説明

電子繊維又は電子糸及びこれを用いた繊維製品

【課題】別途携帯用の情報機器を所持することなく、種々の情報を取得し、発信することができる布や衣類などの繊維製品と、このような繊維製品に利用可能な電子繊維及び電子糸を提供する。
【解決手段】合成繊維又は再生繊維からなる繊維の表面に、微細加工法により電子デバイス、電気配線12、電子回路のいずれか又はこれらの組み合わせを形成させたことを特徴とする電子繊維又は電子糸。及びこのような電子繊維又は電子糸をその構成繊維の一部として用いた電子布や電子衣料などの繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維や糸そのものに種々の電子デバイスや電子回路を実装した電子繊維又は電子糸及びこれを用いた電子布又は電子衣料などの繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子機器においては、ガラスやプラスチックシートなどを材料とするプリント基板上に、メッキなどにより配線パターンがプリントされたプリント配線板を用意し、このプリント配線板上に種々の電子部品が実装された電子回路から構成されたものが用いられていた。最近では、非常に薄くて屈曲性のアルプラスチックフィルムの上に直接トランジスタなどの電子デバイスや電子回路を直接形成し、これを用いたディスプレーや電子ペーパーなどを作るプリンタブルエレクトロニクス技術が確立されつつある。
【0003】
例えば、プラスチックシートの表面にプリントにより形成されたトランジスタなどをはじめとして、柔軟なプラスチックシート上に導電インクなどを付着させて、従来から製造され使用されているシリコンを基板とするものとほとんど同じ機能を有する、屈曲性のあるトランジスタなどの電子デバイスを製造したり、これらの電子デバイスから構成される電子回路などが実現されつつある。その結果、このような電子回路などがプリントされた柔軟性のあるプラスチックシートプリント基板をケース(筐体)の中に配置することにより、よりコンパクトな電子機器が実現できるようになった(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このような筐体内に収納された3次元構造を有する電子機器を、柔軟性や可撓性を必要とする衣服などの衣料に組み込むことは困難であり、電子機器を使用する者は、特殊な収納ポケットを有する衣服を着用してこの電子機器を持ち運んだり、移動中においては収納ポケットから取り出して使用していた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
携帯電話などに代表されるように、コンピュータ、オーディオ機器、情報端末機器などの機能を持ったモバイル電子機器はますます小型化されおり、これらを衣服のポケットなどに収納するなどの方法によって身体に装着して、「いつでも」「どにいても」使用することができる環境が実現しつつある。
【0006】
半導体チップの微細化は、前記のモバイル電子機器をさらに小型化させるために必要な基本技術であり、今後ますますその小型化の技術開発に拍車がかる。またRFID(無線タグ)に代表される半導体チップを、布、紙、プラスチックなどに貼り付けるなどの方法によって装備して実用的に使用しようとする試みが開始されている。
【0007】
また生体情報のモニタシステムにおいては、例えば、腕時計などのモバイル機器を使い、その内部に体温、血圧、脈拍などを検知するセンサーと、これらのセンサー信号を処理する回路とを内蔵させ、携帯者の健康状態を常時モニターし、健康状態が悪化すると所定の連絡先に緊急通報する方式が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
従来の一般的な衣服などには情報を取得したり発信したりするような電子的機能はなく、人が着用する衣服として必要な形状や性能を保持した状態のもので使用されていた。このため移動先や移動中の任意の外出場所において個人が情報を取得したり発信する必要がある場合、例えば携帯用の電子機器を鞄や衣服のポケットなどに収納して所持し、その都度これを取り出し、必要な操作をしなければならないなどの課題があった。
【0009】
