説明

電極、リチウムイオン電池ならびにこれらを作製する方法および使用する方法

改良された複合材料アノードおよびその複合材料アノードから作製されるLiイオン電池を記載する。改良されたアノードおよび改良された電池を作製する方法および使用する方法をさらに記載する。一般に、アノードは、複数の凝集されたナノ複合材料を有する多孔性複合材料を含む。複数の凝集されたナノ複合材料の少なくとも1つは、導電材料のナノ粒子の、3次元かつランダムに配置された集合体である樹枝状粒子と、複数の樹枝状粒子の表面に付着する炭素を除く第4A族元素またはその混合物の孤立した無孔性ナノ粒子とから形成される。複数の凝集されたナノ複合材料の少なくとも1つのナノ複合材料は、複数の凝集されたナノ複合材料中の隣接するナノ複合材料の樹枝状粒子の少なくとも一部に電気を伝導する、樹枝状粒子の一部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年9月29日出願の米国特許仮出願第61/246,741号の優先権を主張する国際特許出願である。
【0002】
連邦政府の資金提供による研究開発の記載
本発明は、アメリカ航空宇宙局に認定されたSBIR認可第NNX09CD29P 2008−1号の下で米国政府支援を受けて発明されたもので、米国政府は本発明について一定の権利を有する。
【0003】
本発明のさまざまな実施形態は、一般にはエネルギー蓄積装置、具体的には、リチウムイオン電池ならびにそのような装置を作製する方法および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
比較的電流密度が高く、軽量であり、寿命が長いこともあって、リチウムイオン(Liイオン)電池は家庭用電化製品に広く利用されている。実際には、Liイオン電池が、多くの用途で、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に実質的に取って代わっている。広く商用に普及しつつあるものの、特に低排出または排出ゼロのハイブリッド電気自動車または電気自動車、エネルギー効率の良い貨物船や機関車、航空機および送電網における潜在的用途に対して、Liイオン電池は更に開発する必要がある。そのような高電力用途は、現存のLiイオン電池に使用するものよりも高比容量の電極が必要となる。
【0005】
現在、炭素系材料(たとえばグラファイト)は、主にアノード材としてLiイオン電池に使用されている。炭素(C)は、グラファイトの形態で最大比容量、すなわち理論比容量が約372ミリアンペア時/グラム(mAh/g)であるが、サイクル中に大幅な容量損失を被る。特に、初回の充電サイクル時には、グラファイトは不可逆性が高くなり、つまり相当量のリチウムイオンがグラファイトアノードにインターカレートするが、電池放電時にアノードからデインターカレートしない。
【0006】
シリコン系材料は、従来のグラファイトのものに比して1桁大きい比容量を示すため、アノードの候補として大いに注目されている。たとえば、シリコン(Si)は全金属のなかでも理論比容量が最も高く、最大約4200mAh/gである。ただし、シリコンは特有の重大な短所がある。
【0007】
Si系アノード材料の主な短所は、電池の充電サイクル中にそれぞれ発生するリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションに起因する容量の増減である。場合によっては、シリコン系アノードは、容量が最大約400%の増加、及びそれに続く減少を示すことがある。アノード材料による歪みが大きくなると、アノードに不可逆的な機械的損傷を引き起こしかねない。最終的には、アノードと下部の集電体との接触性が失われることにもなる。Si系アノード材料による別の短所は、炭素系アノード材料に比して導電性が低いことである。
【0008】
純Si系アノード材料の制限を回避するシリコン炭素複合材料の利用が調査されてきた。そのような複合材料は、熱分解、機械的混合および機械的粉砕またはそれらの組み合わせによって調整され、一般に高密度の炭素母材中または上に埋め込まれるSi粒子を含む。しかし、リチウムインターカレーション時のSi粒子の大きな容量の変化は、炭素によってある程度までしか適合させることができず、したがって、純Si系アノードに比して制限された安定性および容量増大しか提供できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、アノード材料が改良されても、Liイオン電池はその用途が依然として多少制限される部分がある。したがって、Liイオン電池に使用するためには、アノードを改良する必要性が依然としてある。このようにアノードおよび最終的にはLiイオン電池が改良されれば、上で想定したいわゆる高電力用途などの新しい用途が広がると考えられる。本発明のさまざまな実施形態の目的は、そのような装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のさまざまな実施形態は、改良されたLiイオン電池の複合材料、それから作製される改良されたLiイオン電池ならびにそのような複合材料および装置を作製する方法および使用する方法を提供する。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態によれば、アノードは複数の凝集されたナノ複合材料を含む多孔性複合材料を含む。複数のナノ複合材料の少なくとも1つから全ては、導電材料のナノ粒子の3次元かつランダムに配置された集合体から形成される樹枝状粒子と、複数の樹枝状粒子の表面に付着する、炭素を除く第4A族元素またはその混合物(すなわち、シリコン、ゲルマニウム、スズ、鉛およびそれらの合金または固溶体)の孤立した無孔性ナノ粒子とを含む。複数の凝集されたナノ複合材料の少なくとも1つのナノ複合材料は、複数の凝集されたナノ複合材料中の隣接するナノ複合材料の樹枝状粒子の少なくとも一部に電気を伝導する、樹枝状粒子の少なくとも一部を有する。
【0012】
場合によっては、樹枝状粒子の導電材料は、非晶質炭素またはグラファイトカーボンでありうる。たとえば、非晶質炭素はカーボンブラックでありうる。炭素を除く第4A族元素またはその混合物はシリコンである。
【0013】
また、特定の状況では、多孔性複合材料は複数の凝集されたナノ複合材料の少なくとも1つの樹枝状粒子の表面の少なくとも一部に付着する導電性コーティングを含む。導電性コーティングは炭素からも形成することができる。
【0014】
複数の凝集されたナノ複合材料を、導電性添加剤を使用して共に凝集することが可能である。同じように、導電性添加剤は炭素でありうる。
【0015】
いくつかの実施形態では、樹枝状粒子の表面の孤立した無孔性ナノ粒子の少なくとも一部は、互いに接触することが可能である。
