説明

電子顕微鏡用試料移動装置

【課題】音響振動やフロア振動の影響を受けにくい電子顕微鏡用試料移動装置を実現する。
【解決手段】電子顕微鏡用試料移動装置は、長手方向に変位可能なように支持した棒状の試料ホルダ(200)の一端側が試料室内に位置するように、試料室壁(300)を貫通して気密に取り付けられたゴニオメータ(100)と、試料ホルダおよびゴニオメータの試料室壁の外側となる部分を耐圧的に覆うカバー(500)と、カバーの内部気圧を大気圧より高くする加圧手段(600,601)とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡用試料移動装置に関し、特に、試料ホルダを移動可能に支持するゴニオメータが試料室壁を貫通して気密に取り付けられた電子顕微鏡用試料移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡では、試料室内での試料移動の自由度を高めるために、ゴニオメータが用いられる。ゴニオメータは、棒状の試料ホルダを長手方向に移動可能なように支持し、試料ホルダの一端側が試料室内となるように試料室壁を貫通して気密に取り付けられる。ゴニオメータにより試料ホルダの位置や角度を3軸方向においてそれぞれ調節することができるので、試料室内の試料を高い自由度で移動させることが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
試料ホルダには試料室内外の圧力差により試料室内への引き込み力が作用し、これが周囲気圧の変動とともに変化して試料室内での試料の位置に影響するので、それを防止するために、試料室の外側において、試料ホルダとゴニオメータを耐圧カバーで覆うようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平4−308638号公報(第2−3頁、図1−3)
【特許文献2】特開平11−40095号公報(第3−4頁、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐圧カバーは、周囲の気圧変動の影響を防止するのに効果があるが、音響振動やフロア振動の影響を防止するにはほとんど効果がない。このため、特に、高空間分解能での観察や写真撮影が困難となる。
【0005】
そこで、本発明の課題は、音響振動やフロア振動の影響を受けにくい電子顕微鏡用試料移動装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための請求項1に係る発明は、長手方向に移動可能なように支持した棒状の試料ホルダの一端側が試料室内に位置するように、試料室壁を貫通して気密に取り付けられたゴニオメータと、前記試料ホルダおよび前記ゴニオメータの試料室壁の外側となる部分を耐圧的に覆うカバーと、前記カバーの内部気圧を大気圧より高くする加圧手段と、を具備することを特徴とする電子顕微鏡用試料移動装置である。
【0007】
上記の課題を解決するための請求項2に係る発明は、前記カバーが減圧弁を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡用試料移動装置である。
上記の課題を解決するための請求項3に係る発明は、前記カバーの内部気圧の加・減圧を切り替える切替手段、を具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子顕微鏡用試料移動装置である。
【0008】
上記の課題を解決するための請求項4に係る発明は、加圧に伴う前記試料ホルダの位置変化を補償する補償手段、を具備することを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載の電子顕微鏡用試料移動装置である。
【0009】
上記の課題を解決するための請求項5に係る発明は、前記加圧手段がエアコンプレッサと圧力調節器を有する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載の電子顕微鏡用試料移動装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、電子顕微鏡用試料移動装置が、長手方向に移動可能なように支持した棒状の試料ホルダの一端側が試料室内に位置するように、試料室壁を貫通して気密に取り付けられたゴニオメータと、前記試料ホルダおよび前記ゴニオメータの試料室壁の外側となる部分を耐圧的に覆うカバーと、前記カバーの内部気圧を大気圧より高くする加圧手段とを具備するので、音響振動やフロア振動の影響を受けにくい電子顕微鏡用試料移動装置を実現することができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、前記カバーが減圧弁を有するので、カバーの内部気圧を減圧して大気圧に戻すことができる。
請求項3に係る発明によれば、電子顕微鏡用試料移動装置が、前記カバーの内部気圧の加・減圧を切り替える切替手段を具備するので、カバーの内部気圧を切り替えることが容易である。
【0012】
