説明

電子部品用積層配線膜および被覆層形成用スパッタリングターゲット材

【課題】 耐湿性や耐酸化性を改善し、さらに、低抵抗な主導電層であるAlと積層した際に、加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できる、Mo合金からなる被覆層を用いた電子部品用積層配線膜および被覆層を形成するためのスパッタリングターゲット材を提供する。
【解決手段】 基板上に金属膜を形成した電子部品用積層配線膜において、Alを主成分とする主導電層と該主導電層の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層からなり、該被覆層は原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦30、3≦y≦20で表され、残部が不可避的不純物からなる電子部品用積層配線膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿性、耐酸化性を要求される電子部品用積層配線膜およびこの積層配線膜の主導電層の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層を形成するための被覆層形成用スパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(以下、LCDという)、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)、電子ペーパー等に利用される電気泳動型ディスプレイ等の平面表示装置(フラットパネルディスプレイ、以下、FPDという)に加え、各種半導体デバイス、薄膜センサー、磁気ヘッド等の薄膜電子部品においては、低抵抗な配線膜の形成が必要である。例えば、ガラス基板上に薄膜デバイスを作成するLCD、PDP、有機ELディスプレイ等のFPDは、大画面、高精細、高速応答化に伴い、その配線膜に低抵抗化が要求されている。さらに近年、FPDに操作性を加えるタッチパネルや樹脂基板を用いたフレキシブルなFPD等の新たな製品が開発されている。
【0003】
近年、FPDの駆動素子として用いられている薄膜トランジスタ(TFT)は、Si半導体膜を用いており、低抵抗な配線膜であるAlはSiと直接触れると、TFT製造中の加熱工程により熱拡散して、TFTの特性を劣化させる場合がある。このため、AlとSiの間に耐熱性に優れた純MoやMo合金をバリヤ膜とした積層配線膜が用いられている。
また、TFTからつながる画素電極や携帯型端末やタブレットPC等に用いられているタッチパネルの位置検出電極には、一般的に透明導電膜であるインジウム−スズ酸化物(以下、ITOという)が用いられている。この場合にも、配線膜であるAlは、ITO接触すると、その界面に酸化物が生成して電気的コンタクト性が劣化する。このためAlとITOとの間にコンタクト膜として純MoやMo合金を形成してITOとのコンタクト性を確保している。
以上のようにAlの低抵抗な特性を生かした配線膜を得るには、純MoやMo合金膜が不可欠であり、Alを純MoやMo合金で被覆した積層配線膜とする必要がある。
さらに、近年、非晶質Si半導体より高速駆動に適すると考えられている酸化物を用いた透明な半導体膜の検討が盛んに進んでおり、これら酸化物半導体のAl積層膜のコンタクト膜やバリヤ膜の被覆層には、純Moの適用が検討されている。
【0004】
そこで、本出願人は、純Moの特性を改善する手段として、耐食性、耐熱性や基板との密着性に優れ、低抵抗な、Moに3〜50原子%のVやNb等を添加したMo合金膜を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−190212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1で提案したMo−V、Mo−Nb合金等は、Moより耐食性、耐熱性や基板との密着性に優れるため、ガラス基板上に形成するFPD用途では広く使用されている。
しかし、FPDを製造する場合において、基板上に積層配線膜を形成した後に、次工程に移動する際に長時間大気中に放置される場合がある。また、利便性を向上させるために、樹脂フィルムを用いた軽量でフレキシブルなFPD等においては、樹脂フィルムがこれまでのガラス基板等に比較して透湿性があるため、積層配線膜にはより高い耐湿性が求められている。
【0007】