個人が頻繁に使用する機能としては、見る、聞く、話す、測るなどがあるが、これらの情報を記憶したり発信するためには、これらの基本機能を有する、カメラ、スピーカー、マイク、計測器など複数の電子機器を、別途携帯しつつ使用するよりも、衣服の最適な場所に組み込み、個人の身体の一部として常に一体化させることがより望ましい。しかしこのような従来の電子機器は一定の大きさの3次元形状を有しているため、衣服などと一体化することは困難であるという課題があった。このため衣服のポケットや携帯用の鞄などに収納して使用せざるを得なかった。
【0010】
発光デバイスの代表例である発光ダイオード(LED)を使用した発光装置に関しても、布表面に複数のLEDを有するパネルを装着させる方法が提案されているが、衣服と一体化されていないため違和感が伴ったものであった(例えば、特許文献3参照)。このため複数のLED発光装置を内蔵させ、豊かな個性ある表現力を持たせた衣服や、独特の光を放出させ周辺や遠方からの視線を引き付けるような衣類を実現することは困難であった。
【0011】
金銀などの金属箔糸は独特の光沢を持たせることができるため、色彩豊かな布やファッション性のある衣料を提供することができる。しかし、発光効果などの電気的機能を持たないため、箔糸から構成された布や衣料は色彩の外部制御、色彩情報の動的変化など外部からのコントロールすることができなかった。
【0012】
携帯電話や腕時計などのモバイル機器や、個人の健康状態をチェックするための心拍計や体温計などの生体モニター用計測器にみられるように、移動を伴う場合において使用者は、これらの情報収集機器を身体に装着するか衣服のポケットの中に収納して持ち運んでいるが、常時携帯するのは面倒で煩わしいとか置き忘れるなどの理由により、「いつでも」「どこにいても」使用できるという点ではまだ満足できるものではなかった。
【0013】
最近注目を浴びている小型の無線ICタグを衣服などに貼りつける提案がなされているが、この方法も、貼りつけたり取り外すなどの作業が必要であり、また紛失したり取り違えるケースがあるなどの課題があった。
【0014】
最近になってこのような問題点を改善し、織物そのものに電気的機能を持たせた織布、織物が提案されている。即ち、織布又は織物の縦糸または横糸に機能糸と名づけられた電子的な糸を用い、この機能糸は細長い基板を有し、その基板の上に導電体、電子装置および前記導電体と電子装置を接続するための電気接触部(または接続手段)とを形成させている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この機能糸の上に形成された基板上は電子装置が配置されているため凹凸を有する3次元的な立体構造になり、またこれらの電子装置は著しく柔軟性を欠くため、織り込む、編みこむ、縫いこむなどの普通の糸としての機能や、その結果製造される繊維製品の性能を十分に発揮できなくなるという課題があった。さらに前記基板上の導電体から構成された配線と電子装置とを接続するために導電性接着剤やはんだ付けなどの接合手段が必要になるという大きな課題があった。
【0015】
また、織布、織物などの繊維製品において、LEDなどの多数の発光素子を使用してディスプレイなどの画像表示機能を持たせるには、発光素子をマトリック状に配置し且つ各発光素子のアドレスを指定する必要がある。そのためには、多数の導電糸を織布や織物の縦方向と横方向の両方向に織り込む、編みこむなどにより使用して各発光素子と接続して電力および信号を供給するという手段が必要であるなどの課題があった。
【特許文献1】特開2003−13317号公報
【特許文献2】特開2002−74542号公報
【特許文献3】特表平8−511354号公報
【特許文献4】特表2005−524783号公報
【非特許文献1】日経エレクトロニクス、2004年12月16日号、94〜102頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、人が種々の作業や移動などで行動中であっても、別途携帯用の情報機器を所持することなく、種々の情報を取得し、発信する機能を有する電子布や電子衣類などの繊維製品と、このような布及び衣類に利用可能な繊維又は糸そのものに電子デバイスや電子回路の機能を有する電子繊維又は電子糸を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記の状況に鑑み鋭意検討を進めた結果、繊維や糸の表面に微細加工技術の利用によって電子デバイスや電子回路を形成させたものを用いることにより、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)合成繊維若しくは再生繊維からなる繊維又は糸の表面に、微細加工法により電子デバイス、電気配線、電子回路のいずれか又はこれらの組み合わせを形成させたことを特徴とする電子繊維又は電子糸。
