電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置
【課題】電子顕微鏡用試料の薄膜化を可能とすること。
【解決手段】一端34が他端より膜厚の小さい先細り形状の支持台の前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて、試料の正面がみえるように前記試料を前記一端に搭載する工程と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する工程と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面44a、44bにイオンビーム82を照射することにより、前記上面をイオンミリングする工程と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造方法。
【解決手段】一端34が他端より膜厚の小さい先細り形状の支持台の前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて、試料の正面がみえるように前記試料を前記一端に搭載する工程と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する工程と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面44a、44bにイオンビーム82を照射することにより、前記上面をイオンミリングする工程と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置に関し、例えば、FIBとイオンミリングを用いる電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)等の電子顕微鏡を用いて観察するための電子顕微鏡用試料の製造方法として、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を用いる方法が用いられている。集束イオンビームは、Ga等のビームを集束して試料に照射することにより、試料の一部を昇華させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−70155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子デバイス等の微細化により、電子顕微鏡用試料の薄膜化が求められている。しかしながら、FIBを用いた電子顕微鏡用試料の製造方法では、薄い電子顕微鏡用試料を製造しようとすると、ダメージ層が無視できなくなる。また、電子顕微鏡用試料の表面に汚染が発生しやすく、電子顕微鏡用試料の薄膜化が難しい。本電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置は、電子顕微鏡用試料の薄膜化を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
例えば、一端が他端より膜厚の小さい先細り形状の支持台の前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて、試料の正面がみえるように前記試料を前記一端に搭載する工程と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する工程と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面にイオンビームを照射することにより、前記上面をイオンミリングする工程と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造方法を用いる。
【0006】
例えば、一端が他端より膜厚の小さい先細り形状であり、前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて試料の正面がみえるように前記試料を搭載する支持台と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する第1照射機構と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面をイオンミリングする第2照射機構と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造装置を用いる。
【発明の効果】
【0007】
本電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置によれば、電子顕微鏡用試料の薄膜化を可能とすることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)から図1(c)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その1)である。
【図2】図2(a)および図2(b)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その2)である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その3)である。
【図4】図4(a)から図2(f)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その4)である。
【図5】図5(a)から図5(c)は、試料に、例えばイオンビームを照射する例を示す図である。
【図6】図6(a)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造装置の模式図、図6(b)は、実施例1において用いる試料台の斜視図である。
【図7】図7(a)から図7(c)は、実施例1において用いる平板支持台を示す図である。
【図8】図8(a)および図8(b)は、実施例1において用いる試料支持台を示す図である。
【図9】図9(a)および図9(b)は、平板支持台および試料支持台の別の例である。
【図10】図10(a)から図10(d)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その1)である。
【図11】図11(a)から図11(d)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その2)である。
【図12】図12(a)から図12(d)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施例を説明する前に、比較例を説明し、電子顕微鏡用試料の製造方法の課題について説明する。図1から図4(f)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図である。図1(a)は、TEM観察するウエハを示す斜視図である。図1(a)のように、ウエハ50内にTEM観察する観察箇所10がある。ウエハ50は、例えばシリコン基板または化合物半導体基板を用いたウエハまたはチップである。ウエハ50表面をZ面(XY面)とし、X方向およびY方向に、ダイシングソーを用いウエハ50をカットする。この際、図1(a)の実線の領域は、ウエハ50をX方向およびY方向にフルカットする。一方、破線の領域は、ウエハ50をX方向にハーフカットする。
【0010】
図1(b)は、切り出される試料60の近傍の断面斜視図である。図1(b)のように、ウエハ50のうち領域52がフルカットされた領域であり、ウエハ50の裏面までカットされている。領域54がハーフカットさらた領域であり、ウエハ50の途中までカットされている。領域54は、観察箇所10を挟むように形成する。
【0011】
図1(c)は、切り出された試料60の斜視図である。図1(c)のように、フルカットにより切り出された試料60の大きさは、フルカットにより切り出されたY方向の幅W2が例えば約200μm、ハーフカットにより切り出されたY方向の幅W1が例えば約30μmから50μmである。このように、試料60は、幅の狭い第1部56と幅が広い第2部58とから形成される。また、試料60のX方向の長さL1は例えば約1.8mm、Z方向の高さL2は例えば約1.2mmである。
