説明

電子装置

【課題】密着補助膜とモールド樹脂との膨張収縮差によりワイヤに発生する応力によって、ワイヤが損傷するのを極力防止する。
【解決手段】ボンディングワイヤ40は、回路基板20の一面21の上方に向かって凸となったループ形状をなしており、回路基板20の一面21上には、回路基板20とモールド樹脂50との間に介在する密着補助膜60が設けられており、ワイヤ40のうちパッド側の接続部41から頂部42まで延びる部位と、回路基板20の一面21との間には、ワイヤ40側から回路基板20側に向かって拡がるフィレット形状をなす密着補助膜60が、ワイヤ40および回路基板20に接した状態で当該間を埋めるように介在しており、ワイヤ40の下に位置する密着補助膜60は、その厚さが0.2mm以下であり、且つ、その軟化点が150℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板と端子とをボンディングワイヤによって接続したものを、モールド樹脂で封止してなる電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の電子装置としては、一般に、一面上にパッドを有する回路基板と、回路基板の周囲に配置された端子と、回路基板の一面上にてパッドと端子とを接続するボンディングワイヤと、回路基板の一面上にて、当該回路基板の一面、ボンディングワイヤおよび端子を封止するモールド樹脂とを備えたものが提案されている。
【0003】
このような回路基板を内蔵したモールド樹脂封止構造においては、大型電子部品の内蔵、電子部品数の増加など、多機能化に対応するためにモールドサイズの大型化が必要となってきている。モールドサイズが大きくなると、構造上、密着性の低い回路基板とモールド樹脂との間に熱ストレスにより隙間が発生する。この隙間は、応力集中が生じやすい回路基板の端部を起点に発生する。
【0004】
そこで、従来では、この対策として、回路基板とモールド樹脂との間にポリアミド樹脂などよりなる密着補助膜を形成するものが提案されている(たとえば、特許文献1、2等参照)。
【特許文献1】特開2006−351737号公報
【特許文献2】特開2006−210749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記した従来技術に基づいて、上記密着補助膜を有する電子装置について試作検討を行った。図10は、本発明者が試作した試作品としての電子装置のうちボンディングワイヤ40における回路基板20側の接続部41の近傍部を拡大して示す概略断面図である。
【0006】
ボンディングワイヤ40は回路基板20の一面21に設けられたパッド23と、図示しない端子とに接続され、これらパッドと端子とを電気的に接続している。そして、ボンディングワイヤ40は、当該ワイヤ40におけるパッド23側の接続部41と上記端子側の接続部との間の部位が、回路基板20の一面21の上方に向かって凸となったループ形状をなすものである。
【0007】
密着補助膜60は、回路基板20の一面21上に設けられ、回路基板20とモールド樹脂50との間に介在して当該両部材20、50を密着させるものである。この密着補助膜60は、回路基板20以外の不必要な箇所への流出を防止するため粘度の高いものが用いられることが多く、このため、回路基板20上に塗布された密着補助膜60は、図10に示されるように、ワイヤ40の下にてフィレット形状をなしている。
【0008】
つまり、密着補助膜60は、ボンディングワイヤ40のうち回路基板20の一面21上にてパッド側の接続部41から図示しないワイヤ40の頂部まで延びる部位と、回路基板20の一面21との間において、ボンディングワイヤ40側から回路基板20側に向かって拡がるフィレット形状をなしている。
【0009】
そして、密着補助膜60は、ボンディングワイヤ40および回路基板20の一面21に接した状態で当該間を埋めた状態で存在しているが、本発明者の検討によれば、このような構造を熱環境下に放置すると、ボンディングワイヤ40における密着補助膜60と接する部位が局部的な疲労を生じ、最悪、断線することがわかった。
【0010】
