説明

電子機器

【課題】大型化を抑制でき、芳香成分の利用効率が高く、且つ、芳香機能以外の機能を発揮させる為に必要な行為とも連動させて芳香機能を発揮させることが可能な電子機器を提供する。
【解決手段】芳香シート10と、電子機器本体および芳香シートの少なくとも一方を制御する1つ以上の制御手段と、を備え、芳香シートが、透気性を有するシート状基材20Aと、シート状基材の平面の一部領域を選択的に加熱する1つ以上の加熱素子30A〜30D,32と、少なくとも加熱素子の近傍に配置され、芳香成分を含有する芯材および芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有し、少なくとも芳香シートを制御する機能を有する制御手段により芳香成分を外部に揮散させる制御信号が入力された際に、全ての加熱素子から選択される少なくとも1つの加熱素子にて加熱を行い、芳香成分を外部に揮散させる電子機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鎮静効果、入眠効果、覚醒効果、鎮痛効果、抗菌効果、消臭効果などを目的として、様々な芳香製品が提供されている。これらの芳香製品の中でも、いわゆる精油を用いたものとしては、精油(あるいはこれを含む溶液や当該溶液をしみ込ませたシートなど)を加熱して芳香を揮散させる加熱方式と、精油を加熱せずに自然に揮散させる非加熱方式がある。
【0003】
非加熱方式の芳香製品としては、芳香剤を溶解させた溶液を満たしたボトルと、ボトル中の溶液を吸い上げて外部に揮散する揮散部とを有するものが知られている。また、芳香剤を含有させたシート状の芳香製品(以下、「芳香シート」と称す場合がある)も知られている。芳香シートとしては、例えば、基板に、芳香成分を入れたマイクロカプセルを付着させたものが知られている(特許文献1参照)。特許文献1に開示される芳香シートでは、圧力を加えることでマイクロカプセルが破壊され、これにより芳香成分が芳香シートの外部へと揮散する。また、芳香シートに類似した機能や構成を有する製品としては、電気式の加温機による加熱によってシートにしみ込ませた揮発性の殺虫成分を揮散させるいわゆる蚊取りマットが知られている。
【0004】
一方、従来より、利用者が快適に携帯電話を使用できるように、芳香機能付きの携帯電話が提案されている。例えば、携帯電話本体に対して、塗付層からなる芳香部材が脱着可能に取り付けられた携帯電話が提案されている(特許文献2参照)。また、着信を報知する振動発生装置を備え、この振動発生装置に芳香部材を取り付けた携帯電話が提案されている(特許文献3参照)。さらに、折り畳み式の携帯電話では、ヒンジ機構を構成する駒部の内部に、一端が開口して芳香部材を挿脱することが可能な挿入室が形成され、駒部には携帯電話を開くことにより露出する位置に装入室に通じる複数の小孔が設けられた携帯電話が提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−265353号公報
【特許文献2】特開2002−57775号公報
【特許文献3】特開2002−290526号公報
【特許文献4】特開2002−290525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2〜4に示す携帯電話では、芳香機能を有するために、ユーザーが快適な香りを楽しむことができる。しかし、特許文献2に示す携帯電話では、塗付層からなる芳香部材から、常に芳香成分が揮散する。このため、ユーザーが、携帯電話を使用しない場合においても、芳香成分が浪費され、芳香成分の利用効率が非常に低い。また特許文献3に示す携帯電話では、着信時の振動により芳香成分を強制的に揮散させるものである。しかし、この場合も、芳香部材に振動を加えなくても常に芳香成分が揮散するため、芳香成分の利用効率が非常に低い。
【0007】
なお、芳香成分の利用効率の改善という意味では、芳香部材として、特許文献1に例示した芳香シートの利用も考えられる。しかし、芳香成分を外部に揮散させるために、芳香シート表面を擦ったり押さえ付けたりすることが必要である。このような行為は、電子機器の主機能の発揮に必要な行為(例えば、携帯電話であれば通話押しボタンを押すなど)とは全く関連性が無い。そして、芳香機能は、主機能に対して付随的機能である上に、例えば携帯電話のTV機能やゲーム機能などの付随的機能のようにユーザーが目的を持って能動的に活用する機能でなく、基本的にはユーザーが受動的に楽しむための機能である。これらの点を考慮すれば、芳香機能を活用するために、主機能の発揮に必要な行為とは必ず別個の行為(擦ったり押さえたりする行為)を、ユーザーに能動的に強いることになり、実用性が低い。すなわち、特許文献1に開示された芳香シートを利用して、敢えて電子機器に芳香機能を設ける意義が乏しい。
【0008】
一方、特許文献4に示す折り畳み式の携帯電話は、開いた時のみ芳香成分を外部に揮散させることができる。しかし、ヒンジ機構に芳香部材が挿脱可能な装入室を設ける必要があるため、ヒンジ機構が大型化してしまう。このように、従来の芳香機能を有する電子機器では、芳香成分が常に揮散するために芳香成分の利用効率が低かったり、電子機器の大型化を招くという問題がった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものである。すなわち、第一の本発明は、芳香機能を有していても大型化を抑制できると共に、芳香成分の利用効率が高く、且つ、芳香機能以外の機能を発揮させる為に必要な行為とも連動させて芳香機能を発揮させることが可能な電子機器を提供することを課題とする。
【0010】
また、第二の本発明は、芳香機能を有していても大型化を抑制できると共に、芳香成分の利用効率が高く、且つ、通信情報を自動的に受信した際に、これと連動させて芳香機能を発揮させることが可能な電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
第一の本発明の電子機器は、芳香シートと、電子機器本体および上記芳香シートから選択される少なくとも一方を制御する1つ以上の制御手段と、を備え、上記芳香シートが、透気性を有するシート状基材と、該シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、少なくとも該加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、芳香成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有し、少なくとも上記芳香シートを制御する機能を有する制御手段により上記芳香成分を外部に揮散させる制御信号が入力された際に、少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行い、上記芳香成分を外部に揮散させることを特徴とする。
【0012】
第一の本発明の電子機器の一実施態様は、音声情報および画像情報から選択される少なくともいずれかを再生する機能を少なくとも有する携帯型情報再生機器であることが好ましい。
【0013】
第一の本発明の電子機器の一実施態様は、前記芳香シートが、2つ以上の加熱領域を有することが好ましい。
【0014】
第一の本発明の電子機器の一実施態様は、一の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに第一の芳香成分が内包され、他の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに上記第一の芳香成分とは異なる種類の第二の芳香成分が内包されることが好ましい。
【0015】
第一の本発明の電子機器の一実施態様は、少なくとも前記芳香シートを制御する制御手段が、押しボタン、つまみ、レバー、および、タッチパネルに表示された押しボタンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
第一の本発明の電子機器の一実施態様は、音声情報および画像情報から選択される少なくとも一方の情報の再生状態が一時的に停止している場合に、この状態を解除して再生を再開させる機能を有する押しボタンを備え、該押しボタンを押すことに連動させて前記芳香成分を外部に揮散させる芳香機能を発揮させる情報再生プレーヤであることが好ましい。
【0017】
第一の本発明の電子機器の一実施態様は、通話を開始する機能を有する押しボタンを備え、該押しボタンを押すことに連動させて前記芳香成分を外部に揮散させる芳香機能を発揮させる携帯電話であることが好ましい。
【0018】
第一の本発明の電子機器の一実施態様は、手動により少なくとも2種類以上の異なる形状に可逆的に変形可能であり、一の形状から他の形状への変形動作が、少なくとも前記芳香シートを制御する制御手段として機能し、上記変形動作に連動させて芳香成分を外部に揮散させる芳香機能を発揮することが好ましい。
【0019】
第一の本発明の電子機器の一実施態様は、閉じた形状と開いた形状とに可逆的に変形可能であり、上記閉じた形状から上記開いた形状への変形動作に連動させて前記芳香機能を発揮させる携帯電話であることが好ましい。
【0020】
第二の本発明の電子機器は、芳香シートと、外部から送信される通信情報を自動的に受信すると共に上記通信情報を受信した際に受信信号を発信する機能を備えた受信手段と、を備え、上記芳香シートが、透気性を有するシート状基材と、該シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、少なくとも該加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、芳香成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有し、上記受信信号の発信と連動して、少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行い、上記芳香成分を外部に揮散させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
第一の本発明によれば、芳香機能を有していても大型化を抑制できると共に、芳香成分の利用効率が高く、且つ、芳香機能以外の機能を発揮させる為に必要な行為とも連動させて芳香機能を発揮させることが可能な電子機器を提供することができる。
【0022】
また、第二の本発明によれば、芳香機能を有していても大型化を抑制できると共に、芳香成分の利用効率が高く、且つ、通信情報を自動的に受信した際に、これと連動させて芳香機能を発揮させることが可能な電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
<第一の発明>
以下、第一の本発明について説明する。