(2)微細加工法が、プリント法、インプリント法、塗布法、めっき法、コーティング法、吐出法、スパッター法、蒸着法、リソグラフィ法のいずれか又はこれらの組み合わせであることを特徴とする、前記(1)に記載の電子繊維又は電子糸。
(3)プリント法が、インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷、ディスペンス法のいずれか又はこれらの組み合わせであることを特徴とする、前記(2)に記載の電子繊維又は電子糸。
(4)合成繊維若しくは再生繊維からなる繊維又は糸が、長尺の糸状の合成繊維又は再生繊維からなるフィルム箔であるいずれかであることを特徴とする、前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の電子繊維又は電子糸。
(5)電子デバイスが、発光ダイオード、エレクトロルミネセンス、液晶、電池、温度センサー、圧力センサー、心拍センサー、脈拍センサー、血圧センサー、音センサー、画像センサー、位置センサー、光センサー、メモリー、抵抗、コンデンサー、トランジスタ、コイル、コネクター、スイッチ、タグ用集積回路、受発信用無線集積回路のいずれかであることを特徴とする、前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の電子繊維又は電子糸。
(6)電子デバイスが、外部電子機器との間で送受信可能な通信回路を有していることを特徴とする、前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の電子糸または電子繊維。
(7)通常の繊維素材を芯糸とし、これに前記(1)乃至(6)のいずれかの電子繊維又は電子糸を巻きつけてなることを特徴とする電子糸。
(8)構成繊維の一部として、前記(1)乃至(7)のいずれかの電子繊維又は電子糸を用いて製造されたものであることを特徴とする繊維製品。
(9)電子デバイスが、ID機能付無線回路と当該電子デバイスの動作を制御するための電子回路とを搭載し、各電子デバイスの電気的動作を外部から制御させるものであることを特徴とする、前記(8)に記載の繊維製品。
(10)電子デバイスの一部として発光ダイオード(LED)、エレクトロルミネセンス(EL)、半導体レーザー(LD)、蛍光体のいずれかから選ばれる発光素子を用いた前記(1)乃至(7)のいずれかの電子繊維又は電子糸を用いて構成され、その表面に画像又は模様を表示するものであることを特徴とする繊維製品。
(11)繊維製品が、前記(1)乃至(7)のいずれかの電子繊維または電子糸を使用したタグ機能を有するものであることを特徴とする電子繊維タグまたは電子糸タグ。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子繊維、電子糸およびこれから構成される電子布や電子衣料などの繊維製品は、従来の普通の布と全く同様な柔軟性と感触を保持しながら、種々の電子デバイスや電子回路がその中に組み込まれており、これらの電子デバイスや電子回路の機能によって、例えば衣服として着用しながら、特別な違和感や不快感を与えることなく、種々の情報を発信したり、受信することができる。
【0020】
また、本発明の電子繊維、電子糸においては、電子糸または電子繊維の上に例えば印刷法により電子回路を面印刷で形成することが可能になり、電子回路などによる凹凸部がなくなる。また繊維又は糸の上に各種電子装置を配置固定して、前記繊維又は糸の上に形成された導電体に接続するための導電性接着剤やはんだ付けなどによる接続手段も不要になるため、繊維又は糸としての従来の機能を損なうことなく、これに電子機能を追加させることができる。
【0021】
更に、発光素子などの各電子デバイスに固有のID機能を有する無線回路を備えることにより、たとえば発光素子をマトリックス状に配置して画像表示させる場合、横糸と縦糸の両方に電子糸を用いる必要がなく、横糸もしくは縦糸のいずれか一方のみに本発明の電子糸を使用して任意の発光素子を自由にコントロールし、画像として表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態及び実施例】
