説明

電子機器筐体

【課題】金属複合体と熱可塑性樹脂からなる部材とが一体化した電子機器筐体であって、薄肉性および軽量性に優れた高剛性を有する設計自由度の高い電子機器筐体を提供すること。
【解決手段】金属複合体1と、熱可塑性樹脂からなる部材2とが一体化した電子機器筐体3であって、金属複合体が、熱硬化性樹脂を含有するシート状基材と、該シート状基材に接するように配置または積層された金属材とを、対向する一対の成形金型間に配置し、前記金属材の表面温度が180℃を超える温度において3MPa以上の圧力で加圧することによって賦形するとともに、前記熱硬化性樹脂を硬化させて該シート状基材と前記金属材を一体化させてなる面状部材であり、かつ前記部材2がボス、リブ、ヒンジ、フレーム、キーボードベース、立ち壁、台座から選択される少なくとも一種の複雑形状部材である、電子機器筐体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材と繊維強化樹脂材からなる金属複合体を用いた電子機器筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器、とりわけ、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるような携帯電子機器の普及が促進されるにつれて、薄型で軽量の製品が、市場で強く要望されている。これに伴い、製品を構成する電子機器筐体においても、薄肉性、軽量性を有するとともに、内部の電子部品を保護する観点から高剛性を満足することが、強く要求されている。
【0003】
また多種多様な電子機器が身の回りに溢れ、電磁波ノイズにより引き起こされる電子機器類の誤作動が問題としてクローズアップされる一方、無線通信機能を搭載した製品が、市場で強く要望されているため、アンテナ特性の高い電子機器が要求されている。
【0004】
金属材と繊維強化樹脂材とを積層・接着した金属複合体は、金属が有する均質的な強度や弾性率、優れた耐衝撃性、電磁波シールド性と、繊維強化樹脂が有する優れた軽量性、比強度、比弾性率および繊維方向による補強の異方性等の特性とを両立することができ、航空機部材、自動車部材、船舶部材、機械機構部材、ゴルフクラブ、ノートパソコンやビデオカメラなどの電子機器の部材などの多様な用途に用いられている(特許文献1〜3を参照)。
【0005】
従来、このような電子機器筐体の金属複合体においては、金属材と繊維強化樹脂の間に接着層となる樹脂を配し、一体化させることが一般的であった。例えば、特許文献1では、金属材と繊維強化樹脂の接着強度を向上させるために、熱可塑性樹脂からなる粒子を含有した中間樹脂層を有した構成となっている。また金属複合体の形状に関しても、複雑な形状を必要とする場合は、あらかじめ金属材をプレス成形や打ち抜き成形などで目的の形状に加工したものに繊維強化樹脂を一体化させることが一般的であった(特許文献2および特許文献3)。
【0006】
しかしながら、このような電子機器筐体では、接着を目的とした樹脂層を必要とするため薄肉性や設計自由度に乏しく、電子機器の軽量化に欠けるという問題がある。また、金属材の加工工程と繊維強化樹脂の加工工程とが必須となり、必要設備の増加などコストアップにつながるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−297929号公報
【特許文献2】特開2001−298277号公報
【特許文献3】特開2001−315162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属複合体と熱可塑性樹脂からなる部材とが一体化した電子機器筐体であって、市場で要望されている薄肉性および軽量性に優れた高剛性を有する設計自由度の高い電子機器筐体を提供することにある。また無線通信機能を搭載した電子機器に要求される、電磁波シールド性およびアンテナ特性を付与した電子機器筐体についても提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属複合体(A)と、熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)とが一体化した電子機器筐体であって、該金属複合体(A)が熱硬化性樹脂を含有するシート状基材(a1)と、該シート状基材に接するように配置または積層された金属材(a2)とを、対向する一対の成形金型間に配置し、該金属材(a2)の表面温度が180℃を超える温度において3MPa以上の圧力で加圧することによって賦形するとともに、該熱硬化性樹脂を硬化させて該シート状基材と該金属材を一体化させてなる面状部材であり、該熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であり、かつ該部材(B)がボス、リブ、ヒンジ、フレーム、キーボードベース、立ち壁、台座から選択される少なくとも一種の複雑形状部材である電子機器筐体を提供する。
【0010】
従来、上記のような熱硬化性樹脂を用いる場合、その硬化反応が暴走することを避けるため、高くても180℃以下の温度で硬化させることが一般的である。これは、金属複合体の製造においても同様で、通常、上記のような熱硬化性樹脂を、180℃を超える温度で硬化させると、硬化反応が暴走して金属複合体の成形を阻害することが考えられる。
【0011】
また、金属材の熱間加工には高い圧力が必要であり、金属材と熱硬化性樹脂を含有するシート状基材を別々に成形した後に一体化させる必要があり、作業工程および設備の増加によるコスト増加が考えられる。
【0012】
しかしながら、本発明においては、配置または積層された金属材とシート状基材を、対向する一対の成形金型間に配置した後、加熱および加圧によって一体化させるため、少ない工程で容易に金属複合体を得ることができる。
【0013】
ここで、金属の熱間加工を行う場合、180℃以下の温度では金属材の成形性に劣り、複雑形状への成形が困難であったところ、本発明では金属材を、180℃を超える温度に加熱しているため、金属材を十分に軟化させることができ、複雑形状を容易に成形することができる。さらに、本発明においては、上記のような熱硬化性樹脂を常に180℃を超える温度に曝す必要がないため、従来のような硬化反応の暴走を抑制することができる。
【0014】
本発明によれば、金属材と樹脂硬化層との間には強固な接着構造が形成されるが、この理由としては、金属材の表面の粗大または微細な凹凸形状に沿って熱硬化性樹脂が充填して硬化することで、金属材との化学的・物理的結合力が高められたためと考えられる。
【0015】
本発明の電子機器筐体の金属複合体(A)において、前記シート状基材(a1)の熱硬化性樹脂が、半硬化の状態において加圧されてなることが好ましい。このような金属複合体では、加圧によるシート状基材の過剰な流出がなく、金属材と樹脂硬化層との強固な接着構造を形成したものとなる。
【0016】
本発明の電子機器筐体のシート状基材(a1)において、130℃×10分の条件において前記熱硬化性樹脂が硬化状態になるものであることが好ましい。このような熱硬化性樹脂を用いることで、電子機器筐体を得るための成形サイクルを短縮することができる。
【0017】
本発明の金属複合体において、前記金属材(a2)がアルミニウム合金、マグネシウム合金およびチタン合金であることが好ましい。このような金属材は、複雑な形状を容易に行うことが可能であり、また比強度が高い点から、高剛性と軽量化および薄肉性の両立を可能とする。
【0018】
本発明の前記シート状基材(a1)において、繊維基材に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグであってもよい。このようなシート状基材は、成形後に繊維強化複合材料として機能する。そのため、このような製造方法により得られる金属複合体は、金属材と繊維強化複合材料との積層体となり、優れた軽量性と高い力学特性とを満足することができる。
【0019】
本発明の電子機器筐体の金属複合体(A)において、前記金属材(a2)を両表面に配置したサンドイッチ構造体であることが好ましい。このような金属複合体によると、二つの金属材をそれぞれ個別に成形して熱硬化性樹脂で接着するような方法と比較して、金属複合体としての寸法精度に優れ、かつ高い生産性と経済性で金属複合体を製造することができる。
【0020】
本発明の電子機器筐体の前記金属複合体(A)の表面において、熱可塑性樹脂(c)からなる樹脂層(C)が形成されていることが好ましい。このような金属複合体によると、前記熱可塑性樹脂からなる部材(B)と前記熱可塑性樹脂からなる樹脂層(C)とが化学的に接合され、高い接着力を得ることが可能となる。
【0021】
さらに前記樹脂層(C)が、熱可塑性樹脂(c)を含有するシート状基材をさらに対向する一対の成形金型間に配置して、熱硬化性樹脂の硬化と合わせて形成されることが好ましい。このような金属複合体によると、樹脂層(C)を形成させる工程を成形が同時に行われ、樹脂層(C)を表面に有した金属複合体(A)を容易に得ることが可能となる。
【0022】
また前記樹脂層(C)の熱可塑性樹脂(c)において、前記熱可塑性樹脂(c)の融点またはガラス転移温度が、前記熱可塑性樹脂(b)よりも低いことが好ましい。このような関係の熱可塑性樹脂を選択することで、前記熱可塑性樹脂(b)の溶融熱により前記熱可塑性樹脂(c)が溶融または軟化し、熱溶着により強固な接着強度を有した電子機器筐体を得ることが可能となる。
