説明

電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンの製造方法

【課題】
従来の熱可塑性ポリウレタンは絶縁性や耐水性などの性能が劣るため、電線被覆材用途にはあまり向いていない。そこで、絶縁性や耐水性に優れ、特に電線被覆材として有用な電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンを得ることを目的とする。
【解決手段】
前記目的を達成するために、電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンについて誠意研究した結果、1,2−ビニル体を50%以上含有するポリブタジエンポリオールを使用することによって、絶縁性、耐水性、耐アルカリ性などについて解決できるこことを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、得られた熱可塑性ポリウレタンに電子線を照射することによって、機械物性を向上することができ、前記特性を有する、電線用被覆材や高性能フィルム等を得ることが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性・耐水性・耐熱性・耐溶剤性・耐アルカリ性に優れ、電線用被覆材や高性能フィルム等に有用な、電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電線用被覆材やフィルムなどは、使用されている分野が広く、様々な場所で使用されるため、幅広い物性が要求されている。現在主流である、ポリエステルポリオール系の熱可塑性ポリウレタンだと、一定の分野では高性能であるが、その他の分野では要求性能を満足できないといったバランスの悪いものであった。
本発明で使用される1,2−ビニル結合体含有ポリブタジエンポリオールからなる熱可塑性ポリウレタンは、幅広い高物性能を有し、プラスチック性とゴム性とを有する樹脂であって、汎用加工機によって容易に成形することが可能であるため、各種工業用品に用いられるようになっている。
【0003】
しかしながら、従来から1,2−ビニル体を含有したポリブタジエンを使用した熱可塑性ポリウレタンは一般的に知られている。例えば、1,2−ポリブタジエンと既存の熱可塑樹脂をロールで混練りし、プレス成形した後に電子線照射を行う方法を提案したものである(特許文献1)。しかし、特許文献1に開示の方法では、一度成形した熱可塑樹脂に、1,2−ポリブタジエンを混練りして、さらにプレス成形するため、成形に手間と時間がかかってしまうなどの問題があった。また、1,2−ポリブタジエンの含有量が、1〜30重量部であるため、絶縁性や耐水性に劣るものとなってしまうなどの弊害がある。
さらに、ポリウレタン分子内にポリブタジエンを導入して導電性ローラを製造する方法の際に、ローラの表面に電子線を照射して架橋させることにより、高耐久なロールを得る技術も提案されている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2で開示している方法では、ポリブタジエンポリオールの1,2−ビニル体含有量の低いポリブタジエンを使用しているため、耐溶剤性や絶縁性が低くなる等の問題が発生する。また、公称平均官能基数が2以上であるため、成形された組成物は熱可塑性を有することができず、本発明の目的とする所から外れてしまう。
【特許文献1】特開2002−348479号公報
【特許文献2】特開2001− 82451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように従来の熱可塑性ポリウレタンは、絶縁性や耐水性などの性能が劣っているため、電線被覆材用途にはあまり向いていない。そこで本発明では、絶縁性・耐水性に優れ、特に電線被覆材として有用な電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明者らは電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンについて誠意研究した結果、不飽和結合を持つ1,2−ビニル体を含有するポリブタジエンポリオールを使用することによって、絶縁性、耐水性、耐アルカリ性などについて解決できるこことを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、得られた熱可塑性ポリウレタンに電子線を照射することによって、機械物性を向上することができ、前記特性を有する、電線用被覆材や高性能フィルム等を得ることが可能となった。
【0006】
すなわち、本発明は次のI〜VIIである。
I. ポリブタジエンポリオール中のブタジエン単位の微細構造が1,2−ビニル体を50%以上含有するポリブタジエンポリオール(A)、鎖延長剤として側鎖アルキル基を有する炭素数4〜15のグリコール(B)、及び有機ポリイソシアネート(C)から得られる電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンを、50〜3,000keVの電子線を照射することにより架橋させることにより高物性を得られる熱可塑性ポリウレタンを製造する方法。