【0012】
図2(a)は、試料60を馬蹄形状のメッシュ70に試料60を搭載した斜視図、図2(b)は上面図である。図2(a)および図2(b)のように、メッシュ70の径L3は約3mmである。メッシュ70は、例えば金属により形成されている。試料60は、観察箇所10側、つまり第1部56側が馬蹄の開口側となるように、試料60のXZ面をメッシュ70上に配置する。試料60のZ方向が、メッシュ70の開口方向となる。試料60がメッシュ70に配置されていることにより、試料60をピンセット等で取り扱い易くなる。
【0013】
図3(a)は、メッシュ70を省略し、試料60にFIBを照射している斜視図である。図3(b)は、図3(a)の領域61の拡大図である。図3(a)のように、試料60の正面やや上方(Z方向からややY方向に傾いた方向)からFIB80を試料60に照射する。このとき、FIB80は、第1部56の上面から低角度で照射することが好ましい。FIB80の照射角度が大きい(すなわち第1部56の上面から照射する)と、第3部62の膜厚にばらつきが生じてしまうためである。FIB80の加速エネルギーは例えば30keV程度である。さらに、試料60を回転させ、第1部56の下面にもFIB80を照射する。図3(b)のように、FIB80を上下両面に照射することにより、第1部56の上面側および下面側を削る。これにより、第1部56の上面および下面に凹部64が形成される。凹部64間にはY方向の膜厚T1が約100nmの第3部62が形成される。第3部62には観察箇所10が含まれる。
【0014】
図4(a)から図4(c)は、領域61の斜視図、図4(d)から図4(e)は、それぞれ図4(a)から図4(c)のA−A断面図である。図4(a)は、図3(a)と同じFIB80を照射する前の図であり、説明を省略する。図4(d)のように、第1部56の前面(Z方向側)には保護膜69が被覆されている。観察箇所10は保護膜69により保護されている。図4(b)は、図3(b)と同じ図であり、FIB80を用い、試料60の上面および下面を削った図である。図4(e)のように、第3部62のY方向の膜厚T1を100nmとすると、上下面にそれぞれY方向の膜厚T2が20nm程度のダメージ層66が形成される。ダメージ層66においては、FIB80の衝撃により結晶が破壊されている。例えば図4(b)のように電子線85が第3部62を−Y方向に透過することにより、TEM観察を行なう。ダメージ層66を透過する電子線85はTEM観察には適さない。しかし、ダメージ層66の間の正常層68のY方向の膜厚は60nm程度あり、ダメージ層66より厚い。このため、この正常層68により、TEM観察を行なうことができる。
【0015】
図4(c)は、第3部62の膜厚をさらに薄くした場合を示す図である。図4(f)のように、第3部62のY方向の膜厚T1を約50nmとすると、上下にY方向の膜厚T2が約20nmのダメージ層66が形成されているため、正常層68の膜厚は約10nmとなってしまう。これでは、電子線85が第3部62を透過した際に、ダメージ層66に対し正常層68のY方向の膜厚が薄すぎるため、正常なTEM観察が難しい。
【0016】
図5(a)から図5(c)は、試料60の領域61に、例えばイオンビームを照射する例を示す図である。図5(a)のように、低エネルギーのイオンビーム82を、第3部62の上面(FIB80を照射した面)に照射し、第3部62の上面をイオンミリングする。これにより、ダメージ層66を除去することができる。照射するイオンとしては、例えばAr等の希ガスが用いられる。また、照射エネルギーは、100eVから1eVと低エネルギーである。照射エネルギーが小さすぎると、ダメージ層66を除去できない。一方、照射エネルギーが大きすぎると、新たなダメージ層を形成してしまう。イオンビーム82の照射角度(Z方向からY方向に向かう角度)は第3部62の上面に対し低角度であることが好ましい。例えば、イオンビーム82の照射角度が大きすぎると、第3部62中の硬い領域と柔らかい領域とで、エッチング速度差が生じ、第3部62の膜厚にばらつきが生じてしまう。イオンビーム82の照射角度は、例えば20°以下とすることが好ましい。
【0017】
図5(b)のように、イオンビーム82を低角度で照射した場合、イオンビーム82は、凹部65の壁(例えばXY面)に照射され、壁のエッチングにより矢印のように汚染物63が壁から脱離する。これにより、第3部62の上面に汚染物63が付着してしまう。この汚染物63により、正常なTEM観察が難しくなる。そこで、図5(b)のようにイオンビーム82を、第3部62とは反対側(−Z方向)から照射しようとしても、第1部56および第2部58が存在するため、FIB照射方向と反対の方向からイオンビーム82を照射することが難しい。
【0018】
さらに、図5(c)のように、第3部62には、柔らかい物質の部分72と硬い部分74とが含まれる。例えば、無機絶縁膜は硬く、配線金属は柔らかい。部分72と部分74の−Z側に普通の硬さの物質の部分78がある。例えば普通の硬さ部分78としてシリコン基板がある。この場合、FIB80が−Z方向に照射されることにより、硬い部分74のエッチングが遅くなり、硬い部分74と柔らかい部分72とに段差ができる。この段差が普通の硬さの部分78に転写される。部分78に段差76が転写される。このような段差76を抑制するためには、イオンビームをFIB80とは逆方向から照射することが好ましい。
【0019】
以上説明したように、比較例の試料作製方法においては、ダメージ層の形成、試料表面への汚染物質の付着、段差の転写等により、観察試料の薄膜化が難しい。以下、観察試料の薄膜化が容易な実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
図6(a)および図6(b)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造装置の模式図である。図6(a)のように、製造装置100は、主にチャンバ12、第1照射機構90、第2照射機構95、SEM(Scanning Electron Microscope)装置96、マニュピュレータ48、ガスデポジション銃49および試料台14を備えている。チャンバ12は、試料台14等を真空に保持する。
【0021】
第1照射機構90は、試料40にFIB80を照射する。第1照射機構90は、主に、FIBイオン銃91と、FIB用レンズおよびスキャンコイル92と、を備える。FIBイオン銃91は、例えばGa等のイオンビーム80を出射する。加速エネルギーは例えば30keVである。FIB用レンズは、FIBビームを集束する。スキャンコイルは、FIB80の照射位置を設定する。
【0022】
第2照射機構95は、試料40にイオンビームを照射する。第2照射機構95は、低加速イオン銃93と、スキャンコイルおよび揺動機構94と、を備えている。低加速イオン銃93は、例えばAr等の希ガスイオンビーム82を出射する。加速エネルギーは例えば100eVから1keVである。スキャンコイルは、イオンビーム82走査し照射角度を設定できる。揺動機構は、イオンビーム82を揺動し、イオンビーム82を広範囲に照射する。また、揺動機構により、イオンビーム82の照射角度を設定することもできる。
【0023】
SEM装置96は、電子線を用い試料40を観察する。SEM装置96は、電子銃97と、SEM用レンズおよびスキャンコイル98と、を備えている。電子銃97は、例えば電子線84を出射する。SEM用レンズは、電子線84を集束する。スキャンコイルは、電子線84の照射位置を設定できる。電子顕微鏡用試料の製造工程においては、試料をSEM観察しながら処理を行なう。しかしながら、SEM装置96は設けられていなくともよい。
【0024】
