説明

電極の製造方法、被膜の形成方法、および電極の製造装置

【課題】比抵抗のばらつきが小さい電極を提供する。
【解決手段】金属粉末および合金粉末の少なくともいずれかを圧縮成形することによって成形体32が形成される。還元性雰囲気中において成形体32にマイナスの電圧が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法、被膜の形成方法、および電極の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属または導電性セラミックスからなる電極と基板との間にパルス状の放電を発生させ、その放電エネルギーによって電極の材料で基板の表面を被覆する被膜を形成する放電表面処理の方法が知られている。この放電表面処理の方法においては、放電加工処理と同様に一般に液中放電が用いられているが、放電エネルギーを電極の先端部に集中させてこの先端部を高温にする必要がある。そのため、電極の熱伝導性を低くする必要があり、電極としては金属または導電性セラミックスの粉末をプレスして固めた圧粉体が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような圧粉体で構成された電極は、製造が容易であるものの、形状を維持することが困難で、放電表面処理中に電極の一部が崩落するという問題があった。その改善のために、電極として金属または導電性セラミックスの粉末をプレスして固めた圧粉体を焼結した高密度焼結体を電極として用いることで形状の崩れやすさを解消する方法が用いられている。また、焼結時にパルス電流を通電することで、高密度焼結体体を構成する微粒子同士の接触部に通電し、接触部を溶融することで、高密度焼結体の強度を増加させる手法が取られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−148615号公報
【特許文献2】特開2007−23365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属または導電性セラミックスの粒子をプレスして固めた圧粉体を、焼結させてポーラスな高密度焼結体とする従来の方法では、圧粉体よりも強度を改善することはできるが、放電表面処理における被膜形成の安定性に影響を与える電極の電気伝導性を精度よく制御することが困難であった。
【0006】
特に電極の電気伝導性は圧粉体を構成する粒子表面の酸化状態に依存し、その粒子の表面酸化状態のばらつきが、電極の製造ロット毎のばらつき、電極内部の場所によるばらつきに影響する。そのため、同じ放電表面処理条件で膜を形成した場合にも、その成膜速度、下地と被膜の密着性等にばらつきが生じる問題があった。
【0007】
焼結時にパルス電流を通電する場合にも、粒子同士の接触部には電流が流れ、接触部の酸化物被膜が破壊されるとともに、粒子同士が溶融するが、接触部以外の粒子表面の酸化物については除去できない課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その一の目的は、比抵抗のばらつきが小さい電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電極の製造方法は、以下の工程を有する。
金属粉末および合金粉末の少なくともいずれかを圧縮成形することによって成形体が形成される。還元性雰囲気中において成形体にマイナスの電圧が印加される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極の製造方法によれば、還元性雰囲気中において成形体にマイナスの電圧が印加される。これにより成形体の材料である粉末の表面酸化膜が除去されるので、電極の比抵抗がこの表面酸化膜に起因してばらつくことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1における被膜の形成方法の一工程を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の電極および被処理物の間に印加される電圧および電流の各々の時間変化を概略的に示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態1における電極の製造方法における圧縮成形装置を概略的に示す断面図である。
