説明

電子線殺菌方法および電子線殺菌装置

【課題】樹脂製容器2に電子線を照射して殺菌したときに、樹脂製容器2の壁面の外部側と内部側との電位差を小さくする。
【解決手段】第1電子線照射装置12の前方の第1電子線照射領域Aに、第1殺菌ホイール8が樹脂製容器2を搬送し、また、その下流側の第2電子線照射装置16の前方の第2電子線照射領域Bに、第2殺菌ホイール14が樹脂製容器2を搬送する。第1電子線照射装置12は、樹脂製容器2の壁面を電子が透過する大きさの加速電圧(例えば300kV)で電子線を照射し、第2電子線照射装置16は、樹脂製容器2の壁面を電子が透過しない大きさの加速電圧(例えば150kV)で電子線を照射する。第1回目の照射で樹脂製容器2の壁面の内面側に電子が滞留し、第2回目の照射では、壁面の外面側に電子が滞留するので、全体として内外面の電位差が小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製容器に電子線を照射して殺菌する電子線殺菌方法および電子線殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PETボトル等の樹脂製容器に電子線照射装置から電子線を照射して殺菌を行う電子線殺菌方法および電子線殺菌装置は従来から広く用いられている。樹脂製容器に電子線を照射する電子線照射装置は、周知のように、真空チャンバー(加速チャンバー)を備えており、真空チャンバー内の真空中でフィラメントを加熱して熱電子を発生させ、高電圧によって電子を加速して高速の電子線ビームにした後、照射窓に取り付けてあるチタン(Ti)等の金属製の窓箔を通して大気中に取り出し、樹脂製容器等の被処理物に電子線を当てて殺菌を行う。
【0003】
電子線照射装置によって樹脂製容器に電子線を照射して殺菌を行う場合には、樹脂製容器の外面側に電子線を照射して壁面を透過させて樹脂製容器の内部側まで電子を貫通させる。電子が樹脂製容器の壁面を透過するかどうかは、電子線の照射電圧と樹脂製容器の壁面の厚さによって決定するので(特許文献1の図5参照)、樹脂製容器の壁面の厚さに応じて、電子線を照射するための加速電圧を設定する。このように物品の厚みに応じて電子線エネルギーを照射することはすでに知られている(特許文献2)。
【0004】
ところが、電子線は直線的に照射されるが、チタン膜を通過する際に、チタンの電子の影響を受けて進行方向が変更されてしまう。これは電子線照射装置から照射された電子が、チタンの原子の周囲に存在する電子と反発して方向が変わるためである。また、チタン膜を通過した電子は、空気の原子の影響を受けて進行方向が変更される。さらに、樹脂製容器の壁面では樹脂の原子の影響を受けて進行方向が変更される。空気や樹脂の場合もチタン膜と同様の理由である。このように電子は真っ直ぐには進まない。従って、樹脂を貫通する強さの加速電圧で電子線を照射しても、いろいろな原子の影響を受けて電子の力が弱まって、樹脂製容器の壁面を貫通せずその内部に滞留してしまう電子が多数発生する。
【0005】
このように樹脂製容器の外面に電子線を照射することにより壁面の内部に滞留する電子は、壁面の内部に進入しながら貫通できなかったものであり、壁面の外面側よりも内面側に偏って存在するため、壁面の内面と外面との間に大きな電位差が発生し、このことが原因で静電気が発生するという問題が発生する。
【0006】
また、特許文献3には、一部に肉厚部を有する物品に、複数回の電子線照射工程を行って、物品全体に均一な吸収線量を得るようにした電子線による滅菌方法の発明が開示されている。この特許文献3に記載された発明は、具体的には円筒状の医療用品の滅菌を行うものであり、厚さの異なる中央の円筒部と両端のヘッダ部に、均一な吸収線量を得る照射分布で電子線を照射するようにしているが、円筒部の壁体の外面側と内面側とに滞留する電子による電位差については全く考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−19190号公報
【特許文献2】特開2003−153986号公報
