説明

電子線照射装置および電子線照射システム

【課題】電子線の照射領域において、電子線に対する被照射物の移動方向を工夫することで、被照射物における電子線の照射面を増加させる。
【解決手段】電子線照射装置200は、被照射物Wに電子線を照射する電子線照射部(電子銃210、プリバンチャ216、加速器218、スキャンホーン220)と、電子線照射部によって被照射物Wに電子線が照射される領域である照射領域Rにおいて、電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて被照射物Wを回転させる回転装置250とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置および電子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具や食品等の滅菌、樹脂の架橋や硬化、悪性腫瘍等の病巣の除去等、様々な分野で利用されている電子線照射装置(例えば、特許文献1、2)が知られている。このような電子線照射装置は、カソード電極と加速器を備えており、カソード電極に電力を供給することでカソード電極から電子線を放出し、その電子線を加速器で加速して被照射物に照射する。
【0003】
このような被照射物の中で、シャーレや透析器、ペットボトル飲料等の円筒形状(または円柱形状)の被照射物を滅菌する技術として、例えば、被照射物に電子線が照射される領域(照射領域)に、搬送方向に傾斜した床部を設けておき、被照射物を自重で回転させながら電子線を照射する技術が開示されている(例えば、特許文献3)。しかし、このような技術では、被照射物の自重に頼って回転させるため、回転速度を一定にすることができず、被照射物に満遍なく(偏りなく)電子線を照射することは困難である。また、被照射物が完全な円筒形状でなく、例えば、側面部に突起物等が形成されていると、床部を転動させることができないばかりか、被照射物が破損してしまうおそれもある。
【0004】
そこで、水平方向に電子線を照射する電子線照射装置に被照射物を搬送する技術であって、鉛直方向を回転軸として被照射物を回転させながら被照射物に電子線を照射する技術が開示されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349998号公報
【特許文献2】特開2003−139898号公報
【特許文献3】特開平10−268100号公報
【特許文献4】特開2000−325439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献4の技術では、被照射物の側面部に電子線を照射することはできるが、上面部や底面部といった両端面に電子線を照射することができず、被照射物全体を滅菌することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、電子線の照射領域において、電子線に対する被照射物の移動方向を工夫することで、被照射物における電子線の照射面を増加させることが可能な電子線照射装置および電子線照射システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の電子線照射装置は、被照射物に電子線を照射する電子線照射部と、電子線照射部によって被照射物に電子線が照射される領域である照射領域において、電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて被照射物を回転させる回転装置と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
回転装置は、対向配置される上面部および底面部と、当該上面部と底面部とを結ぶ側面部と、を有する被照射物を回転可能であって、上面部および底面部のいずれか一方を電子線照射部に臨ませるとともに、被照射物を回転させる過程で側面部の全面を電子線照射部に臨ませてもよい。
【0010】
回転装置は、回転軸方向における被照射物の上面部および底面部を挟持する挟持部を含んで構成されてもよい。
【0011】
