樹脂皮膜の表面に露出するようになり、所望とする導電性及び放熱性が確保されると共に、成形性、耐指紋性及び耐傷付き性が高められた電子機器用アルミニウム板が得られる。
【0027】[耐食性皮膜]本発明に含まれる耐食性皮膜は、アルミニウム素板に所要の耐食性を付与するために設けられるものである。本発明では、前記耐食性皮膜として、CrまたはZrを主成分とした従来公知の耐食性皮膜である、リン酸クロメート皮膜、クロム酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、塗布型クロメート皮膜、あるいは塗布型ジルコニウム皮膜等を適宜使用することができる。なお、本発明では、前記CrまたはZrの付着量(CrまたはZr換算値)を、例えば、従来公知の蛍光X線法を用いて比較的簡便かつ定量的に測定することができるため、生産性を阻害することなく前記電子機器用アルミニウム板の品質管理を行うことできる。
【0028】(耐食性皮膜の付着量:10〜50mg/m2)本発明に含まれる耐食性皮膜の付着量が、CrまたはZr換算値で10mg/m2より少なくなると、アルミニウム素板の全面を均一に被覆することができず、耐食性の確保が難しくなって電子機器用アルミニウム板として長期間の使用に耐えられなくなる。なお、この耐食性皮膜の主成分たるCrまたはZrは金属元素であり、これらの金属元素が本発明に含まれる前記樹脂皮膜の表面に露出するようにすれば、本発明に係る電子機器用アルミニウム板の導電性及び放熱性を一層高めることができる。
【0029】また、50mg/m2を超えると、導電性及び放熱性は確保されるものの、プレス成形等において、耐食性皮膜自体に割れ(剥離)を生じ、長期間にわたって高い耐食性を維持することが難しくなるという問題が生じる。このため、本発明では、前記耐食性皮膜の付着量を、CrあるいはZr換算値で10〜50mg/m2の範囲に規制する。
【0030】[樹脂皮膜]本発明に含まれる樹脂皮膜は、電子機器用アルミニウム板に所望の耐指紋性及び耐傷付き性を付与するために設けられるものである。そして、本発明では、所望の耐指紋性及び耐傷付き性を発現させるべく、前記樹脂皮膜の平均膜厚を所定の範囲に規制している。
【0031】(樹脂皮膜の平均膜厚:0.05〜0.3μm)すなわち、前記樹脂皮膜の平均膜厚が0.05μm未満では、耐指紋性、耐傷付き性に劣り、また、潤滑性も充分でないため、成形加工が難しくなる。そして、前記樹脂皮膜の平均膜厚が0.3μmを越えると、アルミニウム素板の表面粗さが粗い場合でも、樹脂皮膜がアルミニウム素板の素地または耐食性皮膜をほとんど全て覆い隠すため、表面抵抗値が非常に高くなって導電性が適切に確保されなくなる。また、この場合、発生した熱が樹脂皮膜中に蓄積され、放熱性が適切に確保されなくなる。このため、本発明では、樹脂皮膜の平均膜厚を、0.05〜0.3μmの範囲に規制する。
【0032】なお、前記樹脂皮膜は、成形性の観点から、アルミニウム素板の変形に比較的追従し易い樹脂の方が望ましく、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂及びビニル系樹脂の中から選択された少なくとも1種で構成されることがより望ましい。
【0033】また、本発明は前記樹脂皮膜の形成方法について特に限定するものではないが、例えば、生産性の観点から耐食性皮膜を形成したコイル状のアルミニウム素板に連続して液体状の樹脂を塗布することができるロールコート法を用いるのが望ましい。この場合、ロールコーターによって塗布された液体状の樹脂は、連続式のオーブン内部を通過する際に焼付けが行われて樹脂皮膜となる。
【0034】このとき、前記樹脂皮膜は、耐食性皮膜の上に塗布された当初は液体状であるため、まず、アルミニウム素板の表面粗さをある程度反映している耐食性皮膜の表面の凹部に優先的に充填され、引き続き行われる焼付け処理によってより硬質な皮膜に形成される。