さらに、FPDの端子部等に信号線ケ−ブルを取り付ける際に大気中で加熱される場合があるため、積層配線膜には耐酸化性の向上も要求されている。加えて、酸化物を用いた半導体膜においては、特性向上や安定化のために、酸素を含有した雰囲気や、酸素を含む保護膜を形成した後に350℃以上の高温での加熱処理を行う場合がある。このため、積層配線膜にもこれらの加熱処理を経た後にも安定した特性を維持できるように、耐酸化性向上の要求が高まっている。
【0008】
本発明者の検討によると、上述したMo−V、Mo−Nb合金等や純Moでは、上述した環境での耐湿性や耐酸化性が十分でなく、FPDの製造工程中で積層配線膜の被覆層とした際に、変色してしまう問題が発生する場合があることを確認した。耐酸化性が不十分だと、電気的コンタクト性を劣化させ、電子部品の信頼性低下に繋がる。
また、高速駆動のためにTFT製造工程中の加熱温度は上昇する傾向にあり、より高い温度での加熱工程を経ると積層配線膜に含まれる合金元素がAlに拡散して電気抵抗値が増加する問題があることを確認した。
【0009】
本発明の目的は、耐湿性や耐酸化性を改善し、さらに、低抵抗な主導電層であるAlと積層した際に、加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できる、Mo合金からなる被覆層を用いた電子部品用積層配線膜および被覆層を形成するためのスパッタリングターゲット材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み、新たにMoに添加する元素の最適化に取り組んだ。その結果、Moに特定量のNiとTiとを複合で添加することで、耐湿性と耐酸化性を向上させるとともに、主導電層であるAlの被覆層とした際に加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、基板上に金属膜を形成した電子部品用積層配線膜において、Alを主成分とする主導電層と該主導電層の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層からなり、該被覆層は原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦30、3≦y≦20で表され、残部が不可避的不純物からなる電子部品用積層配線膜である。
また、本発明では、前記組成式のx、yを、それぞれ10≦x≦20、9≦y≦15とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記被覆層をスパッタリング法により形成する際のタ−ゲット材において、原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦30、3≦y≦20で表され、残部が不可避的不純物からなるMo合金で構成された被覆層形成用スパッタリングターゲット材である。
また、本発明では、前記組成式のx、yが、それぞれ10≦x≦20、9≦y≦15であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子部品用積層配線膜は、耐湿性、耐酸化性を向上させることができる。また、Alと積層した際の加熱工程おいても、電気抵抗値の増加を抑制し、低い電気抵抗値を維持できる。これにより、種々の電子部品、例えば樹脂基板上に形成するFPD等の配線膜に用いることで、電子部品の安定製造や信頼性向上に大きく貢献できる利点を有するものであり、電子部品の製造に欠くことのできない技術となる。特に、タッチパネルや樹脂基板を用いるフレキシブルなFPDに対して非常に有用な積層配線膜となる。これらの製品では、特に耐湿性、耐酸化性が非常に重要なためである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の電子部品用積層配線膜の断面模式図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電子部品用積層配線膜の模式図の一例を図1に示す。本発明の電子部品用積層配線膜は、Alを主成分とする主導電層3の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層2、4からなり、例えば基板1上に形成される。図1では主導電層3の両面に被覆層2、4を形成しているが、電子部品の形態によっては一方の面のみを覆ってもよく、適宜選択できる。尚、主導電層の一方の面のみを本発明の被覆層で覆う場合には、主導電層の他方の面には電子部品の用途に応じて、本発明とは別の組成の被覆層で覆うことができる。
