説明

電極、電気化学セルおよび電極の製造方法

【課題】作業性よく優れた生産効率で、電気特性に優れる電気化学セルを製造することができる電極、および、その電極が用いられる電気化学セル、さらには、その電極の製造方法を提供する。
【解決手段】負極3を、負極側集電体8bと、負極側集電体8bに積層される負極側塗工層9bと、負極側塗工層9bに積層される、酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなる酸捕捉層10とから形成する。また、ハイブリッドキャパシタ1には、そのような負極3と、負極3に対して対向配置される正極2と、正極2および負極3が浸漬される電解液6とを備えさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、電気化学セルおよび電極の製造方法、詳しくは、電極と、その電極を備える電気化学セル、さらに、その電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド車両や燃料電池車両に搭載される蓄電デバイスとして、高出力かつ長寿命である、電気二重層キャパシタが知られている。
【0003】
電気二重層キャパシタでは、正極−負極間に電圧が印加されることにより、正極にアニオンが、負極にカチオンがそれぞれ引き寄せられて電荷層(電気二重層)が形成される。電気二重層キャパシタは、その電気二重層によってエネルギーを蓄えることができる。
【0004】
さらに近年では、キャパシタのエネルギー密度を向上させるべく、電気二重層に加え、正極もしくは負極における酸化還元反応によってエネルギーを蓄えるハイブリッドキャパシタが提案されている。ハイブリッドキャパシタは、例えば、リチウム塩(例えば、LiPF)を含有する有機溶媒からなる電解液と、セパレータと、セパレータを挟んで対向配置される正極および負極とを備えている。正極は、例えば、アニオンの物理的な吸着・脱離により電荷を蓄える分極性カーボン電極からなり、負極は、例えば、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能なカーボン電極からなる。
【0005】
しかしながら、ハイブリッドキャパシタにおいて正極電位が過剰に高くなると、電解液中のアニオン(例えば、LiPFに含まれるPFなど)から、負極の電気容量を低下させる遊離酸(例えば、HFなど)などの負極活性阻害物質が生成する場合がある。負極の電気容量が低下するとキャパシタのエネルギー密度が低下するため、そのような遊離酸を捕捉する必要がある。
【0006】
そこで、例えば、正極と、正極と間隔を隔てて対向配置される負極と、正極と負極との間に介在される2枚のセパレータ(正極側セパレータおよび負極側セパレータ)と、これらを浸漬する電解液とを備えるハイブリッドキャパシタにおいて、正極側のセパレータと負極側セパレータとの間に、負極活性阻害物質を捕捉するための捕捉剤(例えば、リチウム箔、炭酸リチウムなど)を、例えば、膜状にして介在させることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−103697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、このようなハイブリッドキャパシタでは、2枚のセパレータを用い、さらに、それらセパレータとは別途、捕捉剤を要するため、キャパシタの組み立てにおける作業性に劣り、生産効率が低下するという不具合がある。
【0009】
一方、捕捉剤をセパレータに含有させることにより、酸捕捉セパレータを製造し、その酸捕捉セパレータと、一般に用いられるセパレータとを積層して用いることも検討される。しかし、このような場合にも、やはり、酸捕捉セパレータと、一般に用いられるセパレータとを用意する必要があるため、キャパシタの組み立てにおける作業性が十分ではなく、優れた生産効率を確保できないという不具合がある。
【0010】
また、このような酸捕捉セパレータを備えるキャパシタでは、酸捕捉セパレータと、一般に用いられるセパレータとの2枚のセパレータが用いられるため、内部抵抗が増加し、電気特性に劣るという不具合がある。
【0011】
本発明の目的は、作業性よく優れた生産効率で、電気特性に優れる電気化学セルを製造することができる電極、および、その電極が用いられる電気化学セル、さらには、その電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の電極は、集電体と、前記集電体に積層される電極塗工層と、前記電極塗工層に積層される酸捕捉層とを備え、前記酸捕捉層が、酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなることを特徴としている。
【0013】
このような電極では、電極塗工層に酸捕捉層が積層されており、酸捕捉層には、酸捕捉剤が分散されているので、酸捕捉セパレータなどを別途用意せずとも、遊離酸を捕捉することができる。
【0014】
また、このような電極では、電極塗工層に酸捕捉層が積層されており、しかも、酸捕捉層を形成するフッ素樹脂が多孔質であるため、電極を用いて得られる電気化学セルの内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0015】
そのため、このような電極によれば、作業性よく、優れた生産効率で、電気特性に優れる電気化学セルを製造することができる。
【0016】
また、本発明の電気化学セルは、上記の電極からなる負極と、前記負極に対して対向配置される正極と、前記正極および前記負極が浸漬される電解液とを備えることを特徴としている。
【0017】