被照射物は、被照射物を包装する包装体で覆われており、回転装置は、包装体を挟持する挟持部を含んで構成され、挟持部は、包装体の、回転軸方向における被照射物の上面部に対向する部分と、包装体の、回転軸方向における被照射物の底面部に対向する部分を挟持してもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の電子線照射システムは、被照射物を載置面上に載置して搬送する搬送装置と、搬送装置によって搬送される被照射物に電子線を照射する電子線照射部を有した電子線照射装置と、を備えた電子線照射システムであって、搬送装置は、被照射物の任意の面を第1載面に接触させて搬送する第1搬送装置と、第1搬送装置で搬送された被照射物を傾倒して、当該第1搬送装置の第1載置面に接触した任意の面である接触面を非接触状態に維持して、電子線照射部によって被照射物に電子線が照射される領域である照射領域に搬送する第2搬送装置と、を備え、電子線照射装置は、照射領域において、第1載置面に接触した任意の面である接触面を電子線照射部に臨ませるとともに、電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて回転させる回転装置を備えたことを特徴とする。
【0013】
第2搬送装置が設置される部屋は、第1搬送装置が設置される部屋よりも相対的に無菌性保証レベルが高い部屋であり、回転装置は、第2搬送装置が設置される部屋で、第1載置面に接触した任意の面である接触面を電子線照射部に臨ませるとともに、電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて回転させてもよい。
【0014】
第2搬送装置は、被照射物を載置するトレーを搬送可能に構成され、第1搬送装置で搬送された被照射物を傾倒して、第1載置面に接触した任意の面である接触面を、トレーにおける被照射物の載置面に対して非接触状態に維持して、トレーに載置された被照射物を照射領域に搬送してもよい。
【0015】
第1搬送装置で搬送された後、第2搬送装置で搬送される前に、被照射物の外面を包装体で包装する包装装置を備えてもよい。
【0016】
第1搬送装置は、対向配置される上面部および底面部と、当該上面部と底面部とを結ぶ側面部と、を有する被照射物の、上面部または底面部を第1載置面に接触させて搬送し、回転装置は、上面部および底面部のいずれか一方のうち、第1載置面に接触した面を電子線照射部に臨ませるとともに、被照射物を回転させる過程で側面部の全面を電子線照射部に臨ませてもよい。
【0017】
回転装置は、回転軸方向における被照射物の上面部および底面部を挟持する挟持部を含んで構成されてもよい。
【0018】
被照射物は、被照射物を包装する包装体で覆われており、回転装置は、包装体を挟持する挟持部を含んで構成され、挟持部は、包装体の、回転軸方向における被照射物の上面部に対向する部分と、包装体の、回転軸方向における被照射物の底面部に対向する部分を挟持してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電子線の照射領域において、電子線に対する被照射物の移動方向を工夫することで、被照射物における電子線の照射面を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電子線照射システムの概略的な構成を説明するための上面図である。
【図2】第1搬送装置における被照射物Wの載置面(第1載置面)を説明するための説明図である。
【図3】包装装置による被照射物の包装工程を説明するための説明図である。
【図4】電子線照射装置の外観斜視図である。
【図5】図4におけるZ軸方向から電子線照射装置を見た図である。
【図6】図1におけるV−V矢視図である。
【図7】回転装置の動作処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
シャーレ等の医療器具は、無菌性保証レベル(Sterility Assurance Level:SAL)<10E−6の無菌室で成型、洗浄、包装が行われていた。しかし、無菌室の管理や維持には膨大なコストがかかるため、医療器具のすべての製造工程(成型工程、洗浄工程、包装工程)を無菌室で行うと医療器具の単価が上がってしまうという問題があった。
【0023】
そこで、無菌性保証レベルが10E−6以上である、すなわち無菌室よりも無菌性保証レベルが高いクリーンルーム等の半無菌室で製造工程を行い、さらに包装された医療器具をダンボール箱等の梱包材で梱包し、その後、梱包された状態で医療器具に電子線を照射して滅菌することが考えられる。
