説明

電子鍵盤楽器

【課題】消音タイミングを、バックチェック作用状況を考慮した自然なものに近づける。
【解決手段】レスト位置からエンド位置までの移動領域を複数に分け、光学センサの検出信号に基づきハンマ体HMが各領域の境界を往方向、復方向のいずれの方向に通過したかを判断することによってstatus(ST)を定める。statusが切り替わってST=10となった場合は、現在発音している同一ノートの全てを消音する。位置KH5と位置KH4との間の第1の領域RA、位置KH4と位置KH3との間の第2の領域RBをそれぞれ通過するのに要した時間を所要時間TA、TBとする。ST=8となった場合に、TA>tAで且つTB<tBが成立する場合は、現在発音している同一ノートの全てを消音する。これにより、消音位置が、予め設定した位置KH1よりもエンド位置に近い側のKH3位置に設定変更される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量体の位置情報を用いて発音制御を行う電子鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクション機構を使用した電子鍵盤楽器においては、鍵の位置情報を用いて楽音制御するものがあるが、よりリアルな楽音制御を行うために、質量体(ハンマ)の位置情報を用いるものも知られている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1の楽器では、バックチェックの開始及び終了位置も含め、ハンマの位置を連続的に把握し、制御に反映させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4254891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の楽器では、バックチェックがかかることを前提とした制御を開示し、また、バックチェックと消音のタイミングについては明確でない。
【0006】
一般に、バックチェックは常に作用するものではなく、押鍵強さや離鍵強さ(速さ)によっても、作用・非作用の違いや作用の程度にも違いが見られる。そのため、一律な制御では、適切な消音が行えない場合がある。特に不適切なタイミングで消音が行われる場合がある。
【0007】
例えば、メゾフォルテやメゾピアノ等の中程度の押鍵速度で離鍵が遅い場合のように、バックチェックがしっかりと作用する場合は、ハンマの戻りが遅めとなることがある。その場合に一律の消音位置で消音制御すると、奏者によっては消音が遅れるような感覚を持ち、アコースティックピアノと比較して違和感を覚える場合があり得る。従って、より繊細な楽音制御をする上で、特にバックチェックの作用状況に応じた消音制御については改善の余地がある。
【0008】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、消音タイミングを、バックチェック作用状況を考慮した自然なものに近づけることができる電子鍵盤楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の電子鍵盤楽器は、押離操作される鍵と、前記鍵に対応して設けられ、対応する鍵の押鍵操作によって駆動され、レスト位置とエンド位置との間の移動領域を回動移動する質量体(HM)と、エンド位置からレスト位置に移動する前記質量体をバックチェックするためのバックチェック手段(34、44)と、前記質量体の位置を検出する位置検出手段(41)と、押鍵操作に応じて楽音を発音するよう制御する制御手段(11)とを有し、前記制御手段は、前記位置検出手段により検出された位置に基づいて、前記質量体がエンド位置からレスト位置に移動する際において、設定した消音位置(KH1)を通過したときに、当該質量体に対応する鍵について発生している楽音を消音するよう制御すると共に、前記質量体がエンド位置からレスト位置に移動する際において、前記移動領域のうちの第1の領域を通過するのに要した時間と、移動領域のうちの前記第1の領域(RA)よりもレスト位置に近い位置にある第2の領域(RB)を通過するのに要した時間とに基づいて、前記消音位置の設定を変更することを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記第2の領域は、前記第1の領域よりもレスト位置に近い位置で、且つ前記第1の領域に隣接する領域である。
【0011】
好ましくは、前記制御手段は、前記質量体がエンド位置からレスト位置に移動する際において、前記第1の領域を通過するのに要した時間と前記第2の領域を通過するのに要した時間とに基づいて、消音の時期を早めるように前記消音位置の設定を変更する。
【0012】
好ましくは、前記制御手段は、前記質量体がエンド位置からレスト位置に移動する際において、前記第1の領域を通過するのに要した時間(TA)が第1の所定値(tA)より長く、且つ、前記第2の領域を通過するのに要した時間(TB)が第2の所定値(tB)より短い場合に、前記消音位置を前記エンド位置に近い側の位置(KH3)に変更する。