【図4】図3の装置のうちの上パンチ、下パンチおよびダイからなる部分の構成を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における電極の製造装置を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における電極の製造方法の第1工程における仕掛品の構成を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における電極の製造方法の第2工程における仕掛品の構成を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における電極の製造方法の第3工程における仕掛品の構成を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態1における電極の製造方法の第4工程における仕掛品の構成を概略的に示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における電極の製造装置を概略的に示す断面図である。
【図11】本発明の実施の形態3における電極の製造装置を概略的に示す断面図である。
【図12】本発明の実施の形態4における電極の製造装置を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
はじめに本実施の形態における被膜の形成方法について説明する。
【0013】
図1を参照して、放電表面加工用の電極30と、放電表面処理が行なわれるワークピース40(被処理物)とが間隔を空けて対向配置される。この間隔は、たとえば矢印Sに示すように電極30を変位させることで調整され得る。
【0014】
図2を参照して、電源41から電極30とワークピース40との間にパルス状の電圧が印加される。これにより電極30とワークピース40との間の誘電領域DRに放電が生じる。その放電エネルギーにより、電極30の一部70Mがワークピース40の方へ移動することで、ワークピース40上に被膜50(放電表面処理被膜)が形成される。
【0015】
上記の電極30は、概略、以下のように製造される。
まず圧縮成形装置(図3)を用いて、金属粉末および合金粉末の少なくともいずれかが圧縮成形される。これにより成形体が形成される。次に電極の製造装置(図5)還元性雰囲気中において成形体にマイナスの電圧を印加しながら成形体が焼結させられる。これにより成形体から、より密度の高い金属焼結体からなる電極が得られる。以下に、電極30の製造に用いられる上記装置について説明する。
【0016】
図3および図4を参照して、圧縮成形装置は、油圧プレス機構部60と、上プレス棒61aと、下プレス棒61bと、上パンチ62aと、下パンチ62bと、ダイ63と、フレーム64と、ヒータ65と、電源66と、チャンバー67とを有する。
【0017】
上パンチ62a、下パンチ62b、ダイ63は、粉末体31を入れるための空間を囲んでいる。ダイ63は、たとえばφ10mmの円筒形を有する。上パンチ62aおよび下パンチ62bは、導電体からなる。
【0018】
油圧プレス機構部60は、フレーム64と支持台を介して金属製の上プレス棒61aと下プレス棒61bとに圧縮力を加えられるように構成されている。また、成形部付近にはヒータ65が設けられている。
【0019】
電源66は、上プレス棒61aおよび下プレス棒61bの間にパルス電圧を印加することができるように接続されている。上プレス棒61aおよび下プレス棒61bのそれぞれは上パンチ62aおよび下パンチ62bに接するように配置されている。この構成により、電源66は、上パンチ62aおよび下パンチ62bの間にパルス電流を流すことができる。
【0020】
図5を参照して、還元処理装置70a(製造装置)は、水素プラズマ発生装置71pと、絶縁性チューブ72a、72bと、多孔質絶縁体部73(固定部)と、絶縁体部74a、74bと、金属部75と、電源76と、吸着フィルタ77fと、ターボポンプ77pと、ヒータ78と、チャンバー79とを有する。
【0021】
水素プラズマ発生装置71pは、水素ガス中でマイクロ波を発生させることで、水素プラズマ(陽イオンH+)を発生する装置であり、絶縁性チューブ72aを介してチャンバー79に接続されている。チャンバー79は、上記の水素プラズマによる還元性雰囲気を保持することができるように構成されており、またアース電位に接続されている。
【0022】
多孔質絶縁体部73は、チャンバー79内に成形体32を固定するためのものである。絶縁体部74a、74bは、成形体32を挟むことができるように構成されている。
【0023】
金属部75は、成形体32と絶縁体部74aとの間に挟みこまれることで成形体32と接触させられるためのものである。また電源76の出力端子は、金属部75と電気的に接続され、かつチャンバー79と電気的に絶縁されている。よって電源76は金属部75を介して成形体32にマイナスの電圧を印加することができる。なおこの電圧は、電源76に接続されたアース電位、すなわちチャンバー79の電位を基準とするものである。