第一の本実施形態の電子機器は、芳香シートと、電子機器本体および上記芳香シートから選択される少なくとも一方を制御する1つ以上の制御手段と、を備え、上記芳香シートが、透気性を有するシート状基材と、該シート状基材の平面方向の一部の領域を選択的に加熱する1つ以上の加熱素子と、少なくとも上記加熱素子の近傍に配置され、芳香成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有し、少なくとも上記芳香シートを制御する機能を有する制御手段により上記芳香成分を外部に揮散させる制御信号が入力された際に、少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行い、上記芳香成分を外部に揮散させることを特徴とする。
【0024】
第一の本実施形態の電子機器では、芳香成分を外部に揮散させる芳香シートを備えている。このため、電子機器が本来有する機能の他に、芳香成分を外部に揮散させる機能(以下、「芳香機能」と略す場合がある)も有する。そして、この芳香シートは、シート状であるために、電子機器の表面に取り付けることなどにより配置でき、省スペース性に優れる。このため、電子機器の大型化を抑制できる。これに加えて、芳香成分は、加熱素子により加熱されない限り、マイクロカプセルに内包されているので、芳香成分が常に揮散し続けることが無い。そして、電子機器のユーザーが、芳香成分を揮散させたい場合には、制御手段を介して、特定の加熱領域を加熱させる信号を、芳香シートに与えればよい。このため、ユーザーが電子機器を操作したり利用したりする場合にのみ、芳香成分が揮散することになるため、芳香成分の利用効率が高い。
【0025】
また、第一の本実施形態の電子機器では、1つ以上の制御手段を備えている。そして、この制御手段は、電子機器本体のみを制御するものであってもよく、芳香シートのみを制御するものであってもよく、双方を同時に制御するものであってもよい。それゆえ、電子機器本体を制御する制御手段が、芳香シートの加熱素子の加熱を制御する機能も兼ねることが可能である。例えば、電子機器が携帯電話であれば、通話押しボタン(制御手段)を押した場合に、芳香シートの加熱素子にて加熱を行うことを指令する信号も、芳香シートの加熱素子(あるいはこれを制御する制御回路)に対して発信されるようにすることができる。この場合は、通話押しボタンを押せば、ユーザーは、通話を行うと同時に香りを楽しむことができる。このように、第一の本実施形態の電子機器では、芳香機能以外の機能を発揮させる為に必要な行為とも連動させて芳香機能を発揮させることが可能である。
【0026】
なお、「芳香機能以外の機能を発揮させる為に必要な行為」とは、当該機能を直接発揮させる為に必要な行為のみならず、当該機能を発揮させる為に必要な準備行為も意味する。例えば、携帯電話を例に挙げて説明すると、通話機能を直接発揮させる為に必要な行為としては、通話押しボタンを押すという行為が該当することになる。また、通話機能を発揮させる為に必要な準備行為とは、電源押しボタンを押す行為が挙げられる。この場合、電源OFFの状態(完全停止状態)から電源ONの状態(通話押しボタンを押せば通話機能をいつでも発揮させられる待機状態)となる。また、折り畳み式の携帯電話であれば、携帯電話を開く行為も、通話機能を発揮させる為に必要な準備行為に該当する。
【0027】
また、CDを本体内にインサート/本体からイジェクトするトレイを備えたCDプレーヤを例に挙げて説明すると、通話機能を直接発揮させる為に必要な行為としては、電源がONの状態で且つCDが本体内にインサートされた状態で、再生押しボタンを押したり、再生の一時停止を解除する押しボタンを押したりする行為が街頭することになる。また、再生機能を発揮させる為に必要な準備行為とは、電源をON状態にするために、電源押しボタンを押す行為や、CDを本体内にインサートするために、トレイの出し入れを操作するキーを押す行為(具体的には、トレイをインサートする際にキーを押す行為)が該当する。
【0028】
−制御手段−
制御手段としては、公知の制御手段であれば特に限定されないが、代表的には、押しボタン、つまみ、レバー、タッチパネルに表示された押しボタンなど、人間が直接操作することができる実体的制御手段が挙げられる。また、その他にも、ディスプレイ上に表示された押しボタンなどの仮想的制御手段であって、実体的入力手段(例えば、マウスやタッチパッド、カーソルキーなど)により制御される仮想的入力手段(例えば、ディスプレイ上に表示され、マウスなどに連動して動くポインタ)によりON/OFF操作が可能な仮想的制御手段も挙げられる。
【0029】
なお、制御手段としては、上述した押ボタン等ように、電子機器が有する機能や電源のON/OFFを制御することを本来意図して設けられた制御手段のみに限定されない。例えば、電子機器が、手動により2種類以上の異なる形状に可逆的に変形可能である場合において、一の形状から他の形状への変形動作を、制御手段として機能させてもよい。例えば、閉じた形状と開いた形状とに可逆的に変形可能な折り畳み式の携帯電話では、閉じた形状から開いた形状への変形動作を、制御手段として機能させてもよい。
【0030】
また、1つの制御手段は、1つの機能のみを発揮するものであってもよいが、2つ以上の機能を同時又は異なるタイミングで発揮するものであってもよい。例えば、携帯電話であれば、いずれか一つの押しボタンが、電源をONにする機能と、電源をOFFにする機能と、通話を切断する機能とを兼ね備えており、他の押しボタンが、通話を開始する機能と、通話開始と同時に芳香成分を揮散させる芳香機能を兼ね備えている場合などが具体例として挙げられる。また、芳香シートを制御する機能を有する制御手段は、芳香機能を発揮していない状態から発揮させる状態へ制御する機能を有するもののみを意味するものではなく、芳香機能を発揮している状態から発揮させない状態へ制御する機能や、芳香機能を発揮させる予定の状態からこの状態をキャンセルさせる状態へ制御する機能を有するものも含まれる。なお、芳香シートを制御する機能を有する制御手段は、これら機能のうちの少なくとも1つを有しており、2つ以上の機能を有しているものでもよい。
【0031】
−電子機器の態様−
第一の本実施形態の電子機器は、公知の電子機器であれば、冷蔵庫や洗濯機など、如何様な電子機器でもよい。しかしながら、電子機器に設けられた芳香シートから揮散される芳香を楽しむという点からは、電子機器は、ユーザーが、電子機器の操作や使用に際して、ユーザーの身近に置いたりあるいは身に付けた状態で利用するものであることが好ましく、特に携帯型の電子機器であることが好ましい。このような携帯型の電子機器としては、例えば、携帯電話や、スピーカとマイクとを一体に備えた会話用機器(いわゆる固定電話の受話器や、PCなどに接続して使用するヘッドセットなど)、ヘッドホン、PDA(personal digital assistant)、ノートPC、また、音声情報および画像情報から選択される少なくともいずれかを再生する機能を少なくとも有する携帯型情報再生機器、髭剃り機などが挙げられる。なお、音声情報とは、音楽(映画などの画像情報に付随するものも含む)や、会話、演説、朗読などの聴覚により認識可能な情報を意味する。ここで、画像情報とは、映画などの動画や、写真、文書などの静止画像など、視覚により認識可能な情報を意味する。
【0032】
携帯電話は、通話機能の他に、電子メール機能や、撮像機能、地上デジタルテレビ放送表示機能(いわゆるワンセグ受信機能)、音声録音再生機能(いわゆる音楽プレーヤやICレコーダ機能など)など、種々の副次的機能を有するものでもよい。なお、携帯電話が地上デジタルテレビ放送表示機能、音声録音再生機能などの副次的機能を有する場合は、この携帯電話は、携帯型情報再生機器としても機能する。また、携帯型情報再生機器の具体例としては、例えば、CDやDVD、ブルーレイ、SDカードなどの携帯型半導体メモリといった外部記録媒体(記録メディア)に記録された音声情報や画像情報を再生する携帯型プレーヤ(携帯型メディアプレーヤ)、ハードディスクや半導体メモリなどの内蔵メモリに記録された音声情報や画像情報を再生する携帯型プレーヤ(携帯型メモリ内蔵プレーヤ)、画像情報(特に静止画像)を主に再生するいわゆる電子ペーパーや電子ブック、電子辞書などが挙げられる。本発明では、これらの電子機器の中でも、使用に際して身につけた状態や顔に近づけた状態で利用することの多い携帯型の電子機器;すなわち、携帯電話や、携帯型プレーヤが特に好ましい。
【0033】
−芳香シートの概要−
第一の本実施形態の電子機器に用いられる芳香シートは、透気性を有するシート状基材と、該シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、少なくとも該加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、芳香成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有するものである。そして、少なくとも上記芳香シートを制御する機能を有する制御手段により上記芳香成分を外部に揮散させる制御信号が入力された際に、全ての加熱領域から選択される少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行い、上記芳香成分を外部に揮散させるという機能を有する。
【0034】
芳香シートは、電子機器の任意の位置に配置することができるが、通常は、電子機器の筐体表面に配置することが好ましい。この場合、芳香シートは、筐体表面に交換可能に取り付けられていてもよい。例えば、外付けのパネルが交換可能な携帯電話(いわゆる着せ替え携帯)であれば、この外付けパネルに芳香シートを取り付けたり、外付けパネル全体を芳香シートから構成してもよい。また、筐体表面を構成する外壁材そのものが芳香シートから構成されていてもよい。さらに、電子機器に配置される芳香シートは、1つのみに限定されず、2つ以上であってもよい。芳香シートの平面形状としては特に限定されず、任意の形状とすることができる。例えば、携帯電話のディスプレイの周囲を囲む平坦面に芳香シートを設ける場合は、四角いリング状とすることができる。
【0035】
芳香シートが有する加熱領域の数(電子機器に2つ以上の芳香シートを用いる場合は、全ての芳香シートにおける加熱領域の総和)は、少なくとも1つ以上であればよいが、通常は2つ以上であることが好ましい。加熱領域の数を少なくとも2つ以上とした場合、個々の加熱領域の加熱/非加熱制御をそれぞれ独立して制御することにより、経時的に2回以上に分けて芳香成分を外部に揮散させることができる。また、同時に加熱を行う加熱領域の数を制御することにより、芳香強度を調整することができる。
【0036】
さらに、芳香シートが2つ以上の加熱領域を有する場合、一の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに第一の芳香成分が内包され、他の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに第一の芳香成分とは異なる種類の第二の芳香成分が内包されるようにしてもよい。この場合、一の加熱領域と、他の加熱領域とを加熱させるタイミングを制御することで、第一の芳香成分を揮散させた後に第二の芳香成分を揮散させたり、第二の芳香成分を揮散させた後に第一の芳香成分を揮散させたり、第一の芳香成分と第二の芳香成分とを同時に揮散させることができる。このため電子機器のユーザーは、複数の香りを多様なパターンで楽しむことができる。
