説明

電子線硬化用導電性ペースト及びこれを用いた回路基板の製造方法

【課題】 回路基板を連続印刷により製造する際に導電層において生成する滲みの広がりを十分に抑制できると共に、高温環境下で使用されても硬度及び折曲性に優れ、プラスチック基材に対する密着性に優れる導電層を有する回路基板を形成できる電子線硬化用導電性ペースト等を提供すること。
【解決手段】 導電粉と、ラジカル重合性組成物と、可塑剤と、分散剤とを含み、可塑剤が、ラジカル重合性組成物100質量部に対して5〜20質量部の割合で配合され、分散剤がカチオン系分散剤である電子線硬化用導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線硬化用導電性ペースト及びこれを用いた回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータのキーボード、着座センサ、感圧センサなどに使用されるメンブレンスイッチにおいては、回路基板が使用される。この回路基板としては、プラスチックフィルムと、このプラスチックフィルム上に電子線硬化用導電性ペーストを印刷し電子線照射によって硬化させてなる導電層とで構成されるものがある。
【0003】
このような回路基板の形成に使用する電子線硬化用導電性ペーストとして、アクリレート化合物などのラジカル重合性樹脂を用いたものが知られている(下記特許文献1及び2)。ラジカル重合性樹脂は、導電性ペーストの架橋密度を大きくし、硬化収縮率を大きくすることができる。またラジカル重合性樹脂を含む電子線硬化用導電性ペーストをプラスチックフィルム上に塗布し電子線照射により硬化させて導電層を形成すると、導電層に十分な硬度を付与することができる。
【0004】
一方、電子線硬化用導電性ペーストとしては、ラジカル重合性樹脂にカチオン重合系樹脂を混合したものが知られている(下記特許文献3)。この電子線硬化用導電性ペーストは、ラジカル重合性樹脂の割合を低下させることができるため、硬化過程での硬化収縮を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2758432号公報
【特許文献2】特開平6−157945号公報
【特許文献3】特開2005−15627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らは、上記特許文献1〜3に記載の電子線硬化用導電性ペーストが以下の課題を有することを見出した。すなわち、上記特許文献1〜3に記載の電子線硬化用導電性ペーストを用いてプラスチック基材上に導電層を形成して回路基板を製造し、その回路基板を高温環境下で使用した場合に、プラスチックフィルムに対する導電層の密着性や、導電層の折曲性が未だ十分ではない。このため、回路基板を高温環境下で使用した場合には、導電層がプラスチックフィルムから剥離することがあった。あるいは、回路基板を高温環境下において繰り返し折り曲げて使用した場合には、導電層にクラック等が生じたりすることがあった。すなわち、高温環境下において、導電層の硬度が十分とは言えなかった。
【0007】
また、上記特許文献1〜3に記載の電子線硬化用導電性ペーストでは、この導電性ペーストを、プラスチック基材上に、例えばスクリーン印刷法にて印刷し、印刷した導電性ペーストに電子線を照射して導電層を形成することを連続して行うと、導電性ペーストの印刷の際、滲みが生じることがあり、この滲みが、隣接する導電層同士間でのショートにつながるおそれがあった。
【0008】
このため、回路基板を連続印刷により製造する際に導電層において生成する滲みの広がりを十分に抑制できると共に、高温環境下で使用されても硬度及び折曲性に優れ、プラスチック基材に対する密着性に優れる導電層を有する回路基板を形成できる電子線硬化用導電性ペーストが求められていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、回路基板を連続印刷により製造する際に導電層において生成する滲みの広がりを十分に抑制できると共に、高温環境下で使用されても硬度及び折曲性に優れ、プラスチック基材に対する密着性に優れる導電層を有する回路基板を形成できる電子線硬化用導電性ペースト及びこれを用いた回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、可塑剤及び分散剤に注目して鋭意研究を重ねた。可塑剤は、それを導電性ペーストに添加することにより、強度の大きい架橋樹脂の割合を相対的に低下させるため導電層の硬度を低下させると一般には考えられていた。また可塑剤は、高温環境下では導電層から抜け出るか、他の成分と反応を起こす。その結果、その後の導電層の折曲性やプラスチック基材に対する導電層の密着性を大きく低下させたりするとも一般に考えられていた。このため、これまで、可塑剤は、電子線硬化用導電性ペーストの分野において使用されてこなかった。