説明

電子顕微鏡用可動プローブ装置および電子顕微鏡の試料観察方法

【課題】温度勾配や局所加圧による変位等の状態変化や組織変化が試料に生じている様子を観察する。
【解決手段】プローブ1と、プローブ1を移動させてその先端を試料2の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面に接触させる駆動機構3を備えている。駆動機構3は、プローブ1を支持し且つ温度変化によって変形する支持部材4と、支持部材4を冷却又は加熱して変形させプローブ1を試料2に接触させる熱源5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型の電子顕微鏡用可動プローブ装置および電子顕微鏡の試料観察方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、試料を局所的に冷却又は加熱しながら、または試料を局所的に加圧しながら、あるいは試料を局所的に冷却又は加熱すると共に加圧しながら観察を行うことができる電子顕微鏡用可動プローブ装置および電子顕微鏡の試料観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)では、観察する試料を試料ホルダにセットすると共に、その試料ホルダを鏡筒にセットして観察を行う。電子顕微鏡の倍率は極めて高く、顕微鏡視野に入る試料の観察領域は微小である。
【0003】
また、特殊な試料ホルダとして、試料を加熱するヒータを備えた試料加熱ホルダがある。試料加熱ホルダを使用することで、常温とは異なる高温状態の試料を観察することができる。試料加熱ホルダではヒータによって試料を均一に加熱し、試料のドリフト防止を図っている。なお、試料加熱ホルダとしては、例えば特開2000−40483号公報、特開平6−68828号公報に開示されている試料加熱ホルダがある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−40483号
【特許文献2】特開平6−68828号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の観察では、試料の状態や組織を局所的に変化させることができなかった。即ち、セットした試料の状態や組織を局所的に変化させる装置類が無かったため、温度勾配や局所加圧による変形・変位等の状態変化や組織変化が試料に生じている様子を観察することができなかった。また、試料加熱ホルダを使用することで、常温状態とは異なる高温状態の試料観察を行うことは可能ではあるが、試料加熱ホルダは試料全体をできるだけ均一に加熱するものであり、試料の温度を局所的に変化させる機能は無いため、大きな温度勾配が試料に生じている様子を観察することはできなかった。
【0006】
本発明は、温度勾配や局所加圧による変形・変位等の状態変化や組織変化が試料に生じている様子を観察できる電子顕微鏡用可動プローブ装置および電子顕微鏡の試料観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、プローブと、該プローブを移動させてその先端を試料の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面に接触させる駆動機構を備えたものである。
【0008】
したがって、駆動機構によってプローブを移動させてその先端を試料に接触させると、プローブの接触部分又はその周辺部分の試料の状態や組織が変化する。この状態で電子顕微鏡観察を行うことができる。はじめからプローブを試料に接触させた状態で観察を行っても良いし、観察中にプローブを試料に接触させるようにしても良い。また、接触させていたプローブを観察中に離間させても良いし、観察中にプローブを試料に接触させたり離間させたりするのを繰り返しても良い。また、試料の接触の影響(例えば状態変化、組織変化等)を受けている部分のみを顕微鏡視野に入れても良いし、影響を受けている部分と受けていない部分の境界がはっきりしている場合には両方の部分を一緒に顕微鏡視野に入れても良いし、影響を受けている部分と受けていない部分の境界がはっきりしていない場合には影響の程度が連続的に変化している部分を顕微鏡視野に入れても良い。
【0009】
また、請求項2記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、駆動機構が、プローブを支持し且つ温度変化によって変形する支持部材と、該支持部材を冷却又は加熱して変形させプローブを試料に接触させる熱源とを備えている。したがって、熱源によって支持部材を冷却又は加熱すると、支持部材が変形してプローブを試料に接触させる。このため、モータ等を使用した場合のように振動を発生させることがなく、振動を伴わずにプローブを動かすことができる。
【0010】