このような電気化学セルでは、酸捕捉剤が分散されている上記の電極が、負極として用いられるため、酸捕捉セパレータなどを別途用意することなく、電極によって、遊離酸を捕捉することができる。また、上記の電極は、多孔質フッ素樹脂からなるため、電気特性にも優れる。
【0018】
そのため、このような電気化学セルは、作業性よく、優れた生産効率で製造され、さらに、電気特性にも優れる。
【0019】
また、本発明の電極の製造方法は、集電体に電極塗工層を積層する工程、フッ素樹脂の溶解度が相対的に高い溶媒と、フッ素樹脂の溶解度が相対的に低い溶媒と、酸捕捉剤を混合し、酸捕捉剤混合液を得る工程、前記酸捕捉剤混合液に、フッ素樹脂を混合し、樹脂−酸捕捉剤混合液を得る工程、および、前記電極塗工層に前記樹脂−酸捕捉剤混合液を塗布し、乾燥させることにより、酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなる酸捕捉層を積層する工程を備えることを特徴としている。
【0020】
このような電極の製造方法では、電極に、酸捕捉剤を分散できるため、酸捕捉セパレータなどを別途用意せずとも、遊離酸を捕捉することができる電極を得ることができる。
【0021】
また、このような電極の製造方法では、酸捕捉層を形成するフッ素樹脂が多孔質であるため、電極を用いて得られる電気化学セルの内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0022】
そのため、このような電極の製造方法によれば、作業性よく、優れた生産効率で、電気特性に優れる電気化学セルを製造することができる電極を、製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電極によれば、作業性よく、優れた生産効率で、電気特性に優れる電気化学セルを製造することができる。
【0024】
また、本発明の電気化学セルは、酸捕捉セパレータなどを別途用意することなく、作業性よく、優れた生産効率で製造でき、また、電気特性にも優れる。
【0025】
また、本発明の電極の製造方法によれば、作業性よく、優れた生産効率で、電気特性に優れる電気化学セルを製造することができる電極を、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の電気化学セルの一実施形態を示すハイブリッドキャパシタの概略構成図である。
【図2】実施例および比較例における充放電サイクル数とエネルギー密度との関係を示す。
【図3】実施例および比較例における充放電サイクル数とエネルギー密度保持率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の電気化学セルの一実施形態を示すハイブリッドキャパシタの概略構成図である。
【0028】
図1において、電気化学セルとしてのハイブリッドキャパシタ1は、間隔を隔てて対向配置される正極2および負極3(すなわち、正極2が負極3に対して対向配置される。)と、正極2と負極3との間に介在されるセパレータ4と、正極2、負極3およびセパレータ4を収容するセル槽5と、セル槽5に貯留され、正極2、負極3およびセパレータ4を浸漬する電解液6とを備えている。なお、ハイブリッドキャパシタ1は、ラボスケールで採用される電池セルであって、工業的には、このハイブリッドキャパシタ1を、公知の技術によって適宜スケールアップしたものが採用される。
【0029】
正極2は、充放電サイクルにおいて、電位範囲を拡大するための不可逆容量を発現する電極であって、正極側集電体8aと、正極側集電体8aに積層される正極側塗工層9aとを備えている。
【0030】
正極側集電体8aとしては、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などの金属箔が挙げられる。
【0031】
正極側集電体8aの厚さは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、10〜50μmである。
【0032】
正極側塗工層9aは、例えば、正極材料と、導電剤と、ポリマーバインダとから形成される。
【0033】
正極材料は、例えば、炭素材を賦活処理することにより得られる。
【0034】
炭素材としては、例えば、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、メソフェーズ系ピッチなどのピッチ系原料、例えば、ピッチ系材料を熱処理することにより得られるコークス系原料、例えば、やしがら、木粉などの植物系原料、例えば、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、レゾルシノール系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリブチラール、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセテートなどの合成樹脂系原料およびそれらの炭化物が挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、ピッチ系原料、コークス系原料、合成樹脂系原料(とりわけ、塩化ビニル系、ポリアクリロニトリル)などのソフトカーボン(易黒鉛化炭素)が挙げられる。なお、炭素材は、先に例示した材料に限られない。
【0035】