しかしながら、本発明者らは、ラジカル重合性組成物に対して所定の割合で可塑剤を配合した電子線硬化用導電性ペーストに電子線を照射して導電層を形成した。その結果、本発明者らは、意外にも、上記課題のうち硬度、折曲性及びプラスチック基材に対する密着性の問題を解決し得ることを見出した。また、本発明者らは、導電性ペーストに配合する分散剤として種々の分散剤を用いたところ、回路基板を連続印刷により製造する際に滲みが広がり、やがて、隣接する導電層同士間でショートが起こるおそれがあるという問題が依然として存在することに気付いた。そして、本発明者らは更に鋭意研究を重ねた結果、分散剤の中でも特にカチオン系分散剤を用いることで、導電層同士間のショートと言う課題を解決できることを見出した。こうして本発明者らは本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、導電粉と、ラジカル重合性組成物と、可塑剤と、分散剤とを含み、前記可塑剤が、ラジカル重合性組成物100質量部に対して5〜20質量部の割合で配合されており、前記分散剤がカチオン系分散剤である電子線硬化用導電性ペーストである。
【0012】
この電子線硬化用導電性ペーストによれば、当該電子線硬化用導電性ペーストをプラスチック基材上に印刷し、電子線照射によって硬化させて導電層を形成して回路基板を形成すると、その回路基板を高温環境下で使用しても硬度及び折曲性に優れ、プラスチック基材に対する密着性に優れた導電層を得ることができる。また本発明の導電性ペーストによれば、分散剤として、カチオン系分散剤を用いることで、導電ペーストをプラスチック基材上に印刷した後、電子線を照射して導電層を形成するという一連の工程を連続して行っても、分散剤としてアニオン系分散剤やノニオン系分散剤を用いる場合に比べて、滲みの広がりが十分に抑制される。このため、回路基板を連続印刷により製造する際に、導電層において生成する滲みの広がりを十分に抑制できる。
【0013】
ここで、高温環境下で使用しても硬度及び折曲性に優れ且つプラスチック基材に対する密着性に優れた導電層を得ることができる理由については定かではないが、本発明者らは、上記導電性ペーストを熱硬化させた場合の結果との関係から、以下のように推測している。
【0014】
すなわち、まず本発明者らは、上記電子線硬化用導電性ペーストに重合開始剤を少量配合したものを熱硬化させ、得られた導電層を高温環境下に保持した。その結果、導電層の折曲性が若干低下し、プラスチック基材に対する密着性が顕著に低下することが判明した。この理由について、本発明者らは、熱硬化時に可塑剤が揮発して抜け出るため、可塑剤の効果が十分に得られないこと、熱硬化では十分な架橋密度が得られず、高温環境下での導電性ペーストの保持により可塑剤が抜け出たり他の成分と化学反応を起こしたことによるものと推測している。これに対して、上記電子線硬化用導電性ペーストに電子線を照射した場合、硬化時には熱が加わらないため、可塑剤が抜け出しにくいものと推測される。また電子線照射により十分な架橋密度が得られる。このため、導電性ペーストが高温環境下で保持されても可塑剤が抜け出しにくく、他の成分との化学反応も起こしにくくなっているものと推測される。さらに可塑剤は、ラジカル重合性組成物に対して低い割合で配合されており、硬化したラジカル重合性組成物の相対的な割合を大きく低下させることもない。このため、回路基板を高温環境下で使用しても硬度及び折曲性に優れ且つプラスチック基材に対する密着性に優れた導電層を得ることができたのではないかと本発明者らは推測している。
【0015】
また得られる導電層が、回路基板を連続印刷により製造する際に、導電層において生成する滲みの広がりを十分に抑制できる理由について本発明者らは以下のように推測している。すなわち、分散剤として、カチオン系分散剤を用いることで、導電粉の分散性が向上し、導電性ペーストの粘度の均一性が向上する。このため、導電性ペースト中において、当該ペーストの印刷時に滲みの核を形成し得る比較的低粘度のペースト成分の生成が十分に抑制される。このため、導電ペーストをプラスチック基材上に印刷して導電層を形成する一連の工程を連続して行っても、分散剤としてアニオン系分散剤やノニオン系分散剤を用いる場合に比べて、滲みの広がりが十分に抑制されるのではないかと本発明者らは推測している。
【0016】
また本発明は、プラスチック基材と、前記プラスチック基材上に設けられる導電層とを備える回路基板の回路基板の製造方法であって、前記プラスチック基材上に上述した電子線硬化用導電性ペーストを印刷する工程と、前記電子線硬化用導電性ペーストを電子線照射により硬化させて前記導電層を形成し前記回路基板を得る工程とを含む回路基板の製造方法である。
【0017】
