説明

電子素子搭載用基板

【課題】冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層の電子素子搭載面に発生するしわが抑制される電子素子搭載用基板を提供する。
【解決手段】絶縁基板(11)の少なくとも一方の面に電子素子(18)を搭載するアルミニウム回路層(12)がろう付された電子素子搭載用基板(1)であって、前記アルミニウム回路層(12)は、母材(20)の電子素子搭載面側に高強度層(21)が一体に積層された積層材で構成され、前記高強度層(21)の引張強さX(N/mm)と母材(20)の引張強さY(N/mm)とがX/Y≧1.1の関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板に電子素子を搭載するためのアルミニウム回路層がろう付けされた電子素子搭載用基板、およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子搭載用基板として、絶縁基板に電子素子を搭載するためのアルミニウム回路層が接合したものが知られている。かかる基板において、絶縁基板は電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れているセラミックが用いられ、前記絶縁基板とアルミニウム回路層の接合はこれらの間にAl−Si系またはAl−Ge系合金のろう材箔を挟んで加熱することによって行われる。そして、作製した基板のアルミニウム回路層に電子素子がはんだ付される。前記基板においては、電子素子の発熱による冷熱サイクルで絶縁基板とアルミニウム回路層との線膨張係数差によって発生する応力を緩和し、アルミニウム回路層の剥離や割れを防ぐために、アルミニウム回路層の材料には高純度のアルミニウムが用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平8−10202号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した材料と方法で作製した基板は、冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層が変形して電子素子搭載面にしわによる凹凸が形成されることがあった。アルミニウム回路層と電子素子とのはんだ付部の接合信頼性を高め、回路基板の冷熱耐久性を向上させる手段の一つとしてしわの発生を抑制することが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した背景技術に鑑み、絶縁基板にアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、冷熱サイクルにおいてアルミニウム回路層の電子素子搭載面の凹凸が抑制される電子素子搭載用基板の提供を目的とする。
【0006】
即ち、本発明は、下記[1]〜[8]に記載の構成を有する。
【0007】
[1]絶縁基板の少なくとも一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層は、母材の電子素子搭載面側に高強度層が一体に積層された積層材で構成され、前記高強度層の引張強さX(N/mm)と母材の引張強さY(N/mm)とがX/Y≧1.1の関係を満足することを特徴とする電子素子搭載用基板。
【0008】
[2]前記積層材は母材と高強度層とがクラッド圧延によって一体化されてなる前項1に記載の電子素子搭載用基板。
【0009】
[3]前記積層材は、心材にろう材層が積層されたブレージングシートによって高強度層が構成され、前記ブレージングシートを母材にろう付することによって母材と高強度層とが一体化されてなる前項1に記載の電子素子搭載用基板。
【0010】
[4]前記高強度層は0.03〜0.5質量%のCuを含有するアルミニウム合金からなる前項2に記載の電子素子搭載用基板。
【0011】
[5]前記高強度層を構成するブレージングシートの心材は0.03〜0.5質量%のCuを含有するアルミニウム合金からなる前項3に記載の電子素子搭載用基板。
【0012】
[6]前記積層材は、高強度層の厚さ(t)が20μm以上であり、母材の厚さ(t)が200μm以上である前項1〜5のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0013】
[7]前記積層材は、高強度層の引張強さX(N/mm)、母材の引張強さY(N/mm)、高強度層の厚さt(μm)が、X×t/Y≧45の関係を満足する前項1〜6のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【0014】
[8]前項1〜7のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に緩衝層を介してヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。
【発明の効果】
【0015】