【0016】
特定の実施形態では、複数の孤立した無孔性ナノ粒子は約5〜約200ナノメートルの平均最大寸法を有する。
【0017】
複数の孤立した無孔性ナノ粒子は、各ナノ複合材料の約15〜約90重量パーセントを構成することができる。
【0018】
多孔性複合材料は、要望に応じて球状顆粒または実質的に球状顆粒でありうる。
【0019】
多孔性複合材料の総細孔容積は、多孔性複合材料中の全ナノ粒子が占める容積の少なくとも約3倍でありうる。その一方で、多孔性複合材料の総細孔容積は、多孔性複合材料中の全ナノ粒子が占める容積の約20倍未満でありうる。
【0020】
本発明の他の実施形態によれば、アノードは複数の球状または実質的に球状の多孔性複合材料顆粒の母材を含むことができる。複数の顆粒のうち少なくとも1つ、またその全部は、複数の凝集されたナノ複合材料を含む。複数の凝集されたナノ複合材料の少なくとも1つのナノ複合材料は、焼鈍されたカーボンブラックナノ粒子の3次元かつランダムに配置された集合体から形成される樹枝状粒子と、樹枝状粒子の表面に付着する複数の孤立した無孔性シリコンナノ粒子とを含む。複数の凝集されたナノ複合材料のうちの少なくとも1つ、またその全部は、複数の凝集されたナノ複合材料中の隣接するナノ複合材料の樹枝状粒子の少なくとも一部に電気を伝導する、樹枝状粒子の少なくとも一部を有する。
【0021】
リチウムイオン電池は、本願明細書に記載するアノードのいずれかを含むことができる。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、アノードを作製する方法は、導電材料の複数の孤立したナノ粒子から、3次元かつランダムに配置された樹枝状粒子を形成することを含みうる。この方法は、炭素を除く第4A族元素またはその混合物の複数の孤立した無孔性ナノ粒子を、樹枝状粒子の表面に付着させて、ナノ複合材料粒子を形成することも含みうる。この方法は、複数のナノ複合材料粒子を集合させて、バルク単体または球状顆粒もしくは実質的に球状顆粒を形成することをさらに含みうる。複数のナノ複合材料粒子の各ナノ複合材料粒子は、複数の凝集されたナノ複合材料粒子中の隣接するナノ複合材料粒子の樹枝状粒子の少なくとも一部に電気を伝導する、樹枝状粒子の少なくとも一部を有することができる。
【0023】
場合によっては、この方法は、複数の顆粒を集合させてアノード母材を形成することをさらに含み、各顆粒の少なくとも1つのナノ複合材料粒子の少なくとも一部は、隣接する顆粒の少なくとも1つのナノ複合材料粒子の少なくとも一部の樹枝状粒子に電気を伝導する樹枝状粒子を有する。
【0024】
炭素を除く第4A族元素またはその混合物がシリコンである場合、複数の孤立した無孔性シリコンナノ粒子を付着させることは、シランまたはクロロシランの分解生成物の化学蒸着を含むことができる。
【0025】
複数のナノ複合材料粒子を集合させて、バルク単体または球状もしくは実質的に球状の顆粒を形成することは、複数のナノ複合材料粒子の造粒を含むことができる。造粒ステップは、最終的には炭化する高分子結合剤を使用する湿式造粒法を含むことができる。
【0026】
場合によっては、この方法は、集合した複数のナノ複合材料粒子の少なくとも一部に導電性コーティングを塗布することをさらに含む。
【0027】
場合によっては、この方法は、導電性添加剤を加えて電気伝導性を高めることも含む。
【0028】
本発明の実施形態の他の態様および特徴は、添付の図面と共に以下の詳細な記載を検討することによって当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1(a)】本発明のいくつかの実施形態に従ってアノードを作製するための、例示的なナノ複合材料の構成単位の概略図である。
【図1(b)】本発明のいくつかの実施形態に従ってアノードを作製するための、例示的な顆粒の概略図である。
【図2】本発明のいくつかの実施形態に従ってアノードを作製するための、例示的なプロセスの概略図である。
【図3(a)】本発明のいくつかの実施形態による複合材料顆粒に対してさまざまな倍率で得られた透過電子顕微鏡(TEM)像を含む図であり、黒色矢印は球体の非晶質Siナノ粒子を、白色矢印は樹枝状粒子のグラファイトカーボンブラックの主鎖端を示し、差し込み図の大きさは800×800ナノメートルである。
【図3(b)】本発明のいくつかの実施形態に従ってさまざまな倍率で得られた複合材料顆粒の透過電子顕微鏡(TEM)像を含む図である。
【図3(c)】本発明のいくつかの実施形態に従ってさまざまな倍率で得られた複合材料顆粒の透過電子顕微鏡(TEM)像を含む図であり、(002)格子面間隔が約3.34オングストロームのカーボンブラック表面の高秩序のグラファイト組織と、Siナノ粒子の非晶質構造を示す。
【図3(d)】C線、Si−Kα線、OおよびCu試料ホルダ線を表すSi−C複合材料顆粒のEDXスペクトルを示す図である。
【図3(e)】約700℃で約30分間の炭素蒸着前後のSiコーティングを施したカーボンブラックのXRDスペクトルを示す図である。
【図3(f)】約700℃に曝露した後に結晶化したSiナノ粒子のTEM像を示す図である。
【図4(a)】炭素蒸着中に、シリコンでコーティングを施した焼鈍されたカーボンブラック粒子上に自己集合させたSi−C複合材料顆粒の構造をさまざまな倍率で記録した走査型電子顕微鏡(SEM)像を含む図である。
【図4(b)】炭素蒸着中に、シリコンでコーティングを施した焼鈍されたカーボンブラック粒子上に自己集合させたSi−C複合材料顆粒の構造をさまざまな倍率で記録した走査型電子顕微鏡(SEM)像を含む図である。
【図4(c)】炭素蒸着中に、シリコンでコーティングを施した焼鈍されたカーボンブラック粒子上に自己集合させたSi−C複合材料顆粒の構造をさまざまな倍率で記録した走査型電子顕微鏡(SEM)像を含む図である。
【図4(d)】炭素蒸着中に、シリコンでコーティングを施した焼鈍されたカーボンブラック粒子上に自己集合させたSi−C複合材料顆粒の構造をさまざまな倍率で記録した走査型電子顕微鏡(SEM)像を含む図であり、白色矢印は、顆粒の表面に視認可能な炭素コーティングを施したSiナノ粒子を示す。
【図4(e)】約700℃で合成された球状顆粒の累積粒度分布を示す図である。
【図4(f)】炭素化学蒸着の前後のシリコンでコーティングを施した焼鈍されたカーボンブラック表面上のN2吸着等温線を示す図である。
【図4(g)】炭素化学蒸着の前後にSiコーティングを施した焼鈍されたカーボンブラックのBarrett Joyner Halenda(BJH)法による累積比表面積を示す図である。
【図4(h)】純カーボンブラックの炭素コーティング中に生成した球状顆粒の表面の高倍率SEM像を示し、図4(d)との比較のために示す図である。
