電子物品製造における浸漬錫−銀めっき
【課題】耐ウィスカ性の錫系コーティング層を銅基板の表面に堆積させる方法を提供する。
【解決手段】本方法は、表面を有する銅基板からなる部材に、その基板表面に錫系コーティング層を施すのに有用であり、錫系コーティング層は、0.5〜1.5μmの厚みを有し、銅−錫金属間化合物の生成を抑制し、その金属間化合物の生成抑制は、その物品を少なくとも7回の加熱・冷却サイクルに曝露した際、その各サイクルは、その物品を少なくとも217℃に加熱し、その後20〜28℃に冷却することからなり、その結果、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫コーティング層の領域が残存する。
【解決手段】本方法は、表面を有する銅基板からなる部材に、その基板表面に錫系コーティング層を施すのに有用であり、錫系コーティング層は、0.5〜1.5μmの厚みを有し、銅−錫金属間化合物の生成を抑制し、その金属間化合物の生成抑制は、その物品を少なくとも7回の加熱・冷却サイクルに曝露した際、その各サイクルは、その物品を少なくとも217℃に加熱し、その後20〜28℃に冷却することからなり、その結果、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫コーティング層の領域が残存する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、浸漬めっき法によって錫系コーティング層をめっきするための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬めっき錫は、回路試験(ICT)の試験片寿命、嵌合ピン・プレス用の潤滑性、および優れた半田付け性の改良のための均一な金属コーティングを提供するために、印刷回路板(PWB)用の最終仕上げの代替技術の一つとして使用されて来た。銅と錫間の強い親和性のために、室温でさえ相互拡散がバルク、粒界、および表面拡散路を通して自発的に起こり、錫/銅界面において、および錫系コーティング層の粒界において同様に金属間化合物の形成が起こる。C.Xu,ら,“錫ウィスカの形成のための推進力”IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRONICS PACKAGING MANUFACTURING,28巻,NO.1,2005年1月を参照されたい。室温で、主要な金属間化合物はイータ相(Cu6Sn5)であり、粒界拡散は、バルク拡散より著しく速い。B.Z.Lee and D.N.Lee,“錫ウィスカの自発的成長機構,“Acta Mater.,46巻,pp.3701−3714,1998年。この結果は、錫堆積の粒界におけるCu6Sn5の不規則な成長をもたらす。金属間化合物形成と組合された錫堆積の粒界への銅拡散は、錫堆積内に圧縮応力を発生する。この圧縮応力は、時間と共に増加し、表面欠陥や歪のミスマッチの存在下、錫の酸化層の破壊及びウィスカの形成を誘発する条件を作り出す。K.N.Tu,“バイメタルのCu−Sn薄膜における自発的ウィスカ成長の非可逆的プロセス”Phys.Rev.B,49巻,2030−2034頁,1994年。錫ウィスカは、心臓のペースメーカー、宇宙船、または軍事用武器やレーダーのような高い信頼性を要するシステムにおいて、微細ピッチ回路間の重大な電気的ショートの回路欠陥の主要な潜在性の危険性を有する。F.W.Verdi,“鉛フリー電子技術における電気めっき錫および錫ウィスカ”米国競争力研究所,2004年11月。
【0003】
金属間化合物(η相およびε(Cu3Sn)相の両方)の形成は、優れた半田性に本質的な、コーティング内の遊離の錫を消費する。こうして、アッセンブリにおける充分な使用可能の「遊離」錫を確保するために、1μmの厚みの最少浸漬錫堆積がIPC−4554によって特定される。IPC−4554“印刷回路板用の浸漬錫めっきのための仕様”2007年,IPC Bannockburn,IL。鉛フリーの半田の使用で、半田温度が上昇するに伴い、あるOEMは、最小1.2μmの厚みを求めることさえある。
【発明の概要】
【0004】
まとめると、本願発明は銅基板表面にウィスカ耐性のある錫系のコーティング層を堆積する方法に関する。その方法は、銅基板表面を浸漬錫めっき組成物に接触させることからなる。組成物は、約5g/L〜20g/LのSn2+濃度を提供するに十分なSn2+イオン源、約10ppm〜24ppmのAg+濃度を提供するに十分なAg+イオン源、約60g/L〜120g/Lの硫黄系錯化剤濃度を提供するに十分な硫黄系錯化剤源、からなる。約30g/L〜100g/Lの次亜リン酸塩濃度を提供するに十分な次亜リン酸塩源、約30g/L〜約110g/Lの抗酸化剤濃度を提供するのに十分な抗酸化剤源、少なくとも約12g/Lのピロリドン濃度を提供するのに十分なピロリドン源、並びに約0〜5の組成物のpHを低減させるに十分な濃度の酸からなる。
【0005】
本発明はさらに、表面を有する銅基板;および基板表面に錫系コーティング層からなる物品に関し、当該錫系コーティング層は、0.5μm〜1.5μmの厚みを有し、銅−錫金属間化合物の形成に対する抵抗性を持ち、当該抵抗性は、当該物品を少なくとも7加熱冷却サイクルの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、続いて約20℃〜28℃の温度に冷却し、錫系コーティング層は少なくとも0.25μmの厚みの銅フリーの錫系コーティング層の領域を保持することからなる。
【0006】
その他の目的と特徴は、部分的に明らかであり、部分的に以降に示される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】幾つかの実施例により堆積された錫系コーティング層のウィスカ密度評価のグラフである。
【図2A】室温で2000時間保存したあとの1000倍拡大の錫系コーティング層のSEM顕微鏡写真である。
【図2B】室温で2000時間保存したあとの1000倍拡大の別の錫系コーティング層のSEM顕微鏡写真である。
【図3A】ある保存時間後の最も長いウィスカを示したSEM顕微鏡写真である。この画像は実施例2の方法によって得られたものである。
【図3B】別の保存時間後の最も長いウィスカを示したSEM顕微鏡写真である。同じく実施例2の方法による。
【図3C】さらに別の保存時間後の最も長いウィスカを示したSEM顕微鏡写真である。同じく実施例2の方法による。
【図4】実施例3に記載の通り得られた組成物68Dを用いた銅の上に堆積した錫コーティングの断面のSEM写真である。
【図5】実施例3に記載のように得られた錫系コーティング層におけるSn/Cu原子比のグラフである。
【図6A】高密度のウィスカ(>45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Bから堆積させた錫系コーティング層(200倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図6B】高密度のウィスカ(>45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Bから堆積させた錫系コーティング層(1000倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図7A】中密度のウィスカ(10−45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Aから堆積させた錫系コーティング層(200倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図7B】中密度のウィスカ(10−45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Aから堆積させた錫系コーティング層(1000倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図8A】低密度のウィスカ(1−10ウィスカ/mm2)を有する組成物77Cから堆積させた錫系コーティング層(200倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図8B】低密度のウィスカ(1−10ウィスカ/mm2)を有する組成物77Cから堆積させた錫系コーティング層(1000倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図9A】ウィスカのない(0/mm2)組成物73Aから堆積させた錫系コーティング層(倍率:200倍)を示す。実施例11の方法による。
【図9B】ウィスカのない(0/mm2)組成物73Aから堆積させた錫系コーティング層(倍率:1000倍)を示す。実施例11の方法による。
【図10A】3000熱サイクル後のウィスカのない、1つの鉛フリーのリフローを示した、倍率1000倍のSEM写真である。実施例13の方法による。
【図10B】3000熱サイクル後のウィスカのない、2つの鉛フリーのリフローを示した、倍率1000倍のSEM写真である。実施例13の方法による。
【図11】本発明の方法により堆積させた錫系コーティング層のウィスカ密度に対する銀イオン濃度の効果を示すグラフである。
【0008】
相当する参照の特徴は、その図全体の相当する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、浸漬めっき法によって金属基板上に錫系コーティング層を堆積させる方法及び組成物に関する。ある態様においては、本発明は、浸漬めっきによる金属基板上の錫−銀合金コーティング層を堆積させるための方法及び組成物に関する。ある態様においては、本発明は、浸漬めっき法による組成物から堆積された錫−銀合金からなる最終仕上げ、プリント配線板における銅基板上の最終仕上げとしての錫−銀合金を堆積するための方法及び組成物に関する。
【0010】
本発明の方法は、金属基板、例えば銅基板上に浸漬錫系コーティング層を、合理的に短時間で、すなわち、ある態様においては、当該方法は、約9分間で少なくとも約1μmの厚みの錫系コーティング層を堆積するというような、堆積を可能にするものである。またある態様においては、当該方法は、少なくとも約1.2μmの厚みの錫系コーティング層を約9分間で堆積する。したがって、本発明の方法を用いるめっき速度は、約0.1μm/分、約0.13μm、さらに0.15μmを超え得る。めっき溶液は半田マスクを、特に高い加工温度で潜在的に害するから、浸漬錫めっき溶液に基板を曝す時間を最小化するのが利点である。
【0011】
比較的速い堆積は、単に検討事項ではなく、錫系コーティング層を浸漬堆積させるための組成物を処方することにある。錫系コーティング層を錫とは異なる、例えば銅の物理的及び化学的性質を有する金属上に堆積する態様において、浸漬めっき法による錫系コーティング層の長期安定性、および半田性は、検討事項である。
【0012】
例えば、錫系コーティング層を銅に堆積する態様において、錫ウィスカが錫と銅間の熱膨張率のミスマッチの故に、経時的に形成され得る。錫を被覆した銅が温度変化に曝されるときに、錫被覆が、熱膨張係数(CTE)のミスマッチ、すなわち、錫の22x10−6 K−1および銅の13.4x10−6 K−1の故に、銅基板とは異なる膨張または収縮をする。銅基板およびその基板上の錫コーティングからなる物品の温度が上昇するにつれて、錫は銅基板よりも膨張して錫の被覆内の圧縮応力が発生する。銅基板およびその基板上の錫コーティングからなる物品の温度が下降するにつれて、錫は銅基板よりも収縮して錫の被覆層内の引張応力が発生する。銅基板表面上の錫系コーティング層からなる物品は、熱サイクル中に圧縮応力と引張応力の繰り返しに曝される。錫系コーティング層における圧縮応力はウィスカ―発生の原動力として認識される。
【0013】
金属基板上の錫系コーティング層のウィスカ形成におけるもう一つの原動力は、当該コーティングにおける金属間化合物の形成、コーティング間の熱膨張係数のミスマッチ(不適合)、コーティングおよび基板間の形成する金属間化合物、および基板そのものである。金属間化合物の形成は、コーティングの厚みに依存するコーティングにおける圧縮応力の分布または勾配を生じる。すなわち、勾配分布は、比較的薄いコーティングにおける錫ウィスカの形成に重要な貢献となるが、一方で厚いコーティングは、比較的厚い錫系コーティング層の性質が錫の塊の性質に類似するから、ウィスカ抵抗性になる。
【0014】
本発明の態様において、例えば錫−銀合金層の如き浸漬錫系コーティング層は、例えば銅基板の如き金属基板上に比較的薄いコーティングとして堆積され、本発明の方法による金属基板上のコーティングとして堆積された錫系コーティングは、少なくとも約1000時間の外気温、湿度への延長曝露期間の間、少なくとも2000時間の外気温、湿度への延長曝露期間の間、または3000時間のようなより長い期間の間の外気温、湿度や環境への曝露でさえ錫ウィスカの生成はない。錫系コーティング層は、約0.7μm〜約1.2μm、さらには約0.7μm〜1.0μmの如き、約0.5μm〜約1.5μmの厚みを有する。これらの範囲の厚みを有する比較的薄い錫系コーティング層は、少なくとも1000時間、または2000時間、または3000時間、さらには少なくとも4000時間の延長期間の間、外気温、湿度および環境に曝露されても、錫ウィスカの発生がない。
【0015】
浸漬めっきした錫系コーティング層、例えば錫−銀合金層が金属系基板、例えば銅基板上のコーティングとして堆積された態様において、本発明の方法による錫系コーティング層は、錫系コーティング層が温度の極致に曝される多重熱サイクルのあとでも、ウィスカの発生がないままである。錫系コーティング層は、約0.7μm〜約1.2μmまたは、約0.7μm〜約1.0μmの如き約0.5μm〜約1.5μmの厚みを有し得る。これらの厚み範囲内のコーティングとして本発明の金属基板上に堆積された錫系コーティング層は、−55℃に少なくとも10分間暴露し、その後85℃に少なくとも10分間曝露した、少なくとも約1000回熱サイクルの後でも、錫ウィスカの発生はないままである。
ある態様においては、これらの厚みの範囲内のコーティングとして堆積された本発明の錫系コーティング層は、−55℃に少なくとも10分間暴露し、その後85℃に少なくとも10分間曝露した少なくとも約2000回熱サイクルの後でも、ウィスカの発生はないままである。また別の実施態様においては、これらの厚みの範囲内のコーティングとして堆積された本発明の錫系コーティング層は、−55℃に少なくとも10分間暴露し、その後85℃に少なくとも10分間曝露した少なくとも約3000回熱サイクルの後でも、ウィスカの発生はないままである。
【0016】
幾つかの実施態様においては、それ以上に、本発明の方法は、錫系コーティング層を例えば銅基板上に、多数回鉛フリー・リフローサイクル、例えば少なくとも5回の鉛フリー・リフローサイクル、7回の鉛フリー・リフローサイクル、9回の鉛フリー・リフローサイクル、11回の鉛フリー・リフローサイクル、約13回の鉛フリー・リフローサイクル、または少なくとも約15回の鉛フリー・リフローサイクルを介しても半田可能を維持する。
【0017】
半田性の破壊および錫ウィスカの形成はSn/Cu界面における金属間化合物(IMC)の形成に起因する。錫および銅原子間の自発的相互拡散のために、金属間化合物の形成は不可欠である。一旦、「遊離」の錫がIMC形成によって消費されると、コーティングは最早半田不能になる。IMC形成は温度依存性があり;IMC形成の速度は、温度上昇に伴ない増大する。本発明の錫系コーティングは、代表的リフロープロセスの高温を維持し、IMC形成とウィスカ―発生に抵抗する。それ以上に、コーティングは、半田可能に維持され、多数回のリフローのあとで、表面上の遊離錫の存在を示唆する。
【0018】