請求項4に係る発明によれば、電子顕微鏡用試料移動装置が、加圧に伴う前記試料ホルダの位置変化を補償する補償手段を具備するので、加圧に伴う試料の位置ずれを補償することができる。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、前記加圧手段がエアコンプレッサと圧力調節器を有するので、カバーの内部気圧を適切に加圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、本発明は発明を実施するための最良の形態に限定されるものではない。図1に、電子顕微鏡用試料移動装置の一例の模式的構成を断面図で示す。本装置の構成によって、電子顕微鏡用試料移動装置に関する発明を実施するための最良の形態の一例が示される。
【0015】
図1に示すように、本装置はゴニオメータ100を有する。ゴニオメータ100は、本発明におけるゴニオメータの一例である。ゴニオメータ100は、第1の筒体110と第2の筒体120の二重構造となっている。第1の筒体110が外筒、第2の筒体120が内筒である。
【0016】
第1の筒体110は、電子顕微鏡の鏡筒300から横方向に突出する筒部310に、ベアリング311,312を介して取り付けられている。第1の筒体110の外周には歯車111が形成されている。歯車111には、筒部310に設けられたウォームギヤ313が噛み合う。ウォームギヤ313は、筒部310に設けられた図示しないモータによって駆動される。
【0017】
第2の筒体120は、電子顕微鏡の鏡筒300の横側に形成された球面軸受320によって支持される。第2の筒体120は、球面軸受320に適合する球体部を有し、その先端部が鏡筒300の内側となるように支持される。鏡筒300の内側は真空の試料室である。
【0018】
第2の筒体120は、また、第1の筒体110の内側で、互いに対向する押しネジ112とバネ113によって垂直方向に狭持される。同様な押しネジ114とバネ115がもう一対設けられ、第2の筒体120を水平方向(紙面に垂直な方向)に狭持している。
【0019】
押しネジ112,114は、それぞれ図示しないモータによって駆動される。押しネジ112,114の進退により、第2の筒体120は、球面軸受320を中心として、第1の筒体110内で垂直方向および水平方向にそれぞれ回動する。
【0020】
第2の筒体120の内側に、試料ホルダ200がOリング121,122によって同軸的に支持される。試料ホルダ200は、本発明における試料ホルダの一例である。試料ホルダ200は概ね棒状の部材であり、一端側が試料保持部210、他端側が握り部220となっている。試料ホルダ200は、第2の筒体120によって、試料保持部210が鏡筒300の内側、握り部220が鏡筒300の外側となるように支持される。
【0021】
試料保持部210は、試料が載置される薄板部211とそれを支持する棒状部212からなる。薄板部211は電子顕微鏡の光軸400と交差する。薄板部211と棒状部212の間の段差部に、押し板213が当接する。押し板213は、図示しないモータで駆動されて、試料ホルダ200に鏡筒300の外側に向かう押圧力を印加する。押し板213による押圧力が鏡筒300の真空による吸引力と釣り合ったところで、試料ホルダ200の軸方向の位置が定まる。
【0022】
電子顕微鏡の光軸400の方向をz、試料ホルダ200の軸方向をx、それら両軸に垂直な方向をyとすると、試料保持部210は、押し板213によってx方向に変位させることができ、押しネジ112によってz方向に変位させることができ、押しネジ114によってy方向に変位させることができ、ウォームギヤ313によってx軸を中心として回転させることができる。したがって、それらの変位および回転の組合せにより、試料を高い自由度で移動させることができる。
【0023】
ゴニオメータ100および試料ホルダ200は、鏡筒300の外側において、カバー500によって覆われる。カバー500は、本発明におけるカバーの一例である。カバー500は、鏡筒300の筒部310に取り付けられる。カバー500は、Oリング501,502によって気密性が付与された有底筒状の耐圧性の容器であり、接合部510を境にして分離可能になっている。
【0024】
カバー500は、導圧孔520と減圧弁530を有する。導圧孔520には、エアコンプレッサ600が圧力調節器601およびチューブ602を介して接続され、エアコンプレッサ600で加圧された気体が圧力調節器601で調圧されてカバー500内に供給できるようになっている。エアコンプレッサ600、圧力調節器601およびチューブ602は、本発明における加圧手段の一例である。減圧弁530は、本発明における減圧弁の一例である。
【0025】
このように構成された本装置の操作手順は次の通りである。先ず、カバー500を閉じ、内部気圧を加圧せず大気圧と同じ状態で試料移動を行う。試料移動は、それぞれのモータによって、押し板213、押しネジ112,114およびウォームギヤ313を駆動することによって行われる。耐圧性のカバー500が閉じているので、試料移動はカバー500の外の大気圧変動の影響を受けることなく行える。
【0026】
試料移動が終わったら、減圧弁530を閉じた状態でエアコンプレッサ600の加圧気体を導入し、カバー500の内部気圧を大気圧よりも高くする。内部気圧は、圧力調節器601により、例えば、10kg/m2 等所望の圧力に調節される。
【0027】