【図5(a)】2電極2016コイン型半電池で室温で測定した、コイン電池のアノードとしてのSi−C顆粒の電気化学的性能に関する情報を示す図であり、特に、サイクル数に対する可逆的なリチウムデインターカレーション容量および粒状電極のクーロン効率をグラファイトの理論容量と比較した図である。
【図5(b)】2電極2016コイン型半電池で室温で測定した、コイン電池のアノードとしてのSi−C顆粒の電気化学的性能に関する情報を示す図であり、速度約C/20、1Cおよび8C、0〜1.1Vの範囲における粒状電極のガルバノスタテイック充放電プロフィールを、焼鈍されたカーボンブラックおよび市販のグラファイト系電極と比較した図である。
【図5(c)】2電極2016コイン型半電池で室温で測定した、コイン電池のアノードとしてのSi−C顆粒の電気化学的性能に関する情報を示す図であり、速度0.025mV/sで得られた0〜1.1Vの電位窓の粒状電極の微分容量曲線を示す図である。
【図5(d)】2電極2016コイン型半電池で室温で測定した、コイン電池のアノードとしてのSi−C顆粒の電気化学的性能に関する情報を示す図であり、電気化学サイクル後の顆粒のSEM像である。
【図6】約700〜約730℃で合成したさまざまな球状顆粒の粒度分布を示す図である。
【図7】サイクル数に対する可逆的なリチウムデインターカレーション容量および焼鈍されたカーボンブラック電極のクーロン効率をグラファイトの理論容量と比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面(複数の図面を通じて、同じ符号は同じ部分を表す)を参照して、本発明の例示的実施形態を詳細に記載する。この記載を通して、さまざまな構成要素は、特定の値や特定のパラメータを有することが特定されている場合もあるが、これらの項目は例示的実施形態として与えられる。実際、多くの類似のパラメータ、寸法、範囲および/または値を実施してもよいため、例示的実施形態は本発明のさまざまな態様および概念を限定しない。「第1」、「第2」などや「一次」、「二次」などの用語は、順序、数量または重要度を示すものではなく、それぞれの要素を区別するのに使用する。さらに、冠詞「a」、「an」および「the」は、その数量を限定するものではなく、参照項目が1つ以上存在することを示している。
【0031】
上に示す通り、本発明のさまざまな実施形態は、Liイオン電池で使用するために改良されたアノードおよびこのアノードから作製されるLiイオン電池を対象とする。また、改良されたアノードおよび電池を作製する方法ならびに使用する方法も、本願明細書に開示する。
【0032】
一般に、改良されたアノードは、炭素を除く第4A族元素またはそれらの混合物(たとえばシリコン)と、導電材料(たとえば炭素)との複合材料を含む。しかし、従来技術とは異なり、本願明細書に記載の改良された複合材料アノードは、高多孔性であり、通常炭素を除く第4A族元素またはその混合物へのリチウムインターカレーションによって生じる大きな容量変化に適合させることができる。以下にさらに詳細に記載するように、複合材料アノードの既存の細孔は、膨張に対して十分な容量を備え、リチウムイオンの高速な移動を可能にし、導電材料の存在によって、固体/電解質界面形成、構造統合性、および高導電性が改善される。その結果、多孔性複合材料アノードは、充放電サイクル時にその大きさおよび形状を一定に保つことができ、産業上の利用に対して重要であり、これは、商用電池にはアノードの膨張に対して、たとえあったとしてもほとんど容量がないことによる。
【0033】
構造的には、本願明細書に記載するアノードのいわゆる「構成単位」は、たとえば図1(a)に示す個々のナノ複合材料であり、その上に付着する炭素を除く第4A族元素またはその混合物の複数の孤立した無孔性ナノ粒子を有する導電性の樹枝状粒子から形成される。
【0034】
図1(a)に示すように、ナノ複合材料102は樹枝状粒子104を含み、この樹枝状粒子自体は、導電材料のナノ粒子(個々に示さず)の3次元かつランダムに配置された集合体または凝集体である。一般に、樹枝状粒子104を形成する個々のナノ粒子は、約5〜約100ナノメートルの平均最大寸法を有する。その結果、樹枝状粒子104は、一般に、約100ナノメートル(nm)〜約5マイクロメートル(μm)の平均最大寸法を有する。
【0035】
例示的実施形態では、樹枝状粒子104を形成するのに使用される導電材料は、その非晶体(たとえば、石炭、すす、カーボンブラックなど)または黒鉛の同素体の1つの元素状炭素である。バックミンスターフラーレンやカーボンナノチューブは、十分な導電性があるが、これらの同素体が容積変化を受ける程度によっては本発明のアノードに使用することが不適切となる。元素状炭素のほかには、曝露される条件下で安定性のある(つまり、アノードの作製中および使用中に、シリコンと反応しない、またはシリコンを実質的に溶解する)他の導電材料を施すことができる。そのような材料は、本開示が関係する当業者には容易に明らかである。実例として、ニッケルはそのような材料の1つである。
【0036】
図1(a)のナノ複合材料102を参照して、樹枝状粒子104に付着するのは、シリコン、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、鉛(Pb)、またはシリコン、スズ、ゲルマニウムおよび/もしくは鉛の合金もしくは固溶体の複数の孤立した無孔性ナノ粒子106である。便宜上、例示目的のためにのみ、炭素を除く第4A族元素としてシリコンが関わる実施形態に言及する。
【0037】
一般に、複数の孤立した無孔性シリコンナノ粒子106は、約5〜約200ナノメートルの平均最大寸法を有する。シリコンナノ粒子の表面に形成される自然酸化物は、厚さ約0.5〜約1ナノメートルであるため、平均最大寸法約1〜約3ナノメートルの粒子は小さすぎて本発明のアノードには使用することができない。
【0038】
複数のシリコンナノ粒子106は、ナノ複合材料102の総重量の約15〜約90重量パーセント(wt%)を構成することができる。一般に、炭素は欠陥なく数多くの充電/放電サイクルを実行することができるため、特に炭素が樹枝状粒子104の導電材料として使用される場合、シリコン含有量を少なくすることによってアノードの長期安定性が得られる。その一方で、シリコン含有量を多くすると、得られるアノードは重量あたりの容量が改善される。したがって、Liイオン電池の長期安定性が、重量あたりの容量より要求される用途では、本開示が関係する当業者はさらに少量のシリコン含有量が使用されることを理解するであろう。同じように、Liイオン電池の容量が長期安定性よりも重要となる用途では、さらに多量のシリコン含有量を使用してナノ複合材料102を形成する。
【0039】