【0024】
吸着フィルタ77fは、絶縁性チューブ72bを介して多孔質絶縁体部73に繋がれている。ターボポンプ77pは、吸着フィルタを介して多孔質絶縁体部73から排気を行なうものである。ヒータ78は、成形体32を加熱するためのものである。
【0025】
次に電極30(図1)の製造方法の詳細について説明する。
図6を参照して、粉末体31が準備される。粉末体31は、金属粉末または合金粉末であり、コア部31cと、表面酸化膜31sとを有する。コア部31cは、酸化されていない部分であり、導電性を有する。表面酸化膜31sは、コア部31cの表面上に形成された酸化膜である。粉末体31は、たとえばジェットミルを用いた粉砕工程によって平均粒径が1μmに調整されたNi粉末からなる。粉砕工程により作製された金属微粒子表面には、通常、表面酸化膜が形成される。
【0026】
さらに図4を参照して、粉末体31が、ダイ63に満たされ、上パンチ62aおよび下パンチ62bで挟み込まれる。次に、粉末体31が満たされたダイ63、上パンチ62aおよび下パンチ62bがチャンバー67内において、上プレス棒61aおよび下プレス棒61bに挟みこまれ、所定の押し込み量だけプレスされる。
【0027】
図3を参照して、チャンバー67内の雰囲気が、たとえば水素ガスを用いることで、還元性雰囲気に保持される。またヒータ65の電源が投入されるとともに、油圧プレス機構部60によって上パンチ62aおよび下パンチ62bの間に荷重が加えられる。荷重の大きさは、たとえば50MPaである。この際、粉末体31周辺の温度はヒータ65によって、たとえば700℃に保持される。
【0028】
このように荷重および熱が加えられながら、電源66を用いて上パンチ62aと下パンチ62bとの間、すなわち粉末体31にパルス電流が流される。粉末体31への通電量は、たとえば1gあたり1kWである。
【0029】
図6および図7を参照して、上記のパルス通電により、粉末体31の粒子界面の表面酸化膜31sが局所的に破壊され、このように破壊された部分を局部的に電流が流れる。このため、粉末体31の粒子同士が融合した融合部32mが形成されるように焼結が生じ、粉末体31から成形体32が形成される。このようにして形成された成形体32の比抵抗は、たとえば50mΩ・cmである。
【0030】
なお、仮に成形体32が電極30(図1)の代わりに用いられて被膜50が形成されると、通電焼結後も表面酸化膜31sとして残存する酸化物の電極全体における量、および電極の場所による酸化物の量のばらつきが大きくなる。これにより電極の比抵抗の、ロット間および電極内部の場所間でのばらつきが大きくなる。
【0031】
図5を参照して、成形体32が還元処理装置70aに取り付けられる。成形体32の上部には金属部75が接合され、成形体32の他の部位が多孔質絶縁体部73によって支持される。次に電源76に接続されたアース電位、すなわちチャンバー79の電位を基準として、電源76によって金属部75にマイナスの電圧が印加される。この電圧は、たとえば−15Vである。
【0032】
次にヒータ78の電源が投入され、成形体32の温度が上昇させられる。この温度は、たとえば800℃である。
【0033】
また水素プラズマ発生装置71pで発生した水素プラズマが成形体32周囲に設置された多孔質絶縁体部73から導入され、さらに成形体32内部に拡散される。
【0034】
さらに図8を参照して、成形体32のうちコア部31cおよび融合部32mは酸化されておらず高い導電性を有するため、電源76により加えられるマイナス電圧は成形体32の微粒子の表面酸化膜31sに加わる。よって表面酸化膜31sは、マイナスの電圧が加えられつつ、水素プラズマにさらされる。この結果、表面酸化膜31sの金属酸化物MeOxの表面側はマイナスに分極し、さらに以下の式(1)の反応が生じる。
【0035】
2H+ + 1/x MeOx → H2O + 1/x Me ・・・(1)
この結果、表面酸化膜31s中の酸素は、水素プラズマと容易に反応して水分子を形成する。形成された水分子は、未反応の水素プラズマおよび水素ガスとともに、絶縁性チューブ72b(図5)へと運ばれ、吸着フィルタ77fに吸着されるか、ターボポンプ77pにより外部へ排出される。
【0036】
図8および図9を参照して、上記のように酸素が水分子に変化することで、表面酸化膜31s中の酸素が除去される。すなわち表面酸化膜31sが、金属または合金からなる被還元部33sに変化することで、成形体32から電極30が得られる。