【特許文献3】特開2000−334028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記各特許文献には、樹脂製容器等の物品の壁面の外面側と内面側との電位差について考慮したものは全く存在しない。従って、樹脂製容器の壁面の外面側と内面側との電位差を解消するための技術思想についても全く記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明方法は、前記課題を解決するためになされたもので、樹脂製容器の側面に向けて電子線を照射することにより、樹脂製容器を殺菌する電子線殺菌方法において、樹脂製容器の壁面を電子が貫通可能な大きな加速電圧で電子線を照射した後、樹脂製容器の壁面を電子が貫通しない小さな加速電圧で電子線を照射して樹脂製容器を殺菌することを特徴とするものである。
【0010】
また、第2の発明に係る装置は、樹脂製容器を搬送する搬送手段と、樹脂製容器の搬送経路に設けられ、搬送される樹脂製容器の側面に向けて電子線を照射する第1電子線照射領域と、この第1電子線照射領域の下流に設けられ、第1電子線照射領域で電子線を照射された樹脂製容器の側面に向けて再度電子線を照射する第2電子線照射領域とを備え、
前記第1電子線照射領域の加速電圧を、樹脂製容器の壁面を電子が貫通可能な大きさに調整するとともに、前記第2電子線照射領域の加速電圧を、樹脂製容器の壁面を電子が貫通しない大きさに調整し、前記搬送手段によって搬送される樹脂製容器に、前記第1電子線照射領域と第2電子線照射領域から電子線を照射して殺菌することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子線殺菌方法は、樹脂製容器の壁面を電子が貫通する大きな加速電圧で電子線を照射した後、この第1回目の照射と同じ方向から、樹脂製容器の壁面を電子が貫通しない小さな加速電圧で電子線を照射して樹脂製容器を殺菌するため、樹脂製容器の壁面の内面側と外面側の電位差が小さくなり、静電気の発生を抑制することができる。
【0012】
また、本発明の電子線殺菌装置は、第1電子線照射領域で、樹脂製容器の壁面を電子が貫通可能な大きさの加速電圧で電子線を照射し、その後、第2電子線照射領域で、樹脂製容器の壁面を電子が貫通しない大きさの加速電圧で電子線を照射して樹脂製容器を殺菌するので、樹脂製容器の壁面の内面側と外面側の電位差が小さくなり、静電気の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の一実施例に係る電子線殺菌装置を備えた殺菌充填装置の全体の配置を簡略化して示す平面図である。(実施例1)
【図2】図2(a)は回転体のグリッパに保持された樹脂製容器を示す縦断面図、図(b)はアース電極を昇降させるガイド機構の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
搬送手段によって搬送される樹脂製容器の搬送経路内に、第1電子線照射領域と第2電子線照射領域が設けられており、第1電子線照射領域では、電子線照射装置から樹脂製容器の壁面を電子が貫通可能な大きさの加速電圧で電子線が照射され、第2電子線照射領域では、電子線照射装置から樹脂製容器の壁面を電子が貫通しない大きさの加速電圧で電子線が照射されるようにしたので、第1電子線照射領域で樹脂製容器の外面側から照射された電子線により、樹脂製容器の壁面の内面側に電子が滞留し、第2電子線照射領域での2回目の電子線の照射では、樹脂製容器の壁面の外面側に電子が滞留するため、樹脂製容器の壁面の内面側と外面側との電位差を少なくするという目的を達成する。
【実施例1】
【0015】
以下、図面に示す実施例により本発明を説明する。図1は容器を殺菌した後、液体を充填しキャッピングを行う殺菌充填装置であり(全体として符号1で示す)、図1の左側が殺菌ゾーンS、右側が充填およびキャッピングゾーンJ(以下、充填ゾーンJと呼ぶ)である。本発明の一実施例に係る電子線殺菌装置が設置されている殺菌ゾーンSは、樹脂製容器2(図2(a)参照)に電子線を照射して殺菌する際に、電子線やX線(制動X線)が外部に漏れないように遮蔽する鉛製の壁面4によって囲まれた殺菌チャンバー6内に設けられている。
【0016】
この殺菌チャンバー6内には、2箇所の電子線照射領域A、Bが設けられており、第1電子線照射領域Aでは、第1殺菌ホイール8のボトル支持手段10(後に説明する図2(a)参照)に支持されて搬送されている樹脂製容器2の側面に向かって、第1電子線照射装置12によって側方から電子線を照射し、第2電子線照射領域Bでは、第2殺菌ホイール14のボトル支持手段(第1殺菌ホイールの支持手段10と同一の構成なので符号10Aにより説明する)に支持されて搬送されている樹脂製容器2の側面に向かって、第2電子線照射装置16によって側方から電子線を照射して、2回の電子線照射を行う。
