説明

電極、電気化学的分析装置及び電気化学的分析方法

【課題】液体試料中に複数種類の重金属イオンが存在している場合も、銅イオンを選択的に検出することが可能な電極、当該電極を用いた電気化学的分析装置及び電気化学的分析方法を提供する。
【解決手段】試料溶液中の銅イオンを電気化学的に分析するための電極であって、導電性材料を含み、前記試料溶液との接触領域を有する電極部を備えており、当該電極部を試料溶液と接触させた場合に、前記試料溶液中の銅イオンと錯体を形成可能なようにジチゾンが前記接触領域に保持されているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅イオンを選択的に検出するための電極、並びに、当該電極を用いた電気化学的分析装置及び電気化学的分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川や地下水等に含まれる微量な金属を分析する場合、フレームレス原子吸光法や、蛍光分析法、誘導結合プラズマ発光−質量分析法(ICP−MS)、電気化学的測定法等が用いられている。これらの方法を用いて、複数種類の金属が含まれている試料溶液の分析を行う場合、フレームレス原子吸光法や蛍光分析法では、1種類ずつしか金属の分析ができず、また、測定前に、沈殿法やイオン交換により不要な金属を除去することが必要であるので、前処理に時間及び手間を要し、迅速な測定は困難であった。一方、材料分析等では、金属地金中の微量金属を定量する場合、マトリックス効果や目的以外の金属の共存により定量分析が困難となる場合も多く見受けられる。
【0003】
また、誘導結合プラズマ発光−質量分析法(ICP−MS)では、複数種類の金属を測定することは可能であるものの、装置が高価であり、メンテナンスも煩雑である。
【0004】
一方、電気化学的測定法においては、ストリッピングボルタンメトリー法を用いて、一旦全ての金属を電着させてから、各金属を異なる電位で溶出させると、電解液中に複数種類の金属が含まれている場合でも、それら各金属を測定できることが報告されている(引用文献1、引用文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−91499号公報
【特許文献2】特開2000−241388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、溶出時の酸化電位が近い複数種類の金属が一つの試料溶液に含まれている場合、又は、析出した金属の間で金属間化合物を形成する場合等では、溶出時に分離する従来の方法では、正確な測定ができない場合もある。
【0007】
そこで本発明は、液体試料中に複数種類の重金属イオンが存在している場合も、銅イオンを選択的に検出・定量することが可能な電極、並びに、当該電極を用いた電気化学的分析装置及び電気化学的分析方法を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ジチゾンは、カドミウム、銅、水銀、鉛、亜鉛等の重金属イオンと選択的に錯体を形成するため、従来、これらの重金属イオンを抽出分離する際等に用いられている。当該ジチゾンが、どの重金属イオンと錯体を形成するかは、図8の抽出曲線に示すように、pHに依存することが知られている。
【0009】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、ジチゾンが保持された電極を用いて電気化学的分析を行うことにより、銅イオンと他の重金属イオンとが共存している場合であっても、図2及び図4に示すように、銅とジチゾンが錯体を形成するpH0〜3に限られずに銅イオンを選択的に検出・定量できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
ここで、図2は、ジチゾン含有カーボンペースト電極を用いて、試料溶液に含まれる亜鉛イオンと銅イオンとの濃度を変えて、リニアスイープボルタンメトリを行った結果を示すものである。
【0011】
図2に示すように、銅イオンの濃度が高くなると、それに伴いピーク電流値は大きくなるが、亜鉛イオンの濃度が変化してもピーク電流値はほとんど変わらない。
【0012】
このような銅イオンの選択性は、銅イオンと錯体を形成しているジチゾンが酸化するときに発生する電流値は、遊離のジチゾンや他の重金属イオンと錯体を形成しているジチゾンが酸化するときに発生する電流値に比べて、銅イオンの触媒作用により著しく増大するためであると考えられる。
【0013】
また、図4は、図3に示す組成(認証値)を有する亜鉛地金標準試料を溶解した試料溶液に0.2ppmずつ銅イオンを添加して、リニアスイープストリッピングボルタンメトリを行った結果を示すものである。