賦活処理としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)などを賦活剤として用いるアルカリ賦活処理、例えば、塩化亜鉛(ZnCl)、リン酸(HPO)などを賦活剤として用いる薬品賦活処理、例えば、二酸化炭素(CO)、空気などを賦活剤として用いるガス賦活処理、例えば、水蒸気(HO)を賦活剤として用いる水蒸気賦活処理などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、アルカリ賦活処理が挙げられ、さらに好ましくは、水酸化カリウム(KOH)を賦活剤として用いるアルカリ賦活処理(KOH賦活処理)が挙げられる。なお、賦活処理は、先に例示した処理に限られない。
【0036】
賦活処理の方法としては、例えば、KOH賦活処理をする場合、窒素雰囲気下において、炭素材を、例えば、500〜800℃で予備焼成し、次いで、700〜1000℃でKOHとともに焼成する。用いられるKOHの量は、例えば、炭素材1質量部に対して、0.5〜5質量部である。
【0037】
上記賦活処理によって得られる正極材料を正極2に用いたハイブリッドキャパシタ1では、例えば、正極2の電位が4V vs.Li/Li以上となる充放電サイクルにおいて、正極2に電位範囲を拡大させるための不可逆容量を発現させることができる。そのため、放電過程において、より低い電位にまで正極の放電が可能となる。その結果、正極2の電気容量を拡大することができる。
【0038】
正極材料は、混合物全量に対して、例えば、固形分の質量割合が80〜99質量%の割合となるように配合される。
【0039】
導電剤としては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0040】
また、導電剤は、混合物全量に対して、例えば、固形分の質量割合が0〜20質量%の割合となるように配合される。つまり、導電剤は、配合しても配合しなくてもよい。
【0041】
ポリマーバインダとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、フルオロオレフィンビニルエーテル共重合体架橋ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、PVdFが挙げられる。
【0042】
また、ポリマーバインダは、混合物全量に対して、例えば、固形分の質量割合が1〜20質量%の割合となるように配合される。
【0043】
そして、正極2を形成するには、まず、正極材料、導電剤およびポリマーバインダを配合した混合物を、例えば、溶媒中で攪拌して、スラリー(固形分:10〜60重量%)を得る。
【0044】
溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性極性溶媒、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、水などのプロトン性極性溶媒、例えば、トルエン、キシレン、イソホロン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、フタル酸ジメチルなどの低極性溶媒が挙げられる。これらのうち、好ましくは、非プロトン性極性溶媒が挙げられ、さらに好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。
【0045】
次いで、この方法では、得られたスラリーを、上記の正極側集電体8aの表面に塗布し、乾燥させることにより、正極側集電体8aに正極側塗工層9aを積層する。
【0046】
塗布方法としては、特に制限されないが、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法などによる塗布や、バーコーター、アプリケーターなどを用いたキャスティングなどが挙げられる。
【0047】
また、乾燥条件は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0048】
次いで、得られた積層体を、必要により、ロールプレスなどを用いて加圧延伸し、電極シートを得る。その後、電極シートを所定の形状(例えば、矩形状)に裁断し、必要によりさらに乾燥させる。これにより、正極2が得られる。
【0049】
このような方法により得られる正極2の厚さおよび大きさは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、厚さが30〜150μm(正極側集電体8aを除く厚さ(すなわち、正極側塗工層9aの厚さ)が10〜140μm)であり、また、大きさが、例えば、矩形状の場合には、長手方向長さが、例えば、10〜200mm、長手方向と直交する方向(幅方向)長さが、例えば10〜200mmである。
【0050】
なお、正極2は、例えば、正極側集電体8aを用いることなく、正極側塗工層9aのみから形成することもできる。このような場合には、正極2は、例えば、正極材料、導電剤およびポリマーバインダを配合して得られる混合物を、例えば、ロールプレスを用いて加圧延伸し、電極シートを得た後、その電極シートを上記の形状に成形し、乾燥させることにより、製造される。
【0051】
負極3は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出する電極であって、集電体としての負極側集電体8bと、その負極側集電体8bに積層される電極塗工層としての負極側塗工層9bと、その負極側塗工層9bに積層される酸捕捉層10とを備えている。
【0052】
負極側集電体8bとしては、例えば、上記した金属箔が挙げられる。
【0053】
負極側集電体8bの厚さは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、10〜50μmである。
【0054】
負極側塗工層9bは、例えば、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出する電極材料と、ポリマーバインダとから形成される。
