説明

電子走査型レーダ装置、受信波方向推定方法及び受信波方向推定プログラム

【課題】取得するチャンネル数を増やすことなく、方位推定精度を高めた方位検出ができる。
【解決手段】周波数分解処理部がビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、ビート周波数毎に分解されたビート信号に基づいた複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成する。方位検出部が、ビート信号に基づいて算出された複素数データである元の複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する。その方位検出部において、データ拡張部が、元の複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成する。また、第1演算処理部が、拡張複素数データに基づいて受信波の到来方向を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射された送信波に対するターゲットからの反射波を用いて、このターゲットの検出を行う、車載用に好適な電子走査型レーダ装置、受信波方向推定方法及びこれに用いる受信波方向推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載レーダとしては、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ、多周波CW(Continuous Wave)レーダ、及びパルスレーダ等の方式を利用した電子走査型のレーダが知られている。
上記各レーダにおいては、ターゲット(反射物)からの到来波(あるいは受信波)の方向検知の技術として、アレーアンテナの到来波方向推定方法が用いられている。
この到来波方向推定方法は、DBF(ディジタルビームフォーミング)を始め、近年、ARスペクトル推定法(図41)やMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等の高分解能(高精度)アルゴリズムが用いられている(特許文献1、2、3参照)。また、ARスペクトル推定法は、最大エントロピー法(MEM:Maximum Entropy Method )や線形予測法などといわれる場合もある。
これらのアルゴリズムでターゲット(反射物)からの到来波方向推定を行う場合には、複素数によって示される入力データ(複素正弦波にノイズ成分が合成されたデータ)を相関行列といった行列形式に変換してから推定処理が行われる。
【0003】
また、車載レーダに用いられる高分解能到来波方向推定方法では、ノイズ成分を抑制し推定精度を向上させるために、過去の制御サイクルの相関行列を記憶しておき、今回の制御サイクルの相関行列との平均化(又は加算)処理をしてから方向推定処理を実行している。この相関行列の平均化処理は、少ないチャンネル数によって構成される車載用レーダにとって、方位検出精度(角度精度や分離性能)の向上に大きな効果を得ることができる(特許文献2)。
また、これらの高分解能アルゴリズムは、適当な到来波(受信波)数(ARスペクトル推定法の場合はモデル次数)を設定してから推定するという課題があるが、車載用レーダに適用する場合においても、適当な値を設定する必要がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−275840号公報
【特許文献2】特開2009−156582号公報
【特許文献3】特開2009−162688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、方位推定するDBFや高分解能アルゴリズムは、検出された情報から、1つでも多くのチャンネルを取得できる程、処理の元となる行列や正規方程式の次数を増加できたり、行列の要素の精度を良くしたりできるので、方位推定精度が良くなることが知られている。
その反面、小型・低コスト化が必要とされる車載用レーダのような用途においては、受信系の構成を少ないチャンネル数にすることが要求される。
このようにチャンネル数を容易に増やすことができない場合には、方位推定精度を高めることが困難であるという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、取得するチャンネル数を増やすことなく、方位推定精度を高めることができる電子走査型レーダ装置、受信波方向推定方法及び受信波方向推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、移動体に搭載される電子走査型レーダ装置であり、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信部と、前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成部と、前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理部と、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データである元の複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出部と、を備え、前記方位検出部は、前記元の複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成するデータ拡張部と、前記拡張複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する第1演算処理部と、を備えることを特徴とする電子走査型レーダ装置である。
【0007】
(2)また、本発明は、上記発明において、前記方位検出部は、前記拡張複素数データを生成させるための係数を、前記元の複素数データに基づいて作成される線形式により生成することを特徴とする。
【0008】
(3)また、本発明は、上記発明において、前記方位検出部は、前記拡張複素数データを生成させるための係数を、前記元の複素数データに基づいて作成された前記線形式により生成する第2演算処理部を備え、前記データ拡張部は、
前記元の複素数データと前記係数に基づいて前記拡張複素数データを生成することを特徴とする。
【0009】
(4)また、本発明は、上記発明において、前記第1演算処理部は、前記拡張複素数データを要素として、予め定められる所望の次数に増加させた次数増加行列を生成する次数増加行列生成部と、前記次数増加行列を固有値分解することにより固有値と固有ベクトルを得る固有値分解部と、前記得られた固有値と固有ベクトルとに基づいて、前記到来波の波数を推定した波数推定値を算出する波数推定部と、を備え、前記算出された波数推定値により定められた部分空間に基づいて前記受信波の到来方向を算出することを特徴とする。
【0010】
(5)また、本発明は、上記発明において、前記第1演算処理部は、前記算出された波数推定値により定められる前記部分空間に含まれる信号部分空間の疑似逆行列を算出する擬似逆行列算出部と、前記信号部分空間の疑似逆行列から導かれる第1のAR係数と白色雑音の分散値とを算出する第1係数算出部と、を備え、主成分ARスペクトル推定法による演算処理を行うことを特徴とする。
【0011】
(6)また、本発明は、上記発明において、前記係数は、自己回帰モデルを用いるスペクトル推定法において、該自己回帰モデルを示す線形式に基づいて算出されることを特徴とする。
【0012】
(7)また、本発明は、上記発明において、前記データ拡張部は、前記受信波の到来方向を算出する処理を繰り返し行う検知サイクルにおける、今回の検知サイクルにおいて算出された前記係数に基づいて前記拡張複素数データを生成することを特徴とする。
【0013】
(8)また、本発明は、上記発明において、前記ターゲットに対応付けられた情報を、前記検知サイクルの回数に対応付けて記憶する記憶部と、を備え、前記データ拡張部は、前記ターゲットに対応付けられた情報として前記記憶部に記憶されており、前記今回の検知サイクルより過去に行われた過去の検知サイクルにおいて算出された前記係数に基づいて前記拡張複素数データを生成することを特徴とする。
【0014】
(9)また、本発明は、上記発明において、前記データ拡張部は、前記今回の検知サイクルにおいて算出された前記元の複素数データと、前記ターゲットに対応付けられた情報として前記記憶部に記憶されており、前記今回の検知サイクルより過去に行われた過去の検知サイクルにおいて算出された過去の複素数データとに基づいて前記拡張複素数データを生成することを特徴とする。
【0015】
(10)また、本発明は、上記発明において、前記今回の検知サイクルと、前記過去の検知サイクルとにおいて、それぞれ検知された前記ターゲットを関連付け、前記関連付けられたターゲットに対応付けられた情報を前記記憶部に記憶させるターゲット連結処理部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
(11)また、本発明は、上記発明において、前記ターゲット連結処理部は、前記今回及び前記過去の検知サイクルにおける前記ターゲットの関連付けを、距離及び相対速度、又は、距離、相対速度及び方位により行うことを特徴とする。
【0017】
(12)また、本発明は、上記発明において、前記第1演算処理部は、前記ターゲットに対応付けられた情報に基づいて、前記生成された拡張複素数データを要素とする前記次数増加行列を平均する行列フィルタ部を備え、前記固有値分解部は、前記平均化された次数増加行列を固有値分解することにより固有値と固有ベクトルを得ることを特徴とする。
【0018】
(13)また、本発明は、上記発明において、前記第1演算処理部は、前記今回を含む所定の回の検知サイクル中に複数取得した前記複素数データに基づいて拡張された前記拡張複素数データにより作成された第1の正規方程式の構成部である前記次数増加行列と右辺ベクトルに対して平均化処理を行う第1正規方程式フィルタ部を備えることを特徴とする。
【0019】
(14)また、本発明は、上記発明において、前記第2演算処理部は、前記拡張複素数データに基づいて、第2の正規方程式を作成する正規方程式作成部と、前記第2の正規方程式に基づいて導かれる前記係数を算出する第2係数算出部と、を備えることを特徴とする。
【0020】
(15)また、本発明は、上記発明において、前記第2演算処理部は、前記第2の正規方程式を平均する第2正規方程式フィルタ部を備え、前記第2係数算出部は、前記平均化された第2の正規方程式から前記係数を算出することを特徴とする。
【0021】
(16)また、本発明は、上記発明において、前記ビート周波数の強度値からピーク値を検出して前記ターゲットの存在を検知するピーク検知部を備え、前記方位検出部は、前記ピーク検知部によって存在が検知されたターゲットに対応する複素数データに基づいて、前記受信波の到来方向を算出することを特徴とする。
【0022】
(17)また、本発明は、上記発明において、前記複素数データに基づいて、前記受信波を受信する所望の方向の受信感度を高めるデジタルビームフォーミングに基づいて前記ターゲットの存在及び方位を検出するDBF部をさらに備え、前記ピーク検知部は、前記今回の検知サイクルにおけるビート周波数における前記デジタルビームフォーミングに基づいて前記ターゲットの方位を検出することを特徴とする。
【0023】
(18)また、本発明は、上記発明において、前記第1演算処理部は、次数を増加させず、要素の精度を向上させる行列を生成することを特徴とする。
【0024】
(19)また、本発明は、移動体に搭載される電子走査型レーダ装置による受信波方向推定方法であり、受信部が、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信過程と、ビート信号生成部が前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成過程と、周波数分解処理部が前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理過程と、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データである元の複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出過程と、を含み、前記方位検出過程は、前記元の複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成するデータ拡張過程と、前記拡張複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する第1演算処理過程と、を有することを特徴とする受信波方向推定方法である。
【0025】
(20)また、本発明は、移動体に搭載される電子走査型レーダ装置により受信波方向推定の処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであり、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信処理手順と、前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成処理手順と、前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理手順と、前記ビート信号に基づいて算出された複素数データである元の複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出処理手順と、を実行させ、前記方位検出処理において、前記元の複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成するデータ拡張処理手順と、前記拡張複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する第1演算処理手順と、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、受信部が、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される。ビート信号生成部が送信波及び受信波からビート信号を生成する。周波数分解処理部が、ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、ビート周波数毎に分解されたビート信号に基づいた複素数データを算出する。方位検出部が、ビート信号に基づいて算出された複素数データである元の複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する。その方位検出部において、データ拡張部が、元の複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成する。また、第1演算処理部が、拡張複素数データに基づいて受信波の到来方向を算出する。
このように、方位検出部は、ターゲットの存在が検知されたビート周波数ごとに分解されたビート信号から算出された複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成し、その拡張複素数データに基づいて受信波の到来方向を算出することができる。
これにより、取得するチャンネル数を増やすことなく、方位推定精度を高めることができる検出精度を高めた方位検出ができる電子走査型レーダ装置及び受信波方向推定プログラムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態による電子走査型レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】送信信号と、ターゲットに反射された受信信号が入力された状態を示す図である。
【図3】受信アンテナにおける受信波の説明を行う概念図である。
【図4】ビート信号を周波数分解した結果であり、ビート周波数(横軸)とそのピーク値(縦軸)とを示すグラフである。
【図5】ピーク組合せ部24における上昇領域及び下降領域のビート周波数のマトリクスと、そのマトリクスの交点、すなわち上昇領域及び下降領域のビート周波数の組み合わせにおける距離及び相対速度とピークレベルとを示すテーブルである。
【図6】今回の検知サイクルにおけるピークのペアを確定したターゲット毎の距離及び相対速度と周波数ポイントを示すテーブルである。
【図7】本実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
【図8】検知サイクルにおけるデータ取得処理を示すタイムチャートである。
【図9】本実施形態に適用するデータ拡張法について示す図である。
【図10】複素数データを拡張する処理について示す図である。
【図11】複素数データに基づいたM次の正規方程式の構成と平均化処理を示す図である。
【図12】固有値分解について示す図である。
【図13】主成分解AR係数aPCを求める演算処理について示す図である。
【図14】主成分解AR係数aPCから、白色雑音の分散値とパワースペクトルを求める演算処理を示す図である。
【図15】本実施形態の処理を示すフローチャートである。
【図16】図15のステップSa154からステップSa156までに示した信号波数推定処理の詳細を示す図(その1)である。
【図17】図15のステップ154からステップS156までに示した信号波数推定処理の詳細を示す図(その2)である。
【図18】本実施形態における方位検出部にMUSIC法を適用した場合の構成例を示すブロック図である。
【図19】第2実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
【図20】上昇領域及び下降領域それぞれのピークを組み合わせるためのテーブルを示す図である。
【図21】第3実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
【図22】上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定したテーブルである。
【図23】第4実施形態における電子走査型レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図24】本実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
【図25】検知サイクルにおけるデータ取得処理を示すタイムチャートである。
【図26】複素数データに基づいたM次の正規方程式の構成と平均化処理を示す図である。
【図27】メモリ21に設けられるテーブルを示す図である。
【図28】複素数データの記憶方法、呼出方法を示す図である。
【図29】本実施形態の処理の手順(フロー)を示すフローチャートである。
【図30】第5実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
【図31】メモリ21に設けられるテーブルを示す図である。
【図32】本実施形態の処理の手順(フロー)を示すフローチャートである。
【図33】本実施形態のステップSb300の処理における手順(フロー)を示すフローチャートである。
【図34】第6実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
【図35】本実施形態のステップSb300の処理における手順(フロー)を示すフローチャートである。
【図36】第7実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
【図37】上昇領域及び下降領域それぞれのピークを組み合わせるためのテーブルを示す図である。
【図38】第8実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
【図39】上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定したテーブルを示す図である。
【図40】本実施形態による電子走査型レーダ装置の方向推定特性を示す図である。
【図41】従来のARスペクトル推定処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<ARスペクトル推定の説明>
以下、本発明の実施形態に適用するARスペクトル推定法について示す。
ARスペクトル推定法(AR Spectral Estimation)は、MUSIC法と同じくスペクトルを推定するスペクトル推定法として知られており、ARモデル(Autoregressive Model:自己回帰モデル)を用いた推定処理を行う。また、ARスペクトル推定法は、MUSIC法が部分空間法として分類されるときに、パラメトリック法として分類される。また、ARスペクトル推定法は、最大エントロピー法、線形予測法と呼ばれる場合もある。
【0029】
ARスペクトル推定法は、まず線形式によって示されるARモデルを用いてモデル化して、入力データに基づいた線形式である正規方程式(自己相関行列や共分散行列と呼ばれる行列と、右辺ベクトルや相互相関ベクトルと呼ばれるベクトルも含まれる)を作成する。さらに、正規方程式に基づいて、ARフィルタの係数(AR係数)と入力白色雑音の分散値を求めた後、そのAR係数と入力白色雑音の分散値を用いてパワースペクトルを求め推定する手法である(図41参照)。入力データには、時系列のデータの他、本実施形態におけるレーダのような空間方向のチャネルデータに対しても適用できる。ARスペクトル推定法には、自己相関行列を用いた手法と共分散行列を用いた手法に大別され、自己相関行列を用いた手法として自己相関法(Autocorrelation Method)(又は、ユールウォーカー法)とバーグ法(Burg Method)があり、共分散行列を用いた方法として共分散法(Covariance Method)と改良共分散法(Modified Covariance Method)がある。また、改良共分散法は、前向き後向き線形予測法(Foward and Backward Linear Prediction Method、FBLP法)とも呼ばれる。
上記のARスペクトル推定法(以下、「標準的なARスペクトル推定法」という)は、固有値分解を行わないので、演算負荷が比較的軽いことが特色である。
【0030】
ところで、本実施形態に示すARスペクトル推定法においては、検出した信号を信号部分空間とノイズ部分空間に分離して検出処理を行う。その信号部分空間を抽出することにより、ARモデルの次数を固定値にしていても、受信信号波数に応じたスペクトル推定処理における検出特性を適応させることができる。
このような実施形態に示すARスペクトル推定法は、改良共分散法(又は、共分散法)によって示される共分散行列の信号部分空間に対してARパラメータ推定方法(Principal Component AR Spectral estimator:主成分ARスペクトル推定法)を適用する。この主成分ARスペクトル推定法は、パラメトリック法と部分空間法とを統合させるような手法である。ARスペクトル推定法において、この主成分ARスペクトル推定法を適用することにより、共分散行列の固有値分解の結果をスペクトル推定の演算処理に取り入れることができる。このARパラメータ推定方法の概念については、参考文献に記されている[参考文献:Steven M.Kay / Modern Spectral Estimation Theory & Application / Prentice Hall / 1988.pp426-428 (13.8.1 AR Frequency Estimation)の主成分ARスペクトル推定(Principal Component AR Spectral Estimator)を参照]。
なお、信号部分空間の抽出は、信号部分空間に対応する共分散疑似逆行列の作成により行う。
このように、主成分ARスペクトル推定法は、設定次数に対して受信信号波数が少なくノイズ成分が多い場合であっても、偽ピークの発生を低減させることができるので、ARスペクトル推定における推定精度を高めるよう、次数を増加させることが可能である。
【0031】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態による電子走査型レーダ装置(FMCW方式ミリ波レーダ)について図面を参照して説明する。
図1は、同実施形態における電子走査型レーダ装置の構成を示すブロック図である。
この図において、本実施形態による電子走査型レーダ装置は、受信アンテナ1−1〜1−n、ミキサ2−1〜2−n、送信アンテナ3、分配器4、フィルタ5−1〜5―n、SW(スイッチ)6、ADC(A/Dコンバータ)7、制御部8、三角波生成部9、VCO10、信号処理部20Aを備える。
信号処理部20Aは、メモリ21、周波数分離処理部22、ピーク検知部23、ピーク組合せ部24、距離検出部25、速度検出部26、ペア確定部27、ターゲット確定部31、及び、方位検出部60を備える。
【0032】
次に、図1を参照して、本実施形態による電子走査型レーダ装置の動作を説明する。
受信アンテナ1−1〜1−nは、送信波がターゲットにて反射し、このターゲットから到来する反射波、すなわち受信波を受信する。
ミキサ2−1〜2−nは、送信アンテナ3から送信される送信波と、受信アンテナ1−1〜1−nそれぞれにおいて受信された受信波が増幅器により増幅された信号とを混合して、それぞれの周波数差に対応したビート信号を生成する。
送信アンテナ3は、三角波生成部9において生成された三角波信号を、VCO(Voltage Controlled Oscillator )10において周波数変調した送信信号をターゲットに対して送信波として送信する。
分配器4は、VCO10からの周波数変調された送信信号を、ミキサ2−1〜2−n及び送信アンテナ3に分配する。
【0033】
フィルタ5−1〜5−n各々は、それぞれミキサ2−1〜2−nにおいて生成された各受信アンテナ1−1〜1−nに対応したCh1〜Chnのビート信号に対して帯域制限を行い、SW(スイッチ)6へ帯域制限されたビート信号を出力する。
SW6は、制御部8から入力されるサンプリング信号に対応して、フィルタ5−1〜5−n各々を通過した各受信アンテナ1−1〜1−nに対応したCh1〜Chnのビート信号を、順次切り替えて、ADC(A/Dコンバータ)7に出力する。
ADC7は、SW6から上記サンプリング信号に同期して入力される、各受信アンテナ1−1〜1−n各々に対応したCh1〜Chnのビート信号を、上記サンプリング信号に同期してA/D変換してデジタル信号に変換し、信号処理部20におけるメモリ21の波形記憶領域に順次記憶させる。
制御部8は、マイクロコンピュータなどにより構成されており、図示しないROMなどに格納された制御プログラムに基づき、図1に示す電子走査型レーダ装置全体の制御を行う。
【0034】
<距離、相対速度、角度(方位)を検出する原理>
次に、図を参照し、本実施形態における信号処理部20において用いられる電子走査型レーダ装置とターゲットとの距離、相対速度、角度(方位)を検出する原理について簡単に説明する。
図2は、送信信号と、ターゲットに反射された受信信号が入力された状態を示す図である。
この図に示される信号は、図1の三角波生成部9において生成された信号をVCO10において周波数変調した送信信号と、その送信信号をターゲットが反射して、受信された受信信号である。この図の例では、ターゲットが1つの場合を示す。
図2(a)から判るように、送信する信号に対し、ターゲットからの反射波である受信信号が、ターゲットとの距離に比例して右方向(時間遅れ方向)に遅延されて受信される。さらに、ターゲットとの相対速度に比例して、送信信号に対して上下方向(周波数方向)に変動する。そして、図2(a)にて求められたビート信号の周波数変換(フーリエ変換(FFT)やDTC、アダマール変換、ウェーブレッド変換など)後において、図2(b)に示されるように、ターゲットが1つの場合、上昇領域及び下降領域それぞれに1つのピーク値を有することなる。ここで、図2(a)は横軸が周波数、縦軸が強度を示す。
【0035】
周波数分解処理部22は、メモリ21に蓄積されたビート信号のサンプリングされたデータから、三角波の上昇部分(上り)と下降部分(下り)とのそれぞれについて周波数分解、例えばフーリエ変換などにより離散時間に周波数変換する。すなわち、周波数分解処理部22は、ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、ビート周波数毎に分解されたビート信号に基づいた複素数データを算出する。
その結果、図2(b)に示すように、上昇部分と下降部分とにおいて、それぞれの周波数分解されたビート周波数毎の信号レベルのグラフが得られる。
そして、ピーク検知部23は、図2(b)に示すビート周波数毎の信号レベルからピーク値を検出し、ターゲットの存在を検出するとともに、ピーク値のビート周波数(上昇部分及び下降部分の双方)をターゲット周波数として出力する。
【0036】
次に、距離検出部25は、ピーク組合せ部24から入力される上昇部分のターゲット周波数fuと、下降部分のターゲット周波数fdとから、下記式により距離rを算出する。式中の「・」は、乗算を示す。
r={C・T/(2・Δf)}・{(fu+fd)/2}
また、速度検出部26は、ピーク組合せ部24から入力される上昇部分のターゲット周波数fuと、下降部分のターゲット周波数fdとから、下記式により相対速度vを算出する。
v={C/(2・f0)}・{(fu−fd)/2}
上記距離r及び相対速度vを算出する式において、
C :光速度
Δf:三角波の周波数変調幅
f0 :三角波の中心周波数
T :変調時間(上昇部分/下降部分)
fu :上昇部分におけるターゲット周波数
fd :下降部分におけるターゲット周波数
【0037】
次に、本実施形態における受信アンテナ1−1〜1−nについて示す。
図3は、受信アンテナにおける受信波の説明を行う概念図である。
この図に示されるように、受信アンテナ1−1〜1−nは、間隔dによりアレー状に配置される。受信アンテナ1−1〜1−nには、アンテナを配列している面に対する垂直方向の軸に対して角度θ方向から入射される、ターゲットからの到来波(入射波、すなわち送信アンテナ3から送信した送信波に対するターゲットからの反射波)が入力する。このとき、その到来波は、受信アンテナ1−1〜1−nにおいて同一角度にて受信される。この同一角度、例えば角度θ及び各アンテナの間隔dにより求められる位相差「dn−1・sinθ」が、各隣接する受信アンテナ間にて発生する。
その位相差を利用して、アンテナ毎に時間方向に周波数分解処理された値を、アンテナ方向にさらにフーリエ変換するデジタルビームフォーミング(DBF)や高分解能アルゴリズム等の信号処理にて上記角度θを検出することができる。
【0038】
<信号処理部20における受信波に対する信号処理>
次に、信号処理部20Aにおける受信波に対する信号処理について示す。
メモリ21は、波形記憶領域が設けられている。メモリ21は、ADC7によってA/D変換された受信信号の時系列データ(上昇部分及び下降部分)を、アンテナ1−1〜1−n毎に対応させて、上記波形記憶領域に記憶している。例えば、上昇部分及び下降部分それぞれにおいて256個をサンプリングした場合、2×256個×アンテナ数のデータが、上記波形記憶領域に記憶される。
周波数分解処理部22は、例えばフーリエ変換などにより、各Ch1〜Chn(各アンテナ1−1〜1−n)に対応するビート信号それぞれを、予め設定された分解能に応じて周波数成分に変換することによりビート周波数を示す周波数ポイントと、そのビート周波数の複素数データを出力する。例えば、アンテナ毎に上昇部分及び下降部分それぞれが256個のサンプリングされたデータを有する場合、アンテナ毎の複素数の周波数領域データとしてビート周波数に変換され、上昇部分及び下降部分それぞれにおいて128個の複素数データ(2×128個×アンテナ数のデータ)となる。また、上記ビート周波数は周波数ポイントにて示されている。
ここで、アンテナ毎の複素数データには、上記角度θに依存した位相差があり、それぞれの複素数データの複素平面上における絶対値(受信強度あるいは振幅など)は等価である。
【0039】
ピーク検知部23は、周波数変換されたビート周波数の三角波の上昇領域及び下降領域それぞれ強度のピーク値を、複素数データを用いて信号強度(または振幅など)におけるピークから、予め設定された数値を超えるピーク値を有するビート周波数を検出することにより、ビート周波数毎のターゲットの存在を検出して、ターゲット周波数を選択する。
従って、ピーク検知部23は、いずれかのアンテナにおける複素数データ又は、全アンテナの複素数データの加算値を周波数スペクトル化することにより、スペクトルの各ピーク値がビート周波数、すなわち距離に依存したターゲットの存在として検出することができる。全アンテナの複素数データの加算により、ノイズ成分が平均化されてS/N比が向上する。
【0040】
ピーク組合せ部24は、ピーク検知部23から入力される図4に示すビート周波数とそのピーク値について、上昇領域及び下降領域それぞれのビート周波数とそのピーク値をマトリクス状に総当たりにて組み合わせ、すなわち上昇領域及び下降領域それぞれのビート周波数を全て組み合わせて、順次、距離検出部25及び速度検出部26へ出力する。ここで、図4は、横軸がビート周波数の周波数ポイントを示し、縦軸が信号のレベル(強度)を示している。
距離検出部25は、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組み合わせのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの上記距離rを演算する。
また、速度検出部26は、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組み合わせのビート周波数の差分によりターゲットとの上記相対速度vを演算する。
【0041】
ペア確定部27は、入力される上記距離r、相対速度v及び下降、上昇のピーク値レベルpu、pdにより、図5に示すテーブルを生成し、ターゲット毎に対応した上昇領域及び下降領域それぞれのピークの適切な組み合わせを判定し、図6に示すテーブルとして上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定し、確定した距離r及び相対速度vを示すターゲット群番号をターゲット確定部31へ出力する。そして、周波数分解処理部22に、ペアが確定した周波数ポイントを送り、方位検出部60へ送る複素数データを決定する。図6にはターゲット群番号に対応して、距離、相対速度及び周波数ポイント(上昇領域及又は下降領域)が記憶されている。図5及び図6のテーブルは、ペア確定部27の内部記憶部に記憶されている。ここで、各ターゲット群は、方向が決定されていないため、電子走査型レーダ装置におけるアンテナアレーの配列方向に対する垂直軸に対して、受信アンテナ1−1〜1−nの配列方向に平行な横方向の位置は決定されていない。
【0042】
ここで、ペア確定部27は、例えば、過去の検知サイクルにて、最終的に確定した各ターゲットとの距離r及び相対速度vから今回の検知サイクルにて予測される値を優先してターゲット群の組み合わせの選択を行う等の手法を用いることもできる。
【0043】
以下、スペクトル推定処理において高分解能アルゴリズムとして知られるARスペクトル推定法を用いる場合の構成例について、より具体的に示す。
方位検出部60は、高分解能アルゴリズムのARスペクトル推定処理によるスペクトル推定処理を行い、スペクトル推定の結果に基づいて対応するターゲットの方位を検出して、ターゲット確定部31へ出力する。
このような方位検出部60は、ビート信号に基づいて算出された複素数データに基づいてデータ数を拡張させた拡張複素数データを生成し、その拡張複素数データを要素とする正規方程式の構成部である行列の固有値に基づいて受信波の波数を推定する。また、方位検出部60は、該推定された波数に応じた数の固有値と固有ベクトルに基づいて作成される信号部分空間の擬似逆行列に基づいた正規方程式の解として算出されるAR係数を算出し、該算出されたAR係数に基づいて受信波の到来方向を算出する。
ターゲット確定部31は、ペア確定部27から入力される図6の距離r、相対速度v、周波数ポイントと、方位検出部60によって検出されたターゲットの方位とを結びつけて現在の状態を確定し出力する。
【0044】
図7は、本実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
図7に示される方位検出部60Aは、図1に示した方位検出部60の一態様である。
方位検出部60Aは、データ拡張部610、主成分ARスペクトル推定部620、FBLP部640、及び、パワースペクトル算出部680を備える。
【0045】
データ拡張部610は、受信波の到来方向を算出する処理を繰り返し行う検知サイクルにおける今回の検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データ及びAR係数から、データ数を拡張させた拡張複素数データを生成する。
なお、今回の検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データ(1、・・・、P)は、周波数分解処理部22が周波数分解したビート周波数(上昇と下降のいずれか又は両方)に応じた複素数データである。
データ拡張部610は、データ数を拡張する元の複素数データに基づいて設定可能な第2の次数のAR係数(AR係数2)により増加させ、拡張複素数データを生成する。
なお、データ拡張部610におけるAR係数2は、後述のFBLP部640によって算出される。
【0046】
主成分ARスペクトル推定部620(第1演算処理部)は、拡張複素数データに基づいて受信波の到来方向を算出する。例えば、主成分ARスペクトル推定部620は、拡張複素数データから作成した正規方程式(第1の正規方程式)の解として第1の次数のAR係数(AR係数1)と白色雑音の分散値とを算出する。
主成分ARスペクトル推定部620は、正規方程式作成部621、正規方程式フィルタ部622、固有値分解部623、波数推定部624、共分散擬似逆行列算出部625、及び、AR係数算出部626を備える。
【0047】
正規方程式作成部621(次数増加行列生成部)は、「今回検知サイクル」において、データ拡張部610によってデータ拡張された拡張複素数データのそれぞれから導かれる複数の正規方程式(第1の正規方程式)を作成する。作成された第1の正規方程式の次数は、AR係数算出部626によるARスペクトル推定における次数と同じである。
正規方程式フィルタ部622は、正規方程式作成部621によって作成された「今回検知サイクル」における正規方程式の平均化処理をする。
【0048】
固有値分解部623は、正規方程式フィルタ部622によって平均化処理された「今回検知サイクル」における平均化正規方程式の共分散行列に基づいて固有値分解処理を行う。固有値分解処理は、共分散行列に基づいた特性方程式から固有値及び固有ベクトルを算出する処理である。固有値分解処理には、任意の解法プログラムを適用することができる。例えば、直接特性方程式を解く他、ヤコビ法、ハウスホルダ法、QR法等の反復タイプのアルゴリズムを適用することも可能である。
【0049】
波数推定部624は、固有値分解部623による固有値分解処理により算出された固有値(及び固有ベクトル)から最大の値を示す固有値を判定する。波数推定部624は、それぞれ算出された固有値を、算出された固有値の最大の値に基づいて正規化する。波数推定部624は、正規化された固有値を予め定められる閾値に基づいて判定し、その判定結果に基づいて後段の処理の波数を選択する。選択された波数によって、後段の信号部分空間が定められる。
【0050】
共分散擬似逆行列算出部625は、固有値分解部623により算出された固有値と固有ベクトルから、部分空間に含まれる信号部分空間の共分散疑似逆行列を作成する。この信号部分空間の共分散疑似逆行列を作成することにより、ノイズ成分を除去することができる。
【0051】
AR係数算出部626は、共分散擬似逆行列算出部625によって作成された信号部分空間の共分散疑似逆行列と右辺ベクトルから導かれるAR係数と、入力白色雑音の分散σを算出する。このように、AR係数算出部626は、検知サイクルに応じて、ターゲットの存在が検知されたビート周波数である検出ビート周波数の複素数データに基づいたAR係数と、入力白色雑音の分散σを導くことができる。また、AR係数算出部626は、パワースペクトル算出部680へ、導かれたAR係数と入力白色雑音の分散σを出力する。
パワースペクトル算出部680は、そのAR係数と入力白色雑音の分散σに基づいて導かれるパワースペクトルから受信波の到来方向を算出する。
【0052】
FBLP部640(第2演算処理部)は、拡張複素数データを生成させるための係数を、元の複素数データに基づいて作成された線形式により生成する。例えば、FBLP部640は、取得された複素数データから作成した正規方程式(第2の正規方程式)に基づいてAR係数(係数)を算出する。
FBLP部640は、正規方程式作成部641、正規方程式フィルタ部642、及び、AR係数算出部643を備える。
正規方程式作成部641は、周波数分解処理部22が周波数分解したビート周波数(上昇と下降のいずれか又は両方)に応じた複素数データのそれぞれから導かれ、ARスペクトル推定における第2の次数の正規方程式(第2の正規方程式)を作成する。
正規方程式フィルタ部642は、正規方程式作成部641によって作成された「今回検知サイクル」における第2の正規方程式の平均化処理をする。
AR係数算出部643は、正規方程式フィルタ部642によって平均化処理された第2の正規方程式から導かれる第2の次数のAR係数(AR係数2)を算出する。このように、AR係数算出部643は、今回検知サイクルにおいて検知された受信波によるビート周波数に応じた複素数データに基づいて算出されるAR係数を得、後段のデータ拡張のための係数とする。
【0053】
このように、方位検出部60Aは、自己回帰モデルを用いるスペクトル推定法により、信号部分空間の擬似逆行列に基づいて受信波の到来方向を算出する。
なお、本実施形態において、データ拡張部610が第1手段として機能する。正規方程式作成部621、正規方程式フィルタ部622、固有値分解部623、共分散擬似逆行列算出部625及びAR係数算出部626とが第2手段として機能する。波数推定部624が第3手段として機能する。FBLP部640が第4手段として機能する。
【0054】
図8は、検知サイクルにおけるデータ取得処理を示すタイムチャートである。
図8には、今回制御(検知)サイクルからさかのぼって、過去に行われた過去制御(検知)サイクルが示されている。
各サイクルでは、少なくとも1回のデータ取得が行われ、1回のデータ取得を三角の波形で示す。三角の波形は、FMCW方式によって変調された信号を示し、右上がりのタイミングにおいて上り、右下がりのタイミングにおいて下りの検知が行われる。
個々のデータ取得は、干渉が生じないだけの時間間隔が確保され繰り返し行われ、三角波の周波数変調周期は、必ずしも同一でなくても良い。
今回制御(検知)サイクルにおいて、P回のデータ取得が行われ、1回目に行われたデータ取得を「今回データ_1取得」として示し、P回目に行われたデータ取得を「今回データ_P取得」として示す。なお、データ取得の回数は、予め定められる任意の回数にすることができる。
同じサイクル内で取得されたデータに基づいて、前述の正規方程式の平均化処理が行われる(後に詳細に示す)。
また、現在データ取得されている制御(検知)サイクルを「今回制御(検知)サイクル」といい、「今回制御(検知)サイクル」より過去に行われた制御(検知)サイクルを「過去制御(検知)サイクル」という。
【0055】
<ARモデルを用いた正規方程式の作成処理の原理>
次に、ARモデルを用いた正規方程式の作成処理について、改良共分散法(前向き後向き線形予測法)を例にして詳細に示す。
共分散行列を用いた正規方程式を式(1)に示す。
【0056】
【数1】