上記[1]に記載の電子素子搭載用基板は、絶縁基板にろう付されるアルミニウム回路層が母材の電子素子搭載面側に高強度層が一体に積層された積層材で構成され、前記高強度層の引張強さは母材の1.1倍以上となされている。前記アルミニウム回路層は高強度層によって電子素子搭載面が強化されているため、冷熱サイクルで絶縁基板と母材との線膨張係数差に起因するしわの発生が抑制される。ひいては、アルミニウム回路層に搭載された電子素子のはんだ付信頼性が高まり、電子素子を搭載した回路基板の冷熱耐久性が向上する。
【0016】
上記[2]に記載の電子素子搭載用基板によれば、アルミニウム回路層として母材と高強度層とのクラッド圧延材を用いることによって上記効果が得られる。
【0017】
上記[3]に記載の電子素子搭載用基板によれば、アルミニウム回路層として、心材にろう材層が積層されたブレージングシートによって高強度層が構成され、前記ブレージングシートが母材にろう付されたろう付積層材を用いることによって上記効果が得られる。
【0018】
上記[4][5]に記載の各電子素子搭載用基板によれば、めっき皮膜の密着性を低下させることなく高強度層の引張強さを高めることができる。
【0019】
上記[6]に記載の電子素子搭載用基板によれば、しわの発生を十分に抑制することができる。
【0020】
上記[7]に記載の電子素子搭載用基板によれば、特にしわの発生抑制効果が大きい。
【0021】
上記[8]に記載の放熱装置によれば、電子素子搭載用基板のアルミニウム回路層が高強度層によって電子素子搭載面が強化されているため、冷熱サイクルで絶縁基板と母材との線膨張係数差に起因するしわの発生が抑制される。ひいては、アルミニウム回路層に搭載された電子素子のはんだ付信頼性が高まり、電子素子を搭載した回路基板を組み込んだ放熱装置の冷熱耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる電子素子搭載用基板、およびこの電子素子搭載用基板を用いた放熱装置の仮組物を示す縦断面図である。
【図2】高強度層の他の例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明の電子素子搭載用基板の一実施形態と、この電子素子搭載用基板を用いて作製する放熱装置の仮組物を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。
【0024】
電子素子搭載用基板(1)は、絶縁基板(11)と、この絶縁基板(11)の一方の面に重ねられた電子素子搭載用のアルミニウム回路層(12)とにより構成されている。図1の仮組物においては、前記絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との間にこれらを接合するためのろう材箔(14)が配置されている。また、放熱装置(2)の仮組物は、前記電子素子搭載用基板(1)の絶縁基板(11)の他方の面に緩衝層(13)を介して複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(16)を重ねたものであり、絶縁基板(11)と緩衝層(13)との間、および緩衝層(13)との間ヒートシンク(16)との間には接合用のろう材箔(15)(17)が配置されている。
【0025】
前記放熱装置(2)は前記仮組物を一括してろう付加熱され、その後アルミニウム回路層(12)上に電子素子(18)がはんだ付される。ろう付後の放熱装置(2)において、アルミニウム回路層(12)がろう付された絶縁基板(11)とヒートシンク(16)とは緩衝層(13)を介して熱的に結合され、電子素子(18)が発する熱はヒートシンク(16)に排熱される。
【0026】
前記電子素子搭載用基板(1)において、アルミニウム回路層(12)は母材(20)の電子素子搭載面側に母材(20)よりも引張強さの高い高強度層(21)が一体に積層された積層材で構成されている。前記アルミニウム回路層(12)は電子素子搭載面が高強度層(21)によって強化されているため、冷熱サイクルにおいて絶縁基板(11)と母材(20)との線膨張係数差に起因して電子素子搭載面に発生するしわが抑制される。本発明においては、高強度層(21)の引張強さをX(N/mm)、母材(20)の引張強さをY(N/mm)とするとき、X/Y≧1.1の関係を満足することが条件である。X/Y<1.1では前記効果が少ない。一方、母材(20)に対して高強度層(21)の引張強さが高くなりすぎると絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との接合界面に発生する応力を緩和する効果が低くなる。このため、両者の強度比率が5≧X/Yであることが好ましい。特に好ましい強度の比率は5≧X/Y≧1.3である。
【0027】