【0013】
好ましくは、前記質量体は、前記第1の領域の少なくとも一部の領域において、前記バックチェック手段によってバックチェックされ得る。
【0014】
好ましくは、前記制御手段は、レスト位置とエンド位置との間の前記移動領域を複数の領域に分け、前記位置検出手段により検出された位置に基づいて、前記質量体が前記複数の各領域の境界を、エンド位置からレスト位置に向かう方向またはレスト位置からエンド位置に向かう方向のいずれの方向に通過したかを判断することによって、前記質量体の移動方向及び現在位置を把握する。
【0015】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1によれば、消音タイミングを、バックチェック作用状況を考慮した自然なものに近づけることができる。
【0017】
請求項4によれば、質量体の戻りが遅くなるような状況において消音タイミングを適切に補正することができる。
【0018】
請求項5によれば、バックチェックの作用により質量体の戻りが遅くなるような状況において消音タイミングを適切に補正することができる。
【0019】
請求項6によれば、連打のように、質量体の移動方向が途中で変化する状況にも対応でき、適切な消音制御を行うことができる。
【0020】
ここで、「消音タイミングを適切に補正する」とは、例えば、質量体の実動にまかせて消音制御することによる歯切れの悪さを解消することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電子鍵盤楽器の後部(鍵盤構造部分の要部)の縦断面図である。
【図2】電子鍵盤楽器の全体構成を示すブロック図である。
【図3】ハンマ体の移動領域とステータスとの関係を示す概念図である。
【図4】消音処理のフローチャートである。
【図5】ハンマ体のバットの下部後部の背面図(図(a))、側面図(図(b))、センサ部材の斜視図(図(c))である。
【図6】センサ部材の上面図(図(a))、図6(a)のA部の拡大図(図(b))、図6(a)のA−A線に沿う断面図(図(c))、センサ部材の前面図(図(d))である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電子鍵盤楽器の後部(鍵盤構造部分の要部)の縦断面図である。図1では特に、1つの鍵24とそれに対応するアクション機構ACTを示している。
【0024】
この電子鍵盤楽器においては、白鍵及び黒鍵である鍵24が複数並列に配列される。各鍵24は各々、不図示の鍵支点を中心に図1の時計及び反時計方向に揺動自在に配設される。図1の右側が奏者側であって前方、左側が後方である。鍵24は図に現れていない前部が押離操作される。鍵24の後端部の上方に、各鍵24に対応してアクション機構ACTが設けられる。
【0025】
アクション機構ACTは、主にウィッペン42、ハンマアセンブリであり質量体であるハンマ体HM、及びジャック43を備える。ウィッペン42は、対応する鍵24によって突き上げ駆動される。ウィッペン42には、ジャックフレンジを介してジャック43が図1の時計及び反時計方向に回動自在に軸支される。
【0026】
ウィッペン42の前端部(自由端部)には、バックチェックワイヤ(BC棒)46が前方に傾斜して植設されている。バックチェックワイヤ46の上端にはハンマ体HMのキャッチャ34を弾性的に受け止めるバックチェック44が配設されている。キャッチャ34及びバックチェック44がバックチェック手段を構成している。
【0027】
ハンマ体HMは、主にバット30及びハンマシャンク31を備える。バット30が、ハンマ回動軸36を中心に図1の時計及び反時計方向に回動自在に配設されている。ハンマ体HMは、図1に示す非押鍵状態において、その自重によって全体として図1の時計方向に付勢されている。
【0028】
非押鍵状態においては、鍵24の後端部が鍵ストッパ48に当接して鍵24の初期位置が規定され、キャプスタン部47にウィッペン42が当接することで、ウィッペン42の初期位置が規定される。また、ハンマ体HMの初期位置は、後方延設部37がストッパ49に当接することで規定される。さらに、初期位置では、ハンマ体HMの被打部33がジャック43の上端部にも当接するよう、バネ51によりジャック43が反時計方向に付勢されている。
【0029】
また、センサユニット40が本楽器に対して取り付け部材52を介して固定的に配設されている。センサユニット40内のセンサ基板55に光学センサ41が設けられる。光学センサ41は鍵24毎に設けられる。一方、ハンマ体HMのバット30の下部後部には、センサ部材60が配設されている。センサ部材60における光学センサ41に対向する部分には、反射面35が設けられる。反射面35には、不図示のグレースケールが形成される。このグレースケールは、白地の面に、上方に凸の二等辺三角形を有する黒色部が複数並列に形成されてなる(図2の概略表示参照)。センサ部材60の構成の詳細は図5、図6で後述する。
