説明

電子素子搭載用基板

【課題】絶縁基板とアルミニウムからなる回路層および緩衝層との接合界面に余剰ろう材が残存しない電子素子搭載用基板を提供する。
【解決手段】絶縁基板(11)の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層(12)がろう付され、他方の面にアルミニウム層(13)がろう付された電子素子搭載用基板(1)であって、前記アルミニウム回路層(12)およびアルミニウム層(13)の少なくとも一方は、母材(20)(22)の絶縁基板側にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる微細結晶層(21)(23)がクラッドされたクラッド材で構成され、ろう付後の前記微細結晶層(21)(23)の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板に電子素子を搭載するためのアルミニウム回路層がろう付けされた電子素子搭載用基板、およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子搭載用基板として、絶縁基板の一面側に金属回路層が接合したものが知られている。かかる基板において、絶縁基板は電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れているセラミックが用いられ、前記金属回路層は導電性が高くかつ前記絶縁基板と接合可能な金属として高純度アルミニウムが用いられ、これらはAl−Si系合金ろう材によってろう付される(特許文献1参照)。
【0003】
また、前記絶縁基板の他方の面には応力緩和するための緩衝層を介してヒートシンクを積層されることもある。ヒートシンクは軽量性、強度維持、成形性、耐食性が要求されることから、Al−Mn系合金等のアルミニウム合金を用いることが一般的であり、電子素子の熱サイクルにおいて絶縁基板とヒートシンクとの間に発生する応力を緩和するために、緩衝層は高純度アルミニウムを用いるのが一般的である。前記絶縁基板と緩衝層とは、前記金属回路層の接合と同じく、Al−Si系合金ろう材によってろう付けされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図3は、ろう付後の絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(100)との接合界面の近傍を拡大して模式的に示した図である。図3に示すように、アルミニウム回路層(100)の表面を構成する結晶粒(101)(102)(103)(104)は必ずしも同じ高さで並んでいるのではなく不揃いの高さで並んでおり、隣接する結晶粒との間に段差が生じて絶縁基板(11)との間に隙間が生じる。結晶粒が大きくなると、前記隙間は絶縁基板(11)の表面に平行な方向の寸法が大きくなるだけでなく、前記段差(材料の積層方向の寸法)も大きくなることがわかっている。上述したように、絶縁基板(11)にろう付されるアルミニウム回路層(100)および緩衝層の材料はいずれも高純度アルミニウムであって、高純度アルミニウムは再結晶粒が粗大化する傾向があるので隣接する結晶粒との間に生じる段差も大きくなっている。つまりは、結晶粒径が大きいことにより、結晶粒径の細かいものと比較して段差による体積が多くなることとなる。このため、前記アルミニウム回路層(100)を絶縁基板(11)にろう付すると、絶縁基板(11)の表面からアルミニウム回路層(100)側に退いた結晶粒(101)(103)の部分にろう材溜まり(105)が生じて余剰ろう材が接合界面に残存することになる。また、前記絶縁基板と緩衝層との接合界面においても結晶粒の段差によって同様の余剰ろう材が残存する。接合界面に余剰ろう材が残存するとろう材の使用量が増加するので好ましくない。
【0006】
また、Al−Si系合金ろう材はアルミニウム回路層や緩衝層を構成する高純度アルミニウムよりも硬質であり、接合界面に硬いろう材溜まりが生じると冷熱サイクルにおいて応力が集中しやすくなるおそれがある。このため、電子素子搭載用基板の冷熱耐久性の向上を図るためにも接合界面に余剰ろう材が残存しないこと、あるいは残存する余剰ろう材量が少ないことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述した背景技術に鑑み、絶縁基板とアルミニウムからなる回路層および緩衝層との接合界面に余剰ろう材が残存しない電子素子搭載用基板の提供を目的とする。
【0008】
即ち、本発明は、下記[1]〜[8]に記載の構成を有する。
【0009】
[1]絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層は母材の絶縁基板側にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる微細結晶層がクラッドされたクラッド材で構成され、ろう付後の前記微細結晶層の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされていることを特徴とする電子素子搭載用基板。
【0010】
[2]絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付され、他方の面にアルミニウム層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層およびアルミニウム層の少なくとも一方は、母材の絶縁基板側にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる微細結晶層がクラッドされたクラッド材で構成され、ろう付後の前記微細結晶層の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされていることを特徴とする電子素子搭載用基板。