【0057】
式(1)において、左辺が共分散行列CxxとAR係数ベクトルaの積であり、右辺が右辺ベクトルcxxである。
共分散行列Cxxの要素は、式(2)として示される関係式(改良共分散関数)によって導かれる。
【0058】
【数2】

【0059】
式(2)において、x(n)は、複素数データを示し、「*」は、複素共役を示す。
また、右辺ベクトルcxxの要素は、式(2)において、kの値を「0」することによって導かれる。
以下、具体的な構成として5チャンネルのデータに基づいて3次の処理を行う場合を例として示す。モデル次数は任意に設定できるが、5チャンネルのデータの場合、改良共分散法では3次が最大となる。データのチャンネル数をさらに多くすると、正規方程式に適用できる次数も大きくなり、適用するモデル次数の柔軟性を高めることができる。
モデル次数を3次とした場合、共分散行列Cxxは、3行3列の行列式で表すことができ、その式を式(3)として示す。
【0060】
【数3】

【0061】
式(3)において、行列の各要素Cx3(k,j)は、複素数を示す。なお、式(2)におけるx(n)、すなわち、(x(0)、x(1)、x(2)、x(3)、x(4))は、それぞれが複素数データを示す。
式(3)に示されるように、共分散行列Cxxは、式(4)として示される関係があることから、エルミート行列(複素数対称行列)となる。
【0062】
【数4】

