説明

電極の作製方法

【課題】電池に使用される活物質粒子等よりなる電極の導電性と電気容量を高める。
【解決手段】従来、用いられていた導電助剤やバインダーに代えて、1乃至100のグラ
フェンよりなるグラフェンネットを用いる。2次元的な広がりと三次元的な構造を有する
グラフェンネットは、活物質粒子や他の導電助剤と接する確率が向上するため、導電率を
改善でき、また、活物質粒子間の結合力を高める。また、そのようなグラフェンネットは
、酸化グラフェンと活物質粒子を混合した後、真空中あるいは還元性雰囲気中で加熱する
ことで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状材料を用いる各種電気機器、中でも電池等の蓄電装置、及び該蓄電装置
を有する各種電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
マンガン電池、アルカリ電池、ニッケル水素電池、リチウム電池、リチウムイオン二次電
池等においては、電気を貯蔵するための活物質に粒子状材料を用いており、それらを結合
させるためにバインダーを必要とする。通常のバインダーは高分子有機化合物であり、導
電性は著しく低い。そのため、アセチレンブラックやグラファイト(黒鉛)粒子、炭素繊
維等の導電助剤を混合して導電率を上げることがなされている(特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、活物質粒子とこれら導電助剤とバインダーとを混合し、集電体上に塗布し、
成型した後、乾燥させたものを正極あるいは負極等の電極として用いる。電池以外にも、
粒子状物質を用いる電気機器では上記と同様な処置がなされている。
【0004】
ところで、活物質粒子自体の導電性が低い場合には、導電助剤の添加量を増加させること
や活物質粒子の表面に炭素等で導電性の膜を形成する(カーボンコート)ことが必要とさ
れる。また、イオン伝導を利用する蓄電装置(例えば、リチウムイオン二次電池等)にお
いて活物質粒子のイオン導電性が低い場合には、粒径の小さな活物質粒子を用いる必要が
ある。
【0005】
例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質材料としては、コバルト酸リチウムが用い
られてきた。コバルト酸リチウムは導電性もイオン伝導性も比較的高いため、リチウムイ
オン二次電池の正極活物質材料として好ましいものである。しかしながら、原料であるコ
バルトは埋蔵量が少なく、しかも限られた地域でしか産出しないため、価格の面からも原
料の安定供給の面からも問題がある。
【0006】
これに対して産出量が多く安価な鉄を原料に用いたリン酸鉄リチウムがリチウムイオン二
次電池の正極材料として動作することが非特許文献1により明らかにされている。しかし
ながら、リン酸鉄リチウムのリチウムイオン伝導度や電気伝導度はコバルト酸リチウムに
劣るため、カーボンコートが必要な上、平均粒径150nm以下、好ましくは20nm乃
至100nmの微粒子を用いることが必要である。なお、粒径は一次粒子のものである。
【0007】
しかしながら、このような微粒子では、粒子が凝集し、リン酸鉄リチウム粒子と導電助剤
とを均等に混合することが難しい。粒子の凝集を防止するには導電助剤の比率を増加させ
ることが求められるが、すると、電極の形状を維持することが困難であるためバインダー
の比率も増加させなければならず、その結果、蓄電容量が減少する。
【0008】
また、導電助剤としてグラファイト粒子を用いる際には、コストの問題から天然グラファ
イトを用いることが一般的であるが、その際にはグラファイト粒子中に不純物として含有
している鉄、鉛、銅等が活物質や集電体と反応し、電池の電位低下や容量低下が生じてし
まうという問題がある。
【0009】
また、アセチレンブラックはグラファイト粒子に比較して不純物が少なく、また鎖状構造
が発達しているため、電解液の保持性が大きく活物質の利用率を向上できる。しかし、ア
セチレンブラックは、直径10nm程度の微粒子であるため、電流は、リン酸鉄リチウム
粒子から、個々のアセチレンブラック粒子あるいは粒子群の間をホッピングしながら伝導
する。
【0010】
すなわち、ホッピングのたびに抵抗が増大し、蓄電装置が放電する際に放電電圧が低減す
る、所謂電圧降下が生じることとなる。このような問題はグラファイト粒子を用いた場合
でも同様である。導電助剤としてアセチレンブラックを用いた電極の断面模式図を図2(
A)に示す。
【0011】
上述のように活物質粒子は微粒子化すると凝集しやすくなり、バインダーやアセチレンブ
ラックと均等に混合する(あるいは、バインダー中に均等に分散させる)ことが困難とな
る。そのため、活物質粒子の密な部分(活物質粒子が凝集した部分)と疎な部分が生じ、
電極に占める活物質の比率が低下する。また、活物質粒子の密な部分では、アセチレンブ
ラック等が存在しない部分があり、その部分での導電性が劣り、容量に寄与できない活物
質が生じる。
【0012】
図2(B)には、従来のリチウムイオン二次電池の正極のSEM写真を示す。一般的には
従来の電極では、活物質以外の材料が15%以上も含まれていた。電池の容量を向上させ
るには、活物質以外の重量や体積を減少させることが求められる。また、活物質以外の材
料(特にバインダ)が膨潤して、電極が変形、破壊されることもあり、その対策も求めら
れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−60870号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0110627号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0131915号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Padhi et al., ” Phospho−olivines as positive−electrode materials for rechargeable lithium batteries” , J. Electrochem. Soc. 144, 1188−1194 (1997).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、本発明の一態様は、より電気容量の大きな電