マニュピュレータ48は、マイクロプローブマニュプレータであり、例えば試料40をメッシュに移設する。ガスデボジション銃49は、デポジション材を放出する銃である。放出されたデポジション材により、試料40をメッシュに接着させる。試料台14は、試料40を支持する。試料台14は、支柱20、回転機構16および平板支持台22を備えている。
【0025】
図6(b)は、実施例1において用いる試料台14の斜視図である。試料台14は、支柱20、回転機構16、平板支持台22、モータ24およびギア18を備えている。支柱20は、回転機構16上に設けられている。回転機構16は、支柱20を矢印15方向に360°回転させることができる。2本の支柱20は、平板支持台22を支持する。平板支持台22はギア18に固定されている。モータ24が回転することにより、平板支持台22は矢印21の方向に360°回転することができる。平板支持台22には、1または複数のメッシュ70が搭載されている。このように、試料台14は、メッシュ70に搭載された試料40を上下方向に延伸する軸を中心に360°回転させ、かつ平板支持台22の延伸方向を中心に360°回転させることができる。試料台14は、第1照射機構90、第2照射機構95およびSEM装置96に対し、試料40をユーセントリック位置に調整できるようになっている。
【0026】
図7(a)から図7(c)は、実施例1において用いる平板支持台22を示す図である。平板支持台22の幅方向をY方向、延伸方向をX方向、メッシュ70を配置する方向をZ方向とする。図7(a)は、平板支持台22の斜視図である。図7(a)のように平板支持台22は、厚部26と薄部28とを含む。薄部28には、例えばメッシュ70が3個装着可能である。メッシュ70は、1または複数装着可能であればよい。平板支持台22は、元素分析において、他の元素と混同しないような材料が用いられることが好ましい。平板支持台22の材料として、例えば、アルミニウム、モリブデン、チタン、ステンレルおよび銅等の金属を用いることができる。
【0027】
図7(b)は、平板支持台22の拡大上面図、図7(c)は、図7(b)のA−A断面図である。図7(b)および図7(c)のように、厚部26のZ方向の幅W11は例えば約2.5mm、厚部26のY方向の厚さT11は例えば約4mmである。薄部28のZ方向の幅W12は例えば約7.5mmである。薄部28のY方向の厚さT12は例えば2.5mmである。メッシュ70を中心にさらに薄い薄部30が設けられている。薄部30の半径W13が約4mmであり、Y方向の膜厚T13が約1mmである。メッシュ70の直径は約3mmであり、Z方向の幅W14は約2.65mmである。メッシュ70は、薄部30の凹部38に嵌めこまれ固定される。図7(c)の点線のように、平板支持台22は、入射角度θが例えば15°のイオンビーム82が、遮蔽されないように階段状の形状となっている。メッシュ70の中心付近にはさらに、試料支持台32が設けられている。メッシュ70および試料支持台32は、元素分析において、他の元素と混同しないような材料が用いられることが好ましい。メッシュ70および試料支持台32の材料として、例えば、アルミニウム、モリブデン、チタン、ステンレスおよび銅等の金属、シリコン等の半導体並びにガラス等の絶縁体を用いることができる。試料支持台32は、例えば、エッチングプロセス法、射出成型法またはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)法を用い形成することができる。
【0028】
図8(a)および図8(b)は、実施例1において用いる試料支持台を示す図である。図8(a)は、試料支持台32を固定したメッシュ70を示す上面図である。図8(b)は、試料支持台32の断面図である。図8(b)のように、試料支持台32は、一端34が他端35より膜厚の小さい先細り形状をしている。最も厚い部分32aのZ方向の幅W01は1mm、Y方向の膜厚T01は500μmである。次に厚い部分32bのZ方向の幅W02は350μm、Y方向の膜厚T02は250μmである。次に厚い部分32cのZ方向の幅W03は250μm、Y方向の膜厚T03は100μmである。次に厚い部分32dのZ方向の幅W04は100μm、Y方向の膜厚T04は25μmである。最も薄い部分32eのZ方向の幅W05は50μm、Y方向の膜厚T05は5μmである。最も薄い部分32eの先端(一端34)に試料40の背面を搭載する。点線のように、試料支持台32は、入射角度θが例えば15°のイオンビーム82が、遮蔽されないように階段状の形状となっている。
【0029】
図9(a)および図9(b)は、平板支持台および試料支持台の別の例である。図9(a)のように、平板支持台22aの薄部27の膜厚が連続的に薄くなっている。厚部26に接する薄部27のY方向の膜厚は4mmであり、最も薄い薄部30に接するY方向の膜厚T13は1mmである。薄部30のY方向の膜厚T13は1mmで一定である。はメッシュ70は、薄部30に形成された凹部38に嵌めこまれ固定される。
【0030】
図9(b)のように、試料支持台32は、一端34が他端35より膜厚が小さくなるように連続的に薄くなる部分33bを備えている。部分33のZ方向の幅W06は、約800μmである。部分33の最もZ側のY方向の膜厚T05は例えば約5μmである。部分33の先端(一端34)に試料40の背面を搭載する。図9(a)および図9(b)のように、平板支持台および試料支持台は、入射角度θが例えば15°のイオンビーム82が、遮蔽されないようにテーパ状とすることができる。
【0031】
次に、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法について説明する。図10(a)から図12(d)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図である。図10(a)は、試料40の切り出しを示す斜視図、図10(b)は上面図である。図10(a)のように、試料40を切り出すウエハ50またはチップを、図6(a)に示した試料作製装置内に導入する。ウエハ50またはチップにFIB80を照射する。図10(b)のように、試料40を切り出す周囲41をFIB80により削る。試料40をマニュピュレータ48を用いウエハ50またはチップから切り離す。このとき、例えば、ガスデポジション銃を用い、試料40とマニュピュレータ48との接着を行なう。図10(c)は、試料40の斜視図である。図10(c)のように、試料40の大きさは、例えば、Y方向の幅W5は約2μmから3μm、Z方向の高さL4は10μmから20μm、X方向の長さL5は10μmから30μmである。図10(d)のように、試料40を、試料支持台32の最も薄い部分32eの一端34に固定する。このとき、例えば、ガスデポジション銃を用い、試料40と試料支持台32との接着を行なう。一端34側から他端35側を(例えば−Z方向に)みて、試料40の正面が見えるように試料40を一端に搭載する。
【0032】
図11(a)および図11(b)は、部分32eの一端34に搭載された試料40の斜視図である。図11(c)および図11(d)は、それぞれ図11(a)および図11(b)のA−A断面図である。図11(c)のように、試料40の正面側には、保護膜69として例えばW、Pt、Au、Cr、Cまたは有機膜(例えばレジスト膜またはプラズマ重合膜)が形成されている。図11(a)のように、試料40の正面側から試料40にFIB80を照射する。図11(b)のように、試料40のXY面の両面44aおよび44bをFIBを用い削ることにより、薄い部分42を形成する。図11(d)のように、部分42のY方向膜厚T1を例えば100nmとする。部分42の表面にはY方向の膜厚T2が約20nmのダメージ層66が形成される。ダメージ層66の間に、例えば膜厚が約60nmの正常層68が形成される。
【0033】