幾つかの態様においては、代表的なPWB組立て工程の温度に近似する少なくとも3回の鉛フリー・リフローサイクルの後で、Sn−Cu金属間化合物のない表面領域が少なくとも約0.1μm、錫系コーティング層表面から基板に向かって伸びる錫系コーティング層を堆積させることによって、本発明の錫系コーティング層は半田可能に維持される。幾つかの実施態様において、多数回鉛フリー・リフローサイクル、例えば3鉛フリー・リフローサイクルの間、銅の錫系コーティング層への移動に逆らう錫系コーティング層の堆積によって半田性が維持される。好ましくは、代表的なPWB組立て工程の温度に近似する少なくとも3鉛フリー・リフローサイクルの後で、銅のない表面領域は、少なくとも約0.1μm、錫系コーティング層表面から基板に向かって伸びる。代表的な鉛フリー・リフローサイクルは、少なくとも217℃の温度、例えば約250〜約260℃に曝し、その後室温付近、約20℃〜28℃に冷却することからなる。代表的には、Sn−Cu金属間化合物のない表面領域は、少なくとも5鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも7鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも9鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも11鉛フリー・リフローサイクルの後で、または少なくとも15鉛フリー・リフローサイクルの後でさえも、少なくとも約0.1μm伸びる。幾つかの実施態様においては、錫系コーティング層は、錫系コーティング層への銅の移動に抵抗し、少なくとも5回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、少なくとも7回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、少なくとも9回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、少なくとも11回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、少なくとも15回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、銅がなくなる。
【0019】
好ましくは、Cuおよび/またはSn−Cu金属間化合物のない本発明の錫系コーティング層の表面領域は、少なくとも3鉛フリー・リフローサイクルの後で、各サイクルは約250℃〜約260℃の如き少なくとも217℃に曝し、その後室温付近の約20℃〜約28℃に冷却することからなり、少なくとも5鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも7鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも9鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも11鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも15鉛フリー・リフローサイクルの後で、錫系コーティング層の表面から基板に向かって少なくとも約0.25μmの厚み分拡大する。
【0020】
さらに好ましくは、Cuおよび/またはSn−Cu金属間化合物のない本発明に係る錫系コーティング層の表面領域は、少なくとも3鉛フリー・リフローサイクルの後で、各サイクルは約260℃の如き少なくとも217℃に曝し、その後室温付近に冷却することからなり、少なくとも5鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも7鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも9鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも11鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも15鉛フリー・リフローサイクルの後で、錫系コーティング層の表面から基板に向かって少なくとも約0.35μmの厚み分拡大する。
【0021】
最後に、本発明の方法は、また銅基板に錫系コーティング層を堆積させ、それは、剥離試験によって測定されたように基板への良好な接着性によって特徴づけされる。その剥離試験は、スコッチテープ剥離によってコーティング接着を評価する、業界で用いられる慣用の定性試験で、スコッチテープで被覆層がいくら剥離するかによって0から5の等級が与えられる。
【0022】
錫系コーティング層の銅基板の如き金属基板上へのウィスカ抵抗性の高い程度は、特に好ましい濃度範囲内の錫堆積浴中に銀イオンを含めることによって達成される。本発明は、こうしてさらに銀を含む錫系コーティング層の堆積に更に関する。幾つかの実施態様では、錫系コーティング層は、錫と銀の両種を含む合金からなる。本発明の明細の範囲内において、錫系コーティング層は、錫系合金および他の錫系複合材の両方を含む。合金は、本発明の明細書の範囲内において、錫及び合金形成金属、例えば銀、亜鉛、銅、ビスマス等を含む錫系コーティング層をも網羅する。代表的には、錫濃度は少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも85重量%や少なくとも90重量%の如き少なくとも80重量%であり、幾つかの実施態様においては、少なくとも95重量%である。複合材は、本発明の明細書の範囲内において、錫を含み、任意に合金金属、およびリンの如き非金属材料、例えば四フッ化ポリエチレンの如きポリフッ化ポリマーの如きその他の非金属材料からなる錫系コーティング層をも網羅する。
【0023】
錫系コーティング層を本発明に係る浸漬めっき法によって堆積する組成物には、一般的に、Sn2+イオン源、Ag+イオン源、pH調整剤、錯化剤、速度促進剤、抗酸化剤、および湿潤剤を含む。
【0024】
Sn2+イオン源は、銀イオンと実質的に不溶性の塩を形成しない陰イオンからなる如何なる塩もなり得る。この点において、Sn2+イオン源は、メタンスルホン酸錫及びその他のアルカンスルホン酸錫、酢酸錫、その他の銀イオンと相溶性のある錫塩を含む。好ましい、イオン源は、硫酸錫である。Sn2+イオンとCu金属の間の置換反応はSn2+(チオ尿素)m錯体およびCu+(チオ尿素)n錯体のポテンシャル(電位)によって制御されるので、Sn2+イオン、Cu+イオン、およびチオ尿素の濃度をある好ましい範囲に保持することが望ましい。
【0025】
起電力シリーズにおいて、銅は錫よりも貴であり、錫イオンと銅金属間で交換反応は起こらない。チオ尿素は錫と銅の電位を効果的に反転して交換反応を促進する。溶液中の錫と銅の電位は、めっき組成物中のチオ尿素、錫イオン、および銅イオンの濃度に依存する(銅イオンはフレッシュな浴中には存在しないが、反応の進行と共に次第に蓄積される)。一般に、チオ尿素の濃度が高ければそれだけ、錫と銅間の電位差は大きくなり、よって、堆積速度が速くなる。チオ尿素の濃度はその水中の溶解度によって制限され、室温で約120g/Lである。Sn2+イオン濃度が低ければ低いほど、銅を錯化するのにチオ尿素が得られやすくなり、交換反応を起こす高い原動力を創る。しかし乍、Sn2+イオン濃度が約6g/L未満(SnSO4として約10g/L)のときには、コーティングの接着が減少する。このように、幾つかの実施態様では、Sn2+イオン濃度が約5g/L〜20/Lとなるに十分な濃度のSn2+イオン源が添加される。それは例えば、約6g/L〜約12g/L、または約6g/L〜約10g/Lである。
【0026】
本発明の錫系コーティング層の堆積のための組成物は、さらに錫イオンおよび銅イオンのための硫黄系錯化剤を含む。好ましくは、硫黄系錯化剤は銅と錫の相対起電力電位を反転することが可能である。有益な硫黄系錯化剤には、チオ尿素、N−アリルチオ尿素、N−アリル−N’−β−ヒドロキシエチル−チオ尿素(“HEAT”)、およびアミジノチオ尿素等々が含まれる。硫黄系錯化剤は、好ましいチオ尿素の溶解度限界に近い、約60g/L〜120g/Lの濃度で添加することができる。好ましくは、硫黄系錯化剤は、少なくとも約90g/Lの濃度で存在するが、それは、特に堆積工程の初めに、今までの実験結果は、硫黄系錯化剤の濃度が少なくとも約90g/Lのときに70℃において約9分間堆積させれば所望のコーティング厚みである約1μm以上になることを示すからである。浸漬反応機構は次第に溶液中の銅イオン濃度を増加させるから、堆積の進行につれて、硫黄系錯化剤の濃度を漸次増加させることが好ましい。今までの実験結果では、硫黄系錯化剤は、本発明に係る浸漬錫組成物中の銅イオン1g/Lの堆積当たり約3g/L〜約9g/Lの速度で浸漬めっき組成物に添加されるべきである。その速度は、本発明に係る浸漬錫組成物中の銅イオン1g/Lの堆積当たり約6g/Lの如き、本発明に係る浸漬錫組成物中の銅イオン1g/Lの堆積当たり約5g/L〜約7g/Lである。それ以上に、硫黄系錯化剤の相対堆積速度を上げるための効果は、また、錫イオン濃度に一部依存する。錫イオン濃度が比較的低い、例えば約5g/L〜約10g/Lの錫イオンのときに、硫黄系錯化剤の高い濃度が最も効果的である。錫イオン濃度はあまりに低過ぎて、基板に錫系合金の接着に逆に作用させてはならない。
【0027】
Ag+イオンは、多くの陰イオンと共に水に難溶である。したがって、Ag+イオン源は、硫酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩とその他のアルカンスルホン酸塩、および水に実質的に可溶性のその他の銀塩に限定される。好ましいソースは硫酸銀である。代表的には、Ag+イオン源の濃度は、約10ppm〜約24ppmの銀イオンを提供するに十分であればよく、好ましくは、約12〜24ppmの銀イオン、より好ましくは、約12〜20ppmの銀イオン、または幾つかの実施態様では約10〜16ppmの銀イオンである。この場合、“ppm”は、質量:体積単位である。したがって、この場合の“ppm”は、mg/Lと等価である。以下の実施例から明らかな通り、銀イオン10ppmの最少濃度は、外気温、湿度および環境下で長期保存に際し錫ウィスカを減少させるのに臨界的である。当該組成物中の銀濃度は、錫系合金コーティングにおける不当に高い銀組成を回避するために24ppm未満であるのが好ましい。より特定的には、本発明の浸漬錫組成物から堆積された、約10〜約24PPMの銀イオンからなる錫系コーティング層は、少なくとも約1000時間、少なくとも約2000時間、少なくとも約3000時間、または少なくとも約4000時間でさえ該気温、湿度および環境下に保存されたときに錫ウィスカの成長が見られないのである。
【0028】
本発明の浸漬めっき浴は好ましくは酸性のpHを有する。こうして、浴のpHは、好ましくは約0〜約5、好ましくは約0.2〜約1である。酸の選択は、殆どの銀塩の低い溶解性または実質不溶性によって限定される。このように、好ましい酸性のpHは、硫酸、メタンスルホン酸他のアルカンスルホン酸、酢酸、及び銀イオンと不溶性塩を形成するその他の酸、及びそれら酸の組合せである。一つの好ましい実施態様は、酸が硫酸である。一つの好ましい実施態様で、硫酸(98%以上の濃溶液)の濃度は、約20mL/L〜約100mL/Lであり、好ましくは約30mL/L〜約50mL/Lである。硫酸の濃度は好ましくはこの範囲に保持され、然もなくは組成物が約30mL/L硫酸より低いと、コーティングの厚みが減少する。安定なコーティングの厚みは、当該組成物が約30mL/L〜約50mL/Lの硫酸を含む場合に得られる。半田マスクを損傷するので、それ以上の高い酸濃度は望ましくない。
【0029】
次亜リン酸塩源は、めっき速度促進剤として添加し得る。次亜リン酸塩源は、錫系コーティング層の堆積のための触媒のように作用し、堆積工程において消費されない程度においてめっき速度促進剤として作用する。これは、還元剤が金属イオンを金属に還元するように、通常酸化反応によって消費される還元剤と対照的である。ここで、次亜リン酸塩は、速度促進剤であるから消費されない、すなわち、堆積中に酸化される。次亜リン酸塩源には、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸アンモニウム、及び次亜リン酸を含む。溶液のpHを変化させるソース、例えば、次亜リン酸アンモニウム、ホスフィン酸は、溶液pHに僅かでも影響を与える次亜リン酸塩源より好ましくない。次亜リン酸塩源は、少なくとも0.45M、例えば0.45M〜1.4Mの濃度で添加され、少なくとも約30g/Lの次亜リン酸塩イオン、例えば約30g/L〜約100g/Lの次亜リン酸塩イオンを提供する。次亜リン酸ナトリウムは、最も好ましい速度促進剤である。めっき速度促進剤として機能するために、次亜リン酸ナトリウムの濃度は比較的高く、少なくとも約40g/L、例えば、約40g/L〜約120g/Lである。今までの実験の結果では、次亜リン酸ナトリウム濃度が約70g/L〜約100g/Lであることが、高速錫堆積および9分間の堆積で少なくとも約1μmの厚い錫堆積を達成するため、特に好ましい。
【0030】
抗酸化剤がSn2+イオンのSn4+イオンへの酸化を抑制するために添加され得る。適当な抗酸化剤の例は、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)、グルコン酸、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、フロログルシノール、クレゾールスルホン酸及びその塩、フェノールスルホン酸及びその塩、カテコールスルホン酸及びその塩、ハイドロキノンスルホン酸及びその塩、ヒドラジン等々を含む。
そのような抗酸化剤は、単独で、または2種以上の混合物で使用される。抗酸化剤の濃度は、約30g/L〜約110g/L、例えば、約40g/L〜約80g/Lである。好ましい抗酸化剤はグリコール酸で、70重量%溶液として商業的に入手可能である。適当な結果を得るために、グリコール酸(70重量%)が、浸漬錫組成物に50mL/L〜150mL/L濃度で、好ましくは約70mL/L〜約100mL/Lで添加される。グリコール酸(70重量%)にグリコール酸をこれらの容積濃度で添加すれば、約35g/L〜約105g/Lのグリコール酸、好ましくは約49g/L〜約70g/Lのグリコール酸が提供される。
【0031】
湿潤剤は基板全体に渡って錫系合金の厚さ均一性を促進すべく使用される。ピロリドン源は、好ましい湿潤剤である。この点において、ポリビニルピロリドン(PVP)は特に好ましい湿潤剤源である。PVPは、BASF社製Luvitec(登録商標) K30およびLuvitec(登録商標) K60を含む。PVPは、粉末或いは代表的には30重量%の予備溶解溶液として添加される。均一なコーティングを得るために、PVP濃度は好ましくは少なくとも約12g/L、例えば約12g/L〜約18g/L、または約12g/L〜約15g/Lである。もう一つの湿潤剤源は、1−メチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、またはその組合せである。好ましくは、湿潤剤は1−メチル−2−ピロリドンを含む。幾つかの実施態様においては、湿潤剤源は、1−メチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、またはその組合せのソースをさらにPVPと組み合わせてなる。幾つかの実施態様では、湿潤剤源は1−メチル−2−ピロリドンをPVPと組合せてなる。
【0032】
その他の有用な湿潤剤は、EO/PO共重合体、BASF社製のPluronic(登録商標)添加剤、Pluronic F127, Pluronic P103, Pluronic 123, Pluronic 104, Pluronic F87, Pluronic F38の如きが含まれる。これらは、少なくとも0.01g/L、例えば約0.01g/L〜約3g/Lの濃度で添加される。その他の有用な湿潤剤は、ベタイン系湿潤剤を含む。Raschig GmbH社製のRALUFONS(登録商標)添加剤で、Ralufon DL, Ralufon NAPEが含まれ、少なくとも約0.01g/L濃度、例えば約0.01g/L〜約1g/Lで添加される。硫酸塩湿潤剤として有用なものは、Niacet Corp.社製のNIAPROOF(登録商標) 08を含み、少なくとも約0.01g/L濃度、例えば約0.01g/L〜約1g/Lで添加される。