一般に、本発明のアノードは、共に凝集させるかまたは集合させた、複数のナノ複合材料の構成単位102を含む。図2のプロセスフロー図の最後に示すように、これらの凝集体または集合体は、アノードの最終形状となるバルク単体100の形態でありうる。あるいは、これらの凝集体は、粒子または顆粒(たとえば図1(b)に示し、符号100を付与した実質的に球状の顆粒)の形態であることができ、他のそのような粒子または顆粒と共に密接に近接するように充填して母材を形成する。
【0040】
凝集体100中の個々のナノ複合材料102は、少なくとも1つの他のナノ複合材料の構成単位102と電気を伝導するように集合している。一般に、これは、別のナノ複合材料102の樹枝状粒子104の表面の少なくとも一部に接触する1つのナノ複合材料102の樹枝状粒子104の表面の少なくとも一部を有することによって達成される。このように、アノードの導電性は、ナノ複合材料間の境界における表面抵抗によって不必要には低下しない。同じように、図1(b)に示すように、アノードが複数の凝集された粒子または顆粒100を含む場合、粒子または顆粒100は、各粒子100が少なくとも1つの他の粒子100に電気を伝導するように母材に充填されるか、または配置される。
【0041】
ナノ複合材料102のシリコン量が多い実施形態では、さまざまなナノ複合材料102の樹枝状粒子100を確実に互いに十分密接に接触させることは、さらに困難であることに留意する必要がある。そのような場合、ナノ複合材料102の少なくとも一部に導電材料(図示せず)の任意の層またはコーティングを施すことによって、個々のナノ複合材料102間の電気伝導性を改善することができる。この任意のコーティングは、個別のナノ複合材料が互いに十分接近して集合体または凝集体100を形成する前、その間または後に、ナノ複合材料102に直接施すことができる。任意のコーティングの導電材料は、樹枝状粒子104の導電材料と同じ材料でも異なる材料でもよい。この任意のコーティングは、シリコンナノ粒子に直接施すことができるが、材料から成る必要があり、リチウムイオンがそのコーティングを通して拡散することを可能にする厚みを有する必要がある。また、任意の導電性コーティングは、電解質の分解を妨げるのに有用であり、固体電解質界面(SEI)層の形成をもたらす。
【0042】
あるいは、導電性コーティングまたは導電性層の代わりに、導電性添加剤を使用して、さまざまなナノ複合材料102の樹枝状粒子100を確実に互いに十分密接に接触することができる。そのような添加剤の一例は、アノードの作製中および実装前に主に炭化する有機結合剤である。典型的な結合剤は、ポリマーを形成するのに使用するモノマー単位で、少なくとも約20原子百分率の炭素を有するポリマー材料を含む。好適なポリマーは、ポリエーテル、ポリエステル、メタクリル酸メチル系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、ビニリデンフルオリド系ポリマーなどを含む。そのような目的の他の添加剤は、本開示が関係する当業者に知られている。
【0043】
図1(b)および図2の凝集されたナノ複合材料100が示すように、ナノ複合材料102が集合する方法にかかわらず、アノードは、高レベルの多孔性を有する。しかし、アノードの正確な多孔率は、個々のナノ複合材料102のシリコン含有量に依存する。一般に、充電サイクル時のシリコン伸縮のために有用な細孔容積は、シリコンナノ粒子の容積の少なくとも約3倍になる。この閾値の細孔空間は、アノードのシリコンの膨張による歪みを最小限にするか、または完全に防ぐ。アノードの容積変化のあらゆる悪影響を最小限に抑えるためには、細孔容積はシリコンナノ粒子の総容積の約20倍以下に抑える必要がある。すなわち、細孔容積がシリコンナノ粒子の容積の約20倍以上である場合、アノードの体積あたりの容量は悪影響を受けるようになる。
【0044】
上に示すアノードは、さまざまな技法を使用して作製することができる。図2は、アノードを作製するための一般的なプロセスを示す典型的な図である。図2のプロセスフロー図の第1ステップに示すように、これらのプロセスは、導電材料の複数の孤立したナノ粒子から、3次元かつランダムに配置された樹枝状粒子104を形成することを含む。次に、複数の孤立した無孔性シリコンナノ粒子106は、樹枝状粒子に付着して、ナノ複合材料粒子102を形成する。最終的には、複数のナノ複合材料粒子102を共に集合させて、バルク材料100または顆粒100(図1(b)に示す)を形成する。顆粒の場合は、複数の顆粒100を固めて、アノードとして機能する母材とすることができる。
【0045】
導電材料の複数の孤立したナノ粒子は、多くの方法で樹枝状粒子104に集合させることができる。これらは、単に熱処理(たとえば粒子を共に焼結するか、あるいは、焼鈍する)、超音波処理、自然発生的に(たとえば隣接するナノ粒子の界面エネルギーの減少により)ナノ粒子を化学反応させることなどを使用することを含む。ナノ複合材料102をバルク材料または顆粒100に集合させる場合、表面積を最大にし、密度を最小にするために、凝集したナノ粒子がランダムな配置となることを確実にするように留意する必要がある。それ以外には、ナノ複合材料102をバルク材料または顆粒100に集合させる場合、ナノ粒子を秩序のある配置にすることによって最密充填にし、これにより、多孔率(最終的には表面積)を低下させ、バルク材料または顆粒100の凝集したナノ複合材料の密度を増大させる。
【0046】
樹枝状粒子104が形成されると、シリコンナノ粒子106はその上に付着することができる。いくつかの実施形態では、樹枝状粒子104の表面でシリコンナノ粒子106を直接成長させることができる。これを実施するためには多くの蒸着法を使用することができ、物理蒸着およびその変形例の全て、化学蒸着およびその変形例の全て、スパッタリングおよびその変形例の全て、アブレーション蒸着およびその変形例の全て、分子ビームエピタクシおよびその変形例の全て、電子噴霧イオン化およびその変形例の全てなどを含むが、これに限定されない。他の実施形態では、シリコンナノ粒子106を単独で調製し、物理的手段または化学的手段を使用して、樹枝状粒子104の表面に結合させることができる。そのような方法は、本開示が関係する当業者に知られている。
【0047】
シリコンナノ粒子106は、連続フィルムまたは実質的に連続するフィルムを樹枝状粒子104の表面に形成しないように、孤立した粒子であることが重要である。孤立した粒子として残ることによって、シリコンは、アノードに最小限の歪みで、あるいは全く歪みを与えることなく、充電サイクル中に伸縮することができる。その一方では、シリコンが連続フィルムまたは連続層として樹枝状粒子104に付着した場合、アノード全体では細孔の空間は少なくなると考えられる。これにより、充電サイクル中のアノードへの/からのリチウムイオンの移動が遅くなるか、減少する。また、充電サイクル時、アノードはさらにかなりの伸縮を受けるため、さらに大きく歪む可能性がある。