【0017】
前記殺菌ゾーンSで殺菌され、その下流側の充填ゾーンJにおいて液体等の内容物が充填される容器2は、PETボトル等の樹脂製の容器2である。この樹脂製容器2は、上部に円筒状の口部2aを備えている(図2(a)参照)。この口部2aの下部寄りにフランジ2bが形成されており、このフランジ2bの上方または下方をグリッパによって把持し、あるいはフランジ2bの下面側を前記ボトル支持手段10、10Aやその他の支持手段等によって支持して、吊り下げた状態で搬送する。
【0018】
この樹脂製容器2は、エア搬送コンベヤ18によって連続的に搬送され、図示しないインフィードスクリュー等によって所定の間隔に切り離された後、前記殺菌チャンバー6の入口側に配置された供給ホイール20に受け渡される。供給ホイール20には、円周方向等間隔で複数のグリッパ22(一部だけを図示し、その他は省略してある)が設けられており、各グリッパ22が前記樹脂製容器2のフランジ2bよりも上方側を把持して搬送する。供給ホイール20のグリッパ22に保持されて回転搬送された樹脂製容器2は、供給ホイール20に隣接して配置された第1殺菌ホイール8に引き渡される。
【0019】
第1殺菌ホイール8には、円周方向等間隔で複数のボトル支持手段10が設けられており(図2(a)参照)、これら各ボトル支持手段10が樹脂製容器2のフランジ2bの下面側を支持して搬送する。前記供給ホイール20と第1殺菌ホイール8とは同期回転しており、受け渡し位置Cにおいて、供給ホイール20の各グリッパ22から第1殺菌ホイール8の各ボトル支持手段10に樹脂製容器2が受け渡される。
【0020】
第1殺菌ホイール8の各ボトル支持手段10に支持されて回転搬送される樹脂製容器2は、その搬送経路内に設けられた第1電子線照射領域A内を通過し、その間に上下方向の全長に亘って全体的に第1電子線照射装置12から電子線の照射を受けて殺菌される。殺菌された樹脂製容器2は、中間ホイール24に取り出されて第2殺菌ホイール14に受け渡される。中間ホイール24は外周部に円周方向等間隔で複数のグリッパ26が設けられており、これら各グリッパ26が、前記第1殺菌ホイール8のボトル支持手段10が支持している樹脂製容器2の、フランジ2bよりも上部を把持して受け取る。中間ホイール24は、前記第1殺菌ホイール8および第2殺菌ホイール14と同期回転しており、取り出し位置Dにおいて、第1殺菌ホイール8の各ボトル支持手段10から中間ホイール24の各グリッパ26が樹脂製容器2を受け取り、さらに、供給位置Eで、第2殺菌ホイール14の各ボトル支持手段10Aに引き渡す。
【0021】
第2殺菌ホイール14の各ボトル支持手段10Aに支持されて回転搬送される樹脂製容器2は、その搬送経路内に設けられた第2電子線照射領域B内を通過し、その間に上下方向の全長に亘って第2電子線照射装置16から2回目の電子線の照射を受ける。殺菌された樹脂製容器2は、排出位置Fに置いて、第2殺菌ホイール14のボトル支持手段10Aから、排出ホイール28のグリッパ30に把持されて取り出され、無菌チャンバー6に隣接して設けられた次のチャンバー(充填ゾーンJのチャンバー32)の入口側に配置されている受け取りホイール34の容器支持手段(図示せず)に受け渡される。
【0022】
前記無菌チャンバー6を囲む鉛製壁面4の、前記第1電子線照射領域Aと第2電子線照射領域Bが設けられている部分に開口部4a、4bが形成され、これら各開口部4a、4bにそれぞれ前記第1電子線照射装置12および第2電子線照射装置16が取り付けられている。これら第1および第2電子線照射装置12、16の前面側の照射窓36、38にチタン(Ti)等の金属製の窓箔が取り付けられており、この窓箔を通して電子線が照射される。この実施例では、第1電子線照射装置12と第2電子線照射装置16とは、電子線を加速させて照射するための加速電圧を異ならせて設定してあり、第1電子線照射装置12では、樹脂製容器2の壁面を電子が貫通可能な加速電圧(例えば、300kV)に設定し、また、第2電子線照射装置16では、樹脂製容器2の壁面を電子が貫通しない大きさの加速電圧(例えば、150kV)に設定している。なお、設定電圧は前記数値に限定されないことはいうまでもない。
【0023】