【0035】そして、本発明では、予め、耐指紋性及び耐傷付き性のそれぞれの性能と、前記樹脂皮膜の平均膜厚、前記アルミニウム素板の表面粗さ(中心線平均粗さRa)並びに耐食性皮膜の付着量(CrまたはZr換算値)の各パラメータとの関係を求めておき、これらの関係に基づいて、所望の耐指紋性及び耐傷付き性が得られるように、前記各パラメータを適宜設定することができる。また、本発明では、前記樹脂皮膜の平均膜厚を、この樹脂皮膜が形成された部分の面積及びその樹脂量から比較的容易に求めることができる。
【0036】(全樹脂皮膜の量に対する潤滑剤の含有量:1〜25質量%)本発明に含まれる潤滑剤は、電子機器用アルミニウム板の成形性を向上させるものである。前記潤滑剤の量が、全樹脂皮膜の量に対して1質量%未満であると充分な潤滑性が得られなくなり、プレス加工を施した際に成形品の一部が局部的に変形して、樹脂皮膜にくびれや割れ(剥離)が発生する原因となる。
【0037】また、前記潤滑剤の量が、全樹脂皮膜の量に対して25質量%を越えると潤滑性向上の効果は飽和する一方、前記樹脂皮膜の造膜性が低下して耐傷付き性を低下させる原因となったり、プレス加工の際に一部で剥離した樹脂皮膜の剥離物(かす)がプレス加工の金型の内部に堆積したりして、この電子機器用アルミニウム板の成形加工に悪影響を及ぼすこととなる。したがって、本発明では、全樹脂皮膜の量に対する潤滑剤の含有量を1〜25質量%に規制する。
【0038】なお、前記潤滑剤としては、成形性の向上と経済性とを適度に調和させる観点から、ポリエチレンワックス、ポリアルキレン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、フッ素系ワックス、ラノリンワックス、カルナウバワックス、パラフィンワックス、グラファイトの中から選択された少なくとも1種で構成されることが望ましい。なお、本発明では、前記ポリアルキレン系ワックスとして酸化ポリアルキレン系ワックス、前記フッ素系ワックスとしてポリテトラフルオロエチレン系ワックスを適用することができる。
【0039】(アルミニウム素板の素地または耐食性皮膜の凸部の樹脂皮膜表面への露出)本発明に係る電子機器用アルミニウム板では、電子機器の部材に適用する際にこのアルミニウム板とアースとの接点における導電性を適切に確保すべく、本発明に含まれる、前記微細な凹凸を有するアルミニウム素板の素地または耐食性皮膜の凸部を前記樹脂皮膜の表面に露出させることを必要とする。そして、前記アルミニウム素板の素地または耐食性皮膜の微細な凸部を前記樹脂皮膜の表面に露出させる度合い(分散度)は、基本的には、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRaと、前記樹脂皮膜の平均膜厚との関係を適宜調整することによって行われる。
【0040】(表面抵抗値:1Ω以下)更に、本発明に係る電子機器用アルミニウム板では、後記するような方法で測定される表面抵抗値を1Ω以下とすることが必要である。すなわち、前記表面抵抗値が1Ωを越える電子機器用アルミニウム板を電子機器に適用した場合には、電磁波等に起因するノイズを完全に除去することが困難となる。特に、前記電子機器がドライブ装置である場合には、書き込みまたは再生エラーが誘発され易くなり、また、前記電子機器が液晶ディスプレーである場合には、画像ノイズが発生し易くなる。このため、本発明では、前記表面抵抗値を1Ω以下に規制する。
【0041】本発明で前記表面抵抗値を1Ω以下とするには、本発明で規制する前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRaの範囲内(0.2〜0.6μm)及び前記樹脂皮膜の平均膜厚の範囲内(0.05〜0.3μm)で、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRa及び前記樹脂皮膜の平均膜厚を適宜調整すればよい。更に、本発明に係る電子機器用アルミニウム板では、前記中心線平均粗さRaを有するアルミニウム素板に対して、前記樹脂皮膜を適宜な均一性で形成することにより、このアルミニウム素板の微細な凹凸に沿って形成された前記耐食性皮膜の凸部が前記樹脂皮膜の表面に所望の度合い(分散度)で露出するようになり、前記の1Ω以下の表面抵抗値がこの表面の所望の部位で得られるようになる。