【0022】
本発明の電子繊維又は電子糸は、合成繊維又は再生繊維からなる繊維又は糸の表面に、微細加工法により電子デバイス、電気配線、電子回路のいずれか又はこれらの組み合わせを形成させたものである。また、本発明の繊維製品は、このような本発明の電子繊維又は電子糸をその構成繊維の一部として使用して編織して作成されたものであり、例えば、繊維製品の中に発光素子などの電子デバイスを備えた電子布又は電子衣料などである。電子布としては、例えば、LEDを取り付けた本発明の電子繊維又は電子糸を使用して編み織りして作成した、旗、のぼり、ゼッケン、鉢巻、タオル、タペストリー、壁掛け、スクリーン、暖簾、紐類などが挙げられる。
【0023】
本発明に使用する合成繊維又は再生繊維としては、その表面に電子デバイス、電気配線、電子回路又はこれらの組合せを形成することができるだけの平滑な表面を持ち、電気的に非導電性の繊維であればよい。現在の微細加工技術を用いれば極めて狭い面積の中にも電子デバイス、電気配線、電子回路等を形成させることができ、具体的には繊維表面に少なくとも10μm×500μm程度の平滑な表面を有するものであればよい。
また、このような合成繊維又は再生繊維の材質としては、ポリエステル、ナイロン,レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドなどが挙げられる。また,その形状が長い繊維状のフィルムシートの箔である平箔糸が好ましい。
【0024】
本発明では、繊維の表面に微細加工法により電子デバイス、電気配線、電子回路等を形成させたものを用いる。
この微細加工の方法としては、プリント法、たとえばインクジェット方式、スクリーン印刷方式、オフセット印刷方式やグラビア印刷方式などを使用することもできる。またプリント法以外にも塗布方式、インプリント法、メッキ方式、コーティング方式、吐出法、スパッター法、蒸着法、リソグラフィ法など、又はこれらのうちの最適な方法を選択的に又は追加的に組み合わせることによっても同様に配線や電子デバイス、電子回路などを形成することができる。また、この微細加工においては、基板となる繊維表面の上に上記の方法によって電子デバイス、電気配線、電子回路等を直接描画して形成させることが好ましい。
【0025】
長尺のフィルムシート状の平箔糸を例にすると、この平箔糸の表面の一部又はすべてを基板とみなし、この上に電子デバイス、電気配線、電子回路等を次のようにしてインクジェット法によって形成する。
図1に、インクジェット法によって電子回路を形成した電子繊維の一例を示す。図1において、平箔糸10の表面上に、あたかも市販のカラープリンタで色を変えるような方法で微細ノズルから吐出するナノ微粒子の材料を選び変え、たとえば、配線パターン12を作る場合は導電性金属微粒子を含む金属インクを、抵抗23などの受動デバイスを作るところでは金属酸化物材料などを含むインクを、トランジスタ11などの半導体デバイスを作るところでは有機材料などの半導体インクや絶縁インクを、インクジェットで飛ばして電子回路を作る。ただし電子デバイスの種類に応じて吐出するインク材料を選択的に変え同じ場所を複数回プリントして多層構造化する場合もある。前記方法により各電電子デバイスを形成後、配線パターンなどを追加的にプリントして所定の電子回路を形成させたり、補修してもよい。また、前記平箔糸上10の基板上に絶縁インクを使用して複数回プリントして多層膜構造にするなど基板としての特性を向上させるような前処理も可能である。場合によっては、製作した電子回路が外部から受ける電気ノイズの影響を取り除くため、プリントされた電子回路の周辺をノイズ除去材料で覆う必要もある。また平箔糸材として電気ノイズ除去用材料を使用してもよい。
【0026】
場合によっては、平箔糸に電子回路を印刷した後、印刷部分を絶縁性の塗料や撥水性樹脂でコーティングしたりラミネート加工するなどして印刷面を保護する必要がある。
また、上述したインクジェットプリント法のみで製造するのが困難な電子デバイス構造の一部や電子回路などは、塗布、めっき、コーティング、インプリント、蒸着、リソグラフィーなど最適な方法と組合せる工程を含める必要がある。
【0027】