【0048】
同じように、シリコンナノ粒子106は、多孔性であるというよりむしろ密度が十分に高い(すなわち、ナノ粒子の総表面積に対して細孔壁が約5パーセント以下である)必要がある。シリコン自体の多孔性によって、リチウムイオンが細孔壁内に捕捉されることになり、これにより、アノードに対して容量損失を引き起こす。
【0049】
シリコンナノ粒子106が樹枝状粒子104に付着すると、ナノ複合材料の構成単位102が形成され、アノード構造全体を形成することができる。すなわち、複数のナノ複合材料の構成単位102を共に集合させて、アノードを形成することができる。場合によっては、ナノ複合材料の構成単位102を集合させて、さらに大きな粒子または顆粒100を形成することができる。次に、複数の顆粒は、固めて母材にすることができ、これはアノードとして機能するようになる。あるいは、ナノ複合材料の構成単位102を集合させてバルク構造体100を形成することができ、これがアノードとして機能するようになる。
【0050】
ナノ複合材料の構成単位102は、さまざまな方法を使用して凝集させることができる。これらの方法は、自己集合化学、圧力、熱、造粒、結合剤、それらの組み合わせなどの使用を含む。そのような方法は、本開示が関係する当業者に知られている。
【0051】
任意の導電性コーティングを使用する場合、ナノ複合材料の構成単位102の生成後、ナノ複合材料の構成単位102を凝集させるステップ前または中にコーティングを施すことができる。あるいは、ナノ複合材料の構成単位102を凝集させた後に、凝集したナノ複合材料の構成単位102に任意の導電性コーティングを塗布することができる。このコーティングは、シリコンナノ粒子106を成長させるために、上に記載した方法のいずれかを使用してナノ複合材料の構成単位102に塗布することができる。
【0052】
しかし、導電性添加剤を任意に使用する場合、ナノ複合材料の構成単位102を凝集させるステップ中または後に添加剤を組み込むことができる。そのような添加剤は、添加剤を導入するための既知の方法を使用して、組み込むことができる。
【0053】
ナノ複合材料の構成単位102が顆粒または粒子100に凝集されると、複数の顆粒または粒子100は、互いに近接して配置され、母材を形成し、これはアノードとして機能することができる。
【0054】
アノードが形成されると、Liイオン電池の作製において実装することができる。そのような電池は、本願明細書に記載するアノード、カソードおよび電解質セパレータを含み、電解質セパレータはアノードとカソードとの間に挿入される。本開示が関係する当業者に理解されるように、本願明細書に記載するアノードを使用することによって、あらゆる種類のLiイオン電池を形成することができる。
【0055】
Liイオン電池の動作時には、本開示が関係する当業者に理解されるように、電池は充電したり、および放電したりすることができる。実例として、電池が使用中(すなわち放電時)の場合、リチウムイオンはアノードのシリコンナノ粒子106からデインターカレートし(シリコンナノ粒子106の収縮を引き起こし)、イオン伝導性電解質を移動して、カソードにインターカレートする。Liイオン電池の内部回路の各リチウムイオンの運動は、外部回路の電子の運動によって補償され、これにより、電流を発生させる。これらの反応で放出される重量エネルギー密度は、2つの電極間の電位差と、カソードにインターカレートされるリチウムの量とに比例する。
【0056】
一方では、バッテリーの充電時または再充電時には、逆方向のプロセスが発生する。すなわち、電子が外部回路で(電池を充電する電源から)逆方向に移動する場合、リチウムイオンはカソードからデインターカレートし、イオン伝導性電解質を移動し、アノードのシリコンナノ粒子106にインターカレートし、シリコンナノ粒子106の膨張または拡大を引き起こす。
【0057】
さらに、本願明細書に記載するアノードの構造により、アノードに最小限しか、または全く歪みを与えずに、充電サイクルプロセスを数多く繰り返すことが可能である。
【0058】
典型的なアノード構造およびアノード構造を作製するプロセスを記載する。この特定の実施形態では、樹枝状粒子104は、共に焼鈍されたカーボンブラックナノ粒子から形成される。カーボンブラックナノ粒子を焼鈍すると、炭素の純度が増大し、アノードのサイクル寿命が増大するようになる。カーボンブラックナノ粒子は、他の炭素の同素体に比してコストおよび初期の純度が比較的低いことから本実施形態に使用される。
【0059】
焼鈍されたカーボンブラックナノ粒子を含む樹枝状粒子104が形成されると、シリコンナノ粒子106は、化学蒸着法(CVD)を使用して表面で成長する。特に、シランまたはクロロシランの前躯体組成物は、カーボンブラック樹枝状粒子104の表面にシリコンを蒸着させるように分解する。カーボンブラック樹枝状粒子104の表面のあらゆる欠陥が、シリコンナノ粒子の成長のための核形成部位として機能する。シリコンナノ粒子106の表面に多量の自然酸化物が形成されないように、成長時に酸素の存在を最小限に抑えるよう注意する必要がある。シリコンナノ粒子CVDステップが完了すると、ナノSi−C複合材料の構成単位102が形成される。
【0060】
次に、複数のナノSi−C複合材料102を顆粒100の形態に共に圧縮することができる。複数の圧縮されたナノSi−C複合材料102を、炭素の層が炭化水素の前駆体の分解によって顆粒100のさまざまな表面の少なくとも一部で成長する炭素CVDステップに曝されることによって、顆粒100の形状を維持することができる。複数のナノSi−C複合材料102は、造粒方法によって圧縮させることができる。
【0061】
場合によっては、複数の圧縮ナノSi−C複合材料102と犠牲結合剤とを混合することによって顆粒100の形状を維持することができる。顆粒100は、無酸素環境の熱処理に曝して犠牲結合剤を炭化することができる。
【0062】
次に、複数の顆粒100を共に集合させて、アノードの所望の形状を有する母材を形成することができる。母材の形状は、複数のナノSi−C複合材料102から顆粒100を形成するための記載した方法のいずれかを使用して維持することができる。
【0063】
他の状況では、顆粒100の代わりに、アノードの最終的に望ましい形状に複数のナノSi−C複合材料102を共に圧縮することができる。同じように、そのようなバルク圧縮したアノード体100の形状は、複数のナノSi−C複合材料102から顆粒100を形成するための記載された方法のいずれかを使用して維持することができる。
【0064】
本発明のさまざまな実施形態を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0065】