また、前記積層材において、高強度層(21)の厚さ(t)は20μm以上とすることが好ましい。高強度層(21)の厚さ(t)を20μm以上とするのは20μm未満ではしわの発生を抑制する効果が少ないからである。一方、母材(20)に対して高強度層(21)が厚すぎると絶縁基板(11)とアルミニウム回路層(12)との間に生じる応力を緩和する効果が低減するため、500μm以下が好ましい。高強度層(21)の特に好ましい厚さ(t)は30〜500μmである。また、前記母材(20)の厚さ(t)は200μm以上が好ましい。前記母材(20)の厚さ(t)を200μm以上とするのは200μm未満では応力緩衝の効果が少なくなるからである。一方、前記母材(20)の厚さ(t)が3mmを超えると不経済であるから3mm以下が好ましい。母材(20)の特に好ましい厚さは(t)は300μm〜1.5mmである。また、前記高強度層(21)の厚さ(t)はアルミニウム回路層(12)の厚さ(t+t)の50%以下が好ましく、特に20%以下が好ましい。
【0028】
さらに、前記積層材において、高強度層(21)の引張強さX(N/mm)、母材(20)の引張強さY(N/mm)および高強度層(21)の厚さは、X×t/Y≧45の関係を満足することが好ましい。高強度層(21)および母材(20)が上記関係を満足するとき、特にしわの発生抑制効果が大きい。好ましいこれらの関係はX×t/Y≧50である。
【0029】
前記母材(20)および高強度層(21)を構成する材料は、それぞれの引張強さY(N/mm)、X(N/mm)がX/Y≧1.1の関係を満足する限り限定されないが、以下の材料を推奨できる。
【0030】
前記母材(20)の材料は、導電性が高くかつ絶縁基板(11)との接合界面に発生する応力を緩和できるアルミニウムを用いることが好ましく、特に純度が99.99質量%以上の高純度アルミニウムを推奨できる。一方、高強度層(21)は母材(20)よりも引張強さの高いアルミニウムまたはアルミニウム合金であり、母材材料が純度99.99質量%以上の高純度アルミニウムであるときX/Y≧1.1の関係を満足する材料として、JIS A3003、A1100、A1050、Al純度が99.5〜97質量%で母材よりも純度の低いアルミニウムを例示できる。また、高強度層(21)の材料として、引張強さを向上させる効果のあるCuを0.03〜0.5質量%の範囲で含有するアルミニウム合金を用いることも好ましい。Cu濃度が0.03質量%では引張強さを向上させる効果が少ない。また、前記アルミニウム回路層(12)には電子素子のはんだ付性を良好にするためにNi−Pめっきが施されることがあるが、Cu濃度を0.5質量%以下にすることでNi−Pめっき皮膜の密着性を低下させることなく引張強さの向上効果を得ることができる。特に好ましいCu濃度は0.1〜0.4質量%である。Cu含有合金としては、上述したアルミニウムまたはアルミニウム合金にCuを添加した合金を例示できる。
【0031】
前記積層材の種類や製造方法は限定されない。積層材の種類として、母材と高強度層とを圧延によって一体化したクラッド圧延材や、母材と高強度層とをろう付したろう付積層材を例示できる。
【0032】
図1に示したアルミニウム回路層(12)はクラッド圧延材である。クラッド圧延材は、周知のクラッド圧延材の製造方法に従い、母材材料と高強度層材料とを重ねて複数パスの圧延を行うことにより作製する。
【0033】
ろう付積層材を用いる場合は、図2に示すように、心材(31)にろう材層(32)をクラッドしたブレージングシート(30)を作成し、このブレージングシート(30)を母材(20)にろう付する方法を推奨できる。前記ブレージングシート(30)の心材(31)は上述した高強度層の材料であるアルミニウムまたはアルミニウム合金を用い、ろう材層(32)はAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金等のろう材を用いる。ろう付積層材を使用した場合は心材(31)とろう材層(32)を合わせたものが高強度層(21)となる。従って、図2のブレージングシート(30)を用いた場合は、ブレージングシート(30)の引張強さおよび厚さが高強度層(21)の引張強さX(N/mm)および厚さ(t)となる。また、前記ブレージングシート(30)と母材(20)のろう付は、図1に示した電子素子搭載基板(1)、あるいは放熱装置(2)を仮組みする際にブレージングシート(30)と母材(20)を仮組みし、他の部材とともに一括してろう付することができる。
【0034】
前記電子素子搭載用基板(1)および放熱装置(2)を構成する他の部材の好ましい材料は以下のとおりである。
【0035】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0036】
緩衝層(13)は、剛性の高いセラミック製の絶縁基板(11)とヒートシンク(16)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質の金属を用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムが好ましい。また、図1に示した緩衝層(13)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴を有するパンチングメタルであるが、応力吸収空間の有無や形状は任意に設定することができる。