これは、ワイヤ40に接する密着補助膜60とモールド樹脂50との膨張収縮差により、ワイヤ40における密着補助膜60と接する部位に、局部的に応力が集中するためであると考えられる。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、密着補助膜とモールド樹脂との膨張収縮差によりワイヤに発生する応力によって、ワイヤが損傷するのを極力防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、ボンディングワイヤ(40)におけるパッド(23)側の接続部(41)と端子(30)側の接続部との間の部位が、回路基板(20)の一面(21)の上方に向かって凸となったループ形状をなしており、回路基板(20)の一面(21)上には、回路基板(20)とモールド樹脂(50)との間に介在し当該両部材(20、50)を密着させるための密着補助膜(60)が設けられており、ボンディングワイヤ(40)のうちパッド側の接続部(41)から頂部(42)まで延びる部位と、回路基板(20)の一面(21)との間には、ボンディングワイヤ(40)側から回路基板(20)側に向かって拡がるフィレット形状をなす密着補助膜(60)が、ボンディングワイヤ(40)および回路基板(20)の一面(21)に接した状態で当該間を埋めるように介在しており、回路基板(20)の一面(21)上にてボンディングワイヤ(40)の下に位置する密着補助膜(60)は、その厚さが0.2mm以下であり、且つ、その軟化点が150℃以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明は、実験的に見出されたものであり、後述の図2に示されるように、回路基板(20)の一面(21)上にてボンディングワイヤ(40)の下に位置する密着補助膜(60)の厚さが0.2mm以下であって、その軟化点が150℃以上ならば、密着補助膜(60)とモールド樹脂(50)との膨張収縮差によりワイヤ(40)に発生する応力によって、ワイヤ(40)が損傷するのを極力防止することができる。特に車載用電子装置に好ましい。
【0014】
また、請求項2に記載の発明では、ボンディングワイヤ(40)のうち回路基板(20)の一面(21)上にてパッド側の接続部(41)から頂部(42)まで延びる部位には、回路基板(20)の一面(21)に向かって凸となるようにU字形状に折り返された折り返し部(43)が設けられていることを特徴とする。
【0015】
それによれば、フィレット形状の密着補助膜(60)が形成されるワイヤ(40)の部分にて当該ワイヤ(40)の高さを低くでき、結果、密着保護膜(60)の上記厚さも低くしやすい。
【0016】
請求項3に記載の発明においては、ボンディングワイヤ(40)におけるパッド(23)側の接続部(41)と端子(30)側の接続部との間の部位が、回路基板(20)の一面(21)の上方に向かって凸となったループ形状をなしており、回路基板(20)の一面(21)上には、回路基板(20)とモールド樹脂(50)との間に介在し当該両部材(20、50)を密着させるための密着補助膜(60)が設けられており、ボンディングワイヤ(40)におけるパッド側の接続部(41)を除く当該接続部(41)から頂部(42)まで延びる部位と、密着補助膜(60)とでは、回路基板(20)の一面(21)上の高さが密着補助膜(60)の方が低く、密着補助膜(60)と当該頂部まで延びる部位とは非接触の状態にあることを特徴とする。
【0017】
それによれば、実質的にワイヤ(40)と密着補助膜(60)とが非接触であるため、ワイヤ(40)には、密着補助膜(60)とモールド樹脂(50)との熱による膨張収縮差による応力が実質的に発生せず、密着補助膜(60)によるワイヤ(40)の損傷を極力防止できる。
【0018】
ここで、請求項4に記載の発明のように、密着補助膜(60)の厚さ方向の断面形状は、回路基板(20)の一面(21)上にてパッド(23)の周囲からパッド(23)に向かって低くなるように凹んだ凹形状とされていることが、好ましい。
【0019】
また、請求項5に記載の発明のように、回路基板(20)の一面(21)のうちパッド(23)の周囲には、当該一面(21)より凹んだ凹部(24)が設けられ、この凹部(24)に密着保護膜(60)が入り込んでいるものにすれば、凹部(24)に入り込んだ分、密着保護膜(60)の高さを低くでき、好ましい。
【0020】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子装置の概略断面図であり、(a)は全体断面図、(b)は(a)中の丸で囲んだA部、すなわちワイヤ40におけるパッド41側の接続部41の近傍部の拡大図である。
【0023】
この電子装置は、大きくは、ヒートシンク10と、ヒートシンク10の上面に設置された回路基板20と、回路基板20の周囲に配置された端子30と、ヒートシンク10の上面側にて回路基板20と端子30とを接続するボンディングワイヤ40と、これらヒートシンク10、回路基板20、端子30およびワイヤ40を封止するモールド樹脂50とを備えて構成されている。
