説明

電子線殺菌装置

【課題】十分な殺菌能力を有しながらも、小型かつ軽量な電子線殺菌装置を提供することを目的とする。
【解決手段】容器収容チャンバ20は、殺菌対象である一つのペットボトルPBを収容するキャビティ24を備える。電子線照射銃40は、電子線を生成する銃本体41と、銃本体41に連なるノズル42からなる。ノズル42は、銃本体41で生成される電子線が通る電子線通路52と、電子線通路52を通ってきた電子線を外部に出射する出射口51とを有する。また、電子線偏向磁石35は、出射口51から出射される電子線をキャビティ24に収容されるペットボトルPBの側面に向かわせる磁界を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料などの容器を殺菌する殺菌装置に係り、特に、電子線を照射することにより容器を殺菌する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレート製のボトル(以下、ペットボトル)を殺菌する殺菌装置として、ペットボトルに対して電子線を照射するようにしたものが知られている(特許文献1〜特許文献3等)。
例えば、特許文献1の図1には、略円形通路を有する放射線遮蔽トンネルと、曲線状通路に沿って沿設させた被照射体の搬送コンベアと、放射線遮蔽トンネルの通路途中に設けた電子線照射室とを具える殺菌装置が記載されている。そして、この殺菌装置は、電子線照射室内の電子線照射により発生した放射線を遮蔽トンネル内の曲線状通路内で反射変向させながら散乱減衰させ、遮蔽トンネルの出入口部からの漏洩放射線を許容レベル以下に減衰させるとともに、遮蔽トンネルの少なくとも一部に前記通路が開放される開閉扉を設けたことを特徴としている。
【0003】
特許文献1の殺菌装置は複数本のペットボトルを一度に殺菌処理することを念頭においている。したがって、特許文献1の殺菌装置は、高エネルギの電子線を照射することになるが、電子線照射により二次的に発生するX線を外部に漏洩させないための遮蔽構造が大きくかつ重くなるという問題がある。また、特許文献2、特許文献3も同様であるが、特許文献1は、遮蔽構造の内部にペットボトルを搬送するコンベア装置の一部が通過するため、遮蔽構造の容積が殺菌処理されるペットボトルのそれを大きく超える。このことも、遮蔽構造が大きくかつ重くなるのを助長する要因となっている。
また、電子線をペットボトルに照射する殺菌装置は、電子線照射によってオゾンが生じるので、それを排気する装置が必要であるが、このオゾンの回収装置も大がかりなものになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−214300号公報
【特許文献2】特開2003−245061号公報
【特許文献3】特許第3402150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、電子線を用いた殺菌装置をより小型かつ軽量にすることが望まれる。ただしこの前提として、ペットボトル等の容器で殺菌が必要な箇所に電子線を漏れなく照射する殺菌能力を有することが要求される。したがって本発明は、高い殺菌能力を有しながらも、小型かつ軽量な電子線殺菌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子線殺菌装置は、容器収容チャンバと、電子線照射手段と、電子線偏向手段と、から構成される。
容器収容チャンバは、殺菌対象である一つの容器を収容するキャビティを有する。この容器収容チャンバは、容器の挿入及び排出に開放状態をなし、殺菌処理を行う際には閉塞状態をなす。
電子線照射手段は、電子線を生成する電子線生成部と、電子線生成部に連なるノズルと、を備える。ノズルは、電子線生成部で生成される電子線が通る電子線通路と、電子線通路を通ってきた電子線を外部に出射する出射口と、を備えている。
電子線偏向手段は、キャビティに収容される容器の側方に配置される。この電子線偏向手段は、ノズルの出射口から出射される電子線を放射状に偏向してキャビティに収容される容器の側面に向かわせる磁界を発生させる。
【0007】
