説明

電子部品用積層配線膜および被覆層形成用スパッタリングターゲット材

【課題】 耐湿性や耐酸化性を改善し、さらに低抵抗な主導電層であるCuと積層した際に、加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できる、Mo合金からなら被覆層を用いた電子部品用積層配線膜および被覆層を形成するためのスパッタリングターゲット材を提供する。
【解決手段】 基板上に金属膜を形成した電子部品用積層配線膜において、Cuを主成分とする主導電層と該導電層の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層からなり、該被覆層は原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦50、3≦y≦30、x+y≦53で表され、残部が不可避的不純物からなる電子部品用積層配線膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿性、耐酸化性を要求される電子部品用積層配線膜およびこの積層配線膜の主導電層の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層を形成するための被覆層形成用スパッタリングターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板上に薄膜デバイスを形成する液晶ディスプレイ(以下、LCDという)、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)、電子ペーパー等に利用される電気泳動型ディスプレイ等の平面表示装置(フラットパネルディスプレイ、以下、FPDという)に加え、各種半導体デバイス、薄膜センサー、磁気ヘッド等の薄膜電子部品においては、低い電気抵抗の配線膜が必要である。例えば、LCD、PDP、有機ELディスプレイ等のFPDは大画面、高精細、高速応答化に伴い、その配線膜には低抵抗化が要求されている。さらに近年、FPDに操作性を加えるタッチパネルや樹脂基板を用いたフレキシブルなFPD等の新たな製品が開発されている。
【0003】
近年、FPDの駆動素子として用いられている薄膜トランジスタ(TFT)の配線膜には低抵抗化が必要であり、主配線材料をAlからより低抵抗なCuを用いる検討が行われている。また、FPDの画面を見ながら直接的な操作性を付与するタッチパネル基板画面も大型化が進んでおり、低抵抗化のためにCuを主配線材料に用いる検討が進んでいる。
現在、TFTには、Si半導体膜を用いており、CuはSiと直接触れると、TFT製造中の加熱工程により熱拡散して、TFTの特性を劣化させる。このため、CuとSiの間に耐熱性に優れたMoやMo合金をバリヤ膜とした積層配線膜が用いられている。
また、TFTからつながる画素電極や携帯型端末やタブレットPC等に用いられているタッチパネルの位置検出電極には、一般的に透明導電膜であるインジウム−スズ酸化物(以下、ITOという)が用いられている。Cuは、ITOとのコンタクト性は得られるが、基板との密着性が低いことにより、密着性を確保するためにCuをMoやMo合金で被覆した積層配線膜とする必要がある。
さらに、これまでの非晶質Si半導体から、より高速応答を実現できる酸化物を用いた透明な半導体膜の適用検討が行われており、これら酸化物半導体の配線膜にもCuと純Mo等を用いた積層配線膜が検討されている。
【0004】
本出願人は、ガラス等との密着性の低いCuやAgと、Mo主体としてVおよび/またはNbを含有するMo合金とを積層することで、CuやAgの持つ低い電気抵抗値を維持しつつ耐食性、耐熱性や基板との密着性を改善できることを提案している。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−140319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1で提案したMo−V、Mo−Nb合金等は、純Moより耐食性、耐熱性や基板との密着性に優れるため、ガラス基板上に形成するFPD用途では広く使用されている。
しかし、FPDを製造する場合において、基板上に積層配線膜を形成した後に、次工程に移動する際に長時間大気中に放置される場合がある。また、利便性を向上させるために樹脂フィルムを用いた軽量でフレキシブルなFPD等においては、樹脂フィルムがこれまでのガラス基板等に比較して透湿性があるため、積層配線膜には高い耐湿性が求められている。
【0007】