【0024】
しかし、梱包された状態で医療器具に電子線を照射するためには、電子線の透過率を考慮すると10MeV程度の強い電子線を照射する必要がある。そうすると、電子線が衝突することによって発生する放射線の外部への漏洩を遮断するために、3m程度の厚みのコンクリートの遮蔽壁で電子線照射装置を何重にも囲繞する必要があるため、設備が大がかりになりコスト高になってしまう。
【0025】
そこで、本実施形態では、シャーレ等の円筒形状の医療器具の成型工程、洗浄工程のみを無菌室で行い、包装工程、および、包装後であって梱包前の医療器具に電子線を照射する照射工程を半無菌室で行う。そして、照射工程において、電子線の照射領域で、電子線に対する被照射物の移動方向を工夫することで、被照射物(包装後の医療器具)における電子線の照射面を増加させることができ、1MeV程度の電子線を照射しても十分に被照射物を滅菌することが可能な電子線照射システム100について説明する。
【0026】
(電子線照射システム100)
図1は、電子線照射システム100の概略的な構成を説明するための上面図である。なお、図1中、理解を容易にするために電子線照射装置200における電子線照射部の図示を省略する。図1に示すように、電子線照射システム100は、無菌室102と、クリーンルーム等の半無菌室104に区画形成されており、無菌室102には第1搬送装置110が設置され、半無菌室104には、包装装置112、第2搬送装置120、搬出装置122が設置される。また、半無菌室104には、遮蔽壁230が設置されており、遮蔽壁230の内部に、第2搬送装置120の一部および電子線照射装置200が設置される。なお、図1中、被照射物Wは、包装装置112による梱包後にトレー106に載置され、第2搬送装置120によって白抜き矢印で示す方向にトレー106と共に搬送され、電子線照射装置200による滅菌後に搬出装置122で搬出される。また、図1中、搬出装置122で被照射物Wが搬出された後のトレー106は、第2搬送装置120によって、黒い塗りつぶしでの矢印で示す方向に搬送される。
【0027】
第1搬送装置110は、無菌室102内に設置されており、例えば、コンベアで構成され、被照射物Wを載置面(第1載置面)上に載置して搬送する。
【0028】
図2は、第1搬送装置110における被照射物Wの載置面(第1載置面)を説明するための説明図である。具体的に説明すると、図2に示すように、第1搬送装置110は、第1搬送装置110の上流で成型、洗浄された被照射物Wの底面部WD(任意の面)をコンベアの上面(第1載置面)に接触させて被照射物Wを搬送する。図2に示すように、本実施形態において被照射物Wは鉛直方向に複数個重ねられたシャーレである。したがって、最下段に位置するシャーレの底面(底面部WD)が第1搬送装置110の第1載置面との接触面CFとなる。
【0029】
包装装置112は、第1搬送装置110が搬送した被照射物Wの外面を包装体Pで包装する。図3は、包装装置112による被照射物Wの包装工程を説明するための説明図である。図3(a)に示すように、被照射物Wは複数のシャーレ(例えば、φ90mm×15mm)が重ねられたものである。包装装置112は、図3(b)に示すように、被照射物Wの側面部WSを覆うように包装体Pで被照射物Wを包装する。そして、被照射物Wの上面部WU(図3中、ハッチングで示す)に対向する包装体Pの開口部P1をシールし、被照射物Wの底面部WD(図3中、クロスハッチングで示す)に対向する包装体Pの開口部P2をシールする。こうすると、図3(c)に示すように、被照射物Wは、包装体Pと、シール部PU、PDとで囲まれた収容空間Aに配されることになる。
【0030】
図1に戻って説明すると、第2搬送装置120は、半無菌室104内に設置されており、例えば、包装体Pで包装された被照射物W(以下、包装後被照射物Wと称する)を、傾倒してトレー106に載置する不図視の傾倒装置と、第1コンベア120aと、照射部コンベア120bとを含んで構成され、第1コンベア120a上にトレー106を載置して、トレー106上に載置された包装後被照射物Wを搬送する。換言すれば、第2搬送装置120はトレー106ごと包装後被照射物Wを搬送することになる。具体的に説明すると、第2搬送装置120の傾倒装置は、第1搬送装置110で搬送され、包装装置112で包装された被照射物Wを傾倒してトレー106に載置することで、接触面CFをトレー106の上面(トレー106における包装後被照射物Wの載置面)に対して非接触状態に維持する。そして第1コンベア120a、照射部コンベア120bがトレー106に載置された包装後被照射物Wを照射領域Rに搬送する。すなわち、第2搬送装置120は、包装装置112で包装された被照射物Wを傾倒することで、包装後被照射物Wの側面部WS(包装体Pにおける側面部WSと接触する部分)をトレー106の上面に接触させて、トレー106ごと包装後被照射物Wを搬送する。