図12(a)および図12(b)は、部分32eの先端34に搭載された試料40の斜視図である。図12(c)および図12(d)は、それぞれ図12(a)および図12(b)の断面図である。図12(a)のように、試料40の背面(正面の反対の面)から試料40の部分42の上面44aにイオンビーム82を照射する。上面44aは、試料支持台32の膜厚方向(Y方向)の面である。これにより、面44aをイオンミリングする。これにより、図12(c)のように、面44aのダメージ層66が除去される。イオンビーム82の加速エネルギーは100eVから1KeVと小さいため、面44aにダメージ層は形成されない。図12(b)のように、試料40を180°回転させる。試料40の背面から部分42の面44bの表面にイオンビーム82を照射する。これにより、図12(d)のように、面44bのダメージ層66が除去される。以上により、Y方向の膜厚T3が50nm以下の試料を作製することができる。イオンビーム82を揺動させながら照射することにより、エッチングむらを低減できる。
【0034】
実施例1によれば、図8(b)のように、先細り形状の試料支持台32の一端34に、試料40を搭載する。図11(a)のように、試料40の正面から、試料40に集束イオンビーム80を照射する。図11(a)および図11(b)のように、試料40の背面から、試料40の上面44aまたは44bにイオンビームを照射することにより、上面44aまたは44bをイオンミリングする。
【0035】
以上により、ダメージ層66がほとんどない試料を作製できるため、膜厚が50nm以下の薄い試料を作製することができる。さらに、イオンビーム82が比較例の図5(b)のように壁に当らないため、汚染物63が面44aまたは44b上に付着することを抑制できる。さらに、FIB80の照射方向とは逆の方向からイオンビーム82を照射するため、図5(c)のようなエッチングむらも抑制することができる。
【0036】
また、図8(b)および図9(b)のように、試料支持台32は、他端35から一端34にかけて膜厚が小さくなる階段状またはテーパ状であることが好ましい。これにより、試料40の背面から照射するイオンビーム82が試料支持台32により遮蔽されることを抑制できる。
【0037】
イオンビーム82の入射角度が大きいと、試料40中の硬い領域と柔らかい領域とで、エッチング速度差が生じ、試料40の膜厚にばらつきが生じてしまう。また、イオンミリングされた原子等が上面44aまたは44bに再付着することもある。よって、これらを抑制するため、イオンビーム82は、試料40の上面44aおよび44bに対し20°以下の入射角度で試料40に照射することが好ましい。さらに、入射角度は15°以下が好ましい。また、入射角度を小さくするためには、図8(b)または図9(b)において、試料支持台32の先細りを鋭くすることになる。このため、試料支持台32の作製が難しくなる。よって、入射角度は10°以上が好ましい。
【0038】
さらに、イオンビーム82を、走査または揺動させることにより、試料40の上面44aまたは44bに対する入射角度を調整することが好ましい。これにより、入射角度をより精度よく調整することができる。
【0039】
さらに、イオンビーム82はAr等の希ガスイオンビームであることが好ましい。これにより、試料40と反応することなく、試料40をイオンミリングすることができる。
【0040】
さらに、イオンビーム82の加速エネルギーは集束イオンビーム80より小さいことが好ましい。これにより、試料40の表面に生じるダメージ層を抑制することができる。
【0041】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0042】
実施例1を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
付記1:一端が他端より膜厚の小さい先細り形状の支持台の前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて、試料の正面がみえるように前記試料を前記一端に搭載する工程と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する工程と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面にイオンビームを照射することにより、前記上面をイオンミリングする工程と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記2:前記支持台は、前記他端から前記一端にかけて膜厚が小さくなる階段状またはテーパ状であることを特徴とする付記1記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記3:前記イオンビームは、前記試料の前記上面に対し20°以下の入射角度で前記試料に照射することを特徴とする付記1または2記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記4:前記イオンビームを、走査または揺動させることにより、前記試料の前記上面に対する入射角度を調整することを特徴とする付記1から3のいずれか一項記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記5:前記イオンビームは希ガスイオンビームであることを特徴とする付記1から4のいずれか一項に記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記6:前記イオンビームの加速エネルギーは前記集束イオンビームより小さいことを特徴とする付記1から5のいずれか一項に記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記7:一端が他端より膜厚の小さい先細り形状であり、前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて試料の正面がみえるように前記試料を搭載する支持台と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する第1照射機構と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面をイオンミリングする第2照射機構と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造装置。
【符号の説明】
【0043】
32 試料支持台
34 一端
35 他端
40 試料
44a、44b 上面
80 集束イオンビーム
82 イオンビーム
90 第1照射機構
92 第2照射機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置に関し、例えば、FIBとイオンミリングを用いる電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)等の電子顕微鏡を用いて観察するための電子顕微鏡用試料の製造方法として、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を用いる方法が用いられている。集束イオンビームは、Ga等のビームを集束して試料に照射することにより、試料の一部を昇華させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−70155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子デバイス等の微細化により、電子顕微鏡用試料の薄膜化が求められている。しかしながら、FIBを用いた電子顕微鏡用試料の製造方法では、薄い電子顕微鏡用試料を製造しようとすると、ダメージ層が無視できなくなる。また、電子顕微鏡用試料の表面に汚染が発生しやすく、電子顕微鏡用試料の薄膜化が難しい。本電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置は、電子顕微鏡用試料の薄膜化を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