【0037】
ヒートシンク(16)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(16)は緩衝層(13)側の外面がフラットであれば緩衝層(13)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、緩衝層(13)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0038】
前記ろう材箔(14)(15)(17)の材料は限定されないが、上述したアルミニウム回路層(12)、絶縁基板(11)、緩衝層(13)、ヒートシンク(16)の材料の接合に好適なろう材としてAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金を推奨できる。また、前記アルミニウム回路層(12)および緩衝層(13)にろう材をクラッドする場合も同様である。
【0039】
図1の電子素子搭載用基板(1)は絶縁基板(11)の一方の面にのみアルミニウム回路層(12)を積層したものであるが、他方の面にもアルミニウム回路層をろう付し、絶縁基板(11)の両面に電子素子を搭載するように構成した電子素子搭載用基板も本発明に含まれる。両面にアルミニウム回路層をろう付する場合、少なくとも一方が本発明で規定する母材と高強度層の積層材で構成されていれば本発明に含まれる。また、前記絶縁基板(11)の一方の面にのみアルミニウム回路層(12)を積層した電子素子搭載用基板(1)において、他方の面に緩衝層(13)やヒートシンク(16)が積層されていることにも限定されない。
【実施例】
【0040】
図1に参照される積層構造の電子素子搭載用基板(1)を含む放熱装置(2)を、アルミニウム回路層の材料を変えて作製した。前記放熱装置(2)において積層した部材は、積層順に、アルミニウム回路層(12)、ろう材箔(14)、絶縁基板(11)、ろう材箔(15)、緩衝層(13)、ろう材箔(17)、ヒートシンク(16)である。
【0041】
前記アルミニウム回路層(12)を除く部材は各例で共通のものを用いた。
【0042】
前記絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。前記ヒートシンク(16)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。前記緩衝層(13)はAl純度が99.99質量%の高純度アルミニウムからなる厚さ1.6mmの圧延板を28mm×28mmに切断し、さらに切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴を形成したものを用いた。前記ろう材箔(14)(15)(17)は厚さ30μmのAl−10質量%Si−1質量%Mg合金箔である。
【0043】
[実施例1〜6のアルミニウム回路層]
アルミニウム回路層(12)として母材(20)と高強度層(21)とからなるクラッド圧延材を用いた。前記母材(20)の材料として各例共通でAl純度が99.99質量%の高純度アルミニウムを用い、高強度層(21)の材料として表1に示すアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いた。
【0044】
前記クラッド圧延材は、最終的に母材(20)の厚さ(t)が500μm、高強度層(21)の厚さ(t)が表1に記載した各厚さとなるように、厚さを調節した母材材料と高強度層材料を重ね、複数パスの圧延を施して作製した。
【0045】
[実施例7、8のアルミニウム回路層]
アルミニウム回路層(12)の高強度層(21)として図2に参照されるブレージングシート(30)を用いた。前記ブレージングシート(30)は表2に示す心材(31)にAl−Si−Mg合金からなるろう材層(32)をクラッドしたものであり、前記ブレージングシート(30)の厚さ(t)およびろう材層(32)のクラッド率は表2に示すとおりである。また、母材(20)として、Al純度が99.99質量%の高純度アルミニウムからなり厚さ(t)が500μmの圧延板を準備した。前記母材(20)とブレージングシート(30)とのろう付は、後述する放熱装置(2)の仮組を行う際に母材(20)とブレージングシート(30)とを仮組みし、他の部材のろう付と同時に行った。
【0046】
[比較例]
Al純度が99.99質量%の高純度アルミニウムからなる厚さ500μmの圧延板をアルミニウム回路層とした。
【0047】
各例で準備したアルミニウム回路層は28mm×28mmに切断し、これを放熱装置(2)の仮組みに用いた。
【0048】
実施例1〜8のアルミニウム回路層(12)における母材(20)の引張強さ(Y)は40N/mmであり、高強度層(21)の引張強さ(X)は各表に示すとおりである。また、前記母材(20)の引張強さ(Y)および厚さ(t)、高強度層(21)の引張強さ(X)および厚さ(t)から計算したX/Y、X×t/Y、アルミニウム回路層(12)における高強度層(21)の厚さ(t)の比率〔t/(t+t)〕×100(%)を表1および表2に示す。