【0063】
また、同様に、3次の処理を行う場合の右辺ベクトルcxxを式(5)として示す。
【0064】
【数5】

【0065】
主成分ARスペクトル推定部620における正規方程式作成部621、及び、FBLP部640における正規方程式作成部641は、上記の式(1)、式(2)に従って正規方程式を作成する。
【0066】
<検知した複素数データを拡張させる線形予測処理(データ拡張法)の原理>
続いて、図9と図10を参照し、検知した複素数データを拡張させるデータ拡張法について示す。
ARスペクトル推定法は、データ数(データ長)と次数を増やすことにより検出精度を高めることができる。
本実施形態においては、線形予測処理によるデータ拡張を行い、元となる複素数データよりデータ数を拡張させる。
図9は、本実施形態に適用するデータ拡張法について示す図である。
既知のN個の元データから、その既知の元データの領域に隣接する領域のデータを式(6)による演算式により拡張する。
【0067】
【数6】

【0068】
式(6)において、xハット(n)は、生成されるデータ(生成データ)を示し、aハット(i)は、AR係数を示し、x(n−i)は、元データを示す。ただし、Lは拡張データ数を示し、Mはデータ拡張を行う次数を示し、nは(N+1)からLまでの整数を示す。
【0069】
図9(a)に示すように、この式(6)による演算処理により、既知のN個の元データから拡張されるデータ(拡張データ)は、既知の元データを含めてL個に拡張した拡張データを得る場合を示している。このようなデータ拡張法を、Burg法に適用した場合についての報告(データ拡張Burg法)がある(参考文献:島村,鈴木,“Burg法のためのデータ予測”、電子情報通信学会論文誌、’94/8 Vol.J77-A No.8参照)。
【0070】
本実施形態では、前に示すデータ拡張方法を、複素数データを対象データとする後述のFBLP法及び主成分ARスペクトル推定法に適用する。
本実施形態における正規方程式を、式(7)として示す。
【0071】
【数7】

【0072】
式(7)において、AAは行列を示し、共分散行列に対応する。gは係数ベクトルを示し、AR係数に対応する。Ahはベクトルを示し、右辺ベクトルに対応する。また、Aはデータ行列Aの複素共役転置行列を示す。このように、式(1)、式(2)の正規方程式の記述を、式(7)のように示すこともできる。
【0073】
本実施形態のデータ拡張方法は、図9(b)のように複素数データについて適用し、図10に示すように前向きの線形予測だけでなく、後向きの線形予測を行い、データの前後で拡張できるようにした。コンピュータ計算実験等の研究の結果、参考文献にある実数データによるBurg法以外の本実施形態の方法においても安定した推定精度を保てることを検証した。
以下に示す本実施形態では、ARスペクトル推定法として、改良共分散法を用いる場合を例に説明する。
【0074】
次に図を参照し複素数データを拡張する処理について、より詳細に示す。
図10は、複素数データを拡張する処理について示す図である。
最初に、図10(a)において、前向き線形予測式を用いて複素数データを拡張する処理について示す。
図に示されるx(1)、x(2)、x(3)、x(4)、x(5)は、拡張処理の対象(元データ)である複素数データである。
これらの元データに対し、連続するデータを拡張する場合を示す。
ここで、データx(1)からx(5)の方向に線形予測する処理を前向きとし、その逆方向を後向きとする。
【0075】
まず、前向き線形処理を行う演算式(前向き線形予測式)を、式(8)として示す。
【0076】
【数8】

【0077】
式(8)において、xハット(n)は、生成されるデータ(生成データ)を示し、aハット(i)は、AR係数を示し、x(n−i)は、元データを示す。ただし、Mは、データ拡張を行う次数を示す。
前向き線形処理の対象とする元データは、次数が3の場合は(x(3)、x(4)、x(5))で、次数が5の場合は(x(1)、x(2)、x(3)、x(4)、x(5))のいずれかである。
上記に示したグループの元データを、式(8)に適用することにより、前向き方向の予測データを得ることができる。
また、各グループ内のデータの順序を逆にして、式(8)に示した前向き線形処理を行う演算式を適用することにより、後向き方向のデータを得ることもできる。
【0078】
次に、図10(b)において、後向き線形予測式を用いて複素数データを生成する処理について示す。
同じ元データを用いて、後向き線形処理を行う演算式(後向き線形予測式)を、式(9)として示す。
【0079】
【数9】

【0080】
式(9)において、xハット(n)は、生成されるデータ(生成データ)を示し、a*ハット(i)は、AR係数の複素共役を示し、x(n+i)は、元データを示す。ただし、Mは、データ拡張を行う次数を示す。
後向き線形処理の対象とする元データは、次数が3の場合は(x(1)、x(2)、x(3))で、次数が5の場合は(x(1)、x(2)、x(3)、x(4)、x(5))のいずれかである。
上記に示したグループの元データを、式(9)に適用することにより、後向き方向の予測データを得ることもできる。
また、各グループ内のデータの順序を逆にして、式(9)に示した後向き線形処理を行う演算式を適用することにより、前向き方向のデータを得ることもできる。
【0081】
次に、図10(c)において、前向き線形予測式と後向き線形予測式とを用いて複素数データを生成する処理について示す。
この処理では、式(8)に示した前向き線形処理を行う演算式と、式(9)に示した後向き線形処理を行う演算式をそれぞれ用いる。
2つの演算式をそれぞれ用いることにより、元データの順序を反転させることなく、前方の予測演算処理と、後方の予測演算処理を行うことができる。
3次でデータ拡張する場合、前向き線形処理の対象とする元データは、(x(3)、x(4)、x(5))であり、後向き線形処理の対象とする元データは、(x(1)、x(2)、x(3))である。
また、5次でデータ拡張する場合、前向き線形処理の対象及び後向き線形処理の対象とする元データは、いずれも(x(1)、x(2)、x(3)、x(4)、x(5))である。
図10(d)は、3次の前向き線形処理及び後向き線形処理によりデータ拡張する場合を示す図である。
実数部と虚数部に分けて示した複素数データ(x(1)、x(2)、x(3)、x(4)、x(5))は、2つの曲線としてそれぞれ示される。実線が、実数部の変化を示し、破線が、虚数部の変化を示す。図10(c)に示したように、5チャンネルのデータに基づいて、3次のデータ拡張処理をするには、連続する3つのデータの組が、実数部と虚数部でそれぞれ2組得られる。それぞれの組の複素数データ(実数部と虚数部)は、式(8)と式(9)に示す前向きと後向きの線形予測式の複素数x(n-1)又はx(n+1)に代入される。
上記に示した、3通りの予測演算処理のいずれかを適用することにより、前方のデータ拡張処理と、後方のデータ拡張処理を行うことができる。
【0082】
次に図を参照し、複素数データに基づいたM次の正規方程式の構成と平均化処理について示す。
図11は、複素数データに基づいたM次の正規方程式の構成と平均化処理を示す図である。
図11に示されるM次の正規方程式は、M次の正方行列である共分散行列と、M行1列のAR係数と、M行1列の右辺ベクトルで構成される。
主成分ARスペクトル推定部620(図7)においては、拡張された拡張複素数データに基づいて、第1の共分散行列と、第1の右辺ベクトルとが生成される。第1のAR係数は、第1の共分散行列と第1の右辺ベクトルを構成部とする第1の正規方程式を解くことにより算出される。
また、FBLP部640(図7)においては、取得された複素数データに基づいて、第2の共分散行列と、第2の右辺ベクトルとが生成される。第2のAR係数は、第2の共分散行列と第2の右辺ベクトルを構成部とする第2の正規方程式を解くことにより算出される。
【0083】
ここでは、FBLP部640における第2の正規方程式の平均化処理について示す。
図8に示したように1つの制御(検知)サイクルにおいて複数回のデータ取得が行われる。取得された複素数データを取得された順に、共分散行列Cxxk(t)と右辺ベクトルcxxk(t)が生成される。
図8において、1制御(検知)サイクルにおいてデータを取得する回数をP回とする。取得された回数に対応させて、「今回_1」、・・・、「今回_P」として順に、共分散行列Cxxk(t)を共分散行列Cxx1(t)から共分散行列CxxP(t)として、右辺ベクトルcxxk(t)を右辺ベクトルcxx1(t)から右辺ベクトルcxxP(t)として示す。
【0084】
本実施形態において、後に示す正規方程式の平均化処理では、同一制御(検知)サイクル内に取得されたデータに基づいて行われ、「今回_1」から「今回_P」までの共分散行列Cxxk(t)と右辺ベクトルcxxk(t)を構成する要素をそれぞれ平均することにより、平均化処理が行われる。平均化共分散行列Ave_Cxx(t)を算出する演算式を式(10)に示す。
【0085】
【数10】

【0086】
式(10)において、k1からkPは、加重平均を行う場合の重み計数である。
また、平均化右辺ベクトルAve_cxx(t)を算出する演算式を式(11)に示す。
【0087】
【数11】

【0088】
式(11)において、k1からkPは、加重平均を行う場合の重み計数である。
FBLP部640の正規方程式フィルタ部642における第2の正規方程式の平均化処理においては、上記の演算により第2の平均化共分散行列Ave_Cxx(t)と第2の平均化右辺ベクトルAve_cxx(t)とを算出する。
算出された第2の平均化共分散行列Ave_Cxx(t)と第2の平均化右辺ベクトルAve_cxx(t)とから、AR係数算出部643は、第2のAR係数を算出する。なお、第2の正規方程式の次数(M)は、例えば3次とする。
主成分ARスペクトル推定部620の正規方程式フィルタ部622における第1の正規方程式の平均化処理においては、上記の演算により第1の平均化共分散行列Ave_Cxx(t)を算出する。
算出された第1の平均化共分散行列Ave_Cxx(t)に基づいて、固有値分解部623は、固有値分解することにより固有値と固有ベクトルを算出する。なお、第1の正規方程式の次数(M)は、例えば5次とする。
【0089】
図12は、固有値分解について示す図である。
固有値分解を行うにあたり、本実施形態に示すように正規方程式の次数を増加して、例えば5次とした場合には、固有値分解は、式(12)、式(13)として示す式によって固有値λ(λからλ)と固有ベクトルv(vからv)とを算出することができる。
【0090】
【数12】

【0091】
【数13】

【0092】
固有値分解は、式(13)の特性方程式を直接解く他、任意の解法アルゴリズムを適用できる。例えば、ヤコビ法、ハウスホルダ法、QR法等の反復計算タイプのアルゴリズムも適用できる。本実施形態のように小さい共分散行列に基づいた固有値分解では、演算負荷を軽減することができる。
【0093】
図13は、主成分解AR係数aPCを求める演算処理について示す図である。
ここで、前述の固有値λと固有ベクトルviから、信号部分空間の共分散疑似逆行列Cxxを作成する演算過程を示す。
AR係数aを算出する標準的なARパラメータ推定の演算式を式(14)として示す。
【0094】
【数14】

【0095】
この式(14)に示すように、右辺ベクトルcxxに対する共分散行列Cxxの逆行列計算によってAR係数aを算出するので、共分散行列Cxxが正則(行列式が0でないこと:detCxx≠0:フルランク)であることが条件になる。ここで、仮に共分散行列Cxxからノイズ部分空間を理想的に除去できたとしても、信号数が行列次数より少ないときは、ランク落ちとなり解の精度が保証されない。
従って、標準的なARスペクトル推定法の式では、ノイズ部分空間を理想的に除去することはできない。
式(14)に示した共分散行列Cxxの逆行列(Cxx−1)を、スペクトル分解(固有値分解)して、式(15)として表すことができる(ただし、共分散行列Cxxが正定値であり、かつ、正則であるとする)。
【0096】
【数15】

【0097】
式(15)において、Mは、モデル次数である。このように、固有値λiと固有ベクトルvとに分解することができる。
さらに、式(15)は、式(16)に示すように、信号部分空間であるi=1からi=pまでと、ノイズ部分空間であるi=p+1からi=Mまでとに概念的に分離することができる。ノイズ部分空間は、固有値の値がほぼ零を示す。
【0098】
【数16】

【0099】
式(16)において、第1項が信号部分空間(信号成分)を示し、第2項がノイズ部分空間(ノイズ成分)を示す。
また、主成分解(Principal Component Solution)であるAR係数apcは、式(16)のノイズ部分空間の項を取り除いた結果となるべきであるため、式(17)として示すことができる。
【0100】
【数17】

【0101】
式(17)に示される演算処理では、信号部分空間の疑似逆行列Cxxを用いて計算することになるので、ランクが低い状態でも計算が可能となる。従って、モデル次数に対して信号波数が非常に少なくても、演算式の次数を大きめに設定して計算することにより、ARスペクトル推定精度を上げることができる。
さらに、この式(17)は、式(18)として示す演算式により、全体の空間からノイズ部分空間を減算することも可能である。
【0102】
【数18】

【0103】
本実施形態では、モデル次数を5次(M=5)としたので、推定波数が、1から4の場合には、ノイズ部分空間成分を除去したAR係数となり、推定波数が、5の場合には、標準的なARスペクトル推定の結果と同じになる。従って、データチャンネル数を多くして、モデル次数を大きくできれば、本手法による効果はさらに大きくなる。
【0104】
図14は、主成分解(Principal Component Solution)であるAR係数(主成分AR係数)apcから、白色雑音の分散値とパワースペクトルを求める演算処理を示す図である。
図14に示される主成分ARスペクトル推定法においても、基本的には、AR係数が導かれた後の処理は、標準的なARスペクトル推定と同様の演算処理により導くことができる。
続いて、式(17)により導かれるARパラメータ推定値(AR係数apc)に基づいて、入力白色雑音の分散σ(ハット)を導く関係式を、式(19)として示す。
【0105】
【数19】

【0106】
ARモデルによる線形予測では、予測値と観測値の差(予測誤差)の平均2乗誤差や最小2乗誤差が最小となる条件から、この正規方程式が導かれる。
この正規方程式を一般的な手法により解くことにより、AR係数が導かれる。
また、式(19)によって算出される入力白色雑音の分散σ(ハット)に基づいて、パワースペクトルSxx(ω)を算出する演算式を式(20)として示す。
【0107】
【数20】