さらに、FPDの端子部等に信号線ケ−ブルを取り付ける際に大気中で加熱される場合があるため、積層配線膜には耐酸化性の向上も要求されている。加えて、酸化物を用いた半導体膜においては、特性向上や安定化のために、酸素を含有した雰囲気や、酸素を含む保護膜を形成した後に350℃以上の高温での加熱処理を行う場合がある。このため、積層配線膜にもこれらの加熱処理を経た後にも安定した特性を維持できるように、耐酸化性向上の要求が高まっている。
【0008】
本発明者の検討によると、CuはAlより密着性、耐湿性や耐酸化性が大きく劣るため、密着性を確保するための下地膜、Cuの表面を保護する上層膜(キャップ膜)となる被覆層の形成が必要な場合がある。上述したMo−V、Mo−Nb合金等や純Moでは耐湿性や耐酸化性が十分でなく、FPDの製造工程中でCuの被覆層とした際に変色してしまうとともに酸素が透過し、Cuの電気抵抗値が大きく増加する問題が発生する場合がある。また、被覆層が変色すると、電気的コンタクト性を劣化させ、電子部品の信頼性低下に繋がる。
さらに、FPDの大画面化や高速駆動のために、TFT製造工程中の加熱温度は上昇する傾向にある。このため、主導電層であるCuとバリヤ膜や密着膜となる被覆層を形成した積層配線膜においては、被覆層を構成する原子のCuへの熱拡散が進行し、低い電気抵抗値を維持することができなくなる場合がある。このように、Cuを主導電層とする積層配線膜の被覆層には、新たに様々な環境に適用できる高い耐湿性や耐酸化性と低い電気抵抗値の維持が要求されている。
【0009】
本発明の目的は、耐湿性や耐酸化性を改善し、さらに低抵抗な主導電層であるCuと積層した際に、加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できる、Mo合金からなら被覆層を用いた電子部品用積層配線膜および被覆層を形成するためのスパッタリングターゲット材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み、新たにMoに添加する元素の最適化に取り組んだ。その結果、Moに特定量のNiとTiを複合添加することで、耐湿性、耐酸化性を向上させるとともに、主導電層であるCuの被覆層とした際に加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、基板上に金属膜を形成した電子部品用積層配線膜において、Cuを主成分とする主導電層と該導電層の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層からなり、該被覆層は原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦50、3≦y≦30、x+y≦53で表され、残部が不可避的不純物からなる電子部品用積層配線膜の発明である。
また、本発明では、前記組成式のx、yが、それぞれ20≦x≦30、9≦y≦20とすることがさらに好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記被覆層を形成するためのスパッタリングターゲット材であって、原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦50、3≦y≦30、x+y≦53で表され、残部が不可避的不純物からなるMo合金で構成された被覆層形成用スパッタリングターゲット材の発明である。
また、本発明では、前記組成式のx、yが、それぞれ20≦x≦30、9≦y≦20であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子部品用積層配線膜は、耐湿性、耐酸化性を向上させることができる。また、Cuと積層した際の加熱工程おいても、電気抵抗値の増加を抑制し、低い電気抵抗値を維持できる。これにより、種々の電子部品、例えば樹脂基板上に形成するFPD等の配線膜に用いることで、電子部品の安定製造や信頼性向上に大きく貢献できる利点を有するものであり、電子部品の製造に欠くことのできない技術となる。特に、タッチパネルや樹脂基板を用いるフレキシブルなFPDに対して非常に有用な積層配線膜となる。これらの製品では、特に耐湿性、耐酸化性が非常に重要なためである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の電子部品用積層配線膜の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電子部品用積層配線膜の断面模式図を図1に示す。本発明の電子部品用積層配線膜は、Cuを主成分とする主導電層3の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層2、4からなり、例えば基板1上に形成される。図1では主導電層3の両面に被覆層2、4を形成しているが、一方の面のみを覆ってもよく、適宜選択できる。尚、主導電層の一方の面のみを本発明の被覆層で覆う場合には、主導電層の他方の面には電子部品の用途に応じて、本発明とは別の組成の被覆層で覆うことができる。