【0030】
光学センサ41は、反射面35での反射光量に応じた信号を出力する。鍵24の押鍵操作によって駆動されて、対応するハンマ体HMが初期位置から図1の反時計方向に回動するにつれて、反射面35での反射光量が連続的に変化し、増加または減少していくように、図2に示すようなパターンが反射面35に配設される。従って、光学センサ41は、反射光量によりハンマ体HMの回動位置を連続的に検出する。光学センサ41による位置検出はリニアな特性を有している。なお、ハンマ体HMの位置を検出できるセンサであればよく、光学的センサ以外の検出機構(例えば、磁気パターン検出器等)を採用してもよい。
【0031】
また、ハンマ体HM用の上限ストッパ45が、取り付け部材52の上部屈曲部53及び上部屈曲部53に固定される取り付け片54を介して本楽器に対して固定的に配設されている。ハンマ体HMは、バット30の当接部32が上限ストッパ45に当接することで、押鍵方向に対応する回動方向における限界位置が規定される。ところで、鍵24の押鍵方向の限界位置は、鍵24の前部の下方に設けられる不図示の押鍵ストッパに鍵24の前部が当接することで規定される。
【0032】
しかし、ピアニシモまたはピアニッシシモ以上に強い打鍵では、当接部32と上限ストッパ45との当接後にハンマ体HMは若干戻り方向に戻されて、押鍵を持続している状態では、キャッチャ34がバックチェック44に受け止められてバックチェック状態となり、その状態が維持される。なお、早いパッセージ打法または弱打の連打中では、当接部32と上限ストッパ45とが当接しない場合もあり得る。そして、当接もせずバックチェックもされないまま図1に示す初期状態に戻ることもある。
【0033】
回動方向の呼称については次のように定める。鍵24、ハンマ体HMのいずれも、非押鍵状態における位置(図1)が初期位置となり、押鍵の往行程において初期位置から回動していく方向が往方向の回動となる。そして、初期位置に復帰していく方向が復方向の回動となる。
【0034】
ここで、図1に示す初期状態における鍵24及びハンマ体HMの位置を「レスト位置」と呼称する。レスト位置は、鍵24の非押鍵状態における鍵24及びハンマ体HM各々の位置である。また、鍵24及びハンマ体HMについて、往方向の回動終了位置を「エンド位置」と呼称する。すなわち、ハンマ体HMのエンド位置は、バット30の当接部32が上限ストッパ45に当接した時のハンマ体HM位置であり、ハンマ体HMの往方向の回動限界位置(ハンマ体HMが往方向に最も大きく回動したときの位置)である。
【0035】
上記のような構造からなるアクション機構ACTの動作について説明する。非押鍵状態から鍵24が押下操作されると、後端部のキャプスタン部47がウィッペン42を突き上げる。すると、ジャック43が上昇してバット30の被打部33が突き上げられ、ハンマ回動軸36を中心にハンマ体HMが往方向(反時計方向)に回動していく。
【0036】
やがて、ジャック43が時計方向に回動して上端部がバット30の被打部33から逃げて脱進となる。通常押鍵(中押鍵)または強押鍵の場合は、脱進後、ハンマ体HMは自由に回動していき、当接部32が上限ストッパ45に当接して跳ね返る。ただし、一定以上に弱い弱押鍵の場合は、ハンマ体HMは上限ストッパ45に当接しない。
【0037】
脱進後、ハンマ体HMが復方向に回動すると、ハンマ体HMのキャッチャ34がバックチェック44に弾性的に受け止められてバックチェック状態となり、押鍵状態が維持される限りはアクション機構ACTの全体がその姿勢で安定する。
【0038】
押鍵から離鍵までの動作の態様は様々であり、押鍵、離鍵の速さによってもハンマ体HMの挙動は相違する。ハンマ体HMがバックチェック状態とならないでレスト位置に復帰する場合もある。また、バックチェック状態といっても、キャッチャ34がバックチェック44に対して接触はするが静止するまでに至らず、滑るようにして直ぐにハンマ体HMがレスト位置に復帰する場合もある。
【0039】
バックチェックの状況によって、その後のハンマ体HMの復帰速さが変わる。通常、楽音の消音は、ハンマ体HMが規定の位置まで復帰したタイミングで行うため、ハンマ体HMの復帰速さが影響を受けると、特に消音タイミングに影響を及ぼすことになる。そこで本実施の形態では、後述するように、消音タイミングについて、バックチェックの状況を考慮して切り替えるようにしている。
【0040】
図2は、電子鍵盤楽器の全体構成を示すブロック図である。
【0041】
本楽器は、ROM17、RAM18、タイマ19、操作部20、記憶部21、各種インターフェイス(I/F)22、A/D変換部23、表示部12、音源回路13及び効果回路14が、バス16を介してCPU11にそれぞれ接続されて構成される。CPU11にはタイマ19が接続され、音源回路13には効果回路14を介してサウンドシステム15が接続されている。