【0024】
ヒートシンク10は、回路基板20を搭載するとともに、回路基板20にて発生する熱を放熱するものであり、鉄、銅、アルミなどの板よりなる。また、ヒートシンク10と端子30とは、1枚のリードフレームから分離形成されたものであってもよい。
【0025】
回路基板20は、一般的なセラミック基板やプリント基板などよりなり、回路基板20の下面22側にて樹脂などよりなる接着剤11を介してヒートシンク10の上面に接着され固定されている。
【0026】
回路基板20の上面21には、パッド23が設けられている。このパッド23は、アルミや銅、金などの導電性材料をめっき、蒸着、ペースト印刷・焼成などにより形成してなるもので、ボンディングワイヤ40が接続されるランドとして構成されている。
【0027】
また、端子30は、銅や鉄などよりなる一般的な部材である。そして、回路基板20の上面21と各端子30とは、アルミ、金などからなるボンディングワイヤ40を介して結線されて互いに電気的に接続されている。
【0028】
ここで、ボンディングワイヤ40は、当該ワイヤ40におけるパッド23側の接続部41と当該ワイヤ40における端子30側の接続部との間の部位が、回路基板20の上面21の上方に突出するとともに回路基板20の上面21の上方に向かって凸となったループ形状をなしている。なお、それぞれの接続部とは、ワイヤ40のうちパッド23、端子30に直接接している部分である。
【0029】
そして、モールド樹脂50は、通常のモールド材料を用いてトランスファーモールド法などにより形成されるものである。具体的にモールド樹脂50としては、フィラーを含有するエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などである。このモールド樹脂50は、ヒートシンク10の上面側にてヒートシンク10、回路基板20、端子30およびボンディングワイヤ40を包み込むように封止している。
【0030】
また、ヒートシンク10における上面とは反対側の下面、および、端子30におけるワイヤ40との接続部とが反対側の部分が、モールド樹脂50から露出している。端子30におけるアウターリード部分は外部との電気的な接続を行い、ヒートシンク10の下面は放熱面として構成される。
【0031】
また、回路基板20の一面21、および、端子30におけるワイヤ40が接続される面には、密着補助膜60が設けられている。この密着補助膜60は、ポリアミドなどよりなるこの種の一般的なものであり、ディスペンスなどでこれらの面に塗布した後、これを硬化させることで形成される。
【0032】
この密着補助膜60を形成した後に、モールド樹脂50による封止が行われるものであり、密着補助膜60は、回路基板20の一面21とモールド樹脂50との間に介在し、これら両部材20、50との密着性を高めるものである。
【0033】
ここで、ボンディングワイヤ40のうちパッド23側の接続部41から頂部42まで延びる部位、言い換えれば、ボンディングワイヤ40においてパッド側の接続部41から頂部42までの間の部位のうち回路基板20の一面21上に位置する部位と、回路基板20の一面21との間には、密着補助膜60が介在している。
【0034】
具体的には、このワイヤ40と回路基板20との間に介在する密着補助膜60は、ボンディングワイヤ40側から回路基板20側に向かって拡がるフィレット形状をなしており、ワイヤ40および回路基板20の一面21に接した状態で当該間を埋めるように介在している。
【0035】
言い換えれば、ボンディングワイヤ40においてパッド側の接続部41から頂部42までの間の部位のうち回路基板20の一面21上に位置する部位の下部には、密着補助膜60が存在し、この密着補助膜60は当該部位と回路基板20との間をつなぐフィレット形状をなしている。
【0036】
そして、本実施形態では、密着補助膜60のうち、この回路基板20の一面21上にてボンディングワイヤ40の下に位置する部分の厚さdは、0.2mm以下であり、その軟化点(つまり軟化する温度)が150℃以上である。このような厚さdと軟化点の根拠については、後述する。
【0037】
次に、本実施形態の電子装置の製造方法について述べる。まず、ヒートシンク10の上面に、回路基板20を、接着剤11を介して搭載し固定する。さらに、回路基板20のパッド23と端子30との間でワイヤボンディングを行い、当該間をボンディングワイヤ40により結線する。
【0038】
