説明

電子線照射装置および電子線照射装置のドリフト管

【課題】長期の運転によってもビーム電流の検知に異常が生じることのない電子線照射装置、および、電子線照射装置のドリフト管を提供する。
【解決手段】電子銃から放出された電子を加速する加速器と、当該加速器で加速された電子を放出する電子線取出部との間に接続可能であって、加速器から電子線取出部へ向けて放出される電子が内部空間に入射する電子線照射装置のドリフト管は、本体10の加速器側と電子線取出部側とを絶縁する絶縁部材40と、絶縁部材よりも加速器側に固定され、絶縁部材40の内周面を被覆する第1遮蔽部材70と、絶縁部材40よりも電子線取出部側に固定され、絶縁部材40の内周面を被覆する第2遮蔽部材71と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置、および、電子線照射装置に接続可能であって、加速された電子のビーム電流を検出可能とするドリフト管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具や食品等の滅菌、樹脂の架橋や硬化、悪性腫瘍等の病巣の除去等、様々な分野で利用されている電子線照射装置が知られている。こうした電子線照射装置は、電子銃に設けられたカソード電極を高温に熱して加速器に電子を放出し、その電子を加速器で加速した後に、スキャンホーンで走査して被照射物に照射するものである。
【0003】
上記のような電子線照射装置においては、特許文献1に示されるように、ビーム電流計測装置が設けられている。こうしたビーム電流計測装置は、加速器とスキャンホーンとを接続する真空管(ドリフト管)の周囲に配置される変流器と、この変流器で生じた電荷量の変化を出力電圧として取り出すとともに、取り出した出力電圧を電流換算する演算部と、を備えている。このように、電流換算されたモニター値は、異常検知や電子線線量のフィードバック制御に用いられている。
【0004】
そして、変流器が配置される真空管(ドリフト管)は、加速器およびスキャンホーンに対して絶縁性を有しており、例えば、変流器が配置される真空管の部位が、碍子等の絶縁部材によって構成されている。このように、変流器が配置される部位に碍子等の絶縁部材を用いることで、鏡像電荷の発生を防いで、ビーム電流を正確に計測することができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−318198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の加速器で加速された電子は、そのほとんどが加速器からスキャンホーンへと一直線に放出されるものの、電子の一部が真空管の径方向に広がって放出されることがある。このようにして広がった電子は、碍子等の絶縁部材に衝突して、当該絶縁部材にそのまま帯電するとともに、電子線照射装置の長期の運転によって多量の電荷で絶縁部材が帯電した後に、一気に放電するおそれがある。このようにして、多量の電荷によって放電が発生すると、モニター値が急激に変化してしまい、異常検知がなされたり、あるいは、フィードバック制御によって予期しない制御がなされたりするおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、長期の運転によってもビーム電流の検知に異常を生じにくくすることができる電子線照射装置、および、電子線照射装置のドリフト管を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の電子線照射装置は、電子を放出する電子銃と、前記電子銃から放出された電子を加速する加速器と、前記加速器に一端が接続され、前記加速器で加速された電子が内部空間を通過可能なドリフト管と、前記ドリフト管の他端に接続され、前記ドリフト管を通過した電子が入射されるとともに、当該入射された電子を外部に放出する電子線取出部と、を備えた電子線照射装置であって、前記ドリフト管は、前記内部空間に電子を入射させる入射口を有する導電性の本体と、前記本体に設けられ、前記加速器に接続される一端側と前記電子線取出部に接続される他端側とを絶縁する絶縁部と、前記絶縁部よりも前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか一方に固定され、前記絶縁部および前記入射口を結んで描かれるいずれかの仮想線分に一部または全部が交わるように配置される導電性の遮蔽部材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記遮蔽部材は、前記本体における前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか一方に基端が固定され、先端が前記本体における前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか他方に向けて延伸する円筒状の部材で構成するとよい。