【0037】
加熱領域の数は、電子機器の種類やその利用形態に応じて適宜選択できる。例えば、電子機器が携帯電話である場合において、その利用形態が1日に平均2回通話を行うものである場合について検討する。ここで、通話押しボタンが、芳香シートを制御する機能も有し、2つの加熱領域を同時に加熱することで、ユーザーが香りを感知するに十分な芳香強度が得られると仮定する。この場合、芳香シートに設けられる加熱領域の数を約4500個とすれば、約3年間という長期間に渡って、芳香シートの交換等のメンテナンス作業を行うことなく、ユーザーは通話の度に香りを楽しむことができる。すなわち、第一の本実施形態の電子機器に用いられる芳香シートは、電子機器の種類や利用態様に応じて加熱領域の数を適宜選択することにより、特許文献2、3に開示されるような副次的機能として芳香機能も有する従来の携帯電話に用いられるような芳香部材と比べて、芳香機能を長期にわたって維持することが容易である。このため、電子機器のユーザーに対して、芳香部材の交換作業を短期間のうちに強いられることが無い。
【0038】
加熱素子による加熱領域の加熱は、少なくとも芳香シートを制御する制御手段により芳香成分を外部に揮散させる制御信号が入力された際に、実施される。この場合の加熱領域の加熱/非加熱制御は、制御手段により直接制御することもできる。しかしながら、加熱領域の数が2つ以上である場合において、個々の加熱領域単位で加熱/非加熱制御を行う場合には場合は、通常、ICチップなどの制御回路を介して行うことが好ましい。この場合、例えば、以下のように加熱領域の加熱/非加熱制御を行うことができる。まず制御手段により芳香成分を外部に揮散させる制御信号が入力されると、この制御信号が制御回路へと伝達される。ここで、制御回路にて、既に加熱が一度行われた加熱領域と未だ加熱を一度も行っていない加熱領域とが判別される。この判別作業は、例えば、メモリに記録された個々の加熱領域の加熱履歴を参照して行うことができる。そして、未だ加熱を一度も行っていない加熱領域の中から1つ乃至複数の加熱領域を選択した上で、この加熱領域をマイクロカプセルを加熱破壊するために必要な時間だけON状態とする2次制御信号が制御回路から芳香シートへと伝達される。これにより1つ乃至複数の加熱領域にて加熱が行われることで、この加熱領域内に配置されたマイクロカプセルが加熱破壊され、芳香成分が外部に揮散させられる。ここで、上述した制御回路による加熱素子を介した加熱領域の加熱/非加熱の制御手順は、予めプログラム化しておくことができる。これにより、例えば、制御手段による制御信号の入力があった後に、一定時間を置いてから芳香機能を発揮させたり、複数の制御手段による制御信号の入力が特定の組み合わせとなった場合に芳香機能を発揮させたりするといったような複合的な制御が容易となる。以上に芳香シートの概要について説明したが、芳香シートを構成する各部の構成材料の詳細や、具体的構造については別途後述する。
【0039】
−第一の実施態様−
次に、少なくとも芳香シートを制御する制御手段として、つまみ、レバー、および、タッチパネルに表示された押しボタンから選択される少なくとも1種の実体的制御手段を利用する場合についてより詳細に説明する(以下、当該態様の電子機器を「第一の実施態様の電子機器」と称す場合がある)。また、第一の実施態様の説明においては、制御手段として、押しボタンを用いる場合を前提として説明するが、制御手段は押しボタンのみに限定されるものではない。この場合、芳香機能は、電子機器の他の機能や電源ON/OFFとは独立して制御してもよいが、通常は、電子機器の他の機能や電源ON/OFFと連動させて発揮させることが好ましい。後者の場合の具体例としては、(1)電子機器の電源がOFF状態(完全停止状態)から、電子機器の特定の機能がいつでも発揮可能な状態(待機状態)とする場合に連動させて芳香機能を発揮させる態様や、(2)待機状態から、電子機器の特定の機能を発揮させる状態とする場合に連動させて芳香機能を発揮させる態様、(3)完全停止状態から、電子機器の特定の機能を発揮させる状態とする場合に連動させて芳香機能を発揮させる態様、(4)待機状態から完全停止状態とする場合に連動させて芳香機能を発揮させる態様、(5)芳香機能以外の特定の機能を発揮している状態から、待機状態とする場合に連動させて芳香機能を発揮させる態様、又は(6)芳香機能以外の特定の機能を発揮している状態から、完全停止状態とする場合に連動させて芳香機能を発揮させる態様などが挙げられる。
【0040】
これら(1)〜(6)に示す態様の中でも、態様(1)〜態様(2)が好ましく、態様(2)が特に好ましい。態様(1)の具体例としては、電源をONにする機能を有する押しボタンを押すことにより電源OFF状態から電源ON状態となる場合に連動させて芳香機能を発揮させることが挙げられる。また、メディアをローディング/アンローディングする機構を備えたCDプレーヤやDVDプレーヤなどのメディアプレーヤでは、メディアをローディングする機能を有する押しボタンを押すことにより、メディアがローディングされてメディアプレーヤ本体に格納される場合に連動させて芳香機能を発揮させることができる。
【0041】
態様(2)の具体例としては、CDプレーヤやDVDプレーヤなどの音声情報および画像情報から選択される少なくとも一方の情報を再生する情報再生プレーヤの場合は、例えば、再生押しボタンを押すことに連動させて芳香機能を発揮させる場合が挙げられる。また、情報再生プレーヤは、通常、全ての押ボタンを押しても動作しないようにするスイッチ(いわゆるホールドキー。例えば、スライドスイッチや、特定のキーの長押しによりホールド機能が発揮される押ボタンなど)を備えている。この場合、当該スイッチをOFF状態(ホールド機能をOFFとする状態)とすることに連動させて(芳香成分を外部に揮散させる)芳香機能を発揮させることができる。通話を開始する機能を有する押しボタンを備えた携帯電話の場合は、例えば、通話を開始する機能を有する押しボタンを長押することに連動させて、ホールド機能がOFFとなった場合に(芳香成分を外部に揮散させる)芳香機能を発揮させることができる。
【0042】
また、電子機器が、芳香機能以外の機能(但し、ここで言う「機能」とは、単に電源をON/OFFする機能を除く)を2つ以上有する場合は、いずれか1つの機能を発揮させる押しボタンを押すことのみと連動させて芳香機能を発揮させてもよく、各々の機能を発揮させる押しボタンを押すことと連動させて芳香機能を発揮させてもよい。そして、後者の場合は、機能毎に芳香強度を異なるものとすることもできる。例えば、通話機能の他に地上デジタルテレビ放送表示機能を有する携帯電話では、いずれか一方の機能を発揮させる押しボタンを押した場合にのみ、これと連動させて芳香機能を発揮させるようにしてもよいし、双方の機能を発揮させる押しボタンを各々押した場合に、これと連動させて芳香機能を発揮させるようにしてもよい。
【0043】
さらに、芳香シートが2つ以上の加熱領域を有し、一の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに第一の芳香成分が内包され、他の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに第一の芳香成分とは異なる種類の第二の芳香成分が内包される場合には、一の機能を発揮させる押しボタンを押すことと連動させて第一の芳香成分を揮散させ、他の機能を発揮させる押しボタンを押すことと連動させて第二の芳香成分を揮散させてもよい。例えば、通話機能の他に地上デジタルテレビ放送表示機能を有する携帯電話では、通話機能を発揮させる押しボタンを押した場合に、第一の芳香成分としてジャスミンの香りが揮散されるようにし、地上デジタルテレビ放送表示機能を発揮させる押しボタンを押した場合に、第二の芳香成分としてシトラスミントの香りが発揮されるようにすることができる。
【0044】
−第二の実施態様−
次に、電子機器が、手動により少なくとも2種類以上の異なる形状に可逆的に変形可能である場合ついて説明する。この場合、一の形状から他の形状への変形動作を、少なくとも芳香シートを制御する制御手段として機能させることができる。すなわち、一の形状から他の形状への変形動作に連動させて(芳香成分を外部に揮散させる)芳香機能を発揮させることができる(以下、当該態様の電子機器を「第二の実施態様の電子機器」と称す場合がある)。ここで、電子機器が、手動により2種類以上の異なる形状に可逆的に変形可能である場合、少なくとも2つ以上の変形動作が存在することになる。例えば、2種類の異なる形状に可逆的に変形可能である場合には、第一の形状から第二の形状への変形動作、および、第二の形状から第一の形状への変形動作が存在する。このように2つ以上の変形動作が存在する場合、いずれか1つの変形動作のみに連動させて芳香機能を発揮させてもよいし、2以上または全ての変形動作に各々連動させて芳香機能を発揮させてもよい。なお、後者の場合における芳香機能の発揮とは、一の形状から他の形状への変形動作に伴い、芳香成分を揮散させていない状態から芳香成分を揮散させる状態とする態様のみならず、芳香強度を変化させる態様や、一の芳香成分を揮散させている状態から、他の芳香成分を揮散させる状態とする態様も含まれる。
【0045】
例えば、閉じた形状と開いた形状とに可逆的に変形可能な折り畳み式携帯電話の場合、電源がONとなった状態において、閉じた形状から開いた形状への変形動作に連動させて芳香機能を発揮させることができる。また、閉じた形状、(通話等を主目的として)縦方向に開いた形状、および、(地上デジタルテレビ放送を視聴する等を主目的として)横方向に開いた形状、以上3つの形状に変形可能で、且つ、3つの形状から選択されるいずれか2つの形状間で可逆的に変形可能な携帯電話の場合、電源がONとなった状態において、例えば、以下の(1)〜(4)に例示するような少なくともいずれか1つの変形動作に連動させて芳香機能を発揮させることができる。すなわち、(1)閉じた形状から縦方向に開いた形状への変形動作、(2)閉じた状態から横方向に開いた形状への変形動作、(3)横方向に開いた形状から縦方向に開いた形状への変形動作、および、(4)縦方向に開いた形状から横方向に開いた形状への変形動作、が挙げられる。なお、横方向に開いた状態において、地上デジタルテレビ放送を表示する機能を有する押しボタン(以下、「ワンセグボタン」と略す場合がある)を押してTV放送を受信する場合には、例えば、態様(2)又は(4)に示す変形動作の後に、ワンセグボタンを押し、一定時間以内に、横方向に開いた状態から縦方向に開いた状態又は閉じた状態への変形動作がなかった場合に、芳香機能を発揮させる、といったような複合的な制御を行ってもよい。この場合、ワンセグボタンを押した後に、一定時間内に行われる変形動作は、芳香シートにおける芳香機能の発揮をキャンセルする制御手段として機能することになる。
【0046】