【0037】
なお図9においては表面酸化膜31s(図8)が完全に除去された様子が示されているが、表面酸化膜31sが完全に除去される必要はなく、その存在量が低減できればよい。
【0038】
本実施の形態によれば、水素プラズマを含む還元性雰囲気中において、成形体32にマイナスの電圧が印加される。これにより成形体32の表面酸化膜31sが容易に除去されるので、得られる電極30の比抵抗がこの表面酸化膜31sに起因してばらつくことを抑制することができる。より具体的には、マイナスの電圧が微粒子表面の酸化物に印加されるため、酸化物が選択的に除去されるとともに、酸化物の膜厚も電極間、電極内で均一化される。そのため、電極ロット間、および電極の場所によるばらつきの少ない電極を製造できる。
【0039】
また上記のように電極30の比抵抗を安定的に低減することで、電極30を用いて形成される被膜50の特性ばらつきを小さくすることができる。
【0040】
また電極30内の酸化物量を低減することができるので、被膜50に取り込まれる酸素量を抑制することができる。よって被膜50の純度を高めることができる。
【0041】
次に上記の作用効果の検証結果について説明する。
まず成形体32が複数試作された。成形体32の10サンプルの比抵抗の平均値は60mΩ・cmであり、ばらつきは±10mΩ・cm程度であった。
【0042】
次に還元処理装置70aによって、成形体32から電極30が形成された。水素プラズマの発生条件は、たとえばマイクロ波出力が30W、真空度が6670Pa(50Torr)とされ、また処理時間が、たとえば1時間とされた。電極30の10サンプルの比抵抗の平均値は25mΩ・cmであり、ばらつきは±3mΩ・cm程度であった。すなわち還元処理装置70aによる処理によって、電極30の比抵抗の平均値が減少するとともに、そのばらつきも減少することがわかった。
【0043】
またEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)より求めた電極30内部の粒子表面の酸化物量は、処理前と比較して25%に減少していた。すなわち電極30内の酸化物量が低減されたことがわかった。
【0044】
次に電極30を用いて被膜50(図1)の形成を、以下のように行なった。
15mm×15mmの面積の電極30が準備された。そして電極30側がマイナス、ワークピース40側がプラスの極性となるように電源41が接続された。電極30およびワークピース40の間に、放電のアーク柱が発生させられた。使用された放電のパルス条件は、図2に示すように、ピーク電流値ie=10(A)、放電持続時間(放電パルス幅)te=64(μs)、休止時間t0=128(μs)、処理時間=30分とされた。
【0045】
放電加工中、電極30において放電の集中や短絡が起こった様子は観察されず、安定した放電を得ることができた。これにより電極30の全ての位置に対応して安定した成膜速度を保つことができた。
【0046】
また形成された被膜50を切断し、得られた断面を光学顕微鏡で観察した。その結果、被膜50の膜厚は約300μmであり、加工面全体において均一であった。また被膜50とワークピース40との密着強度は100MPa以上であり、その変動幅は±10%以内であった。このように均一で密着強度の高い被膜50を形成することができた。
【0047】
(比較例)
電極30の代わりに成形体32を電極として用いて、厚さ300μmの被膜の形成を行なった。その結果、上記の被膜50に比して、加工時間や被膜厚さにばらつきがある上、処理時に短絡放電などの不安定な放電現象が観察された。またワークピース40との密着強度は、100MPaを超える場合と100MPaを下回る場合とが混在し、±25%程度の大きな変動幅がみられた。
【0048】
(実施の形態2)
図10を参照して、本実施の形態の還元処理装置70b(製造装置)は、複数の成形体32を一括して処理できるように構成されている。また水素プラズマ発生装置71p(図5)の代わりに、水素ガス供給装置71gと、マイクロ波発生装置71mとを有する。水素ガス供給装置71gは、チャンバー79内に水素ガスを供給するためのものである。マイクロ波発生装置71mは、対向電極71e、71eを有し、この電極間の水素から水素プラズマHPを発生させることができる。
【0049】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0050】
本実施の形態によっても、実施の形態1と同様の作用効果が得られる。以下にその検証結果について説明する。
【0051】