この回路基板の製造方法によれば、高温環境下で使用されても硬度及び折曲性に優れ且つプラスチック基材に対する密着性に優れる導電層を有した回路基板を製造することができる。このため、回路基板が高温環境下で使用されても、プラスチック基材からの導電層の剥離が十分に抑制される。また、回路基板が高温環境下において、繰り返し折曲げて使用されても、導電層にクラック等が生じることが十分に抑制される。また本発明の回路基板の製造方法によれば、分散剤としてカチオン系分散剤を用いることで、導電ペーストをプラスチック基材上に印刷した後、電子線を照射することによって導電層を形成するという一連の工程を連続して行っても、分散剤としてアニオン系分散剤やノニオン系分散剤を用いる場合に比べて、滲みの広がりが十分に抑制される。このため、隣接する導電層同士がショートすることが十分に防止される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、回路基板を連続印刷により製造する際に、導電層において生成する滲みの広がりを十分に抑制できると共に、高温環境下で使用されても硬度及び折曲性に優れ、プラスチック基材に対する密着性に優れる導電層を有する回路基板を形成できる電子線硬化用導電性ペースト及びこれを用いた回路基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る回路基板の製造方法により製造される回路基板の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る回路基板の製造方法により製造される回路基板の一例を示す断面図である。図1に示すように、回路基板10は、プラスチック基材1と、プラスチック基材1上に設けられる導電層2とを備える。
【0022】
ここで、導電層2は、電子線硬化用導電性ペースト(以下、単に「導電性ペースト」と言う)をプラスチック基材1上に印刷し、電子線照射により硬化させることによって得ることができる。導電性ペーストとしては、導電粉と、ラジカル重合性組成物と、可塑剤と、分散剤とを含み、可塑剤が、ラジカル重合性組成物100質量部に対して5〜20質量部の割合で配合され、分散剤がカチオン系分散剤であるものが用いられる。
【0023】
この回路基板10においては、回路基板10が高温環境下で使用されても、導電層2が硬度及び折曲性に優れ且つプラスチック基材1に対する密着性に優れる。このため、回路基板10が高温環境下で使用されても、プラスチック基材1からの導電層2の剥離が十分に抑制される。また、導電層2は硬度に優れることとなるため、回路基板10が高温環境下において繰り返し折り曲げて使用されても、導電層2にクラック等が生じることが十分に抑制される。
【0024】
また回路基板10においては、上記導電性ペーストにおいて、分散剤として、カチオン系分散剤を用いることで、上記導電ペーストをプラスチック基材1上に印刷し、上記導電性ペーストに電子線を照射することによって導電層2を形成するという一連の工程を連続して行っても、分散剤としてアニオン系分散剤やノニオン系分散剤を用いる場合に比べて、滲みの広がりが十分に抑制される。このため、隣接する導電層2同士がショートすることが十分に防止される。
【0025】
次に、回路基板10の製造方法について説明する。まずプラスチック基板1上に導電性ペーストを印刷する。
【0026】
(プラスチック基材)
プラスチック基材1を構成するプラスチックは、プラスチックであれば特に限定されるものではない。このようなプラスチックとしては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)などのポリエステル樹脂が挙げられる。
【0027】
導電性ペーストは、上述したように、導電粉と、ラジカル重合性組成物と、可塑剤と、分散剤とを含む。
【0028】
(導電粉)
導電粉としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル又はこれらの2種以上の合金などの金属のほか、セラミック、プラスチックなどの担体を上記金属で被覆したものを用いることができる。上記金属としては、酸化による導電性の低下が小さいことから銀が好ましく用いられる。
【0029】
導電粉の形状は特に限定されるものではないが、導電粉の形状としては、例えば鱗片状、針状、球状が挙げられる。
【0030】
導電粉の平均粒径は、特に制限されるものではないが、通常は0.5〜15μmであり、好ましくは1〜5μmである。
【0031】
(ラジカル重合性組成物)
ラジカル重合性組成物(ラジカル重合性材料)は、電子線照射によりラジカル重合を引き起こす材料であればよく、特に制限されるものではないが、ラジカル重合性組成物は、例えばポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートを含む。これらは単独で、又は2種以上を混合して使用してもよい。中でも、ポリオールの構造及びイソシアネートの種類により多様な塗膜を得ることができることから、ポリウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0032】
