説明

電子顕微鏡の試料コーティング方法

【課題】本発明は電子顕微鏡の試料コーティング方法に関し、絶縁試料の導電性処理を簡易な構成で行なうことができる電子顕微鏡の試料コーティング方法を提供することを目的としている。
【解決手段】走査型電子顕微鏡10と集束イオンビーム装置11との光学系を備え、これら二つの光学系の光軸が試料位置の一点で交わる構造のマルチビーム装置において、マルチビーム装置のチャンバ1にその先端部のプローブ13の位置が移動可能なマニピュレータ12を設置し、該設置されたマニピュレータ12のプローブ先端に蒸着材料保持機構を設け、イオンビームによって加工された絶縁試料の加工断面近傍に前記蒸着材料保持機構を近づけ、該蒸着材料保持機構内の蒸着材料に前記集束イオンビーム装置11からイオンビームを照射してスパッタリングを行ない絶縁試料の加工断面に該蒸着材料をコーティングさせるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡の試料コーティング方法に関し、更に詳しくは絶縁試料の導電性処理を簡易な構成で行なうことができる電子顕微鏡の試料コーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビーム装置(FIB)で試料をスパッタリングして断面を作製し、この断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する方法が用いられている。ここで、試料が絶縁性試料である場合、電子ビームを照射すると、電荷がチャージされ、このチャージされた電荷により、電子ビームの軌跡が曲がり、正確な画像を測定できないという問題がある。このため、試料表面を導電性の膜で蒸着したのち、集束イオンビーム装置で観察面を加工し、走査型電子顕微鏡でその観察面を観察することが行なわれる。
【0003】
従来の試料面観察の方法には、以下に示すような方法が採られる。
1)断面加工後に、一回真空外に取り出し、スパッタ装置或いは真空蒸着装置で試料全体に導電性を目的としたコーティングを行なう方法。
2)低真空機能を用いて帯電現象を消失させる方法。
3)電子ビームを1kV前後の低加速電圧にする方法。
4)スパッタ装置、蒸着装置を走査型電子顕微鏡内に内蔵する方法。
【0004】
従来のこの種の装置としては、1次イオンを試料上に照射し、イオンと試料の間の相互作用により加工や分析を行なう装置において、試料の像を見て位置を確認し、その位置に蒸着ができるように構成した装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−310078号公報(段落0010、図1〜図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した1)〜4)には以下のような問題があった。
1)に示す方法は、一回試料を真空外に出す必要があるため、手順が増えるという問題がある。
【0007】
2)に示す方法は、低真空下で帯電現象を消失させるものであるが、低真空なので画質が劣化し、ビーム散乱による不都合が生じるという問題がある。
3)に示す方法は、電子ビームを低電圧加速するため、画質が劣化し、分析ができないという問題がある。
【0008】
4)に示す方法はスパッタ装置、蒸着装置を内蔵するため、装置が大型化し、またチャンバ内を汚すという問題がある。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、絶縁試料の導電性処理を簡易な構成で行なうことができる電子顕微鏡の試料コーティング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)請求項1記載の発明は、走査型電子顕微鏡と集束イオンビーム装置との光学系を備え、これら二つの光学系の光軸が試料位置の一点で交わる構造のマルチビーム装置において、マルチビーム装置のチャンバにその先端部のプローブの位置が移動可能なマニピュレータを設置し、該設置されたマニピュレータのプローブ先端に蒸着材料保持機構を設け、イオンビームによって加工された絶縁試料の加工断面近傍に前記蒸着材料保持機構を近づけ、該蒸着材料保持機構内の蒸着材料に前記集束イオンビーム装置からイオンビームを照射してスパッタリングを行ない絶縁試料の加工断面に該蒸着材料をコーティングさせるように構成したことを特徴とする。
【0010】
(2)請求項2記載の発明は、前記蒸着材料保持機構は、プローブ先端にデポジションにより蒸着材料を取り付けたものであることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記蒸着材料保持機構は、プローブ先端に蒸着材料を保持するチャック機構を設けたものであることを特徴とする。