【0042】
光学センサ41からのアナログの信号は、A/D変換部23でデジタルの検出信号に変換されて、CPU11に供給される。CPU11は、本楽器全体の制御を司る。ROM17は、CPU11が実行する制御プログラムや各種テーブルデータ等を記憶する。RAM18は、演奏データ、各種フラグやバッファデータ及び演算結果等を一時的に記憶する。タイマ19は、タイマ割り込み処理における割り込み時間や各種時間を計時する。記憶部21は、上記制御プログラムを含む各種アプリケーションプログラムや各種楽曲データ、各種データ等を記憶する。
【0043】
音源回路13は、A/D変換部23からの検出信号に基づく演奏データや予め設定された演奏データ等を楽音信号に変換する。効果回路14は、音源回路13から入力される楽音信号に各種効果を付与し、サウンドシステム15は、効果回路14から入力される楽音信号等を音響に変換する。
【0044】
図3は、ハンマ体HMの移動領域とステータスとの関係を示す概念図である。
【0045】
本実施の形態では、鍵24ではなくハンマ体HMの位置を光学センサ41で検出し、その検出結果に基づいて、各鍵24毎に楽音の発音及び消音の制御を行う。図3に示す概念は全ハンマ体HMについて共通である。図3において、上方向が往方向に対応する。
【0046】
まず、ハンマ体HMが回動移動する移動領域は、レスト位置(REST)からエンド位置(END)までのストロークである。この移動領域を複数の領域(6つ)に分ける。各領域の境界である位置KHは、レスト位置に近い方(浅い方、すなわち図の下方)から順に、位置KH1、KH2・・・KH5となっている。そして、CPU11が、光学センサ41の検出信号の変化に基づいて、ハンマ体HMが各領域の境界を往方向、復方向のいずれの方向に通過したかを判断することによって、ハンマ体HMの現在の状態を規定するステータス(status)を定める。statusは番号で示すように、「0」から「10」まで設定される。statusを「ST」とも記す。
【0047】
例えば、非押鍵状態から僅かに押鍵すると、まずはstatus0となり、さらに押鍵往方向に位置KH1を横切るとstatus1となる。status1のときに往方向に位置KH2を横切るとstatus2になるが、逆にstatus1のときに復方向に位置KH1を横切るとstatus0ではなくstatus10になる。従って、status0〜status5は、各位置KHを往方向に横切ったときに移行する状態であり、status6〜status10は、各位置KHを復方向に横切ったときに移行する状態である。statusの情報はRAM18に記憶され逐次更新される。
【0048】
本実施の形態では、基本的には、ハンマ体HMが発音位置(例えば、位置KH5に設定されている)を往方向に通過したときに、対応する鍵24の音高の楽音の発音が開始される。そして、ハンマ体HMが、予め設定してある消音位置である位置KH1を復方向に通過したときに、発音されている楽音が消音(止音)される。ただし、所定の条件(図4のステップS108でYES)を満たす場合は、消音位置を位置KH1から位置KH3に切り替える。
【0049】
消音とは、発生楽音のリリースの開始に相当する。位置KH5は、例えば、全ストロークの浅い側から95%の距離の位置であり、位置KH1、位置KH3は、それぞれ45%、60%の距離の位置に設定されている。ただしこれは例示であり、機種によっても異なるし、可変に構成してもよい。
【0050】
図4は、消音処理のフローチャートである。
【0051】
この消音処理は、通常の演奏のための処理、すなわちリアルタイム演奏処理の一部としてCPU11により実行される。リアルタイム演奏処理のうち、発音処理については別途実行される。すなわち、押鍵された鍵24に対応するキーコード(音高情報)、ベロシティ(音量情報)、及びノートオンの動作がハンマ体HMを介して光学センサ41により検出され、その検出信号が音源回路13に送信され、そのとき指定されている音色の楽音が再生される。図4の消音処理は、上記の発音処理と並行して鍵24毎に実行される。
【0052】
まず、ステップS101では、ステータスST=0であるか(status0か)否かを判別する。次に、ステータスが切り替わったか否かを判別し(ステップS102)、切り替わったらその切り替わった時刻を取得する(ステップS103)。この時刻は、各ステータスが継続する時間を計測するために用いられる。計測にあたっては、タイマ19とCPU11とが連携して、図示しないタイマインタラプト処理にて計測処理される。
【0053】
次に、ステップS104では、切り替わり後のステータスSTの値nによって、処理を分岐させる。まず、ST=8、10以外の値である場合は、処理を前記ステップS102に戻す。すなわち消音処理を行わない。また、ST=10である場合は、今回、予め設定した消音位置である位置KH1を復方向に通過したので、ステップS105に進み、対応する音高の現在の発音数が1以上であるか否かを判別する。
