説明

電子銃用のエミッタ製造方法

【課題】製造直後における電流密度の変動を低減することのできる電子銃用のエミッタ製造方法を提供する。
【解決手段】エミッタの構成材料として六硼化ランタンを準備し(S101)、次いで、六硼化ランタンにカーボンをコートする(S102)。次に、エミッタを機械加工し、カーボンの一部から六硼化ランタンを露出させる(S103)。その後、電子ビーム描画装置の実際の動作条件に近い温度および圧力で加熱処理を行う(S104)。加熱処理は、1×10−2Pa以下の圧力で1500K〜1900Kの温度で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子銃用のエミッタ製造方法に関し、例えば、電子ビーム描画装置に用いられる電子銃のエミッタ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅は益々狭くなっている。半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)を用い、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置でウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。こうした微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造には、微細パターンを描画可能な電子ビーム描画装置が用いられる。また、レーザビームを用いて描画するレーザビーム描画装置の開発も試みられている。尚、電子ビーム描画装置は、ウェハに直接パターン回路を描画する場合にも用いられる。
【0003】
電子ビームリソグラフィ技術は、利用する電子ビームが荷電粒子ビームであるために、本質的に優れた解像度を有している。このため、ウェハにLSIパターンを転写する際の原版となるマスクまたはレチクルの製造現場においても、電子ビームリソグラフィ技術が広く一般に使われている。さらに、電子ビームリソグラフィ技術を用いて、ウェハ上にパターンを直接描画する電子ビーム描画装置がDRAMを代表とする最先端デバイスの開発に適用されている他、一部ASICの生産にも用いられている。
【0004】
電子銃は、電子源であるカソードと、アース電極をもつアノードを備える。また、カソードは、電子を放出するエミッタと、カソードに印加する電圧よりも低い電位を与えられてカソードから出射される電子を収束させるウェネルトを有する。
【0005】
電子ビーム描画装置の描画動作時において、電子銃の周囲は高真空となる。この状態で、カソードとアノードの間に高電圧(加速電圧)を印加するとともにエミッタを加熱する。すると、エミッタから熱電子が出射し、この熱電子が加速電圧により加速されて電子ビームとして放出される。電子ビームは、電子ビーム描画装置内に設けられた各種レンズ、各種偏向器、ビーム成形用アパーチャ等により所要の形状に成形される。成形された電子ビームは、電子ビーム描画装置の下部に配置された試料室内の試料に照射され、これにより試料にパターンが描画される。
【0006】
エミッタを構成する材料としては、従来より六硼化ランタン(LaB)が知られている。この材料は、高い融点と低い仕事関数(2.68eV)を持ち、また、残留ガスに対して比較的安定で、長寿命でもあり、さらに優れたイオン衝撃性を有することから、電子ビーム描画装置だけでなく、電離真空計やオメガトロンのフィラメントなどの熱カソードにも使用されている。
【0007】
ところで、電子銃では、輝度を向上させるために、エミッタを構成する材料の表面をこの材料より仕事関数の大きい材料で被覆して、エミッタからの電子の放出面積を制限することが行われる。例えば、非特許文献1には、六硼化ランタン(LaB)をカーボン(C)で被覆することが記載されている。具体的な被覆方法としては、CVD(Chemichal Vapor Deposition)法によりカーボン(C)を六硼化ランタン(LaB)の表面に蒸着したり、この表面にカーボン(C)を含む液を塗布したり、あるいは、この液の中に六硼化ランタン(LaB)を浸漬したりすることが挙げられる。被覆後は、機械加工によってカーボン(C)の一部から六硼化ランタン(LaB)を露出させ、この部分を通じて電子が放出されるようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P.B.Sewell et.al(ピー・ビー・セウェルら)、「微細平面を有する六硼化ランタン単結晶における熱的エミッションの研究」、Electoron Optical Systems,pp.163−170、SEM Inc., AMF O’Hare (Chicago), IL60666−0507,U.S.A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記エミッタを用いたカソードを組み込んだ電子ビーム描画装置では、使用開始直後に電子銃から放出される電子ビームの電流密度に大きな変動が見られるという問題があった。