【0014】
図4に示すように、ボルタモグラムのピーク電流値は銅イオンの濃度が高くなるほど増大し、他の重金属イオン共存下においても、銅イオンと錯体を形成したジチゾンの酸化に起因するピーク電流値は、銅イオン濃度と高い相関性を示す。
【0015】
すなわち本発明に係る電極は、試料溶液中の銅イオンを電気化学的に分析するための電極であって、導電性材料を含み、前記試料溶液との接触領域を有する電極部を備えており、当該電極部を試料溶液と接触させた場合に、前記試料溶液中の銅イオンと錯体を形成可能なようにジチゾンが前記接触領域に保持されていることを特徴とする。なお、本発明において、電極を試料溶液と接触させるとは、電極を試料溶液に浸漬することであってもよいし、電極上に試料溶液を滴下することであってもよいし、又は、電極上を試料溶液が流れるようにすることであってもよい。
【0016】
本発明に係る電極は、前記電極部が、ジチゾンを含有するカーボンペーストからなるものが好ましい。このようなものであれば、基材をジチゾンで修飾するための化学反応が不要であり、電極の製造が容易である。前記電極部は、必要に応じて電極部ホルダーに支持されていてもよい。
【0017】
本発明に係る電極を用いた電気化学的分析装置や電気化学的分析方法もまた、本発明の1つである。
【0018】
すなわち本発明に係る電気化学的分析装置は、試料溶液中の銅イオンを電気化学的に分析するための装置であって、本発明に係る電極からなる作用電極と対電極とを前記試料溶液と接触可能なように有している、前記試料溶液を収容するためのセルと、前記作用電極と前記対電極との間に、銅イオンと錯体を形成しているジチゾンが酸化する電圧を印加する印加手段と、前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出手段と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る電気化学的分析方法は、本発明に係る電極からなる作用電極と対電極とを用いて、試料溶液中の銅イオンを電気化学的に分析する方法であって、前記作用電極を前記試料溶液に接触させる工程と、前記作用電極と前記対電極との間に、銅イオンと錯体を形成しているジチゾンが酸化する電圧を印加する印加工程と、前記ジチゾンの酸化に起因して、前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出工程と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
このようなものであれば、電極に保持されたジチゾンと試料溶液中の銅イオンとに錯体を形成させた後、当該電極に所定の電圧を印加し、銅イオンと錯体を形成しているジチゾンを酸化して、その際に発生した電流を検出することにより、試料溶液中に他の重金属イオンが共存していても、その影響を受けずに高感度かつ高精度に銅イオンを検出・定量することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、上述の構成よりなるので、試料溶液中に他の重金属イオンが共存していても、その影響を受けずに高感度かつ高精度に銅イオンを検出・定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気化学的分析装置の模式図である。
【図2】亜鉛イオンと銅イオンとを含有する試料溶液の電気化学的分析を行い得られたボルタモグラムである。
【図3】試験に用いられた亜鉛地金の組成(認証値)を示す表である。
【図4】亜鉛地金を溶解した試料溶液の電気化学的分析を行い得られたボルタモグラムである。
【図5】亜鉛地金を試料とした場合の、銅イオンと錯体を形成したジチゾンの酸化に起因するピーク電流値と、銅イオン濃度との相関性を示す検量線である。
【図6】試験に用いられたホウレン草標準試料の組成(認証値)を示す表である。
【図7】ホウレン草を試料とした場合の、銅イオンと錯体を形成したジチゾンの酸化に起因するピーク電流値と、銅イオン濃度との相関性を示す検量線である。
【図8】ジチゾンのpH依存性を示す抽出曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
本実施形態に係る電気化学的分析装置1は、図1に模式的に示すように、電気化学的測定用のバッチセルを用いたものである。
【0025】
本実施形態に係る電気化学的分析装置1は、ジチゾンが分散しているカーボンペーストを備えたカーボンペースト電極2、対電極3及び参照電極4と、これら3本の電極が内蔵された測定セル5と、を備えており、カーボンペースト電極2、対電極3及び参照電極4は、情報処理装置8が設けられたポテンショガルバノスタット7に接続されている。また、測定セル5には、試料溶液Sを攪拌する攪拌子6が設けられている。