【0023】
本発明の金属材(a2)において、前記金属材(a2)の表面に0.01〜100μmの孔が複数形成されていても良い。このような金属材によれば、金属材と樹脂硬化層との接着性に一層優れる金属複合体を得ることが可能となる。
【0024】
さらに前記金属材(a2)の表面に形成されている孔に、前記熱硬化性樹脂、前記熱可塑性樹脂(b)、前記熱可塑性樹脂(c)から選択される少なくとも一種が充填されることが好ましく、上記と同様に金属材と各樹脂との接着性に一層優れる金属複合体および/または電子機器筐体を得ることが可能となる。
【0025】
本発明の電子機器筐体の部材(B)において、前記部材(B)の体積固有抵抗値が10Ω・cm以上であることが好ましい。このような導電性が低く電波透過性の高い材料を用いることで、アンテナ特性に優れた電子機器筐体を得ることが可能となる。
【0026】
本発明の電子機器筐体の金属複合体(A)において、テーパー加工、溝加工、穴加工、継ぎ手加工から選択される少なくとも一種の形状が施され、該形状に前記部材(B)が嵌合することで接合されてなることが好ましい。このような形状を有することにより、加工によって形成される凹凸部に熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)が流入し、機械的な接合によって強固な接着強度を有した電子機器筐体を得ることが可能となる。
【0027】
本発明の電子機器筐体において、前記金属複合体(A)を成形金型にインサートし、前記部材(B)を射出成形することで接合されてなることが好ましい。このような方法によれば、金属材の表面や金属複合体に形成された凹凸部に容易に部材(B)を流入させることが可能となり、さらに電子機器筐体の形状に関しても、設計自由度を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、金属複合体と熱可塑性樹脂からなる部材とが一体化した電子機器筐体であって、市場で要望されている薄肉性および軽量性に優れた高剛性を有する設計自由度の高く、また無線通信機能を搭載した電子機器に要求される、電磁波シールド性およびアンテナ特性を付与した電子機器筐体についても提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る電子機器筐体の一例の模式斜視図である。
【図2】本発明における金属複合体の作製方法の一実施形態を説明する模式断面図である。
【図3】本発明における金属複合体の作製方法の他の実施形態を説明する模式断面図である。
【図4】本発明に係る電子機器筐体の作製方法の一実施形態を説明する模式断面図である。
【図5】本発明に係る、熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)を2種類併用した電子機器筐体の一例の模式斜視図である。
【図6】本発明における電子機器筐体の剛性評価の一例の模式斜視図である。
【図7】本発明における金属複合体の接着強度測定のためのサンプルを示す模式斜視図である。
【図8】本発明における金属複合体を作製する際の温度、時間および圧力の関係の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施例5で継ぎ手加工を施した金属複合体の一例の模式斜視図(金属複合体の一部を省略)、である。
【図10】本発明の実施例8で用いる射出成形金型の一例の模式図である。
【図11】本発明の実施例13でヘミング加工した金属複合体の製造方法を説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明にかかる電子機器筐体の好適な実施形態について以下に説明する。
本発明の電子機器筐体の外観を表す図の一例を図1に示す。本実施形態においては、後述する金属複合材および熱可塑性樹脂からなる部材が一体化された電子機器筐体である。
【0031】
(シート状基材)
本発明におけるシート状基材は、熱硬化性樹脂を含有し、後述する加熱により前記熱硬化性樹脂は硬化反応が開始される。また金属材とともに成形され、金属複合体における樹脂硬化層を形成する。
【0032】
本発明におけるシート状基材は、熱硬化性樹脂または前記熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を、シート状で取り扱うために加工した材料であれば特に制限はなく、例えば離型紙等の上にコーティングした樹脂フィルムであってもよい。さらに、繊維基材に熱硬化性樹脂または前記熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を含浸させたプリプレグであってもよい。
【0033】
このとき、含浸の度合いについては特に制限はなく、ボイドがない完全含浸状態や、繊維基材の内部に全体的にボイドを有する半含浸状態、繊維基材に不均一に含浸部と未含浸部を有する部分含浸状態、さらには基材の表層部に樹脂組成物が付着し固定されている状態であってもよい。
【0034】
シート状基材に用いる熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を用いることで、生産性と経済性に優れた金属複合体を得ることができる。なかでも、接着強度の高さと、最終製品が使用される環境に応じて設計の自由度の高さからエポキシ樹脂が好ましく用いることができる。エポキシ樹脂としては、分子内にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が挙げられる。また、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂、ジグリシジルレゾルシノール、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂およびこれらの混合物を用いることができる。エポキシ樹脂は、これらの樹脂単独でも混合でもよい。特に、耐熱性、機械特性のバランスがとれた複合材料を要する場合には、多官能エポキシ樹脂に、2官能エポキシ樹脂を組み合わせたもの、例えば、多官能エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、2官能エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂を組み合わせることが好ましい。また生産性を高める観点から、シート状基材は、130℃×10分の条件で熱硬化性樹脂が硬化状態になるものであることが好ましい。このようなシート状基材を得るため、上記の熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物に、さらに硬化剤を含有させてもよい。硬化剤の種類は、熱硬化性樹脂に応じて適宜変更することができる。例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤としては、アミン化合物、酸無水物、フェノール類、メルカプタン、イソシアネートなどの重付加型の重合をする硬化剤、3級アミン、イミダゾール、ルイス酸などのアニオン重合またはカチオン重合の開始剤として機能する硬化剤が例示できる。とりわけアミン化合物は、用途に応じて設計の自由度が高く好ましい。
【0035】
アミン系硬化剤とは、硬化剤分子中に窒素原子を有する硬化剤をいう。かかる硬化剤としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、ジエチルトルエンジアミンのような活性水素を有する芳香族ポリアミン化合物、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステルのような活性水素を有する脂肪族アミン、これらの活性水素を有するアミンにエポキシ化合物、アクリロニトリル、フェノールとホルムアルデヒド、チオ尿素などの化合物を反応させて得られる変性アミン、ジメチルアニリン、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールや1置換イミダゾールのような活性水素を持たない第三アミン、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、アジピン酸ヒドラジドやナフタレンジカルボン酸ヒドラジドのようなポリカルボン酸ヒドラジド、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などを用いることができる。
【0036】
アミン系硬化剤としては、上記のうち、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミン化合物が好ましく用いられる。ジシアンジアミドまたは芳香族ポリアミン化合物を用いると、熱硬化性樹脂から弾性率、耐熱性の高い硬化物が得られるようになる。中でも、ジシアンジアミド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンは、耐熱性、特に耐湿耐熱性に優れる樹脂組成物が得られること、エポキシ樹脂中に混合し一液化した場合に優れた貯蔵安定性を有すること、等の理由から特に好ましい。
【0037】