【0054】
そして、現在の発音数が0であれば前記ステップS102に戻る一方、1以上であれば、現在発音している同一ノートの全てを消音(ノートオフの発行)するよう制御する(ステップS106)。すなわち、レスト位置まで鍵24を戻さない連打操作を行った場合等には、同じ音高のノートオンが2以上立ち上がっていることがあるので、それら全てが一斉に止音される。ステップS106の処理後は前記ステップS102に処理を戻す。
【0055】
ステップS104で、ST=8である場合は、今回、位置KH3を復方向に通過したので、ステップS107に進み、対応する音高の現在の発音数が1以上であるか否かを判別する。そして、現在の発音数が0であれば前記ステップS102に戻る一方、1以上であれば、ステップS108に進む。
【0056】
図3に示すように、位置KH5と位置KH4との間の領域を第1の領域RA、位置KH4と位置KH3との間の領域を第2の領域RBとする。第2の領域RBは、第1の領域RAに対してレスト位置の側に隣接する領域である。特に、第1の領域RAの少なくとも一部の領域は、バックチェックがされ得る領域に設定されている。ハンマ体HMがエンド位置からレスト位置に移動する際において、第1の領域RA、第2の領域RBを通過するのに要した時間をそれぞれ所要時間TA、TBとする。
【0057】
図4のステップS108では、ハンマ体HMが復方向に移動する際において、上記した所要時間TAと第1の所定値tAとを比較し、TA>tAが成立するかどうかを判別する。それと共に、ハンマ体HMが復方向に移動する際において、上記した所要時間TBと第2の所定値tBとを比較し、TB<tBが成立するかどうかを判別する。
【0058】
それらの判別の結果、TA>tAで且つTB<tBという条件が成立する場合は、ステップS109に進んで、現在発音している同一ノートの全てを消音(ノートオフの発行)するよう制御する。このことは、ステップS108の条件が成立した場合に限り、復方向に移動するハンマ体HMが位置KH1まで至らなくても位置KH3を通過した後に直ちに消音することを意味する。つまり、消音位置を、予め設定した位置KH1よりもエンド位置に近い側のKH3位置に設定変更することを意味する。これにより、ハンマ体HMの動作に着目すれば通常よりも消音が早まることになる。
【0059】
上記したステップS108の条件が成立するような状況としては、中押鍵後の遅い離鍵のような押離鍵操作がなされた場合のように、バックチェックがしっかりと作用した場合が想定される。バックチェックがしっかりと作用すると、キャッチャ34とバックチェック44との間に静止摩擦が強く作用し、摺接状態で係合する状態に比べると、その後のハンマ体HMの復帰が遅れ気味となると考えられる。そのため、一律に位置KH1で消音すると、奏者にとっては止音が遅れたように感じられる。しかし、上記のように消音位置を押鍵ストロークにおける深い側に一時的に切り替えることで、止音の遅れを解消することができる。
【0060】
前記ステップS108で、TA>tAで且つTB<tBという条件が成立しない場合は、その時点では消音することなく前記ステップS102に戻る。ステップS108の処理後は前記ステップS102に戻る。
【0061】
本実施の形態によれば、バックチェックの作用によりハンマ体HMの戻りが遅くなるような状況において消音タイミングを適切に補正し、消音タイミングを、バックチェック作用状況を考慮した自然なものに近づけることができる。
【0062】
また、複数に区分した各領域の境界をハンマ体HMが往方向、復方向のいずれの方向に通過したかを判断することによって、ハンマ体HMの移動方向及び現在位置を把握できるので、連打のように、ハンマ体HMの移動方向が途中で変化する状況にも対応でき、適切な消音制御を行うことができる。
【0063】
なお、上記した消音位置を切り替える制御の態様は例示であり、それに限定されるものではない。また、切り替え後の消音位置も位置KH3に限定されるものではない。例えば、ステップS108の条件が成立したとき、消音位置を、位置KH3と位置KH2との間の所定位置に設定変更してもよい。
【0064】
また、ステップS108での所要時間TA、TBの長さの判断において、単一の所定値tA、tBとの比較ではなく、領域RA、RBのそれぞれに2段階以上で設定した所定値との比較を行って、比較結果に応じて消音位置を多段階に切り替えるようにしてもよい。すなわち、成立する条件によって消音位置を可変とする制御となる。
【0065】
さらに、しっかりとバックチェックが作用する事象だけでなくあらゆる事象への応用を考えると、消音位置の切り替え条件に関与する2つの領域も領域RA、RBに限定されるものではない。
【0066】
