電子源のための陰極

熱電子陰極(100)は、2つの電極(104、106)の間に取付けられた個々のカーボンナノチューブ(102)を含む。電極(104、106)は各々、支柱(110、112)および炭素繊維(114、116)を含む。ナノチューブ(102)の長さよりも狭い隙間(118)が2つの炭素繊維の間に設けられ、カーボンナノチューブ(102)がその隙間を埋める。これにより、極めて効率的な熱電子陰極(100)がもたらされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、電子源のための陰極と、このような陰極の製造方法とに関する。特定的であるが限定的ではないこの発明の実現例は、カーボンナノチューブを組込んだ陰極に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
陰極は、現在、たとえばテレビやコンピュータのディスプレイを含む多くの応用例のための電子源において用いられている。現在、これらのディスプレイは主として陰極線管(CRT)またはフラットパネル液晶ディスプレイ(LCD)である。CRTは、典型的には、いわゆる熱電子陰極を組込んだ電子源を用いる。熱電子陰極は、自由電子が概念的に「沸騰」して素子を取除くように素子を加熱することによって作用する。次いで、陰極と陽極との間の電界は、陰極から遠ざかるように電子を加速する。当然、LCDは電子源を必要としない。しかしながら、特に、いわゆる電界放出陰極を組込んだ電子源を用いるフラットパネルディスプレイを含め、電子源を必要とする新しいさまざまなフラットパネルディスプレイ技術が使われるようになってきている。電界放出陰極は、ある程度まで加熱されてもよいが、基本的には陽極と陰極の小さな領域との間に強い電界を集中させることによって作用する。陰極における電界の強度が電子の放出を引起す。
【0003】
ディスプレイに関して、主な目的は最高の画質を達成することである。大抵の場合、熱電子源および電界放出源ではともに、最も安定した最大限の放出電流を得ることによって、最高輝度の最高の画質が達成される。CRTディスプレイについて最も定着している技術、すなわち酸化熱電子陰極により、1A/cm2のオーダの安定した電流密度を達成することができる。10A/cm2ほどの高さの安定した電流密度を達成し得る含浸タングステン熱電子陰極を用いて、性能をより向上させることができる。しかしながら、この種類の陰極は費用がかかり、それ自体が十分に信頼性の高いものであるとはまだ証明されていない。
【0004】
電界放出電子源を用いるフラットパネルディスプレイは現在、試作の段階でしかない。完全に解決しなければならない製造上の問題はまだ多い。たとえば、電界放出電子源は、ガス吸収または陰極の先端の劣化を防ぐために熱電子源よりも高い真空レベルを必要とする。これは製造に費用がかかり、吸入排出なしでたとえば10年以上の製品寿命に亘って維持するのが難しいので、フラットパネルディスプレイとしては非実用的である。同様に、先端への損傷によって電子源の特徴が変わり、これにより所要の電圧が上がり、出力が下がる可能性がある。陰極および陽極はまた、互いに非常に近接して、たとえば数マイクロメートルの距離をおいていなければならず、大量生産に関する問題を招くこととなる。熱電子陰極を組込んだ電子源を用いる別の種類のディスプレイは真空蛍光ディスプレイ(VFD)として公知である。これらは比較的単純なディスプレイであり、たとえば家庭用ハイファイ(Hi−Fi)機器のグラフィックイコライザとして用いられている。複数の熱電子陰極が、モノクロまたはカラーであり得る低電圧蛍光スクリーンに近接して、ある配列に配置される。陰極は、蛍光体に可視光線を放出させるようゲート構成もしくは非ゲート構成で動作するか、または、単純なオン/オフ構成では動作しない。VFDで用いられる陰極は、印加された低い電圧で電子を熱電子的に放出する必要がある。
【0005】
電子源はまた、電子顕微鏡およびX線ビーム機器を含むさまざまな科学機器において用いられる。ディスプレイ応用例のための電子源と同様に、科学機器のための電子源の陰極
は熱電子タイプまたは電界放出タイプのいずれであってもよい。いくつかのハイブリッド陰極タイプも存在するが、これには、たとえば、電子を放出させるのに必要な電界強度を下げる(たとえば、電子作用機能を低下させる)よう加熱される電界放出陰極が含まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、電子顕微鏡などの科学機器のための電子源を考慮すれば、ディスプレイ技術についての問題とは異なる問題に対処しなければならない。たとえば、電流密度だけではなく当該源の安定性も重要であるかもしれない。陰極の寿命はまた、電流密度および電子源の安定性と比べて副次的なものであるかもしれない。これ以外に、放出される電子が高いコヒーレンスおよび/または低いエネルギ広がり(energy spread)を有することが問題となるかもしれない。