【0108】
式(20)において、ωは角速度を示し、HAR(ω)は、角速度ωにおけるARフィルタの伝達関数からの周波数特性を示し、Svv(ω)は、角速度ωにおける入力白色雑音のパワースペクトルを示し、Svv(ω)=σv2と表せる。この角速度ωは、本実施形態に示すレーダ装置のような方向検出に利用する場合には、受信波の位相差に換算する。
以上に示した演算式を用いることにより、ターゲットの方向と合致したピークの特徴を持つスペクトルを導くことができる。
なお、入力白色雑音の分散値を乗算しないで作成したスペクトルによって、パワースペクトルの分布を推定することも可能である。パワースペクトルの分布(スペクトルの形状)は、変わらないので、入力白色雑音の分散値を乗算する演算を省略することもできる。
【0109】
図15を参照し、処理のフローを説明する。
図15は、本実施形態の処理を示すフローチャートである。
次に示す処理の手順における前提条件について、例えば次のように整理する。
1回(サイクル)の制御サイクルにおいてデータ取得を行う回数であるデータ取得回数Pを、4回とする。1回のデータ取得によって検知される複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)を5chとする。データ取得によって検知された複素数データを扱う次数Mを3次とする。データ拡張により増加させた次数(増加次数)Mを5次とする。以上に示したそれぞれの値は、予め定められているものとする。
この図15によって示される処理のフローは、レーダ全体構成でのピーク検知で選出された複数のターゲット別に、制御サイクル(図8参照)毎に繰り返される。
【0110】
ステップSa111において、チャネル(CH)毎の複素数データが同一制御サイクル内で1回以上取得される。P回のデータ取得を行うことにより、P個の今回複素数データを抽出することができる。
上記の前提条件に従って、データ取得回数Pを4回とする。つまり、4個の複素数データ(N)が抽出される。また、この複素数データのチャンネル数N(データ数)は5chである。
周波数分解処理部22は、メモリ21に記憶されている受信波によるビート信号を読み込みアンテナ毎のビート信号を周波数変換する。
取得する複素数データとして、周波数変調三角波の上りと下りのデータのいずれか又は両方のデータを個別に使用して、上りと下りで別々に処理することも可能である。
ステップSa121において、正規方程式作成部641は、今回検知サイクルにおいて取得した複素数データに基づいて、ARモデルに適用する次数Mの正規方程式を取得回数毎に作成する。これにより、P個の正規方程式が作成される。
ステップSa122において、正規方程式フィルタ部642は、ステップSa121において作成したP個の正規方程式の平均化処理を行う。つまり、正規方程式フィルタ部642は、P個の正規方程式の共分散行列と右辺ベクトル(相互相関ベクトル)の各要素同士を平均する。
ステップSa123において、AR係数算出部643は、ステップSa122において平均化処理された正規方程式(第2の平均化正規方程式)から、次数Mの第2のAR係数(AR係数2)を算出する。
【0111】
続いて、ステップSa140において、データ拡張部610は、今回の検知サイクルにおいて取得されたP個(P回分)の複素数データ、及び、ステップSa123において算出された第2のAR係数(AR係数2)から、P個の拡張複素数データを生成する。上記の前提条件に従って、この複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)は9chである。このデータ拡張部610によるデータ拡張によりチャンネル数N(5ch)を、チャンネル数N(9ch)に拡張させる。
【0112】
続いて、ステップSa151において、正規方程式作成部621は、ステップSa111において抽出された回数に応じた個数(P個)の正規方程式(第1の正規方程式)を作成する。上記の前提条件に従って、第1の正規方程式の次数Mを5次とする。
ステップSa152において、正規方程式フィルタ部622は、ステップSa151において作成した正規方程式の共分散行列と右辺ベクトル(相互相関ベクトル)の各要素同士を平均する。
このステップSa152において平均化された改良共分散法の共分散行列を、後ステップの固有値分解に用いる。ARモデルの共分散行列は、エルミート行列(複素数の対称行列)である。従って、ARモデルの次数で固有値分解することになる。
【0113】
ステップSa153において、固有値分解部623は、正規方程式フィルタ部622によって作成された「今回検知サイクル」における平均化正規方程式の共分散行列に基づいて固有値分解処理を行う。固有値分解部623は、この固有値分解処理により、共分散行列に基づいた特性方程式から固有値及び固有ベクトルを算出する。
固有値分解には、任意の解法プログラムが使え、直接特性方程式を解く他、ヤコビ法、ハウスホルダ法、QR法等の反復タイプのアルゴリズムも使える。
【0114】
続いて、ステップSa154において、波数推定部624は、ステップSa123において算出された共分散行列Cxxの固有値の中から最大の値を示す固有値(最大固有値)を判定する。
波数推定部624は、その判定の結果により、該当ターゲット群では次ステップ以降の波数推定は行わなくするか否かを決定する。波数推定部624は、この最大固有値判定処理により、最大固有値の値が予め設定した閾値よりも小さい場合は、該当ターゲット群に対しては次ステップ以降の波数推定処理を中断させる。
【0115】
ステップSa155において、波数推定部624は、それぞれ算出された固有値を、算出された固有値の最大の値に基づいて正規化する。この固有値の正規化処理では、各固有値を最大固有値で割った値を正規化固有値とする。レーダのように、ターゲットとの距離によって固有値(信号強度)が変動する場合は、固有値の値も変動する。それゆえ、各固有値の値を正規化して相対的に固有値間の大小関係を判定することで波数推定が容易となる。
ステップSa156において、波数推定部624は、正規化された固有値を予め定められる閾値に基づいて判定し、その判定結果に基づいて後段の処理の波数を選択する。
この波数推定ステップでは、図17にあるように、4個の閾値を判定に用いる。このように複数の閾値を設定することにより、波数推定結果を柔軟に調整できる。
【0116】
図16と図17は、図15においてステップSa154からステップSa156までに示された信号波数推定処理の一態様を示す図である。
ステップS154aは、ステップSa154(図15)に対応する最大固有値を判定する処理である。ステップS154aによる予め設定した閾値(λmax_th)よりも最大固有値の値(λa)が大きいか否かを判定することにより、予め設定した閾値(λmax_th)よりも最大固有値の値(λa)が大きくない場合(ステップS154a:No)には、ステップS154bにおいて、得られた情報(複素数データ)の信頼度が低いと判定し、波数推定部624は、該当ターゲットに対しての次ステップの波数推定処理を行わなくする。最大固有値は、入力信号の強度と等価(比例する)であることから、路面マルチパス等の車載用レーダ特有のクラッタ状況による信号を受信するような場合であっても、最大固有値の値を判定することにより、間違った方位推定となることを抑制することができる。
例えば、このステップS154bでは、ステップS154b−1に示すように、波数推定及び方位検出の双方をキャンセルすることができる。また、ステップS154b−2に示すように、波数推定をキャンセルして、任意の波数(例えば、最大波数)を強制的に指定することとしてもよい。この場合、ステップS156i(図17)に進む。
【0117】
波数推定部624は、ステップS154aによる判定により、予め設定した閾値よりも最大固有値の値が大きい場合(ステップS154a:Yes)には、ステップS155aの処理を行う。ステップS155aにおいて、波数推定部624は、ステップS154aに対応する固有値の正規化処理を行い、各固有値λxを最大固有値λaでそれぞれ除算した値を正規化固有値λyとする。
【0118】
図17において示されるステップS156aからS156iまでの処理は、波数推定部624が行うステップSa156(図15)に対応する波数推定処理である。
ステップS156aでは、ステップSa155(図15)において正規化処理された固有値の中から2番目に大きな固有値(正規化第2固有値λ)を選択し、正規化第2固有値λが予め定められる閾値Th1より小さいか否かを判定する。
ステップS156aによる判定の結果、正規化第2固有値λが予め定められる閾値Th1より小さくないと判定した場合(ステップS156a:No)には、ステップS156cに進む。
【0119】
ステップS156bでは、ステップS156aにおける判定の結果、正規化第2固有値λが予め定められる閾値Th1より小さいと判定した場合(ステップS156a:Yes)には、推定波数を1に定め、示されない推定波数情報を記憶する記憶領域に記録し、波数推定処理を終える。
【0120】
ステップS156cでは、ステップSa155において正規化処理された固有値の中から3番目に大きな固有値(正規化第3固有値λ)を選択し、正規化第3固有値λが予め定められる閾値Th2より小さいか否かを判定する。判定の結果、正規化第3固有値λが予め定められる閾値Th2より小さくないと判定した場合(ステップS156c:No)には、ステップS156eに進む。
【0121】
ステップS156dでは、ステップS156cにおける判定の結果、正規化第3固有値λが予め定められる閾値Th2より小さいと判定した場合(ステップS156c:Yes)には、推定波数を2に定め、示されない推定波数情報を記憶する記憶領域に記録し、波数推定処理を終える。
【0122】
ステップS156eでは、ステップSa155において正規化処理された固有値の中から4番目に大きな固有値(正規化第4固有値λ)を選択し、正規化第4固有値λが予め定められる閾値Th3より小さいか否かを判定する。判定の結果、正規化第4固有値λが予め定められる閾値Th3より小さくないと判定した場合(ステップS156e:No)には、ステップS156gに進む。
【0123】
ステップS156fでは、ステップS156eにおける判定の結果、正規化第4固有値λが予め定められる閾値Th3より小さいと判定した場合(ステップS156e:Yes)には、推定波数を3に定め、示されない推定波数情報を記憶する記憶領域に記録し、波数推定処理を終える。
【0124】
ステップS156gでは、ステップSa155において正規化処理された固有値の中から5番目に大きな固有値(正規化第5固有値λ)を選択し、正規化第5固有値λが予め定められる閾値Th4より小さいか否かを判定する。判定の結果、正規化第5固有値λが予め定められる閾値Th4より小さくないと判定した場合(ステップS156g:No)には、ステップS156iに進む。
【0125】
ステップS156hでは、ステップS156gにおける判定の結果、正規化第5固有値λが予め定められる閾値Th4より小さいと判定した場合(ステップS156g:Yes)には、推定波数を4に定め、示されない推定波数情報を記憶する記憶領域に記録し、波数推定処理を終える。
【0126】
ステップS156iでは、ステップS156gにおける判定の結果、正規化第5固有値λが予め定められる閾値Th4より小さくないと判定した場合(ステップS156g:No)には、推定波数を5に定め、示されない推定波数情報を記憶する記憶領域に記録し、波数推定処理を終える。
【0127】
このようにステップS156aからS156iまでの波数推定処理における判定閾値は、波数1と波数2以上とを分別する閾値Th1、波数2と波数3以上とを分別する閾値Th2、波数3と波数4以上とを分別する閾値Th3、波数4と波数5とを分別する閾値Th4の4個とする。
【0128】
図15に戻り、ステップSa157において、共分散擬似逆行列算出部625は、ステップSa156において波数推定部624によって推定された波数に応じて今回検知サイクルにおける信号部分空間の共分散疑似逆行列を作成する処理を行う。
共分散擬似逆行列算出部625は、ステップSa153において、固有値分解部623が算出した固有値及び固有ベクトルに基づいて、前述の演算式に従って共分散疑似逆行列作成する。
ステップSa158において、AR係数算出部626は、ステップSa153において算出した固有値及び固有ベクトルに基づいてAR係数と入力白色雑音の分散値を算出する。
【0129】
続いて、ステップSa161において、パワースペクトル算出部680は、ステップSa158において算出されたAR係数と入力白色雑音の分散に基づいてパワースペクトルを算出する。
ステップSa162において、パワースペクトル算出部680は、算出されたパワースペクトルに基づいてターゲット数及びターゲットの方向を示す角度を検知する。
【0130】
以上に示した手順により、電子走査型レーダ装置は、検出精度を高めた方位検出を行うことができる。
また、本実施形態に示したデータ拡張処理は、第2手段の主成分ARスペクトル推定法の他に、DBF(ディジタルビームフォーミング)を始め、標準的なARスペクトル推定法やMUSIC法等のスペクトル推定法全般においても適用できる。図7に第2手段としてMUSIC法を適用した図を示す。各ブロックでの処理の詳細は、特許文献2を参照する。
図18は、本実施形態における方位検出部にMUSIC法を適用する場合の構成を示すブロック図である。
図18に示される方位検出部60Bは、図1に示した方位検出部60の一態様である。図1と同じ構成には、同じ符号を附す。
方位検出部60Bは、データ拡張部610、MUSIC部620B、FBLP部640、及び、スペクトル算出部680Bを備える。
MUSIC部620B(第1演算処理部)は、拡張複素数データから作成した相関行列から固有値と固有ベクトルを算出し、また推定波数を算出する。
MUSIC部620Bは、相関行列作成部625、空間平均部626、相関行列フィルタ部627、固有値分解部623、及び、波数推定部624を備える。
【0131】
相関行列作成部625は、データ拡張された拡張複素数データ毎に相関行列を作成する。作成される相関行列は、(データ数×データ数)の大きさのエルミート行列となり、データ数の増加に応じて行列の次数も増加する。より大きな次数で相関行列を作成した場合、後ステップの固有値分解処理により算出されるノイズ部分空間の固有ベクトル数を増加させることができるので、MUSIC法による検出精度が向上する。つまり、MUSIC法によるスペクトラム推定では、得られた部分空間のうちノイズ部分空間の固有ベクトルを合成した合成ベクトルを求め、その合成ベクトルとモードベクトルとの直交性に基づいて信号部分空間に含まれる信号を検出する。ノイズ部分空間の固有ベクトル数が多くなる程、合成によるノイズ部分空間の精度を増すことにより、信号の検出精度を向上することができる。
【0132】
空間平均部626は、相関行列内において、信号成分の相互相関性を抑圧するために、作成した相関行列毎に空間平均処理を行う。電子走査型レーダ装置における受信信号(波)は、相互相関性を有している。この平均化処理を行うことにより、相互相関性を抑圧する効果を高めることができるため、空間的に平均する平均化処理を行う方が性能上好ましい。この平均化処理は、演算処理の範囲により、前方空間平均処理、後方空間平均処理、前方後方空間平均処理として分類される。この空間平均部626による平均化処理は、サブアレーに分割した範囲を平均化処理の対象範囲とするため、元の相関行列より次数が小さくなる。
一方、本実施形態では、データ拡張部610によってデータ拡張されていることにより、元の相関行列の次数が予め増加されている。これにより、空間平均後の次数も、データ拡張しない場合の次数よりも増加されている次数となる。また、元の相関行列の次数が増加している分、サブアレー数を増やして空間平均による抑圧効果を上げることもできる。ただし、その場合、行列の次数は減ることになる。
【0133】
相関行列フィルタ部627(行列フィルタ部)は、空間平均した行列をさらに時間軸方向に平均化する。相関行列フィルタ部627による処理から、前述のARスペクトル推定法における正規方程式フィルタ部622と同様の効果が得られる。なお、相関行列フィルタ部627による時間軸方向に平均化する処理は、空間平均部626による空間平均する前に、元の相関行列に対して行っても良く、また、後述のユニタリ変換による実数相関行列化の後で行っても良い。
固有値分解部623は、前述の主成分ARスペクトル推定法において示した手法と同様に、全ての固有値と固有ベクトルを算出する(特許文献2、3を参照)。
この固有値分解の算出の前に、複素数データに基づいて作成されている相関行列を、ユニタリ変換により実数相関行列にしても良い。このように実数相関行列に変換することにより、固有値分解処理の負荷を軽減することができる。
波数推定部624は、前述の主成分ARスペクトル推定法において示した手法と同様に、波数推定を行う(特許文献3を参照)。
【0134】
スペクトル算出部680Bは、算出された固有ベクトルに基づいて合成されるノイズ部分空間の合成固有ベクトルと、方位角θを変数に持つモードベクトルとの内積演算を行い、MUSICスペクトラムを算出する。
データを拡張することにより、MUSICスペクトルの精度(分離、角度)が向上する。
【0135】
以上に示したように、高分解能アルゴリズムとして知られるARスペクトル推定法に限らず、他のスペクトル推定方法を用いる場合にも、元の複素数データに基づいてデータ拡張をすることにより、検出精度を向上させることが可能となる。
以下に示す、第2、第3、第4の実施態様においても、本実施形態と同様に、ARスペクトル推定法以外のスペクトル推定方法を用いることも可能であるが、ARスペクトル推定法を代表して説明する。
【0136】
(第2実施形態)
次に、図を参照し、本実施形態による電子走査型レーダ装置について説明する。
図19は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態における信号処理部20Bは、第1実施形態と同様に、方位推定を高分解能アルゴリズムで行う。図1に示す第1実施形態と同じ構成については、同一の符号を付し、以下第1実施形態との相違点について説明する。
信号処理部20Bにおいて周波数分解処理部22Bは、アンテナ毎の上昇領域と下降領域とのビート信号を複素数データに変換し、そのビート周波数を示す周波数ポイントと、複素数データとをピーク検知部23Bへ出力する。
そして、ピーク検知部23Bは、上昇領域及び下降領域それぞれのピーク値と、そのピーク値の存在する周波数ポイントとを検出し、その周波数ポイントを周波数分解処理部22Bへ出力する。
次に、周波数分解処理部22Bは、上昇領域及び下降領域それぞれについて該当する複素数データを、方位検出部60へ出力する。
この複素数データが、上昇領域及び下降領域のそれぞれのターゲット群(上昇領域及び下降領域においてピークを有するビート周波数)となる。
方位検出部60は、供給される複素数データに基づいて第1実施形態と同じ処理を行う。
ここで、ピーク検知部23Bは、方位検出部のモデル次数推定処理における最大固有値判定(ステップS155a)を同じ機能として動作させることができるので、削除することも可能となる。
【0137】
次に、方位検出部60は、上昇領域のAR係数及び下降領域のAR係数の各々について角度θを検出し、図20に示すテーブルとしてピーク組合せ部24Bへ出力する。
図20は、上昇領域及び下降領域それぞれのピークを組み合わせるためのテーブルを示す図である。
そして、ピーク組合せ部24Bは、図20に示すテーブルの情報を元に、同様の角度を有する組み合わせを行い、上昇領域と下降領域とのビート周波数の組み合わせを距離検出部25及び速度検出部26へ出力する。
【0138】
距離検出部25は、第1実施形態と同様に、組み合わせの上昇領域と下降領域とのビート周波数により距離を算出する。
また、速度検出部26は、第1実施形態と同様に、組み合わせの上昇領域と下降領域とのビート周波数により相対速度を算出する。
ここで、距離検出部25及び速度検出部26それぞれは、距離と相対速度との値を、ビート周波数の上昇領域及び下降領域の組み合わせにて計算する。
ターゲット確定部31Bは、上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペア決め、ターゲットを確定する。
以上に示した手順により、電子走査型レーダ装置は、検出精度を高めた方位検出を行うことができる。
【0139】
(第3実施形態)