また、請求項3記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、熱源によって支持部材及びプローブを冷却又は加熱し、プローブの接触により試料を局所的に冷却又は加熱するものである。即ち、熱源によって支持部材→プローブ→試料の順で冷却又は加熱される。したがって、局所的に冷却又は加熱された状態の試料を観察することができる。
【0011】
また、請求項4記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、試料が試料加熱ホルダに保持されて加熱されており、プローブによって試料を局所的に冷却又は加熱するものである。したがって、全体的に加熱された試料を局所的に冷却又は加熱することができる。これにより、高温の試料を局所的に冷却している様子、又は高温の試料を局所的に更に加熱している様子を観察することができる。
【0012】
また、請求項5記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、試料が試料冷却ホルダに保持されて冷却されており、プローブによって試料を局所的に加熱又は冷却するものである。したがって、全体的に冷却された試料を局所的に加熱又は冷却することができる。これにより、低温の試料を局所的に加熱している様子、又は低温の試料を局所的に更に冷却している様子を観察することができる。
【0013】
ここで、請求項6記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置のように、支持部材がバイメタル製又は形状記憶合金製の支持部材であることが好ましい。バイメタル製や形状記憶合金製の支持部材は熱源による冷却又は加熱によって変形し、支持するプローブを試料に接触させることができる。
【0014】
また、請求項7記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置のように、熱源が、熱電素子、ヒートポンプ、ヒータのいずれか1つであることが好ましい。これらはいずれも支持部材を良好に冷却又は加熱することができる。
【0015】
また、請求項8記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、プローブの接触により試料に力を加えるものである。したがって、局所的に力を加えた状態の試料を観察することができる。このとき、例えば、プローブとして熱伝導率の小さいものを使用することで、試料を冷却又は加熱することなしに局所的に力を加えた状態を観察することができるし、逆に、プローブとして熱伝導率の大きいものを使用することで、試料を局所的に冷却又は加熱しながら更に力を加えた状態を観察することができる。
【0016】
また、請求項9記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、駆動機構が、プローブを支持する支持部材と、該支持部材を支持し且つ電圧の付与により変形してプローブを試料に接触させて力を加える圧電変換素子とを備えるものである。したがって、圧電変換素子を変形させると、支持部材ごとプローブを移動させて試料に接触させることができる。このため、局所的に力を加えた状態の試料を観察することができる。このとき、モータ等を使用した場合のように振動を発生させることがなく、振動を伴わずにプローブを動かすことができる。
【0017】
また、請求項10記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、駆動機構が、プローブを支持し且つ電圧の付与により変形してプローブを試料に接触させて力を加える圧電変換素子を備えるものである。したがって、圧電変換素子を変形させると、プローブが移動し試料に接触する。このため、力を加えた状態の試料を観察することができる。また、モータ等を使用した場合のように振動を発生させることがなく、振動を伴わずにプローブを動かすことができる。
【0018】
また、請求項11記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置は、試料とプローブとによってこれらの接触と離間が開閉操作となるスイッチを構成すると共に、試料とプローブの接触によってスイッチが閉じた場合に作動する接触検知手段を備えるものである。試料とプローブとによって構成されるスイッチは、プローブが試料に接触すると閉じ(オン操作)、プローブが試料から離間すると開く(オフ操作)。スイッチが閉じると、接触検知手段が作動する。したがって、接触検知手段の作動によってプローブの接触を知ることができる。
【0019】
さらに、請求項12記載の電子顕微鏡の試料観察方法は、試料の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面にプローブを接触させながら観察を行うものである。