【0026】
以下に各部を説明する。
カーボンペースト電極2は、ジチゾンが分散しているカーボンペーストが所定の支持体に支持されてなるものであり、電気化学的分析装置1において作用電極として機能するものである。
【0027】
カーボンペースト電極2は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、ジチゾンを有機溶媒に溶解し、更に、ミネラルオイルを添加する。次いで、有機溶媒を揮発させ、ジチゾンを含有するミネラルオイル溶液を得る。得られたミネラルオイル溶液とグラファイト粉末とを混練し、これを所定の電極部ホルダー23に充填することによりカーボンペースト電極2を製造する。当該電極部ホルダー23の材質は特に限定されないが、例えば、樹脂、特にできるだけ不純物の溶出を抑えられるポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂製やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製であることが好ましい。また、ジチゾンが分散しているカーボンペーストからなる電極部21にはリード線22が接続されている。
【0028】
対電極3としては、例えば、白金、炭素、ステンレス、金、ダイヤモンド、SnO等からなる電極を用いることができる。
【0029】
参照電極4としては公知のものを利用することができ、例えば、銀塩化銀電極、カロメル電極、標準水素電極、水素パラジウム電極等を用いることができる。
【0030】
測定セル5は、その内部に試料溶液Sを収容し、当該試料溶液Sがカーボンペースト電極2、対電極3及び参照電極4と接触できるよう構成されているものである。測定セル5は、内部に試料溶液Sを収容することができるものであればその材質は特に限定されないが、例えば、樹脂、特にできるだけ不純物の溶出を抑えられるポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂製やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製であることが好ましい。
【0031】
撹拌子6は、測定セル5に収容された試料溶液Sを撹拌するものである。撹拌子6の羽の形状や材質、羽の動作方法は特に限定されないが、試料溶液Sの充分な攪拌が可能であり、かつ不純物や微粉末等の発生や、電極表面からの気泡発生をできるだけ抑えることができるものが好ましく、例えば、十字型攪拌子が好適に用いられる。
【0032】
ポテンショガルバノスタット7は、カーボンペースト電極2の電位を参照電極4に対して一定にした状態で、カーボンペースト電極2と対電極3との間に発生した電流を検出し、その検出信号を情報処理装置8に伝達するものである。ポテンシオスタット7は、電位を一定に保つ機能のほか、電位を一定速度で走査したり、指定した電位に一定時間ごとにステップしたりする機能を有する。これらの機能は、1台に搭載する必要はなく、例えば電位保持機能と電位走査機能とが別体に設けてあってもよい。
【0033】
情報処理装置8は、CPUや、メモリ、入出力チャンネル、キーボード等の入力手段、ディスプレイ等の出力手段、A/D変換器、D/A変換器等を備えた汎用乃至専用のものであり、前記CPU及びその周辺機器が、前記メモリの所定領域に格納されたプログラムにしたがって協働動作することにより、ポテンショガルバノスタット7で検出された信号が解析され、銅イオンの検出・定量が行われる。なお、情報処理装置8は、物理的に一体である必要はなく、有線又は無線により複数の機器に分割されていてもよい。
【0034】
次に電気化学的分析装置1を用いて銅イオンを分析する手順について説明する。
【0035】
まず、分析対象の銅イオンを含有しないキャリア溶液のみを測定セル5に注入し、いわゆるバックグラウンド電流をできるだけ小さくし、かつ安定させる。次いで、試料溶液Sを測定セル5に注入する。
【0036】
その後、試料溶液Sを攪拌しながら、所定の時間カーボンペースト電極2を試料溶液Sに浸漬して、試料溶液S中の銅イオンとカーボンペースト電極2に保持されたジチゾンとを反応させて、銅イオンとジチゾンとの錯体を形成する。
【0037】
試料溶液S中の銅イオンとカーボンペースト電極2に保持されたジチゾンとの錯体が形成されたならば、測定セル5中の試料溶液Sを、銅イオンを含まないキャリア溶液に置換する。そして、ポテンシオスタット7により、カーボンペースト電極2の電位を0Vから正電位方向に掃引する。すると、0.6〜0.8V付近に、銅イオンと錯体を形成しているジチゾンの酸化に伴う電流が発生する。なお、遊離のジチゾンの酸化電流は0.5〜0.6V付近に検出され、銅イオンと錯体を形成することにより、ジチゾンの酸化電流のピーク電位は正電位方向にシフトする。