なお、ポリウレタン(メタ)アクリレートは、例えば2官能性のウレタン系オリゴマーと、単官能性のアクリレートモノマーとを反応させることによって得ることができるが、ラジカル重合性組成物は、ポリウレタン(メタ)アクリレートに代えて、その原料である2官能性のウレタン系オリゴマーと単官能性のアクリレートモノマーとの混合物を含んでいてもよい。
【0033】
ラジカル重合性組成物は、カチオン系分散剤によって導電性ペーストの粘度の均一性をより向上させることができると共に、耐熱性や軟化点を向上させることができることから、オキシアルキレン単位を有するジ(メタ)アクリレートをさらに含むことが好ましい。
【0034】
オキシアルキレン単位を有するジ(メタ)アクリレートとしては、例えばポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、反応速度をより向上させることから、ポリエチレングリコールジアクリレートが好ましい。ポリエチレングリコールジアクリレートは、ポリエチレングリコール構造の繰返し単位(−CHCHO−)を有する。この繰返し単位の数nは特に制限されるものではないが、好ましくは5〜10の整数である。
【0035】
導電性ペースト中のラジカル重合性組成物の含有率は、特に制限されるものではないが、通常は5〜30質量%であり、好ましくは10〜20質量%である。
【0036】
(可塑剤)
可塑剤としては、例えばジカルボン酸エステル、リン酸エステル、ポリエステル、エポキシ化植物油などを用いることができる。これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。中でも、耐熱性、分散性、溶融性を向上させることから、ジカルボン酸エステルが好ましく用いられる。
【0037】
ジカルボン酸エステルは、ジカルボン酸とアルコールとのエステル化により得られるものである。
【0038】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪酸や、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族酸などを用いることができる。
【0039】
アルコールとしては、例えばカプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノイルアルコールなどのアルキルアルコールが挙げられる。
【0040】
ジカルボン酸エステルとしては、特に、アジピン酸とカプリルアルコールとを反応させてなるジオクチルアジペートが好ましい。この場合、耐熱性をより向上させることができる。
【0041】
リン酸エステルとしては、例えばリン酸トリフェニルなどを用いることができる。
【0042】
可塑剤は、ラジカル重合性組成物100質量部に対して5〜20質量部の割合で配合されている。ラジカル重合性組成物100質量部に対する可塑剤の配合割合が5質量部未満であると、回路基板10を高温環境下で使用しても、導電層2は、硬度やプラスチック基材1に対する密着性に優れるものの、折曲性が顕著に低下する。逆に、ラジカル重合性組成物100質量部に対する可塑剤の配合割合が20質量部を超えると、回路基板10を高温環境下で使用した場合に、導電層2は、折曲性に優れるものの、硬度やプラスチック基材に対する密着性が顕著に低下する。
【0043】
可塑剤は、ラジカル重合性組成物100質量部に対して5〜10質量部の割合で配合されていることが好ましい。この場合、より優れた硬度を得ることができる傾向にある。
【0044】
さらに可塑剤は、より優れた折曲性を導電層2に付与する観点からは、300〜500℃の沸点を有することが好ましく、300〜400℃の沸点を有することがより好ましい。なお、可塑剤の沸点が上記範囲内にあると、導電性ペーストに電子線を照射した場合、300℃未満である場合に比べて、可塑剤が導電性ペーストから抜け出しにくくなる。
【0045】
(分散剤)
分散剤としては、カチオン系分散剤が用いられる。カチオン系分散剤としては、例えば第4級アミン系、アルキルアミン系、ピリジン環を有する物質、アクリル系、ベタイン系などのカチオン系分散剤が挙げられる。中でも第4級アミン系のカチオン系分散剤が好ましい。この場合、他のカチオン系分散剤を用いる場合と比べて、より折曲性に優れる。
【0046】
第4級アミン系のカチオン系分散剤としては、例えばアルキルトリメチルアンモニウムやジアルキルジメチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0047】
アルキルアミン系のカチオン系分散剤としては、例えばモノアルキルアミンやジアルキルアミン、トリアルキルアミンなどが挙げられる。
【0048】
ピリジン環を有する物質からなるカチオン系分散剤としては、例えばアルキルピリジニウムなどが挙げられる。