【0020】
したがって、プローブを移動させて試料に接触させると、プローブの接触部分又はその周辺部分の試料の状態や組織が変化する。この状態で電子顕微鏡を使用した観察を行うことができる。はじめからプローブを試料に接触させた状態で観察を行っても良いし、観察中にプローブを試料に接触させるようにしても良い。また、接触させていたプローブを観察中に離間させても良いし、観察中にプローブを試料に接触させたり離間させたりするのを繰り返しても良い。また、試料の接触の影響を受けている部分のみを顕微鏡視野に入れても良いし、影響を受けている部分と受けていない部分の境界がはっきりしている場合には両方の部分を一緒に顕微鏡視野に入れても良いし、影響を受けている部分と受けていない部分の境界がはっきりしていない場合には影響の程度が連続的に変化している部分を顕微鏡視野に入れても良い。
【0021】
また、請求項13記載の電子顕微鏡の試料観察方法は、プローブを冷却又は加熱し、プローブの接触により試料を局所的に冷却又は加熱するものである。したがって、局所的に冷却又は加熱された状態の試料を観察することができる。
【0022】
また、請求項14記載の電子顕微鏡の試料観察方法は、プローブの接触により試料に力を加えるものである。したがって、力を加えた状態の試料を観察することができる。この場合、局所的に冷却又は加熱している試料に対し力を加えても良いし、局所的に冷却又は加熱していない試料に対し力を加えても良い。
【発明の効果】
【0023】
しかして、請求項1記載の可動プローブ装置では、プローブと、該プローブを移動させてその先端を試料の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面に接触させる駆動機構を備えているので、プローブによって試料の状態や組織を変化させて顕微鏡観察を行うことができる。このため、従来とは異なる新しい研究を行うことができる。
【0024】
また、請求項2記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置では、駆動機構が、プローブを支持し且つ温度変化によって変形する支持部材と、該支持部材を冷却又は加熱して変形させプローブを試料に接触させる熱源とを備えているので、観察に悪影響を及ぼす振動を発生させずにプローブを試料に接触させることができる。このため、顕微鏡観察中にプローブを移動させることができる。
【0025】
また、請求項3記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置では、熱源によって支持部材及びプローブを冷却又は加熱し、プローブの接触により試料を局所的に冷却又は加熱するので、局所的に冷却又は加熱された状態の試料を観察することができる。
【0026】
また、請求項4記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置では、試料が試料加熱ホルダに保持されて加熱されており、プローブによって試料を局所的に冷却又は加熱するようにしているので、高温の試料を局所的に冷却している様子、又は高温の試料を局所的に更に加熱している様子を観察することができる。
【0027】
また、請求項5記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置では、試料が試料冷却ホルダに保持されて冷却されており、プローブによって試料を局所的に加熱又は冷却するようにしているので、低温の試料を局所的に加熱している様子、又は低温の試料を局所的に更に冷却している様子を観察することができる。
【0028】
ここで、請求項6記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置のように、支持部材がバイメタル製又は形状記憶合金製の支持部材であることが好ましい。バイメタルや形状記憶合金は所定温度で確実に変形するので、プローブを試料に対し確実に接触させることができる。また、バイメタルや形状記憶合金製の変形温度や変形形状を調整することで、プローブの接触温度や接触圧力等を制御することができる。
【0029】
また、請求項7記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置のように、熱源が、熱電素子、ヒートポンプ、ヒータのいずれか1つであることが好ましい。これらはいずれも支持部材を良好に冷却又は加熱することができ、プローブを試料に対し確実に接触させることができる。また、熱電素子、ヒートポンプ、ヒータの吸熱や発熱を制御することで、プローブの移動を制御することができる。
【0030】
また、請求項8記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置では、プローブの接触により試料に力を加えるので、局所的に冷却又は加熱すると共に、又はこのような冷却又は加熱を行わずに、力を加えた状態の試料を観察することができる。