【0007】
熱電子源は典型的には安価で、容易に交換でき、作動させるのに電界放出電子源ほど完全な真空を必要としないが、ただし、寿命が比較的短くなる傾向がある。しかしながら、電界放出源と比べると、当該熱電子源は、輝度がほぼ4桁低い。加えて、当該熱電子源が放出する電子の典型的なエネルギ広がりは最大3eVまでであり得、および/または、当該熱電子源はコヒーレンスが不良であり得る。つまり、これらは概して非常に安定している。
【0008】
比較してみると、電界放出電子源ははるかに長い寿命を有するが、はるかに費用がかかり、動作の際により完全な真空を必要とする。電界放出電子源の輝度は、全体的な放出電流がはるかに低いにもかかわらず、熱電子源よりもほぼ4桁高い。これは、電子ビームが従来の熱電子陰極よりもはるかに小さな領域から、印加される電界の方向だけに放出されるためであり、輝度が、通常、単位立体角当りの電流密度として、たとえばAcm-2sr-1として表わされるからである。これらはまた、より低いエネルギ広がり(0.3eVの低さ)で、放出されたビームにおいてはるかに高いコヒーレンスを有する。しかしながら、電界放出電子源は、それらの電界放出先端上において吸収されたガスが蓄積するために固有の不安定性を被る。
【0009】
電界放出電子源の不安定性を克服するために、加熱された電界放出源を有効に含むハイブリッド電子源が開発されてきた。電界放出陰極を加熱することにより、吸収されたガスが除去され、安定性がほぼ3倍向上する。しかしながら、他の領域では、加熱された電界放出源は、加熱されない電界放出源に比べて、必然的に、性能をいくらか損なう。
【0010】
要約すれば、上述の種類の陰極を調べてみると、最適な特徴を有する陰極はまだ開発されていないことが明らかである。既存の熱電子陰極は、単純な構造や、安定した比較的高い電流出力といった利点を有するが、低いコヒーレンスおよび高いエネルギ広がりを被る。一方、電界放出陰極は、高い輝度、高いコヒーレンスおよび低いエネルギ広がりといった利点を有するが、構造が複雑になり、電流出力が不安定で比較的低くなってしまう。
【0011】
この発明はこれらの問題を克服することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
この発明の第1の局面に従うと、電子源のための陰極が設けられる。当該陰極は、
隙間を設けるための支持部と、
ナノワイヤ構造とを含み、当該ナノワイヤ構造は、当該支持部を介して当該ナノワイヤ構造に印加される電位の影響を受けて電子を放出するために当該隙間にわたって延在する

【0013】
すなわち、ナノワイヤ構造は、当該支持部によって設けられる細片、孔、開口部または細隙にわたって延在し得る。当該ナノワイヤ構造は、隙間の一方側から隙間のもう一方側にまで延在してもよい。ナノワイヤ構造が隙間の両側部の支持部上に装着されると、電位が当該支持部を介して当該構造に印加され得る。言い換えれば、当該支持部は概して導電性がある。したがって、当該構造は、それを通って流れる電流によって加熱可能であり、これにより電子の放出が促進される。
【0014】
ナノワイヤ構造は電流を非常によく伝える。これは、この発明の陰極が、従来の熱電子陰極および電界放出陰極に比べて高い電子電流密度を達成し得ることを意味する。同様に、電子が比較的小さな領域、たとえば約1μm〜5μm以下の領域から放出されるので、特により大きな従来の熱電子陰極に比べて、電子のコヒーレンスが概してより高くなり、エネルギ広がりがより低くなる可能性がある。ナノワイヤ構造はまた、極めて均一な温度を有する可能性があり、これにより、放出された電子のエネルギ広がりを低減させるのが容易になり得る。
【0015】
当該支持部は、典型的には、たとえば絶縁材料の基板に取付けられる。一実施例においては、当該支持部および基板は、ナノワイヤ構造を支持するための単一の面を実質的に含み得る。したがって、ナノワイヤ構造は、当該支持部および基板の両方と接触し得る。すなわち、当該基板は隙間を埋め得る。これにより、たとえば、連続面上にナノワイヤ構造を成長させることによって陰極の製造が単純になり得る。
【0016】
別の例においては、ナノワイヤ構造を隙間に吊るしてもよい。すなわち、当該隙間は、ナノワイヤ構造が延在する窪みまたは孔を含み得る。したがって、ナノワイヤ構造は当該隙間を埋め得る。これは、電流の影響下でナノワイヤ構造の加熱の均一性を向上させるのに有用である。
【0017】
様々な種類の陰極には様々なナノワイヤ構造が好適であり得る。この発明は、電界放出源および熱電子源の両方を製造するのに利用され得る。したがって、この発明は、前述の陰極を含む熱電子源を提供する。この発明はまた、前述の陰極を含む電界放出電子源を提供する。これらの陰極は、電子ビーム機器、X線源およびディスプレイにおける用途を見出し得るが、これらの用途には限定されない。