なお、態様(1)〜(4)に示す全ての変形動作に連動させて芳香機能を発揮させる場合、例えば、態様(1)は、無臭の状態から第一の芳香成分の香り(例えば、ジャスミン)を芳香させるものとし、態様(2)は、無臭の状態から第二の芳香成分の香り(例えば、シトラスミント)を芳香させるものとし、態様(3)および(4)については、芳香させる香りの種類を変える(例えば、ジャスミンからシトラスミント、または、シトラスミントからジャスミン)ものとすることができる。
【0047】
−芳香シートの詳細−
次に、第一の本実施形態の電子機器に用いられる芳香シートの作用効果や、芳香シートを構成する各部材、芳香シートの構造・作製方法、動作等について説明する。芳香シートは、芳香成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルを用いている。このため、加熱領域内にてマイクロカプセルが加熱されると、外殻材が破壊されることにより芳香成分が芳香シートの外部に揮散される。それゆえ、押圧力などの機械的方法を用いることなく芳香成分を揮散させることができる。さらに芳香成分は、マイクロカプセルに内包されているため、マイクロカプセルが外部から加熱されない限りは、芳香成分が自然に揮発して失われることもない。このため、不使用時に芳香シートが外気と常に接触した状態でも芳香性能が劣化しない。
【0048】
−芳香成分−
芳香シートに用いられる芳香成分は、芳香シートの利用が想定される一般的な温度環境(−10℃〜50℃前後)において、芳香性を有する成分であれば、その成分は特に限定されず、公知の芳香物質が利用できる。また、芳香成分は、2種類以上の芳香物質を混合したものでもよい。さらに、使用する芳香成分は芳香機能以外に抗菌機能などを兼ね備えていてもよい。なお、芳香成分としては、公知の芳香成分であれば特に制限なく利用できるが、例えば、精油、合成香料、動物性香料、これらの有効成分や単体化合物などが好適に挙げられ、精油または精油に含まれる有効成分が好ましい。
【0049】
精油としては、例えば、イランイラン精油、ゼラニウム精油、ラベンダー精油、ジャスミン精油、カモミール精油、ラベンティン精油、ヒソップ精油、ローズ精油、ネロリ精油、シダーウッド精油、ユーカリ精油、サイプレス精油、ヒノキ精油、サンダルウッド精油、ジュニパー精油、ティートリー精油、パイン精油、パチュリ精油、オレンジ精油、グレープフルーツ精油、ライム精油、レモングラス精油、レモン精油、シトロネラ精油、ベルガモット精油、ペパーミント精油、ローズマリー精油、クラリセージ精油、クローブ精油、タイム精油、フェンネル精油、マジョラム精油、メリッサ精油、ローズウッド精油、バジル精油、バテ精油、シナモン精油等の天然の精油が挙げられる。このなかでも特に、イランイラン精油、ゼラニウム精油、シダーウッド精油、ユーカリ精油、サイプレス精油、オレンジ精油、グレープフルーツ精油、ライム精油、ペパーミント精油、ローズマリー精油が好ましい。また、これらの精油を複数組み合わせて用いてもよい。
【0050】
精油に含まれる有効成分としては、例えば、リナロール、酢酸リナリル、1‐リモネン、1‐メントール、α‐ピネン、β‐ピネン、シトラール、シネオール、d‐カンファー、チモール、オイゲノール、ケイヒアルデヒド、カマズレン、ツヤノール‐4、ボルネオール、α‐テルピネオール、β‐テルピネオール、テルピネノール‐4、ゲラニオール、ネロール、α‐サンタロールβ‐サンタロール、カロトール、セドロール、ビリジフロロール、スクラレオール、サフロール、アピオール、ミリスチシン、メチルカビコール、アネトール、スクラレオールオキサイド、マノイルオキサイド、シトロネラールなどが挙げられる。また、これらの有効成分を複数組み合わせて用いてもよい。
【0051】
−マイクロカプセル−
芳香シートに用いられるマイクロカプセルは、公知のマイクロカプセル製造方法を利用して作製することができる。マイクロカプセル製造方法としては、大別すると化学的方法、物理化学的方法、および機械的方法が挙げられる。そして、(1)化学的方法としては、例えば、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、エマルション(乳化)重合法、析出重合法、分散重合法、界面重合法、液中硬化法が挙げられ、(2)物理化学的方法としては、例えば、液中乾燥法、転相乳化法、コアセルベーション法が挙げられ、(3)機械的方法としては、例えば、スプレードライ法、ヘテロ凝集法が挙げられる(例えば、「ナノ・マイクロカプセル調整のキーポイント」、田中眞人、株式会社テクノシステム参照)。
【0052】
これらのマイクロカプセル化の方法の中でも、通常の場合、界面重合法や、コアセルベーション法等が好ましい。マイクロカプセルの製造は、界面重合法を利用した場合、例えば、以下のように実施することができる。まず、マイクロカプセルの芯材を構成する原料として芳香成分を、疎水性の有機溶媒に溶解または分散させて調製した油相を準備する。次に、この油相を水溶性高分子を溶解した水相中に投入し、ホモジナイザー等の攪拌手段により乳化分散する。そして得られた乳化液を、加温することによりその油滴界面で高分子形成反応を起こさせる。これにより、芳香成分を含む芯材が外殻材で被覆されたマイクロカプセルを得ることができる。
【0053】
なお、マイクロカプセルを構成する外殻材としては、加熱によって溶解したり熱分解により破壊される材料が利用される。このような材料としては、融点が85℃〜135℃前後ぐらいの有機材料を利用することが好ましい。なお、融点は、85℃〜105℃の範囲がより好ましい。融点が85℃未満では、芳香シートが高温環境下に放置された場合に、マイクロカプセルの外殻材が自発的に溶解し、芳香成分が外部へと揮散してしまう場合がある。また、融点が135℃を超える場合には加熱素子で加熱しても、マイクロカプセルの外殻材が溶解せず、芳香成分が外部へと揮散されない場合がある。
【0054】
外殻材の具体例としては、例えば、ゼラチン、ロジン、アラビアゴム、シェラック、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、エポキシ、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリアミド、ウレア等が挙げられる。また、芯材として、芳香成分と共に併用可能な疎水性の有機溶媒としては、沸点300℃以下の有機溶媒が好ましく、例えば、エステル類の他、ジメチルナフタレン、ジエチルナフタレン、ジイソプロピルナフタレン、ジメチルビフェニル、ジイソプロピルビフェニル、ジイソブチルビフェニル、1−メチル−1−ジメチルフェニル−2−フェニルメタン、1−エチル−1−ジメチルフェニル−1−フェニルメタン、1−プロピル−1−ジメチルフェニル−1−フェニルメタン、トリアリルメタン(例えば、トリトルイルメタン、トルイルジフェニルメタン)、ターフェニル化合物(例えば、ターフェニル)、アルキル化合物、アルキル化ジフェニルエーテル(例えば、プロピルジフェニルエーテル)、水添ターフェニル(例えば、ヘキサヒドロターフェニル)、ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0055】
マイクロカプセルの平均粒径としては、特に限定されないが、10μm〜100μmの範囲内が好ましく、10μm〜30μmの範囲内がより好ましい。平均粒径が20μm未満の場合、マイクロカプセルの全質量に占める芳香成分の含有割合が小さくなり過ぎるために、十分な濃度で芳香成分を揮散させることが困難となる場合がある。また、平均粒径が100μmを超える場合、マイクロカプセルの機械的強度が低下する場合がある。このため、芳香シートを折り曲げたり押さえつけたりするなどにより、マイクロカプセルに圧力が加わった際に、マイクロカプセルが容易に破壊され、意図しないタイミングで芳香成分が外部に揮散され易くなる。
【0056】
また、マイクロカプセルは、少なくとも加熱領域内に配置されるのであれば、シート状基材の表面や内部の任意に位置に配置することができる。しかしながら、シート状基材の表面は、摩擦などの機械的刺激にさらされ、マイクロカプセルが破壊されやすい。このため、マイクロカプセルはシート状基材の内部に配置されることが好ましい。この場合、シート状基材が中空部を有し、この中空部にマイクロカプセルを配置することが好適である。また、必要に応じて加熱領域から離れた領域にもマイクロカプセルを配置してもよい。例えば、シート状基材が、繊維状物質から構成されていたり、多孔質体から構成されている場合には、マイクロカプセルをシート状基材中に満遍なく分散して配置することもできる。シート状基材が、繊維状物質から構成されている場合は、繊維状物質によって形成される網目構造中にマイクロカプセルを閉じ込めることができる。
【0057】
−シート状基材−
芳香シートを構成するシート状基材は、透気性を有する。なお、当該「透気性」とは、パルプ繊維を主成分とする紙用紙のように表面から裏面へと気体が透過できるような場合のみに限定されるものではなく、より正確には、シート状基材内のマイクロカプセルが配置された領域(例えば、中空部など)から芳香シート表面まで、芳香成分が拡散移動できる経路が存在することを意味する。これにより、マイクロカプセルが加熱素子の加熱によって加熱破壊された際に、マイクロカプセル外へと放散された芳香成分が、芳香シート内に閉じ込められることなく外部へ揮散させることができる。
【0058】
シート状基材を構成する材料としては、繊維状材料や多孔質材料などのように微細且つ連続する空隙を有する透気性材料を用いることができるが、このような構造を有さない非透気性材料を用いることもできる。但し、シート状基材が非透気性材料から構成される場合は、シート状基材内のマイクロカプセルが配置された領域から、シート状基材表面へと連通する連通孔(芳香成分が拡散移動できる経路)を有していることが必要である。また、連通孔のサイズは、通常、繊維状材料や多孔質材料などの有する空隙サイズよりも十分に大きいため、シート状基材の厚み方向に対する芳香成分の拡散速度をより大きくすることができる。このため、シート状基材が非透気性材料から構成されるか否かに係わらず、加熱素子によりマイクロカプセルを加熱してから、短時間の内に、芳香シートの外部へと揮散させる芳香成分の濃度を高濃度に制御したい場合にも、同様に、シート状基材に連通孔を設けることが好ましい。また、シート状基材が、2枚のシート状材料を貼り合わせて構成される場合は、貼り合わせ界面の一部に連通孔が形成されるように隙間を設けてもよい。
【0059】
連通孔の直径は、特に限定されないが、5μm〜30μmの範囲が好ましく、5μm〜9μmの範囲がより好ましい。直径が5μm未満では、シート状基材に連通孔を形成することが困難となったり、ゴミや埃などにより目詰まりを起こしやすくなる場合がある。また、直径が30μmを超える場合は、シート状基材表面の連通孔の開口部が目立ち易くなるため、審美性が劣化する場合がある。なお、「連通孔の直径」とは、連通孔の断面形状が円形でない場合は、当該断面形状と同一の断面積を有する円の最大直径を意味する。
【0060】
