説明

電子顕微鏡

【課題】 残留収差を発生させることなく、色収差と球面収差を補正することができる電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】 色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28が接続系29を介して直列に接続されている(タンデム式)。つまり、色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28は独立して構成されており、色収差と球面収差は別々に補正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡に関し、特に、色収差と球面収差を補正することができる電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
色収差(Cc)や球面収差(Cs)を補正できれば、高分解能の電子顕微鏡観察を行うことができる。下記非特許文献1には、色収差と球面収差を同時に補正することができる収差補正光学系が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Rose, J. Electron Microsc. 58, 77(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1のように色収差補正と球面収差補正を同時に行う光学系では、異なる性質の収差(色収差と球面収差)を同時に補正するため、片方の収差補正にとつては余計な電子線軌道変化を与えてしまうこととなり、コマ収差やスター収差等の残留収差が発生してしまう。これでは、高分解能の電子顕微鏡像は得られない。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みて成されたものであり、その目的は、残留収差を発生させることなく、色収差と球面収差を補正することができる電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の電子顕微鏡は、色収差補正光学系と、前記色収差補正光学系と独立して構成され、前記色収差補正光学系に直列に接続された球面収差補正光学系を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、残留収差を発生させることなく、色収差と球面収差を補正することができる電子顕微鏡を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の電子顕微鏡の一例を示したものである。
【図2】図1の装置を用いて得た実験データを示したものである。
【図3】図1の装置を用いて得た実験データを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
図1は本発明の電子顕微鏡の一例を示した図である。
【0011】
図1において、1は電子銃である。そして、電子銃1の後段には、電子銃側から順に、集束レンズ2、偏向レンズ3、試料4、対物レンズ5、対物ミニレンズ(転送レンズ)6、対物ミニレンズ(転送レンズ)7、4極子場発生多極子8、転送レンズ9、回転補正レンズ10、転送レンズ11、4極子場発生多極子12、転送レンズ13、回転補正レンズ14、転送レンズ15、前段の多極子16、転送レンズ17、転送レンズ18、中段の多極子19、転送レンズ20、転送レンズ21、後段の多極子22、ポストコレクタレンズ23、中間レンズ24、投影レンズ25、撮像装置26が配置されている。
【0012】
上述した4極子場発生多極子8と転送レンズ9と回転補正レンズ10と転送レンズ11と4極子場発生多極子12で色収差補正光学系27が構成されており、図1の装置における系全体の色収差は色収差補正光学系27で補正される。この色収差補正光学系27には特開2008−123999号公報に記載されている色収差補正装置が採用されている。なお、色収差補正光学系27における回転補正レンズ10は、4極子場発生多極子8で発生した4極子場と4極子場発生多極子12で発生した4極子場の回転関係を補正するものである。
【0013】
また、上述した前段の多極子16と転送レンズ17と転送レンズ18と中段の多極子19と転送レンズ20と転送レンズ21と後段の多極子22で球面収差補正光学系28が構成されており、図1の装置における系全体の球面収差は球面収差補正光学系28で補正される。この球面収差補正光学系28には特開2009−54565号公報に記載されている球面収差補正装置が採用されている。
【0014】
また、上述した転送レンズ13と回転補正レンズ14と転送レンズ15で接続系29が構成されている。この転送レンズから成る接続系29は、前記色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28を光学的に結合させるものである。接続系29における転送レンズ13,15は、4極子場発生多極子12で得られた像と等価な像を球面収差補正光学系28の前段多極子16に転送するものである。また、接続系29における回転補正レンズ14は、上述した回転補正レンズ10と同様な働きをし、4極子場発生多極子12で発生した4極子場と前段多極子16で発生した3回対称場の回転関係を補正するものである。
【0015】
このように図1の電子顕微鏡においては、色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28が接続系29を介して直列に接続されている(タンデム式)。つまり、色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28は独立して構成されており、色収差と球面収差は別々に補正される。この点が本発明の特徴であり、上述した非特許文献1とは異なるところである。
【0016】
以上、図1の装置構成を説明した。以下、図1の装置の動作説明を行う。
【0017】
電子銃1からの電子線は試料4を照射し、試料4を透過した電子線は、対物レンズ5,対物ミニレンズ6,7のレンズ作用を受けて色収差補正光学系27に入射する。電子線に含まれる色収差は、色収差補正光学系27の4極子場発生多極子8,12がそれぞれ発生する4極子場によって補正される。この色収差補正系27は、特開2008−123999号公報に記載されているように、厚みのある4極子場が持つ凹レンズ効果を利用したCcコレクタである。
【0018】