本発明の電子線殺菌装置において、電子線照射手段は一つの容器に対して殺菌に必要な電子線を与えるものであるから、低エネルギの電子線を生成するもので足りる。したがって、本発明の電子線殺菌装置は、小型の電子線照射手段を用いることができる。また、容器収容チャンバはキャビティ(容器)内に導入される電子線により二次的に生じるX線を外部に漏洩するのを防ぐ遮蔽構造を必要とするが、低エネルギの電子線であるために、従来の電子線殺菌装置に比べると軽微な遮蔽構造にすることができる。加えて本発明の電子線殺菌装置は、容器収容チャンバのキャビティは、実質的には容器を収容できる容積を備えれば足りるので、容器収容チャンバを最小限の大きさに抑えることができる。以上より、本発明の電子線殺菌装置は小型かつ軽量にできる。
また、本発明の電子線殺菌装置は、電子線照射手段のノズルが、殺菌処理時にキャビティに収容される容器の内部に挿入される。このとき、ノズルの出射口から出射される電子線の大部分は直進して容器の底部に向かう。しかしこれでは、容器の側面への電子線の照射量が不足するおそれがある。そこで、本発明の電子線殺菌装置は、ノズルの出射口から出射される電子線を放射状に偏向して、容器の側面に向かわせる磁界を発生する電子線偏向手段を設ける。これにより、本発明の電子線殺菌装置は高い殺菌能力を確保できる。
【0008】
また、本発明では、電子線偏向手段が、部位ごとに異なる磁界強度を発生させることで、容器の部位ごとに異なる量の電子線を照射させることができる。
部位ごとに異なる磁界強度を発生させるには、少なくとも2つの選択肢がある。つまり、異なる磁界強度を発生させる永久磁石を複数用意し、容器の側方にこれら複数の永久磁石を並べて配置することで、部位ごとに異なる強度の磁界を発生させることができる。また、複数の電磁石を部位ごとに区分して設け、各電磁石に異なる電力を供給することで、部位ごとに異なる強度の磁界を発生させることができる。
【0009】
本発明は、電子線偏向手段を、キャビティに収容されている容器に対する位置を変えない固定式のものとしてもよいが、殺菌処理の経過に伴って位置を変える可動式のものとすることもできる。この位置は相対的なものであり、電子線偏向手段側の位置を固定する一方、容器側の位置を変えるようにしてもよいし、容器側の位置を固定する一方、電子線偏向手段側の位置を変えるようにしてもよい。電子線偏向手段の位置を移動させながら発生する磁界の強度を変えることもできる。
【0010】
本発明において、電子線偏向手段は、容器を中心に対称の位置の一方にN極が、また、他方にS極が印加される磁界分布を生じさせる。このような磁界分布を容器に印加することで、電子線を偏向させて容器の側面に向かわせることができる。そして、この磁界分布を、N極とS極の相対的な位置関係を保ちながら、容器を中心にして相対的に回転させる。磁界分布が一回転する間に電子線は放射状に偏向されるので、容器の周方向の全域に電子線を照射させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い殺菌能力を有しながらも、小型かつ軽量な電子線を用いた殺菌装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態における電子線殺菌システムの構成を示す図である。
【図2】本実施の形態における容器収容チャンバの部分断面図である。
【図3】電子線照射銃の概略構成を示す断面図である。
【図4】(a)が容器収容チャンバを開放した状態を、(b)がペットボトルPBを収容後に容器収容チャンバを閉塞して殺菌処理を開始した状態を、(c)は電子線照射銃を中間まで下げた状態を、(d)は電子線照射銃を最下端まで下げた状態、を各々示している。
【図5】ペットボトルPBを中心に電子線偏向磁石を回転させながら電子線を照射する様子を示す平面図である。
【図6】複数の電子線偏向磁石を設けた容器収容チャンバの構成を示す部分断面図である。
【図7】電機子コイルから電子線偏向磁石を構成した場合の電子線を照射する様子を示す平面図である。
【図8】ペットボトルPBを回転させながら電子線を照射する様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施の形態における電子線殺菌システム10は、図1に示されるように、複数の容器収容チャンバ20と、容器収容チャンバ20の周囲に設けられる電子線偏向磁石35と、容器収容チャンバ20に対応して設けられる電子線照射銃40と、を備えており、図示を省略した手段で搬送されるペットボトルPBを殺菌処理するものである。