シート状基材を構成する材料としては、公知の固体材料が利用でき、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。そして、これらの中でも特に、樹脂、繊維状物質、セラミックスから選択される少なくとも1種を用いることが好適である。なお、樹脂としては、例えば、ポリイミド、テフロン(登録商標)などを挙げることができる。繊維状物質としては、例えば、パルプ繊維、カーボンファイバー(カーボン繊維)、ガラス繊維などを挙げることができる。セラミックスとしては、例えば、アルミナ、ジルコニアなどを挙げることができる。なお、樹脂やセラミックスは、材料そのものは、非透気性である。しかしながら、必要に応じて、多孔質状の樹脂やセラミックスを用いることもできる。
【0061】
また、シート状基材として樹脂や繊維状物質など変形の容易な材料を用いた場合には、芳香シートに可撓性を付与することができる。また、シート状基材として脆性破壊の起こりやすいセラミックスなどを用いる場合でも、シート状基材の厚みを薄くしたり、曲げ強度を高いセラミックスを利用することにより芳香シートに可撓性を付与することができる。このように芳香シートが可撓性を有する場合には、曲げたり伸ばしたりすることが要求される用途でも芳香シートを利用することができる。これにより、例えば、芳香シートを、表面に凹凸のある部材の表面に貼り付けて利用することができる。
【0062】
シート状基材の厚みは特に限定されるものではないが、30μm〜300μmの範囲内であることが好ましく、50μm〜100μmの範囲内であることがより好ましい。厚みが30μm未満の場合は、引張り強度が不足して芳香シートが破損し易くなる場合がある。また、厚みが300μmを超えると、柔軟性のある材料からなるシート状基材を用いて芳香シートを作製したとしても、芳香シートに可撓性を付与することが困難となる場合がある。このため、筐体表面が曲面や凹凸を有するような電子機器に、芳香シートを適用できなくなる場合もある。シート状基材は、1枚のシート状材料から構成されたものでもよいが、2枚以上のシート状材料を貼り合わせるなどによって構成されたものでもよい。なお、2枚以上のシート状材料を用いる場合は、各々のシート状材料を構成する材料や断面構造が異なるものであってもよい。
【0063】
−加熱素子−
芳香シートに設けられる加熱素子は、シート状基材の平面の一部領域を選択的に加熱する機能を有するものである。そして、この加熱素子は、後述するように電気的にON/OFF制御される。このため、特許文献1に開示されるよう芳香シートに押圧力を加えなくても、加熱素子を所望のタイミングで電気的に制御することにより、マイクロカプセルを加熱破壊して、芳香成分を揮散させることができる。
【0064】
なお、マイクロカプセルの加熱方式としては下記に示す2つの加熱方式が挙げられる。
(1)第一の加熱方式
マイクロカプセルが存在する領域に外部から熱エネルギーを直接供給することによりマイクロカプセル(の外殻材)を加熱する加熱方式。
(2)第二の加熱方式
マイクロカプセルが存在する領域に高周波を発生させることにより、外殻材を構成する分子を激しく振動させ、マイクロカプセル(の外殻材)を加熱する加熱方式。
【0065】
第一の加熱方式では、加熱素子は、電流を流すことにより発熱する発熱線を用いて構成される。この場合、1本の発熱線から供給される熱エネルギーがマイクロカプセルを加熱破壊するのに十分なエネルギー量である場合、加熱素子は1本の発熱線から構成される。この場合、マイクロカプセルは、少なくとも発熱線の近傍(加熱領域)に配置される。なお、加熱素子が1本の発熱線から構成される場合、発熱線は直線状であってもよいが、コイル状としたものでもよい。この場合は、コイル内やその近傍(加熱領域)にマイクロカプセルが配置される。
【0066】
また、1本の発熱線から供給される熱エネルギーがマイクロカプセルを加熱破壊するのに不十分なエネルギー量であっても、互いに交差または平行となるように離間して配置された2本の発熱線から各々供給される熱エネルギー量の総和がマイクロカプセルを加熱破壊するのに十分なエネルギー量であれば、加熱素子はこれら2本の発熱線から構成される。なお、2本の発熱線が、互いにシート状基材の平面または内部において交差し且つシート状基材の厚み方向において離間するように配置されている場合は、2本の発熱線が交差する領域近傍が加熱領域となる。
【0067】
なお、発熱線としては、電流を流すことにより発熱するものであれば公知の発熱線が利用できるが、タングステンワイヤー、ニクロム線、ステンレス線、ピアノ線などを用いることができる。発熱線は、シート状基材の表面に配置してもよいが、審美性確保の観点からは、シート状基材の内部に埋め込むように配置されることが好ましい。発熱線の直径は特に限定されるものではないが、発熱線をシート状基材の内部に埋め込む場合には、12μm〜200μmの範囲内が好ましく、20μm〜100μmの範囲内がより好ましい。直径が12μm未満では、十分な発熱量が得られなかったり、断線を起こしやすくなる場合があり、直径が200μmを超えると、発熱線をシート状基材の内部に埋め込むことが困難となったり、発熱制御が難しくなる場合がある。なお、発熱線の発熱量は、発熱線の電気抵抗、電流量、発熱線の直径、2本の発熱線を用いる場合は発熱線間の距離を適宜選択することにより調整できる。
【0068】
第二の加熱方式では、加熱素子は、互いにシート状基材の平面または内部において交差し且つシート状基材の厚み方向において離間するように配置された2本の導線から構成され、2本の導線が交差する領域近傍が高周波が発生する領域(加熱領域)となる。このため、この領域にマイクロカプセルを配置した状態で、2本の導線に同時に電流を流せば、マイクロカプセルを加熱破壊することができる。導線は、シート状基材の表面に配置してもよいが、審美性確保の観点からは、シート状基材の内部に埋め込むように配置されることが好ましい。導線の直径は特に限定されるものではないが、導線をシート状基材の内部に埋め込む場合には、30μm〜200μmの範囲内が好ましく、50μm〜100μmの範囲内がより好ましい。直径が30μm未満では、断線を起こしやすくなる場合があり、直径が200μmを超えると、発熱線をシート状基材の内部に埋め込むことが困難となる場合がある。
【0069】
なお、発熱線や導線は、その軸方向が、シート状基材の平面と略平行となるように配置されることが好ましい。言い換えれば、加熱素子が第一の加熱方式や第二の加熱方式においては、軸方向がシート状基材の平面と略平行な一の配線(発熱線又は導線、以下、同様)と、シート状基材の厚み方向に対して一の配線と離間し、シート状基材の平面と略平行で、且つ、一の配線と交差するように配置された他の配線と、を備えたものであることが好ましい。この場合、一の配線と他の配線とが交差する領域が、加熱素子として機能することになる。また、2本の配線を組み合わせて加熱素子を構成する場合、一の配線が、シート状基材の厚み方向の中心よりも片方側に配置され、他の配線が、厚み方向の中心よりも他方側に配置されることが好ましい。
【0070】
芳香シートに設けられる加熱領域の数は、既述したように、少なくとも1つあればよいが、通常は、電子機器の種類やその利用形態に応じて適宜選択できる。また、加熱領域の数が4つ以上である場合、各々の加熱領域は、シート状基材の平面または内部にマトリックス状に配置されていることが好ましい。この場合、2本以上の発熱線(又は導線)を行方向に配置すると共に、行方向に配置された発熱線(又は導線)に対して交差するように2本以上の発熱線(又は導線)を列方向に配置することで、シート状基材の平面または内部にマトリックス状に加熱領域を設けることができる。このような構成を採用した場合、行方向および列方向の発熱線(又は導線)の中から、特定の行方向および列方向の発熱線(又は導線)を選択して電流を流すことにより、特定の加熱領域のみを加熱状態とすることができる。
【0071】
加熱素子を構成する発熱線(又は導線)への電流の供給は、電子機器に内蔵された内蔵電源(電池など)が利用できる。電子機器が内蔵電源を有さず、コンセントなどの外部電源を利用する場合は、電子機器を介して外部電源を利用できる。また、加熱領域の加熱/非加熱制御は、手動で行ってもよいが、通常は、ICチップなどの制御回路を利用することが好ましい。特に、加熱領域が芳香シートの平面方向に対してマトリックス状に設けられている場合には、制御手段を利用して加熱領域の加熱/非加熱制御を行うことが好ましい。なお、制御回路は、通常は芳香シートの外部に設けられていることが好ましいが、必要であれば、芳香シート側に設けられていてもよい。
【0072】
−芳香成分の揮散−
芳香シートを用いて、芳香成分を芳香シートの外部へと揮散させるには、芳香シートに設けられた(1つ以上の加熱領域から選択される)少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行えばよい。これにより、加熱を行った加熱領域内の存在するマイクロカプセルが加熱破壊され、芳香成分を芳香シートの外部へと揮散させることができる。
【0073】
なお、芳香シートが、2つ以上の加熱領域を有する場合は、全ての加熱領域のうちの一部を選択して加熱を行う初回の加熱処理を行った後に、加熱を1度も行っていない残りの加熱領域のうちの一部または全部を選択して加熱を行う加熱処理を1回以上繰り返すことが特に好ましい。この場合、経時的に2回以上に分けて、芳香成分を芳香シートの外部へと揮散させることができる。このため、マイクロカプセルを加熱する加熱領域を選択して加熱させるタイミングを制御することで、所望のタイミングで、芳香成分を何度でも揮散させることができる。
【0074】
−芳香シートの具体例−
次に、芳香シートの具体例について、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態の電子機器に用いられる芳香シートの一例を示す模式断面図である。図1に示す芳香シート10は、シート状基材20Aと、このシート状基材20Aの厚み方向中心部付近に設けられた中空部22と、中空部22内に充填された複数のマイクロカプセル(図示省略)と、シート状基材20Aの一方の側の表面と中空部22との間の領域に、軸方向がシート状基材20Aの平面と平行となるように配置された発熱線(加熱素子の一部を構成)30と、シート状基材20Aの他方の側の表面と中空部22との間の領域に、軸方向がシート状基材20Aの平面と平行を成し、且つ、発熱線30の軸方向と直交するように配置された発熱線(加熱素子の一部を構成)32と、から構成されている。
【0075】
図2は、図1に示す芳香シート10を、片方の面側から見た場合における示す発熱線30、発熱線32および中空部22の配置を示す概略模式図である。図2に示すように、発熱線30A、30B、30C、30Dは列方向に平行で、且つ、互いに等間隔を保つように配置され、発熱線32A、32B、32C、32Dは行方向に平行で、且つ、互いに等間隔を保つように配置され、発熱線30A、30B、30C、30Dと、発熱線32A、32B、32C、32Dとは互いに直交している。そして、発熱線30A、30B、30C、30Dと、発熱線32A、32B、32C、32Dとの交差する領域に中空部22が配置されている。そして、発熱線30、32は、不図示の電源および制御回路に接続されており、個々の発熱線単位で、ON/OFF状態の制御がなされる。
