説明

電子部品の周波数調整装置及びそれを用いた電子部品の周波数調整方法

イオンビームエッチングにより生じるパーティクルが製品の特性に悪影響を与えるおそれのない信頼性の高い電子部品の周波数調整装置及び該周波数調整装置を用いた電子部品の周波数調整方法を提供する。 イオンビーム電流(イオン又は電子)を検知する制御コレクタ4の、少なくともイオンビームが照射される部分を無機絶縁体12から構成する。 制御コレクタ4の、イオンビーム5が照射されない部分の少なくとも一部を導電体13から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、イオンビームエッチングにより、弾性表面波フィルタや圧電フィルタなどの電子部品の周波数を調整する周波数調整装置及びそれを用いた電子部品の周波数調整方法に関し、詳しくは、イオンビーム電流(イオン又は電子)をモニタする制御コレクタに特徴を有する電子部品の周波数調整装置及びそれを用いた電子部品の周波数調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発振子や圧電フィルタ、弾性表面波フィルタの周波数を調整して所望の特性を得るために用いられる従来の電子部品の周波数調整装置としては、例えば、イオンビームを用いて圧電素子をエッチングすることにより周波数の調整を行うようにした圧電素子の周波数調整装置がある。
【0003】
この周波数調整装置は、図8に示すようにイオンガン51の近傍にタングステンフィラメントによるニュートラライザ52を配置するとともに、シャッター58とイオンガン51の間に制御コレクタ54を配置し、この制御コレクタ54によりイオンビーム電流を検知し、フィードバック回路59によってニュートラライザ52の電力を制御するように構成されている。
なお、この周波数調整装置においては、シャッター58を閉とするときには、スイッチ62をオフにすることにより、イオンビーム55の照射を停止し、かつスイッチ63をオフにすることによりニュートラライザ52からの電子放出を停止するように構成されている
【0004】
この周波数調整装置を用いて周波数を調整するにあたっては、まず、キャリヤー65に搭載した、コレクタ電流の設定値を求めるための試験用のコレクタ60をバイアス電源61によって、本来の加工対象である圧電素子のエッチング面と同電位にし、このときのイオンビーム電流とニュートラライザ52の電子電流が相殺されてゼロになるようにコレクタ電流の設定値を定める。
【0005】
このようして、コレクタ電流の設定値を定めた後に、切り替え手段によって、コレクタ電流の設定値を求めるための試験用のコレクタ60を取り外し、圧電素子53を搭載したキャリヤー65を所定の位置に配置する。
【0006】
次に、コレクタ電流が常に設定値になるようにフィードバック回路59、フィードバック回路64によって、フィードバック制御を行いながらイオンビーム55を照射し、イオンビームエッチングすることにより周波数調整を行う(例えば特許文献1参照)。
【0007】
また、プラズマエッチング装置において、プラズマによりチャンバ内の部材が侵食され、ウェハを汚染するのを防止するために、プラズマが照射される部分の少なくとも表面をポリイミド樹脂により形成して、プラズマエッチングによる反応生成物の付着を抑制し、パーティクルが発生することを防止するようにしたプラズマエッチング装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−257549号公報
【特許文献2】特開平8−148471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の圧電素子の周波数調整装置の場合、制御コレクタに流れる電流を検出し、電流の大きさによってイオンビームを制御するようにしているため、制御コレクタは導電性を有している必要があり、絶縁体のみで制御コレクタを構成することができず、制御コレクタがイオンビームにより浸食されることで発生した導電性物質(パーティクル)がワークなどに付着し、電気的短絡などを引き起こす原因になるという問題点がある。すなわち、制御コレクタは、電流をモニタするための機能だけではなく、イオンビームを集束する機能を果たすものであるため、直接イオンビームにさらされることになり、イオンビームのエネルギーによって制御コレクタは少しずつ削られ、パーティクルが発生する。
【0009】
また、上述のように、制御コレクタはイオンビームのエネルギーによって削られるため、イオンビームに直接さらされる部分は消耗が激しく、寿命が短いという問題点がある。
【0010】
