説明

電子部品用接着剤

【課題】ボイドの発生を低減することができ、硬化後に低線膨張率となる信頼性の高い電子部品用接着剤を提供する。
【解決手段】脂肪族エポキシ化合物とベンゾオキサジン化合物とを硬化主剤として含有し、かつ、フェノール系硬化剤を含有する電子部品用接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイドの発生を低減することができ、硬化後に低線膨張率となる信頼性の高い電子部品用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において、例えば、半導体チップを基板又は他の半導体チップにボンディングする際には、接着剤、接着フィルム等が用いられることが多い。このような接着剤には、従来、ボイドの発生を低減することが要求されてきた。例えば、特許文献1には、保存安定性に優れ、ボイドの無い硬化物を与える接着剤組成物として、(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂硬化促進剤、(C)25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子、(D)溶剤、(E)エポキシ樹脂硬化剤、及び(F)無機充填剤を含み、所定の溶解状態にある接着剤組成物が記載されている。
【0003】
一方、近年、ますます進展する半導体装置の小型化、高集積化に対応するために、ハンダ等からなる接続端子(バンプ)を有する半導体チップを用いたフリップチップ実装が多用されている。フリップチップ実装においては、例えば、半導体チップに形成された複数のバンプと、基板又は他の半導体チップに形成された電極部とを接続した後、アンダーフィルを充填して封止する方法が用いられている。また、半導体チップ又は基板、或いは、ダイシングする前の半導体ウエハに予め接着剤層を形成した後、接着剤を硬化すると同時にバンプと電極部とを接続する方法も提案されている。
【0004】
このようなフリップチップ実装、特に、接着剤を硬化すると同時にバンプと電極部とを接続する方法においては、特許文献1に記載されているような従来の接着剤では、接着剤が瞬間的に未硬化の状態で高温にさらされるため、ボイドの発生を避けることは困難であった。
【0005】
また、フリップチップ実装に用いられる接着剤には、硬化後に低線膨張率となることも要求される。接着剤の硬化後の線膨張率が大きいと、接着剤が硬化収縮する際、又は、リフロー試験、冷熱サイクル試験等を経たとき、半導体チップ等の電子部品の線膨張率と接着剤の線膨張率との差が大きいために接着剤の界面等に応力が集中し、クラックが発生することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−201998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ボイドの発生を低減することができ、硬化後に低線膨張率となる信頼性の高い電子部品用接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、脂肪族エポキシ化合物とベンゾオキサジン化合物とを硬化主剤として含有し、かつ、フェノール系硬化剤を含有する電子部品用接着剤である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、脂肪族エポキシ化合物とベンゾオキサジン化合物とを硬化主剤とするとともにフェノール系硬化剤を用いることにより、ボイドの発生を低減するとともに硬化後に低線膨張率となる電子部品用接着剤が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の電子部品用接着剤は、脂肪族エポキシ化合物とベンゾオキサジン化合物とを硬化主剤として含有する。なお、本明細書中、硬化剤の存在により硬化する化合物を硬化主剤と称するものとする。硬化主剤には、脂肪族エポキシ化合物、ベンゾオキサジン化合物、並びに、必要に応じて配合される芳香族エポキシ化合物及びエポキシ化合物と反応可能な官能基を有する高分子化合物等が含まれる。