【0010】
また、前記円筒状の遮蔽部材は、前記絶縁部よりも前記本体における前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか他方に先端が突出しているとよい。
【0011】
また、前記遮蔽部材は、前記絶縁部よりも先端側に、前記内部空間の径方向外方に広がる遮蔽突部を備えるとよい。
【0012】
また、前記遮蔽部材は、前記本体における前記加速器に接続される一端側に固定される第1遮蔽部材と、前記本体における前記電子線取出部に接続される他端側に固定される第2遮蔽部材と、を備え、前記第1遮蔽部材および第2遮蔽部材は、当該両遮蔽部材の一部が前記内部空間の径方向に離間して対向するとよい。
【0013】
また、前記第1遮蔽部材は、前記本体における前記加速器に接続される一端側に基端が固定され、先端が前記電子線取出部に接続される他端側に向けて延伸する円筒状の部材で構成され、前記第2遮蔽部材は、前記本体における前記電子線取出部に接続される他端側に基端が固定され、先端が前記加速器に接続される一端側に向けて延伸するとともに、前記第1遮蔽部材と径を異にする円筒状の部材で構成されるとよい。
【0014】
本発明の電子線照射装置のドリフト管は、電子銃から放出された電子を加速する加速器に一端が接続され、前記加速器で加速された電子を放出する電子線取出部に他端が接続されるとともに、前記加速器で加速された電子が内部空間を通過可能な電子線照射装置のドリフト管であって、前記内部空間に電子を入射させる入射口を有する導電性の本体と、前記本体に設けられ、当該本体における前記加速器に接続される一端側と前記電子線取出部に接続される他端側とを絶縁する絶縁部と、前記本体における前記絶縁部よりも前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか一方に固定され、前記絶縁部および前記入射口を結んで描かれるいずれかの仮想線分に一部または全部が交わるように配置される導電性の遮蔽部材と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長期の運転によってもビーム電流の検知に異常が生じることなく、ビーム電流の正確な検知を持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電子線照射装置の外観斜視図である。
【図2】図1におけるY方向から電子線照射装置を見た図である。
【図3】加速器の構成を説明するための説明図である。
【図4】ドリフト管の概略断面図である。
【図5】ドリフト管の第1変形例を示す概略断面図である。
【図6】ドリフト管の第2変形例を示す概略断面図である。
【図7】適用可能な遮蔽部材の形状および範囲を説明するための図である。
【図8】遮蔽部材の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(電子線照射装置100)
図1は、電子線照射装置100の外観斜視図であり、図2は、図1におけるY方向から電子線照射装置100を見た図である。なお、図1では、理解を容易にするために電子線照射装置100を支持する支持機構を省略している。
【0019】
図1および図2に示すように、電子線照射装置100は、電子銃110と、高周波電源112と、導波管114と、プリバンチャ116と、加速器118と、ドリフト管120と、ビーム電流検出部122と、スキャンホーン124とを備えて構成されている。なお、電子銃110、プリバンチャ116、加速器118、ドリフト管120、ビーム電流検出部122、スキャンホーン124は、内部空間(真空室)が連続しており、この内部空間は、イオンポンプ等の真空ポンプ102で高真空状態から超高真空状態(例えば、10E−5Pa以下)に維持される。電子線照射装置100において、電子銃110から放出された電子は、プリバンチャ116、加速器118で加速され、ドリフト管120およびスキャンホーン124を通過して、搬送帯200によって搬送される被照射物Wに向かって、図1中Z方向に照射される。以下、電子線照射装置100の各機能部について詳述する。
【0020】
(電子銃110)
電子銃110は、例えば、三極管電子銃で構成され、交流電源104から供給された電力により、カソード電極を加熱して熱電子(電子)を生成し、グリッドパルス電圧によって間欠的に電子を引き出すとともに、カソード電極とアノード電極との間に高電圧のパルス電圧を印加して、引き出した電子をプリバンチャ116方向に加速する。
【0021】
(高周波電源112)
高周波電源112は、クライストロン等で構成される高周波増幅器112aと、高周波増幅器112aに電力を供給する高周波電源(電力供給部)112bと、パルストランス112cとを含んで構成され、導波管114を通じてプリバンチャ116および加速器118に、例えばSバンドに相当する3GHzのパルス状の高周波電力を供給する。