II. (A)が、数平均分子量500〜5,000のポリブタジエンポリオールであり、かつポリブタジエンポリオール中のブタジエン単位の微細構造が1,2−ビニル体50モル%以上で、かつ公称平均官能基数が1.8以上2.0未満である上記I記載の製造方法。
III. (B)が、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールである上記I又はII記載の製造方法。
IV. (B)が、2−ブチル−2−エチル−プロパンジオールである上記I又はII記載の製造方法。
V. 有機ジイソシアネート(C)が、ジフェニルメタンジイソシアネートである上記I〜IVのうちいずれか一つに記載の製造方法。
VI. 上記I〜Vのいずれか記載の製造方法のより得られた樹脂であって、機械強度、耐水性、絶縁性に優れていることを特徴とする電線用被覆材。
VII. 上記I〜Vのいずれか記載の製造方法で得られた樹脂であって、機械強度、耐水性、絶縁性に優れていることを特徴とする高性能フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明により初めて、絶縁性・耐水性・耐溶剤性・耐熱性などに優れ、かつ、機械強度をも維持している熱可塑性ポリウレタンを製造することが可能となった。特に本発明の熱可塑性ポリウレタンは、絶縁性・耐水性・耐溶剤性・耐熱性・耐アルカリ性に優れているので、電線用被覆材や高性能フィルムとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いられる1,2−ビニル体含有ポリブタジエンポリオール(A)は、1,2−ビニル体含有量が50%以上であればよく、好ましくは1,2−ビニル体含有量が50%以上であり数平均分子量500〜5,000かつ公称平均官能基数が1.80以上2.0未満のものであれば、いかなるポリブタジエンポリオールでも良い。この中でも好ましいのは、数平均分子量800〜3、000で、1,2−結合含有量が55%以上、かつ、平均公称平均官能基数が1.85以上2.00未満のものである。特に好ましいのは、数平均分子量1、000〜2、500で、1,2−結合含有量が60%以上、かつ、公称平均官能基数が1.9以上2.0未満である。
【0009】
本発明により得られる熱可塑性ポリウレタンは、数平均分子量が30,000〜100,000、好ましくは40,000〜80,000である。分子量が100,000より大きいと、フィッシュアイが発生したり、成形時の流れ性が悪くなる。また、分子量が30,000未満だと、加工性が悪くなり、物性なども低下してしまう。従って、前記範囲の分子量を得るには、本発明で用いられる1,2−ポリブタジエンポリオールは、前記の範囲にあることが好ましく、公称平均官能基数が1.8未満だと高分子量体にならず、目的とする樹脂が得られず、目的とする物性に到達しない。2.0以上の場合は、熱可塑性を得ることができず、熱可塑性を得るためには低分子量となり、1.8未満と同様の弊害が生じてしまう。
【0010】
本発明における側鎖アルキル基を有する炭素数4〜10のグリコール(B)に用いられるものとしては、ジプロピレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチル−オクタンジオール、2−ブチル−オクタンジオール、2−メチル−ノナンジオール、2−ブチルノナンジオール、2−メチルデカンジオールなどが挙げられる。このグリコールは2種以上併用しても良い。この中でも好ましいのは、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールであり、特に好ましいのは、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールである。
【0011】
本発明で使用する鎖延長剤は、前記のように側鎖アルキル基を有する炭素数4〜25のグリコールが好ましい。側鎖アルキル基を有しないグリコールでは1,2−ポリブタジエンポリオールとの相溶性が悪くなり、機械物性が高い樹脂を得ることができない。液が分離するなどの弊害が発生する。また、炭素数が20以上だと成形性の低下、機械強度が保てなくなり、物性の低下などの弊害が発生する。
側鎖アルキル基を有しない、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンやモノエタノールアミン等の数平均分子量500未満のグリコール、ジアミン及びアミノアルコールについては、溶媒を利用した方法により使用することが可能であるが、溶媒の除去が必要であり合成方法としては好ましくない。
【0012】
