説明

電子部品積層体およびリードフレームならびにリードフレームを備えた電子デバイス、またこれらの製造方法

【課題】電子部品実装部に実装された電子部品に対して、モールド樹脂から加わる応力を極力抑え、精度良く正確に被識別流体の識別を行うことのできる電子部品積層体およびリードフレームならびにリードフレームを備えた電子デバイス、またこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】電子部品積層体が、電子部品を実装するための電子部品実装部と、前記電子部品実装部に実装された電子部品と、前記電子部品に形成されたコーティング層と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば流体識別を行うためのセンサー、半導体装置などの電子部品を電子部品実装部に実装した電子部品積層体、およびこの電子部品積層体を備えたリードフレーム、ならびにリードフレームを備えた電子デバイスと、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油などの炭化水素系液体、エタノール、メタノールなどのアルコール系液体、尿素水溶液液体、気体、粉粒体などの流体について、流体の熱的性質を利用して、被識別流体について、流体種識別、濃度識別、流体の有無識別、流体の温度識別、流量識別、流体レベル識別などを行う流体識別装置に用いられる熱式センサーが、特許文献1〜3などに開示されている。
【0003】
これらの熱式センサー100は、図25または図26に示したように、モールド樹脂102により構成されるセンサー本体104を備え、このセンサー本体104は、略楕円形状のフランジ部106と、このフランジ部106の裏面に突設する裏面突設部108と、フランジ部106の表面に突設する検知部110とを備えている。
【0004】
この検知部110は、一定間隔離間して配置された矩形平板形状の流体識別検知部112と流体温度検知部114とから構成され、これらの検知部112,114は基本的には同様な構造となっており、発熱体と感温体とを備え、流体温度検知部114では、発熱体を作用させずに感温体のみを作用させるようになっている。
【0005】
また、これらの検知部112,114では、モールド樹脂102が欠落した開口部116に、その一部が露出するように、センサー本体104内に配置された熱伝達部材として機能する金属製のダイパッド部118を備えている。そして、このダイパッド部118の開口部116と反対側の実装面には、薄膜チップ122が実装されている。
【0006】
またセンサー本体104内には、これらのダイパッド部118と対峙するように、ダイパッド部118と一定間隔離間して配置され、相互に一定間隔離間するように複数のインナーリード124が配置されている。これらのインナーリード124から、裏面突設部108方向に外部接続端子部126が延設されており、外部接続端子部126の先端部分にアウターリード128が形成されている。
【0007】
さらに、薄膜チップ122の電極122aとインナーリード124の電極124aとの間は、Auからなるボンディングワイヤー130によって電気的に接続されている。
上記のようにして構成された熱式センサー100は、通電によって発熱体を発熱させ、この発熱により感温体を加熱し、発熱体から感温体への熱伝達に対して被識別流体により熱的影響を与え、感温体の電気抵抗に対応する電気的出力に基づいて、被識別流体について流体識別を行う。
【0008】
なお、このような熱式センサー100は、図27に示したような製造工程を経て製造されている。
すなわち、上記のダイパッド部118と、インナーリード124、外部接続端子部126、アウターリード128は、製造工程においてリードフレーム(図示せず)として、銅、炭素鋼、アルミニウム合金、アルミニウムなどを用いて一体的に形成されている。
【0009】
そして、このように一体的に形成されたリードフレームに、まずステップS101のフレームメッキ工程において、リードフレーム全面に、例えば、貴金属系のPdメッキ、Auメッキ、ハンダ系のNiメッキ、Snメッキ、Sn−Pbメッキ、Sn−Biメッキ、Agメッキ、Ag−Cuメッキ、Inメッキなどを施している。なお、この場合、メッキの種類は、特に限定されるものではなく、貴金属とはんだ付けの際に使用するメッキ金属であれば良い。
【0010】
ステップS101のフレームメッキ工程において、リードフレーム全面にメッキ処理を施した後、ステップS102のダイボンド工程において、接着剤などの接合材101を介して、ダイパッド部118に薄膜チップ122を装着(ボンディング)している。
【0011】
次に、ステップS103のワイヤーボンディング工程において、薄膜チップ122の電極122aとインナーリード124の電極124aとの間を、Auからなるボンディングワイヤー130で電気的に接続する。
【0012】
さらに、この状態でリードフレームを金型(図示せず)内に配置し、ステップS104のモールド工程において、例えばエポキシ樹脂を射出することによって、リードフレームの所定部分がモールド樹脂102で被覆されたセンサー本体104を形成する。
【0013】
その後、ステップS105のダイバーカット工程において、リードフレームを所定の大きさに分離した後、ステップS106のモールドバリ取り工程において、酸またはアルカリ溶液に浸漬することによって、センサー本体104のモールド樹脂102の余分な部分を除去する。
【0014】
次に、ステップS107の外装メッキ(端子部メッキ)工程において、外部接続端子部126の先端部分のアウターリード128に、外部のリード線などをはんだ付けする際のはんだ性を向上するために、例えば、貴金属系のPdメッキ、Auメッキ、ハンダ系のNiメッキ、Snメッキ、Sn−Pbメッキ、Sn−Biメッキ、Agメッキ、Ag−Cuメッキ、Inメッキなどを施す。なお、この場合、メッキの種類は、特に限定されるものではなく、貴金属とはんだ付けの際に使用するメッキ金属であれば良い。
【0015】
そして、ステップS108のマーキング工程において、製品運用管理のために識別可能箇所にマーキングを施した後、ステップS109のモールド切り離し工程において、リードフレームの不要部分をセンサー本体104から切断して除去し、アウターリード128の形状を整えた後、完成品である熱式センサー100を得るようになっている。
【特許文献1】特開平11−153561号公報
【特許文献2】特開2006−29956号公報
【特許文献3】特開2005−337969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、このような従来の熱式センサーでは、リードフレームのダイパッド部に実装された薄膜チップの上から、直接的にモールド樹脂が被覆形成されているため、モールド樹脂に力が加わると、薄膜チップへも力が加わることとなり、これによって薄膜チップが破損してしまう場合が生じていた。また、破損が生じない程度の力であっても、薄膜チップへ負荷が掛かると、計測時における測定精度が低下し、正確な流体識別を行えない場合があった。