こうして、ボンディングワイヤ40を接続したものに対して密着補助膜60を形成する。上述したように、密着補助膜60は、ポリアミドを溶剤に溶かしたものをディスペンスなどによって、回路基板20の一面21および端子30におけるワイヤ40の接続面に塗布した後、たとえば100〜200℃好ましくは150℃以下で硬化させることで形成される。
【0039】
ここで、密着補助膜60の厚さは、1μm以上、好ましくは10μm以上であり、特に、上記したように、本実施形態では、密着補助膜60のうち回路基板20の一面21上にてボンディングワイヤ40の下に位置する部分の厚さdは、0.2mm以下とする。このことは、密着補助膜60の塗布における供給量を調整することで可能である。
【0040】
こうして、密着補助膜60を形成した後、図示しない金型などを用いて、モールド樹脂50の成型、すなわち樹脂封止を行う。この樹脂封止は一般的な方法により行える。こうして、本実施形態の電子装置ができあがる。
【0041】
ところで、本実施形態によれば、回路基板20の一面21上にてボンディングワイヤ40の下に位置する密着補助膜60の厚さを0.2mm以下とし、且つ、その軟化点を150℃以上としている。そのため、密着補助膜60とモールド樹脂50との膨張収縮差によりワイヤ40に発生する応力によって、ボンディングワイヤ40が損傷するのを極力防止することができる。
【0042】
この厚さdと軟化点については、本発明者が行った実験検討の結果を根拠とする。本発明者は、ワイヤ40におけるパッド側の接続部41寄りの部位に接する密着保護膜60の厚さdと、ワイヤ40の接続寿命との関係について調査した。
【0043】
調査は熱衝撃試験にて行った。試験条件は、高温側が150℃を超える雰囲気で且つ低温側との温度差が190℃以上となるような熱衝撃をくり返すものとした。また、モールド樹脂50は一般のエポキシ樹脂、ワイヤ40は一般のアルミ線、密着補助膜60は一般に使用されるポリアミドとした。そして、上記密着補助膜60の厚さdを変えたものについて、試験を行った結果を図2に示す。
【0044】
図2は、横軸に、寿命としてワイヤ40が破断したときの熱衝撃のサイクル数をとり、左の縦軸に上記厚さd(単位:μm)をとった。また、この試験においては、各厚さdについて軟化点を測定した。その軟化点の結果は、図2中の右の縦軸側にて各厚さdに対応する位置に示した。
【0045】
たとえば厚さdが600μmのときの軟化点は100℃であり、厚さdが300μmのときの軟化点は150℃である。図2に示されるように、厚さdが小さくなるにつれて、軟化点が高くなり、寿命が延びていく傾向が見られた。
【0046】
密着補助膜60の厚さdが大きくなると、硬化後に密着補助膜60中に残る溶剤の量が多くなることから、軟化点が下がると考えられる。密着補助膜60の軟化点が下がると、熱により密着補助膜60が変形しやすく、その変形によってワイヤ40の歪みも大きくなると考えられる。
【0047】
ここで、車載用の電子装置では、一般に150℃が高温仕様である。このことから密着補助膜60の軟化点が150℃以上ならば、本実施形態の電子装置を自動車に搭載したときに、密着補助膜60とモールド樹脂50との膨張収縮差によりワイヤ40に発生する応力によって、ワイヤ40が断線するのを防止できるといえる。
【0048】
図2からわかるように、上記密着補助膜60の厚さdが0.2mmならば、密着補助膜60の軟化点が150℃以上となる。以上が、本実施形態において、上記密着補助膜60の厚さdと軟化点を規定した根拠である。
【0049】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る電子装置の要部すなわちワイヤ40におけるパッド41側の接続部41の近傍部の概略断面構成を示す図である。本実施形態では、上記第1実施形態との相違点を中心に述べることとする。
【0050】
図3に示されるように、本実施形態では、ボンディングワイヤ40のうち回路基板20の一面21上にてパッド側の接続部41から頂部42まで延びる部位には、回路基板20の一面21に向かって凸となるようにU字形状に折り返された折り返し部43が設けられている。
【0051】
それによれば、フィレット形状の密着補助膜60が形成されるワイヤ40の部分にて当該ワイヤ40の高さを低くできる。つまり、密着補助膜60の塗布時に密着補助膜60がその表面張力でワイヤ40の頂部42に向かって広がるのを、折り返し部43で抑制できる。その結果、密着保護膜60の上記厚さdも低くしやすい。
【0052】
そして、本実施形態によっても、回路基板20の一面21上にてボンディングワイヤ40の下に位置する密着補助膜60の厚さを0.2mm以下とし、且つ、その軟化点を150℃以上としているため、密着補助膜60とモールド樹脂50との膨張収縮差によりワイヤ40に発生する応力によって、ボンディングワイヤ40が損傷するのを極力防止することができる。