上記脂肪族エポキシ化合物は、脂肪族鎖式化合物であってもよく、脂環式化合物であってもよい。上記脂肪族鎖式化合物として、例えば、(ポリ)エチレングリコール型エポキシ樹脂、(ポリ)プロピレングリコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールA−(ポリ)プロピレンオキサイド型エポキシ樹脂、ビスフェノールF−(ポリ)プロピレンオキサイド型エポキシ樹脂等が挙げられる。上記脂環式化合物として、例えば、水添レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビフェニル型エポキシ樹脂、水添ナフタレン型エポキシ樹脂、水添アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、硬化後に高い弾性率を得られることから、脂環式化合物が好ましく、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂がより好ましい。これらの脂肪族エポキシ化合物は、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0011】
上記脂肪族エポキシ化合物のうち、市販品として、例えば、EP−4000S、EP−4010S、ED−502S、ED−501、EP−4080S、EP−4088S、EP−4088L(ADEKA社製)、YX−8000、YX−8040、YL−6753、YL−7410(ジャパンエポキシレジン社製)、EXA−7015(DIC社製)等が挙げられる。
【0012】
なお、上記脂肪族エポキシ化合物の代わりに芳香族エポキシ化合物を用いると、得られる電子部品用接着剤はゲルタイムが短くなり、特にフリップチップ実装においてはボイドが発生しやすくなってしまう。ただし、本発明の電子部品用接着剤は、後述するように、上記脂肪族エポキシ化合物に加えて芳香族エポキシ化合物を含有していてもよい。
【0013】
本明細書中、ベンゾオキサジン化合物とは、ベンゾオキサジン環を有する化合物を意味する。また、本明細書中、ベンゾオキサジン環には、ベンゾオキサジン環に加えてジヒドロベンゾオキサジン環も含まれる。
【0014】
上記ベンゾオキサジン化合物は特に限定されないが、ジアミンとモノフェノールとから合成されるジヒドロベンゾオキサジン化合物であることが好ましい。
上記ジヒドロベンゾオキサジン化合物は、上記脂肪族エポキシ化合物、並びに、必要に応じて配合される芳香族エポキシ化合物及びエポキシ化合物と反応可能な官能基を有する高分子化合物等との相溶性が良好である。そのため、上記ジヒドロベンゾオキサジン化合物を含有することで、得られる電子部品用接着剤においては、硬化時には、配合したそれぞれの化合物がすべて反応系に取り込まれ、未反応物の残存が抑制されるため、フリップチップ実装においてもボイドの発生を低減しやすい。
【0015】
上記ジヒドロベンゾオキサジン化合物は、例えば、モノフェノールとパラホルムアルデヒドとを溶剤中に懸濁させ、加熱しながら15〜30分程度かけてジアミンを添加した後、反応温度を還流温度にまで昇温し、2時間程度反応させる方法により合成されてもよい。
なお、このような方法においては、反応終了後に減圧下で溶剤及び水分を除去することにより、上記ジヒドロベンゾオキサジン化合物が得られる。
【0016】
上記ジアミンを添加する際の加熱温度は、50〜70℃が好ましい。上記加熱温度が50℃未満であると、モノフェノールとパラホルムアルデヒドとが溶剤中に溶解しないまま反応が進行し、未反応物が反応系内に残存することがある。上記加熱温度が70℃を越えると、反応系内で部分的に反応が進行し、均質な化合物が得られないことがある。
【0017】
上記溶剤の使用量は特に限定されないが、パラホルムアルデヒドの使用量に対して0.5〜2倍であることが好ましい。上記溶剤の使用量がパラホルムアルデヒドの使用量の0.5倍未満であると、パラホルムアルデヒドの未溶解部分が多くなり、均一に反応しないため、未反応物が反応系内に残存することがある。上記溶剤の使用量がパラホルムアルデヒドの使用量の2倍を越えると、反応で副生する水を除去するのに時間がかかり過ぎることがある。上記溶剤の使用量は、パラホルムアルデヒドの使用量に対して1.0〜1.5倍であることがより好ましい。
【0018】
上記ジアミンは特に限定されず、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0019】
上記モノフェノールは特に限定されず、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール、p−t−ブチルフェノール、オクチルフェノール等が挙げられる。
【0020】
上記ジヒドロベンゾオキサジン化合物のうち、市販品として、例えば、P−d型ベンゾオキサジン(四国化成工業社製)等が挙げられる。
【0021】