本発明の重要な特徴は、図1に示す電子部品用積層配線膜の被覆層において、Moに対してNiとTiとを特定量複合添加することで、耐湿性、耐酸化性を向上させ、Alとの積層時の加熱工程において低い電気抵抗値を維持できる新たなMo合金を見出した点にある。以下、本発明の電子部品用配線膜について詳細に説明する。なお、以下の説明において「耐湿性」とは、高温高湿環境下における配線膜の電気抵抗値の変化をいうものとする。また、「耐酸化性」とは、高温環境下における電気的コンタクト性の劣化のしにくさをいい、配線膜の変色により確認でき、例えば反射率によって定量的に評価することができる。
【0016】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金にNiを添加する理由は、被覆層の耐酸化性の向上にある。純Moは、大気中で加熱すると酸化して膜表面が変色してしまい、電気的コンタクト性が劣化してしまう。本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層は、MoにNiを特定量添加することで被覆層の変色を抑制する効果を有し、耐酸化性を向上できる。その効果は、Niの添加量が10原子%以上で顕著になる。
一方、Niは、MoよりAlに対して熱拡散しやすい元素である。MoへのNiの添加量が30原子%を越えると、FPD等の電子部品を製造する際の加熱工程において、被覆層に含まれるNiが主導電層のAlに拡散して低い電気抵抗値を維持しづらくなる。このため、Niの添加量は10〜30原子%とする。また、主導電層の表面に被覆層を形成し、350℃より高温で加熱する場合には、被覆層のNiが主導電層のAlに拡散しやすくなり、電気抵抗値が上昇する場合がある。本発明で低い電気抵抗値を維持するためには、Niの添加量を20原子%以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金にTiを添加する理由は、これにより耐湿性が向上するためである。Tiは、酸素や窒素と結合しやすい性質を有する金属であり、高温高湿雰囲気では表面に不導態膜を形成して配線膜内部を保護する効果を持つ。このため、本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層は、MoにTiを特定量添加することで耐湿性を大幅に向上させることが可能となる。この効果は、Tiの添加量が3原子%以上で顕著になる。
一方、Tiの添加量が20原子%を越えると、耐食性が向上し過ぎてAl用エッチャントでのエッチング速度が低下してしまい、Alとの積層膜のエッチング時に残渣が生じたり、エッチングができなくなったりする。このため、本発明では、Tiの添加量を3〜20原子%とする。
また、従来のMo−Nb合金よりも高い耐湿性を安定的に得るには、Tiの添加量は9原子%以上がよく、Tiの添加量を9〜15原子%にすることが好ましい。
【0018】
また、主導電層のAl膜の一方の面および/または他方の面に被覆層を形成し、製造工程中の加熱温度が350℃以上の高温の場合には、被覆層を形成するMo合金に複合添加するNiとTiの総和を35原子%以下にすることが好ましい。その理由は、NiだけでなくTiもAlに熱拡散する元素であり、NiとTiの総和が35原子%を越えると、被覆層のNiやTiが主導電層のAlに拡散し、低い電気抵抗値を維持しづらくなるためである。
また、被覆層を形成するMo合金に複合添加したNiとTiは、原子比でNi/Tiの比が1以上であることが好ましい。上述したように、Tiは耐湿性向上に関与する元素であるが、耐酸化性は低下するため、Niの添加量よりTiの添加量が多い場合には、耐酸化性の向上効果を得にくくなる。このため、NiとTiとの原子比が1以上となるようにそれぞれ添加することで、被覆層の耐湿性と耐酸化性をより安定的に得ることが可能となる。
【0019】
本発明の電子部品用積層配線膜において、低い電気抵抗値と耐湿性や耐酸化性を安定的に得るには、主導電層の膜厚を100〜1000nmにすることが好ましい。主導電層の膜厚が100nmより薄くなると、薄膜特有の電子の散乱の影響で電気抵抗値が増加しやすくなる。一方、主導電層の膜厚が1000nmより厚くなると、膜を形成するために時間が掛かったり、膜応力により基板に反りが発生しやすくなったりする。主導電層の膜厚のより好ましい範囲は、200〜500nmである。