本発明の重要な特徴は、図1に示す電子部品用積層配線膜の被覆層において、Moに対してNiとTiとを特定量複合添加することで、耐湿性、耐酸化性を向上させ、Cu膜との積層時の加熱工程において低い電気抵抗値を維持できる新たなMo合金を見出した点にある。以下、本発明の電子部品用積層配膜について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「耐湿性」とは、高温高湿環境下における配線膜の電気抵抗値の変化の起こりにくさをいうものとする。また、「耐酸化性」とは、高温環境下における電気的コンタクト性の劣化のしにくさをいい、配線膜の変色により確認でき、例えば反射率によって定量的に評価することができる。
【0016】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金にNiを添加する理由は、被覆層の耐酸化性の向上にある。純Moは、大気中で加熱すると膜表面が酸化してしまい、電気的コンタクト性が劣化してしまう。本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層は、MoにNiを特定量添加することで耐酸化性を向上させることができ、電気的コンタクト性の劣化を抑制する効果を有する。その効果は、Niの添加量が10原子%以上で顕著になる。
一方、Niは、MoよりCuに対して熱拡散しやすい元素である。MoへのNiの添加量が50原子%を越えると、FPD等の電子部品を製造する際の加熱工程において、被覆層のNiが容易に主導電層のCuに拡散してしまい、低い電気抵抗値を維持しづらくなる。このため、Niの添加量は10〜50原子%とする。また、主導電層のCuに被覆層を形成し、350℃より高温で加熱する場合には、被覆層のNiが主導電層のCuに拡散しやすくなり、電気抵抗値が上昇する場合がある。本発明で低い電気抵抗値を維持するためは、Ni添加量を30原子%以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金にTiを添加する理由は、耐湿性を向上させるためである。Tiは、酸素や窒素と結合しやすい性質を有する金属であり、高温高湿雰囲気では表面に不導態膜を形成して配線膜内部を保護する効果を持つ。このため、本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層は、MoにTiを特定量添加することで耐湿性を大幅に向上させることが可能となる。この効果は、3原子%以上で顕著になる。
一方、Tiの添加量が30原子%を越えると、耐食性が向上し過ぎてCu用エッチャントでのエッチング速度が低下し、主導電層のCuとの積層膜のエッチング時に残渣が生じたり、エッチングができなくなったりする。このため、本発明ではTiの添加量は3〜30原子%とする。
また、従来のMo−Nb合金より高い耐湿性を安定的に得るには、Tiの添加量は9原子%以上が好ましい。また、Cuのエッチャントでより安定的にエッチングをするには、Tiの添加量は20原子%以下が好ましい。
【0018】
また、主導電層であるCuの一方の面および/または他方の面に被覆層を形成し、製造工程中の加熱温度が350℃と高温の場合に対応するには、被覆層を形成するMo合金に複合添加するNiとTiの総和を53原子%以下にする。その理由は、NiだけでなくTiもCuに熱拡散する元素であり、NiとTiの総和が53原子%を越えると、NiやTiが主導電層のCu層に拡散し、低い電気抵抗値を維持しづらくなるためである。
また、被覆層を形成するMo合金中に複合添加したNiとTiは、原子比でNi/Tiが1以上であることが好ましい。上述したように、Tiは耐湿性向上に関与する元素であるが、耐酸化性は低下するため、本発明者の検討によれば、Niの添加量よりTiの添加量が多い場合には、耐酸化性の向上効果を得にくくなる。このため、NiとTiとの原子比で1以上となるようにそれぞれ添加することで、被覆層の耐湿性と耐酸化性を安定的に得ることが可能となる。
【0019】
本発明の電子部品用積層配線膜において、低い電気抵抗値と耐湿性や耐酸化性を安定的に得るには、主導電層の膜厚を100〜1000nmにすることが好ましい。主導電層の膜厚が100nmより薄くなると、薄膜特有の電子の散乱の影響で電気抵抗値が増加しやすくなる。一方、主導電層の膜厚が1000nmより厚くなると、膜を形成するために時間が掛かったり、膜応力により基板に反りが発生しやすくなったりする。