上記ベンゾオキサジン化合物の含有量は特に限定されないが、上記ベンゾオキサジン化合物を除く硬化主剤100重量部に対する好ましい下限が20重量部、好ましい上限が400重量部である。上記ベンゾオキサジン化合物の含有量が20重量部未満であると、得られる電子部品用接着剤は、硬化後に充分に低線膨張率とはならないことがある。上記ベンゾオキサジン化合物の含有量が400重量部を超えると、得られる電子部品用接着剤は、硬化後に充分に低線膨張率とはならなかったり、フィルム化する際にフィルム形状を保持できなかったりすることがある。
【0022】
本発明の電子部品用接着剤は、フェノール系硬化剤を含有する。
上記フェノール系硬化剤を含有することで、本発明の電子部品用接着剤は、上記脂肪族エポキシ化合物及び上記ベンゾオキサジン化合物のみの硬化に加えて架橋構造が形成されるため、硬化後に低線膨張率となる。
【0023】
上記フェノール系硬化剤は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ジシクロペンタジエンフェノール、アラルキルフェノール、トリスフェノール、テトラキスフェノール、レゾール型フェノール、ビフェニルジメチレン型フェノール、フェノール樹脂−シリカハイブリッド及びこれらの誘導体、変性体等が挙げられる。なかでも、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ジシクロペンタジエンフェノール、ビフェニルジメチレン型フェノール、フェノール樹脂−シリカハイブリッド及びこれらの誘導体、変性体が好ましい。
【0024】
上記フェノール系硬化剤のうち、市販品として、例えば、TD−2131(DIC社製)、Matrimid(Huntsman社製)、KA−1160(DIC社製)等が挙げられる。
【0025】
本発明の電子部品用接着剤においては、上記ベンゾオキサジン化合物と、上記フェノール系硬化剤との配合量の比を調整することで、硬化後の線膨張率を更に低下させることができる。
即ち、上記フェノール系硬化剤のOH当量に対する、ベンゾオキサジン環を1官能とした場合の上記ベンゾオキサジン化合物の当量の比(ベンゾオキサジン化合物の当量/フェノール系硬化剤のOH当量)は、1.4〜2.0であることが好ましい。上記値が上記範囲を外れると、得られる電子部品用接着剤は、硬化後に充分に低線膨張率とはならないことがある。なお、本明細書中、フェノール系硬化剤のOH当量に対する、ベンゾオキサジン環を1官能とした場合のベンゾオキサジン化合物の当量の比(ベンゾオキサジン化合物の当量/フェノール系硬化剤のOH当量)は、フェノール系硬化剤のOH基のモル数に対する、ベンゾオキサジン環を1官能とした場合のベンゾオキサジン化合物のモル数の比(ベンゾオキサジン化合物のモル数/フェノール系硬化剤のOH基のモル数)である。
【0026】
本発明の電子部品用接着剤は、芳香族エポキシ化合物を硬化主剤として更に含有してもよい。
上記芳香族エポキシ化合物は特に限定されず、例えば、軟化点が150℃以下の芳香族エポキシ樹脂、常温で液体又は結晶性固体の芳香族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの芳香族エポキシ化合物は、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記軟化点が150℃以下の芳香族エポキシ樹脂として、例えば、フェノールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルフェノールノボラックエポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0028】
上記常温で液体又は結晶性固体の芳香族エポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型等のビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、アントラセン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0029】
本発明の電子部品用接着剤が上記芳香族エポキシ化合物を含有する場合、上記芳香族エポキシ化合物の含有量は特に限定されないが、上記脂肪族エポキシ化合物100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。上記芳香族エポキシ化合物の含有量が100重量部を超えると、得られる電子部品用接着剤はゲルタイムが短くなり、特にフリップチップ実装においてはボイドが発生しやすくなることがある。
【0030】