池あるいは電気特性の優れた電気機器、あるいは信頼性の高いあるいは長期の使用に耐え
うる電気機器を提供することを課題とする。また、電圧降下の発生を妨げることが可能な
蓄電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
1乃至100のグラフェンの積層体よりなる網目状のグラフェン(グラフェンネット)を
活物質粒子と混合することにより、導電性と活物質粒子間の結合性のいずれかあるいは双
方を改善させることができる。ここでの網目状とは、二次元的形状及び三次元的形状の両
方を含む。活物質粒子の平均粒径は150nm以下、好ましくは20nm乃至100nm
とするとよい。また、グラフェンネットはイオンを通過させる間隙を有する。
【0017】
なお、本明細書では、グラフェンとは、sp結合を有する1原子層の炭素分子のシート
のことをいう。なお、グラファイトは、複数のグラフェンがファンデルワールス力により
結合したものである。また、グラフェンネットを構成する元素のうち、水素と炭素以外の
元素の比率は15原子%以下、あるいは炭素以外の元素の比率は30原子%以下とすると
よい。
【0018】
そのような拡がりを有するグラフェンネットを用いた場合の電極の断面模式図を図1(A
)に示す。ここでは、複数のグラフェンネットと複数の活物質粒子が示されており、図で
は明確ではないが、単層あるいは多層のグラフェンが複数の部分で結合することで複雑な
構造(グラフェンネット)を形成し、導電性を高め、また、グラフェンネットが活物質粒
子にからまることで、活物質粒子を結合させることができる。
【0019】
グラフェンネットは2次元的な拡がりを有し、また、凹部や凸部も有する三次元的な構造
をも有するため、同一のグラフェンネットまたは複数のグラフェンネットにより、活物質
粒子を内包する。即ち、同一のグラフェンネットまたは複数のグラフェンネットの間に、
複数の活物質粒子が内在する。
【0020】
なお、グラフェンネットは袋状になっており、該内部において、複数の活物質粒子を内包
する場合がある。また、グラフェンネットは、一部開放部があり、当該開放部において、
活物質粒子が露出していてもよい。グラフェンネットは活物質粒子の分散や、崩落を妨げ
ることが可能である。
【0021】
この結果、グラフェンネットは、充放電にともない活物質粒子の体積が増減しても、活物
質粒子同士の結合を維持する機能を有する。また、グラフェンネットに複数の活物質粒子
が接するため、電極の導電性を高めることができる。
【0022】
また、グラフェンネットの袋状の部分に活物質粒子が詰め込まれた状態とすることができ
る。また、グラフェンネットは上述のように限られた層のグラフェンの積層体よりなるた
め、極めて薄く、したがって、断面は線状になる。
【0023】
また、そのようなグラフェンネットが活物質粒子に混合された状態の電極のSEM写真を
図1(B)に示す。この電極の作製方法の詳細は後述する。図1(B)に示されるように
、活物質粒子の表面は膜状のグラフェンネットに覆われ、個々の粒子を識別することは難
しい。
【0024】
また、粒子がグラフェンネットにより結合している状態が見られる。すなわち、一の活物
質粒子と他の活物質粒子が一のグラフェンネットにより覆われている。グラフェンネット
は粒子間を結合するバインダーとして機能している。また、粒子間がグラフェンネットに
より結合しているため、グラフェンネットが粒子間の電気伝導も担うことができる。
【0025】
もちろん、グラフェンネットは集電体とも接するため、結果として、集電体と活物質粒子
とを結合させる。その際には、グラフェンネットは集電体と活物質粒子間の電気伝導も担
うことができる。
【0026】
このように、2次元的な拡がりを有し、厚さが無視できるグラフェンネットは導電助剤と
してもバインダーとしても機能する。その結果、グラフェンネットの含有量が少なくとも
、十分な導電性を確保できる。また、異なるグラフェンネットの距離を短くすることで、
グラフェンネットの間の抵抗を低減することが可能であるため、電圧降下を低減すること
ができる。
【0027】
その結果、これまで必要であったアセチレンブラック等の導電助剤やバインダーの含有量
を低減させることができる。また、場合によっては、これまで必要であった導電助剤やバ
インダーを用いることなく電極を構成できる。このため、電極体積や電極重量に占める活
物質の比率を向上させることができる。
【0028】
特に、グラフェンネットは、グラフェンを1乃至100重ねたものであり、ドーピング処
理したものの導電率は1×10S/cm以上となる。このことは、導電助剤として用い
る上で有利である。ドーピングはカリウム等のアルカリ金属を添加することで実施できる

【0029】
また、グラフェンネットは柔軟性に富み、機械的強度も高いという特色も有する。しかも
、図1(B)に示すように、グラフェンネットが活物質粒子を包み込んでいるため、充電
や放電に伴って活物質粒子の体積が増減しても、活物質粒子間の結合を維持できる。
【0030】
また、グラフェンネットは一般にバインダーに用いられる有機材料よりも耐熱性が高い。
したがって、グラフェンネットを電極材料に用いた場合、300℃以上の加熱処理により
電極中の水を蒸発させ、その濃度を十分に低減することができる。また、電解液を吸収す
る能力は低く、そのため、電解液中において、グラフェンネットが膨潤して、電極が変形
、破壊されることを抑制できる。
【0031】
なお、グラフェンネット以外に、グラフェンネットの体積の0.1倍以上10倍以下のア
セチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバー
等)、公知のバインダーを有してもよい。
【0032】
また、本発明の他の一態様は、複数の活物質粒子を内包する複数のグラフェンネットを有
する電極を備え、複数の活物質粒子を間に有する複数のグラフェンネットの距離が短いこ
とを特徴とする蓄電装置である。
【0033】