【0017】
本発明は、このような現状に鑑み、電子部品実装部に実装された電子部品に対して、モールド樹脂から加わる応力を極力抑え、精度良く正確に被識別流体の識別を行うことのできる電子部品積層体およびリードフレームならびにリードフレームを備えた電子デバイス、またこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前述したような従来技術における課題および目的を達成するために発明されたものであって、本発明の電子部品積層体は、
電子部品を実装するための電子部品実装部と、
前記電子部品実装部に実装された電子部品と、
前記電子部品に形成されたコーティング層と、
から構成されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の電子部品積層体の製造方法は、
電子部品を実装するための電子部品実装部に前記電子部品を実装する工程と、
前記電子部品にコーティング層を塗布形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0020】
このように構成することによって、電子部品をモールド樹脂で覆っても、コーティング層がクッションとしての役目をなすため、モールド樹脂によって電子部品へかけられた応力をコーティング層によって緩和させることができる。また、コーティング層によって、電子部品の絶縁性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の電子部品積層体は、
前記コーティング層が、前記電子部品の上面のみに形成されていることを特徴とする。
このようにコーティング層を、電子部品の上面のみに形成すれば、電子部品をモールド樹脂で覆った際における電子部品とモールド樹脂との接合部分が確保されることとなるため、電子部品積層体を漬水させたとしても、電子部品の側面から電子部品側に浸水することはなく、浸水を効果的に防止することができる。
【0022】
また、本発明の電子部品積層体は、
前記コーティング層の厚さが、5μm〜50μmの範囲内であることを特徴とする。
このような範囲内にコーティング層の厚さを規定すれば、電子部品による被測定流体の測定感度が良好であるとともに、モールド樹脂による電子部品へ掛けられる応力緩和を十分に行うことができる。なお、コーティング層の厚みを上記の下限値よりも小さくした場合には、モールド樹脂による電子部品へ掛けられる応力緩和は不十分であり、逆にコーティング層の厚みを上記の範囲よりも大きくした場合には、被測定流体の測定感度が鈍くなってしまう。
【0023】
また、本発明のリードフレームは、
上記のいずれかに記載の電子部品積層体を具備することを特徴とする。
また、本発明の電子部品積層体の製造方法は、
上記のいずれかに記載の製造方法によって製造された電子部品積層体を準備する工程と、
前記電子部品積層体をリードフレームの電子部品実装部に実装する工程と、
を有することを特徴とする。
【0024】
このような電子部品積層体を具備したリードフレームであれば、電子部品積層体に負荷が掛かったとしても、電子部品にコーティング層が形成されているため、電子部品に掛かる負荷は軽減させることができる。
【0025】
また、本発明のリードフレームは、
アウターリード部とインナーリード部とを備えることを特徴とする。
このようにアウターリード部とインナーリード部とを備えたリードフレームであれば、アウターリード部とインナーリード部に所望の電極を接続して電子デバイスとすることができる。
【0026】
また、本発明の電子部品積層体は、
前記インナーリード部と、前記電子部品実装部に実装された電子部品積層体とが、電気的に接続されていることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の電子部品積層体の製造方法は、
前記インナーリード部と、電子部品実装部に実装された電子部品積層体とを、電気的に接続する工程と、
を有することを特徴とする。
【0028】
このように構成することによって、電子部品実装部に、薄膜チップ、ICなどの電子部品積層体を実装して、インナーリード部と電子部品実装部に実装された電子部品積層体とを、ワイヤーボンディングなどで電気的に接続することができ、センサー、半導体装置などとして用いることができる。
【0029】
また、本発明のリードフレームは、
前記インナーリード部と、前記電子部品実装部に実装された電子部品積層体とが、気密封止または樹脂封止されていることを特徴とする。
【0030】
また、本発明のリードフレームの製造方法は、
前記インナーリード部と、電子部品実装部に実装された電子部品積層体とを、電気的に接続する工程の後に、
前記インナーリード部と電子部品実装部に実装された電子部品積層体とを気密封止または樹脂封止する工程と、
を有することを特徴とする。
【0031】
このように構成することによって、インナーリード部と、電子部品実装部に実装された電子部品積層体とが、例えばセラミック、金属で蓋をして内部を不活性ガスによって気密封止、または樹脂成形によって樹脂封止(樹脂モールド)されているので、被検知流体が浸入して薄膜チップなどの電子部品積層体が機能しなくなったり、インナーリード、ボンディングワイヤーなどが腐食してセンサーとしての品質が低下することがないため、正確な流体識別を行うことができる。
【0032】
また、本発明の電子デバイスは、
上記のいずれかに記載のリードフレームを具備することを特徴とする。
また、本発明の電子デバイスの製造方法は、
上記のいずれかに記載の製造方法によって製造されたリードフレームを準備する工程と、
前記リードフレームを電子デバイスの所定箇所に実装する工程と、
を有することを特徴とする。
【0033】
また、本発明の電子デバイスは、
流体識別を行うためのセンサーであることを特徴とする。
また、本発明の電子デバイスは、
前記流体識別が、
流体種識別、濃度識別、流体の有無識別、流体の温度識別、流量識別、流体の漏れ識別
、流体レベル識別のうち、少なくとも一つの識別であることを特徴とする。
【0034】
このように構成することによって、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油などの炭化水素系液体、エタノール、メタノールなどのアルコール系液体、尿素水溶液液体、気体、粉粒体などの流体について、流体の物理的性質、例えば流体の熱的性質を利用して、被識別流体について、流体種識別、濃度識別、流体の有無識別、流体の温度識別、流量識別、流体レベル識別などを行うことができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、電子部品実装部に実装された電子部品に対して、モールド樹脂から加わる応力を極力抑え、精度良く正確に被識別流体の識別を行うことのできる電子部品積層体およびリードフレームならびにリードフレームを備えた電子デバイス、またこれらの製造方法を提供するができる。