なお、本実施の形態では、発音のトリガもハンマ体HMの動作を検出した検出信号で発生させたが、鍵24の動作を検出するセンサを設け、発音開始については鍵24の押鍵動作をトリガとしてもよい。
【0067】
ところで、図1に示した鍵盤構造は、本出願人の先願の技術思想を採用した構造を基本としているが、さらにその欠点をカバーしている。図1の構造は、アップライト(UP)型のハンマアクションを採用しながら、ハンマ自体の構造はグランドピアノ(GP)に近いものを採用したものである。
【0068】
これにより、鍵盤構造自体の高さを抑えるメリットがある。しかし、GPに比べてUPは、連打性が劣るという本質的な短所があり、図1の構造を採用しただけでは、再発音を可能にする早期戻り機構が実現しにくいという弱点は残る。しかし本発明のアルゴリズムを採用することで、この弱点も緩和される。
【0069】
従って、図1の構造ではなく、既存のUP構造のハンマに位置センサを設けた鍵盤構造を採用したとしても、本発明のアルゴリズムを採用すれば、UP構造を採用したことによる消音タイミング(リリースタイミング)よりも早いタイミングで発音の消音を行うことができる。従って、既存のUP構造を使用してもGP並あるいはそれ以上の歯切れのよいリリースタイミングの制御(発音→消音→発音という連打時の楽音制御)が可能になる。図4のステップS104、S107、S108の処理で消音が早まることにより、GP並の自然なリリースが実現できる。再発音(連打時の次の押鍵)までに物理的に時間を稼ぐことができる。
【0070】
このように、再発音までに時間を稼ぐことができるから、鍵24がレスト位置に戻るにつれて、キャプスタン部47が下動し、それと共にジャック43が下動するので、ジャック43がバット30の被打部33の下(回動軸36に近い側)にバネ51の作用によりもぐり込むことができる。その潜り込むことができるより少し早めにリリースが始まって、鍵24がさらに戻るまで僅かな時間がある。この時間に次の発音準備(ジャック43が被打部33の下にもぐり込むことと離鍵時対応の楽音処理が早めに行われること)ができる。つまり発音準備をしやすくできるから次の発音がよりスムーズになる。これによって、演奏経過時の音量変化がスムーズになり、それによって、演奏のメリハリも良くなる。
【0071】
また、本実施の形態では、第1の領域RAが第2の領域RBに隣接したものとされていたが、第1の領域RAが第2の領域RBに隣り合っていなくてもよく、第1の領域RAと第2の領域RBとの間に別の領域が存在していてもよい。
【0072】
また、上述の実施の形態では、予め規定された消音位置がKH1であり、切替え後の消音位置がKH1よりもエンド位置に近い位置であるKH3であったが、切替え後の消音位置を、予め規定きれた消音位置よりもレスト位置に近い位置とすることも可能である。
【0073】
このように構成する揚合は、ハンマ体HMにしっかりとバックチェックが作用するときは予め規定された消音位置を用い、しっかりとバックチェックが作用しないときに切替え後の消音位置を用いることができる。このように、しっかりとバックチェックが作用したときの消音タイミングを早いタイミングに規定し、しっかりとバックチェックが作用しないときの消音タイミングを遅いタイミングに規定することによっても、適切な消音制御を行うことができる。
【0074】
また、ハンマ体HMがバックチェックされ得る領域をその全部あるいはその一部に含む第1の領域RAのエンド位置側の端部の位置KH5は、図3に示されるように、エンド位置からゼロでない特定の距離だけ離れた位置とされている。これにより、ハンマ体HMが第1の領域RAのエンド位置側の端部の位置KH5を越えて往方向に移動してエンド位置まで到達し、次いで復方向に移動して第1の領域RAに入った場合は、ハンマ体HMの状態は、status5からstatus6に移行したことになる。
【0075】
一方、ハンマ体HMが復方向に移動して、第1の領域RAのエンド位置側の端部の位置KH5を越えることなく第1の領域RA内にある場合は、ハンマ体HMの状態は、status3からstatus4に移行したことになる。
【0076】
従って、ハンマ体HMが復方向に移動するときのハンマ体HMの状態をstatus6とすることができるため、ハンマ体HMの状態に基づいて、ハンマ体HMが、往方向に移動して第1の領域RAに入ったのか、復方向に移動して第1の領域RAに入ったのかを判別することができる。また、同様に、ハンマ体HMがバックチェックされ得る領域をその全部あるいはその一部に含む第1の領域RAのレスト位置側の端部の位置は、レスト位置からゼロでない特定の距離だけ離れた位置とされている。これにより、エンド位置から復方向に移動するときのハンマ体HMが第1の領域RAを通過するのに要した時間(TA)を得ることができる。
【0077】