【0011】
[3]前記微細結晶層は純度が99〜99.9質量%のアルミニウムからなる前項1または2に記載の電子素子搭載用基板。
【0012】
[4]前記微細結晶層はFe:0.1〜0.6質量%を含み、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる前項1または2に記載の電子素子搭載用基板。
【0013】
[5]前記微細結晶層の厚さが10〜200μmである前項1〜4のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0014】
[6]前記クラッド材は微細結晶層上にろう材がクラッドされてなる前項1〜5のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0015】
[7]前項1〜6のいずれかに記載の電子素子搭載用基板に用いるクラッド材の製造方法であって、
母材材料と微細結晶層材料とを重ねて複数パスの圧延を行う間に、330〜450℃で1〜8時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延の圧下率を10〜40%とすることを特徴とするクラッド材の製造方法。
【0016】
[8]前項2に記載の電子素子搭載用基板のアルミニウム層が緩衝層であり、この緩衝層にヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。
【発明の効果】
【0017】
上記[1]に記載の電子素子搭載用基板は、絶縁基板にろう付されるアルミニウム回路層が母材の絶縁基板側の面に微細結晶層がクラッドされたクラッド材で構成され、ろう付後の微細結晶層は結晶粒の平均粒径が10〜500μmに微細化されている。このため、前記微細結晶層の表面において隣接する結晶粒との間に生じる段差が小さいので、絶縁基板との接合界面に生じるろう材溜まりも小さくなる。あるいは、ろう材溜まりが発生しなくなる。また、結晶粒の微細化によって結晶粒界面積率が高くなるので、ろう材が結晶粒界に拡散するので接合界面に残存するろう材が減少する。これらによって、接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなる。また、接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことによって、冷熱サイクルにおけるろう材溜まりへの応力集中を防いで電子素子搭載用基板の冷熱耐久性を向上させることができる。
【0018】
上記[2]に記載の電子素子搭載用基板は、絶縁基板にろう付されるアルミニウム回路層およびアルミニウム層のうちの少なくとも一方は、母材の絶縁基板側の面に微細結晶層がクラッドされたクラッド材で構成され、ろう付後の微細結晶層は結晶粒の平均粒径が10〜500μmに微細化されている。このため、前記微細結晶層の表面において隣接する結晶粒との間に生じる段差が小さいので、絶縁基板との接合界面に生じるろう材溜まりも小さくなる。あるいは、ろう材溜まりが発生しなくなる。従って、クラッド材を用いた側の接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなる。また、絶縁基板との接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことによって、冷熱サイクルにおけるろう材溜まりへの応力集中を防いで電子素子搭載用基板の冷熱耐久性を向上させることができる。
【0019】
上記[3][4]記載の電子素子搭載用基板によれば、規定された組成の材料を用いることによってろう付後の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなる微細結晶層を形成できる。
【0020】
上記[5]に記載の電子素子搭載用基板によれば、クラッド材の微細結晶層が10〜200μmであるから、十分に微細結晶層による効果を得ることができる。
【0021】
上記[6]に記載の電子素子搭載用基板によれば、ろう材が微細結晶層を有するクラッド材と一体になっているので、ろう付時の仮組み作業が簡単になる。
【0022】
上記[7]に記載のクラッド材の製造方法によれば、規定された条件で中間焼鈍を行い、かつ規定された圧下率で仕上げ圧延を行うことにより、ろう付後に微細結晶層の平均粒径が10〜500μmとなるクラッド材を作製することができる。
【0023】
上記[8]に記載の放熱装置によれば、絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面、および絶縁基板とアルミニウム層の接合界面において、クラッド材を用いた側の接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなる。また、絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことによって、冷熱サイクルにおけるろう材溜まりへの応力集中を防いで放熱装置の冷熱耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる電子素子搭載用基板、およびこの電子素子搭載用基板を用いた放熱装置の仮組物を示す縦断面図である。
【図2】本発明にかかる電子素子搭載用基板において、ろう付後の絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面およびその近傍を示す断面図である。