【0049】
アクリル系のカチオン系分散剤としては、例えばカチオン基含有アクリルポリマーなどが挙げられる。
【0050】
ベタイン系のカチオン系分散剤としては、例えばアルキルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタインやコカミドプロピルヒドロキシスルタインなどが挙げられる。
【0051】
分散剤は、ラジカル重合性組成物100質量部に対して、3〜20質量部の割合で配合されていることが好ましく、5〜10質量部の割合で配合されていることがより好ましい。この場合、導電粉の分散性が向上し、導電性ペーストをプラスチック基材1上に重ねて印刷する際における滲みの広がりをより十分に抑制することができる。
【0052】
なお、上記導電性ペーストは、さらにシリカなどの充填剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの難燃剤などの添加剤をさらに含んでもよい。上記導電性ペーストにおいては、導電粉、ラジカル重合性組成物、可塑剤、分散剤及び添加剤の合計含有率は好ましくは70〜100質量%である。ここで、添加剤は、可塑剤、分散剤及び重合開始剤以外の添加剤を意味する。
【0053】
印刷方法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法などが挙げられるが、上記導電性ペーストは、スクリーンを通して印刷を行う場合に特に有用である。というのは、導電性ペーストを、スクリーンを通してプラスチック基材1上に印刷する場合に、導電性ペースト中に生成される比較的低粘度のペースト成分が印刷の際、スクリーンに滲みの核として付着し、隣接する導電層2同士がショートを起こしやすくなるからである。
【0054】
次に、プラスチック基材1上に印刷した導電性ペーストに電子線を照射することにより導電層2を形成する。こうして回路基板10が得られる。
【0055】
電子線の照射条件は、導電性ペーストの組成及び製造しようとする導電層2の特性にもよるが、通常は、吸収線量が100〜300kGyであり、加速電圧が150〜300kVである。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1〜10及び比較例1〜5)
導電粉、ラジカル重合性組成物、可塑剤及び分散剤を表1に示す割合で混合し、3本ロールで混練して導電性ペーストを得た。なお、表1において、特に単位を示していない数値については、その単位は質量%を表す。またラジカル重合性組成物としては、2官能性ウレタン系オリゴマー、単官能性アクリレートモノマー及びモノマーAが用いられる。2官能性ウレタン系オリゴマーとしては、ポリカーボネート系のウレタンオリゴマーを用い、モノマーAとしては、ポリエチレングリコールジアクリレート(ポリエチレングリコール構造の繰り返し単位n=9)の混合物を含むものを用いた。さらに可塑剤及び分散剤としては、具体的には以下のものを使用した。
(A)可塑剤
DOA(ジオクチルアジペート)
(B)分散剤
1)第4級アミン系
アルキルトリメチルアンモニウム
2)アルキルアミン系
モノアルキルアミン
3)ピリジン環を有する物質
アルキルピリジニウム
4)アクリル系
カチオン基含有アクリルポリマー
5)ベタイン系
アルキルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン
6)アニオン系
ポリアクリル酸
7)ノニオン系
ポリオキシエチレンアルキルエーテル

【表1】

【表2】

【0058】
[特性評価]
実施例1〜10及び比較例1〜5で得られた導電性ペーストを、スクリーン印刷機(マイクロ・テック社製MT-320TV)を用い、厚さ75μmのPETフィルム上に厚さ20μmとなるように印刷した後、加速電圧300kV、吸収線量200kGyの条件で電子線を照射して導電層を形成し、回路基板を得た。こうして得られた回路基板について以下の特性を評価した。
【0059】
(1)硬度
上記のようにして得られた各回路基板を80℃中に500時間放置した後、常温で1時間放置した。そして、この回路基板について、導電層の硬度を測定した。硬度については、JIS K−5600−5−5に準拠して測定した鉛筆硬度によって評価した。このとき、鉛筆硬度がB以上である導電層を有する回路基板は合格とし、鉛筆硬度がB未満である導電層を有する回路基板は不合格とした。結果を表1に示す。ここで、B以上の鉛筆硬度とは、B又はBよりも硬い鉛筆硬度(例えばF、HB)を意味する。B未満の鉛筆硬度とは、Bよりも柔らかい鉛筆硬度(例えば2B)を意味する。
【0060】
(2)折曲性
折曲性は、上記のようにして得られた回路基板について、80℃に設定したオーブン中で500時間保持した後に行われる折曲試験の前後の比抵抗の上昇値に基づいて評価した。