本発明の電子部品用接着剤は、エポキシ化合物と反応可能な官能基を有する高分子化合物(以下、単に、反応可能な官能基を有する高分子化合物ともいう)を硬化主剤として更に含有してもよい。
上記反応可能な官能基を有する高分子化合物は、造膜成分としての役割を果たす。また、上記反応可能な官能基を有する高分子化合物を含有することで、得られる電子部品用接着剤の硬化物は靭性をもち、優れた耐衝撃性を発現することができる。
【0031】
上記反応可能な官能基を有する高分子化合物は特に限定されず、例えば、アミノ基、ウレタン基、イミド基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等を有する高分子化合物等が挙げられる。なかでも、エポキシ基を有する高分子化合物が好ましい。
上記エポキシ基を有する高分子化合物を含有することで、得られる電子部品用接着剤の硬化物は、上記脂肪族エポキシ化合物及び必要に応じて配合される上記芳香族エポキシ化合物に由来する優れた機械的強度、耐熱性及び耐湿性と、上記エポキシ基を有する高分子化合物に由来する優れた靭性とを兼備することにより、高い接合信頼性及び接続信頼性を発現することができる。
【0032】
上記エポキシ基を有する高分子化合物は、末端及び/又は側鎖(ペンダント位)にエポキシ基を有する高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、エポキシ基含有アクリルゴム、エポキシ基含有ブタジエンゴム、ビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂、エポキシ基含有フェノキシ樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂、エポキシ基含有ウレタン樹脂、エポキシ基含有ポリエステル樹脂等が挙げられる。なかでも、エポキシ基を多く含み、得られる電子部品用接着剤の硬化物が優れた機械的強度、耐熱性、靭性等を発現できることから、エポキシ基含有アクリル樹脂が好ましい。これらのエポキシ基を有する高分子化合物は、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記反応可能な官能基を有する高分子化合物として、上記エポキシ基を有する高分子化合物、特にエポキシ基含有アクリル樹脂を用いる場合、該エポキシ基を有する高分子化合物の重量平均分子量の好ましい下限は1万、好ましい上限は20万である。上記重量平均分子量が1万未満であると、得られる電子部品用接着剤をフィルム化する際の造膜性が不充分となり、フィルム形状を保持できないことがあり、また、低分子量化合物が多く存在するため、ボイドが発生しやすくなることがある。上記重量平均分子量が20万を超えると、得られる電子部品用接着剤は流動性が低くなり、ボンディング後に導通がとれなくなることがある。
【0034】
上記反応可能な官能基を有する高分子化合物として、上記エポキシ基を有する高分子化合物、特にエポキシ基含有アクリル樹脂を用いる場合、該エポキシ基を有する高分子化合物のエポキシ当量の好ましい下限は200、好ましい上限は1000である。上記エポキシ当量が200未満であると、得られる電子部品用接着剤の硬化物が堅く、脆くなることがある。上記エポキシ当量が1000を超えると、得られる電子部品用接着剤の硬化物の機械的強度、耐熱性等が不充分となることがある。
【0035】
本発明の電子部品用接着剤が上記反応可能な官能基を有する高分子化合物を含有する場合、上記反応可能な官能基を有する高分子化合物の含有量は特に限定されないが、上記脂肪族エポキシ化合物100重量部に対する好ましい下限が5重量部、好ましい上限が400重量部である。上記反応可能な官能基を有する高分子化合物の含有量が5重量部未満であると、得られる電子部品用接着剤をフィルム化する際の造膜性が不充分となり、フィルム形状を保持できないことがあり、また、タックが強くなることがある。上記反応可能な官能基を有する高分子化合物の含有量が400重量部を超えると、得られる電子部品用接着剤は、未硬化状態でのハンドリング時に割れることがある。
【0036】
本発明の電子部品用接着剤は、更に、酸無水物硬化剤を含有することが好ましい。
上記酸無水物硬化剤を含有することで、得られる電子部品用接着剤はゲルタイムが長くなり、ボイドの発生をより一層低減することができる。
【0037】
上記酸無水物硬化剤は特に限定されないが、2官能の酸無水物硬化剤が好ましい。上記2官能の酸無水物硬化剤は特に限定されず、例えば、フタル酸誘導体の無水物、無水マレイン酸等が挙げられる。