【0042】なお、前記表面抵抗値に大きく寄与するパラメータとしては、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRa及び前記樹脂皮膜の平均膜厚の他に、樹脂の種類、潤滑剤の種類や量等が挙げられる。このため、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRaと前記樹脂皮膜の平均膜厚との間の相関関係のみで本発明を特定することは困難である。したがって、本発明は、前記したように「表面抵抗値が1Ω以下であるアルミニウム板」という限定条件を含んで特定される。
【0043】このように本発明に係る電子機器用アルミニウム板を特定する前記表面抵抗値は、次のような方法によって測定することができる。図2は、前記表面抵抗値の測定方法の1例を模式的に示す図である。この表面抵抗値の測定方法は、テスター11の端子の一方を、アルミニウム素板の表面に耐食性皮膜及び樹脂皮膜が形成された電子機器用アルミニウム板10の裏面あるいは端面で、サンドペーパー等を用いた研磨によって耐食性皮膜及び樹脂皮膜が除去された部分に接続し、テスター11の端子の他方を、先端部が半径10mmの略球形状に形成された球状端子を有する金属製の測定棒12を介して、電子機器用アルミニウム板10の樹脂皮膜の測定箇所に接続して行うことができる。なお、この金属製の測定棒12は、導電性に優れる真ちゅう等で構成することができる。
【0044】そして、金属製の棒12の先端部に備えられた球状端子を、0.4N(40gf)の荷重で、電子機器用アルミニウム板10の樹脂皮膜の測定箇所に押し付け、この状態で各電子機器用アルミニウム板10の表面抵抗値を測定する。なお、金属製の測定棒12の表面にある自然酸化膜は、前記表面抵抗値の測定値にばらつきを発生させるため、この表面抵抗値の測定前に金属製の測定棒12の表面を予めサンドペーパー等で研磨して、この自然酸化膜を充分に除去しておくことが望ましい。
【0045】また、本発明では、前記表面抵抗値の測定時にアナログ式のテスター11を使用する場合、このテスター11の内部抵抗の影響を排除すべく、この表面抵抗値の測定を行う前に、金属製の測定棒12の先端部に備わる球状端子で構成される測定部と、反対電極とを接触させた状態でゼロ点補正を行うことが望ましい。そして、本発明では、このような表面抵抗値の測定で、アナログ式のテスター11で最も敏感なレンジを使用し、このテスター11の表示針が止まったときに、この表示針が指した値を測定値とする。なお、本発明でディジタル式のテスターを使用する場合には、前記表面抵抗値の測定を行う前に前記アナログ式のテスター11と同様にしてゼロ点補正し、このテスターで最も敏感なレンジを使用して測定を行う。そして、このディジタル式テスターのディジタル表示が安定したときの値を測定値とする。
【0046】なお、本発明では、前記表面抵抗の測定値の信頼性を充分に確保するために、この表面抵抗値の測定を、各電子機器用アルミニウム板10につき、ランダムな位置で少なくとも10ヶ所行い、その平均値を本発明で規制する前記表面抵抗値として採用することが望ましい。
【0047】本発明で規制する範囲の表面粗さを有するアルミニウム素板に、本発明で規制する範囲の付着量を有する耐食性皮膜及び本発明で規制する範囲の膜厚を有する樹脂皮膜を形成した際に、導体である前記アルミニウム素板の素地または前記耐食性皮膜が、前記樹脂皮膜の表面に適度に露出するように構成することによって前記表面抵抗値を低下させることができる。このとき、前記表面抵抗値が1Ω以下であれば、前記アルミニウム素板に耐食性皮膜及び樹脂皮膜が順次形成されたアルミニウム板にアース線を設ける際に、このアース線とアルミニウム板との接点で適切に導電性が確保される電子機器用アルミニウム板が得られる。