次に、図を参照し、本実施形態による電子走査型レーダ装置について説明する。
図21は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態における信号処理部20Cは、第1実施形態と異なり、ARスペクトル推定処理等の高分解能アルゴリズムに比べて分解能が低いDBF(Digital Beam Forming)を先に用いて方位推定を行い、その後にAR係数を用いたARスペクトル推定処理による高分解能アルゴリズムで方位推定を行う構成である。図1に示す第1実施形態と同じ構成については、同一の符号を付し、以下第1実施形態との相違点について説明する。
この図に示されるように、図1の第1実施形態における周波数分解処理部22Cとピーク検出部23Cとの間にDBF処理部40が設けられ、上述したように、先にDBFを用いて受信波の到来する方位を検出する点が第1実施形態と異なる。
【0140】
周波数分解処理部22Cは、メモリ21に蓄積されたビート信号のサンプリングされたデータから、三角波の上昇部分(上り)と下降部分(下り)とのそれぞれについて周波数分解により離散時間に周波数変換する。すなわち、周波数分解処理部22Cは、ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、ビート周波数毎に分解されたビート信号に基づいた複素数データを算出し、DBF処理部40に出力する。
次に、DBF処理部40は、入力される各アンテナに対応した複素数データを、アンテナの配列方向にフーリエ変換し、すなわち空間軸フーリエ変換を行う。
そして、DBF処理部40は、角度に依存する、すなわち角度分解能に対応した角度チャンネル毎の空間複素数データを計算し、ビート周波数毎にピーク検知部23Cに対して出力する。
【0141】
これにより、DBF処理部40から出力される角度チャンネル毎の空間複素数データ(ビート周波数単位)の示すスペクトルは、ビーム走査分解能による受信波の到来方向推定に依存したものとなる。
また、アンテナの配列方向にフーリエ変換されているため、角度チャンネル間にて複素数データを加算しているのと同じ効果を得ることができ、角度チャンネル毎の複素数データはS/N比が改善される。これにより、ピーク値の検出における精度を、第1実施形態と同様に向上させることが可能となる。
上述した複素数データ及び空間複素数データともに、第1実施形態と同様に、三角波の上昇領域及び下降領域の双方にて算出される。
【0142】
次に、ピーク検知部23Cは、DBF処理部40による処理の後に、DBF結果による角度チャンネル毎にピークの検出を行い、検出された各チャンネルのピーク値を、次のピーク組合せ部24へ角度チャンネル毎に出力する。すなわち、16の分解能による空間軸フーリエ変換の場合、角度チャンネルの数は15となる。
ピーク組合せ部24では、第1実施形態と同様に、上昇領域及び下降領域におけるピーク値のあるビート周波数とそのピーク値を組み合わせて、距離検出部25及び速度検出部26へ、角度チャネル毎に出力する。
【0143】
そして、ペア確定部27は、距離検出部25及び速度検出部26各々から、順次入力される上記距離r及び相対速度vにより、図5のテーブルを角度チャンネル毎に生成し、第1実施形態と同様に、ターゲット毎に対応した上昇領域及び下降領域それぞれの適切なピークの組み合わせを、角度チャンネル毎に判定する。ここで、DBFでの分解能では、ターゲットが複数の角度チャンネルに跨って存在を示すので、近隣の角度チャンネル(マトリクス)との一致性も加味して、角度チャネル毎に上昇領域及び下降領域それぞれのピークの適切な組み合わせを行うことができる。
そして、上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定し、確定した距離r及び相対速度vを示すターゲット群番号を生成し、図22に示すテーブルが作成される。
図22は、上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定したテーブルを示す図である。
ペア確定部27は、距離r及び相対速度vのみでなく、それぞれのターゲットの角度チャンネルの情報が得られるため、縦位置と横位置を求めることができるため、図6のテーブルに対して縦位置と横位置が含まれた、今回の検知サイクルの各ターゲット群に対応する結果を有する図22に示すテーブルを生成する。そして、周波数分解処理部22Cに、ペアが確定した周波数ポイントを送り、方位検出部60へ送る複素数データを決定する。
【0144】
なお、本実施形態のDBF処理部40は、複素数データに基づいて、受信波を受信する所望の方向の受信感度を高めるデジタルビームフォーミング(DBF)に基づいてターゲットの存在及び方位を検出する。方位検出部60は、高分解能アルゴリズムのARスペクトル推定を用いてターゲットの方位を検出する。
これにより、方位検出部60が行う高精度の方位検出に先立ち、分解能は低いが安定したビームスペクトルを示すDBFの方位検出を行うことにより、推定精度を向上させることができる。
方位検出部60からの方位情報とDBF処理部40からの方位情報とに基づいた論理積演算(AND論理)によって推定することにより、方向検知の信頼度を向上させたり、互いの方位情報を分担したり、例えば、近距離では角度分解能が粗くて良いのでDBFの角度情報を用いたりできる効果を成す。
【0145】
(第4実施形態)
本実施形態は、図1に示した電子走査型レーダ装置の構成を参照して、他の態様について示す。
図23は、本実施形態の電子走査型レーダ装置の構成を示すブロック図である。
図23に示される電子走査型レーダ装置は、図1に示される信号処理部20Aに代えて、信号処理部20Eを備える。図1と同じ構成には同じ符号を付す。
【0146】
信号処理部20Eは、メモリ21、周波数分離処理部22、ピーク検知部23、ピーク組合せ部24、距離検出部25、速度検出部26、ペア確定部27、方位検出部30、ターゲット確定部31、及び、ターゲット連結処理部32を備える。
ターゲット確定部31は、ペア確定部27から入力される図6の距離r、相対速度v、周波数ポイントと、方位検出部30によって検出されたターゲットの方位とを結びつけた後、ターゲット連結処理部32へ出力する。
ターゲット連結処理部32は、メモリ21に記憶されている過去の検知サイクルにおけるターゲットを結びつけた後、ターゲット毎に過去検知サイクル(図25)において記録された複素数データを方位検出部30へ出力する。
また、ターゲット連結処理部32は、今回検知サイクル(図25)において取得された複素数データに対して、ターゲット確定部31から出力される距離、相対速度及び方位の識別情報を付して、メモリ21に記録する。
【0147】
方位検出部30は、高分解能アルゴリズムのARスペクトル推定処理によるスペクトル推定処理を行い、そのスペクトル推定処理の結果に基づいて対応するターゲットの方位を検出して、ターゲット確定部31へ出力する。
このような方位検出部30は、ビート信号に基づいて算出された複素数データであって、今回の検知サイクルと過去の検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データに基づいてデータ数を拡張させた拡張複素数データを生成する。方位検出部30は、その拡張複素数データを要素とする正規方程式の構成部である行列の固有値に基づいて受信波の波数を推定する。また、方位検出部30は、該推定された波数に応じた数の固有値と固有ベクトルに基づいて作成される信号部分空間の擬似逆行列に基づいた正規方程式の解として算出されるAR係数を算出し、該算出されたAR係数に基づいて受信波の到来方向を算出する。
また、方位検出部30が生成する拡張複素数データは、今回検知サイクルと過去検知サイクルにおいて取得された複素数データと、AR係数とに基づいて生成される。
【0148】
以下、スペクトル推定処理において高分解能アルゴリズムとして知られるARスペクトル推定法を用いる場合の構成例について、より具体的に示す。
図24は、本実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
図24に示される方位検出部30Aは、図23に示した方位検出部30の一態様である。
方位検出部30Aは、データ拡張部310A、主成分ARスペクトル推定部320、FBLP部340、及び、パワースペクトル算出部380を備える。
データ拡張部310Aは、受信波の到来方向を算出する処理を繰り返し行う検知サイクルにおける今回を含む予め定められる所定の回の検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データ及びAR係数から、データ数を拡張させた拡張複素数データを生成する。
なお、今回の検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データ(1(n)、・・・、P(n))は、周波数分解処理部22が周波数分解したビート周波数(上昇と下降のいずれか又は両方)に応じた複素数データである。
データ拡張部310Aは、データ数を拡張する元の複素数データに基づいて設定可能な第2の次数のAR係数(AR係数2)により増加させ、拡張複素数データを生成する。
【0149】
データ拡張部310Aは、周波数分解処理部22から今回検知サイクルの複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を取得して、上記の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を生成する。また、データ拡張部310Aは、そのほかに、メモリ21に記憶されている過去検知サイクルの複素数データ(1(n−1)、・・・、P(n−1))を、ターゲット連結処理部32aを介して取得する。データ拡張部310Aは、取得した過去検知サイクルの複素数データ(1(n−1)、・・・、P(n−1))を取得して、上記の拡張複素数データ(1(n−1)、・・・、P(n−1))を生成する。
これにより、データ拡張部310Aは、「今回検知サイクル」と「過去検知サイクル」とにおいて取得した複素数データから、それぞれの複素数データに対応した拡張複素数データを生成する。
【0150】
また、ターゲット連結処理部32aは、信号処理部20E(図23)におけるターゲット連結処理部32である。ターゲット連結処理部32aは、今回検知サイクルで所得した複素数データをメモリ21に記憶させる。ターゲット連結処理部32aにより、メモリ21に書き込まれた複素数データが、次の検知サイクル(n回目)である今回検知サイクルにおいて呼び出された場合、その複素数データは、過去(前回)の複素数データ(1(n−1)、・・・、P(n−1))として呼び出される。
また、データ拡張部310AにおけるAR係数2は、後述のFBLP部340によって算出される。
【0151】
主成分ARスペクトル推定部320(第1演算処理部)は、拡張複素数データに基づいて受信波の到来方向を算出する。例えば、主成分ARスペクトル推定部320は、拡張複素数データから作成した正規方程式(第1の正規方程式)の解としてAR係数と白色雑音の分散値とを算出する。
主成分ARスペクトル推定部320は、正規方程式作成部321、正規方程式フィルタ部322、固有値分解部323、波数推定部324、共分散擬似逆行列算出部325、及び、AR係数算出部326を備える。
【0152】
正規方程式作成部321(次数増加行列生成部)は、「今回検知サイクル」において、データ拡張部310Aによってデータ拡張された拡張複素数データのそれぞれから導かれる複数の正規方程式(第1の正規方程式)を作成する。作成された第1の正規方程式の次数は、AR係数算出部326AによるARスペクトル推定における次数と同じである。
正規方程式フィルタ部322は、正規方程式作成部321によって作成された「今回検知サイクル」における正規方程式と、「過去検知サイクル」における正規方程式との平均化処理をする。
【0153】
固有値分解部323は、正規方程式フィルタ部322によって作成された「今回検知サイクル」と「過去検知サイクル」における平均化正規方程式の共分散行列に基づいて固有値分解処理を行う。固有値分解処理は、共分散行列に基づいた特性方程式から固有値及び固有ベクトルを算出する処理である。固有値分解処理には、任意の解法プログラムを適用することができる。例えば、直接特性方程式を解く他、ヤコビ法、ハウスホルダ法、QR法等の反復タイプのアルゴリズムを適用することも可能である。
【0154】
波数推定部324は、固有値分解部323による固有値分解処理により算出された固有値(及び固有ベクトル)から最大の値を示す固有値を判定する。波数推定部324は、それぞれ算出された固有値を、算出された固有値の最大の値に基づいて正規化する。波数推定部324は、正規化された固有値を予め定められる閾値に基づいて判定し、その判定結果に基づいて後段の処理の波数を選択する。選択された波数によって、後段の信号部分空間が定められる。
【0155】
共分散擬似逆行列算出部325は、固有値分解部323により算出された固有値と固有ベクトルから、部分空間に含まれる信号部分空間の共分散疑似逆行列を作成する。この信号部分空間の共分散疑似逆行列を作成することにより、ノイズ成分を除去することができる。
【0156】
AR係数算出部326Aは、共分散擬似逆行列算出部325によって作成された信号部分空間の共分散疑似逆行列と右辺ベクトルから導かれるAR係数と、入力白色雑音の分散σを算出する。このように、AR係数算出部326Aは、検知サイクルに応じて、ターゲットの存在が検知されたビート周波数である検出ビート周波数の複素数データに基づいたAR係数と、入力白色雑音の分散σを導くことができる。また、AR係数算出部326Aは、パワースペクトル算出部380へ、導かれるAR係数と入力白色雑音の分散σを出力する。
【0157】
パワースペクトル算出部380は、そのAR係数と入力白色雑音の分散σに基づいて導かれるパワースペクトルから受信波の到来方向を算出する。
【0158】
また、FBLP部340(第2演算処理部)は、拡張複素数データを生成させるための係数を、元の複素数データに基づいて作成された線形式により生成する。例えば、FBLP部340は取得された複素数データから作成した正規方程式(第2の正規方程式)に基づいてAR係数を算出する。
FBLP部340は、正規方程式作成部341、正規方程式フィルタ部342、及び、AR係数算出部343を備える。
正規方程式作成部341は、周波数分解処理部22が周波数分解したビート周波数(上昇と下降のいずれか又は両方)に応じた複素数データのそれぞれから導かれ、ARスペクトル推定における第2の次数の正規方程式(第2の正規方程式)を作成する。正規方程式作成部341は、周波数分解処理部22が周波数分解したビート周波数(上昇と下降のいずれか又は両方)に応じた複素数データのそれぞれから導かれる第2の正規方程式を作成する。
正規方程式フィルタ部342は、正規方程式作成部341によって作成された「今回検知サイクル」と「過去検知サイクル」における第2の正規方程式の平均化処理をする。
【0159】
AR係数算出部343は、正規方程式フィルタ部342によって平均化処理された第2の正規方程式から導かれる第2の次数のAR係数(AR係数2)を算出する。このように、AR係数算出部343は、今回検知サイクルの複素数データと過去検知サイクルの複素数データとに基づいて算出されるAR係数2(第2の係数)を得、後段のデータ拡張のための係数とする。このように、方位検出部30Aは、自己回帰モデルを用いるスペクトル推定法により、信号部分空間の擬似逆行列に基づいて受信波の到来方向を算出する。
なお、本実施形態において、データ拡張部310Aが第1手段として機能する。正規方程式作成部321、正規方程式フィルタ部322、固有値分解部323、共分散擬似逆行列算出部325及びAR係数算出部326Aとが第2手段として機能する。波数推定部324が第3手段として機能する。FBLP部340が第4手段として機能する。ターゲット連結処理部32Aが第5手段として機能する。
【0160】
図25は、検知サイクルにおけるデータ取得処理を示すタイムチャートである。
図25には、今回制御(検知)サイクルからさかのぼって、過去に行われた過去制御(検知)サイクルが示されている。
各サイクルでは、少なくとも1回のデータ取得が行われ、1回のデータ取得を三角の波形で示す。三角の波形は、FMCW方式によって変調された信号を示し、右上がりのタイミングにおいて上り、右下がりのタイミングにおいて下りの検知が行われる。
個々のデータ取得は、干渉が生じないだけの時間間隔が確保され繰り返し行われ、三角波の周波数変調周期は必ずしも同一でなくても良い。
【0161】
例えば、今回制御(検知)サイクルにおいて、P回のデータ取得が行われ、1回目に行われたデータ取得を「今回データ_1取得」として示し、P回目に行われたデータ取得を「今回データ_P取得」として示す。また、過去制御(検知)サイクルにおいて、P回のデータ取得が行われ、1回目に行われたデータ取得を「過去データ_1取得」として示し、P回目に行われたデータ取得を「過去データ_P取得」として示す。
本実施形態では、今回検知サイクルと過去検知サイクルとのそれぞれにおいて、同じサイクル内で複数回取得された複素数データとに基づいて、後に示す各種処理の平均化処理が行われる。なお、データ取得の回数は、予め定められる任意の回数にすることができる。
【0162】
また、現在データ取得されている制御(検知)サイクルを「今回制御(検知)サイクル」といい、「今回制御(検知)サイクル」より過去に行われた制御(検知)サイクルを「過去制御(検知)サイクル」という。ここで、過去数も任意に設定可能であり、本実施形態では過去数を1にしていて、過去を前回としている。
以下に示す実施形態においては、1回の制御(検知)サイクルにおいて、2回のデータ取得を行う場合を例に説明する。
なお、データ取得から複素数データ抽出まで(FFTとピーク検出)の処理を、複数のデバイスやプロセッサ(FPGA,DSP,マイクロコンピュータ)等に計算負荷を分散することにより、データ取得回数を増加させてもよい。
【0163】
次に図を参照し、複素数データに基づいたM次の正規方程式の構成と平均化処理について示す。
図26は、複素数データに基づいたM次の正規方程式の構成と平均化処理を示す図である。
図26に示されるM次の正規方程式は、M次の正方行列である共分散行列と、M行1列のAR係数と、M行1列の右辺ベクトルで構成される。
主成分ARスペクトル推定部320A(図24)においては、拡張された拡張複素数データに基づいて、第1の共分散行列と、第1の右辺ベクトルとが生成される。第1のAR係数は、第1の共分散行列と第1の右辺ベクトルを構成部とする第1の正規方程式を解くことにより算出される。
また、FBLP部340(図24)においては、取得された複素数データに基づいて、第2の共分散行列と、第2の右辺ベクトルとが生成される。第2のAR係数は、第2の共分散行列と第2の右辺ベクトルを構成部とする第2の正規方程式を解くことにより算出される。
【0164】
ここでは、FBLP部340における第2の正規方程式の平均化処理について示す。
図25に示したように、複数の制御(検知)サイクルにおいて複数回のデータ取得が行われる。取得された複素数データを取得された順に、共分散行列Cxxk(t)と右辺ベクトルcxxk(t)が生成される。
図25において、1制御(検知)サイクルにおいてデータを取得する回数を2回、また、次数をMとする。今回制御(検知)サイクルにおいて取得された回数に対応させて、「今回_1」、「今回_2」として順に、共分散行列Cxx1(t)、Cxx2(t)と右辺ベクトルcxx1(t)、cxx2(t)を示す。また、前回制御(検知)サイクルにおいて取得された回数に対応させて、「前回_1」、「前回_2」として順に、共分散行列Cxx1(t−1)、Cxx2(t−1)と右辺ベクトルcxx1(t−1)、cxx2(t−1)を示す。
【0165】
本実施形態において、後に示す正規方程式の平均化処理では、今回制御(検知)サイクルと、前回制御(検知)サイクルのそれぞれにおいて、同一制御(検知)サイクル内で複数回取得された複素数データに基づいて行われ、「今回_1」、「今回_2」、「前回_1」、「前回_2」の計4回分の共分散行列Cxxk(t)と右辺ベクトルcxxk(t)を構成する要素をそれぞれ平均することにより、平均化処理が行われる。
その正規方程式の平均化処理によって平均共分散行列Ave_Cxx(t)を算出する演算式を式(21)として示す。
【0166】
【数21】