図8は、この様子を示したものであり、横軸に時間を、縦軸に電流密度をとっている。図8から分かるように、電子ビームを出射した直後に電流密度は急激に減少する。このように電流密度の変動が大きい状態で描画を行うと、ドーズ量の変動を引き起こして描画精度を低下させる。このため、電子ビーム描画装置は、電流密度の変動が小さくなってからでないと運転できない。図8に示すように、時間の経過に伴って電流密度は次第に回復するが、回復までには数日以上を要する場合があり、装置のダウンタイムが大きくなることから改善が急務となっていた。
【0010】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、カソード組込み直後における電流密度の変動を低減することのできる電子銃用のエミッタ製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電子銃用のエミッタ製造方法であって、
電子放射特性を有する第1の材料を、この材料より仕事関数が大きく電子銃の動作温度で安定な第2の材料で被覆する工程と、
機械加工により第2の材料の一部から第1の材料を露出させる工程と、
機械加工後の第1の材料および第2の材料を、電子銃の動作温度から上下200℃の範囲で加熱処理する工程とを有することを特徴とするものである。
【0013】
第1の材料は、金属六硼化物またはタングステンであることが好ましい。
【0014】
金属六硼化物は、六硼化ランタン(LaB)、六硼化セリウム(CeB)、六硼化ガドリニウム(GdB)および六硼化イットリウム(YB)よりなる群から選ばれることが好ましい。
【0015】
第2の材料は、カーボン(C)であることが好ましい。
【0016】
電子銃は電子ビーム描画装置に用いられ、
加熱処理は、1×10−2Pa以下の圧力で1500K〜1900Kの温度で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機械加工後の第1の材料および第2の材料を、電子銃の動作温度から上下200℃の範囲で加熱処理するので、製造直後における電流密度の変動を低減することのできる電子銃用のエミッタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】機械加工後のエミッタの模式的断面図である。
【図2】電子ビーム描画装置を動作させた後のエミッタの模式的断面図である。
【図3】加熱処理をしたエミッタをカソードに用い、これを電子ビーム描画装置に組み込んで動作させたときの電流密度の経時変化である。
【図4】本実施の形態によるエミッタの製造方法を示すフローチャートである。
【図5】本実施の形態の電子ビーム描画装置における熱電子放射陰極型の電子銃の概略構成を示す図である。
【図6】本実施の形態の電子ビーム描画装置の構成図である。
【図7】本実施の形態における電子ビーム描画方法の説明図である。
【図8】従来法によるエミッタをカソードに用い、これを電子ビーム描画装置に組み込んで動作させたときの電流密度の経時変化である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
電子銃に用いられるエミッタの製造工程では、上記したように、例えば、六硼化ランタン(LaB)をカーボン(C)で被覆した後、機械加工によってカーボン(C)の一部から六硼化ランタン(LaB)を露出させることが行われる。機械加工には、機械研削または機械研磨などが用いられる。
【0020】
図1は、機械加工後のエミッタの模式的断面図である。機械加工を行うと、六硼化ランタン(LaB)層1とカーボン(C)層2には、これらの境界付近に脆弱な層3が生じると考えられる。ここで、脆弱な層3には、脆弱な六硼化ランタン(LaB)の層と、脆弱なカーボン(C)の層の両方がある。このようなエミッタをカソードに用い、電子ビーム描画装置の電子銃に組み込む。そして、電子ビーム描画装置を動作させてエミッタを加熱すると、脆弱な層3から蒸発または離脱が起こると考えられる。すると、図2に示すように、カーボン(c)層2から六硼化ランタン(LaB)層1が露出している面積、すなわち、エミッタからの電子放出面積が増大する。このため、エミッション電流が一定であれば、電子放出面積が増えることによって電流密度が低下する結果となる。
【0021】