本発明の他の一態様は、グラフェンネットの前駆体と活物質粒子とを混合する工程と、こ
の混合物を真空中あるいは還元性雰囲気で加熱する工程とを有する電気機器の作製方法で
ある。また、本発明の他の一態様は、グラフェンネットの前駆体と活物質粒子とを混合す
る工程と、この混合物を還元性材料で還元する工程とを有する電気機器の作製方法である

【0034】
グラフェンネットの前駆体としては、単層あるいは複数の層状構造を有する酸化グラフェ
ンを用いることができる。その際、前駆体は特段、大きな拡がりを有すること、あるいは
高分子化合物であることは求められないが、加熱する過程において、前駆体同士が結合し
、重合あるいは高分子化して、より広い三次元的なネットワークを形成する。
【0035】
なお、本明細書でグラフェンネットと称するものは純然たる2次元構造である必要はなく
、部分的に三次元構造を有してもよい。例えば、1枚のグラフェンのある場所に他のグラ
フェンが結合して一体となったようなものもグラフェンネットと称する。
【発明の効果】
【0036】
グラフェンネットが活物質粒子間に存在する構成により、導電性、活物質粒子間の結合性
、粒子の分散性の少なくとも1つを改善させることができる。また、イオン伝導性を改善
せしめ、電圧降下の小さく、また、蓄電容量の大きな電気機器を作製できる。
【0037】
上記の構成を有することで活物質あるいは電極の密度を高めることができ、また、活物質
と集電体間の抵抗を低減させ、電圧降下を抑制することができる。特に、一次電池あるい
は二次電池では電極の抵抗(内部抵抗)が小さい方が有利であり、これは、一時的に大電
力が必要な用途に向いている。上記構成はその目的に好適である。
【0038】
例えば、電気自動車の電源は、平坦地を走行するときには、比較的、電力消費量が少ない
。しかしながら、急加速するときや、坂を上るときは多くの電力を消費する。その際、電
源は多くの電流を流す必要があるが、内部抵抗が大きいと、電圧降下が著しくなり、また
、内部抵抗による損失も発生する。また、その際には、電池の重量が大きいと損失も大き
くなる。
【0039】
その結果、そのような状況では、本来使用できる電力の何割かは損失となってしまう。例
えば、二次電池を電源とする場合は、蓄えたはずの電力は、平坦地走行であればほぼ10
0%使用できるのに、登坂時や加速時には、その何割かが失われてしまう。内部抵抗を下
げ、電池の重量を低減する(あるいは電池容量を増加させる)ことで、そのような損失を
抑制できる。
【0040】
なお、表面にカーボンコートされていない活物質粒子を用いても十分な特性が得られるが
、カーボンコートされている活物質粒子あるいは導電性の高い活物質粒子をグラフェンネ
ットと共に用いるとより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】グラフェンネットと活物質粒子との断面模式図およびSEM写真である。
【図2】従来の導電助剤(アセチレンブラック粒子)と活物質粒子との断面模式図およびSEM写真である。
【図3】加熱に伴う酸化グラフェンの重量変化、示差熱および二酸化炭素の放出量を示す図である。
【図4】加熱に伴う酸化グラフェンの赤外分光スペクトルの変化を示す図である。
【図5】二次電池の例を示す図である。
【図6】実施例で作製した電極の断面SEM写真である。
【図7】実施例で作製した電極の断面SEM写真とグラフェンを示す図である。
【図8】実施例で作製したリチウム二次電池の特性を示す図である。
【図9】実施例で作製したリチウム二次電池の特性を示す図である。
【図10】蓄電装置の利用形態の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、実施の形態は多くの異な
る態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及
び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、
以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0043】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様であるリチウムイオン二次電池の作製方法について説
明する。リチウムイオン二次電池の電極は、グラフェンネットの前駆体と活物質粒子とを
混合する工程と、この混合物を集電体上に塗布した後、真空中あるいは還元性雰囲気で加
熱する工程とを有する。グラフェンネットの前駆体としては、酸化グラフェン(あるいは
多層酸化グラフェン)を用いることができる。
【0044】
グラフェンネットの前駆体は特段、大きな拡がりを有すること、あるいは高分子化合物で
あることは求められないが、加熱する過程において、前駆体同士が結合し、重合あるいは
高分子化して、より広い立体的なネットワークを形成し、グラフェンネットとなる。
【0045】
以下に詳細を説明する。本実施の形態では、Hummers法と呼ばれる酸化法を用いる
。まず、鱗片状グラファイト等のグラファイトを酸化して、酸化グラファイトを得る。酸
化グラファイトとは、グラファイトがところどころ酸化されて、カルボニル基、カルボキ
シル基、ヒドロキシル基等の官能基が結合したものであり、グラファイトの結晶性が損な
われ、グラフェン間の距離も大きくなっている。そのため、超音波処理等によって容易に
層間が分離する。
【0046】
その結果、炭素のシート(グラフェンに相当する)が1乃至100積層した酸化グラフェ
ンが得られる。なお、酸化グラフェンは官能基により周囲が終端されているため、水やク
ロロホルムやN,N−dimethylformamide(DMF)やN−methy
lpyrrolidone(NMP)等の極性溶媒中に懸濁させることができる。超音波
処理後に得られた酸化グラフェンを含む溶液を乾燥して、粉末状の酸化グラフェンを得る

【0047】
このようにして得た酸化グラフェンと平均粒径150nm以下、好ましくは20nm乃至
100nmの活物質粒子とを混合する。混合する際、活物質粒子の比率が混合物の90%
以上、好ましくは95%以上となるようにするとよい。混合する前に酸化グラフェンのみ