図2は平箔糸にプリント法などでLED素子、電気配線などが実装された電子糸の例である。多数のLED21が並列に接続されている。それら両端に3ボルト前後の駆動電圧を印加させるための電気配線がプリントされている。LEDは同じである必要はなく、このために駆動電圧が異なる場合はLEDと直列に抵抗などを追加印刷して電圧をコントロールして発光色や輝度などを調節することも可能である。電源として太陽電池24、充電用2次電池23、太陽電池方向への逆流防止用整流ダイオード25などが印刷によって形成されている。その結果、外部電源が不要になり、かつLEDを長時間にわたり動作させることもできる。または電子糸の先端に印刷されたコネクターを介し、外部より電源を供給してもよい。
【0028】
本発明の電子繊維又は電子糸は、繊維又は糸の表面に直接微細加工法により電子デバイス、電気配線、電子回路を形成する。
このような電子デバイスとしては、発光ダイオード(LED)、エレクトロルミネセンス(EL)、半導体レーザー(LD)、蛍光体などの発光素子、液晶、電池、温度センサー、圧力センサー、心拍センサー、脈拍センサー、血圧センサー、音センサー、画像センサー、位置センサー、加速度センサー、光センサー、メモリー、抵抗、コンデンサー、トランジスタ、コイル、コネクター、スイッチなどがある。また、電子回路としては、タグ用集積回路、受発信用無線集積回路、各種デバイス駆動回路などが挙げられる。
【0029】
これまで、レーヨン、ナイロンなどの普通糸を芯糸にして、これに金銀の切箔(フィルム)をカバーリング撚糸した糸が商品化され、織物、刺繍などに使用されてきた。すなわち、普通糸からなる芯糸に平箔糸を巻きつけた丸撚り、蛇腹撚り又は羽衣撚り金銀糸、箔糸に細い糸を絡ませた絡み撚り又はたすき撚り金銀糸等である。同様の方法で、上記発光するLEDを備えた電子糸を、ナイロンやポリエステルなど従来の繊維素材を芯糸としてその周辺を隙間なくカバーリング撚糸することにより構成されたLED発光糸の一例を図3に示す。普通の繊維素材又は芯糸31のまわりに、LED32を備えた電子糸30をカバーリング用に巻きつけた撚糸である。LEDと同じ発光デバイスであるEL(特に有機EL)を使用してもよい。このようにして製作されたLED発光糸または有機EL発光糸である本発明の電子繊維または電子糸を編織して作成される電子布、電子衣料などの繊維製品は従来の布や衣料と同じ感覚で使用できるため、従来にはない効果が発揮される。
【0030】
また、本発明の電子繊維や電子糸、或いは電子布や電子衣料などの繊維製品において、そこに取り付けたLEDなどの各電子デバイスにID付無線回路および該電子デバイスのON、OFFを外部より行うことのできる無線スイッチを内蔵または追加させることにより、各々の電子デバイスを独立して配置させることができる。ここで、ID付無線回路を有する電子デバイスとは、各電子デバイスに与えられる固有の無線信号(ID)を認識するための電子回路を有しているものであって、この電子回路によって認識された外部からの無線信号により電子デバイスのON,OFFなどの操作を行うものである。その結果、外部より同じ電子糸の上に取り付けた複数の電子デバイスのみならず、同じ電子布や電子衣料などの繊維製品に搭載されたすべての電子デバイスにおいて、ON、OFFなどの動作をそれぞれ独立して遠隔操作することができる。すなわち、種々の電子デバイスを有する電子糸によって構成された繊維製品において、任意の場所に配置された複数の電子デバイスの動作を無線によって外部から自由にコントロールすることが可能になる。
【0031】
このような電子デバイスとしては、さまざまな機能の有する電子デバイスが使用することができるが、発光ダイオード(LED)やエレクトロルミネセンス(EL)などの発光素子を用い、これらのさまざまな状態に発光させることが実用上特に有用である。
【0032】
その結果、たとえば多数のLEDが取り付けられた電子糸により構成された布または衣料などの繊維製品において、画像(動画を含む)を形成させるのに特許文献4のようにLEDを機能糸上に形成された多数の導電体により接続させてマトリックス配置するような方法は必要なくなる。また本発明によりマトリック状に配置された各LEDのアドレスを指定するために機能糸と直角方向の縦方向に導電糸などを織り込み、LEDを電気的に接続する必要がなくなる。すなわち本発明により、縦または横の一方向のみに電子糸を織り込み、これにLEDなどの電子デバイスを接続することより、さまざまな状態に発光をコントロールできる電子布電子衣料などの繊維製品が構成できるので、比較的簡単な構造で電子布電子衣料などの繊維製品とすることができ、更に従来の普通の繊維製品のもつ柔軟さを保つことが出来る。