【0031】
なおトレー106には識別タグ106aが付されており、例えば、電子線照射装置200が停止したとき等、包装後被照射物Wに電子線が適切に照射されなかった場合に、識別タグ106aの状態がオフからオンになる。そして、電子線照射装置200の下流に設けられた不図示の判別装置が識別タグ106aの状態を判別する。判別装置は、識別タグ106aの状態がオフであれば、そのトレー106に載置された包装後被照射物Wを出荷工程に分岐し、オンであれば、不良品として出荷工程への分岐を中止する。
【0032】
遮蔽壁230は、鉄、鉛等の金属板で構成され、後述する電子線照射装置200の電子線取出部224を通じて照射された電子線が、照射領域Rに位置する、包装後被照射物Wや第2搬送装置120の照射部コンベア120b等に衝突することによって生じる放射線の漏洩を防止する。
【0033】
(電子線照射装置200)
図4は、電子線照射装置200の外観斜視図であり、図5は、図4におけるZ軸方向から電子線照射装置200を見た図である。なお、図4では、理解を容易にするために電子線照射装置200を支持する支持機構を省略する。
【0034】
図4および図5に示すように、電子線照射装置200は、電子銃210と、高周波電源212と、導波管214と、プリバンチャ216と、加速器218と、スキャンホーン220と、回転装置250とを備えて構成されている。なお、電子線照射部として機能する電子銃210、プリバンチャ216、加速器218、スキャンホーン220は、内部空間(真空室)が連続しており、この内部空間は、イオンポンプ等の真空ポンプ202で高真空状態から超高真空状態(例えば、10E−5Pa以下)に維持される。
【0035】
電子線照射装置200において、電子銃210から放出された熱電子は、プリバンチャ216、加速器218で加速され、スキャンホーン220を通過して、第2搬送装置120が搬送する包装後被照射物Wに向かって図4、図5中Y軸方向に照射される。すなわち、電子線照射装置200は、包装後被照射物Wの搬送方向(図4中Z軸方向)と直交する方向に電子線を照射する。以下、電子線照射装置200の各機能部について詳述する。
【0036】
(電子銃210)
電子銃210は、例えば、三極管電子銃であり、カソード電源(交流電源)204から供給された電力によってカソード電極を加熱し、パルス状に印加された高電圧のグリッド電圧(引出電圧)により、電子線を放出する。
【0037】
(高周波電源212、導波管214)
高周波電源212は、クライストロン等で構成され、導波管214を通じてプリバンチャ216および加速器218に、例えばSバンドに相当する3GHzのパルス状の高周波電力を供給する。導波管214は、セラミック等で構成されたRF窓214a、214bを通じて、高周波電源212から供給される高周波の電圧を加速器218に供給する。導波管214におけるRF窓214aとRF窓214bの間には、六フッ化硫黄(SF)等の絶縁ガスが充填されており、高周波電源212から出力された電圧によって導波管214が放電してしまう事態を回避する。なおRF窓214a、214bはSFと真空とを隔てる境界の役割を果たす。
【0038】
(プリバンチャ216)
プリバンチャ216は、電子銃210と加速器218の間に設けられ、導波管214を通じて高周波電源212に接続されている。プリバンチャ216は、電子銃210から入射された電子線をバンチング(密度圧縮(速度変調))して、加速器218に送出する。具体的に説明すると、プリバンチャ216内は、高周波電源212から供給された高周波の電圧によって高周波電界が形成されており、プリバンチャ216を通過した電子線は、バンチングされて加速器218に入射する。プリバンチャ216で電子線をバンチングすることにより、加速器218で加速された電子線のエネルギーの分散を小さくすることができ、電子線のエネルギーの均一性を向上させることが可能となる。