を水あるいはNMP等の溶液に懸濁させるとよい。その後、活物質粒子を混合することで
スラリーが得られる。アセチレンブラック等の他の導電助剤やバインダーを適宜、混入し
てもよい。
【0048】
また、グルコース等の炭水化物を混合して、その後の焼成時に活物質粒子にカーボンがコ
ーティングされるようにしてもよい。もちろん、予めカーボンコートされた活物質粒子を
用いてもよい。
【0049】
活物質としてはさまざまな材料を用いることができる。例えば、正極活物質の材料として
は、コバルト酸リチウム、鉄酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等の
リチウム化合物、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、珪酸マンガンリチウム、
珪酸鉄リチウム等のリチウム含有複合酸化物を用いることができるが、これに限らない。
【0050】
なお、リン酸鉄リチウムとは、リチウムと燐と鉄を有する酸化物である。オリビン構造を
呈することが好ましい。なお、活物質として使用する場合には、充放電の状態によってリ
チウムの濃度は大きく変動する。したがって、活物質として用いられるリン酸鉄リチウム
は、燐と鉄の比率が重要であり、もっとも理想的には、比率(燐の原子数)/(鉄の原子
数)は1である。しかしながら、比率(燐の原子数)/(鉄の原子数)は0.7以上1.
5以下であってもよい。他のリチウム含有複合酸化物においても同様である。
【0051】
なお、リチウムイオン二次電池はキャリアイオンがリチウムイオンであるが、キャリアイ
オンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはマグ
ネシウムイオン等の金属イオン二次電池の場合、正極活物質の材料として、上記リチウム
化合物及びリチウム含有複合酸化物において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例え
ば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウ
ム、バリウム等)またはマグネシウムを用いてもよい。
【0052】
なお、オリビン構造を呈するリチウム含有複合酸化物は、一般式LiMPO(Mは、F
e(II),Mn(II),Co(II),Ni(II)の一以上)、または、一般式L
(2−j)MSiO(Mは、Fe(II),Mn(II),Co(II),Ni(I
I)の一以上、0≦j≦2)で示すことができる。
【0053】
得られたスラリーを集電体上に塗布する。厚さは、任意に設定できるが、1μm乃至1m
mとするとよい。その後、スラリーを乾燥させる。乾燥後は必要に応じてプレスしてもよ
い。
【0054】
その後、酸化グラフェンを還元させるために真空中あるいは窒素やアルゴン等の還元性雰
囲気中で150℃乃至900℃で加熱させる。温度によっては、大気中で加熱してもよい
。温度は集電体や活物質の耐熱性、酸化グラフェンに求められる導電率等を考慮して決定
すればよい。本発明者の実験の結果、酸化グラフェンを加熱すると170℃から200℃
で急激に還元が進行することが明らかとなった。
【0055】
図3(A)は、上記の方法で作製された酸化グラフェンをヘリウム雰囲気中で室温から1
000℃まで昇温レート+2℃/分で加熱した際の重量変化(実線)と示差熱(点線)を
示す。200℃付近には大きな重量減少を伴う発熱ピークが確認され、何らかの化学変化
が生じていることが示された。
【0056】
上記の測定の際に放出される分子を質量分析法で分析した。図3(B)は、その結果のう
ち質量数44の分子(二酸化炭素と推定される)の放出量を示す。ここでも、やはり20
0℃付近で急激に質量数44の分子が放出される様子が観察された。
【0057】
また、図には示されないが、質量数12の分子(炭素原子であるが、質量分析の際に炭素
を含む分子が分解して生成したものと推定される)、質量数16の分子(酸素原子と推定
される)、質量数18の分子(水と推定される)もやはり200℃付近で非常に多く観測
され、この温度で酸化グラフェンから酸素および水素が炭素と共に脱離していること、す
なわち還元反応が起こることが示唆される。
【0058】
なお、Hummers法では、グラファイトを硫酸で処理するため、多層酸化グラフェン
は、スルホン基等も結合しているが、この分解(脱離)は、200℃から300℃前後で
開始することが明らかとなった。したがって、酸化グラフェンの還元は200℃以上、好
ましくは300℃以上でおこなうことが好ましい。
【0059】
高温になるほど、還元が進み、得られるグラフェンネットの炭素の比率が高まる。また、
欠陥の修復も進み、導電性がよくなる。本発明者の測定では、例えば、加熱温度100℃
ではグラフェンネットの抵抗率は、240MΩcm程度であるが、加熱温度200℃では
4kΩcm程度となり、300℃では2.8Ωcm程度(いずれもvan der Pa
uw法による測定)となった。
【0060】
また、この還元処理の過程において、酸化グラフェン分子が、隣接する酸化グラフェン分
子と結合し、より巨大なグラフェン分子へと成長し、網の目のような三次元的なネットワ
ークが形成される。その際、この分子内に活物質粒子が取り込まれるため、結果的に活物
質粒子間の結合力が高められる。
【0061】
なお、グラフェンネットは、還元温度により、上述のように導電性が変化するが、それ以
外にも柔軟性や強度等も変化する。必要とする導電性、柔軟性、強度等を考慮して、還元
温度を決定すればよい。また、導電性が十分でないグラフェンネットをバインダーの代わ
りに使用するのであれば、導電性を補うために公知の導電助剤を必要量添加することが好
ましい。
【0062】
なお、本発明者の検討の結果、150℃でも長時間の加熱により還元が進行することが明
らかとなっている。図4には、酸化グラフェンを150℃で1時間加熱した場合と、10
時間加熱した場合の、赤外線分光(透過率)の結果を示す。150℃で1時間加熱しただ
けであれば、C=O結合や、C=C結合、C−O結合等に伴う、多くの吸収が見られるが
、10時間加熱したものでは、上記の炭素と酸素の結合に伴う吸収が減少する。