【図3】従来の電子素子搭載用基板において、ろう付後の絶縁基板とアルミニウム回路層との接合界面およびその近傍を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明の電子素子搭載用基板の一実施形態と、この電子素子搭載用基板を用いて作製する放熱装置の仮組物を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。
【0026】
電子素子搭載用基板(1)は、絶縁基板(11)と、この絶縁基板(11)の一方の面に重ねられた電子素子搭載用のアルミニウム回路層(12)と、他方の面に重ねられた緩衝層(13)とにより構成されている。図1の仮組物においては、前記絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との間、およびアルミニウム回路層(12)と緩衝層(13)との間にこれらを接合するためのろう材箔(14)(15)が配置されている。放熱装置(2)の仮組物は、前記電子素子搭載用基板(1)の絶縁基板(11)の緩衝層(13)側に複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(16)を重ねたものであり、緩衝層(13)とヒートシンク(16)との間には接合用のろう材箔(17)が配置されている。
【0027】
前記放熱装置(2)は前記仮組物を一括してろう付加熱され、その後アルミニウム回路層(12)上に電子素子(18)が搭載されてはんだ付される。ろう付後の放熱装置(2)において、アルミニウム回路層(12)がろう付された絶縁基板(11)とヒートシンク(16)とは緩衝層(13)を介して熱的に結合され、電子素子(18)が発する熱はヒートシンク(16)に排熱される。
【0028】
前記電子素子搭載基板(1)において、アルミニウム回路層(12)は母材(20)の絶縁基板側の面に微細結晶層(21)がクラッドされた二層クラッド材である。また、前記緩衝層(13)は本発明におけるアルミニウム層に対応する層であるって、母材(22)の絶縁基板側の面に微細結晶層(23)がクラッドされた二層クラッド材である。図1に示した緩衝層(13)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴を有するパンチングメタルであるが、本発明における緩衝層、即ちアルミニウム層は貫通穴の有るものに限定されない。
【0029】
前記アルミニウム回路層(12)の母材(20)は導電性が高くかつ電子素子とのはんだ付性の良いアルミニウムを用いることが好ましく、特に純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウムを推奨できる。
【0030】
前記緩衝層(13)の母材もまた、熱伝導性が高いアルミニウムを用いることが好ましく、剛性の高いセラミック製の絶縁基板(11)とヒートシンク(16)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質のアルミニウムを用いることが好ましいことから、特に純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウムを推奨できる。
【0031】
前記アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)の微細結晶層(21)(23)はアルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、ろう付後に結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされ、高純度アルミニウムよりも微細化された組織となる。
【0032】
図2は、ろう付後の絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)の微細結晶層(21)との接合界面およびその近傍を拡大して模式的に示した断面図である。図2に示すように、微細結晶層(21)の表面を構成する結晶粒(31)(32)(33)(34)(35)(36)が必ずしも同じ高さで並んではいなくても、結晶粒が微細化されていることで隣接する結晶粒との間に生じる段差(材料の積層方向の寸法)も小さくなり、絶縁基板(11)の表面からアルミニウム回路層(12)側に退いた結晶粒(32)(34)の部分に生じるろう材溜まり(37)も小さくなる。あるいは、段差が無くなってろう材溜まりが発生しなくなる。
【0033】
結晶粒が小さくなると隣接する結晶粒との間に生じる段差が小さくなる理由は、以下のとおりである。
【0034】
結晶方位の異なる結晶粒は方向によって線膨張係数が異なる。このため、結晶方位の異なる結晶粒が隣接していると、それらの結晶粒はろう付中に線膨張係数の差によって相互に回転力または変形力を受ける。さらに、ろう付中の材料に加わる荷重や摩擦力等は結晶粒を回転させる力または変形させる力となって作用する。そして、結晶粒の回転角度が同じであっても結晶粒が大きくなるほどずれは大きくなり、結晶粒が小さくなるほどずれは小さくなる。また変形力を受ける場合おいても、大きい結晶粒で変形力を受けることで粒界でのずれが大きくなり、小さい結晶粒の粒界ではずれが小さくなる。隣接する結晶粒の段差はこのようなずれによって生じるために、結晶粒が小さくなるほど段差が小さくなる。
【0035】