また、Alを主成分とする主導電層は、最も低い電気抵抗値を得ることができる純Alが好適である。また、耐熱性、耐食性等の信頼性を考慮して、Alに遷移金属や半金属等を添加したAl合金を用いてもよい。このとき、できる限り低い電気抵抗値が得られるように、Alへの添加元素の添加量は、5原子%以下が好ましい。
【0020】
また、本発明の電子部品用積層配線膜において、低い電気抵抗値と耐湿性や耐酸化性を安定的に得るには、被覆層の膜厚を20〜100nmにすることが好ましい。被覆層の膜厚が20nm未満では、Mo合金膜の連続性が低くなってしまい、上記の特性を十分に得ることができない場合がある。一方、被覆層の膜厚が100nmを越えると、被覆層の電気抵抗値が高くなってしまい、主導電層のAl膜と積層した際に、電子部品用積層配線膜として低い電気抵抗値が得にくくなる。また、本発明において、加熱時の主導電層を形成するAlへの原子の拡散を抑制するには、被覆層の膜厚を20〜70nmとすることが好ましい。
【0021】
本発明の電子部品用積層配線膜の各層を形成するには、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が最適である。被覆層を形成する際には、例えば被覆層の組成と同一組成のMo合金スパッタリングターゲットを使用して成膜する方法や、Mo−Ni合金スパッタリングターゲットとMo−Tiスパッタリングターゲットを使用してコスパッタリングによって成膜する方法等が適用できる。スパッタリングの条件設定の簡易さや、所望組成の被覆層を得やすいという点からは、被覆層の組成と同一組成のMo合金スパッタリングターゲットを使用してスパッタリング成膜することが最も望ましい。
したがって、本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するには、原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦30、3≦y≦20で表され、残部が不可避的不純物からなるスパッタリングターゲットを用いることで、安定して被覆層を形成できる。
また、上述したように、350℃という高温の加熱工程となる場合にも低い電気抵抗値の電子部品用積層配線膜を得るには、MoにNiを10〜20原子%、Tiを9〜15原子%含有させることが好ましい。
【0022】
本発明の被覆層形成用スパッタリングターゲット材の製造方法としては、例えば粉末焼結法が適用可能である。粉末焼結法では、例えばガスアトマイズ法で合金粉末を製造して原料粉末とすることや、複数の合金粉末や純金属粉末を本発明の最終組成となるように混合した混合粉末を原料粉末とすることが可能である。原料粉末の焼結方法としては、熱間静水圧プレス、ホットプレス、放電プラズマ焼結、押し出しプレス焼結等の加圧焼結を用いることが可能である。
【0023】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金において、耐酸化性、耐湿性を確保するために必須元素であるNi、Ti以外の残部を占めるMo以外の不可避的不純物含有量は少ないことが好ましく、本発明の作用を損なわない範囲で、ガス成分である酸素、窒素や炭素、遷移金属であるFe、Cu、半金属のAl、Si等の不可避的不純物を含んでもよい。例えば、ガス成分の酸素、窒素は各々1000質量ppm以下、炭素は200質量ppm以下、Fe、Cuは200質量ppm以下、Al、Siは100質量ppm以下等であり、ガス成分を除いた純度として99.9質量%以上であることが好ましい。
【実施例1】
【0024】
以下の実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
先ず、被覆層となるMo合金膜を形成するためのスパッタリングターゲット材を作製した。平均粒径が6μmのMo粉末と平均粒径100μmのNi粉末と平均粒径150μmのTi粉末を所定の組成となるように混合し、軟鋼製の缶に充填した後、加熱しながら真空排気して缶内のガス分を除いた後に封止した。次に、封止した缶を熱間静水圧プレス装置に入れて、800℃、120MPa、5時間の条件で焼結させた後に、機械加工により、直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。また、比較となる純Mo、Mo−Nb合金、Mo−Ni合金のスパッタリングターゲット材も同様に作製した。
【0025】
上記で得た各スパッタリングターゲット材を銅製のバッキングプレートにろう付けしてスパッタリング装置に取り付けた。スパッタ装置は、キャノンアネルバ株式会社製のSPF−440Hを用いた。