【0031】
また、請求項9記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置では、駆動機構が、プローブを支持する支持部材と、該支持部材を支持し且つ電圧の付与により変形してプローブを試料に接触させて力を加える圧電変換素子とを備えているので、力を加えた状態の試料を観察することができる。また、観察に悪影響を及ぼす振動を発生させずにプローブを移動させることできるので、顕微鏡観察中にプローブを移動させることができる。
【0032】
また、請求項10記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置では、駆動機構が、プローブを支持し且つ電圧の付与により変形してプローブを試料に接触させて力を加える圧電変換素子を備えているので、力を加えた状態の試料を観察することができる。また、観察に悪影響を及ぼす振動を発生させずにプローブを移動させることできるので、顕微鏡観察中にプローブを移動させることができる。
【0033】
また、請求項11記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置では、試料とプローブとによってこれらの接触と離間が開閉操作となるスイッチを構成すると共に、試料とプローブの接触によってスイッチが閉じた場合に作動する接触検知手段を備えているので、接触検知手段の作動によってプローブの接触を知ることができ、使い勝手が向上する。
【0034】
さらに、請求項12記載の電子顕微鏡の試料観察方法では、試料の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面にプローブを接触させながら観察を行うので、プローブによって試料の状態や組織を変化させて顕微鏡観察を行うことができる。このため、従来とは異なる新しい研究を行うことができる。
【0035】
また、請求項13記載の電子顕微鏡の試料観察方法では、プローブを冷却又は加熱し、プローブの接触により試料を局所的に冷却又は加熱するので、局所的に冷却又は加熱された状態の試料を観察することができる。
【0036】
また、請求項14記載の電子顕微鏡の試料観察方法では、プローブの接触により試料に力を加えるので、力を加えた状態の試料を観察することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0038】
図1に、本発明の電子顕微鏡用可動プローブ装置の実施形態の一例を示す。電子顕微鏡用可動プローブ装置(以下、単に可動プローブ装置という)は、透過型電子顕微鏡用のもので、プローブ1と、該プローブ1を移動させてその先端を試料2の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面に接触させる駆動機構3を備えている。駆動機構3は、プローブ1を支持し且つ温度変化によって変形する支持部材4と、該支持部材4を冷却又は加熱して変形させプローブ1を試料2に接触させる熱源5とを備えている。
【0039】
本実施形態では、支持部材4は例えばバイメタル製の支持部材である。ただし、バイメタル製の支持部材4に限るものではなく、例えば形状記憶合金製の支持部材4等でも良い。また、熱源5は例えばペルチェ素子等の熱電素子(以下、熱電素子5という)である。ただし、熱電素子5に限るものではなく、例えば低温部又は高温部との間で熱伝達を行うヒートポンプ、電気抵抗により発熱するニクロム線や高温の流体(気体、液体)が流れる熱交換チューブ等を利用したヒータ、低温の流体(気体、液体)が流れる熱交換チューブ等を利用した冷却器等でも良い。
【0040】
また、本実施形態では、プローブ1として熱伝導率の大きな材料で構成されたプローブ1を使用し、熱源5によって支持部材4及びプローブ1を冷却又は加熱し、プローブ1の接触により試料2を局所的に冷却又は加熱するようにしている。例えば、熱伝導率の大きな銀製のプローブ1を使用している。ただし、銀製プローブ1に限るものではない。プローブ1は針形状を成し、先端が細くなっている。このため、顕微鏡観察の邪魔にならず、また試料2のプローブ接触の影響を受ける範囲を狭くすることができる。ただし、プローブ1の形状は針形状以外の形状でも良い。
【0041】
試料2は、例えば図示しない試料加熱ホルダに保持されている。試料2のほぼ中央には孔2aが形成されている。この孔2aは試料2を電子線が透過できる程度の薄さに加工する過程で生じたものであり、この孔2aの周囲が電子線の透過可能な薄さになっている。したがって、孔2aを目印にしてその周辺に電子線を照射して顕微鏡観察を行う。試料2は試料加熱ホルダのヒータによって全体的に均一に加熱される。