例えば、一端が他端より膜厚の小さい先細り形状の支持台の前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて、試料の正面がみえるように前記試料を前記一端に搭載する工程と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する工程と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面にイオンビームを照射することにより、前記上面をイオンミリングする工程と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造方法を用いる。
【0006】
例えば、一端が他端より膜厚の小さい先細り形状であり、前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて試料の正面がみえるように前記試料を搭載する支持台と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する第1照射機構と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面をイオンミリングする第2照射機構と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造装置を用いる。
【発明の効果】
【0007】
本電子顕微鏡用試料の製造方法および電子顕微鏡用試料の製造装置によれば、電子顕微鏡用試料の薄膜化を可能とすることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)から図1(c)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その1)である。
【図2】図2(a)および図2(b)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その2)である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その3)である。
【図4】図4(a)から図2(f)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その4)である。
【図5】図5(a)から図5(c)は、試料に、例えばイオンビームを照射する例を示す図である。
【図6】図6(a)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造装置の模式図、図6(b)は、実施例1において用いる試料台の斜視図である。
【図7】図7(a)から図7(c)は、実施例1において用いる平板支持台を示す図である。
【図8】図8(a)および図8(b)は、実施例1において用いる試料支持台を示す図である。
【図9】図9(a)および図9(b)は、平板支持台および試料支持台の別の例である。
【図10】図10(a)から図10(d)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その1)である。
【図11】図11(a)から図11(d)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その2)である。
【図12】図12(a)から図12(d)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施例を説明する前に、比較例を説明し、電子顕微鏡用試料の製造方法の課題について説明する。図1から図4(f)は、比較例に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図である。図1(a)は、TEM観察するウエハを示す斜視図である。図1(a)のように、ウエハ50内にTEM観察する観察箇所10がある。ウエハ50は、例えばシリコン基板または化合物半導体基板を用いたウエハまたはチップである。ウエハ50表面をZ面(XY面)とし、X方向およびY方向に、ダイシングソーを用いウエハ50をカットする。この際、図1(a)の実線の領域は、ウエハ50をX方向およびY方向にフルカットする。一方、破線の領域は、ウエハ50をX方向にハーフカットする。
【0010】
図1(b)は、切り出される試料60の近傍の断面斜視図である。図1(b)のように、ウエハ50のうち領域52がフルカットされた領域であり、ウエハ50の裏面までカットされている。領域54がハーフカットさらた領域であり、ウエハ50の途中までカットされている。領域54は、観察箇所10を挟むように形成する。
【0011】
図1(c)は、切り出された試料60の斜視図である。図1(c)のように、フルカットにより切り出された試料60の大きさは、フルカットにより切り出されたY方向の幅W2が例えば約200μm、ハーフカットにより切り出されたY方向の幅W1が例えば約30μmから50μmである。このように、試料60は、幅の狭い第1部56と幅が広い第2部58とから形成される。また、試料60のX方向の長さL1は例えば約1.8mm、Z方向の高さL2は例えば約1.2mmである。
【0012】
図2(a)は、試料60を馬蹄形状のメッシュ70に試料60を搭載した斜視図、図2(b)は上面図である。図2(a)および図2(b)のように、メッシュ70の径L3は約3mmである。メッシュ70は、例えば金属により形成されている。試料60は、観察箇所10側、つまり第1部56側が馬蹄の開口側となるように、試料60のXZ面をメッシュ70上に配置する。試料60のZ方向が、メッシュ70の開口方向となる。試料60がメッシュ70に配置されていることにより、試料60をピンセット等で取り扱い易くなる。
【0013】
図3(a)は、メッシュ70を省略し、試料60にFIBを照射している斜視図である。図3(b)は、図3(a)の領域61の拡大図である。図3(a)のように、試料60の正面やや上方(Z方向からややY方向に傾いた方向)からFIB80を試料60に照射する。このとき、FIB80は、第1部56の上面から低角度で照射することが好ましい。FIB80の照射角度が大きい(すなわち第1部56の上面から照射する)と、第3部62の膜厚にばらつきが生じてしまうためである。FIB80の加速エネルギーは例えば30keV程度である。さらに、試料60を回転させ、第1部56の下面にもFIB80を照射する。図3(b)のように、FIB80を上下両面に照射することにより、第1部56の上面側および下面側を削る。これにより、第1部56の上面および下面に凹部64が形成される。凹部64間にはY方向の膜厚T1が約100nmの第3部62が形成される。第3部62には観察箇所10が含まれる。
【0014】
図4(a)から図4(c)は、領域61の斜視図、図4(d)から図4(e)は、それぞれ図4(a)から図4(c)のA−A断面図である。図4(a)は、図3(a)と同じFIB80を照射する前の図であり、説明を省略する。図4(d)のように、第1部56の前面(Z方向側)には保護膜69が被覆されている。観察箇所10は保護膜69により保護されている。図4(b)は、図3(b)と同じ図であり、FIB80を用い、試料60の上面および下面を削った図である。図4(e)のように、第3部62のY方向の膜厚T1を100nmとすると、上下面にそれぞれY方向の膜厚T2が20nm程度のダメージ層66が形成される。ダメージ層66においては、FIB80の衝撃により結晶が破壊されている。例えば図4(b)のように電子線85が第3部62を−Y方向に透過することにより、TEM観察を行なう。ダメージ層66を透過する電子線85はTEM観察には適さない。しかし、ダメージ層66の間の正常層68のY方向の膜厚は60nm程度あり、ダメージ層66より厚い。このため、この正常層68により、TEM観察を行なうことができる。
【0015】
図4(c)は、第3部62の膜厚をさらに薄くした場合を示す図である。図4(f)のように、第3部62のY方向の膜厚T1を約50nmとすると、上下にY方向の膜厚T2が約20nmのダメージ層66が形成されているため、正常層68の膜厚は約10nmとなってしまう。これでは、電子線85が第3部62を透過した際に、ダメージ層66に対し正常層68のY方向の膜厚が薄すぎるため、正常なTEM観察が難しい。