尚、脆弱な層3の詳細については必ずしも明らかでないが、例えば、下記のようなことが考えられる。
六硼化ランタン(LaB)は、6つの硼素が各頂点に位置した八面体が三次元的に連なった構造において、硼素(B)原子間の大きな隙間にランタン(La)原子が占める結晶構造をとる。機械加工時の作用によって六硼化ランタン(LaB)の結晶構造が部分的に崩れると、この部分が脆弱になることが考えられる。また、結晶構造が崩れた部分では、ランタン(La)原子と炭素(C)原子とが反応しやすくなることが予想され、その結果、脆弱な部分を形成することも考えられる。
【0022】
そこで、本実施の形態においては、機械加工後に真空中でエミッタを加熱処理する。エミッタを構成する材料として六硼化ランタン(LaB)を用い、この表面をカーボン(C)で被覆した場合、例えば、2×10−5Paの圧力下、1700K程度の温度で熱処理することができる。
【0023】
図3に、加熱処理をしたエミッタをカソードに用い、これを電子ビーム描画装置に組み込んで動作させたときの電流密度の経時変化を示す。図8では、電子ビームを出射した直後に電流密度が急激に減少していたのに対し、図3ではこうした電流密度の減少が見られない。このことは、本実施の形態の加熱処理によってエミッタの脆弱な部分が消失し、電子ビーム描画装置の動作中においてエミッタからの電子放出面積が大きく変動しなくなったためと言える。つまり、図8の例では、電子ビーム描画装置を動作させることにより、エミッタが加熱され、この段階で脆弱な部分が蒸発または離脱するために、カーボン(c)から六硼化ランタン(LaB)が露出している面積が増加する。すなわち、エミッタからの電子放出面積が装置の動作中に大きく変動して、電子銃から放出される電子ビームの電流密度に変動を生じる。一方、本実施の形態の加熱処理を行うと、電子ビーム描画装置にカソードを組み込む前の段階でエミッタの脆弱な部分が除去されるので、装置の動作段階で電子放出面積が大きく変動することはない。したがって、電子ビームの電流密度に急激な変動が生じないようにすることができる。それ故、電子ビーム描画装置のダウンタイムを従来に比べて大幅に短縮することができる。
【0024】
図4は、本実施の形態によるエミッタの製造方法を示すフローチャートである。
【0025】
図4に示すように、まず、エミッタの構成材料として六硼化ランタン(LaB)を準備し(S101)、次いで、六硼化ランタン(LaB)にカーボン(C)をコートする(S102)。例えば、CVD(Chemichal Vapor Deposition)法によりカーボン(C)を六硼化ランタン(LaB)の表面に形成したり、この表面にカーボン(C)を含む液を塗布したり、または、この液の中に六硼化ランタン(LaB)を浸漬したりする。
【0026】
次に、機械研削または機械研磨などによってエミッタを機械加工し、カーボン(C)の一部から六硼化ランタン(LaB)を露出させる(S103)。
【0027】
その後、本発明の特徴である加熱処理を行う(S104)。加熱は、電子ビーム描画装置の実際の動作条件に近い温度で行う。具体的には、電子銃の動作温度から上下200℃の範囲で加熱処理する。加熱温度が低すぎると、機械加工後に生じた脆弱な部分を十分に除去することができない。一方、加熱温度が高すぎると、六硼化ランタン(LaB)の結晶性が損なわれて電子放出特性が低下する。したがって、少なくとも六硼化ランタン(LaB)の融点より低い温度で加熱する。尚、加熱時の圧力を高くすると加熱時間を短くすることができるが、電子ビーム描画装置の実際の動作条件に近い圧力で行うことが好ましい。電子ビームによる描画は、例えば、1×10−5Pa〜1×10−4Paの圧力で1750K程度の温度で行われることから、加熱処理も同様の条件で行うことが好ましい。具体的には、1×10−2Pa以下の圧力で1500K〜1900Kの温度で加熱処理することが好ましい。
【0028】
本実施の形態においては、エミッタを構成する材料として六硼化ランタン(LaB)以外のものを用いることができ、その場合、加熱処理の条件が適宜変わることは言うまでもない。エミッタの構成材料には、高い電気伝導、高温における機械的強度と化学的安定性が求められる。ここで、高温における機械的強度と化学的安定性は、高い融点を有することによって実現可能である。尚、高い融点とは、具体的には、電子ビーム描画装置の動作温度より高い融点を言う。こうした特性を満たし、さらに六硼化ランタン(LaB)と同程度に低い仕事関数を有する材料としては、六硼化セリウム(CeB)、六硼化ガドリニウム(GdB)、六硼化イットリウム(YB)などの金属六硼化物が挙げられる。また、タングステン(W)などをエミッタの構成材料として用いることも可能である。タングステン(W)は、六硼化ランタン(LaB)や六硼化セリウム(CeB)に比べて融点が高いので、例えば、2000K程度の温度で加熱処理することも可能である。