上記樹脂組成物においては、上記硬化剤に、硬化活性を高めるために適当な硬化促進剤を組み合わせることができる。例えば、ジシアンジアミドに、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体やイミダゾール誘導体を硬化促進剤として組み合わせて好適に用いることができる。特に、ジシアンジアミドと1分子中にウレア結合を2個以上有する化合物との組み合わせが好ましい。1分子中にウレア結合を2個以上有する化合物としては、1,1’−4(メチル−m−フェニレン)ビス(3,3−ジメチルウレア)あるいは4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)が好ましく、これらの化合物を用いた場合、厚みの薄い板での難燃性が大幅に向上し、電気・電子材料用途等に応用した場合、特に好ましい。
【0038】
このほかには、芳香族アミンに三フッ化ホウ素エチルアミン錯体を硬化促進剤として組合せる例などがあげられる。
【0039】
また、硬化剤として、70〜125℃で活性化する潜在性硬化剤を用いることもできる。ここで、70〜125℃で活性化するとは、反応開始温度が70〜125℃の範囲にあることをいう。かかる反応開始温度(以下、活性化温度という)は示差走査熱量分析(以下、DSCという)により求めることができる。具体的には、エポキシ当量184〜194程度のビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に評価対象の硬化剤10重量部を加えたエポキシ樹脂組成物について、DSCにより得られる発熱曲線の変曲点の接線とベースラインの接線の交点から求められる。かかる活性化温度が70℃未満であると保存安定性が十分でない場合があり、125℃を超えると期待されるような硬化性が得られない場合がある。
【0040】
70〜125℃で活性化する潜在性硬化剤としては、かかる活性化温度を有するものであれば特に限定されないが、例えば、アミンアダクト型潜在性硬化剤、マイクロカプセル型潜在性硬化剤、アミンイミド、ブロックイソシアネート、エポキシ基にカルバミン酸エステルを反応させオキサゾリジノン環とした化合物、ビニルエーテルブロックカルボン酸、イミダゾールとカルボン酸との塩、アミンのカルバミン塩、オニウム塩などが挙げられる。
【0041】
ここで、アミンアダクト型潜在性硬化剤とは、一級、二級もしくは三級アミノ基をもつ化合物や、種々のイミダゾール化合物などの活性成分を、それらの化合物と反応しうる何らかの化合物と反応させることによって高分子量化し、保存温度にて不溶化したもののことをいう。アミンアダクト型潜在性硬化剤としては、“アミキュア”(登録商標)PN−23、MY−24(以上、味の素ファインテクノ(株)製)、“アデカハードナー”(登録商標)EH−3293S,EH−3615S、EH−4070S(以上、旭電化工業(株)製)、“フジキュアー”(登録商標)FXE1000,FXR−1020(以上、富士化成工業(株)製)などを用いることができ、マイクロカプセル型潜在性硬化剤としては、“ノバキュア”(登録商標)HX−3721、HX−3722(旭化成工業(株)製)などを用いることができる。これらの中でも、特に“アミキュア”PN−23のようなアミンアダクト型潜在性硬化剤は、室温での優れた保存安定性を有しかつ速硬化性が顕著なため好ましく用いることができる。
【0042】
マイクロカプセル型潜在性硬化剤とは、硬化剤を核とし、これをエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン系、ポリイミドなどの高分子物質や、サイクロデキストリン等をシェルとして被膜したりすることにより、エポキシ樹脂と硬化剤との接触を減少させたものである。
【0043】
また、硬化剤が70〜125℃で活性化する潜在性硬化剤に特定の硬化剤を組み合わせると、低温で速硬化が可能となる。例えば、“アミキュア”PN−23などの潜在性硬化剤にバジンジヒドラジドなどの有機酸ジヒドラジドを組み合わせた硬化剤系や、潜在性硬化剤にDCMUなどの硬化促進剤を組み合わせた硬化剤系は、110℃に10分程度で硬化が可能となり好ましく用いられる。
【0044】
また、アミン化合物とエポキシ樹脂と尿素を加熱反応させてなる硬化剤化合物、N、N−ジアルキルアミノアルキルアミンと活性水素を持つ窒素原子を有する環状アミンとイソシアネート、或いはさらにエポキシドとを加熱反応させて得られた硬化性化合物、特定のアミン化合物をコアとし、それとエポキシ樹脂の反応生成物をシェルとしてなるマスターバッチ型硬化剤等も用いることができる。これらを単独または複数組み合わせてもよい。
【0045】
上記樹脂組成物には、上記以外の化合物を配合してもよく、例えば、粘弾性制御や靭性付与のために熱可塑性樹脂を配合することができる。また、難燃性を向上させるためにハロゲン化合物、リン系化合物、窒素系化合物、金属酸化物、金属水酸化物等を配合することもできる。
【0046】
シート状基材がプリプレグである場合、繊維基材としては、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、単一のトウ、織物、ニット、不織布、マット、組み紐などの繊維構造物を用いることができる。このなかでも一方向プリプレグは、繊維の方向が揃っており、繊維の曲がりが少ないため繊維方向の強度利用率が高いため好ましい。また、複数の一方向プリプレグを、適切な層構成で積層したものを繊維基材として用いると、各方向の弾性率、強度を自由に制御できるため好ましい。織物プリプレグも、強度、弾性率の異方性が少ない材料が得られることから好ましい。複数種のプリプレグ、例えば一方向プリプレグと織物プリプレグの両方を用いて、繊維基材を形成することも可能である。
【0047】
繊維基材に用いられる繊維としては特に制限はないが、いわゆる強化繊維が好ましく、材料の軽量化や高強度化の要求が高い用途において、比弾性率、比強度に優れた炭素繊維が特に好ましい。繊維強化として、炭素繊維以外にも、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、および炭化ケイ素繊維などの繊維を用いることができ、これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。
【0048】
熱硬化性樹脂または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、繊維基材の内部まで含浸されていても良いし、シート状プリプレグの場合などはその表面付近に局在化されていても良い。
【0049】
プリプレグは、熱硬化性樹脂または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を、メチルエチルケトン、メタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し含浸させるウェット法や、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法等によって製造できる。
【0050】
ウェット法は、繊維基材を熱硬化性樹脂(または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物)の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発せしめ、プリプレグを得る方法である。
【0051】
ホットメルト法は、加熱により低粘度化した熱硬化性樹脂(または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物)を直接繊維基材に含浸させる方法、または熱硬化性樹脂(または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物)を離型紙等の上にコーティングした樹脂フィルムを作製しておき、次に繊維基材の両側若しくは片側からその樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することにより樹脂を含浸せしめ、プリプレグを得る方法である。このホットメルト法では、プリプレグ中に溶媒が実質的に残存しないため好ましい。
【0052】
ホットメルト法にてプリプレグを得る場合には、樹脂フィルムをコーティングする工程における熱硬化性樹脂の温度は30〜80℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましい。30℃未満であると粘度が高くなって樹脂フィルムの目付が安定しない場合があり、また80℃を超えるとコーティング中に樹脂の硬化が進行して大きく粘度上昇してしまう場合がある。
【0053】
(金属材)
金属材は、表面温度が180℃を超える温度において3MPa以上の圧力で加圧することによって賦形され、金属複合体における金属材を形成する。
【0054】
金属材としては、好ましくはアルミニウム合金、マグネシウム合金およびチタン合金からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。例えば、アルミニウム合金としては、Al−Cu系のA2017、A2024、Al−Mn系のA3003、A3004、Al−Si系のA4032、Al−Mg系のA5005、A5052、A5083、Al−Mg−Si系のA6061、A6063、Al−Zn系のA7075等が挙げられる。また、アルミニウム合金の元となる工業用純アルミニウムを用いても良く、A1050やA1100、A1200等が挙げられる。