本発明における有機ポリイソシアネート(A)としては、従来から使用されているものが使用できる。このような有機ポリイソシアネートには、例えば炭素数6〜20の芳香族ポリイソシアネート[1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2、4−および/または2、6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2、4’−および/または4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等];炭素数2〜18の脂肪族ポリイソシアネート[エチレンジイソシアネート、ヘキサメトレンジイソシアネート等];炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート[キシレンジイソシアネート(XDI)、α、α、α’、α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等];炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート;およびこれら2種以上の混合物が挙げられる。この中でも、炭素数6〜20の芳香族ポリイソシアネートが好ましく、より好ましいのは2、4−および/または2、6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2、4’−および/または4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートである。
【0013】
電子線架橋型熱可塑ポリウレタンの製造をするに際し、1,2−ビニル体含有ポリブタジエンポリオール(A)と側鎖アルキル基を有する炭素数4〜15のグリコール(B)の当量比(x/A)は、0.5〜5が好ましく、1〜5がより好ましい。x/Aが0.5未満だと機械強度が不十分となり、5を超えると成形性や加工性が低下しやすいといった弊害がある。
また、有機ポリイソシアネート(C)と水酸基含有成分((A)+(B))の当量比(NCO/OH)は0.8〜1.3であるのが好ましい。当量比が0.8未満だと機械強度が不十分となり、1.3を超えると、得られる組成物にフィッシュアイが発生するなどの外観不良が起き易いといった弊害がある。
【0014】
電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンペレットの製造方法としては特に限定はなく、公知の方法で製造が可能である。例えば、1,2−ビニル体含有ポリブタジエンポリオール(A)と鎖延長剤(B)との混合物と、有機ジイソシアネート(A)との2液を、それぞれ計量・混合攪拌する方法、上記の原料を定量ポンプで計量し強烈に混合攪拌した後、バット上に注下して更に50〜200℃好ましくは60〜160℃の温度で反応させる方法、100〜250℃好ましくは120〜250℃に設定された押出機に上記の原料を供給し、該押出機内で原料を混練、搬送しながら重合を行い生成したTPUをダイから押し出す方法、ニーダーに全ての原料を仕込み、100〜250℃好ましくは120〜230℃で反応させる方法等で製造できる。製造後はストランドカット等を用いて裁断し、TPUペレットが得られることになる。また、反応を完結させるため、前述の反応機に再度樹脂を戻したり、エージングさせることも可能である。
【0015】
TPUペレット製造時において、いわゆるウレタン化触媒の使用は特に限定はないが、
使用するほうが反応時間の短縮、反応の完結等の利点があるので好ましい。この触媒としては、通常用いられているウレタン化触媒がいずれも使用できるが、例えばビスマス、鉛、錫、鉄、アンチモン、ウラン、カドミウム、コバルト、トリウム、アルミニウム、水銀、亜鉛、ニッケル、セリウム、モリブデン、バナジウム、銅、マンガン、ジルコニウム、カルシウム等の有機化合物、無機化合物等のうち1種又は2種以上の混合物が挙げられる。好ましい触媒は有機金属化合物であり、特に好ましいのはジアルキル錫化合物である。代表的な有機錫触媒としては、例えばオクタン酸第一錫、オレイン酸第一錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブジル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫メルカプトプロピオネート、ジブチル錫ドデシルメルカプチド、ジオクチル錫ジラウレート等が挙げられる。使用する触媒の量は他の原料の性質、反応条件、所望の反応時間等によって決定されるものであるので、特に制限されるものではないが、おおむね、触媒は反応混合物の全質量の3質量%以下、好ましくは2質量%以下の範囲で使用する。
【0016】
本発明は更に添加剤を用いることができる。添加剤としては滑剤、加水分解防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、充填剤、補強用繊維等を必要に応じて使用することができる。
【0017】
本発明の電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンの成形品は以下に示す方法によって製造することができる。前述の電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンペレットの具体的な成形方法としては、上述のTPUペレットをプレス成形、射出成形、ブロー成形、Tダイフィルム成形、インフレーション成形などで、0.03〜5mmのフィルムあるいはシート状の成形物が得られる。いずれの場合においても、シートの加熱温度は、60〜250℃が好ましい。