【0033】
図4には、横方向に本発明の電子糸が織り込まれ、その上にLEDをプリント法などで形成してマトリックス配置された電子布(スクリーン)40が示されている。図4では、6の数字に相当するLED43が点燈しているが、コンピュータ制御された無線機器により遠隔操作することにより、その他の文字や図形などを構成する任意のLEDを点滅させたり、各LED間の点滅時間を制御することにより動的画像を得ることもできることはいうまでもない。
【0034】
図4では、横糸として電子糸のみのから構成された電子布の例を示してあるが、隣り合う電子糸との絶縁性を保つため、電子糸の間に絶縁糸を1本以上織り込むことが望ましい。
【0035】
図5には、中央部にLEDで発光する模様(マーク)を配置し、これを導電糸で外部の電源52に接続した電子布51の概略図を示す。図6には、この電子布51の外部電源とつなぐ導電糸55とLEDなどの電子デバイス57、58等の接続状態を示す。
図5、図6に示すように、電子布51の周辺に外部電源52と接続される導電糸55またはリード線を配置して、電子糸55の途中で印刷されたコネクター56と電気的に接続することもでき、さらにその先にLEDなどの電子デバイス57,58を取り付けることができる。
【0036】
図4に示すようなLEDを取り付けた電子布を用いて衣類や衣服とすることにより、図7,図8に示すように、LEDを取り付けた電子糸は横または縦のいずれか一方向のみに使用した衣類や衣服とすることができ、外部から無線でコントロールすることによってこれらの多数のLEDを自由にコントロールして、さまざまなディスプレイ動作を実現できる点に本発明の特徴がある。
【0037】
上記の例はLEDに無線機能を持たせた例であるが、その他の各種センサなどの電子デバイスについても同様に無線機能をもたせ、各電子デバイスを遠隔で制御または信号を取得することもできることはいうまもない。
また、電子デバイスと外部との間で行うための無線回路に必要なアンテナなどは、各糸共通とするようにプリント配線してもよい。
【0038】
更に、本発明の電子布又は電子衣料などの繊維製品は、このような電子繊維又は電子糸を織ったり編んだりして得られる織布だけでなく、通常の繊維又は糸とこれらの電子繊維又は電子糸とを絡み合わせた電子不織布や、電子繊維や電子糸の集合体をいろいろな方法で結合させた電子不織布あるいはこれらの電子不織布から構成される電子衣料などの繊維製品であってもよい。
【0039】
布や衣服などの衣料にLEDを組み込んだ本発明の電子繊維や電子糸を使用することにより、これらの衣料はより魅力的でかつ遠くからも注目を引き付けることができる。
一例として、図7、図8には、LED発光糸を組み込むことによって作られたディスプレイ入りTシャツの例が示されている。この例では数字が表示されており番号札としても機能させることができる。LEDは電子糸径より小さく普段は肉眼で識別することが困難であり、発光することにより可視化される。
【0040】
運動選手が試合中に使用するゼッケン番号や背番号などは、遠くから観戦している観客、審判、他の選手達などにとって重要な目印になる。従来は布にマジックインクなどでプリントされ選手の前後に貼り付けられていたため、動作が俊敏な選手を遠方から特定するのが困難であった。LEDを組み合わせて数字などを形成させた発光糸は数字の輝度が高くなり、遠方からも番号を容易に識別することが可能になる。またGPSなどの位置センサーを組み込むことにより選手の位置をリアルタイムで追跡することもできる。
【0041】
旗においても前記同様にLEDにより記号、絵柄、符号などの図形を作ることにより、存在感が高まったり強調するなど旗の有する特性を一段と増すことになる。
【0042】
その他、警備員、従業員の制服に貼り付ける名札布や番号札布をLEDにより構成された文字表示にすることにより、遠方からも鮮明に識別できるなどの効果が高まることが予想される。特に夜間や暗い場所は効果が高まる。
【0043】
またLEDの有するカラー表示や点滅などの動的特性を組み合わせることにより、従来にはないファッション性豊かな番号、記号、絵柄などがLEDで表示されたディスプレイ付き衣類(和服、洋服などの衣服やぬいぐるみなどを含む)を作ることができる。
【0044】