【0022】
(導波管114)
導波管114は、高周波電源112から供給される高周波の電圧を加速器118に供給する。導波管114には、六フッ化硫黄(SF)等の絶縁ガスが充填されており、高周波電源112から出力された電圧によって導波管114が放電してしまう事態を回避する。なお導波管114の端部には、SFと真空とを隔て、SFを密閉するためのRF窓114a、114bが設けられている。
【0023】
(プリバンチャ116)
プリバンチャ116は、電子銃110と加速器118の間に設けられ、導波管114を通じて高周波電源112に接続されている。プリバンチャ116は、電子銃110から入射された電子をバンチング(密度圧縮(速度変調))して、加速器118に送出する。具体的に説明すると、プリバンチャ116内は、高周波電源112から供給された高周波の電力によって高周波電界が形成されており、プリバンチャ116を通過した電子は、その高周波電界にバンチングされる。プリバンチャ116で電子をバンチングすることにより、加速器118で加速された電子のエネルギーの分散を小さくすることができ、電子のエネルギーの均一性を向上させることが可能となる。
【0024】
ここで、プリバンチャ116によって圧縮された電子の加速器118への入射タイミングが加速器118における高周波の正位相と同期すると、電子は加速器118で効率よく加速される。したがって、プリバンチャ116から加速器118への電子の入射タイミングを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の位相調整手段が設けられている。なお、電子の圧縮率(バンチングされた電子の長さ/バンチング前の電子の長さ)も加速器118による加速効率に影響し、電子の長さが短い程、加速効率が向上する。したがって、供給する高周波の強度を調整して電子の長さを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の減衰(アッテネータ)手段が設けられている。
【0025】
(加速器118)
図3は、加速器118の構成を説明するための説明図である。本実施形態では、加速器118として、定在波型の線形(リニアック)加速器を採用しているが、電子を加速できればよく、進行波型の線形加速器や、シンクロトロン、サイクロトロン等の円形加速器を採用することもできる。
【0026】
図3に示すように、電子銃110は、図3中、黒い塗りつぶしで示すように、電子をZ方向に伸長した状態でプリバンチャ116の内部空間に放出する。そして、プリバンチャ116によるバンチング機能により、電子は、Z方向に圧縮されて加速器118に入射される。
【0027】
ここで、加速器118は、内部に複数の加速空間130(図3中、130a〜130cで示す)を有している。図3では理解を容易にするために、加速空間130を3として簡略化して説明するが、本実施形態の加速器118は30程度の加速空間130を有する。なお、加速空間130の距離L(加速空間130における電子の進行方向(図3中Z方向)の距離)は、電子銃110から所定数までが、電子銃110から遠ざかるに従って徐々に長くなるように構成され、所定の加速空間130以降は、その距離Lが、所定の長さ(一定)に維持されるように構成される。
【0028】
高周波電源112から加速器118に高周波の電圧(例えば、3GHz)が供給されると、図3(a)に示すように、複数の加速空間130が空間共振器として機能し、空間共振器内において時間に伴って変化する電界が生じる。そして、このような時間に伴って変化する電界を通じて時限的に電子を加速する。
【0029】
具体的に説明すると、加速器118の加速空間130は、高周波電源112から導入される高周波の電圧によって、例えば、図3(a)および図3(b)に示すように、Z方向に隣接する加速空間130に交互に正位相(進行方向に正(+)の空間電荷)と負位相(進行方向に負(−)の空間電荷)とが生じる。プリバンチャ116から放出された負の電荷を帯びている電子は、図3(a)に示すように、時刻t0に加速空間130aに位置し、正(+)の空間電荷によってZ方向に加速される。そして、図3(b)に示すように、時刻t1において、隣接する加速空間130bに位置し、同様に正(+)の空間電荷によってZ方向に加速される。このように電子の移動タイミングに、正(+)の空間電荷と負(−)の空間電荷との切換タイミングを同期させることで、電子は加速器118内で徐々に加速され、最終的には、例えば10MeV程度まで加速される。
【0030】
(ドリフト管120)
ドリフト管120は、内部空間が接続管119を介して加速器118に連通し、当該加速器118で加速された電子が内部空間を通過する円筒状の管体で構成される。ドリフト管120の構成については、後で詳しく説明するが、このドリフト管120の外周には、内部空間を通過する電子のビーム電流を検出するビーム電流検出部122が配置される。