【0016】
図5(a)から図5(c)は、試料60の領域61に、例えばイオンビームを照射する例を示す図である。図5(a)のように、低エネルギーのイオンビーム82を、第3部62の上面(FIB80を照射した面)に照射し、第3部62の上面をイオンミリングする。これにより、ダメージ層66を除去することができる。照射するイオンとしては、例えばAr等の希ガスが用いられる。また、照射エネルギーは、100eVから1eVと低エネルギーである。照射エネルギーが小さすぎると、ダメージ層66を除去できない。一方、照射エネルギーが大きすぎると、新たなダメージ層を形成してしまう。イオンビーム82の照射角度(Z方向からY方向に向かう角度)は第3部62の上面に対し低角度であることが好ましい。例えば、イオンビーム82の照射角度が大きすぎると、第3部62中の硬い領域と柔らかい領域とで、エッチング速度差が生じ、第3部62の膜厚にばらつきが生じてしまう。イオンビーム82の照射角度は、例えば20°以下とすることが好ましい。
【0017】
図5(b)のように、イオンビーム82を低角度で照射した場合、イオンビーム82は、凹部65の壁(例えばXY面)に照射され、壁のエッチングにより矢印のように汚染物63が壁から脱離する。これにより、第3部62の上面に汚染物63が付着してしまう。この汚染物63により、正常なTEM観察が難しくなる。そこで、図5(b)のようにイオンビーム82を、第3部62とは反対側(−Z方向)から照射しようとしても、第1部56および第2部58が存在するため、FIB照射方向と反対の方向からイオンビーム82を照射することが難しい。
【0018】
さらに、図5(c)のように、第3部62には、柔らかい物質の部分72と硬い部分74とが含まれる。例えば、無機絶縁膜は硬く、配線金属は柔らかい。部分72と部分74の−Z側に普通の硬さの物質の部分78がある。例えば普通の硬さ部分78としてシリコン基板がある。この場合、FIB80が−Z方向に照射されることにより、硬い部分74のエッチングが遅くなり、硬い部分74と柔らかい部分72とに段差ができる。この段差が普通の硬さの部分78に転写される。部分78に段差76が転写される。このような段差76を抑制するためには、イオンビームをFIB80とは逆方向から照射することが好ましい。
【0019】
以上説明したように、比較例の試料作製方法においては、ダメージ層の形成、試料表面への汚染物質の付着、段差の転写等により、観察試料の薄膜化が難しい。以下、観察試料の薄膜化が容易な実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
図6(a)および図6(b)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造装置の模式図である。図6(a)のように、製造装置100は、主にチャンバ12、第1照射機構90、第2照射機構95、SEM(Scanning Electron Microscope)装置96、マニュピュレータ48、ガスデポジション銃49および試料台14を備えている。チャンバ12は、試料台14等を真空に保持する。
【0021】
第1照射機構90は、試料40にFIB80を照射する。第1照射機構90は、主に、FIBイオン銃91と、FIB用レンズおよびスキャンコイル92と、を備える。FIBイオン銃91は、例えばGa等のイオンビーム80を出射する。加速エネルギーは例えば30keVである。FIB用レンズは、FIBビームを集束する。スキャンコイルは、FIB80の照射位置を設定する。
【0022】
第2照射機構95は、試料40にイオンビームを照射する。第2照射機構95は、低加速イオン銃93と、スキャンコイルおよび揺動機構94と、を備えている。低加速イオン銃93は、例えばAr等の希ガスイオンビーム82を出射する。加速エネルギーは例えば100eVから1keVである。スキャンコイルは、イオンビーム82走査し照射角度を設定できる。揺動機構は、イオンビーム82を揺動し、イオンビーム82を広範囲に照射する。また、揺動機構により、イオンビーム82の照射角度を設定することもできる。
【0023】
SEM装置96は、電子線を用い試料40を観察する。SEM装置96は、電子銃97と、SEM用レンズおよびスキャンコイル98と、を備えている。電子銃97は、例えば電子線84を出射する。SEM用レンズは、電子線84を集束する。スキャンコイルは、電子線84の照射位置を設定できる。電子顕微鏡用試料の製造工程においては、試料をSEM観察しながら処理を行なう。しかしながら、SEM装置96は設けられていなくともよい。
【0024】
マニュピュレータ48は、マイクロプローブマニュプレータであり、例えば試料40をメッシュに移設する。ガスデボジション銃49は、デポジション材を放出する銃である。放出されたデポジション材により、試料40をメッシュに接着させる。試料台14は、試料40を支持する。試料台14は、支柱20、回転機構16および平板支持台22を備えている。
【0025】
図6(b)は、実施例1において用いる試料台14の斜視図である。試料台14は、支柱20、回転機構16、平板支持台22、モータ24およびギア18を備えている。支柱20は、回転機構16上に設けられている。回転機構16は、支柱20を矢印15方向に360°回転させることができる。2本の支柱20は、平板支持台22を支持する。平板支持台22はギア18に固定されている。モータ24が回転することにより、平板支持台22は矢印21の方向に360°回転することができる。平板支持台22には、1または複数のメッシュ70が搭載されている。このように、試料台14は、メッシュ70に搭載された試料40を上下方向に延伸する軸を中心に360°回転させ、かつ平板支持台22の延伸方向を中心に360°回転させることができる。試料台14は、第1照射機構90、第2照射機構95およびSEM装置96に対し、試料40をユーセントリック位置に調整できるようになっている。
【0026】
図7(a)から図7(c)は、実施例1において用いる平板支持台22を示す図である。平板支持台22の幅方向をY方向、延伸方向をX方向、メッシュ70を配置する方向をZ方向とする。図7(a)は、平板支持台22の斜視図である。図7(a)のように平板支持台22は、厚部26と薄部28とを含む。薄部28には、例えばメッシュ70が3個装着可能である。メッシュ70は、1または複数装着可能であればよい。平板支持台22は、元素分析において、他の元素と混同しないような材料が用いられることが好ましい。平板支持台22の材料として、例えば、アルミニウム、モリブデン、チタン、ステンレルおよび銅等の金属を用いることができる。
【0027】
図7(b)は、平板支持台22の拡大上面図、図7(c)は、図7(b)のA−A断面図である。図7(b)および図7(c)のように、厚部26のZ方向の幅W11は例えば約2.5mm、厚部26のY方向の厚さT11は例えば約4mmである。薄部28のZ方向の幅W12は例えば約7.5mmである。薄部28のY方向の厚さT12は例えば2.5mmである。メッシュ70を中心にさらに薄い薄部30が設けられている。薄部30の半径W13が約4mmであり、Y方向の膜厚T13が約1mmである。メッシュ70の直径は約3mmであり、Z方向の幅W14は約2.65mmである。メッシュ70は、薄部30の凹部38に嵌めこまれ固定される。図7(c)の点線のように、平板支持台22は、入射角度θが例えば15°のイオンビーム82が、遮蔽されないように階段状の形状となっている。メッシュ70の中心付近にはさらに、試料支持台32が設けられている。メッシュ70および試料支持台32は、元素分析において、他の元素と混同しないような材料が用いられることが好ましい。メッシュ70および試料支持台32の材料として、例えば、アルミニウム、モリブデン、チタン、ステンレスおよび銅等の金属、シリコン等の半導体並びにガラス等の絶縁体を用いることができる。試料支持台32は、例えば、エッチングプロセス法、射出成型法またはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)法を用い形成することができる。