【0063】
図5はコイン型の二次電池の構造を示す模式図である。正極集電体128に上記スラリー
を塗布し、成型した後、乾燥および還元させて正極活物質層130を形成する。正極集電
体128の材料としては、アルミニウムを用いるとよい。その場合には、還元温度は20
0℃乃至600℃、例えば、300℃とすればよい。
【0064】
なお、図5に示すように、コイン型の二次電池は、負極104、正極132、セパレータ
110、電解液(図示せず)、筐体106及び筐体144を有する。このほかにはリング
状絶縁体120、スペーサー140及びワッシャー142を有する。正極132は、上記
工程により得られた正極集電体128に正極活物質層130が設けられたものを用いる。
【0065】
電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混
合溶媒にLiPFを溶解させたものを用いるとよいが、これに限られない。
【0066】
負極104は、負極集電体100上に負極活物質層102を有する。負極集電体100と
しては、例えば銅を用いるとよい。負極活物質としては、金属リチウム、グラファイトや
ポリアセン、シリコン等を用い、これを単独、あるいはバインダーで混合したものを負極
活物質層102として用いるとよい。
【0067】
セパレータ110には、空孔が設けられた絶縁体(例えば、ポリプロピレン)を用いても
よいが、リチウムイオンを透過させる固体電解質を用いてもよい。
【0068】
筐体106、筐体144、スペーサー140及びワッシャー142は、金属(例えば、ス
テンレス)製のものを用いるとよい。筐体106及び筐体144は、負極104及び正極
132を外部と電気的に接続する機能を有している。
【0069】
これら負極104、正極132及びセパレータ110を電解液に含浸させ、図5に示すよ
うに、筐体106を下にして負極104、セパレータ110、リング状絶縁体120、正
極132、スペーサー140、ワッシャー142、筐体144をこの順で積層し、筐体1
06と筐体144とを圧着してコイン型の二次電池を作製する。
【0070】
(実施の形態2)
本発明の電気機器の例として、各種の乾電池、充電池等が挙げられる。これらの正極ある
いは負極の添加物として、例えば、実施の形態1で示したグラフェンネットを用いればよ
い。
【0071】
また、本発明の電気機器の例としては、例えば、電動工具、パーソナルコンピュータ、携
帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメ
ラ等が挙げられる。これらの電気機器は、有線で電源を供給されるとは限らないため、内
部に充電池を有する。その充電池の正極あるいは負極の添加物として、例えば、実施の形
態1で示したグラフェンネットを用いればよい。
【0072】
特に、瞬間的に大きな電流を流すことが必要とされる用途、あるいは、必要とされる電流
値が大きく変動する用途では、内部抵抗の小さい充電池が求められるので、本発明を適用
すると、十分な効果が得られる。また、持ち運ぶ機器や移動する機器では、電気容量の高
い充電池が求められるが、本発明を適用すると、十分な効果が得られる。
【0073】
その他にも、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電子機器・電気機器の具体例として
、表示装置、照明装置、DVD(Digital Versatile Disc)など
の記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、電子レンジ等の高周
波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵
庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。
【0074】
また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電子機器・電気
機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と
電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動
機付自転車などが挙げられる。
【0075】
なお、上記電子機器・電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と
呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電子
機器・電気機器は、商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電子機器・電気機器へ
の電力の供給をおこなうことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一
態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0076】
或いは、上記電子機器・電気機器は、上記主電源や商用電源からの電子機器・電気機器へ
の電力の供給と並行して、電子機器・電気機器への電力の供給をおこなうための蓄電装置
(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0077】
図10に、上記電子機器・電気機器の具体的な構成を示す。図10において、表示装置2
01は、本発明の一態様に係る蓄電装置205を用いた電子機器・電気機器の一例である
。具体的に、表示装置201は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体202、表示
部203、スピーカー部204、蓄電装置205等を有する。本発明の一態様に係る蓄電
装置205は、筐体202の内部に設けられている。
【0078】
表示装置201は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置205に
蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給