【0039】
ここで、プリバンチャ216によって圧縮された電子線の加速器218への入射タイミングが、加速器218における高周波の正位相と同期したときのみ、電子線は加速器218で効率よく加速される。したがって、プリバンチャ216から加速器218への電子線の入射タイミングを調整するために、プリバンチャ216の高周波導入部216aには、不図示の位相調整手段が設けられている。また、電子線の圧縮率(バンチングされた電子線の長さ)も加速器218による加速効率に影響するため、すなわち、電子線の長さが短い程、加速化効率が向上する。したがって、供給する高周波の強度を調整して電子線の長さを調整するために、プリバンチャ216の高周波導入部216aには、不図示の減衰(アッテネータ)手段が設けられている。
【0040】
(加速器218)
加速器218は、ステンレス(例えばSUS)等で形成され、内部に複数の加速空間を有して構成される。高周波電源212から高周波の電圧(例えば、3GHz)が供給されると、加速器218の複数の加速空間が空間共振器として機能し、空間共振器内に時間的に変化する電界が生じる。そして、この時間的に変化する電界で、プリバンチャ216によって圧縮された電子線を加速する。
【0041】
ここで、電子線の速度と加速空間における正に帯電する(正位相になる)タイミングが同期するように、高周波電源212から供給される電圧の周波数と、加速空間の距離が設計されているため、電子線は加速器218内で徐々に加速され、最終的には、例えば1MeV程度まで加速されて、スキャンホーン220に入射される。
【0042】
なお、ここでは、加速器218として、定在波型の線形(リニアック)加速器を採用しているが、電子を加速できればよく、進行波型の線形加速器や、シンクロトロン、サイクロトロン等の円形加速器を採用することもできる。
【0043】
(スキャンホーン220)
スキャンホーン220は、その内部空間が加速器218と連結され、加速器218の出口付近に設けられたスキャン電磁石222と、加速器218と連結する端部と対向する端部に設けられた電子線取出部224とを含んで構成される(図4、図5参照)。
【0044】
スキャン電磁石222は、加速器218から入射された電子線を水平方向(図4、図5中X軸方向)に走査(スキャン)する。電子線の進行方向は鉛直方向(図4、図5中Y軸方向)であるため、スキャン電磁石222が鉛直方向に進行する電子線を水平方向に走査することにより、水平方向に幅のある包装後被照射物Wに確実に電子線を照射することができる。
【0045】
電子線取出部224は、例えば、50μm程度の厚みのTi箔で構成され、内部空間と、大気とを隔てる境界の役割を果たす。そして、電子線取出部224から大気中に取り出された電子線は、包装後被照射物Wに照射される。
【0046】
こうして、電子銃210で放出された電子線は、加速器218で加速されて、電子線取出部224を通じて、包装後被照射物Wに照射される。
【0047】
ところで、上述したように、被照射物Wは、無菌室102で成型、洗浄され、第1搬送装置110で、半無菌室104に設置された包装装置112まで搬送される。このとき、被照射物Wの底面部WDが第1搬送装置110と接触するため(被照射物Wの底面部WDが第1搬送装置110との接触面CFとなるため)、底面部WDは無菌状態が維持されないことになる。また、包装体Pは、半無菌室104で利用されるため、包装体Pは表面、裏面ともに滅菌されていない。したがって、包装体Pで包装された被照射物W(包装後被照射物W)のうち、包装体Pおよび底面部WD(接触面CF)は、滅菌されていないことになる。換言すれば、包装体Pおよび底面部WD(接触面CF)以外の面(被照射物Wの側面部WSおよび上面部WU)は無菌状態が維持されていることになる。
【0048】
そこで、回転装置250は、照射領域Rにおいて、包装後被照射物Wを移動させることで、包装後被照射物Wにおける包装体Pおよび底面部WDに電子線が照射されるようにする。以下、回転装置250について詳述する。
【0049】
(回転装置250)
図6は、図1におけるV−V矢視図である。図6に示すように、回転装置250は、照射領域Rに設けられ、傾斜部252(図6中、252a、252bで示す)と、挟持部254と、回転モータ256とを含んで構成される。
【0050】