すなわちまず上記各回路基板について、80℃に設定したオーブン中で500時間保持した後、デジタルマルチメータを用いて4端子法により導電層の比抵抗(初期比抵抗値)を測定した。
その後、曲率半径Rが0となるように10回折り曲げた後の回路基板についても上記と同様にして比抵抗(折曲げ後比抵抗値)を測定した。そして、下記式:
比抵抗の上昇率(%)=100×(折曲げ後比抵抗値/初期比抵抗値)
に従って、比抵抗の上昇率を算出した。結果を表1に示す。なお、表1には、初期比抵抗値も示した。
なお、折曲性に関しては、比抵抗の上昇率が100%未満である回路基板は折曲性に優れるとして合格とし、比抵抗の上昇率が100%以上である回路基板は折曲性に劣るとして不合格とした。
【0061】
(3)密着性
上記のようにして得られた回路基板を80℃中に500時間放置した後、常温で1時間放置した。そして、この回路基板について、以下のようにしてPETフィルムに対する密着性を評価した。すなわち、上記回路基板について、JIS K−5400−8.5の8.5.3に規定される碁盤目テープ法に準拠して密着性を評価した。具体的には、まず導電層に対し、カッターナイフを用いて1mm間隔で11本の平行な切り傷を付けた。次に、これらの切り傷に直交するように、1mm間隔で11本の平行な切り傷を付けた。こうして導電層の表面に多数の小片を形成した。そして、その上にセロハン粘着テープを導電層に貼り付け、セロハン粘着テープの表面を消しゴムでこすってセロハン粘着テープを導電層に完全に貼り付けた。その後、セロハン粘着テープの一端を、導電層に対して直角となるようにしながら瞬間的に引き剥がした。このとき、剥がされる前の導電層における小片の全表面積に対する剥がれた小片の面積の割合に応じて以下のように点数を付けた。
0%・・・・・・・・・・・・・・10点
0%より大きく 5%以下・・・・8点
5%より大きく 15%以下・・・・6点
15%より大きく 35%以下・・・・4点
35%より大きく 65%以下・・・・2点
65%より大きく100%以下・・・・0点
そして、点数が8点以上の回路基板は、導電層がPETに対する密着性に優れるとして合格とし、8点未満の回路基板は、導電層がPETに対する密着性に劣るとして不合格とした。
【0062】
(4)連続印刷性
上記のようにして回路基板を作製する一連の工程を、スクリーン印刷機におけるスクリーンを交換することなく、連続して行った。そして、L/S=0.1mm/0.1mmの導電層が滲みなく形成できる回路基板の枚数、すなわち連続印刷可能枚数を測定した。結果を表1に示す。ここで、「導電層が滲みなく形成できる」とは、ライン幅の変化率が25%以内であることを意味する。
このとき、連続印刷枚数が30枚以上である導電性ペーストは合格とし、連続印刷枚数が30枚数未満である導電性ペーストは不合格とした。
【0063】
表1に示す結果より、実施例1〜10の導電性ペーストを用いて形成された導電層は、硬度、折曲性、PETフィルムに対する密着性及び連続印刷性のいずれについても合格基準に達していた。これに対し、比較例1〜5の導電性ペーストを用いて形成された導電層は、硬度、折曲性、PETフィルムに対する密着性又は連続印刷性のいずれかについて合格基準に達していなかった。
【0064】
このことから、本発明の導電性ペーストによれば、回路基板を連続印刷により製造する際に導電層において生成する滲みの広がりを十分に抑制できると共に、高温環境下で使用されても硬度及び折曲性に優れ、プラスチック基材に対する密着性に優れる導電層を有する回路基板を形成できることが確認された。
【符号の説明】
【0065】
1…プラスチック基材、2…導電層、10…回路基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電粉と、
ラジカル重合性組成物と、
可塑剤と、
分散剤とを含み、
前記可塑剤が、ラジカル重合性組成物100質量部に対して5〜20質量部の割合で配合されており、
前記分散剤がカチオン系分散剤である電子線硬化用導電性ペースト。
【請求項2】
プラスチック基材と、前記プラスチック基材上に設けられる導電層とを備える回路基板の製造方法であって、
前記プラスチック基材上に請求項1に記載の電子線硬化用導電性ペーストを塗布する工程と、
前記電子線硬化用導電性ペーストを電子線照射により硬化させて前記導電層を形成し前記回路基板を得る工程とを含む回路基板の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2013−26089(P2013−26089A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161415(P2011−161415)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000166683)互応化学工業株式会社 (57)
【Fターム(参考)】