が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置205を無停電電源として用いる
ことで、表示装置201の利用が可能となる。
【0079】
表示部203には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装
置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Devic
e)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field E
mission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0080】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など
、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0081】
図10において、据え付け型の照明装置211は、本発明の一態様に係る蓄電装置214
を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置211は、筐体212、光源213
、蓄電装置214等を有する。図10では、蓄電装置214が、筐体212及び光源21
3が据え付けられた天井215の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置
214は、筐体212の内部に設けられていても良い。
【0082】
照明装置211は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置214に
蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給
が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置214を無停電電源として用いる
ことで、照明装置211の利用が可能となる。
【0083】
なお、図10では天井215に設けられた据え付け型の照明装置211を例示しているが
、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井215以外、例えば側壁216、床217、窓
218等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置
などに用いることもできる。
【0084】
また、光源213には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる
。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素
子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0085】
図10において、室内機221及び室外機225を有するエアコンディショナーは、本発
明の一態様に係る蓄電装置224を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機22
1は、筐体222、送風口223、蓄電装置224等を有する。図10では、蓄電装置2
24が、室内機221に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置224は室外機
225に設けられていても良い。或いは、室内機221と室外機225の両方に、蓄電装
置224が設けられていても良い。
【0086】
エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置2
24に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機221と室外機225の両方
に蓄電装置224が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受け
られない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置224を無停電電源として用いることで
、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0087】
なお、図10では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを
例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコン
ディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0088】
図10において、電気冷凍冷蔵庫231は、本発明の一態様に係る蓄電装置235を用い
た電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫231は、筐体232、冷蔵室用扉
233、冷凍室用扉234、蓄電装置235等を有する。図10では、蓄電装置235が
、筐体232の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫231は、商用電源から電力の供
給を受けることもできるし、蓄電装置235に蓄積された電力を用いることもできる。よ
って、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に
係る蓄電装置235を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫231の利用が可
能となる。
【0089】
なお、上述した電子機器・電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器
などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない
電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、