また、Cuを主成分とする主導電層は、純Cuが最も低い電気抵抗値が得られる。なお、耐熱性、耐食性等の信頼性を考慮して、Cuに遷移金属や半金属等を添加したCu合金を用いてもよい。このとき、できる限り低い電気抵抗値が得られるようにCuへの添加元素の添加量は5原子%以下が好ましい。
【0020】
また、本発明の電子部品用積層配線膜において、低い電気抵抗値と耐湿性や耐酸化性を安定的に得るには、被覆層の膜厚を20〜100nmにすることが好ましい。被覆層の膜厚が20nm未満では、Mo合金膜の連続性が低くなってしまい、上記の特性を十分に得ることができない場合がある。一方、被覆層の膜厚が100nmを越えると、被覆層の電気抵抗値が高くなってしまい、主導電層のCu膜と積層した際に、電子部品用積層配線膜として低い電気抵抗値を得にくくなる。
また、本発明において、350℃以上の高温で大気加熱した際に、主導電層のCuの酸化による電気抵抗値の増加を抑制するには、被覆層の膜厚は30nm以上が好ましい。また、350℃以上の高温で加熱した際の主導電層のCuへの原子拡散による電気抵抗値の増加を抑制するには、被覆層の膜厚は70nm以下が好ましい。このため、本発明では、被覆層の膜厚を30〜70nmにすることがより好ましい。
【0021】
本発明の電子部品用積層配線膜の各層を形成するには、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が好適である。被覆層を形成する際には、例えば被覆層の組成と同一組成のMo合金スパッタリングターゲットを使用して成膜する方法や、Mo−Ni合金スパッタリングターゲットとMo−Tiスパッタリングターゲットを使用してコスパッタリングによって成膜する方法等が適用できる。スパッタリングの条件設定の簡易さや、所望組成の被覆層を得やすいという点からは、被覆層の組成と同一組成のMo合金スパッタリングターゲットを使用してスパッタリング成膜することが最も望ましい。
したがって、本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するには、原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦50、3≦y≦30、x+y≦53で表され、残部が不可避的不純物からなるスパッタリングターゲット材を用いることで、安定して被覆層を形成できる。
また、上述したように、350℃という高温の加熱工程となる場合にも低い電気抵抗値の電子部品用積層配線膜を得るには、Niを20〜30原子%、Tiを9〜20原子%含有させることが好ましい。
【0022】
本発明の被覆層形成用スパッタリングターゲット材の製造方法としては、例えば粉末焼結法が適用可能である。粉末焼結法では、例えばガスアトマイズ法で合金粉末を製造して原料粉末とすることや、複数の合金粉末や純金属粉末を本発明の最終組成となるように混合した混合粉末を原料粉末とすることが可能である。原料粉末の焼結方法としては、熱間静水圧プレス、ホットプレス、放電プラズマ焼結、押し出しプレス焼結等の加圧焼結を用いることが可能である。
【0023】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するMo合金において、耐酸化性、耐湿性を確保するために必須元素であるNi、Ti以外の残部を占めるMo以外の不可避的不純物含有量は少ないことが好ましいが、本発明の作用を損なわない範囲で、ガス成分である酸素、窒素や炭素、遷移金属であるFe、Cu、半金属のAl、Si等の不可避的不純物を含んでもよい。例えば、ガス成分の酸素、窒素は各々1000質量ppm以下、炭素は200質量ppm以下、Fe、Cuは200質量ppm以下、Al、Siは100質量ppm以下であり、ガス成分を除いた純度として99.9質量%以上であることが好ましい。
【実施例1】
【0024】
以下の実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
先ず、被覆層となるMo−Ni−Ti合金膜を形成するためのスパッタリングターゲット材を作製した。平均粒径が6μmのMo粉末と平均粒径100μmのNi粉末と平均粒径150μmのTi粉末を所定の組成となるように混合し、軟鋼製の缶に充填した後、加熱しながら真空排気して缶内のガス分を除いた後に封止した。次に、封止した缶を熱間静水圧プレス装置に入れて、800℃、120MPa、5時間の条件で焼結させた後に、機械加工により、直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。また、比較となるMo、Mo−Nb、Mo−Niスパッタリングターゲット材も同様に作製した。また、Cuターゲット材は、日立電線株式会社製の無酸素銅の板材より切り出して作製した。
【0025】