また、上記酸無水物硬化剤として、3官能以上の酸無水物硬化剤粒子を用いてもよい。上記3官能以上の酸無水物硬化剤粒子は特に限定されず、例えば、無水トリメリット酸等の3官能の酸無水物からなる粒子、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等の4官能以上の酸無水物からなる粒子等が挙げられる。
【0038】
上記3官能以上の酸無水物硬化剤粒子の平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限が0.1μm、好ましい上限が20μmである。上記3官能以上の酸無水物硬化剤粒子の平均粒子径が0.1μm未満であると、硬化剤粒子の凝集が生じ、電子部品用接着剤が増粘することがある。上記3官能以上の酸無水物硬化剤粒子の平均粒子径が20μmを超えると、得られる電子部品用接着剤において、硬化時に硬化剤粒子が充分に拡散することができず、硬化不良となることがある。
【0039】
上記酸無水物硬化剤の含有量は特に限定されないが、上記硬化主剤100重量部に対する好ましい下限が2重量部、好ましい上限が100重量部である。上記酸無水物硬化剤の含有量が2重量部未満であると、得られる電子部品用接着剤はゲルタイムが短くなり、フリップチップ実装において高温にさらされた時には、ボイドの発生を充分に低減できないことがある。上記酸無水物硬化剤の含有量が100重量部を超えると、得られる電子部品用接着剤の接続信頼性が低下することがある。上記酸無水物硬化剤の含有量は、上記硬化主剤100重量部に対するより好ましい下限が3重量部、より好ましい上限が50重量部、更に好ましい上限は20重量部、特に好ましい上限は10重量部である。
【0040】
本発明の電子部品用接着剤は、硬化促進剤を含有してもよい。
上記硬化促進剤は特に限定されないが、イミダゾール化合物が好ましい。上記イミダゾール化合物は特に限定されず、例えば、イミダゾールの1位をシアノエチル基で保護した1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、イソシアヌル酸で塩基性を保護したイミダゾール化合物(商品名「2MA−OK」、四国化成工業社製)、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン(商品名「2MZ−A」、四国化成工業社製)、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(商品名「2P4MHZ」、四国化成工業社製)等が挙げられる。これらのイミダゾール化合物は、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0041】
本発明の電子部品用接着剤が上記硬化促進剤を含有する場合、上記硬化促進剤の含有量は特に限定されないが、上記硬化主剤100重量部に対する好ましい下限が0.3重量部、好ましい上限が8重量部である。上記硬化促進剤の含有量が0.3重量部未満であると、得られる電子部品用接着剤が充分に硬化しないことがある。上記硬化促進剤の含有量が8重量部を超えると、得られる電子部品用接着剤において、未反応の硬化促進剤が接着界面に染み出すことにより、接合信頼性が低下することがある。
【0042】
本発明の電子部品用接着剤は、無機充填材を含有してもよい。
上記無機充填材を含有することで、得られる電子部品用接着剤の硬化後の線膨張率が更に低下し、電子部品への応力の発生及びハンダ等の導通部分のクラックの発生を良好に防止することができる。
上記無機充填材は特に限定されず、例えば、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等のシリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、ガラスパウダー、ガラスフリット等が挙げられる。
【0043】
上記無機充填材として粒子状の無機充填材を用いる場合、平均粒子径の好ましい下限は1nm、好ましい上限は30μmである。上記粒子状の無機充填材の平均粒子径が1nm未満であると、電子部品用接着剤が増粘して、ボンディング後に導通がとれないことがある。上記粒子状の無機充填材の平均粒子径が30μmを超えると、得られる電子部品用接着剤を用いて電子部品を圧接合する際に、電極間で上記無機充填材を噛みこむことがある。
【0044】