【0167】
式(21)においてk1からk4は、重み係数である。
また、その正規方程式の平均化処理によって平均右辺ベクトルAve_cxx(t)を算出する演算式を式(22)として示す。
【0168】
【数22】

【0169】
式(22)においてk1からk4は、重み係数である。
FBLP部340の正規方程式フィルタ部342における第2の正規方程式の平均化処理においては、上記の演算により第2の平均化共分散行列Ave_Cxx(t)と第2の平均化右辺ベクトルAve_cxx(t)とを算出する。
算出された第2の平均化共分散行列Ave_Cxx(t)と第2の平均化右辺ベクトルAve_cxx(t)とから、AR係数算出部343は、第2のAR係数を算出する。なお、第2の正規方程式の次数(M)は、例えば3次とする。
主成分ARスペクトル推定部320の正規方程式フィルタ部322における第1の正規方程式の平均化処理においては、上記の演算により第1の平均化共分散行列Ave_Cxx(t)を算出する。
算出された第1の平均化共分散行列Ave_Cxx(t)に基づいて、固有値分解部323は、固有値分解することにより固有値と固有ベクトルを算出する。なお、第1の正規方程式の次数(M)は、例えば5次とする。
【0170】
次に、本実施形態における今回及び過去との正規方程式を平均化する具体的な処理について説明する。
この平均化の処理は、図24における方位検出部30Aの正規方程式フィルタ部342及びターゲット連結処理部32aが主として行う処理である。
図27は、メモリ21に設けられるテーブルを示す図である。
ターゲット連結処理部32aは、正規方程式フィルタ部342における正規方程式を平均化する処理を行うため、図27に示すテーブルにおいて、ターゲット毎に、今回のターゲット群(t)と、確定した過去のターゲットデータから予測されたターゲット(t)と、過去に確定しているターゲット(t−1)とを結びつけるため以下の処理を行う。
【0171】
図27における項目(t−1)の列は、1サイクル前(前回)の検知サイクルの結果を示す。
各検知サイクルの結果としては、それぞれ、確定されたターゲット毎に距離r、縦位置long_d(アンテナの配列方向に対して垂直方向)、横位置late_d(アンテナの配列方向に対して平行方向の位置)、ターゲットとの相対速度velo(すなわちv)、上りピーク周波数ポイントf_up、上りピーク周波数時の複素数データx_up_1,x_up_2、下りピーク周波数ポイントf_dwn、下りピーク周波数時の複素数データx_dwn_1,x_dwn_2が、メモリ21に、図27のテーブル形式により格納されている(正確には上りピーク周波数時の複素数データx_up_1,x_up_2と下りピーク周波数時の複素数データx_dwn_1,x_dwn_2の記憶領域は他より大きくなるが、表を例示するうえで便宜上同じとしている)。ここで、ターゲットの上記縦位置long_dと横位置late_dは、ターゲットとの角度(受信波の到来方向の角度)及び距離rとから求められる。角度がθであり距離rである場合、縦位置long_dはr・cosθにより、横位置late_dはr・sinθにより算出される。
【0172】
また、ターゲット連結処理部32aは、過去に確定しているターゲットの距離r、縦位置long_dと横位置late_d及び相対速度veloとから、今回サイクル時の各ターゲットの距離r、縦位置long_dと横位置late_d及び相対速度、ピーク周波数ポイントを予測しておく。例えば、縦位置long_dと横位置late_dとピーク周波数ポイントの予測は、前回の距離r、縦位置long_dと横位置late_d及び相対速度に基づいて検知サイクル周期後の時間における移動可能な範囲を求める。相対速度の予測は、過去何サイクルかの相対速度値推移の変化の傾き等を算出して予測することができる。
例えば、ターゲット連結処理部32aは、過去に確定している結果から予測した距離r、縦位置long_dと横位置late_dとピーク周波数ポイント及び相対速度それぞれに対応して、予め設定された移動可能範囲と周波数ポイント範囲、及び相対速度範囲を設けて、今回サイクル時で計算された各値がその範囲内に入るか否かで結びつけを行い、範囲外の場合は異なるターゲットであると判断する。
【0173】
そして、ターゲット連結処理部32aは、図27のテーブルにおいて、今回の検知サイクルにおけるターゲットが、過去のターゲットと結びついた場合、今回の検知サイクルの結果を(t−1)の結果に移し、次のサイクルの予測の結果を計算する。
また、ターゲット連結処理部32aは、今回のターゲット群の結果と結びつけられない過去のターゲットが存在した場合、その過去のターゲットの情報を全てクリアする。
従って、マルチパスの影響のある距離にターゲットが入り、ビート周波数におけるピーク検知されない検知サイクルになると、過去のターゲット群の結果を用いるフィルタ効果がリセットされることになる。図27に示す本実施形態の場合、過去1回の検知サイクルのターゲットの結果をメモリ21に記憶している。
【0174】
なお、ターゲット連結処理部32aは、今回の検知サイクルにおけるターゲットと結びつけられなかった過去のターゲットが検出された場合においても、確定されていた過去のターゲットの結果は、予め定められる所定のサイクル数だけ持続されるようにしても良い。
また、記憶される結果が順次更新されることから、過去の結果に基づいて推定する予測結果も順次更新される。ターゲット連結処理部32aは、マルチパスなどの影響で今回の検知サイクルにおいてターゲットが検出されなくても、さらに次の検知サイクル以降において関連付けられた場合、マルチパスなどの影響でピーク検知されないサイクル数以外の過去データをフィルタ処理に使えるようにすることができる。
また、トラッキング制御における外挿法のように、ピーク値が検知さない検知サイクルの回において、上記予測結果を今回の検知サイクルにおける結果として用い、ターゲットの存在状態を継続することも可能である。
【0175】
また、この図に示される複素数データの呼出方法では、ターゲット連結処理部32aは、すでに検出されたターゲットに対応する距離ポイント情報に基づいて、推定範囲を選択することが可能となり、処理効率を向上させることができる。すなわち、ターゲット連結処理部32aは、記憶された複素数データを参照する際に、ターゲットとの相対速度、角度に基づいて範囲を限定することができる。そして、次の回に行われる検知サイクルでは、すでに検出されたターゲットに対応する距離ポイント情報に基づいた推定範囲を選択することが可能となる。これにより、ターゲット連結処理部32aは、処理効率を向上させることができる。そのため、ターゲット連結処理部32aは、限られた範囲の距離ポイントに対応する複素数データを参照することができるので、呼び出す際の精度を高めることができる。
【0176】
図28は、複素数データの記憶方法、呼出方法を示す図である。
この図に示されるAR係数の記憶方法では、ターゲット連結処理部32aは、最終的にターゲットとして確定した距離ポイントに関係付けを行って、複素数データをメモリ21に記憶させる。メモリ21に書き込まれる複素数データは、今回制御サイクルによる情報である。
ターゲット連結処理部32aは、距離ポイント情報をキーにして参照し、メモリ21に記憶される複素数データを呼び出す。メモリ21から呼び出される複素数データは、過去制御サイクルによる情報である。
なお、本実施形態における上記以外の処理は、第1実施形態を参照する。
これにより、方位検出部30Aは、距離ポイント情報をキーとして、ターゲットとの関連付けを行うことができる。
【0177】
図29を参照し、処理のフローを説明する。
図29は、処理の手順(フロー)を示すフローチャートである。
次に示す処理の手順における前提条件について、例えば次のように整理する。
1回(サイクル)の制御サイクルにおいてデータ取得を行う回数であるデータ取得回数Pを、2回とする。今回検知サイクルのほかに参照する過去検知サイクルの回数を1回とする。1回のデータ取得によって検知される複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)を5chとする。データ取得によって検知された複素数データを扱う次数Mを3次とする。データ拡張により増加させた拡張複素数データに含まれるチャンネル数N2(データ数)を9chとする。データ拡張により増加させた次数(増加次数)Mを5次とする。以上に示したそれぞれの値は、予め定められているものとする。
この図29によって示される処理のフローは、レーダ全体構成でのピーク検知で選出された複数のターゲット別に、制御サイクル(図25参照)毎に繰り返される。
【0178】
ステップSb111において、チャンネル(CH)毎の複素数データが同一制御サイクル内で1回以上取得される。P回のデータ取得を行うことにより、P個の今回複素数データを抽出することができる。
上記の前提条件に従って、データ取得回数Pを2回とする。つまり、2個の複素数データ(N)が抽出される。また、この複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)は5chである。
周波数分解処理部22は、メモリ21に記憶されている受信波によるビート信号を読み込みアンテナ毎のビート信号を周波数変換する。
取得する複素数データは、今回検知サイクルにおいて周波数変換された複素数データであり、周波数変調三角波の上りと下りのデータのいずれか又は両方のデータを個別に使用して、上りと下りで別々に処理することも可能である。
ステップSb112において、ターゲット連結処理部32aは、メモリ21に記憶されているP個の過去(前回)の複素数データ(N)を呼び出す。
【0179】
ステップSb121において、正規方程式作成部341は、抽出した今回検知サイクルにおいて取得された複素数データに基づいて、ARモデルに適用する次数Mの正規方程式を取得回数毎に作成する。これにより、P個の正規方程式が作成される。
また、正規方程式作成部341は、呼び出した前回検知サイクルにおいて取得された複素数データに基づいて、ARモデルに適用する次数Mの正規方程式を取得回数毎に作成する。これにより、P個の正規方程式が作成される。つまり、正規方程式作成部341は、ステップSb121において、2P個の正規方程式を作成する。
【0180】
ステップSb122において、正規方程式フィルタ部342は、ステップSb121において作成した正規方程式の共分散行列と右辺ベクトル(相互相関ベクトル)の各要素同士を平均する。
ステップSb123において、AR係数算出部343は、ステップSb122において平均化処理された正規方程式(第2の平均化正規方程式)から、次数Mの第2のAR係数(AR係数2)を算出する。
【0181】
続いて、ステップSb140aにおいて、データ拡張部310は、受信波の到来方向を算出する処理を繰り返し行う検知サイクルの今回を含む予め定められる所定の回の検知サイクルにおいて取得された2P個(2P回分)の複素数データ、及び、ステップSb123において算出された第2のAR係数(AR係数1)から、2P個の拡張複素数データを生成する。上記の前提条件に従って、この複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)は9chである。このデータ拡張部610によるデータ拡張によりチャンネル数N(5ch)を、チャンネル数N(9ch)にそれぞれ拡張させることができる。
【0182】
ステップSb151aにおいて、正規方程式作成部321は、ステップSb140において生成した2P個の拡張複素数データから、2P個の正規方程式(第1の正規方程式)を作成する。上記の前提条件に従って、ARモデルに適用する正規方程式の次数Mを5次とする。
ステップSb152において、正規方程式フィルタ部322は、ステップSb151において作成した正規方程式の共分散行列と右辺ベクトル(相互相関ベクトル)の各要素同士を平均する。
このステップSb152において平均化された改良共分散法の共分散行列を、後ステップの固有値分解に用いる。ARモデルの共分散行列は、エルミート行列(複素数の対称行列)である。従って、ARモデルの次数で固有値分解することになる。
【0183】
ステップSb153において、固有値分解部323は、正規方程式フィルタ部322によって作成された「今回検知サイクル」と「過去検知サイクル」とにおける平均化正規方程式の共分散行列に基づいて固有値分解処理を行う。固有値分解部323は、この固有値分解処理により、共分散行列に基づいた特性方程式から固有値及び固有ベクトルを算出する。
固有値分解には、任意の解法プログラムが使え、直接特性方程式を解く他、ヤコビ法、ハウスホルダ法、QR法等の反復タイプのアルゴリズムも使える。
続いて、ステップSb154において、波数推定部324は、ステップSb153において算出された共分散行列Cxxの固有値の中から最大値となる固有値(最大固有値)を判定する。
波数推定部324は、その判定により、該当ターゲット群では次ステップ以降の波数推定は行わなくするか否かを判定する。波数推定部324は、この最大固有値判定処理により、最大固有値の値が予め設定した閾値よりも小さい場合は、該当ターゲット群に対しては次ステップ以降の波数推定処理を中断させる。
【0184】
ステップSb155において、波数推定部324は、それぞれ算出された固有値を、算出された固有値の最大の値に基づいて正規化する。この固有値の正規化処理では、各固有値を最大固有値で割った値を正規化固有値とする。レーダのように、ターゲットとの距離によって固有値(信号強度)が変動する場合は、各固有値の値を正規化して相対的に固有値間の大小関係を判定することで波数推定が容易となる。
ステップSb156において、波数推定部324は、正規化された固有値を予め定められる閾値に基づいて判定し、その判定結果に基づいて後段の処理の波数を選択する。
この波数推定ステップでは、図18にあるように、4種類の閾値を判定に用いる。このように閾値を設定することにより、波数推定結果を柔軟に調整できる。
なお、ステップSb154からステップSb156までの処理の詳細は、前述の図17、図18を参照する。
【0185】
ステップSb157において、共分散擬似逆行列算出部325は、ステップSb156において波数推定部324によって推定された波数に応じて信号部分空間の共分散疑似逆行列を作成する処理を行う。
共分散擬似逆行列算出部325は、ステップSb153において、固有値分解部323が算出した固有値及び固有ベクトルに基づいて、前述の演算式に従って共分散疑似逆行列作成する。
ステップSb158において、AR係数算出部326は、ステップSb153において算出した固有値及び固有ベクトルに基づいてAR係数と入力白色雑音の分散値を算出する。
【0186】
続いて、ステップSb161において、パワースペクトル算出部380は、ステップSb158において算出されたAR係数と入力白色雑音の分散に基づいてパワースペクトルを算出する。
ステップSb162において、パワースペクトル算出部380は、算出されたパワースペクトルに基づいてターゲット数及びターゲットの方向を示す角度を検知する。
ステップSb163において、ターゲット連結処理部32aは、メモリ21にP個の今回複素数データ(N)を記憶させる。
以上に示した手順により、電子走査型レーダ装置は、検出精度を高めた方位検出を行うことができる。
また、本実施形態に関しては、第2手段の主成分ARスペクトル推定法の他に、DBF(ディジタルビームフォーミング)を始め、標準的なARスペクトル推定法やMUSIC法等のスペクトル推定法全般においても適用できる(図18参照)。
【0187】
(第5実施形態)
図1、図23から図33を参照し、スペクトル推定処理において高分解能アルゴリズムとして知られるARスペクトル推定法を用いる場合の他の態様について、より具体的に示す。
図30は、本実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
図30に示される方位検出部30Bは、図23に示した方位検出部30の一態様である。図23、24に示す構成と同じ構成には同じ符号を附す。
図30に示される方位検出部30Bとターゲット連結処理部32bのそれぞれは、信号処理部20E(図23)における方位検出部30とターゲット連結処理部32である。
ターゲット連結処理部32bは、今回検知サイクルにおいて算出されたAR係数1(n)をメモリ21に書き込んで記憶させる。AR係数1(n)は、今回検知サイクルで拡張された複素数データ(拡張複素数データ)から、主成分ARスペクトル推定部320Bによって導かれる。
ターゲット連結処理部32bにより、メモリ21に書き込まれたAR係数1が、次の検知サイクルである今回検知サイクル(n回目)において呼び出された場合、そのAR係数1は、過去(前回)のAR係数1(n−1)として呼び出される。
つまり、本実施形態は、第4実施形態に対して、メモリ21に記憶させる情報が異なる。メモリ21に記憶させる情報は、次数を増加させたAR係数である。そのAR係数(AR係数1)は、主成分ARスペクトル推定部320Bによって算出される。
【0188】
方位検出部30Bは、データ拡張部310B、主成分ARスペクトル推定部320B、FBLP部340、及び、パワースペクトル算出部380を備える。
データ拡張部310Bは、受信波の到来方向を算出する処理を繰り返し行う検知サイクルにおける今回検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データ及び呼び出されたAR係数から、データ数を拡張させた拡張複素数データを生成する。
なお、今回検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データ(1(n)、・・・、P(n))は、周波数分解処理部22が周波数分解したビート周波数(上昇と下降のいずれか又は両方)に応じた複素数データである。
データ拡張部310Bは、データ数を拡張する元の複素数データとAR係数に基づいて、予め定められる所望のデータ数の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を生成する。
【0189】
データ拡張部310Bは、今回検知サイクルの複素数データ(1(n)、・・・、P(n))に基づいて上記の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を生成する。上記の拡張複素数データを生成する際に、データ拡張部310Bは、周波数分解処理部22から今回検知サイクルの複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を取得する。また、データ拡張部310Bは、メモリ21に記憶されている過去検知サイクルのAR係数1(n−1)を、ターゲット連結処理部32aを介して取得する。そして、データ拡張部310Bは、取得した、今回検知サイクルの複素数データ(1(n)、・・・、P(n))と過去検知サイクルのAR係数1(n−1)とに基づいて、上記の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を生成する。
このように、データ拡張部310Bは、「今回検知サイクル」において取得した複素数データと,「過去検知サイクル」において算出されたAR係数1(n−1)とから、取得した複素数データに対応した拡張複素数データを生成することができる。
ただし、データ拡張部310Bは、データ連結手段32bの判断により、過去検知サイクルと連結されない新規のターゲットにおいて拡張複素数データを生成する際には、今回検知サイクルのAR係数2(n)を、FBLP部340から取得する。データ拡張部310Bは、取得した今回検知サイクルの複素数データ(1(n)、・・・、P(n))とAR係数2(n)とに基づいて、上記の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を生成する。
なお、ターゲット連結処理部32bは、今回検知サイクルにおいてAR係数算出部326Bによって算出されたAR係数1(n)をメモリ21に記憶させる。メモリ21に書き込まれたAR係数1がターゲット連結処理部32bによって次の今回検知サイクルにおいて呼び出された場合は、前回検知サイクルにおいて算出されたAR係数1(n−1)(前回(n−1)のAR係数)として呼び出される。
【0190】
主成分ARスペクトル推定部320B(第1演算処理部)は、拡張複素数データから作成した正規方程式(第1の正規方程式)の解としてAR係数と白色雑音の分散値とを算出する。
主成分ARスペクトル推定部320Bは、正規方程式作成部321、正規方程式フィルタ部322、固有値分解部323、波数推定部324、共分散擬似逆行列算出部325、及び、AR係数算出部326Bを備える。
AR係数算出部326Bは、共分散擬似逆行列算出部325によって作成された信号部分空間の共分散疑似逆行列と右辺ベクトルから導かれるAR係数(AR係数1(n))と、入力白色雑音の分散σを算出する。このように、AR係数算出部326Bは、検知サイクルに応じて、ターゲットの存在が検知されたビート周波数である検出ビート周波数の複素数データに基づいたAR係数と、入力白色雑音の分散σを導くことができる。また、AR係数算出部326Bは、パワースペクトル算出部380へ、導かれるAR係数と入力白色雑音の分散σを出力する。また、AR係数算出部326Bは、ターゲット連結処理部32bに対して、導かれたAR係数を出力する。
なお、本実施形態におけるFBLP部340(図24)は、ターゲットを新規に検知するサイクルにおいて取得された複素数データに基づいて、AR係数2(n)を生成する。
【0191】
図31は、メモリ21に設けられるテーブルを示す図である。
図31に示されるテーブルでは、図27に示されるテーブルに次の項目が追加される。
追加される項目には、上昇方向のピーク周波数時のAR係数AR_C_up、下降方向のピーク周波数時のAR係数AR_C_dwnがあり、ピーク周波数ポイントに対応するAR係数を格納する。なお、本実施形態5においては、記憶する複素数データを不要とする。
このピーク周波数時のAR係数は、メモリ21に、図31のテーブル形式により格納されている(正確には、上記の項目の記憶領域は他より大きくなるが、表を例示するうえで便宜上同じとしている)。メモリ21は、格納される上昇方向のピーク周波数時のAR係数AR_C_up、下降方向のピーク周波数時のAR係数AR_C_dwnを記憶する。以下の説明では、上昇方向のピーク周波数時のAR係数AR_C_upと、下降方向のピーク周波数時のAR係数AR_C_dwnとをまとめて「AR係数1」という。
【0192】
図32と図33を参照し、処理のフローを説明する。
図32は、処理の手順(フロー)を示すフローチャートである。図15から図17に示す処理と同じ処理には同じ符号を附す。
次に示す処理の手順における前提条件を整理する。