殺菌ゾーンSの排出ホイール28から充填ゾーンJの受け取りホイール34に受け渡された樹脂製容器2は、回転搬送されてフィラ40に供給される。受け取りホイール34から樹脂製容器2を供給されたフィラ40は、この樹脂製容器2を保持して回転搬送する間に液体等の内容物の充填を行う。フィラ40において充填が終了した樹脂製容器2は、フィラ40の排出ホイールと次のキャッパ42の供給ホイールとを兼ねた中間ホイール44によって取り出され、キャッパ42に供給される。キャッパ42においてキャッピングが行われた樹脂製容器2は、キャッパ42からの排出ホイール46によって取り出されて、排出コンベヤ48によって排出され次の工程に送られる。
【0024】
次に、図2(a)、(b)により、第1殺菌ホイール8に設けられているボトル支持手段10および電子線を照射する時に樹脂製容器2内に挿入されるアース電極の構成について簡単に説明する。第1殺菌ホイール8は、水平な円盤状のプレート50と、この円盤状プレート50の外周に固定された環状の回転プレート51と、この回転プレート51の上方に配置されて一体的に回転する環状の中間プレート52を備えている。これら回転プレート51と中間プレート52の外周部に、円周方向等間隔で、鉛直方向を向いた円筒状の回転軸54が、それぞれのボールベアリング56、58を介して回転自在に支持されている。これら円筒状回転軸54の下端に水平な取付体60が固定されている。この取付体60の下方側に、一対のグリップ部材62A、62B(図2(a)の紙面の手前側と奥側に配置されている)が設けられており、円筒状回転軸54の真下の位置で樹脂製容器2が保持されるようになっている。なお、このボトル支持手段10は、詳細な説明は省略するが、特願2008−280304に開示されたボトル支持手段と同様の構成を有しており、前記各グリップ部材62A、62Bをそれぞれ一対の板ばね64A、64Bの下端に取り付け、これら板ばね64A、64Bのばね力によって樹脂製容器2を保持するようになっている。
【0025】
ボトル支持手段10が取り付けられている円筒状回転軸54の、前記中間プレート52よりも上方へ突出している上端部にピニオンギヤ74が固定されている。また、前記円盤状プレート50の外周に固定された環状の回転プレート51と環状の中間プレート52の、円筒状回転軸54を支持している位置の半径方向内方側に、鉛直方向の中間軸76が、それぞれのボールベアリング78、80を介して回転自在に支持されている。これら各中間軸76の上端の、前記円筒状回転軸54に固定されたピニオンギヤ74とほぼ同じ高さに、セクターギヤ82が取り付けられている。このセクターギヤ82の、第1殺菌ホイール8の半径方向外方側を向いた面に歯が形成されて前記ピニオンギヤ74に噛み合っている。
【0026】
一方、セクターギヤ82の、第1殺菌ホイール8の半径方向内方側を向いた端部(図2(a)の左端)に垂直なピン84が貫通して取り付けられており、この垂直ピン84の上端にカムフォロア86が回転自在に支持されている。また、この垂直ピン84の下端と、前記中間プレート52の内周端に固定したばね受けピン88との間に引っ張りコイルばね90が介装され、セクターギヤ82の端部を第1殺菌ホイール8の半径方向内方側に引きつけている。前記第1殺菌ホイール8の円盤状プレート50の上方に、回転しない円形の固定プレート92が配置されており、その外周にセクターギヤ82を揺動させるカム94が固定されている。このカム94の外周面がカム面になっており、このカム面に沿って前記カムフォロア86が回転移動する。このカムフォロア86の回転移動に伴う半径方向への揺動によって、セクターギヤ82が前記中間軸76を中心に回動してピニオンギヤ74を回転させる。上端にピニオンギヤ74が固定されている円筒状回転軸54の下端に前記ボトル支持手段10が取り付けられており、セクターギヤ82の揺動によりピニオンギヤ74が回転し、樹脂製容器2の口部2aの上方に配置されている円筒状回転軸54が回転することによって、ボトル支持手段10に支持されて搬送されている樹脂製容器2がその軸線を中心に回転する。この実施例では、セクターギヤ82の回動によってピニオンギヤ74を回転させることにより、樹脂製容器2を正逆に約180度回転させるようになっている。
【0027】