ところで、図4のアルゴリズムは、請求項4及び/又は請求項5を含むものとなっていて、上記に述べたUP構造やそれに類似する構造に特に効果(消音処理を早める効果)を発揮するものではあるが、上記のアルゴリズムの適用は図1に示したハンマアクションに限定されない。極論すれば、作りつけの悪いGPのハンマアクション、例えばバックチェック機構の打弦後、チェックが強めに作用する機構だと、特定の打鍵強さに限ってハンマ戻りが遅くなり、ハンマの動きでキーオフのトリガを促すGPタイプの電子鍵盤楽器にも、上記アルゴリズムは有効となる。換言すれば、バックチェック機構の調整がしっかりとなされた洗練された本物のグランドピアノハンマアクション(GPHA)機構でなくても、癖のある特定の打鍵強さに限ってハンマ戻りが遅くなるGPHA機構を使用した電子鍵盤楽器に使用しても良好な消音処理が行われることになる。このことはGP機構、UP機構に関係なく安価なハンマアクシヨン機構をも使用可能にする道を開くことになる。
【0078】
次に、センサ部材60の構成と、センサ部材60をハンマ体HMのバット30に取り付けるための構造とを説明する。
【0079】
図5(a)、(b)は、ハンマ体HMのバット30の下部後部のそれぞれ背面図、側面図である。図5(c)は、センサ部材60の斜視図である。センサ部材60は、バット30の下部後部の一部である取り付け部70に対して着脱自在に構成される。
【0080】
まず、図5(b)に示すように、バット30の下部後部の左右両側には、側面方向に窪んだ凹部71が形成され、凹部71に隣接して取り付け部70が設けられる。取り付け部70の側面72の幅はバット30の最大幅よりも小さいが、側面72は凹部71よりも側方に突出している。
【0081】
取り付け部70において、凹部71との間に形成される前側(図5(b)の右側)を向く段差部が前側係合部73である。取り付け部70の最下部に形成される上側を向いた段差面が下側受け面76である。取り付け部70の後半部の下面が係合面75である。係合面75は、下側受け面76とは平行でない。係合面75は、下側受け面76を水平にした状態では、後方にいくにつれて上方に位置するよう傾斜したテーパ面である。取り付け部70の後端面74は、バット30の後端面の一部でもある。
【0082】
図6(a)、(d)は、センサ部材60の上面図、前面図である。図6(b)は、図6(a)のA部の拡大図である。図6(c)は、図6(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0083】
図5(c)、図6(a)、(c)、(d)に示すように、センサ部材60は、一対の平行な二股状の板状部61、62を有する。センサ部材60は、樹脂で一体に形成される。センサ部材60の後ろ側の湾曲した反射面35に、センサシートが貼り付けられることで、グレースケール(図2参照)が構成される。
【0084】
板状部61、62の外側にはそれぞれ、摘まみ66が突設形成されている。摘まみ66は、板状部61、62の側面から後方に延設されている。摘まみ66を指等で操作することで、板状部61、62の前端に触れることなく板状部61、62の間隔を弾性変形によって開かせることができる。
【0085】
図6(b)に示すように、板状部61、62の各前端部は、互いが対向する内側の方向に肉厚となっている。その肉厚部の後部にはテーパ部61a、62aが形成され、肉厚部の前部にはテーパ部61b、62bが形成されている。後ろ側のテーパ部61a、62aが取り付け部70の前側係合部73に対応する。板状部61、62に囲まれて凹状となっている部分の奥側で前側を向く面が、取り付け部70の後端面74に対向当接する当接面64である。板状部61、62の下端面が、取り付け部70の下側受け面76に対向当接する当接面65である。
【0086】
板状部61、62の根元の部分の下部は少し肉厚となっていて、その肉厚部分の上側の端面が、取り付け部70の係合面75に係合する係合対応面63となっている。係合対応面63は、当接面65を水平にした状態では、後方にいくにつれて上方に位置するよう傾斜したテーパ面であり、係合面75のテーパ形状と対応している。
【0087】
センサ部材60を取り付け部70に取り付けする際には、センサ部材60を後方から取り付け部70に近づけ、取り付け部70における左右の側面72がセンサ部材60の板状部61、62に挟まれるようにする。それと共に、上下方向については、取り付け部70の係合面75及び下側受け面76に対してセンサ部材60の係合対応面63及び当接面65の位置を合わせる。テーパ部61b、62bがあることで、センサ部材60を前方に押すだけで板状部61、62が開き、側面72を円滑に挟むことができる。そして、取り付け部70の後端面74にセンサ部材60の当接面64が対向当接するまで、センサ部材60を前方に移動させる。
【0088】
前方への移動の過程で、互いにテーパ面である係合面75と係合対応面63との係合により、センサ部材60は徐々に下方に押される。後端面74に当接面64が対向当接したときには、係合面75と係合対応面63とが当接するとともに、下側受け面76と当接面65とが当接状態となる。これにより、取り付け部70に対するセンサ部材60の上下方向における位置が規定される。