【0055】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極材料としては、例えば、ハードカーボン(難黒鉛化炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化炭素)、グラファイトなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。なお、負極材料は、先に例示した材料に限られない。
【0056】
ハードカーボンは、一般的な熱硬化性樹脂、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フルフラール樹脂、シリコーン樹脂、キシレン樹脂、ウレタン樹脂などを焼成することにより得られる。
【0057】
ソフトカーボンとしては、例えば、ピッチ系原料、コークス系原料、合成樹脂系原料など、上記したソフトカーボンが挙げられる。
【0058】
グラファイトとしては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン小球体、黒鉛化メソフェーズカーボン繊維、黒鉛ウィスカ、黒鉛化炭素繊維、例えば、ピッチ、コークスなどの縮合多環炭化水素化合物の熱分解物などが挙げられる。また、グラファイトは、粉末状のもの(例えば、平均粒径が25μm以下のもの)が好ましく用いられる。
【0059】
上記のような負極材料は、混合物全量に対して、例えば、固形分の質量割合が80〜99質量%の割合となるように配合される。
【0060】
ポリマーバインダとしては、例えば、上記したポリマーバインダが挙げられる。また、ポリマーバインダは、混合物全量に対して、例えば、固形分の質量割合が1〜15質量%の割合となるように配合される。
【0061】
また、負極の製造においては、必要により、さらに、導電剤を配合することもできる。
【0062】
導電剤としては、例えば、上記した導電剤が挙げられる。また、導電剤は、混合物全量に対して、例えば、固形分の質量割合が0〜20質量%の割合となるように配合される。つまり、導電剤は、配合しても配合しなくてもよい。
【0063】
酸捕捉層10は、酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなる。
【0064】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、フルオロオレフィンビニルエーテル共重合体架橋ポリマーなどが挙げられる。これらは、単独または2種以上併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0065】
酸捕捉剤としては、例えば、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)など、アルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。これらは、単独または2種以上併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、炭酸リチウムが挙げられる。
【0066】
酸捕捉層10において、酸捕捉剤の含有割合は、例えば、酸捕捉層10全量に対して、例えば、20質量%以上であり、好ましくは、40〜300質量%である。具体的には、酸捕捉層10の単位体積当たりの含有量として、例えば、100mg/cm以上であり、好ましくは、200〜1500mg/cmである。
【0067】
なお、酸捕捉剤の配合割合は、例えば、酸捕捉層がLiCOを含有する場合、ICP発光分光分析装置を用いてLiの定量分析を実施し、分析値をLiCOの定量値に換算することにより、算出することができる。
【0068】
このような負極3では、負極側塗工層9bに酸捕捉層10が積層されており、酸捕捉層10には、酸捕捉剤が分散されているので、酸捕捉セパレータなどを別途用意せずとも、遊離酸を捕捉することができる。
【0069】
また、このような負極3では、負極側塗工層9bに酸捕捉層10が積層されており、しかも、酸捕捉層10を形成するフッ素樹脂が多孔質であるため、負極3を用いて得られるハイブリッドキャパシタ1の内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0070】
そのため、このような負極3によれば、作業性よく、優れた生産効率で、電気特性に優れる電気化学セルを製造することができる。
【0071】
そして、負極3を形成するには、例えば、まず、負極側集電体8bに負極側塗工層9bを積層する。
【0072】
具体的には、まず、負極材料およびポリマーバインダ(さらに、必要により導電剤)を配合した混合物を、溶媒中で攪拌してスラリーを得る。
【0073】
溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、キシレン、イソホロン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、フタル酸ジメチル、エタノール、メタノール、ブタノール、水などが挙げられる。
【0074】
次いで、得られたスラリーを負極側集電体8bの表面に、例えば、上記した塗布方法により塗布し、その後、乾燥させる。これにより、負極側集電体8bに負極側塗工層9bを積層する。
【0075】
次いで、この方法では、フッ素樹脂の溶解度が相対的に高い溶媒(以下、主溶媒とする。)と、フッ素樹脂の溶解度が相対的に低い溶媒(以下、副溶媒とする。)と、酸捕捉剤を混合し、酸捕捉剤混合液を得る。
【0076】