【0018】
一例においては、ナノワイヤ構造は、隙間にわたって延在する単一のナノワイヤを含む。これは非常に単純な構造であるので、大量生産によく向いている。特に、以下により詳細に記載されるように、この構造をもつ陰極は、隙間にわたって、たとえば電界の存在下で触媒粒子間にナノワイヤを成長させることによって比較的簡単に製造することができる。
【0019】
別の好ましい例においては、ナノワイヤ構造は、隙間にわたって延在しかつ電子がそこから放出され得る頂端をもたらすよう互いに接合されたナノワイヤを含む。より特定的には、ナノワイヤ構造は2つのナノワイヤを含み得る。当該2つのナノワイヤは、頂端を形成するよう互いに接合され、当該頂端より遠位の当該隙間の両側部にそれぞれ装着されている。これは、電子が放出される面積を実質的に頂端の面積にまで減らし、結果としてより高い電流密度を達成し得るという利点を有する。この構造を有する陰極はまた、一般に上述の単一のナノワイヤ構造を有する陰極および従来の熱電子陰極よりも指向性よく電子を放出する。実際には、この構造を有する陰極は、従来の電界放出陰極に匹敵するコヒーレンスおよびエネルギ広がりを有する電子ビームを提供し得るが、従来の電界放出陰極で達成できるよりもはるかに高い電流出力をもたらす。
【0020】
さらに別の好ましい例においては、ナノワイヤ構造は、隙間にわたって延在し、かつ電子がそこから放出され得る自由なナノワイヤ端部を残すよう互いに接合されるナノワイヤを含み得る。より特定的には、当該ナノワイヤ構造は、隙間のそれぞれの両側部に装着された2つのナノワイヤを含み得るが、一方のナノワイヤの端部が、もう一方のナノワイヤの長さに沿って当該もう一方のナノワイヤに接合されている。言い換えれば、ナノワイヤはT字型を形成し得るが、2つの端部が隙間のそれぞれの側部に取付けられている。この接合は、もう一方のナノワイヤの長さに沿って中程にあってもよい。同様に、ナノワイヤは互いに対して直交し得る。この構造は、陽極によって印加される電界を用いて自由なナノワイヤ端部から電子が取出される新しい電界放出タイプの陰極に特に適している。しかしながら、これは従来の電界放出陰極に勝るいくつかの利点を有する。たとえば、この発明の陰極の全体の大きさは、従来の電界放出陰極の大きさよりも著しく小さく、たとえば全体でわずか数μmであってもよい。同様に、この発明の陰極は、従来の電界放出陰極よりもはるかに高い電流、たとえば最大約109A/cm2までの電流を伝えることができる。
【0021】
この例はまた、電子の放出を向上させるためのドーピングに向いている。より特定的には、2つのナノチューブ間の接合部がドープされ得る。これにより、当該接合部に半導体接合がもたらされ、所与の電界強度のために陰極によって放出される電子の数を増やすことができる。
【0022】
当該支持部はさまざまな構造を有し得る。一般に、当該隙間は約1〜10μmの幅であるべきであるが、好ましくは約5μmの幅である。この幅は典型的なナノワイヤを支持するのに好適である。実際には、当該隙間は約5μmであることが特に好ましい。この大きさの確実な隙間を設けるのは問題があるかもしれない。そのため、特に好ましい例においては、当該支持部は、隙間を設けるよう互いから間隔をあけて配置された1対の炭素繊維を含む。炭素繊維が有用であるのは、当該炭素繊維が良好な導電体であり、以下により詳細に記載されるようにナノスケールの製造方法に向いているからである。
【0023】
炭素繊維は基板上に装着され得る。しかしながら、特に好ましい例においては、当該支持部は1対の支柱を含み、その各々の上にそれぞれの炭素繊維が装着されている。当該支柱は導電性があり、電気絶縁基板上に装着され得る。これにより、当該支柱を介して電位をナノワイヤ構造に選択的に印加することが可能となる。当該支柱がナノワイヤ構造よりも大きく、たとえば直径が数μmのオーダであり得るので、当該支柱に基づいたマイクロスケールの回路の製造がより容易になる。
【0024】
これは、陰極に関連付けられる回路の製造をより容易にするのに寄与するが、陰極の製造が決して単純ではないことが理解され得る。特に、これは、ナノスケールレベルでの慎重な操作を必要とする。しかしながら、この発明の陰極は、ナノスケール構造を組込んだ他の陰極よりも単純な製造に向いている。
【0025】
したがって、この発明の第2の局面に従うと、電子源のための陰極を製造する方法が提供される。当該方法は、
隙間を設ける支持部を形成するステップと、
当該支持部を介してナノワイヤ構造に印加された電位の影響を受けて電子を放出するためにナノワイヤ構造を当該隙間にわたって延在させるステップとを含む。
【0026】
支持部における隙間にわたってナノワイヤ構造を延在させることは、ナノワイヤ構造を正確に位置決めするのに向いている。たとえば、基板上にナノワイヤ構造のナノワイヤを成長させるのではなく、陰極を形成するよう基板を処理すると、隙間にわたってナノワイ