上記方法により得られた電子線架橋型熱可塑性ポリウレタンの成形品は、次いで電子線を照射して硬化する。電子線を照射すると、1,2−ポリブタジエンのビニル基のラジカル重合により三次元架橋構造となり、成形品をより硬化させることが可能となる。電子線は、合成樹脂に対して透過性があり、その透過の程度は、成形品の厚みと、電子線の運動エネルギーンに依存する。その照射厚みに従って厚み方向に均一に透過可能に電子線のエネルギーを調整すると、厚み方向で架橋度を均一にした成形品とすることができる。
【0018】
電子線のエネルギーは、上記の成形品に対して、50〜3、000keV、好ましくは300〜2、000keVとするが、50keVより小さいと、表層部で捕獲吸収される電子の割合が相対的に多くなって、シートを透過する電子線が少なくなり、表層部に比して内部の架橋が遅れて、架橋度に差が生じるので、好ましくない。一方、3、000keVより大きいと、架橋度が大きくなり過ぎて、硬質となるので、引張強度は大きいが、発、弾力性や伸びが小さいので好ましくない。
【0019】
なお、この際の電子線の照射量は、好ましくは1〜100Mrad(SI単位系で、10〜1、000kGyに相当する)、さらに好ましくは1〜50Mradの範囲で照射して硬化させる。1Mradより少ないと、1,2−ポリブタジエンの架橋度が小さくて、シートの引張強度も小さくなり、好ましくない。100Mradを超えると、架橋度が大きくなり過ぎて、硬質となるので、引張強度は大きいが、弾力性や伸びが小さいので好ましくない。
【実施例】
【0020】
本発明について、実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらにより何ら限定されるものではない。実施例及び比較例において「%」はそれぞれすべて「質量%」を意味する。
【0021】
(製造例1)
温度調整可能な混合タンクにポリブタジエンポリオール、KrasolLBH2000を19.52kg、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(EHD)を3.04kg、ジオクチル錫ジラウレート(DOTDL)を1.5g仕込み、均一に混合して70℃に温調した。この混合液はヘッドタンクに送液され、ここで85℃に温調される。二軸押出機のホッパー付近温度:190℃、中間部温度:200℃、先端部温度:190℃に温度調節し、そのホッパー口より、前記混合液を313.5g/min、MDIを106.3g/minの条件で連続的に原料供給し、ストランドダイから溶融樹脂を吐出・冷却固化後ストランドカットした。次いで25℃にて3日間エージングさせて熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを得た。樹脂フィード量は25kg/hourである。得られたペレットを厚さ100μmのフィルムに加工したものを「PU−1」とする。
【0022】
(製造例2)
前記PU−1を、電子線照射装置を用いて、加速電圧165kV、照射線量10Mrad、酸素濃度800ppm以下の条件で電子線を照射し硬化させた。得られたフィルムをPU−1’とする。
【0023】
(製造例3)
温度調整可能な混合タンクにポリブタジエンオール、Krasol LBH 2000を16.01kg、オクタンジオールを4.49kg、ジオクチル錫ジラウレートを1.5g仕込み、均一に混合して70℃に温調した。この混合液はヘッドタンクに送液され、ここで85℃に温調される。二軸押出機のホッパー付近温度:190℃、中間部温度:200℃、先端部温度:190℃に温度調節し、そのホッパー口より、前記混合液を284.7g/min、MDIを136g/minの条件で連続的に原料供給し、ストランドダイから溶融樹脂を吐出・冷却固化後ストランドカットした。次いで25℃にて3日間エージングさせて熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを得た。樹脂フィード量は25kg/hourである。得られたペレットを厚さ100μmのフィルムに加工したものを「PU−2」とする。
【0024】
(製造例4)
前記PU−2を、加速電圧165kV、照射線量10Mrad、酸素濃度800ppm以下の条件で電子線を照射し硬化させた。得られたフィルムをPU−2’とする。
【0025】
(製造例5)
温度調整可能な混合タンクにポリブタジエンオール、Krasol LBH 2000を17.60kg、2−ブチル−2−エチル−プロパンジオール(BEPD)を4.06kg、ジオクチル錫ジラウレートを1.5g仕込み、均一に混合して70℃に温調した。この混合液はヘッドタンクに送液され、ここで85℃に温調される。二軸押出機のホッパー付近温度:190℃、中間部温度:200℃、先端部温度:190℃に温度調節し、そのホッパー口より、前記混合液を300.8g/min、MDIを118.1g/minの条件で連続的に原料供給し、ストランドダイから溶融樹脂を吐出・冷却固化後ストランドカットした。次いで25℃にて3日間エージングさせて熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを得た。樹脂フィード量は25kg/hourである。
得られたペレットを厚さ100μmのフィルムに加工したものを「PU−3」とする。
【0026】
(製造例6)
PU−3の電子線架橋方法