主溶媒としては、フッ素樹脂の溶解度が副溶媒よりも高く、沸点が低い溶媒であれば特に制限されず、例えば、極性溶媒が用いられる。具体的には、水、アルコール類、アセトンなどが挙げられ、好ましくは、水が挙げられる。
【0077】
副溶媒は、フッ素樹脂の溶解度が主溶媒よりも低く、また、好ましくは、酸捕捉剤に対する親和性が主溶媒よりも高い溶媒であって、主溶媒と相溶性があれば特に制限されないが、例えば、具体的には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、2−ブタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒などが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。また、これらのうち、好ましくは、ホルムアミド系溶媒、アセトアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒などのアミン系溶媒が挙げられ、さらに好ましくは、ピロリドン系溶媒が挙げられ、具体的に好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0078】
このように、主溶媒および副溶媒を用いることにより、酸捕捉層を多孔質として形成することができる。
【0079】
主溶媒と副溶媒との質量比(主溶媒/副溶媒)は、例えば、5/95〜40/60であり、好ましくは、10/90〜20/80である。質量比を上記範囲にすることにより、酸捕捉層10に適度な空隙率を確保できるので、負極3のイオン伝導性を向上させることができる。
【0080】
また、酸捕捉剤の配合割合は、主溶媒と副溶媒との総量100質量部に対して、例えば、20〜40質量部、好ましくは、40〜300質量部である。
【0081】
次いで、この方法では、酸捕捉剤混合液に、フッ素樹脂を混合し、樹脂−酸捕捉剤混合液を得る。
【0082】
フッ素樹脂の配合割合は、主溶媒と副溶媒との総量100質量部に対して、例えば、3〜16質量部、好ましくは、4〜7質量部であり、また、酸捕捉剤混合液(主溶媒と副溶媒と酸捕捉剤との総量)100質量部に対して、例えば、1.7〜9質量部、好ましくは、2.5〜3質量部である。
【0083】
また、この方法では、必要により樹脂−酸捕捉剤混合液の粘度を調節するため粘度調整剤などの添加剤を添加してもよい。
【0084】
粘度調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースなど、公知の粘度調整剤が挙げられる。
【0085】
このような粘度調整剤を添加するタイミングは、酸捕捉剤投入前、酸捕捉剤投入時およびフッ素樹脂投入時のいずれであってもよいが、好ましくは、酸捕捉剤投入前である。
【0086】
次いで、負極側塗工層9bに、樹脂−酸捕捉剤混合液を、例えば、上記した塗布方法により塗布し、その後、乾燥させる。
【0087】
乾燥では、例えば、真空乾燥や通風乾燥などにより、副溶媒の沸点未満で乾燥させて主溶媒を蒸発させることによって、副溶媒が分散した状態の多孔質層を形成する。続いて、層中の副溶媒を蒸発させる。
【0088】
主溶媒を蒸発させるための第1の乾燥は、例えば、主溶媒が水である場合には、60〜100℃で5〜10分間実施する。一方、副溶媒を蒸発させるための第2の乾燥は、例えば、副溶媒がN−メチル−2−ピロリドン(NMP)である場合には、100℃以上で5〜10分間実施する。なお、第2の乾燥は、主溶媒が完全に蒸発した後でなくとも、主溶媒が概ね蒸発した時点から実施することができる。
【0089】
これによって、酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂、好ましくは、孔に酸捕捉剤が充填された多孔質フッ素樹脂からなる酸捕捉層10を、負極側塗工層9bに積層し、負極側集電体8b、負極側塗工層9bおよび酸捕捉層10を備えた負極3を形成する。
【0090】
上記のような方法により得られる負極3の厚さおよび大きさは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、厚さが、90〜140μmであり、負極側集電体8bおよび酸捕捉層10を除く厚さ(すなわち、負極側塗工層9bの厚さ)が、20〜30μmであり、負極側集電体8bおよび負極側塗工層9bを除く厚さ(すなわち、酸捕捉層10の厚さ)が、60〜100μmである。また、大きさが、例えば、矩形状の場合には、長手方向長さが、例えば、10〜200mmであり、幅方向長さが、例えば、10〜200mmである。
【0091】
次いで、得られた積層体を、必要により、ロールプレスなどを用いて加圧延伸して電極シートを得る。その後、電極シートを所定の形状(例えば、矩形状)に裁断し、必要によりさらに乾燥させる。これにより、負極3が得られる。
【0092】
このような負極3の製造方法では、負極3に、酸捕捉剤を分散できるため、酸捕捉セパレータなどを別途用意せずとも、遊離酸を捕捉することができる負極3を得ることができる。
【0093】
また、このような負極3の製造方法では、酸捕捉層10を形成するフッ素樹脂を多孔質にできるため、負極3を用いて得られるハイブリッドキャパシタ1の内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0094】
そのため、このような負極3の製造方法によれば、作業性よく、優れた生産効率で、電気特性に優れるハイブリッドキャパシタ1を製造することができる負極3を、製造することができる。
【0095】
セパレータ4としては、例えば、ガラス繊維、セラミックス繊維、ウィスカなどの無機繊維、例えば、セルロースなどの天然繊維、例えば、ポリオレフィン、ポリエステルなどの有機繊維などからなるセパレータが挙げられる。