ヤを成長させることができる。代替的には、ナノワイヤ構造は支持部に取付けられてもよい。言い換えれば、延在させるステップは、隙間をナノワイヤ構造で埋めるステップを含み得る。当該構造が隙間の一方側からもう一方側に延在すると、当該支持部の位置および構造自体がナノワイヤ構造の位置と向きとを規定し得る。これにより、より単純でより信頼性の高い製造が容易になる。
【0027】
当該支持部はさまざまな方法で形成され得る。たとえば、2つの別個の要素を互いに近づけて隙間を設け得る。しかしながら、支持部の一部を除去して隙間を設けることが好ましい。これは概して信頼性がより高い。というのも、ナノスケールの精度で支持部を移動させたり基板に装着したりすることは、基板上に既に装着された支持部のナノスケールの部分を取除くよりも難しいからである。たとえば、当該支持部の部分は、半導体リソグラフィ技術または集束イオンビームミリングを用いて除去されてもよい。
【0028】
しかしながら、特に好ましい例においては、この除去は、当該部分を蒸発させるよう当該支持部に沿って電流を流すステップを含む。たとえば、当該支持部が炭素繊維を含む場合、電流は当該繊維の一部分を蒸発させて、炭素繊維同士の間に隙間を残し得る。炭素繊維はこの技術に特に適している。というのも、これら炭素繊維は、当該繊維のわずかな部分しか蒸発させずに、残りの対の炭素繊維に損傷を与えたりこれを曲げたりすることなく融解する傾向があるからである。同様に、炭素繊維は溶解するのではなく蒸発する傾向があり、結果として、金属融解の際にしばしば見られる金属のビードのような、溶解し再凝固した材料は当該繊維上には堆積しない。
【0029】
当該埋めるステップは、典型的には、当該隙間の両側部上の当該支持部にナノワイヤ構造を取付けるステップを含む。これは、適切な樹脂を用いるかまたは当該支持部に当該構造を溶接することによって達成され得る。しかしながら、特に好ましい例においては、当該埋めるステップは、当該隙間にわたってナノワイヤを成長させるステップを含む。たとえば、触媒粒子が当該支持部に取付けられ得、ナノワイヤが、電界の存在下で所望の方向に成長し得る。これにより、多くの陰極が直ちに、たとえば、ある配列に、成長することが可能となる。
【0030】
ナノワイヤはカーボンナノチューブであってもよい。同様に、ナノワイヤ構造はカーボンナノチューブ構造であってもよい。このため、この発明は、概して、カーボンナノチューブおよびナノ繊維に基づき得る電子源のための陰極に関する。したがって、「ナノワイヤ」という語が、ナノメートルのオーダ、たとえば約1nm〜100nmまたは数百nmのオーダの直径を有する長手の要素を指すよう意図されることが理解されるはずである。同様に、「ナノワイヤ構造」という語は、このようなナノワイヤで構成された構造を指すよう意図されるが、ただし、全体的な寸法、たとえばナノワイヤ構造の長さおよび/または幅は、当然、数マイクロメートル程であってもよい。
【0031】
カーボンナノチューブは、この発明の陰極についての特に有用な特徴を有する。特に、これらは、極めて良好な導電性と比較的高い溶解温度と熱安定性とを有する。これにより、高い電子電流密度を達成することが可能となる。
【0032】
この発明は、いずれかの特定の方法によって製造されるカーボンナノチューブまたはナノ繊維に限定されるものではなく、このため、従来の方法によって製造されるナノチューブおよびナノ繊維をこの発明において用いることができるが、出願人は、化学気相堆積法によって低温で成長する(このため、原子スケールで構造的に欠陥のある)多層カーボンナノチューブが最高レベルの性能を示すことを認識した。これは、(より高温で成長するナノチューブに比べて)一般にカーボンナノチューブの能力を担持する固有の高い電流と組合されると、熱伝導率が比較的低くなるためである。実際に、カーボンナノチューブは
、エネルギ源での処理による成長中または成長後に不純物を加えるかまたはそれらの組成を構造的に変えることにより、より高い抵抗とより多くの欠陥とを持つことになるかもしれない。
【0033】
この特許出願において参照されるカーボンナノチューブおよび繊維が単層または多層ナノチューブであり得ること、すなわち、これらが、黒鉛炭素材料の1つ以上の同心層から構成されると考えられ得ることが理解されるだろう。同様に、これらは、カップスタック(cup-stack)型、竹状またはヘリングボーン状などの他の構成で形成されてもよい。
【0034】
明記されたこの発明はまた、カーボンナノチューブだけに限定されるものではないが、ナノワイヤ、ナノ構造、ウィスカ(whiskers)またはフィラメントのすべての形状に適用され得る。これらは、成長すると、その場で作製され得るかまたはその場外で組立てられ得る。当該材料は、本質的に、結晶質、多結晶質、単結晶質または非晶質であり得る。
【0035】