【0028】
図8(a)および図8(b)は、実施例1において用いる試料支持台を示す図である。図8(a)は、試料支持台32を固定したメッシュ70を示す上面図である。図8(b)は、試料支持台32の断面図である。図8(b)のように、試料支持台32は、一端34が他端35より膜厚の小さい先細り形状をしている。最も厚い部分32aのZ方向の幅W01は1mm、Y方向の膜厚T01は500μmである。次に厚い部分32bのZ方向の幅W02は350μm、Y方向の膜厚T02は250μmである。次に厚い部分32cのZ方向の幅W03は250μm、Y方向の膜厚T03は100μmである。次に厚い部分32dのZ方向の幅W04は100μm、Y方向の膜厚T04は25μmである。最も薄い部分32eのZ方向の幅W05は50μm、Y方向の膜厚T05は5μmである。最も薄い部分32eの先端(一端34)に試料40の背面を搭載する。点線のように、試料支持台32は、入射角度θが例えば15°のイオンビーム82が、遮蔽されないように階段状の形状となっている。
【0029】
図9(a)および図9(b)は、平板支持台および試料支持台の別の例である。図9(a)のように、平板支持台22aの薄部27の膜厚が連続的に薄くなっている。厚部26に接する薄部27のY方向の膜厚は4mmであり、最も薄い薄部30に接するY方向の膜厚T13は1mmである。薄部30のY方向の膜厚T13は1mmで一定である。はメッシュ70は、薄部30に形成された凹部38に嵌めこまれ固定される。
【0030】
図9(b)のように、試料支持台32は、一端34が他端35より膜厚が小さくなるように連続的に薄くなる部分33bを備えている。部分33のZ方向の幅W06は、約800μmである。部分33の最もZ側のY方向の膜厚T05は例えば約5μmである。部分33の先端(一端34)に試料40の背面を搭載する。図9(a)および図9(b)のように、平板支持台および試料支持台は、入射角度θが例えば15°のイオンビーム82が、遮蔽されないようにテーパ状とすることができる。
【0031】
次に、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法について説明する。図10(a)から図12(d)は、実施例1に係る電子顕微鏡用試料の製造方法を示す図である。図10(a)は、試料40の切り出しを示す斜視図、図10(b)は上面図である。図10(a)のように、試料40を切り出すウエハ50またはチップを、図6(a)に示した試料作製装置内に導入する。ウエハ50またはチップにFIB80を照射する。図10(b)のように、試料40を切り出す周囲41をFIB80により削る。試料40をマニュピュレータ48を用いウエハ50またはチップから切り離す。このとき、例えば、ガスデポジション銃を用い、試料40とマニュピュレータ48との接着を行なう。図10(c)は、試料40の斜視図である。図10(c)のように、試料40の大きさは、例えば、Y方向の幅W5は約2μmから3μm、Z方向の高さL4は10μmから20μm、X方向の長さL5は10μmから30μmである。図10(d)のように、試料40を、試料支持台32の最も薄い部分32eの一端34に固定する。このとき、例えば、ガスデポジション銃を用い、試料40と試料支持台32との接着を行なう。一端34側から他端35側を(例えば−Z方向に)みて、試料40の正面が見えるように試料40を一端に搭載する。
【0032】
図11(a)および図11(b)は、部分32eの一端34に搭載された試料40の斜視図である。図11(c)および図11(d)は、それぞれ図11(a)および図11(b)のA−A断面図である。図11(c)のように、試料40の正面側には、保護膜69として例えばW、Pt、Au、Cr、Cまたは有機膜(例えばレジスト膜またはプラズマ重合膜)が形成されている。図11(a)のように、試料40の正面側から試料40にFIB80を照射する。図11(b)のように、試料40のXY面の両面44aおよび44bをFIBを用い削ることにより、薄い部分42を形成する。図11(d)のように、部分42のY方向膜厚T1を例えば100nmとする。部分42の表面にはY方向の膜厚T2が約20nmのダメージ層66が形成される。ダメージ層66の間に、例えば膜厚が約60nmの正常層68が形成される。
【0033】
図12(a)および図12(b)は、部分32eの先端34に搭載された試料40の斜視図である。図12(c)および図12(d)は、それぞれ図12(a)および図12(b)の断面図である。図12(a)のように、試料40の背面(正面の反対の面)から試料40の部分42の上面44aにイオンビーム82を照射する。上面44aは、試料支持台32の膜厚方向(Y方向)の面である。これにより、面44aをイオンミリングする。これにより、図12(c)のように、面44aのダメージ層66が除去される。イオンビーム82の加速エネルギーは100eVから1KeVと小さいため、面44aにダメージ層は形成されない。図12(b)のように、試料40を180°回転させる。試料40の背面から部分42の面44bの表面にイオンビーム82を照射する。これにより、図12(d)のように、面44bのダメージ層66が除去される。以上により、Y方向の膜厚T3が50nm以下の試料を作製することができる。イオンビーム82を揺動させながら照射することにより、エッチングむらを低減できる。
【0034】
実施例1によれば、図8(b)のように、先細り形状の試料支持台32の一端34に、試料40を搭載する。図11(a)のように、試料40の正面から、試料40に集束イオンビーム80を照射する。図11(a)および図11(b)のように、試料40の背面から、試料40の上面44aまたは44bにイオンビームを照射することにより、上面44aまたは44bをイオンミリングする。
【0035】
以上により、ダメージ層66がほとんどない試料を作製できるため、膜厚が50nm以下の薄い試料を作製することができる。さらに、イオンビーム82が比較例の図5(b)のように壁に当らないため、汚染物63が面44aまたは44b上に付着することを抑制できる。さらに、FIB80の照射方向とは逆の方向からイオンビーム82を照射するため、図5(c)のようなエッチングむらも抑制することができる。
【0036】
また、図8(b)および図9(b)のように、試料支持台32は、他端35から一端34にかけて膜厚が小さくなる階段状またはテーパ状であることが好ましい。これにより、試料40の背面から照射するイオンビーム82が試料支持台32により遮蔽されることを抑制できる。
【0037】
イオンビーム82の入射角度が大きいと、試料40中の硬い領域と柔らかい領域とで、エッチング速度差が生じ、試料40の膜厚にばらつきが生じてしまう。また、イオンミリングされた原子等が上面44aまたは44bに再付着することもある。よって、これらを抑制するため、イオンビーム82は、試料40の上面44aおよび44bに対し20°以下の入射角度で試料40に照射することが好ましい。さらに、入射角度は15°以下が好ましい。また、入射角度を小さくするためには、図8(b)または図9(b)において、試料支持台32の先細りを鋭くすることになる。このため、試料支持台32の作製が難しくなる。よって、入射角度は10°以上が好ましい。
【0038】
さらに、イオンビーム82を、走査または揺動させることにより、試料40の上面44aまたは44bに対する入射角度を調整することが好ましい。これにより、入射角度をより精度よく調整することができる。
【0039】
さらに、イオンビーム82はAr等の希ガスイオンビームであることが好ましい。これにより、試料40と反応することなく、試料40をイオンミリングすることができる。
【0040】
さらに、イオンビーム82の加速エネルギーは集束イオンビーム80より小さいことが好ましい。これにより、試料40の表面に生じるダメージ層を抑制することができる。