1回(サイクル)の制御サイクルにおいてデータ取得を行う回数であるデータ取得回数Pを、例えば4回とする。今回検知サイクルのほかに参照する過去検知サイクルの回数を1回とする。1回のデータ取得によって検知される複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)を5chとする。データ拡張により拡張させた拡張複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)を9chとする。拡張複素数データにより増加させた次数(増加次数)Mを5次とする。以上に示したそれぞれの値は、予め定められているものとする。
この図32と図33によって示される処理のフローは、レーダ全体構成でのピーク検知で選出された複数のターゲット別に、制御サイクル(図25参照)毎に繰り返される。
【0193】
図32に示すように、まず、ステップSa600において、データ連結処理部32bは、ターゲットが新規であるか否かを判定する。
ステップSa600における判定の結果、現在のターゲットが新規であると判定した場合は、ステップSa111に進む。手順に従って、ステップSa111からステップSa162までの処理を行う。ステップSa111からステップSa162までの処理は、図15から図17を参照する。ただし、データ拡張部610、主成分ARスペクトル推定部620、FBLP部640、及び、パワースペクトル算出部680のそれぞれを、データ拡張部310B、主成分ARスペクトル推定部320B、FBLP部340、及び、パワースペクトル算出部380に読み替える。また、正規方程式作成部621、正規方程式フィルタ部622、固有値分解部623、波数推定部624、共分散擬似逆行列算出部625、及び、AR係数算出部626のそれぞれを、正規方程式作成部321、正規方程式フィルタ部322、固有値分解部323、波数推定部324、共分散擬似逆行列算出部325、及び、AR係数算出部326Bに読み替える。また、正規方程式作成部641、正規方程式フィルタ部642、及び、AR係数算出部643のそれぞれを、正規方程式作成部341、正規方程式フィルタ部342、及び、AR係数算出部343に読み替える。
ステップSa164において、ターゲット連結処理部32bは、主成分ARスペクトル推定部320Bによって算出された次数MのAR係数1(n)をメモリ21に記憶させる。
以上に示した手順により、新規ターゲットの検知サイクルを終える。
【0194】
ステップSa600における判定の結果、新規のターゲットでないと判定した場合は、ステップSb300に進む。
ステップSb300として示す過去検知サイクルによって算出されたAR係数に基づいて、データ拡張を行い、スペクトル推定を行う処理を続けて行う。
ステップSb300における処理は、過去検知サイクルによって算出されたAR係数に基づいて、データ拡張を行い、スペクトル推定を行う処理である。
【0195】
図33を参照し、過去検知サイクルによって算出されたAR係数に基づいてスペクトル推定を行う処理(ステップSb300)について説明する。
図33は、ステップSb300の処理における手順(フロー)を示すフローチャートである。図15から図17、図29に示す処理と同じ処理には同じ符号を附す。
【0196】
ステップSb111において、チャンネル(CH)毎の複素数データが同一制御サイクル内で1回以上取得される。P回のデータ取得を行うことにより、P個の今回複素数データ(N)を取得することができる。
データ上記の前提条件に従って、データ取得回数Pを4回とする。また、この複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)は5chである。
【0197】
続いて、ステップSb133において、ターゲット連結処理部32bは、メモリ21に設けられるテーブル(図31)に記憶されている過去(前回)のAR係数1(次数M)を呼び出し、データ拡張部310Bに供給する。
【0198】
続いて、ステップSb140bにおいて、データ拡張部310Bは、受信波の到来方向を算出する処理を繰り返し行う検知サイクルの今回検知サイクルにおいて取得されたP個(P回分)の複素数データ、及び、ステップSb133においてメモリ21から呼び出されたAR係数1(第1のAR係数)から、P個の拡張複素数データを生成する。上記の前提条件に従って、この拡張複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)は9chである。このデータ拡張部310Bによるデータ拡張によりチャンネル数N(5ch)を、チャンネル数N(9ch)に拡張させることができる。
【0199】
続いて、ステップSb151bにおいて、正規方程式作成部321は、ARモデルに適用する次数Mの正規方程式(第1の正規方程式)をステップSb111における取得回数に応じて作成する。上記の前提条件に従って、次数Mを5次とする。
ステップSb152において、正規方程式フィルタ部322は、ステップSb151において作成した正規方程式の共分散行列と右辺ベクトル(相互相関ベクトル)の各要素同士を平均する。
また、ステップSb152からステップSb162までは、前述の図29を参照する。ただし、AR係数算出部326は、AR係数算出部326Bとする。
ステップSb164において、AR係数算出部326Bは、ステップSb158において算出した次数MのAR係数1を、ターゲット処理部32bによってメモリ21に記憶させる。
以上に示した手順により、ターゲット連結後の検知サイクルについても順に行うことができる。
このように、ステップSa600の判定処理を設けることにより、ターゲット連結が初回の推定処理においても、今回検知サイクルにおいて検出された複素数データに基づいて算出されるAR係数2(n)に基づいて、データ拡張部310Bにおけるデータ拡張処理を行うことができる。これにより、全ての検知サイクルにおける検出精度を高めることが可能となる。
以上に示した手順により、電子走査型レーダ装置は、検出精度を高めた方位検出を行うことができる。
【0200】
(第6実施形態)
図1、図23から図35を参照し、スペクトル推定処理において高分解能アルゴリズムとして知られるARスペクトル推定法を用いる場合の他の態様について、より具体的に示す。
図34は、本実施形態における方位検出部の構成を示すブロック図である。
図34に示される方位検出部30Cは、図23に示した方位検出部30の一態様である。図23、24、30に示す構成と同じ構成には同じ符号を附す。
図34に示される方位検出部30Cとターゲット連結処理部32cは、信号処理部20E(図23)における方位検出部30とターゲット連結処理部32である。
ターゲット連結処理部32cは、今回検知サイクルにおいて取得された複素数データ(n)と、今回検知サイクルにおいて算出されたAR係数1(n)をメモリ21に書き込んで記憶させる。AR係数1(n)は、今回検知サイクルで拡張された複素数データ(拡張複素数データ)から、主成分ARスペクトル推定部320Bによって導かれる。
ターゲット連結処理部32cにより、メモリ21に書き込まれた複素数データとAR係数1とが、次の検知サイクルである今回検知サイクル(n回目)において呼び出される。その複素数データとAR係数1のそれぞれは、過去(前回)の検知サイクルにおいて取得された複素数データ(n−1)と、過去(前回)の検知サイクルにおいて導かれたAR係数1(n−1)として呼び出される。
つまり、本実施形態は、第4、第5実施形態に対して、メモリ21に記憶させる情報が異なる。メモリ21に記憶させる情報は、取得された複素数データと、次数を増加させたAR係数とである。そのAR係数(AR係数1)は、主成分ARスペクトル推定部320Bによって算出される。
【0201】
方位検出部30Cは、データ拡張部310C、主成分ARスペクトル推定部320B、FBLP部340、及び、パワースペクトル算出部380を備える。
データ拡張部310Cは、受信波の到来方向を算出する処理を繰り返し行う検知サイクルにおける今回を含む予め定められる所定の回の検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データ及び呼び出されたAR係数から、データ数を拡張させた拡張複素数データを生成する。
なお、今回の検知サイクルにおいて取得された複数の複素数データ(1(n)、・・・、P(n))は、周波数分解処理部22が周波数分解したビート周波数(上昇と下降のいずれか又は両方)に応じた複素数データである。
データ拡張部310Cは、データ数を拡張する元の拡張複素数データとAR係数に基づいて、予め定められる所望のデータ数の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を生成する。
【0202】
データ拡張部310Cは、新規のターゲットにおいて周波数分解処理部22から今回検知サイクルの複素数データ(1(n)、・・・、P(n))に基づいて、上記の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を生成する。上記の拡張複素数データを生成する際に、データ拡張部310Cは、周波数分解処理部22から今回検知サイクルの複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を取得する。ターゲット連結された以降の検知サイクルにおいて、データ拡張部310Cは、ターゲット連結処理部32cから過去検知サイクルの複素数データ(1(n−1)、・・・、P(n−1))を取得する。また、データ拡張部310Cは、メモリ21に記憶されている過去検知サイクルのAR係数(n−1)を、ターゲット連結処理部32aを介して取得する。そして、データ拡張部310Cは、取得した、今回検知サイクルの複素数データ(1(n)、・・・、P(n))と、過去検知サイクルの複素数データ(1(n−1)、・・・、P(n−1))と、過去検知サイクルのAR係数(n−1)に基づいて、上記の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))及び(1(n−1)、・・・、P(n−1))を生成する。つまり、ターゲット連結された以降の検知サイクルにおいて生成される拡張複素数データは、2P個である。
このように、データ拡張部310Cは、「今回検知サイクル」と「過去検知サイクル」とにおいて取得した複素数データと,「過去検知サイクル」において算出されたAR係数(n−1)とから、取得した複素数データに対応した拡張複素数データを生成する。
【0203】
ただし、データ拡張部310Cは、データ連結手段32bの判断により、過去検知サイクルと連結されない新規のターゲットにおいて拡張複素数データを生成する際には、今回検知サイクルのAR係数2(n)を、FBLP部340から取得する。データ拡張部310Cは、取得した複素数データ(1(n)、・・・、P(n))とAR係数2(n)とに基づいて、上記の拡張複素数データ(1(n)、・・・、P(n))を生成する。つまり、新規ターゲットにおいて生成される拡張複素数データは、P個である。
なお、ターゲット連結処理部32cは、今回検知サイクルにおいてAR係数算出部326Bによって算出されたAR係数(n)をメモリ21に記憶させる。メモリ21に書き込まれたAR係数がターゲット連結処理部32bによって次の今回検知サイクルにおいて呼び出された場合は、前回検知サイクルにおいて算出されたAR係数(前回(n−1)のAR係数)として呼び出される。
なお、本実施形態において、FBLP部340(図24)は、ターゲットを新規に検知するサイクルにおいて取得された複素数データに基づいて、AR係数2(n)を生成する。
また、メモリ21に設けられるテーブルは、前述の図31に示したテーブルと同じである。
【0204】
図32と図35を参照し、処理のフローを説明する。
この図34、図35によって示される処理のフローは、レーダ全体構成でのピーク検知で選出された複数のターゲット別に、制御サイクル(図25参照)毎に繰り返される。
まず、前述の図32に示す処理の手順に従って、新規ターゲットの処理を行う。
図32に示すように、まず、ステップSa600において、データ連結処理部32bは、ターゲットが新規であるか否かを判定する。
ステップSa600における判定の結果、現在のターゲットが新規であると判定した場合は、ステップSa111に進む。手順に従って、ステップSa111からステップSa162までの処理を行う。ステップSa111からステップSa162までの処理は、図15から図17を参照する。
【0205】
ただし、データ拡張部610、主成分ARスペクトル推定部620、FBLP部640、及び、パワースペクトル算出部680のそれぞれを、データ拡張部310C、主成分ARスペクトル推定部320B、FBLP部340、及び、パワースペクトル算出部380に読み替える。また、正規方程式作成部621、正規方程式フィルタ部622、固有値分解部623、波数推定部624、共分散擬似逆行列算出部625、及び、AR係数算出部626のそれぞれを、正規方程式作成部321、正規方程式フィルタ部322、固有値分解部323、波数推定部324、共分散擬似逆行列算出部325、及び、AR係数算出部326Bに読み替える。また、正規方程式作成部641、正規方程式フィルタ部642、及び、AR係数算出部643のそれぞれを、正規方程式作成部341、正規方程式フィルタ部342、及び、AR係数算出部343に読み替える。
【0206】
ステップSb164において、ターゲット連結処理部32cは、主成分ARスペクトル推定部320Bによって算出された次数MのAR係数1(n)をメモリ21に記憶させる。
以上に示した手順により、新規ターゲットの検知サイクルを終える。
【0207】
ステップSa600における判定の結果、新規ターゲットでないと判定した場合は、ステップSb300に進む。
ステップSb300として示す過去検知サイクルによって算出されたAR係数に基づいて、データ拡張を行い、スペクトル推定を行う処理を続けて行う。
ステップSb300における処理は、過去検知サイクルによって算出されたAR係数に基づいて、データ拡張を行い、スペクトル推定を行う処理である。
【0208】
図35を参照し、過去検知サイクルによって算出されたAR係数に基づいてスペクトル推定を行う処理(ステップSb300)について説明する。
図35は、ステップSb300の処理の手順(フロー)を示すフローチャートである。図29、図33に示す処理と同じ処理には同じ符号を附す。
次に示す処理の手順における前提条件を整理する。
1回(サイクル)の制御サイクルにおいてデータ取得を行う回数であるデータ取得回数Pを、例えば2回とする。今回検知サイクルのほかに参照する過去検知サイクルの回数を1回とする。1回のデータ取得によって検知される複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)を5chとする。データ取得によって検知された複素数データを扱う次数Mを3次とする。データ拡張により拡張させた拡張複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)を9chとする。データ拡張により増加させた次数(増加次数)Mを5次とする。以上に示したそれぞれの値は、予め定められているものとする。
【0209】
ステップSb111において、チャンネル(CH)毎の複素数データが同一制御サイクル内で1回以上取得される。P回のデータ取得を行うことにより、P個の今回複素数データ(N)を取得することができる。
データ上記の前提条件に従って、データ取得回数Pを2回とする。また、この複素数データに含まれるチャンネル数N(データ数)は5chである。
【0210】
続いて、ステップSb131において、ターゲット連結処理部32cは、メモリ21に記憶されているP個の過去(前回)の複素数データ(N)を呼び出す。
ステップSb133において、ターゲット連結処理部32aは、メモリ21に記憶されているP個の過去(前回)の複素数データと、AR係数1(次数M)を呼び出し、データ拡張部310Cに供給する。
続いて、ステップSb140aからステップSb162までの処理を行う。
ステップSb163において、ターゲット連結処理部32cは、メモリ21にP個の今回複素数データ(N)を記憶させる。
ステップSb164において、AR係数算出部326Bは、ステップSb158において算出した次数MのAR係数1を、ターゲット処理部32cによってメモリ21に記憶させる。
以上に示した手順により、ターゲット連結以降の検知サイクルについても順に行うことができる。
このように、ステップSa600の判定処理を設けることにより、初回ターゲット検知においても、今回検知サイクルにおいて検出された複素数データに基づいて算出されるAR係数2(n)に基づいて、データ拡張部310Cにおけるデータ拡張処理を行うことができる。これにより、全ての検知サイクルにおける検出精度を高めることが可能となる。また、ターゲット連結以降の検知サイクルにおいては、過去検知サイクルにおいて取得した複素数データに基づいてデータ拡張を行うことにより、拡張複素数データの数を新規ターゲットの検知サイクルの場合より増やすことが可能となる。
以上に示した手順により、電子走査型レーダ装置は、検出精度を高めた方位検出を行うことができる。
【0211】
(第7実施形態)
次に、図を参照し、本実施形態による電子走査型レーダ装置について説明する。
図36は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態においては、第4から第6実施形態と同様に、方位推定を高分解能アルゴリズムで行う。図23に示す第4から第6実施形態と同じ構成については、同一の符号を付し、以下第4実施形態との相違点について説明する。
信号処理部20Fにおいて周波数分解処理部22Bは、アンテナ毎の上昇領域と下降領域とのビート信号を複素数データに変換し、そのビート周波数を示す周波数ポイントと、複素数データとをピーク検知部23Bへ出力する。
そして、ピーク検知部23Bは、上昇領域及び下降領域それぞれのピーク値と、そのピーク値の存在する周波数ポイントとを検出し、その周波数ポイントを周波数分解処理部22Bへ出力される。
次に、周波数分解処理部22Bは、上昇領域及び下降領域それぞれについて該当する複素数データを、方位検出部30へ出力する。
【0212】
この複素数データが、上昇領域及び下降領域のそれぞれのターゲット群(上昇領域及び下降領域においてピークを有するビート周波数)となる。ここで、ピーク検知部23Bは、方位検出部のモデル推定処理における最大固有値判定(ステップS155a)と同じ機能として動作させることができるので、削除することも可能となる。
ターゲット連結処理部32Bにおいて、過去に確定したターゲットと上りと下りの両方のターゲット群とを結びつける必要があるため、メモリ21には前述のテーブルが記憶されている。
ターゲット連結処理部32Bは、図23のターゲット連結処理部32と同様な処理により、今回の検知サイクルと、過去の検知サイクルとの連結処理を行う。
【0213】
そして、方位検出部30は、上昇領域及び下降領域それぞれにおいて、第4から第6実施形態に示した正規方程式の平均化処理と波数推定を行う。
次に、方位検出部30は、上昇領域のAR係数及び下降領域のAR係数の各々について角度θを検出し、図37に示すテーブルとしてピーク組合せ部24Bへ出力する。
図37は、上昇領域及び下降領域それぞれのピークを組み合わせるためのテーブルを示す図である。
そして、ピーク組合わせ部24Bは、図37に示すテーブルの情報を元に、同様の角度を有する組み合わせを行い、上昇領域と下降領域とのビート周波数を組み合わせを距離検出部25及び速度検出部26へ出力する。
【0214】
距離検出部25は、第4実施形態と同様に、組み合わせの上昇領域と下降領域とのビート周波数により距離を算出する。
また、速度検出部26は、第4実施形態と同様に、組み合わせの上昇領域と下降領域とのビート周波数により相対速度を算出する。
ターゲット確定部31Bは、上述した上昇領域及び下降領域の複素数データ、上昇領域及び下降領域における周波数ポイントと距離と相対速度と方位とを、現在の状態として確定する。
そして、ターゲット連結処理部32Bは、ターゲット確定部31Bから入力される、各ターゲット毎に、上昇領域及び下降領域それぞれの周波数ポイントと、上昇領域及び下降領域それぞれの複素数データと、距離と、縦位置と、横位置と、相対速度とを、第4から第6実施形態と同様の処理により前述のテーブルに記憶させる。
以上に示した手順により、電子走査型レーダ装置は、検出精度を高めた方位検出を行うことができる。
【0215】
(第8実施形態)
次に、図を参照し、本実施形態による電子走査型レーダ装置につて説明する。
図38は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
本実施形態においては、第4実施形態と異なり、先にARスペクトル推定処理等の高分解能アルゴリズムより分解能が低いDBF(Digital Beam Forming)を用いて方位推定を行い、その後に平均化処理された正規方程式を用いたARスペクトル推定処理による高分解能アルゴリズムで方位推定を行う構成である。図23に示す第4実施形態と同じ構成については、同一の符号を付し、以下第4実施形態との相違点について説明する。
この図に示されるように、図23の第4実施形態における周波数分解処理部22とピーク検出部23との間にDBF処理部40が設けられ、上述したように、先にDBFを用いて受信波の到来する方位を検出する点が第4実施形態と異なる。
【0216】
第7実施形態と同様に、周波数分解処理部22は、入力されるビート信号を周波数分解(時間軸フーリエ変換)し、ビート周波数を示す周波数ポイントと、複素数データとを、DBF処理部40へ出力する。
次に、DBF処理部40は、入力される各アンテナに対応した複素数データを、アンテナの配列方向にフーリエ変換し、すなわち空間軸フーリエ変換を行う。
そして、DBF処理部40は、角度に依存、すなわち角度分解能に対応した角度チャンネル毎の空間複素数データを計算し、ビート周波数毎にピーク検知部23に対して出力する。
【0217】
これにより、DBF処理部40から出力される角度チャンネル毎の空間複素数データ(ビート周波数単位)の示すスペクトルは、ビーム走査分解能による受信波の到来方向推定に依存したものとなる。
また、アンテナの配列方向にフーリエ変換されているため、角度チャンネル間にて複素数データを加算しているのと同じ効果を得ることができ、角度チャンネル毎の複素数データはS/N比が改善される。これにより、ピーク値の検出における精度を、第1実施形態と同様に向上させることが可能となる。
上述した複素数データ及び空間複素数データともに、第3実施形態と同様に、三角波の上昇領域及び下降領域の双方にて算出される。
【0218】
次に、ピーク検知部23は、DBF処理部40による処理の後に、DBF結果による角度チャンネル毎にピークの検出を行い、検出された各チャンネルのピーク値を、次のピーク組合せ部24へ角度チャンネル毎に出力する。すなわち、16の分解能による空間軸フーリエ変換の場合、角度チャンネルの数は15となる。