この発明は、添付の図面を参照して単に例示としてのみ記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
好ましい実施例の詳細な説明
熱電子陰極
図1を参照すると、熱電子陰極100は、2つの電極104と106との間に取付けられた個々のカーボンナノチューブ102を含む。電極104、106は基板上に装着されるか、または、この実施例においては絶縁基部108に取付けられる。電極104、106は各々、支柱110、112および炭素繊維114、116を含む。支柱110、112は各々、基部108に対して概して垂直であり、互いから約3mmの間隔をあけて配置される。炭素繊維114、116は、基部108から遠位の支柱110、112の端部に取付けられ、実質的に単一の軸に沿って互いの方に延在する。この実施例においては、炭素繊維114、116は各々、支柱110、112と実質的に直交し、当該支柱110、112に取付けられ、互いに向かってほぼ等しい距離だけ延在する。このため、電極104、106は、ほぼゴール支柱の形を形成するものと考えられ得るが、ただし、横棒は2つの部分(炭素繊維114、116の各々)に分割されている。炭素繊維114、116の直径は典型的には約5μmであり、支柱110、112は金属でできている。したがって、電極104、106は、カーボンナノチューブ102に良好な電気的接触をもたらす。
【0037】
ナノチューブ102の長さよりも狭い(または短い)隙間118が2つの電極104と106との間に設けられる。より特定的には、炭素繊維114、116は、隙間118分だけ互いから間隔をあけて配置される。この実施例においては、隙間118の幅は4〜5μmであるが、ただし、必要に応じて、たとえば非常に指向性がありコンパクトな電子源のための「ナノギャップ(nano-gaps)」を作り出すためにより小さな隙間118が用いられてもよい。
【0038】
この実施例においては、ナノチューブ102は、化学気相堆積によって比較的低温で成長した多層カーボンナノチューブである。ナノチューブ102は長さが約5μmで、直径が約50nmであるが、ただし、ナノチューブ102は、他の実施例においては著しく異なる直径を有していてもよい。
【0039】
本出願人は、熱電子陰極100が、ナノチューブ102を流れる電流の約3%の放出電流をもたらし得ることを証明した。これは、図2において曲線Aの上限によって表わされる。この値を上回る電流が、異なる陽極構成を用いて、いかなる場合でも約1〜10Vの範囲の非常に低い電圧で集められた。これは、1%未満の典型的な放出電流が達成される
従来の熱電子陰極と比べて全く遜色がない。長さが5μmであり直径が50nmであるナノチューブ102からのこの大きさの放出電流はまた、放出電流密度が5A/cm2を上回ることを示唆する。実際には、放出電流密度は、ほぼ間違いなくこれよりもはるかに高くなるだろう。というのも、1)ナノチューブ102の端部が電極104、106に接合され、このため電極104、106への伝導によって冷却されるので、一般に当該ナノチューブ102の端部が放出するのがわずかに少なくなり、2)電流密度が測定される方法では、放出された電子の100%が集められそうにないからである。
【0040】
熱電子陰極100を製造するために、支柱110、112はまず基板108に取付けられる。これは従来のいくつかの技術を用いて達成することができるが、多くの対の支柱が単一の基板シートに取付けられ、当該対の支柱110、112が、プロセスの後半に必要に応じて当該基板シートを個々の基板に切断することによって分離されることが好ましい。
【0041】
次いで、単一の炭素繊維が支柱110と112との間に取付けられる。当該炭素繊維は、好適な導電性エポキシ樹脂を用いて、溶接または化学成長によって支柱110、112に取付けられてもよい。しかしながら、支柱110、112と炭素繊維との間の接点は良好な導電性を有するはずである。炭素繊維は、典型的には、直径が約5μm〜7μmで長さが約3mmである。
【0042】
炭素繊維が適所にあれば、典型的には約20〜30Vの電圧が、著しい電流制限なしに2つの金属支柱にわたって印加される。炭素繊維が電流を伝えることができないので、当該炭素繊維は隙間118を作り出す途中で融解する。当該隙間118は、炭素繊維の直径とほぼ同じ幅、たとえば約5μm、である。他のマイクロスケールの繊維が用いられてもよいが、炭素繊維を用いることの1つの利点は、欠陥が生じたときに当該繊維の残りが十分に熱くならないために曲げられ、隙間が増大することであり、これは、金属ワイヤを用いる場合にはよくあることである。このため、熱電子陰極100の電極104、106の2つの炭素繊維114、116は単一の炭素繊維から形成される。好ましい実施例においては、これは、基板シート上のいくつかの対の支柱110、112に取付けられたいくつかの炭素繊維のために繰返される。
【0043】