【0029】
一方、六硼化ランタン(LaB)などの電子を放出する材料は、カーボン(C)以外の材料によって被覆されてもよい。但し、電子ビーム描画装置の動作時において機械的にも化学的にも安定であって、六硼化ランタン(LaB)などの電子を放出する材料に比べて仕事関数の大きいもの、例えば、1.5〜2倍程度の大きさの仕事関数を有する材料を用いる。
【0030】
図4で加熱処理を終えた後は、このエミッタを用いて公知の方法によりカソードを製造する(S105)。さらに、このカソードを用いて電子銃を製造し、得られた電子銃を組込んで用いて電子ビーム描画装置を製造することができる(S106)。S106の電子銃および電子ビーム描画装置の製造方法には、それぞれ公知の方法が適用できる。
【0031】
図5は、本実施の形態の電子ビーム描画装置における熱電子放射陰極型の電子銃の概略構成を示す図である。この図に示すように、電子銃は、電子源であるカソード101と、アース電極をもつアノード106とを備える。また、カソード101は、電子を放出するエミッタ104と、カソード101に印加する電圧よりも低い電位を与えられてカソード101から出射される電子を収束させるウェネルト105と、支持電極107、108を支持するベース112とを有する。ウェネルト105はエミッタ104から射出される電子ビームが通過する開口部分を具備し、この開口部分は電子ビームを収束させるのに適当なように径が選択されている。そして、エミッタ104は、支持電極107と支持電極108に支持され、ヒータ109およびヒータ110によって加熱可能な構成となっている。
【0032】
電子ビーム描画装置の描画動作時において、電子銃の周囲は高真空となる。この状態で、カソード101とアノード106の間に、例えば50kV程度の高電圧(加速電圧)を加速電源111を用いて印加する。また、加熱電源103を用いて支持電極107、108の間に加熱電圧を印加することにより、ヒータ109、110を通電加熱してエミッタ104を加熱する。すると、エミッタ104から熱電子が出射し、この熱電子が加速電圧により加速されて電子ビームとして放出される。電子ビームは、後述するように、電子ビーム描画装置内に設けられた各種レンズ、各種偏向器、ビーム成形用アパーチャ等により所要の形状に成形される。成形された電子ビームは、電子ビーム描画装置の下部に配置された試料室内の試料に照射され、これにより試料にパターンが描画される。
【0033】
このとき、アノード106は上述のように接地されているので、エミッタ104には支持電極107、108を介して負の高電圧が印加されていることになる。そして、ウェネルト105の電位は、バイアス電源102の作用によりカソード電位よりもさらに100V〜1000V程度低い。これにより、エミッタ104から放出される電子ビームが制限されると同時に、収束作用を有するレンズとして動作し、ウェネルト105の開口部分を通過する電子ビームにおいては、焦点、すなわち、クロスオーバが形成される。
【0034】
尚、描画動作時の加熱によりエミッタ104の構成材料は徐々に蒸発し、これに伴って電子ビームの電流密度も徐々に変化する。図3で電流密度が徐々に増加しているのはこのためである。しかし、このような電流密度の変化はある程度予測可能であり、公知の補正処理によって描画精度の低下を防ぐことができる。
【0035】
次に、本実施の形態の電子銃を用いた電子ビーム描画装置について説明する。
【0036】
図6は、本実施の形態の電子ビーム描画装置の構成図である。この図において、電子ビーム描画装置30の試料室31内には、試料であるマスク基板32が設置されたステージ33が設けられている。ステージ33は、ステージ駆動回路34によりX方向(紙面における左右方向)とY方向(紙面における垂直方向)に駆動される。ステージ33の移動位置は、レーザ測長計等を用いた位置回路35により測定される。
【0037】
試料室31の上方には、電子ビーム光学系40が設置されている。この光学系40は、本実施の形態の方法により製造されたエミッタを用いた電子銃100、各種レンズ37、38、39、41、42、ブランキング用偏向器43、成形偏向器44、ビーム走査用の主偏向器45、ビーム走査用の副偏向器46、および、2個のビーム成形用アパーチャ47、48等から構成されている。
【0038】
電子銃100では、カソードを構成するエミッタの製造工程において、機械加工後に加熱処理を行っている。このため、電子銃100にカソードを組み込む前の段階でエミッタの脆弱な部分が除去されている。したがって、電子ビーム描画装置30の動作段階で、エミッタから放出される電子の放出面積が大きく変動することはない。したがって、電子ビーム84の電流密度に急激な変動が生じないようにすることができ、電子ビーム描画装置30のダウンタイムを従来に比べて大幅に短縮することができる。