電子線殺菌システム10は、電子線照射による殺菌処理時にオゾンが発生するのを防止する酸素排除部60を備えている。酸素排除部60は、酸素排除配管L1を介して各容器収容チャンバ20の排気経路28と連通されている。また、電子線殺菌システム10は、各電子線照射銃40で電子線を生成するための電力を供給する電源80を備えている。電源80は、電力線L2を介して各電子線照射銃40と電気的に接続されている。
なお、図1は複数の容器収容チャンバ20(電子線照射銃40)が直線上に並んで固定されている例を示しているが、本発明はこの配置に限ることはなく、円周上に容器収容チャンバ20(電子線照射銃40)を配置し、かつ相対的に回転可能にする、などの種々の配置を採用することができる。
【0014】
<容器収容チャンバ20>
容器収容チャンバ20は、図1、図2に示すように、下部21と、本体22という複数の要素から構成される。下部21と本体22の間には、電子線照射により二次的に発生するX線、電子線及びオゾン(以下、X線等と総称することがある)の漏洩を防止するためのOリングなどの封止体ORを介在させている。容器収容チャンバ20の外観は円筒状をなしている。容器収容チャンバ20は、X線、電子線が外部に漏洩するのを阻止するために、主要部分は鉛から構成されている。
下部21と本体22は、殺菌処理をこれから行うペットボトルPBを容器収容チャンバ20に挿入し、又は、殺菌処理が終了したペットボトルPBを容器収容チャンバ20からペットボトルPBを排出する際には、図4(a)に示すように、容器収容チャンバ20が開放状態となるように、下部21を降下させることで本体22から分離する。このとき、電子線照射銃40はキャビティ24から退避した上方に位置する。ペットボトルPBを殺菌処理する際には、下部21と本体22とを密着させることで、容器収容チャンバ20を閉塞状態とする。
【0015】
容器収容チャンバ20は、ペットボトルPBを収容するキャビティ24を備えている。
キャビティ24は、容器収容チャンバ20が閉塞状態において、ペットボトルPBを十分に収容できるサイズの円筒状の空隙である。サイズの異なるペットボトルPBを処理するには、キャビティ24は、電子線殺菌システム10で処理される最大のサイズのペットボトルPBを収容できるサイズを有していることが好ましい。
キャビティ24は下部21及び本体22に亘って形成されるものであり、そのために、下部21には第1空隙25が、また、本体22には第2空隙26が形成される。キャビティ24にペットボトルPBが収容されたときに、ペットボトルPBの底面を除いて、ペットボトルPBの外面と容器収容チャンバ20の内面の間にクリアランスが設けられる。ペットボトルPBに傷が着くのを防ぐためである。第1空隙25及び第2空隙26は、このクリアランスを考慮して形成される。
【0016】
本体22の上部には、キャビティ24の上部開口と繋がるノズル挿入路27が形成されている。電子線照射銃40のノズル42は、このノズル挿入路27を介してキャビティ24内に配置される。
また、本体22の上部には、ノズル挿入路27を介してキャビティ24と繋がる排気経路28が形成されている。排気経路28は、酸素排除配管L1を介して酸素排除部60に繋がっている。電子線による殺菌処理中にキャビティ24(ペットボトルPB)で発生したオゾンが発生するのを防止することを目的として、酸素排除部60は真空ポンプを備えている。殺菌処理する前にキャビティ24を真空引きすることで、オゾン発生の要因である酸素をキャビティ24から排除する。真空引きは、殺菌処理中も継続して行うことが好ましい。
酸素排除部60として真空引きするものを示したが、オゾンの発生防止のためには、キャビティ24内の大気を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスで置換することで、殺菌処理前にキャビティ24内の酸素を排除することもできる。もちろん、真空引きした後に不活性ガスをキャビティ24に充填することもできる。
【0017】
<電子線照射銃40>
電子線照射銃40は、図3に示すように、電子線を生成する銃本体41と、銃本体41に連なるノズル42と、から構成される。銃本体41及びノズル42はともに中空円筒状の形態をなし、銃本体41の下端とノズル42の上端が繋がっている。