2つの電極104と106との間に隙間118が設けられて、カーボンナノチューブ102が2つの電極端部、たとえば炭素繊維114、116の端部の間に取付けられる。ナノチューブ102を電極104、106に取付ける一方法は、国際特許出願番号PCT/GB2004/000849に記載されるものと類似の方法を用いることであり、この場合、走査電子顕微鏡内の一連のマニピュレータを用いて、ナノチューブを操作し、切断し、互いにまたは好適な基板に溶接する。しかしながら、他のさまざまな方法が用いられてもよい。一実施例においては、ナノチューブ102は、化学成長を用いて電極104、106に取付けられる。これは、不純物および欠陥をナノチューブ102に導入して、潜在的に電子放出を増大させ得るという利点を有し得る。
【0044】
別の実施例においては、カーボンナノチューブ102はその場で成長する。より特定的には、触媒粒子が炭素繊維114、116上に配置される。これらは、繊維114、116に含浸した触媒、たとえばコバルトなどの形を取り得る。別の実施例においては、触媒粒子は、イオン成長を用いて繊維114、116上に成長する。次いで、電界が繊維114と116との間、たとえば触媒粒子間において、カーボンナノチューブ102の長さが延在するよう所望される方向に印加される。同時に、炭素繊維114、116は炭化水素ガス、たとえばメタンまたは場合によっては二酸化炭素に囲まれる。これにより、カーボンナノチューブ102が成長して繊維114と116との間に延在することになる。成長したナノチューブ102は、典型的には、比較的不良の微細構造を有する。しかしながら
、これは、電子放出を向上させ得るので、熱電子陰極にとっては有利である。
【0045】
指向性熱電子陰極
図1に示される熱電子陰極100と同様に、図3に示される指向性熱電子陰極300は、絶縁基部308に取付けられた2つの電極304、306を有する。電極304、306は各々、上述の熱電子陰極100と全く同様に配置される支柱310、312および炭素繊維314、316を含んでおり、たとえば、炭素繊維314と316との間の隙間の幅は約5μmである。しかしながら、指向性熱電子陰極300では、別個のカーボンナノチューブ302a、302bが炭素繊維314、316の各々に接合され、さらに、互いに接合されて頂端を形成している。
【0046】
図3に示される指向性熱電子陰極300の原理は、陰極300の放出領域が、主に、接合されたナノチューブ302a、302bの頂端の先端にあることであるが、これは、接合されたナノチューブ302a、302bがそこを通る電流によって加熱されるからである。これにより、図1に示される熱電子陰極100および熱電子陰極全般に勝る2つの利点が提供される。すなわち、1)放出領域が非常に小さく、2)この放出がかなり高い程度まで指向性を有することである。この種類の陰極300は、電界放出陰極のそれに近い電子ビームのコヒーレンスおよびエネルギ広がりをもたらすが、標準的な電界放出陰極から達成できるよりもはるかに高い電流出力をもたらす。
【0047】
指向性熱電子陰極300は、上述の熱電子陰極100に対するのと同じ技術を用いて製造され得る。しかしながら、カーボンナノチューブ302a、302bはその場で成長し得るが、ナノチューブ302a、302bを適所に溶接することが好ましい。
【0048】
熱的に支援された電界放出陰極
図4を参照すると、熱的に支援された電界放出陰極400は2つのカーボンナノチューブ402a、402bを含み、その各々がそれぞれの電極404、406に取付けられている。この実施例においては、電極404、406は、互いに対して直交して配置され基板(図示せず)に取付けられた金属支柱を含む。基板より遠位にあり、カーボンナノチューブ402a、402bが取付けられている電極の端部は互いから間隔をあけて配置されて、ここでも約5μmの幅である隙間418を形成する。
【0049】
この実施例においては、2つのナノチューブ402a、402bは、向きが互いに対して直交するように互いに接合される。第1のナノチューブ402aの端部は、第2のナノチューブ402bの長さに沿ってほぼ中程で第2のナノチューブ402bに接合される。これにより、T字型を持つナノチューブ構造が形成される。T字型の2つの端部、たとえば第1のナノチューブ402aの一方の端部と第2のナノチューブ402bのもう一方の端部とが電極404、406の端部に接合される。これにより、ナノチューブ402a、402bのうちの1つの一方の端部、たとえば第2のナノチューブ402bのもう一方の端部が自由にされる。
【0050】
使用の際に、抜取り陽極420は、第2のカーボンナノチューブ402bの自由な端部から約10μm〜500μm離れて位置する。電圧が2つの電極402aと402bとの間に印加されると、電流がナノチューブ402a、402bを通って流れて、これらを加熱する。大きな正バイアスが陽極420に印加されると、第2のナノチューブ402bの自由な端部から電子を取出すことが可能となる。この種類の陰極の利点は、まず、陰極400が陰極全体でわずかに数μmしか要さないほど非常に小さく作製され得ることと、次に、カーボンナノチューブの高い電流を流す能力(典型的には109A/cm2を上回る)により、従来の材料から構成された陰極で可能となるよりもはるかに高い放出電流を可能にすることである。