還元処理装置70bに3つの成形体32が並列に設置された。そして実施の形態1と同様に、成形体32にマイナスの電圧が印加された。この際、水素ガス供給装置71gからチャンバー79内に水素ガスが導入され、さらにマイクロ波発生装置71mにより水素プラズマHPが発生させられた。マイクロ波出力は50W、真空度は6670Pa(50Torr)とされ、また処理時間は1時間とされた。
【0052】
この結果、成形体32の10サンプルの比抵抗の平均値が60mΩ・cmであり、ばらつきが±10mΩ・cm程度であったのに比して、電極30の10サンプルの比抵抗の平均値は35mΩ・cmであり、ばらつきは±5mΩ・cm程度であった。すなわち上記処理によって、電極30の比抵抗の平均値が減少するとともに、そのばらつきも減少することがわかった。
【0053】
またEPMAより求めた電極30内部の粒子表面の酸化物量は、処理前と比較して35%に減少していた。すなわち電極30内の酸化物量が低減されたことがわかった。
【0054】
(実施の形態3)
図11を参照して、本実施の形態の還元処理装置70c(製造装置)は、実施の形態2と異なり、マイクロ波発生装置71m(図10)を有しない。なお、これ以外の構成については、上述した実施の形態2の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0055】
実施の形態1および2では水素プラズマを用いて還元処理が行なわれるが、本実施の形態ではプラズマを用いずに還元性のガスを用いて還元処理が行なわれる。すなわち反応性の高い還元性のプラズマを用いなくても、還元性のガスを用いることによって成形体32の粒子表面で電子の授受反応が起こり、表面酸化膜31sの少なくとも一部が除去される。この場合の還元反応の速度は、水素プラズマが用いられた場合の速度より通常は劣るものの、たとえば電源76が発生するマイナス電圧の絶対値をより大きくすることで改善することができる。
【0056】
次に本実施の形態の作用効果の検証結果について説明する。
還元処理装置70cを用いて、上述した還元処理装置70bの場合の検証と同様の検証が行なわれた。ただし成形体32に印加される電圧は、−100V、すなわちより絶対値の大きい電圧が印加された。
【0057】
この結果、成形体32の10サンプルの比抵抗の平均値が60mΩ・cmであり、ばらつきが±10mΩ・cm程度であったのに比して、電極30の10サンプルの比抵抗の平均値は45mΩ・cmであり、ばらつきは±6.5mΩ・cm程度であった。すなわち還元処理装置70cによる処理によって、上記比較例の場合に比して、電極30の比抵抗の平均値が減少するとともに、そのばらつきも減少することがわかった。
【0058】
またEPMAより求めた電極30内部の粒子表面の酸化物量は、処理前と比較して60%に減少していた。すなわち電極30内の酸化物量が低減されたことがわかった。
【0059】
(実施の形態4)
図12を参照して、本実施の形態の還元処理装置70dに取り付けられる成形体32tは、絶縁性チューブ72aの水素プラズマの吐出口近傍に、貫通孔THを有する。成形体32tは、たとえば以下の方法により得られる。
【0060】
まず実施の形態1と同様のダイ63(図4)が準備される。ダイ63は、たとえばφ15mmの円筒形を有する。次にダイ63の中心部に絶縁性の直径5mmの丸棒が配置されつつ、ダイ63に粉末体31が満たされる。
【0061】
ヒータ65(図3)の電源が投入されるとともに、上パンチ62aおよび下パンチ62b(図3)の間に、たとえば50MPaの荷重が加えられる。これにより丸棒とともに粉末体31がプレスされる。この際、粉末体31周辺の温度はヒータ65によって、たとえば650℃に保持される。
【0062】
このように荷重および熱が加えられながら、電源66を用いて上パンチ62aと下パンチ62bとの間、すなわち粉末体31にパルス電流が流される。粉末体31への通電量は、たとえば1gあたり1kWである。通電処理後、丸棒を除去することで、図12に示す、中心に貫通孔THを有する成形体32tが得られる。
【0063】
次に還元処理装置70dについて説明する。還元処理装置70d(製造装置)は、還元処理装置70a(図5)における多孔質絶縁体部73、絶縁体部74a、74b、金属部75に代わって、絶縁体部74V、マイナス電極75Sを有する。マイナス電極75Sは、電極部75eおよび多孔質部75p(固定部)を有する。
【0064】
電源76の出力端子は、電極部75eと電気的に接続され、かつチャンバー79と電気的に絶縁されている。よって電源76は、電極部75eを有するマイナス電極75Sを介して成形体32tにマイナスの電圧を印加することができる。なおこの電圧は、電源76に接続されたアース電位、すなわちチャンバー79の電位を基準とするものである。