実施例1:Si−C複合材料アノード材の作製および特徴づけ
本実施例では、高容量、安定性能および、粉砕したグラファイト(すなわち約15〜約30マイクロメータ)に匹敵する粒度を有するSi−C多孔性複合材料顆粒を形成するために、階層的な「ボトムアップ」法を使用した。この粒度は、Liイオン電池電極の作製に一般に使用され、ナノ粒子と同じ吸入リスクはない。この「ボトムアップ」法は、急速充電能力を有する高容量の安定した複合材料アノードの作製を可能にした。
【0066】
簡潔には、化学蒸着法(CVB)合成プロセスは、カーボンブラック(CB)ナノ粒子の表面にSiナノ粒子が蒸着するように設計されており、CBナノ粒子は、高温での予備焼鈍中に短い樹状鎖を形成する。約500nm〜約1μmの多分岐鎖状のナノ複合材料は、(図2に示す概略図のように)炭素の常圧CVD蒸着中に自己集合して、大きな多孔性の球状顆粒となった。SiCVD蒸着の蒸着時間ならびに蒸着システムの圧力および温度によって、蒸着されるSiナノ粒子の大きさが決定された。樹枝状粒子の分岐鎖の大きさと蒸着されたシリコンナノ粒子の大きさによって、顆粒の孔径が決定された。複合材料顆粒の直径は、炭素CVDプロセスパラメータおよび最初の分鎖状炭素の樹枝状粒子の大きさに影響を受けた。したがって、開発したプロセスにより、複合材料顆粒の粒度、孔径および組成の制御が可能となった。
【0067】
焼鈍された鎖状のCB粒子は、その構造が開放され、見掛け密度がきわめて低く、比表面積が大きい(約80m2/g)ことから、Si蒸着のために複数の接触可能部位を備えることから、Si球体集合体の基材として選択された。カーボンブラックのコストがきわめて低く(精製した天然グラファイトのコストの約10〜約20%)、生産量がきわめて大きい(天然グラファイトの約9倍)ことは、合成した複合材料顆粒のコストを低く維持するのに有用である。炭素電極の不純物は、電池の動作に弊害をもたらし、寄生的な副作用、電池内での気泡発生、自己放電および電池の貯蔵寿命の劣化の一因となる。約2000℃超でのCBの焼鈍は、グラファイト化、隣接粒子の結合、および、最も重要なことには、きわめて高度な精製(約99.9%以上)をもたらし、特性の一貫性を促進し、これらはLiイオン電池システムには望ましく、酸による化学精製では達成できない。
【0068】
シリコンナノ粒子の蒸着を、約500℃、約1時間の低圧力(約1トル)シラン(SiH4)分解によって実施した。透過電子顕微法(TEM)によって、ナノ粒子が直径約10〜約30nmの球形を有し、図1(a)に示すように、焼鈍されたCB(図3(a))の表面に蒸着することが明らかになった。図3(b)に示すように、ほとんどのナノ粒子が、非晶質の微細構造を示すか、または無秩序性が高かった。ナノ粒子は、カーボン表面で高密度にコーティングされ、グラファイト組織の縁に十分付着した。安定した核が形成されると、核表面の気体種の吸着によって成長が起こった。粒子の球形によって、シリコンとCB表面との間の接触面積が最小となるが、これは恐らく、Siとグラファイト化したCB粒子の均一面(無視できる程度の表面官能性濃度しか有しない)との間の界面エネルギーによる。合成温度が低いことによって、シリコン原子の表面移動が最小限に抑えられ、シリコン表面の滑らかな形態をもたらしたと考えられる。図3(d)に示すように、エネルギー分散X線分光分析(EDX)により、不純物は試料中に検出されなかった。
【0069】
湿式造粒法では、液体結合剤は、攪拌されると小さい一次粒子を湿潤し、一次粒子は、粘性力および毛細管力の組み合わせによって、さらに大きな球粒子に自己集合した。乾燥処理または焼鈍処理により、結合剤は顆粒の形状を保つ高密度固体に変形する。電極粒子に関しては、固形の顆粒は理想的には、リチウムイオンに対して高導電性、高機械的安定性および高透過性を有する必要がある。グラファイトカーボンは、これらの属性の特有の組み合わせを示す。Siナノ粒子の酸化を防ぐために、造粒のための炭素の前駆体結合剤として炭化水素を選定した。従来の湿式造粒プロセスでは、液体結合剤は通常、液滴として導入される。液滴は粉体表面の細孔に浸透し、初期核を形成し、初期核は経時的に成長する。液滴の寸法が比較的小さい場合、核形成は、粒子およびその後粒子合体の表面で液滴が広まることによって発生する。プロセスは、溶融凝集と同じであり、結合剤溶融物および溶融コーティングを施した粒子は共に密着して顆粒を形成する。しかし、顆粒を制御して均一に形成するために必要となる均一な結合剤の蒸着を実現することは、通常困難である。したがって、この試験では結合剤は気体状で導入した。
【0070】
造粒および炭素蒸着の同時プロセスは、約700℃、約30分のプロピレン(C36)の分解によって行った。この高温ステップによって、蒸着されたシリコンナノ粒子が十分結晶化された。図3(e)に示すように、生成した試料をX線回折(XRD)による分析によって、シリコンナノ粒子の平均粒径は約30nmであることが示された。透過型電子顕微鏡による試験によって、約700℃への曝露後、Siナノ粒子の結晶構造が確認された(図3(f))。
【0071】
図4(a)および4(b)のSEMマイクログラフは、炭素蒸着の間に形成された球状顆粒を示す。図4(b)および4(c)に示すように、約500nm〜約1μmの表面凹凸により、粒子表面は粗面であった。炭素コーティングを施したものの、図4(d)で明らかなように小さいシリコンナノ粒子が表面に現われた。顆粒球の直径は、約15〜約35μmであり、平均直径約26μmの狭粒度分布を示した(図4(e))。図6に示すように、顆粒粒度分布は、造粒プロセス条件によって制御され、特定用途に最適化することができた。プロピレン分解は複数の中間ステップを介して行った。C36分解の中間ステップの炭化水素生成物は、CVD反応時に、基板の表面に吸着するトルエン、エチルベンゼン、スチレン、ナフタレン、ビフェニルなどのさらに分子量が大きい化合物を形成することが知られている。吸着状態では、最終的に炭化する前に、液体凝集結合剤として作用した。初めに、ナノ粒子を攪拌するために試料管を振動させた。しかし、さらに実験を重ねた結果、顆粒の密度がきわめて小さいことから振動させる必要がないことがわかった。人工攪拌しないで簡易な水平チューブで顆粒全てを合成した。
【0072】
ボトムアップ型集合体は、一次粒子の表面積の大部分を維持した。実際には、図4(f)に示すように、N2ガス吸着測定によって、炭素蒸着後の比表面積(SSA)の減少がかなり少ないことが示されたが、Si−C自己集合体顆粒のBrunauer Emmett Teller(BET)比表面積は約24m2/gであり、シリコンでコーティングを施したCB(約33m2/g)に近かった。球状粒子の孔径分布は、約30〜約100nmの細孔の存在を示した(図4(g))。これらの細孔は、図4(c)および4(d)に示す走査型電子顕微鏡マイクログラフにも現われた。純CBの表面の炭素コーティングによって、表面特徴がさらに大きく、直径約10〜約30nmの目に見えない粒子を有する多孔性顆粒が形成した(図4(h))。