銃本体41は、外筒43内の上部に電子生成器44が設けられている。電子生成器44は、ケース45を有している。ケース45は、その外面が外筒43の内面から所定の距離を離して設けられているので、外筒43とケース45の間に高電圧ギャップを作り出すことができる。
ケース45の内部には、電子発生用のフィラメント46が配置されている。このフィラメント46には、絶縁体47及び電力線L2を介して電源80から電力が供給される。フィラメント46は、供給される電力によって加熱され、自由電子(e)を生成させる。生成された電子は、静電レンズ48に形成された開口部49及びケース45先端に形成された開口部50を通過してノズル42に向けて出射される。
【0018】
電子生成器44のケース45とノズル42の先端にある出射口51との間に、電源80から高電圧が印加される。なお、出射口51は、接地されている。電子生成器44と出射口51との間の電位差によって、フィラメント46で生成した電子が、ノズル42内の電子線通路52を出射口51に向けて通過しながら加速され、さらに出射口51を通過して外部に出射される。このように、キャビティ24に収容されているペットボトルPBの内面に電子線が照射されることで、当該面を殺菌処理することができる。
【0019】
<電子線偏向磁石35>
電子線偏向磁石35は、出射口51から出射される電子線をキャビティ24に収容されるペットボトルPBの側面に向かわせる磁界を発生させる。
電子線偏向磁石35は、ペットボトルPBの上下方向に往復動可能とされている。また、電子線偏向磁石35は、図5に示すように、第1永久磁石35aと第2永久磁石35bとから構成され、容器収容チャンバ20の周囲に対象の位置に配置される。第1永久磁石35aと第2永久磁石35bは、ペットボトルPBを中心にして、N極とS極が対向するように配置されている。第1永久磁石35aと第2永久磁石35bは、相対的な位置関係を保ちながら、ペットボトルPBを中心にして回転可能に支持されている。
なお、電子線偏向磁石35を構成する第1永久磁石35a、第2永久磁石35bは最も基本的な構成の一例にすぎず、本発明の目的に沿って電子線を偏向できる永久磁石の構成、配置を広く採用することができることは言うまでもない。
【0020】
<殺菌処理手順>
電子線殺菌システム10は、以下のように動作してペットボトルPBを殺菌することができる。
図4(a)に示すように、ペットボトルPBが容器収容チャンバ20に収容されるまでは、キャビティ24から上方に退避した初期位置にある。ペットボトルPBが容器収容チャンバ20に収容されると、下部21と本体22とを密着させることで、容器収容チャンバ20を閉塞状態とする。そうすると、電子線照射銃40は初期位置から降下してペットボトルPB内に挿入される。電子線照射銃40は、ペットボトルPBの口部(図4(b))、中間部(図4(c))を通って最下端(図4(d))まで降下しながら電子線を出射する。電子線照射銃40の降下に同期して電子線偏向磁石35は降下する。つまり、電子線偏向磁石35は、電子線照射銃40がペットボトルPBの口部にいるときには口部に対応する位置に降下し、電子線照射銃40がペットボトルPBの中間部にいるときには中間部に対応する位置に降下し、さらに電子線照射銃40が最下端にいるときには最下端に対応する位置に降下する。
【0021】
電子線照射銃40は、初期位置から最下端まで降下する過程で電子線を出射する。出射口51から出射される電子線はそのままでは直進する。しかし、電子線殺菌システム10は電子線偏向磁石35を備えているので、出射口51から出射される電子線の一部はペットボトルPBの側面に向けて偏向される。偏向されずにそのまま直進する電子線もある。
【0022】