【0048】しかし、前記アルミニウム素板の表面粗さ、すなわちその中心線平均粗さRaが本発明で規制する範囲よりも小さく、前記樹脂皮膜の平均膜厚が本発明で規制する範囲よりも厚い場合、つまり、前記樹脂皮膜がアルミニウム素板を略完全に被覆するように構成された条件の下では、前記表面抵抗値は非常に高くなり、本発明を電子機器に適用したときに、外部で発生した電磁波ノイズを充分に除去することが困難となるため、例えばドライブ装置においては、書き込みや再生エラーが誘発され、あるいは、液晶ディスプレーにおいては、画像ノイズ等が発生するようになる。
【0049】更に、前記微細な凹凸を有するアルミニウム素板の素地または前記耐食性皮膜の凸部が前記樹脂皮膜の表面に適切に露出するように構成された本発明に係る電子機器用アルミニウム板を電子機器に適用すると、この電子機器から発生した熱は前記露出部を介して大気中へ効率的に放出されるようになるので、この電子機器の放熱特性を向上させることができることは、特筆すべきことである。
【0050】(樹脂皮膜のコロイダルシリカ含有量:全樹脂皮膜量に対して1〜30質量%)本発明では、本発明に含まれる樹脂皮膜をより硬質化することによって、耐傷付き性を向上させることができる。このため、比較的高い硬度を有するコロイダルシリカを前記樹脂皮膜中に添加することは、前記耐傷付き性の向上に有利に作用する。この樹脂皮膜中に、前記コロイダルシリカを全樹脂皮膜量に対して1質量%未満の量を添加した場合には、このような耐傷付き性の向上の効果が充分に得られず、また、前記コロイダルシリカの量が全樹脂皮膜量に対して30質量%を越えるように添加した場合には、前記樹脂皮膜の硬度が高くなり過ぎるため、プレス成形の際に前記樹脂皮膜が割れ(剥離)を生じ易くなる。このため、本発明にあっては、前記コロイダルシリカを、全樹脂皮膜量に対して、1〜30質量%添加させることが望ましい。
【0051】
【実施例】以下では、本発明に係る実施例を、本発明の必要条件を満足しない比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。まず、前記の実施例及び比較例に含まれるアルミニウム素板を次のようにして作製した。すなわち、まず所定のアルミニウム合金を溶解した後、鋳造並びに均質化処理の工程を経てアルミニウム合金の鋳塊を作製した。続いて、熱間圧延、冷間圧延及び熱処理の各工程を経て、アルミニウム素板(板厚:0.5mm、合金種:AA5052−H34)を作製した。なお、前記冷間圧延の最終(仕上げ)工程では、圧延ロールの表面粗さを適宜に変更することにより、各種の表面粗さ(中心線平均粗さ)を有するアルミニウム素板を得た。
【0052】その後、前記アルミニウム素板にアルカリ脱脂を施し、引き続いて、このアルミニウム素板の表面に耐食性皮膜を形成し、更にこの上に、樹脂皮膜を形成して前記実施例及び比較例のアルミニウム板とした。これらの実施例及び比較例のアルミニウム板の主な構成を表1に示す。なお、この実施例では潤滑剤としてポリエチレンワックスを用いた。
【0053】また、前記の実施例及び比較例のアルミニウム素板の表面粗さ(中心線平均粗さRa)は、これらの各アルミニウム素板に対して、表面粗さ測定機(小坂研究所社製、サーフコーダSE−30D)を用いて、圧延方向に直角な方向に走査し、中心線平均粗さRa(JIS B0601)を求めることにより測定した。
【0054】
【表1】


【0055】また、このようにして作製された前記の実施例及び比較例の各アルミニウム板に対して、次に示す方法にて評価を行った。これらの評価結果を表2に示す。
【0056】(評価方法)
<導電性>導電性は、前記した測定方法で、アナログテスター(SANWA ELECTRON INSTRUMENT社製MODEL CP−70)を用いて、各アルミニウム板の表面抵抗値を測定した。
【0057】<放熱性>前記の実施例及び比較例の放熱性は次のようにして測定した。まず、各アルミニウム板を、HDDの蓋(カバー)として用いるため、3.5インチタイプのHDD用のカバー形状に切断した。その後これらで、前記樹脂皮膜が形成された面を外側として、前記HDDに蓋をし、前記HDDを動作状態とすることで熱を発生させ、前記アルミニウム板の表面の温度変化を電子温度計にて測定した。そして、各々の放熱性を、アルミニウム素板の裸材を用いた場合の温度変化を基準として判定し、最高到達温度が前記アルミニウム素板の裸材とほぼ同じであったものを「○(良好)」とし、前記アルミニウム素板の裸材よりも高くなったものを「×(不良)」として評価した。