【0042】
この可動プローブ装置は、例えば試料加熱ホルダに取り付けられている。即ち、試料加熱ホルダに熱電素子5を固定している。ただし、可動プローブ装置を試料加熱ホルダ以外の部材に取り付けても良い。例えば電子顕微鏡の鏡筒に着脱式のプローブ取付ホルダを設けておき、このプローブ取付ホルダに可動プローブ装置を取り付けるようにしても良い。この場合には、可動プローブ装置を鏡筒に対して着脱可能にすることができる。また、他の部材に可動プローブ装置を取り付けても良い。
【0043】
プローブ1の先端は、例えば試料2の表側面の顕微鏡視野の周辺に接触する。ここで、周辺とは、顕微鏡視野からは外れているが、プローブ1の接触による影響が試料2の顕微鏡視野内の部位にまで及ぶ部位をいう。ただし、プローブ1を試料2の顕微鏡視野内の部位に接触させても良い。さらに、プローブ1を接触させる面は、試料2の表側面、換言すると電子線を照射する側の面に限るものではなく、試料2の裏面にプローブ1を接触させても良い。つまり、試料2の顕微鏡視野内の部位の裏面、又は顕微鏡視野の周辺の裏面にプローブ1を接触させるようにしても良い。
【0044】
次に、可動プローブ装置の作動について説明する。なお、熱電素子5が支持部材4を冷却し、支持部材4が冷却されることで変形する場合を例に説明する。
【0045】
ケーブル10に電流を流し熱源である熱電素子5を使用してバイメタル製の支持部材4を冷却すると、支持部材4が変形してプローブ1が移動し、その先端が試料2の顕微鏡視野の周辺の部位に接触する。支持部材4は、プローブ1の移動距離を考慮して製造されている。即ち、支持部材4の変形量はプローブ1と試料2との間の距離を考慮して決定されており、冷却された支持部材4はプローブ1を試料2に対し、熱伝達を行うには十分であり且つ試料2の変形や変位をできるだけ抑えるように接触させる。
【0046】
支持部材4の冷却によってプローブ1も冷却される。そして、プローブ1の先端の接触により試料2が局所的に冷却される。冷却による影響は顕微鏡視野にも及び、この状態を電子顕微鏡によって観察することができる。
【0047】
ここで、はじめにプローブ1を試料2に接触させて局所的に冷却しておき、他の部位との間に大きな温度勾配を生じさせた状態で観察を行っても良いし、観察中にプローブ1を試料2に接触させて冷却の過程を観察しても良い。また、接触させていたプローブ1を観察中に離間させて温度が上昇する過程を観察しても良い。また、観察中にプローブ1を試料2に接触させたり離間させたりするのを繰り返し、温度の繰り返し変化(熱サイクル)の様子を観察しても良い。
【0048】
また、試料2の局所的な冷却部分のみを顕微鏡視野に入れて観察しても良いし、冷却による低温部分とその他の高温部分とを一緒に顕微鏡視野に入れて観察しても良い。特に、プローブ1の先端を細くし、且つ試料2自体の熱伝導率が小さい場合には、試料2のプローブ1によって冷却される部位が狭くなり、また低温部分と高温部分の境界が比較的はっきりするので、低温部分と高温部分とを一緒に観察するのに適している。また、低温部分と高温部分の境界が比較的はっきりとしない場合には、これらの間の温度勾配が生じている部分を顕微鏡視野に入れて観察しても良い。
【0049】
この可動プローブ装置は、支持部材4の温度変化による変形によってプローブ1を移動させるので、モータ等の動力源を使用してプローブ1を移動させる場合のように振動が発生することがなく、振動を嫌う顕微鏡観察を良好に継続することができる。このため、プローブ1を移動させた状態で観察を行う場合は勿論のこと、観察を行いながらプローブ1を移動させる場合にも観察を良好に行うことができる。
【0050】
また、熱電素子5による冷却によってプローブ1の移動と試料2の局所的な冷却の両方を行うことができるので、大変効率が良い。また、装置の構造が非常に簡単であり、装置を小型化・軽量化することができると共に、製造コストを安くすることができ、さらには耐久性を向上させることもできる。
【0051】
試料加熱ホルダによって試料2を全体的に加熱し、プローブ1によって試料2を局所的に冷却する場合の観察は、例えば以下の材料研究において特に有効である。
(1)固溶元素の析出プロセスの研究
(2)熱サイクル下の材料劣化の研究
(3)強誘電体等の構造相転移の研究
【0052】
例えば、試料加熱ホルダによって試料を300℃に加熱しておき、プローブ1の接触によって局所的に250℃に冷却して観察を行う。
【0053】