また、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油などの炭化水素系液体、エタノール、メタノールなどのアルコール系液体、尿素水溶液液体、気体、粉粒体などの流体について、流体の熱的性質を利用して、被識別流体について、流体種識別、濃度識別、流体の有無識別、流体の温度識別、流量識別、流体レベル識別などを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本発明の多数個取りのリードフレームにおける上面図、図2は、図1のリードフレームの部分拡大上面図、図3は、図1のリードフレームを用いた熱式センサーの製造工程を説明する工程概略図、図4は、図1のリードフレームを用いた熱式センサーの製造工程を説明する図1のリードフレームの部分拡大上面図、図5は、図4のリードフレームのA−A線による部分拡大断面図、図6は、図1のリードフレームを用いた熱式センサーの斜視図、図7は、図6の熱式センサーの縦断面図、図8は、図7の熱式センサーのB−B線による縦断面図、図9は、モールド工程を説明する概略図である。
【0037】
図1〜図3において、符号1は、全体でリードフレームを有するリードフレーム体を示している。
図1のリードフレーム体1は、いわゆる多数個取り形式であって、熱式センサーを製造するために適用した実施例を示している。
【0038】
すなわちリードフレーム体1は、複数個のリードフレーム2が並列して配置されており、リードフレーム2は略矩形平板状の外枠体4を備え、外枠体4には、金型(図示せず)内に配置した際に位置決めを行うための合計4箇所の位置決め孔3が形成されている。
【0039】
また、外枠体4の下側枠体6から、4本の一定間隔離間したアウターリード8が、左右に2組延設されている。これらのアウターリード8の上方には、外部接続端子部10が形成され、外部接続端子部10において、外枠体4の左側枠体12、右側枠体14に左右に延びる水平方向支持部16で支持されている。なお、下側枠体6の中央部分には、左側中央支持部18、右側中央支持部20が延設されており、それぞれ水平方向支持部16と連結されている。
【0040】
さらに、外部接続端子部10の上方には、それぞれ一定間隔離間するように、中央に向かって傾斜するように延設されたインナーリード22が形成されており、これらのインナーリード22の先端部にインナーリード先端部24が配置されている。
【0041】
また、外枠体4の左側枠体12、右側枠体14から、それぞれインナーリード22の形状に対応するように、インナーリード22と一定間隔離間して、左側吊りリード26、右
側吊りリード28が延設されている。一方、左側中央支持部18、右側中央支持部20から、それぞれ左側中央吊りリード30、右側中央吊りリード32が延設されている。
【0042】
そして、左側吊りリード26と左側中央吊りリード30は、インナーリード22のインナーリード先端部24より上方に延びており、その先端部にインナーリード先端部24と対峙するように、一定間隔離間して配置された電子部品実装部を構成する略矩形状のダイパッド部34が形成されている。
【0043】
同様に、右側吊りリード28と右側中央吊りリード32は、インナーリード22のインナーリード先端部24より上方に延びており、その先端部にインナーリード先端部24と対峙するように、一定間隔離間して配置された電子部品実装部を構成する略矩形状のダイパッド部34が形成されている。
【0044】
これらのダイパッド部34の上方先端部には、後述するようにステップS5のダイボンド工程、ステップS6のワイヤーボンディング工程において、ダイパッド部34を支持するための支持突設部36が突設されている。なお、この支持突設部36は、ステップS7のモールド工程において、モールド樹脂を射出成形する際のアンカー効果、金型の上型と下型との間で挟持することで、金型内での支持効果も有している。
【0045】
このように構成されるリードフレーム2を用いて、電子デバイスである熱式センサーを製造する方法について以下に説明する。
まず、図3の工程概略図に示したように、ステップS1のレジスト印刷・露光工程において、所定のパターンになるようにレジストを印刷して、露光した後、図2において黒く塗りつぶされた部分で示したインナーリード22のインナーリード先端部24、アウターリード8、外部接続端子部10を露出させる。
【0046】
次に、ステップS2のNiメッキ(部分)工程において、露出した部分であるインナーリード22のインナーリード先端部24、アウターリード8、外部接続端子部10に、下地メッキであるNiメッキを施す。そして、ステップS3の剥離工程において、アルカリ溶液でレジストを除去する。
【0047】
その後、ステップS4のAuメッキ(部分)工程において、インナーリード22のインナーリード先端部24、アウターリード8、外部接続端子部10に、下地メッキであるNiメッキの上面にAuメッキを施してフレームを製造する。
【0048】
次に、ステップS5のダイボンド工程において、図4に示したように、接着剤などの接合材38を介して、ダイパッド部34に電子部品である薄膜チップ40を装着(ボンディング)する。この時、リードフレーム2のダイパッド部34の上方先端部に延設された支持突設部36を支持した状態で、薄膜チップ40の装着がなされ、これによりダイパッド部34が装着の際の圧力で変形しないようになっている。
【0049】
そして、ステップS6のワイヤーボンディング工程において、薄膜チップ40の電極(図示せず)と、インナーリード先端部24の電極部24aとの間を、Auからなるボンディングワイヤー42で電気的に接続する。この場合においても、ダイパッド部34の支持突設部36を支持した状態でワイヤーボンディングがなされるため、ボンディング圧によってダイパッド部34が変形してしまうことがない。
【0050】
そして、図5に示したように薄膜チップ40の上面のみにフッ素系、シリコン系、ポリイミド系のコーティング剤を塗布し、固化することによりコーティング層46を形成する。なお、コーティング層46の厚みTは、5μm〜50μmの範囲内とすることが好ましく、さらに好ましくは15μm〜40μmの範囲内である。なお、本明細書中では図5に示した状態を「電子部品積層体」とも言う。
【0051】
また、コーティング層46は薄膜チップ40の上面にのみ形成し、薄膜チップ40の側面には設けないようにすることが好ましい。
これは、薄膜チップ40の上面および側面を全てコーティング層46で覆ってしまうと、モールド樹脂44と薄膜チップ40とが直接に接する箇所がなくなってしまい、これにより、万が一、浸水があった際に、薄膜チップ40側へ浸水してしまう可能性があるからである。コーティング層46を薄膜チップ40の上面のみに形成していれば、モールド樹脂44が薄膜チップ40の側面部分と接することとなるため、隙間が生ずることがなく、薄膜チップ40側へ浸水することはない。
【0052】