【0053】
(第3実施形態)
図4は、本発明の第3実施形態に係る電子装置の要部すなわちワイヤ40におけるパッド23側の接続部41の近傍部の概略断面構成を示す図である。上記第1実施形態との相違点を中心に述べることとする。
【0054】
図4に示されるように、本実施形態では、ボンディングワイヤ40におけるパッド側の接続部41を除く当該接続部41から頂部42まで延びる部位と、密着補助膜60とでは、回路基板20の一面21上の高さが密着補助膜60の方が低い。そうすることで、密着補助膜60とワイヤ40における接続部41から頂部42まで延びる部位とは、離れており非接触の状態にある。
【0055】
ここでは、図4に示されるように、密着補助膜60の厚さ方向の断面形状は、回路基板20の一面21上にてパッド23の周囲からパッド23に向かって低くなるように凹んだ凹形状となっている。
【0056】
本実施形態によれば、実質的にワイヤ40と密着補助膜60とが非接触であるため、ワイヤ40には、密着補助膜60とモールド樹脂50との熱による膨張収縮差による応力が実質的に発生せず、密着補助膜60によるワイヤ40の損傷を極力防止できる。
【0057】
ここで、このような凹形状をなす密着補助膜60の形成方法について、図5および図6を参照して述べる。
【0058】
図5に示される方法では、密着補助膜60を塗布する時に、パッド23の周辺を囲むように密着補助膜60を塗布し、硬化前の密着補助膜60自身の粘性による広がりによって、上記凹形状を得るようにする。図6に示される方法では、パッド23およびその周辺に密着補助膜60を塗布し、パッド23の上方から風圧を加え凹形状を得た後、これを硬化する。
【0059】
図7、図8は、本第3実施形態の他の例その1、他の例その2を示す概略断面図である。ワイヤ40と密着補助膜60とを非接触とするためには、図7に示されるように、パッド23と密着補助膜60とが離れた凹形状であってもよいし、図8に示されるように、パッド23よりもパッド周辺の密着補助膜60の厚さが薄いものでもよい。
【0060】
(第4実施形態)
図9は、本発明の第4実施形態に係る電子装置の要部すなわちワイヤ40におけるパッド23側の接続部41の近傍部の概略断面構成を示す図である。
【0061】
本実施形態では、図9に示されるように、回路基板20の一面21のうちパッド23の周囲に、当該一面21より凹んだ凹部24を設け、この凹部24に密着保護膜60が入り込んだものとしている。この凹部24は、パッド23を取り囲む環状のものでもよいし、不連続のものでもよく、プレス、切削、エッチングなどにより形成される。
【0062】
本実施形態によれば、密着補助膜60が凹部24に入り込んだ分、回路基板20の一面21上における密着保護膜60の高さを低くできる。また、密着補助膜60の塗布時に、凹部24によって密着補助膜60がパッド23側に流れて、ワイヤ40に付着するのを防止できる。本実施形態は、回路基板20に凹部24を形成するのみであるため、上記した各実施形態と組み合わせることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子装置の概略断面図であり、(a)は全体断面図、(b)は(a)中のA部拡大図である。
【図2】ワイヤ下の密着補助膜の厚さおよび軟化点とワイヤ寿命との関係を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る電子装置の要部の概略断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る電子装置の要部の概略断面図である。
【図5】第3実施形態における密着補助膜の形成方法を示す概略断面図である。
【図6】第3実施形態における密着補助膜の形成方法のもう一つの例を示す概略断面図である。
【図7】第3実施形態の他の例その1を示す概略断面図である。
【図8】第3実施形態の他の例その2を示す概略断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る電子装置の要部の概略断面図である。
【図10】本発明者が試作した試作品としての電子装置の要部を概略断面図である。
【符号の説明】
【0064】
20 回路基板
21 回路基板の一面
23 パッド
24 凹部
30 端子
40 ボンディングワイヤ
41 ボンディングワイヤにおけるパッド側の接続部
42 ボンディングの頂部
43 折り返し部
50 モールド樹脂