電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0090】
また、電子機器・電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な
総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯にお
いて、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まる
のを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫231の場合、気温が低く、冷蔵室用
扉233、冷凍室用扉234の開閉がおこなわれない夜間において、蓄電装置235に電
力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉233、冷凍室用扉234の開閉がお
こなわれる昼間において、蓄電装置235を補助電源として用いることで、昼間の電力使
用率を低く抑えることができる。
【実施例1】
【0091】
酸化グラフェンを還元して得られるグラフェンネットの効果を検証するため、以下の2つ
の試料を作製して、その特性を比較した。試料Aは活物質(リン酸鉄リチウム)粒子と酸
化グラフェンのみを混合して集電体(アルミニウム)に塗布し、これを真空中で加熱した
ものである。
【0092】
試料Bは、活物質(リン酸鉄リチウム)粒子とバインダー(ポリフッ化ビニリデン(PV
DF)、呉羽化学社製)と導電助剤(アセチレンブラック、電気化学工業社製)を混合し
て集電体(アルミニウム)に塗布し、乾燥させたものである。活物質粒子と集電体は試料
Aと同じものを用いた。
【0093】
リン酸鉄リチウム粒子と酸化グラフェンは以下に示す方法より得た。まず、原料である炭
酸リチウム(LiCO)、蓚酸鉄(Fe(C)・2HO)、リン酸二水素ア
ンモニウム(NHPO)を1:2:2のモル比で秤量をおこない、湿式ボールミ
ル(ボール径3mm、溶媒としてアセトンを使用)で400rpm、2時間、粉砕・混合
をおこなった。
【0094】
乾燥後、350℃、10時間、窒素雰囲気で仮焼成をおこなったのち、再度、湿式ボール
ミル(ボール径3mm)で400rpm、2時間、粉砕・混合をおこなった。その後、6
00℃、10時間、窒素雰囲気で焼成した。このようにして得られた、リン酸鉄リチウム
粒子にはカーボンコートがなされていない。
【0095】
酸化グラフェンは、以下のように作製した。グラファイト(鱗片カーボン)と濃硫酸を混
合したものに、過マンガン酸カリウムを加えた後、2時間撹拌した。その後、純水を加え
、加熱しつつ15分撹拌し、さらに過酸化水素水を加えることで、酸化グラファイトを含
む黄褐色の溶液を得た。さらに、これを濾過し、塩酸を加えた後、純水で洗浄した。そし
て、超音波処理を2時間おこない、酸化グラファイトを酸化グラフェンにした。
【0096】
試料の詳細な作製条件を以下に示す。試料Aは酸化グラフェン3wt%、活物質粒子97
wt%をそれらの合計重量の約2倍の重量のNMPとともに混合して、アルミニウムの集
電体(20μm)に塗布し、120℃で15分間、通風乾燥後、真空中300℃で8時間
乃至10時間加熱した。
【0097】
試料Bは、活物質粒子85wt%、バインダー7wt%、導電助剤8wt%をそれらの合
計重量の約2倍の重量のNMPとともに混合して、アルミニウムの集電体(20μm)に
塗布し、120℃で15分間、通風乾燥させた後、真空中180℃で10時間加熱した。
【0098】
このようにして得られた試料A、試料Bの断面SEM像(反射電子像)を図6に示す。図
6(A)は試料Aの、図6(B)は試料BのSEM像である。いずれもコントラストの低
い部分(白い部分)が活物質粒子である。図6(A)と図6(B)を比較して明らかなよ
うに、試料Aは活物質粒子の占める部分が多く、試料Bでは少ない。すなわち、試料Aの
方が試料Bよりも活物質の密度が大きいということがわかる。
【0099】
また、図7(A)には、試料Aの別の断面SEM像の二次電子像を示す。この断面ではグ
ラフェンネットの様子を見ることができ、活物質粒子を内包するようにグラフェンネット
が形成されている。図7(A)からグラフェンネットの部分を抜き出した図を図7(B)
に示す。
【0100】
得られた試料A、試料Bを集電体ごと円形に打ち抜いた。そして、これらを正極とし、金
属リチウムを負極、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の
混合液(体積比1:1)に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させたもの(濃
度1mol/L)を電解液、ポリプロピレンセパレータをセパレータとして用いて、それ
ぞれ電池を作製した。
【0101】
そして、これらの放電特性を測定し、その後、充電特性を測定した。なお、放電レートは
0.2C、充電レートは1Cとした。充電の終止条件は定電圧4.3V、電流が0.01
6Cへ低下するまでとした。
【0102】
図8に、試料Aを用いた電池および試料Bを用いた電池の放電特性および充電特性を示す
。放電、充電とも試料Aが試料Bより優れていることが明らかとなった。なお、容量は、
活物質の重量あたりの値を示す。上述の通り、同じ重量の電極であっても試料Aの方が試
料Bよりも活物質の量が多いため、電極の重量あたりの容量は、試料Aの方がさらに試料
Bを上回る。
【実施例2】
【0103】
酸化グラフェンを還元して得られるグラフェンネットの効果を検証するため、以下の2つ
の試料を作製して、その特性を比較した。試料Cは、実施例1と同様に、活物質(リン酸
鉄リチウム)粒子(カーボンコートされていない)と酸化グラフェンのみを混合して集電
体(アルミニウム)に塗布し、これを真空中、300℃で10時間加熱したものである。
用いた酸化グラフェンとリン酸鉄リチウムの比率は5:95とした。なお、加熱処理によ
り酸化グラフェンは還元され、その重量は半減していると推測される。
【0104】
試料Dは、表面にカーボンコートした活物質(リン酸鉄リチウム)粒子とバインダー(ポ
リフッ化ビニリデン(PVDF)、呉羽化学社製)と導電助剤(アセチレンブラック、電