そして、この状態でリードフレーム2を金型内に配置して、ステップS7のモールド工程において、例えばエポキシ樹脂を射出することによって、リードフレーム2の所定の部分に、モールド樹脂44が被覆されて構成されるセンサー本体54を形成する。
【0053】
なお、ダイパッド部34の上方先端部には支持突設部36が設けられているため、この支持突設部36がモールド樹脂44を射出成形する際のアンカーとしての役目をなし、熱収縮によるリードフレーム2とモールド樹脂44とのズレを抑止するようになっている。
【0054】
その後、ステップS8のダイバーカット工程において、リードフレーム2を所定の大きさに分離する。
そして、ステップS9のマーキング工程において、製品運用管理のために識別可能箇所、例えばフランジ部56の側面部分にマーキングを施した後、ステップS10のモールド切り離し工程において、リードフレーム2の不要部分を切断して除去し、アウターリード8の形状を整えた後、図6〜図9に示した完成品である熱式センサー50を得るようになっている。
【0055】
このようにして得られた熱式センサー50は、図6〜図9に示したように、モールド樹脂44により構成されるセンサー本体54を備えており、このセンサー本体54は、略楕円形状のフランジ部56と、このフランジ部56の裏面に突設する裏面突設部58と、フランジ部56の表面に突設する検知部60とを備えている。
【0056】
そして検知部60は、一定間隔離間して配置された矩形平板形状の一対の流体識別検知部62と、流体温度検知部64とから構成されている。これら流体識別検知部62と流体温度検知部64とは、基本的には同様な構造となっており、発熱体と感温体を備えており、流体温度検知部64では、発熱体を作用させずに感温体のみを作用させるようになっている。
【0057】
また、これらの検知部62、64では、モールド樹脂44で封止されたセンサー本体54内に配置された熱伝達部材として機能する金属製のダイパッド部34を備えている。そしてこのダイパッド部34の実装面に、接合材38を介して薄膜チップ40が実装されている。
【0058】
またセンサー本体54内には、ダイパッド部34と対峙するように、ダイパッド部34と一定間隔離間して配置され、相互に一定間隔離間するように、複数のインナーリード22が配置されている。そして、これらのインナーリード22から裏面突設部58方向に外部接続端子部10が延設されており、外部接続端子部10の先端部分にアウターリード8が形成されている。
【0059】
そして、薄膜チップ40の電極40aと、インナーリード先端部24の電極部24aとの間は、Auからなるボンディングワイヤー42で電気的に接続されている。
このようにして構成される熱式センサー50は、薄膜チップ40の上面にコーティング層46が形成されており、モールド樹脂44に応力が掛かることによって薄膜チップ40へ掛けられる応力は、コーティング層46がクッションとしての役目をなすため、緩和されることとなる。このため、薄膜チップ40が破損しないようになっている。
【0060】
さらに、コーティング層46によって、薄膜チップ40への応力が掛かりにくくなるため、被識別流体の所望の識別を精度良く行うことができる。
(実験例1)
薄膜チップ40上方にモールド樹脂44を形成するモールド工程時において、薄膜チップ40が受ける応力は、コーティング層46の膜厚の違いによって、どのように変化するかシミュレーション実験を行った。なお、本実験で確認される応力は、モールド工程時、つまり175℃で樹脂モールドし、この樹脂が固化して常温になるまでの間に発生する部材間の残留応力である。このシミュレーション実験の結果を図10および図11に示した。
【0061】
図10および図11に示したシミュレーション実験の結果からすれば、コーティング層46を40μmまたは70μm設けた場合には、コーティング層46が0μm、つまりコーティング層46を設けていない場合に比べて、薄膜チップ40の受ける応力値が小さいことが確認できた。
(実験例2)
薄膜チップ40上にコーティング層46を形成したセンサー本体54と、薄膜チップ40上にコーティング層46を形成していないセンサー本体54とを用意し、それぞれを作動耐久試験機(Sonoscan社製 C-SAM D-9000)にかけて、加速評価試験を行った。試験前と試験後における両センサー本体54を超音波探傷装置にて観察し観察写真を得た。この観察写真を図12に示した。
【0062】
図12に示した観察写真からすれば、コーティング層46を設けた場合、試験前と試験後とでは、殆ど変化もなく、剥離は生じていないことが確認できた。これに対して、コーティング層46を設けていない場合には、試験後にリードフレーム2とモールド樹脂44との間で剥離が生じていることが確認された。
【0063】
したがって、本試験により、薄膜チップ40上にコーティング層46を形成することにより、リードフレーム2とモールド樹脂44との間で剥離が生じてしまうことを防止できることが立証された。
【0064】
次いで、上記した熱式センサー50を用い、特許文献3に開示されているような方法に基づいて、流体識別を行うように構成された流体識別装置70について説明する。
すなわち図13は、本発明による熱式センサー50を流体識別装置に適用した実施例を示す分解斜視図、図14は、図13の一部省略断面図、図15は、本発明による流体識別装置のタンクへの取り付け状態を示す図である。
【0065】
図13〜図15に示されているように、タンク66の上部にはタンク開口部68が設けられており、このタンク開口部68に、本発明による流体識別装置70が取り付けられている。
【0066】
タンク66には、流体が注入される入口配管72と、流体が取り出される出口配管74が設けられている。出口配管74は、タンク66の底部に近い高さ位置にてタンク66に接続されており、ポンプ76を介して、流体使用機器(図示せず)に接続されている。
【0067】
流体識別装置70は、流体識別センサー部78と支持部80とを備えている。支持部80の一方の端部(下端部)には、流体識別センサー部78が取り付けられており、支持部80の他方の端部(上端部)には、タンク開口部68へ取り付けるための取り付け部82が設けられている。
【0068】
流体識別センサー部78は、発熱体と感温体とを備えた流体識別検知部62と、流体の温度を測定する流体温度検知部64とを有する。
このように構成される流体識別装置70では、特許文献3に開示されているような方法に基づいて、通電により発熱体を発熱させ、この発熱により感温体を加熱し、発熱体から感温体への熱伝達に対して、被識別流体により熱的影響を与え、感温体の電気抵抗に対応する電気的出力に基づいて、被識別流体について、上記のような流体識別を行うように構成されている。
【0069】
以下に、流体識別の一実施例として液種識別について説明する。本実施例においては、図16にて一点鎖線で囲まれる部分がカスタムIC84に作り込まれている。
図16には、スイッチ86が単なる開閉を行うものとして記載されているが、カスタムIC84に作り込む際に、互いに異なる電圧の印加が可能な複数の電圧印加経路を形成しておき、ヒーター制御に際して、いずれかの電圧印加経路を選択できるようにしてもよい。