25mm×50mmのガラス基板上に、表1に示す所定量のNiおよびTiを加えた被覆層であるMo合金膜、その上面に主導電層であるAl膜、さらにその上面にMo合金膜を、それぞれ表1に示す膜厚構成でスパッタリング法にて形成し、電子部品用積層配線膜を得た。また、比較のために、純Mo、Mo−Nb合金膜、Mo−Ni合金膜を、それぞれAl膜と積層し、積層配線膜も作製した。
【0026】
耐酸化性の評価としては、大気中にて200℃、250℃、300℃、350℃で1時間加熱した後の反射率の変化を測定した。また、耐湿性の評価としては、85℃×85%の高温高湿雰囲気に100時間、200時間、300時間放置した際の反射率の変化を測定した。反射率の測定には、コニカミノルタ株式会社製の分光測色計CM−2500dを用いて、可視光域の反射特性を測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、積層配線膜の反射率は、大気中で加熱すると低下し、高温高湿雰囲気に放置しても低下する傾向にある。比較例の被覆層に純Moを用いた積層配線膜の反射率は、大気中加熱では250℃より低下し350℃ではさらに大きく低下し耐酸化性が低く、高温高湿雰囲気に100時間放置すると、反射率は大きく低下する。
また、比較例の被覆層にMo−10原子%Nbの積層配線膜の反射率は、大気中で加熱すると250℃以上で純Moより大きく低下し、耐酸化性は低いが、高温高湿雰囲気に放置した際の低下はMoより少なく、耐湿性が若干改善されていることがわかる。
また、比較例の被覆層にMo−Ni合金を用いた積層配線膜の反射率は、大気中での加熱時の反射率の低下は少なく耐酸化性は改善されている。しかし、高温高湿雰囲気では純Moと同様に、反射率は100時間から低下し耐湿性の改善効果は低いことがわかる。
また、比較例のMo−30原子%Tiの積層膜の反射率は、大気中で加熱すると350℃以上で大きく低下し耐酸化性は低いが、高温高湿雰囲気に放置した際の低下は少なく、Tiの添加は耐湿性の改善に大きく寄与していることがわかる。
これに対して、本発明の被覆層に、MoにNiとTiを所定量添加したMo−Ni−Ti合金の反射率は、350℃の大気加熱後、300時間の高温高湿雰囲気に放置しても、その低下は少なく、耐酸化性、耐湿性の両方を大きく改善できることが確認できた。
その改善効果は、Niを10原子%以上、Tiを3原子%以上添加することで明確となり、9原子%で耐湿性は大きく改善されることがわかり、電子部品に好適な積層配線膜であることが確認できた。
【実施例2】
【0029】
次に、実施例1で作製した一部の積層配線膜を、真空中で加熱処理した際の電気抵抗値の変化について確認した。電気抵抗値は、株式会社ダイヤインスツルメンツ製の4端子薄膜抵抗率測定器MCP−T400を用いて測定した。加熱温度は、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃で1時間加熱した。測定結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示すように、被覆層のTi添加量が本発明の範囲から外れる20原子%超えると、450℃の温度で加熱した際の電気抵抗値が大幅に増加することを確認した。また、Niの添加量が本発明の範囲である30原子%を越える際も450℃の温度で加熱した際に大幅に電気抵抗値が増加する。
これに対して、本発明例のMoに特定量のTiを添加した被覆層を用いた積層配線膜は、450℃まで加熱しても電気抵抗値の増加が抑制され、実施例1に示すように耐湿性が向上していることがわかる。中でも好ましい範囲の10〜20原子%のNiと9〜15原子%のTiを添加すると、電気抵抗値の増加がより抑えられ、電子部品に好適な積層配線膜であることが確認できた。
【実施例3】
【0032】
次に、エッチング性の評価を行った。実施例2で用いた積層配線膜を形成した基板の半分の面積にのみフォトレジスト塗布して乾燥させ、関東化学株式会社製のAl用エッチャント液に浸し、未塗布部分をエッチングした。その後、基板を純水で洗浄し、乾燥させ、溶解部分とレジストを塗布した未溶解部分の境目近傍を光学顕微鏡で観察した。その結果を表2に示す。
比較例の被覆層に純MoやMo−Ni合金膜を用いた積層配線膜では、境目近傍の膜が浮き、端部が剥がれていることを確認した。これは、Alとガラス基板との間の被覆層のMo合金膜がエッチングされていると考えられる。