【0039】
図7は、本実施の形態における電子ビーム描画方法の説明図である。この描画方法は、本実施の形態の電子ビーム描画装置30を使用することにより実現される。すなわち、図7に示す電子ビーム84は、本実施の形態の電子ビーム描画装置30の電子銃100によって放出された電子ビームである。
【0040】
図7に示すように、マスク基板32上に描画されるパターン81は、短冊状のフレーム領域82に分割されている。電子ビーム描画装置30の電子銃100によって放出される電子ビーム84による描画は、ステージ33が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、フレーム領域82毎に行われる。フレーム領域82は、さらに副偏向領域83に分割されており、電子ビーム84は、副偏向領域83内の必要な部分のみを描画する。尚、フレーム領域82は、主偏向器45の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、副偏向領域83は、副偏向器46の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0041】
副偏向領域83内での電子ビーム84の位置決めは、副偏向器46で行われる。副偏向領域83の位置制御は、主偏向器45によってなされる。すなわち、主偏向器45によって、副偏向領域83の位置決めがされ、副偏向器46によって、副偏向領域83内でのビーム位置が決められる。さらに、成形偏向器44とビーム成形用アパーチャ47、48によって、電子ビーム84の形状と寸法が決められる。そして、ステージ33を一方向に連続移動させながら、副偏向領域83内を描画し、1つの副偏向領域83の描画が終了したら、次の副偏向領域83を描画する。フレーム領域82内の全ての副偏向領域83の描画が終了したら、ステージ33を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、フレーム領域82を順次描画して行く。
【0042】
電子ビームによる描画を行う際には、まず、CADシステムを用いて設計された半導体集積回路などのパターンデータ(CADデータ)が、電子ビーム描画装置30に入力することのできる形式のデータ(レイアウトデータ)に変換される。次いで、レイアウトデータが変換されて描画データが作成された後、描画データは実際に電子ビーム84がショットされるサイズに分割された後、ショットサイズ毎に描画が行われる。
【0043】
レイアウトデータから変換された描画データは、記憶媒体である入力部51に記録された後、制御計算機50によって読み出され、フレーム領域82毎にパターンメモリ52に一時的に格納される。パターンメモリ52に格納されたフレーム領域82毎のパターンデータ、すなわち、描画位置や描画図形データ等で構成されるフレーム情報は、データ解析部であるパターンデータデコーダ53と描画データデコーダ54に送られる。次いで、これらを介して、副偏向領域偏向量算出部60、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57、副偏向器ドライバ58に送られる。
【0044】
また、制御計算機50には、偏向制御部62が接続している。偏向制御部62は、セトリング時間決定部61に接続し、セトリング時間決定部61は、副偏向領域偏向量算出部60に接続し、副偏向領域偏向量算出部60は、パターンデータデコーダ53に接続している。また、偏向制御部62は、ブランキング回路55と、ビーム成形器ドライバ56と、主偏向器ドライバ57と、副偏向器ドライバ58とに接続している。
【0045】
パターンデータデコーダ53からの情報は、ブランキング回路55とビーム成形器ドライバ56に送られる。具体的には、パターンデータデコーダ53で描画データに基づいてブランキングデータが作成され、ブランキング回路55に送られる。また、描画データに基づいて所望とするビーム寸法データも作成されて、副偏向領域偏向量算出部60とビーム成形器ドライバ56に送られる。そして、ビーム成形器ドライバ56から、電子ビーム光学系40の成形偏向器44に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム84の形状と寸法が制御される。
【0046】
副偏向領域偏向量算出部60は、パターンデータデコーダ53で作成したビーム形状データから、副偏向領域83における、1ショット毎の電子ビームの偏向量(移動距離)を算出する。算出された情報は、セトリング時間決定部61に送られ、副偏向による移動距離に対応したセトリング時間が決定される。