【0033】
補助的錯化剤は堆積組成物に錫系合金の銀組成および/またはめっき速度を変更するために添加される。補助的錯化剤は、2〜10個の炭素原子を有するアミノ酸の中から選択され;シュウ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸の如きポリカルボン酸;ニトリロ三酢酸の如きアミノ酢酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−プロパノール−N,N,N’,N’−四酢酸、ビス−(ヒドロキシフェニル)−エチレンジアミン二酢酸、ジアミノシクロヘキサン四酢酸、またはエチレングリコール−ビス−((β−アミノエチルエーテル)−N,N’−四酢酸)の如きアルキレンポリアミンポリ酢酸;N,N,N’,N’−テトラキス−(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、エチレンジアミン、2,2’,2”−トリアミノトリエチルアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、およびテトラキス(アミノエチル)エチレンジアミンの如きポリアミン;および、N.N−ジ−(2−ヒドロキシエチル)グリシンが含まれる。補助錯化剤は、少なくとも約1g/L濃度、例えば約1g/L〜約20g/Lで添加される。
【0034】
浸漬めっきによる錫系コーティング層の堆積用の基板は、代表的には銅の如き金属基板である。好ましい態様においては、基板は印刷配線板(PWB)用の銅を含み、錫系コーティング層はPWB用の最終仕上げである。その他の基板は、リードフレームおよび電子機器におけるコネクターを含み、それらもまた代表的には銅で被覆される。本発明の方法は、また、バンプ下金属化におけるダイパッドに錫系コーティング層を堆積させるために適用される。
【0035】
金属基板は処理前に従来の方法を用いて清浄化、およびエッチングされる。基板は、表面をエッチングするためにマイクロエッチングされ、所望の構造(texture)を得る。業界において知られるように、マイクロエッチ組成物は、酸に加えて過酸化物または過硫酸塩の如き酸化剤を含有する。既知のように、酸化剤と酸の比が表面構造(texture)を決定する。今までの実験の結果、粗い表面は錫系合金の厚みを促進するために理想的であることを示す。基板をマイクロエッチ組成物に(浸漬、カスケーディング(水塊の斜面滑降)、スプレイ、または適当なエッチングを施すその他の技術によって)接触させた後で、基板は予備ディップ組成物に接触される。表面の清浄化、薬品投入による錫めっき溶液へのコンタミの防止のための予備ディップ組成物は、約1%〜約7%濃度の硫酸からなり、当該濃度は、エッチングのために約1〜5%、または約1〜3%が例示される。今までの実験の証拠は、予備ディップ組成物の温度は、錫合金層の厚みのバランスの最適化と基板の均一性を果たすために、約20℃〜約50℃が良いことを示唆している。50℃以上では厚い被覆が観察され、これらの被覆は、好ましい温度範囲で堆積された錫層に比べて不均一である。
【0036】
基板が予備ディップ組成物と(浸漬、カスケーディング、噴霧によって)接触させたあとで、基板は本発明に係る錫系合金の堆積組成物に曝される。浸漬めっき法は自己制限的な技術であり、堆積組成物への長時間の曝露は半田マスクに悪影響を与えるから、錫合金を少なくとも約1μm、または約1.2μmの厚みに、基板めっき液への曝露時間を比較的短くして堆積させるのが好ましい。この点で、今までの実験結果では、本発明による方法で約9分間めっきすることで、所望の錫合金の厚みが達成されることを示している。所望の厚みは、代表的には約1μmであるから、本発明の方法は、よって、少なくとも約0.11μm/分のめっき速度、例えば、少なくとも約0.13μm/分、または少なくとも0.15μm/分でさえ達成される。
【0037】
本発明を詳細に記載して、特許請求の範囲に記載した発明の範囲から逸脱しない限度において、変性や変更は可能であることは明らかである。
【実施例】
【0038】
本発明をさらに説明するために、非限定的な実施例を以下に記す。
【0039】
[試料めっき]
以下にそれぞれの実施例において、浸漬機構によって銅片上に錫系コーティング層を堆積するために、一般的な方法が使用された。銅の試験片が、PWB製作、すなわち清浄化、すすぎ、マイクロエッチング(特定しない限り1分間標準)、すすぎ、予備ディップ(サッと浸ける)、めっき加工、すすぎ、および乾燥の最終仕上げに適用するに用いられる一般的なプロセス手続によって調製された。めっき液における流体力学的条件を標準化するために、試験片が約1回/秒の往復運動で、手動でビーカー中でめっきされた。特に指定しない限り、めっき液中の滞留時間は9分間であった。
【0040】
[錫の膜厚測定]
錫系コーティング層の厚みはX線蛍光分析(XRF)及び連続式電気化学的還元分析(SERA)を用いて測定された。XRF測定は、精度向上のためのL−シリーズX線を取付けた、セイコーインスツル社製のSEA 5210 エレメントモニターMXを用いて行なった。SERA試験は、ECIテクノロジー社製のSURFACE−SCAN(登録商標) QC−100TMで、5%塩酸作業溶液およびAg/AgCl標準電極を用いて行なった。P.Bratinら著「SERAを用いた浸漬錫コーティングの表面評価」を参照されたい。電流密度:4500μA/cm2およびガスケット開口部は直径0.160cmの一致曝露試験面積を備えていた。ηおよびεの厚みは、各々の密度と組成物を用いて純錫の「等価」厚みに変換され、その結果、純錫の等価の総厚みが得られ、XRFによって測定された測定値に対して比較された。単一の試験スポットは、湿潤バランス試験のために溶融はんだ中に浸漬された領域から離れた対向端部で、湿潤バランス試験片の各々について測定された。このように、遊離の錫の相対厚みの変化および連続リフローサイクルによって誘導された金属間化合物(IMCs)が、詳述され、相当する湿潤バランス試験に関連する。
【0041】
[ウィスカ検査]
初期の検査がARMRY 3200C 走査型電子顕微鏡(SEM)によって、めっき直後に試験片上200倍の倍率で行なわれた。総検査面積は、JESD22A121によれば75mm2であった。「ウィスカ成長測定の試験方法、及び錫および錫合金表面仕上げ」JEDEC 固体状態技術協会、JESD22A121.01 2005年10月参照。試験片は、その後エージング試験のために該気温/湿度に曝された。1000時間毎に、試験片の同じ領域がSEM下、200倍の倍率で再検査された。もしこのスクリ−ニング検査でウィスカが検知されないならば、その読み取り点における詳細な検査は必要ない。もしウィスカがスクリーニング中に検知されれば、1000倍のSEM下でスクリーニング中に検知された最長の錫ウィスカを拡大して詳細な検査を行なわれた。単位面積当たりのウィスカ数(ウィスカ密度)が記録された。JESD22A121によれば、錫ウィスカ密度は、低、中および高の三段階に分類される。しかし乍、ウィスカを示さない試料をさらに区別するために、4つ目の分類、「なし」が加えられた。ウィスカ密度分類は、以下の表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
[熱サイクル試験]
錫被覆銅が温度変化に付されたときに、錫系コーティング層は、熱膨張係数(CTE)のミスマッチ、すなわち、錫のCTEが22X10−6 K−1、銅のCTEが13.4X10−6 K−1のために、銅基板とは異なって膨張或いは収縮する。高温では、錫は銅基板よりも膨張し、錫コーティング内に圧縮応力をもたらす。低温では、錫は銅基板よりも収縮して、錫コーティング内に引張応力をもたらす。したがって、錫系コーティング層は、熱サイクル中に圧縮引張応力の変化を伴なう。錫系コーティング層の圧縮応力はウィスカ生成の原動力として認識され、熱サイクルは、錫系コーティング層のウィスカ生成に対する抵抗性を評価するための促進試験として開発された。ここで、熱サイクル試験は、シンシナティー・サブ−ゼロCSZ昇温室内で行なわれた。各サイクルにおいて、試料は−55℃に10分間、次いで85℃に10分間曝露された。要するに、それは伝統的な熱サイクル試験と云うよりは、熱衝撃試験であった。熱サイクル試験の前に、試料は鉛フリー・リフロー処理で整えられた。試料は、3000時間の後にウィスカ検討から解放された。
【0044】
[模擬的アッセンブリ・リフロー調整]
試験片の調整は、5ゾーンBTU TRSコンベイヤード・リフロー・ユニットを用いて、対流およびIR加熱要素を利用して完遂された。試験片は、モデル化した鉛フリーのアッセンブリ・リフローサイクルを介して加工された。直線的傾斜プロファイルは1.5℃/秒の傾斜速度を有し、250〜260℃の最高温度で、液体化(217℃)以上の温度で49秒間、次いで次のリフローサイクルの前に室温までに冷却された。単一サイクルは代表的には5〜10分間を要する。12個の湿潤バランス試験片の3セットには、それぞれに浸漬錫コーティングが施され、最高15リフローサイクル以上リフローを通して加工された。コントロールとして、各コーティングセットから2つの試験片がリフローされずにテストされた。
【0045】
[湿潤バランス試験]
半田性は、ロボティック・プロセス・システムズ社製の6シグマ湿潤バランス半田性テスターを用いて、IPC/EIA J−STD−003A セクション4.3.1に従って湿潤バランス試験によって評価された。ジョイント工業標準:「印刷板用の半田性試験」IPC/EIA J−STD−003A,IPC,バノックバーン,IL参照。Alpha Metal社製EF−800ロジンフラックス(固形分6%)、およびSAC 305 半田機が以下の表2に列挙した試験パラメータで使用された。注文構成の湿潤バランス試験片は、電解質銅1.0オンスにめっきされた、0.062インチ二重側部1/2オンス銅箔被覆されたFR−4積層からなる。調整後の相対半田性は各片のために作られた湿潤曲線を比較して決定される。
【0046】
【表2】
【0047】
[実施例1]浸漬錫めっきおよび組成物
銅片は、添加される銀イオン濃度を変えて調製した、4つの浸漬錫めっき組成物、68A,68B,68C,並びに68Dの各々に、9分間浸漬錫めっきに付して調製された。錫めっきに先立ち、銅片は2%濃度の硫酸からなる組成物に24℃で予備ディップして調整された。浸漬錫めっき組成物は、浸漬銀めっきの最中に、約70℃の温度に保持された。以下の濃度の成分を含む4つの浸漬錫めっき組成物の各々:
硫酸錫(12g/L、約6.6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸(濃縮、98%溶液、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(80g/L)
ポリビニルピロリドン(PVP K30,12g/Lの固体粉末が30重量%40mLとして添加し得る)
【0048】
4つの浸漬錫めっき組成物で、以下の表に示された濃度の銀イオンを産出するのに十分な濃度の硫酸銀を含む。表3は、錫コーティング層の厚みおよび周囲温度・環境で3,000時間保存されたウィスカ密度を示す。
【0049】
【表3】
【0050】
ウィスカ密度データは、低い銀濃度の含有は、3000時間の周囲条件でのエージングの後でさえも、ウィスカ密度を減少させる。然るに初期条件下の全ての試料にはウィスカは検出されなかったが、1000時間後には、著しい変化が見られた。図1は、実施例1及びその他の実施例によって堆積された錫コーティング層のウィスカ密度範囲のグラフ描写である。錫ウィスカ密度範囲は、3000時間までの周囲保存条件においては、変化がなく、ウィスカ密度は定温放置期間後に、平衡に近付く。ウィスカを有する(組成物68Aからの)錫コーティング層およびウィスカ非検出の(組成物68Dからの)錫コーティング層の間の比較は、1000倍の倍率で2000時間の保存後のものが図2Aおよび2Bに示された。図2Aは、室温で2000時間保存後の組成物68Aから堆積された錫コーティング層のSEM画像である。図2Bは、室温で2000時間保存後の組成物68Dから堆積した錫コーティング層のSEM写真である。
【0051】
[実施例2]ウィスカ長
最大ウィスカ長はウィスカの傾向とリスクを記載するためにしばしば用いられるもう一つのパラメータである。B.D.Dunn,「電子材料におけるウィスカ生成」サーキット・ワールド;2(4):32−40,1976年刊行参照。最長ウィスカはスクリーニング検査中(倍率200倍)に検出されそして詳細検査中(倍率1000倍)に記録される。図3A、3Bおよび3Cは、それぞれ1000時間(図3A)、2000時間(図3B)、3000時間(図3C)の保存時間で「高い」ウィスカ密度を示した組成物68Aにてめっきされた金属片の固定した領域で、最長ウィスカを示したSEM写真である。「最長」ウィスカは保存時間に伴ない成長した。ウィスカ生成のリスクは、したがってウィスカ密度ばかりでなく、ウィスカ長にも起因する。
【0052】
[実施例3]断面解析
周囲条件下5100時間保存後にウィスカを生成しなかった組成物68Dの断面図は、焦点絞りイオンビーム(FIB)によって作成され、エネルギー分散分光法(EDS)によって検討された。図4に示したように、組成物68Dを用いて堆積した錫コーティング層を5100時間周囲条件下でエージングした後の断面のSEM写真である。そこには「遊離した」錫中に分散したナノサイズの粒子があり、IMC(金属間化合物)層は均一でなく、その中に積層構造を表示する。Sn/Cuの原子比は、錫コーティング、IMC、銅基板を通って垂直に幾つかのスポットで次第に減少する(Sn/Cu原子比を示す図5参照)。しかし乍、EDSの解像度は約0.5μmであるから、それは総厚みの約1μmと比べて比較的大きく、試料は53°(度)傾斜しており、このSn/Cu原子比は、単に組成物の定性的推測にすぎない。
【0053】
[実施例4]浸漬錫めっきおよび組成物
銅片は、添加される銀イオン濃度を変えて調製した、4つの浸漬錫めっき組成物、70A,70B,70C,並びに70Dの各々に、9分間浸漬錫めっきに付して調製された。錫イオンの溶液中の濃度は、実施例1の組成物に比べて減少し、一方で、チオ尿素濃度は増大した。それに加えて、グリコール酸が組成物に添加された。浸漬錫めっきに先立ち、銅片は2%硫酸からなる組成物に24℃の温度で予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。4つの浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸(濃縮品、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
グリコール酸(70%溶液50mL/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0054】
4つの浸漬錫めっき組成物は、以下の表に示した濃度で銀イオンを産出するに十分な濃度の硫酸銀を含む。表4は、また錫コーティング層の厚みおよび周囲温度および環境下で3000時間保存後のウィスカ密度を示す。
【表4】
【0055】
ウィスカ密度データは、比較的低い銀濃度含有が周囲条件で3000時間後でさえもウィスカ密度を減少させたことを示す。それ以上に、実施例1記載の方法によって堆積された錫系コーティング層に比べて、グリコール酸の含有は、錫堆積から銀が存在しない場合でさえウィスカ密度を減少させた。
【0056】
[実施例5]浸漬錫めっきおよび組成物
銅片は、浸漬錫めっき組成物71Aおよび72Bの各々に9分間浸漬錫めっきに付して調製された。実施例1の組成物に比べて溶液中の錫イオン濃度は減少され、一方で、チオ尿素の濃度は減少された。それに加えて、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が組成物に添加された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン24ppm)