また、特許文献1の圧電素子の周波数調整装置において、制御コレクタのイオンビームが照射される部分の表面を、特許文献2のように、絶縁体であるポリイミド樹脂で形成することも考えられるが、その場合、一時的にはイオンビームによる反応生成物の付着を抑制し、パーティクルの発生を防止することが可能になるが、イオンビームが照射される部分の表面をポリイミド樹脂で形成しただけでは、制御コレクタとして十分な寿命を得ることができないという問題点がある。すなわち、ポリイミド樹脂は、従来制御コレクタに用いられている材料、例えば、ステンレス、耐熱性などを考慮したMo(モリブデン)、耐エッチング性を考慮したC(炭素)などに比べて、エッチングレートが高く、寿命も短いものと考えられる。
【0011】
本願発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、制御コレクタの寿命が長く、しかも、イオンビームエッチングにより生じるパーティクルが製品の特性に悪影響を与えるおそれのない信頼性の高い電子部品の周波数調整装置及び該周波数調整装置を用いた電子部品の周波数調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明(請求項1)の電子部品の周波数調整装置は、
電子部品素子をイオンエッチングすることにより、電子部品の周波数調整を行う電子部品の周波数調整装置において、
イオンビームが通過する開口部を有し、イオンビーム電流を検知する制御コレクタの、少なくともイオンビームが照射される部分が無機絶縁体から構成されていることを特徴としている。
【0013】
また、請求項2の電子部品の周波数調整装置は、請求項1の電子部品の周波数調整装置において、前記制御コレクタの、イオンビームが照射されない部分の少なくとも一部が導電体から構成されていることを特徴としている。
【0014】
また、本願発明(請求項3)の電子部品の周波数調整装置は、
電子部品素子をイオンエッチングすることにより、電子部品の周波数調整を行う電子部品の周波数調整装置において、
イオンビームが通過する開口部を有し、イオンビーム電流を検知する制御コレクタが、無機絶縁体層と導電体層を交互に積層することにより形成され、少なくともイオンビームが照射される側の最外層が無機絶縁体層である積層構造体から形成されていること
を特徴としている。
【0015】
また、請求項4の電子部品の周波数調整装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の電子部品の周波数調整装置において、前記制御コレクタの開口部の、イオンビームの入口側の径を、出口側の径より大きくしたことを特徴としている。
【0016】
また、本願発明(請求項5)の電子部品の周波数調整方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の電子部品の周波数調整装置を用いて電子部品素子をイオンエッチングすることにより周波数の調整を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本願発明(請求項1)の電子部品の周波数調整装置は、イオンビーム電流(イオン又は電子)を検知する制御コレクタの、少なくともイオンビームが照射される部分を無機絶縁体から構成するようにしているので、ポリイミドなどの樹脂よりもエッチングされにくい上に、イオンビームエッチングにより生じるパーティクルが製品の特性に悪影響を与えることを防止することが可能な信頼性の高い電子部品の周波数調整装置を実現することが可能になる。
すなわち、制御コレクタの、イオンビームが照射される部分を無機絶縁体から構成した場合、制御コレクタがイオンビームに照射され、パーティクルが発生しても、制御コレクタのイオンビームにさらされている部分が無機絶縁体であるため、パーティクルが絶縁物となる。したがって、本願発明の周波数調整装置を用いることにより、周波数調整の工程で発生したパーティクルが、周波数調整の対象となっている電子部品の電極などに付着した場合にも短絡などの問題が発生せず、所望の周波数に調整された信頼性の高い電子部品を提供することが可能になる。
なお、本願発明において、少なくともイオンビームが照射される部分が無機絶縁体から構成されているとは、少なくともイオンビームが照射される部分自体がアルミナなどの無機絶縁体から形成されている場合、アルミナ膜などの無機絶縁体膜で被覆されている場合、アルミナ基板などの無機絶縁体板が貼り付けられている場合などを含む広い概念である。
【0018】
また、請求項2の電子部品の周波数調整装置のように、制御コレクタの、イオンビームが照射されない部分の少なくとも一部を導電体から構成することにより、制御コレクタに流れる電流を検出することが可能になるとともに、電流の大きさによってイオンビームを確実に制御することが可能になり、本願発明を実効あらしめることが可能になる。