傾斜部252は、照射領域Rに向かって、および、照射領域Rから直線状に包装後被照射物Wを搬送する照射部コンベア120bの一部を構成し、鉛直方向の位置を異にした1組のローラで構成される。傾斜部252は、電子線の照射方向(図6中、Y軸方向;鉛直下方向)に対して、照射方向に垂直な面から90度未満の角度分傾斜させる。例えば、傾斜部252は、電子線の照射方向(図6中、破線の矢印で示す)と搬送方向とに直交する方向(図6中、x方向)から、包装後被照射物Wを角度α(0<α<90)分傾斜させる。
【0051】
ここでは、傾斜部252aが、傾斜部252bよりも鉛直上方(図6中Y軸方向)に位置するように構成される。したがって、照射部コンベア120bにおいて、傾斜部252上をトレー106が移動することになり、傾斜部252は、トレー106を包装後被照射物Wとともに図6中X軸方向に対して傾斜させる。なお、ここで傾斜部252は、包装後被照射物Wの接触面CFが鉛直上方になるように(接触面CFが傾斜部252aの方に位置するように)トレー106を傾斜させる。
【0052】
挟持部254は、図6中、黒い塗りつぶしの矢印で示す方向に移動し、包装後被照射物Wが照射領域Rに位置したときに、後述する回転モータ256の回転軸Q方向(包装後被照射物Wの長軸方向)における包装後被照射物Wの両端をそれぞれ挟持する。ここで挟持部254は、包装後被照射物Wにおける包装体Pのシール部PUの外側および、シール部PDの外側を挟持する。
【0053】
上述したように本実施形態にかかる加速器218が加速する電子線は1MeV程度であるため、放射線の外部への漏洩を遮断するために必要な遮蔽壁230は金属で形成され、10MeVまで加速する電子線照射装置と比較して遮蔽壁230の厚みを著しく薄くすることができる。したがって、クリーンルーム等の半無菌室104内にインライン型として設置することが可能となるが、電子線の透過率は、10MeVと比較して小さい。このため、挟持部254が挟持した箇所には電子線が照射されないおそれがある。ここでは、挟持部254が、包装体Pのシール部PUの外側および、シール部PDの外側を挟持するため、滅菌が必要な収容空間Aに確実に電子線を照射させることが可能となる。つまり、包装体Pの内部を確実に滅菌することができる。
【0054】
回転モータ256は、挟持部254に連接されており、挟持部254を回転させる(図6中白抜き矢印で示す)ことにより、傾斜部252による包装後被照射物Wの傾斜方向と平行な回転軸Qで包装後被照射物Wを回転させる。そうすると、回転モータ256は、電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて包装後被照射物Wを回転させることになる。したがって、包装後被照射物Wは、回転過程において、底面部WDが電子線取出部224に臨むとともに、側面部WSの全面が電子線取出部224に臨むことになる。
【0055】
回転モータ256が、包装後被照射物Wを回転させることにより、回転軸Qと交差する方向からの電子線を、包装後被照射物Wの側面部WSに満遍なく照射させることができる。また、傾斜部252が電子線の照射方向と交差する方向に包装後被照射物Wを傾斜させることにより、回転モータ256は傾斜方向に傾斜させたまま包装後被照射物Wを回転させることになる。したがって、被照射物Wの底面部WDに電子線を照射させることができる。つまり、接触面CFに電子線を照射させることが可能となる。
【0056】
したがって、回転装置250を備えることで、無菌室102から半無菌室104に移動した際に滅菌状態が維持されていない、包装体Pおよび底面部WDを確実に滅菌することができ、包装後被照射物W全体で確実に滅菌することが可能となる。
【0057】
また、被照射物Wの側面部WSの滅菌効率を向上させるために、電子線取出部224の下流に平行化磁石226を設けておき、電子線取出部224で取り出された電子線を回転軸Qと直交する方向に屈折させることもできる。さらに、トレー106における包装後被照射物Wと接触する面にフリーローラ106bを設けておき、回転モータ256による包装後被照射物Wの回転をスムーズにすることもできる。
【0058】