またカーペットやカーテンなどのように配置場所が固定された衣料にLEDやセンサーなどを有する電子糸を組み込む場合、LEDやセンサーを長時間動作させるため、コイル(またはアンテナ)も電子糸にプリント法などで実装させると便利である。近傍に配置された電磁波発生装置より発生した電磁波は、電磁誘導によりLEDやセンサーに接続されているコイルを通し非接触で前記LEDや前記センサーにエネルギーを供給することができる。このためカーペットやカーテンにはバッテリーが不要になる。
【0045】
その他、発光のぼり、発光壁掛け、発光のれん、発光広告布など従来の布に、IDを有する無線回路を内蔵したLEDなどの発光素子を取り付けディスプレイ機能を持たせることにより、よりインパクトのある付加価値を生み出すことができる。この場合、太陽電池が印刷された電子糸を使用することにより、外部電源が必要なくなる。
【0046】
最近無線集積回路(IC)を有するタグが注目を浴びている。本発明の電子繊維または電子糸を利用することにより無線IC、FRID用IC、メモリーなどを有する電子繊維タグまたは電子糸タグとすることができる。その結果、電子繊維タグまたは電子糸は従来のように対象となる物体に貼るのではなく、物体に巻きつけたり、縫い込むことが可能になる。従来のタグは貼ることにより外観を損なったり、剥がれたりする場合が多かったが、本発明の電子繊維タグまたは電子糸はタグの存在が外部からはわからなくなり、衣服に巻きつけたり、貼るのが困難な柔軟性のあるゴム,皮などにも縫い込んだり巻きつけることより容易に取りつけることができる。
【0047】
普段着用している肌着や下着に温度センサーや心拍センサーなどの生体センサーおよび無線回路を有する電子糸を組み込むことにより、肌着や下着にセキュリティ機能を持たせることができる。図8には各種生体センサー入り電子糸が組み込まれたセキュリティウェアの概念図を示す。生体センサーなどの電子デバイスは糸径よりも小さく肉眼では識別できないが図8ではわかりやすくするために電子デバイスのみを拡大表示してある。
【0048】
図8において、セキュリティウェア70は従来から使用されている繊維素材をベースとして、体温センサー71、心拍センサー72、脈拍センサー73、血圧センサー74、音センサー75、位置センサー76、などの各種生体センサーの複数個がプリント法などにより実装された電子糸を下着または肌着に組み込んだり、一般の繊維素材と一部置き換えるなどにより構成されている。さらに、これらセンサー情報を無線で外部に送信するための無線デバイス77などの電子デバイスや電池78も電子糸に実装されている。その結果従来の繊維素材と融合・一体化されており、しかも装着時においてはセンサーなどの電子デバイスが外見からは見えず、身体に違和感のないような構造とすることができる。
【0049】
このよう高度なIT機能を備えたセキュリティウェアの着用者は、高熱や心拍異常など緊急時には無線で家族や警察など外部から救援をいつでも求めることができるので、毎日着用することにより、安心で安全な日常生活を送ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の電子繊維、電子糸および電子布と電子衣料は、その中に組み込まれた種々の電子デバイスや電子回路によって、例えば衣服として着用しながら種々の情報を発信したり、受信することができる。従って、LEDを組み込んだ発行布やゼッケン、のぼりなどのような情報発信媒体や、体温センサーや脈拍センサー、血圧センサーなどの生体センサー、CCDやCMOSなどの画像センサー、位置センサーなどを組み込んだ衣服として、人の種々の情報を常時発信するセキュリテイウエアなどに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の電子糸の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の電子糸の他の例を示す説明図である。
【図3】本発明の丸撚りされた発光糸を示す説明図である。
【図4】LEDがマトリクス配置された本発明の電子布を示す説明図である。
【図5】LEDで模様を形成し、外部電源と接続した本発明の電子布の一例を示す説明図である。
【図6】図5の電子布の導電糸、電子糸,LEDの接続を示す説明図である。
【図7】本発明の一例のディスプレイ付Tシャツを示す図である。