【0011】
(4)請求項4記載の発明は、前記蒸着材料保持機構の代わりに、プローブの先端部の材質そのものを蒸着材料とするものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(1)請求項1記載の発明によれば、チャンバに先端部のプローブの位置が移動可能なマニピュレータを設置し、該設置されたマニピュレータのプローブ先端に蒸着材料保持機構を設け、イオンビームによって加工された絶縁試料の加工断面近傍に前記蒸着材料保持機構を近づけ、該蒸着材料保持機構内の蒸着材料に前記集束イオンビーム装置からイオンビームを照射してスパッタリングを行ない絶縁試料の加工断面に該蒸着材料をコーティングさせるように構成したので、絶縁試料の導電性処理を簡易な構成で行なうことができる電子顕微鏡の試料コーティング方法を提供することができる。
【0013】
(2)請求項2記載の発明によれば、プローブ先端にデポジションにより蒸着材料を取り付けたので、集束イオンビームにより該蒸着材料をスパッタリングして絶縁試料にコーティングするので、導電性の試料となり、チャージアップの発生を防ぎ、SEM機能による像観察を直ちに行なうことができる。
【0014】
(3)請求項3記載の発明によれば、プローブ先端に蒸着材料を保持するチャック機構を設けたので、集束イオンビームにより該蒸着材料をスパッタリングして絶縁試料にコーティングするので、導電性の試料となり、チャージアップの発生を防ぎ、SEM機能による像観察を直ちに行なうことができる。
【0015】
(4)請求項4記載の発明によれば、プローブの先端の材質そのものを蒸着材料として、このプローブ先端をスパッタリングして絶縁試料にコーティングするので、導電性の試料となり、チャージアップの発生を防ぎ、SEM機能による像観察を直ちに行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の蒸着方法の説明図である。
【図3】本発明の第2の蒸着方法の説明図である。
【図4】本発明の第3の蒸着方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態を示す構成図である。図において、1は走査型電子顕微鏡光学系(SEM)10や集束イオンビーム装置光学系(FIB)11が搭載されるチャンバである。2はチャンバ1内の所定の位置に配置された試料である。SEM10の光軸とFIB11の光軸とは試料2の一点で交わるようになっている。14は該試料2内に形成された加工断面である。
【0018】
12はチャンバ1に取り付けられたマニピュレータで、その先端にはプローブ13が取り付けられている。プローブ13の先端部には、後述するように導電性の蒸着材料保持機構(図示せず)が取り付けられており、蒸着材料がこの蒸着材料保持機構に保持されている。蒸着材料としては、例えば金(Au)が好適に用いられる。そして、該マニピュレータ12を駆動することにより、プローブ13の位置を3次元の方向に移動させることができるようになっている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0019】
先ず、FIB11で試料2をスパッタリングして加工断面14を作製する。次に、マニピュレータ12を調整して、プローブ13の先端を試料2の加工断面14近傍に近づける。次に、試料2を傾斜させた状態で、FIB11からのイオンビームをプローブ13の先端に照射する。この結果、プローブ先端に取り付けられた蒸着材料保持機構により保持されている蒸着材料がイオンビームのためにスパッタリングされ、その物質の蒸気が加工断面14に付着する。この結果、加工断面14は蒸着材料で局所的にコーティングされる。このようにして観察面に導電性膜が形成されたら、SEM10で試料2の観察面を走査してSEM像を得る。
【0020】
本発明によれば、チャンバ1に先端部のプローブ13の位置が移動可能なマニピュレータ12を設置し、該設置されたマニピュレータ12のプローブ先端に蒸着材料保持機構を設け、イオンビームによって加工された絶縁試料の加工断面近傍に前記蒸着材料保持機構を近づけ、該蒸着材料保持機構内の蒸着材料に前記集束イオンビーム装置からイオンビームを照射してスパッタリングを行ない絶縁試料の加工断面に該蒸着材料をコーティングさせるように構成したので、絶縁試料の導電性処理を簡易な構成で行なうことができる電子顕微鏡の試料コーティング方法を提供することができる。
【0021】