本発明の電子部品用接着剤が上記無機充填材を含有する場合、上記無機充填材の含有量は特に限定されないが、上記硬化主剤100重量部に対する好ましい下限は5重量部、好ましい上限は500重量部である。上記無機充填材の含有量が5重量部未満であると、上記無機充填材を添加する効果をほとんど得ることができないことがある。上記無機充填材の含有量が500重量部を超えると、得られる電子部品用接着剤の硬化後の線膨張率は低下するものの、同時に引っ張り弾性率が上昇し、電子部品への応力及びハンダ等の導通部分のクラックが発生しやすくなることがある。
上記無機充填材の含有量は、上記硬化主剤100重量部に対するより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は400重量部、更に好ましい下限は15重量部、更に好ましい上限は300重量部である。
【0045】
本発明の電子部品用接着剤は、その他必要に応じて、ブリード防止剤、シランカップリング剤、イミダゾールシランカップリング剤等の接着性付与剤、増粘剤等の添加剤を含有してもよい。
【0046】
本発明の電子部品用接着剤を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記脂肪族エポキシ化合物、上記ベンゾオキサジン化合物、上記フェノール系硬化剤、及び、必要に応じて配合される他の材料を所定量配合し、ホモディスパー、万能ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0047】
本発明の電子部品用接着剤は、半導体装置の製造に好適に用いられ、特に、フリップチップ実装による半導体装置の製造に好適に用いられる。
【0048】
本発明の電子部品用接着剤を用いた半導体装置の製造方法は特に限定されないが、例えば、本発明の電子部品用接着剤と溶剤とを含有する接着剤溶液を、ウエハの突起状電極を有する面に塗布する工程と、前記接着剤溶液の溶剤を乾燥除去して、接着剤層を有するウエハを作製する工程と、前記接着剤層を有するウエハを分割して、個別の接着剤層を有する半導体チップを作製する工程と、前記接着剤層を有する半導体チップを、接着剤層を介して基板又は他の半導体チップに積層する工程と、前記接着剤層を硬化して、半導体チップを基板又は他のチップに接着する工程とを有する方法が挙げられる。
【0049】
また、本発明の電子部品用接着剤からなる接着フィルムを用いて、半導体装置を製造することもできる。
本発明の電子部品用接着剤からなる接着フィルムを用いた半導体装置の製造方法は特に限定されないが、例えば、前記接着フィルムをウエハの突起状電極を有する面にラミネートして、接着剤層を有するウエハを作製する工程と、前記接着剤層を有するウエハを分割して、個別の接着剤層を有する半導体チップを作製する工程と、前記接着剤層を有する半導体チップを、接着剤層を介して基板又は他のチップに積層する工程と、前記接着剤層を硬化して、半導体チップを基板又は他のチップに接着する工程とを有する方法が挙げられる。
【0050】
本発明の電子部品用接着剤からなる接着フィルムを作製する方法は特に限定されず、例えば、本発明の電子部品用接着剤と溶剤とを含有する接着剤溶液を、PETフィルム等の離型処理された基材上にアプリケーター等を用いて塗工し、溶剤を乾燥除去することでフィルム化する方法等が挙げられる。
このようにして得られた接着フィルムは、所望の形状にカットされて上述のような半導体装置の製造方法に用いられてもよい。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、ボイドの発生を低減することができ、硬化後に低線膨張率となる信頼性の高い電子部品用接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下に実施例を掲げて本発明の実施態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0053】
(実施例1〜8及び比較例1〜7)
表1の組成に従って、ホモディスパーを用いて下記に示す各材料を攪拌混合し、電子部品用接着剤を調製した。
なお、フェノール系硬化剤のOH基のモル数に対する、ベンゾオキサジン環を1官能とした場合のベンゾオキサジン化合物のモル数の比(ベンゾオキサジン化合物のモル数/フェノール系硬化剤のOH基のモル数=BO/PhOH)を表1に示した。また、エポキシ基のモル数に対する、ベンゾオキサジン環を1官能とした場合のベンゾオキサジン化合物のモル数の比(ベンゾオキサジン化合物のモル数/エポキシ基のモル数=BO/EP)を表1に示した。
【0054】
(1)脂肪族エポキシ化合物
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(商品名「EP−4088S」、ADEKA社製)