【0047】
セトリング時間決定部61で決定されたセトリング時間は、偏向制御部62へ送られた後、パターンの描画のタイミングを計りながら、偏向制御部62より、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57、副偏向器ドライバ58のいずれかに適宜送られる。
【0048】
描画データデコーダ54では、描画データに基づいて副偏向領域83の位置決めデータが作成され、このデータは、主偏向器ドライバ57と副偏向器ドライバ58に送られる。そして、主偏向器ドライバ57から、電子光学系40の主偏向器45に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム84が所定の主偏向位置に偏向走査される。また、副偏向器ドライバ58から、副偏向器46に所定の副偏向信号が印加されて、副偏向領域83内での描画が行われる。この描画は、具体的には、設定されたセトリング時間が経過した後、電子ビーム84を繰り返し照射することによって行われる。
【0049】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0050】
また、本実施の形態によって製造されたエミッタの適用例は、電子ビーム描画装置の電子銃に限られるものではなく、電子顕微鏡なども好適である。
【符号の説明】
【0051】
1 六硼化ランタン層
2 カーボン層
3 脆弱な層
100 電子銃
101 カソード
102 バイアス電源
103 加熱電源
104 エミッタ
105 ウェネルト
106 アノード
107、108 支持電極
109、110 ヒータ
111 加速電源
84 電子ビーム
30 電子ビーム描画装置
31 試料室
32 マスク基板
33 ステージ
34 ステージ駆動回路
35 位置回路
37、38、39、41、42 各種レンズ
40 光学系
43 ブランキング用偏向器
44 成形偏向器
45 主偏向器
46 副偏向器
47 第1のアパーチャ
48 第2のアパーチャ
50 制御計算機
51 入力部
52 パターンメモリ
53 パターンデータデコーダ
54 描画データデコーダ
55 ブランキング回路
56 ビーム成形器ドライバ
57 主偏向器ドライバ
58 副偏向器ドライバ
60 副偏向領域偏向量算出部
61 セトリング時間決定部
62 偏向制御部
81 描画されるパターン
82 フレーム領域
83 副偏向領域



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子銃用のエミッタ製造方法であって、
電子放射特性を有する第1の材料を、この材料より仕事関数が大きく前記電子銃の動作温度で安定な第2の材料で被覆する工程と、
機械加工により前記第2の材料の一部から前記第1の材料を露出させる工程と、
前記機械加工後の前記第1の材料および前記第2の材料を、前記電子銃の動作温度から上下200℃の範囲で加熱処理する工程とを有することを特徴とするエミッタ製造方法。
【請求項2】
前記第1の材料は、金属六硼化物またはタングステンであることを特徴とする請求項1に記載のエミッタ製造方法。
【請求項3】
前記金属六硼化物は、六硼化ランタン(LaB)、六硼化セリウム(CeB)、六硼化ガドリニウム(GdB)および六硼化イットリウム(YB)よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項2に記載のエミッタ製造方法。
【請求項4】
前記第2の材料は、カーボン(C)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエミッタ製造方法。
【請求項5】
前記電子銃は電子ビーム描画装置に用いられ、
前記加熱処理は、1×10−2Pa以下の圧力で1500K〜1900Kの温度で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエミッタ製造方法。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−65899(P2011−65899A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216292(P2009−216292)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「マスク設計・描画・検査総合最適化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】