次に、本発明の顕微鏡の試料観察方法について説明する。本発明の電子顕微鏡の試料観察方法(以下、単に試料観察方法という)は、試料2の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面にプローブ1を接触させながら観察を行うものである。ここで、プローブ1を冷却又は加熱し、プローブ1の接触により試料2を局所的に冷却又は加熱しても良い。また、プローブ1の接触により試料2に力を加えても良い。あるいは、これらの両方を行っても良い。これらを実現する手段として、上述の可動プローブ装置や後述する可動プローブ装置を使用することができるが、これらに限るものではなく、他の装置や手段を使用しても良い。これらの試料観察方法によって、今までにはない新しい材料研究を行うことができる。
【0054】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の説明では、試料加熱ホルダの使用によって試料2全体を高温に加熱していたが、加熱していない試料2、例えば常温の試料2や試料冷却ホルダを使用して冷却した低温の試料2に適用しても良い。
【0055】
また、上述の説明では、プローブ1によって試料2を局所的に冷却していたが、局所的に加熱しても良い。例えば、常温又は試料冷却ホルダを使用して冷却した低温の試料2を局所的に加熱しても良く、高温の試料2をさらに局所的に加熱しても良い。なお、試料冷却ホルダを使用する場合には、例えば、試料冷却ホルダによって試料を−50℃に冷却しておき、プローブ1の接触によって局所的に0℃に加熱して観察を行う。
【0056】
この場合の観察は、例えば以下の材料研究において特に有効である。
(1)析出物等の溶出プロセスの研究
(2)熱サイクル下の材料劣化の研究
(3)強誘電体等の構造相転移の研究
【0057】
なお、熱源5として熱電素子を使用する場合には、熱電素子5に供給する電流の向きを逆方向にすることで、熱電素子5を加熱用にすることができる。また、熱源5としてヒートポンプを使用する場合には、高温部との間で熱伝達を行うようにすれば良い。
【0058】
また、上述の説明では、できるだけ試料2を変形・変位させないようにプローブ1を試料2に接触させていたが、プローブ1の接触により試料2に力を加えるようにしても良い。即ち、プローブ1の接触により、試料2を局所的に冷却又は加熱することに加え、試料2に力を積極的に加えるようにしても良い。このとき、プローブ1によって冷却又は加熱のみを行う場合に比べて、プローブ1をやや強めに接触させることで、試料2に力を積極的に加えて変形や変位を生じさせることができる。プローブ1が試料2に接触しこれを押し付ける力は、支持部材の変形量や冷却温度等を制御することで制御することができる。
【0059】
この場合にも、振動を発生させずにプローブ1を移動させることができる。また、熱源5による冷却又は加熱によってプローブ1の移動と試料2の局所的な冷却又は加熱との両方を行うことができるので、大変効率が良い。さらに、装置の構造が非常に簡単であり、装置を小型化・軽量化することができると共に、製造コストを安くすることができ、さらには耐久性を向上させることもできる。
【0060】
この場合には、局所的な冷却又は加熱のみを行う場合に比べて、より重要で貴重な実験が可能になる。例えば以下の材料研究において特に有効である。
(1)高温(低温)で且つ応力付与時における材料変形や亀裂に関する研究
(2)高温(低温)で且つ応力付与時における元素の溶出、析出プロセスに関する研究
(3)温度変化を伴い、且つ応力付加が有る時の材料強度、破損等に関する研究
【0061】
材料の亀裂や破損の発生には、外部からの力の付加が大きく影響する場合がある。例えば、発電用タービンのブレードの亀裂や破損、配管等に見られる応力腐食割れ等である。
【0062】
プローブ1を接触させることで試料2に熱(冷却又は加熱する)と応力(力を加える)の両方を付加できることは、実際の現場で発生している破損事象等を良い近似で再現できることを意味し、その機構解明を進める上でも重要である。熱と応力の付加は、より基礎的な研究分野でも重要になる。例えば、(1)応力の発生を伴う結晶構造相転移、(2)圧電素子などの研究に役立つ。
【0063】
本発明のように、熱と応力の付加を微視的なレベルでコントロールできることは、物性をミクロなレベルで研究する上で有効である。
【0064】
また、プローブ1の接触により試料2に対し応力の付加のみを行うようにしても良い。即ち、試料2を局所的に冷却又は加熱するを目的とせずに、試料2に力を積極的に加えることのみを目的にプローブ1を接触させても良い。この場合には、例えばプローブ1の材料として熱伝導率の小さいものを使用することができる。即ち、試料2を局所的に冷却又は加熱する場合には、プローブ1の材料として熱伝導率の大きいものを使用する必要があるが、試料2を局所的に冷却又は加熱することを目的としない場合には、プローブ1の材料として熱伝導率の小さいものを使用することができる。
【0065】
この場合にも、振動を発生させずにプローブ1を移動させることができる。また、装置の構造が非常に簡単であり、装置を小型化・軽量化することができると共に、製造コストを安くすることができ、さらには耐久性を向上させることもできる。