【0031】
(ビーム電流検出部122)
ビーム電流検出部122は、ドリフト管120を取り囲む環状の鉄心に二次コイルが巻き回された周知の変流器で構成される。そして、ドリフト管120内を電子が通過した際に生じる電荷量の変化を出力電圧として取り出し、これを電流換算して電子によるビーム電流をモニターするようになっている。
【0032】
(スキャンホーン124)
スキャンホーン124(電子線取出部)は、内部空間がドリフト管120と連通しており、ドリフト管120との接続部近傍に設けられたスキャン電磁石124aと、ドリフト管120と連結する端部と対向する端部に設けられた電子線取出部124bとを含んで構成される(図1、図2参照)。
【0033】
スキャン電磁石124aは、ドリフト管120から入射された電子を水平方向(図1中X方向)に走査(スキャン)する。電子の進行方向は大凡鉛直方向(図1中Z方向)であるため、スキャン電磁石124aが鉛直方向に進行する電子を水平面内の一方向(X方向)に走査することにより、電子の進行方向が走査されることとなる。また、電子線取出部124bは、例えば、50μm程度の厚みのTi箔で構成され、内部空間と大気とを隔てつつ、加速された電子を大気中に通過させる。
【0034】
(搬送帯200)
搬送帯200は、被照射物WをY方向に搬送するコンベアと、コンベアを移動自在に支持する支持体とを含んで構成される。コンベアによって被照射物Wが照射領域を通過している間に、スキャンホーン124のスキャン電磁石124aによってコンベアの幅方向(X方向)に電子が走査されると、被照射物に満遍なく電子が照射される。
【0035】
上記のように、電子銃110で放出された電子は、加速器118で加速されて、被照射物Wに照射されることとなる。
【0036】
図4は、本実施形態のドリフト管120の概略断面図である。この図に示すように、ドリフト管120は、上記の加速器118(接続管119)およびスキャンホーン124に連通する内部空間xが形成される円筒状の本体10によって構成されている。この本体10は、接続管119の内部空間に連通する入射口10aを備えており、加速器118で加速された電子が入射口10aから内部空間xに入射される。また、本体10は、スキャンホーン124の内部空間に連通する放出口10bを備えており、内部空間xを通過した電子が、放出口10bからスキャンホーン124に放出される。本体10は、全体的には導電性を有しているが、その一部に絶縁部が設けられており、加速器118側とスキャンホーン124側とが絶縁されている。以下に、ドリフト管120の具体的な構成について詳細に説明する。
【0037】
本体10は、第1スリーブ20、第2スリーブ30、絶縁部材40(絶縁部)、第1フランジ部50、第2フランジ部60を備えて構成される。第1スリーブ20および第2スリーブ30は、いずれも同一の部材であって、鉄、ステンレス等の合金等の導電性を有する材質からなり、内部空間xを形成する円筒状の部材で構成されている。ここでは、第1スリーブ20が加速器118側(接続管119側)に位置し、第2スリーブ30がスキャンホーン124側に位置している。
【0038】
そして、第1スリーブ20の端部と、第2スリーブ30の端部との間には、環状の絶縁部材40が設けられている。この絶縁部材40は、セラミック等の非導電性の材質からなり、両スリーブ20、30の端部にロウ付けによって固定されている。より詳細には、第1スリーブ20におけるスキャンホーン124側の端面と、第2スリーブ30における加速器118側の端面とが対向配置され、これら両端部に絶縁部材40がロウ付けされている。これにより、第1スリーブ20と第2スリーブ30とが絶縁状態を維持して連結されることとなる。換言すれば、本体部10は、加速器118側とスキャンホーン124側とが、絶縁部材40によって絶縁されることとなり、この絶縁部材40の外周囲に上記のビーム電流検出部122が配置されることとなる。
【0039】
また、第1スリーブ20には、加速器118(接続管119)側の端部(絶縁部材40が固定される端部とは反対側の端部)に、第1フランジ部50が設けられている。この第1フランジ部50は、第1スリーブ20の端部外周に嵌合する環状の内フランジ51と、この内フランジ51よりも大径であって、当該内フランジ51の径方向外方に位置する外フランジ52と、を備えている。
【0040】
内フランジ51は、ステンレス等の導電性の材質からなる環状の本体部51aを備えており、この本体部51aの内周面51bに、第1スリーブ20の端部外周面が溶接されている。より具体的には、内フランジ51は、本体部51aの内周面51bよりも、その径方向内方に環状に突出する突出環状部51cを備えており、この突出環状部51cと内周面51bとが直角に屈曲する部分に、第1スリーブ20の端部が溶接によって固定されている。なお、接続管119との当接面には、ガスケット53が嵌め込まれる切り欠き溝51dが形成されている。