このようにカバー500の内部気圧を高めると、鏡筒300内の真空領域との圧力差が大気圧のときよりも大きくなり、ゴニオメータ100は、より強い力で鏡筒300に押し付けられる。このため、ゴニオメータ100およびそれに支持された試料ホルダ200は、外部の音響振動やフロア振動によって振動しにくくなる。
【0028】
これによって試料の静止性が良くなるので、高空間分解能での観察や写真撮影を良好にに行うことができる。カバー500の内部気圧は、高空間分解能での観察や写真撮影の終了後に、減圧弁530を開いて大気圧まで減圧される。
【0029】
図2に、以上のような操作を作業性良く行うための構成の一例を示す。図2において図1と同様の部分は同一の符号を付して説明を省略する。図2に示すように、コントローラ700が設けられる。
【0030】
コントローラ700は、減圧弁530、チューブ602に設けられた開閉弁603および押し板213用の駆動モータ800を制御する。駆動モータ800は、梃子801を通じて押し板213を駆動する。梃子801は支点802を有する。コントローラ700は、本発明における切替手段の一例である。コントローラ700および駆動モータ800は、本発明における補償手段の一例である。
【0031】
上記と同様に、カバー500を閉じて大気圧下での試料移動が終わったら、コントローラ700による制御の下で開閉弁603を開いてカバー500内に加圧気体を供給する。このとき、増大した圧力差によって試料ホルダ200がx方向に位置ずれを生じるので、この位置ずれを、コントローラ700による制御の下で、駆動モータ800による押し板213の駆動力を調節して補償する。補償量は、圧力にごとに予め測定または計算によって求めらる。
【0032】
コントローラ700は、本発明における切替手段の一例である。コントローラ700および駆動モータ800は、本発明における補償手段の一例である。なお、位置ずれの補償は、駆動モータ800に限らずピエゾ素子等適宜のアクチュエータで行ってよい。
【0033】
この状態で高空間分解能での観察または撮影を行い、それが済んだら、コントローラ700による制御の下で、減圧弁530を開いて内部気圧を大気圧まで減圧するともに駆動モータ800による位置ずれ補償を元に戻す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の一例の電子顕微鏡用試料移動装置の模式的構成を示す図である。
【図2】本発明を実施するための最良の形態の一例の電子顕微鏡用試料移動装置の模式的構成を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
100 : ゴニオメータ
110 : 第1の筒体
111 : 歯車
112,114 : ネジ
113,115 : バネ
120 : 第2の筒体
121,122 : Oリング
200 : 試料ホルダ
210 : 試料保持部
211 : 薄板部
212 : 棒状部
213 : 押し板
220 : 握り部
300 : 鏡筒
310 : 筒部
311,312: ベアリング
313 : ウォームギヤ
320 : 球面軸受
400 : 光軸
500 : カバー
501,502 : Oリング
510 : 接合部
520 : 導圧孔
530 : 減圧弁
600 : エアコンプレッサ
601 : 圧力調節器
602 : チューブ
603 : 開閉弁
700 : コントローラ
800 : 駆動モータ
801 : 梃子
802 : 支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に移動可能なように支持した棒状の試料ホルダの一端側が試料室内に位置するように、試料室壁を貫通して気密に取り付けられたゴニオメータと、
前記試料ホルダおよび前記ゴニオメータの試料室壁の外側となる部分を耐圧的に覆うカバーと、
前記カバーの内部気圧を大気圧より高くする加圧手段と、
を具備することを特徴とする電子顕微鏡用試料移動装置。
【請求項2】
前記カバーが減圧弁を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子顕微鏡用試料移動装置。
【請求項3】
前記カバーの内部気圧の加・減圧を切り替える切替手段、
を具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子顕微鏡用試料移動装置。
【請求項4】
加圧に伴う前記試料ホルダの位置変化を補償する補償手段、
を具備することを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載の電子顕微鏡用試料移動装置。
【請求項5】
前記加圧手段がエアコンプレッサと圧力調節器を有する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載の電子顕微鏡用試料移動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−66832(P2007−66832A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254710(P2005−254710)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】