また、エッチング性には、Tiの添加量が大きく影響しており、試料No.12のTiの添加量が22原子%の被覆層では、基板上に残渣が確認された。また、試料No.13、No.14、No.15のTiの添加量が30原子%を越える被覆層では、エッチングを行うことができなかった。
これに対して、本発明のMoに特定量のNiとTiを添加した被覆層では、比較例で生じた膜剥がれや残渣もなく、良好にエッチングされており、エッチング性にも優れていることが確認できた。
以上のように、耐酸化性、耐湿性、加熱時の電気抵抗値の増加の抑制、エッチング性を満たすには、Niの添加量を10〜30原子%、Tiの添加量を3〜20原子%にすることが好ましいことがわかる。また、高温での電気抵抗値の増加を抑制し、高い耐湿性を確保するにはNiを10〜20原子%、Tiを9〜15原子%とすることがより好ましいことがわかる。
【実施例4】
【0033】
先ず、被覆層となるMo−15%Ni−15%Ti(原子%)スパッタリングターゲット材を作製した。平均粒径が6μmのMo粉末と平均粒径80μmのNi粉末と平均粒径25μmのTi粉末を所定の組成となるように混合し、軟鋼製の缶に充填した後、加熱しながら真空排気して缶内のガス分を除いた後に封止した。次に、封止した缶を熱間静水圧プレス装置に入れて、800℃、120MPa、5時間の条件で焼結させた後に、機械加工により、直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。
上記で得た各スパッタリングターゲット材を銅製のバッキングプレートにろう付けしてスパッタリング装置に取り付けた。スパッタ装置は、キャノンアネルバ株式会社製のSPF−440Hを用いた。
25mm×50mmのガラス基板上に、表1に示す所定量のNiおよびTiを加えた被覆層であるMo合金膜、その上面に主導電層であるAl膜、さらにその上面にMo合金膜を、それぞれ表1に示す膜厚構成でスパッタリング法にて形成し、電子部品用積層配線膜を得た。
【0034】
次に、実施例1および実施例2と同様に、主導電層であるAl膜および被覆層であるMo−Ni−Ti膜の膜厚を変化させて、加熱時の電気抵抗値の変化と、高温高湿時の反射率の変化を測定した。その結果を表3に示す。
【表3】

【0035】
被覆層の膜厚が薄い場合は、成膜時の電気抵抗値が低く、加熱時の電気抵抗値の増加は少ないことがわかる。また、主導電層の膜厚が薄いほど、成膜時の電気抵抗値が高くなり、加熱時の電気抵抗値も増加する。また、主導電層のAl膜上に形成した被覆層の膜厚が10nmと薄い場合は、高温高湿の雰囲気に放置した際の反射率が低下しやすく、被覆層の膜厚が20nmを越えると反射率の低下は少なくなり、高い耐湿性が得られることがわかる。
本発明の電子部品用積層配線膜は、主導電層であるAlの膜厚を200〜500nmで成膜し、被覆層の膜厚を20〜70nmで成膜することで、低い電気抵抗値と高い耐湿性が得られることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属膜を形成した電子部品用積層配線膜において、Alを主成分とする主導電層と該主導電層の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層からなり、該被覆層は原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦30、3≦y≦20で表され、残部が不可避的不純物からなることを特徴とする電子部品用積層配線膜。
【請求項2】
前記組成式のx、yが、それぞれ10≦x≦20、9≦y≦15であることを特徴とする請求項1記載の電子部品用積層配線膜。
【請求項3】
請求項1に記載の被覆層を形成するためのスパッタリングタ−ゲット材であって、原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦30、3≦y≦20で表され、残部が不可避的不純物からなることを特徴とする被覆層形成用スパッタリングターゲット材。
【請求項4】
前記組成式のx、yが、それぞれ10≦x≦20、9≦y≦15であることを特徴とする請求項3記載の被覆層形成用スパッタリングターゲット材。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60655(P2013−60655A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163187(P2012−163187)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】