【0070】
このようにすると、流体識別検知部62の発熱体62a4の特性における選択幅が大幅に広がる。すなわち、発熱体62a4の特性に応じて識別に最適な電圧を印加することが可能となる。また、ヒーター制御に際して、互いに異なる複数の電圧の印加を行うことができるので、被識別流体の種類を広げることが可能となる。
【0071】
なお、図16には抵抗体88,90が抵抗値一定のものとして記載されているが、カスタムIC84に作り込む際に、これら抵抗体88,90のそれぞれを抵抗値可変なものに形成しておき、識別に際して抵抗体88,90の抵抗値を適宜変更できるようにしてもよい。
【0072】
同様に、カスタムIC84に作り込む際に、差動増幅器92および液温検知増幅器94について特性調節が可能なようにしておき、識別に際して増幅器特性を適宜変更できるようにしてもよい。
【0073】
このようにすると、液種検知回路の特性を最適なものに設定することが容易になり、流体識別検知部62および流体温度検知部64の製造上の個体ばらつきと、カスタムIC84の製造上の個体ばらつきとに基づき発生する識別特性のばらつきを低減することができ、製造歩留まりが向上する。
【0074】
以下、本実施例における液種識別動作について説明する。
タンク66内に被識別液体として尿素水溶液USが収容されると、流体識別センサー部78を覆うカバー部材98により形成される被測定液体導入路96内にも尿素水溶液USが満たされる。被測定液体導入路96内を含めてタンク66内の尿素水溶液USは実質上流動しない。
【0075】
マイコン91からスイッチ86に対して出力されるヒーター制御信号により、スイッチ86を所定時間(例えば、8秒間)閉じることで、発熱体62a4に対して所定高さ(例えば、10V)の単一パルス電圧Pを印加して発熱体を発熱させる。この時の差動増幅器92の出力電圧(センサー出力)Qは、図17に示されるように、発熱体62a4への電
圧印加中は次第に増加し、発熱体62a4への電圧印加終了後は次第に減少する。
【0076】
マイコン91では、図17に示されているように、発熱体62a4への電圧印加の開始前の所定時間(例えば、0.1秒間)センサー出力を所定回数(例えば、256回)サンプリングし、その平均値を得る演算を行って平均初期電圧値V1を得る。この平均初期電圧値V1は、感温体62a2の初期温度に対応する。
【0077】
また、発熱体への電圧印加の開始から比較的短い時間である第1の時間(例えば単一パルスの印加時間の1/2以下であって0.5〜3秒間;図17では2秒間)経過時(具体的には第1の時間の経過の直前)にセンサー出力を所定回数(例えば、256回)サンプリングし、その平均値をとる演算を行って平均第1電圧値V2を得る。
【0078】
この平均第1電圧値V2は、感温体62a2の単一パルス印加開始から第1の時間経過時の第1温度に対応する。そして、平均初期電圧値V1と平均第1電圧値V2との差V01(=V2−V1)を液種対応第1電圧値として得る。
【0079】
また、発熱体への電圧印加の開始から比較的長い時間である第2の時間(例えば単一パルスの印加時間;図17では8秒間)経過時(具体的には第2の時間の経過の直前)にセンサー出力を所定回数(例えば、256回)サンプリングし、その平均値をとる演算を行って平均第2電圧値V3を得る。
【0080】
この平均第2電圧値V3は、感温体62a2の単一パルス印加開始から第2の時間経過時の第2温度に対応する。そして、平均初期電圧値V1と平均第2電圧値V3との差V02(=V3−V1)を液種対応第2電圧値として得る。
【0081】
以上のような単一パルスの電圧印加に基づき発熱体62a4で発生した熱の一部は、被測定液体を介して感温体62a2へと伝達される。この熱伝達には、パルス印加開始からの時間に依存して異なる主として2つの形態がある。すなわち、パルス印加開始から比較的短い時間(例えば3秒とくに2秒)内の第1段階では、熱伝達は主として伝導が支配的である(このため、液種対応第1電圧値V01は主として液体の熱伝導率による影響を受ける)。
【0082】
これに対して、第1段階後の第2段階では、熱伝達は主として自然対流が支配的である(このため、液種対応第2電圧値V02は主として液体の動粘度による影響を受ける)。これは、第2段階では、第1段階で加熱された被測定液体による自然対流が発生し、これによる熱伝達の比率が高くなるからである。
【0083】
上記のように、排ガス浄化システムにおいて使用される尿素水溶液USの濃度(重量パーセント:以下同様)は32.5%が最適とされている。したがって、タンク66に収容されるべき尿素水溶液USの尿素濃度の許容範囲を、例えば32.5%±5%と定めることができる。この許容範囲の幅±5%は、所望により適宜変更可能である。すなわち、本実施例では、所定の液体として、尿素濃度が32.5%±5%の範囲内の尿素水溶液USを定めている。
【0084】
上記液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02は、尿素水溶液USの尿素濃度が変化するにつれて変化する。したがって、尿素濃度32.5%±5%の範囲内の尿素水溶液USに対応する液種対応第1電圧値V01の範囲(所定範囲)および液種対応第2電圧値V02の範囲(所定範囲)が存在する。
【0085】
ところで、尿素水溶液US以外の液体であっても、その濃度によっては、上記の液種対
応第1電圧値V01の所定範囲内および液種対応第2電圧値V02の所定範囲内の出力が得られる場合がある。すなわち、液種対応第1電圧値V01または液種対応第2電圧値V02がそれぞれ所定範囲内であったとしても、その液体が所定の尿素水溶液USであるとは限らない。
【0086】
例えば、図18に示されているように、尿素濃度が所定範囲内32.5%±5%の尿素水溶液USで得られる液種対応第1電圧値V01の範囲内(すなわち、センサー表示濃度値に換算して32.5%±5%の範囲内)には、砂糖濃度が25%±3%程度の範囲内の砂糖水溶液の液種対応第1電圧値が存在する。
【0087】
しかしながら、この砂糖濃度範囲内の砂糖水溶液から得られる液種対応第2電圧値V02の値は、所定の尿素濃度範囲内の尿素水溶液USで得られる液種対応第2電圧値V02の範囲とはかけ離れたものとなる。
【0088】
すなわち、図19に示されているように、25%±3%程度の砂糖濃度範囲を包含する15%〜35%の砂糖濃度範囲内の砂糖水溶液では、液種対応第1電圧値V01が所定の尿素濃度範囲内の尿素水溶液USと重複するものがあるが、液種対応第2電圧値V02は所定の尿素濃度範囲内の尿素水溶液USとは大きく異なる。
【0089】
なお図19では、液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02の双方が、尿素濃度30%の尿素水溶液のものを1.000とした相対値で示されている。このように、液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02の双方についてそれぞれの所定範囲内にあることを所定の液体であるか否かの判定基準とすることで、上記砂糖水溶液が所定の液体ではないと確実に識別することができる。