次に、本発明による蒸着方法について説明する。図2は本発明の第1の蒸着方法の説明図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施例では、プローブ13の先端部を蒸着材料で構成し、イオンビーム15でこのプローブ先端部をスパッタリングすることで、試料2の加工断面14に蒸着材料をコーティングするものである。
【0022】
この実施例によれば、プローブの先端の材質そのものを蒸着材料として、このプローブ先端をスパッタリングして絶縁試料にコーティングするので、導電性の試料となり、チャージアップの発生を防ぎ、SEM機能による像観察を直ちに行なうことができる。
【0023】
図3は本発明の第2の蒸着方法の説明図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施例では、プローブ13の先端に蒸着材料20をデポジションにより取り付け、取り付けた蒸着材料20をイオンビーム15でスパッタリングすることで、試料2の加工断面14に蒸着材料をコーティングするものである。
【0024】
この実施例によれば、プローブ先端にデポジションにより蒸着材料を取り付けたので、集束イオンビームにより該蒸着材料をスパッタリングして絶縁試料にコーティングするので、導電性の試料となり、チャージアップの発生を防ぎ、SEM機能による像観察を直ちに行なうことができる。
【0025】
図4は本発明の第3の蒸着方法の説明図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施例では、プローブ13の先端にチャック機構13aを設け、このチャック機構13aにより蒸着材料20を保持し、取り付けた蒸着材料20をイオンビーム15でスパッタリングすることで、試料2の加工断面14に蒸着材料をコーティングするものである。
【0026】
この実施例によれば、プローブ先端に蒸着材料を保持するチャック機構を設けたので、集束イオンビームにより該蒸着材料をスパッタリングして絶縁試料にコーティングするので、導電性の試料となり、チャージアップの発生を防ぎ、SEM機能による像観察を直ちに行なうことができる。また、チャック機構を設けたので、蒸着材料の大きさが変わっても対応することができる。
【0027】
以上、説明したように、本発明によれば、マニピュレータによりSEM観察を目的とする加工断面近傍において、導電性処理を目的とした局所的コーティングが可能となる。また、マニピュレータにより各種の導電性材料を幅広く選択することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 チャンバ
2 試料
10 走査型電子顕微鏡光学系(SEM)
11 集束イオンビーム装置光学系(FIB)
12 マニピュレータ
13 プローブ
14 加工断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子顕微鏡と集束イオンビーム装置との光学系を備え、これら二つの光学系の光軸が試料位置の一点で交わる構造のマルチビーム装置において、
マルチビーム装置のチャンバにその先端部のプローブの位置が移動可能なマニピュレータを設置し、
該設置されたマニピュレータのプローブ先端に蒸着材料保持機構を設け、
イオンビームによって加工された絶縁試料の加工断面近傍に前記蒸着材料保持機構を近づけ、
該蒸着材料保持機構内の蒸着材料に前記集束イオンビーム装置からイオンビームを照射してスパッタリングを行ない絶縁試料の加工断面に該蒸着材料をコーティングさせる、
ように構成したことを特徴とする電子顕微鏡の試料コーティング方法。
【請求項2】
前記蒸着材料保持機構は、プローブ先端にデポジションにより蒸着材料を取り付けたものであることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡の試料コーティング方法。
【請求項3】
前記蒸着材料保持機構は、プローブ先端に蒸着材料を保持するチャック機構を設けたものであることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡の試料コーティング方法。
【請求項4】
前記蒸着材料保持機構の代わりに、プローブの先端部の材質そのものを蒸着材料とするものであることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡の試料コーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−197272(P2010−197272A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43653(P2009−43653)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】