気化学工業社製)を混合して集電体(アルミニウム)に塗布し、乾燥させたものである。
集電体は試料Cと同じものを用いた。一般にリン酸鉄リチウム粒子にカーボンコートを施
すことにより、理論容量程度の電気が蓄えられる。
【0105】
試料Cのリン酸鉄リチウム粒子は実施例1に用いたものと同じものを用いた。また、酸化
グラフェンは実施例1に用いたものと同じものを用いた。試料Cの作製は試料Aと同様に
おこなった。
【0106】
試料Dのリン酸鉄リチウム粒子は以下のように作製した。原料である炭酸リチウム(Li
CO)、蓚酸鉄(Fe(C)・2HO)、リン酸二水素アンモニウム(NH
PO)を1:2:2のモル比で秤量をおこない、湿式ボールミル(ボール径3m
m、溶媒としてアセトンを使用)で400rpm、2時間、粉砕・混合をおこなった。
【0107】
乾燥後、350℃、10時間、窒素雰囲気で仮焼成をおこなったのち、再度、湿式ボール
ミル(ボール径3mm)で400rpm、2時間、粉砕・混合をおこなった。その後、重
量比10%のグルコースを加え、600℃、10時間、窒素雰囲気で焼成した。
【0108】
試料Dは、活物質粒子80wt%(カーボンコートの重量を含む)、バインダー5wt%
、導電助剤15wt%をそれらの合計重量の約2倍の重量のNMPとともに混合して、ア
ルミニウムの集電体(20μm)に塗布し、120℃で15分間、通風乾燥させた後、真
空中180℃で10時間加熱した。
【0109】
得られた試料C、試料Dを集電体ごと円形に打ち抜いた。そして、これらを正極とし、金
属リチウムを負極、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の
混合液(体積比1:1)に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させたもの(濃
度1mol/L)を電解液、ポリプロピレンセパレータをセパレータとして用いて、それ
ぞれ電池を作製した。
【0110】
そして、これらの放電特性を測定し、その後、充電特性を測定した。なお、放電レートは
0.2C、充電レートは0.2Cとした。
【0111】
本実施例では、実際に使用される活物質層の重量あたりの充電容量や放電容量を比較する
。上記のように、集電体上に形成される活物質層は、活物質(あるいは活物質粒子)以外
に、バインダーや導電助剤、グラフェンネット等を含んでおり、これらがなくては充放電
できない。したがって、電池の性能を適切に比較するには、活物質層の重量あたりの容量
を比較することが求められる。
【0112】
図9は、試料Cと試料Dの放電および充電特性を示す。ここでの容量は正極活物質層の重
量あたりのものである。試料Dでは活物質以外にバインダーや導電助剤が20wt%含ま
れているのに対し、試料Cでは、活物質の他は約2.5wt%のグラフェンネットだけで
ある。したがって、同じ重量の正極活物質層で比較すると、試料Cの方がより多くの電気
を蓄えることができる。
【符号の説明】
【0113】
100 負極集電体
102 負極活物質層
104 負極
106 筐体
110 セパレータ
120 リング状絶縁体
128 正極集電体
130 正極活物質層
132 正極
140 スペーサー
142 ワッシャー
144 筐体
201 表示装置
202 筐体
203 表示部
204 スピーカー部
205 蓄電装置
211 照明装置
212 筐体
213 光源
214 蓄電装置
215 天井
216 側壁
217 床
218 窓
221 室内機
222 筐体
223 送風口
224 蓄電装置
225 室外機
231 電気冷凍冷蔵庫
232 筐体
233 冷蔵室用扉
234 冷凍室用扉
235 蓄電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の活物質粒子と、1乃至100のグラフェンよりなるグラフェンネットとを有し、前記複数の活物質粒子が前記グラフェンネットにより覆われている電極を有する電気機器。
【請求項2】
1乃至100のグラフェンよりなるグラフェンネットに詰め込まれている活物質粒子を有する電極を有する電気機器。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、前記活物質粒子はその表面にカーボンがコーティングされていることを特徴とする電気機器。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、前記グラフェンネットに含まれる炭素と水素以外の元素の比率は15原子%以下であることを特徴とする電気機器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかにおいて、前記活物質粒子の平均粒径は150nm以下であることを特徴とする電気機器。
【請求項6】
請求項5において、前記活物質粒子の平均粒径は20nm乃至100nmであることを特徴とする電気機器。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかにおいて、前記活物質粒子は、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウムのいずれかの粒子であることを特徴とする電気機器。
【請求項8】
酸化グラフェンと活物質粒子を混合する工程と、前記混合物を真空中もしくは還元性雰囲気中で還元する工程と、を有する電気機器の作製方法。
【請求項9】
請求項8において、前記酸化グラフェンと前記活物質粒子の混合物を電極に塗布する工程を有する電気機器の作製方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−101978(P2013−101978A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−36612(P2013−36612)
【出願日】平成25年2月27日(2013.2.27)
【分割の表示】特願2012−125648(P2012−125648)の分割
【原出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】