【0058】<成形性>前記の実施例及び比較例の成形加工性は、まず、曲げ加工後の樹脂皮膜の割れ(剥離)性の評価として、これらの各アルミニウム板に曲げ加工を施した場合の各加工部における樹脂皮膜の割れ(剥離)状態を目視で観察することにより評価した。更に、曲げ加工の試験として、JIS H4001の第6.4項に規定されている屈曲試験に準ずる180°曲げ試験により評価した。ただし、内側半径は板厚と同じ(1T曲げ)とした。
【0059】そして、前記樹脂皮膜の割れ(剥離)状態の判定基準は、樹脂皮膜に割れ(剥離)が見られないものを「○(良好)」とし、樹脂皮膜の一部に極軽微な割れが発生しているものの品質管理上特に問題がないものを「△(概ね良好)」とし、樹脂皮膜に明確な割れ(剥離)があるものを「×(不良)」として、各実施例及び比較例の成形性を評価した。
【0060】また、成形性に影響を及ぼすアルミニウム板表面の潤滑性を評価するために、前記実施例及び比較例の各アルミニウム板で摩擦係数を測定した。ここで、前記アルミニウム板の摩擦係数が0.2以下であれば、各種の電子機器で通常行われる成形加工では特に問題がないと評価することができる。この摩擦係数の測定は、バウデン法により、各アルミニウム板の表面でランダムに選んだ3箇所を測定し、その平均値を採用した。
【0061】<耐指紋性>前記実施例及び比較例の各アルミニウム板の表面を素手で触ることにより指紋が付着する前後の色差(ΔE)を測定することで、各々の耐指紋性について評価した。前記色差(ΔE)は、ミノルタ社製色彩色差計(CR−300)を使用して測定した。なお、色差△E値が0.5以下であれば、前記アルミニウム板の表面に付着した指紋は、肉眼ではほとんど確認することができなかった。
【0062】<耐傷付き性>前記の実施例及び比較例における樹脂皮膜の耐傷付き性の指標として、鉛筆硬度を用いた。すなわち、この鉛筆硬度は、JIS K5400 8.4項に規定されている鉛筆引っかき試験にて測定した。この鉛筆引っかき試験は、JISK5400 8.4.1項に規定されている試験法にて行い、荷重を9.8N(1kgf)として実施した。表2に示す前記の各評価結果より、以下のことが明らかである。
【0063】
【表2】


【0064】(アルミニウム素板の表面粗さ(中心線平均粗さRa)の影響)中心線平均粗さRaが、本発明で規制する範囲の下限値未満である比較例1は、耐指紋性、耐傷付き性、導電性及び放熱性が悪化していた。また、この中心線平均粗さRaが本発明で規制する上限値を越えている比較例2は、摩擦係数が0.26と高くなっており、成形加工の際に樹脂皮膜が明確な割れ(剥離)が見られた。
【0065】(耐食性皮膜の付着量の影響)耐食性皮膜におけるCrの付着量が、本発明で規制する範囲の下限値未満である比較例3は、耐食性皮膜がアルミニウム素板の全体に被覆されておらず、耐食性に劣るものであった。また、樹脂皮膜の密着性に劣り、曲げ試験後の樹脂皮膜で極軽微な割れが見られた。更に、耐食性皮膜におけるCrの付着量が上限値を越えている比較例4は、曲げ試験後に樹脂皮膜で極軽微な割れが見られた。
【0066】(樹脂皮膜の平均膜厚の影響)樹脂皮膜の平均膜厚が、本発明で規制する範囲の下限値未満である比較例5及び比較例6は、樹脂皮膜がアルミニウム素板全体を完全には被覆していないため摩擦係数が大きくなって(それぞれ0.92、0.48)曲げ試験後に樹脂皮膜で割れが見られ、耐傷付き性も悪化していた。そして、比較例5では、耐指紋性も悪化していた。また、樹脂皮膜の膜厚が上限値を越えている比較例7は、微細な凹凸を有するアルミニウム素板の素地または耐食性皮膜の凸部が樹脂皮膜の表面上に露出していないため、表面抵抗値が高くなり、放熱性にも劣るものであった。