従って、結晶粒が小さくなると、接合界面に残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなって、ろう材の使用量が抑えられる。また、結晶粒が細かいために結晶粒界面積率が高くなるので、結晶粒界に拡散するろう材量が増えることによっても絶縁基板(11)との接合界面に残存する余剰ろう材が減少する。図示は省略するが、前記絶縁基板(11)と緩衝層(13)の微細結晶層(23)との接合界面においても同様であり、残存する余剰ろう材の量が抑えられ、あるいは余剰ろう材が残存しなくなる。
【0036】
また、前記絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との接合界面、および前記絶縁基板(11)と緩衝層(13)との接合界面にろう材溜まりとして残存する余剰ろう材を減らすことは、冷熱サイクルにおいてろう材溜まりへの応力集中を防ぐ上でも好ましいことであり、電子素子搭載用基板(1)の冷熱耐久性を向上させることができる。
【0037】
ろう付後の前記微細結晶層(21)(23)において結晶粒の平均粒径が500μmを超えると上記効果が少なく、平均粒径が10μm未満では心材への侵食(結晶粒の溶融)が発生するため好ましくない。よって、本発明における微細結晶層(21)(23)のろう付後の結晶粒の平均粒径は10〜500μmとする。好ましい結晶粒の平均粒径は40〜450μmである。前記結晶粒の平均粒径はろう付後、即ちろう付加熱を受けることによって達成される平均粒径であるから、ろう付前の微細結晶層(21)(23)においては必ずしも平均粒径が上記範囲内であるとは限らない。本発明はろう付条件を限定するものではないが、ろう付条件として590〜620℃で5〜30分の加熱を推奨できる。
【0038】
前記微細結晶層(21)(23)を構成する材料は、ろう付後に平均粒径10〜500μmを達成できるものであれば組成は限定されないが、結晶粒を微細化できる材料の一つとして、アルミニウム純度が99〜99.9質量%のアルミニウムを推奨できる。また、もう一つの材料として、結晶粒を微細化する効果のあるFeを0.1〜0.6質量%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を推奨できる。これらの材料において、アルミニウム純度が99質量%以上であればFe以外の不純物元素を含有することが許容される。Fe以外の不純物元素として、0.05〜0.6質量%のSi、0.4質量%以下のCu、0.3質量%以下のMnを例示できる。他の不純物元素は0.1質量%以下であれば許容される。
【0039】
上述したアルミニウムおよびアルミニウム合金は、高い導電性および熱伝導性を有し、かつ絶縁基板(11)とのろう付性が良好であるから、アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)一部を構成し、絶縁基板(11)にろう付される材料としての条件を満たしている。また、微細結晶層(21)(23)は強度が低く絶縁基板(11)との接合界面に発生する応力を緩和できることが好ましいが、上述したアルミニウムおよびアルミニウム合金はその条件も満たしている。
【0040】
前記微細結晶層(21)(23)の厚さは上述した効果を十分に得るために10〜200μmが好ましい。厚さが10μm未満の薄い層では微細結晶層(21)(23)がろう材に侵食され消失してしまう可能性があり、200μmを超えると厚すぎるためにクラッドが困難となり、不経済である。前記微細結晶層(21)(23)の特に好ましい厚さは30〜150μmである。
【0041】
また、前記アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)は、微細結晶層(21)(23)上にろう材をクラッドした三層材として用いることもできる。ろう材が微細結晶層を有するクラッド材と一体になっているので、ろう付時の仮組み作業が簡単になる。
【0042】
前記アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)を構成するクラッド材は、母材材料と微細結晶層材料とを重ねて、あるいはさらに微細結晶層材料上にろう材を重ねて、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延の複数パスの圧延を行うことにより作製する。ろう付後の微細結晶層(21)(23)の結晶粒を平均粒径が10〜500μmの範囲に微細化するには、このクラッド材の作製工程において中間焼鈍条件および仕上げ圧延の圧下率を規定することが有効である。中間焼鈍は330〜450℃で1〜8時間保持することが好ましく、特に370〜420℃で2〜6時間が好ましい。また、前記条件による中間焼鈍を行う時期は熱間圧延後もしくは仕上げ圧延前が好ましい。また、仕上げ圧延の圧下率は10〜40%が好ましく、特に15〜30%が好ましい。仕上げ圧延は単パス、複数パスのどちらで行っても良く、仕上げ圧延を複数パスで行う場合の圧下率は合計の圧下率である。
【0043】
前記電子素子搭載用基板(1)および放熱装置(2)を構成する他の層の好ましい材料は以下のとおりである。
【0044】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0045】
ヒートシンク(16)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(16)は緩衝層(13)側の外面がフラットであれば緩衝層(13)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、緩衝層(13)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0046】