【0076】
シート状基材20Aは、透気性を有する材料(多孔質材料又は繊維状物質)を主材料として構成されているため、透気性を有する。このため、中空部22内に配置されたマイクロカプセルが加熱破壊された場合にマイクロカプセルに内包されていた芳香成分が中空部22から、シート状基材20Aの表面へと拡散移動し、外部へ揮散させることができる。なお、シート状基材を構成する材料が透気性を有さない場合には、中空部22から、シート状基材20Aの表面へと連通する連通孔が設けられる。また、芳香シート10において、発熱線30A、30B、30C、30Dと発熱線32とが交差する部分(点線で示される領域22A、22B、22C、22D)が、各々加熱領域として機能する。このため、個々の中空部40A、40B、40C、40Dの近傍にそれぞれ加熱領域が設けられることになる。但し、図1および図2に示す態様では、中空部22内に配置されたマイクロカプセルを加熱破壊するために、発熱線30のみ、または、発熱線32のみに電流を流した場合には、マイクロカプセルが加熱破壊できないように発熱線30、32の発熱量が制御される。
【0077】
次に、図1および図2に示す芳香シート10を用いて、芳香成分を揮散させる手順の一例について説明する。まず、列方向に配列された発熱線30および行方向に配列された発熱線32から、それぞれ電流を流す発熱線を選択して、同時に電流を流す。例えば、発熱線30Aおよび発熱線32Aに同時に電流を流すことができる。これにより、発熱線30Aおよび発熱線32Aの交差する領域に存在する中空部22中に充填されたマイクロカプセルが加熱されることにより加熱破壊される。この際、マイクロカプセルに内包されていた芳香成分がシート状基材20A中を通過して、外部へと揮散させられる。なお、この場合は、ひとつの中空部22に存在するマイクロカプセルのみを加熱しているが、2つ以上の中空部22に存在するマイクロカプセルを同時に加熱処理してもよい。例えば、発熱線30A、発熱線32Aおよび発熱線32Bに同時に電流を流すことができる。
【0078】
なお、一旦、加熱処理された中空部22は、芳香成分を揮散させる機能が消失または大幅に低下する。このため、次に、列方向に配列された発熱線30および行方向に配列された発熱線32から、それぞれ電流を流す発熱線を選択する場合は、加熱処理されていない中空部22を加熱できるように発熱線を選択することが特に好ましい。以上に説明したようなプロセスを繰り返すことで、芳香シート10中に加熱処理されていない中空部22が存在する限り、所望のタイミングで何度でも芳香成分を揮散させることができる。なお、芳香成分の揮発量や、揮発速度は、同時に加熱処理する中空部22の数、発熱線30Aおよび発熱線32Aに流す電流の電流量や通電時間、シート状基材20Aの厚み、シート状基材20Aが多孔質材料や繊維状材料などの透気性材料から構成される場合は、これらの材料の空隙率、シート状基材20Aが非透気性材料から構成される場合は連通孔の直径を調整することで制御できる。
【0079】
図1および図2に示す芳香シート10は、発熱線30、32を備えたものであるが、これらの発熱線30、32の代わりに、導線を用いてもよい。この場合は、導線30と導線32とが交差する領域に高周波を発生させることで、当該領域に存在する中空部22に充填されたマイクロカプセルを加熱破壊することができる。また、図1および図2に示す芳香シート10では、マイクロカプセルは中空部22内に配置されている。しかしながら、マイクロカプセルは、これ以外の態様で配置することもできる。例えば、シート状基材20Aが繊維状物質や多孔質材料から構成され、且つ、中空部22を有さない場合には、例えば、シート状基材20Aの全体にマイクロカプセルを分散して配置させてもよい。但し、マイクロカプセルの利用効率を高くしたい場合は、図1中に点線で示される領域40内の一部の領域又は全部の領域に、マイクロカプセルを分散して配置させることが好ましい。なお、シート状基材20A中にマイクロカプセルを分散させる方法としては、例えば、マイクロカプセルを分散させた溶液を用いて、この溶液中にシート状基材20Aを浸漬処理したり、あるいは、シート状基材20Aの表面の特定の領域に溶液を滴下する方法が挙げられる。
【0080】
次に、シート状基材に連通孔が設けられた芳香シートの具体例を図面を用いて説明する。図3は、芳香シートの他の例を示す概略模式図である。なお、図3中、加熱素子を構成する発熱線(又は導線)については記載を省略してある。図3に示す芳香シート12は、シート状基材20Bと、このシート状基材20B中に、その厚み方向の中心部に設けられた中空部22と、この中空部22からシート状基材20Bの片方の側の表面まで連通するように設けられた連通孔24と、中空部22内に配置された不図示のマイクロカプセルと、不図示の発熱線(又は導線)から構成される加熱素子と、から構成されている。なお、加熱素子は、図1、図2に示した場合と同様の態様で設けることができる。
【0081】
図3に示す芳香シート12では、加熱素子により中空部22内のマイクロカプセルが加熱破壊された際に、マイクロカプセルに内包されていた芳香成分が連通孔24を経由して、芳香シート12の外部へと速やかに揮散させることができる。なお、図3に示す芳香シート12では、連通孔24は、その開口部がシート状基材20Bの片側面のみに位置するように設けられている。このような構成を採用することにより、芳香シート12を何がしかの部材表面に貼り付けて利用する場合には、貼り付ける面と反対側の面に開口部を設けることにより、マイクロカプセルの利用効率を高めることができる。しかしながら、連通孔24は、その開口部がシート状基材20Bの両面に位置するように設けてもよい。
【0082】
−芳香シートの製造方法−
芳香シートは、芳香シートの構成に応じて、公知のシート状部材の製造方法を適宜利用して作製することができる。芳香シートは、例えば、以下に示す手順により作製することができる。但し、芳香シートの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0083】
(1)マイクロカプセルの準備
既述した方法により所望の芳香成分を内包したマイクロカプセルを準備する。
【0084】
(2)発熱線(又は導線)入りシートの準備
シート状材料の片面に、複数本の発熱線(又は導線)を平行且つ等間隔に配置する。次に、シート状材料の発熱線(又は導線)が配置された側の面を覆うように、もう一枚のシート状材料を貼り合わせることで、発熱線(又は導線)入りシートを準備する。
【0085】
(3)マイクロカプセルの配置
発熱線(又は導線)入りシートの片面に、発熱線(又は導線)が設けられたラインに沿って、等間隔にマイクロカプセルを配置する。なお、マイクロカプセルの配置に際しては、例えば、マイクロカプセル(あるいはこれを分散させた溶液やゲル)をディスペンサを用いてシート上の所定の位置に注液する方法などを利用することができる。
【0086】
(4)発熱線(又は導線)入りシートの貼り合わせ
続いて、発熱線(又は導線)入りシートのマイクロカプセルが配置された側の面に、もう一枚の発熱線(又は導線)入りシートを貼り合わせる。この場合、2枚のシートを貼り合わせは、一方のシートの発熱線(又は導線)と他方のシートの発熱線(又は導線)とが直交し、且つ、この直交する領域とマイクロカプセルが配置された領域とが一致するように行われる。これにより、芳香シートを得ることができる。なお、発熱線(又は導線)入りシートのマイクロカプセルが配置される位置に予め凹部を設けておけば、当該凹部が、芳香シートの中空部を構成することになる(この場合は、図1、図2に示す構成を有する芳香シートを得ることができる)。なお、芳香シートの厚みを調整したり、凸凹を平滑化するために、貼り合わせ後に、ロールなどを用いてプレス処理してもよい。
【0087】
なお、上述した過程を経て作製された芳香シートは、電子機器に取り付けられる。この場合、電子機器の筐体表面に直接貼り付けて固定してもよいし、いわゆる着せ替え携帯のように、筐体表面に対して脱着可能なパネルの表面に固定してもよい。また、芳香シートの作製に際して、筐体と一体となるように作製することで、筐体表面を構成する部材として芳香シートを用いてもよい。また、芳香シートの発熱線(又は導線)は、電子機器本体の電源(あるいは制御回路)等と電気的に接続される。
【0088】
−電子機器の具体例−
次に、第一の本実施形態の電子機器の具体例を図面を用いて説明する。図4は、第一の本実施形態の電子機器の構成の一例を示す概略模式図である。図4に示す電子機器100は、制御部102と、入力部104と、検出部106と、芳香部108と、放送受信部110と、通信部112と、メモリ部114と、表示部116とを有し、制御部102は、入力部104、検出部106、芳香部108、放送受信部110、通信部112、メモリ部114および表示部116と接続されている。制御部102は、主にCPUにて構成される。
【0089】
ここで、電子機器100が折り畳み式の携帯電話である場合、入力部104は、押しボタンなどの入力手段であり、検出部106は、センサ等の(携帯電話100が、折り畳み式である場合において)開閉動作を検出する手段である。また、芳香部108は、芳香シートである。放送受信部110は、受信機等の地上デジタルテレビ放送を受信する手段であり、通信部112は、リアルタイムで音声情報の送受信を行う通話機能や主に文字情報を送受信する電子メール機能を発揮する手段である。また、メモリ部114は、半導体メモリなどからなる内蔵メモリ(各種ROM、RAM、HDD等)、および/または、SDカードなどの半導体メモリからなる外部メモリである。また、表示部116は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどから構成され、各種の情報を表示する部分である。
【0090】
また、電子機器100が、ワイヤレス操作可能な携帯型のメディアプレーヤである場合、入力部104は、押しボタンなどの入力手段であり、検出部106は、センサ等のSDカードなどの外部記録メディアの出し入れを検出する手段である。また、芳香部108は、芳香シートである。放送受信部110は、受信機等の地上デジタルテレビ放送を受信する手段であり、通信部112は、無線通信により外部リモコンからの操作情報を受信したり、あるいは、メディアプレーヤ本体の稼働情報を外部リモコンに送信するワイヤレス通信手段である。また、メモリ部114は、半導体メモリなどからなる内蔵メモリ、および/または、SDカードなどの半導体メモリからなる外部メモリである。また、表示部116は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどから構成され、各種の情報を表示する部分である。
【0091】