上記で得た各スパッタリングターゲット材を銅製のバッキングプレートにろう付けしてスパッタリング装置に取り付けた。スパッタ装置は、キャノンアネルバ株式会社製のSPF−440Hを用いた。
25mm×50mmのガラス基板上に、表1に示す所定量のNiおよびTiを加えた被覆層であるMo合金膜、その上面に主導電層であるCu膜、さらにその上面にMo合金膜を、それぞれ表1に示す膜厚構成でスパッタリング法にて形成し、電子部品用積層配線膜を得た。また、比較のために、純Mo、Mo−Ni合金膜、Mo−Nb合金膜を、それぞれCu膜と積層し、積層配線膜も作製した。
【0026】
耐酸化性の評価としては、大気中にて250℃、350℃で1時間加熱した後の反射率と電気抵抗値の変化を測定した。反射率の測定には、コニカミノルタ製の分光測色計CM−2500dを用いて可視光域の反射特性を測定した。また、電気抵抗値は、株式会社ダイヤインスツルメンツ製の4端子薄膜抵抗率測定器MCP−T400を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、主導電層のCu膜単体では、大気中で250℃以上加熱すると酸化してしまい、反射率は大きく低下し、電気抵抗値の測定ができなかった。また、比較例のMo合金とCuの積層配線膜の反射率は、大気中で加熱すると低下する傾向にあった。特に、純MoやMo−10原子%Nbの積層配線膜の反射率は、大気中で350℃加熱すると、大きく低下し、耐酸化性が低いことを確認した。また、電気抵抗値は250℃までは低い値を維持できるが350℃では大きく増加し、酸素が被覆層を透過してしまい、Cu膜が酸化していると考えられる。
また、比較例のMo−35原子%Tiの積層膜は350℃では反射率が大きく低下し、電気抵抗値も増加し、Tiを添加するだけでは耐酸化性を十分に改善できないことを確認した。
これに対して、本発明の被覆層に、MoにNiとTiを所定量添加したMo−Ni−Ti合金の反射率は、350℃の大気中で加熱しても、その低下は少なく、耐酸化性を大きく改善できることが確認できた。また、本発明の被覆層に、MoにNiとTiを所定量添加したMo−Ni−Ti合金の電気抵抗値は、350℃の大気中で加熱しても、その増加が少なく、耐酸化性を大きく改善できることが確認できた。その改善効果は、Niを20原子%以上、Tiを3原子%以上添加することでより明確になり、電子部品に好適な積層配線膜であることが確認できた。
【実施例2】
【0029】
実施例1で作製した一部の積層配線膜を選定して、耐湿性の評価として85℃×85%の高温高湿雰囲気に50時間、100時間、200時間、300時間放置した際の反射率の変化を測定した。その結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示すように、比較例の被覆層に純MoやMo−10Nb、Mo−Ni合金を用いた積層配線膜は、高温高湿雰囲気に放置すると、反射率が大きく低下し、電気抵抗値が増加することを確認した。特に、被覆層にMo−Ni合金を用いたものは、Niの添加量が増加すると、その傾向がより顕著となり耐湿性が低いことがわかる。
これに対して、本発明の被覆層にMoにNiとTiを所定量添加した積層配線膜の反射率は、高温高湿雰囲気に放置後も反射率の低下が抑制でき、尚且つ低い電気抵抗値を維持しており、耐湿性を大きく改善したことが確認できた。その改善効果は、Ti添加量が3原子%以上で明確となり、9原子%で耐湿性は大きく改善されることが確認できた。
【実施例3】
【0032】
次に、実施例1で作製した一部の積層配線膜を選定して、真空中で加熱処理した際の電気抵抗値の変化について検討を行った。加熱温度は、250℃、350℃、450℃で1時間加熱した。測定結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3に示すように、比較例のNiの添加量が50原子%を越えるか、NiやTi添加量が50原子%を超えると、高い温度ほど特に350℃以上での電気抵抗値が増加することを確認した。
これに対し、本発明の積層配線膜は、被覆層のNiとTiの添加量の総量を50原子%以下にすることで、加熱時における電気抵抗値の増加を抑制できることが確認できた。
【実施例4】
【0035】
次に、エッチング性の評価を行った。実施例3で用いた積層配線膜を形成した基板の半分の面積にのみフォトレジスト塗布して乾燥させ、関東化学株式会社製のCu用エッチャント液に浸し、未塗布部分をエッチングした。その後、基板を純水で洗浄し、乾燥させ、溶解部分とレジストを塗布した未溶解部分の境目近傍を光学顕微鏡で観察した。その結果を表3に示す。
【0036】