【0090】
また、液種対応第2電圧値V02が所定の液体のものと重複する場合もあり得る。しかし、この場合には、液種対応第1電圧値V01が所定の液体のものと異なるので、上記判定基準により当該液体が所定のものではないと確実に識別することができる。
【0091】
本発明は、以上のように液種対応第1電圧値V01と液種対応第2電圧値V02との関係が溶液の種類により異なることを利用して、液種の識別を行うものである。
すなわち、液種対応第1電圧値V01と液種対応第2電圧値V02とは、液体の互いに異なる物性である熱伝導率と動粘度との影響を受け、これらの関係は溶液の種類により互いに異なるので、以上のような液種識別が可能となる。尿素濃度の所定範囲を狭くすることで、さらに、識別の精度を高めることができる。
【0092】
本発明の実施例では、尿素濃度既知の幾つかの尿素水溶液(参照尿素水溶液)について、温度と液種対応第1電圧値V01との関係を示す第1検量線および温度と液種対応第2電圧値V02との関係を示す第2検量線を予め得ておき、これらの検量線をマイコン91の記憶手段に記憶しておく。
【0093】
第1および第2の検量線の例を、それぞれ図20および図21に示す。
これらの例では、尿素濃度c1(例えば27.5%)およびc2(例えば37.5%)の参照尿素水溶液について、検量線が作成されている。
【0094】
図20および図21に示されているように、液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02は温度に依存するので、これらの検量線を用いて被測定液体を識別する際には、流体温度検知部64の感温体64a2から液温検知増幅器94を介して入力される液温対応出力値Tを用いる。液温対応出力値Tの一例を図22に示す。このような検量線をもマイコン91の記憶手段に記憶しておく。
【0095】
液種対応第1電圧値V01の測定に際しては、まず測定対象の被測定液体について得た液温対応出力値Tから図22の検量線を用いて温度値を得る。得られた温度値をtとし、次に、図20の第1の検量線において、温度値tに対応する各検量線の液種対応第1電圧値V01(c1;t),V01(c2;t)を得る。
【0096】
そして、測定対象の被測定液体について得た液種対応第1電圧値V01(cx;t)のcxを、各検量線の液種対応第1電圧値V01(c1;t),V01(c2;t)を用いた比例演算を行って、決定する。すなわち、cxは、V01(cx;t),V01(c1;t),V01(c2;t)に基づき、以下の式(1)
cx=c1+
(c2−c1)[V01(cx;t)−V01(c1;t)]
/[V01(c2;t)−V01(c1;t)]・・・・(1)
から求める。
【0097】
同様にして、液種対応第2電圧値V02の測定に際しては、図21の第2の検量線において、以上のようにして被測定液体について得た温度値tに対応する各検量線の液種対応第2電圧値V02(c1;t),V02(c2;t)を得る。そして、被測定液体について得た液種対応第2電圧値V02(cy;t)のcyを、各検量線の液種対応第2電圧値V02(c1;t),V02(c2;t)を用いた比例演算を行って、決定する。
【0098】
すなわち、cyは、V01(cy;t),V01(c1;t),V01(c2;t)に基づき、以下の式(2)
cy=c1+
(c2−c1)[V02(cy;t)−V02(c1;t)]
/[V02(c2;t)−V02(c1;t)]・・・・(2)
から求める。
【0099】
なお、図20および図21の第1および第2の検量線として温度の代わりに液温対応出力値Tを用いたものを採用することで、図22の検量線の記憶およびこれを用いた換算を省略することもできる。
【0100】
以上のように、液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02のそれぞれについて、温度に応じて変化する所定範囲を設定することができる。上記のようにc1を27.5%とし、c2を37.5%とすることで、図20および図21のそれぞれにおける2つの検量線で囲まれた領域が、所定の液体(すなわち尿素濃度32.5%±5%の尿素水溶液)に対応するものとなる。
【0101】
図23は、液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02の組み合わせによる所定液体識別の判定基準が温度に応じて変化することを模式的に示すグラフである。温度がt1,t2,t3と上昇するにつれて、所定の液体と判別される領域AR(t1),AR(t2),AR(t3)が移動する。
【0102】
図24は、マイコン91での液種識別プロセスを示すフロー図である。
まず、ヒーター制御による発熱体62a4へのパルス電圧印加の前に、マイコン内にN=1を格納し(S1)、次いでセンサー出力をサンプリングし平均初期電圧値V1を得る(S2)。
【0103】
次に、ヒーター制御を実行し、発熱体62a4への電圧印加の開始から第1の時間経過時にセンサー出力をサンプリングし、平均第1電圧値V2を得る(S3)。
さらに、V2−V1の演算を行って、液種対応第1電圧値V01を得る(S4)。
【0104】
次に、発熱体62a4への電圧印加の開始から第2の時間経過時にセンサー出力をサンプリングし、平均第2電圧値V3を得る(S5)。次に、V3−V1の演算を行って、液種対応第2電圧値V02を得る(S6)。
【0105】
さらに、被測定液体について得た温度値tを参照して、液種対応第1電圧値V01が当該温度での所定範囲内にあり、かつ液種対応第2電圧値V02が当該温度での所定範囲内にあるという条件が満たされるか否かを判断する(S7)。
【0106】
S7において液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02のうちの少なくとも一方がそれぞれの所定範囲内にない(NO)と判断された場合には、上記格納値Nが3であるか否かを判断する(S8)。
【0107】
S8においてNが3ではない[すなわち現測定ルーチンが3回目ではない(具体的には1回目または2回目である)](NO)と判断された場合には、続いて格納値Nを1だけ増加させ(S9)、S2へと戻る。
【0108】
一方、S8においてNが3である[すなわち現測定ルーチンが3回目である](YES)と判断された場合には、被測定流体が所定のものではないと判定する(S10)。
また、S7において液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02の双方がそれぞれの所定範囲内にある(YES)と判断された場合には、被測定流体が所定のものであると判定する(S11)。
【0109】