ピーク組合せ部24では、第3実施形態と同様に、上昇領域及び下降領域におけるピーク値のあるビート周波数とそのピーク値を組み合わせて、距離検出部25及び速度検出部26へ、角度チャネル毎に出力する。
【0219】
そして、ペア確定部27は、距離検出部25及び速度検出部26各々から、順次入力される上記距離r及び相対速度vにより、図5のテーブルを角度チャンネル毎に生成し、第1実施形態と同様に、ターゲット毎に対応した上昇領域及び下降領域それぞれの適切なピークの組み合わせを、角度チャンネル毎に判定する。ここで、DBFでの分解能では、ターゲットが複数の角度チャンネルに跨って存在を示すので、近隣の角度チャンネル(マトリクス)との一致性も加味して、角度チャネル毎に上昇領域及び下降領域それぞれのピークの適切な組み合わせを行うことができる。そして、上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定し、確定した距離r及び相対速度vを示すターゲット群番号をターゲット確定部31へ出力し、図39に示すテーブルが作成される。
図39は、上昇領域及び下降領域それぞれのピークのペアを確定したテーブルを示す図である。
ペア確定部27は、距離r及び相対速度vのみでなく、それぞれのターゲットの角度チャンネルの情報が得られるため、縦位置と横位置を求めることができるため、図6のテーブルに対して縦位置と横位置が含まれた、今回の検知サイクルの各ターゲット群に対応する結果を有する図39に示すテーブルを生成する。
【0220】
そして、ターゲット連結処理部32Cは、図39のテーブルの情報を用いて、今回の検知サイクルにおけるターゲットと、図25の過去の検知サイクルにおけるターゲットとの結びつけの処理を行うこととなり、結びつけのパラメータとして、距離と相対速度及びピーク周波数ポイントとに加えて、縦位置と横位置を用いることとなるため、より結びつけの処理を高い精度にて行うことが可能となる。
方位検出部30は、第4から第8実施形態に示した正規方程式の平均化処理と波数推定を行う。
さらに、方位検出部30からの方位情報とDBFからの方位情報とに基づいてAND論理で推定することにより、方向検知の信頼度を向上させたり、互いの方位情報を分担、例えば、近距離では角度分解能が粗くて良いのでDBFの角度情報を用いたりできる効果を成す。
【0221】
方位検出部30は、第4から第8実施形態に示した正規方程式の平均化処理と波数推定を行う。
【0222】
(本実施形態における方向推定特性)
続いて、本実施形態による電子走査型レーダ装置の方向推定特性について示す。
図40は、本実施形態による電子走査型レーダ装置の方位推定特性の効果を示す図である。
先行する車両が2台の場合について、主成分ARスペクトル推定法をそのまま適用した場合と本実施形態の場合とを比較する。この比較において、ターゲット(先行車両)までの距離を同じに設定した複素数データに基づいて、推定方法の違いによる推定結果の差を比較する。ターゲット(55m離れた先行車両)が2台であり、その結果、到来波における波数を2と推定した場合を示す。
図40(a)に示す主成分ARスペクトル推定法における推定結果は、チャンネル数を5CH、次数を3とする結果であり、データ拡張及び正規方程式の平均化処理は行っていない。
図に示される3つの曲線は、3サイクル分の結果を示している。この図に示されるように、パワースペクトルを示す波形のピークの位置(角度)がばらつき、安定にターゲットの位置(角度)を検出することができない。つまり、単に主成分ARスペクトル推定法をそのまま適用しても安定していないことが分かる。
【0223】
一方、本実施形態による場合を図40(b)と(c)に示す。
図40(b)は、第4実施形態を、図40(c)は、第6実施形態をそれぞれ適応した推定結果の一例を示す。
このように、図40(b)と(c)に示される結果には、それぞれの曲線が示すピークが急峻であり、且つ、ピークが検出される方向が安定していることが示されている。その結果、ピーク値が2つ分離して検出できており、ターゲットの車両が2台存在することが良好に検出されている。
また、図40(b)と(c)に示される推定結果は、データ取得回数を多くすることにより、さらに良好な推定結果を得ることができる。例えば、データ取得から複素数データの抽出まで(FFTとピーク検出)を、他のデバイスやプロセッサ(FPGA,DSP,マイクロコンピュータ)等で計算させることにより、データ取得回数を増加させることができる。
【0224】
本実施形態による電子走査型レーダ装置は、検出ビート周波数の複素数データに基づいて、方位検出部30(60)において、スペクトル推定を行う正規方程式の次数と、推定される実際の波数とを設定して方位推定を行うことにより、検出精度を向上させることができる。なお、データ拡張を行うことにより、設定する次数を増加させることも可能であるし、設定する次数を増加させないで、正規方程式の要素の精度を上げることも可能である。
【0225】
本発明に係る実施形態によれば、正規方程式フィルタ処理と、データ拡張と、次数の増加を施して波数推定した主成分ARスペクトル推定法の処理を取り入れた一連の処理が、方位検出の精度(角度精度や分離性能)が向上できる効果を奏する。
第1手段により、元の複素数データよりも長いデータ(CH)数に拡張できるので、第2手段の正規方程式の次数を増やせる効果を奏する。また、次数を増加させない場合は、正規方程式の要素の精度が向上する効果を奏する。
第2手段により、第1手段にて求めた複数の正規方程式の平均化共分散行列からの固有値分解により、疑似逆行列を求めるので、精度の良いAR係数を求めることができる。また、信号部分空間のAR係数を求めることができるので、偽ピークを抑制した精度の良い方位検出ができる。また、元の複素数データから設定できる最大次数よりさらに次数を増加させることにより、より高次の方が推定精度が良くなるというARスペクトル推定の特性が反映できる効果を奏する。
第3手段により、比較的容易で、前ステップの固有値分解処理を有効に活用した方法で信号波数を推定できるという効果を奏する。最大固有値の大きさを判定することで、間違った方位推定をすることを防止できるので、レーダ全体構成でのピーク検知なし(例えば、全距離ポイント又は任意の距離ポイント範囲の角度をスペクトル推定する場合)や、ピーク検知後でも異なる閾値で波数推定を実行すべきかどうかの判断ができる効果を奏する。また、正規化した固有値で波数を推定することで、ターゲットの距離に依存しない波数推定判定ができる効果を奏する。さらに、複数の固有値閾値を構成することにより、特有の波数推定基準を設けることができる効果を奏する。
第4手段により、データ拡張するためのAR係数として、かならず今回制御サイクルで取得したAR係数を用いることができる効果を奏する。
第5手段により、過去制御サイクル複素数データとAR係数を記憶できるので、正規方程式を平均化するためのデータ数を確保する効果を奏する。
第6手段と第5手段の組み合わせにより、次数を拡張したAR係数を用いてデータ拡張ができるので、高い検出精度の向上させる効果を奏する。
【0226】
以上、第1〜第3実施形態は、図1に示すFMCW方式のレーダに用いる構成例を、また、第4〜第8実施形態は、図23に示すFMCW方式のレーダに用いる構成例を基に説明したが、FMCW方式の他のアンテナ構成にも適用することが可能である。また、データ取得から複素数データ抽出まで(周波数分解処理やピーク検出等)を、本実施形態のマイクロコンピュータでの演算の他、他のデバイスやプロセッサ(FPGA,DSP,マイクロコンピュータ)等で計算させることにより、データ取得回数を増加させることができ、さらに方位推定精度の向上が可能となる。
また、多周波CW、パルスレーダ等のFMCW方式以外の他の方式においても、本発明に適用することが可能である。
本実施形態において、パワースペクトルのピークを算出してターゲット数と方位を求める形態としたが、入力白色雑音の分散値を乗算しないで作成したスペクトルで推定することも可能であるので、入力白色雑音の分散値の計算を省略することもできる。さらに、パワースペクトルの代わりに高次方程式の根を求める計算を用いて、その極で方位を推定してもよい。
【0227】
なお、図1、図7、図15、図18、図19、図21、図23、図24、図30、図34、図36、図38における信号処理部20Aから20C、20Eから20Gの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、受信波から方位検出を行う信号処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0228】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0229】
なお、本実施形態において、例えばステップSa155では、予め設定した閾値よりも最大固有値の値が小さい場合には、得られた情報(複素数データ)の信頼度が低いと判定し、該当ターゲットに対しての次ステップの波数推定の処理を行わなくして、誤検出情報の提供を防いでいる。
例えば、次ステップ以降の波数推定及び方位推定の処理を行わず、当該サイクルにおけるターゲットの情報を検出できずにロストしても、レーダの認識処理として通常後ステップで行われるトラッキングによる外挿手法等を用いることにより、ロストしたターゲットの情報を疑似的に持続することができる。このような手法により、ターゲットをロストすることを回避できるので、間違った方位検出結果を出力するよりキャンセルする方が望ましいという考えに適合することができる。また、できるだけ方位検出をキャンセルしない考えにも適合でき、次ステップの波数推定を行わず、予め定められた値の任意の波数に強制的に指定する(例えば、最大次数や最小次数のいずれか)ことも可能である。このような最大固有値判定を伴った信号の波次数推定処理を行うことによって、例えばピーク検知されたターゲットの中から、ターゲット毎にさらに方位検出するか否かを判定したり、ピーク検知しない仕様としたりする場合でも効果を成すものである。そのピーク検知しない仕様とは、例えば、全ポイント、又は、任意の距離ポイントにおいて無条件に方位検知する等の処理構成のことである。
【0230】
また、本実施形態に示したデータ拡張法に代え、他の方法を用いることも可能である。例えば、抽出した複素数データに値を「0」とするデータを追加してFFT処理を行い、変換後の領域で位相の補正を行った後に、IFFT処理を行い前記位相補正による元の複素数データの領域での波形の広がりを利用しても良いし、各種のデータ外挿アルゴリズムやデータ予測アルゴリズムを適用してもよい。
【0231】
さらに、本実施形態に示した波数推定において、正規化固有値による閾値判定法だけでなく、固有値分解の有効ランク数を推定するフロベニウスノルム比などの手法を適用してもよい。
また、共分散擬似行列を作成する際の波数は、例えば、データ拡張用のAR係数を算出するためには最大の波数に固定してもよく、パワースペクトルを算出する波数と独立に設定してもよい。
【符号の説明】
【0232】
1−1,1−n…受信アンテナ
2−1,2−n…ミキサ
3…送信アンテナ
4…分配器
5−1,5−n…フィルタ
6…SW
7…ADC
8…制御部
9…三角波生成部
10…VCO
20A、20B、20C、20E、20F、20G…信号処理部
21…メモリ
22、22B…周波数分解処理部
23、23B…ピーク検知部
24、24B…ピーク組合せ部
25…距離検出部
26…速度検出部
27、27B…ペア確定部
30、30A、30B、30C、30D、60…方位検出部
31、31B…ターゲット確定部
32、32a、32b、32c、32B、32C…ターゲット連結処理部
40…DBF処理部
310A、310B、310C、610…データ拡張部
320A、320B、620…主成分ARスペクトル推定部
620B…MUSIC部
321、341、621、641…正規方程式作成部
322、342、622、642…正規方程式フィルタ部
323、623…固有値分解部
324、624…波数推定部
325、625…共分散擬似逆行列算出部
326、326B、343、626、626B、643…AR係数算出部
625…相関行列作成部、626…空間平均部、627…相関行列フィルタ部
340、640…FBLP部
380、680…パワースペクトル算出部
680B…スペクトル算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される電子走査型レーダ装置であり、
送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信部と、
前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成部と、
前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理部と、
前記ビート信号に基づいて算出された複素数データである元の複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出部と、
を備え、
前記方位検出部は、
前記元の複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成するデータ拡張部と、
前記拡張複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する第1演算処理部と、
を備えることを特徴とする電子走査型レーダ装置。
【請求項2】
前記方位検出部は、
前記拡張複素数データを生成させるための係数を、前記元の複素数データに基づいて作成される線形式により生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項3】
前記方位検出部は、
前記拡張複素数データを生成させるための係数を、前記元の複素数データに基づいて作成された前記線形式により生成する第2演算処理部
を備え、
前記データ拡張部は、
前記元の複素数データと前記係数に基づいて前記拡張複素数データを生成する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項4】
前記第1演算処理部は、
前記拡張複素数データを要素として、予め定められる所望の次数に増加させた次数増加行列を生成する次数増加行列生成部と、
前記次数増加行列を固有値分解することにより固有値と固有ベクトルを得る固有値分解部と、
前記得られた固有値と固有ベクトルとに基づいて、前記到来波の波数を推定した波数推定値を算出する波数推定部と、
を備え、
前記算出された波数推定値により定められた部分空間に基づいて前記受信波の到来方向を算出する
ことを特徴とする請求項2から請求項3のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項5】
前記第1演算処理部は、
前記算出された波数推定値により定められる前記部分空間に含まれる信号部分空間の疑似逆行列を算出する擬似逆行列算出部と、
前記信号部分空間の疑似逆行列から導かれる第1のAR係数と白色雑音の分散値とを算出する第1係数算出部と、
を備え、
主成分ARスペクトル推定法による演算処理を行う
ことを特徴とする請求項4に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項6】
前記係数は、自己回帰モデルを用いるスペクトル推定法において、該自己回帰モデルを示す線形式に基づいて算出される
ことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項7】
前記データ拡張部は、
前記受信波の到来方向を算出する処理を繰り返し行う検知サイクルにおける、今回の検知サイクルにおいて算出された前記係数に基づいて前記拡張複素数データを生成する
ことを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項8】
前記ターゲットに対応付けられた情報を、前記検知サイクルの回数に対応付けて記憶する記憶部と、
を備え、
前記データ拡張部は、
前記ターゲットに対応付けられた情報として前記記憶部に記憶されており、前記今回の検知サイクルより過去に行われた過去の検知サイクルにおいて算出された前記係数に基づいて前記拡張複素数データを生成する
ことを特徴とする請求項7に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項9】
前記データ拡張部は、
前記今回の検知サイクルにおいて算出された前記元の複素数データと、前記ターゲットに対応付けられた情報として前記記憶部に記憶されており、前記今回の検知サイクルより過去に行われた過去の検知サイクルにおいて算出された過去の複素数データとに基づいて前記拡張複素数データを生成する
ことを特徴とする請求項8に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項10】
前記今回の検知サイクルと、前記過去の検知サイクルとにおいて、それぞれ検知された前記ターゲットを関連付け、前記関連付けられたターゲットに対応付けられた情報を前記記憶部に記憶させるターゲット連結処理部と、
を備えることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項11】
前記ターゲット連結処理部は、
前記今回及び前記過去の検知サイクルにおける前記ターゲットの関連付けを、距離及び相対速度、又は、距離、相対速度及び方位により行う
ことを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項12】
前記第1演算処理部は、
前記ターゲットに対応付けられた情報に基づいて、前記生成された拡張複素数データを要素とする前記次数増加行列を平均する行列フィルタ部
を備え、
前記固有値分解部は、
前記平均化された次数増加行列を固有値分解することにより固有値と固有ベクトルを得る
ことを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項13】
前記第1演算処理部は、
前記今回を含む所定の回の検知サイクル中に複数取得した前記複素数データに基づいて拡張された前記拡張複素数データにより作成された第1の正規方程式の構成部である前記次数増加行列と右辺ベクトルに対して平均化処理を行う第1正規方程式フィルタ部
を備えることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項14】
前記第2演算処理部は、
前記拡張複素数データに基づいて、第2の正規方程式を作成する正規方程式作成部と、
前記第2の正規方程式に基づいて導かれる前記係数を算出する第2係数算出部と、
を備えることを特徴とする請求項8から請求項13のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項15】
前記第2演算処理部は、
前記第2の正規方程式を平均する第2正規方程式フィルタ部
を備え、
前記第2係数算出部は、
前記平均化された第2の正規方程式から前記係数を算出する
ことを特徴とする請求項14に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項16】
前記ビート周波数の強度値からピーク値を検出して前記ターゲットの存在を検知するピーク検知部
を備え、
前記方位検出部は、
前記ピーク検知部によって存在が検知されたターゲットに対応する複素数データに基づいて、前記受信波の到来方向を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項17】
前記複素数データに基づいて、前記受信波を受信する所望の方向の受信感度を高めるデジタルビームフォーミングに基づいて前記ターゲットの存在及び方位を検出するDBF部
をさらに備え、
前記ピーク検知部は、
前記今回の検知サイクルにおけるビート周波数における前記デジタルビームフォーミングに基づいて前記ターゲットの方位を検出する
ことを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項18】
前記第1演算処理部は、
次数を増加させず、要素の精度を向上させる行列を生成する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項19】
移動体に搭載される電子走査型レーダ装置による受信波方向推定方法であり、
受信部が、送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信過程と、
ビート信号生成部が前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成過程と、
周波数分解処理部が前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理過程と、
前記ビート信号に基づいて算出された複素数データである元の複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出過程と、
を含み、
前記方位検出過程は、
前記元の複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成するデータ拡張過程と、
前記拡張複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する第1演算処理過程と、
を有することを特徴とする受信波方向推定方法。
【請求項20】
移動体に搭載される電子走査型レーダ装置により受信波方向推定の処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであり、
送信された送信波を反射したターゲットから到来する受信波を受信する複数のアンテナを含んで構成される受信処理手順と、
前記送信波及び前記受信波からビート信号を生成するビート信号生成処理手順と、
前記ビート信号を予め設定された周波数帯域幅を有するビート周波数に周波数分解して、前記ビート周波数毎に分解された前記ビート信号に基づいた複素数データを算出する周波数分解処理手順と、
前記ビート信号に基づいて算出された複素数データである元の複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する方位検出処理手順と、
を実行させ、
前記方位検出処理において、
前記元の複素数データに基づいてデータ数を拡張した拡張複素数データを生成するデータ拡張処理手順と、
前記拡張複素数データに基づいて前記受信波の到来方向を算出する第1演算処理手順と、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【公開番号】特開2012−132846(P2012−132846A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286637(P2010−286637)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【Fターム(参考)】