前記水平な取付体60には、前記円筒状の回転軸54の内部孔54aと上下に一致する位置に、貫通孔60aが形成されている。なお、前記第1殺菌ホイール8の天面および外周面はカバー98によって覆われている。また、ピニオンギヤ74の上部は天面のカバー98まで達しており、カバー98との間は摺動可能に密封されている。このように構成することで、回転軸54およびその上部に固定されたピニオンギヤ74の円孔54a、74aは、円盤状プレート50とカバー98で囲まれた内部空間を上下に貫通し、無菌状態に維持される周囲の環境と円盤状プレート50とカバー98で囲まれる内部環境を遮断している。
【0028】
前記第1殺菌ホイール8には、ボトル支持手段10によって搬送されている樹脂製容器2に電子線を照射する際に、この樹脂製容器2の内部に挿入するアース電極100が設けられている。アース電極100は直立した支持ロッド102の下端に取り付けられており、これらアース電極100および支持ロッド102が、前記円筒状回転軸54およびその上部に固定されたピニオンギヤ74の円孔54a、74a、下方の水平な取付体60の貫通孔60a等を上下に貫通して昇降できるようになっている。
【0029】
前記アース電極100を昇降させる構成について説明する。前記カバー98上の、円筒状回転軸54が配置されている位置よりも半径方向内方側に、直立したガイド機構104が設けられている。このガイド機構104は、図2(a)および(b)に示すように、直立したガイド部材106と、このガイド部材106の上下の複数箇所に取り付けられたガイドローラ108とを備えている。ガイドローラ108は、ガイド部材106の上下の適宜の箇所にそれぞれ一対配置されており、これらガイドローラ108と前記ガイド部材106とに支持されて昇降ロッド110が昇降するようになっている。
【0030】
この昇降ロッド110の下端に、水平な取付部材112を介して、前記支持ロッド102およびアース電極100が取り付けられており、昇降ロッド110の昇降によってアース電極100が昇降できるようになっている。なお、アース電極100の材質としては、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属やその他の導電性の材料を用いることができる。さらに、形状は丸棒状の他、断面が矩形や長方形、多角形であってもよく、外周面に多数の突起を設けるなど鋸刃状に形成したり、ブラシを設けるなどして電荷を誘導し易くなるよう構成してもよい。
【0031】
前記カバー98の天面の上方に、第1殺菌ホイール8とは独立した水平な固定体113が設置され、その外周部上に昇降カム114が取り付けられている。一方、前記昇降ロッド110には、前記取付部材112より高い位置に水平方向の昇降部材116が固定されており、この昇降部材116の先端にカムフォロア118が取り付けられている。このカムフォロア118が前記昇降カム114の上面(カム面)を回転移動し、カム形状に応じて昇降することにより前記アース電極100が昇降する。
【0032】
カムフォロア118が昇降カム114によって押し上げられて最も上昇したときには、アース電極100の下端が樹脂製容器2の口部2aよりも上方に位置し、最も下降したときには、図2(a)に示すように、アース電極100の下端が樹脂製容器2の底面2c近くまで挿入される。なお、この際、昇降ロッド110の下降端は、水平な取付部材112がカバー98の天面上に固定されている支持部材120に当接することにより規制されるようになっており、このときには、カムフォロア118が昇降カム114のカム面に接触しない高さで停止する。この状態ではアース電極100は、それぞれ金属製の導電性の材料からなる支持ロッド102、取付部材112、支持部材110を介して金属製の導電性の材料からなるカバー98と導通可能となってアース電極100とカバー98が通電し、アース電極100からカバー98へ電荷が流れるようになる。
【0033】
以上の構成に係る殺菌充填装置1の作動について説明する。この実施例に係る電子線殺菌装置を備えた殺菌充填装置1で殺菌される樹脂製容器2は、ネック搬送コンベヤ18によって搬送され、所定の間隔にピッチ切りされた後、鉛製の壁面4で囲まれた無菌チャンバー6内に搬入される。無菌チャンバー6の入口側に設置された供給ホイール20は、円周方向等間隔で複数のグリッパ22が設けられており、外部から無菌チャンバー6内に搬入された樹脂製容器2の円筒状口部2aの下部寄りに形成されているフランジ2bの上方側をグリップする。グリッパ22に保持された樹脂製容器2は、供給ホイール20の回転によって回転搬送され、第1殺菌ホイール8への受け渡し位置Cで、供給ホイール20のグリッパ22から第1殺菌ホイール8に設けられたボトル支持手段10に受け渡される。