【0055】
マグネシウム合金としては、例えば、Mg−Al−Zn系のAZ31やAZ61、AZ91等が挙げられる。純マグネシウムについては、板状のものは流通が乏しいが、本出願の金属材として用いても良い。
【0056】
チタン合金としては、11〜23種のパラジウムを添加した合金やコバルトとパラジウムを添加した合金、50種(α合金)、60種(α−β合金)、80種(β合金)に該当するTi−6Al−4Vなどが挙げられる。また、チタン合金の元となる工業用純チタンを用いても良く、1〜4種のTP270H等が挙げられる。
【0057】
例えば、銅やステンレスなどの金属も好適に選択可能だが、本実施形態において、複雑形状への成形を特に容易に行うことが可能であり、比剛性の高い材料であることから、薄肉性および軽量性、高剛性を達成するために好ましい。
【0058】
金属材の形状は特に制限されず、成形材料として未成形のままでもよく、目的の形状に成形されていてもよく、また目的の形状により近く予備賦形されていてもよい。
【0059】
経済性の観点からは、成形材料として未成形の状態が好ましく、例えば、厚みが0.1〜1mmの板状体を使用することがより好ましく、さらに好ましくは0.3〜0.8mmである。このような金属材を用いることで、複雑形状への成形を特に容易に行うことができる。
【0060】
金属材は、物理的、化学的または電気的に表面粗化されていていてもよく、前記シート状基材と接する面において表面粗化されていると、金属材と樹脂硬化層との接着性に優れる金属複合体が製造される観点から好ましい。
【0061】
これらの表面粗化の方法は、特に限定されるものではないが、物理的な表面粗化としては、例えば、サンドブラスト、サンドペーパーによる研磨処理等が挙げられ、また、化学的な表面粗化の方法としては、例えば、金属材を侵食しえる研磨液に、金属材の上記の面を浸漬する方法が挙げられ、また、電気的な表面粗化の方法としては、例えば、電解液に金属材の上記の面を浸漬し、電気化学的に表面を粗化する方法が挙げられる。これらの表面粗化方法は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0062】
また金属材は、前記シート状基材と接する面に、0.01〜100μmの孔が複数形成されていることが好ましく、より好ましくは0.1〜10μmである。このような金属材によれば、金属材と樹脂硬化層との接着性に一層優れる金属複合体が得られる。
【0063】
(プリフォーム)
プリフォームは、前記シート状基材と前記シート状基材に接するように配置または積層された金属材とを備える。プリフォームは、後述する成形工程において加熱されるとともに加圧成形され、金属複合体を形成する。
【0064】
プリフォームとしては、例えば、シート状基材に金属材を積層した二層構造を有するプリフォーム、シート状基材の両面にそれぞれ金属材を積層したサンドイッチ構造を有するプリフォーム、シート基材の側面に金属材を突き当てた構造を有するプリフォーム等、目的とする金属複合体に応じて様々な形態のものを使用することができる。さらに、それらを応用して、シート状基材と金属材の交互積層した構造を有するプリフォームや、シート状基材の積層体に金属材を積層した構造を有するプリフォームや、これらの構造にサンドイッチ構造体で使用される芯材をさらに積層したサンドイッチ構造を有するプリフォーム等が例示できる。なお、これらの積層した構造では、積層構成を対称に積層することが、得られる金属複合体の反りや捻れを抑制できる観点で好ましい。
【0065】
前記プリフォームの中でも、シート状基材の両面にそれぞれ金属材を積層したサンドイチ構造体を有するプリフォーム、シート状基材の積層体の両面にそれぞれ金属材を積層したサンドイッチ構造体を有するプリフォームが好ましい。このようなプリフォームによれば、樹脂硬化層の両面に金属材が積層されたサンドイッチ構造を有する金属複合体成形体が得られる。すなわち、このようなプリフォームを用いることで、二つの金属材をそれぞれ個別に成形して熱硬化性樹脂で接着するような方法と比べて、金属複合体としての寸法精度に優れ、かつ金属複合体を短工程で容易に得ることができる。
【0066】
また上記プリフォームは、必ずしも成形金型間に配置される前に配置または積層されている必要はなく、成形金型間に金属材およびシート状基材を順次、配置または積層してプリフォームとしてもよい。
【0067】
前記プリフォームの厚みについては、特に制限はないものの、金属複合体の複雑形状を成形する観点から、0.5〜5mmが好ましく、より好ましくは1〜3mmである。
【0068】
(金属複合体)
金属複合体は、上記プリフォームを対向する一対の成形金型間に配置し、プリフォームを構成する金属材の表面温度が180℃を超える温度において3MPa以上の圧力で加圧することによって形状を賦形し、加熱によりプリフォームを構成するシート状基材の熱硬化性樹脂が硬化することでシート状基材と金属材が一体化されてなる。
【0069】
金属材の表面温度について、金属材の賦形性の観点から180℃を超える温度とすることが必須であり、複雑形状への成形性を一層容易とする観点から、200〜250℃とすることがより好ましい。金属材への加熱には特に制限はなく、例えば、上記温度に加熱した成形金型を金属材と接触させることにより行うことができる。このとき、成形金型の表面温度を上げる方法に特に制限はなく、成形金型をホットプレス機に装着する方法、成形金型内にヒーターを埋設する方法、電磁誘導加熱やハロゲンヒーターなどで外部から直接加熱するなどの方法が例示できる。また、加熱時間を短縮するたに、ヒーター、オーブン、トーチなどで予め加熱してもよい。
【0070】
プリフォームを加圧する圧力について、金属材の賦形性の観点から3MPa以上の圧力で加圧する必要があり、圧力を高くすることで複雑形状であっても容易に成形することが可能となる。特に限定はないが、プリフォームを構成するシート状基材の過剰な流出を抑制する観点から30MPa以下であることが好ましい。また、前記圧力は、プリフォームが目的の形状に成形されるまで保持しておくことが好ましく、一方で目的の形状に成形された後では、圧力を減少させてもよい。
【0071】
また加圧工程について、プリフォームを構成するシート状基材の熱硬化性樹脂が半硬化の状態において加圧されてなることが好ましい。
【0072】
ここで、半硬化とは、未硬化状態と硬化状態との間にある状態を意味する。半硬化状態の熱硬化性樹脂は、ある程度の流動性を有する。具体的には、例えば、熱硬化性樹脂を加熱して、経時変化による粘度カーブを測定したとき、飽和した粘度から最低粘度の差分を百分率表示し、飽和した粘度に対して10〜90%の粘度である状態を、半硬化ということができる。なお、硬化状態は、熱硬化性樹脂が脱型により流動ないし変形しない状態であり、前記の測定により、飽和した粘度に対して90%を超える粘度である状態を、硬化状態ということができる。
【0073】
また、熱硬化性樹脂のガラス転移温度(以下、Tgと省略する)からも硬化状態を確認する方法も例示できる。例えば、飽和したTgから最低のTgを予め測定し、飽和したTgから最低のTgの差分を百分率表示し、飽和したTgに対して10〜90%のTgである状態を、半硬化ということができる。飽和したTgに対して90%を超えるTgである状態を、硬化状態ということができる。次に、熱硬化性樹脂を加熱して、加熱温度と加熱時間とTgの相関関係を得て、成形条件からおおよそのTgを内挿することができる。なお、TgはDSCで公知の方法で測定することができる。
【0074】
さらには、熱硬化性樹脂のDSCで測定される発熱量からも硬化状態を確認する方法も例示できる。例えば、熱硬化性樹脂の発熱量を予め測定しておき、加熱後の熱硬化性樹脂の発熱量の割合から残存反応率がおおよそ求めることができる。この残存反応率が10〜90%である状態を、半硬化ということができる。10%未満である状態を、硬化状態ということができる。
【0075】
前記いずれか一項の測定方法において半硬化状態といえれば、本発明においては、熱硬化性樹脂は半硬化状態とみなせる。
【0076】
加圧が開始される時点で熱硬化性樹脂は半硬化状態にあり、加圧下では金属材に追従して成形されるも、過剰に流動せず、金属材に応じた形状で硬化状態となる。
【0077】
熱硬化性樹脂を半硬化状態にする工程において、プリフォームに必要に応じて加圧を行うこともできる。例えば、プリフォームを上下から保持するための加圧や、プリフォームを目的の形状に成形するために予備的な加圧を行うことなどが例示できる。このとき、プリフォームの加圧としては、0〜3MPaが好ましく、0.2〜2MPaがより好ましい。
【0078】
ここで、シート状基材も同様に加熱されることになるが、金属材とは温度差が生じることや、シート状基材全体を前記温度まで昇温するにはさらに熱量が必要となるため、常に上記温度となることはなく、熱硬化性樹脂の硬化反応を調整することができる。すなわち、金属材よりも熱伝導率が低いことや、金属材を介して加熱されること、熱源から距離が遠いこと、比熱が大きいことなどが、本発明の効果が奏される一因と考えられる。
【0079】
上記工程は特に限定されないが、異なる成形金型内で行ってもよく、同一の成形金型内で行うことが生産性の観点より好ましい。
【0080】