【0067】(潤滑剤量の影響)潤滑剤の量が、本発明で規制する下限値未満である比較例8は、摩擦係数が高く(0.77)、曲げ試験後、樹脂皮膜に明確な割れ(剥離)が見られ、成形性が悪化していた。また、潤滑剤の量が上限値を越えている比較例9は、耐傷付き性が悪化していた。
【0068】(コロイダルシリカ添加量の影響)コロイダルシリカの添加量が、本発明で規制する範囲の上限値を越えている比較例10は、曲げ加工性が悪く、樹脂皮膜で極軽微な割れが見られた。
【0069】一方、アルミニウム素板の表面粗さ(中心線平均粗さRa)、耐食性皮膜の付着量、樹脂皮膜の種類、膜厚、樹脂皮膜に含まれる潤滑剤の量がいずれも本発明で規制する範囲を満たしている実施例1〜10では、導電性、放熱性、成形性、耐指紋性、及び耐傷付き性の全てにおいて全く問題がないことが確認された。なお、本発明はこの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて適宜変更することが可能である。例えば、この実施例では樹脂皮膜としてポリエチレンワックスから構成される潤滑剤が含有されたものを用いたが、本発明はこれ以外の潤滑剤、すなわち、ポリアルキレン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、フッ素系ワックス、ラノリンワックス、カルナウバワックス、パラフィンワックス及びグラファイトの中から選択された少なくとも1種で構成される潤滑剤が前記樹脂皮膜に含有されたものを用いても、この実施例と同様の効果が得られる。
【0070】更に、本発明者らは、このような本発明に係る実施例1〜10を電子機器に適用することにより、前記の特性、すなわち導電性、放熱性、成形性、耐指紋性、並びに耐傷付き性に優れた電子機器用成形品を具現できることを明らかとした。
【0071】
【発明の効果】以上説明した通りに構成される本発明によれば、以下の効果を奏する。すなわち、本発明に係る請求項1によれば、前記アルミニウム素板の中心線平均粗さRa、耐食性皮膜及び樹脂皮膜の平均膜厚を所定の膜厚に規制したので、前記微細な凹凸を有するアルミニウム素板の素地または耐食性皮膜の凸部が、前記樹脂皮膜の表面に所望の度合い(分散度)で露出するようになって、所望とする導電性及び放熱性が確保されると同時に、成形性、耐指紋性及び耐傷付き性が高められた電子機器用アルミニウム板を提供することができる。
【0072】また、請求項2の発明によれば、前記樹脂皮膜を、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂及びビニル系樹脂の中から選択された少なくとも1種で構成したので、成形加工の際に、前記樹脂皮膜がアルミニウム素板の変形により追従し易くなり、一段と成形性に優れた電子機器用アルミニウム板を提供することができる。
【0073】更に、請求項3の発明によれば、前記潤滑剤を、ポリエチレンワックス、ポリアルキレン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、フッ素系ワックス、ラノリンワックス、カルナウバワックス、パラフィンワックス、グラファイトの中から選択された少なくとも1種で構成したので、アルミニウム板の表面に適度な潤滑性が付与され、成形性が一段と向上された電子機器用アルミニウム板を提供することができる。
【0074】そして、請求項4の発明によれば、前記樹脂皮膜中に比較的高い硬度を有するコロイダルシリカを添加したので、前記樹脂皮膜がより硬質化されて耐傷付き性を向上させることができ、その結果、前記耐傷付き性が向上された電子機器用アルミニウム板を提供することができる。
【0075】また、請求項5の発明によれば、前記電子機器用アルミニウム板を電子機器用成形品に適用したので、導電性、放熱性、成形性、耐指紋性、並びに耐傷付き性に優れた電子機器用成形品を提供することができる。