なお、本願発明において、コレクタの、イオンビームが照射されない部分の少なくとも一部が導電体から構成されているとは、イオンビームが照射されない部分の少なくとも一部が、金属などの導電体から形成されている場合、金属膜などの導電体膜で被覆されている場合、金属板などの導電体板が貼り付けられている場合などを含む広い概念である。
【0019】
また、本願発明(請求項3)の電子部品の周波数調整装置のように、制御コレクタを、無機絶縁体層と導電体層を積層し、少なくともイオンビームが照射される側の最外層が無機絶縁体層となるようにした積層構造体から形成するようにした場合、イオンビームが照射される側の最外層が無機絶縁体層であるため、パーティクルが発生しても、パーティクルは絶縁物となる。それゆえ、周波数調整の工程で発生したパーティクルが周波数調整の対象となっている電子部品の電極などに付着した場合にも、短絡などの問題の発生を抑制することが可能になり、また、制御コレクタの一部が、無機絶縁体層と交互に積層された導電体層により形成されているため、制御コレクタに流れる電流を検出し、電流の大きさによってイオンビームを制御することが可能になる。
したがって、制御コレクタの寿命が長く、しかも、イオンビームエッチングにより生じるパーティクルが製品の特性に悪影響を与えるおそれのない、信頼性の高い電子部品の周波数調整装置を実現することが可能になる。
なお、本願発明において、少なくともイオンビームが照射される側の最外層が無機絶縁体層であるとは、イオンビームが照射される側の最外層がアルミナなどの無機絶縁体層で、イオンビームが照射される側と反対側の最外層も無機絶縁体層である場合、及び、イオンビームが照射される側の最外層がアルミナなどの無機絶縁体層で、イオンビームが照射される側と反対側の最外層が導電体層である場合を含む概念である。
【0020】
また、請求項4の電子部品の周波数調整装置のように、制御コレクタの開口部の、イオンビームの入口側の径を、出口側の径より大きくすることにより、開口部の内周面(テーパ部)において、テーパ部に露出した導電体層からの流入電流量を大きくとることが可能になり、イオンビーム電流の検出の感度を向上させることが可能になり、本願発明をさらに実効あらしめることができる。
【0021】
また、本願発明(請求項5)の電子部品の周波数調整方法は、請求項1〜4のいずれかに記載の電子部品の周波数調整装置を用いて電子部品素子をイオンエッチングすることにより、周波数調整工程で発生したパーティクルが周波数調整を行っている電子部品の電極などに付着して短絡を発生したりすることを防止して、確実に電子部品の周波数を調整することが可能になり、所望の特性を備えた信頼性の高い電子部品を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
[図1]本願発明の一実施例にかかる電子部品の周波数調整装置の概略構成を示す図である。
[図2]本願発明の一実施例にかかる電子部品の周波数調整装置の要部を拡大して示す図である。
[図3]本願発明の電子部品の周波数調整装置において用いられる制御コレクタの変形例を示す図である。
[図4](a)、(b)は、本願発明の電子部品の周波数調整装置において用いられる制御コレクタの他の変形例を示す図である。
[図5](a)、(b)は、本願発明の電子部品の周波数調整装置において用いられる制御コレクタのさらに他の変形例を示す図である。
[図6](a)、(b)は、本願発明の電子部品の周波数調整装置において用いられる制御コレクタのさらに他の変形例を示す図である。
[図7](a)〜(d)は、本願発明の電子部品の周波数調整装置において用いられる制御コレクタのさらに他の変形例を示す図である。
[図8]従来の電子部品の周波数調整装置を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 イオンガン
2 ニュートラライザ
3 ワーク(弾性表面波フィルタ)
4 制御コレクタ
5 イオンビーム
9 コントローラ
10 真空容器
11 開口部
12 無機絶縁体(アルミナ)
12a 無機絶縁体層
13 導電体(銀(Ag)薄膜)
13a 導電体層
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本願発明の実施例を示して、その特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0025】
この実施例では、水晶基板の表面にTaからなるくし歯状電極が配設された構造を有する弾性表面波フィルタについて、水晶基板とくし歯状電極とをイオンエッチングすることにより周波数を調整する場合を例にとって説明する。
なお、上記の構造では、水晶基板とくし歯状電極とが同時に、ほぼ同じレートでエッチングされるが、Taからなるくし歯状電極の比重が水晶基板よりもはるかに大きいため、くし歯状電極がエッチングされる効果が大きく、エッチングされることで周波数は高くなる。