電子機器100は、通常、入力部104の操作によって、各種の制御信号が、制御部102に伝達された後、この制御部102により芳香部108、放送受信部110、通信部112、メモリ部114、表示部116の制御が行われる。また、携帯電話100の開閉動作が検出部106により検出された場合にも、必要に応じて制御信号が、制御部102に伝達された後、この制御部102により芳香部108や、放送受信部110、通信部112、表示部116が制御されてもよい。
【0092】
次に、電子機器が有する芳香機能の制御プロセスの一例について、フロー図を用いて説明する。図5は、第一の本実施形態の電子機器の制御プロセスの一例を示すフロー図であり、具体的には、電子機器の電源がOFF状態(完全停止状態)から待機状態に移行する段階での芳香機能の制御の一例について示すフロー図である。図5中、ST1は完全停止状態を表すステップ、ST2は電源ONか否かを判断するステップ、ST3は、芳香機能を発揮するステップ、ST4は一定時間が経過したか否かを判断するステップ、ST5は、一定時間が経過した後、電源ON状態のまま、電子機器が有するいずれの機能も発揮していない状態(待機状態)を表すステップである。
【0093】
図5に示すプロセスは、以下のように進行する。まず、ST2において、電源ボタンが押されるなどにより電源がON状態になったか否かが判断される。電源がOFF状態であれば、ST1(完全停止状態)に戻る。また、電源がON状態になったと判断された場合は、ST3において、ON状態になった時点から芳香機能が発揮される。その後、ST4に進み一定時間が経過したか否かが判断される。このST4では、一定時間が経過するまでは、如何なるボタン操作があっても芳香機能が発揮されない状態が維持される。その後、ST4が終了すると、ST5に進み、待機状態となる。なお、ST4における一定時間の長さは、電子機器の種類やその利用態様に応じて適宜設定できる。例えば、電子機器が携帯電話である場合、ユーザーは電源がON状態となった後は、何らかの操作を行うことが多いため、このような期間の経過後にST5に進むように一定時間の長さを設定することができる。
【0094】
図6は、第一の本実施形態の電子機器の制御プロセスの他の例を示すフロー図であり、具体的には、電子機器が待機状態から特定の機能を発揮する状態に移行する段階での芳香機能の制御の一例について示すフロー図である。図6中、ST1は待機状態を表すステップ、ST2は(芳香機能以外の)特定の機能(以下、単に「特定機能」と略す場合がある)が選択・発揮されたか否かを判断するステップ、ST3は選択・発揮された特定機能が、芳香機能の発揮と連動される機能か否かを判断するステップ、ST4は芳香機能を発揮するステップ、ST5は一定時間が経過したか否かを判断するステップ、ST6は、特定機能の発揮が終了したか否かを判断するステップである。
【0095】
図6に示すプロセスは以下のように進行する。まず、ST2において、特定機能が選択・発揮されているか否かが判断される。特定機能が選択・発揮されていない場合にはST1に戻り、待機状態が維持される。一方、特定機能が選択・発揮された場合はST3に進む。ST3では、選択・発揮された特定機能が、芳香機能と連動して発揮される機能か否かが判断される。例えば、携帯電話において、通話機能発揮のために文字入力機能(電話番号入力機能)を発揮させた場合、あるいは、電子メール発信のために文字入力機能(文書作成機能)を発揮させた場合のみにおいて、芳香機能が連動して発揮されるように設定されている場合は、これらの特定機能が選択された場合には、ST4、ST5、ST6へとプロセスが順次進行することになる。一方、地上デジタルテレビ放送表示機能や音楽再生機能を選択した場合には、これらの特定機能は芳香機能が連動して発揮されるように設定されていないため、ST4,ST5をスキップしてST6へと進むことになる。
【0096】
ST3では、選択・発揮された特定機能が、芳香機能と連動して発揮される機能であると判断された場合には、ST4に進み、芳香機能が発揮される。その後、ST5に進み一定時間が経過したか否かが判断される。このST5では、一定時間が経過するまでは、如何なるボタン操作があっても芳香機能が発揮されない状態が維持される。その後、ST5が終了すると、ST6に進み、特定機能の発揮が終了したか否かが判断される。特定機能の発揮状態が維持されている場合はST6に戻る。一方、特定機能の発揮状態が終了した場合には、ST1に戻り待機状態となる。なお、ST5における一定時間の長さは、電子機器の種類やその利用態様に応じて適宜設定できる。
【0097】
図7は、第一の本実施形態の電子機器の制御プロセスの他の例を示すフロー図であり、具体的には、携帯電話等の手動により開閉動作が可能であり、閉じた形状、第一の開いた形状および第二の開いた形状の3種類の異なる形状に可逆的に変形可能な電子機器における変形動作に連動した芳香機能の制御の一例について示すフロー図である。図7中、ST1は電源ON状態を表すステップ、ST2は第一の開いた形状への変形が行われたか否かを判断するステップ、ST3は第一の芳香機能を発揮するステップ、ST4は、第二の開いた形状への変形が行われたか否かを判断するステップ、ST5は、第二の芳香機能を発揮するステップ、ST6は待機状態を表すステップである。
【0098】
図7に示すプロセスは以下のように進行する。まず、ST1において、電子機器の電源がONにされ、続いてST2に進む。ST2では、第一の開いた形状への変形動作が行われたか否かを判断する。第一の開いた形状への変形動作が行われていない場合はST2に戻り、第一の開いた形状への変形動作が行われた場合は、ST3に進む。ST3では、(第一の開いた形状への変形動作に連動して)第一の芳香機能が発揮される。続いて、ST4に進み、第二の開いた形状への変形動作が行われたか否かお判断する。第二の開いた形状への変形動作が行われていない場合はST4に戻り、第二の開いた形状への変形動作が行われた場合は、ST5に進む。ST5では、(第二の開いた形状への変形動作に連動して)第二の芳香機能が発揮される。ST5が終了したら、ST6に進み、電子機器は待機状態となる。
【0099】
なお、ST3における第一の芳香機能と、ST5における第二の芳香機能とは、芳香成分の種類や、芳香強度、芳香時間等において全く同一であってもよいが、互いに異なっていることが好ましい。また、電子機器が、2種類以上の特定機能の選択・発揮が可能である場合、第一の開いた形状とすることにより一の特定機能の発揮が可能となり、第二の開いた形状とすることにより一の特定機能とは異なる他の特定機能の発揮が可能となるように連動させてもよい。例えば、電子機器がデジタルテレビの視聴機能付きの携帯電話である場合、第一の開いた形状とすることにより通話機能やデジタルテレビの視聴機能以外のその他の機能の発揮を可能とし、第二の開いた形状とすることによりデジタルテレビの視聴機能の発揮を可能とすることができる。
【0100】
<第二の発明>
以下、第二の本発明について説明する。
第二の本実施形態の電子機器は、芳香シートと、外部から送信される通信情報を自動的に受信すると共に上記通信情報を受信した際に受信信号を発信する機能を備えた受信手段と、を備え、上記芳香シートが、透気性を有するシート状基材と、該シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、少なくとも該加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、芳香成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有し、上記受信信号の発信と連動して、少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行い、上記芳香成分を外部に揮散させることを特徴とする。
【0101】
第二の本実施形態の電子機器では、芳香成分を外部に揮散させる芳香シートを備えている。このため、電子機器が本来有する機能の他に、芳香機能も有する。そして、この芳香シートは、シート状であるために、電子機器の表面に取り付けることなどにより配置でき、省スペース性に優れる。このため、電子機器の大型化を抑制できる。これに加えて、芳香成分は、加熱素子により加熱されない限り、マイクロカプセルに内包されているので、芳香成分が常に揮散し続けることが無い。そして、電子機器の受信手段が外部から送信される通信情報を自動的に受信した際に、芳香成分が揮散することになるため、芳香成分の利用効率が高い。
【0102】
また、第二の本実施形態の電子機器では、受信手段を備えている。そして、この受信手段は、外部から送信されてくる通信情報を自動的に受信する機能に加えて、通信情報を受信した際に受信信号を発信する機能も備えている。このため、この受信信号を芳香シートを直接的又は間接的に制御する制御信号として利用することで、通信情報を自動的に受信した際に、これと連動させて芳香機能を発揮させることができる。このため、電子機器のユーザーは、通信情報を受信したことを、電子機器から発せられる香りで知ることができる。
【0103】
なお、通信情報とは、相手方から電子機器のユーザーへと不定期に送信されてくる情報を意味し、具体的には、電子メールや、ボイスメール、電話(TV電話も含む)の呼び出し信号などが挙げられる。そして、受信手段とは、これらの通信情報が送信されてきた際に、(電子機器が、電源ON状態において、外部と通信可能な状態に置かれている場合において)これを自動的に受信する機能と、通信情報を受信した際に受信信号を発信する機能とを備えている。ここで、この受信信号は、直接、芳香シートに伝達され、加熱素子のON/OFF状態を制御する制御信号として用いることもできる。しかし、受信信号は、通常、受信手段から制御回路へと一旦送信されることが好ましい。この場合、受信信号を受信した制御回路は、これに連動して、加熱素子のON/OFF状態を制御する制御信号を芳香シートに発信する。このような一連の制御を行うことで、通信情報を自動的に受信した際に、これと連動させて芳香機能を発揮させることができる。
【0104】
なお、芳香シートの制御という意味では、第二の本実施形態の電子機器に用いられる受信手段は、第一の本実施形態の電子機器に用いられる(少なくとも芳香シートを制御する機能を有する)制御手段に相当するものである。そして、芳香シートを制御する手段が異なる点を除けば、第一の本実施形態の電子機器も第二の本実施形態の電子機器も、その基本的な構成は略同一である。それゆえ芳香機能を制御態様については、第一の本実施形態の電子機器について説明した内容に準じたものとすることができる。また、芳香シートとしては、第一の本実施形態の電子機器で用いるものと同様のものが利用できる。
【0105】
一方、受信信号は、芳香シートの制御以外にも、通信情報を受信したことを電子機器のユーザーに知らせるための種々の通信情報受信報知手段の制御にも利用できる。このような通信情報受信報知手段としては、特に限定されないが、モーターの回転などを利用して振動を発生させる振動発生手段や、いわゆる着メロやビープ音などの音声を発するスピーカーなども挙げられる。
【0106】
−電子機器の態様−
第二の本実施形態の電子機器は、上述した受信手段を備えた公知の電子機器であれば、如何様な電子機器でもよい。具体例としては、電子メール送受信機能や、スカイプなどのIP電話機能を備えたPCやPDA、固定電話(TV電話も含む)、携帯電話などが挙げられ、これらの中でも、携帯性に優れた携帯電話やPDA、ノートPCが好ましい。