硫酸(濃縮品、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
ジエチレントリアミン五酢酸、DTPA(10g/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0057】
組成物71Bは、VEE GEE 100,白粉型Bゲル化(Vyse Gelatin社製)2.2g/Lを追加して含有し、それは粒子細分化剤として作用する。表5は、錫コーティング層の厚みおよび周囲温度および環境に3000時間保存後のウィスカ密度を示す。
【0058】
【表5】
【0059】
両組成物は、周囲条件下、3000時間のエージング後でさえもウィスカ成長に抗する錫系コーティング層を堆積した。VEE GEE添加剤はコーティングの厚みを増加させたが、堆積錫系コーティング層の銀組成を減少させた。
【0060】
[実施例6]浸漬錫めっき及び組成物
銅片は準備後、クエン酸を含む浸漬錫めっき組成物72Aに9分間浸漬錫めっきに付された。この実験は、めっき速度に対するクエン酸および錫系コーティング層における銀濃度の効果を決定するために行われた。浸漬錫めっきに先立って、浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン24ppm)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
クエン酸(10g/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0061】
組成物72Aから堆積された錫系コーティング層は、15.4重量%の銀を含み、トータル9分間の堆積後に0.92μmの厚みを有していた。錫系コーティング層は、周囲条件で3000時間保存後の錫ウィスカ生成に耐性を示した。
【0062】
[実施例7]浸漬錫めっき及び組成物
銅片が準備され、浸漬錫めっき組成物74Bに9分間浸漬錫めっきに付された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン24ppm)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
グリコール酸(70%溶液100mL/L)
ポリビニルピロリドンPVP(K30,15g/L)
【0063】
錫系コーティング層が組成物74Bから堆積され、12.3重量%の銀を含有しており、9分間の堆積後に総厚み1.14μmの錫系コーティング層を有していた。錫銀合金は周囲条件において3000時間後のウィスカ生成に抵抗し、剥離試験において基板への優れた接着性を発揮した。剥離試験は、業界で用いられた定性試験で、実際の基準なしでスコッチテープの引張りによって被覆接着性を評価したものである。スコッチテープでいくらコーティングが剥離されたかによって0〜5の順位が付与された。この実施例の錫−銀合金は剥離試験で5の評価を記録した。
【0064】
[実施例8]浸漬錫めっき及び組成物
銅片が準備され、銀イオンの濃度を変更して調製された3つの浸漬錫めっき組成物69A,69Bおよび69Cの浸漬錫めっき組成物の各々に9分間浸漬錫めっきに付された。浸漬錫めっきに先立って、浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(12g/L,約6.6g/LのSn2+イオンを供給)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(80g/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0065】
浸漬錫めっき組成物以下の表に示された濃度の銀イオンを産出するに十分な濃度の硫酸銀を含んでいた。表6は、また錫系コーティング層の厚みおよび周囲温度および環境下で3000時間保存されたあとのウィスカ密度を示す。69Bにおけるウィスカ密度の高い程度は、長いエッチング時間、すなわち2分間からもたらされ、1分間の標準エッチと相反する。各堆積は剥離に対して高い抵抗を示した。
【0066】
[実施例6]ウィスカ密度に与える銀濃度の効果
【表6】
【0067】
[実施例9]浸漬錫めっき及び組成物
銅片は、準備され、硫黄系錯化剤濃度を変更して調製された2つの浸漬錫めっき組成物73Aおよび73Bの各々に9分間浸漬錫めっきに付され、一方で、両方の組成物において銀イオン組成は同じであった。これら2つの溶液において、N−アリル−N’−β−ヒドロキシエチル−チオ尿素(表では“HEAT”)がチオ尿素に加えて添加された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン23ppm)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0068】
表7は、各溶液に添加されたN−アリル−N’−β−ヒドロキシエチル−チオ尿素(“HEAT”)濃度および錫系コーティング層の銀組成、錫系コーティング層の厚み、周囲温度および環境下で3000時間保存後のウィスカ密度を示す。
【0069】
【表7】
【0070】
[実施例10]浸漬錫めっき組成物
銅片は、準備され、硫黄系錯化剤濃度を変更して調製された3つの浸漬錫めっき組成物77A、77B、77Cの各々に9分間浸漬錫めっきに付され、これらの組成物は、ポリビニルピロリドン(PVP)の添加によって銀イオン濃度を変化させて調製された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.6g/L,約5.9g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
ポリビニルピロリドン(PVP K30,40g/L)
【0071】
浸漬錫めっき組成物以下の表に示された濃度の銀イオンを産出するに十分な濃度の硫酸銀を含んでいた。表8は、また錫−銀堆積の銀組成、錫系コーティング層の厚みおよび周囲温度および環境下で3000時間保存されたあとのウィスカ密度を示す。各堆積層は基板からの剥離に高い抵抗を示した。
【0072】
【表8】
【0073】
[実施例11]浸漬錫めっき
実施例8,9及び10の組成物を用いて錫コーティング層でめっきされた銅片は、周囲温度および環境下で3000時間のエージングに付された。図6A(200倍拡大)および図6B(1000倍拡大)は高いウィスカ密度(>45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Bから堆積された錫系コーティング層を示す。図7A(200倍拡大)および図7B(1000倍拡大)は、中程度のウィスカ密度(10−45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Aから堆積された錫系コーティング層を示す。図8A(200倍拡大)および図8B(1000倍拡大)は、低いウィスカ密度(1−10ウィスカ/mm2)を有する組成物77Cから堆積された錫系コーティング層を示す。図9A(200倍拡大)および図9B(1000倍拡大)は、ウィスカのない(0ウィスカ/mm2)組成物69Cから堆積された錫系コーティング層を示す。
【0074】
[実施例12]浸漬錫めっき及び組成物
銅片が準備され、2つの浸漬錫めっき組成物80B、80Cに9分間浸漬錫めっきに付された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.0g/L,約5.5g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン16ppm)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
ポリビニルピロリドンPVP(K30,15g/L)
【0075】
[実施例13]熱サイクルに対するウィスカ抵抗性
実施例12の浸漬錫めっき組成物が銅片上に1.10μmの厚みに錫系コーティング層を堆積させるのに用いられた。錫コートされた銅片が上述のように3000回の熱サイクルに付され、その後、2回の鉛フリー・リフローに上述のように付された。図10A、10Bは1000倍のSEM写真で、3000回の熱サイクルおよび1回の鉛フリー・リフロー後(図10A)、および3000回の熱サイクルおよび2回の鉛フリー・リフロー後(図10B)のウィスカの生成がないことを示している。
【0076】
上記の実施例の実験結果から、以下の結論が導かれる:
(1)ウィスカ密度および最大ウィスカ長は、ウィスカ生成の傾向を記載するために必要である。
(2)本発明の方法によって堆積された浸漬錫系コーティング層は、3000時間の周囲条件のエージングおよび3000回の熱サイクル後でウィスカの生成がなかった。1つの観点においては、銀イオン濃度が図11に示したように、エージング後のウィスカ成長挙動に影響したと云える。
(3)本発明の方法によって堆積された浸漬錫系コーティング層の厚みは、銅表面の粗度に依存する。粗度が増加すると、錫結晶サイズおよび錫コーティングの厚みは増加する。
(4)本発明の方法によって堆積された浸漬錫コーティングは、15回の鉛フリー・リフローサイクルを通じたコンディショニングの後でも堅牢な半田性を維持する能力を有していた。
【0077】
本発明の要素、或いはその好ましい実施態様を紹介する際に、冠詞はその要素が1個または複数あることを意味するように意図される。「〜からなる」、「含む」、「有する」は、包括的で、列挙された要素以外の追加要素があり得る。
上記の観点から、発明の幾つかの目的は達成され、その他の有利な結果が得られた。
本発明の範囲から逸脱しなければ、種々の変更は上記の組成物及び方法において可能であるから、上記明細書及び付帯する図面に含まれる全ての事項は、事例的と解され、限定的意味において解釈されないことが意図されている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、浸漬めっき法によって錫系コーティング層をめっきするための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬めっき錫は、回路試験(ICT)の試験片寿命、嵌合ピン・プレス用の潤滑性、および優れた半田付け性の改良のための均一な金属コーティングを提供するために、印刷回路板(PWB)用の最終仕上げの代替技術の一つとして使用されて来た。銅と錫間の強い親和性のために、室温でさえ相互拡散がバルク、粒界、および表面拡散路を通して自発的に起こり、錫/銅界面において、および錫系コーティング層の粒界において同様に金属間化合物の形成が起こる。C.Xu,ら,“錫ウィスカの形成のための推進力”IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRONICS PACKAGING MANUFACTURING,28巻,NO.1,2005年1月を参照されたい。室温で、主要な金属間化合物はイータ相(Cu6Sn5)であり、粒界拡散は、バルク拡散より著しく速い。B.Z.Lee and D.N.Lee,“錫ウィスカの自発的成長機構,“Acta Mater.,46巻,pp.3701−3714,1998年。この結果は、錫堆積の粒界におけるCu6Sn5の不規則な成長をもたらす。金属間化合物形成と組合された錫堆積の粒界への銅拡散は、錫堆積内に圧縮応力を発生する。この圧縮応力は、時間と共に増加し、表面欠陥や歪のミスマッチの存在下、錫の酸化層の破壊及びウィスカの形成を誘発する条件を作り出す。K.N.Tu,“バイメタルのCu−Sn薄膜における自発的ウィスカ成長の非可逆的プロセス”Phys.Rev.B,49巻,2030−2034頁,1994年。錫ウィスカは、心臓のペースメーカー、宇宙船、または軍事用武器やレーダーのような高い信頼性を要するシステムにおいて、微細ピッチ回路間の重大な電気的ショートの回路欠陥の主要な潜在性の危険性を有する。F.W.Verdi,“鉛フリー電子技術における電気めっき錫および錫ウィスカ”米国競争力研究所,2004年11月。
【0003】
金属間化合物(η相およびε(Cu3Sn)相の両方)の形成は、優れた半田性に本質的な、コーティング内の遊離の錫を消費する。こうして、アッセンブリにおける充分な使用可能の「遊離」錫を確保するために、1μmの厚みの最少浸漬錫堆積がIPC−4554によって特定される。IPC−4554“印刷回路板用の浸漬錫めっきのための仕様”2007年,IPC Bannockburn,IL。鉛フリーの半田の使用で、半田温度が上昇するに伴い、あるOEMは、最小1.2μmの厚みを求めることさえある。
【発明の概要】
【0004】
まとめると、本願発明は銅基板表面にウィスカ耐性のある錫系のコーティング層を堆積する方法に関する。その方法は、銅基板表面を浸漬錫めっき組成物に接触させることからなる。組成物は、約5g/L〜20g/LのSn2+濃度を提供するに十分なSn2+イオン源、約10ppm〜24ppmのAg+濃度を提供するに十分なAg+イオン源、約60g/L〜120g/Lの硫黄系錯化剤濃度を提供するに十分な硫黄系錯化剤源、からなる。約30g/L〜100g/Lの次亜リン酸塩濃度を提供するに十分な次亜リン酸塩源、約30g/L〜約110g/Lの抗酸化剤濃度を提供するのに十分な抗酸化剤源、少なくとも約12g/Lのピロリドン濃度を提供するのに十分なピロリドン源、並びに約0〜5の組成物のpHを低減させるに十分な濃度の酸からなる。
【0005】
本発明はさらに、表面を有する銅基板;および基板表面に錫系コーティング層からなる物品に関し、当該錫系コーティング層は、0.5μm〜1.5μmの厚みを有し、銅−錫金属間化合物の形成に対する抵抗性を持ち、当該抵抗性は、当該物品を少なくとも7加熱冷却サイクルの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、続いて約20℃〜28℃の温度に冷却し、錫系コーティング層は少なくとも0.25μmの厚みの銅フリーの錫系コーティング層の領域を保持することからなる。
【0006】
その他の目的と特徴は、部分的に明らかであり、部分的に以降に示される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】幾つかの実施例により堆積された錫系コーティング層のウィスカ密度評価のグラフである。
【図2A】室温で2000時間保存したあとの1000倍拡大の錫系コーティング層のSEM顕微鏡写真である。
【図2B】室温で2000時間保存したあとの1000倍拡大の別の錫系コーティング層のSEM顕微鏡写真である。
【図3A】ある保存時間後の最も長いウィスカを示したSEM顕微鏡写真である。この画像は実施例2の方法によって得られたものである。
【図3B】別の保存時間後の最も長いウィスカを示したSEM顕微鏡写真である。同じく実施例2の方法による。
【図3C】さらに別の保存時間後の最も長いウィスカを示したSEM顕微鏡写真である。同じく実施例2の方法による。
【図4】実施例3に記載の通り得られた組成物68Dを用いた銅の上に堆積した錫コーティングの断面のSEM写真である。
【図5】実施例3に記載のように得られた錫系コーティング層におけるSn/Cu原子比のグラフである。
【図6A】高密度のウィスカ(>45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Bから堆積させた錫系コーティング層(200倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図6B】高密度のウィスカ(>45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Bから堆積させた錫系コーティング層(1000倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図7A】中密度のウィスカ(10−45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Aから堆積させた錫系コーティング層(200倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図7B】中密度のウィスカ(10−45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Aから堆積させた錫系コーティング層(1000倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図8A】低密度のウィスカ(1−10ウィスカ/mm2)を有する組成物77Cから堆積させた錫系コーティング層(200倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図8B】低密度のウィスカ(1−10ウィスカ/mm2)を有する組成物77Cから堆積させた錫系コーティング層(1000倍拡大)を示す。実施例11の方法による。