図5に示すように、第1永久磁石35aと第2永久磁石35bがペットボトルPBを中心にしてN極とS極が対向するように配置されていると、電子線照射銃40から出射される(図5の上方から出射される)電子線EBは、ペットボトルPBの中心から円周方向に向けて偏向される。例えば、図5(a)のように第1永久磁石35aと第2永久磁石35bが図中の上下方向に沿っていると、電子線EBは図中の右に向けて曲げられる。したがって、第1永久磁石35aと第2永久磁石35bが固定されていると、電子線EBをペットボトルPBの周方向の一部にしか照射することができない。そこで、第1永久磁石35aと第2永久磁石35bを、ペットボトルPBを中心にして回転させる。図5(a)〜(d)に示すように、第1永久磁石35aと第2永久磁石35bを一回転させると、電子線EBはペットボトルPBの周方向の全域に照射される。電子線EBは、第1永久磁石35aと第2永久磁石35bが一回転する間に、ペットボトルPBの側面に向けて放射状に偏向される。なお、本実施の形態では第1永久磁石35aと第2永久磁石35bが一回転する間に、電子線EBがペットボトルPBの側面に向けて放射状に偏向されるが、本発明は同時刻に電子線が放射状に偏向される形態をも包含する。
【0023】
第1永久磁石35aと第2永久磁石35bを、ペットボトルPBを中心にして回転させながら、かつ上述したように電子線EBを出射する電子線照射銃40を初期位置(図4(a))から最下端(図4(d))まで降下させる。そうすることでと、電子線殺菌システム10は、ペットボトルPBの高さ方向及び周方向の全域に電子線EBを漏れなく照射することができる。
ペットボトルPBの口部Nは肉厚であるために、より多くの電子線を照射することが殺菌のために必要である。本実施の形態によると、電子線照射銃40がペットボトルPBの口部Nにいるときには口部Nに対応する位置に電子線偏向磁石35がいるので、口部Nに多くの電子線を照射することができる。また、ペットボトルPBの底部Bも肉厚であるために、多くの電子線を照射する必要がある。これについても、電子線照射銃40を最下端まで降下させることに加えて、出射口51から出射される電子線の一部を電子線偏向磁石35が発生させる磁界に抗して直進するようにすれば、底部Bに必要な量の電子線を照射させることができる。
【0024】
電子線照射銃40は、最下端まで降下して殺菌処理が終了すると、初期位置に向けて上昇する。この上昇の過程で電子線を出射することもできる。電子線照射銃40が初期位置に戻ると殺菌処理が終了し、その後に容器収容チャンバ20を開放状態(図4(a))としてペットボトルPBを取り出す。
以上の動作は一例であり、初期位置に上昇する過程のみに電子線を出射することができる。また、電子線照射銃40及び電子線偏向磁石35(第1永久磁石35a、第2永久磁石35b)は、一定の速度で降下させることができるが、例えば口部Nに対応する領域では電子線の照射量を多くするために降下の速度を遅くする又は停止させるというように、降下速度を変えることもできる。
また、ここで示した電子線照射銃40は、ノズル42の先端にある出射口51から電子線が出射されるが、本発明はこれに限定されない。例えば、ノズル42の側面からも電子線が出射されるものであってもよい。
【0025】
電子線殺菌システム10は、以上説明したようにペットボトルPB等の容器で殺菌が必要な箇所に電子線を漏れなく照射できる高い殺菌能力を有するのに加えて、以下の効果を奏する。
電子線殺菌システム10において、電子線照射銃40は一つの容器収容チャンバ20に対して殺菌に必要な電子線を与えるものであるから、低エネルギの電子線を生成するもので足りる。したがって、電子線殺菌システム10は、小型の電子線照射銃40を用いることができる。また、容器収容チャンバ20はX線等を外部に漏洩するのを防ぐ遮蔽構造を必要とするが、導入されるのが低エネルギの電子線であるために、従来の電子線殺菌装置に比べると軽微な遮蔽構造にすることができる。加えて電子線殺菌システム10は、容器収容チャンバ20のキャビティ24が、実質的にはペットボトルPBを収容できる容積を備えれば足りるので、容器収容チャンバを最小限の大きさに抑えることができる。
【0026】
また、電子線殺菌システム10は、容器収容チャンバ20に排気経路28を設け、酸素排除部60から真空引きをするので、容器収容チャンバ20にオゾンが残留するのを避けることができる。したがって、人体あるいは飲料の安全性が確保される。また、残留したオゾンは、容器収容チャンバ20内に大気があるとその中の水素、窒素と反応して硝酸を生成させ、容器収容チャンバ20を構成する金属部材を腐食させるおそれがある。したがって、オゾンの発生を防止することで、金属部材の腐食低減にも効果を発揮する。さらに、酸素排除部60から真空引きをすることで、他の異物の除去にも有効である。