本実施例においては、S11に続いて、尿素水溶液の尿素濃度を算出する(S12)。この濃度算出は、流体温度検知部64の出力すなわち被測定液体について得た温度値tと、液種対応第1電圧値V01と、図20の第1の検量線とに基づき、上記式(1)を用いて行うことができる。
【0110】
また濃度算出は、流体温度検知部64の出力すなわち被測定液体について得た温度値tと、液種対応第2電圧値V02と、図21の第2の検量線とに基づき、上記式(2)を用いて行うこともできる。
【0111】
以上のようにして液種の識別を正確、かつ迅速に行うことができる。この液種識別のルーチンは、自動車のエンジン始動時、または定期的、運転者または自動車(後述のECU)側からの要求時、自動車のキーOFF時等に、適宜実行することができ、所望の様式にて尿素タンク内の液体が所定の尿素濃度の尿素水溶液であるか否かを監視することができる。
【0112】
このようにして得られた液種を示す信号(所定のものであるか否か、さらに、は所定のもの[所定の尿素濃度の尿素水溶液]である場合の尿素濃度を示す信号)が不図示のD/A変換器を介して、図16に示される出力バッファ回路93へと出力され、ここから端子ピン、電源回路基板および防水配線を介して、アナログ出力として不図示の自動車エンジンの燃焼制御などを行うメインコンピュータ(ECU)へと出力される。
【0113】
液温対応のアナログ出力電圧値も同様な経路でメインコンピュータ(ECU)へと出力される。一方、液種を示す信号は、必要に応じてデジタル出力として取り出して、同様な経路で表示、警報その他の動作を行う機器へと入力することができる。
【0114】
さらに、流体温度検知部64から入力される液温対応出力値Tに基づき、尿素水溶液が
凍結する温度(−13℃程度)の近くまで温度低下したことが検知された場合に警告を発するようにすることができる。
【0115】
なお、以上の液種識別は、自然対流を利用しており、尿素水溶液等の被測定液体の動粘度とセンサー出力とが相関関係を有するという原理を利用している。このような液種識別の精度を高めるためには、流体識別検知部62および流体温度検知部64と被測定液体との間の熱伝達がなされる容器本体部の周囲の被測定液体にできるだけ外的要因に基づく強制流動が生じにくくするのが好ましく、この点からカバー部材98とくに上下方向の被測定液体導入路を形成するようにしたものの使用は好ましい。なお、カバー部材98は、異物の接触を防止する保護部材としても機能する。
【0116】
以上の実施例では、所定の流体として、所定の尿素濃度の尿素水溶液が用いられているが、本発明では、所定の液体は溶質として尿素以外を用いた水溶液その他の液体であってもよい。
【0117】
また、上記の実施例では、被識別流体として被測定液体を用いたが、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油などの炭化水素系液体、エタノール、メタノールなどのアルコール系液体、尿素水溶液液体、気体、粉粒体などの流体について、流体の物理的性質、例えば流体の熱的性質を利用して、被識別流体について、流体種識別、濃度識別、流体の有無識別、流体の温度識別、流量識別、流体の漏れ識別、流体レベル識別、アンモニア発生量などの識別を行うことができる。
【0118】
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、上記実施例では、図7に示したように、モールド樹脂により構成されるセンサー本体を形成したが、例えば、セラミック、金属で蓋をして内部を不活性ガスによって気密封止するようにしても良い。
【0119】
また上記実施例では、熱式センサーを製造するために適用した実施例を示しているが、流体識別を行うためのセンサー以外にも、各種センサー、半導体装置などの電子デバイスに用いることも可能である。
【0120】
また、上記実施例では、薄膜チップの上面に形成されたコーティング層について、図8に示したようなリードフレームのダイパッド部が完全にモールド樹脂で被覆された熱式センサーに適用して説明を行ったが、これに限定されるものではなく、図26に示したようなリードフレームのダイパッド部の一部が露出するようにモールド樹脂の一部が欠落して開口部が形成された熱式センサーに具備された薄膜チップにも適用可能であるなど、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、本発明の多数個取りのリードフレームにおける上面図である。
【図2】図2は、図1のリードフレームの部分拡大上面図である。
【図3】図3は、図1のリードフレームを用いた熱式センサーの製造工程を説明する工程概略図である。
【図4】図4は、図1のリードフレームを用いた熱式センサーの製造工程を説明する図1のリードフレームの部分拡大上面図である。
【図5】図5は、図4のリードフレームのA−A線による部分拡大断面図である。
【図6】図6は、図1のリードフレームを用いた熱式センサーの斜視図である。
【図7】図7は、図6の熱式センサーの縦断面図である。
【図8】図8は、図7の熱式センサーのB−B線による縦断面図である。
【図9】図9は、モールド工程を説明する概略図である。
【図10】図10は、薄膜チップに掛かる応力とコーティング層との関係を示した関係図である。
【図11】図11は、薄膜チップに掛かる応力の分布状態を示した応力分布図である。
【図12】図12は、本発明の熱式センサーを用いて被識別流体の識別試験を行った際の、試験前と試験後における薄膜チップ部分の状態を示した図である。
【図13】図13は、本発明の熱式センサーを流体識別装置に適用した実施例を示す分解斜視図である。
【図14】図14は、図13の一部省略断面図図である。
【図15】図15は、本発明の熱式センサーを適用した流体識別装置をタンクへの取り付けた状態を示す図である。
【図16】図16は、液種識別のための回路構成図である。
【図17】図17は、発熱体に印加される単一パルス電圧Pとセンサー出力Qとの関係を示す図である。
【図18】図18は、尿素濃度が所定範囲内の尿素水溶液で得られる液種対応第1電圧値V01の範囲内に、ある砂糖濃度範囲内の砂糖水溶液の液種対応第1電圧値が存在することを示す図である。
【図19】図19は、尿素水溶液および砂糖水溶液および水についての液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02を、尿素濃度30%の尿素水溶液を1.000とした相対値で示す図である。
【図20】図20は、第1の検量線の例を示す図である。
【図21】図21は、第2の検量線の例を示す図である。
【図22】図22は、液温対応出力値Tの一例を示す図である。
【図23】図23は、液種対応第1電圧値V01および液種対応第2電圧値V02の組み合わせによる所定液体識別の判定基準が、温度に応じて変化することを模式的に示すグラフである。
【図24】図24は、液種識別プロセスを示すフロー図である。
【図25】図25は、従来の熱式センサーの縦断面図である。
【図26】図26は、従来の熱式センサーのA−A線での縦断面図である。