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「YX−8000」、ジャパンエポキシレジン社製)
ビスフェノールA−プロピレングリコール型エポキシ樹脂(商品名「EP−4000L」、ADEKA社製)
【0055】
(2)芳香族エポキシ化合物
ビフェニル型エポキシ樹脂(商品名「YX−4000」、ジャパンエポキシレジン社製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「YL−980」、ジャパンエポキシレジン社製)
ナフタレン型エポキシ樹脂(商品名「EXA−4710」、DIC社製)
エポキシ樹脂(商品名「HP−7200HH」、DIC社製)
【0056】
(3)反応可能な官能基を有する高分子化合物
グリシジル基含有アクリル樹脂(重量平均分子量20万、商品名「G−2050M」、日油社製)
【0057】
(4)ベンゾオキサジン化合物
P−d型ベンゾオキサジン(四国化成工業社製)
【0058】
(5)フェノール系硬化剤
クレゾールノボラック(商品名「KA−1160」、DIC社製)
【0059】
(6)酸無水物硬化剤
1−イソプロピル−4−メチルビシクロ−[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(商品名「YH−309」、ジャパンエポキシレジン社製)
【0060】
(7)硬化促進剤
2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン イソシアヌル酸付加塩(商品名「2MA−OK」、四国化成工業社製)
【0061】
(8)その他
シランカップリング剤(商品名「KBE−402」、信越化学工業社製)
【0062】
<評価>
実施例及び比較例で得られた電子部品用接着剤について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0063】
(1)弾性率
得られた電子部品用接着剤について、110℃40分、更に、190℃30分で硬化させた厚さ500μmの硬化物を作製した。この硬化物について、粘弾性測定機(型式「DVA−200」、アイティー計測制御社製)を用い、昇温速度5℃/分、引っ張り、つかみ幅24mm、10Hzで−60℃から300℃まで昇温し、25℃における弾性率を求めた。
【0064】
(2)線膨張率
得られた電子部品用接着剤について、110℃40分、更に、190℃30分で硬化させた厚さ500μmの硬化物を作製した。この硬化物について、熱応力歪測定装置(型式「EXTEAR TMA/SS 6100」、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用い、荷重2N、昇温速度5℃/分、サンプル長1cmで300℃まで昇温し、このとき得られたSSカーブの傾きから、線膨張率を求めた。
【0065】
(3)ダイシェア強度
得られた電子部品用接着剤を用いて、3mm×3mmのシリコンチップを20mm×20mmのシリコンチップに接着し、190℃30分で硬化させた後、即座にボンドテスター(Dage社製Dage シリーズ4000)を用いて260℃におけるダイシェア強度を測定した。
【0066】
(4)リフロー試験
得られた電子部品用接着剤を、溶剤としてメチルエチルケトンに溶解して接着剤溶液を調製した後、アプリケーターによって接着剤溶液を離型処理されたペットフィルム上に塗工し、溶剤を乾燥して100μm厚の電子部品用接着フィルムを得た。
得られた電子部品用接着フィルムを、ハンダボール(高さ85μm)が150μm間隔でチップ全面に3136個形成されたフルアレイのTEGチップ(10mm×10mm×厚み725μm)にラミネートした後、チップサイズに合わせて電子部品用接着フィルムを裁断し、接着剤付TEGチップを得た。次いで、得られた接着剤付TEGチップのハンダと1本のデイジーチェーンとなるように配線されたハンダプリコート付ガラスエポキシTEG基板に、ステージ温度120℃、ヘッド温度140℃20秒、280℃5秒、ヘッド圧100Nで接着剤付TEGチップをフリップチップボンディングした。その後、190℃30分でポストキュア(後硬化)を行い、冷熱サイクル試験(TC試験)用接合体を得た。
得られたTC試験用接合体について、予め導通抵抗値(以下、初期抵抗値とする)を測定しておき、60℃、60%RHで40時間吸湿させ、ピーク温度260℃のリフローオーブンに3回通してリフロー試験を行った後、再び導通抵抗値を測定した。リフロー試験後の導通抵抗値が初期抵抗値から10%以上変化した場合を不良とし、8個のTC試験用接合体について不良個数を評価した。