【0051】
他の実施例においては、2つのナノチューブ402a、402bは異なる種類であってもよく、実際には、それらの間の接続部に接合部をもたらすようドープされて、放出されるべき自由な電子の生成を助け得る。
【0052】
熱的に支援された熱電子陰極400は、上述の熱電子陰極100に対するのと同じ技術を用いて製造され得る。しかしながら、カーボンナノチューブ402a、402bはその場で成長し得るが、ナノチューブ402a、402bを適所に溶接することも好ましい。
【0053】
この発明は、カーボンナノチューブおよびナノ繊維に基づいた陰極に関する。読者は、この明細書におけるカーボンナノチューブについての言及が、この明細書中に開示されるこの発明に基づいた装置を作製するようその特性が微細設計され得る微細構造化材料に関する他の材料システムを含むことを理解するだろう。熱電子陰極および電界放出陰極の両方を作り出すための技術が記載される。記載された放出は応用分野および装置アーキテクチャに応じて真空、液体または固体に向けたものであり得る。記載される陰極は、電子顕微鏡における電子源、およびX線管のための超小型の源、ディスプレイ応用例のための陰極線管およびディスプレイ応用例のための電界放出源、個々のまたは複数の源の形をしたe−ビームリソグラフィ源、マイクロ波装置構造、真空マイクロエレクトロニクス、イオンスラスタおよびニュートラライザ(neutralisers)の形をした宇宙での応用例、電界放出照明源などを含むがこれらに限定されない多種多様な応用例における電子エミッタとして用いるのに好適である。
【0054】
この発明の上述の実施例は、この発明がいかに実現され得るかを示す例に過ぎない。記載される実施例に対する修正、変形および変更は当該技術者には明らかとなるだろう。これらの修正、変形および変更は、添付の特許請求の範囲およびその同等物において規定されるこの発明の精神および範囲から逸脱することなくなされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明に従った熱電子陰極を示す概略図である。
【図2】図1の陰極から得られる放出電流を示すグラフである。
【図3】この発明に従った指向性熱電子陰極を示す概略図である。
【図4】この発明に従った熱的に支援された電界放出陰極を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源のための陰極であって、
隙間を設けるための支持部と、
ナノワイヤ構造とを含み、前記ナノワイヤ構造は、前記支持部を介して前記ナノワイヤ構造に印加された電位の影響を受けて電子を放出するために前記隙間にわたって延在する、陰極。
【請求項2】
前記ナノワイヤ構造は、前記隙間にわたって延在する単一のナノワイヤを含む、請求項1に記載の陰極。
【請求項3】
前記ナノワイヤ構造は、前記隙間にわたって延在し電子がそこから放出され得る頂端をもたらすよう互いに接合されるナノワイヤを含む、請求項1に記載の陰極。
【請求項4】
前記ナノワイヤ構造は、前記隙間にわたって延在し電子がそこから放出され得る自由なナノワイヤ端部を残すよう互いに接合されるナノワイヤを含む、請求項1に記載の陰極。
【請求項5】
前記隙間は約1〜10μmの幅である、請求項1から4のいずれかに記載の陰極。
【請求項6】
前記支持部は、前記隙間を設けるよう互いから間隔をあけて配置された1対の炭素繊維を含む、請求項1から5のいずれかに記載の陰極。
【請求項7】
前記支持部は1対の支柱を含み、その各々の上にそれぞれの炭素繊維が装着されている、請求項1から6のいずれかに記載の陰極。
【請求項8】
前記ナノワイヤ構造はカーボンナノチューブ構造である、請求項1から7のいずれかに記載の陰極。
【請求項9】
前記ナノワイヤはカーボンナノチューブである、請求項2から4のいずれかに記載の陰極。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の陰極を含む、熱電子源。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の陰極を含む、電界放出電子源。
【請求項12】
電子源のための陰極を製造する方法であって、
隙間を設ける支持部を形成するステップと、
前記支持部を介してナノワイヤ構造に印加された電位の影響を受けて電子を放出するために前記隙間にわたって前記ナノワイヤ構造を延在させるステップとを含む、方法。
【請求項13】