【図9A】ウィスカのない(0/mm2)組成物73Aから堆積させた錫系コーティング層(倍率:200倍)を示す。実施例11の方法による。
【図9B】ウィスカのない(0/mm2)組成物73Aから堆積させた錫系コーティング層(倍率:1000倍)を示す。実施例11の方法による。
【図10A】3000熱サイクル後のウィスカのない、1つの鉛フリーのリフローを示した、倍率1000倍のSEM写真である。実施例13の方法による。
【図10B】3000熱サイクル後のウィスカのない、2つの鉛フリーのリフローを示した、倍率1000倍のSEM写真である。実施例13の方法による。
【図11】本発明の方法により堆積させた錫系コーティング層のウィスカ密度に対する銀イオン濃度の効果を示すグラフである。
【0008】
相当する参照の特徴は、その図全体の相当する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、浸漬めっき法によって金属基板上に錫系コーティング層を堆積させる方法及び組成物に関する。ある態様においては、本発明は、浸漬めっきによる金属基板上の錫−銀合金コーティング層を堆積させるための方法及び組成物に関する。ある態様においては、本発明は、浸漬めっき法による組成物から堆積された錫−銀合金からなる最終仕上げ、プリント配線板における銅基板上の最終仕上げとしての錫−銀合金を堆積するための方法及び組成物に関する。
【0010】
本発明の方法は、金属基板、例えば銅基板上に浸漬錫系コーティング層を、合理的に短時間で、すなわち、ある態様においては、当該方法は、約9分間で少なくとも約1μmの厚みの錫系コーティング層を堆積するというような、堆積を可能にするものである。またある態様においては、当該方法は、少なくとも約1.2μmの厚みの錫系コーティング層を約9分間で堆積する。したがって、本発明の方法を用いるめっき速度は、約0.1μm/分、約0.13μm、さらに0.15μmを超え得る。めっき溶液は半田マスクを、特に高い加工温度で潜在的に害するから、浸漬錫めっき溶液に基板を曝す時間を最小化するのが利点である。
【0011】
比較的速い堆積は、単に検討事項ではなく、錫系コーティング層を浸漬堆積させるための組成物を処方することにある。錫系コーティング層を錫とは異なる、例えば銅の物理的及び化学的性質を有する金属上に堆積する態様において、浸漬めっき法による錫系コーティング層の長期安定性、および半田性は、検討事項である。
【0012】
例えば、錫系コーティング層を銅に堆積する態様において、錫ウィスカが錫と銅間の熱膨張率のミスマッチの故に、経時的に形成され得る。錫を被覆した銅が温度変化に曝されるときに、錫被覆が、熱膨張係数(CTE)のミスマッチ、すなわち、錫の22x10−6 K−1および銅の13.4x10−6 K−1の故に、銅基板とは異なる膨張または収縮をする。銅基板およびその基板上の錫コーティングからなる物品の温度が上昇するにつれて、錫は銅基板よりも膨張して錫の被覆内の圧縮応力が発生する。銅基板およびその基板上の錫コーティングからなる物品の温度が下降するにつれて、錫は銅基板よりも収縮して錫の被覆層内の引張応力が発生する。銅基板表面上の錫系コーティング層からなる物品は、熱サイクル中に圧縮応力と引張応力の繰り返しに曝される。錫系コーティング層における圧縮応力はウィスカ―発生の原動力として認識される。
【0013】
金属基板上の錫系コーティング層のウィスカ形成におけるもう一つの原動力は、当該コーティングにおける金属間化合物の形成、コーティング間の熱膨張係数のミスマッチ(不適合)、コーティングおよび基板間の形成する金属間化合物、および基板そのものである。金属間化合物の形成は、コーティングの厚みに依存するコーティングにおける圧縮応力の分布または勾配を生じる。すなわち、勾配分布は、比較的薄いコーティングにおける錫ウィスカの形成に重要な貢献となるが、一方で厚いコーティングは、比較的厚い錫系コーティング層の性質が錫の塊の性質に類似するから、ウィスカ抵抗性になる。
【0014】
本発明の態様において、例えば錫−銀合金層の如き浸漬錫系コーティング層は、例えば銅基板の如き金属基板上に比較的薄いコーティングとして堆積され、本発明の方法による金属基板上のコーティングとして堆積された錫系コーティングは、少なくとも約1000時間の外気温、湿度への延長曝露期間の間、少なくとも2000時間の外気温、湿度への延長曝露期間の間、または3000時間のようなより長い期間の間の外気温、湿度や環境への曝露でさえ錫ウィスカの生成はない。錫系コーティング層は、約0.7μm〜約1.2μm、さらには約0.7μm〜1.0μmの如き、約0.5μm〜約1.5μmの厚みを有する。これらの範囲の厚みを有する比較的薄い錫系コーティング層は、少なくとも1000時間、または2000時間、または3000時間、さらには少なくとも4000時間の延長期間の間、外気温、湿度および環境に曝露されても、錫ウィスカの発生がない。
【0015】
浸漬めっきした錫系コーティング層、例えば錫−銀合金層が金属系基板、例えば銅基板上のコーティングとして堆積された態様において、本発明の方法による錫系コーティング層は、錫系コーティング層が温度の極致に曝される多重熱サイクルのあとでも、ウィスカの発生がないままである。錫系コーティング層は、約0.7μm〜約1.2μmまたは、約0.7μm〜約1.0μmの如き約0.5μm〜約1.5μmの厚みを有し得る。これらの厚み範囲内のコーティングとして本発明の金属基板上に堆積された錫系コーティング層は、−55℃に少なくとも10分間暴露し、その後85℃に少なくとも10分間曝露した、少なくとも約1000回熱サイクルの後でも、錫ウィスカの発生はないままである。
ある態様においては、これらの厚みの範囲内のコーティングとして堆積された本発明の錫系コーティング層は、−55℃に少なくとも10分間暴露し、その後85℃に少なくとも10分間曝露した少なくとも約2000回熱サイクルの後でも、ウィスカの発生はないままである。また別の実施態様においては、これらの厚みの範囲内のコーティングとして堆積された本発明の錫系コーティング層は、−55℃に少なくとも10分間暴露し、その後85℃に少なくとも10分間曝露した少なくとも約3000回熱サイクルの後でも、ウィスカの発生はないままである。
【0016】
幾つかの実施態様においては、それ以上に、本発明の方法は、錫系コーティング層を例えば銅基板上に、多数回鉛フリー・リフローサイクル、例えば少なくとも5回の鉛フリー・リフローサイクル、7回の鉛フリー・リフローサイクル、9回の鉛フリー・リフローサイクル、11回の鉛フリー・リフローサイクル、約13回の鉛フリー・リフローサイクル、または少なくとも約15回の鉛フリー・リフローサイクルを介しても半田可能を維持する。
【0017】
半田性の破壊および錫ウィスカの形成はSn/Cu界面における金属間化合物(IMC)の形成に起因する。錫および銅原子間の自発的相互拡散のために、金属間化合物の形成は不可欠である。一旦、「遊離」の錫がIMC形成によって消費されると、コーティングは最早半田不能になる。IMC形成は温度依存性があり;IMC形成の速度は、温度上昇に伴ない増大する。本発明の錫系コーティングは、代表的リフロープロセスの高温を維持し、IMC形成とウィスカ―発生に抵抗する。それ以上に、コーティングは、半田可能に維持され、多数回のリフローのあとで、表面上の遊離錫の存在を示唆する。
【0018】
幾つかの態様においては、代表的なPWB組立て工程の温度に近似する少なくとも3回の鉛フリー・リフローサイクルの後で、Sn−Cu金属間化合物のない表面領域が少なくとも約0.1μm、錫系コーティング層表面から基板に向かって伸びる錫系コーティング層を堆積させることによって、本発明の錫系コーティング層は半田可能に維持される。幾つかの実施態様において、多数回鉛フリー・リフローサイクル、例えば3鉛フリー・リフローサイクルの間、銅の錫系コーティング層への移動に逆らう錫系コーティング層の堆積によって半田性が維持される。好ましくは、代表的なPWB組立て工程の温度に近似する少なくとも3鉛フリー・リフローサイクルの後で、銅のない表面領域は、少なくとも約0.1μm、錫系コーティング層表面から基板に向かって伸びる。代表的な鉛フリー・リフローサイクルは、少なくとも217℃の温度、例えば約250〜約260℃に曝し、その後室温付近、約20℃〜28℃に冷却することからなる。代表的には、Sn−Cu金属間化合物のない表面領域は、少なくとも5鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも7鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも9鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも11鉛フリー・リフローサイクルの後で、または少なくとも15鉛フリー・リフローサイクルの後でさえも、少なくとも約0.1μm伸びる。幾つかの実施態様においては、錫系コーティング層は、錫系コーティング層への銅の移動に抵抗し、少なくとも5回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、少なくとも7回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、少なくとも9回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、少なくとも11回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、少なくとも15回のそのような鉛フリー・リフローサイクルを介して、銅がなくなる。
【0019】
好ましくは、Cuおよび/またはSn−Cu金属間化合物のない本発明の錫系コーティング層の表面領域は、少なくとも3鉛フリー・リフローサイクルの後で、各サイクルは約250℃〜約260℃の如き少なくとも217℃に曝し、その後室温付近の約20℃〜約28℃に冷却することからなり、少なくとも5鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも7鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも9鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも11鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも15鉛フリー・リフローサイクルの後で、錫系コーティング層の表面から基板に向かって少なくとも約0.25μmの厚み分拡大する。
【0020】
さらに好ましくは、Cuおよび/またはSn−Cu金属間化合物のない本発明に係る錫系コーティング層の表面領域は、少なくとも3鉛フリー・リフローサイクルの後で、各サイクルは約260℃の如き少なくとも217℃に曝し、その後室温付近に冷却することからなり、少なくとも5鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも7鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも9鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも11鉛フリー・リフローサイクルの後で、少なくとも15鉛フリー・リフローサイクルの後で、錫系コーティング層の表面から基板に向かって少なくとも約0.35μmの厚み分拡大する。
【0021】
最後に、本発明の方法は、また銅基板に錫系コーティング層を堆積させ、それは、剥離試験によって測定されたように基板への良好な接着性によって特徴づけされる。その剥離試験は、スコッチテープ剥離によってコーティング接着を評価する、業界で用いられる慣用の定性試験で、スコッチテープで被覆層がいくら剥離するかによって0から5の等級が与えられる。
【0022】
錫系コーティング層の銅基板の如き金属基板上へのウィスカ抵抗性の高い程度は、特に好ましい濃度範囲内の錫堆積浴中に銀イオンを含めることによって達成される。本発明は、こうしてさらに銀を含む錫系コーティング層の堆積に更に関する。幾つかの実施態様では、錫系コーティング層は、錫と銀の両種を含む合金からなる。本発明の明細の範囲内において、錫系コーティング層は、錫系合金および他の錫系複合材の両方を含む。合金は、本発明の明細書の範囲内において、錫及び合金形成金属、例えば銀、亜鉛、銅、ビスマス等を含む錫系コーティング層をも網羅する。代表的には、錫濃度は少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも85重量%や少なくとも90重量%の如き少なくとも80重量%であり、幾つかの実施態様においては、少なくとも95重量%である。複合材は、本発明の明細書の範囲内において、錫を含み、任意に合金金属、およびリンの如き非金属材料、例えば四フッ化ポリエチレンの如きポリフッ化ポリマーの如きその他の非金属材料からなる錫系コーティング層をも網羅する。
【0023】
錫系コーティング層を本発明に係る浸漬めっき法によって堆積する組成物には、一般的に、Sn2+イオン源、Ag+イオン源、pH調整剤、錯化剤、速度促進剤、抗酸化剤、および湿潤剤を含む。
【0024】
Sn2+イオン源は、銀イオンと実質的に不溶性の塩を形成しない陰イオンからなる如何なる塩もなり得る。この点において、Sn2+イオン源は、メタンスルホン酸錫及びその他のアルカンスルホン酸錫、酢酸錫、その他の銀イオンと相溶性のある錫塩を含む。好ましい、イオン源は、硫酸錫である。Sn2+イオンとCu金属の間の置換反応はSn2+(チオ尿素)m錯体およびCu+(チオ尿素)n錯体のポテンシャル(電位)によって制御されるので、Sn2+イオン、Cu+イオン、およびチオ尿素の濃度をある好ましい範囲に保持することが望ましい。
【0025】
起電力シリーズにおいて、銅は錫よりも貴であり、錫イオンと銅金属間で交換反応は起こらない。チオ尿素は錫と銅の電位を効果的に反転して交換反応を促進する。溶液中の錫と銅の電位は、めっき組成物中のチオ尿素、錫イオン、および銅イオンの濃度に依存する(銅イオンはフレッシュな浴中には存在しないが、反応の進行と共に次第に蓄積される)。一般に、チオ尿素の濃度が高ければそれだけ、錫と銅間の電位差は大きくなり、よって、堆積速度が速くなる。チオ尿素の濃度はその水中の溶解度によって制限され、室温で約120g/Lである。Sn2+イオン濃度が低ければ低いほど、銅を錯化するのにチオ尿素が得られやすくなり、交換反応を起こす高い原動力を創る。しかし乍、Sn2+イオン濃度が約6g/L未満(SnSO4として約10g/L)のときには、コーティングの接着が減少する。このように、幾つかの実施態様では、Sn2+イオン濃度が約5g/L〜20/Lとなるに十分な濃度のSn2+イオン源が添加される。それは例えば、約6g/L〜約12g/L、または約6g/L〜約10g/Lである。
【0026】