金属複合体において、シート状基材の熱硬化性樹脂を硬化させて一体化させてなる面状部材を得るが、硬化の状態について特に限定はされないが、前記測定法においてTgが90%を超える硬化状態であることが好ましい。例えば、プリフォームが目的の形状に成形された後、成形金型内にプリフォームを保持することによって、熱硬化性樹脂を硬化することができる。このときの保持時間については特に制限はないが、生産性の観点からは短時間であればあるほど好ましく、例えば、10分以内であることが好ましく、3分以内であることがより好ましく、1分以内であることがとりわけ好ましい。また、このときの保持温度については、硬化反応の観点からシート状基材の温度が180℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましい。予熱工程において、十分に硬化反応を進行させた状態で、前記保持時間を短縮することで本効果を得ることができる。 また、本実施形態に係る製造方法は、加圧工程の後に、アフターキュアの工程を行ってもよい。アフターキュアを行う場合、例えば前記のように成形金型内への保持が短縮できる。アフターキュアの方法は、熱硬化性樹脂を硬化し得る方法であればよく、例えば、加圧工程を経たプリフォームを所定の温度に加熱した乾燥機やオーブンなどに保持するなどの方法により行うことができる。
【0081】
図2は、本発明における金属複合体の作製方法の一実施形態を説明する模式断面図である。図2(a)に示すように、成形金型は上型成形金型と下型成形金型とを備える。また、プリフォームは、シート状基材の両面に板状の金属材が積層された、サンドイッチ構造を有している。
【0082】
金属材の予熱工程において、プリフォームは、図2(b)に示すように、上型成形金型と下型成形金型との間に挟まれる。ここで上型成形金型および下型成形金型は、いずれも180℃を超える温度に加熱されており、金属材はそれぞれ接触する上型成形金型および下型成形金型を介して180℃を超える温度に加熱される。そして、加熱された金属材を介してシート状基材が加熱され、前記加熱によって、シート状基材の熱硬化性樹脂の硬化反応が開始され、半硬化状態にいたる。
【0083】
次いで、同一の上型成形金型および下型成形金型を用いて、加圧を行う。加圧工程では、図2(c)に示すように、上型成形金型および下型成形金型によりプリフォームが加圧され、プリフォームは成形金型に追従するように変形し、成形される。
【0084】
図3は、本発明における金属複合体の製造方法の他の実施形態を説明する模式断面図である。図3に示すように、加圧工程における「成形」とは、必ずしも金属材を変形する必要はなく、板状の金属材を、シート状基材を介して加圧して接着するものであってもよい。
【0085】
次いで、加圧工程において、所定の圧力によりプリフォームを加圧して成形する。このとき、金属材は、成形金型温度と同程度の温度に加熱されている。同時に、熱硬化性樹脂の硬化反応は進行し、好ましくは硬化状態まで硬化される。また、熱硬化性樹脂が半硬化状態であるため、加圧しても過剰に流動することなく、金属材に沿って樹脂硬化層が形成される。
【0086】
上記作製方法においては、予熱工程で熱硬化性樹脂を半硬化状態とすることで、加圧工程で金属を熱間加工してもその圧力で成形金型の外へ流出するなど過剰な流動を起こすことなく、かつ金属材と樹脂硬化層との強固な接着構造を形成した金属複合体をえることができる。
【0087】
本実施形態における金属複合体は、金属材と前記金属材に沿って設けられた樹脂硬化層とを備える。ここで、樹脂硬化層は、上記シート状基材を加熱して、シート状基材に含まれる熱硬化性樹脂を硬化してなる層である。金属材と樹脂硬化層との間には強固な接着構造が形成されるが、この理由としては、金属材の表面の粗大または微細な凹凸形状に沿って熱硬化性樹脂が充填して硬化したことや、比較的高温での硬化反応により金属材との化学的結合力が高められたことなどが一因として挙げられる。
【0088】
ここで、金属材と樹脂硬化層との接着強度としては、10MPa以上が好ましく、20MPa以上がより好ましい。これらの指標としては、金属材同士、または金属材と他の構造部材とを樹脂硬化層を介して複合化した金属複合体が、使用環境や用途に応じた十分な接着力を保持していることを意味する。接着強度が10MPa以上であれば一般的な接着剤が使用される用途において十分な接着力があり、接着剤を使用した金属複合体よりも優れた耐久性を有する。接着強度が20MPa以上であればより厳しい環境で使用される用途において十分な接着力があり、構造用接着剤を使用した金属複合体よりも優れた耐久性を有する。
【0089】
ここで、接着強度とは、例えばJIS K 6849の接着剤の引張り接着強さ試験方法などの公知な方法で測定ができる。ただし、金属複合体は一般的には複雑形状であるため、規格に従った接着強度試験を実施することが難しい。そこで、接着強度が予め判っている接着剤を用いて、金属複合体から一部を切り出し、その両端を治具に接着し、治具を介して接着強度試験を行うことで、前記接着強度が接着剤の接着強度よりも優位であるか劣位であるかの大凡の目安を得ることができる。すなわち、接着剤の層内で破壊されれば金属複合体の接着強度は、接着剤の接着強度よりもおおよそ高いと判断される。一方、金属複合体の剥離で破壊されれば金属複合体の接着強度は、接着剤の接着強度よりもおおよそ低いと判断される。
【0090】
また、金属複合体(A)には、テーパー加工、溝加工、穴加工、継ぎ手加工から選択される少なくとも一種の形状が施され、該形状に前記部材(B)が嵌合することで接合されてなることが好ましい。高い剛性を有する電子機器筐体を得るためには、金属複合体(A)と熱可塑性樹脂からなる部材(B)が強固に接合されてなることが非常に重要であり、かかる観点から、前記テーパー加工、溝加工、穴加工、継ぎ手加工が施された形状に部材(B)が流入することにより、前記金属複合体(A)と前記部材(B)とが一体化されることが好ましい。この金属複合体(A)に有するテーパー加工、溝加工、穴加工、継ぎ手加工で施された形状に関しては特に限定はされないが、金属複合体(A)の剛性を維持する観点から、全体の50%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。前記加工があまりに広い範囲で施されると、前記金属複合体(A)の剛性が極端に低下する可能性がある。
【0091】
(熱可塑性樹脂からなる部材)
本発明では、熱可塑性樹脂からなる部材(B)がボス、リブ、ヒンジ、フレーム、キーボードベース、立ち壁、台座から選択される少なくとも一種の複雑形状部材であることが必須である。上記部材は金属複合体で形成した複雑形状と比較して、微小でかつ複雑な形状を多く有しているため、複雑形状を賦形するに適した熱可塑性樹脂からなる部材(B)で構成される。
【0092】
本発明において、熱可塑性樹脂からなる部材(B)の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリルブタジエンポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂およびフェノキシ樹脂が挙げられる。また、熱可塑性樹脂は、上記の樹脂の共重合体や変性体および/または2種類以上ブレンドした樹脂などであっても良い。
【0093】
これらの中でも、特定の目的に対して、上記の熱可塑性樹脂の1種または2種以上が、熱可塑性樹脂中に60重量%以上含まれることが好ましい。成形品の強度および耐衝撃性の観点から、ポリアミド(PA)とポリエステルが好ましく用いられる。また、耐熱性および耐薬品性の観点から、ポリアリーレンンスルフィド、中でもポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましく用いられる。成形品外観および寸法安定性の観点から、ポリカーボネート(PC)やスチレン系樹脂が特に好ましく用いられる。成形性および軽量性の観点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、例えば、ポリプロピレン樹脂である。なかでも、成形品の強度の観点から、ポリアミド樹脂が特に好ましく用いられる。
【0094】
また、熱可塑性樹脂には、耐衝撃性向上のために、他のエラストマーあるいはゴム成分を添加してもよく、電子機器筐体の落下などによる衝撃から前記電子機器筐体の内部にある電子部品や液晶などを保護する効果を得ることが可能となる。また強度や剛性の向上のために、強化繊維を添加しても良く、例えば、短繊維強化ペレットや長繊維強化ペレットなどの繊維強化熱可塑性樹脂ペレットや、熱可塑性のシートモールディングコンパウンド(熱可塑SMC)、熱可塑性のガラスマット基材(GMT)や熱可塑性の炭素繊維マット基材などが挙げられる。強化繊維を添加することにより高い剛性を有する電気・電子機器筐体が得られるほか、低収縮で寸法精度の高い部材(B)を得ることが可能となり、より精密な設計に対応することが可能となり好ましい。上記強化繊維には、本発明における上記シート状基材に用いる繊維基材と同様の思想で選定することができる。上記強化繊維のみでなく、用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の充填材や添加剤を含有しても良い。充填材や添加剤として、例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤およびカップリング剤などが挙げられる。