【0096】
また、セパレータ4の厚さおよび大きさは、ハイブリッドキャパシタ1のスケールにより異なるが、例えば、ラボスケールでは、厚さが15〜150μmであり、大きさが、例えば、矩形状の場合には、長手方向長さが、例えば、15〜220mmであり、幅方向長さが、例えば、15〜220mmである。
【0097】
電解液6は、リチウム塩を含む有機溶媒を含有しており、具体的には、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解させることにより調製される。
【0098】
リチウム塩としては、ハロゲンを含むアニオン成分を有し、例えば、LiClO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiCSO、LiC17SO、LiB[C(CF−3,5]、LiB(C、LiB[C(CF)−4]、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFCO、LiN(CFSOなどが挙げられる。なお、上式中[C(CF−3,5]は,フェニル基の3位と5位に、[C(CF)−4]はフェニル基の4位に、それぞれ−CFが置換されているものを意味する。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0099】
有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、プロピレンカーボネート誘導体、エチレンカーボネート、エチレンカーボネート誘導体、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジオキソラン、リン酸トリエステル、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、1,3−プロパンスルトン、4,5−ジヒドロピラン誘導体、ニトロベンゼン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン誘導体、シドノン化合物、アセトニトリル、ニトロメタン、アルコキシエタン、トルエンなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0100】
そして、電解液6を調製するには、例えば、リチウム塩の濃度が、例えば、0.5〜5mol/L、好ましくは、1〜3mol/Lとなるように、また、電解液6中の水分量が、例えば、50ppm以下、好ましくは、10ppm以下となるように、リチウム塩を有機溶媒に溶解する。
【0101】
そして、このようなハイブリッドキャパシタ1の内部抵抗は、例えば、30Ωcm以下、好ましくは、25Ωcm以下である。
【0102】
ハイブリッドキャパシタ1において、酸捕捉層10中の酸捕捉剤により捕捉される負極活性阻害物質は、電解液6に含まれるアニオンから誘導される物質であって、例えば、LiPFに含まれるPFなどから誘導されるフッ酸(HF)などが挙げられる。そのような負極活性阻害物質は、充放電サイクルにおいて、正極2の電位範囲を拡大するための不可逆容量を、正極2に発現させる場合などに生成する。
【0103】
正極2での不可逆容量は、例えば、充放電サイクルの1サイクル目を以下のように実施することによって発現する。具体的には、まず、正極2と負極3との間(正極−負極間)に印加されるセル電圧が2.5〜5.0V(好ましくは、4.0〜5.0V)に上昇するまで、0.1〜10mA/cm(好ましくは、1〜5mA/cm)で定電流充電する。充電後、電流値が0.01〜1mA/cm(好ましくは、0.02〜0.5mA/cm)に降下するまで、上昇後のセル電圧に保持し、その後、セル電圧が0〜4.0V(好ましくは、1.0〜3.0V)に降下するまで、0.1〜10mA/cm(好ましくは、1〜5mA/cm)で定電流放電する。1サイクル目を、このように実施することによって、正極2に不可逆容量を発現させることができる。
【0104】
なお、充放電サイクルの2サイクル目以降は、例えば、最大セル電圧が4.0〜4.8V(好ましくは、4.2〜4.6V)の範囲、最低セル電圧が0.0〜4.0V(好ましくは、2.0〜2.4V)の範囲の定電流放電を行なう。
【0105】
そして、ハイブリッドキャパシタ1では、正極2での不可逆容量の発現に起因して、例えば、電解液6がLiPFを含有する場合、以下のようにHFが生成する。具体的には、1サイクル目の充電過程において、正極2および/または電解液6に含まれる水分や有機物からプロトン(H)が生成する(下記式(1)および(2)参照)ものと考えられる。
(1)2HO→O+4H+4e
(2)R−H→R+H+e(Rは、アルキル基)
そして、生成したプロトンが、電解液6に含まれるPFと反応し、HF(負極活性阻害物質)が生成する(下記式(3)参照)ものと考えられる。
(3)PF+H→PF+HF
しかし、ハイブリッドキャパシタ1によれば、HFなどの負極活性阻害物質を十分に捕捉するだけの酸捕捉剤が、酸捕捉層10に含有されている。そのため、正極2での不可逆容量の発現に起因して負極活性阻害物質が発生しても、その負極活性阻害物質を良好に捕捉することができる。
とりわけ、このようなハイブリッドキャパシタ1では、負極3に酸捕捉剤が分散されているため、酸捕捉セパレータなどを別途用意することなく、負極3によって、遊離酸を捕捉することができる。また、負極3は、多孔質フッ素樹脂からなるため、電気特性にも優れる。
【0106】
そのため、このようなハイブリッドキャパシタ1は、作業性よく、優れた生産効率で製造され、さらに、電気特性にも優れる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0108】