【0066】
この場合の観察は、例えば以下の材料研究において特に有効である。
(1)材料の変形、亀裂の発生・進展プロセスに関する研究
(2)材料硬さ試験
【0067】
また、プローブ1の接触により試料2に対し応力の付加のみを行う場合には、図2に示すような構造にすることもできる。この可動プローブ装置は、駆動機構3が、プローブ1を支持する支持部材4と、支持部材4を支持し且つ電圧の付与により変形してプローブ1を試料2に接触させて力を加えるピエゾ素子等の圧電変換素子6とを備えるものである。この場合には、ケーブル10を介して圧電変換素子6に電圧を付与して変形させると、支持部材4ごとプローブ1を移動させて試料2に接触させることができる。このとき、プローブ1によって冷却又は加熱のみを行う場合に比べて、プローブ1を強めに接触させることで、試料2に力を加えて変形や変位を生じさせることができる。この可動プローブ装置でも、図1の可動プローブ装置と同様に、振動を発生させずにプローブ1を移動させることができる。また、装置の構造が非常に簡単であり、装置を小型化・軽量化することができると共に、製造コストを安くすることができ、さらには耐久性を向上させることもできる。なお、この場合の支持部材4は温度変化によって変形させる必要がないので、バイメタル製や形状記憶合金製以外の支持部材4を使用することができる。
【0068】
また同様に、プローブ1の接触により試料2に対し応力の付加のみを行う場合には、図3に示すような構造にすることもできる。この可動プローブ装置は、駆動機構3が、プローブ1を支持し且つ電圧の付与により変形してプローブ1を試料2に接触させて力を加える圧電変換素子6を備えるものである。即ち、支持部材4を省略し、圧電変換素子6によってプローブ1を直接支持しても良い。この場合には、ケーブル10を介して圧電変換素子6に電圧を付与して変形させると、プローブ1が移動し試料2に接触する。このとき、プローブ1によって冷却又は加熱のみを行う場合に比べて、プローブ1を強めに接触させることで、試料2に力を加えて変形や変位を生じさせることができる。この可動プローブ装置でも、図1の可動プローブ装置と同様に、振動を発生させずにプローブ1を移動させることができる。また、装置の構造が非常に簡単であり、装置を小型化・軽量化することができると共に、製造コストを安くすることができ、さらには耐久性を向上させることもできる。
【0069】
また、駆動機構3として、微小変位が可能な機構を採用しても良い。微小変位が可能な機構としては、例えば外側マイクロメータのスピンドル送り機構等がある。つまり、ねじの回転による軸方向移動を利用して、プローブ1を移動させるようにしても良い。
【0070】
また、図1の可動プローブ装置に対し、バイメタルや形状記憶合金製の支持部材4を省略し、熱源5にプローブ1を直接取り付けても良い。この場合、例えば、図示しないコイルスプリングや板ばね等の付勢手段を設け、この付勢手段によってプローブ1を試料2に接触させるようにすることが好ましい。プローブ1が試料2に接触する力の大きさは、付勢手段の発揮する力を制御することで行う。プローブ1を試料2に接触させた状態で熱源5を作動させてプローブ1を冷却又は加熱することで、試料2を局所的に冷却又は加熱することができる。
【0071】
また、図4に示すように、試料2とプローブ1とによってこれらの接触と離間が開閉操作となるスイッチ7を構成すると共に、試料2とプローブ1の接触によってスイッチ7が閉じた場合に作動する接触検知手段8を備えるようにしても良い。即ち、試料2とプローブ1とを電気を通す材料で構成し、接触検知手段8を作動させる電気回路9の一部として使用しても良い。接触検知手段8としては、たとえばスイッチ7がオン操作された場合に作動するブザーや、点灯するパイロットランプ等の採用が好ましい。接触検知手段8の作動によってプローブ1が試料2に接触していることを確認することができる。また、試料2とプローブ1を電気回路9の一部として使用しているので、電気回路9の構成が簡単なものとなり、また作動を確実なものすることができて信頼性を向上させることができる。なお、試料2が電気が通らない材料の場合には、例えば図5に示すように、試料2のプローブ1が接触する領域に、接触検知手段8を作動させる電気回路9の一部として導電物質層11を設けておき、プローブ1が導電物質層11に接触することでスイッチ7を閉じて接触検知手段8を作動させることが考えられる。導電物質層11としては、電気を通す物質の層であれば特に限定はないが、例えば金、カーボン等を試料2の表面に蒸着させたり塗布することが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の可動プローブ装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の可動プローブ装置の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】本発明の可動プローブ装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図4】接触検知手段を備える電気回路の一例を示す図である。