色収差補正光学系27を出射した電子線は、接続系29の転送レンズ13,15によって球面収差補正光学系28に転送される。電子線に含まれる球面収差は、多極子16,19,22がそれぞれ発生する3回対称場によって補正される。すなわち、特開2009−54565号公報に記載されているように、多極子19,22で発生する3回対称場が多極子16で発生する3回対称場に対して所定角度回転されて、球面収差が補正される。
【0019】
そして、球面収差補正光学系28を出射した電子線はポストコレクタレンズ23,中間レンズ24,投影レンズ25のレンズ作用を受け、拡大された試料像(TEM像)が撮像手段26で撮像される。
【0020】
以上、図1の装置の動作説明を行った。上記のように、この装置においては、色収差は色収差補正光学系27において独立に補正される。また、球面収差は球面収差補正光学系28において独立に補正される。このため、図1の装置においては、片方の収差補正に対して余計な電子線軌道変化を与えてしまうという従来の問題は発生せず、コマ収差やスター収差等の残留収差(色収差補正光学系と球面収差補正光学系の電子線軌道干渉による付随する収差)は発生しない。その結果、撮像手段26で撮像されたTEM像には色収差と球面収差と残留収差の影響は現れず、高分解能のTEM像を取得して観察することができる。
【0021】
さて、図2と図3は、図1の装置を用いて得た実験データを示したものであり、色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28を動作させた状態で得た実験データを示したものである。図2は、図1の装置では色収差が補正されていることを説明するために用意した図である。一方、図3は、図1の装置では球面収差が補正されていて、かつ、コマ収差やスター収差等の残留収差が発生していないことを説明するために用意した図である。
【0022】
図2について詳しく説明すると、図2(a)〜(c)の像はDiffractogramである。このDiffractogramは、アモルファス薄膜(試料4)のTEM像を前記撮像手段26で撮像し、そのTEM像をフーリエ変換して得た像である。図2(a)のDiffractogramは、加速電圧を29.975kVに設定して撮像したTEM像によるものである。また、図2(b)のDiffractogramは加速電圧を30kVに設定して撮像したTEM像によるものであり、図2(c)のDiffractogramは加速電圧を30.025kVに設定して撮像したTEM像によるものである。このように加速電圧が変わってもDiffractogramの形状は変化しておらず、加速電圧が変わってもフォーカスが一定であることが示されている。これは、色収差補正光学系28によって色収差が補正されていることを証明するものである。
【0023】
次に図3について説明する。図3はDiffractogram Tableauと呼ばれるものであり、アモルファス薄膜(試料4)に対して電子線を複数の異なった角度で入射させ、それぞれの入射角度において得られたDiffractogramを並べて表示させたものである。図3から分かるように、電子線を傾斜させても、全て(33枚)のDiffractogramの形状は丸く真円である。これは、球面収差補正光学系28によって球面収差が補正されていて、かつ、コマ収差やスター収差等の残留収差が発生していないことを証明するものである。なお、球面収差が補正されていなかったり、残留収差が発生していると、電子線を傾斜させると図3におけるDiffractogramが真円でなくなる。
【0024】
以上、図1〜3を用いて本発明の一例を説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。たとえば、図1の装置における色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28の位置を入れ替えてもよい。
【0025】
また、上記例では、試料より後段の結像系に色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28を配置したが、試料より上段の照射系にそれらを配置するようにしてもよい。その場合にも、前記同様に色収差補正光学系27と球面収差補正光学系28の位置を入れ替えて、球面収差補正光学系28を電子銃側に配置してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1…電子銃、2…集束レンズ、3…偏向レンズ、4…試料、5…対物レンズ、6…対物ミニレンズ、7…対物ミニレンズ、8…4極子場発生多極子、9…転送レンズ、10…回転補正レンズ、11…転送レンズ、12…4極子場発生多極子、13…転送レンズ、14…回転補正レンズ、15…転送レンズ、16…前段の多極子、17…転送レンズ、18…転送レンズ、19…中段の多極子、20…転送レンズ、21…転送レンズ、22…後段の多極子、23…ポストコレクタレンズ、24…中間レンズ、25…投影レンズ、26…撮像手段、27…色収差補正光学系、28…球面収差補正光学系、29…接続系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色収差補正光学系と、
前記色収差補正光学系と独立して構成され、前記色収差補正光学系に直列に接続された球面収差補正光学系
を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
色収差補正光学系と球面収差補正光学系の間に配置された転送レンズを更に備えたことを特徴とする請求項1記載の電子顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−30374(P2013−30374A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166168(P2011−166168)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 独立行政法人 日本学術振興会 刊行物名 ▲1▼JSPS 141 Committee ACTIVITY REPORT 8th International Symposium on Atomic Level Characterizations for New Materials and Devices’11(頒布日 平成23年5月11日) 発行者名 社団法人 日本顕微鏡学会 刊行物名 ▲2▼日本顕微鏡学会 第67回学術講演会 発表要旨集(頒布日 平成23年5月16日)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】