【図8】本発明の一例のセキュリティウエアを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10.平箔糸
11.トランジスタ
12.電気配線
13.抵抗
20.平箔糸
21.LED
22.電気配線
23.充電電池
24.太陽電池
25.ダイオード
30. 発光糸
31.芯糸又は繊維
32.LED
41.電子糸
42.縦糸(絶縁糸)
43.点燈しているLED
51.電子布
52.外部電源
55.導電糸
56.コネクター
57.LED
58.LED
60.Tシャツ
61.LED
62.デイスプレイ
70.セキュリティウエア
71.体温センサー
72.心拍センサー
73.脈拍センサー
74.血圧センサー
75.音センサー
76.位置センサー
77.無線デバイス
78.電池
79.電子糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維若しくは再生繊維からなる繊維又は糸の表面に、微細加工法により電子デバイス、電気配線、電子回路のいずれか又はこれらの組み合わせを形成させたことを特徴とする電子繊維又は電子糸。
【請求項2】
微細加工法が、プリント法、インプリント法、塗布法、めっき法、コーティング法、吐出法、スパッター法、蒸着法、リソグラフィ法のいずれか又はこれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の電子繊維又は電子糸。
【請求項3】
プリント法が、インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷、ディスペンす法のいずれか又はこれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項2に記載の電子繊維又は電子糸。
【請求項4】
合成繊維若しくは再生繊維からなる繊維又は糸が、長尺の糸状の合成繊維又は再生繊維からなるフィルム箔であるいずれかであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の電子繊維又は電子糸。
【請求項5】
電子デバイスが、発光ダイオード、エレクトロルミネセンス、液晶、電池、温度センサー、圧力センサー、心拍センサー、脈拍センサー、血圧センサー、音センサー、画像センサー、位置センサー、光センサー、メモリー、抵抗、コンデンサー、トランジスタ、コイル、コネクター、スイッチ、タグ用集積回路又は受発信用無線集積回路のいずれかであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の電子繊維又は電子糸。
【請求項6】
電子デバイスが、外部電子機器との間で送受信可能な通信回路を有していることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の電子糸または電子繊維。
【請求項7】
通常の繊維素材を芯糸とし、これに請求項1乃至6のいずれかの電子繊維又は電子糸を巻きつけてなることを特徴とする電子糸。
【請求項8】
構成繊維の一部として、請求項1乃至7のいずれかの電子繊維又は電子糸を用いて製造されたものであることを特徴とする繊維製品。
【請求項9】
電子デバイスが、ID機能付無線回路と当該電子デバイスの動作を制御するための電子回路とを搭載し、各電子デバイスの電気的動作を外部から制御させるものであることを特徴とする、請求項8に記載の繊維製品。
【請求項10】
電子デバイスの一部として、発光ダイオード、エレクトロルミネセンス、半導体レーザー、蛍光体のいずれかから選ばれる発光素子を用いた請求項1乃至7のいずれかに記載の電子繊維又は電子糸を用いて構成され、その表面に画像又は模様を表示するものであることを特徴とする繊維製品。
【請求項11】
繊維製品が、請求項1乃至7のいずれかの電子繊維又は電子糸を使用したタグ機能を有するものであることを特徴とする電子繊維タグまたは電子糸タグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−314925(P2007−314925A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113999(P2007−113999)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(303050805)
【Fターム(参考)】