説明

電子部品包装用のプラスチック製シート、及びこれを用いた電子部品包装容器、並びに電子部品包装体

【課題】 リブのような絞りの厳しい形状(例えば、幅0.5mm、高さ1mm、長さ20mmなど)を成形する場合においても、表面層が隣接する基材層から剥がれることがなく、且つ、導電性カーボンの脱落が改善されたプラスチック製シートを提供すること。
【解決手段】 本発明のプラスチック製シートは、基材層とポリスチレン系樹脂を含有する表面層とを有する電子部品包装用であって、前記表面層の成分が、これに隣接する基材層に含有されていることを特徴とする。ここで、前記表面層に、導電性物質が含有されていることが好ましい。また、基材層には、前記表面層の成分が基材層に対して1〜50質量%含有されていることが好ましい。また、電子部品包装容器、及び電子部品包装体において、本発明のプラスチック製シートが用いられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品包装用のプラスチック製シート、及びこれを用いた電子部品包装容器、並びに電子部品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の搬送等に用いられる電子部品包装容器としては、その表面に電子部品等を収納するための凹形の部品収納部(以下、凹部という)が形成されたキャリアテープやトレーなどが用いられている。
キャリアテープとしては、紙、プラスチックフィルム等のシートを所定の幅にスリットして基材を得、(1)基材の一部を打抜き加工により取り除いた後、基材裏面にボトムテープを装着して部品収納部を形成したパンチドキャリアテープ、(2)基材の一部を凹形にエンボス加工して凹部を形成したエンボスキャリアテープ、(3)基材の一部を圧縮加工することによって凹部を形成したプレスキャリアテープ等が一般的である。
また、トレーの形態としては、インジェクショントレー、ソフトトレー等が一般的である。
【0003】
これらの電子部品包装容器には、電子部品等との接触による静電気発生を防止するために、表面層に導電性カーボンが分散されたプラスチック製シートが使用されている。しかし、例えばポリスチレン系樹脂を用いたプラスチック製シートにおいて、表面層に混合した導電性カーボンが脱落し、電子部品等を汚染する問題があった。そこで、この導電性カーボンの脱落低減を図る手段として、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)を表面層に混合する提案(例えば、特許文献1参照。)や、ポリオレフィンを表面層に混合する提案(例えば、特許文献2参照。)がなされてきた。
【特許文献1】特開平3−87097号公報
【特許文献2】特開平9−76423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これら導電性カーボンの脱落を低減するために、表面層に混合するEVA樹脂やポリオレフィン等の添加剤は、ベース樹脂であるポリスチレン系樹脂とは基本的に相溶しない。したがって、添加剤を混合した表面層と、表面層に隣接する添加剤を混合していない基材層との接着性は完全なものではなかった。そのため、真空成形、圧空成形、プレス成形などにより、特に、リブのような絞りの厳しい形状(例えば、幅0.5mm、高さ1mm、長さ20mmなど)を成形する場合に、表面層が剥がれて導電性を失う問題が発生していた。
また、この表面層と基材層の接着性を配慮し、表面層に混合する添加剤の配合量を制限したときには、導電性カーボンの脱落低減の効果が十分に得られない場合があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、表面層が隣接する基材層から剥がれることがなく、且つ、導電性カーボンの脱落が改善したプラスチック製シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、表面層の成分が、これに隣接する基材層に含まれることによって、表面層と基材層の剥がれが改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明は、基材層とポリスチレン系樹脂を含有する表面層とを有する電子部品包装用のプラスチック製シートにおいて、前記表面層の成分が、これに隣接する基材層に含有されていることを特徴とするものである。ここで、前記表面層には、導電性物質が含有されていることが好ましい。また、基材層には、前記表面層の成分が基材層に対して1〜50質量%含有されていることが好ましい。また、電子部品包装容器、及び電子部品包装体において、本発明のプラスチック製シートが用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、例えばリブのような絞りの厳しい形状を成形等する場合においても、表面層が隣接する基材層から剥がれることがなく、且つ、導電性カーボンの脱落が改善した、プラスチック製シートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をより詳細に説明する。
≪層構成≫