前記形成するステップは、前記隙間を設けるよう前記支持部の一部分を除去するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記除去は、前記一部分を蒸発させるよう前記支持部に沿って電流を流すステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記延在させるステップは、前記隙間にわたってナノワイヤを成長させるステップを含む、請求項12から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記延在させるステップは、前記隙間の両側部上における前記支持部にナノワイヤ構造
を取付けるステップを含む、請求項12から14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
熱電子源のための陰極であって、前記陰極はカーボンナノチューブ構造を含む、陰極。
【請求項18】
ナノスケールの支持部を製造する方法であって、前記方法は、炭素繊維を融解してそれを二分するステップを含む、方法。
【請求項19】
添付の図面のいずれかを参照して実質的に説明される、電子源のための陰極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源のための陰極であって、
隙間を設けるための支持部と、
ナノワイヤ構造とを含み、前記ナノワイヤ構造は、前記支持部を介して前記ナノワイヤ構造に印加された電位の影響を受けて電子を放出するために前記隙間にわたって吊らされる、陰極。
【請求項2】
前記ナノワイヤ構造は、前記隙間にわたって延在する単一のナノワイヤを含む、請求項1に記載の陰極。
【請求項3】
前記ナノワイヤ構造は、前記隙間にわたって延在し電子がそこから放出され得る頂端をもたらすよう互いに接合されるナノワイヤを含む、請求項1に記載の陰極。
【請求項4】
前記ナノワイヤ構造は、前記隙間にわたって延在し電子がそこから放出され得る自由なナノワイヤ端部を残すよう互いに接合されるナノワイヤを含む、請求項1に記載の陰極。
【請求項5】
前記隙間は約1〜10μmの幅である、請求項1から4のいずれかに記載の陰極。
【請求項6】
前記支持部は、前記隙間を設けるよう互いから間隔をあけて配置された1対の炭素繊維を含む、請求項1から5のいずれかに記載の陰極。
【請求項7】
前記支持部は1対の支柱を含み、その各々の上にそれぞれの炭素繊維が装着されている、請求項1から6のいずれかに記載の陰極。
【請求項8】
前記ナノワイヤ構造はカーボンナノチューブ構造である、請求項1から7のいずれかに記載の陰極。
【請求項9】
前記ナノワイヤはカーボンナノチューブである、請求項2から4のいずれかに記載の陰極。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の陰極を含む、熱電子源。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の陰極を含む、電界放出電子源。
【請求項12】
電子源のための陰極を製造する方法であって、
隙間を設ける支持部を形成するステップと、
前記支持部を介してナノワイヤ構造に印加された電位の影響を受けて電子を放出するために前記隙間にわたって前記ナノワイヤ構造を吊らすステップとを含む、方法。
【請求項13】
前記支持部を形成するステップは、前記隙間を設けるよう前記支持部の一部分を除去するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記支持部の前記一部分を除去するステップは、前記一部分を蒸発させるよう前記支持部に沿って電流を流すステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記隙間にわたって前記ナノワイヤ構造を吊らすステップは、前記隙間にわたってナノワイヤを成長させるステップを含む、請求項12から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記隙間にわたって前記ナノワイヤ構造を吊らすステップは、前記隙間の両側部上における前記支持部に前記ナノワイヤ構造を取付けるステップを含む、請求項12から14のいずれかに記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2006−525633(P2006−525633A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506239(P2006−506239)
【出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002017
【国際公開番号】WO2004/100201
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(595042184)ユニバーシティ オブ サリー (7)