【0076】このように、本発明によれば、従来公知のドライブ装置のケース及びシャーシ、液晶パネルの固定用フレーム及び背面カバーといった各種の電子機器の筐体や構造部材で要求されている導電性並びに放熱性を適切にしたまま、表面に付着した指紋や表面に生じた微細な傷による外観の不具合を大幅に低減化し、更に、表面潤滑性が優れて、プレス成形を施しても表面に形成された樹脂皮膜の割れ(剥離)が生じない電子機器用アルミニウム板、及びこれを用いた電子機器用成形品を提供することができる。
【0077】更に、本発明は、電子機器用成形品を製造する工程で、このように成形性に優れた電子機器用アルミニウム板を用いるので、プレス成形における品質不良の発生率を低減化し、製品の歩留まりを向上させることができる。これにより、本発明は、前記電子機器用成形品の全体的なコストを低減することができ、その結果、電子機器製品のコストダウンに大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る1例の実施例の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る電子機器用アルミニウム板の表面抵抗値を測定する1例の方法を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1 電子機器用アルミニウム板
2 アルミニウム素板
3 耐食性皮膜
4 樹脂皮膜
10 電子器機器用アルミニウム板
11 テスター
12 先端部に球状端子を備える金属製の測定棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】 中心線平均粗さRaが0.2〜0.6μmであるアルミニウム素板の少なくとも片面に、この素板側から耐食性皮膜及び樹脂皮膜が順次形成されたアルミニウム板であって、前記耐食性皮膜は、CrまたはZrを含有し、かつ付着量がCrまたはZr換算値で10〜50mg/m2であり、前記樹脂皮膜は、平均膜厚が0.05〜0.3μmであって、全樹脂皮膜量に対して1〜25質量%の潤滑剤を含有し、前記アルミニウム素板、またはこの上に前記耐食性皮膜が形成された表面は、その微細な凸部が前記樹脂皮膜の表面に露出し、前記樹脂皮膜が形成された側の面に、先端部が半径10mmの球状端子を、0.4Nの荷重で押し付けたときの前記球状端子と前記アルミニウム素板との間の表面抵抗値が1Ω以下であることを特徴とする電子機器用アルミニウム板。
【請求項2】 前記樹脂皮膜は、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂及びビニル系樹脂の中から選択された少なくとも1種で構成されることを特徴とする請求項1に記載の電子機器用アルミニウム板。
【請求項3】 前記潤滑剤は、ポリエチレンワックス、ポリアルキレン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、フッ素系ワックス、ラノリンワックス、カルナウバワックス、パラフィンワックス及びグラファイトの中から選択された少なくとも1種で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子機器用アルミニウム板。
【請求項4】 前記樹脂皮膜は、全樹脂皮膜量に対して1〜30質量%のコロイダルシリカを含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電子機器用アルミニウム板。
【請求項5】 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電子機器用アルミニウム板を用いて成形されたことを特徴とする電子機器用成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−313684(P2003−313684A)
【公開日】平成15年11月6日(2003.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−122495(P2002−122495)
【出願日】平成14年4月24日(2002.4.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】