【0041】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0042】
実施例1を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
付記1:一端が他端より膜厚の小さい先細り形状の支持台の前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて、試料の正面がみえるように前記試料を前記一端に搭載する工程と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する工程と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面にイオンビームを照射することにより、前記上面をイオンミリングする工程と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記2:前記支持台は、前記他端から前記一端にかけて膜厚が小さくなる階段状またはテーパ状であることを特徴とする付記1記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記3:前記イオンビームは、前記試料の前記上面に対し20°以下の入射角度で前記試料に照射することを特徴とする付記1または2記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記4:前記イオンビームを、走査または揺動させることにより、前記試料の前記上面に対する入射角度を調整することを特徴とする付記1から3のいずれか一項記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記5:前記イオンビームは希ガスイオンビームであることを特徴とする付記1から4のいずれか一項に記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記6:前記イオンビームの加速エネルギーは前記集束イオンビームより小さいことを特徴とする付記1から5のいずれか一項に記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
付記7:一端が他端より膜厚の小さい先細り形状であり、前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて試料の正面がみえるように前記試料を搭載する支持台と、前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する第1照射機構と、前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面をイオンミリングする第2照射機構と、を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造装置。
【符号の説明】
【0043】
32 試料支持台
34 一端
35 他端
40 試料
44a、44b 上面
80 集束イオンビーム
82 イオンビーム
90 第1照射機構
92 第2照射機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が他端より膜厚の小さい先細り形状の支持台の前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて、試料の正面がみえるように前記試料を前記一端に搭載する工程と、
前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する工程と、
前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面にイオンビームを照射することにより、前記上面をイオンミリングする工程と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造方法。
【請求項2】
前記支持台は、前記他端から前記一端にかけて膜厚が小さくなる階段状またはテーパ状であることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
【請求項3】
前記イオンビームは、前記試料の前記上面に対し20°以下の入射角度で前記試料に照射することを特徴とする請求項1または2記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
【請求項4】
前記イオンビームを、走査または揺動させることにより、前記試料の前記上面に対する入射角度を調整することを特徴とする1から3のいずれか一項記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
【請求項5】
一端が他端より膜厚の小さい先細り形状であり、前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて試料の正面がみえるように前記試料を搭載する支持台と、
前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する第1照射機構と、
前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面をイオンミリングする第2照射機構と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造装置。
【請求項1】
一端が他端より膜厚の小さい先細り形状の支持台の前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて、試料の正面がみえるように前記試料を前記一端に搭載する工程と、
前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する工程と、
前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面にイオンビームを照射することにより、前記上面をイオンミリングする工程と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造方法。
【請求項2】
前記支持台は、前記他端から前記一端にかけて膜厚が小さくなる階段状またはテーパ状であることを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
【請求項3】
前記イオンビームは、前記試料の前記上面に対し20°以下の入射角度で前記試料に照射することを特徴とする請求項1または2記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
【請求項4】
前記イオンビームを、走査または揺動させることにより、前記試料の前記上面に対する入射角度を調整することを特徴とする1から3のいずれか一項記載の電子顕微鏡用試料の製造方法。
【請求項5】
一端が他端より膜厚の小さい先細り形状であり、前記一端に、前記一端側から前記他端側をみて試料の正面がみえるように前記試料を搭載する支持台と、
前記試料の正面から、前記試料に集束イオンビームを照射する第1照射機構と、
前記試料の背面から、前記試料の前記支持台の膜厚方向の面である上面をイオンミリングする第2照射機構と、
を備えることを特徴とする電子顕微鏡用試料の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−189400(P2012−189400A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52217(P2011−52217)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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