【0038】
このような電気化学的反応によって発生した電流値(電気信号)はポテンシオスタット7に伝達され各電極における信号の制御・検出が行われる。ポテンシオスタット7で検出された信号は情報処理装置8に送信され、予め作成された銅イオンの濃度と電流値との検量線と、得られた電流値とが対比されて、試料溶液S中の銅イオン濃度が算出される。
【0039】
このように構成された本実施形態によれば、カーボンペースト電極2に保持されたジチゾンと試料溶液S中の銅イオンとに錯体を形成させ、銅イオンと錯体を形成しているジチゾンの酸化電流を検出することにより、試料溶液S中に他の重金属イオンが共存していてもその影響を受けずに、銅イオンを高感度かつ高精度に検出・定量することができる。
【0040】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0041】
例えば、本発明で用いられるジチゾンを保持する電極としては、カーボンペースト電極に限定されず、電極部が導電性材料を含むものであればよく、例えば、白金、金、SnO等の金属酸化物等を用いることができるが、炭素を用いた場合ジチゾンの固定が容易であるので、導電性ダイヤモンド電極やカーボン電極の電極表面にジチゾンが固定化されたものであってもよい。
【0042】
また、測定セル5はバッチ型に限定されず、ストップドフロー型のものであってもよい。
【0043】
更に、前記実施形態に係る電気化学的分析装置1は、三電極法による測定を行うものであるが、本発明に係る電気化学的分析装置は、カーボンペースト電極2及び対電極3のみを備えた二電極法によるものであってもよい。三電極法の方が、感度及び精度の高い測定を行うことが可能であるが、二電極法によれば、測定セル5の構造を単純化、小型化することができるので、測定セル5をチップ化し使い捨てとすることも可能となり、より簡便な測定を行いうる。
【0044】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
<ジチゾン含有カーボンペースト電極の作製>
まず、10mMの濃度となるようにジチゾンを溶解したクロロホルム溶液を調製した。次いで、得られたクロロホルム溶液と流動パラフィンとを2:1又は0.5:1の割合で混合した後、減圧下でクロロホルムを揮発させ、ジチゾンを20mM又は5mM含む流動パラフィン溶液を得た。続いて、ジチゾン含有流動パラフィン溶液とナノ炭素繊維(昭和電工社製の気相法炭素繊維)とを、重量比が8:5となるように混合した後、乳鉢で30分間混練し、得られたカーボンペーストをポリテトラフルオロエチレン製の電極部ホルダーに詰めて、2種類のジチゾン含有カーボンペースト電極(Dz/CPE)を作製した。
【0047】
<ジチゾン含有カーボンペースト電極を用いた銅イオンの分析(1)>
まず、0.6gの亜鉛地金を秤取し、必要に応じてCu2+標準液を加えたビーカー内で、秤取した亜鉛地金を煮沸した5mLの濃硝酸に溶解した。なお、用いた亜鉛地金は、図3に示す組成(認証値)を有するものである。
【0048】
亜鉛地金を濃硝酸に溶解した後、5M水酸化ナトリウム溶液でpH5.5に調製した後、純水を加えて25mLにメスアップした。得られた溶液2.5mLを1M酢酸緩衝液2.5mLと混ぜ合わせ、更に25mLにメスアップして、標準添加法での測定用試料溶液として、Cu2+濃度がそれぞれ、280ppb、380ppb、480ppb、580ppb、となる4種類の溶液を調製した。
【0049】
得られた試料溶液にDz/CPE(流動パラフィン溶液中のジチゾン濃度が20mM)を10分間浸した後、試料溶液をpH5.5の1M酢酸緩衝液に置換して、参照電極にAg/AgCl、対電極にPtを使用して、以下の条件に従いリニアスイープボルタンメトリを行い、ピーク電流値を測定した。結果は図5に示す。
【0050】
初期電位・・・0V
最終電位・・・1V
スキャン速度・・・0.02V/s
サンプリング間隔・・・0.001V
静止時間・・・2sec
【0051】
なお、認証値から計算した試料溶液のCu2+濃度(Cu2+標準液は添加せず。)は、上述のとおり280ppbであり、共存している他の重金属イオン濃度の認証値から計算した値は以下のとおりである。
Zn:1384ppm
Pb:10.22ppm
Al:3.15ppm
Ni:0.33ppm
Sn:140ppb
Fe:36.4ppb
【0052】