前記ろう材箔(14)(15)(17)の材料は限定されないが、上述したアルミニウム回路層(12)、絶縁基板(11)、緩衝層(13)、ヒートシンク(16)の材料の接合に好適なろう材としてAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金を推奨できる。また、前記アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)にろう材をクラッドする場合も同様である。
【0047】
図1の電子素子搭載用基板(1)は絶縁基板(11)の一方の面にアルミニウム回路層(12)を積層し他方の面にアルミニウム層としての緩衝層(13)を積層したものであり、アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)の両方を母材(20)(22)に微細結晶層(21)(23)をクラッドしたクラッド材で構成したものであるが、アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)のどちらか一方のみをクラッド材で構成した電子搭載用基板も本発明に含まれる。また、前記絶縁基板(11)の他方の面にろう付するアルミニウム層はヒートシンクをろう付することを前提とした緩衝層に限定されず、ヒートシンクをアルミニウム層としてヒートシンクを直接絶縁基板にろう付する電子素子搭載用基板も本発明に含まれる。さらに、絶縁基板にアルミニウム回路層のみをろう付するものとし、他方の面にはアルミニウム層が存在しない電子素子搭載用基板も本発明に含まれる。またさらに、前記絶縁基板(11)の他方の面にろう付するアルミニウム層を回路層として利用し、絶縁基板(11)の両面に電子素子を搭載するように構成した電子素子搭載用基板も本発明に含まれる。
【実施例】
【0048】
図1に参照される積層構造の電子素子搭載用基板(1)を含む放熱装置(2)を、アルミニウム回路層および緩衝層の材料を変えて作製した。前記放熱装置(2)において積層した部材は、積層順に、アルミニウム回路層(12)、ろう材箔(14)、絶縁基板(11)、ろう材箔(15)、緩衝層(13)、ろう材箔(17)、ヒートシンク(16)である。
【0049】
[アルミニウム回路層および緩衝層]
実施例1〜4において、アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)は母材(20)(22)の片面に微細結晶層(21)(23)をクラッドした二層クラッド材を使用した。前記母材(20)(22)の材料は、不可避不純物として0.003質量%のFeを含有する純度99.99質量%以上の高純度アルミニウムであり、各実施例で共通である。前記微細結晶層(21)(23)の材料は、表1に記載した濃度のFeを含み、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金であり、各実施例で異なるアルミニウム合金を用いた。
【0050】
アルミニウム回路層(12)用の二層クラッド材は、最終的に母材(20)の厚さが0.6mm、微細結晶層(21)の厚さが表1に記載した各厚さとなるように、厚さを調節した母材材料と微細結晶層材料を重ね、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延を施して作製した。また、緩衝層(13)用の二層クラッド材は、最終的に母材(22)の厚さが1.6mm、微細結晶層(23)の厚さが表1に記載した各厚さとなるように、厚さを調節した母材材料と微細結晶層材料を重ね、熱間圧延、冷間圧延、仕上げ圧延を施して作製した。これらのクラッド材作製工程において、実施例1、3、4は仕上げ圧延前に表1に示す条件で中間焼鈍を行い、実施例2は中間焼鈍を行わなかった。また、各実施例の仕上げ圧延は表1に示す圧下率で実施した。
【0051】
作製したアルミニウム回路層(12)用の二層クラッド材は28mm×28mmに切断したものを放熱装置(2)の仮組みに使用した。また緩衝層(13)用の二層クラッド材は28mm×28mmに切断し、さらに切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴を形成したものを放熱装置(2)の仮組みに使用した。
【0052】
一方、比較例のアルミニウム回路層は前記二層クラッド材の母材(20)(22)と同一組成の高純度アルミニウムのからなる厚さ6mmの無垢の圧延板を28mm×28mmに切断したものを放熱装置の仮組みに用いた。また緩衝層は前記二層クラッド材の母材(20)(22)と同一組成の高純度アルミニウムのからなる厚さ1.6mmの無垢の圧延板を28mm×28mmに切断し、さらに切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴を形成したものを放熱装置の仮組みに用いた。
【0053】
[他の部材]
前記アルミニウム回路層および緩衝層を除く部材は各例で共通のものを用いた。
【0054】
前記絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。前記ヒートシンク(16)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。前記ろう材箔(14)(15)(17)は厚さ30μmのAl−10質量%Si−1質量%Mg合金箔である。
【0055】
[ろう付]
実施例1〜4および比較例の仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0056】