前記PU−3を電子線照射装置を用いて、加速電圧165kV、照射線量10Mrad、酸素濃度800ppm以下の条件で電子線を照射し硬化させた。得られたフィルムをPU−3’とする。
【0027】
(製造例7)
温度調整可能な混合タンクにポリブタジエンオールCを19.54kg、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(EHD)を2.96kg、ジオクチル錫ジラウレートを1.5g仕込み、均一に混合して70℃に温調した。この混合液はヘッドタンクに送液され、ここで85℃に温調される。二軸押出機のホッパー付近温度:190℃、中間部温度:200℃、先端部温度:190℃に温度調節し、そのホッパー口より、前記混合液を312.4g/min、MDIを107.3g/minの条件で連続的に原料供給し、ストランドダイから溶融樹脂を吐出・冷却固化後ストランドカットした。次いで25℃にて3日間エージングさせて熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを得た。樹脂フィード量は25kg/hourである。
得られたペレットを厚さ100μmのフィルムに加工したものを「PU−4」とする。
【0028】
(製造例8)
PU−4の電子線架橋方法
前記PU−4を電子線照射装置を用いて、加速電圧165kV、照射線量10Mrad、酸素濃度800ppm以下の条件で電子線を照射し硬化させた。得られたフィルムをPU−4’とする。
【0029】
(製造例9)
PU−5の合成方法
温度調整可能な混合タンクにポリオールAを22.38kg、1,4−BDを2.52kg、オクチル錫ジラウレート(DOTDL)を1.5g仕込み、均一に混合して60℃に温調した。この混合液はヘッドタンクに送液され、ここで85℃に温調される。二軸押出機のホッパー付近温度:180℃、中間部温度:190℃、先端部温度:200℃に温度調節し、そのホッパー口より、前記混合液を358.8g/min、MDIを141.2g/minの条件で連続的に原料供給し、ストランドダイから溶融樹脂を吐出・冷却固化後ストランドカットした。次いで脱水、乾燥させて熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを得た。樹脂フィード量は30kg/hourである。
得られたペレットを厚さ100μmのフィルムに加工したものを「PU−5」とする。
【0030】
(製造例10)
PU−6の合成方法
温度調整可能な混合タンクにポリオールBを21.42kg、1,4−BDを3.48kg、オクチル錫ジラウレート(DOTDL)を1.5g仕込み仕込み、均一に混合して80℃に温調した。この混合液はヘッドタンクに送液され、ここで90℃に温調される。二軸押出機のホッパー付近温度:190℃、中間部温度:200℃、先端部温度:200℃に温度調節し、そのホッパー口より、前記混合液を260g/min、MDIを156.7g/minの条件で連続的に原料供給し、ストランドダイから溶融樹脂を吐出・冷却固化後ストランドカットした。次いで脱水、乾燥させて熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを得た。樹脂フィード量は25kg/hourである。
得られたペレットを厚さ100μmのフィルムに加工したものを「PU−6」とする。
【0031】
(製造例11)
温度調整可能な混合タンクにPolybd R−45HTを1950g、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを312.5g仕込み、均一に混合して80℃に温調した。この容器にMDIを759.5g加え、高速攪拌・混合してバットに流延し、80℃で12時間反応させた。この反応物を粉砕、ペレット化を試みたが、溶融しないためにペレット化することができなかった。本製造例で用いたポリブタジエンポリオール(Polybd R−45HT)の公称平均官能基数は本発明の範囲外の2.3である
【0032】
実施例1〜4、比較例1〜4
製造例1から8で得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂PU−1〜4、PU−1’〜PU−4’について、機械物性、ゲル分率、軟化点の測定を行った。その結果を表1に記載する。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果から、軟化点、ゲル分率は飛躍的に良くなる。また、機械物性も電子線架橋する前と比較すると向上することが確認できる。
【0035】
実施例5〜7、比較例5〜6
製造例2、4、6、8で得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂PU−1’〜PU−4’、及び製造例9と10で得られたPU−5とPU−6について、硬さ、機械物性、体積固有抵抗、吸水率、軟化点を測定した。その結果を表2に記載する。実施例5〜7については、実施例1〜3の測定結果も併せて記載した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の結果をみると、電子線架橋を行った本発明の樹脂は、その他一般的な樹脂と比較して、体積固有抵抗、軟化点が良くなる。また機械物性も、その他の樹脂と比較して遜色ないものとなる。