【0067】
(5)冷熱サイクル試験(TC試験)
上記(4)にてリフロー試験を行ったTC試験用接合体について、−55〜125℃(30分/1サイクル)、1000サイクルのTC試験を行った後、導通抵抗値を測定した。TC試験後の導通抵抗値が初期抵抗値から10%以上変化した場合を不良とし、不良個数を評価した。なお、上記(4)のリフロー試験にて不良となったTC試験用接合体については、TC試験は行わなかった。リフローNG数(不良個数)及びTC不良個数の総個数を表1に示した。
【0068】
(6)高温高湿バイアス試験(THB試験)
得られた電子部品用接着剤を、溶剤としてメチルエチルケトンに溶解して接着剤溶液を調製した後、アプリケーターによって接着剤溶液を離型処理されたペットフィルム上に塗工し、溶剤を乾燥して100μm厚の電子部品用接着フィルムを得た。
得られた電子部品用接着フィルムを、ハンダボール(高さ85μm)が150μm間隔でチップ全面に3136個形成されたフルアレイのTEGチップ(10mm×10mm×厚み725μm)にラミネートした後、チップサイズに合わせて電子部品用接着フィルムを裁断し、接着剤付TEGチップを得た。次いで、得られた接着剤付TEGチップのハンダと2本のデイジーチェーンを形成し、その2本のデイジーチェーンが櫛歯状となるように配線されたハンダプリコート付ガラスエポキシTEG基板に、接着剤付TEGチップのハンダと、ガラスエポキシTEG基板の電極部とが対応するように位置合わせした後、ステージ温度120℃、ヘッド温度140℃20秒、280℃5秒、ヘッド圧100Nで接着剤付TEGチップをフリップチップボンディングした。その後、190℃30分でポストキュア(後硬化)を行い、高温高湿バイアス試験(THB試験)用接合体を得た。
【0069】
得られたTHB試験用接合体について、60℃、60%RHで40時間吸湿させ、ピーク温度260℃のリフローオーブンに3回通してリフロー試験を行った後、櫛歯状に形成された2本のデイジーチェーン間で非導通であるか否かを評価した。導通つまりショートしていた場合を不良とし、8個のTHB試験用接合体について不良個数を評価した。
【0070】
次いで、リフロー試験を行ったTHB試験用接合体について、85℃、85%RH、3.7V、1000hのTHB試験を行った後、2本のデイジーチェーン間で導通していた場合を不良とし、不良個数を評価した。なお、リフロー試験にて不良となったTHB試験用接合体については、THB試験は行わなかった。リフローNG数及びTHB不良個数の総個数を表1に示した。
【0071】
(7)ゲルタイム
得られた電子部品用接着剤を260℃のホットプレートに乗せ、スパチュラ等で接着剤を流動させ、接着剤が流動しなくなった時間をゲルタイムとした。
【0072】
(8)ボイド
得られた電子部品用接着剤を用いて電子部品用接着フィルムを作製し、得られた電子部品用接着フィルムを10mm角のベアチップにラミネートした。これを、280℃5秒でスライドガラスに対してボンディングした後、下記の基準でボイドを評価した。
チップ下にもフィレット部分にも5μm以上のボイドが無かった場合を◎、チップ下には5μm以上のボイドが無いが、フィレット部分には5μm以上のボイドが有った場合を○、チップ下に5μm以上20μm未満のボイドが有った場合を△、チップ下に20μm以上のボイドが有った場合を×とした。なお、20μm以上のボイドを判定基準としたのは、20μm以上のボイドが有る場合にはリフロー時に電極ショートが生じる可能性があるためである。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、ボイドの発生を低減することができ、硬化後に低線膨張率となる信頼性の高い電子部品用接着剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族エポキシ化合物とベンゾオキサジン化合物とを硬化主剤として含有し、かつ、フェノール系硬化剤を含有することを特徴とする電子部品用接着剤。
【請求項2】
エポキシ化合物と反応可能な官能基を有する高分子化合物を硬化主剤として更に含有することを特徴とする請求項1記載の電子部品用接着剤。

【公開番号】特開2013−8800(P2013−8800A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139786(P2011−139786)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】