【0095】
(熱可塑性樹脂(c)からなる樹脂層(C))
本発明において、金属複合体(A)と部材(B)をさらに強固に接合するために、前記金属複合体(A)の表面に熱可塑性樹脂(c)からなる樹脂層(C)が少なくとも一部に形成されていることが好ましい。これにより上記の機械的な接合のみでなく、化学的な接着力を得ることが可能となる。この金属複合体(A)の表面の少なくとも一部に含まれる熱可塑性樹脂(c)に関しては特に限定はされないが、上記熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)と相溶性を有する熱可塑性樹脂を選択することがより好ましい。
【0096】
また、本発明では、樹脂層(C)が熱可塑性樹脂(c)を含有するシート状基材をさらに対向する一対の成形金型間に配置して、前記熱硬化性樹脂の硬化と合わせて形成されてなることが生産性の観点から好ましい。前記樹脂層(C)の形成される手法について特に限定はされないが、例えば、金属材(a1)およびシート状基材(a2)と同様に配置または積層されてプリフォームとして構成されていてもよく、樹脂層が被覆された金属材を用いてもよい。
【0097】
本発明では、熱可塑性樹脂(c)の融点またはガラス転移温度が、熱可塑性樹脂(b)よりも低いことが好ましい。このような関係を持つ熱可塑性樹脂を選択することで、溶融した熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)の熱により、熱可塑性樹脂(c)の軟化および/または溶融状態となり、成形金型内で冷却する際に強固に接着されるため好ましい。
【0098】
(電子機器筐体)
本発明の電子機器筐体において、図4(a)に示すように金属複合体(A)を成形金型にインサートし、図4(d)に示すように部材(B)を射出成形することで接合されてなることが好ましい。前記金属複合体(A)と部材(B)の一体化の方法について特に限定はされないが、例えば、前記金属複合体(A)と前記部材(B)を成形金型内に配置し、プレス成形により加熱および加圧して一体化する方法や目的の形状を有した前記金属複合体(A)と前記部材(B)を接するように配置し、レーザーや超音波による熱溶着により一体化する方法などの手法が挙げられるが、その中でも射出成形による手法が、複雑形状を有するボス、リブ、ヒンジ、フレーム、キーボードベース、立ち壁、台座などの部材を容易に形成することが可能であり、また前記金属複合体にテーパー加工、溝加工、穴加工、継ぎ手加工で形成した凹凸部や前記金属材表面に形成されている孔に部材(B)を容易に流入させることが可能な点で好ましい。
【0099】
本発明の電子機器筐体において、金属材の表面に形成されている孔に、シート状基材(a1)を構成する熱硬化性樹脂、前記熱可塑性樹脂(b)、前記熱可塑性樹脂(c)から選択される少なくとも一種が充填されることが好ましい。例えば、金属複合体作製時における加圧や電子機器筐体作製時における樹脂充填により、金属材表面に形成されている孔に樹脂が流入して充填されることにより、金属材と各樹脂材料との接着強度が向上する点で好ましい。
【0100】
本発明の電子機器筐体を構成する熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)において、アンテナ特性を付与する観点から、体積固有抵抗値が10Ω・cm以上であることが好ましい。このような体積固有抵抗値を有する材料について特に限定はされないが、上記熱可塑性樹脂(B)と同様の思想で選択することができ、2種類以上の部材(B)を併用してもよい。例えば、図5に示すように電子機器筐体内に配置されたアンテナ部品の周辺に前記体積固有抵抗値が10Ω・cm以上の配置し、他の部分には別の熱可塑性樹脂からなる部材(B)を配置してもよい。このような配置方法については特に限定はされないが、ダミー材を挿入して複数回に分けて部材を配置する方法や多色成形などの方法で配置可能である。
【0101】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0102】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。また各項目の評価方法を記述する。
【0103】
[観察用サンプルの作成方法]
使用する材料や得られた成形体を、カッターやダイヤモンドカッターなどの切削具を用いて目的とする寸法に切り出し、観察用サンプルとした。必要に応じて断面を湿式研磨し、断面を観察しやすいように加工した。
【0104】
<評価方法1:金属材表面の平均孔径測定>
金属材として用いる金属の表面を超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9500(コントローラー部)/VK−9510(測定部)((株)キーエンス製)を使用して、拡大倍率100倍で撮影した。撮影した画像より解析アプリケーションVK−H1A9を使用して金属表面に形成される任意の孔径D(n)(n=1〜100)を測定し、平均孔径を求めた。
【0105】
<評価方法2:電気・電子機器筐体の重量m測定>
実施例および比較例で得られた電気・電子機器筐体の重量mを電子天秤で計量した。本実施例および比較例で使用した成形金型のキャビティ内全てに、連続した強化繊維と熱硬化性樹脂を含む成形体(II)が充填されたと仮定した場合に算出される値を基準重量Mとした。これらの値と式(1)より軽量化度を算出した。
【0106】
評価は、20%以上を◎、10%以上20%未満を○、5%以上10%未満を△、5%未満を×とした。
[(M−m)/M]×100[%] (1)
【0107】
<評価方法3:電気・電子機器筐体の剛性評価>
図6に示したように“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン株式会社製)の上部にR20の円筒で片側の先端がR100に加工された圧子を取り付け、前記圧子の中心が前記電気・電子機器筐体の天面の中心に接触するような位置に配置し、下降速度1.6mm/minで前記電気・電子機器筐体に荷重を負荷した。測定される荷重値が50[N]となるまで前記圧子を下降させ、無荷重の地点からの移動距離を測定した。荷重値が0[N]から20[N]となる時までに圧子が移動した距離を本剛性評価のたわみ量[mm]とした。
【0108】
評価は、0.3[mm]未満を◎、0.3以上0.5[mm]未満を○、0.5[mm] 以上0.7[mm]未満を△、0.7[mm]以上を×とした。
【0109】
<評価方法4:金属複合体の接着強度測定>
製造された金属複合体の平滑部より、40mm角の試験片を切り出し、サンドブラストを用いて両表面を粗化し、アセトンで油分を拭き取った後、構造用エポキシ樹脂(東レファインケミカル(株)製ケミットTE−2220)を用いて、直径10mmの貫通孔を備えた40mm立方のアルミニウム合金製ブロックを接着した。もう一方の面に対しても同様にアルミニウム合金製ブロックを接着し、図7に示す接着強度測定用サンプルを作製した。引張試験装置“インストロン”(登録商標)5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)の上下に取り付けた固定具とアルミニウム合金製ブロックの貫通孔にピンを通して接続し、引張速度1.6mm/分で評価サンプル数nを5として評価を行った。得られた値と次式(2)より金属複合体の接着強度Sを算出した。計算によって得られた接着強度が10MPa以上であれば、おおよそマニュアルでの剥離は困難である。
S=P/A (2)
S:接着強度[MPa]、P:最大荷重[N]、A:サンプルの断面積[mm
【0110】
(実施例1)
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
エポキシ樹脂として“エピコート”(登録商標)828、“エピコート”834、“エピコート”1001(以上、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピコート”154(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)、硬化剤としてDicy7(ジシアンアミド、ジャパンエポキシレジン(株)製)、硬化促進剤として“オミキュア”24(2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)、ピイ・ティ・アイジャパン(株)製)を用い、表1に示す質量比で混合して樹脂組成物を調製した。
【0111】
ここで調製した樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を測定する。測定方法は、JIS K 7121記載の方法に基づき、Pyris 1DSC(パーキンエルマー・インスツルメント社製示差走査熱量計)を用いて、昇温速度10分/分とし、DSC曲線が階段状変化を示す部分について中間点をガラス転移温度とした。この測定方法において、樹脂組成物のTgは6℃であり、飽和したTgは138℃であった。すなわち、Tgが19〜125℃の範囲内を半硬化状態といえる。
【0112】