【図27】図27は、従来のリードフレームを用いた熱式センサーの製造工程を説明する工程概略図である。
【符号の説明】
【0122】
1・・・リードフレーム体
2・・・リードフレーム
3・・・位置決め孔
4・・・外枠体
6・・・下側枠体
8・・・アウターリード
10・・・外部接続端子部
12・・・左側枠体
14・・・右側枠体
16・・・水平方向支持部
18・・・左側中央支持部
20・・・右側中央支持部
22・・・インナーリード
24・・・インナーリード先端部
24a・・電極部
26・・・左側吊りリード
28・・・右側吊りリード
30・・・左側中央吊りリード
32・・・右側中央吊りリード
34・・・ダイパッド部
36・・・支持突設部
38・・・接合材
40・・・薄膜チップ
40a・・電極
42・・・ボンディングワイヤー
44・・・モールド樹脂
46・・・コーティング層
50・・・熱式センサー
54・・・センサー本体
56・・・フランジ部
58・・・裏面突設部
60・・・検知部
62・・・流体識別検知部
62a2・感温体
62a4・発熱体
64・・・流体温度検知部
64a2・感温体
66・・・タンク
68・・・タンク開口部
70・・・流体識別装置
72・・・入口配管
74・・・出口配管
76・・・ポンプ
78・・・流体識別センサー部
80・・・支持部
82・・・取り付け部
86・・・スイッチ
88・・・抵抗体
90・・・抵抗体
91・・・マイコン
92・・・差動増幅器
93・・・出力バッファ回路
94・・・液温検知増幅器
96・・・被測定液体導入路
98・・・カバー部材
100・・・熱式センサー
101・・・接合材
102・・・モールド樹脂
104・・・センサー本体
106・・・フランジ部
108・・・裏面突設部
110・・・検知部
112・・・流体識別検知部
114・・・流体温度検知部
116・・・開口部
118・・・ダイパッド部
122・・・薄膜チップ
124・・・インナーリード
124a・・電極
126・・・外部接続端子部
128・・・アウターリード
130・・・ボンディングワイヤー
US・・・尿素水溶液
T・・・コーティング層の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品を実装するための電子部品実装部と、
前記電子部品実装部に実装された電子部品と、
前記電子部品に形成されたコーティング層と、
から構成されていることを特徴とする電子部品積層体。
【請求項2】
前記コーティング層が、前記電子部品の上面のみに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子部品積層体。
【請求項3】
前記コーティング層の厚さが、5μm〜50μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子部品積層体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電子部品積層体を具備することを特徴とするリードフレーム。
【請求項5】
前記リードフレームは、
アウターリード部とインナーリード部とを備えることを特徴とする請求項4に記載のリードフレーム。
【請求項6】
前記インナーリード部と、前記電子部品実装部に実装された電子部品積層体とが、電気的に接続されていることを特徴とする請求項5に記載のリードフレーム。
【請求項7】
前記インナーリード部と、前記電子部品実装部に実装された電子部品積層体とが、気密封止または樹脂封止されていることを特徴とする請求項5または6に記載のリードフレーム。
【請求項8】
請求項4から7のいずれかに記載のリードフレームを具備することを特徴とする電子デバイス。
【請求項9】
前記電子デバイスが、流体識別を行うためのセンサーであることを特徴とする請求項8に記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記流体識別が、
流体種識別、濃度識別、流体の有無識別、流体の温度識別、流量識別、流体の漏れ識別、流体レベル識別のうち、少なくとも一つの識別であることを特徴とする請求項9に記載の電子デバイス。
【請求項11】
電子部品を実装するための電子部品実装部に前記電子部品を実装する工程と、
前記電子部品にコーティング層を塗布形成する工程と、
を有することを特徴とする電子部品積層体の製造方法。
【請求項12】
前記コーティング層が、前記電子部品の上面のみに塗布形成されることを特徴とする請求項11に記載の電子部品積層体の製造方法。
【請求項13】
前記コーティング層の厚さが、5μm〜50μmの範囲内であることを特徴とする請求項11または12に記載の電子部品積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項11から13のいずれかに記載の製造方法によって製造された電子部品積層体を準備する工程と、
前記電子部品積層体をリードフレームの電子部品実装部に実装する工程と、
を有することを特徴とするリードフレームの製造方法。
【請求項15】
前記リードフレームが、
アウターリード部とインナーリード部とを備えていることを特徴とする請求項14に記載のリードフレームの製造方法。
【請求項16】
前記インナーリード部と、前記電子部品実装部に実装された電子部品積層体とを、電気的に接続する工程と、
を有することを特徴とする請求項15に記載のリードフレームの製造方法。
【請求項17】
前記インナーリード部と、前記電子部品実装部に実装された電子部品積層体とを、電気的に接続する工程の後に、
前記インナーリード部と電子部品実装部に実装された電子部品積層体とを気密封止または樹脂封止する工程と、
を有することを特徴とする請求項16に記載のリードフレームの製造方法。
【請求項18】
請求項14から17のいずれかに記載の製造方法によって製造されたリードフレームを準備する工程と、
前記リードフレームを電子デバイスの所定箇所に実装する工程と、
を有することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項19】
前記電子デバイスが、流体識別を行うためのセンサーであることを特徴とする請求項18に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項20】
前記流体識別が、
流体種識別、濃度識別、流体の有無識別、流体の温度識別、流量識別、流体の漏れ識別、流体レベル識別のうち、少なくとも一つの識別であることを特徴とする請求項19に記載の電子デバイスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−71080(P2009−71080A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238574(P2007−238574)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【出願人】(392023681)株式会社サンエー (14)
【Fターム(参考)】