図5に示すように、他の重金属イオン共存下においても、銅イオンと錯体を形成したジチゾンの酸化に起因するピーク電流値には、銅イオン濃度との高い相関性が確認された。また、図5に示す検量線から得られた試料溶液のCu2+濃度は、認証値から計算したCu2+濃度と良好に一致した。この結果、大過剰のZn、Cuに対して36.5倍のPb、Cuと還元電位が近いNi、Fe等の金属が共存していても、Cu2+の定量が可能であることが確認された。
【0053】
<ジチゾン含有カーボンペースト電極を用いた銅イオンの分析(2)>
0.5gのホウレン草試料に7mLの硝酸を加え、マイクロウェーブにより灰化を行った。灰化したホウレン草試料溶液を、純水で希釈して50mLにメスアップした後、得られた溶液と、1M酢酸緩衝液、5M水酸化ナトリウム溶液、純水を5mLセルに加え、溶液のpHを4.8に調整してホウレン草標準試料溶液を得た。なお、ホウレン草標準試料は、図6に示す組成(認証値)を有する。
【0054】
得られたホウレン草標準試料溶液(認証値から計算したCu2+濃度:50ppb)に、Dz/CPE(流動パラフィン溶液中のジチゾン濃度が5mM)を50分間浸した後、試料溶液をpH4.8の1M酢酸緩衝液に置換して、(1)の分析と同様にして、リニアスイープボルタンメトリを行い、ピーク電流値を測定した。更に、ホウレン草標準試料溶液に、Cu2+濃度がそれぞれ30ppb、50ppb、80ppb増加するようにCu2+標準溶液を添加した3種類の試料溶液を調製し、ホウレン草標準試料溶液と同様にしてリニアスイープボルタンメトリを行い、ピーク電流値を測定した。結果は図7に示す。
【0055】
図7に示すように、ホウレン草標準試料を分析対象とした場合も、得られたCu2+濃度は認証値と良好に一致し、植物試料の灰化過程で生じた溶存有機物の妨害も小さいと判断できる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・電気化学的分析装置
2・・・カーボンペースト電極
3・・・対電極
4・・・参照電極
5・・・測定セル
6・・・撹拌子
7・・・ポテンシオスタット
8・・・情報処理装置
S・・・試料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中の銅イオンを電気化学的に分析するための電極であって、
導電性材料を含み、前記試料溶液との接触領域を有する電極部を備えており、
当該電極部を試料溶液と接触させた場合に、前記試料溶液中の銅イオンと錯体を形成可能なようにジチゾンが前記接触領域に保持されていることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記電極部が、ジチゾンを含有するカーボンペーストからなる請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記電極部が、電極部ホルダーに支持されている請求項1又は2記載の電極。
【請求項4】
試料溶液中の銅イオンを電気化学的に分析するための装置であって、
請求項1、2又は3記載の電極からなる作用電極と対電極とを前記試料溶液と接触可能なように有している、前記試料溶液を収容するためのセルと、
前記作用電極と前記対電極との間に、銅イオンと錯体を形成しているジチゾンが酸化する電圧を印加する印加手段と、
前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出手段と、を備えていることを特徴とする電気化学的分析装置。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の電極からなる作用電極と対電極とを用いて、試料溶液中の銅イオンを電気化学的に分析する方法であって、
前記作用電極を前記試料溶液に接触させる工程と、
前記作用電極と前記対電極との間に、銅イオンと錯体を形成しているジチゾンが酸化する電圧を印加する印加工程と、
前記ジチゾンの酸化に起因して、前記作用電極と前記対電極との間に生じた電流を検出する検出工程と、を備えていることを特徴とする電気化学的分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−113726(P2013−113726A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260418(P2011−260418)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本ポーラログラフ学会 Review of Polarography Vol.57 No.3 平成23年11月21日
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)