ろう付した放熱装置(2)について、実施例1〜4のアルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)の微細結晶層(21)(23)の結晶粒の平均粒径、および比較例の高純度アルミニウムからなるアルミニウム回路層および緩衝層の結晶粒の平均粒径を調べたところ、表1に示す数値であった。また、絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との接合界面、絶縁基板(11)と緩衝層(13)との接合界面における余剰ろう材(ろう材溜まり)の有無を観察するとともに、冷熱サイクルにおける耐久性を下記の方法で試験にて評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
[冷熱耐久性試験]
冷熱サイクル試験(125℃⇔−40℃)を2000サイクル行い、絶縁基板(11)(AlN)とアルミニウム回路層(12)(Al)および緩衝層(13)(Al)の接合界面の接合面積を超音波探傷機により測定し、剥離のあった部分の面積割合を測定して評価した。AlNに割れが発生もしくはAlN/Al接合界面での剥離が接合面積に対して5%以上剥離したものを△、3%以上5%未満のものを○、3%未満のものを◎とした。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示したように、ろう付した放熱装置において、比較例のアルミニウム回路層および緩衝層を構成する高純度アルミニウムに比べて実施例1〜4で用いた二層クラッド材の微細結晶層の結晶粒は極めて微細である。そして、実施例1〜4では絶縁基板とアルミニウム回路層および緩衝層との接合界面に余剰ろう材は認められなかったが、比較例では余剰ろう材が認められた。また、実施例1〜4は比較例よりも冷熱サイクルにおける耐久性が向上していることも確認した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の電子素子搭載基板は、絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に緩衝層を介してヒートシンクがろう付された放熱装置の製造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1…電子素子搭載用基板
2…放熱装置
11…絶縁基板
12…アルミニウム回路層
13…緩衝層(アルミニウム層)
14、15、17…ろう材箔
18…電子素子
16…ヒートシンク
20、22…母材
21、23…微細結晶層
31、32、33、34、35、36、101、102、103、104…結晶粒
37、105…ろう材溜まり(余剰ろう材)
100…アルミニウム回路層(高純度アルミニウム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層は母材の絶縁基板側にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる微細結晶層がクラッドされたクラッド材で構成され、ろう付後の前記微細結晶層の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされていることを特徴とする電子素子搭載用基板。
【請求項2】
絶縁基板の一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付され、他方の面にアルミニウム層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層およびアルミニウム層の少なくとも一方は、母材の絶縁基板側にアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる微細結晶層がクラッドされたクラッド材で構成され、ろう付後の前記微細結晶層の結晶粒の平均粒径が10〜500μmとなされていることを特徴とする電子素子搭載用基板。
【請求項3】
前記微細結晶層は純度が99〜99.9質量%のアルミニウムからなる請求項1または2に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項4】
前記微細結晶層はFe:0.1〜0.6質量%を含み、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる請求項1または2に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項5】
前記微細結晶層の厚さが10〜200μmである請求項1〜4のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項6】
前記クラッド材は微細結晶層上にろう材がクラッドされてなる請求項1〜5のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電子素子搭載用基板に用いるクラッド材の製造方法であって、
母材材料と微細結晶層材料とを重ねて複数パスの圧延を行う間に、330〜450℃で1〜8時間の中間焼鈍を行い、仕上げ圧延の圧下率を10〜40%とすることを特徴とするクラッド材の製造方法。
【請求項8】
請求項2に記載の電子素子搭載用基板のアルミニウム層が緩衝層であり、この緩衝層にヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−93368(P2013−93368A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232992(P2011−232992)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】