図7は、回転装置250の動作処理を説明するための説明図である。図7(a)に示すように、照射領域Rの手前の位置S1にトレー106が位置したとき、挟持部254は位置S1にある包装後被照射物Wを挟持する。そして、回転装置250は、照射部コンベア120bにより包装後被照射物W(トレー106)の搬送とともに移動し、包装後被照射物Wが照射領域Rに到達する。そうすると図7(b)に示すように、照射領域Rの位置S2にトレー106が位置したとき、回転モータ256は挟持部254を回転させることにより、包装後被照射物Wを、例えば、1.5秒間回転させる。
【0059】
そして、図7(c)に示すように、回転装置250は、照射部コンベア120bによる包装後被照射物W(トレー106)の搬送とともに移動し、照射領域Rから遠ざかった位置に到達する。そうすると、位置S3にトレー106が位置したとき、挟持部254は、包装後被照射物Wの挟持を解除し、図7(d)に示すように、回転装置250は、位置S1に戻る。回転装置250による照射部コンベア120bの搬送方向の移動時間、すなわち、位置S1から位置S2、S3を経由して再び位置S1に戻るまでの時間は、例えば、5秒程度である。
【0060】
以上説明したように、本実施形態にかかる電子線照射システム100および電子線照射装置200によれば、被照射物Wの側面部WSを満遍なく滅菌するとともに、被照射物Wの両端面における一方の面(底面部WDまたは上面部WU)を確実に滅菌することが可能となる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば、上述した実施形態では、回転装置250の挟持部254は、包装後被照射物Wにおける包装体を挟持しているが、回転軸方向における被照射物Wの上面部および底面部を直接挟持してもよい。
【0063】
また、上述した実施形態では回転装置250は傾斜部252を含んで構成されるが、電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて被照射物Wを回転させることができればよい。例えば、傾斜部252を設けず、挟持部254が被照射物Wを挟持した後に、被照射物Wを傾斜させてもよい。
【0064】
さらに、上述した実施形態では、照射部コンベア120bのすべてに傾斜部252が併設されているが、少なくとも照射領域Rのみ傾斜部252を設けることもできる。
【0065】
また、上述した実施形態で、傾斜部252は、電子線の照射方向と、包装後被照射物Wの搬送方向とに直交する方向に包装後被照射物Wを傾斜させているが、電子線の照射方向に対して90度未満の角度に傾斜させればよい。例えば、傾斜部252は、搬送方向と平行な方向であって電子線の照射方向に対して90度未満の角度に被照射物Wを傾斜させてもよい。
【0066】
また、上述した実施形態では、挟持部254は、包装後被照射物Wの両端をそれぞれ挟持するが、例えば、挟持部254を、1組の棒で構成しておき、回転軸方向から被照射物Wの両端を1組の棒で挟み込むことで挟持してもよい。
【0067】
さらに、上述した実施形態では、円筒形状の被照射物Wを例に挙げて説明したが、円筒形状でなくてもよい。また長軸を有しない形状、例えば、正立方体等の被照射物Wでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置および電子線照射システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
A …収容空間
CF …接触面
Q …回転軸
R …照射領域
W …被照射物
100 …電子線照射システム
110 …第1搬送装置
120 …第2搬送装置
120a …第1コンベア
120b …照射部コンベア
200 …電子線照射装置
250 …回転装置
252 …傾斜部
254 …挟持部
256 …回転モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射物に電子線を照射する電子線照射部と、
前記電子線照射部によって前記被照射物に電子線が照射される領域である照射領域において、前記電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて前記被照射物を回転させる回転装置と、
を備えたことを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記回転装置は、