60 密着補助膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面(21)上にパッド(23)を有する回路基板(20)と、
前記回路基板(20)の周囲に配置された端子(30)と、
前記回路基板(20)の前記一面(21)上にて前記パッド(23)と前記端子(30)とを接続するボンディングワイヤ(40)と、
前記回路基板(20)の前記一面(21)上にて、当該一面(21)、前記ボンディングワイヤ(40)、および、前記端子(30)を封止するモールド樹脂(50)とを備える電子装置において、
前記ボンディングワイヤ(40)における前記パッド(23)側の接続部(41)と前記端子(30)側の接続部との間の部位が、前記回路基板(20)の前記一面(21)の上方に向かって凸となったループ形状をなしており、
前記回路基板(20)の前記一面(21)上には、前記回路基板(20)と前記モールド樹脂(50)との間に介在し当該両部材(20、50)を密着させるための密着補助膜(60)が設けられており、
前記ボンディングワイヤ(40)のうち前記パッド側の接続部(41)から頂部(42)まで延びる部位と、前記回路基板(20)の前記一面(21)との間には、前記ボンディングワイヤ(40)側から前記回路基板(20)側に向かって拡がるフィレット形状をなす前記密着補助膜(60)が、前記ボンディングワイヤ(40)および前記回路基板(20)の前記一面(21)に接した状態で当該間を埋めるように介在しており、
前記回路基板(20)の前記一面(21)上にて前記ボンディングワイヤ(40)の下に位置する前記密着補助膜(60)は、その厚さが0.2mm以下であり、且つ、その軟化点が150℃以上であることを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記ボンディングワイヤ(40)のうち前記回路基板(20)の前記一面(21)上にて前記パッド側の接続部(41)から頂部(42)まで延びる部位には、前記回路基板(20)の前記一面(21)に向かって凸となるようにU字形状に折り返された折り返し部(43)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
一面(21)上にパッド(23)を有する回路基板(20)と、
前記回路基板(20)の周囲に配置された端子(30)と、
前記回路基板(20)の前記一面(21)上にて前記パッド(23)と前記端子(30)とを接続するボンディングワイヤ(40)と、
前記回路基板(20)の前記一面(21)上にて、当該一面(21)、前記ボンディングワイヤ(40)、および、前記端子(30)を封止するモールド樹脂(50)とを備える電子装置において、
前記ボンディングワイヤ(40)における前記パッド(23)側の接続部(41)と前記端子(30)側の接続部との間の部位が、前記回路基板(20)の前記一面(21)の上方に向かって凸となったループ形状をなしており、
前記回路基板(20)の前記一面(21)上には、前記回路基板(20)と前記モールド樹脂(50)との間に介在し当該両部材(20、50)を密着させるための密着補助膜(60)が設けられており、
前記ボンディングワイヤ(40)における前記パッド側の接続部(41)を除く当該接続部(41)から頂部(42)まで延びる部位と、前記密着補助膜(60)とでは、前記回路基板(20)の前記一面(21)上の高さが前記密着補助膜(60)の方が低く、前記密着補助膜(60)と当該頂部まで延びる部位とは非接触の状態にあることを特徴とする電子装置。
【請求項4】
前記密着補助膜(60)の厚さ方向の断面形状は、前記回路基板(20)の前記一面(21)上にて前記パッド(23)の周囲から前記パッド(23)に向かって低くなるように凹んだ凹形状とされていることを特徴とする請求項3に記載の電子装置。
【請求項5】
前記回路基板(20)の前記一面(21)のうち前記パッド(23)の周囲には、当該一面(21)より凹んだ凹部(24)が設けられ、この凹部(24)に前記密着保護膜(60)が入り込んでいることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電子装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−16211(P2010−16211A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175341(P2008−175341)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】