【0038】
製造例1〜11において使用した原料は以下の通りである。
(ポリブタジエンポリオール)
KrasolLBH2000:1,4−cis/1,4−trans/1,2−vinyl=10〜15質量%/20〜25質量%/60〜70質量%、官能基数=1.9、数平均分子量=2000のポリブタジエンポリオール、SARTOMER社製
Polybd R−45HT:1,4−cis/1,4−trans/1,2−vinyl=20質量%/60質量%/20質量%、官能基数=2.3、水酸基価=46.6mgKOH/g、数平均分子量=2800のポリブタジエンポリオール、出光社製
ポリブタジエンポリオールC:1,4−cis/1,4−trans/1,2−vinyl=0質量%/90質量%/10質量%、官能基数=1.8、水酸基価=35〜55mgKOH/g、数平均分子量=2000のポリブタジエンポリオール
(ポリオール)
ポリオールA:1,4−ブタンジオールとアジピン酸から得られる数平均分子量が2,000のポリエステルポリオール
ポリオールB:ポリテトラメチレングリコール、PTG−1000SN、保土谷化学社製
(鎖延長剤)
2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(EHD):オクタンジオール、協和発酵ケミカル社製
2−ブチル−2−エチル−プロパンジオール(BEPD):DMH、(株)チッソ社製
1,4−BD:1,4−ブタンジオール、三菱化学社製
(イソシアネート)
MDI:4、4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(ミリオネートMT、日本ポリウレタン工業株式会社製)
(樹脂)
TPU:熱可塑性ポリウレタン樹脂
【0039】
表1〜2の評価実験結果は以下の測定方法に従って行ったものである。
【0040】
(軟化点)
フィルムをJIS K−6251、2号型試験片に打ち抜き、500gf/cm2 の荷重をかけ、乾燥器内に取り付け、昇温速度5℃/分で昇温させ、フィルムの伸びが3倍になった温度を軟化点とした。
【0041】
(引張試験、モジュラス、伸び、引裂試験)
JIS K6251に準じて測定を行なった。
【0042】
(ゲル分率)
メチルエチルケトン(MEK)中で130℃、5時間抽出し、以下の計算式でゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(抽出後の質量/抽出前の質量)×100
【0043】
(吸水率試験)
JIS K7209に準じて測定を行なった。
【0044】
(体積固有抵抗)
JIS K6911に準じて測定を行なった。
【0045】
(硬さ試験)
JIS K6253に準じて測定を行なった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
このように製造した成形品は、耐水性、柔軟性、絶縁性に優れ、電線用被覆材として有用であるだけでなく各種フィルム用途などに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブタジエンポリオール中のブタジエン単位の微細構造が1,2−ビニル体を50%以上含有するポリブタジエンポリオール(A)、鎖延長剤として側鎖アルキル基を有する炭素数4〜15のグリコール(B)、及び有機ポリイソシアネート(C)から得られる電子線架橋型熱可塑性ポリウレタン樹脂を、50〜3,000keVの電子線を照射することにより架橋させることにより高物性を得られる熱可塑性ポリウレタンを製造する方法。
【請求項2】
(A)が、数平均分子量500〜5,000のポリブタジエンポリオールであり、かつポリブタジエンポリオール中のブタジエン単位の微細構造が1,2−ビニル体50モル%以上で、かつ公称平均官能基数が1.8以上2.0未満である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
(B)が、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
(B)が、2−ブチル−2−エチル−プロパンジオールである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項5】
有機ジイソシアネート(C)が、ジフェニルメタンジイソシアネートである請求項1から4のうちいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の製造方法のより得られた樹脂であって、機械強度、耐水性、絶縁性に優れていることを特徴とする電線用被覆材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか記載の製造方法で得られた樹脂であって、機械強度、耐水性、絶縁性に優れていることを特徴とする高性能フィルム。

【公開番号】特開2008−106188(P2008−106188A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292182(P2006−292182)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】