【0034】
ボトル支持手段10は、グリップ部材62A、62Bの一方を回転方向の前方に向け、他方を回転方向の後方に向けて回転移動しており、受け渡し位置Cで、供給ホイール20のグリッパ22に把持されている樹脂製容器2の口部2aが両グリップ部材62A、62B間に押し込まれる。両グリップ部材62A、62Bはそれぞれ板ばね64A、64Bの下端に取り付けられており、板ばね64A、64Bを強制的に押し開いて樹脂製容器2の口部2aが両グリップ部材62A、62B間に押し込まれる。その後、両板ばね64A、64Bが自らのばね力によって復帰して、図2(a)に示すように樹脂製容器2のフランジ2bの下部側を保持するとともにフランジ2bの下面を支持する。
【0035】
第1殺菌ホイール8の回転により、ボトル支持手段10に支持されている樹脂製容器2が図1の矢印R方向に回転搬送されて第1の電子線照射領域A内に入る。この第1電子線照射領域20内で電子線の照射を受ける際には、アース電極100が昇降カム114によって下降されて、図2(a)に示すように、口部2aの開口部から先端(下端)が樹脂製容器2の底面2c近くに位置する高さまで挿入される。なお、この電子線の照射を受ける区間以外の区間では、アース電極100は昇降カム114によって上昇されて、先端が樹脂製容器2の口部2aよりも上方に位置している。このようにアース電極100が内部に挿入された状態の樹脂製容器2が、第1電子線照射装置12の照射窓36の前方側を移動する間に電子線の照射を受けて殺菌される。電子線を照射する際に樹脂製容器2の内部にアース電極100を挿入しておくと、樹脂製容器2の外面に向けて放出された電子は、電子線照射時の加速による浸透力だけでなく、樹脂製容器2の内部からアース電極100に誘導されることによっても樹脂材料を透過するよう作用され、樹脂材料の内部に滞留して帯電することが抑制される。
【0036】
なお、前記ボトル支持手段10が取り付けられている円筒状回転軸54は、上端にピニオンギヤ74が固定されてセクターギヤ82に噛み合っており、さらに、このセクターギヤ82は、上方の固定プレート92の外周に取り付けられたカム94によって揺動するようになっている。このカム94によって第1電子線照射装置12の前面を移動する間に、円筒状回転軸54が回転されてボトル支持手段10に支持されている樹脂製容器2が正逆に約180度回転される。このように樹脂製容器2が第1電子線照射装置12の照射窓36の前面で180度回転することにより、樹脂製容器2の上下方向の全長に亘って搬送方向前後両側の内外面全体が電子線の照射を受けて殺菌される。
【0037】
第1電子線照射領域Aでの、第1電子線照射装置12からの一回目の電子線の照射は、基本的には、照射された電子が樹脂製容器2の壁面(この実施例では、樹脂製容器2の壁面の厚さを0.25mmとする)を貫通可能な加速電圧(例えば300kV)に設定されており、しかも、電子線の照射時にアース電極100を樹脂製容器2の内部に挿入しているので、第1電子線照射装置12から照射された電子は、壁面の外側から内部へと貫通するはずであるが、前述のようにいろいろな原子の影響を受けて電子の力が弱まり、樹脂製容器2の壁面の内部に電子が滞留してしまう。特に、樹脂製容器2の壁面の外面側には少なく、内面に多量の電子が滞留する。
【0038】
前記第1電子線照射装置12の前方の第1電子線照射領域Aで第1回目の電子線の照射を受けた樹脂製容器2は、そのままボトル支持手段10に支持されて回転搬送され、取り出し位置Dで中間ホイール24のグリッパ26に引き渡される。この中間ホイール24は、第1殺菌ホイール8と第2殺菌ホイール14との間で樹脂製容器2の受け渡しを行うようになっており、第1殺菌ホイール8から受け取った樹脂製容器2を第2殺菌ホイール14のボトル支持手段10Aに引き渡す。第2殺菌ホイール14のボトル支持手段10Aに支持されて回転搬送された樹脂製容器2が、第2電子線照射領域Bに到達する。この第2電子線照射領域Bでは、第2電子線照射装置16から2度目の電子線の照射を受ける。
【0039】