【0026】
図1は、本願発明の一実施例にかかる電子部品の周波数調整装置を示す図であり、図2はその要部を拡大して示す図である。
図1及び2に示すように、この実施例の電子部品の周波数調整装置は、真空容器10の内部に配設されたイオンガン1の近傍に、イオンビーム5の照射によるワーク(弾性表面波フィルタ)3のチャージアップを防止するために電子を放出する機能を果たすタングステンフィラメントからなるニュートラライザ2を配設するとともに、ワーク3とイオンガン1の間に制御コレクタ4を配設し、この制御コレクタ4によりイオンビーム5の電流を検知し、コントローラ9によってニュートラライザ2の電力を制御するように構成されている。
【0027】
制御コレクタ4は、イオンビーム5の電流(イオン及び/又は電子)を検知するとともに、イオンビーム5を絞るように制御する機能を果たすものである。この制御コレクタ4は、図2に示すように、イオンビーム5が通過する開口部11を有している。そして、この制御コレクタ4は、その主要部(本体)が無機絶縁体(この実施例ではアルミナ)12から構成されており、無機絶縁体(この実施例ではアルミナ)12の裏面側(イオンビーム5の照射面の反対側)には、導電体(この実施例では銀(Ag)薄膜からなる電極膜)13が配設されている。
【0028】
なお、ニュートラライザ2としては、この実施例で用いられているようなフィラメントで熱電子を発生させるものが一般的であるが、これに限られるものではなく、他の方式のものを用いることも可能である。
【0029】
上述のように構成された周波数調整装置を用いてワーク(弾性表面波フィルタ)3の周波数調整を行うにあたっては、真空容器10の内部に配設されたイオンガン1からイオンビーム5を発生させてワーク3に照射し、ワーク3の水晶基板の表面及びくし歯状電極をイオンエッチングすることにより周波数の調整を行う。
このとき、制御コレクタ4の、イオンビーム5の照射面と反対側の面に配設された導電体13を通じてイオンビーム電流を検知し、コントローラ9にてニュートラライザ2の出力を、ワーク3のチャージアップを防止することが可能な適切な値になるように制御する。
【0030】
なお、このように、制御コレクタ4によりイオンビーム電流を検知し、ニュートラライザ2の出力を、ワーク3のチャージアップを防止することが可能な適切な値に制御するようにしているのは、以下の理由による。
すなわち、イオンビームエッチングにおいては、イオンビーム5の照射により、電荷を持ったイオンがワーク3に衝突して、ワーク3に電荷が蓄積された状態(チャージアップ状態)となる。そして、このチャージアップ状態になると、その後ワーク3に衝突すべきイオンが反発し、ワーク3への衝突が阻害されるばかりでなく、周波数測定にも影響を与え、場合によっては大量の電荷が測定器に入り込んで測定器を破壊するというような問題が生じる。そこで、ニュートラライザ2を用いて、電子を供給することにより、上述のような問題が発生することを防止して、確実にイオンエッチングによる周波数の調整を行うことができるようにしている。
【0031】
上述のように構成された周波数調整装置においては、制御コレクタ4のイオンビーム5が照射される面が板状の無機絶縁体12により形成されているので、制御コレクタ4の耐久性を向上させることが可能になるとともに、制御コレクタ4にイオンビーム5が照射されてパーティクルが発生しても、制御コレクタ4のイオンビーム5にさらされている部分が無機絶縁体12から構成されているため、発生するパーティクルが絶縁物となる。したがって、この実施例の周波数調整装置を用いて電子部品の周波数調整を行った場合、発生したパーティクルがワーク(この実施例では弾性表面波フィルタ)3の電極や回路などに付着しても短絡などの問題が発生せず、所望の周波数に調整された信頼性の高い電子部品を効率よく製造することが可能になる。
【0032】
なお、この実施例の周波数調整装置を用いて、水晶基板の表面にTaからなるくし歯状電極が配設された構造を有する弾性表面波フィルタについて、水晶基板の表面及びくし歯状電極をイオンエッチングすることにより周波数の調整を行ったところ、短絡などの問題の発生を極めて少なくして、周波数を所望の値に調整することができることが確認されている。
【0033】
また、主要部が無機絶縁体であるアルミナから構成され、裏面側に導電体(銀(Ag)薄膜からなる電極膜)を配設してなる制御コレクタを用いた本願発明の実施例にかかる電子部品の周波数調整装置と、全体が金属(モリブデン)からなる制御コレクタを用いた従来の電子部品の周波数調整装置を用いて、前記の構造を有する弾性表面波フィルタ1000個について、周波数の調整を行い、不良品の発生率を調べた結果、従来の電子部品の周波数調整装置を用いた場合には、不良品の発生数が39個(不良品発生率3.9%)であったのに対して、本願発明の実施例にかかる電子部品の周波数調整装置を用いた場合には、不良品の発生数が2個(不良品発生率0.2%)であり、不良品発生率が大幅に減少することが確認された。