【0073】
実施例2:Si−C複合材料アノードを使用するコイン電池の作製および特徴づけ
実施例1で作製したアノードの電気化学性能を評価するために、Li金属対電極を有するコイン電池(2016)を使用した。図5(a)に示すように、約50重量パーセントのSiを含む試料の特定の可逆的なデインターカレーション容量は、C/20で約1950mAh/gに達した。この重量あたりの容量は、グラファイトの理論容量の約5倍、高性能グラファイトアノードの理論容量の約6倍、焼鈍されたカーボンブラックの理論容量の約16倍であった(図5(a)、5(b)および図7)。シリコンナノ粒子単独の理論比容量は、C/20で約3670mAh/gとなると推定され、ナノ粒子に関してこれまでに報告された中で最も高い値である。それはシリコンの理論容量に接近した(Li22Si5を実施した場合、約4200mAh/g)。そのような高い理論比容量値は、設計した複合構造にリチウム挿入のための活性Siの近接性が高いことを示す。全炭素の寄与度は、約230mAh/g(115mAh/0.5g)と推定された。体積あたりの容量は、C/20で約1270mAh/ccと測定され、これはグラファイトアノードの約620mAh/gより高くなった。第1のサイクルの不可逆的容量損失(図5(a))は、固体電解質の相間形成に関係し、カーボンブラック(図5(b)および図7)とは異なり、電極容量が高いため(図4(g))、かなり小さくなる(約15%)。
【0074】
シリコンアノードは、反応速度の低下を引き起こすことが知られているが、実施例1の自己集合体電極は、きわめて高い速度能力を示した。急速放電速度が1Cおよび8Cの複合材料アノードの理論比容量は、それぞれ1590mAh/gおよび870mAh/gであり、C/20の約82%および約45%であった(図5(a)および5(b))。リチウム拡散係数が高く、総容量が低いグラファイトでさえ、速度8C(2.98A/g)でそのような容量保持を果たすことができず、約40mAh/gのデインターカレーション容量を示し、これはC/20理論比容量の13%であった(図5(b))。同じ電流密度値(2.98A/g)に関しては、実施例1の複合Si−C電極は容量1500mAh/g超を示し、これは焼鈍されたカーボンブラックの37倍超であった。粒度は大きいものの(図4(a)および4(b))、Liイオンは各顆粒内の活性アノード材へ急速に到達することができるのは明らかである。
【0075】
図5(c)の微分容量曲線は、0.21Vおよび0.06Vでリチウム化(リチウム挿入)のピークが広く、0.5Vで脱リチウム化(リチウム抽出)のピークが狭いことを示す。0.2Vで一般に観察される炭素脱リチウム化のピークは、アノード容量全体への炭素の寄与度がきわめて低いため、目に見えないほど小さかった。ミクロン単位のSi粉体およびSiナノワイヤー電池で報告されることが多い0.3Vの脱リチウム化のピークは存在しなかった。第1のサイクル後の0.5Vのピーク高さの増大は、Li抽出反応速度が改善したことを示す。ワイヤー電池に関する前の試験に従って、第1のサイクルでの結晶SiへのLi挿入による非晶質Si−Li合金の形成は、0.1Vで開始された。以降のサイクルは、0.21Vでさらなるリチウム化のピークを示し、これは非晶質Si−Li相のさらに高電圧でのリチウム化に対応する。
【0076】
Li挿入中に、Si膨張に対して複合材料顆粒で利用可能な細孔(図4(c)、4(d)、44(f)および4(g))は、アノード性能が効率的かつ安定的なものとなる(図5(a))。高速混合、カレンダおよび充放電サイクル後のアノード粒子のSEM試験では、顆粒のきわめて優れたロバスト性が示された(図5(d))。Si−C粉体のタップ密度は、約0.49g/ccであると評価され、グラファイトよりも低い(約1.3g/cc)が、焼鈍されたカーボンブラックよりも高い(約0.22g/cc)。Siナノ粉体(10〜30nm)単独では、タップ密度はさらに低くなると予想された。
【0077】
良好な試料安定性および高い速度能力と共に観測された高容量(図5(a))は、Si−C複合材料粉体では前例のないものであった。通常、高い秩序性が要求される多くのフォトニック用途、電子用途または膜用途とは異なり、実施例1に従って集合した顆粒は、その構造の無秩序性から便益を受けると考えられる。Liイオンの経路は、拡大したシリコンリチウム合金粒子によって、もしくは不均一に形成された固体電解質界面(SEI)の領域によって、1つの狭チャネルで阻害されるか、または妨害される場合、相互接続した非同期的な多孔性ネットワークは、これらの顆粒の急速充電能力を維持しつつ、イオンの流れの方向を変えることを可能にする。したがって、顆粒の無秩序性は、いくつかのフォニック結晶および触媒構造などに見られるように、複合材料アノードの官能性を高めると考えられる。
【0078】
したがって、これらの2つの実施例は、エネルギー貯蔵用途に使用するための桁違いの特性を備えるナノ複合材料粉体の合理的設計のための階層的なボトムアップ型集合方法の用途を示した。ナノ粒子またはナノウィスカーは、吸入リスクおよび多くの場合に爆発リスクがあり、フローおよび取扱性が不十分であり、計測および制御が難しいことが知られているが、これらの実施例のナノSi−C複合材料顆粒は、取扱性を改善し、粉塵量を減少させて損失を最小にし、バルク密度を増大させ、他にも優れた点を備えている。
【0079】
本発明の実施形態は、本願明細書に開示する特定の製剤、プロセスステップおよび材料に限定されず、多少変更することができる。さらに、本願明細書で使用する用語は、例示的実施形態のみを説明する目的で使用され、限定することを意図したものではなく、本発明のさまざまな実施形態の範囲は、本願の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定される。
【0080】
したがって、本開示の実施形態は、例示的実施形態を特に参照して詳細に記載しているが、本願の特許請求の範囲に定義するように、変形や改変が開示の範囲内で実施することができることを当業者は理解されよう。したがって、本発明のさまざまな実施形態の範囲は、上記の実施形態に限定されるべきでなく、本願の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ定義されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凝集されたナノ複合材料を有する多孔性複合材料を含むアノードであって、前記複数のナノ複合材料はそれぞれ、