【図5】接触検知手段を備える電気回路の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1 プローブ
2 試料
3 駆動機構
4 支持部材
5 熱源
6 圧電変換素子
7 スイッチ
8 接触検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブと、該プローブを移動させてその先端を試料の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面に接触させる駆動機構を備えた電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記プローブを支持し且つ温度変化によって変形する支持部材と、該支持部材を冷却又は加熱して変形させ前記プローブを前記試料に接触させる熱源とを備えることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項3】
前記熱源によって前記支持部材及び前記プローブを冷却又は加熱し、前記プローブの接触により前記試料を局所的に冷却又は加熱することを特徴とする請求項2記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項4】
前記試料は試料加熱ホルダに保持されて加熱されており、前記プローブによって前記試料を局所的に冷却又は加熱することを特徴とする請求項3記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項5】
前記試料は試料冷却ホルダに保持されて冷却されており、前記プローブによって前記試料を局所的に加熱又は冷却することを特徴とする請求項3記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項6】
前記支持部材はバイメタル製又は形状記憶合金製の支持部材であることを特徴とする請求項2から5のいずれか1つに記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項7】
前記熱源は、熱電素子、ヒートポンプ、ヒータ、冷却器のいずれか1つであることを特徴とする請求項2から6のいずれか1つに記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項8】
前記プローブの接触により前記試料に力を加えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項9】
前記駆動機構は、前記プローブを支持する支持部材と、該支持部材を支持し且つ電圧の付与により変形して前記プローブを前記試料に接触させて力を加える圧電変換素子とを備えることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項10】
前記駆動機構は、前記プローブを支持し且つ電圧の付与により変形して前記プローブを前記試料に接触させて力を加える圧電変換素子を備えることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項11】
前記試料と前記プローブとによってこれらの接触と離間が開閉操作となるスイッチを構成すると共に、前記試料と前記プローブの接触によって前記スイッチが閉じた場合に作動する接触検知手段を備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか1つに記載の電子顕微鏡用可動プローブ装置。
【請求項12】
試料の顕微鏡視野内の部位又はその周辺あるいはこれらの裏面にプローブを接触させながら観察を行うことを特徴とする電子顕微鏡の試料観察方法。
【請求項13】
前記プローブを冷却又は加熱し、前記プローブの接触により前記試料を局所的に冷却又は加熱することを特徴とする請求項12記載の電子顕微鏡の試料観察方法。
【請求項14】
前記プローブの接触により前記試料に力を加えることを特徴とする請求項12又は13記載の電子顕微鏡の試料観察方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−196310(P2006−196310A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6721(P2005−6721)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】