例えば、正極側集電体8aおよび正極側塗工層9aを備える正極2に、さらに、酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなる酸捕捉層10を形成することができ、また、例えば、ハイブリッドキャパシタ1を、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池に変更することができる。
【0109】
例えば、電気二重層キャパシタの場合には、負極および負極の材料として、例えば、活性炭が用いられる。
【0110】
一方、リチウムイオン電池の場合には、正極の材料として、上記した正極2に用いられる材料の代わりに、種々の酸化物、硫化物が用いられ、例えば、二酸化マンガン(MnO)、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LiMn,LiMnOなど)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、LiNiOなど)、リチウムコバルト複合酸化物(例えば、LiCoOなど)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムマンガンコバルト複合酸化物、バナジウム酸化物(例えば、Vなど)などが用いられる。また、導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料などの有機材料も用いることができる。
【0111】
そして、電気化学セルは、例えば、自動車(ハイブリッド車両など)に搭載される駆動用電池、ノートパソコン、携帯電話などのメモリバックアップ電源などの各種工業製品として、好適に用いることができる。
【実施例】
【0112】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<実施例1>
1.正極の作製
メソフェーズ系ピッチ(三菱ガス化学株式会社製 AR樹脂)を窒素雰囲気下、750℃で焼成し、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)を得た。得られたソフトカーボンに水酸化カリウム(KOH)を、ソフトカーボン:KOH=1:4の配合重量比で混合し、窒素雰囲気下、800℃で焼成(KOH賦活)した後、純水で洗浄することにより、KOH賦活ソフトカーボンを得た。
【0113】
次いで、KOH賦活ソフトカーボン:カーボンブラック:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を85:5:10の配合重量比で混合し、ロールプレスを用いて加圧・圧延することにより、厚み75μmの電極シートを得た。この電極シートをφ10のサイズに打ち抜き、さらに100℃で12時間真空乾燥することにより、正極を作製した。
2.負極の作製
ハードカーボン(クレハ製、カーボトロンPS(F)):PVdF(ポリフッ化ビニリデン)を9:1の配合重量比で混合し、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)中で十分攪拌した後、アルミニウム箔(集電体)に、約50μmの厚さに塗工し、負極側塗工層(電極塗工層)を形成した。
【0114】
次いで、水(主溶媒)と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)(副溶媒)とを、質量比が1:4となるように混合し、さらに、N−メチル−2−ピロリドンと水との総量100質量部に対して、カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液(CMC濃度:1.5質量%、粘度調整剤)を、63質量部配合した。
【0115】
次いで、得られた混合液100質量部に対して、炭酸リチウム(LiCO、酸捕捉剤)の粉末を少量ずつ加え、攪拌および分散させることにより、酸捕捉剤混合液を調製した。
【0116】
次いで、酸捕捉剤混合液100質量部に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、フッ素樹脂)3質量部を添加し、樹脂−酸捕捉剤混合液を調製した。
【0117】
なお、樹脂−酸捕捉剤混合液において、PTFEと、LiCOと、CMCとの質量比は、PTFE:LiCO:CMC=5.8:93.4:0.8とした。
【0118】
次いで、負極側塗工層に、上記の樹脂−酸捕捉剤混合液を、アプリケーターにより塗布し、60℃で5分間乾燥して水をほぼ蒸発させ、その後、100℃で5分間乾燥して、N−メチル−2−ピロリドンを蒸発させ、乾燥させた。これにより、酸捕捉層を形成し、集電体、電極塗工層および酸捕捉層を備える負極を作製した。
【0119】
負極において、単位面積当たりのLiCO量は、3.3mg/cmであった。
(セパレータ)厚さ400μmのセラミックスフィルタ(ADVANTEC社製、GB−100R)を、φ25に打ち抜くことにより、セパレータを作製した。
(電解液)LiPFのエチレンカーボネート/ジエチレンカーボネート溶媒(1:1体積比)を調製することにより、LiPF濃度が1mol/Lの電解液を作製した。
【0120】
上記の正極1枚、負極1枚、セパレータ1枚、電解液1ccを用いて、試験セルを組み立てた。
<比較例1〜3>
表1に示す処方とした以外は、実施例1と同様にして、負極を製造し、また、実施例1で用いた正極、セパレータおよび電解液を用いて、試験セルを組み立てた。
【0121】