導電材料のナノ粒子の、3次元かつランダムに配置された集合体を含む樹枝状粒子と、
前記樹枝状粒子の表面に付着する炭素を除く第4A族元素またはその混合物の複数の孤立した無孔性ナノ粒子と、を含み、
前記複数の凝集されたナノ複合材料の各ナノ複合材料は、前記複数の凝集されたナノ複合材料中の隣接するナノ複合材料の樹枝状粒子の少なくとも一部に電気を伝導する、前記樹枝状粒子の少なくとも一部を有する、アノード。
【請求項2】
前記樹枝状粒子の前記導電材料は、非晶質炭素またはグラファイトカーボンである、請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
前記非晶質炭素はカーボンブラックである、請求項2に記載のアノード。
【請求項4】
前記炭素を除く第4A族元素またはその混合物はシリコンを含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項5】
前記多孔性複合材料は、前記複数の凝集されたナノ複合材料の少なくとも1つの樹枝状粒子の表面の少なくとも一部に付着する導電性コーティングをさらに含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項6】
前記導電性コーティングは炭素から形成される、請求項5に記載のアノード。
【請求項7】
前記複数の凝集されたナノ複合材料は、導電性添加剤を使用して共に凝集される、請求項1に記載のアノード。
【請求項8】
前記導電性添加剤は炭素である、請求項7に記載のアノード。
【請求項9】
前記複数の孤立した無孔性ナノ粒子は、約5〜約200ナノメートルの平均最大寸法を有する、請求項1に記載のアノード。
【請求項10】
前記複数の孤立した無孔性ナノ粒子は、各ナノ複合材料の約15〜約90重量パーセントを構成する、請求項1に記載のアノード。
【請求項11】
前記多孔性複合材料は、球状または実質的に球状の顆粒である、請求項1に記載のアノード。
【請求項12】
前記多孔性複合材料中の総細孔容積は、前記多孔性複合材料中の前記ナノ粒子全てによって占められる容積の少なくとも約3倍である、請求項1に記載のアノード。
【請求項13】
前記多孔性複合材料中の前記総細孔容積は、前記多孔性複合材料中の前記ナノ粒子全てによって占められる前記容積の約20倍未満である、請求項1に記載のアノード。
【請求項14】
前記樹枝状粒子の前記表面上の前記孤立した無孔性ナノ粒子の少なくとも一部は、互いに接触する、請求項1に記載のアノード。
【請求項15】
複数の球状または実質的に球状の多孔性複合材料顆粒を含む母材を有するアノードであって、前記複数の顆粒の少なくとも1つは、複数の凝集されたナノ複合材料を含み、前記複数の凝集されたナノ複合材料の少なくとも1つのナノ複合材料は、
焼鈍されたカーボンブラックナノ粒子の、3次元かつランダムに配置された集合体を含む樹枝状粒子と、
前記樹枝状粒子の表面に付着する複数の孤立した無孔性シリコンナノ粒子と、を含み、
前記少なくとも1つのナノ複合材料は、前記複数の凝集されたナノ複合材料中の隣接するナノ複合材料の樹枝状粒子の少なくとも一部に電気を伝導する、前記樹枝状粒子の少なくとも一部を有する、アノード。
【請求項16】
請求項1または15に記載のアノードを含む電池。
【請求項17】
アノードを作製する方法であって、
複数の導電材料の孤立したナノ粒子から、3次元かつランダムに配置された樹枝状粒子を形成することと、
炭素を除く第4A族元素またはその混合物の複数の孤立した無孔性ナノ粒子を前記樹枝状粒子の表面に付着させてナノ複合材料粒子を形成することと、を含む方法。
【請求項18】
複数のナノ複合材料粒子を集合させて、バルク単体または球状もしくは実質的に球状の顆粒を形成することをさらに含み、前記複数のナノ複合材料粒子の各ナノ複合材料粒子は、前記複数の凝集されたナノ複合材料粒子中の隣接するナノ複合材料粒子の樹枝状粒子の少なくとも一部に電気を伝導する、前記樹枝状粒子の一部を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
複数の顆粒を集合させて、アノード母材を形成することをさらに含み、各顆粒の少なくとも1つのナノ複合材料粒子の少なくとも一部は、隣接する顆粒の少なくとも1つのナノ複合材料粒子の少なくとも一部の樹枝状粒子に電気を伝導する、樹枝状粒子を有する請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記樹枝状粒子の前記導電材料の前記ナノ粒子は、カーボンブラックのナノ粒子である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記炭素を除く第4A族元素またはその混合物はシリコンである、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記複数の孤立した無孔性シリコンナノ粒子を付着させることは、シランまたはクロロシランの分解生成物の化学蒸着を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記複数のナノ複合材料粒子を集合させて前記バルク単体または前記球状もしくは実質的に球状の顆粒を形成することは、前記複数のナノ複合材料粒子の造粒を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記造粒は、最終的には炭化する高分子結合剤を使用する湿式造粒法を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
集合させた前記複数のナノ複合材料粒子の少なくとも一部に導電性コーティングを塗布することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記電気の伝導を高めるために導電性添加剤を加えることをさらに含む、請求項17に記載の方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−506264(P2013−506264A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532289(P2012−532289)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/050794
【国際公開番号】WO2011/041468
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(504466834)ジョージア テック リサーチ コーポレイション (17)
【出願人】(512082602)ストリームライン・ナノテクノロジーズ・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】