【0049】
また、比較例のアルミニウム回路層は各実施例の母材と同一素材であるあるから、その引張強さは40N/mmである。
【0050】
[ろう付]
実施例1〜8および比較例の仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0051】
[評価]
ろう付した放熱装置(2)について、125℃と−40℃の冷熱サイクル試験を2000サイクル行い、アルミニウム回路層の電子素子搭載面における最大高さ(Ry)を測定し、下記の基準で凹凸の状態を評価した。評価結果を表1および表2に示す。
○:最大高さ(Ry)が40μm以下
△:最大高さ(Ry)が40μmを超え80μm以下
×:最大高さ(Ry)が80μmを超える
【0052】
また、ろう付した各放熱装置(2)のアルミニウム回路層(2)の電子素子搭載面にNi−Pめっきを施して厚さ7μmのめっき皮膜を形成し、JIS D0202−1988 碁盤目付着性試験方法によりテープ剥離試験を行った。
そして、めっき皮膜に剥離が認められなかったものを○、剥離したものを×と評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1および表2に示したように、アルミニウム回路層の電子素子搭載側の面に高強度層を設けたことで表面が強化されたために、冷熱サイクルにおいてしわの発生が抑制された。また、高強度層に所定濃度範囲のCuを添加することで引張強さが向上し、かつめっき皮膜の密着性を低下させないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の電子素子搭載基板は、絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に緩衝層を介してヒートシンクがろう付された放熱装置の製造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1…電子素子搭載用基板
2…放熱装置
11…絶縁基板
12…アルミニウム回路層
13…緩衝層
14、15、17…ろう材箔
18…電子素子
16…ヒートシンク
20…母材
21…高強度層
30…ブレージングシート(高強度層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の少なくとも一方の面に電子素子を搭載するアルミニウム回路層がろう付された電子素子搭載用基板であって、
前記アルミニウム回路層は、母材の電子素子搭載面側に高強度層が一体に積層された積層材で構成され、前記高強度層の引張強さX(N/mm)と母材の引張強さY(N/mm)とがX/Y≧1.1の関係を満足することを特徴とする電子素子搭載用基板。
【請求項2】
前記積層材は母材と高強度層とがクラッド圧延によって一体化されてなる請求項1に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項3】
前記積層材は、心材にろう材層が積層されたブレージングシートによって高強度層が構成され、前記ブレージングシートを母材にろう付することによって母材と高強度層とが一体化されてなる請求項1に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項4】
前記高強度層は0.03〜0.5質量%のCuを含有するアルミニウム合金からなる請求項2に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項5】
前記高強度層を構成するブレージングシートの心材は0.03〜0.5質量%のCuを含有するアルミニウム合金からなる請求項3に記載の電子素子搭載用基板。
【請求項6】
前記積層材は、高強度層の厚さ(t)が20μm以上であり、母材の厚さ(t)が200μm以上である請求項1〜5のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項7】
前記積層材は、高強度層の引張強さX(N/mm)、母材の引張強さY(N/mm)、高強度層の厚さt(μm)が、X×t/Y≧45の関係を満足する請求項1〜6のいずれかに記載の電子素子搭載用基板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の電子素子搭載用基板の絶縁基板の一方の面にアルミニウム回路層がろう付され、他方の面に緩衝層を介してヒートシンクが接合されていることを特徴とする放熱装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−93369(P2013−93369A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232998(P2011−232998)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】