比較例のMo−Ni合金とCuの積層配線膜では、境目近傍の膜が浮き、端部が剥がれていた。これは、主導電層のCu膜とガラス基板の間に形成した被覆層のMo合金膜がエッチングされていると考えられる。また、比較例の被覆層にMo−10原子%Nbを用いた積層配線膜では、残渣を確認した。これは、主導電層のCu膜がオーバーエッチングされ、その上部に形成した被覆層のMo−10原子%Nb合金膜が浮いているように見えた。
また、比較例のMo−35原子%TiやMo−10原子%Ni−33原子%Tiを被覆層としたら、エッチングを行うことができず、エッチング性にTiの添加量が大きく関与していることを確認した。
これに対して、本発明のMoに特定量のNiとTiを複合添加した被覆層では、膜剥がれもなく、エッチングされていることが確認できた。ただし、Tiの添加量が22原子%Mo合金では基板上に残渣が確認されており、より安定的にエッチングを行うにはTiの添加量は20原子%以下がより好ましいことを確認した。
以上のように、耐酸化性、耐湿性、加熱時の電気抵抗値の増加の抑制、エッチング性を満たすには、Niの添加量を10〜50原子%、Tiの添加量を3〜30原子%にすることが好ましいことがわかる。また、高温で耐酸化性、電気抵抗値の増加を抑制し、高いエッチング性を確保するにはNiを20〜30原子%、Tiを9〜20原子%とすることがより好ましいことがわかる。
【実施例5】
【0037】
先ず、被覆層となるMo−20%Ni−15%Ti(原子%)スパッタリングターゲット材を作製した。平均粒径が6μmのMo粉末と平均粒径80μmのNi粉末と平均粒径25μmのTi粉末を所定の組成となるように混合し、軟鋼製の缶に充填した後、加熱しながら真空排気して缶内のガス分を除いた後に封止した。次に、封止した缶を熱間静水圧プレス装置に入れて、800℃、120MPa、5時間の条件で焼結させた後に、機械加工により、直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。
上記で得た各スパッタリングターゲット材を銅製のバッキングプレートにろう付けしてスパッタリング装置に取り付けた。スパッタ装置は、キャノンアネルバ株式会社製のSPF−440Hを用いた。
【0038】
次に、25mm×50mmのガラス基板上に、主導電層であるCu膜および被覆層であるMo−Ni−Ti膜の膜厚を変化させてスパッタリング法により、表4に示すような膜厚構成の電子部品用積層配線膜を形成した。その後、実施例1と同様に大気中にて加熱処理した際の反射率および電気抵抗値の変化を測定した。その結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
主導電層であるCu膜の膜厚が同じ場合は、被覆層の膜厚が薄い程、成膜時の電気抵抗値が低いことがわかる。大気中で加熱すると、上被覆層が10nmと薄い場合には、250℃から反射率は低下し、350℃では電気抵抗値が増加するが、20nm以上では反射率の低下や電気抵抗値の増加も少なくなり、高い耐酸化性が得られるが確認できた。
本発明の電子部品用積層配線膜は、主導電層であるCuの膜厚を200〜500nmで成膜し、被覆層の膜厚を20〜70nmで成膜することで、低い電気抵抗値と高い耐酸化性を得られることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属膜を形成した電子部品用積層配線膜において、Cuを主成分とする主導電層と該導電層の一方の面および/または他方の面を覆う被覆層からなり、該被覆層は原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦50、3≦y≦30、x+y≦53で表され、残部が不可避的不純物からなることを特徴とする電子部品用積層配線膜。
【請求項2】
前記組成式のx、yが、それぞれ20≦x≦30、9≦y≦20であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品用積層配線膜。
【請求項3】
請求項1に記載の被覆層を形成するためのスパッタリングターゲット材であって、原子比における組成式がMo100−x−y−Ni−Ti、10≦x≦50、3≦y≦30、x+y≦53で表され、残部が不可避的不純物からなることを特徴とする被覆層形成用スパッタリングターゲット材。
【請求項4】
前記組成式のx、yが、それぞれ20≦x≦30、9≦y≦20であることを特徴とする請求項3に記載の被覆層形成用スパッタリングターゲット材。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60656(P2013−60656A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168042(P2012−168042)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】