次に、調製した樹脂組成物の加熱温度と加熱時間によるTgの関係を求める。加熱温度が130℃と、150℃の場合について、加熱時間によるTg変化を測定すると、130℃×10分においてTgが138℃となり、硬化状態となることがわかった。ここで、加熱温度とは、プレス装置で挟んで加熱する際の、加熱プレートの表面温度を意味する。
【0113】
(シート状基材の作製)
調製した樹脂組成物を、リバースロールコータを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルムの単位面積あたりの樹脂量は、25g/mとした。
【0114】
次に、単位面積あたりの繊維重量が125g/mとなるようにシート状に一方向に整列させた炭素繊維トレカ(登録商標)T700SC−12K−50C(東レ(株)製、引張強度4900MPa、引張弾性率230GPa)に樹脂フィルムを炭素繊維の両面から重ね、加熱加圧して樹脂組成物を含浸させ、一方向プリプレグ(連続繊維強化プリプレグ(CF−PPg))を作製した。作製したプリプレグから所定の大きさを有する長方形のプリプレグシートを4枚切り出した。長方形の切り出したプリプレグシート長辺の方向を基準の0°として、連続した強化繊維が[0°/90°/90°/0°]の対称積層となるように、4枚のプリプレグシートを積層し、厚み0.5mmのシート状基材を作製した。積層の際、プリプレグ基材の90°層間にK熱電対を内挿した。
【0115】
ここで、プレス成形装置を用い、表面温度が130℃のプレートにシート状基材を配置して、10分間加熱し1MPaで加圧した。得られた成形品のTgを前記同様の方法で測定したところ137℃であり、硬化状態であった。
【0116】
(金属材の作製)
金属材として、金属表面にアルマイト処理を施した厚み0.5mmのアルミニウム合金板(A5052)を準備した。前記アルミニウム合金板の表面を前記評価方法8で観察したところ、平均孔径が0.05μmであった。
【0117】
(プリフォームの作製)
作製したシート状基材および金属材を、金属材/シート状基材/金属材の順で積層し、プリフォームを作製した。積層の際、一方の金属材の表面にK熱電対を、耐熱テープを用いて貼り付けた。
【0118】
(金属複合体の製造)
図2(b)に示すように、上側成形金型と下側成形金型とでプリフォームを挟み、0.5MPaの圧力で保持した。上側成形金型と下側成形金型の表面温度はいずれも220℃である。
【0119】
プリフォームを配置して約1分後、上側成形金型と下側成形金型とによりプリフォームを10MPaで加圧した。このとき、金属材の温度は210℃であり、シート状基材の温度が150℃である。上記加熱温度と加熱時間、Tgの相関関係より、Tgは115℃であり、飽和したTgに対して82%のTgを示すことから、半硬化状態であることがわかる。なお、金属材の温度変化と、加圧の様子を図8に示す。
【0120】
約2分間加圧を行った後、成形金型を開放し、金属複合体を成形金型から取り出した。得られた金属複合体は、金属材同士が強固に接着されており、マニュアルでの剥離は困難であった。さらに、二つの金属材の間にズレはなく、厚み1.5mmのヒケや捻れのない金属複合体が得られる。金属複合体について、後述する接着強度測定を行った結果、20MPaであった。接着試験終了後に、金属板に形成される樹脂硬化層を削り出し、Tgの測定を行った結果137℃であり、硬化状態である。
【0121】
(電子機器用体の作製)
得られた金属複合体を、図4(a)に示すように射出成形金型内に配置した。部材(B)としてポリアミド樹脂ペレット(東レ(株)製CM1001を用意し、このペレットを用いて、図4(c)のような形状を有する電子機器筐体を作製した。射出成形は、日本製鋼所(株)製J350EIII射出成形機を用いて行い、シリンダー温度は260℃とした。
【0122】
実施例および比較例で作製したシート状基材(a1)および金属材(a2)、金属複合体(A)を評価方法1〜4で評価した。評価結果を表1に示す。
【0123】
(実施例2)
(金属材の作製)
金属材として、表面にサンドブラスト処理が施された厚み0.5mmのマグネシウム合金板(AZ31)を準備した。なおマグネシウム合金板の表面には平均孔径50μmの多数の孔が観察された。
【0124】
(プリフォームの作製)
金属材として、上記マグネシウム合金板(AZ31)を用いたことと成形圧力を15MPaとしたことを除いて、実施例1と同じ要領でプリフォームを作製した。
【0125】
(金属複合体の製造)
上側成形金型と下側成形金型の表面温度が210℃であることを除いて、実施例1と同じ要領でプリフォームを成形金型内に配置して加熱および加圧を行い、金属複合体を作製した。
【0126】
(電子機器用体の作製)
実施例1と同じ要領でインサート射出成形を行い、電子機器筐体を作製した。
【0127】
(実施例3)
(樹脂シートの作製)
2種のナイロン樹脂ペレット(東レ(株)製CM4000およびCM831)を溶融混練したものを用いて樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルムの厚みは、50μmとした。溶融混練は、日本製鋼所(株)製TEX−30αを用いて行い、シリンダー温度は260℃とした。
【0128】
(プリフォームの作製)
実施例1と同じシート状基材および金属材、上記樹脂フィルムを用い、金属材/シート状基材/樹脂フィルムの積層構成とし、プリフォームを作製した。
【0129】
(金属複合体の作製)
下側成形金型の表面温度が150℃であることを除いて、実施例1と同じ要領でプリフォームを成形金型内に配置して加熱および加圧を行い、金属複合体を作製した。
【0130】
(電子機器筐体の作製)
部材(B)として、炭素繊維強化樹脂ペレット(東レ(株)製TLP1040)を用いたことを除いて、実施例1と同じ要領でインサート射出成形を行い、電子機器筐体を作製した。
【0131】
(実施例4)
(プリフォームの作製)
実施例1と同じシート状基材および金属材用い、2種のナイロン樹脂ペレット(東レ(株)製CM4000およびCM1001)を用いて実施例3と同様の方法で作製したフィルムを用い、実施例1と同じ要領で、金属材/シート状基材/金属材/樹脂フィルムの積層構成となるように積層し、プリフォームを作製した。
【0132】
(金属複合体の作製)
上記プリフォームを用いることを除いて、実施例1と同じ要領でプリフォームを成形金型間に配置して加熱および加圧を行い、金属複合体を作製した。
【0133】
(電子機器筐体の作製)
部材(B)として、ガラス繊維強化樹脂ペレット(東レ(株)製CM1001G−20)を用いたことを除いて、実施例1と同じ要領でインサート射出成形を行い、電子機器筐体を作製した。
【0134】
(実施例5)
(金属複合体の作製)
実施例1と同じ要領でプリフォームを成形金型に配置して加熱および加圧を行い、金属複合体を作製した。作製した金属複合体において、図9に示すような凹凸形状となるように継ぎ手加工を行った。
【0135】
(電子機器筐体の作製)
金属複合体として、端辺に継ぎ手加工を施した上記金属複合体を用いることを除いて、実施例1と同じ要領でインサート射出成形を行い、電子機器筐体を作製した。
【0136】
(実施例6)
(電子機器筐体の作製)
実施例1と同じ要領で作製した金属複合体とナイロン樹脂をプレス成形金型内に配置し、プレス成形を行い、電子機器筐体を作製した。成形金型の表面温度は、上下側ともに260℃とした。
【0137】
(実施例7)
(熱硬化性樹脂組成物の調整)
硬化促進剤であるオミキュア”24(2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)、ピイ・ティ・アイジャパン(株)製)を混合しないことを除いて、実施例1と同じ要領で樹脂組成物を調整した。
【0138】
(シート状基材の作製)
上記の硬化促進剤を含まない熱硬化性樹脂組成物を用いることを除いて、実施例1と同じ要領でシート状基材を作製した。
【0139】
ここで、プレス成形装置を用い、表面温度が130℃のプレートにシート状基材を配置して、10分間加熱し1MPaで加圧した。得られた成形品のTgを前記同様の方法で測定したところ75℃であり、飽和したTgに対して52%のTgを示すことから、半硬化状態であることがわかる。
【0140】
(プリフォームの作製)
上記シート状基材を用いることを除いて、実施例1と同じ要領で、積層を行い、プリフォームを作製した。
【0141】
(金属複合体の作製)
作製したプリフォームを150℃の熱風オーブンに入れ、10分間の予熱を行った後、実施例1と同じ条件の成形金型に予熱したプリフォームを配置した。プリフォームを配置して約1分後、上側成形金型と下側成形金型とによりプリフォームを10MPaで加圧した。
【0142】
約5分間加圧を行った後、成形金型を開放し、金属複合体を成形金型から取り出した。
【0143】
(電子機器用体の作製)
実施例1と同じ要領でインサート射出成形を行い、電子機器筐体を作製した。
【0144】
(実施例8)
実施例1と同じ要領で作製した金属複合体を準備した。図10(a)に示すように射出成形金型内の入れ子を交換し、溶融樹脂の流路を閉ざした射出成形金型内61に前記金属複合体を配置し、実施例3で用いた炭素繊維強化樹脂ペレットを流路62に充填し、略三辺を形成した。その後、図10(b)に示すような射出成形金型内にするとともに、厚さ1.5mmのステンレス板を直方体インサート成形金型内63に前記略三辺を射出成形材料でインサートした金属複合体を配置し、実施例4で用いたガラス繊維強化樹脂ペレットを流路64に充填し、残りの一辺を、インサート射出成形を行い、図5のような電子機器筐体を作製した。