【0065】
次に還元処理装置70dを用いた電極の製造方法について説明する。まず成形体32tの周囲に多孔質部75pが接触するように、マイナス電極75Sが取り付けられる。次に電源76に接続されたアース電位、すなわちチャンバー79の電位を基準として、電源76によってマイナス電極75Sにマイナスの電圧が印加される。この電圧は、たとえば−15Vである。
【0066】
次にヒータ78の電源が投入され、成形体32tの温度が上昇させられる。また水素プラズマが絶縁性チューブ72aを介して貫通孔THに吹き込まれる。この水素プラズマは貫通孔THから成形体32t内部に拡散される。
【0067】
なお、これ以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0068】
本実施の形態によれば、貫通孔THが設けられることで、成形体32tの外周側だけでなく内部においてもより十分に水素プラズマが拡散される。これにより、実施の形態1と同様の効果を、より大きく得ることができる。
【0069】
次に本実施の形態の作用効果の検証結果について説明する。
成形体32tの10サンプルの比抵抗の平均値は55mΩ・cmであり、ばらつきが±10mΩ・cm程度であった。この成形体32tを還元処理装置70dによって処理することで得られた電極の10サンプルの比抵抗の平均値は20mΩ・cmであり、ばらつきは±1mΩ・cm程度であった。すなわち還元処理装置70dによる処理によって、上記比較例の場合に比して、電極30の比抵抗の平均値が減少するとともに、そのばらつきも減少することがわかった。
【0070】
またEPMAより求めた電極30内部の粒子表面の酸化物量は、処理前と比較して20%に減少していた。すなわち電極30内の酸化物量が低減されたことがわかった。
【0071】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、電極の製造方法、被膜の形成方法、および電極の製造装置に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0073】
30 電極、31c コア部、31 粉末体、31s 表面酸化膜、32,32t 成形体、32m 融合部、33s 被還元部、40 ワークピース、41 電源、50 被膜、60 油圧プレス機構部、61a 上プレス棒、61b 下プレス棒、62a 上パンチ、62b 下パンチ、63 ダイ、64 フレーム、65 ヒータ、66 電源、67 チャンバー、70M 一部、70a〜70d 還元処理装置、71m マイクロ波発生装置、71e 対向電極、71g 水素ガス供給装置、71p 水素プラズマ発生装置、72a,72b 絶縁性チューブ、73 多孔質絶縁体部、74a 絶縁体部、74V 絶縁体部、75S マイナス電極、75p 多孔質部、75 金属部、75e 電極部、76 電源、77p ターボポンプ、77f 吸着フィルタ、78 ヒータ、79 チャンバー、DR 誘電領域、HP 水素プラズマ、TH 貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末および合金粉末の少なくともいずれかを圧縮成形することによって成形体を形成する工程と、
還元性雰囲気中において前記成形体にマイナスの電圧を印加する工程とを備えた、電極の製造方法。
【請求項2】
前記電極は放電表面処理用電極である、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記還元性雰囲気は、放電プラズマにより発生した陽イオンを含む、請求項1または2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電極の製造方法によって作製された電極と、放電表面処理が行なわれる被処理物とを間隔を空けて配置する工程と、
前記電極と前記被処理物との間で放電を発生させる工程とを備えた、被膜の形成方法。
【請求項5】
還元性雰囲気を保持することができる容器と、
前記容器内に成形体を固定するための固定部と、
前記成形体を加熱するためのヒータと、
前記成形体にマイナスの電圧を印加するための電源とを備えた、電極の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−242120(P2010−242120A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89265(P2009−89265)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】