【実施例】
【0107】
以下に、本発明の電子機器を、実施例を挙げて説明する。なお、以下の実施例の説明においては、電子機器に用いられる芳香シートの動作を確認することを目的として、芳香シートの部分についてのみ作製し、評価した。
【0108】
(芳香成分入りマイクロカプセルの作製)
ポリビニルアルコール溶液中に分散された自己乳化性蝋、非自己乳化性蝋、及び香料混合物の配合物を含有する乳濁液を、以下の工程により調製した。20gの自己乳化性Duroxon J−324蝋(融点105〜115℃,Durachem),20gの非自己乳化性Unilin 700蝋(融点110℃,Petrolite)、0.50gの水酸化カリウム、及び20gの脱イオン水を、攪拌機、温度調節器、及び冷却器を装備した500ml反応器に入れた。
続いて、反応器を加熱し、蝋が溶融して滑らかな均一溶液を生じるまで100℃に保持した。16gの沸騰脱イオン水を溶融水混合物に徐々に添加し、無色透明溶液が観察されるまで100℃に保持した。この後、44gの香料(Musk C−14,高砂香料工業社製;ムスクの香り)を100℃の蝋混合物に徐々に添加して蜂蜜様粘性溶液を生じた。次に、80gの沸騰脱イオン水を反応器に添加して、乳状蝋/香料混合乳濁液を生成した。この乳濁液に、136gのポリビニルアルコール溶液(重量平均分子量2,000,17.6%固体)を添加し、乳濁液を水浴で40〜50℃に冷却して、安定乳濁液を生成した。その結果生じた乳濁液を、Yamato GA31 ミニ噴霧乾燥機を用いて120℃入口空気温度で噴霧乾燥して、40%の香料を含有するマイクロカプセルを作製した。
【0109】
(発熱線入りシートの作製)
縦横25mm×25mmに裁断した市販のPPC用紙(富士ゼロックス社製、C紙)上に、直径0.2mmのニクロム線を直線状に2mm間隔で配置した後、その上からもう一枚のPPC用紙を貼り合わせた。これによりニクロム線入りの紙基材を2枚得た。
【0110】
(芳香シートの作製)
続いて、このニクロム線入りのシートの片面に、ニクロム線上に沿って2mm毎に、濃度10%のマイクロカプセルを分散させたアルコール溶液を0.2ccづつ滴下した。その後、ニクロム線同士が直交するように、マイクロカプセル溶液を滴下した面上にもう一枚の基材を貼り合わせることで芳香シートを得た。なお、貼り合わせに際しては、表裏面の紙基材のニクロム線同士が交差するポイントと、マイクロカプセル溶液を滴下したポイントとが一致するように調整した。こうして得られた芳香基板は縦横(行方向および列方向)それぞれに12本のニクロム線を有し、ニクロム線同士が交差するポイント(加熱領域の数)は12×12個であった。また、この芳香シートは、サイズが縦横25mm×25mmであり可撓性を有していることから、携帯電話などの筐体表面が湾曲していたり凸凹を有するような携帯型の電子機器に容易に取り付けることができた。
【0111】
(芳香評価)
次に、芳香基板の行方向に配列された各々のニクロム線と列方向に配列された各々のニクロム線とを、各々のニクロム線単位でON/OFF制御ができるように直流電源(電圧1.5Vの乾電池、各々のニクロム線に印加される電圧は1.5V)に接続した。なお、以下の説明において、行方向、列方向の個々のニクロム線を指す場合、1番〜12番の番号を付して区別する。
【0112】
−環境テスト−
次に、全てのニクロム線への導通をOFFとした状態で、芳香基板を、高温高湿環境(温度50度、湿度90%)下に放置し、この際の芳香の有無を確認したが、なんらの芳香も確認できなかった。このことから、一般的な高温環境下では、芳香基板中のマイクロカプセルが熱破壊されないことが確認された。
【0113】
−芳香テスト−
次に、行方向の1番目および2番目のニクロム線と、列方向の1番目と2番目のニクロム線とに、電流を3秒間流したところ、ムスクの香りが確認された。ムスクの香りがしなくなった時点で、今度は、行方向の3番目および4番目のニクロム線と、列方向の1番目と2番目のニクロム線とに、電流を3秒間流したところ、1回目の芳香テストと同程度の強さのムスクの香りが確認された。以上のことから、縦横にニクロム線が交差するポイント近傍に存在するマイクロカプセルが熱破壊されて、マイクロカプセル中の芳香成分が揮散されていることが確認された。
【0114】
−長期放置テスト−
続いて、上記芳香テストを終えた芳香シートを、常温常湿環境(温度23℃、湿度60%)下にて、約1月放置した。その後、行方向の5番目および6番目のニクロム線と、列方向の1番目と2番目のニクロム線とに、電流を3秒間流したところ、1回目および2回目の芳香テストと同程度のムスクの香りが確認された。以上のことから、芳香シートを長期間使用しない状態においても、芳香基板の芳香機能が劣化しないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1は、本実施形態の電子機器に用いられる芳香シートの一例を示す模式断面図である。
【図2】図2は、図1に示す芳香シート10を、片方の面側から見た場合における示す発熱線30、発熱線32および中空部22の配置を示す概略模式図である。
【図3】図3は、図1に示す芳香シート10を、片方の面側から見た場合における示す発熱線30、発熱線32および中空部22の配置を示す概略模式図である。
【図4】図4は、第一の本実施形態の電子機器の構成の一例を示す概略模式図である。
【図5】図5は、第一の本実施形態の電子機器の制御プロセスの一例を示すフロー図である。
【図6】図6は、第一の本実施形態の電子機器の制御プロセスの他の例を示すフロー図である。
【図7】図7は、第一の本実施形態の電子機器の制御プロセスの他の例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0116】
10、12 芳香シート
20A、20B シート状基材
22、22A、22B、22C、22D 中空部
24 連通孔
30、30A、30B、30C、30D 発熱線(発熱素子の一部を構成)
32、32A、32B、32C、32D 発熱線(発熱素子の一部を構成)
40、40A、40B、40C、40D 領域
100 電子機器
102 制御部
104 入力部
106 検出部
108 芳香部
110 放送受信部
112 通信部
114 メモリ部
116 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香シートと、電子機器本体および上記芳香シートから選択される少なくとも一方を制御する1つ以上の制御手段と、を備え、
上記芳香シートが、
透気性を有するシート状基材と、
該シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、
少なくとも該加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、芳香成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有し、
少なくとも上記芳香シートを制御する機能を有する制御手段により上記芳香成分を外部に揮散させる制御信号が入力された際に、少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行い、上記芳香成分を外部に揮散させることを特徴とする電子機器。
【請求項2】
音声情報および画像情報から選択される少なくともいずれかを再生する機能を少なくとも有する携帯型情報再生機器であることを特徴とする請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記芳香シートが、2つ以上の加熱領域を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
一の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに第一の芳香成分が内包され、他の加熱領域内に配置されるマイクロカプセルに上記第一の芳香成分とは異なる種類の第二の芳香成分が内包されることを特徴とする請求項3に記載の電子機器。
【請求項5】
少なくとも前記芳香シートを制御する制御手段が、押しボタン、つまみ、レバー、および、タッチパネルに表示された押しボタンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項6】
音声情報および画像情報から選択される少なくとも一方の情報の再生状態が一時的に停止している場合に、この状態を解除して再生を再開させる機能を有する押しボタンを備え、該押しボタンを押すことに連動させて前記芳香成分を外部に揮散させる芳香機能を発揮させる情報再生プレーヤであることを特徴とする請求項5に記載の電子機器。
【請求項7】
通話を開始する機能を有する押しボタンを備え、該押しボタンを押すことに連動させて前記芳香成分を外部に揮散させる芳香機能を発揮させる携帯電話であることを特徴とする請求項5に記載の電子機器。
【請求項8】
手動により少なくとも2種類以上の異なる形状に可逆的に変形可能であり、一の形状から他の形状への変形動作が、少なくとも前記芳香シートを制御する制御手段として機能し、上記変形動作に連動させて芳香成分を外部に揮散させる芳香機能を発揮することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子機器。
【請求項9】
閉じた形状と開いた形状とに可逆的に変形可能であり、上記閉じた形状から上記開いた形状への変形動作に連動させて前記芳香機能を発揮させる携帯電話であることを特徴とする請求項8に記載の電子機器。
【請求項10】
芳香シートと、
外部から送信される通信情報を自動的に受信すると共に上記通信情報を受信した際に受信信号を発信する機能を備えた受信手段と、を備え、
上記芳香シートが、
透気性を有するシート状基材と、
該シート状基材の一部領域を選択的に加熱する加熱素子と、
少なくとも該加熱素子により選択的に加熱される加熱領域内に配置され、芳香成分を含有する芯材および該芯材を被覆すると共に加熱により破壊される外殻材を含むマイクロカプセルと、を有し、
上記受信信号の発信と連動して、少なくとも1つの加熱領域にて加熱を行い、上記芳香成分を外部に揮散させることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−103939(P2010−103939A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275787(P2008−275787)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.着メロ
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【出願人】(595128455)大栄工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】