【0145】
(実施例9)
ベンゾオキサジン樹脂として、F−a型ベンゾオキサジン樹脂(四国化成工業(株)製)、酸触媒として、DY9577(ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ(株)製、三塩化ホウ素オクチルアミン錯体)を用い、表2に示す質量比で混合した。この樹脂組成物を、シート状基材を形成する熱硬化性樹脂として用いた以外は、実施例1と同様の条件で金属複合体および電子機器筐体を製造した。粘度計を用いて樹脂の粘度を測定した結果から、樹脂の硬化度を算出したところ、第1の工程において、半硬化の状態であることがわかった。
【0146】
(実施例10)
フェノール樹脂として、フェノライト(登録商標)5010(DIC(株)製、レゾール型フェノール樹脂)を準備し、シート状基材を形成する熱硬化性樹脂として用いたこと以外は、実施例1と同様とした。
【0147】
(実施例11)
金属材として、金属表面にサンドブラスト処理が施された厚み0.2mmのチタン合金板(Ti−6AL−4V)を用いた。成形金型の表面温度を240℃とし、成形圧力を15MPaとすること以外は、実施例1と同様の方法で金属複合体および電子機器筐体を製造し、評価を行った。なお、金属板の表面には平均孔径15μmの多数の孔が観察された。製造条件および、評価結果を表2に記載する。
【0148】
(実施例12)
上下の成形金型温度を190℃とすること以外は、実施例1と同様の方法で金属複合体および電子機器筐体を製造し、評価を行った。なお、第1の工程時の金属材の表面温度は、185℃であった。製造条件および、評価結果を表2に記載する。
【0149】
(実施例13)
金属材の対向する2辺の端辺を図11(a)に示すように、約90°のL曲げ加工したアルミニウム合金を準備した。実施例3と同じシート状基材を図11(b)に示すように配置し、L曲げ部分を曲げ込んで、プリフォームとした。これら以外は、実施例3と同様にして成形を行った。成形金型の加圧によって、曲げ込んだL曲げ部が平潰しされ、端部がヘミング加工された金属複合体を得た。
【0150】
(実施例14)
金属材として、工業用純アルミニウム板(A1100)を用いたこと以外は、実施例1と同様とした。製造条件および、評価結果を表2に記載する。
【0151】
(実施例15)
金属材として、工業用純チタン(KS40)を用いたこと以外は、実施例11と同様とした。製造条件および、評価結果を表2に記載する。
【0152】
(比較例1)
(金属複合体の作製)
成形金型の表面温度が130℃であることを除いて、実施例1と同じ要領で作製したプリフォームを成形金型に配置し、成形を行った。
【0153】
得られた金属複合体は、二つの金属材にズレが生じ、金属材の間から熱硬化性樹脂が少し漏れている。また、凹凸の絞り部には皺が見られ、深く絞られた箇所では表面割れが生じる。さらに、金属複合体は、マニュアルにて金属材が剥離可能である。
【0154】
(比較例2)
成形圧力が常時0.5MPaであることを除いて、実施例1と同じ要領で作製したプリフォームを成形金型に配置し、成形を行った。このとき、成形金型が完全に閉じた状態にならなかった。
【0155】
プリフォームを配置してから約3分間後、成形金型を開放したところ、目的の金属複合体が得られないため、目的の金属複合体が得られないため、電子機器筐体を作製することが不可能である。
【0156】
(比較例3)
(プリフォームの作製)
金属表面にアルマイト処理を施した厚み1.5mmのアルミニウム合金板(A5052)を準備し、この金属材をプリフォームとした。前記アルミニウム合金板の表面を前記評価方法1で観察したところ、平均孔径が0.05μmであった。
【0157】
(金属複合体の製造)
プリフォームとして上記金属材を用いることと成形圧力を0.5MPaとすることを除いて、実施例1と同じ要領で加熱および加圧を行った。
【0158】
プリフォームを配置してから約3分間後、成形金型を開放したところ、プリフォームが目的の形状に賦形されていないことを確認した。得られた金属複合体では、射出成形金型内に配置しても成形金型を締めることができず、電子機器筐体を作製することが不可能であった。
【0159】
【表1】

【0160】
【表2】

【符号の説明】
【0161】
1 金属複合体(A)
2 熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)
3 電子機器筐体
4 金属材(a2)
5 シート状基材(a1)
6 金属材(a2)
7 熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)(体積固有抵抗値10Ω・cm以上)
8 熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)(体積固有抵抗値10Ω・cm以下)
9 アンテナ部品
10 金属複合体(A)から切り出した試験片
11 上側成形金型
12 下側成形金型
21 上側成形金型
22 下側成形金型
31 可動側成形金型
32 固定側成形金型
41 圧子
42 固定治具
51 アルミニウム合金製ブロック
52 接着剤
61 射出成形金型(片側)
62 流路
63 射出成形金型(片側)
64 流路
70 L字曲げされた金属材
71 プリフォーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属複合体(A)と、熱可塑性樹脂(b)からなる部材(B)とが一体化した電子機器筐体であって、金属複合体(A)が熱硬化性樹脂を含有するシート状基材(a1)と、該シート状基材に接するように配置または積層された金属材(a2)とを、対向する一対の成形金型間に配置し、前記金属材(a2)の表面温度が180℃を超える温度において3MPa以上の圧力で加圧することによって賦形するとともに、前記熱硬化性樹脂を硬化させて前記シート状基材と前記金属材を一体化させてなる面状部材であり、前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であり、かつ前記部材(B)がボス、リブ、ヒンジ、フレーム、キーボードベース、立ち壁、台座から選択される少なくとも一種の複雑形状部材である、電子機器筐体。
【請求項2】
前記シート状基材(a1)の熱硬化性樹脂が、半硬化の状態において加圧されてなる、請求項1に記載の電子機器筐体。
【請求項3】
前記シート状基材(a1)が、130℃×10分の条件において前記熱硬化性樹脂が硬化状態になるものである、請求項1または2に記載の電子機器筐体。
【請求項4】
前記金属材(a2)がアルミニウム合金、マグネシウム合金およびチタン合金からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれかに記載の電子機器筐体。
【請求項5】
前記シート状基材(a1)が、繊維基材に熱硬化性樹脂が含浸したプリプレグである、請求項1〜4のいずれかに記載の電子機器筐体。
【請求項6】
前記金属複合体(A)が、前記金属材(a2)を両表面に配置したサンドイッチ構造体である、請求項1〜5のいずれかに記載の電子機器筐体。
【請求項7】
前記金属複合体(A)の表面に、さらに熱可塑性樹脂(c)からなる樹脂層(C)が形成されている、請求項1〜6のいずれかに記載の電子機器筐体。
【請求項8】
前記樹脂層(C)が、熱可塑性樹脂(c)を含有するシート状基材をさらに対向する一対の成形金型間に配置して、前記熱硬化性樹脂の硬化と合わせて形成されてなる、請求項7に記載の電子機器筐体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂(c)の融点またはガラス転移温度が、前記熱可塑性樹脂(b)よりも低い、請求項7または8に記載の電子機器筐体。
【請求項10】
前記金属材(a2)の表面に0.01〜100μmの孔が複数形成されている、請求項1〜9のいずれかに記載の電子機器筐体。
【請求項11】
前記金属材(a2)の表面に形成されている孔に、前記熱硬化性樹脂、前記熱可塑性樹脂(b)、前記熱可塑性樹脂(c)から選択される少なくとも一種が充填される、請求項10に記載の電子機器筐体。
【請求項12】
前記部材(B)の体積固有抵抗値が10Ω・cm以上である、請求項1〜11に記載の電子機器筐体。
【請求項13】
前記金属複合体(A)に、テーパー加工、溝加工、穴加工、継ぎ手加工から選択される少なくとも一種の形状が施され、該形状に前記部材(B)が嵌合することで接合されてなる、請求項1〜12のいずれかに記載の電子機器筐体。
【請求項14】
前記金属複合体(A)を成形金型にインサートし、前記部材(B)を射出成形することで接合されてなる、請求項1〜13のいずれかに記載の電子機器筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−183820(P2012−183820A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−6905(P2012−6905)
【出願日】平成24年1月17日(2012.1.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】