詳しくは、比較例2および3では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代えて、ゴム系バインダー(主成分:SBRゴム、日本ゼオン製)を用いた。また、比較例1〜3において、各成分の配合量は、単位面積当たりのLiCO量が、実施例1と同量、すなわち、3.3mg/cmとなるように調整した。
【0122】
なお、比較例3では、酸捕捉層が負極側塗工層から剥離したため、負極を製造できなかった。
<比較例4>
酸捕捉層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、負極を製造した。
【0123】
また、下記する方法により、捕捉剤をセパレータに含有させ、酸捕捉セパレータを製造するとともに、酸捕捉セパレータと上記のセパレータとを積層して用いた以外は、実施例1と同様にして、試験セルを組み立てた。
(酸捕捉セパレータの製造)
フッ化ビニリデンポリマー100質量部をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、オクタノールを添加した。なお、N,N−ジメチルホルムアミドとオクタノールとの質量比は、20/80とした。
【0124】
その後、粒径3μmの炭酸リチウム(LiCO)粒子240質量部を上記溶液中に添加して均一に分散するまで攪拌することにより、混合溶液を調製した。
【0125】
次いで、調製された混合溶液をポリプロピレンフィルム上にキャストした後、170℃で1.25分間乾燥してN,N−ジメチルホルムアミドをほぼ蒸発させ、その後、210℃で1.25分間乾燥して、オクタノールを蒸発させた。
【0126】
これにより、厚さ33μmのフッ化ビニリデンホモポリマー多孔質膜(セパレータシート)を得た。そして、その多孔質膜をポリプロピレンフィルムから剥離し、25mmの円形状に打ち抜くことにより、LiCO(酸捕捉剤)が含有されたセパレータ(酸捕捉セパレータ)を得た。
<評価実験>
1.内部抵抗
実施例1、比較例1、2および4で組み立てた試験セルそれぞれに対して、電圧範囲2.3〜4.6V、電流値1mA/cmにおいて充放電試験を実施し、内部抵抗を充放電プロファイルのIRドロップにより測定した。その結果を、表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
(考察)
表1から、集電体と、集電体に積層される電極塗工層と、電極塗工層に積層される酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなる酸捕捉層とを備える負極を用いた実施例1では、酸捕捉層を多孔質にしなかった比較例1や、酸捕捉層をフッ素樹脂から形成しなかった比較例2、さらには、酸捕捉層を形成しなかった比較例4に比べ、内部抵抗が低く、電気特性に優れることがわかる。
2.酸捕捉効果
実施例1、比較例1、2および4で組み立てた試験セルそれぞれに対して、電圧範囲2.3〜4.6V、電流値5mA/cmにおいて充放電試験を500サイクル実施し、各サイクル終了後におけるエネルギー密度およびエネルギー密度保持率を測定した。サイクル数とエネルギー密度との関係を図2に、サイクル数とエネルギー密度保持率との関係を図3に示す。
(考察)
図2および図3に示すように、集電体と、集電体に積層される電極塗工層と、電極塗工層に積層される酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなる酸捕捉層とを備える負極を用いた実施例1では、酸捕捉層を多孔質にしなかった比較例1や、酸捕捉層をフッ素樹脂から形成しなかった比較例2に比べ、充放電試験におけるエネルギー密度およびエネルギー密度保持率に優れている。
【0129】
このことから、実施例1の負極は、比較例1および2の負極に比べ、酸捕捉層による酸捕捉効果に優れると推察される。
【0130】
さらに、実施例1の試験セルは、比較例4の試験セルと同程度のエネルギー密度およびエネルギー密度保持率を確保できる一方、比較例4の試験セルと異なり、酸捕捉セパレータなどを用いないので、作業性よく、優れた生産効率で組み立てることができた。
【符号の説明】
【0131】
1 ハイブリッドキャパシタ
2 正極
3 負極
4 セパレータ
6 電解液
8a 正極側集電体
8b 負極側集電体
9a 正極側塗工層
9b 負極側塗工層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体に積層される電極塗工層と、
前記電極塗工層に積層される酸捕捉層とを備え、
前記酸捕捉層が、酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなることを特徴とする、電極。
【請求項2】
請求項1に記載の電極からなる負極と、
前記負極に対して対向配置される正極と、
前記正極および前記負極が浸漬される電解液とを備えることを特徴とする、電気化学セル。
【請求項3】
集電体に電極塗工層を積層する工程、
フッ素樹脂の溶解度が相対的に高い溶媒と、フッ素樹脂の溶解度が相対的に低い溶媒と、酸捕捉剤を混合し、酸捕捉剤混合液を得る工程、
前記酸捕捉剤混合液に、フッ素樹脂を混合し、樹脂−酸捕捉剤混合液を得る工程、および、
前記電極塗工層に前記樹脂−酸捕捉剤混合液を塗布し、乾燥させることにより、酸捕捉剤が分散された多孔質フッ素樹脂からなる酸捕捉層を積層する工程
を備えることを特徴とする、電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−212707(P2012−212707A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76303(P2011−76303)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】