【0089】
さらに、後端面74に当接面64が対向当接したときには、板状部61、62は閉じようとしており、板状部61、62の後ろ側のテーパ部61a、62aが前側係合部73に当接係合状態となる。これにより、後端面74と当接面64とをしっかり当接させる力が働き、取り付け部70に対するセンサ部材60の前後方向における位置が規定される。また、左右方向については、板状部61、62の対向する側の内側面が取り付け部70における左右の側面72に当接することで、センサ部材60の位置が規定される。
【0090】
一方、センサ部材60を取り付け部70から取り外す際には、左右両側の摘まみ66を操作して板状部61、62を開き、センサ部材60を後方に移動させればよい。
【0091】
このように、反射面35を有するセンサ部材60を、高い位置決め精度を確保しつつ、非常に簡単な操作で着脱することが可能となり、作業性が向上する。しかも、重要な反射面35に手を触れることなく、センサ部材60の着脱操作が可能であるので、検出精度を高く保持することができる。
【0092】
なお、センサ部材60の着脱が容易である点は、本鍵盤楽器の製造段階だけでなく、納品後のメンテナンス段階においても有効である。
【符号の説明】
【0093】
11 CPU(制御手段)、 34 キャッチャ、 41 光学センサ(位置検出手段)、 44 バックチェック、 HM ハンマ体(質量体)、 RA 第1の領域、 RB 第2の領域、 TA、TB 所要時間、 tA 第1の所定値、 tB 第2の所定値、 KH 位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押離操作される鍵と、
前記鍵に対応して設けられ、対応する鍵の押鍵操作によって駆動され、レスト位置とエンド位置との間の移動領域を回動移動する質量体と、
エンド位置からレスト位置に移動する前記質量体をバックチェックするためのバックチェック手段と、
前記質量体の位置を検出する位置検出手段と、
押鍵操作に応じて楽音を発音するよう制御する制御手段とを有し、
前記制御手段は、前記位置検出手段により検出された位置に基づいて、前記質量体がエンド位置からレスト位置に移動する際において、設定した消音位置を通過したときに、当該質量体に対応する鍵について発生している楽音を消音するよう制御すると共に、前記質量体がエンド位置からレスト位置に移動する際において、前記移動領域のうちの第1の領域を通過するのに要した時間と、移動領域のうちの前記第1の領域よりもレスト位置に近い位置にある第2の領域を通過するのに要した時間とに基づいて、前記消音位置の設定を変更することを特徴とする電子鍵盤楽器。
【請求項2】
前記第2の領域は、前記第1の領域よりもレスト位置に近い位置で、且つ前記第1の領域に隣接する領域であることを特徴とする請求項1記載の電子鍵盤楽器。
【請求項3】
前記制御手段は、前記質量体がエンド位置からレスト位置に移動する際において、前記第1の領域を通過するのに要した時間と前記第2の領域を通過するのに要した時間とに基づいて、消音の時期を早めるように前記消音位置の設定を変更することを特徴とする請求項1または2記載の電子鍵盤楽器。
【請求項4】
前記制御手段は、前記質量体がエンド位置からレスト位置に移動する際において、前記第1の領域を通過するのに要した時間が第1の所定値より長く、且つ、前記第2の領域を通過するのに要した時間が第2の所定値より短い場合に、前記消音位置を前記エンド位置に近い側の位置に変更することを特徴とする請求項1または2記載の電子鍵盤楽器。
【請求項5】
前記質量体は、前記第1の領域の少なくとも一部の領域において、前記バックチェック手段によってバックチェックされ得るものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項6】
前記制御手段は、レスト位置とエンド位置との間の前記移動領域を複数の領域に分け、前記位置検出手段により検出された位置に基づいて、前記質量体が前記複数の各領域の境界を、エンド位置からレスト位置に向かう方向またはレスト位置からエンド位置に向かう方向のいずれの方向に通過したかを判断することによって、前記質量体の移動方向及び現在位置を把握することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子鍵盤楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−80218(P2013−80218A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202506(P2012−202506)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】