【0041】
外フランジ52は、ステンレス等の導電性の材質からなる環状の本体部52aを備えており、この本体部52aの内周面52bが、内フランジ51の本体部51aの外周面に密着し、内周面52bよりもその径方向内方に突出する突出内周面52cが、第1スリーブ20の外周面に密着する寸法関係を維持している。そして、本体部52aには、ドリフト管120と接続管119との接続方向に貫通する貫通孔52dが複数設けられている。この貫通孔52dは、接続管119とドリフト管120とを不図示のボルト等で連結するためのものであり、本体部52aの周方向に等間隔で配置されている。なお、ドリフト管120の取り付け容易性を考慮し、外フランジ52は、第1スリーブ20および内フランジ51に対して相対回転可能に構成されている。
【0042】
一方、第2スリーブ30には、スキャンホーン124側の端部(絶縁部材40が固定される端部とは反対側の端部)に、第2フランジ部60が設けられている。この第2フランジ部60は、ステンレス等の導電性の材質からなる環状の本体部60aを備えており、この本体部60aの内周面60bに、第2スリーブ30の端部外周面が溶接されている。より具体的には、本体部60aは、内周面60bよりも、その径方向内方に環状に突出する突出環状部60cを備えており、この突出環状部60cと内周面60bとが直角に屈曲する部分に、第2スリーブ30の端部が溶接によって固定されている。なお、この第2フランジ部60の突出環状部60cは、第1フランジ部50(内フランジ51)の突出環状部51cよりも内径が大きくなっている。
【0043】
また、本体60aには、スキャンホーン124との当接面に、ガスケット53が嵌め込まれる切り欠き溝60dが形成されている。また、本体部60aには、ドリフト管120とスキャンホーン124との接続方向に貫通する貫通孔60eが複数設けられている。この貫通孔60eは、ドリフト管120とスキャンホーン124とを不図示のボルト等で連結するためのものであり、本体部60aの周方向に等間隔で配置されている。
【0044】
そして、ドリフト管120には、絶縁部材40への電子の衝突を防止する遮蔽部材として、第1遮蔽部材70および第2遮蔽部材71が設けられている。第1遮蔽部材70および第2遮蔽部材71は、いずれもステンレス等の導電性を有する材質からなる円筒状の管体によって構成されている。
【0045】
第1遮蔽部材70は、ドリフト管120の本体10において、加速器118(接続管119)側に固定されている。より詳細には、第1遮蔽部材70は、第1スリーブ20、第2スリーブ30および絶縁部材40の内径よりも小さく、かつ、内フランジ51の突出環状部51cの内径とほぼ等しい外径を有している。そして、本体10内において、第1遮蔽部材70のうち、加速器118側に位置する基端部70a近傍の外周面が、突出環状部51cの内周面に溶接によって固定され、内フランジ51の本体部51aと電気的に接続されている。
【0046】
このように、第1遮蔽部材70は、基端部70aが内フランジ51の突出環状部51cに固定され、当該基端部70aからスキャンホーン124側に向けて延伸することとなるが、このとき、第1遮蔽部材70は、スキャンホーン124側に位置する先端部70bが、絶縁部材40の内周面に対向して位置する寸法関係を維持している。
【0047】
また、第2遮蔽部材71は、ドリフト管120の本体10において、スキャンホーン124側に固定されている。より詳細には、第2遮蔽部材71は、第1スリーブ20、第2スリーブ30および絶縁部材40の内径よりも小さく、かつ、第2フランジ部60の突出環状部60cの内径とほぼ等しい外径を有している。そして、本体10内において、第2遮蔽部材71のうち、スキャンホーン124側に位置する基端部71a近傍の外周面が、突出環状部60cの内周面に溶接によって固定され、第2フランジ部60の本体部60aと電気的に接続されている。なお、図示のように、第2遮蔽部材71は、第1遮蔽部材70よりも大径に構成されている。
【0048】
上記のように、第2遮蔽部材71は、基端部71aが第2フランジ部60の突出環状部60cに固定され、当該基端部71aから加速器118側に向けて延伸することとなるが、このとき、第2遮蔽部材71は、加速器118側に位置する先端部71bが、絶縁部材40の内周面に対向して位置する寸法関係を維持している。
【0049】
そして、両遮蔽部材70、71が本体10に固定された状態では、両遮蔽部材70、71の一部、より詳細には、第1遮蔽部材70の先端部70b近傍と、第2遮蔽部材71の先端部71b近傍とが、内部空間xの径方向に離間して(非接触状態で)対向配置されている。これにより、絶縁部材40は、内部空間xの中心側、すなわち、加速器118からスキャンホーン124に向けてドリフト管120内を通過する電子の通過経路から完全に遮蔽されることとなる。
【0050】
上記のドリフト管120によれば、加速器118において十分に加速されなかった低エネルギーの電子等が、内部空間xの径方向に広がった場合に、その電子が、第1遮蔽部材70もしくは第2遮蔽部材71に衝突する。そして、第1遮蔽部材70に衝突した電子は、第1遮蔽部材70から第1フランジ部50を介してアースされ、第2遮蔽部材71に衝突した電子は、第2遮蔽部材71から第2フランジ部60を介してアースされる。したがって、電子によって、絶縁部材40をはじめとするドリフト管120が帯電することがなくなり、長期の運転によって滞留した電子が放電することもない。このように、ドリフト管120内での放電の可能性が低減されれば、異常検知がなされたり、予期せぬフィードバック制御がなされたりするおそれを低減することができる。
【0051】
なお、上記実施形態のドリフト管120の構成、特には、絶縁部材40への電子の衝突を防ぐための第1遮蔽部材70および第2遮蔽部材71の構成は一例に過ぎない。例えば、図5に示す第1変形例のように、絶縁部材40への電子の衝突を防ぐ遮蔽部材75を1つのみ設けてもよい。この遮蔽部材75は、基端部75aが本体10の加速器118側に固定されており、先端部75bが絶縁部材40を超えてスキャンホーン124側に突出している。このとき、基端部75aから先端部75bまでの距離が長くなるほど、電子によって絶縁部材40が帯電する可能性を低減することができる。
【0052】
また、遮蔽部材を1つのみ設ける場合には、図6に示す第2変形例の遮蔽部材76のようにすれば、絶縁部材40が電子によって帯電する可能性をより低減することができる。この第2変形例の遮蔽部材76は、基端部76aが本体10の加速器118側に固定されており、先端部76bが絶縁部材40を超えてスキャンホーン124側に突出している。そして、先端部76bには、内部空間xの径方向外方(第2スリーブ30)に向けて広がる遮蔽突部76cが設けられている。このように、遮蔽突部76cを設けることにより、1つの遮蔽部材のみでも、絶縁部材40に電子が衝突する可能性を低減することができる。
【0053】
なお、遮蔽部材を1つのみ設ける場合において、遮蔽部材は、絶縁部材40よりも加速器118側に固定し(アースさせ)てもよいし、スキャンホーン124側に固定し(アースさせ)てもよい。したがって、上記の第1変形例の遮蔽部材75および第2変形例の遮蔽部材76は、絶縁部材40よりもスキャンホーン124側に固定しても構わない。
【0054】
また、上記の各遮蔽部材は、基端部から先端部までが同一径の円筒状部材で構成されているが、遮蔽部材は必ずしも同一径である必要はなく、また、その形状も円筒状に限られるものではない。
【0055】
図7は、適用可能な遮蔽部材の形状および範囲を説明するための図であり、図8は、遮蔽部材の他の例を説明する図である。図7は、上記実施形態と同様のドリフト管120を示しているが、この図において、破線は、絶縁部材40と入射口10aとを結んで描かれる仮想線分のうち、代表的な線分を示しており、図中網掛け部分は、いずれかの仮想線分が通過し得る領域を示している。つまり、図中、網掛け部分は、入射口10aから内部空間xに入射された電子が、直線的に移動して絶縁部材40に衝突する場合の、当該電子の通過領域を示すこととなる。
【0056】
絶縁部材40に衝突する電子の全てが直線的に移動するわけではないが、遮蔽部材は、少なくともその一部が、上記の網掛け部分、すなわち、絶縁部材40と入射口10aとを結んで描かれるいずれかの仮想線分に交わるような形状、配置であれば、従来に比して、絶縁部材40に電子が帯電するおそれを低減することが可能である。したがって、遮蔽部材は、図8において一点鎖線で示す形状、配置としても、従来に比して、絶縁部材40が電子によって帯電するおそれを低減することができる。
【0057】
なお、上記実施形態では、ドリフト管120が接続管119を介して加速器118に接続されることとしたが、ドリフト管120は、加速器118に直接接続されるものであってもよい。また、上記実施形態では、ドリフト管120がスキャンホーン124に直接接続されることとしたが、ドリフト管120とスキャンホーン124とが接続管を介して接続されるものであってもよい。
【0058】
この場合、遮蔽部材は、必ずしも加速器118(入射口10a)側に固定されている必要はなく、スキャンホーン124側に固定されてもよい。いずれにしても、遮蔽部材は、絶縁部材40よりも加速器118側およびスキャンホーン124側のいずれか一方に固定され、他方側に対しては絶縁状態を維持するものであって、絶縁部材40および入射口10aを結んで描かれるいずれかの仮想線分に一部または全部が交わるものであれば、その形状、配置等は特に限定されるものではない。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置および電子線照射装置のドリフト管に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10…本体
10a…入射口
40…絶縁部材
70…第1遮蔽部材
71…第2遮蔽部材
75、76…遮蔽部材
76c…遮蔽突部
100…電子線照射装置
110…電子銃
118…加速器
120…ドリフト管
122…ビーム電流検出部
124…スキャンホーン
x…内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する電子銃と、
前記電子銃から放出された電子を加速する加速器と、
前記加速器に一端が接続され、前記加速器で加速された電子が内部空間を通過可能なドリフト管と、
前記ドリフト管の他端に接続され、前記ドリフト管を通過した電子が入射されるとともに、当該入射された電子を外部に放出する電子線取出部と、を備えた電子線照射装置であって、
前記ドリフト管は、
前記内部空間に電子を入射させる入射口を有する導電性の本体と、
前記本体に設けられ、前記加速器に接続される一端側と前記電子線取出部に接続される他端側とを絶縁する絶縁部と、
前記絶縁部よりも前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか一方に固定され、前記絶縁部および前記入射口を結んで描かれるいずれかの仮想線分に一部または全部が交わるように配置される導電性の遮蔽部材と、を備えたことを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、
前記本体における前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか一方に基端が固定され、先端が前記本体における前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか他方に向けて延伸する円筒状の部材で構成されていることを特徴とする請求項1記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記円筒状の遮蔽部材は、
前記絶縁部よりも前記本体における前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか他方に先端が突出していることを特徴とする請求項2記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材は、
前記絶縁部よりも先端側に、前記内部空間の径方向外方に広がる遮蔽突部を備えていることを特徴とする請求項3記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記遮蔽部材は、
前記本体における前記加速器に接続される一端側に固定される第1遮蔽部材と、
前記本体における前記電子線取出部に接続される他端側に固定される第2遮蔽部材と、を備え、
前記第1遮蔽部材および第2遮蔽部材は、
当該両遮蔽部材の一部が前記内部空間の径方向に離間して対向することを特徴とする請求項1または2記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記第1遮蔽部材は、
前記本体における前記加速器に接続される一端側に基端が固定され、先端が前記電子線取出部に接続される他端側に向けて延伸する円筒状の部材で構成され、
前記第2遮蔽部材は、
前記本体における前記電子線取出部に接続される他端側に基端が固定され、先端が前記加速器に接続される一端側に向けて延伸するとともに、前記第1遮蔽部材と径を異にする円筒状の部材で構成されていることを特徴とする請求項5記載の電子線照射装置。
【請求項7】
電子銃から放出された電子を加速する加速器に一端が接続され、前記加速器で加速された電子を放出する電子線取出部に他端が接続されるとともに、前記加速器で加速された電子が内部空間を通過可能な電子線照射装置のドリフト管であって、
前記内部空間に電子を入射させる入射口を有する導電性の本体と、
前記本体に設けられ、当該本体における前記加速器に接続される一端側と前記電子線取出部に接続される他端側とを絶縁する絶縁部と、
前記本体における前記絶縁部よりも前記加速器に接続される一端側および前記電子線取出部に接続される他端側のいずれか一方に固定され、前記絶縁部および前記入射口を結んで描かれるいずれかの仮想線分に一部または全部が交わるように配置される導電性の遮蔽部材と、を備えたことを特徴とする電子線照射装置のドリフト管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−44603(P2013−44603A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181746(P2011−181746)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】