本発明の錫系コーティング層の堆積のための組成物は、さらに錫イオンおよび銅イオンのための硫黄系錯化剤を含む。好ましくは、硫黄系錯化剤は銅と錫の相対起電力電位を反転することが可能である。有益な硫黄系錯化剤には、チオ尿素、N−アリルチオ尿素、N−アリル−N’−β−ヒドロキシエチル−チオ尿素(“HEAT”)、およびアミジノチオ尿素等々が含まれる。硫黄系錯化剤は、好ましいチオ尿素の溶解度限界に近い、約60g/L〜120g/Lの濃度で添加することができる。好ましくは、硫黄系錯化剤は、少なくとも約90g/Lの濃度で存在するが、それは、特に堆積工程の初めに、今までの実験結果は、硫黄系錯化剤の濃度が少なくとも約90g/Lのときに70℃において約9分間堆積させれば所望のコーティング厚みである約1μm以上になることを示すからである。浸漬反応機構は次第に溶液中の銅イオン濃度を増加させるから、堆積の進行につれて、硫黄系錯化剤の濃度を漸次増加させることが好ましい。今までの実験結果では、硫黄系錯化剤は、本発明に係る浸漬錫組成物中の銅イオン1g/Lの堆積当たり約3g/L〜約9g/Lの速度で浸漬めっき組成物に添加されるべきである。その速度は、本発明に係る浸漬錫組成物中の銅イオン1g/Lの堆積当たり約6g/Lの如き、本発明に係る浸漬錫組成物中の銅イオン1g/Lの堆積当たり約5g/L〜約7g/Lである。それ以上に、硫黄系錯化剤の相対堆積速度を上げるための効果は、また、錫イオン濃度に一部依存する。錫イオン濃度が比較的低い、例えば約5g/L〜約10g/Lの錫イオンのときに、硫黄系錯化剤の高い濃度が最も効果的である。錫イオン濃度はあまりに低過ぎて、基板に錫系合金の接着に逆に作用させてはならない。
【0027】
Ag+イオンは、多くの陰イオンと共に水に難溶である。したがって、Ag+イオン源は、硫酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩とその他のアルカンスルホン酸塩、および水に実質的に可溶性のその他の銀塩に限定される。好ましいソースは硫酸銀である。代表的には、Ag+イオン源の濃度は、約10ppm〜約24ppmの銀イオンを提供するに十分であればよく、好ましくは、約12〜24ppmの銀イオン、より好ましくは、約12〜20ppmの銀イオン、または幾つかの実施態様では約10〜16ppmの銀イオンである。この場合、“ppm”は、質量:体積単位である。したがって、この場合の“ppm”は、mg/Lと等価である。以下の実施例から明らかな通り、銀イオン10ppmの最少濃度は、外気温、湿度および環境下で長期保存に際し錫ウィスカを減少させるのに臨界的である。当該組成物中の銀濃度は、錫系合金コーティングにおける不当に高い銀組成を回避するために24ppm未満であるのが好ましい。より特定的には、本発明の浸漬錫組成物から堆積された、約10〜約24PPMの銀イオンからなる錫系コーティング層は、少なくとも約1000時間、少なくとも約2000時間、少なくとも約3000時間、または少なくとも約4000時間でさえ該気温、湿度および環境下に保存されたときに錫ウィスカの成長が見られないのである。
【0028】
本発明の浸漬めっき浴は好ましくは酸性のpHを有する。こうして、浴のpHは、好ましくは約0〜約5、好ましくは約0.2〜約1である。酸の選択は、殆どの銀塩の低い溶解性または実質不溶性によって限定される。このように、好ましい酸性のpHは、硫酸、メタンスルホン酸他のアルカンスルホン酸、酢酸、及び銀イオンと不溶性塩を形成するその他の酸、及びそれら酸の組合せである。一つの好ましい実施態様は、酸が硫酸である。一つの好ましい実施態様で、硫酸(98%以上の濃溶液)の濃度は、約20mL/L〜約100mL/Lであり、好ましくは約30mL/L〜約50mL/Lである。硫酸の濃度は好ましくはこの範囲に保持され、然もなくは組成物が約30mL/L硫酸より低いと、コーティングの厚みが減少する。安定なコーティングの厚みは、当該組成物が約30mL/L〜約50mL/Lの硫酸を含む場合に得られる。半田マスクを損傷するので、それ以上の高い酸濃度は望ましくない。
【0029】
次亜リン酸塩源は、めっき速度促進剤として添加し得る。次亜リン酸塩源は、錫系コーティング層の堆積のための触媒のように作用し、堆積工程において消費されない程度においてめっき速度促進剤として作用する。これは、還元剤が金属イオンを金属に還元するように、通常酸化反応によって消費される還元剤と対照的である。ここで、次亜リン酸塩は、速度促進剤であるから消費されない、すなわち、堆積中に酸化される。次亜リン酸塩源には、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸アンモニウム、及び次亜リン酸を含む。溶液のpHを変化させるソース、例えば、次亜リン酸アンモニウム、ホスフィン酸は、溶液pHに僅かでも影響を与える次亜リン酸塩源より好ましくない。次亜リン酸塩源は、少なくとも0.45M、例えば0.45M〜1.4Mの濃度で添加され、少なくとも約30g/Lの次亜リン酸塩イオン、例えば約30g/L〜約100g/Lの次亜リン酸塩イオンを提供する。次亜リン酸ナトリウムは、最も好ましい速度促進剤である。めっき速度促進剤として機能するために、次亜リン酸ナトリウムの濃度は比較的高く、少なくとも約40g/L、例えば、約40g/L〜約120g/Lである。今までの実験の結果では、次亜リン酸ナトリウム濃度が約70g/L〜約100g/Lであることが、高速錫堆積および9分間の堆積で少なくとも約1μmの厚い錫堆積を達成するため、特に好ましい。
【0030】
抗酸化剤がSn2+イオンのSn4+イオンへの酸化を抑制するために添加され得る。適当な抗酸化剤の例は、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)、グルコン酸、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、フロログルシノール、クレゾールスルホン酸及びその塩、フェノールスルホン酸及びその塩、カテコールスルホン酸及びその塩、ハイドロキノンスルホン酸及びその塩、ヒドラジン等々を含む。
そのような抗酸化剤は、単独で、または2種以上の混合物で使用される。抗酸化剤の濃度は、約30g/L〜約110g/L、例えば、約40g/L〜約80g/Lである。好ましい抗酸化剤はグリコール酸で、70重量%溶液として商業的に入手可能である。適当な結果を得るために、グリコール酸(70重量%)が、浸漬錫組成物に50mL/L〜150mL/L濃度で、好ましくは約70mL/L〜約100mL/Lで添加される。グリコール酸(70重量%)にグリコール酸をこれらの容積濃度で添加すれば、約35g/L〜約105g/Lのグリコール酸、好ましくは約49g/L〜約70g/Lのグリコール酸が提供される。
【0031】
湿潤剤は基板全体に渡って錫系合金の厚さ均一性を促進すべく使用される。ピロリドン源は、好ましい湿潤剤である。この点において、ポリビニルピロリドン(PVP)は特に好ましい湿潤剤源である。PVPは、BASF社製Luvitec(登録商標) K30およびLuvitec(登録商標) K60を含む。PVPは、粉末或いは代表的には30重量%の予備溶解溶液として添加される。均一なコーティングを得るために、PVP濃度は好ましくは少なくとも約12g/L、例えば約12g/L〜約18g/L、または約12g/L〜約15g/Lである。もう一つの湿潤剤源は、1−メチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、またはその組合せである。好ましくは、湿潤剤は1−メチル−2−ピロリドンを含む。幾つかの実施態様においては、湿潤剤源は、1−メチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、またはその組合せのソースをさらにPVPと組み合わせてなる。幾つかの実施態様では、湿潤剤源は1−メチル−2−ピロリドンをPVPと組合せてなる。
【0032】
その他の有用な湿潤剤は、EO/PO共重合体、BASF社製のPluronic(登録商標)添加剤、Pluronic F127, Pluronic P103, Pluronic 123, Pluronic 104, Pluronic F87, Pluronic F38の如きが含まれる。これらは、少なくとも0.01g/L、例えば約0.01g/L〜約3g/Lの濃度で添加される。その他の有用な湿潤剤は、ベタイン系湿潤剤を含む。Raschig GmbH社製のRALUFONS(登録商標)添加剤で、Ralufon DL, Ralufon NAPEが含まれ、少なくとも約0.01g/L濃度、例えば約0.01g/L〜約1g/Lで添加される。硫酸塩湿潤剤として有用なものは、Niacet Corp.社製のNIAPROOF(登録商標) 08を含み、少なくとも約0.01g/L濃度、例えば約0.01g/L〜約1g/Lで添加される。
【0033】
補助的錯化剤は堆積組成物に錫系合金の銀組成および/またはめっき速度を変更するために添加される。補助的錯化剤は、2〜10個の炭素原子を有するアミノ酸の中から選択され;シュウ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸の如きポリカルボン酸;ニトリロ三酢酸の如きアミノ酢酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−プロパノール−N,N,N’,N’−四酢酸、ビス−(ヒドロキシフェニル)−エチレンジアミン二酢酸、ジアミノシクロヘキサン四酢酸、またはエチレングリコール−ビス−((β−アミノエチルエーテル)−N,N’−四酢酸)の如きアルキレンポリアミンポリ酢酸;N,N,N’,N’−テトラキス−(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、エチレンジアミン、2,2’,2”−トリアミノトリエチルアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、およびテトラキス(アミノエチル)エチレンジアミンの如きポリアミン;および、N.N−ジ−(2−ヒドロキシエチル)グリシンが含まれる。補助錯化剤は、少なくとも約1g/L濃度、例えば約1g/L〜約20g/Lで添加される。
【0034】
浸漬めっきによる錫系コーティング層の堆積用の基板は、代表的には銅の如き金属基板である。好ましい態様においては、基板は印刷配線板(PWB)用の銅を含み、錫系コーティング層はPWB用の最終仕上げである。その他の基板は、リードフレームおよび電子機器におけるコネクターを含み、それらもまた代表的には銅で被覆される。本発明の方法は、また、バンプ下金属化におけるダイパッドに錫系コーティング層を堆積させるために適用される。
【0035】
金属基板は処理前に従来の方法を用いて清浄化、およびエッチングされる。基板は、表面をエッチングするためにマイクロエッチングされ、所望の構造(texture)を得る。業界において知られるように、マイクロエッチ組成物は、酸に加えて過酸化物または過硫酸塩の如き酸化剤を含有する。既知のように、酸化剤と酸の比が表面構造(texture)を決定する。今までの実験の結果、粗い表面は錫系合金の厚みを促進するために理想的であることを示す。基板をマイクロエッチ組成物に(浸漬、カスケーディング(水塊の斜面滑降)、スプレイ、または適当なエッチングを施すその他の技術によって)接触させた後で、基板は予備ディップ組成物に接触される。表面の清浄化、薬品投入による錫めっき溶液へのコンタミの防止のための予備ディップ組成物は、約1%〜約7%濃度の硫酸からなり、当該濃度は、エッチングのために約1〜5%、または約1〜3%が例示される。今までの実験の証拠は、予備ディップ組成物の温度は、錫合金層の厚みのバランスの最適化と基板の均一性を果たすために、約20℃〜約50℃が良いことを示唆している。50℃以上では厚い被覆が観察され、これらの被覆は、好ましい温度範囲で堆積された錫層に比べて不均一である。
【0036】
基板が予備ディップ組成物と(浸漬、カスケーディング、噴霧によって)接触させたあとで、基板は本発明に係る錫系合金の堆積組成物に曝される。浸漬めっき法は自己制限的な技術であり、堆積組成物への長時間の曝露は半田マスクに悪影響を与えるから、錫合金を少なくとも約1μm、または約1.2μmの厚みに、基板めっき液への曝露時間を比較的短くして堆積させるのが好ましい。この点で、今までの実験結果では、本発明による方法で約9分間めっきすることで、所望の錫合金の厚みが達成されることを示している。所望の厚みは、代表的には約1μmであるから、本発明の方法は、よって、少なくとも約0.11μm/分のめっき速度、例えば、少なくとも約0.13μm/分、または少なくとも0.15μm/分でさえ達成される。
【0037】
本発明を詳細に記載して、特許請求の範囲に記載した発明の範囲から逸脱しない限度において、変性や変更は可能であることは明らかである。
【実施例】
【0038】
本発明をさらに説明するために、非限定的な実施例を以下に記す。
【0039】
[試料めっき]
以下にそれぞれの実施例において、浸漬機構によって銅片上に錫系コーティング層を堆積するために、一般的な方法が使用された。銅の試験片が、PWB製作、すなわち清浄化、すすぎ、マイクロエッチング(特定しない限り1分間標準)、すすぎ、予備ディップ(サッと浸ける)、めっき加工、すすぎ、および乾燥の最終仕上げに適用するに用いられる一般的なプロセス手続によって調製された。めっき液における流体力学的条件を標準化するために、試験片が約1回/秒の往復運動で、手動でビーカー中でめっきされた。特に指定しない限り、めっき液中の滞留時間は9分間であった。
【0040】
[錫の膜厚測定]
錫系コーティング層の厚みはX線蛍光分析(XRF)及び連続式電気化学的還元分析(SERA)を用いて測定された。XRF測定は、精度向上のためのL−シリーズX線を取付けた、セイコーインスツル社製のSEA 5210 エレメントモニターMXを用いて行なった。SERA試験は、ECIテクノロジー社製のSURFACE−SCAN(登録商標) QC−100TMで、5%塩酸作業溶液およびAg/AgCl標準電極を用いて行なった。P.Bratinら著「SERAを用いた浸漬錫コーティングの表面評価」を参照されたい。電流密度:4500μA/cm2およびガスケット開口部は直径0.160cmの一致曝露試験面積を備えていた。ηおよびεの厚みは、各々の密度と組成物を用いて純錫の「等価」厚みに変換され、その結果、純錫の等価の総厚みが得られ、XRFによって測定された測定値に対して比較された。単一の試験スポットは、湿潤バランス試験のために溶融はんだ中に浸漬された領域から離れた対向端部で、湿潤バランス試験片の各々について測定された。このように、遊離の錫の相対厚みの変化および連続リフローサイクルによって誘導された金属間化合物(IMCs)が、詳述され、相当する湿潤バランス試験に関連する。
【0041】
[ウィスカ検査]
初期の検査がARMRY 3200C 走査型電子顕微鏡(SEM)によって、めっき直後に試験片上200倍の倍率で行なわれた。総検査面積は、JESD22A121によれば75mm2であった。「ウィスカ成長測定の試験方法、及び錫および錫合金表面仕上げ」JEDEC 固体状態技術協会、JESD22A121.01 2005年10月参照。試験片は、その後エージング試験のために該気温/湿度に曝された。1000時間毎に、試験片の同じ領域がSEM下、200倍の倍率で再検査された。もしこのスクリ−ニング検査でウィスカが検知されないならば、その読み取り点における詳細な検査は必要ない。もしウィスカがスクリーニング中に検知されれば、1000倍のSEM下でスクリーニング中に検知された最長の錫ウィスカを拡大して詳細な検査を行なわれた。単位面積当たりのウィスカ数(ウィスカ密度)が記録された。JESD22A121によれば、錫ウィスカ密度は、低、中および高の三段階に分類される。しかし乍、ウィスカを示さない試料をさらに区別するために、4つ目の分類、「なし」が加えられた。ウィスカ密度分類は、以下の表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
[熱サイクル試験]