【0034】
なお、上記実施例では、無機絶縁体12の構成材料としてアルミナを用い、導電体(電極膜)13の構成材料として銀(Ag)を用いた場合を例にとって説明したが、無機絶縁体としては、アルミナ以外にも、ジルコニア、SiC、SiOなどの材料を用いることが可能であり、これらの中でもアルミナのようにエッチングブレートの低いものが好ましい。また、導電体としては、銀以外に、モリブデン、ステンレス、炭素(C)、その他の金属などの材料を用いることが可能であり、腐食性の問題のないものが望ましい。
【0035】
なお、この実施例では、弾性表面波フィルタについて、水晶基板の表面及びTaからなるくし歯状電極をイオンエッチングすることにより周波数を調整する場合を例にとって説明したが、例えば、水晶基板の表面にAlからなるくし歯状電極が配設された弾性表面波発振子の場合には、水晶基板の表面とAlからなるくし歯状電極をイオンエッチングすることにより周波数を調整することも可能である。このとき、水晶基板とAlからなるくし歯状電極はエッチングブレートが異なることを利用して周波数を調整する。
また、例えば、圧電基板の表裏両面に振動電極が配設された構造を有する圧電発振子の周波数を調整する場合には、振動電極をイオンエッチングすることにより周波数を調整することができる。
ただし、本願発明において、周波数を調整する際の具体的な態様は上記の例に限られるものではなく、さらにその他の態様で電子部品の周波数を調整する場合にも広く適用することが可能である。
【0036】
[制御コレクタの変形例]
上記実施例では、イオンビーム5が照射される面を構成する部分が無機絶縁体(アルミナ)12から構成され、無機絶縁体(アルミナ)12の裏面側(イオンビーム5の照射面の反対側)に導電体(銀(Ag)薄膜)13が配設された構造を有する制御コレクタを用いているが、本願発明の電子部品の周波数調整装置においては、その他にも、以下に説明するような種々の構造を有する制御コレクタ(図3,4,5,6及び7参照)を用いることが可能である。
【0037】
すなわち、本願発明の電子部品の周波数調整装置においては、上記実施例の制御コレクタ4(図1及び2参照)以外にも、図3に示すように、上記実施例の制御コレクタ4と同様に、主要部(本体)が無機絶縁体12から構成され、この無機絶縁体(アルミナ)12の、イオンビーム5が照射されない部分(イオンビーム5が照射される面の、実際にイオンビーム5が照射される領域及び制御コレクタ4の開口部11の内周面を除く無機絶縁体12の全面)が、導電体(電極膜)13により被覆された構造を有する制御コレクタ4を用いることが可能である。
【0038】
また、図4(a),(b)に示すように、上記実施例の制御コレクタ4と同様に、主要部(本体)を無機絶縁体(この実施例ではアルミナ)12から構成し、無機絶縁体(アルミナ)12の裏面側に導電体13が形成された構造とし、かつ、図4(a)に示すように開口部11を直線的なテーパ形状(台形状)とし、あるいは、図4(b)に示すように、開口部11を曲線的なテーパ形状(凸状のテーパ)とした制御コレクタ4を用いることも可能である。
【0039】
また、図5(a),(b)に示すように、主要部(本体)を無機絶縁体12から構成し、無機絶縁体(アルミナ)12の、イオンビーム5が照射されない部分(イオンビーム5が照射される面の、実際にイオンビーム5が照射される領域及び制御コレクタ4の開口部11の内周面を除く無機絶縁体12の全面)を、導電体(電極膜)13により被覆した構造を有し、かつ、図5(a)に示すように開口部11を直線的なテーパ形状(台形状)とした制御コレクタ4、あるいは、図5(b)に示すように、開口部11を曲線的なテーパ形状(凸状のテーパ)とした制御コレクタ4を用いることも可能である。
【0040】
また、図6(a)に示すように、主要部(本体)を導電体13から構成し、イオンビーム5が照射される面の全面に無機絶縁体(この実施例ではアルミナ膜))12を配設した制御コレクタ4、図6(b)に示すように、主要部(本体)を導電体13から構成し、イオンビーム5が照射される面の、イオンビーム5が実際に照射される領域に無機絶縁体(この実施例ではアルミナ膜)12を配設した制御コレクタ4を用いることも可能である。なお、無機絶縁体の厚みは、通常数百μm程度であれば、実用上の耐用性を確保することが可能である。
【0041】