本発明のプラスチック製シートは、基材層と、ポリスチレン系樹脂を含有する表面層とを有する複層構造をもつものである。この表面層に隣接する基材層には、表面層の成分が一定量含有される。
ここで複層構造をもつとは、プラスチック製シートが、例えば、二層構造、三層構造、四層以上の構造から構成されてもよいことを表す。二層構造とは、基材層と表面層からなるものである。また、三層構造とは、基材層と基材層の両表面に位置する表面層からなるものである。四層以上の構造とは、複数の基材層が積層し、両最表面に位置する表面層からなるものである。いずれの複層構造についても、表面層に隣接する基材層には、表面層の成分が一定量含有される。これにより、表面層と基材層の相溶性が高まり、接着強度が向上することにより両層の剥がれが著しく改善する。
【0009】
<基材層>
基材層の材質としては、特に限定されず、紙製のもの、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂製のもの等が挙げられ、なかでも熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアセタール系、ポリカーボネート系、ポリオレフィン系、アクリル系、フッ素系及びこれら2種以上を混合したポリマーアロイ、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系(ABS樹脂)等が挙げられる。これらの中でも、成形加工の容易性の点からポリスチレン系樹脂、ABS樹脂が好適に用いられる。
【0010】
<表面層>
表面層を構成する樹脂としては、ポリスチレン系樹脂が必須成分として挙げられる。ここで、ポリスチレン系樹脂とは、スチレンを主成分とした重合体であればよく、例えば、ポリスチレン樹脂、スチレンとブタジエンの共重合体、ブロック共重合体等を使用することができる。ポリスチレン系樹脂は単独又は他の樹脂が混合されていてもよい。
他の樹脂としては、特に限定されず、合成樹脂製のもの等が挙げられる。なかでも、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエチレン系、アクリル系、酢酸ビニル系等の単独、又は混合物、アロイ又はコポリマーが好適に用いられる。これらの中でも、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA樹脂)が、導電性カーボンの脱落低減の目的として好適に用いられる。
また、表面層の厚さとしては、特に限定されず、電子部品包装用途に適する厚さであれば良い。
【0011】
基材層に表面層の成分が含有される割合として、表面層の成分が基材層に対して1〜50質量%含有されることが好ましい。1質量%未満では、表面層と基材層の接着強度向上の効果が乏しい。また、50質量%を超えると、表面層と基材層の接着強度は申し分ないものとなるが、もともとの基材層が持つ特長である成形加工の容易性を損ない、結果として真空成形、圧空成形、プレス成形等による成形性が劣ってしまうことになり、表面層と基材層という複層構造にした効果が無くなってしまうために好ましくない。
【0012】
〔導電性物質〕
本発明においては、さらに表面層に、導電性物質としてケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン系物質が使用される。これらは単独でも、又は他の導電性物質が併用されていてもよい。
他の導電性物質としては、特に限定されず、導電性材料及び/又は帯電防止剤等が挙げられる。導電性材料として、酸化錫などの導電性金属系物質、アニリン、ピロール、チオフェンなどの有機導電性物質等が挙げられる。また、帯電防止剤として、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤等の界面活性剤などが挙げられる。代表的なものとしては、第四級アンモニウム塩が併用される。
これらの導電性物質が配合された表面層は、静電気発生の防止効果の発現のためには、表面固有抵抗値が10〜1012Ωであることが望ましい。
【0013】
導電性カーボン系物質は、電子部品等との接触による静電気発生を防止するために、表面層に混合される。この静電気発生の防止効果は、特に、部品が微細化するほど重要となる。例えば、サイズが1005、0603、0402等のような微細電子部品用キャリアテープの場合、該微細電子部品の実装時に、凹部に収納された部品を取り出すためにカバーテープを剥離した際に、剥離帯電により静電気が発生し、凹部内の部品がカバーテープに付着するなどして実装不良を引き起こすことがあるためである。
【0014】
本発明のプラスチック製シートは、キャリアテープやトレーなど、電子部品等を収納、保管、搬送、実装等するための電子部品包装容器、及び、電子部品等が包装容器に収納等された電子部品包装体など、主として電子部品包装用として広く利用することが可能である。
なお、下記実施例では、三層構造を有するプラスチック製シートを一例に挙げるが、これに当然に限定されることなく、さらに二層構造又は四層以上の構造を有するプラスチック製シートにも利用される。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