錫被覆銅が温度変化に付されたときに、錫系コーティング層は、熱膨張係数(CTE)のミスマッチ、すなわち、錫のCTEが22X10−6 K−1、銅のCTEが13.4X10−6 K−1のために、銅基板とは異なって膨張或いは収縮する。高温では、錫は銅基板よりも膨張し、錫コーティング内に圧縮応力をもたらす。低温では、錫は銅基板よりも収縮して、錫コーティング内に引張応力をもたらす。したがって、錫系コーティング層は、熱サイクル中に圧縮引張応力の変化を伴なう。錫系コーティング層の圧縮応力はウィスカ生成の原動力として認識され、熱サイクルは、錫系コーティング層のウィスカ生成に対する抵抗性を評価するための促進試験として開発された。ここで、熱サイクル試験は、シンシナティー・サブ−ゼロCSZ昇温室内で行なわれた。各サイクルにおいて、試料は−55℃に10分間、次いで85℃に10分間曝露された。要するに、それは伝統的な熱サイクル試験と云うよりは、熱衝撃試験であった。熱サイクル試験の前に、試料は鉛フリー・リフロー処理で整えられた。試料は、3000時間の後にウィスカ検討から解放された。
【0044】
[模擬的アッセンブリ・リフロー調整]
試験片の調整は、5ゾーンBTU TRSコンベイヤード・リフロー・ユニットを用いて、対流およびIR加熱要素を利用して完遂された。試験片は、モデル化した鉛フリーのアッセンブリ・リフローサイクルを介して加工された。直線的傾斜プロファイルは1.5℃/秒の傾斜速度を有し、250〜260℃の最高温度で、液体化(217℃)以上の温度で49秒間、次いで次のリフローサイクルの前に室温までに冷却された。単一サイクルは代表的には5〜10分間を要する。12個の湿潤バランス試験片の3セットには、それぞれに浸漬錫コーティングが施され、最高15リフローサイクル以上リフローを通して加工された。コントロールとして、各コーティングセットから2つの試験片がリフローされずにテストされた。
【0045】
[湿潤バランス試験]
半田性は、ロボティック・プロセス・システムズ社製の6シグマ湿潤バランス半田性テスターを用いて、IPC/EIA J−STD−003A セクション4.3.1に従って湿潤バランス試験によって評価された。ジョイント工業標準:「印刷板用の半田性試験」IPC/EIA J−STD−003A,IPC,バノックバーン,IL参照。Alpha Metal社製EF−800ロジンフラックス(固形分6%)、およびSAC 305 半田機が以下の表2に列挙した試験パラメータで使用された。注文構成の湿潤バランス試験片は、電解質銅1.0オンスにめっきされた、0.062インチ二重側部1/2オンス銅箔被覆されたFR−4積層からなる。調整後の相対半田性は各片のために作られた湿潤曲線を比較して決定される。
【0046】
【表2】
【0047】
[実施例1]浸漬錫めっきおよび組成物
銅片は、添加される銀イオン濃度を変えて調製した、4つの浸漬錫めっき組成物、68A,68B,68C,並びに68Dの各々に、9分間浸漬錫めっきに付して調製された。錫めっきに先立ち、銅片は2%濃度の硫酸からなる組成物に24℃で予備ディップして調整された。浸漬錫めっき組成物は、浸漬銀めっきの最中に、約70℃の温度に保持された。以下の濃度の成分を含む4つの浸漬錫めっき組成物の各々:
硫酸錫(12g/L、約6.6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸(濃縮、98%溶液、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(80g/L)
ポリビニルピロリドン(PVP K30,12g/Lの固体粉末が30重量%40mLとして添加し得る)
【0048】
4つの浸漬錫めっき組成物で、以下の表に示された濃度の銀イオンを産出するのに十分な濃度の硫酸銀を含む。表3は、錫コーティング層の厚みおよび周囲温度・環境で3,000時間保存されたウィスカ密度を示す。
【0049】
【表3】
【0050】
ウィスカ密度データは、低い銀濃度の含有は、3000時間の周囲条件でのエージングの後でさえも、ウィスカ密度を減少させる。然るに初期条件下の全ての試料にはウィスカは検出されなかったが、1000時間後には、著しい変化が見られた。図1は、実施例1及びその他の実施例によって堆積された錫コーティング層のウィスカ密度範囲のグラフ描写である。錫ウィスカ密度範囲は、3000時間までの周囲保存条件においては、変化がなく、ウィスカ密度は定温放置期間後に、平衡に近付く。ウィスカを有する(組成物68Aからの)錫コーティング層およびウィスカ非検出の(組成物68Dからの)錫コーティング層の間の比較は、1000倍の倍率で2000時間の保存後のものが図2Aおよび2Bに示された。図2Aは、室温で2000時間保存後の組成物68Aから堆積された錫コーティング層のSEM画像である。図2Bは、室温で2000時間保存後の組成物68Dから堆積した錫コーティング層のSEM写真である。
【0051】
[実施例2]ウィスカ長
最大ウィスカ長はウィスカの傾向とリスクを記載するためにしばしば用いられるもう一つのパラメータである。B.D.Dunn,「電子材料におけるウィスカ生成」サーキット・ワールド;2(4):32−40,1976年刊行参照。最長ウィスカはスクリーニング検査中(倍率200倍)に検出されそして詳細検査中(倍率1000倍)に記録される。図3A、3Bおよび3Cは、それぞれ1000時間(図3A)、2000時間(図3B)、3000時間(図3C)の保存時間で「高い」ウィスカ密度を示した組成物68Aにてめっきされた金属片の固定した領域で、最長ウィスカを示したSEM写真である。「最長」ウィスカは保存時間に伴ない成長した。ウィスカ生成のリスクは、したがってウィスカ密度ばかりでなく、ウィスカ長にも起因する。
【0052】
[実施例3]断面解析
周囲条件下5100時間保存後にウィスカを生成しなかった組成物68Dの断面図は、焦点絞りイオンビーム(FIB)によって作成され、エネルギー分散分光法(EDS)によって検討された。図4に示したように、組成物68Dを用いて堆積した錫コーティング層を5100時間周囲条件下でエージングした後の断面のSEM写真である。そこには「遊離した」錫中に分散したナノサイズの粒子があり、IMC(金属間化合物)層は均一でなく、その中に積層構造を表示する。Sn/Cuの原子比は、錫コーティング、IMC、銅基板を通って垂直に幾つかのスポットで次第に減少する(Sn/Cu原子比を示す図5参照)。しかし乍、EDSの解像度は約0.5μmであるから、それは総厚みの約1μmと比べて比較的大きく、試料は53°(度)傾斜しており、このSn/Cu原子比は、単に組成物の定性的推測にすぎない。
【0053】
[実施例4]浸漬錫めっきおよび組成物
銅片は、添加される銀イオン濃度を変えて調製した、4つの浸漬錫めっき組成物、70A,70B,70C,並びに70Dの各々に、9分間浸漬錫めっきに付して調製された。錫イオンの溶液中の濃度は、実施例1の組成物に比べて減少し、一方で、チオ尿素濃度は増大した。それに加えて、グリコール酸が組成物に添加された。浸漬錫めっきに先立ち、銅片は2%硫酸からなる組成物に24℃の温度で予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。4つの浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸(濃縮品、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
グリコール酸(70%溶液50mL/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0054】
4つの浸漬錫めっき組成物は、以下の表に示した濃度で銀イオンを産出するに十分な濃度の硫酸銀を含む。表4は、また錫コーティング層の厚みおよび周囲温度および環境下で3000時間保存後のウィスカ密度を示す。
【表4】
【0055】
ウィスカ密度データは、比較的低い銀濃度含有が周囲条件で3000時間後でさえもウィスカ密度を減少させたことを示す。それ以上に、実施例1記載の方法によって堆積された錫系コーティング層に比べて、グリコール酸の含有は、錫堆積から銀が存在しない場合でさえウィスカ密度を減少させた。
【0056】
[実施例5]浸漬錫めっきおよび組成物
銅片は、浸漬錫めっき組成物71Aおよび72Bの各々に9分間浸漬錫めっきに付して調製された。実施例1の組成物に比べて溶液中の錫イオン濃度は減少され、一方で、チオ尿素の濃度は減少された。それに加えて、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が組成物に添加された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン24ppm)
硫酸(濃縮品、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
ジエチレントリアミン五酢酸、DTPA(10g/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0057】
組成物71Bは、VEE GEE 100,白粉型Bゲル化(Vyse Gelatin社製)2.2g/Lを追加して含有し、それは粒子細分化剤として作用する。表5は、錫コーティング層の厚みおよび周囲温度および環境に3000時間保存後のウィスカ密度を示す。
【0058】
【表5】
【0059】
両組成物は、周囲条件下、3000時間のエージング後でさえもウィスカ成長に抗する錫系コーティング層を堆積した。VEE GEE添加剤はコーティングの厚みを増加させたが、堆積錫系コーティング層の銀組成を減少させた。
【0060】
[実施例6]浸漬錫めっき及び組成物
銅片は準備後、クエン酸を含む浸漬錫めっき組成物72Aに9分間浸漬錫めっきに付された。この実験は、めっき速度に対するクエン酸および錫系コーティング層における銀濃度の効果を決定するために行われた。浸漬錫めっきに先立って、浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン24ppm)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
クエン酸(10g/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0061】
組成物72Aから堆積された錫系コーティング層は、15.4重量%の銀を含み、トータル9分間の堆積後に0.92μmの厚みを有していた。錫系コーティング層は、周囲条件で3000時間保存後の錫ウィスカ生成に耐性を示した。
【0062】
[実施例7]浸漬錫めっき及び組成物
銅片が準備され、浸漬錫めっき組成物74Bに9分間浸漬錫めっきに付された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン24ppm)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
グリコール酸(70%溶液100mL/L)
ポリビニルピロリドンPVP(K30,15g/L)
【0063】
錫系コーティング層が組成物74Bから堆積され、12.3重量%の銀を含有しており、9分間の堆積後に総厚み1.14μmの錫系コーティング層を有していた。錫銀合金は周囲条件において3000時間後のウィスカ生成に抵抗し、剥離試験において基板への優れた接着性を発揮した。剥離試験は、業界で用いられた定性試験で、実際の基準なしでスコッチテープの引張りによって被覆接着性を評価したものである。スコッチテープでいくらコーティングが剥離されたかによって0〜5の順位が付与された。この実施例の錫−銀合金は剥離試験で5の評価を記録した。
【0064】
[実施例8]浸漬錫めっき及び組成物
銅片が準備され、銀イオンの濃度を変更して調製された3つの浸漬錫めっき組成物69A,69Bおよび69Cの浸漬錫めっき組成物の各々に9分間浸漬錫めっきに付された。浸漬錫めっきに先立って、浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(12g/L,約6.6g/LのSn2+イオンを供給)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(80g/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0065】
浸漬錫めっき組成物以下の表に示された濃度の銀イオンを産出するに十分な濃度の硫酸銀を含んでいた。表6は、また錫系コーティング層の厚みおよび周囲温度および環境下で3000時間保存されたあとのウィスカ密度を示す。69Bにおけるウィスカ密度の高い程度は、長いエッチング時間、すなわち2分間からもたらされ、1分間の標準エッチと相反する。各堆積は剥離に対して高い抵抗を示した。
【0066】
[実施例6]ウィスカ密度に与える銀濃度の効果
【表6】
【0067】
[実施例9]浸漬錫めっき及び組成物
銅片は、準備され、硫黄系錯化剤濃度を変更して調製された2つの浸漬錫めっき組成物73Aおよび73Bの各々に9分間浸漬錫めっきに付され、一方で、両方の組成物において銀イオン組成は同じであった。これら2つの溶液において、N−アリル−N’−β−ヒドロキシエチル−チオ尿素(表では“HEAT”)がチオ尿素に加えて添加された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.8g/L,約6g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン23ppm)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
1−メチル−2−ピロリドン(80wt%)およびポリビニルピロリドンPVP K30(20wt%)の混合物(12g/L,20wt%溶液を60mL/Lで得られる)
【0068】
表7は、各溶液に添加されたN−アリル−N’−β−ヒドロキシエチル−チオ尿素(“HEAT”)濃度および錫系コーティング層の銀組成、錫系コーティング層の厚み、周囲温度および環境下で3000時間保存後のウィスカ密度を示す。
【0069】
【表7】
【0070】
[実施例10]浸漬錫めっき組成物
銅片は、準備され、硫黄系錯化剤濃度を変更して調製された3つの浸漬錫めっき組成物77A、77B、77Cの各々に9分間浸漬錫めっきに付され、これらの組成物は、ポリビニルピロリドン(PVP)の添加によって銀イオン濃度を変化させて調製された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.6g/L,約5.9g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
ポリビニルピロリドン(PVP K30,40g/L)
【0071】
浸漬錫めっき組成物以下の表に示された濃度の銀イオンを産出するに十分な濃度の硫酸銀を含んでいた。表8は、また錫−銀堆積の銀組成、錫系コーティング層の厚みおよび周囲温度および環境下で3000時間保存されたあとのウィスカ密度を示す。各堆積層は基板からの剥離に高い抵抗を示した。
【0072】
【表8】
【0073】
[実施例11]浸漬錫めっき
実施例8,9及び10の組成物を用いて錫コーティング層でめっきされた銅片は、周囲温度および環境下で3000時間のエージングに付された。図6A(200倍拡大)および図6B(1000倍拡大)は高いウィスカ密度(>45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Bから堆積された錫系コーティング層を示す。図7A(200倍拡大)および図7B(1000倍拡大)は、中程度のウィスカ密度(10−45ウィスカ/mm2)を有する組成物69Aから堆積された錫系コーティング層を示す。図8A(200倍拡大)および図8B(1000倍拡大)は、低いウィスカ密度(1−10ウィスカ/mm2)を有する組成物77Cから堆積された錫系コーティング層を示す。図9A(200倍拡大)および図9B(1000倍拡大)は、ウィスカのない(0ウィスカ/mm2)組成物69Cから堆積された錫系コーティング層を示す。
【0074】
[実施例12]浸漬錫めっき及び組成物
銅片が準備され、2つの浸漬錫めっき組成物80B、80Cに9分間浸漬錫めっきに付された。浸漬錫めっきに先立って、銅片が24℃の温度において2%濃度の硫酸からなる組成物中に予備ディップされた。浸漬錫めっき組成物は、浸漬錫めっき中に約70℃で保持された。両方の浸漬錫めっき組成物は、以下の成分を記載の濃度で含む:
硫酸錫(10.0g/L,約5.5g/LのSn2+イオンを提供)
硫酸銀(Ag+イオン16ppm)