第2電子線照射領域Bで電子線の照射を行う第2電子線照射装置16は、照射する電子線の加速電圧を、樹脂製容器2の壁面を電子線が貫通しない大きさ(例えば150kV)に設定してあるので、樹脂製容器2の壁面の外側から照射された電子が壁面の内部側まで透過する量が少なく、主として外面側に滞留する。前記第1電子線照射領域Aでの第1回目の電子線の照射では、樹脂製容器2の壁面の外面側には少なく、主として内面側に電子が滞留しているが、この第2電子線照射領域Bでの2回目の電子線の照射では、電子が壁面の内部側にまで届かず、外面側にとどまるので、樹脂製容器2の壁面内に滞留する電子は、壁面の内部側の滞留量と外部側の滞留量とがほぼ等しくなり、内面側と外面側との電位差が小さくなる。
【0040】
前記第2電子線照射領域Bを通過する間に2回目の電子線の照射を受けて殺菌された樹脂製容器2は、ボトル支持手段10Aに支持されて回転搬送され、排出位置Fにおいて、排出ホイール28のグリッパ30にフランジ2bの上方側を把持されて取り出される。排出ホイール28のグリッパ30に保持されて回転搬送された樹脂製容器2は、次のチャンバー(充填ゾーンJのチャンバー32)の入口側に配置された受け取りホイール34に受け渡される。
【0041】
受け取りホイール34の図示しない容器保持手段に保持されて回転搬送された樹脂製容器2は、フィラ40に供給され回転搬送される間に液体が充填される。その後、この樹脂製容器2は、中間ホイール44に取り出されて次のキャッパ42に送られ、キャッピングが行われた後、排出ホイール46によって排出コンベヤ48上に排出され、次の工程に送られる。なお、前記実施例では、2台の電子線照射装置12、16を配置し、それぞれの前方に電子線照射領域A、Bを設けたが、必ずしも2台の電子線照射装置12、16を配置する必要はなく、1台の電子線照射装置で2つの電子線照射領域を設けることも可能である。例えば、電子線照射装置の照射窓に取り付けてあるチタン膜を2つに分割し、その厚さを、容器搬送方向の上流側の厚さを0.01mm、下流側の厚さを約0.1mmと変えることにより、0.01mmのチタン膜を通過する電子を300kVの加速電圧で照射するように設定すれば、0.1mm程度のチタン膜を通過する電子は150kVに相当する加速電圧で照射されることになる。但し、この構成の場合には、照射区間の長さが半分になってしまうので、その間に樹脂製容器2を反転させることは難しくなるので、特開2007−29709号に記載されているように、樹脂製容器2を電子線照射装置の前方を2回搬送するようにするとよい。なお、前記実施例では、起立状態で搬送される樹脂製容器の側面に向かって側方から電子線を照射しているが、例えば、袋状容器を転倒した状態で搬送しつつ、袋状容器の側面に向けて上方から電子線を照射するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0042】
A 第1電子線照射領域
B 第2電子線照射領域
2 樹脂製容器
8 搬送手段(第1殺菌ホイール)
14 搬送手段(第2殺菌ホイール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製容器の側面に向けて電子線を照射することにより、樹脂製容器を殺菌する電子線殺菌方法において、
樹脂製容器の壁面を電子が貫通可能な大きな加速電圧で電子線を照射した後、樹脂製容器の壁面を電子が貫通しない小さな加速電圧で電子線を照射して樹脂製容器を殺菌することを特徴とする電子線殺菌方法。
【請求項2】
樹脂製容器を搬送する搬送手段と、樹脂製容器の搬送経路に設けられ、搬送される樹脂製容器の側面に向けて電子線を照射する第1電子線照射領域と、この第1電子線照射領域の下流に設けられ、第1電子線照射領域で電子線を照射された樹脂製容器の側面に向けて再度電子線を照射する第2電子線照射領域とを備え、
前記第1電子線照射領域の加速電圧を、樹脂製容器の壁面を電子が貫通可能な大きさに調整するとともに、前記第2電子線照射領域の加速電圧を、樹脂製容器の壁面を電子が貫通しない大きさに調整し、
前記搬送手段によって搬送される樹脂製容器に、前記第1電子線照射領域と第2電子線照射領域から電子線を照射して殺菌することを特徴とする電子線殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−66847(P2012−66847A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213578(P2010−213578)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】