はじめに、表面層の成分を含有しない基材層Aを有する、表面層/基材層A/表面層の三層構造からなるプラスチック製シートAを作製した。
表面層として、ポリスチレン系樹脂にエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)を混合し、これに導電性カーボン紛を混練したものを調製した。基材層Aとしては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー(ABS樹脂)を使用した。この基材層Aと前記表面層を用いて、三層共押出し加工することにより、基材層に表面層の成分を含有しないプラスチック製シートAを得た。
次に、本発明に相当する、表面層の成分を含有した基材層Bを有する、表面層/基材層B/表面層の三層構造からなるプラスチック製シートを作製した。
基材層Bとして、上述のシートAを粗粉砕、微粉砕したものを、前記表面層の成分が基材層Bに対して1.2質量%含有するように、ABS樹脂ペレットに混合したものを調製した。この基材層Bと前記表面層を用いて、三層共押出し加工することにより、本発明に相当するプラスチック製シートを得た。
【0016】
(実施例2)
実施例1において、基材層Bに含有される表面層の成分を4.8質量%に変更した以外は、実施例1と同様のプラスチック製シートを作製した。
【0017】
(実施例3)
実施例1において、基材層Bに含有される表面層の成分を50質量%に変更し、表面層及びシートの厚さが実施例1とは異なるプラスチック製シートを作製した。
【0018】
(実施例4)
実施例1において、基材層Bに含有される表面層の成分を50質量%に変更した以外は、実施例1と同様のプラスチック製シートを作製した。
【0019】
(比較例1)
実施例1における、表面層の成分を含有しないプラスチック製シートAを用いた。
【0020】
(比較例2)
実施例1において、基材層Bに含有される表面層の成分を0.8質量%に変更した以外は、実施例1と同様のプラスチック製シートを作製した。
【0021】
(比較例3)
実施例1において、基材層Bに含有される表面層の成分を55質量%に変更した以外は、実施例1と同様のプラスチック製シートを作製した。
【0022】
(成形性、表面層の剥がれの評価)
上記のプラスチック製シートを用いて、真空成形、圧空成形、プレス成形を行い、成形性および表面層の剥がれを肉眼で観察した。このときの成形凹部は約タテ5mm×ヨコ8mm×深さ4mmの箱型であり、凹部底面にリブ(幅0.5mm、高さ1mm、長さ8mm)を成形した。
成形性については、各成形方法でのリブの成形性について、次の基準で評価を行った。○:成形性が良好、×:成形性が悪い、△:中間程度
表面層の剥がれについては、いずれかの成形方法での剥がれ状態について、次の基準で評価を行った。○:全く剥がれが見られない、×:剥がれが見られる、△:肉眼では認められにくいが、微細なクラックが入っている
表1に、基材層に含まれる表面層の成分の含有量、プラスチック製シート及び表面層の厚さ、各成形方法による成形性、導電性、表面層の剥がれについて、評価結果をまとめた。
【0023】
【表1】

【0024】
この結果から明らかなように、基材層に含有される表面層の成分が基材層に対して1〜50質量%の実施例1〜4のプラスチック製シートは、表面層の剥がれが全く観察されなかった。また、導電性についても問題がなく、いずれの成形方法に対してもその成形性は良好であった。
一方、基材層に含有される表面層の成分が基材層に対して1質量%未満と少ない比較例1〜2のプラスチック製シートは、表面層の剥がれ及び導電性が悪く、実施例より劣っていた。また、表面層の成分が50質量%を超える比較例3のプラスチック製シートでは、成形性が悪く、実施例より劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層とポリスチレン系樹脂を含有する表面層とを有する電子部品包装用のプラスチック製シートにおいて、前記表面層の成分が、これに隣接する基材層に含有されていることを特徴とするプラスチック製シート。
【請求項2】
前記表面層に、導電性物質が含有されていることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック製シート。
【請求項3】
基材層に、前記表面層の成分が基材層に対して1〜50質量%含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチック製シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック製シートを用いた電子部品包装容器、及び電子部品包装体。

【公開番号】特開2006−137022(P2006−137022A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326476(P2004−326476)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】