硫酸(濃縮品、98%、40mL/L)
次亜リン酸ナトリウム(80g/L)
チオ尿素(90g/L)
ポリビニルピロリドンPVP(K30,15g/L)
【0075】
[実施例13]熱サイクルに対するウィスカ抵抗性
実施例12の浸漬錫めっき組成物が銅片上に1.10μmの厚みに錫系コーティング層を堆積させるのに用いられた。錫コートされた銅片が上述のように3000回の熱サイクルに付され、その後、2回の鉛フリー・リフローに上述のように付された。図10A、10Bは1000倍のSEM写真で、3000回の熱サイクルおよび1回の鉛フリー・リフロー後(図10A)、および3000回の熱サイクルおよび2回の鉛フリー・リフロー後(図10B)のウィスカの生成がないことを示している。
【0076】
上記の実施例の実験結果から、以下の結論が導かれる:
(1)ウィスカ密度および最大ウィスカ長は、ウィスカ生成の傾向を記載するために必要である。
(2)本発明の方法によって堆積された浸漬錫系コーティング層は、3000時間の周囲条件のエージングおよび3000回の熱サイクル後でウィスカの生成がなかった。1つの観点においては、銀イオン濃度が図11に示したように、エージング後のウィスカ成長挙動に影響したと云える。
(3)本発明の方法によって堆積された浸漬錫系コーティング層の厚みは、銅表面の粗度に依存する。粗度が増加すると、錫結晶サイズおよび錫コーティングの厚みは増加する。
(4)本発明の方法によって堆積された浸漬錫コーティングは、15回の鉛フリー・リフローサイクルを通じたコンディショニングの後でも堅牢な半田性を維持する能力を有していた。
【0077】
本発明の要素、或いはその好ましい実施態様を紹介する際に、冠詞はその要素が1個または複数あることを意味するように意図される。「〜からなる」、「含む」、「有する」は、包括的で、列挙された要素以外の追加要素があり得る。
上記の観点から、発明の幾つかの目的は達成され、その他の有利な結果が得られた。
本発明の範囲から逸脱しなければ、種々の変更は上記の組成物及び方法において可能であるから、上記明細書及び付帯する図面に含まれる全ての事項は、事例的と解され、限定的意味において解釈されないことが意図されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅基板表面上にウィスカ耐性の錫系コーティング層を堆積するための方法であって、当該方法は、以下からなる:
銅基板表面を以下からなる浸漬めっき組成物に接触させる工程:
約5g/L〜約20g/LのSn2+イオン濃度を提供するに十分なSn2+イオン源;
約10ppm〜約24ppmのAg+イオン濃度を提供するに十分なAg+イオン源;
約60g/L〜約120g/Lの硫黄系錯化剤濃度を提供するに十分な硫黄系錯化剤源;
約30g/L〜約110g/Lの次亜リン酸塩濃度を提供するに十分な次亜リン酸塩イオン源;
約30g/L〜約110g/Lの抗酸化剤濃度を提供するに十分な抗酸化剤源;
少なくとも約12g/Lのピロリドン濃度を提供するに十分なピロリドン源;並びに
約0〜約5に組成物のpHを低下させるに十分な濃度の酸。
【請求項2】
前記Ag+イオン源が、約12ppm〜約24ppmのAg+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Ag+イオン源が、約12ppm〜約20ppmのAg+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Ag+イオン源が、約10ppm〜約16ppmのAg+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記Sn2+イオン源が、約6g/L〜約12g/LのSn2+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記Sn2+イオン源が、約6g/L〜約10g/LのSn2+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ピロリドン源が、ポリビニルピロリドンからなる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ピロリドン源が、ポリビニルピロリドンおよび1−メチル−2−ピロリドンからなる請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抗酸化剤が、約40g/L〜約80g/Lの濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記銅基板表面をめっき組成物に接触させることが銅の銅イオンへの酸化を誘発する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
追加の硫黄系錯化剤は、浸漬錫めっき組成物に、銅イオン1g/L堆積当たり、約3g/L〜約9g/Lの錯化剤添加速度で、添加される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触が、約0.5μm〜約1.5μmの厚みで錫コーティング層を堆積する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記接触が、約0.7μm〜約1.2μmの厚みで錫コーティング層を堆積する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記接触が、約0.7μm〜約1.0μmの厚みで錫コーティング層を堆積する請求項1に記載の方法。
【請求項15】
以下からなる物品:
表面を有する銅基板;および
基板表面上の錫系コーティング層で、当該錫系コーティング層が約0.5μm〜約1.5μmの厚みを有し、銅−錫金属間化合物の形成を妨げ、
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも7回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる。
【請求項16】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも9回、11回、または15回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項15に記載の物品。
【請求項17】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも7回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.35μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項15に記載の物品。
【請求項18】
前記錫系コーティング層が0.7μm〜1.2μmの厚みを有する請求項15に記載の物品。
【請求項19】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも9回、11回或いは15回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜約28℃に冷却し、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項18に記載の物品。
【請求項20】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも7回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.35μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項18に記載の物品。
【請求項21】
前記錫系コーティング層が0.7μm〜1.0μmの厚みを有する請求項15の物品。
【請求項22】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも9回、11回、或いは15回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項21の物品。
【請求項23】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも7回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.35μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項21の物品。
【請求項1】
銅基板表面上にウィスカ耐性の錫系コーティング層を堆積するための方法であって、当該方法は、以下からなる:
銅基板表面を以下からなる浸漬めっき組成物に接触させる工程:
約5g/L〜約20g/LのSn2+イオン濃度を提供するに十分なSn2+イオン源;
約10ppm〜約24ppmのAg+イオン濃度を提供するに十分なAg+イオン源;
約60g/L〜約120g/Lの硫黄系錯化剤濃度を提供するに十分な硫黄系錯化剤源;
約30g/L〜約110g/Lの次亜リン酸塩濃度を提供するに十分な次亜リン酸塩イオン源;
約30g/L〜約110g/Lの抗酸化剤濃度を提供するに十分な抗酸化剤源;
少なくとも約12g/Lのピロリドン濃度を提供するに十分なピロリドン源;並びに
約0〜約5に組成物のpHを低下させるに十分な濃度の酸。
【請求項2】
前記Ag+イオン源が、約12ppm〜約24ppmのAg+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Ag+イオン源が、約12ppm〜約20ppmのAg+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Ag+イオン源が、約10ppm〜約16ppmのAg+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記Sn2+イオン源が、約6g/L〜約12g/LのSn2+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記Sn2+イオン源が、約6g/L〜約10g/LのSn2+イオン濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ピロリドン源が、ポリビニルピロリドンからなる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ピロリドン源が、ポリビニルピロリドンおよび1−メチル−2−ピロリドンからなる請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記抗酸化剤が、約40g/L〜約80g/Lの濃度を提供するに十分である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記銅基板表面をめっき組成物に接触させることが銅の銅イオンへの酸化を誘発する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
追加の硫黄系錯化剤は、浸漬錫めっき組成物に、銅イオン1g/L堆積当たり、約3g/L〜約9g/Lの錯化剤添加速度で、添加される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触が、約0.5μm〜約1.5μmの厚みで錫コーティング層を堆積する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記接触が、約0.7μm〜約1.2μmの厚みで錫コーティング層を堆積する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記接触が、約0.7μm〜約1.0μmの厚みで錫コーティング層を堆積する請求項1に記載の方法。
【請求項15】
以下からなる物品:
表面を有する銅基板;および
基板表面上の錫系コーティング層で、当該錫系コーティング層が約0.5μm〜約1.5μmの厚みを有し、銅−錫金属間化合物の形成を妨げ、
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも7回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる。
【請求項16】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも9回、11回、または15回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項15に記載の物品。
【請求項17】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも7回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.35μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項15に記載の物品。
【請求項18】
前記錫系コーティング層が0.7μm〜1.2μmの厚みを有する請求項15に記載の物品。
【請求項19】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも9回、11回或いは15回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜約28℃に冷却し、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項18に記載の物品。
【請求項20】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも7回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.35μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項18に記載の物品。
【請求項21】
前記錫系コーティング層が0.7μm〜1.0μmの厚みを有する請求項15の物品。
【請求項22】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも9回、11回、或いは15回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.25μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項21の物品。
【請求項23】
前記銅−錫金属間化合物の形成の妨げは、少なくとも7回の加熱・冷却サイクルへの曝露に際し、各サイクルは、物品を少なくとも217℃に付し、次いで約20℃〜28℃に冷却し、少なくとも0.35μm厚の銅のない錫系コーティング層の領域が存在することで特徴付けられる請求項21の物品。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【公表番号】特表2013−517375(P2013−517375A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537028(P2012−537028)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/054413
【国際公開番号】WO2011/056698
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(501407311)エンソン インコーポレイテッド (36)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/054413
【国際公開番号】WO2011/056698
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(501407311)エンソン インコーポレイテッド (36)
【Fターム(参考)】
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