【0027】
<電子線偏向磁石の変更例>
以上の例では、電子線偏向磁石35を降下させているが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示すように、容器収容チャンバ20の上部、中間及び下部に対応して複数の電子線偏向磁石36、37及び38を配置することもできる。この形態によれば、電子線偏向磁石35を降下させる機構を設ける必要がない。この場合、各電子線偏向磁石36、37及び38が発生させる磁界の強度を等しくすることができるし、また、異ならせることもできる。例えば、電子線偏向磁石36、37及び38が発生させる磁界の強度をHa、Hb及びHcとすると、Ha>Hc>Hbの関係を満足することができる。これは、ペットボトルPBの中で、口部Nと底部Bは肉厚が厚いので照射する電子線の量を多くする必要があるのに対して、胴体部は肉厚が薄いので照射する電子線の量は少なくてよい。したがって、Ha及びHcをHbより大きく設定するのである。また、口部Nは出射口51の距離が近く、偏向角度を大きくする必要があるため、より強い磁界を作用させるべきである。そこで、Ha>Hcとする。
以上のように、本発明の電子線偏向手段は、部位ごとに異なる磁界強度を発生させることで、ペットボトルPB容器の部位ごとに異なる量の電子線を照射させることができる。
なお、図6の例は、電子線偏向磁石を3つに区分したが2または4以上に区分することもできる。
また、Ha>Hc>Hbは各電子線偏向磁石の磁界強度の関係の一例にすぎず、処理する容器に応じてHa>Hb>Hc、あるいはHa<Hb<Hcという種々の関係を採用することができる。
【0028】
また、以上の例では、電子線照射銃40を降下させているが、例えば図6に示す位置に電子線照射銃40の位置を固定にすることもできる。この場合も、電子線偏向磁石を設けることで電子線をペットボトルPBの側面の必要な箇所に導くことができる。
さらに、本発明では、電子線偏向磁石を特定の部位だけに設けることもできる。例えば、図4(b)に示すように電子線偏向磁石35を口部Nに対応する位置に固定させることもできる。電子線偏向磁石35により電子線が偏向する角度を広範囲に調整すれば、電子線偏向磁石35が固定されていても、電子線をペットボトルPBの高さ方向の全域に漏れなく照射させることができる。
【0029】
さらにまた、電子線偏向磁石35〜38は永久磁石から構成するものとしたが、本発明は電子線偏向磁石を電磁石で構成することを許容する。この場合、電子線偏向磁石35のように可動式としてもよいし、電子線偏向磁石36、37及び38に対応するように複数の電磁石を設ける固定式としてもよい。
電子線偏向磁石を電磁石で構成する場合、図7に示すように、ペットボトルPBの周囲を取り囲むように複数の電機子コイル39A〜39Lを配置することで電子線偏向磁石39を構成できる。ペットボトルPBを中心にして対象の位置にある2つの電機子コイルを一対とすると、ペットボトルPBを中心にして複数組の電機子コイルが配置される。そして、一対の電機子コイルの一方にN極、他方にS極が生じるように電流を供給する。この動作を、複数対の電機子コイルに連続的に行う。
例えば、図7において、以下の組合せが一対の電機子コイルをなす。
電機子コイル39Aと39G 電機子コイル39Bと39H 電機子コイル39Cと39I
電機子コイル39Dと39J 電機子コイル39Eと39K 電機子コイル39Fと39L
ある時点(図7(a))において、電機子コイル39AにN極、電機子コイル39GにS極を生じさせると、電子線EBは図中の右側に偏向される。
次のある時点((図7(b))において、電機子コイル39DにN極、電機子コイル39JにS極を生じさせると、電子線EBは図中の下向きに偏向される。このとき、先行する一対の電機子コイルへの電流供給は停止される。なお、電機子コイル39Bと39Hの対、及び電機子コイル39Cと39Iの対への動作(図7(a)と((図7(b)の間)の説明は省略している。
このような動作を順次繰り返すことで、図7(a)〜図7(d)に示すように、電子線EBはペットボトルPBの側面に向けて放射状に偏向される。このとき、N極とS極からなる磁界分布は、その相対的な位置関係を保ちながら、ペットボトルPBを中心にして回転される。