対向配置される上面部および底面部と、当該上面部と底面部とを結ぶ側面部と、を有する前記被照射物を回転可能であって、前記上面部および底面部のいずれか一方を前記電子線照射部に臨ませるとともに、前記被照射物を回転させる過程で前記側面部の全面を前記電子線照射部に臨ませることを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記回転装置は、前記回転軸方向における前記被照射物の上面部および底面部を挟持する挟持部を含んで構成されることを特徴とする請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記被照射物は、該被照射物を包装する包装体で覆われており、
前記回転装置は、前記包装体を挟持する挟持部を含んで構成され、
前記挟持部は、前記包装体の、前記回転軸方向における前記被照射物の上面部に対向する部分と、前記包装体の、前記回転軸方向における前記被照射物の底面部に対向する部分を挟持することを特徴とする請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
被照射物を載置面上に載置して搬送する搬送装置と、
前記搬送装置によって搬送される前記被照射物に電子線を照射する電子線照射部を有した電子線照射装置と、
を備えた電子線照射システムであって、
前記搬送装置は、
前記被照射物の任意の面を第1載面に接触させて搬送する第1搬送装置と、
前記第1搬送装置で搬送された前記被照射物を傾倒して、当該第1搬送装置の第1載置面に接触した任意の面である接触面を非接触状態に維持して、前記電子線照射部によって前記被照射物に電子線が照射される領域である照射領域に搬送する第2搬送装置と、
を備え、
前記電子線照射装置は、
前記照射領域において、前記第1載置面に接触した任意の面である接触面を前記電子線照射部に臨ませるとともに、前記電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて回転させる回転装置を備えたことを特徴とする電子線照射システム。
【請求項6】
前記第2搬送装置が設置される部屋は、前記第1搬送装置が設置される部屋よりも相対的に無菌性保証レベルが高い部屋であり、
前記回転装置は、前記第2搬送装置が設置される部屋で、前記第1載置面に接触した任意の面である接触面を前記電子線照射部に臨ませるとともに、前記電子線の照射方向に対して90度未満の角度で回転軸を交差させて回転させることを特徴とする請求項5に記載の電子線照射システム。
【請求項7】
前記第2搬送装置は、
前記被照射物を載置するトレーを搬送可能に構成され、
前記第1搬送装置で搬送された前記被照射物を傾倒して、前記第1載置面に接触した任意の面である接触面を、前記トレーにおける被照射物の載置面に対して非接触状態に維持して、前記トレーに載置された前記被照射物を前記照射領域に搬送することを特徴とする請求項5または6に記載の電子線照射システム。
【請求項8】
前記第1搬送装置で搬送された後、前記第2搬送装置で搬送される前に、前記被照射物の外面を包装体で包装する包装装置を備えたことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の電子線照射システム。
【請求項9】
前記第1搬送装置は、
対向配置される上面部および底面部と、当該上面部と底面部とを結ぶ側面部と、を有する前記被照射物の、前記上面部または底面部を第1載置面に接触させて搬送し、
前記回転装置は、前記上面部および底面部のいずれか一方のうち、前記第1載置面に接触した面を前記電子線照射部に臨ませるとともに、前記被照射物を回転させる過程で前記側面部の全面を前記電子線照射部に臨ませることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の電子線照射システム。
【請求項10】
前記回転装置は、前記回転軸方向における前記被照射物の上面部および底面部を挟持する挟持部を含んで構成されることを特徴とする請求項9に記載の電子線照射システム。
【請求項11】
前記被照射物は、該被照射物を包装する包装体で覆われており、
前記回転装置は、前記包装体を挟持する挟持部を含んで構成され、
前記挟持部は、前記包装体の、前記回転軸方向における前記被照射物の上面部に対向する部分と、前記包装体の、前記回転軸方向における前記被照射物の底面部に対向する部分を挟持することを特徴とする請求項9に記載の電子線照射システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate