説明

電子線照射装置

【課題】照射領域に導入する気体を工夫することで、効率的にオゾンを発生させることができるとともに、電子線照射装置や遮蔽壁の腐食を防止する。
【解決手段】電子線照射装置100は、熱電子を放出する電子銃110と、真空状態に維持される真空室内で電子銃110から放出された熱電子を加速する加速器118と、加速器118が加速した熱電子を電子線として大気圧雰囲気に取り出すスキャンホーン120と、大気圧雰囲気に取り出された電子線が被照射物Wに照射される領域である照射領域Rに酸素を導入する酸素導入装置300とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療器具や食品等の滅菌、樹脂の架橋や硬化、悪性腫瘍等の病巣の除去等、様々な分野で利用されている電子線照射装置(例えば、特許文献1、2)が知られている。このような電子線照射装置は、カソード電極と加速器を備えており、カソード電極に電力を供給することでカソード電極から電子線を放出し、その電子線を加速器で加速して被照射物に照射する。
【0003】
被照射物に電子線が照射される照射領域においては、電子線が照射領域に存在する空気中の酸素(O)と反応して、オゾン(O)が生成される。オゾンは、酸化力が強いため、銅(Cu)や鉄(Fe)や樹脂を腐食する。したがって、電子線の衝突に基づいて発生する放射線の外部への漏洩を防止するための遮蔽壁が銅や鉄で形成されていたり、電子線照射装置へ被照射物を搬送する搬送装置が銅や鉄、樹脂で形成されている場合、これらを腐食してしまうおそれがあった。そこで、これらの銅や鉄、樹脂で形成された部材の腐食を防止するために、従来、照射領域の近傍に排気口を設けておき、電子線照射装置において生成されたオゾンを、排気口を通じて排気していた。
【0004】
ところで、オゾンには酸化力があるため、滅菌作用、脱臭作用、漂白作用等を有する。そこで、電子線照射装置や、遮蔽壁、搬送装置をステンレスやチタン等のオゾンによって腐食されにくい材質で形成しておき、電子線の照射による滅菌と併せて、照射領域で生成されたオゾンを排気せず、敢えて利用することでさらに滅菌する技術が開発されている。例えば、照射領域をエアカーテンで囲繞することで、空気中の酸素に基づいて生成されたオゾンをエアカーテン内(照射領域)に滞留させておく技術が開示されている(例えば、特許文献3)。特許文献3の技術では、照射領域を通過した被照射物は、電子線照射による滅菌とともに、オゾンによる滅菌もなされることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349998号公報
【特許文献2】特開2003−139898号公報
【特許文献3】特開2005−329140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3の技術を利用した場合、電子線は、酸素のみならず、空気中に含まれる窒素や水とも反応してしまい、その結果、硝酸塩やアンモニウム塩、硝酸アンモニウムといった窒化物が生成されてしまうことがある。そうすると、ステンレスやチタン等のオゾンでは腐食されにくい金属で形成された電子線照射装置や、遮蔽壁、搬送装置であっても、生成された窒化物によって腐食されてしまうおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、照射領域に導入する気体を工夫することで、効率的にオゾンを生成することができるとともに、電子線照射装置や遮蔽壁の腐食を防止することが可能な電子線照射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の電子線照射装置は、熱電子を放出する電子銃と、真空状態に維持される真空室内で電子銃から放出された熱電子を加速する加速器と、加速器が加速した熱電子を電子線として大気圧雰囲気に放出するスキャンホーンと、大気圧雰囲気に取り出された電子線が被照射物に照射される領域である照射領域に酸素を導入する酸素導入装置と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
照射領域を囲繞し、酸素導入装置から導入された酸素を当該照射領域に滞留させる滞留壁部を備えてもよい。
【0010】
照射領域に被照射物を搬送する搬送体を備え、滞留壁部は、搬送体の搬送方向に延伸して設けられ、照射領域とともに、搬送方向の上流および下流のいずれか一方または両方の搬送体を囲繞して滞留空間を形成してもよい。
【0011】
酸素導入装置は、照射領域に酸素を導入する導入部と、滞留壁部における、搬送方向の上流に配される上流端部および下流に配される下流端部のいずれか一方または両方から、滞留空間内に存在するオゾンを吸引する吸引部と、を含んで構成されてもよい。
【0012】
吸引部が吸引したオゾンを導入部に供給する循環部を備えてもよい。
【0013】
滞留壁部の上流端部および下流端部には開口部が設けられており、開口部には、酸素導入装置から導入された酸素の照射領域からの流出を低減するための拡散防止板が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、照射領域に導入する気体を工夫することで、効率的にオゾンを生成することができるとともに、電子線照射装置や遮蔽壁の腐食を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電子線照射装置の外観斜視図である。
【図2】図1におけるZ軸方向から電子線照射装置を見た図である。
【図3】図1におけるX軸方向から電子線照射装置を見た図である。
【図4】導入部から吸引部へ向かうガスの流れを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(電子線照射装置100)
図1は、電子線照射装置100の外観斜視図である。図2は、図1におけるZ軸方向から電子線照射装置100を見た図である。図3は、図1におけるX軸方向から電子線照射装置を見た図である。なお、図1では、理解を容易にするために電子線照射装置100を支持する支持機構を省略する。
【0018】
図1から図3に示すように、電子線照射装置100は、カソード電源104と、電子銃110と、高周波ユニット112と、導波管114と、プリバンチャ116と、加速器118と、スキャンホーン120と、オゾン滞留装置200とを備えて構成されている。なお、電子銃110、プリバンチャ116、加速器118、スキャンホーン120は、内部空間(真空室)が連続しており、この内部空間は、イオンポンプ等の真空ポンプ102で高真空状態から超高真空状態(例えば、10E−5Pa以下)に維持される。
【0019】
電子線照射装置100において、電子銃110から放出された熱電子は、プリバンチャ116、加速器118で加速され、スキャンホーン120を通過して、搬送装置10で搬送される被照射物Wに向かって図1中Y軸方向に照射される。なお、本実施形態において搬送装置10は、コンベア(搬送帯)等で構成される搬送体10aを含んで構成され、搬送体10a上に被照射物Wを載置した状態で被照射物Wを照射領域Rに搬送する。ここで10aは、ステンレス等のオゾンで腐食されにくい材質で形成されている。以下、電子線照射装置100の各機能部について詳述する。
【0020】
(電子銃110)
電子銃110は、例えば、三極管電子銃であり、カソード電源(交流電源)104から供給された電力によってカソード電極を加熱し、パルス状に印加された高電圧のグリッド電圧(引出電圧)により、電子線を放出する。
【0021】
(高周波ユニット112、導波管114)
高周波ユニット112は、クライストロン等で構成される高周波増幅器112aと、高周波増幅器112aに電力を供給する高周波電源(電力供給部)112bとを含んで構成され、導波管114を通じてプリバンチャ116および加速器118に、例えばSバンドに相当する3GHzのパルス状の高周波電力を供給する。導波管ユニット114は、セラミック等で構成されたRF窓114a、114bを通じて、高周波増幅器112aから増幅されて供給される高周波の電圧を加速器118に供給する。導波管114におけるRF窓114aとRF窓114bの間には、六フッ化硫黄(SF)等の絶縁ガスが充填されており、高周波増幅器112aで増幅されて出力された電圧によって導波管114が放電してしまう事態を回避する。なおRF窓114a、114bはSFと真空とを隔てる境界の役割を果たす。
【0022】
(プリバンチャ116)
プリバンチャ116は、電子銃110と加速器118の間に設けられ、導波管114を通じて高周波ユニット112に接続されている。プリバンチャ116は、電子銃110から入射された電子線をバンチング(密度圧縮(速度変調))して、加速器118に送出する。具体的に説明すると、プリバンチャ116内は、高周波増幅器112aから供給された高周波の電圧によって高周波電界が形成されており、プリバンチャ116を通過した電子線は、バンチングされて加速器118に入射する。プリバンチャ116で電子線をバンチングすることにより、加速器118で加速された電子線のエネルギーの分散を小さくすることができ、電子線のエネルギーの均一性を向上させることが可能となる。
【0023】
ここで、プリバンチャ116によって圧縮された電子線の加速器118への入射タイミングが、加速器118における高周波の正位相と同期したときのみ、電子線は加速器118で効率よく加速される。したがって、プリバンチャ116から加速器118への電子線の入射タイミングを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の位相調整手段が設けられている。また、電子線の圧縮率(バンチングされた電子線の長さ)も加速器118による加速効率に影響するため、すなわち、電子線の長さが短い程、加速効率が向上する。したがって、供給する高周波の強度を調整して電子線の長さを調整するために、プリバンチャ116の高周波導入部116aには、不図示の減衰(アッテネータ)手段が設けられている。
【0024】
(加速器118)
加速器118は、ステンレス(例えばSUS)等で形成され、内部に複数の加速空間を有して構成される。高周波増幅器112aから高周波の電圧(例えば、3GHz)が供給されると、加速器118の複数の加速空間が空間共振器として機能し、空間共振器内に時間的に変化する電界が生じる。そして、この時間的に変化する電界で、プリバンチャ116によって圧縮された電子線を加速する。
【0025】
ここで、電子線の速度と加速空間における正に帯電する(正位相になる)タイミングが同期するように、高周波増幅器112aから供給される電圧の周波数と、加速空間の距離が設計されているため、電子線は加速器118内で徐々に加速され、最終的には、例えば10MeV程度まで加速されて、スキャンホーン120に入射される。
【0026】
なお、ここでは、加速器118として、定在波型の線形(リニアック)加速器を採用しているが、電子を加速できればよく、進行波型の線形加速器や、シンクロトロン、サイクロトロン等の円形加速器を採用することもできる。
【0027】
(スキャンホーン120)
スキャンホーン120は、ステンレス(例えばSUS)等で形成され、その内部空間が加速器118と連結され、加速器118の出口付近に設けられたスキャン電磁石122と、加速器118と連結する端部と対向する端部に設けられた電子線取出部124とを含んで構成される。
【0028】
スキャン電磁石122は、加速器118から入射された電子線を水平方向(図1中X軸方向)に走査(スキャン)する。電子線の進行方向は鉛直方向(図1中Y軸方向)であるため、スキャン電磁石122が鉛直方向に進行する電子線を水平方向に走査することにより、水平方向に幅のある被照射物Wに確実に電子線を照射することができる。
【0029】
電子線取出部124は、例えば、50μm程度の厚みのチタン(Ti)箔で構成され、内部空間と、大気とを隔てる境界の役割を果たす。そして、電子線取出部124から大気雰囲気に放出された電子線は、被照射物Wに照射される。
【0030】
こうして、電子銃110で放出された電子線は、加速器118で加速されて、電子線取出部124を通じて、被照射物Wに照射される。
【0031】
ところで、被照射物Wに電子線が照射される照射領域Rにおいて、電子線が照射領域Rに存在する気体と反応して、元々の気体とは異なる物質が生成される。例えば、照射領域Rに空気が存在する場合、電子が空気中の酸素と反応してオゾンが生成され、空気中の窒素や酸素、水と反応して、硝酸塩やアンモニア塩、硝酸アンモニウム等の窒化物が生成される。
【0032】
電子線によって生成されたオゾンは、その酸化力により、強い滅菌作用、脱臭作用、漂白作用等を有する。そこで、オゾン滞留装置200は、照射領域Rにおいて、オゾンを滞留させることにより、電子線照射による滅菌と併せて、オゾンによる滅菌を被照射物Wに施す。
【0033】
一方、硝酸塩やアンモニウム塩、硝酸アンモニウム等の窒化物は、腐食性を有する。したがって、電子線照射装置100における、ステンレスやチタン等のオゾンでは腐食されにくい金属で形成された部材(例えばスキャンホーン120)や、オゾンでは腐食されにくい金属で形成された搬送装置10の部材を腐食してしまうおそれがある。そこで、オゾン滞留装置200は、照射領域Rにおいて、腐食性を有する物質の生成を抑制する。
【0034】
以下、照射領域Rに導入する気体を工夫することで効率的にオゾンを生成するとともに、腐食性を有する物質の生成を抑制するオゾン滞留装置200について説明する。
【0035】
(オゾン滞留装置200)
図1から図3に示すように、オゾン滞留装置200は、滞留壁部210と、拡散防止板212と、酸素導入装置300とを含んで構成される。
【0036】
滞留壁部210は、ステンレスやチタン等のオゾンでは腐食されにくい金属の板で形成されており、搬送体10aの搬送方向(図1、図3中、Z軸方向)に延伸して設けられる。また、滞留壁部210は、照射領域Rとともに、搬送方向の上流および下流の搬送体10aを囲繞して滞留空間Sを形成する。すなわち、滞留空間Sは、滞留壁部210および搬送体10aで囲まれた空間である。
【0037】
拡散防止板212は、ステンレスやチタン等のオゾンでは腐食されにくい金属で形成されており、滞留壁部210の上流端部210aに設けられた開口部220a、および下流端部210bに設けられた開口部220bを閉塞可能に設けられている。拡散防止板212は、後述する酸素導入装置300が照射領域Rに導入した酸素の滞留空間Sからの流出を低減する。
【0038】
なお、拡散防止板212は、その上部が、蝶番(ヒンジ)等で滞留壁部210に接続されており、蝶番を回転軸として搬送方向に開閉可能に設けられている。したがって、搬送体10aによって移動する被照射物Wが拡散防止板212を押進することにより、拡散防止板212が回動して、拡散防止板212による開口部220a、220bの閉塞を解除する。すなわち、被照射物Wが開口部220a、220bを通過する期間は、開口部220a、220bが開状態となり、それ以外の期間は閉状態となる。
【0039】
したがって、拡散防止板212を開口部220a、220bに設ける構成により、開口部220a、220bを被照射物Wが通過していない場合、すなわち、開口部220a、220bが閉状態である場合には、滞留空間Sからの酸素やオゾンの拡散(流出)を低減することができる。また、拡散防止板212が回動可能に設けられる構成により、被照射物Wをスムーズに通過させることが可能となる。
【0040】
酸素導入装置300は、照射領域Rを含む滞留空間Sに酸素を導入する。具体的に説明すると、酸素導入装置300は、導入部310と、吸引部312と、循環部314と、オゾン測定部316と、導入量調整部318とを含んで構成される。
【0041】
導入部310は、酸素ボンベ等で構成される酸素源30から、滞留空間Sに酸素を導入する。本実施形態において導入部310は、照射領域Rまたは照射領域Rの近傍に酸素を導入する。
【0042】
オゾンは、電子線が照射される照射領域Rで生成されることになる、すなわち照射領域Rがオゾンの発生源になる。したがって、導入部310が照射領域Rにオゾンを導入することで、効率よくオゾンを生成することが可能となる。
【0043】
吸引部312は、滞留壁部210における、搬送方向の上流に配される上流端部210aおよび下流に配される下流端部210bから、導入部310が導入した酸素によって照射領域Rで生成された、滞留空間S内に存在するオゾンと、酸素とを吸引する。
【0044】
図4は、導入部310から吸引部312へ向かうガスの流れを説明するための説明図である。図4に示すように、導入部310から導入された酸素は、上流端部210aおよび下流端部210bに設けられた吸引部312によって吸引される。そうすると、図4中、矢印で示すように、照射領域Rで生成されたオゾンは、照射領域Rから上流端部210aに向かって流れ、また、照射領域Rから下流端部210bに向かって流れることになる。換言すれば、照射領域Rで生成されたオゾンは、滞留壁部210内に拡散することになる。したがって、滞留壁部210を通過する間、被照射物Wはオゾン雰囲気に曝されることになり、オゾンによって被照射物Wの表面を確実に滅菌することが可能となる。
【0045】
循環部314は、吸引部312が吸引したオゾンを導入部310に供給する。これにより、吸引部312によって吸引されたオゾンを再度滞留空間Sに導入することができ、滞留空間Sにおけるオゾンの濃度を向上させることが可能となる。
【0046】
オゾン測定部316は、滞留空間Sにおけるオゾン濃度を測定する。導入量調整部318は、オゾン測定部316が測定したオゾン濃度に基づいて、導入部310が酸素源30から滞留空間Sに導入する酸素量を調整する。オゾン測定部316および導入量調整部318を備える構成により、滞留空間S内のオゾン濃度を、滅菌に適した所定の濃度に保つことができ、オゾンによる被照射物Wの表面の滅菌効率を上昇させることが可能となる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態にかかる電子線照射装置100によれば、照射領域Rにおいて電子線を照射することにより、被照射物Wの表面および内部を確実に滅菌することができる。また、酸素導入装置300を備える構成により、オゾンを効率よく生成することができ、表面形状が複雑な(表面積が大きい)被照射物Wであっても、その表面を満遍なく滅菌することが可能となる。
【0048】
また、酸素導入装置300は、空気ではなく酸素を導入し、滞留壁部210が滞留空間Sを形成することにより、滞留空間S内にオゾンを効率よく滞留させるとともに、滞留空間Sへの空気の流入を低減することができる。したがって、空気中に含まれる窒素や水が電子線と反応して窒化物が生成されてしまう事態を回避することができ、電子線照射装置100におけるステンレスやチタン等のオゾンで腐食されにくい金属で形成された部材や、オゾンで腐食されにくい金属で形成された搬送装置10の部材の、窒化物による腐食を防止することが可能となる。
【0049】
さらに、滞留壁部210が、照射領域Rのみならず、搬送方向の上流および下流の搬送体10aを囲繞して滞留空間Sを形成することから、照射領域Rで生成されたオゾンを搬送方向の上流や下流にまで拡散させることができる。したがって、被照射物Wは、照射領域Rだけでなく、滞留空間Sである搬送方向の上流や下流を通過するときにも、オゾンによって、その表面が滅菌されることとなる。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0051】
例えば、上述した実施形態では、滞留壁部210は、照射領域Rとともに搬送方向の上流の搬送体10aおよび下流の搬送体10aを囲繞して滞留空間Sを形成する。しかし、滞留壁部210は、照射領域Rとともに少なくとも搬送方向の上流の搬送体10aのみを囲繞して滞留空間Sを形成しても、照射領域Rとともに少なくとも搬送方向の下流の搬送体10aのみを囲繞して滞留空間Sを形成してもよい。
【0052】
また、滞留壁部210は、搬送体10aの搬送方向に延伸して設けられているが、これに限定されず、少なくとも照射領域Rにおいてオゾンを滞留させることができればよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、被照射物に電子線を照射する電子線照射装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
R …照射領域
S …滞留空間
W …被照射物
10 …搬送装置
10a …搬送体
100 …電子線照射装置
110 …電子銃
118 …加速器
120 …スキャンホーン
210 …滞留壁部
210a …上流端部
210b …下流端部
212 …拡散防止板
220a、220b …開口部
300 …酸素導入装置
310 …導入部
312 …吸引部
314 …循環部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電子を放出する電子銃と、
真空状態に維持される真空室内で前記電子銃から放出された熱電子を加速する加速器と、
前記加速器が加速した熱電子を電子線として大気圧雰囲気に放出するスキャンホーンと、
大気圧雰囲気に取り出された前記電子線が被照射物に照射される領域である照射領域に酸素を導入する酸素導入装置と、
を備えたことを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記照射領域を囲繞し、前記酸素導入装置から導入された酸素を当該照射領域に滞留させる滞留壁部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記照射領域に前記被照射物を搬送する搬送体を備え、
前記滞留壁部は、前記搬送体の搬送方向に延伸して設けられ、前記照射領域とともに、前記搬送方向の上流および下流のいずれか一方または両方の搬送体を囲繞して滞留空間を形成することを特徴とする請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記酸素導入装置は、
前記照射領域に酸素を導入する導入部と、
前記滞留壁部における、前記搬送方向の上流に配される上流端部および下流に配される下流端部のいずれか一方または両方から、前記滞留空間内に存在するオゾンを吸引する吸引部と、
を含んで構成されることを特徴とする請求項3に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記吸引部が吸引したオゾンを前記導入部に供給する循環部を備えたことを特徴とする請求項4に記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記滞留壁部の上流端部および下流端部には開口部が設けられており、
前記開口部には、前記酸素導入装置から導入された酸素の前記照射領域からの流出を低減するための拡散防止板が設けられていることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の電子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−242145(P2012−242145A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109980(P2011−109980)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】