この電機子コイルを用いる場合も、図7に示す複数の電機子コイルからなる電子線偏向磁石を、図6に示すように、ペットボトルPBの高さ方向に複数の組を設けることができる。そして、この場合、各組に供給する電流を変えることで、各組が異なる磁界強度を発生し、ペットボトルPB容器の部位ごとに異なる量の電子線を照射させることができる。
【0030】
次に、本発明は、ペットボトルPBを回転させることにより、電子線EBをペットボトルPBの側面に向けて放射状に偏向させることもできる。この例では、第1永久磁石35aと第2永久磁石35bの位置は固定されている。しかし、図8(a)〜(d)に示すように、ペットボトルPBをその軸を中心に一回転させることにより、電子線EBをペットボトルPBの側面に向けて放射状に偏向させながら、その周方向の全域に照射させることができる。このとき、N極とS極からなる磁界分布は、その相対的な位置関係を保ちながら、ペットボトルPBを中心にして相対的に回転される。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択し、あるいは公知の他の構成に適宜変更することが可能である。
例えば、電子線偏向磁石35は、容器収容チャンバ20の外側に設けたが、容器収容チャンバ20内に設けてもよいし、容器収容チャンバ20の内側に設けてもよい。
また、容器収容チャンバ20は、開放状態の一形態として下部21を降下させることで本体22から分離する構造としたが、観音開きする構造を採用することで、開放状態と閉塞状態をなすこともできる。
【符号の説明】
【0032】
10…電子線殺菌システム
20…容器収容チャンバ
21…下部、22…本体
24…キャビティ、28…排気経路
35,36,37,38,39…電子線偏向磁石
35a…第1永久磁石、35b…第2永久磁石、39A〜39L…電機子コイル
40…電子線照射銃
41…銃本体、42…ノズル、44…電子生成器、51…出射口、52…電子線通路
60…酸素排除部、80…電源
PB…ペットボトル
L1…酸素排除配管、L2…電力線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器収容チャンバと、電子線照射手段と、電子線偏向手段と、を備え、
前記容器収容チャンバは、
殺菌対象である一つの容器を収容するキャビティと、
前記容器の挿入及び排出に開放状態をなし、殺菌処理を行う際には閉塞状態をなし、
前記電子線照射手段は、
電子線を生成する電子線生成部と、
前記電子線生成部に連なり、前記電子線生成部で生成される前記電子線が通る電子線通路と、前記電子線通路を通ってきた前記電子線を外部に出射する出射口と、を有し、殺菌処理時に前記キャビティに収容される前記容器の内部に挿入されているノズルと、を備え、
前記電子線偏向手段は、
前記キャビティに収容される前記容器の側方に配置され、前記出射口から出射される前記電子線を放射状に偏向して前記キャビティに収容される前記容器の側面に向かわせる磁界を発生させる、
ことを特徴とする電子線殺菌装置。
【請求項2】
前記電子線偏向手段は、
部位ごとに異なる磁界強度を発生させることで、前記容器の部位ごとに異なる量の電子線を照射させる、
請求項1に記載の電子線殺菌装置。
【請求項3】
前記電子線偏向手段は、
前記キャビティに収容されている前記容器に対する位置を変える可動式のものである、
請求項1または2に記載の電子線殺菌装置。
【請求項4】
前記電子線偏向手段は、
前記容器を中心に対称の位置の一方にN極が、また、他方にS極が印加される磁界分布を生じさせるとともに、
前記磁界分布を、前記N極と前記S極の相対的な位置関係を保ちながら、前記容器を中心にして相対的に回転させる、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子線殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−55556(P2012−55556A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203050(P2010−203050)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】