さらに、図7(a)〜(d)に示すように、無機絶縁体層12aと導電体層13aを交互に積層することにより形成され、イオンビーム5が照射される側の最外層が無機絶縁体層となるように構成された積層構造を有する制御コレクタを用いることも可能である。なお、図7(a)〜(d)では、積層構造を有する制御コレクタの、イオンビーム5が照射される面とは逆側の面を構成する最外層も無機絶縁体層12aとなっている。
【0042】
なお、図7(a)の制御コレクタ4は、導電体層13aを無機絶縁体層12aで挟み込んだ構造を有しており、図7(b)の制御コレクタ4は、無機絶縁体層12aと導電体層13aを交互に積層するとともに、イオンビーム5の照射面及びその反対側の最外層を無機絶縁体層12aとした構造を有している。
【0043】
また、図7(c)の制御コレクタ4は、無機絶縁体層12aと導電体層13aを交互に積層するとともに、イオンビーム5の照射面及びその反対側の最外層を無機絶縁体層12aとし、かつ、開口部11を直線的なテーパ形状(台形状)とした構造を有しており、図7(d)の制御コレクタ4は、無機絶縁体層12aと導電体層13aを交互に積層するとともに、イオンビーム5の照射面及びその反対側の最外層を無機絶縁体層12aとし、かつ、開口部11を曲線的なテーパ形状(凸状のテーパ)とした構造を有している。
なお、図7(c),(d)の制御コレクタ4においては、開口部11の内周面(テーパ部)のテーパ部に露出した導電体層13aからの流入電流量を大きくとることが可能になるため、イオンビーム電流の検出の感度を向上させることが可能になる。
【0044】
なお、本願発明の電子部品の周波数調整装置において用いることが可能な制御コレクタの具体的な構造や構成は、上述のようなものに限られるものではなく、さらに他の構造や構成のものを用いることも可能である。
【0045】
また、上記実施例では、弾性表面波フィルタの周波数を調整する場合を例にとって説明したが、圧電フィルタやその他の種々の電子部品について、その周波数を調整する場合に広く適用することが可能である。
【0046】
本願発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
上述のように、本願発明の周波数調整装置を用いることにより、イオンビームエッチングにより生じるパーティクルが製品の特性に悪影響を与えることを防止することが可能になり、周波数調整の工程で発生したパーティクルが、周波数調整の対象となっている電子部品の電極などに付着した場合にも短絡などの問題が発生することを防止して、所望の周波数に調整された信頼性の高い電子部品を得ることが可能になる。
したがって、本願発明は、イオンエッチングすることにより電子部品の周波数調整を行う周波数調整装置および弾性表面波フィルタや圧電フィルタなどの周波数の調整を行うことが必要な電子部品の製造工程などに広く利用することが可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品素子をイオンエッチングすることにより、電子部品の周波数調整を行う電子部品の周波数調整装置において、
イオンビームが通過する開口部を有し、イオンビーム電流を検知する制御コレクタの、少なくともイオンビームが照射される部分が無機絶縁体から構成されていること
を特徴とする電子部品の周波数調整装置。
【請求項2】
前記制御コレクタの、イオンビームが照射されない部分の少なくとも一部が導電体から構成されていることを特徴とする請求項1記載の電子部品の周波数調整装置。
【請求項3】
電子部品素子をイオンエッチングすることにより、電子部品の周波数調整を行う電子部品の周波数調整装置において、
イオンビームが通過する開口部を有し、イオンビーム電流を検知する制御コレクタが、無機絶縁体層と導電体層を交互に積層することにより形成され、少なくともイオンビームが照射される側の最外層が無機絶縁体層である積層構造体から形成されていること
を特徴とする電子部品の周波数調整装置。
【請求項4】
前記制御コレクタの開口部の、イオンビームの入口側の径を、出口側の径より大きくしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子部品の周波数調整装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電子部品の周波数調整装置を用いて電子部品素子をイオンエッチングすることにより周波数の調整を行うことを特徴とする電子部品の周波数調整方法。

【国際公開番号】WO2005/006545
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511489(P2005−511489)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008324
【国際出願日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】